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  • 特許-リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230801BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230801BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230801BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230801BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230801BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/62 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019220842
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021089876
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智彦
(72)【発明者】
【氏名】苅宿 洋
(72)【発明者】
【氏名】木戸 亮介
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/126682(WO,A1)
【文献】特開2018-056409(JP,A)
【文献】特開2019-129012(JP,A)
【文献】特開2019-096561(JP,A)
【文献】特表2022-534691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/38
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に挟まれたセパレータと、電解液と、を有し、
前記正極は、プレドープ材を含み、
前記プレドープ材は、4.5V(vsLi/Li)以上の電圧で分解するリチウム化合物と炭素材料とが複合化した複合体を含み、
前記負極は、シリコン又は酸化シリコンを含み、
前記電解液は、フルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートとを含み、
前記電解液における前記フルオロエチレンカーボネートの割合Xは、5wt%以上20wt%以下であり、
前記電解液における前記ビニレンカーボネートの割合Yは、0.006wt%以上0.2wt%以下であり、
前記電解液における前記フルオロエチレンカーボネートの割合Xと、前記電解液における前記ビニレンカーボネートの割合Yとが、0.001≦Y/X≦0.01を満たす、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウム化合物は、炭酸リチウムである、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。これらの分野の発展と共に、リチウムイオン二次電池は、より高い性能が求められている。
【0003】
その性能の一つが、リチウムイオン二次電池の高容量化である。負極活物質として代表的な黒鉛の容量は、理論値でも360mAh/g程度である。近年、黒鉛に替わる材料としてシリコンや酸化シリコン等の合金系の負極活物質に注目が集まっている。シリコンの容量は理論値で3600mAh/g程度と言われ、黒鉛の十倍近い容量が期待されている。
【0004】
しかしながら、シリコンや酸化シリコン等の合金系の負極活物質を用いても、リチウムイオン二次電池は理論値に近い十分な容量を得ることが難しい。この原因の一つとして、初回の充電時に負極活物質層の表面にリチウム含有層が形成されることが挙げられる。リチウム含有層の形成は不可逆反応であり、リチウム含有層にトラップされたリチウムは、以後の充放電に寄与することができない。
【0005】
近年、このリチウム含有層を形成する分のリチウムを予めプレドープしておく、技術が提唱されている。例えば、特許文献1には、リチウム粒子を負極活物質層中に含有させることで、プレドープを行う技術が開示されている。また例えば、特許文献2には、初回充電容量と不可逆容量の大きな正極材料をプレドープ材として用いることが記載されている。また非特許文献1には、LiCoをプレドープ材として用いると、初回充電容量と不可逆容量が大きくなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-98151号公報
【文献】特開2016-12620号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Lijuan Fan et al., Nano Research 2016, 9(12):3903-3913.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
合金系負極にプレドープ材を用いる技術は、まだ十分確立していない。合金系負極を用いたリチウムイオン二次電池にプレドープ材を用いた場合に、十分な初期効率を得ることができない。
【0009】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、合金系負極の初期効率を改善できるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に挟まれたセパレータと、電解液と、を有し、前記正極は、プレドープ材を含み、前記プレドープ材は、4.5V(vsLi/Li)以上の電圧で分解するリチウム化合物と炭素材料とが複合化した複合体を含み、前記負極は、シリコン又は酸化シリコンを含み、前記電解液は、フルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートとを含み、前記電解液における前記フルオロエチレンカーボネートの割合Xと、前記電解液における前記ビニレンカーボネートの割合Yとが、0.001≦Y/X≦0.01を満たす。
【0012】
(2)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池において、前記リチウム化合物は、炭酸リチウムであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記態様に係るリチウムイオン二次電池は、初期効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
「リチウムイオン二次電池」
図1は、第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の模式図である。図1に示すリチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。電解液は、外装体50内に収容され、発電素子40内に含浸している。
【0017】
(発電素子)
発電素子40は、正極20と負極30とセパレータ10とを備える。
【0018】
<セパレータ>
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0019】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0020】
セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。固体電解質は、例えば、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。高分子固体電解質は、例えば、ポリエチレンオキサイド系高分子にアルカリ金属塩を溶解させたものである。酸化物系固体電解質は、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(ナシコン型)、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO(ガラスセラミックス)、Li0.34La0.51TiO2.94(ペロブスカイト型)、LiLaZr12(ガーネット型)、Li2.9PO3.30.46(アモルファス、LIPON)、50LiSiO・50LiBO(ガラス)、90LiBO・10LiSO(ガラスセラミックス)である。硫化物系固体電解質は、例えば、Li3.25Ge0.250.75(結晶)、Li10GeP12(結晶、LGPS)、LiPSCl(結晶、アルジロダイト型)、Li9.54Si1.741.4411.7Cl0.3(結晶)、Li3.250.95(ガラスセラミックス)、Li11(ガラスセラミックス)、70LiS・30P(ガラス)、30LiS・26B・44LiI(ガラス)、50LiS・17P・33LiBH(ガラス)、63LiS・36SiS・LiPO(ガラス)、57LiS・38SiS・5LiSiO(ガラス)である。
【0021】
<正極>
正極20は、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に形成されている。正極活物質層24は、正極集電体22の両面に形成されていてもよい。
【0022】
[正極集電体]
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。
【0023】
[正極活物質層]
正極活物質層24は、例えば、正極活物質と導電助材とプレドープ材とバインダーとを有する。
【0024】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとカウンターアニオンのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させる。
【0025】
正極活物質は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMna2(x+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンなどである。また正極活物質は、これらを混合したものでもよい。
【0026】
導電助材は、正極活物質層24内に点在している。導電助材は、正極活物質層24における正極活物質の間の導電性を高める。導電助材は、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物である。導電助材は、カーボンブラック等の炭素材料が好ましい。活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、正極活物質層24は導電助材を含まなくてもよい。
【0027】
プレドープ材は、充電時に分解し、リチウムイオンを生じる。プレドープ材は、負極にトラップされ、可逆的に利用できなくなった分のリチウムイオンを補う。プレドープ材は、正極活物質層24内に点在している。
【0028】
プレドープ材は、初回充放電前の段階で、リチウム化合物と炭素材料とが複合化した複合体である。リチウム化合物は、4.5V(vsLi/Li)以上の電圧で分解するものである。
【0029】
vsLi/LiはLiの平衡電位を基準とすることを示す。また「分解する」とは、完全に分解が完了しきることに限られず、少なくとも一部の分解が始まればよい。また「複合化」とは、物理的にくっついて、一体化した状態である。例えば、リチウム化合物と炭素材料とが互いに絡み合い分離できない状態は、複合化された状態の一例である。4.5V(vsLi/Li)以上の電圧で分解するリチウム化合物は、例えば、LiCo、LiO、CHCOLi、LiOOCCOOLi、LiIである。
【0030】
プレドープ材は、初回充放電後の段階で、2つ状態となる。第1の状態は、リチウム化合物が分解することで、炭素材料のみが残った状態である。第1の状態は、プレドープ材からリチウム化合物が除かれ、炭素材料による骨格のみが残った状態である。例えば、炭素材料による骨格の中に空隙が内包された状態である。炭素材料による骨格は、例えば、籠状、卵の外殻状等の形状となる。第2の状態は、リチウム化合物の少なくとも一部が分解せず残存し、リチウム化合物と炭素材料とが複合化された複合体の状態である。リチウム化合物の全てが分解すると第2の状態にはならないが、リチウム化合物の一部は残存するため、複合体も残存する。すなわち、充放電後のリチウムイオン二次電池からもリチウム化合物は検出される。
【0031】
バインダーは、正極活物質層24における正極活物質25同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。バインダーは、例えば、フッ素樹脂である。フッ素樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等である。
【0032】
上記の他に、バインダーは、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムでもよい。
【0033】
<負極>
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に形成されている。
【0034】
[負極集電体]
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0035】
[負極活物質層]
負極活物質層34は、負極活物質を含む。また必要に応じて、導電助材、バインダーを含んでもよい。
【0036】
負極活物質は、リチウムと合金反応を生じる材料である。負極活物質は、シリコン又は酸化シリコンを含む。シリコン又は酸化シリコンは、リチウムと合金化することで、リチウムイオンを吸蔵する。またこの可逆反応により、リチウムイオンを放出する。負極30はSi負極と呼ばれることがある。
【0037】
導電助材及びバインダーは、正極20と同様のものを用いることができる。負極30におけるバインダーは、正極20に挙げたものの他に、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。セルロースは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)でもよい。
【0038】
(端子)
端子60、62は、それぞれ正極20と負極30とに接続されている。正極20に接続された端子60は正極端子であり、負極30に接続された端子62は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0039】
(外装体)
外装体50は、その内部に発電素子40及び電解液を密封する。外装体50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
【0040】
外装体50は、例えば図1に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
【0041】
金属箔52としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層54には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0042】
(電解液)
電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。電解液は、非水電解液であり、例えば、非水溶媒と電解質とを有する。電解質は、非水溶媒に溶解している。
【0043】
非水溶媒は、例えば、環状カーボネートと、鎖状カーボネートと、を含有する。環状カーボネートは、電解質を溶媒和する。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートである。鎖状カーボネートは、環状カーボネートの粘性を低下させる。鎖状カーボネートは、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。非水溶媒は、その他、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等を有してもよい。
【0044】
非水溶媒中の環状カーボネートと鎖状カーボネートの割合は体積比にして、例えば、1:9~1:1である。
【0045】
電解質は、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等である。
【0046】
電解液は、フルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートとを含む。詳細は後述するがフルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートは、プレドープ材の表面で電解液が分解することを阻害する。
【0047】
電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの割合と、電解液におけるビニレンカーボネートの割合とは、0.001≦Y/X≦0.01を満たす。ここで、Xは、電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの割合であり、Yは電解液におけるビニレンカーボネートの割合である。
【0048】
電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの割合Xは、例えば、20wt%以下であり、5wt%以上20wt%以下であってもよい。電解液におけるビニレンカーボネートの割合Yは、例えば、0.05wt%以下であり、0.005wt%以上0.5wt%以下であってもよい。
【0049】
「リチウムイオン二次電池の製造方法」
まずプレドープ材を作製する。プレドープ材は、リチウム化合物と炭素材料とを複合化することで得られる。例えば、リチウム化合物と炭素材料とを機械的なエネルギーを与えながら混ぜ合わせると、リチウム化合物と炭素材料とが複合化する。機械的なエネルギーは、例えば、衝撃、圧縮、せん断、ずり応力、摩擦等である。複合化工程では、機械的なエネルギーによってリチウム化合物及び炭素材料を破砕しながら、混ぜ合わしてもよい。ボールミルを用いた混合、メカノケミカル処理は、複合化処理の一例である。メカノケミカル処理は、例えば、ホソカワミクロン株式会社製のノビルタを用いて行うことができる。
【0050】
次いで、正極20を作製する。正極20は、正極活物質、プレドープ材、導電助剤、バインダー及び溶媒を混合して、ペースト状の正極スラリーを作製する。正極スラリーを構成するこれらの成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。次いで、正極スラリーを、正極集電体22に塗布する。塗布方法は、特に制限はない。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
【0051】
続いて、正極集電体22上に塗布された正極スラリー中の溶媒を除去する。除去方法は特に限定されない。例えば、正極スラリーが塗布された正極集電体22を、80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させる。次いで、得られた塗膜をプレスして、正極活物質層24を高密度化することで、正極20が得られる。プレスの手段は、例えばロールプレス機、静水圧プレス機等を用いることができる。
【0052】
次いで、負極30を作製する。負極30は、正極20と同様に作製できる。負極30は、負極活物質、バインダー及び溶媒を混合して、ペースト状の負極スラリーを作製する。負極スラリーを負極集電体32に塗布し、乾燥することで負極30が得られる。
【0053】
次いで、作製した正極20及び負極30の間にセパレータ10が位置するようにこれらを積層して、発電素子40を作製する。発電素子40が捲回体の場合は、正極20、負極30及びセパレータ10の一端側を軸として、これらを捲回する。
【0054】
最後に、発電素子40を外装体50に封入する。電解液は外装体50内に注入する。電解液を注入後に減圧、加熱等を行うことで、発電素子40内に電解液が含浸する。熱等を加えて外装体50を封止することで、リチウムイオン二次電池100が得られる。
【0055】
そして、作製されたリチウムイオン二次電池100をエージングする。エージングは、作製されたリチウムイオン二次電池を予備充電する工程であり、不良品を除くことができる。エージングは、例えば、4.5V(vsLi/Li)以上の電圧で行う。
【0056】
エージングを行うと、リチウムイオンの一部は負極にトラップされる。負極にトラップされたリチウムイオンは、以後の反応では利用できない。負極にトラップされたリチウムイオンは、リチウムイオン二次電池100の不可逆容量の原因となる。不可逆容量は、放電容量と充電容量との差である。不可逆容量分のリチウムイオンが負極にトラップされることで、以後の充放電反応は安定化する。一方で、リチウムイオンが負極にトラップされると、充放電に寄与するリチウムイオンの量が減少する。減少した分のリチウムイオンは、プレドープ材に含まれるリチウム化合物が分解することで補充される。
【0057】
第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、初期効率が向上する。初期効率とは、リチウムイオン二次電池100の初回の充電に対する放電の効率である。以下、この理由について説明する。
【0058】
上述のように、プレドープ材に含まれるリチウム化合物が十分に分解することで、充放電に寄与するリチウムイオンの量が確保される。一方で、プレドープ材に含まれるリチウム化合物の分解が阻害されると、充放電に寄与するリチウムイオンの量が十分確保できず、初期特性が低下する。
【0059】
例えば、正極にプレドープ材を含み、電解液にフルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートを含まないリチウムイオン二次電池は、十分な初期特性を得ることができない。以下、この例を比較例と称する。発明者らは、この原因として、電解液の分解によりプレドープ材の表面に厚い被膜が形成されることにあると考えた。比較例にかかるリチウムイオン二次電池を高電圧(例えば、4.5V(vsLi/Li)以上の電圧)で充電すると、プレドープ材の表面で電解液が分解する。分解した電解液は、プレドープ材の表面に厚い被膜を形成する。厚い被膜は、リチウム化合物の分解反応を阻害する。リチウム化合物の分解が阻害されると、充放電に寄与するリチウムイオンの量が十分確保できず、初期特性が低下する。
【0060】
これに対し、第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電解液にフルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートを含む。フルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートは、電解液の分解反応を阻害する。
【0061】
フルオロエチレンカーボネートを電解液に添加すると、プレドープ材の表面にLiFと有機リチウム化合物からなる被膜が形成される。この被膜は、プレドープ材の表面における電解液の分解を阻害する。またこの被膜は、電解液の分解で生じる厚い被膜と異なり、薄く、リチウムを含む。そのため、リチウム化合物の分解反応をあまり阻害せず、リチウム化合物の分解により生じたリチウムイオンの移動も大きく阻害しない。
【0062】
またビニレンカーボネートを電解液に添加すると、被膜に含まれる有機リチウム化合物の割合が増加する。有機リチウム化合物の割合が増加すると、被膜のカバレッジ性が高まり、被膜の厚さが薄くなる。被膜のカバレッジ性が高まると、プレドープ材の表面における電解液の分解反応がより抑制される。その結果、プレドープ材の分解反応が進み、負極へのプレドープが十分に進み、リチウムイオン二次電池100の初期効率が改善する。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例
【0064】
「実施例1」
(正極の作製)
まずプレドープ材を作製した。80質量部のLiCoと20質量部のカーボンブラックとを準備し、ボールミルで1時間混合した。ボールミルによる混合によりLiCoとカーボンブラックとが複合化したプレドープ材が得られた。
【0065】
次いで、60質量部の正極活物質と20質量部のプレドープ材と10質量部の導電助剤と10質量部のバインダーとを混合し、正極合材を作製した。正極活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO)、導電助剤はカーボンブラック、バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)とした。この正極合剤を、N-メチル-2-ピロリドンに分散させて正極スラリーを作製した。そして、厚さ20μmのアルミニウム箔の一面に、正極活物質の塗布量が9.0mg/cmとなるように、スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去して正極活物質層を形成した。
【0066】
(負極の作製)
負極活物質と導電材とバインダーとを混合し、負極合材を作製した。負極活物質はシリコン、導電材はカーボンブラック、バインダーはカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)とした。負極活物質と導電材とバインダーは質量比で90:5:5とした。この負極合剤を、蒸留水に分散させて負極スラリーを作製した。そして、厚さ10μmの銅箔の一面に、負極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去して負極活物質層を形成した。
【0067】
(セルの作製)
作製した負極と正極とを、所定の形状に打ち抜き、厚さ25μmのポリプロピレン製のセパレータを介して交互に積層し、負極9枚と正極8枚とを積層することで積層体を作製した。
【0068】
積層体を、アルミラミネートフィルムの外装体内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより開口部を形成した。外装体内には、非水電解液を注入した。非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DEC)が等量混合された溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)1.0mol/Lを溶解させた。また非水電解液には、5wt%のフルオロエチレンカーボネートと、0.01wt%のビニレンカーボネートと、を添加した。電解液中におけるフルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートの割合の比Y/Xは、0.002であった。そして、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封し、実施例1に係るリチウムイオン二次電池を作製した。
【0069】
(初期効率の評価)
作製したリチウムイオン電池の初期効率を評価した。充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用い、25℃の恒温槽(エスペック株式会社製)内で電流密度80μA/cmの定電流充電で電池電圧が4.6Vとなるまで充電を行った後、電流密度80μA/cmの定電流放電で電池電圧が2.8Vとなるまで放電を行った。「初期効率=初回放電容量/初回充電容量×100」に従って初期効率を算出し、得られた値を表1に示す。
【0070】
「実施例2、3」
実施例2及び実施例3は、電解液に添加するビニレンカーボネートの添加量を変えた点が実施例1と異なる。
実施例2は、電解液に添加したビニレンカーボネートの添加量を0.005wt%のとした。実施例2の電解液中におけるフルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートの割合の比Y/Xは、0.001であった。
実施例3は、電解液に添加したビニレンカーボネートの添加量を0.05wt%のとした。実施例3の電解液中におけるフルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートの割合の比Y/Xは、0.01であった。実施例2及び実施例3も実施例1と同様に初期効率を評価した。
【0071】
「実施例4~6」
実施例4~6は、電解液中におけるフルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートの割合の比Y/Xを一定にし、添加するフルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートの添加量を変えた点が実施例1と異なる。
実施例4は、電解液に添加したフルオロエチレンカーボネートの添加量を3wt%とし、ビニレンカーボネートの添加量を0.006wt%のとした。
実施例5は、電解液に添加したフルオロエチレンカーボネートの添加量を10wt%とし、ビニレンカーボネートの添加量を0.02wt%のとした。
実施例6は、電解液に添加したフルオロエチレンカーボネートの添加量を20wt%とし、ビニレンカーボネートの添加量を0.04wt%のとした。
実施例4~6も実施例1と同様に初期効率を評価した。
【0072】
「実施例7」
実施例7は、プレドープ材が含有するリチウム化合物の種類を変更した点が実施例1と異なる。
実施例7は、プレドープ材が含有するリチウム化合物をLiOとした。
実施例7も実施例1と同様に初期効率を評価した。
【0073】
「実施例8~10」
実施例8~10は、正極活物質をコバルト酸リチウム(LiCoO)と他の正極活物質との混合系とした点が実施例1と異なる。正極活物質層における正極活物質の全体の質量部は60質量部のままとし、正極活物質の内訳を40質量部のコバルト酸リチウム(LiCoO)と20質量部の他の正極活物質とした。
実施例8は、他の正極活物質としてLiNi0.80Co0.10Mn0.10(NCM)を用いた。
実施例9は、他の正極活物質としてLiNi0.80Co0.15Al0.05(NCA)を用いた。
実施例10は、他の正極活物質としてLiFePO(LFP)を用いた。
実施例8~10も実施例1と同様に初期効率を評価した。
【0074】
「比較例1」
比較例1は、電解液にフルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートを添加しなかった点が実施例1と異なる。比較例1も実施例1と同様に初期効率を評価した。
【0075】
「比較例2」
比較例2は、電解液にフルオロエチレンカーボネートのみを添加し、ビニレンカーボネートを添加しなかった点が実施例1と異なる。比較例2は、電解液に添加したフルオロエチレンカーボネートの添加量を5wt%のとした。比較例2も実施例1と同様に初期効率を評価した。
【0076】
以下の表1に実施例1~10及び比較例1、2の結果をまとめた。
【0077】
【表1】
【符号の説明】
【0078】
10 セパレータ
20 正極
22 正極集電体
24 正極活物質層
30 負極
32 負極集電体
34 負極活物質層
40 発電素子
50 外装体
52 金属箔
54 樹脂層
60、62 端子
100 リチウムイオン二次電池
図1