(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230801BHJP
C22C 38/28 20060101ALI20230801BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20230801BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230801BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C22C38/54
C21D9/46 R
B21B1/22 H
(21)【出願番号】P 2019160137
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2021-04-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】石井 知洋
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 光幸
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-061354(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133837(WO,A1)
【文献】特開2016-196019(JP,A)
【文献】特開平07-188862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46-9/48
B21B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の算術平均高さSaが0.20μm以上1.50μm以下であり、表面の凹部面積率が
(162/5.6)%以上70%以下であり、かつ、前記算術平均高さSa(μm)と前記凹部面積率(%)が下記式(1)の関係をみたし、
かつ、表面の展開面積比Sdrが0.04以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
451-126×Sa-5.6×凹部面積率 ≦ 100 ・・・(1)
【請求項2】
質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.01~0.60%、
Mn:0.01~0.60%、
P:0.05%以下、
S:0.01%以下、
Cr:16.0~35.0%、
N:0.001~0.030%、および、
TiおよびNbのうちの少なくとも1種を、TiおよびNbの合計の含有量が4([%C]+[%N])以上1.00%以下を満たすように含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
ただし、前記[%C]、[%N]は、それぞれC、Nの含有量(質量%)である。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ni:0~3.0%、
Mo:0~3.0%、
Cu:0~1.0%、
W:0~1.0%、
Co:0~0.5%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
前記組成に加えてさらに、質量%で、
Zr:0~1.0%、
V:0~1.0%、
Al:0~0.5%、
REM:0~0.1%、
B:0~0.01%の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2または3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
フェライト系ステンレス鋼冷延板に、表面に凹凸を有し、表面粗度Raが0.60~1.80μm、凸部の頂点の数密度が15~80個/mm
2であるダルロールを用いて、
1パスの圧下率が0.1~0.5%の圧延を3~20パス実施する調質圧延を施すことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関し、特に、屋根や建築物の外装など美観と意匠性の求められる用途に好適な低光沢かつ低白色なフェライト系ステンレス鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、長期間金属光沢を保った美麗な外観を維持できることから、屋根や建築物の外装材として使用されてきた。しかしながら、一部用途においては、ステンレス鋼表面での過度な日光の反射が人間の目を眩ませ問題となる場合があった。そのため、従来から防眩性を向上させたステンレス鋼板は多数発明されてきた。
【0003】
防眩性の向上には表面の粗さを増加させることが有効であることが従来から知られている。たとえば、特許文献1には、フェライト系ステンレス鋼板の表面に、最大粗さRmax:10μm以下の表層部が形成されており、前記表層部にある1μm以上の差をもつ凹凸の個数が単位長さ当り10個/mm以上である耐食性、防眩性及び加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼板が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、フェライト系ステンレス鋼帯において、酸化性雰囲気で焼鈍し、ソルト処理後、硝弗酸中で酸洗することにより、原子間力顕微鏡で測定した表面粗さを2次元フーリエ変換し、可視光域350~750nmの波長成分のスペクトル密度Pが、log10P≧2.1である、防眩性に優れた高耐銹性フェライト系ステンレス鋼板を得る技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの発明に基づいて光沢度を抑えた場合、白色度が増加し、ステンレス鋼板表面の金属感が失われるという美観上の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-188862号公報
【文献】特開平9-291382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように光沢度を抑えようと表面の粗さを増大させると、それに伴い白色度が増加し、ステンレス鋼本来の金属感が失われるという問題があった。また、表面酸化皮膜を制御して光沢度を抑える方法も検討されているが、ステンレス鋼本来の白色に近い色味から黄色や青といった方向に色彩の変化が起こる場合があった。
【0008】
これらの問題に鑑み、本発明では、低光沢かつ低白色なフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記フェライト系ステンレス鋼板の好適な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記材料に発生する課題を解決するために、フェライト系ステンレス鋼板の表面形態と光沢度、白色度の関係について鋭意検討を行った。その結果、白色度は表面の展開面積比Sdr(ISO25178)に相関し、光沢度は面粗さパラメータの一つである表面の算術平均高さSa(ISO25178)と基準面からの深さが0.5μm以上の領域の面積率(凹部面積率)に相関することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は下記の構成を要旨とするものである。
【0010】
[1]表面の算術平均高さSa(μm)と凹部面積率(%)が下記式(1)の関係をみたし、かつ、表面の展開面積比Sdrが0.04以下であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板。
451-126×Sa-5.6×凹部面積率 ≦ 100 ・・・(1)
[2]質量%で、
C:0.001~0.030%、
Si:0.01~0.60%、
Mn:0.01~0.60%、
P:0.05%以下、
S:0.01%以下、
Cr:16.0~35.0%、
N:0.001~0.030%、および、
TiおよびNbのうちの少なくとも1種を、TiおよびNbの合計の含有量が4([%C]+[%N])以上1.00%以下を満たすように含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
ただし、前記[%C]、[%N]は、それぞれC、Nの含有量(質量%)である。
[3]前記組成に加えてさらに、質量%で、
Ni:0~3.0%、
Mo:0~3.0%、
Cu:0~1.0%、
W:0~1.0%、
Co:0~0.5%の1種または2種以上を含有することを特徴とする[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4]前記組成に加えてさらに、質量%で、
Zr:0~1.0%、
V:0~1.0%、
Al:0~0.5%、
REM:0~0.1%、
B:0~0.01%の1種または2種以上を含有することを特徴とする[2]または[3]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
フェライト系ステンレス鋼冷延板に、表面に凹凸を有し、表面粗度Raが0.60~1.80μm、凸部の頂点の数密度が15~80個/mm2であるダルロールを用いて、
1パスの圧下率が0.1~0.5%の圧延を3~20パス実施する調質圧延を施すことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低光沢かつ低白色なフェライト系ステンレス鋼板が得られる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、屋根や建築物外装材に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
表面の算術平均高さSa(μm)と凹部面積率(%)が下記式(1)の関係をみたす。
451-126×Sa-5.6×凹部面積率 ≦ 100 ・・・(1)
フェライト系ステンレス鋼の光沢度は表面の粗さによって変化する。本発明では、ダルロールを用いた調質圧延(ダル圧延)による表面形態の制御を試み、表面粗さと光沢度の関係について詳細な検討を行った。その結果、ダル圧延によって形成された凹部面積率とISO25178で規定される算術平均高さSaの関係式(1L)
451-126×Sa-5.6×凹部面積率 ・・・(1L)
によってステンレス鋼板表面の光沢度が評価できることを本発明では見出した。ここで、凹部面積率は、凹部(ダル圧延前の圧延によって形成された圧延目の残る表面(基準面)より0.5μm以上低い領域(基準面からの深さが0.5μm以上の領域))の面積率である。この関係式(1L)が100以下になると光沢度の少ない良好な表面が得られる。よって、本発明では、451-126×Sa-5.6×凹部面積率 ≦ 100とした。好ましくは、関係式(1L)は80以下である。なお、凹部面積率(%)[(鋼板表面の凹部の面積/鋼板表面の表面積)×100]は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0014】
表面の算術平均高さSaは、特に限定されないが、0.20μm以上が好ましい。また、表面の算術平均高さSaは、特に限定されないが、1.50μm以下が好ましい。表面の凹部面積率は、特に限定されないが、20%以上が好ましい。また、表面の凹部面積率は、特に限定されないが、70%以下が好ましい。
【0015】
Sdr≦0.04
通常、ステンレス鋼板は、表面の光沢度が高いと表面は黒っぽく見え、白色度の低い金属感のある良好な表面が得られる。ステンレス鋼板表面の白色は、入射光が表面の細かな凹凸によって乱反射し生成される色である。したがって、表面に細かい凹凸が増えて乱反射の量が増加すると白色度は増加する。ステンレス鋼板表面の凹凸の評価には各種の指標があるが、本発明では、ISO25178で規定される展開面積比Sdrがステンレス鋼板表面の白色度とよい相関があることを見出した。ステンレス鋼板表面の白色度は、表面の展開面積比Sdrの増加にともない増加し、Sdrが0.04を超えると白色度の増加が顕著となった。よって、Sdrは0.04以下とした。好ましくは、Sdrは0.03以下である。
【0016】
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の有する好ましい成分組成について説明する。なお、各元素の含有量を示す「%」は、特に断らない限り質量%を意味する。
【0017】
C:0.001~0.030%
Cは、鋼に不可避的に含まれる元素である。Cの含有量が多いと強度が向上し、少ないと加工性が向上する。屋根材として使用するのに適度な強度を得るためには、C含有量は0.001%以上が好ましい。一方で、過剰のCの含有は耐食性の低下が顕著となるため、C含有量は0.030%以下が好ましい。よって、Cの含有量は0.001~0.030%が好ましい。より好ましくは、C含有量は0.002%以上である。また、より好ましくは、C含有量は0.020%以下である。
【0018】
Si:0.01~0.60%
Siは、脱酸に有用な元素であり、その効果は0.01%以上の含有で得られる。しかし、Siの含有量が0.60%を超えると、表層の酸化皮膜が生成しやすくなり、鋼板表面に色味が出やすくなる。よって、Si含有量は0.01~0.60%が好ましい。より好ましくは、Si含有量は0.05%以上である。また、より好ましくは、Si含有量は0.30%以下である。
【0019】
Mn:0.01~0.60%
Mnは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、強度を高める効果がある。その効果は0.01%以上の含有で得られる。一方、過剰のMnの含有はMnSの生成を促進して耐食性を低下させる。したがって、Mn含有量は0.60%以下が好ましい。よって、Mn含有量は0.01~0.60%が好ましい。より好ましくは、Mn含有量は0.03%以上である。また、より好ましくは、Mn含有量は0.40%以下である。
【0020】
P:0.05%以下
Pは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、ステンレス鋼の耐食性を低下させる元素である。よって、P含有量は少ないほど好ましく、P含有量は0.05%以下が好ましい。より好ましくは、P含有量は0.03%以下である。
【0021】
S:0.01%以下
Sは、鋼に不可避的に含まれる元素である。S含有量が0.01%超であるとCaSやMnSなどの水溶性硫化物の形成が促進され耐食性を低下させる。よって、S含有量は0.01%以下が好ましい。
【0022】
Cr:16.0~35.0%
Crは、フェライト系ステンレス鋼の優れた耐食性を発揮するためには必須の元素である。屋根材として良好な耐食性を得るためには16.0%以上のCrを含有することが好ましい。一方で、Cr含有量が35.0%超であると加工性が低下し、屋根の成形が困難となる。よって、Cr含有量は16.0~35.0%が好ましい。より好ましくは、Cr含有量は18.0%以上である。また、より好ましくは、Cr含有量は31.0%以下である。
【0023】
N:0.001~0.030%
Nは、Cと同様に鋼に不可避的に含まれる元素であり、固溶強化により鋼の強度を上昇させる効果がある。その効果はN含有量が0.001%以上で得られる。しかし、N含有量が0.030%を超えると加工性の低下が顕著となる。よって、N含有量は0.001~0.030%が好ましい。より好ましくは、N含有量は0.002%以上である。また、より好ましくは、N含有量は0.020%以下である。
【0024】
TiおよびNbのうちの少なくとも1種を含有し、かつ、TiおよびNbの合計の含有量が4([%C]+[%N])以上1.00%以下
TiおよびNbはいずれも、CおよびNと優先的に結合して、Cr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素である。そのため、TiおよびNbのうちの1種または2種を含有させたうえで、その含有量を4([%C]+[%N])以上とすることが好ましい。一方、TiおよびNbの合計の含有量が1.00%を超えると、靭性の低下を招くおそれがある。よって、TiおよびNbのうちの少なくとも1種を含有させ、かつ、TiおよびNbの合計の含有量は4([%C]+[%N])以上1.00%以下とすることが好ましい。TiおよびNbの合計の含有量は、より好ましくは0.50%以下である。なお、上記[%C]、[%N]は、それぞれC、Nの含有量(質量%)である。
【0025】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、上記成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有することが好ましい。
【0026】
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、上記組成に加えて、下記の成分を1種または2種以上含有することができる。
【0027】
Ni:0~3.0%
Niは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、不動態皮膜が形成できず活性溶解が起こる腐食環境において腐食の進行を抑制する元素である。しかし、3.0%超の含有では、応力腐食割れの感受性が増して腐食による損傷リスクが増大する。よって、Niの含有量は0~3.0%が好ましい。より好ましくは、Ni含有量は0.01%以上である。また、より好ましくは、Ni含有量は0.6%以下である。
【0028】
Mo:0~3.0%
Moは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、不動態皮膜の形成促進や安定性向上の効果がある。しかし、3.0%超の含有では、材料強度が高くなりすぎ、加工性が低下する。よって、Mo含有量は0~3.0%が好ましい。より好ましくは、Mo含有量は0.01%以上である。また、より好ましくは、Mo含有量は0.5%以下である。
【0029】
Cu:0~1.0%
Cuは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。特に大気環境における初期発銹を軽減する効果がある。しかし、1.0%超の含有は粗大なε-Cuの生成を引き起こし、耐食性を低下させる。よって、Cu含有量は0~1.0%が好ましい。より好ましくは、Cu含有量は0.01%以上である。また、より好ましくは、Cu含有量は0.6%以下である。
【0030】
W:0~1.0%
Wは、Moと同様に耐食性を向上する効果がある。しかし、過剰の含有は強度を上昇させ、加工性を低下させる。よって、W含有量は0~1.0%が好ましい。
【0031】
Co:0~0.5%
Coは、鋼の靭性を向上させる元素である。しかし、0.5%を超えて含有させると加工性が低下する。よって、Co含有量は0~0.5%が好ましい。
【0032】
Zr:0~1.0%
Zrは、C、Nと結合して鋭敏化を抑制する効果がある。しかし、過剰の含有は加工性を低下させるうえ、非常に高価な元素であるためコストの増大を招く。よって、Zrの含有量は0~1.0%が好ましい。
【0033】
V:0~1.0%
Vは、VNを形成することでCr窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する元素である。しかし、1.0%を超える過剰な含有は、加工性が低下する。よって、V含有量は0~1.0%が好ましい。より好ましくは、V含有量は0.01%以上である。また、より好ましくは、V含有量は0.3%以下である。
【0034】
Al:0~0.5%
Alは、脱酸に有用な元素である。しかし、Alの含有量が0.5%超であるとフェライト結晶粒径が増大しやすくなり、加工部の肌荒れを悪化させる。よって、Al含有量は0~0.5%が好ましい。より好ましくは、Al含有量は0.01%以上である。また、より好ましくは、Al含有量は0.12%以下である。
【0035】
REM:0~0.1%
REM(希土類金属:Rare Earth Metals)は、耐酸化性を向上する元素である。しかし、過剰の含有は酸洗性などの製造性を低下させるうえ、コストの増大を招く。よってREM含有量は0~0.1%が好ましい。
【0036】
B:0~0.01%
Bは、二次加工脆性を改善する元素である。しかし、過剰のBの含有は、固溶強化による加工性低下を引き起こす。よって、B含有量は0~0.01%が好ましい。
【0037】
次に、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の好適な製造方法の一例を以下に示す。
上記の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延して熱延板とし、該熱延板に必要に応じて熱延板焼鈍、酸洗を施し、その後、該熱延板に冷間圧延を施し、必要に応じて冷延板焼鈍を施して、所望板厚のフェライト系ステンレス鋼冷延板とする。
なお、熱間圧延、冷間圧延、熱延板焼鈍、冷延板焼鈍などの条件は特に限定されず、常法に従えばよい。また、冷延板焼鈍後に酸洗してもよい。また、冷延板焼鈍を、光輝焼鈍とすることもできる。ただし、フェライト系ステンレス鋼板の色味を抑制する点からは、光輝焼鈍を行わない方が好ましい。
【0038】
上記のようにして得たフェライト系ステンレス鋼冷延板に、表面に凹凸(凹凸部)を有するダルロールを用いた調質圧延(ダル圧延)を施す。この際、調質圧延に使用するダルロールとして、表面粗度Raが0.60~1.80μm、凸部の頂点の数密度が15~80個/mm2である表面形状を有するダルロールを用いることが好適である。このようなダルロール表面は、ショットブラストや放電加工により成形できる。このダルロールを用いて、1パスの圧下率が0.1~0.5%の圧延を3~20パス行う。調質圧延の圧下率は合計で1.0~3.0%が好適である。フェライト系ステンレス鋼冷延板にこのような調質圧延を施すことによって、ダルロールのダル目が十分に転写され、かつ、白色の原因となる細かな凹凸の少ない、上述したような表面の算術平均高さSaと凹部面積率が所定の式(1)の関係を満たし、かつ、所定の展開面積比Sdrを有するフェライト系ステンレス鋼板が得られる。
【0039】
なお、ダルロールの表面粗度Raは、JIS B 0601-2001に規定される算術平均粗さを意味する。また、本発明においてダルロールの表面粗度Raは、ロール軸方向の算術平均粗さである。また、ダルロールの表面の凸部の頂点の数密度は、ダルロールの表面をレーザー顕微鏡(キーエンス製 VK-X250)を用いて、1mm2の範囲の3次元形状測定を行い凸部の頂点の数を測定した。測定時のパスフィルタはローパス側が2.5μm、ハイパス側が0.8mmとした。測定値は任意に選択した5か所の平均とした。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
表1に示す成分組成のステンレス鋼を実験室において真空溶製し、分解圧延、熱間圧延を行い板厚3.0mmの熱延板を作製した。得られた熱延板に950~1100℃の温度で焼鈍し酸洗を行い、スケールを除去した。その後、板厚1.0mmまで冷間圧延を行い、100%Ar、露点-40℃の雰囲気において900~1050℃の温度で冷延板焼鈍を行った。冷延板焼鈍後には60℃の3質量%HF-18質量%HNO3水溶液へ90s浸漬した後、10質量%HNO3水溶液中で電解処理を行う酸洗を行った。このようにして得たフェライト系ステンレス鋼冷延板に、表2に示す調質圧延条件でダル圧延を行い、フェライト系ステンレス鋼板(供試材)とした。
【0041】
得られた供試材の表面をレーザー顕微鏡(キーエンス製 VK-X250)を用いて、1mm2の範囲の3次元形状測定を行い、算術平均高さSa、凹部面積率、展開面積比Sdrを測定した。測定時のパスフィルタはローパス側が2.5μm、ハイパス側が0.8mmとした。算術平均高さSa、展開面積比Sdrの測定方法はISO25178に準拠した。凹部面積率は、ダルロールを用いた調質圧延前の圧延目(圧延跡)が残る基準面から0.5μm以上凹んだ領域(凹部)の面積率とした(凹部面積率(%)=[供試材表面の凹部の面積/供試材表面の表面積]×100)。測定値は任意に選択した5か所の平均とした。結果を表2に示す。
【0042】
光沢度計(コニカミノルタ製 GM268plus)を用いてJIS Z 8741で規定される光沢度Gs(20°)を測定した。結果を表2に示す。光沢度Gs(20°)が100以下を良好(低光沢)とした。本発明例であるNo.1~9と比較例であるNo.11では光沢度Gs(20°)が100以下であり、低光沢で、良好な防眩性が得られた。一方、式(1L)の値が100超となり所定の式(1)を満たさない比較例No.10では光沢度Gs(20°)が100超となり、良好な防眩性が得られなかった。
【0043】
分光測色計(コニカミノルタ製CM-600d)を用いてJIS Z 8781で規定されるL*、a*、b*を測定した。結果を表2に示す。L*が68未満を良好(低白色)とした。a*、b*についてはいずれも-0.70~0.70を良好(色味無し)とした。本発明例であるNo.1~9および比較例であるNo.10ではL*が67以下となり、良好な低白色表面が得られた。一方で、展開面積比Sdrが0.04超であった比較例No.11ではL*が68以上となり白色度が高かった。以上の結果から、本発明例では、光沢度、白色度がともに低く良好な表面が得られた。さらに色味の無い良好な表面が得られた。
【0044】
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、屋根や建築物外装材に用いるのに好適な低光沢かつ低白色なフェライト系ステンレス鋼板が得られる。