(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20230801BHJP
H02M 7/797 20060101ALI20230801BHJP
H02J 3/16 20060101ALI20230801BHJP
H02J 3/18 20060101ALI20230801BHJP
H02J 3/26 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/797
H02J3/16
H02J3/18 157
H02J3/26
(21)【出願番号】P 2019135768
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-043660(JP,A)
【文献】特開2013-005694(JP,A)
【文献】特開2011-223761(JP,A)
【文献】国際公開第2015/102060(WO,A1)
【文献】特開2017-169272(JP,A)
【文献】特開2006-025549(JP,A)
【文献】特開2019-024281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/797
H02J 3/16
H02J 3/18
H02J 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数台のブリッジセルユニットを直列接続して1相のモジュールを構成し、このモジュールを3台有する3相のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器であって、
セルコンデンサ電圧の
相間バランス制御に必要な零相電圧の振幅が上限値以下の場合は前記零相電圧を補正零相電圧として出力し、前記零相電圧の振幅が前記上限値よりも大きい場合は前記上限値を前記補正零相電圧として出力する零相電圧演算部と、
前記零相電圧が前記上限値よりも大きい場合、前記補正零相電圧を重畳した上でセルコンデンサ電圧の
相間バランス制御に必要な補正逆相電流指令値を重畳した電流指令値を出力する電流指令値演算部と、
前記電流指令値に基づいて各相の出力電圧指令値を生成し、前記各相の出力電圧指令値に前記補正零相電圧を加算した値と各前記ブリッジセルユニットに対応したキャリア三角波とを比較して各前記ブリッジセルユニットのゲート信号を生成する電流制御部と、
を備えたことを特徴とするモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【請求項2】
前記モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の出力電圧・出力電流および重畳する前記補正零相電圧が(3)式,(4)式で定義される時、
前記零相電圧演算部は、正相q軸電流指令値、および、正相d軸電圧、および、逆相d軸電圧、および、逆相q軸電圧に基づいて
前記零相電圧である零相d軸電圧、零相q軸電圧を演算して
、前記零相d軸電圧、前記零相q軸電圧に基づいて前記補正零相電圧である補正零相d軸電圧および補正零相q軸電圧を出力し、
前記電流指令値演算部は、(6)式に基づいて前記補正逆相電流指令値である補正逆相d軸電流指令値,補正逆相q軸電流指令値を演算することを特徴とする請求項1記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【数3】
【数4】
【数6】
Vu,Vv,Vw:U相の出力電圧,V相の出力電圧,W相の出力電圧
V1d:正相d軸電圧
V1q:正相q軸電圧
V2d:逆相d軸電圧
V2q:逆相q軸電圧
V0d’:補正零相d軸電圧
V0q’:補正零相q軸電圧
ωt:系統電圧の位相
iu,iv,iw:U相の出力電流,V相の出力電流,W相の出力電流
I1q:正相q軸電流
I2d:逆相d軸電流
I2q:逆相q軸電流
I1q*:正相q軸電流指令値
I2d*’:補正逆相d軸電流指令値
I2q*’:補正逆相q軸電流指令値
【請求項3】
前記モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の出力電圧・出力電流がおよび重畳する前記補正零相電圧が(3)式,(4)式で定義される時、
前記零相電圧演算部は、逆相d軸電流指令値、および、逆相q軸電流指令値、および、正相q軸電流指令値、および、正相d軸電圧、および、逆相d軸電圧、および、逆相q軸電圧に基づいて
前記零相電圧である零相d軸電圧、零相q軸電圧を演算して
、前記零相d軸電圧、前記零相q軸電圧に基づいて前記補正零相電圧である補正零相d軸電圧および補正零相q軸電圧を出力し、
前記電流指令値演算部は、(6)式に基づいて前記補正逆相電流指令値である補正逆相d軸電流指令値,補正逆相q軸電流指令値を演算することを特徴とする請求項1記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【数3】
【数4】
【数6】
Vu,Vv,Vw:U相の出力電圧,V相の出力電圧,W相の出力電圧
V1d:正相d軸電圧
V1q:正相q軸電圧
V2d:逆相d軸電圧
V2q:逆相q軸電圧
V0d’:補正零相d軸電圧
V0q’:補正零相q軸電圧
ωt:系統電圧の位相
iu,iv,iw:U相の出力電流,V相の出力電流,W相の出力電流
I1q:正相q軸電流
I2d:逆相d軸電流
I2q:逆相q軸電流
I1q*:正相q軸電流指令値
I2d*’:補正逆相d軸電流指令値
I2q*’:補正逆相q軸電流指令値
【請求項4】
前記モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の出力可能な電圧振幅が定格電圧振幅の1.5倍に満たない場合、前記零相電圧演算部は、線間短絡が発生したときに前記上限値を零とすることを特徴とする請求項2または3記載のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相交流の系統に連系するシングルスター・ブリッジセル(SSBC)のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図1にシングルスター・ブリッジセル(SSBC)のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)の構成を示す。この回路の特徴は
図2に示すブリッジセルBをカスケード接続したモジュールで各アームを構成する点にあり、ブリッジセルBの接続台数を増加することでより高い電圧を扱うことができる。MMCC-SSBCはトランスレスで高圧系統に連系することができ、無効電力補償装置としての応用が想定されている。
【0003】
しかし、MMCC-SSBCには、不平衡電圧系統に連系したり逆相電流を出力した場合、すなわち逆相電力を出力すると相間セルコンデンサ電圧のバランスが崩れるという問題点がある。このアンバランスは、スイッチング素子やセルコンデンサに印加される電圧が過大になる、MMCC-SSBCから出力される電圧波形・電流波形にひずみが生じトランスの焼損、力率改善用コンデンサの過熱や絶縁破壊、電動機のうなりや遮断器の誤動作など他の機器への悪影響といった問題を引き起こす。このアンバランスを改善する方法として、特許文献1、および、非特許文献1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】吉井剣,井上重徳,赤木泰文、「6.6kVトランスレス・カスケードPWM STATCOM」、2007年、電学論D、127巻、8号、p.781-788
【文献】石塚智嗣,根津一嘉,佐藤之彦,山口浩,片岡昭雄、「無損失共振器を適用した電圧形PWM整流回路の電源電流制御」、平成8年、電学論D、116巻、8号、p.883-884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は逆相電圧・逆相電流を検出してセルコンデンサ電圧バランス維持に最適な零相電圧を計算し重畳するフィードフォワード制御である。零相電圧を使用し余計な逆相電流を出力しないため、系統に擾乱を与えることなくバランスを維持できるという特長がある。
【0007】
しかし、電圧不平衡が大きくなるほど、また出力する逆相電流が大きくなるほど重畳すべき零相電圧の振幅も増加する。MMCC-SSBCはより大きな振幅の電圧を出力する必要があり、このためにはカスケード接続するブリッジセルBの台数やセルコンデンサ電圧を増加しなければならず、コストや損失が増加してしまう。
【0008】
一方で、セルコンデンサ電圧バランスが崩れた際にバランス補正に適した逆相電流を意図的に出力する方法が非特許文献1にて開示されている。しかし、バランス補正に適した逆相電流が系統に対して適切とは限らず、系統の電圧不平衡を悪化させてしまう恐れがあり、他の連系装置、特にモータや発電機に対して損失増加・発熱・振動や騒音の増加・寿命低下といった悪影響を及ぼす。MMCC-SSBCの都合で指令値とは異なる勝手な逆相電流を出力することは望ましくない。
【0009】
以上示したようなことから、モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器において、セルコンデンサの電圧バランスを一定に保つと共に、適した零相電圧、逆相電圧を使用することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、複数台のブリッジセルユニットを直列接続して1相のモジュールを構成し、このモジュールを3台有する3相のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器であって、セルコンデンサ電圧のバランス制御に必要な零相電圧の振幅が上限値以下の場合は前記零相電圧を補正零相電圧として出力し、前記零相電圧の振幅が前記上限値よりも大きい場合は前記上限値を前記補正零相電圧として出力する零相電圧演算部と、前記零相電圧が前記上限値よりも大きい場合、前記補正零相電圧を重畳した上でセルコンデンサ電圧のバランス制御に必要な補正逆相電流指令値を重畳した電流指令値を出力する電流指令値演算部と、前記補正零相電圧および前記電流指令値に基づいてゲート信号を生成する電流制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、その一態様として、前記モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の出力電圧・出力電流および重畳する前記補正零相電圧が(3)式,(4)式で定義される時、前記零相電圧演算部は、逆相電流指令値を入力せず、正相q軸電流指令値、および、正相d軸電圧、および、逆相d軸電圧、および、逆相q軸電圧に基づいて前記零相電圧を演算して前記補正零相電圧を出力し、前記電流指令値演算部は、(6)式に基づいて前記補正逆相電流指令値である補正逆相d軸電流指令値,補正逆相q軸電流指令値を演算することを特徴とする。
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
Vu,Vv,Vw:U相の出力電圧,V相の出力電圧,W相の出力電圧
V1d:正相d軸電圧
V1q:正相q軸電圧
V2d:逆相d軸電圧
V2q:逆相q軸電圧
V0d’:補正零相d軸電圧
V0q’:補正零相q軸電圧
ωt:系統電圧の位相
iu,iv,iw:U相の出力電流,V相の出力電流,W相の出力電流
I1q:正相q軸電流
I2d:逆相d軸電流
I2q:逆相q軸電流
I1q*:正相q軸電流指令値
I2d*’:補正逆相d軸電流指令値
I2q*’:補正逆相q軸電流指令値。
【0016】
また、他の態様として、前記モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の出力電圧・出力電流がおよび重畳する前記補正零相電圧が(3)式,(4)式で定義される時、前記零相電圧演算部は、逆相d軸電流指令値、および、逆相q軸電流指令値、および、正相q軸電流指令値、および、正相d軸電圧、および、逆相d軸電圧、および、逆相q軸電圧に基づいて前記零相電圧を演算して前記補正零相電圧を出力し、前記電流指令値演算部は、(6)式に基づいて前記補正逆相電流指令値である補正逆相d軸電流指令値,補正逆相q軸電流指令値を演算することを特徴とする。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
Vu,Vv,Vw:U相の出力電圧,V相の出力電圧,W相の出力電圧
V1d:正相d軸電圧
V1q:正相q軸電圧
V2d:逆相d軸電圧
V2q:逆相q軸電圧
V0d’:補正零相d軸電圧
V0q’:補正零相q軸電圧
ωt:系統電圧の位相
iu,iv,iw:U相の出力電流,V相の出力電流,W相の出力電流
I1q:正相q軸電流
I2d:逆相d軸電流
I2q:逆相q軸電流
I1q*:正相q軸電流指令値
I2d*’:補正逆相d軸電流指令値
I2q*’:補正逆相q軸電流指令値。
【0021】
また、その一態様として、前記モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の出力可能な電圧振幅が定格電圧振幅の1.5倍に満たない場合、前記零相電圧演算部は、線間短絡が発生したときに前記上限値を零とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、モジュラー・マルチレベル・カスケード変換器において、セルコンデンサの電圧バランスを一定に保つと共に、適した零相電圧、逆相電圧を使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】実施形態1~3における電流制御部を示すブロック図。
【
図4】実施形態1における零相電圧演算部のブロック図。
【
図5】実施形態1~3における電流指令値演算部のブロック図。
【
図6】実施形態2における零相電圧演算部のブロック図。
【
図7】実施形態3における零相電圧演算部のブロック図。
【
図8】零相電圧の重畳量とバランスに必要な逆相電流振幅の関係図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明におけるモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器の実施形態1~3を
図1~
図8に基づいて詳述する。
【0025】
[実施形態1]
本実施形態1では、零相電圧によるバランス制御と逆相電流によるバランス制御を併用してセルコンデンサ電圧をバランスさせる方法を示す。零相電圧を優先的に使用し、指令に対して重畳できる零相電圧の振幅が不足した場合に限り逆相電流を出力することで、系統に与える擾乱をできる限り小さくする。
【0026】
本実施形態1のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(直列多重インバータ装置)は、例えば、
図1に示す回路に適用することを想定している。
図1において、符号25は三相交流の系統電源であり、系統電圧はVsである。複数台のブリッジセルBのユニットが直列接続されて1相のモジュールを構成する。このモジュールを3台有し、系統の各相にリアクトルを介して接続される。すなわち、各相(3相)に1相あたりn台のブリッジセルBが接続され、3相合計では3n台のブリッジセルBが接続される。
【0027】
図2に示すように、ブリッジセルBは、第1半導体スイッチング素子S1の一端が、一方の接続端子に接続される。第2半導体スイッチング素子S2の一端は第1半導体スイッチング素子S1の一端に接続される。第3半導体スイッチング素子S3は、第1半導体スイッチング素子S1の他端と他方の接続端子との間に接続される。第4半導体スイッチング素子S4は、第2半導体スイッチング素子S2の他端と他方の接続端子との間に接続される。セルコンデンサCは、第1,第3半導体スイッチング素子S1,S3の接続点と第2,第4半導体スイッチング素子S2,S4の接続点との間に接続される。
【0028】
図3にMMCC-SSBCの電流制御部のブロック図を示す。ローパスフィルタLPFは、各相の出力電流検出信号iu,iv,iwからノイズやスイッチングリプルなどを除去する。3相2相変換器1は、ローパスフィルタLPFの出力結果を3相2相変換し、2相の出力電流検出信号Ia,Ibを出力する。
【0029】
減算器2a,2bは、後述する3相2相変換された固定座標上の電流指令値Ia*,Ib*と2相の出力電流検出信号Ia,Ibとの偏差を演算する。P(比例)R(共振)アンプPRは、減算器2a,2bの出力を増幅する。Rアンプは非特許文献2に記述があり、特定の周波数に対してゲインが無限大となる。この周波数を系統電源周波数とすることにより、正相電流および逆相電流両方の偏差を零にすることができる。2相3相変換器3は、PRアンプPRの出力を2相3相変換し、各相の出力電圧指令値を出力する。
【0030】
加算器4は、後述する積V0d’cosωt,V0q’sinωtを足し合わせ、補正零相電圧を算出する。加算器5u,5v,5wは、2相3相変換器3から出力された各相の出力電圧指令値に、加算器4の出力である補正零相電圧をそれぞれ加算する。このほか、セルコンデンサ電圧バランスフィードバック制御によって得られた零相電圧を加算する場合もある。
【0031】
PWM変調器PWMは、補正零相電圧を重畳した各相の出力電圧指令値と、各ブリッジセルBに対応したキャリア三角波とを比較し、各ブリッジセルBのゲート信号を得る。得られたゲート信号は、
図1の各ブリッジセルBに入力される。
【0032】
図4に本実施形態1の零相電圧演算部27のブロック図を示す。
【0033】
PLL(Phase Locked Loop)は、系統電圧検出信号Vsから位相ωtを求める。ローパスフィルタLPFは、系統電圧検出信号Vsからノイズやスイッチングリプルなどを除去する。
【0034】
dq変換器6は、ローパスフィルタLPFを適用した後の系統電圧検出信号Vsを位相ωtに基づいてdq変換を行う。移動平均フィルタMAVE1,MAVE2は、dq変換器6の出力から、電圧不平衡に起因する基本波周波数の2倍の脈動を除去する。移動平均フィルタMAVE1,MAVE2の出力が、正相d軸電圧V1d,正相q軸電圧V1qとなる。正相q軸電圧V1qはPLLが正常に動作している限り定常時は通常零となるが、系統電圧に変動が生じた場合などには値を持つ場合がある。
【0035】
乗算器7は、位相ωtを-1倍する。dq変換器8は、ローパスフィルタLPFを適用した系統電圧検出信号Vsを位相-ωtに基づいてdq変換を行う。移動平均フィルタMAVE3,MAVE4は、dq変換器8の出力から、正相電圧に起因する基本波周波数の2倍の脈動を除去する。移動平均フィルタMAVE3,MAVE4の出力が、逆相d軸電圧V2d,逆相q軸電圧V2qとなる。
【0036】
演算器9は、正相d軸電圧V1d,逆相d軸電圧V2d,逆相q軸電圧V2qの他、外部から入力される正相q軸電流指令値I1q*を入力する。演算器9は、正相d軸電圧V1d,逆相d軸電圧V2d,逆相q軸電圧V2q,正相q軸電流指令値I1q*に基づいて、特許文献1に基づきセルコンデンサ電圧のバランスに適切な零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qを出力する。(1)式において、V1は正相電圧,V2は逆相電圧,I1は正相電流,I2は逆相電流とする。
【0037】
【0038】
また、正相電流と逆相電流の位相差φは0deg,60deg,120deg,180deg,240deg,300degから最も近い位相差を選択した値とし、位相差φが0deg,180degの時(2-1)式、位相差φが120deg,300degの時(2-2)式、位相差φが60deg,240degの時(2-3)式に基づいて零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qを算出しても良い。
【0039】
【0040】
a’:正相電流と逆相電流の振幅比
a:補正振幅比
ただし、a=a’(φ=0deg,120deg,240deg)
a=-a’(φ=60deg,180deg,300deg)
また、位相差φが0deg,60deg,120deg,180deg,240deg,300degでない場合、最も近い2つの位相差φから(2-1)式,(2-2)式,(2-3)式により2つの零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qを求め、その2つの零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qの補間により零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qを決定してもよい。
【0041】
ただし、(2-1)式では、a=a’(φ<90deg,270deg<φ),a=-a’(90deg<φ<270deg),(2-2)式では、a=a’(30deg<φ<210deg),a=-a’(φ<30deg,210deg<φ),(2-3)式では、a=a’(150deg<φ<330deg),a=-a’(φ<150deg,330deg<φ)とする。
【0042】
また、位相差φが30deg,90deg,150deg,210deg,270deg,330degの時に補正係数を2/√3とし、位相差φが0deg,60deg,120deg,180deg,240deg,300degの時に補正係数を1とし、間の位相差φにおいては補正係数を線形補間により求めたゲインGiを(2-1)式,(2-2)式,(2-3)式の正相d軸電圧V1dに依存する項に乗算してもよい。
【0043】
このとき、正相電流に対する逆相電流の振幅比aは零である。位相差φはどの値に設定しても同じ結果が得られる。
【0044】
上記では、零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qの演算方法の例を説明したが、演算器9での零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qは他の方法により求めても良い。
【0045】
乗算器10d,10qは、零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qの自乗を求める。加算器11は、乗算器10d,10qの出力を足し合わせる。平方根演算器12は、加算器11の出力の平方根を求める。この平方根演算器12の出力が、電圧指令値に重畳する零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)となる。
【0046】
除算器13は、零相電圧の振幅の上限を指定する上限値V0limを零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)で除算し、零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)に対する零相電圧の振幅の上限値V0limの比率を求める。
【0047】
減算器14は、零相電圧の振幅の上限値V0limから零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)を減算する。比較器15は、減算器14の出力と0とを比較し、減算器14の出力がマイナス、すなわち上限値V0limよりも零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)が大きい場合に1を出力し、それ以外の場合0を出力する。スイッチ16は、比較器15の出力が1ならば零相電圧の振幅に対する上限値V0limの比率(除算器13の出力)を出力し、0ならば1を出力する。乗算器17d,17qは、零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qとスイッチ16の出力を乗算する。乗算器17d,17qの出力が補正零相電圧V0d’,V0q’となる。
【0048】
補正零相電圧V0d’,V0q’は、演算器9より得られた零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)が上限値V0limより小さければ、V0d’=V0d,V0q’=V0qとなる。零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)が上限値V0limより大きければ、補正零相電圧V0d’,V0q’の振幅は上限値V0limに等しい値に制限され、位相は零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qに等しく変化しない。
【0049】
図5に本実施形態1の電流指令値演算部28のブロック図を示す。
図5の補正零相電圧V0d’,V0q’は
図4により求めた値である。正相d軸電流指令値I1d*は有効電力に相当し、無効電力補償装置では零である。ただし、セルコンデンサ電圧バランスフィードバック制御によって装置の定常損失分が入る場合がある。この場合も正相d軸電流指令値I1d*はほぼ零である。
【0050】
演算器18は、補正零相d軸電圧V0d’,補正零相q軸電圧V0q’,正相d軸電圧V1d,正相q軸電圧V1q,逆相d軸電圧V2d,逆相q軸電圧V2q,正相q軸電流指令値I1q*を入力し、(6)式により補正逆相電流指令値(補正逆相d軸電流指令値I2d*’,補正逆相q軸電流指令値I2q*’)を求める。
【0051】
dq逆変換器19は、正相d軸電流指令値I1d*,正相q軸電流指令値I1q*を位相ωtに基づいてdq逆変換を行い、固定座標上の値に変換する。乗算器20は位相ωtに-1を乗算する。dq逆変換器21は、補正逆相d軸電流指令値I2d*’,補正逆相q軸電流指令値I2q*’を位相-ωtに基づいてdq逆変換を行い、固定座標上の値に変換する。加算器22a,22bは、dq逆変換器19,21の出力を足し合わせる。加算器22a,22bの出力が固定座標上の電流指令値Ia*,Ib*となる。
【0052】
乗算器cosは、補正零相d軸電圧V0d’と位相ωtを入力し、位相ωtに対応する余弦値と補正零相d軸電圧V0d’との積V0d’cosωtを出力する。乗算器sinは、補正零相q軸電圧V0q’と位相ωtを入力し、位相ωtに対応する正弦値と補正零相q軸電圧V0q’との積V0q’sinωtを出力する。
図3の加算器4において積V0d’cosωt,V0q’sinωtを足し合わせ、
図3の加算器5u,5v,5wにおいて零相電圧として各相の電圧指令値に加算する。
【0053】
図5の乗算器cos,sin,
図3の加算器4は零相電圧演算部27に含まれるものとする。
【0054】
本実施形態1は、不平衡電圧系統において逆相電流指令値が零の時(逆相電流指令値を入力しない時)に、セルコンデンサ電圧のバランス維持のため重畳する零相電圧の振幅を上限値V0limに制限する零相電圧演算部27と、振幅を制限された零相電圧を重畳したときにセルコンデンサ電圧のバランス維持に必要な逆相電流を求める電流指令値演算部28からなる。各相の電圧Vu,Vv,Vwを(3)式,各相の電流iu,iv,iwを(4)式のように定義する。
【0055】
【0056】
【0057】
V1dは正相d軸電圧,V1qは正相q軸電圧である。PLLが有効で制御システムが系統電圧の位相に同期しているならば、正相q軸電圧V1qは定常状態において零である。V2d,V2q,V0d’,V0q’はそれぞれ逆相d軸電圧、逆相q軸電圧、補正零相d軸電圧、補正零相q軸電圧である。電流についても同様であり、I1q,I2d,I2qはそれぞれ正相q軸電流、逆相d軸電流、逆相q軸電流である。各相の基本波1周期あたりの有効電力は以下の(5)式となる。各相の基本波1周期あたりの有効電力はそれぞれ等しい値とする。
【0058】
【0059】
(5)式を満たす逆相d軸電流I2d,逆相q軸電流I2qを求めると、以下の(6)式が得られる。
【0060】
【0061】
補正零相d軸電圧V0d’,補正零相q軸電圧V0q’が演算器9によって得られた零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qに等しい場合、(6)式より得られる補正逆相d軸電流I2d*’,補正逆相q軸電流I2q*’は零になる。
【0062】
すなわち、上限値V0limに対して零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qが小さければ、MMCC-SSBCの出力する逆相電流は零となり、零相電圧のみでセルコンデンサ電圧のバランス制御を行う。上限値V0limの方が小さければ、重畳する零相電圧の振幅を上限値V0limに制限した上で(6)式によって求められる逆相電流を併用してセルコンデンサ電圧のバランス制御を行う。
【0063】
本実施形態1により、逆相電流単独でバランス制御を行うよりも逆相電流振幅を小さくすることができる。また、特許文献1や(2-1)式,(2-2)式,(2-3)式同様に適切な逆相電流をフィードフォワードで出力するため、フィードバックとは異なり系統電圧が変動した場合でもセルコンデンサ電圧のアンバランスを小さくすることができる。
【0064】
重畳する零相電圧の振幅は、上限値V0limにより制限することができる。上限値V0limはあらかじめ設計した固定値とすることができ、例えば系統電圧実効値の定格(最大値)をV1,セルコンデンサ電圧定格(最大値)をVc,1相あたりのブリッジセルBの数をnとしたときに、(7)式により求めることができる。
【0065】
【0066】
余裕を見て(7)式よりも小さな値としてもよい。上限値V0limは可変値としてもよく、現在の系統電圧振幅を(7)式のV1に代入して決定するほか、
図3の2相3相変換器3から出力される電圧指令値正弦波の振幅から求める方法、
図3のPWM変調器PWMに入力される電圧指令値振幅が1よりも小さければ上限値V0limを少しずつ増加し1を超えていたら減少させる方法もある。
【0067】
上限値V0limは零としてもよく、この場合は零相電圧を重畳せず逆相電流のみでセルコンデンサ電圧のバランス制御を行う。上限値V0limを零とすることにより、3相4線式で零相電圧を重畳すると零相電流が流れてしまう場合でも、本実施形態1を適用することが可能となる。ただし、逆相電流も少し流れてしまう。
【0068】
(6)式では、正相電圧と補正零相電圧の振幅が等しいときに分母が零となり、セルコンデンサ電圧のバランス制御に適切な逆相電流を求めることができない。しかし、このときMMCC-SSBCは定格の2倍の振幅の電圧を出力できることを示し、特許文献1の段落[0049]よりMMCC-SSBCは任意の逆相電流を単独で出力しても零相電圧によるセルコンデンサ電圧をバランスさせることができる。
【0069】
このようなセルコンデンサ電圧やブリッジセルBの台数が十分多い設計ならば、特許文献1の段落[0051]より正相電流と逆相電流の振幅が等しくならないようにすれば問題なく運転でき、本実施形態1を適用する必要がない。その反面、コストや損失は大幅に増加してしまう。本実施形態1では、セルコンデンサ電圧やブリッジセルBの台数の余裕が小さい設計の装置に適用することを想定したものであるため、(6)式で分母が零となることはない。
【0070】
以上示したように、本実施形態1によれば、MMCC-SSBCにおいて零相電圧と逆相電流を併用することにより各セルコンデンサCの電圧バランスを一定に保つことができる。
【0071】
零相電圧を優先的に使用し、零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)が外部から設定できる上限値V0limに達した場合のみ逆相電流を併用するため、逆相電流の流出を最小限に抑えることができる。
【0072】
また、MMCC-SSBCが出力できる電圧振幅に余裕がなくてもセルコンデンサ電圧をバランスできるため、ブリッジセルBの台数を少なくしブリッジセルBの直流電圧を下げることができ、コストや損失を抑えることができる。
【0073】
また、フィードフォワード制御のため、系統電圧や電流指令値が急変した場合でもセルコンデンサ電圧の変動が小さくなり、セルコンデンサ容量を小さくでき、小型化やコスト削減ができる。
【0074】
[実施形態2]
図6に本実施形態2の零相電圧演算部27のブロック図を示す。実施形態1との違いは、逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*を外部から入力できるようにし、演算器9において逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*に基づいて、特許文献1や(2-1)式,(2-2)式,(2-3)式を演算する点である。
【0075】
乗算器cos,sinと電流指令値演算部28は、実施形態1と同じく
図5を使用する。
【0076】
次に本実施形態2の動作を説明する。本実施形態2では、正相d軸電圧V1d,逆相d軸電圧V2d,逆相q軸電圧V2q,正相q軸電流指令値I1q*の他に外部からの逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*を用いて、零相d軸電圧V0d,零相q軸電圧V0qを計算する。また、振幅を上限値V0limに制限した上で改めて補正逆相d軸電流指令値I2d*’,補正逆相q軸電流指令値I2q*’を(6)式により計算し直す。
【0077】
演算器9から出力される零相電圧の振幅√(V0d
2+V0q
2)が上限値V0limよりも小さければ、
図5の(6)式による演算器18から出力される補正逆相d軸電流指令値I2d*’,補正逆相q軸電流指令値I2q*’は逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*に一致し、MMCC-SSBCは逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*通りの逆相電流を出力する。
【0078】
零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)が上限値V0limよりも大きい場合、上限値V0limの範囲内でできる限り逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*に近い補正逆相d軸電流指令値I2d*’,補正逆相q軸電流指令値I2q*’が演算器18から出力される。
【0079】
零相電圧の振幅√(V0d2+V0q2)が上限値V0limよりもさらに大きい場合は逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*が無視され、セルコンデンサ電圧のバランス制御に必要な補正逆相d軸電流指令値I2d*’,補正逆相q軸電流指令値I2q*’が計算されMMCC-SSBCから出力される。
【0080】
以上より、MMCC-SSBCから出力できる電圧振幅に余裕がある場合は逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*通りの逆相電流を出力し、余裕が不足する場合はなるべく逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*に近いが振幅の小さい逆相電流を出力し、余裕がほとんどない場合は逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*を無視してセルコンデンサ電圧のバランス制御に必要な逆相電流を出力する、という動作を実現することができる。
【0081】
本実施形態2の演算器9に(2-1)式,(2-2)式,(2-3)式を適用する場合、入力は逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*ではなく正相電流に対する逆相電流の振幅比a’と正相電流に対する逆相電流の位相差φとする必要がある。これは、以下の(8)式により計算することができる。
【0082】
【0083】
本実施形態2は、MMCC-SSBCが出力できる電圧振幅に余裕がある場合は外部から入力された逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*に等しい逆相電流を出力することができる。電圧振幅の余裕があまりない場合においても、振幅は小さくなるが、なるべく逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*に近い逆相電流を出力することができる。電圧振幅の余裕がほとんどない場合は逆相d軸電流指令値I2d*,逆相q軸電流指令値I2q*とは異なる逆相電流を出力するが、実施形態1と同様に零相電圧を優先的に使用するため、意図しない逆相電流の流出を最小限に抑えることができる。
【0084】
[実施形態3]
図7に本実施形態3の零相電圧演算部27のブロック図を示す。実施形態2とは以下の点が異なる。
【0085】
RMS演算器23a,23b,23cは、系統電圧検出信号VsのUV線間電圧VsUV,VW線間電圧VsVW,WU線間電圧VsWUの実効値を求める。比較器24a,24b,24cは、RMS演算器23a,23b,23cの出力があらかじめ設定した閾値Vthよりも大きいか否かを判定する。
【0086】
AND素子25は、UV線間電圧VsUV,VW線間電圧VsVW,WU線間電圧VsWUの3つすべての実効値が閾値Vthよりも大きいときに1を出力し、それ以外のとき0を出力する。スイッチ26は、AND素子25の出力が1ならば上限値V0limを、0ならば0を出力する。スイッチ26の出力が本実施形態3における零相電圧振幅の上限値となる。
【0087】
ここで、振幅を制限された零相電圧を重畳することによる、セルコンデンサ電圧バランス制御に必要な逆相電流振幅の低減効果を検証する。簡単化のため外部からの逆相電流指令値を零、V1d=1,V1q=0,I2d=I2q=0の条件で(5)式を満たす補正零相d軸電圧V0d’,補正零相q軸電圧V0q’を求めると、(9)式が得られる。
【0088】
【0089】
ここで、逆相d軸電圧V2d,逆相q軸電圧V2q,補正零相d軸電圧V0d’,補正零相q軸電圧V0q’を(10)式のように定義する。
【0090】
【0091】
xは本来出力すべき零相電圧の振幅に対して実際に出力した零相電圧の振幅の比であり、(11)式に相当する。
【0092】
【0093】
V1d=1,V1q=0および(11)式を(6)式に代入すると、以下の(12)式となる。
【0094】
【0095】
正相電流に対する(12)式により得られる逆相電流の振幅比を(13)式により求める。
【0096】
【0097】
図8にx,V2,θを変化させたときの(13)式のプロット結果を示す。横軸はxであり、0において零相電圧を使用せず逆相電流のみでコンデンサバランス制御を行う場合、1で適切な零相電圧を重畳した場合を示す。縦軸は、MMCC-SSBCが出力する正相電流の振幅を基準としたコンデンサバランス制御に必要な逆相電流の振幅比を表す。
【0098】
V2は系統電圧に重畳する逆相電圧の振幅であり、増加するほど不平衡が大きくなり1で正相電圧の振幅と等しくなる。θは逆相電圧の位相である。この
図8より、xが増加するほど、すなわち重畳する零相電圧の振幅が増加するほど必要な逆相電流振幅が小さくなることがわかる。また、V2が増加するほど、すなわち電圧不平衡が悪化するほど必要な逆相電流振幅が大きくなることがわかる。
【0099】
しかし、θ=0,V2=1においてのみ、xを増加しても必要な逆相電流の振幅が全く変化しない。この状態に当てはまる条件として、他にθ=±2π/3(120deg,240deg)があり、これは線間短絡に該当する。
【0100】
本実施形態3は、以上の検証結果を反映し線間短絡が発生したら逆相電流のみでコンデンサ電圧のバランス制御を行う。各線間電圧の実効値を検出し、閾値Vthと比較して3相いずれかの実効値が閾値Vthより小さければ零相電圧の上限値V0limを零にする。これにより、零相電圧を使用せず逆相電流のみでセルコンデンサ電圧のバランス制御が行われる。
【0101】
本実施形態3により、線間短絡発生時に効果のない零相電圧重畳を行わなくなるため、電圧指令値の振幅がキャリア三角波の振幅よりも大きくなる過変調を避けることができ、電圧・電流波形のTHD(Total Harmonic Distortion)増加の恐れを低減することができる。
【0102】
特許文献1および(2-1)式,(2-2)式,(2-3)式より、MMCC-SSBCが定格(最大)電圧の1.5倍の振幅の電圧を出力できるならばx=1とすることができ、線間短絡発生時において零相電圧だけでバランス制御を行うことができる。この場合は本実施形態3を適用する必要がない。本実施形態3は、MMCC-SSBCが出力できる電圧振幅が定格(最大)電圧の1.5倍に満たない場合に適用することを想定している。
【0103】
以上示したように、本実施形態3は実施形態1,2と同様の作用効果を奏する。また、線間短絡が発生した場合では最適な振幅よりも小さい零相電圧を重畳しても、セルコンデンサ電圧のバランス制御に必要な逆相電流を低減することはできない。本実施形態3では、線間短絡が発生したときには零相電圧を重畳しないため、過変調による電圧・電流THDの増加の恐れを低減することができる。
【0104】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0105】
LPF…ローパスフィルタ
7,10d,10q,17d,17q,20,cos,sin…乗算器
6,8…dq変換器
MAVE1,MAVE2,MAVE3,MAVE4…移動平均フィルタ
9,18…演算器
11,22a,22b…加算器
12…平方根演算器
13…除算器
14…減算器
15…比較器
16…スイッチ
19,21…dq逆変換器
27…零相電圧演算部
28…電流指令値演算部