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特許7322656メンテナンススケジュール作成プログラム、メンテナンススケジュール作成方法、及びメンテナンススケジュール作成装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】メンテナンススケジュール作成プログラム、メンテナンススケジュール作成方法、及びメンテナンススケジュール作成装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20230801BHJP
   G06Q 10/20 20230101ALI20230801BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q10/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019189431
(22)【出願日】2019-10-16
(65)【公開番号】P2021064255
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100189201
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 功
(72)【発明者】
【氏名】小林 左千夫
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 丈夫
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-285948(JP,A)
【文献】特許第2978778(JP,B2)
【文献】特開2010-282353(JP,A)
【文献】特開2009-205387(JP,A)
【文献】特開平08-339400(JP,A)
【文献】特開2002-330541(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003879(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 10/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成するコンピュータに、
前記複数の設備を利用するプロセスの各工程と、前記各工程間の相互関係と、前記各工程の処理能力とを定義する第1情報に基づき、設備停止のない状態での前記プロセスの第1処理能力を取得する第1の処理と
前記第1情報に基づき、前記複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態での前記プロセスの第2処理能力を取得して、前記第1処理能力及び前記第2処理能力に基づき、前記メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出して評価する第2の処理と
を実行させる、メンテナンススケジュール作成プログラムであって、
複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報に基づき、前記メンテナンススケジュールに含まれるメンテナンス作業のうち、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアについて、双方の日程を重ねることを制約として作成し、
複数の前記制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、前記第2の処理を繰り返し実行させることを特徴とする、メンテナンススケジュール作成プログラム。
【請求項2】
前記第2の処理は、
前記第1処理能力と前記第2処理能力との差分に基づき、前記プロセスの日ごとの機会損失コストを算出し、
前記日ごとの機会損失コストの総和に基づき、前記メンテナンスコストを算出する、
処理を含むことを特徴とする、請求項1に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【請求項3】
前記制約の作成は、
重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアであって、日程をずらして実行させる場合よりも機会損失コストが減少するメンテナンス作業のペアを複数抽出し、
前記抽出したペアごとに、双方の日程を重ねることを前記制約として生成する、
処理を含むことを特徴とする、請求項2に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【請求項4】
前記コンピュータに、
前記第1情報に基づき、前記プロセスを、前記各工程に流入又は流出する製品の数量を示すネットワーク図として表現し、
前記ネットワーク図に基づき、前記第1処理能力及び前記第2処理能力を取得する、
処理を実行させることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【請求項5】
前記コンピュータに、
前記ネットワーク図におけるいずれかの第1工程に流入又は流出する製品の数量を0とした場合に、流入又は流出する製品の数量が0となる第2工程が存在する場合であって、前記第1工程に対する第1メンテナンス作業と、前記第2工程に対する第2メンテナンス作業とが重なった日程で実施可能である場合に、前記第1及び第2メンテナンス作業のペアについて、双方の日程を重ねることを前記制約として作成する、
処理を実行させることを特徴とする、請求項4に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【請求項6】
前記コンピュータに、
前記メンテナンスコストが最小となる前記メンテナンススケジュールを特定し、
特定した前記メンテナンススケジュールの情報を出力する、
処理を実行させることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【請求項7】
複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成するコンピュータが、
前記複数の設備を利用するプロセスの各工程と、前記各工程間の相互関係と、前記各工程の処理能力とを定義する第1情報に基づき、設備停止のない状態での前記プロセスの第1処理能力を取得する第1の処理と
前記第1情報に基づき、前記複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態での前記プロセスの第2処理能力を取得して、前記第1処理能力及び前記第2処理能力に基づき、前記メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出して評価する第2の処理と
を実行する、メンテナンススケジュール作成方法であって、
複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報に基づき、前記メンテナンススケジュールに含まれるメンテナンス作業のうち、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアについて、双方の日程を重ねることを制約として作成し、
複数の前記制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、前記第2の処理を繰り返し実行させることを特徴とする、メンテナンススケジュール作成方法。
【請求項8】
複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成するメンテナンススケジュール作成装置であって、
前記複数の設備を利用するプロセスの各工程と、前記各工程間の相互関係と、前記各工程の処理能力とを定義する第1情報と、複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報と、を記憶する記憶部と、
前記第1情報に基づき、設備停止のない状態での前記プロセスの第1処理能力を取得する第1の処理を実行する第1処理部と、
前記第1情報に基づき、前記複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態での前記プロセスの第2処理能力を取得して、前記第1処理能力及び前記第2処理能力に基づき、前記メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出して評価する第2の処理を実行する第2処理部と、
複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報に基づき、前記メンテナンススケジュールに含まれるメンテナンス作業のうち、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアについて、双方の日程を重ねることを制約として作成する制約作成部と、
複数の前記制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、前記第2処理部に前記第2の処理を繰り返し実行させる実行部と、
を備えることを特徴とする、メンテナンススケジュール作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンススケジュール作成プログラム、メンテナンススケジュール作成方法、及びメンテナンススケジュール作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や発電所等のプラントでは、プラントに配置された複数の設備の各々に対して、長期的、及び/又は、周期的な保全作業が行なわれる。
【0003】
「設備」としては、例えば、機械、機器、配管等が挙げられる。「保全作業」とは、例えば、設備の点検、清掃、補修、交換、更新等の維持管理又は保守に係る作業である。保全作業は、「メンテナンス」と称されてもよい。
【0004】
保全作業の管理者は、複数の設備の各々について作業を実行可能な日程を事前に調整し、年単位の保全スケジュールを作成して、保全スケジュールに従って保全作業を実施することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-282353号公報
【文献】特開平9-285948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラントには、大小の設備が数多く存在することが多い。保全作業には、保全対象の設備ごとに複数の作業が存在するため、プラント全体の保全作業の総作業数や、作業ごとのスケジュールの組み合わせの数は膨大となる。
【0007】
従って、このようなプラントについて、管理者により、最適な(例えば保全コストが最小となる)スケジュールを容易に作成することは難しい。
【0008】
1つの側面では、本発明は、複数の設備が配置されたプラントにおけるメンテナンススケジュールを効率的に作成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの側面では、メンテナンススケジュール作成プログラムは、複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成するコンピュータに、以下の処理を実行させてよい。前記処理は、前記複数の設備を利用するプロセスの各工程と、前記各工程間の相互関係と、前記各工程の処理能力とを定義する第1情報に基づき、設備停止のない状態での前記プロセスの第1処理能力を取得する第1の処理と、前記第1情報に基づき、前記複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態での前記プロセスの第2処理能力を取得して、前記第1処理能力及び前記第2処理能力に基づき、前記メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出して評価する第2の処理と、を含んでよい。また、前記処理は、複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報に基づき、前記メンテナンススケジュールに含まれるメンテナンス作業のうち、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアについて、双方の日程を重ねることを制約として作成してよい。さらに、前記処理は、複数の前記制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、前記第2の処理を繰り返し実行させてよい。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、複数の設備が配置されたプラントにおけるメンテナンススケジュールを効率的に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】保全スケジュールの作成手法の比較例を示す図である。
図2】保全スケジュールの作成手法の比較例を示す図である。
図3】機会損失コストの算出例を示す図である。
図4】プラントの処理プロセスを、各工程間を流れる製品のネットワーク図として表現した例を示す図である。
図5】一実施形態に係る保全スケジュール作成装置の機能を実現するコンピュータのハードウェア構成例を示すブロック図である。
図6】一実施形態に係る保全スケジュール作成装置の機能構成例を示すブロック図である。
図7】処理プロセス情報の一例を示す図である。
図8】保全スケジュール情報の一例を示す図である。
図9】作成装置による保全スケジュールの作成に係る全体の動作例を示すフローチャートである。
図10】処理プロセス情報を、前工程から次工程に向かう矢印で工程間を繋いだ有向グラフとして可視化した図である。
図11図7に例示する処理プロセスのネットワーク図の一例を示す図である。
図12】ネットワーク図作成部による動作例を示すフローチャートである。
図13図11に示すネットワーク図の作成手法の一例を示す図である。
図14図11に示すネットワーク図の作成手法の一例を示す図である。
図15】最大処理能力計算部による動作例を示すフローチャートである。
図16図11に示すネットワーク図に基づく最大処理能力の計算手法の一例を示す図である。
図17図11に示すネットワーク図に基づく最大処理能力の計算手法の一例を示す図である。
図18】作業間制約作成部による収集処理の一例を示す図である。
図19】作業間制約作成部による実行可否確認処理の一例を示す図である。
図20】作業間制約の一例を示す図である。
図21】スケジュール作成部による保全スケジュールの作成処理の一例を示すフローチャートである。
図22】保全スケジュール作成手法の一例を示す図である。
図23】保全スケジュール作成手法の一例を示す図である。
図24】保全スケジュール作成手法の一例を示す図である。
図25】保全コスト決定部による保全コストの決定処理の一例を示すフローチャートである。
図26】日々の処理能力の計算手法の一例を示す図である。
図27】保全スケジュール及び保全コストの作成結果の表示例を示す図である。
図28】作成装置と、端末とを備えるシステムの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。なお、以下の実施形態で用いる図面において、同一符号を付した部分は、特に断らない限り、同一若しくは同様の部分を表す。
【0013】
〔1〕一実施形態
〔1-1〕保全スケジュールの作成について
図1及び図2は、保全スケジュールの作成手法の比較例を示す図である。図1に示すように、管理者は、比較例において、設備の保全作業100における作業ごとに作業の日程調整を行ない、保全スケジュール200を作成する。日程調整では、管理者は、例えば、作業の実行期間(締切日)、作業日数、対象設備、作業の担当者、保全作業に使用する使用機器、等に関する制約(条件)を考慮する。
【0014】
一例として、管理者は、図2に示すように、設備及び作業ごとに決めた周期に基づいて仮スケジュールを作成し、制約充足チェックと、コスト評価とを行ないながら日程調整を行なう。そして、管理者は、制約を満たし且つ保全コストが小さくなるような作業の開始日を決定することで、保全スケジュール200を作成する。
【0015】
制約には、例えば、指定された実行期間内に作業を実行すること、担当者が同時に実行できる作業が1個であること、重機等の使用機器の個数に上限があること、等が挙げられる。
【0016】
保全コストには、例えば、部材費や人件費等の保全日に依存しない作業のコスト、部材の残存価値(簿価)等の保全日に依存する作業のコスト、及び、作業の組み合わせで決まる機会損失のコスト、が含まれてよい。
【0017】
しかし、上述のように、大小の設備が数多く配置されたプラントの保全スケジュールを作成する場合、スケジュールの組み合わせの数は膨大であるため、制約を満たしながら、保全コストが小さくなるようなスケジュールを作成することは難しい。例えば、熟練者である管理者が、経験と知見に基づいて保全スケジュールを作成する場合であっても、作業数が多くなるほど作成の難易度は高まり、時間もかかるため、人手では、保全コストを最小化するスケジュールを特定することは困難である。
【0018】
また、数理最適化等のアルゴリズムによってスケジュールを自動生成する手法も考えられるが、当該手法を機会損失コストに基づく保全スケジュール作成に適用する場合、以下の不都合がある。
【0019】
(a)機会損失コストは、単純な数式や関数として表現することができないため、機会損失コストを適切に算出することが困難である。
【0020】
(b)作業数が多いほど作業の組み合わせの探索範囲が広くなるため、最適化の処理時間が大きくなり、また、局所最適な結果しか得られない。
【0021】
そこで、一実施形態では、保全スケジュールを効率的に作成する手法の一例として、短時間に保全コストの小さいスケジュール作成を可能とする手法を説明する。
【0022】
〔1-2〕一実施形態の説明
まず、機会損失コストについて説明する。図3は、機会損失コストの算出例を示す図である。図3に例示するように、機会損失コストは、正常時の製造プロセス及び生産量を示すモデル300(図3の左上参照)に基づき、1以上の設備を停止させた場合の生産量をシミュレートすることで取得されてよい。
【0023】
図3の例では、1以上の設備として、機械B1を停止させた場合(図3の左下参照)、機械Cを停止させた場合(図3の右上参照)、及び、機械B2及びCを停止させた場合(図3の右下参照)、のそれぞれの生産量が算出される。機会損失コストは、このモデル300の(正常時の)生産量、設備を停止させた場合の生産量、設備の停止期間等に基づき算出可能である。なお、図3に示す生産量は、所定期間(例えば1日、1時間、1分等)の最大生産量を示す。
【0024】
図3に例示するように、設備停止に起因する機会損失コストは、処理プロセスや設備の生産能力に加え、同時に停止する設備の組み合わせにも依存する。機会損失コストを小さくするには、設備停止の影響範囲が重なる複数の保全作業を、重なる日程で処理することが有効である。
【0025】
上述のように、プラントの規模(設備の数)が大きいほど、作業の組み合わせは膨大となる。また、機会損失コストを計算するには、図2に例示するように、設備や作業ごとのコストを計算して総和を取る手法では不十分であり、また、手間(時間)もかかる。
【0026】
そこで、一実施形態に係る作成装置は、プラントの処理プロセスと、各工程間を流れる製品との関係に着目して、保全スケジュールを作成する。以下、作成装置を単に「作成装置」と表記する場合がある。
【0027】
図4は、プラントの処理プロセスを、各工程間を流れる製品のネットワーク図NEとして表現した例を示す図である。以下、便宜上、作成装置が、プラントの処理プロセスと各工程間を流れる製品との関係を示す情報の一例として、ネットワーク図NEを作成するものとして説明するが、これに限定されるものではない。
【0028】
一実施形態において、ネットワーク図NEは必須ではなく、例えば、作成装置は、ネットワーク図NEに代えて、上記関係を示すテーブル、DB(Database)、配列等の種々の情報を利用又は作成してもよい。
【0029】
ネットワーク図NEは、プラントの処理プロセスの開始「s」及び終了「e」の間に、各「工程」をノードNDとして配置し、ノードND間を矢印で接続した図である。矢印は、工程間の製品の流れを示す。なお、図4の上段に示すネットワーク図NEでは、矢印の上に、各工程で処理可能な処理量の一例を示す。
【0030】
「工程」は、処理プロセスを細分化した1つの処理であり、「手順」と称されてもよい。「工程」では、1以上の設備が使用されてよい。設備は、「工程」間で重複して使用されてもよい。保全作業では、各「工程」につき1以上の作業が行なわれてよい。
【0031】
一実施形態において、作成装置は、図4の左側に例示するように、ネットワーク図NEを用いて機会損失コストを計算してよい。図4の左中段に示すネットワーク図NEでは、矢印の上に、上流から下流に製品が流れる場合の各工程の最大流量の一例を示す。図4の左下段には、工程C1の保全作業を実施する場合を想定し、工程C1において流入及び流出する処理量(製品の数量)を“0”に設定した場合の各工程の処理量の一例を示す。図4の左中段から左下段にかけて、処理量が“20”から“10”に減少することがわかる。
【0032】
また、一実施形態において、作成装置は、図4の右側に例示するように、ネットワーク図NEを用いて、機会損失コストを削減するための制約を生成してよい。図4の右中段に例示するように、設備“EQ04-1”を使用する工程C1を停止させる場合、設備“EQ05”を使用する工程D1における製品の流量も“0”となる。このため、工程D1は、工程C1と日程が重なるように作業するとよい工程である、換言すれば、機会損失コストの削減に有効であることがわかる。このような制約を利用することにより、保全スケジュールの最適化計算において良い解を短時間に得ることができる。
【0033】
そこで、作成装置は、図4の右下段に例示するように、単独実行される複数の作業の日程が互いに重なるような制約を適宜追加することで、保全スケジュール特有の性質を利用した、最適化計算を実施することができる。
【0034】
このように、一実施形態に係る作成装置は、ネットワーク図NEに示すような関係に基づき、図4の左側に例示するように、保全作業を実施する場合の処理量の変化から、機会損失コストを計算し、スケジュールを評価する。
【0035】
また、作成装置は、図4の右側に例示するように、重なる日程で実行するとよい作業のペアを見つけて最適化における制約(作業間制約)とし、制約を適宜有効化することで、解探索空間を良い解の存在する領域に限定することができる。これにより、計算量の削減、及び、解品質の向上を図ることができる。
【0036】
〔1-3〕一実施形態の構成例
作成装置は、情報処理装置、例えばサーバやPC(Personal Computer)等のコンピュータとして構成されてよい。作成装置は、例えば、仮想サーバ(VM;Virtual Machine)であってもよいし、物理サーバであってもよい。また、作成装置の機能は、1台のコンピュータにより実現されてもよいし、2台以上のコンピュータにより実現されてもよい。
【0037】
作成装置は、プラントやデータセンタ等に設置され、いわゆるオンプレミスとして運用されてもよい。また、作成装置の機能のうちの少なくとも一部は、クラウド環境において提供されるHW(Hardware)リソース及びNW(Network)リソースを用いて実現されてもよい。
【0038】
〔1-3-1〕ハードウェア構成例
図5は、作成装置の機能を実現するコンピュータ10のHW構成例を示すブロック図である。作成装置の機能を実現するHWリソースとして、複数のコンピュータが用いられる場合は、各コンピュータが図5に例示するHW構成を備えてよい。
【0039】
図5に示すように、コンピュータ10は、HW構成として、例示的に、プロセッサ10a、メモリ10b、記憶部10c、IF(Interface)部10d、I/O(Input / Output)部10e、及び読取部10fを備えてよい。
【0040】
プロセッサ10aは、種々の制御や演算を行なう演算処理装置の一例である。プロセッサ10aは、コンピュータ10内の各ブロックとバス10iで相互に通信可能に接続されてよい。なお、プロセッサ10aは、複数のプロセッサを含むマルチプロセッサであってもよいし、複数のプロセッサコアを有するマルチコアプロセッサであってもよく、或いは、マルチコアプロセッサを複数有する構成であってもよい。
【0041】
プロセッサ10aとしては、例えば、CPU、MPU、GPU、APU、DSP、ASIC、FPGA等の集積回路(IC;Integrated Circuit)が挙げられる。なお、プロセッサ10aとして、これらの集積回路の2以上の組み合わせが用いられてもよい。CPUはCentral Processing Unitの略称であり、MPUはMicro Processing Unitの略称である。GPUはGraphics Processing Unitの略称であり、APUはAccelerated Processing Unitの略称である。DSPはDigital Signal Processorの略称であり、ASICはApplication Specific ICの略称であり、FPGAはField-Programmable Gate Arrayの略称である。
【0042】
メモリ10bは、種々のデータやプログラム等の情報を格納するHWの一例である。メモリ10bとしては、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性メモリが挙げられる。
【0043】
記憶部10cは、種々のデータやプログラム等の情報を格納するHWの一例である。記憶部10cとしては、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気ディスク装置、SSD(Solid State Drive)等の半導体ドライブ装置、不揮発性メモリ等の各種記憶装置が挙げられる。不揮発性メモリとしては、例えば、フラッシュメモリ、SCM(Storage Class Memory)、ROM(Read Only Memory)等が挙げられる。
【0044】
また、記憶部10cは、コンピュータ10の各種機能の全部若しくは一部を実現するプログラム10g(メンテナンススケジュール作成プログラム)を格納してよい。例えば、作成装置のプロセッサ10aは、記憶部10cに格納されたプログラム10gをメモリ10bに展開して実行することにより、作成装置としての機能を実現できる。
【0045】
IF部10dは、ネットワークとの間の接続及び通信の制御等を行なう通信IFの一例である。例えば、IF部10dは、イーサネット(登録商標)等のLAN(Local Area Network)、或いは、光通信(例えばFC(Fibre Channel))等に準拠したアダプタを含んでよい。当該アダプタは、無線及び有線の一方又は双方の通信方式に対応してよい。例えば、プログラム10gは、当該通信IFを介して、ネットワークからコンピュータ10にダウンロードされ、記憶部10cに格納されてもよい。
【0046】
I/O部10eは、入力装置、及び、出力装置、の一方又は双方を含んでよい。入力装置としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等が挙げられる。出力装置としては、例えば、モニタ、プロジェクタ、プリンタ等が挙げられる。
【0047】
読取部10fは、記録媒体10hに記録されたデータやプログラムの情報を読み出すリーダの一例である。読取部10fは、記録媒体10hを接続可能又は挿入可能な接続端子又は装置を含んでよい。読取部10fとしては、例えば、USB(Universal Serial Bus)等に準拠したアダプタ、記録ディスクへのアクセスを行なうドライブ装置、SDカード等のフラッシュメモリへのアクセスを行なうカードリーダ等が挙げられる。なお、記録媒体10hにはプログラム10gが格納されてもよく、読取部10fが記録媒体10hからプログラム10gを読み出して記憶部10cに格納してもよい。
【0048】
記録媒体10hとしては、例示的に、磁気/光ディスクやフラッシュメモリ等の非一時的なコンピュータ読取可能な記録媒体が挙げられる。磁気/光ディスクとしては、例示的に、フレキシブルディスク、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク、HVD(Holographic Versatile Disc)等が挙げられる。フラッシュメモリとしては、例示的に、USBメモリやSDカード等の半導体メモリが挙げられる。
【0049】
上述したコンピュータ10のHW構成は例示である。従って、コンピュータ10内でのHWの増減(例えば任意のブロックの追加や削除)、分割、任意の組み合わせでの統合、又は、バスの追加若しくは削除等は適宜行なわれてもよい。
【0050】
〔1-3-2〕機能構成例
次に、図6を参照して、一実施形態に係る保全スケジュール作成装置(作成装置)1の機能構成例を説明する。作成装置1は、複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成する。図6に示すように、作成装置1は、例示的に、メモリ部11、ネットワーク図作成部12、最大処理能力計算部13、作業間制約作成部14、スケジュール作成部15、及び、保全コスト決定部16を備えてよい。ブロック12~16の機能の少なくとも一部は、プログラム10gに書き込まれ、プロセッサ10aがプログラム10gをメモリ10bに展開して実行することにより実現されてよい。
【0051】
メモリ部11は、記憶部の一例であり、作成装置1が利用する種々の情報を格納してよい。メモリ部11は、例えば、コンピュータ10のメモリ10b、記憶部10c、及び記録媒体10hの少なくとも1つが有する記憶領域により実現されてよい。
【0052】
メモリ部11は、図7及び図8に示す処理プロセス情報11a及び保全スケジュール情報11dを格納してよい。処理プロセス情報11a及び保全スケジュール情報11dの少なくとも一方は、プラントの管理に利用される既存の情報であってよく、作成装置1において、事前に取得(入力)され、メモリ部11に格納されてよい。
【0053】
処理プロセス情報11aは、複数の設備を利用するプロセスの各工程と、各工程間の相互関係と、各工程の処理能力とを定義する第1情報の一例である。例えば、処理プロセス情報11aは、投入された材料をいくつかの工程を経て製品に仕上げるプラントの処理プロセスと各工程の処理能力とを示す情報である。処理プロセスにおける1工程では、前工程から受け取った中間製品に対してその工程での所定の処理を施して次工程に渡す、という処理(流れ)が実施される。なお、処理プロセスは、製品ごとに定義される。
【0054】
図7は、処理プロセス情報11aの一例を示す図である。図7に示すように、処理プロセス情報11aは、例示的に、製品の識別子の一例である製品ID(Identifier)、工程の識別子の一例である工程ID、工程の名称である工程名、使用設備、処理能力、及び、次工程IDの項目を含んでよい。図7の例では、製品ID“ABC00123”の製品について定義された処理プロセス情報11aを示す。
【0055】
使用設備は、当該工程で使用される設備の識別子の一例である。当該工程で複数の設備が使用される場合、使用設備には複数の設備の識別子が設定されてよい。処理能力には、当該工程の処理能力を示す数値が設定されてよい。同一製品IDの工程間では、処理能力の時間単位及び単位系が揃えられる。次工程IDは、当該工程の次工程の識別子の一例である。次工程IDには、複数の次工程の識別子が設定されてもよく、この場合、次工程でプロセスが分岐し、並列処理されることを意味する。
【0056】
保全スケジュール情報11dは、複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報の一例であり、保全作業ごとに、保全スケジュールの決定に利用される種々の情報が設定された情報である。
【0057】
図8は、保全スケジュール情報11dの一例を示す図である。図8に示すように、保全スケジュール情報11dは、例示的に、保全作業の識別子の一例である作業ID、作業内容、対象設備ID、担当者ID、作業日数、開始期限、完了期限、及び、作業開始予定日、の項目を含んでよい。
【0058】
作業内容は、保全作業の対象設備と保全作業の内容とが設定されてよい。対象設備IDは、保全作業の対象となる設備の識別子の一例である。対象設備IDは、処理プロセス情報11a(図7参照)の使用設備と共通のIDであってよい。担当者IDは、保全作業を実施する保全作業者の識別子の一例である。作業日数は、保全作業を開始してから完了するまでにかかる日数の一例である。
【0059】
開始期限、完了期限は、保全作業を開始すべき日付、及び、作業を完了すべき日付の一例である。開始期限及び完了期限は、例えば、法令等により予め定められた期限であってもよく、保全作業の実行周期と過去の実行タイミング等に従って予め設定されてもよい。
【0060】
作業開始予定日は、保全作業を開始する予定日の一例である。作業開始予定日には、予め、仮の予定日(例えば、開始期限(+α)、又は、完了期限-作業日数(-α)等)が設定されてもよい。一実施形態では、後述する処理により、作業開始予定日が更新されることで、保全スケジュールが作成される。
【0061】
(作成装置1の動作例)
まず、図9を参照して、作成装置1による保全スケジュールの作成に係る全体の動作例を説明する。
【0062】
図9に例示するように、作成装置1は、処理プロセス情報11aから製品の流れのネットワーク図11bを作成する(ステップS1)。
【0063】
ここで、図7に示す処理プロセス情報11aは、前工程から次工程に向かう矢印で工程間を繋いだ有向グラフとして可視化すると、図10に例示するような処理のフローを記述していることがわかる。
【0064】
図10では、図7に例示する製品ID“ABC00123”の処理プロセス情報11aを可視化した例を示す。図10に例示するように、図7において次工程IDに指定されていない工程PRは、最初の工程PR、すなわち工程A(ID:1)である。また、図7において次工程IDが複数指定の工程PRは、次工程で並列処理に分岐する工程PR、すなわち工程B(ID:2)である。さらに、図7において次工程IDとして複数指定されている工程PRは、合流する工程PR、すなわち工程E(ID:7)である。
【0065】
図11は、図7に例示する製品ID“ABC00123”の処理プロセスのネットワーク図11bの一例を示す図である。製品の流れを示すネットワーク図11bは、以下の規則により作成されてよい。
【0066】
(i)各工程、すなわちノードNDが次工程に向いた矢印で接続される。
(ii)最初の工程(第1工程)の前に開始ノードNsが存在し、最終工程の後に終了ノードNeが存在する。
(iii)各矢印は、工程間を流れる製品の最大量の情報を持つ。なお、各辺を流れる最大量は、両端の工程の処理能力のうち小さい方と同等である。但し、開始ノードNsと第1工程との間の最大量は、第1工程の処理能力と等しく、終了ノードNeと最終工程との間の最大量は、最終工程の処理能力と等しい。
【0067】
図9の説明に戻り、作成装置1は、ネットワーク図11bを利用して、停止設備がない時の処理能力(最大処理能力11c)(Pmax)を計算する(ステップS2)。
【0068】
作成装置1は、変数jに1を設定する(ステップS3)。そして、作成装置1は、作業wjの対象設備を含む工程の処理能力を0として修正したネットワーク図11bを利用し、工程iと日程を重なるように保全作業を行なうとよい工程Xの情報を収集する(ステップS4)。iは、処理プロセス情報11aに設定された工程IDのうちのいずれかである。
【0069】
ここで、複数の作業w1,・・・,wnを含む保全作業Wを、W(w1,・・・,wn)と表記する。なお、nは、1以上の整数であり、保全作業Wに含まれる作業数である。また、jは、1以上且つn以下の整数である。例えば、図8に示す保全スケジュール情報11dにおいて、対象設備ID:EQ01に対する保全作業をWとすると、対象設備ID:EQ01を対象とする3つ(n=3)の作業ID:T001~T003が、それぞれ、w1~w3に相当する。
【0070】
作成装置1は、変数kに1を設定する(ステップS5)。そして、作成装置1は、工程Xの使用設備に関する作業Y={y1,・・・,ym}を収集する(ステップS6)。なお、mは、1以上の整数であり、作業Yの数である。また、kは、1以上且つm以下の整数である。
【0071】
作成装置1は、保全スケジュール情報11dに基づき、作業wj及び作業ykの担当者が異なり、且つ、作業wjと作業ykとが重なった日程で実施可能か否かを判定する(ステップS7)。
【0072】
ステップS7でNOであれば、処理がステップS9に移行する。ステップS7でYESであれば、保全スケジュール情報11dは、作業wjと作業ykとを重なった日程で実施するための作業開始予定日の条件(作業間制約11e)を収集し(ステップS8)、kが作業Yの数m未満か否かを判定する(ステップS9)。
【0073】
ステップS9でYESであれば、作成装置1は、kに1を加算し(ステップS10)、処理がステップS7に移行する。ステップS9でNOであれば、作成装置1は、jが作業数n未満か否かを判定する(ステップS11)。
【0074】
ステップS11でYESであれば、作成装置1は、jに1を加算し(ステップS12)、処理がステップS4に移行する。ステップS11でNOであれば、作成装置1は、各作業の開始予定日の決定(スケジュール自動作成)を行ない(ステップS13)、処理が終了する。
【0075】
次に、上述した各ステップの処理を実行するブロック12~16の構成例を説明する。
【0076】
(ネットワーク図作成部12の説明)
ネットワーク図作成部12は、メモリ部11に格納された処理プロセス情報11aに基づき、複数の設備を利用するプロセスを、各工程に流入又は流出する製品の数量を示すネットワーク図11bとして表現する作成部の一例である。また、ネットワーク図作成部12は、作成したネットワーク図11bをメモリ部11に格納してよい。
【0077】
以下、ネットワーク図作成部12による、処理プロセス情報11aに基づくネットワーク図11bの作成手法の一例を説明する。
【0078】
図12は、ネットワーク図作成部12による動作例を示すフローチャートであり、図13及び図14は、図11に示すネットワーク図11bの作成手法の一例を示す図である。図12図14に例示する処理は、図9のステップS1の処理に相当する。
【0079】
図12に例示するように、ネットワーク図作成部12は、開始ノードNs及び終了ノードNeを追加する(ステップS21;図13の手順A参照)。
【0080】
ネットワーク図作成部12は、処理プロセス情報11aにおいて、次工程がない工程をXとし(図13の手順Bでは、工程EをX={E}とし)、工程XのノードNDを追加して、追加したノードNDと終了ノードNeとを矢印で接続する(ステップS22)。また、ネットワーク図作成部12は、接続した各矢印の最大流量を、矢印の根元にあたる工程の処理能力(図13の手順Bでは工程Eの“30”)と等しい値に設定する(ステップS23)。
【0081】
ネットワーク図作成部12は、処理プロセス情報11aにおいて、工程Xのいずれか(図13の手順Cでは工程E)を次工程に持つ工程Yを探索し(ステップS24)、工程Yが存在するか否かを判定する(ステップS25)。
【0082】
ステップS25でYESであれば、ネットワーク図作成部12は、工程YのノードNDを追加し(図13の手順CではY={D1,D2}とし)、追加したノードNDと次工程(図13の手順Cでは工程E)のノードNDとを接続する(ステップS26)。
【0083】
また、ネットワーク図作成部12は、接続した各矢印の最大流量を、両端の工程の処理能力のうちの小さい方と等しい値に設定する(ステップS27)。例えば、ネットワーク図作成部12は、図13の手順Cでは、工程D1→工程Eの矢印の最大流量を、工程D1の“10”と等しい値に設定し、工程D2→工程Eの矢印の最大流量を、工程D2の“15”と等しい値に設定する。
【0084】
そして、ネットワーク図作成部12は、XにYを設定し(図13の手順DではX={D1,D2}とし)(ステップS28)、処理がステップS24に移行する。
【0085】
図13の手順Dに続けて、ネットワーク図作成部12は、ステップS24~S28のループにおいて以下の処理を実行する。
【0086】
ネットワーク図作成部12は、図14の手順Eにおいて、工程X={D1,D2}のいずれかを次工程に持つ工程を探索し、Y={C1,C2}とする。そして、ネットワーク図作成部12は、工程YのノードNDを追加して、追加したノードNDと次工程とを接続する。また、ネットワーク図作成部12は、接続した各矢印の最大流量を、両端の工程の処理能力のうちの小さい方と等しい値に設定する。そして、ネットワーク図作成部12は、X=Y={C1,C2}とする。
【0087】
また、ネットワーク図作成部12は、図14の手順Fにおいて、工程X={C1,C2}のいずれかを次工程に持つ工程Y={B}を探索し、手順Eと同様の処理を実行する。さらに、ネットワーク図作成部12は、図14の手順Gにおいて、工程X={B}を次工程に持つ工程Y={A}を探索し、手順E又はFと同様の処理を実行する。
【0088】
次いで、ネットワーク図作成部12は、図14の手順Hにおいて、工程X={A}を次工程に持つ工程Yを探索するが、このような工程Yは存在しない。すなわち、図12のステップS25でNOとなる。
【0089】
この場合、ネットワーク図作成部12は、開始ノードNsと工程X(図14の手順Iでは工程A)との間を工程Xに向いた矢印で接続する(ステップS29)。そして、ネットワーク図作成部12は、接続した各矢印の最大流量を、矢印の先にある工程Xの処理能力(図14の手順Iでは工程Aの“30”)と等しい値に設定し(ステップS30)、現在のネットワーク図11bをメモリ部11に格納し、処理が終了する。
【0090】
(最大処理能力計算部13の説明)
最大処理能力計算部13は、ネットワーク図作成部12が作成したネットワーク図11bにおいて、開始ノードNsから終了ノードNeに製品を流した場合の終了ノードNeに流れ込む最大流量を算出する。換言すれば、最大処理能力計算部13は、処理プロセス情報11aに基づき、設備停止のない状態でのプロセスの第1処理能力を取得する第1取得部の一例である。
【0091】
また、最大処理能力計算部13は、算出した最大流量を、処理プロセスの最大処理能力11c(Pmax)としてメモリ部11に格納してよい。
【0092】
ネットワーク図11bを流れる最大流量は、例えば、フォード・ファルカーソンのアルゴリズム等の増加路アルゴリズム等によって計算可能である。
【0093】
以下、最大処理能力計算部13による、最大処理能力11cの計算手法の一例を説明する。
【0094】
図15は、最大処理能力計算部13による動作例を示すフローチャートであり、図16及び図17は、図11に示すネットワーク図11bに基づく最大処理能力11cの計算手法の一例を示す図である。図15図17に例示する処理は、図9のステップS2の処理に相当する。
【0095】
図15に例示するように、最大処理能力計算部13は、図11に示すネットワーク図11bの現在のフローを、全ての矢印の流量=0とする(ステップS31;図16の手順A参照)。
【0096】
最大処理能力計算部13は、現在のフローに対する余剰流量を付した逆向きの矢印を記載したネットワーク(残余ネットワーク)を作成する(ステップS32;図16の手順Bの破線矢印参照)。
【0097】
次いで、最大処理能力計算部13は、残余ネットワークにおいて、終了ノードNeから開始ノードNsにたどり着く経路を探索する(ステップS33;図16の手順Cの一点鎖線矢印参照)。
【0098】
最大処理能力計算部13は、経路が存在するか否かを判定する(ステップS34)。ステップS34でYESの場合、最大処理能力計算部13は、終了ノードNeから開始ノードNsにたどり着く経路を1つ採用し、当該経路を用いて現在のフローを更新し(ステップS35;図16の手順D参照)、処理がステップS32に移行する。図16の手順Dでは、最大処理能力計算部13は、経路上の最小流量分である“10”を残余ネットワークと逆向きに流す例を示す。
【0099】
図16の手順Dに続けて、最大処理能力計算部13は、ステップS32~S35のループにおいて以下の処理を実行する。
【0100】
最大処理能力計算部13は、図17の手順Eにおいて、再度、残余ネットワークを作成し、終了ノードNeから開始ノードNsにたどり着く経路(一点鎖線参照)を探索する。そして、最大処理能力計算部13は、図17の手順Fにおいて、図16の手順Cの経路とは逆向きに流量“10”を流して、現在のフローを更新する。なお、最大処理能力計算部13は、既に流量“10”が設定済みの矢印(例えば開始ノードNs~工程B、及び、工程E~終了ノードNe)に対しては、手順Eの探索で得た流量“10”を加算する。
【0101】
次いで、最大処理能力計算部13は、図17の手順Gにおいて、再度、残余ネットワークを作成するが、終了ノードNeから開始ノードNsにたどり着く経路が存在しない(一点鎖線参照)。すなわち、図15のステップS34でNOとなる。
【0102】
この場合、現在のフローが最大流路であり、終了ノードNeに入る流量(図17の手順Hでは“20”)が最大流量となる。従って、最大処理能力計算部13は、最大流量をこのプロセスの最大処理能力11c(Pmax)に決定し(ステップS36;図17の手順H参照)、最大処理能力11cをメモリ部11に格納し、処理が終了する。
【0103】
(作業間制約作成部14の説明)
作業間制約作成部14は、保全スケジュール情報11dに基づき、メンテナンス作業の開始日に関する制約を、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアごとに作成する制約作成部の一例である。
【0104】
例えば、作業間制約作成部14は、処理プロセス情報11a、ネットワーク図11b、及び保全スケジュール情報11dに基づいて、2つの作業の組み合わせを抽出し、作業間の作業開始日に関する作業間制約11eを生成してよい。
【0105】
抽出される2つの作業の組み合わせは、以下で説明する、「工程X」及び「保全作業Y」の収集処理と、「作業wj」及び「作業yk」の実行可否確認処理と、により決定されてよい。
【0106】
(収集処理)
以下、作業間制約作成部14による、収集処理の一例を説明する。図18は、作業間制約作成部14による収集処理の一例を示す図である。図18に例示する処理は、図9のステップS3~S6、S11、S12の処理に対応する。
【0107】
作業間制約作成部14は、作業wjを実施する場合に、作業wjと重なる日程で作業すると機会損失コストの削減につながる工程Xを収集する。例えば、作業間制約作成部14は、工程iの処理能力を0として修正したネットワーク図11bを利用して、処理能力の計算を実施する。
【0108】
一例として、作業間制約作成部14は、図18の手順Aにおいて、作業wjの対象設備が設置された工程C1の処理能力を0としたときのネットワーク図11bを作成する。
【0109】
そして、作業間制約作成部14は、図18の手順Bにおいて、図15図17を参照して説明した最大処理能力11cの計算と同様の手法により、ネットワークの最大処理能力を計算する(一点鎖線参照)。
【0110】
このとき、処理量が0となる工程Xは、設備が停止しているのと変わらない。つまり、処理量が0となる工程Xは、工程iと重なる日程で作業を行なうことで、別日に実施する場合より機会損失コストを削減できることを意味する。
【0111】
そこで、作業間制約作成部14は、処理プロセス情報11a及び保全スケジュール情報11dを参照して、工程Xの使用設備に関する作業Y={y1,・・・ym}を収集する。例えば、図18の手順Cに示すように、作業間制約作成部14は、入出力が0となる工程を工程Xとして収集する。
【0112】
図18の例では、使用設備:EQ04-1を使用する工程C1を停止した場合に、使用設備:EQ05を使用する工程D1の入出力が0となる。従って、作業間制約作成部14は、工程D1を、工程C1と日程が重なるように作業するとよい工程Xと判定し、このような情報を収集する。
【0113】
(実行可否確認処理)
以下、作業間制約作成部14による、実行可否確認処理の一例を説明する。図19は、作業間制約作成部14による実行可否確認処理の一例を示す図であり、図20は、作業間制約11eの一例を示す図である。図19及び図20に例示する処理は、図9のステップS7~S10の処理に対応する。
【0114】
作業間制約作成部14は、収集処理において収集した、作業Wの情報と、工程Xの使用設備に関する作業Yの情報とに基づき、作業wjと作業ykの担当者が異なり、且つ、重なった日程で実施可能か否かを、保全スケジュール情報11dを基に確認する。
【0115】
そして、作業間制約作成部14は、重なる日程で実行可能であれば、作業間の作業開始予定日に関する制約(作業間制約11e)を生成する。
【0116】
例えば、図19に示すように、作業間制約作成部14は、図8に示す保全スケジュール情報11dにおいて、作業w1を作業ID:T006とし、作業y1を作業ID:T008とした場合に、担当者IDが一致するか否かを判定する。図19の例では、担当者IDがそれぞれW003及びW004であるため、作業間制約作成部14は、担当者が異なると判定する。
【0117】
また、作業間制約作成部14は、図19に示すように、作業T006及びT008の開始日をS6及びS8とし、作業T006及びT008の作業日数をd6及びd8とした場合に、符号A又はBで示すように日程が重なるか否かを判定する。
【0118】
図19の符号Aでは、作業間制約作成部14は、作業wjの開始日が、作業ykの開始日と完了日との間であれば日程が重なると判定してよい。或いは、図19の符号Bでは、作業間制約作成部14は、作業ykの開始日が、作業wjの開始日と完了日との間であれば日程が重なると判定してよい。符号A及びBは、互いに逆のパターンである。
【0119】
作業間制約作成部14は、図20に例示するように、作業間制約11eを作成し、メモリ部11に格納してよい。作業間制約11eは、2つの作業の組み合わせごとの制約の有無を示すテーブル(マトリクス)11e-1と、制約のある2つの作業の組み合わせごとに作成された作業間制約11e-2(一例として、S8≦S6≦S8+d8)とを含んでよい。
【0120】
以上のように、実行可否確認処理では、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアを特定でき、収集処理では、日程をずらして実行させる場合よりも機会損失コストが減少するメンテナンス作業のペアを特定できる。このように、作業間制約作成部14は、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアであって、日程をずらして実行させる場合よりも機会損失コストが減少するメンテナンス作業のペアを複数抽出するのである。
【0121】
なお、上述した例では、作業間制約作成部14は、担当者の一致を判定するものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、作業間制約作成部14は、担当者の一致に加えて、又は、代えて、作業の実施に用いられる、工具や設備(クレーン等)等の備品が、作業wj及び作業yk間で少なくとも一部が一致するか否かを判定してもよい。
【0122】
(スケジュール作成部15の説明)
スケジュール作成部15は、作業間制約作成部14が作成した作業間制約11eの、2つの作業の組み合わせごとの有効及び無効を切り替えながら、スケジュール作成と評価とを繰り返し実行し、保全コストが小さくなる保全スケジュールを作成する。なお、スケジュール作成部15による保全スケジュールの作成は、例えば、保全スケジュール情報11dの「作業開始予定日」を更新することであってもよい。
【0123】
換言すれば、スケジュール作成部15は、複数の制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、メンテナンススケジュールの作成と、メンテナンスコストの算出とを実行する実行部の一例である。
【0124】
スケジュール作成部15は、例えば、タブー探索、GA(Genetic Algorithm)等のメタヒューリスティクスを利用した最適化手法と同様に、現在の状態を少し変更すること(近傍探索)を繰り返して、最適解(最適な作業開始日)を探索する。
【0125】
以下、スケジュール作成部15による保全スケジュールの作成処理の一例を説明する。図21は、スケジュール作成部15による保全スケジュールの作成処理の一例を示すフローチャートであり、図22図24は、保全スケジュール作成手法の一例を示す図である。図21図24に例示する処理は、図9のステップS13の処理の少なくとも一部に対応する。
【0126】
図21に例示するように、スケジュール作成部15は、作業間制約11eを全て無効化し(ステップS41)、全作業の開始予定日の初期値を作成、例えば保全スケジュール情報11dの「作業開始予定日」に初期値を設定する(ステップS42)。
【0127】
スケジュール作成部15は、後述する保全コスト決定部16により計算される、現在のスケジュールの保全コストを最良案とし(ステップS43)、反復回数I(Iは1以上の整数)に0を設定する(ステップS44)。
【0128】
スケジュール作成部15は、作業開始予定日の割合を少し変更し(ステップS45)、制約違反の数が変更前よりも多いか否かを判定する(ステップS46)。
【0129】
ステップS46でYESの場合、スケジュール作成部15は、作業開始予定日の割合を変更前の状態に戻し(ステップS47)、処理がステップS50に移行する。
【0130】
ステップS46でNOの場合、後述する保全コスト決定部16により、スケジュールの保全コストが計算され(ステップS48)、スケジュール作成部15は、保全コストが変更前よりも小さいか否かを判定する(ステップS49)。
【0131】
ステップS49でNOの場合、処理がステップS47に移行する。一方、ステップS49でYESの場合、スケジュール作成部15は、Iが反復回数上限Mよりも小さいか否かを判定する(ステップS50)。
【0132】
ステップS50でYESの場合、スケジュール作成部15は、Iに1を加算し(ステップS51)、処理がステップS45に移行する。
【0133】
なお、図21に示すステップS44~S51の処理は、スケジュール作成部15による近傍探索の処理であり、既知の手法により実現されてもよい。
【0134】
ステップS50でNOの場合、スケジュール作成部15は、現在案の保全コストが最良案よりも小さいか否かを判定する(ステップS52)。
【0135】
ステップS52でNOの場合、スケジュール作成部15は、最後に追加した作業間制約11eがあればそれを無効化する(ステップS53)。そして、スケジュール作成部15は、スケジュールで、いずれの作業とも重なる日程で実行されない作業に関する作業間制約11eのうち、無効になっているものを収集する(ステップS54)。
【0136】
例えば、スケジュール作成部15は、図22の手順Aのスケジュールに示す、いずれの作業とも重なる日程で実行されない作業(実線の円で囲った作業)を抽出する。また、スケジュール作成部15は、抽出された作業に関する作業間制約11eで無効になっている制約(図22の手順Bのテーブル11e-1において黒丸で示される制約)を収集(特定)する。
【0137】
スケジュール作成部15は、収集した制約を1つ以上有効化し(ステップS55)、新規に有効化した制約と矛盾する作業間制約11eを無効化して(ステップS56)、処理がステップS44に移行する。
【0138】
例えば、スケジュール作成部15は、図23の手順Cに示すように、収集した作業間制約11eを、一様確率分布に従い1つ選択して有効化する。手順Cの例では、スケジュール作成部15は、作業T010とT002とを重ねる制約を選択して有効化する。
【0139】
これにより、スケジュール作成部15は、再度、近傍探索(局所探索)を実行してスケジュール生成を行なうと、例えば、図23の手順Dに示すように、実線の円で囲った期間の機会損失コストを削減することができる。
【0140】
なお、作業間制約11eを追加しすぎると、充足不可能な状態が発生することがある。新規に有効化した作業間制約11eと、既に有効な作業間制約11eとに矛盾が生じた場合、スケジュール作成部15は、図21のステップS56に示すように、矛盾が生じた、既に有効な作業間制約11eを無効化する。
【0141】
例えば、スケジュール作成部15は、新規に有効化した作業間制約Xに関する2作業と関連し、且つ、既に有効である作業間制約Yを全て抽出する。そして、スケジュール作成部15は、制約Xと制約Yとで数式処理を行ない、制約充足が可能か否かを数式処理によって判定する。制約充足できない場合、スケジュール作成部15は、制約Yを無効化する。
【0142】
例えば、図24の手順Eに示すように、既に有効な作業間制約として、下記の(1)及び(2)が存在し、下記の(3)を新規に有効化した場合を想定する。
【0143】
(1) S2≦S10≦ S2+ d2
(2)S10≦ S2≦S10+d10
(3) S9≦ S2≦ S9+ d9
【0144】
この場合、T2及びT9に関する制約について、数式処理すると、S9≦S2=S10≦S9+d9となり、作業者が同じ作業T9及びT10を同時実行する必要が生じ、作業間制約11eに矛盾が発生する。
【0145】
そこで、手順Eの例において、スケジュール作成部15は、作業間制約(1)及び(2)を無効化する。
【0146】
図21の説明に戻り、ステップS52でYESの場合、スケジュール作成部15は、現在案を最良案として採用し(ステップS58)、判定終了か否かを判定する(ステップS59)。判定終了か否かの条件としては、例えば、スケジュール作成処理の実行回数(ステップS59の判定回数でもよい)が所定の閾値以上となった場合や、保全コストの変化量が所定の閾値以下になった場合等が挙げられる。
【0147】
ステップS59でNOの場合、処理がステップS54に移行する。一方、ステップS59でYESの場合、処理が終了する。
【0148】
なお、図21に示すステップS53~S56の処理は、保全スケジュール作成に特化した探索空間の修正処理(ステップS60)である。
【0149】
(保全コスト決定部16の説明)
保全コスト決定部16は、第1処理能力(最大処理能力11c)と、複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態でのプロセスの第2処理能力とに基づき、メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出する算出部の一例である。
【0150】
保全コスト決定部16は、図6に示すように、例示的に、処理能力計算部16a、機会損失コスト計算部16b、及び、保全コスト計算部16cの機能を備えてよい。
【0151】
処理能力計算部16aは、処理プロセス情報11aに基づき、複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態でのプロセスの第2処理能力を取得する第2取得部の一例であり、設備停止時の処理能力(第2処理能力)を計算する。
【0152】
機会損失コスト計算部16bは、最大処理能力と、設備停止時の処理能力との差分に基づき、日ごとの機会損失コストを計算する。
【0153】
保全コスト計算部16cは、日々の機会損失コストの総和から、作成した保全スケジュールの保全コストを計算する。
【0154】
以下、保全コスト決定部16による保全コストの決定(計算)処理の一例を説明する。なお、以下の説明では、保全スケジュールに示された期間の全日付を、D={d1,・・・dx}(xは1以上の整数)で示す。
【0155】
図25は、保全コスト決定部16による保全コストの決定処理の一例を示すフローチャートであり、図26は、日々の処理能力の計算手法の一例を示す図である。図25及び図26に例示する処理は、図9のステップS13の処理の少なくとも一部、図21のステップS43の一部、及び、図21のステップS48の処理に対応する。
【0156】
図25に例示するように、保全コスト決定部16は、変数iに1を設定する(ステップS61)。
【0157】
処理能力計算部16aは、ネットワーク図11bを保全スケジュール情報11dに基づき設備停止を考慮するよう修正し、日付diの処理能力piを計算する(ステップS62)。
【0158】
例えば、日付diにおいて、その日に実施される作業の対象設備が含まれる工程は、設備停止の影響で処理を行なえないので、工程の処理能力を0と考える。なお、その日に実施される作業は、保全スケジュール情報11dに設定されている。
【0159】
そこで、処理能力計算部16aは、保全スケジュール情報11dに基づき、当該工程の処理能力を0としてネットワーク図11bを修正する。そして、処理能力計算部16aは、修正したネットワーク図11bを利用して、図15図17を参照して説明した最大処理能力11cの計算と同様の手法により、最大処理能力を計算する。処理能力計算部16aは、計算した最大処理能力を、日付diのプロセスの処理能力piとする。
【0160】
例えば、図26に示すように、日付di=2019/3/11の場合(対象設備ID:EQ04-1に関する作業(T006)の1作業の予定あり)を想定する。
【0161】
処理能力計算部16aは、図26の左上に示すように、設備EQ04-1を使用する工程の処理能力を0とし、図26の左下に示すように、工程C1の処理能力を0としたときのネットワーク図11bを作成する。
【0162】
また、処理能力計算部16aは、図26の右上に示すように、図15図17を参照して説明した最大処理能力11cの計算と同様の手法により、ネットワーク図11bの最大処理能力を計算する。そして、処理能力計算部16aは、図26の右下に示すように、最大処理能力を日付diのプロセスの処理能力piとする。
【0163】
図25の説明に戻り、機会損失コスト計算部16bは、piと、Pmax(最大処理能力11c)とに基づき、日付diの処理能力の低下率riを計算する(ステップS63)。
【0164】
ここで、設備停止によるプラント処理能力の低下により、製品を作ることができなかった製品相当の利益を機会損失コストとする。
【0165】
日付diにおけるプラントの処理能力の低下率riは、下記(1)式により算出されてよい。なお、下記(1)式中、Pmaxは、最大処理能力11cであり、piは、日付diにおける処理能力を示す。
【0166】
【数1】
【0167】
機会損失コスト計算部16bは、低下率riを利用して、日付diの機会損失コストciを計算する(ステップS64)。
【0168】
例えば、機会損失コスト計算部16bは、日付diにおける機会損失コストciを、下記(2)式により計算してよい。なお、下記(2)式中、Nは、1日の最大生産量[個/日]、であり、gは、製品1個あたりの利益[円]を示す。最大生産量N及び利益gは、それぞれ、最大生産量11f及び利益11gとして、メモリ部11に予め格納されてもよい。
【0169】
ci=riNg (2)
【0170】
機会損失コスト計算部16bは、保全スケジュールの期間の全日付について、図25に示す処理を繰り返すと、期間中の日ごとの機会損失コスト{c1,・・・,cNday}を得ることができる。なお、Ndayは、保全スケジュールの期間内の日数を示す。
【0171】
図25の説明に戻り、保全コスト計算部16cは、iがxよりも小さいか否かを判定する(ステップS65)。ステップS65でYESの場合、保全コスト計算部16cは、iに1を加算し(ステップS66)、処理がステップS62に移行する。
【0172】
ステップS65でNOの場合、保全コスト計算部16cは、スケジュールに示された全期間の保全コストCを計算し(ステップS67)、処理が終了する。
【0173】
例えば、保全コスト計算部16cは、保全スケジュールの期間における保全コストCtotalを計算する。保全コストCtotalは、下記(3)式に示すように、保全期間における機会損失コストClossと保全作業にかかる総コストCtaskとの合計であってよい。
【0174】
total=Closs+Ctask (3)
【0175】
また、機会損失コストClossは、日ごとの機会損失コストciの総和として、下記(4)式により算出される。
【0176】
【数2】
【0177】
さらに、保全作業にかかる総コストCtaskは、作業jにかかるコストctask,jの総和として、下記(5)式により算出される。
【0178】
【数3】
【0179】
ここで、メモリ部11は、保全作業コスト情報11iを格納してよい。保全作業コスト情報11iには、以下の情報が保持されるものとする。
【0180】
・作業jの実施にかかるコスト(保全実施日に非依存な定数):c1,j
・作業jと関連して保全実施日に依存して変化するコストc1,jを計算するために使用する、作業jの保全日diと実施期限Djを引数とする関数:f2,j(di,Dj)
・コストc2,jとして、部材の残存価値のみを考慮する場合、保守期限で残存価値が0円になるとしたとき、下記(6)式で示す関数情報が保全作業コスト情報11iに保持される。
【0181】
2,j(di,Dj)=a(Dj-di) (6)
【0182】
また、各作業にかかるコストctask,jは、2つのコストc1,j、c2,jの和として計算されてよい。すなわち、下記(7)式により算出されてよい。
【0183】
task,j=c1,j+c2,j=c1,j+f2,j(di,Dj) (7)
【0184】
以上の手法により、保全コスト計算部16cは、保全作業にかかる総コストCtaskを計算する。
【0185】
なお、保全コスト決定部16は、算出した各コスト、例えば、保全コストCtotal、機会損失コストCloss、総コストCtask等を、コスト11hとしてメモリ部11に格納してもよい。
【0186】
以上のように、一実施形態に係る作成装置1によれば、機会損失コストを含む保全コストの小さい保全スケジュールを短時間で自動的に作成することができる。
【0187】
また、保全コストの小さいスケジュールを立案することができる。
【0188】
さらに、機会損失コストを削減するための制約を追加することで、良い解の存在する領域に限定して解探索を行なうため、試すべき組み合わせの数を減らすことができる。従って、計算量が削減でき、短時間で良い解を得られる。すなわち、スケジュール作成時間の短縮を図ることができる。
【0189】
〔1-4〕適用例
図27は、保全スケジュール及び保全コストの作成結果の表示例を示す図である。図27に示すように、表示画面20には、以下の少なくとも1つ以上の項目が表示されてよい。
【0190】
・保全スケジュール情報11dをガントチャートで可視化した保全スケジュール(符号A参照)。
・スケジュール期間中の日ごとの機会損失コスト{c1,・・・,cNday}を棒グラフで可視化した、保全コスト[円](符号B参照)。
・スケジュール期間。
・全期間の保全コスト[円]の算出結果。
【0191】
図28は、作成装置1と、端末40とを備えるシステム30の構成例を示す図である。図28に示すように、保全スケジュールの作成者は、端末40を操作して、処理プロセス情報11a及び保全スケジュール情報11dを作成装置1に入力する。作成装置1のスケジュール作成部15は、上述した手法によって、保全スケジュール情報11d(保全コスト最小)を出力し、端末40に送信する。このとき、スケジュール作成部15は、図27に示す表示画面20を端末40のモニタ等に表示するための情報(HTMLファイルやグラフデータ等)を端末40に送信してもよい。
【0192】
このように、スケジュール作成部15は、メンテナンスコストが最小となるメンテナンススケジュールを特定し、特定したメンテナンススケジュールの情報を出力してよい。
【0193】
なお、作成装置1は、端末40等の他の装置と、ネットワークを介して相互に通信可能に接続されてよい。ネットワークは、WAN(Wide Area Network)、LAN、又はこれらの組み合わせを含んでよい。WANにはインターネットが含まれてよい。
【0194】
これにより、保全スケジュールの作成者は、処理プロセス情報11a及び保全スケジュール情報11dを作成装置1に入力するだけで、保全コストの小さいスケジュールを短時間で容易に取得することができる。また、得られたスケジュールは、作成装置1により評価結果とともに可視化されるため、作業者は、適切な保全スケジュールを容易に把握することが可能となる。
【0195】
〔2〕その他
上述した一実施形態に係る技術は、以下のように変形、変更して実施することができる。
【0196】
例えば、図6に示す各機能ブロックは、それぞれ任意の組み合わせで併合してもよく、分割してもよい。
【0197】
〔3〕付記
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0198】
(付記1)
複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成するコンピュータに、
前記複数の設備を利用するプロセスの各工程と、前記各工程間の相互関係と、前記各工程の処理能力とを定義する第1情報に基づき、設備停止のない状態での前記プロセスの第1処理能力を取得し、
前記第1情報に基づき、前記複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態での前記プロセスの第2処理能力を取得し、
前記第1処理能力及び前記第2処理能力に基づき、前記メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出し、
複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報に基づき、メンテナンス作業の開始日に関する制約を、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアごとに作成し、
複数の前記制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、前記メンテナンススケジュールの作成と、前記メンテナンスコストの算出とを実行する、
処理を実行させる、メンテナンススケジュール作成プログラム。
【0199】
(付記2)
前記メンテナンスコストの算出は、
前記第1処理能力と前記第2処理能力との差分に基づき、前記プロセスの日ごとの機会損失コストを算出し、
前記日ごとの機会損失コストの総和に基づき、前記メンテナンスコストを算出する、
付記1に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【0200】
(付記3)
前記制約の作成は、
重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアであって、日程をずらして実行させる場合よりも機会損失コストが減少するメンテナンス作業のペアを複数抽出し、
前記抽出したペアごとにメンテナンス作業の開始日に関する制約を生成する、
付記2に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【0201】
(付記4)
前記コンピュータに、
前記第1情報に基づき、前記プロセスを、前記各工程に流入又は流出する製品の数量を示すネットワーク図として表現し、
前記ネットワーク図に基づき、前記第1処理能力及び前記第2処理能力を取得する、
処理を実行させる、付記1~3のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【0202】
(付記5)
前記コンピュータに、
前記ネットワーク図におけるいずれかの第1工程に流入又は流出する製品の数量を0とした場合に、流入又は流出する製品の数量が0となる第2工程が存在する場合であって、前記第1工程に対する第1メンテナンス作業と、前記第2工程に対する第2メンテナンス作業とが重なった日程で実施可能である場合に、前記第1及び第2メンテナンス作業のペアについて前記制約を作成する、
処理を実行させる、付記4に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【0203】
(付記6)
前記コンピュータに、
前記メンテナンスコストが最小となる前記メンテナンススケジュールを特定し、
特定した前記メンテナンススケジュールの情報を出力する、
処理を実行させる、付記1~5のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成プログラム。
【0204】
(付記7)
複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成するコンピュータが、
前記複数の設備を利用するプロセスの各工程と、前記各工程間の相互関係と、前記各工程の処理能力とを定義する第1情報に基づき、設備停止のない状態での前記プロセスの第1処理能力を取得し、
前記第1情報に基づき、前記複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態での前記プロセスの第2処理能力を取得し、
前記第1処理能力及び前記第2処理能力に基づき、前記メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出し、
複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報に基づき、メンテナンス作業の開始日に関する制約を、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアごとに作成し、
複数の前記制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、前記メンテナンススケジュールの作成と、前記メンテナンスコストの算出とを実行する、
メンテナンススケジュール作成方法。
【0205】
(付記8)
前記メンテナンスコストの算出は、
前記第1処理能力と前記第2処理能力との差分に基づき、前記プロセスの日ごとの機会損失コストを算出し、
前記日ごとの機会損失コストの総和に基づき、前記メンテナンスコストを算出する、
付記7に記載のメンテナンススケジュール作成方法。
【0206】
(付記9)
前記制約の作成は、
重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアであって、日程をずらして実行させる場合よりも機会損失コストが減少するメンテナンス作業のペアを複数抽出し、
前記抽出したペアごとにメンテナンス作業の開始日に関する制約を生成する、
付記8に記載のメンテナンススケジュール作成方法。
【0207】
(付記10)
前記コンピュータが、
前記第1情報に基づき、前記プロセスを、前記各工程に流入又は流出する製品の数量を示すネットワーク図として表現し、
前記ネットワーク図に基づき、前記第1処理能力及び前記第2処理能力を取得する、
付記7~9のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成方法。
【0208】
(付記11)
前記コンピュータが、
前記ネットワーク図におけるいずれかの第1工程に流入又は流出する製品の数量を0とした場合に、流入又は流出する製品の数量が0となる第2工程が存在する場合であって、前記第1工程に対する第1メンテナンス作業と、前記第2工程に対する第2メンテナンス作業とが重なった日程で実施可能である場合に、前記第1及び第2メンテナンス作業のペアについて前記制約を作成する、
付記10に記載のメンテナンススケジュール作成方法。
【0209】
(付記12)
前記コンピュータが、
前記メンテナンスコストが最小となる前記メンテナンススケジュールを特定し、
特定した前記メンテナンススケジュールの情報を出力する、
付記7~11のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成方法。
【0210】
(付記13)
複数の設備の各々のメンテナンススケジュールを作成するメンテナンススケジュール作成装置であって、
前記複数の設備を利用するプロセスの各工程と、前記各工程間の相互関係と、前記各工程の処理能力とを定義する第1情報と、複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報と、を記憶する記憶部と、
前記第1情報に基づき、設備停止のない状態での前記プロセスの第1処理能力を取得する第1取得部と、
前記第1情報に基づき、前記複数の設備のうちのいずれかの設備停止状態での前記プロセスの第2処理能力を取得する第2取得部と、
前記第1処理能力及び前記第2処理能力に基づき、前記メンテナンススケジュールのメンテナンスコストを算出する算出部と、
複数のメンテナンス作業の各々の条件を定義する第2情報に基づき、メンテナンス作業の開始日に関する制約を、重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアごとに作成する制約作成部と、
複数の前記制約の各々の有効又は無効を切り替えながら、前記メンテナンススケジュールの作成と、前記メンテナンスコストの算出とを実行する実行部と、
を備える、メンテナンススケジュール作成装置。
【0211】
(付記14)
前記算出部は、
前記第1処理能力と前記第2処理能力との差分に基づき、前記プロセスの日ごとの機会損失コストを算出し、
前記日ごとの機会損失コストの総和に基づき、前記メンテナンスコストを算出する、
付記13に記載のメンテナンススケジュール作成装置。
【0212】
(付記15)
前記制約作成部は、
重なる日程で実行可能なメンテナンス作業のペアであって、日程をずらして実行させる場合よりも機会損失コストが減少するメンテナンス作業のペアを複数抽出し、
前記抽出したペアごとにメンテナンス作業の開始日に関する制約を生成する、
付記14に記載のメンテナンススケジュール作成装置。
【0213】
(付記16)
前記第1情報に基づき、前記プロセスを、前記各工程に流入又は流出する製品の数量を示すネットワーク図として表現する作成部、を備え、
前記第1取得部及び前記第2取得部は、前記ネットワーク図に基づき、前記第1処理能力及び前記第2処理能力をそれぞれ取得する、
付記13~15のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成装置。
【0214】
(付記17)
前記制約作成部は、
前記ネットワーク図におけるいずれかの第1工程に流入又は流出する製品の数量を0とした場合に、流入又は流出する製品の数量が0となる第2工程が存在する場合であって、前記第1工程に対する第1メンテナンス作業と、前記第2工程に対する第2メンテナンス作業とが重なった日程で実施可能である場合に、前記第1及び第2メンテナンス作業のペアについて前記制約を作成する、
付記16に記載のメンテナンススケジュール作成装置。
【0215】
(付記18)
前記実行部は、
前記メンテナンスコストが最小となる前記メンテナンススケジュールを特定し、
特定した前記メンテナンススケジュールの情報を出力する、
付記13~17のいずれか1項に記載のメンテナンススケジュール作成。
【符号の説明】
【0216】
1 保全スケジュール作成装置
10 コンピュータ
11 メモリ部
11a 処理プロセス情報
11b ネットワーク図
11c 最大処理能力
11d 保全スケジュール情報
11e 作業間制約
11f 最大生産量
11g 利益
11h コスト
11i 保全作業コスト情報
12 ネットワーク図作成部
13 最大処理能力計算部
14 作業間制約作成部
15 スケジュール作成部
16 保全コスト決定部
16a 処理能力計算部
16b 機会損失コスト計算部
16c 保全コスト計算部
20 表示画面
30 システム
40 端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28