(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20230801BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230801BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20230801BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20230801BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
B29C45/14
B29C45/26
B32B5/18
C08J9/36 CER
(21)【出願番号】P 2019517997
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013728
(87)【国際公開番号】W WO2019189631
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2018067928
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武部 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-147218(JP,A)
【文献】特開平07-060783(JP,A)
【文献】特開平03-253330(JP,A)
【文献】特開2006-077342(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110532(WO,A1)
【文献】特開2003-266476(JP,A)
【文献】特開平10-058573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04- 5/10、 5/24
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-45/84、67/20
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
B29B 11/16、15/08-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体(A)に射出成形体(B)が一体化されてなる成形品であって、
多孔質体(A)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm
3であり、
多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たし、
射出成形体(B)により、多孔質体(A)の少なくとも一つの面が覆われてな
り、
前記多孔質体(A)が連続多孔質体であるとともに、強化繊維(A-1)と熱可塑性樹脂(A-2)とを含んでなり、
前記射出成形体(B)が熱可塑性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂と多孔質体(A)を構成する熱可塑性樹脂とは、融着により接合されてなるとともに、
前記射出成形体(B)が多孔質体(A)内に浸入してアンカリングが形成されており、前記アンカリング深さは10μm~100μmの範囲内である、成形品。
【請求項2】
多孔質体(A)に射出成形体(B)が一体化されてなる成形品であって、
多孔質体(A)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm
3であり、
多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たし、
射出成形体(B)により、多孔質体(A)の成形体の表面の少なくとも一部が覆われてな
り、
前記多孔質体(A)が連続多孔質体であるとともに、強化繊維(A-1)と熱可塑性樹脂(A-2)とを含んでなり、
前記射出成形体(B)が熱可塑性樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂と多孔質体(A)を構成する熱可塑性樹脂とは、融着により接合されてなるとともに、
前記射出成形体(B)が多孔質体(A)内に浸入してアンカリングが形成されており、前記アンカリング深さは10μm~100μmの範囲内である、成形品。
【請求項3】
多孔質体(A)の最小厚みが3mm以上である、請求項1または2に記載の成形品。
【請求項4】
射出成形体(B)の最大厚みが1mm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の成形品。
【請求項5】
多孔質体(A)が連続多孔質体であり、
強化繊維(A-1)は、質量平均繊維長が1mm以上15mm以下の炭素繊維であって、
熱可塑性樹脂(A-2)を介して相互に結合して空隙を形成する、請求項
1~4のいずれかに記載の成形品。
【請求項6】
前記強化繊維が略モノフィラメント状である、請求項
1~5のいずれかに記載の成形品。
【請求項7】
前記強化繊維が多孔質体(A)中にランダムに分散してなる、請求項
1~6のいずれかに記載の成形品。
【請求項8】
多孔質体(A)の全表面のうちの80%以上が射出成形体(B)で覆われてなる、請求項1~
7のいずれかに記載の成形品。
【請求項9】
金型キャビティに多孔質体(a)をインサートする工程、金型を締結する工程、熱可塑性樹脂を含む成形材料(b)を溶融後に射出する工程、前記射出成形工程によりその形状を形成する成形工程、を含む成形品の製造方法において、
多孔質体(a)は、見かけ密度が0.05~0.8g/cm
3、かつ、ISO844;2004に基づいて測定される10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上であり、
成形材料(b)は熱可塑性樹脂を含む、
請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質体(a)が、以下を満足する請求項
9に記載の成形品の製造方法。
(1)熱可塑性樹脂の体積含有率が2.5体積%以上85体積%以下
(2)強化繊維の体積含有率が0.5体積%以上55体積%以下
(3)空隙の体積含有率が10体積%以上97体積%以下
【請求項11】
前記多孔質体(a)は、ISO844;2004で測定される10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上である、請求項
9または10に記載の成形品の製造方法。
【請求項12】
下式で求められる射出成形後の多孔質体(A)の多孔質体(a)からの見かけ密度の変化率が10%以下である、請求項
9~11のいずれかに記載の成形品の製造方法。
見かけ密度の変化率[%]={(多孔質体(A)の見かけ密度-多孔質体(a)の見かけ密度)/多孔質体(a)の見かけ密度}×100
【請求項13】
前記射出成形工程において、射出圧力が30MPa以上である、請求項
9~12のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項14】
金型キャビティに多孔質体(a)を前記インサートする工程において、多孔質体(a)は、ニードル機構またはメカニカルクランプ機構を具備した把持機構により位置決めされる、請求項
9~13のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【請求項15】
射出成形工程において、成形金型の金型温度は、多孔質体(a)を構成する熱可塑性樹脂の融点より40~120℃低い範囲内である、請求項
9~14のいずれかに記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ成形品の厚み自由度を両立し、さらにヒケの抑制された成形品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、スポーツ製品等の産業用製品については、剛性や軽量性の向上に対する市場要求が高い。このような要求に応えるべく、剛性や軽量性に優れる繊維強化樹脂は、各種産業用途に幅広く利用されている。これら用途では強化繊維の優れた力学特性を活用した高強度、高剛性部材に適応する製品開発が主であった。また、繊維強化樹脂からなる成形品を製品化するにあたっては、形状による高剛性化を実現するために、厚みの厚い部材の設計要求や、製品ごとの様々なデザイン要求にも応える必要があった。そのため、形状の形成に有利な射出成形を代表とする、溶融ないし未硬化の樹脂を金型キャビティに注入する手法が採用されている。しかし、これら軽量性や剛性を満足し、かつ、形状の形成までも考慮した成形品やその製造方法については、表面材となる熱可塑性樹脂と、剛性を担保する部材やコア材の接着接合に焦点を当てた手法など、一部の成形方法しか開示されていなかった(特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3019527号公報
【文献】特開2007-76081号公報
【文献】特許第6248466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、軽量性を満足しつつ、要求される様々な形状を実現するために射出成形などの形状の形成に優れる手法を採用した特許文献1や2、3に記載の方法では、所望の形状は形成できても、多孔質体を用いるなどの思想がないため、軽量性、すなわち成形品の密度や比重を満足することができない問題があった。また、射出成形を用いた成形品の製造方法においても、得られた成形品では、一般的にヒケと呼ばれる製品形状の厚肉部分に見られるへこみが解消されず、必ずしも成形方法として適したものではなかった。
【0005】
そこで本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、軽量かつ成形品の厚み自由度を向上させることで剛性の向上が得られ、さらにヒケの抑制された成形品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは以下に示す成形品及びその製造方法を見出すに至った。
【0007】
本発明の成形品は、多孔質体(A)に射出成形体(B)が一体化されてなる成形品であって、多孔質体(A)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm3であり、
多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たし、射出成形体(B)により、多孔質体(A)の少なくとも一つの面が覆われてなる、成形品である。
【0008】
また、本発明の成形品の別の態様は、多孔質体(A)に射出成形体(B)が一体化されてなる成形品であって、
多孔質体(A)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm3であり、
多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たし、
射出成形体(B)により、多孔質体(A)の成形体の表面の少なくとも一部が覆われてなる、成形品である。
【0009】
さらに、本発明の成形品の製造方法は、金型キャビティに多孔質体(a)をインサートする工程、金型を締結する工程、熱可塑性樹脂を含む成形材料(b)を溶融後に射出する射出成形工程、前記射出成形工程によりその形状を形成する成形工程、を含む成形品の製造方法において、多孔質体(a)は、見かけ密度が0.05~0.8g/cm3、かつ、ISO844:2004に基づいて測定される10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上であり、成形材料(b)は熱可塑性樹脂を含む成形品の製造方法である。
【0010】
上記において、射出成形体(B)が一体化されてなる前の多孔質体(A)を多孔質体(a)としている。また、射出成形体(B)は成形材料(b)を溶融後、射出する射出成形工程により得られるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る成形品およびその製造方法によれば、軽量かつ成形品の厚み自由度を両立し、さらにヒケの抑制された形状安定性に優れる成形品およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明で用いる多孔質体(a)または多孔質体(A)における強化繊維の分散状態の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の成形品の製造方法(メカニカルクランプ機構)の一例を示す模式図である。
【
図4】本発明の成形品の製造方法(ニードル機構)の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の成形品およびその製造方法について説明する。
【0014】
本発明の成形品の第1の態様は、多孔質体(A)に射出成形体(B)が一体化されてなる成形品であって、多孔質体(A)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm3であり、
多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たし、射出成形体(B)により、多孔質体(A)の少なくとも一つの面が覆われてなる、成形品である。本態様においては、多孔質体(A)が複数の面から構成される形状であり、射出成形体(B)によって、多孔質体(A)の複数の面のうち、少なくとも一つの面が覆われているものである。ここでいう面とは平面であってもよいし曲面であってもよい。複数の面から構成されるとは、稜線に囲まれた少なくとも1つの独立した領域と、他の領域とから構成されることをいう。稜線とはその両側の面の接面が交差する線であり、稜部分が丸まっている場合でも、曲率半径が1mm以下の場合は曲面ではなく稜線と判断することとする。
【0015】
本発明の成形品の第2の態様は、多孔質体(A)に射出成形体(B)が一体化されてなる成形品であって、 多孔質体(A)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm3であり、多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たし、射出成形体(B)により、多孔質体(A)の成形体の表面の少なくとも一部が覆われてなる、成形品である。本態様においては、射出成形体(B)により、多孔質体(A)の成形体の表面の少なくとも一部が覆われていれば、多孔質体(A)は1つの連続した曲面から構成されてもよいし、複数の面から構成されてもよい。
【0016】
〔成形品〕
本発明の成形品は多孔質体(A)に射出成形体(B)が一体化されてなる。多孔質体(A)と射出成形体(B)が一体化されることで、射出成形体(B)のみでは成し得ない軽量性を得ることができる。また、多孔質体(A)のみでは成し得ない剛性に代表される力学特性と成形品の表面性を得ることができる。ここで一体化されるとは、多孔質体(A)と射出成形体(B)が互いに接する境界面において接着ないし接合してなることを指す。ここで、接着とは、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂がそれらの境界面において化学的な結合を有して一体化された状態をいい、この場合の化学的な結合には、境界面両側の樹脂が融着や溶着により界面で混ざり合って結合する態様を含む。また、接着剤層を介して境界面を挟むそれぞれの樹脂が接着剤層と化学結合する態様も含むものとする。接合とは、境界面において機械的な噛み合わせ、すなわちアンカリングにより結合している態様を指す。かかる多孔質体(A)と射出成形体(B)との一体化の形態の具体例としては、多孔質体(A)と射出成形体(B)が、互いのマトリックス樹脂が融着することにより一体化する態様や、接着性を有する熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を予め、多孔質体(A)と射出成形体(B)の境界面となる箇所に設置しておき、後述する製造方法中に加わる熱や加圧力により融着させて一体化する態様や、多孔質体(A)中の空隙部分に射出成形体(B)中の樹脂成分が浸入することでアンカリング構造を形成して一体化する態様、などが例示できる。
【0017】
また、多孔質体(A)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm3である。ここで、多孔質体(A)の見かけ密度は、成形品から多孔質体(A)のみを試験片として切り出し、JIS K7222(2005)に基づいて測定する。多孔質体(A)の見かけ密度を取得する際に、多孔質体(A)の射出成形体(B)と接してなる面から、多孔質体の中心方向(深さ方向)に20%以上の厚みを除去した多孔質体(A)を測定に用いることで精度良く見かけ密度を得ることができる。多孔質体(A)の見かけ密度が0.8g/cm3より大きい場合、成形品の質量が高いものとなるので好ましくない。見かけ密度の下限値である0.05g/cm3を下回る場合、軽量性には優れるが、多孔質体(A)中の固体の体積割合が小さくなりすぎるため、力学特性、とりわけ圧縮特性が低いものとなる。多孔質体(A)の力学特性を確保するという観点から、多孔質体(A)の見かけ密度は0.1g/cm3以上であることが好ましく、さらに、見かけ密度と力学特性のバランスを考慮すると、多孔質体(A)の見かけ密度は0.2g/cm3以上が好ましい。
【0018】
また、多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たすものである。すなわち、本成形品は射出成形体(B)の平均厚み(tB)の3倍以上の厚みを有する多孔質体(A)と一体化されている必要があり、これにより、通常の射出成形体では成し得ない大きな厚みを有する成形品を得ることができるとともに、相対的に射出成形体(B)の厚みを薄くすることができるため、従来、厚みの厚い射出成形品で発生するヒケを抑制しやすくなり、成形品の寸法精度や歩留まりを向上させることができる。多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBの関係を満たさない場合、多孔質体の見かけ密度が小さいことによる成形品の見かけ密度を低減する効果を十分に活かすことができず、軽量化効果が不十分となる。また、多孔質体の厚みを薄くした場合には、上述した成形品の表面に、射出成形体にヒケが発生することがある。
【0019】
多孔質体(A)の最大厚みは3mm以上であることが、成形品の軽量性を向上させる観点から好ましく、さらに好ましくは5mm以上、とりわけ好ましくは10mm以上である。上限については特に限定されないが、本発明の成形品を用いた製品設計の観点から上限を設定すればよい。多孔質体(A)の最小厚みは3mm以上であることが、成形品の軽量性を向上させる観点から好ましく、さらに好ましくは5mm以上、とりわけ好ましくは10mm以上である。多孔質体(A)の最小厚みの上限については特に限定されないが、通常1000mm以下とすることが好ましい。
【0020】
ここで、多孔質体(A)のどの方向を厚み方向とするのか判定が困難である場合、強化繊維に主な配向方向があるといえるときには、強化繊維の主な配向方向を面内方向、該面内方向に対する直交方向を面外方向としたとき、射出成形体(B)との境界を起点とした面外方向を厚み方向とする。または、多孔質体(A)の厚みとして多孔質体(A)と射出成形体(B)との境界面の接面に垂直な方向を厚みとすることもできる。なお、多孔質体(A)に射出成形体(B)がアンカリングにより結合している態様により一体化されてなる成形品の場合の多孔質体(A)と射出成形体(B)との境界面については、射出成形体(B)の樹脂がアンカリングで進入しているところまでを射出成形体(B)として判断する。
【0021】
次いで、射出成形体(B)は、その最大厚みが1mm以下であることが、成形品のヒケ抑制の観点から好ましい。さらに、成形品の軽量性の観点を鑑みると好ましくは0.8mm以下、とりわけ好ましくは0.5mm以下である。下限については特に限定されないが、通常0.1mm以上とすることが好ましい。ここで、射出成形体(B)のどの方向を厚み方向とするのか判定が困難である場合は、射出成形体(B)の最も広い面積を有する面の面内方向に対して直交方向を面外方向としたとき、面外方向における多孔質体(A)との境界を起点とした面外方向を厚み方向とする。または、多孔質体(A)の場合と同様に、境界面を定義し、多孔質体(A)と射出成形体(B)との境界面の接面に垂直な方向を厚みと定義することもできる。
【0022】
ここで、多孔質体(A)の平均厚みtA、射出成形体(B)の平均厚みtBは、下記の方法で測定することができる。成形品にて任意に選んだ多孔質体(A)と射出成形体(B)との境界面の接面に垂直な線を含む断面を切断により露出させて測定点とし、その断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて、多孔質体(A)の厚みおよび射出成形体(B)の厚みをそれぞれ測定し、算術平均により代表値とする方法が挙げられる。なお、また、測定点は多いほど好ましいが、現実的な範囲として等間隔に10点も測定すれば良い。これら測定点の厚みデータから、多孔質体(A)における厚みの最小値と、射出成形体(B)における厚みの最大値を得ることで、多孔質体(A)の最小厚み、射出成形体(B)の最大厚みについても求めることができる。
【0023】
なお、断面において多孔質体(A)および射出成形体(B)の厚みが一定でない成形品の最も厚みの薄い箇所を測定する場合は、成形品にて任意に選んだ5箇所以上の多孔質体(A)と射出成形体(B)との境界面の接面に垂直な線を含む断面を切断して露出させ、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて、各々の断面における多孔質体(A)の厚みおよび射出成形体(B)の厚みをそれぞれ、等間隔に10点以上、測定し、最も厚みの薄い箇所を代表値として用いる方法が挙げられる。
【0024】
本発明の第1の態様の成形品は、射出した溶融状態の成形材料(b)により、見かけ密度が0.05~0.8g/cm3、かつISO844;2004で測定される10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上の多孔質体(a)の少なくとも一つの面を覆わせることにより得ることができる。また、本発明の第2の態様の成形品は、射出した溶融状態の成形材料(b)により、見かけ密度が0.05~0.8g/cm3、かつISO844;2004で測定される10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上の多孔質体(a)の表面の少なくとも一部を覆わせることにより得ることができる。
【0025】
上記、成形材料(b)により多孔質体(a)の少なくとも一つの面、または、表面の少なくとも一部が覆われて一体化する、後述の製造工程において、溶融状態の成形材料(b)が冷却されることで射出成形体(B)となる。
【0026】
本発明に係る成形品においては、一方向から投影した多孔質体(A)の投影像の全面積の80%以上が射出成形体(B)で覆われてなることが、射出成形体(B)の表面性を成形品に余すところなく付与できる観点、および射出成形体(B)が覆われていない箇所が脆弱部となり成形品の力学特性を低下させる懸念が極小化する観点から好ましい。同様の観点から、さらに好ましくは投影像の全面積の90%以上が射出成形体(B)で覆われたものであり、とりわけ好ましくは100%である。上記「被覆率」は、成形品の投影面積(S1)をレーザー顕微鏡で10倍に拡大し、取得した観察画像を汎用画像解析ソフトウェアなどに展開し、成形品全体の面積(S1)を求め、次いで、成形品から多孔質体(A)が露出している箇所の面積(S2)を同様にレーザー顕微鏡を用いて面積を測定し、下式により算出する。
射出成形体による被覆率(%)=S2/S1×100
上述の多孔質体(a)への成形材料(b)の浸入の容易さの観点から多孔質体(a)は、成形材料(b)が接触する箇所は、少なくとも連続多孔質体であることが好ましい。
多孔質体(a)における空隙の連続形態については、少なくとも後述する浸入深さを形成できる深さまでは空隙が連続していることが好ましく、必ずしも多孔質体(a)の全てにおいて空隙が連続している必要はなく、成形材料(b)が侵入しない箇所については空隙が独立した空隙であってもかまわない。
【0027】
さらに、多孔質体(A)と射出成形体(B)の一体化をより強固なものとするために、多孔質体(a)に浸入している成形材料(b)のアンカリング深さが10μm~100μmの範囲内であることが好ましい。これは、多孔質体(A)と射出成形体(B)の一体化の態様として、いわゆるアンカリング構造を有することにより強固な接合状態をその境界面で形成できるためである。さらに好ましくは30μm~100μm、とりわけ好ましくは、50μm~100μmの範囲内である。
【0028】
アンカリング深さは、以下のようにして求める。成形品から小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋したうえで、成形品の厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨して試料を作製する。前記試料をレーザー顕微鏡で拡大し、互いの視野が重複しない10ヶ所を無作為に選定して、撮影をおこなう。撮影した画像から、多孔質体(A)を構成する樹脂と、射出成形体(B)を構成する樹脂との境界層における、両樹脂の明度差により確認する。多孔質体(A)を構成する樹脂と、射出成形体(B)を構成する樹脂との境界層において、明度差の境界が明瞭に観察されない場合は融着と判断する。上記にて撮影した10視野について、それぞれの視野において、多孔質体(A)を構成する樹脂と、射出成形体(B)を構成する樹脂との境界層において、明度差を示す境界が明瞭に観察され、その境界が凹凸形状をなすものをアンカリングしているものと判断し、アンカリング深さは次のように定義する。かかる境界の凹凸のうち、最も窪みの大きい凹部と最も突出の大きい凸部との垂直落差を各視野における最大垂直落差dmax、最も窪みの小さい凹部と最も突出の小さい凸部との垂直落差を各視野における最小垂直落差dminとして、それぞれ測定する。これら各視野による10点のdmaxのうち、最も大きい値を境界層における凹凸形状の最大高さRy(μm)とする。また、上記にて得られたdmaxおよびdminから、境界層における凹凸形状の平均粗さRzをアンカリング深さとし、次式により算出する。
・Rz(μm)=Σ(dimax+dimin)/2n
dimax:各視野における最大垂直落差(i=1、2、・・・10)(μm)
dimin:各視野における最小垂直落差(i=1、2、・・・10)(μm)
さらに、多孔質体(A)と射出成形体(B)の一体化をより強固なものとするために、多孔質体(a)を構成する熱可塑性樹脂と、成形材料(b)を構成する熱可塑性樹脂が融着による接合と、上記浸入深さからなるアンカリング構造とが、併用して採用されても良い。
【0029】
さらに、一体化される前の多孔質体(a)と、一体化された後の成形品における多孔質体(A)と比べた場合の、見かけ密度の変化率が10%以下であることが、成形品の形状安定性の観点から好ましい製造条件としてあげることができる。かかる製造条件は、優れた圧縮強度を有する多孔質体(a)を用いること、例えば、多孔質体(a)の構成成分として強化繊維を用いることにより適用することができる。強化繊維の強度により、例えば、射出成形などの高い圧力が加わる一体化手法を用いた場合においても、多孔質体(A)の寸法の変化が起こりにくいため、結果として、成形品のヒケを抑制することができるためである。上記と同様の観点から原料である多孔質体(a)と、成形品における多孔質体(A)と比べた場合の、見かけ密度の変化率が5%以下であることがさらに好ましい。ここで、多孔質体(a)の見かけ密度は、JIS K7222(2005)に基づいて測定することができる。また、この多孔質体(a)と多孔質体(A)の見かけ密度を用い見かけ密度の変化率を下式により算出することができる。
見かけ密度の変化率[%]={(多孔質体(A)の見かけ密度-多孔質体(a)の見かけ密度)/多孔質体(a)の見かけ密度}×100
〔多孔質体(a)〕
本発明に用いられる多孔質体(a)は、その見かけ密度が0.05~0.8g/cm3であり、かつISO844;2004に基づいて測定される10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上である。多孔質体(a)の見かけ密度が0.8g/cm3より大きい場合、多孔質体(A)とした場合の質量が増すことを意味し、結果、成形品とした場合の質量の増加を招くこととなるので好ましくない。見かけ密度の下限値である0.05g/cm3を下回る場合、軽量性には優れるが、多孔質体(a)を構成する固体の体積割合が小さくなりすぎるため、力学特性、とりわけ圧縮特性が低いものとなる。多孔質体(a)の力学特性を確保するという観点から、多孔質体(a)の見かけ密度は0.1g/cm3以上であることが好ましく、さらに、見かけ密度と力学特性のバランスを考慮すると、多孔質体(a)の見かけ密度は0.2g/cm3以上が好ましい。
【0030】
多孔質体(a)のISO844;2004に基づいて測定される10%圧縮時の圧縮強度は1.5MPa以上であることが、成形品の形態保持の観点から好ましい。ここで圧縮試験の試験方向は面外方向となる様にサンプルを切り出しものとする。多孔質体(a)が強化繊維を含有する場合の面外方向とは、断面の観察に基づき測定される強化繊維の配向方向と直交する方向とする。また、多孔質体(a)が強化繊維を含有しない場合には、最も面積が広い面を基準とし、これと直交する方向を面外方向として、圧縮強度を測定するものとする。ここで、配向方向とは強化繊維の長さ方向を意味する。10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上であることにより、多孔質体(a)は形状保持性に優れ、かつ、成形材料(b)を用いた射出成形時の射出圧力による寸法変化を防止することができるためである。10%圧縮時の圧縮強度は、1.5MPa以上あれば実用上問題ないが、好ましくは5MPa以上である。かかる10%圧縮時の圧縮強度に上限の制限はないものの、強化繊維とマトリックス樹脂の各々の強度と、空隙の含有率の関係から、通常50MPaあれば十分である。
【0031】
ここで、多孔質体(a)および多孔質体(A)は、強化繊維(A-1)と、熱可塑性樹脂(A-2)を含んでなることが多孔質体(a)の製造の容易さ、成形材料(b)との接合性の観点から好ましい。(なお以降、特にことわりのない限り強化繊維(A-1)を強化繊維と称す。また、熱可塑性樹脂(A-2)を熱可塑性樹脂と称す)。強化繊維としては、アルミニウム、黄銅、ステンレス等の金属繊維、PAN系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス等の絶縁性繊維、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリエチレン等の有機繊維、シリコンカーバイト、シリコンナイトライド等の無機繊維を例示できる。また、これらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理の他に、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理等がある。また、これらの繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、軽量化効果の観点から、比強度、比剛性に優れるPAN系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られる成形品の経済性を高める観点からは、ガラス繊維が好ましく用いられ、とりわけ力学特性と経済性とのバランスから炭素繊維とガラス繊維とを併用することが好ましい。さらに、得られる成形品の衝撃吸収性や賦形性を高める観点からは、アラミド繊維が好ましく用いられ、とりわけ力学特性と衝撃吸収性とのバランスから炭素繊維とアラミド繊維とを併用することが好ましい。また、本発明の成形品に導電性を付与する観点からは、導電性を有する金属からなる金属繊維やニッケルや銅やイッテルビウム等の金属を被覆した強化繊維を用いることもできる。これらの中で、強度と弾性率等の力学特性に優れる金属繊維、ピッチ系炭素繊維、及びPAN系炭素繊維からなる群より選ばれる強化繊維をより好ましく用いることができる。
【0032】
強化繊維における略モノフィラメント状とは、強化繊維単糸が500本未満の細繊度ストランドにて存在することを指す。モノフィラメント状、つまり単糸として分散していることがさらに好ましい。
【0033】
ここで、略モノフィラメント状、又は、モノフィラメント状に分散しているとは、多孔質体(a)または多孔質体(A)中にて任意に選択した強化繊維について、その二次元配向角が1度以上である単繊維の割合(以下、繊維分散率とも称す)が80%以上であることを指し、言い換えれば、多孔質体(a)中において単繊維の2本以上が接触して平行した束が20%未満であることをいう。従って、ここでは、少なくとも強化繊維におけるフィラメント数100本以下の繊維束の質量分率が100%に該当するものが特に好ましい。強化繊維をかかる態様とすることで、多孔質体(a)の前駆体を、外力を加えて成形する場合に、複雑形状への賦型が容易となる。
【0034】
さらに、強化繊維はランダムに分散していることが、より好ましい。ここで、強化繊維がランダムに分散しているとは、多孔質体(a)における任意に選択した強化繊維の二次元配向角の算術平均値が30度以上、60度以下の範囲内にあることをいう。かかる二次元配向角とは、強化繊維の単繊維とこの単繊維と交差する単繊維とで形成される角度のことであり、交差する単繊維同士が形成する角度のうち、0度以上、90度以下の範囲内にある鋭角側の角度と定義する。強化繊維をかかる態様とすることで、強化繊維によって形成された空隙が緻密化し、多孔質体(a)中における強化繊維の繊維束端における弱部が極小化できるため、優れた補強効率及び信頼性に加えて、等方性も付与される。
【0035】
この二次元配向角について、図面を用いてより詳細に説明する。
図1(a)は、強化繊維の分散状態を二次元に投影した模式図、
図1(b)は強化繊維の分散状態を断面方向から見た模式図である。
図1(a)において、単繊維1aを基準とすると、単繊維1aは他の単繊維1b~1fと交差している。ここで、交差とは、観察する二次元平面(投影面)において、基準とする単繊維が他の単繊維と交わって観察される状態のことを意味し、単繊維1aと単繊維1b~1fとが三次元空間において必ずしも接触している必要はない。図を用いて詳しく説明すると、
図1(b)は、単繊維1aの長さ方向に対して垂直に切断した断面図で、単繊維1aは、紙面の奥に向かって伸びている。単繊維1aと1eおよび1fとは単繊維同士が接触していない。しかしながら、
図1(a)に示すように二次元に投影した際、単繊維1aと単繊維1b~1fは交差しており、二次元配向角が存在する。つまり、交差とは、投影して見た場合に交わって観察される状態を含んでいる。つまり、基準となる単繊維1aについて見た場合、単繊維1b~1fの全てが二次元配向角の評価対象であり、
図1(a)中において二次元配向角は交差する2つの単繊維が形成する2つの角度のうち、0°以上、90°以下の範囲内にある鋭角側の角度である(
図1(a)に、二次元配向角2を示す)。
【0036】
二次元配向角を測定する方法としては、特に制限はないが、例えば、多孔質体(a)または多孔質体(A)の表面から強化繊維の配向を観察する方法を例示できる。二次元配向角の平均値は、次の手順で測定する。すなわち、無作為に選択した単繊維(
図1における単繊維1a)に対して交差している全ての単繊維(
図1における単繊維1b~1f)との二次元配向角の平均値を測定する。例えば、ある単繊維に交差する別の単繊維が多数の場合には、交差する別の単繊維を無作為に20本選び測定した算術平均値を代用してもよい。この測定を別の単繊維を基準として合計5回繰り返し、その算術平均値を二次元配向角の算術平均値として算出する。
【0037】
強化繊維が略モノフィラメント状、且つ、ランダムに分散していることで、上述した略モノフィラメント状に分散した強化繊維により与えられる性能を最大限まで高めることができる。また、多孔質体(a)または多孔質体(A)に力学特性に等方性を付与できる。かかる観点から、強化繊維の繊維分散率は90%以上であることが好ましく、100%に近づくほどより好ましい。また、強化繊維の二次元配向角の算術平均値は、40°以上、50°以下の範囲内にあることが好ましく、理想的な角度である45°に近づくほど好ましい。二次元配向角の好ましい範囲としては、上記した上限のいずれの値を上限としてもよく、上記した下限のいずれの値を下限としてもよい。
【0038】
一方、強化繊維がランダムに分散した形態をとらない例としては、強化繊維が一方向に配列されてなるシート基材、織物基材、及びノンクリンプ基材等がある。これらの形態は、強化繊維が規則的に密に配置されるため、多孔質体(a)中の空隙が少なくなってしまい、樹脂の含浸が極めて困難となり、未含浸部を形成したり、含浸手段や樹脂種の選択肢を大きく制限したりする場合がある。
【0039】
強化繊維の形態としては、所定長に切断された有限長の不連続な強化繊維を用いると、熱可塑性樹脂を容易に含浸させたり、その量を容易に調整できたりする観点から好ましい。
【0040】
次いで、本発明における熱可塑性樹脂は、少なくとも1種類以上の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂としては、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィン、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等のポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」等の結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」等の非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、さらにポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、及びアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体及び変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂を例示できる。中でも、得られる多孔質体(a)および多孔質体(A)の軽量性の観点からはポリオレフィンが好ましく、強度の観点からはポリアミドが好ましく、表面外観の観点からポリカーボネートやスチレン系樹脂のような非晶性樹脂が好ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが好ましく、連続使用温度の観点からポリエーテルエーテルケトンが好ましく、さらに耐薬品性の観点からフッ素系樹脂が好ましく用いられる。
【0041】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明に係る多孔質体(a)および多孔質体(A)は樹脂成分の1つとして、エラストマー又はゴム成分等の耐衝撃性向上剤、他の充填材や添加剤を含有してもよい。充填材や添加剤の例としては、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、又は、カップリング剤を例示できる。
【0042】
また、多孔質体(a)および多孔質体(A)が、強化繊維(A-1)と熱可塑性樹脂(A-2)とを含んでなるものの場合、熱可塑性樹脂(A-2)は、多孔質体(a)において強化繊維の交点を目留めしたり、への射出成形体の樹脂のアンカリングを促進させたり、多孔質体(a)の力学特性の向上などの機能を有する、バインダーとして働く。
【0043】
本発明における多孔質体(a)を製造する際の熱可塑性樹脂の形態としては、シート、フィルム、不織布、繊維、粒子、液体の形態を適宜選択することができる。その形態については、多孔質体(a)を用いて得られる成形品の力学特性や、成形品の製造方法における各工程を阻害しない範囲で適宜選択することができる。
【0044】
多孔質体(a)および多孔質体(A)中の強化繊維(A-1)は、質量平均繊維長が、1~15mmであることが、強化繊維の補強効率を高めることができ、多孔質体(a)に優れた圧縮特性を付与できるため好ましい。強化繊維の質量平均繊維長が1mm以上であることにより、多孔質体(a)中の空隙を効率よく形成できるため、見かけ密度を低くすることができ、言い換えれば、同一質量でありながら所望する厚みの多孔質体(a)を得ることが容易となるので好ましい。強化繊維の質量平均繊維長が15mm以下の場合には、多孔質体(a)および多孔質体(A)中で強化繊維が、自重により屈曲しにくく、圧縮強度の発現を阻害しないため好ましい。多孔質体(a)および多孔質体(A)を構成する強化繊維(A-1)の質量平均繊維長は、次のようにして求めることができる。多孔質体(a)の樹脂成分や多孔質体(A)の場合は多孔質体中の樹脂成分に加えて射出成形体(B)を焼き飛ばしや溶出等の方法により取り除き、残った強化繊維から無作為に400本を選択し、それらの長さを10μmの精度で測定し、それらの値を用いて質量平均繊維長を算出する。なお、質量平均繊維長を算出するために用いる測定サンプル中の各強化繊維の質量は、断面積は長手方向で一定であるとし、強化繊維のサンプル長さに比例するとして近似計算できる。
【0045】
本発明では、多孔質体(a)の見かけ密度を0.05~0.8g/cm3の範囲内とするために、多孔質体(a)が空隙を有することが好ましい。ここで、空隙とは、多孔質体(a)が強化繊維と熱可塑性樹脂を含む場合を例にとると、熱可塑性樹脂により被覆された強化繊維が柱状の支持体となり、それが重なり合い、又は、交差することにより形成された空間のことを指す。このようにして形成された空隙は、その隣り合う空隙と連続して連なるため、連続多孔質体と呼ばれる。例えば、強化繊維に熱可塑性樹脂が予め含浸された多孔質体(a)の前駆体を加熱して多孔質体(a)を得ることができる。この場合、加熱に伴う熱可塑性樹脂の溶融又は軟化により、複数箇所で屈曲状態で形状を拘束されていた強化繊維の拘束箇所の一部が外れることで強化繊維の屈曲が緩和される方向となるいわゆるスプリングバックが生じることで空隙が形成される。強化繊維は熱可塑性樹脂を介して結合することで、より強固な圧縮特性と多孔質体(a)の形状保持性を発現することができるため、好ましい様態として例示できる。
【0046】
また、空隙を有する多孔質体(a)は、強化繊維、熱可塑性樹脂、及び空隙の合計の体積を100体積%とすると、強化繊維の体積含有率が0.5体積%以上55体積%以下、熱可塑性樹脂の体積含有率が2.5体積%以上85体積%以下、空隙の体積含有率が10体積%以上97体積%以下であることが好ましい。
【0047】
前記多孔質体(a)において、強化繊維の体積含有率が0.5体積%以上55体積%以下の範囲内にあることが、多孔質体(a)における強化繊維の補強効果や軽量性を満足する観点から好ましい。前記強化繊維の体積含有率が0.5体積%以上であると、強化繊維に由来する補強効果を十分なものとすることができるので好ましい。一方、強化繊維の体積含有率が55体積%以下の場合には、強化繊維に対する熱可塑性樹脂の体積含有率が相対的に多くなり、多孔質体(a)中の強化繊維同士を結着し、強化繊維の補強効果を十分なものとできるため、多孔質体(a)の力学特性、とりわけ圧縮特性を満足できるので好ましい。同様に圧縮強度の観点から5体積%以上30体積%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0048】
また、多孔質体(a)における熱可塑性樹脂の体積含有率は、2.5体積%以上85体積%以下の範囲内にあることが好ましい。熱可塑性樹脂の体積含有率が2.5体積%以上である場合、多孔質体(a)中の強化繊維同士を結着し、強化繊維の補強効果を十分なものとすることができ、多孔質体(a)の力学特性、とりわけ圧縮強度を満足できるので好ましい。一方、熱可塑性樹脂の体積含有率が85体積%以下であることにより、空隙の形成を阻害しないため好ましい。同様に空隙の形成を阻害しない観点から25体積%以上70体積%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0049】
さらに、多孔質体(a)中における空隙の体積含有率は、10体積%以上97体積%以下の範囲内であることが好ましい。空隙の体積含有率が10体積%以上であることにより、多孔質体(a)の見かけ密度が低いものとなり軽量性を満足できるため好ましい。一方、空隙の体積含有率が97体積%以下の場合であれば強化繊維の拘束箇所の数が十分確保できることから、多孔質体(a)中における強化繊維による補強が有効に機能し、圧縮強度が高くなるので好ましい。多孔質体(a)中における空隙の体積含有率は、軽量性と圧縮強度のバランスの観点から25体積%以上85体積%以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0050】
本発明における強化繊維は、不織布状の形態をとることが、強化繊維への樹脂の含浸の容易さの観点から好ましい。強化繊維が、不織布状の形態を有していることにより、不織布自体のハンドリング性の容易さに加え、一般的に高粘度とされる熱可塑性樹脂を用いる場合においても含浸を容易なものとできるため好ましい。ここで、不織布状の形態とは、強化繊維のストランド及び/又はモノフィラメントが規則性なく面状に分散した形態を指し、チョップドストランドマット、コンティニュアンスストランドマット、抄紙マット、カーディングマット、エアレイドマット等の形態を例示できる(以下、これらをまとめて強化繊維マットと称す)。
【0051】
多孔質体(a)を構成する強化繊維マットの製造方法としては、例えば強化繊維を予めストランド及び/又は略モノフィラメント状に分散して強化繊維マットを製造する方法がある。強化繊維マットの製造方法としては、強化繊維を空気流にて分散シート化するエアレイド法や、強化繊維を機械的に櫛削りながら形状を整えシート化するカーディング法等の乾式プロセス、強化繊維を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。強化繊維をよりモノフィラメント状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける方法やさらに開繊バーを振動させる方法、カードの目を細かくする方法や、カードの回転速度を調整する方法等を例示できる。湿式プロセスにおいては、強化繊維の攪拌条件を調整する方法、分散液の強化繊維濃度を希薄化する方法、分散液の粘度を調整する方法、分散液を移送させる際に渦流を抑制する方法等を例示できる。特に、強化繊維マットは湿式プロセスで製造することが好ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したりすることで、強化繊維マットの強化繊維の割合を容易に調整できる。例えば、分散液の流速に対してメッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い強化繊維マットを製造可能であることから好ましい。強化繊維マットは、強化繊維のみから構成されていてもよく、強化繊維が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、強化繊維が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、強化繊維同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。
【0052】
また、強化繊維マットには予め樹脂を含浸させておき、多孔質体(a)の前駆体としておくこともできる。多孔質体(a)の前駆体を製造する方法としては、強化繊維マットに樹脂を溶融ないし軟化する温度以上に加熱された状態で圧力を付与し、強化繊維マットに含浸させる方法を用いることが、製造の容易さの観点から好ましい。具体的には、強化繊維マットの厚み方向の両側から樹脂を配置した積層物を溶融含浸させる方法が好ましく例示できる。
【0053】
上記、各方法を実現するための設備としては、圧縮成形機やダブルベルトプレスを好適に用いることができる。圧縮成形機を用いる場合はバッチ式の製造方法となり、加熱用と冷却用との2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れるため好ましい。ダブルベルトプレスを用いる場合は連続式の製造方法となり、連続的な加工を容易に行うことができ、連続生産性に優れるため好ましい。
【0054】
〔成形材料(b)〕
本発明に用いる成形材料(b)は、多孔質体(a)との融着の容易さの観点や所望する成形品の表面外観、形状の形成の容易さから適宜選択することができる。成形材料(b)は熱可塑性樹脂をベースとした射出成形材料を好ましく用いることができる。さらには、成形材料(b)が多孔質体(a)とのアンカリング構造を形成し、一体化することもできるため、多孔質体(a)と同種の樹脂を用いても良いし、異なる種類の熱可塑性樹脂から選定しても良い。また、成形材料(b)中の熱可塑性樹脂は、充填材を有しても良く、充填材としては炭素繊維やガラス繊維を用いることが成形品の強度向上の観点から好ましい。
【0055】
〔製造方法〕
上記した本発明に係る成形品の製造方法を以下に説明する。本発明の成形品の製造方法は、射出成形機を用いるものであり、金型キャビティに多孔質体(a)をインサートする工程、金型を締結する工程、熱可塑性樹脂を含む成形材料(b)を溶融後に射出する射出成形工程、前記射出成形工程によりその形状を形成する成形工程、を含む製造方法である。金型キャビティに多孔質体(a)をインサートする工程においては予め温度調節した金型に多孔質体(a)をインサートすることが好ましい。なお、金型キャビティに多孔質体(a)をインサートする工程を以降、インサート工程と記すこともある。金型を締結する工程においては少なくとも固定型と可動型からなる金型を型締め動作により締結することで、金型キャビティを形成せしめることが好ましい。これらの工程を順次経ることで成形品を製造することができる。
【0056】
ここで、インサート工程とは多孔質体(a)を金型キャビティに投入、配置する工程である。
図3及び
図4にはインサート工程の例を示す。インサート工程において、多孔質体(a)11は、ニードル機構(
図4の13)、メカニカルクランプ機構(
図3の10)のいずれかの機構を具備した把持機構により位置決めされることが、多孔質体(a)11を所望の位置に配置することができることから好ましい。これらの方法は、後の射出成形工程において、多孔質体(a)11が射出成形される成形材料(b)の圧力により金型9の内部で移動する(ズレ)ことを抑制し、成形品の周囲を成形材料(b)で精度良く覆うことができることからも好ましい。
【0057】
把持機構について、より詳細に説明する。ニードル機構とは、多孔質体(a)に突き刺した複数のニードルにより多孔質体(a)を把持して位置を固定する機構である。メカニカルクランプ機構とは、複数のメカニカルクランプにより多孔質体(a)を把持して位置を固定する機構である。両機構の多孔質体(a)への適用場所は、多孔質体(a)が固定できること及び金型の構造を考慮して決めればよい。
図3に示す様に、金型(8および9)の上下面から固定してもよいし、
図4に示す様に、金型(8および9)の側面から固定してもよい。これら機構にさらに、バネ機構を設けることにより把持力を調整することも、設備の簡便、精密さから好ましく挙げられる。これらのなかでもメカニカルクランプ機構が把持の正確さの観点から好ましい。また、これら機構は多関節ロボットやレール状の搬送ロボットに取り付けられていることが生産上、好ましい。
【0058】
上述の把持機構により、多孔質体(a)を金型キャビティに多孔質体(a)を配置した後、金型を締結する工程を経て、射出成形工程に進められる。
【0059】
射出成形工程では、溶融せしめた成形材料(b)を多孔質体(a)に射出して一体化される。一体化に際して射出成形を適用することが、成形品の生産性、射出成形体(B)の厚みの調整の容易さの観点から好ましい。射出成形工程では、溶融状態の成形材料(b)が射出される際の射出圧力は、30MPa以上であることが、射出成形体(B)の厚みの調整の容易さ、多孔質体(a)との融着の容易さの観点から好ましい。射出成形圧力は製品のサイズ、成形材料(b)の溶融粘度により適宜設定されるが、多孔質材(a)を溶融状態の成形材料(b)で覆う観点から、さらに好ましくは80MPa以上である。なお、ここで成形材料(b)が溶融状態であるとは、以下の規格に従って得られた各値により判定する。成形材料(b)の熱可塑性樹脂が結晶性の熱可塑性樹脂の場合、JIS K7120(1987)に従って測定した成形材料(b)の融点に成形材料(b)の実温が達しているかどうかで判定し、成形材料(b)の熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、JIS K7206(1999)に従って測定した成形材料(b)のビカット軟化温度に100℃を加算した温度に成形材料(b)の実温が達しているかどうかで判定する。
【0060】
成形材料(b)が溶融状態、すなわち、上記した材料毎の各値以上であることにより、射出成形時に多孔質体(a)を構成する熱可塑性樹脂と、成形材料(b)を構成する熱可塑性樹脂が一体化される。一体化の態様としては、前述の通りであるが、成形材料(b)が溶融状態で射出成形されて多孔質体(a)またはその上に設けられた接着剤層に接触させられることにより、成形品を構成する多孔質体(A)と射出成形体(B)とが一体化された構造が形成され、これにより形状安定性に優れた成形品が得られる。さらに得られた成形品は、射出成形体特有の表面性を成形品に付与することができる。
【0061】
射出成形工程において、成形金型の金型温度が、多孔質体(a)を構成する熱可塑性樹脂の融点より40~120℃低い範囲内であることが、成形材料(b)の固化速度と生産性のバランスに優れることから好ましい。成形品の取り出しに関連する、熱可塑性樹脂の固化速度と多孔質体(a)の周囲へ流動する速度の観点から、熱可塑性樹脂の融点より60~120℃低い範囲であることがさらに好ましい。上記の上限と下限のいずれを組み合わせた範囲であってもよい。
【0062】
本発明の成形品およびその製造方法は、例えば、「パソコン、ディスプレイ、OA機器、ビデオカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品等の筐体、トレイ、シャーシ、内装部材、またはそのケース」等の電気、電子機器部品、「各種メンバ、各種フレーム、各種ヒンジ、各種アーム、各種車軸、各種車輪用軸受、各種ビーム」、「フード、ルーフ、ドア、フェンダ、トランクリッド、サイドパネル、リアエンドパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種メンバ、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、各種レール、各種ヒンジ等の、外板、又は、ボディー部品」、「バンパー、バンパービーム、モール、アンダーカバー、エンジンカバー、整流板、スポイラー、カウルルーバー、エアロパーツ等の外装部品」、「インストルメントパネル、シートフレーム、ドアトリム、ピラートリム、ハンドル、各種モジュール等の内装部品」、等の自動車、二輪車用構造部品、「バッテリートレイ、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、プロテクター、ランプリフレクター、ランプハウジング、ノイズシールド、スペアタイヤカバー」等の自動車、二輪車用部品、「ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブ、シート」等の航空機用部品が挙げられる。力学特性の観点からは、自動車内外装、電気・電子機器筐体、自転車、スポーツ用品用構造材、航空機内装材、輸送用箱体に好ましく用いられる。なかでも、とりわけ複数の部品から構成されるモジュール部材用途およびその製造方法に好適である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔評価・測定方法〕
(1)多孔質体(a)における強化繊維の質量平均繊維長
多孔質体(a)から縦50mm、横50mmに試験片を切り出し、空気中500℃で30分間加熱して樹脂成分を焼き飛ばした。残った強化繊維を濾紙上に散布して試料とした。試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で200倍に拡大し、繊維長さの測定を400本について行った。得られた測定結果から次式により質量平均繊維長(Lw)を求め、次式により算出した。
【0064】
強化繊維(A-1)の質量平均繊維長(Lw)=Σ(Li×Wi/100)
Li:測定した繊維長さ(i=1、2、3、・・・、n)
Wi:繊維長さLiの強化繊維(A-1)の質量分率(i=1、2、3、・・・、n)
(2)多孔質体(a)における強化繊維の体積含有率
多孔質体(a)から縦10mm、横10mmに試験片を切り出し、質量Wsと多孔質体(a)の見かけ体積Vsを測定した後、試験片を空気中500℃で30分間加熱して樹脂成分を焼き飛ばし、残った強化繊維の質量Wfを測定し、次式により算出した。
強化繊維のVf(体積%)=(Wf/ρf)/{Wf/ρf+(Ws-Wf)/ρr}/Vs×100
ρf:強化繊維の密度(g/cm3)
ρr:樹脂の密度(g/cm3)
Vs:多孔質体(a)の見かけ体積(cm3)
(3)多孔質体(a)における空隙の体積含有率
多孔質体(a)から縦10mm、横10mmに試験片を切り出し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、多孔質体(a)の表面から、等間隔に10箇所を1000倍の倍率で撮影した。それぞれの画像について、画像内の多孔質体(a)を構成する材料の断面以外の部分を空隙とし、空隙の面積Aaを求めた。さらに、空隙の面積Aaを画像全体の面積で除算することにより空隙率を算出した。多孔質体(a)の空隙の体積含有率は、5枚の試験片でそれぞれ10箇所ずつ撮影した合計50箇所の空隙率から算術平均により求めた。
【0065】
(4)多孔質体(a)における樹脂の体積含有率
(2)、(3)より求めた多孔質体(a)における強化繊維の体積含有率と空隙の体積含有率の値を用いて、下式により樹脂の体積含有率を求めた。
【0066】
樹脂の体積含有率Vr(体積%)=100-(Vf+Va)
Vf:強化繊維の体積含有率(体積%)
Va:空隙の体積含有率(体積%)
(5)多孔質体(a)および多孔質体(A)の見かけ密度
多孔質体(a)および成形品から多孔質体(A)から試験片を切り出し、JIS K7222(2005)を参考にして見かけ密度を測定した。試験片の寸法は縦20mm、横20mmとした。試験片の縦、横、厚みをマイクロメーターで測定し、得られた値より試験片の体積Vを算出した。また、切り出した試験片の質量Mを電子天秤で測定した。得られた質量M及び体積Vを次式に代入することにより多孔質体(a)の見かけ密度ρaを算出した。なお、多孔質体(A)については、表面に存在する射出成形材料を切断し、多孔質体(A)の厚み方向の中心部分となるように射出成形体(B)と接する面から厚み方向の中心方向に厚みの20%の距離を研削することで試料を採取し、多孔質体(a)と同様に見かけ密度ρAを測定した。
ρa, ρA[g/cm3]=103×M[g]/V[mm3]
(6)多孔質体(a)の10%圧縮時における圧縮強度
多孔質体(a)から試験片を切り出し、ISO844;2004に準拠して多孔質体(a)の圧縮特性を測定した。試験片は、縦25mm、横25mmに切り出した。得られた試験片の圧縮特性は万能試験機を用いて測定した。この時、変形率10%時に到達した最大の力Fmと試験片の試験前の底面断面積A0とを用いて、次式より圧縮強度σmを算出した。測定装置としては“インストロン(登録商標)”5565型万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)を使用した。
σm[MPa]=103×Fm[N]/A0[mm2]
(7)多孔質体(a)の多孔質形状
多孔質体(a)を縦10mm、横10mmに試験片を切り出した。さらに本試験片を縦方向に5分割に裁断した。この試験片の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、10箇所を1000倍の倍率で撮影した。得られた画像の孔部分の断面に樹脂により空隙が閉じられている、すなわち皮膜により閉口化しているものと、樹脂が強化繊維の周囲に存在し、空隙が開孔状態であるものの数を測定し、空隙が開孔状態にあるものが50%以上であるものを連続多孔質体と判断した。
【0067】
(8)多孔質体(A)の多孔質体(a)からの見かけ密度の変化率
上記(2)項にて採取した多孔質体(a)および多孔質体(A)の見かけ密度から、見かけ密度の変化率を取得した。なお、下式および表3、表4において、「多孔質体(A)の多孔質体(a)からの見かけ密度の変化率」を単に「見かけ密度の変化率」と記す。
見かけ密度の変化率[%]={(多孔質体(A)の見かけ密度-多孔質体(a)の見かけ密度)/多孔質体(a)の見かけ密度}×100
(9)多孔質体(A)および射出成形体(B)の厚み
成形品の厚みをキャリパーゲージにより測定した。この測定箇所から小片を切り出した。この小片の断面観察により、多孔質体(A)と射出成形体(B)の厚みをそれぞれ測定した。断面観察による厚み測定では、予め、小片における厚み方向に平行な面(観察面)に対して直角方向の長さ(L1)をマイクロメーターにより測定した。その後、小片はエポキシ樹脂に包埋した上で、厚み方向に平行な断面が観察面となるように研磨して試料を作製した。
【0068】
試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で200倍に拡大し、断面の観察を行い、取得した観察画像を汎用画像解析ソフトウェア上に展開し、ソフトウェアに組み込まれたプログラムを利用して多孔質体(A)および射出成形体(B)の厚みを各々、等間隔に10点測定し、その算術平均により多孔質体(A)および射出成形体(B)の平均厚みを求めた。また、本測定により得られた多孔質体(A)の厚みの最小値および、射出成形体(B)の厚みの最大値を、多孔質体(A)の最小厚みおよび、射出成形体(B)の最大厚みとした。
【0069】
(10)成形品における射出成形体(B)の被覆率
成形品の投影面積(S1)をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で10倍に拡大し、取得した観察画像を汎用画像解析ソフトウェア上に展開し、ソフトウェアに組み込まれたプログラムを利用して成形品全体の面積(S1)を求めた。次いで、表面観察により、成形品から多孔質体(A)が露出している箇所の面積(S2)を同様に、レーザー顕微鏡を用いて面積を測定した。射出成形体の被覆率は、下式により算出した。
射出成形体による被覆率(%)=S2/S1×100。
【0070】
(11)成形品における射出成形体(B)の接合状態およびアンカリング深さ
成形品から幅10mm、長さ10mmの小片を切り出し、エポキシ樹脂に包埋したうえで、成形品の厚み方向の垂直断面が観察面となるように研磨して試料を作製した。前記試料をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VK-9510)で200倍に拡大し、互いの視野が重複しない10ヶ所を無作為に選定して、撮影をおこなった。撮影した画像から、多孔質体(A)を構成する熱可塑性樹脂と、射出成形体(B)を構成する熱可塑性樹脂の境界層における、両樹脂の明度差により確認した。多孔質体(A)を構成する樹脂と、射出成形体(B)を構成する樹脂との境界層において、明度差の境界が明瞭に観察されない場合は融着と判断した。上記にて撮影した10視野について、それぞれの視野中における境界の凹凸のうち、最も窪みの大きい凹部と最も突出の大きい凸部との垂直落差を各視野における最大垂直落差dmax、最も窪みの小さい凹部と最も突出の小さい凸部との垂直落差を各視野における最小垂直落差dminとしてそれぞれ測定した。これら各視野による10点のdmaxのうち、最も大きい値を境界層における凹凸形状の最大高さRy(μm)とした。また、上記にて得られたdmaxおよびdminから、境界層における凹凸形状の平均粗さRzをアンカリング深さとし、次式により算出した。
・Rz(μm)=Σ(dimax+dimin)/2n
dimax:各視野における最大垂直落差(i=1、2、・・・10)(μm)
dimin:各視野における最小垂直落差(i=1、2、・・・10)(μm)
n:測定視野数
(12)射出成形体の融点
融点は示差走査熱量計(DSC)により評価を行った。密閉型サンプル容器に5mgの試料を詰め、昇温速度10℃/分で30℃の温度から300℃の温度まで昇温し、評価した。評価装置には、PerkinElmer社製PyrislDSCを用いた。
【0071】
また融点の評価が困難なもの(成形材料(b)の熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合のように融点が存在しない場合) については、ビカット軟化温度をISO306(2004)(錘10N使用)に従って評価し、軟化点とした。
【0072】
[炭素繊維]
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体から紡糸、焼成処理、及び表面酸化処理を行い、総単糸数12,000本の連続炭素繊維を得た。この連続炭素繊維の特性は次に示す通りであった。
比重:1.8
引張強度:4600MPa
引張弾性率:220GPa
引張破断伸度:2.1%
[PP樹脂]
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)80質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”QB510)20質量%とからなる目付200g/m2の樹脂シートを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0073】
[PA6樹脂]
ナイロン6樹脂(東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM1021T)からなる目付226/m2の樹脂シートを作製した。得られた樹脂フィルムの特性を表1に示す。
【0074】
[PPS樹脂]
ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)A900)からなる目付268g/m2の樹脂シートを作製した。得られた樹脂シートの特性を表1に示す。
【0075】
[多孔質体F-1]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで5mmにカットし、チョップド炭素繊維を得た。水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))とからなる濃度0.1質量%の分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維とを用いて、強化繊維マットを製造した。製造装置は、分散槽としての容器下部に開口コックを有する直径1000mmの円筒形状の容器および分散槽と抄紙槽とを接続する直線状の輸送部(傾斜角30°)を備えている。分散槽の上面の開口部には撹拌機が付属し、開口部からチョップド炭素繊維及び分散液(分散媒体)を投入可能である。抄紙槽は、底部に幅500mmの抄紙面を有するメッシュコンベアを備え、また、炭素繊維からなるマットを運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は分散液中の炭素繊維の濃度を0.05質量%として行った。抄造した炭素繊維マットは200℃の乾燥炉で30分間乾燥し、強化繊維マットを得た。得られたマットの目付は90g/m2であった。
【0076】
次いで、強化繊維マットとPP樹脂を、[PP樹脂/強化繊維マット/強化繊維マット/PP樹脂]の順番に配置した積層物を作製した。さらに以下の工程(I)~(IX)を順に経ることによりF-1を得た。
(I)積層物を200℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
(II)次いで、120秒間保持した後、3MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持した。
(III)圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却した。
(IV)金型を開いて多孔質体(a)の前駆体を取り出した。
(V)多孔質体(a)の前駆体を6層重ねあわせ230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
(VI)300秒間保持した後、1MPaの圧力を付与してさらに60秒間保持した。
(VII)工程(VI)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、多孔質体(a)を得る際の厚みが9mmとなるように調整した。
(VIII)その後、再度、金型キャビティを締結し、圧力を保持した状態でキャビティ温度を50℃まで冷却した。
(IX)金型を開いて多孔質体(a)を取り出した。
特性を表1に記す。
【0077】
[多孔質体F-2]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで8mmにカットした以外は、多孔質体F-1と同様に、強化繊維マットを得、積層物を作製した。
【0078】
次いで、以下の工程(I)~(IX)を順に経ることによりF-2を得た。
(I)~(IV)、(VI)、(VIII)および(IX):F-1と同様。
(V)多孔質体(a)の前駆体を4層重ねあわせ230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
(VII)工程(VI)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、多孔質体(a)を得る際の厚みが10mmとなるように調整した。
特性を表1に記す。
【0079】
[多孔質体F-3]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで15mmにカットした以外は、多孔質体F-1と同様に、強化繊維マットを得、積層物を作製した。次いで、以下の工程(I)~(IX)を順に経ることによりF-3を得た。
(I)~(IV)、(VI)~(IX):F-2と同様。
(V)多孔質体(a)の前駆体を2層重ねあわせ230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
特性を表1に記す。
【0080】
[多孔質体F-4]
強化繊維として炭素繊維を用い、カートリッジカッターで8mmにカットした以外は、多孔質体F-1と同様に、強化繊維マットを得、積層物を作製した。次いで、強化繊維マットとPA6樹脂を、[PA6樹脂/強化繊維マット/強化繊維マット/PA6樹脂]の順番に配置した積層物を作製した。さらに以下の工程(I)~(IX)を順に経ることによりF-4を得た。
(II)~(IV)、(VI)、(VIII)および(IX):F-1と同様。
(I)積層物を240℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
(V)多孔質体(a)の前駆体を8層重ねあわせ240℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
(VII)工程(VI)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、多孔質体(a)を得る際の厚みが20mmとなるように調整した。
特性を表1に記す。
【0081】
[多孔質体F-5]
PA6樹脂をPPS樹脂に変更した以外は、F-4と同様に強化繊維マット、積層物を得た。次いで、以下の工程(I)~(IX)を順に経ることによりF-5を得た。
(II)~(IV)、(VI)、(VIII)および(IX):F-1と同様。
(I)積層物を320℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
(V)多孔質体(a)の前駆体を2層重ねあわせ320℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
(VII)工程(VI)の後、金型キャビティを開放し、その末端に金属スペーサーを挿入し、多孔質体(a)を得る際の厚みが5mmとなるように調整した。
特性を表1に記す。
【0082】
[多孔質体F-6]
ポリメタクリルイミド(PMI)樹脂発泡材(エボニック インダストリーズ社製“ロハセル”(登録商標)110IG-F)を用いた。
特性を表1に記す。
【0083】
[多孔質体F-7]
多孔質体F-1と同様に、強化繊維マットを得、積層物を作製した。次いで、以下の工程(I)~(IX)を順に経ることによりF-7を得た。
(I)~(IV)、(VI)~(IX):F-2と同様。
(V)多孔質体(a)の前駆体を20層重ねあわせ230℃に予熱したプレス成形用金型キャビティ内に配置して金型を閉じた。
特性を表1に記す。なお、本多孔質体F-7には空隙が存在しないが、便宜上「多孔質体F-7」と表記している。
【0084】
[多孔質体F-8]
ポリメタクリルイミド(PMI)樹脂発泡材(エボニック インダストリーズ社製“ロハセル”(登録商標)31IG-F)を用いた。
特性を表1に記す。
【0085】
[射出成形材料S-1]
炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂(東レ(株)製“トレカ”(登録商標)TLP8169)を用いた。密度は1.06g/cm3である。特性を表2に記す。
【0086】
[射出成形樹脂S-2]
炭素繊維強化ナイロン6樹脂(東レ(株)製“トレカ”(登録商標)TLP1060)を用いた。密度は1.26g/cm3である。特性を表2に記す。
【0087】
[射出成形材料S-3]
炭素繊維強化ポリフェニレンサルファイド樹脂(東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)A630T-30V)を用いた。密度は1.46g/cm3である。特性を表2に記す。
【0088】
[射出成形材料S-4]
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)80質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”QB510)20質量%を二軸押出機(日本製鋼所(株)製、TEX-30α)により混練し、樹脂ペレットを採取し用いた。密度は0.92g/cm3である。特性を表2に記す。
【0089】
[射出成形材料S-5]
ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製“パンライト”(登録商標)G-3430R)を用いた。密度は1.43g/cm3である。
特性を表2に記す。
【0090】
以下に実施例および比較例を記載する。本実施例および比較例では
図2の形状を製造した。なお、金型のキャビティサイズは多孔質体(a)に合わせ適宜変更した金型を準備して用いた。
【0091】
(実施例1)
多孔質体(a)としてF-1を用い、射出成形材料(b)としてS-1を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0092】
次いで、射出成形機((株)日本製鋼所社製 J150EII-P)に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:11mm)内に多孔質体(a)をメカニカルクランプ機構により位置決めを行い、バレル温度220℃、金型温度50℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品(
図1)を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良は見られなかった。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0093】
(実施例2)
多孔質体(a)としてF-2を用い、射出成形材料(b)としてS-1を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0094】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:12mm)内に多孔質体(a)をニードル機構により位置決めを行い、バレル温度220℃、金型温度50℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良は見られなかった。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0095】
(実施例3)
多孔質体(a)としてF-3を用い、射出成形材料(b)としてS-4を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0096】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:12mm)内に多孔質体(a)をニードル機構により位置決めを行い、バレル温度220℃、金型温度50℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良は見られなかった。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0097】
(実施例4)
多孔質体(a)としてF-4を用い、射出成形材料(b)としてS-2を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0098】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:21mm)内に多孔質体(a)をメカニカルクランプ機構により位置決めを行い、バレル温度260℃、金型温度80℃、射出成形圧力80MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良は見られなかった。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0099】
(実施例5)
多孔質体(a)としてF-5を用い、射出成形材料(b)としてS-3を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0100】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:6mm)内に多孔質体(a)をメカニカルクランプ機構により位置決めを行い、バレル温度320℃、金型温度150℃、射出成形圧力130MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良は見られなかった。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0101】
(実施例6)
多孔質体(a)としてF-6を用い、射出成形材料(b)としてS-1を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0102】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:12mm)内に多孔質体(a)をメカニカルクランプ機構により位置決めを行い、バレル温度220℃、金型温度50℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良が若干は見られたが、実用上、問題のない範囲であった。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0103】
(実施例7)
多孔質体(a)としてF-8を用い、射出成形材料(b)としてS-1を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0104】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:14mm)内に多孔質体(a)をメカニカルクランプ機構により位置決めを行い、バレル温度220℃、金型温度30℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観に若干のヒケが生じたものの、多孔質体(a)の効果により、軽量性の高い成形品を得ることができた。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0105】
(実施例8)
多孔質体(a)としてF-8を用い、射出成形材料(b)としてS-1を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0106】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:14mm)内に多孔質体(a)を位置決め機構を用いず、多孔質体(a)を投入し、バレル温度220℃、金型温度50℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観に若干のヒケが生じたものの、多孔質体(a)の効果により、軽量性の高い成形品を得ることができた。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0107】
(実施例9)
多孔質体(a)としてF-1を用い、射出成形材料(b)としてS-5を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0108】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:11mm)内に多孔質体(a)をメカニカルクランプ機構により位置決めを行い、バレル温度300℃、金型温度70℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良は見られなかった。その他の評価結果は表3にまとめて記載する。
【0109】
(比較例1)
多孔質体(a)としてF-7を用い、射出成形材料(b)としてS-1を用いた。多孔質体(a)を予め、縦20mm、横200mmに裁断し、インサート成形用の芯材として加工した。
【0110】
次いで、射出成形機に取り付けた射出成形用の金型(キャビティ厚み:22mm)内に多孔質体(a)をメカニカルクランプ機構により位置決めを行い、バレル温度220℃、金型温度50℃、射出成形圧力100MPaにてインサート成形を行い、成形品を得た。得られた成形品は外観にヒケなどの成形不良がないものの、重量が大きいことから実用上、適さない成形品であった。その他の評価結果は表4にまとめて記載する。
〔検討〕
本実施例により、本発明の範囲である多孔質体(a)を用いた実施例1~6、9は、多孔質体(A)の表面に射出成形体(B)が一体化され、射出成形体に特有の欠点であるヒケが見られない寸法安定性に優れた成形品を得られることが確認できた。また、実施例1~6、9のごとく、多孔質体(A)の平均厚み(tA)と、射出成形体(B)の平均厚み(tB)が、tA≧3×tBであることにより、肉厚な射出成形体においてもヒケを発生させることなく成形可能であることがわかる。さらに多孔質体(A)と射出成形体(B)の接合面は、溶融状態の成形材料(b)により、接合されているため互いのマトリックス樹脂同士が融着するとともに、本発明の範囲内の多孔質体(a)を用いることで、アンカリングを活用することもでき、多孔質体と射出成形体の剥がれ等の不具合も見られない。成形品の軽量化には、多孔質体(a)の見かけ密度が0.05~0.8g/cm3、かつISO844;2004で測定される10%圧縮時の圧縮強度が1.5MPa以上であることから、形状を保ちながらも軽量性を維持できていること、少なくとも一つの面が覆われてなることにより、従来の射出成形体より厚みのある成形品とすることができているため剛性面からも優れることがわかる。一方、比較例1では、多孔質体(a)が実質的に空隙を有していないため、重量が大きい成形品となった。また、実施例7、8では、多孔質体(a)の寸法が変化することで、成形品の部分的にヒケが生じ、実施例1~6、9と比較すると外観に劣るものとなったが、軽量性に優れる成形品を得ることができた。
【0111】
このように、本発明の範囲における成形品およびその製造方法は、優れた軽量性、剛性、製品の表面外観を有し、その製造方法により表面性が優れた成形品が得られることが確認できた。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、低比重かつ高剛性を両立し、さらにヒケの抑制された成形品およびその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0117】
1a~1f 単繊維
2 二次元配向角
3 成形品
4 成形品の幅
5 成形品の厚み
6 多孔質体(A)
7 射出成形体(B)
8 可動型
9 固定型
10 把持機構(メカニカルクランプ機構)
11 多孔質体(a)
12 射出成形機
13 把持機構(ニードル機構)