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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】繊維構造体及び繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/12 20060101AFI20230801BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20230801BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230801BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230801BHJP
   B29K 105/10 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
B29B15/12
B32B5/26
B32B5/28 Z
D03D1/00 A
B29K105:10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019149794
(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公開番号】P2021030478
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/046137(WO,A1)
【文献】特開昭61-274922(JP,A)
【文献】特開2015-063207(JP,A)
【文献】特開2019-069610(JP,A)
【文献】特開平08-165363(JP,A)
【文献】特開2002-225048(JP,A)
【文献】特開平07-118979(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110496(WO,A1)
【文献】特表2011-520690(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16、15/08-15/14
C08J 5/04- 5/10、 5/24
B32B 1/00-43/00
B29C 39/00-39/44、43/00-43/58
B29C 70/00-70/88
D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
D03D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体にマトリックス材料を含浸させて形成される繊維強化複合材の前記繊維構造体であって、
強化繊維の繊維層を複数積層した本体部を有するとともに、前記本体部を前記繊維層の積層方向に沿って二股状に分岐させた分岐部を有する第1繊維基材と、
前記分岐部を覆って前記第1繊維基材に一体化される第2繊維基材を備え、
前記分岐部と前記第2繊維基材とで画成される隙間に充填される隙間充填部材を備え、
前記隙間充填部材は、非連続繊維の撚糸または無撚糸であり、前記非連続繊維の長手が前記隙間充填部材の軸方向に延びるように配向されており、前記非連続繊維の長さが前記隙間充填部材の軸方向長さよりも短く、
前記隙間に複数本の前記隙間充填部材が充填されていることを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
前記第2繊維基材は、強化繊維の繊維層を複数積層して有し、前記第2繊維基材における前記繊維層の積層方向と前記本体部における前記繊維層の積層方向に直交する方向を奥行方向とすると、前記分岐部は前記奥行方向に沿って連続して延びており、前記隙間は前記繊維構造体の前記奥行方向の全体に亘り、前記隙間充填部材の軸方向への寸法は、前記奥行方向への前記隙間の寸法の60%以上である請求項1に記載の繊維構造体。
【請求項3】
前記隙間の単位体積当たりの前記非連続繊維の量を示す繊維体積含有率は、前記本体部における単位体積当たりの前記強化繊維の量を示す繊維体積含有率以下である請求項1又は請求項2に記載の繊維構造体。
【請求項4】
前記非連続繊維の撚糸または無撚糸は、当該隙間充填部材の軸方向全体に延びる連続繊維からなる芯糸を備える請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の繊維構造体。
【請求項5】
繊維構造体にマトリックス材料を含浸させて構成される繊維強化複合材であって、前記繊維構造体は請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の繊維構造体である繊維強化複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隙間に充填される隙間充填部材を備える繊維構造体及び繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量、高強度の材料として繊維強化複合材が使用されている。繊維強化複合材は、強化繊維製の繊維構造体が樹脂や金属等のマトリックス材料中に複合化されることにより、マトリックス材料自体に比べて力学的特性が向上するため、構造部品として好ましい。特にマトリックス材料として樹脂を使用した場合は、構造部品の軽量化が図れるため好ましい。
【0003】
この種の繊維強化複合材としては、例えば、I形状やT形状に形成されたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示の補強材の強化基材は、背中合わせに配置された一対のCチャネルを備える。一対のCチャネルは、それぞれウェブ部分と、ウェブ部分の各端部に設けられ、一対のCチャネルで反対方向に延出されたフランジを備える。
【0004】
一対のウェブ部は連結されて補強材のウェブを形成する。強化基材において、ウェブの一端側における一対のフランジの外側にはキャップが連結され、ウェブの他端側における一対のフランジの外側にはベースが連結されている。よって、強化基材は、一対のCチャネルと、キャップと、ベースとから構成されている。
【0005】
強化基材において、一対のCチャネルのフランジとキャップとの間、及び一対のCチャネルのフランジとベースとの間には、それぞれ断面三角形状の隙間が画成されるが、この隙間には、隙間とほぼ同じ断面三角形状の補強用充填材が充填される。補強用充填材としては、複合テープや布部材などが採用される。また、隙間を囲むCチャネルの表面は布層で覆われている。また、隙間において、布層の内側には接着剤の層が設けられるとともに、その接着剤の層に補強用充填材が包まれている。そして、これら布層、接着剤層、及び補強用充填材により、補強材における隙間の周囲を補強している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2011-520690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1では、補強材における隙間の周囲を補強するために、布層、接着剤層、及び補強用充填材を必要とするとともに、それら布層、接着剤層、及び補強用充填材を設けるための作業が面倒であるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、繊維強化複合材における隙間の周囲を補強するのに必要な作業を簡単に行うことができる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するための繊維構造体は、繊維構造体にマトリックス材料を含浸させて形成される繊維強化複合材の前記繊維構造体であって、強化繊維の繊維層を複数積層した本体部を有するとともに、前記本体部を前記繊維層の積層方向に沿って二股状に分岐させた分岐部を有する第1繊維基材と、前記分岐部を覆って前記第1繊維基材に一体化される第2繊維基材を備え、前記分岐部と前記第2繊維基材とで画成される隙間に充填される隙間充填部材を備え、前記隙間充填部材は、非連続繊維の撚糸または無撚糸であり、前記非連続繊維の長手が前記隙間充填部材の軸方向に延びるように配向されており、前記非連続繊維の長さが前記隙間充填部材の軸方向長さよりも短く、前記隙間に複数本の前記隙間充填部材が充填されていることを要旨とする。
【0010】
上記問題点を解決するための繊維強化複合材は、繊維構造体にマトリックス材料を含浸させて構成される繊維強化複合材であって、前記繊維構造体は請求項1~請求項4のうちいずれか一項に記載の繊維構造体であることを要旨とする。
【0011】
各構成において、隙間充填部材は、第1繊維基材と第2繊維基材を一体化する前、つまり、分岐部が第2繊維基材に覆われる前に、第1繊維基材の分岐部に配置される。その後、分岐部が第2繊維基材によって覆われることにより、隙間が画成されるとともに、隙間に隙間充填部材が充填される。
【0012】
隙間充填部材は、非連続繊維の繊維束であるため、紐状である。このため、例えば、不織布を分岐部に配置する場合と比べると、扱いやすく、しかも、不織布のように分岐部の形状に整形する必要もないため、隙間充填部材を分岐部に配置する作業が簡単である。
【0013】
そして、繊維構造体にマトリックス材料を含浸して製造される繊維強化複合材において、隙間の周囲は非連続繊維によって補強される。隙間に充填される隙間充填部材の本数を調整するだけで、隙間に充填される非連続繊維の量を、補強に適した量に調整できる。このため、例えば、隙間の周囲を補強するために、複数種類の補強用の材料を準備したり、隙間の形状に倣う補強部材を製造したりする場合と比べると、繊維強化複合材における隙間の周囲を補強するために必要な作業を簡単に行うことができる。
【0014】
繊維構造体について、前記第2繊維基材は、強化繊維の繊維層を複数積層して有し、前記第2繊維基材における前記繊維層の積層方向と前記本体部における前記繊維層の積層方向に直交する方向を奥行方向とすると、前記分岐部は前記奥行方向に沿って連続して延びており、前記隙間は前記繊維構造体の前記奥行方向の全体に亘り、前記隙間充填部材の軸方向への寸法は、前記奥行方向への前記隙間の寸法の60%以上であってもよい。
【0015】
これによれば、隙間充填部材の非連続繊維が本体部の奥行方向に延びるように配向される。このため、繊維構造体にマトリックス材料を含浸して製造される繊維強化複合材において、隙間充填部材によって奥行方向への強度を確保できる。
【0016】
繊維構造体について、前記隙間の単位体積当たりの前記非連続繊維の量を示す繊維体積含有率は、前記本体部における単位体積当たりの前記強化繊維の量を示す繊維体積含有率以下であってもよい。
【0017】
これによれば、隙間における隙間充填部材の非連続繊維の比率が高くなりすぎず、非連続繊維同士が密に重なり合うことが抑制される。その結果、隙間に配置された隙間充填部材において、非連続繊維同士の間にマトリックス材料を含浸させやすい。
【0018】
繊維構造体について、前記非連続繊維の撚糸または無撚糸は、当該隙間充填部材の軸方向全体に延びる連続繊維からなる芯糸を備えていてもよい。
【0019】
これによれば、芯糸によって隙間充填部材の直進性を持たせた形状を維持しやすく、分岐部への隙間充填部材の配置が行いやすい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、繊維強化複合材における隙間の周囲を補強するのに必要な作業を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の繊維強化複合材を示す斜視図。
図2】繊維構造体を示す部分断面図。
図3】隙間を模式的に示す図。
図4】隙間充填部材を示す模式図。
図5】隙間充填部材を配置する状態を模式的に示す図。
図6】繊維構造体を製造する状態を示す図。
図7】隙間充填部材の別例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、繊維構造体及び繊維強化複合材を具体化した一実施形態を図1図6にしたがって説明する。
図1に示すように、繊維強化複合材10は、断面T形状の繊維構造体11にマトリックス材料の一例であるマトリックス樹脂Maを含浸、硬化させて形成されている。繊維構造体11は、矩形板状の本体部11aと、本体部11aに対し直交するフランジ11bとを有する。繊維構造体11は、断面T形状の第1繊維基材12と、平板状の第2繊維基材20と、第1繊維基材12と第2繊維基材20との間に画成される隙間Sに充填される隙間充填部材30とを有する。
【0023】
第1繊維基材12は、L形繊維体13を二つ接合して断面T形状に形成されている。L形繊維体13は、経糸T、緯糸R及び図示しない層間結合糸から構成される。なお、経糸T及び緯糸Rは、強化繊維の連続繊維で形成されている。強化繊維としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。本実施形態では、経糸T及び緯糸Rは、炭素繊維で形成されている。
【0024】
L形繊維体13は、繊維層としての複数の経糸層13aと、繊維層としての複数の緯糸層13bとを図示しない層間結合糸で積層方向Zに結合して形成された多層織物である。経糸層13aは、複数本の経糸Tを互いに平行に配列して形成され、緯糸層13bは、複数の緯糸Rを互いに平行に配列して形成されている。複数の経糸T及び緯糸Rは互いに直交する。なお、L形繊維体13は、平織り、綾織り、繻子織りして形成された単層織物を積層し、その積層体を層間結合糸で結合して構成されていてもよい。すなわち、L形繊維体13の織り構成はどのようなものであってもよい。
【0025】
L形繊維体13は、平板状の多層織物をL形状に屈曲させて形成されている。なお、L形繊維体13の「L形状」とは、L形繊維体13における積層方向Zに沿う断面がL形状であることをいう。L形繊維体13は、平板状の基部15と、この基部15に対し直交する平板状のフランジ構成部16と、基部15とフランジ構成部16とを繋ぐ接続部17と、を有する。L形繊維体13において、緯糸Rの糸主軸は、基部15とフランジ構成部16とを繋ぐ方向に延びている。一方、経糸Tの糸主軸は、緯糸Rの糸主軸に直交する方向に延びている。
【0026】
図2に示すように、基部15は、積層方向Zの一端面に、他方のL形繊維体13の基部15と向き合う第1基部面15aを備えるとともに、積層方向Zの他端面に第2基部面15bを備える。フランジ構成部16は、積層方向Zの一端面に、第2繊維基材20と向き合う第1フランジ面16aを備えるとともに、積層方向Zの他端面に第2フランジ面16bを備える。
【0027】
接続部17は、平板状の基部15とフランジ構成部16に挟まれる部分であり、積層方向Zに沿う断面がほぼ扇形状の部分である。接続部17は、基部15の第1基部面15aとフランジ構成部16の第1フランジ面16aとの間に位置する第1湾曲面17aを備えるとともに、基部15の第2基部面15bとフランジ構成部16の第2フランジ面16bとの間に位置する第2湾曲面17bを備える。第1湾曲面17aと第2湾曲面17bの曲率は同じである。第1湾曲面17aの円弧の長さは、積層方向Zに沿う断面における第2湾曲面17bの円弧の長さより長い。
【0028】
第1繊維基材12において、二つのL形繊維体13の基部15同士から本体部11aが形成されている。本体部11aでは、複数の経糸層13aと複数の緯糸層13bとが積層方向Zに積層されている。また、第1繊維基材12は、一方のL形繊維体13の第1湾曲面17aと、他方のL形繊維体13の第1湾曲面17aとで挟まれた分岐部18を備える。分岐部18は、一対のL形繊維体13の第1フランジ面16aから凹む。
【0029】
図1に示すように、第2繊維基材20は、平板状である。第2繊維基材20は、経糸T、緯糸R及び図示しない層間結合糸から構成される。なお、経糸T及び緯糸Rは、強化繊維で形成されている。強化繊維としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。本実施形態では、経糸T及び緯糸Rは、炭素繊維で形成されている。
【0030】
第2繊維基材20は、繊維層としての複数の経糸層20aと、繊維層としての複数の緯糸層20bとを図示しない層間結合糸によって積層方向Zに結合して形成された多層織物である。経糸層20aは、複数本の経糸Tを互いに平行に配列して形成され、緯糸層20bは、複数の緯糸Rを互いに平行に配列して形成されている。複数の経糸T及び緯糸Rは互いに直交する。なお、第2繊維基材20は、平織り、綾織り、繻子織りして形成された単層織物を積層し、その積層体を層間結合糸で結合して構成されていてもよい。すなわち、第2繊維基材20の織り構成はどのようなものであってもよい。なお、繊維構造体11において、本体部11aにおける経糸層13a及び緯糸層13bの積層方向Zと、第2繊維基材20における経糸層20a及び緯糸層20bの積層方向Zに直交する方向を奥行方向Yとする。上述した分岐部18は、奥行方向Yに沿って連続して延びており、繊維構造体11の奥行方向Yの全体に亘って存在する。
【0031】
第2繊維基材20において、経糸Tの糸主軸は、繊維構造体11の奥行方向Yに延び、緯糸Rの糸主軸は、繊維構造体11の奥行方向Y及び積層方向Zに直交する方向に延びている。
【0032】
図2に示すように、第2繊維基材20は、一対のフランジ構成部16から構成されるフランジ11bに重ねられている。第2繊維基材20は、積層方向Zの一端面に、一対の第1フランジ面16aに向き合う第1面20cを備えるとともに、積層方向Zの他端面に第2面20dを備える。
【0033】
繊維構造体11の本体部11aは、第1基部面15a同士を向き合わせて一対の基部15を一体化して構成されている。繊維構造体11のフランジ11bは、一対のフランジ構成部16の第1フランジ面16aに第2繊維基材20の第1面20cを向き合わせて一体化して構成されている。
【0034】
上記構成の繊維構造体11において、単位体積当たりの繊維の量を繊維体積含有率Vfとする。繊維体積含有率Vfが高いほど、単位体積に含まれる繊維の量が多くなり、繊維間が狭くなる。一方、繊維体積含有率Vfが低いほど、単位体積に含まれる繊維の量が少なくなり、繊維間が開く。本実施形態では、繊維構造体11の繊維体積含有率Vfは55~65%であるが、繊維体積含有率Vfは、繊維強化複合材10の使用目的に合わせて適宜変更してもよい。
【0035】
繊維構造体11は、第1繊維基材12に第2繊維基材20が一体化されているため、分岐部18は第2繊維基材20で覆われている。繊維構造体11は、分岐部18を第2繊維基材20で覆うことで画成された隙間Sを有するとともに、この隙間Sには隙間充填部材30が充填されている。なお、隙間Sは、一方のL形繊維体13の第1湾曲面17aと、他方のL形繊維体13の第1湾曲面17aと、第2繊維基材20の第1面20cとの間に画成されている。また、隙間Sは、繊維構造体11の奥行方向Yの全体に亘っている。
【0036】
図3又は図4に示すように、隙間充填部材30は、強化繊維の非連続繊維Hで形成されている。強化繊維としては、有機繊維又は無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維としては、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。本実施形態では、非連続繊維Hは、炭素繊維で形成されている。
【0037】
図4に示すように、隙間充填部材30は、非連続繊維Hの撚糸31と、非連続繊維Hの撚糸31に対し螺旋状に巻き付けられる複数本のカバーリング糸32と、を備える。なお、カバーリング糸32は、熱溶融製の繊維が用いられ、例えばナイロン繊維である。隙間充填部材30は、非連続繊維Hの長手を隙間充填部材30の軸方向に揃えた繊維束である。隙間充填部材30の撚糸31は、複数本の連続繊維を引き揃えた繊維束よりも嵩高である。また、隙間充填部材30において、非連続繊維Hの長手が隙間充填部材30の軸方向に延びるように配向されている。
【0038】
隙間充填部材30の軸方向への寸法は、奥行方向Yに沿う隙間Sの全体の寸法の60%以上の寸法を有するのが好ましく、本実施形態では、隙間充填部材30は、隙間Sの奥行方向Y全体に亘る寸法を有する。つまり、隙間充填部材30の軸方向への寸法は、隙間Sの奥行方向Yへの寸法と同じである。また、隙間Sへ充填される隙間充填部材30の量は、繊維構造体11の隙間Sでの繊維体積含有率Vfが、隙間S以外の部分での繊維体積含有率Vf以下となるように調整される。本実施形態では、隙間Sでの繊維体積含有率Vfが30~55%に調整されるが、隙間Sでの繊維体積含有率Vfは、繊維強化複合材10の使用目的に合わせて適宜変更してもよい。
【0039】
そして、図1に示すように、上記構成の繊維構造体11を強化基材とした繊維強化複合材10は、隙間Sに複数本の隙間充填部材30が充填されるとともに、隙間Sにおける非連続繊維Hの量が、所望の繊維体積含有率Vfとなるように調整されている。また、図3に示すように、隙間充填部材30の非連続繊維Hの長手が繊維構造体11の奥行方向Yに延びるように配向されている。したがって、繊維強化複合材10における隙間Sの周囲は、充填された非連続繊維Hによって、奥行方向Yに補強されている。
【0040】
次に、繊維構造体11を強化基材とした繊維強化複合材10の製造方法について作用とともに説明する。
まず、断面T形状の第1繊維基材12及び平板状の第2繊維基材20を製造する。次に、図5に示すように、第1繊維基材12の分岐部18に複数本の隙間充填部材30を載置する。このとき、後に形成される隙間Sの繊維体積含有率Vfが所望する値となるように、載置する隙間充填部材30の本数を調整する。そして、分岐部18には隙間充填部材30を載せるだけで、後に、繊維構造体11の隙間Sとなる部分への処理が完了する。つまり、繊維強化複合材10における隙間Sの周囲を補強するのに必要な作業が完了する。
【0041】
次に、図6に示すように、第1繊維基材12の一対の第1フランジ面16aに第2繊維基材20を載せ、第1フランジ面16aと第2繊維基材20の第1面20cとを向き合わせる。すると、分岐部18が第2繊維基材20によって覆われるとともに、第1繊維基材12と第2繊維基材20の間には、隙間充填部材30が充填された隙間Sが画成される。
【0042】
そして、繊維構造体11にマトリックス樹脂Maの含浸処理を行う。この含浸処理は、レジントランスファーモールディング(RTM)法が採用される。具体的には、第1繊維基材12と第2繊維基材20と隙間充填部材30とを含む繊維構造体11を図示しない金型のキャビティに配置する。金型のキャビティに、溶融したマトリックス樹脂Maを注入し、繊維構造体11にマトリックス樹脂Maを含浸させる。このとき、溶融したマトリックス樹脂Maの温度によりカバーリング糸32が溶融する。
【0043】
マトリックス樹脂Maは、繊維構造体11の経糸T、緯糸R、層間結合糸の連続繊維同士の間に含浸していくとともに、隙間充填部材30の非連続繊維H同士の間に含浸していく。その後、マトリックス樹脂Maが硬化することで繊維強化複合材10が形成される。
【0044】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)繊維構造体11の隙間Sに充填された隙間充填部材30は、非連続繊維Hの繊維束であることから紐状である。このため、例えば、不織布を分岐部18に配置する場合と比べると、扱いやすく、しかも、不織布のように分岐部18の形状に整形する必要もないため、隙間充填部材30を分岐部18に配置する作業が簡単である。
【0045】
そして、繊維強化複合材10において、隙間Sの周囲は非連続繊維Hによって補強される。隙間Sに充填される隙間充填部材30の本数を調整するだけで、隙間Sに充填される非連続繊維Hの量を、補強に適した量に調整できる。このため、例えば、隙間Sの周囲を補強するために、複数種類の補強用の材料を準備したり、隙間Sの形状に倣う補強部材を製造したりする場合と比べると、繊維強化複合材10における隙間Sの周囲を補強するために必要な作業を簡単に行うことができる。
【0046】
(2)隙間充填部材30は、非連続繊維Hの繊維束である。例えば、連続繊維を引き揃えた繊維束と比べると非連続繊維H同士の間が開きやすく、マトリックス樹脂Maを含浸させやすくなる。このため、繊維構造体11を強化基材とした繊維強化複合材10においては、隙間充填部材30の非連続繊維H同士の間にマトリックス樹脂Maが十分に浸透し、樹脂リッチな部分が形成されることを抑制でき、繊維強化複合材10における隙間Sの周囲を補強できる。
【0047】
(4)隙間充填部材30の本数は、隙間Sでの繊維体積含有率Vfが、第1繊維基材12及び第2繊維基材20の繊維体積含有率Vf以下となるように調整される。このため、隙間Sにおける繊維体積含有率Vfが高くなりすぎず、繊維強化複合材10の製造時、隙間Sの隙間充填部材30にマトリックス樹脂Maが含浸し難くなることを抑制できる。
【0048】
(5)隙間充填部材30の軸方向への寸法は、奥行方向Yへの隙間Sの寸法の60%以上である。このため、隙間充填部材30の非連続繊維Hが奥行方向Yに延びるように配向され、繊維強化複合材10において、隙間充填部材30によって隙間Sにおける奥行方向Yへの強度を確保できる。
【0049】
(6)隙間充填部材30は、非連続繊維H製の撚糸31をカバーリング糸32で形状保持したものである。このため、分岐部18に隙間充填部材30を配置するときに、非連続繊維Hがばらけることを抑制でき、分岐部18への隙間充填部材30の配置が容易である。
【0050】
(7)分岐部18に配置される隙間充填部材30は紐状である。このため、分岐部18には、当該分岐部18の奥行方向Yに隙間充填部材30の軸方向を沿わせて配置する。よって、第1繊維基材12の分岐部18といった狭い部分であっても隙間充填部材30を配置しやすい。
【0051】
(8)隙間充填部材30は、非連続繊維Hの長手を隙間充填部材30の軸方向に延びるように揃えた繊維束であり、非連続繊維Hの配向がランダムな不織布とは異なる。このため、繊維強化複合材10の製造時、隙間Sの隙間充填部材30がマトリックス樹脂Maの注入圧力によって隙間Sから流出することを抑制できる。
【0052】
(9)繊維構造体11の隙間Sの大きさは、繊維強化複合材10の大きさ、形状によって異なる。隙間充填部材30は紐状であり、隙間充填部材30の本数を調整するだけで、隙間Sの大きさ、形状に合わせて隙間充填部材30を充填できる。よって、隙間Sの大きさ、形状に合わせた充填部材を製造する必要がなく、隙間Sの周囲を補強するための作業が容易となる。
【0053】
(10)隙間充填部材30の繊維体積含有率Vfは予め把握できるため、隙間充填部材30の本数を調整することで隙間Sにおける繊維体積含有率Vfの調整がしやすい。
(11)隙間充填部材30は非連続繊維Hの繊維束であり、嵩高である。このため、分岐部18に隙間充填部材30を配置するとき、隙間充填部材30を積み重ねても、隙間充填部材30同士の間、ひいては各隙間充填部材30の非連続繊維H同士の間が開いた状態を確保できる。このため、隙間充填部材30においてもマトリックス樹脂Maを含浸させることができる。
【0054】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
図7に示すように、隙間充填部材40は、芯糸41と、芯糸41を覆う被覆層42と、被覆層42に捲回されたカバーリング糸43と、を有する構成であってもよい。芯糸41は、連続繊維を撚って形成された撚糸である。被覆層42は、非連続繊維Hからなる撚糸である。
【0055】
このように構成した場合、隙間充填部材40は、連続繊維製の芯糸41を備えるため、芯糸41によって隙間充填部材40の直進性を持たせた形状を維持しやすく、分岐部18への隙間充填部材40の配置が行いやすい。
【0056】
○ 繊維構造体11は、断面T形状の第1繊維基材12と、断面T形状の第2繊維基材20とを一体化して形成してもよく、この場合、第1繊維基材12と第2繊維基材20は分岐部18同士を向き合わせて一体化され、隙間Sは、積層方向Zに沿う断面がほぼ四角形状になる。
【0057】
○ 隙間充填部材30の全長は、分岐部18の奥行方向Yへの寸法より短くてもよい。この場合、隙間充填部材30を糸主軸方向に繋ぎ合わせて分岐部18の奥行方向Y全体に亘って隙間充填部材30を配置する。
【0058】
○ 隙間充填部材30の全長は、分岐部18の奥行方向Yへの寸法より長くてもよい。この場合、分岐部18から奥行方向Yに飛び出した部分を切除して、分岐部18の奥行方向Y全体に亘って隙間充填部材30を配置する。
【0059】
○ 隙間充填部材30は、カバーリング糸32を備えず、非連続繊維Hを撚っただけの構成としてもよい。
○ 隙間充填部材30は、非連続繊維Hの無撚糸であってもよい。
【0060】
○ 実施形態では、分岐部18を、一対のL形繊維体13を一体化して形成したが、一枚の繊維体を二股状に分岐させて分岐部18を形成してもよい。
○ マトリックス樹脂Maとして熱硬化性樹脂を用いたが、その他の種類の樹脂を用いてもよい。
【0061】
○ マトリックス材料はマトリックス樹脂Ma以外にもセラミックでもよい。
○ 第1繊維基材12及び第2繊維基材20において、積層する繊維層の数は任意に変更してもよい。
【0062】
○ 第2繊維基材20を、平織り、綾織り、繻子織りして形成された単層織物1枚で構成してもよい。
【符号の説明】
【0063】
H…非連続繊維、Ma…マトリックス材料としてのマトリックス樹脂、S…隙間、Y…奥行方向、Z…積層方向、Vf…繊維体積含有率、10…繊維強化複合材、11…繊維構造体、11a…本体部、12…第1繊維基材、13a,20a…繊維層としての経糸層、13b,20b…繊維層としての緯糸層、18…分岐部、20…第2繊維基材、30,40…隙間充填部材、41…芯糸、42…被覆層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7