(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230801BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2020012577
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】尾形 俊明
(72)【発明者】
【氏名】岸田 文夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美雄
(72)【発明者】
【氏名】仲村 圭史
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-30368(JP,A)
【文献】特表2018-529581(JP,A)
【文献】特開2005-161997(JP,A)
【文献】特開2010-137742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0002015(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第19947265(DE,A1)
【文献】特許第6429224(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
H02P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪に連結されるタイロッドと、
両端に前記タイロッドがそれぞれ角度をなして揺動可能に連結される転舵軸であって、軸方向に直線運動することで前記タイロッドを介して車両の転舵輪を転舵させる転舵軸と、
前記転舵軸に付与される駆動力の元となるトルクを発生する2つのモータと、
前記2つのモータの回転運動をそれぞれ個別に前記転舵軸の直線運動に変換する2つのボールねじであって、その雄ねじ溝が前記転舵軸の外周面における軸方向に異なる位置に形成される2つのボールねじと、
前記モータのトルクを前記ボールねじに伝達する伝達機構と、
前記2つのモータをそれぞれ個別に制御する2つの制御装置と、を備え、
前記2つの制御装置のうちいずれか一方の制御装置は、前記2つのモータに発生させるべきトルクの合計値に応じた電流指令値を演算するとともに、その演算される電流指令値を前記転舵軸の軸方向の位置に応じて変わる比率で前記モータごとに配分し、
前記2つの制御装置は、それぞれ自己の制御対象であるモータに配分される個別の電流指令値に応じた電流を自己の制御対象であるモータへ供給する転舵装置。
【請求項2】
前記転舵軸の両端にはそれぞれ前記転舵輪からの逆入力荷重に応じた前記2つのボールねじを支点とするモーメントが作用すること、および前記モーメントは前記タイロッドが前記転舵軸の両端に角度をなして揺動可能に連結されることに起因して前記転舵軸の軸方向の位置に応じて変化することを前提として、
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記モーメントの値が大きい側の前記ボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率を減少させる一方、モーメントの値が小さい側の前記ボールねじに対応する前記モータに対する電流指令値の配分比率を増加させる請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記転舵軸の中立位置を基準とする軸方向の位置変化に対する第1のボールねじに対応するモータに対する電流指令値の配分比率の変化特性と、前記転舵軸の中立位置を基準とする軸方向の位置変化に対する第2のボールねじに対応するモータに対する電流指令値の配分比率の変化特性とは、互いに逆特性を有している請求項1または請求項2に記載の転舵装置。
【請求項4】
前記転舵軸が中立位置を基準として移動するほどその移動する側と反対側に位置するボールねじに作用するモーメントの値が大きくなる特性を有していることを前提として、
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記転舵軸が中立位置を基準として移動するほどその移動する側と反対側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率をより減少させる一方、前記移動する側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率をより増加させる請求項3に記載の転舵装置。
【請求項5】
前記転舵軸がその中立位置を基準として移動するほどその移動する側に位置するボールねじに作用するモーメントの値が大きくなる特性を有していることを前提として、
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記転舵軸が中立位置を基準として移動するほどその移動する側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率をより減少させる一方、前記移動する側と反対側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率をより増加させる請求項3に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵輪を転舵させる転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を機械的に分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。たとえば特許文献1の操舵装置では、転舵輪を転舵させる転舵軸に対して2つのモータがそれぞれ減速機構を介して連結されている。減速機構は、モータの回転運動を転舵軸の直線運動に変換するためのボールねじを有している。ボールねじは、転舵軸に設けられたボールねじ溝部に複数のボールを介してボールナットが螺合されてなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転舵軸の両端はそれぞれタイロッドを介して転舵輪に連結されるところ、このタイロッドは転舵軸に対して所定の角度をなして設けられる。このため、転舵輪からの逆入力荷重は、転舵軸の軸線方向に沿った方向に作用するアキシャル荷重と、転舵軸の軸線方向に対して直交する方向に作用するラジアル荷重とに分解される。
【0005】
ボールねじは、アキシャル荷重に対して仕事をする機械要素、すなわち軸線方向に沿った推力を発生する機械要素であるため、基本的にはラジアル荷重を受ける構造にはなっていない。このため、ボールねじにラジアル荷重が作用すると、一部のボールあるいはボールねじ溝に負荷が集中することにより製品寿命が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、製品寿命を維持向上させることができる転舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る転舵装置は、車両の転舵輪に連結されるタイロッドと、両端に前記タイロッドがそれぞれ角度をなして揺動可能に連結される転舵軸であって、軸方向に直線運動することで前記タイロッドを介して車両の転舵輪を転舵させる転舵軸と、前記転舵軸に付与される駆動力の元となるトルクを発生する2つのモータと、前記2つのモータの回転運動をそれぞれ個別に前記転舵軸の直線運動に変換する2つのボールねじであって、その雄ねじ溝が前記転舵軸の外周面における軸方向に異なる位置に形成される2つのボールねじと、前記モータのトルクを前記ボールねじに伝達する伝達機構と、前記2つのモータをそれぞれ個別に制御する2つの制御装置と、を備えている。前記2つの制御装置のうちいずれか一方の制御装置は、前記2つのモータに発生させるべきトルクの合計値に応じた電流指令値を演算するとともに、その演算される電流指令値を前記転舵軸の軸方向の位置に応じて変わる比率で前記モータごとに配分する。前記2つの制御装置は、それぞれ自己の制御対象であるモータに配分される個別の電流指令値に応じた電流を自己の制御対象であるモータへ供給する。
【0008】
タイロッドは転舵軸に対して角度をなして設けられるため、転舵輪からの逆入力荷重は、転舵軸の軸線方向に作用するアキシャル荷重と、転舵軸の軸線方向に対して直交する方向に作用するラジアル荷重とに分解される。すなわち、転舵軸の両端には、それぞれボールねじを支点としてラジアル荷重に応じたモーメントが作用する。モーメントの大きさはタイロッドと転舵軸とがなす角度に応じて変化するところ、そのタイロッドと転舵軸とがなす角度は転舵軸の位置に応じて変化する。すなわち、2つのボールねじを支点とするモーメントの大きさは、転舵軸の位置に応じて異なる。
【0009】
ボールねじは、軸線方向に沿った推力を発生する機械要素であるため、基本的にはラジアル荷重を受ける構造にはなっていない。このため、ボールねじにラジアル荷重が作用すると、ボールねじのボールおよびボールねじ溝への負荷が増大することによって製品寿命が低下するおそれがある。
【0010】
この点、上記の転舵装置によるように、2つのモータに発生させるべきトータルとしてのトルクに応じて演算される電流指令値を転舵軸の位置に応じた比率でモータごとに配分することによって、2つのボールねじのボールおよびボールねじ溝への負荷を均一な状態に近づけることが可能である。したがって、ボールねじ、ひいては転舵装置の製品寿命を維持向上させることが可能である。
【0011】
上記の転舵装置において、前記転舵軸の両端にはそれぞれ前記転舵輪からの逆入力荷重に応じた前記2つのボールねじを支点とするモーメントが作用すること、および前記モーメントは前記タイロッドが前記転舵軸の両端に角度をなして揺動可能に連結されることに起因して前記転舵軸の軸方向の位置に応じて変化することを前提として、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記モーメントの値が大きい側の前記ボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率を減少させる一方、モーメントの値が小さい側の前記ボールねじに対応する前記モータに対する電流指令値の配分比率を増加させるようにしてもよい。
【0012】
この転舵装置によれば、モーメントの値が大きい側のボールねじに対応するモータに対する電流指令値の配分比率が減少されることにより、モーメントの値が大きい側のボールねじの運動負荷が軽減される。逆に、モーメントの値が小さい側のボールねじに対応するモータに対する電流指令値の配分比率が増加されることにより、モーメントの値が小さい側のボールねじの運動負荷が増大される。これにより、2つのボールねじの運動負荷が均一化される。
【0013】
上記の転舵装置において、前記転舵軸の中立位置を基準とする軸方向の位置変化に対する第1のボールねじに対応するモータに対する電流指令値の配分比率の変化特性と、前記転舵軸の中立位置を基準とする軸方向の位置変化に対する第2のボールねじに対応するモータに対する電流指令値の配分比率の変化特性とは、互いに逆特性を有していてもよい。
【0014】
この転舵装置によれば、転舵軸の中立位置を基準とする軸方向の位置変化に対して、2つのボールねじに対応するモータに対する電流指令値の配分比率の変化特性が互いに逆特性であるため、2つのモータに対する電流指令値の配分比率を調節しやすい。
【0015】
上記の転舵装置において、前記転舵軸が中立位置を基準として移動するほどその移動する側と反対側に位置するボールねじに作用するモーメントの値が大きくなる特性を有していることを前提として、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記転舵軸が中立位置を基準として移動するほどその移動する側と反対側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率をより減少させる一方、前記移動する側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率をより増加させるようにしてもよい。
【0016】
この転舵装置によれば、2つのモータに対する電流指令値の配分比率が転舵軸の位置に応じてより適切に設定される。このため、2つのボールねじの運動負荷を転舵軸の位置に応じてより細やかに調節することが可能となる。
【0017】
上記の転舵装置において、前記転舵軸がその中立位置を基準として移動するほどその移動する側に位置するボールねじに作用するモーメントの値が大きくなる特性を有していることを前提として、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記転舵軸が中立位置を基準として移動するほどその移動する側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率を減少させる一方、前記移動する側と反対側のボールねじに対応するモータに対する前記電流指令値の配分比率を増加させるようにしてもよい。
【0018】
この転舵装置によれば、2つのモータに対する電流指令値の配分比率が転舵軸の位置に応じてより適切に設定される。このため、2つのボールねじの運動負荷を転舵軸の位置に応じてより細やかに調節することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の転舵装置によれば、製品寿命を維持向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】転舵装置の第1の実施の形態を車両進行方向からみた正面図。
【
図2】転舵装置の第1の実施の形態を車両進行方向に直交する方向からみた平面図。
【
図3】第1の実施の形態の転舵軸に作用する逆入力荷重を示す模式図。
【
図4】第1の実施の形態の転舵軸の位置と傾角との関係を説明するための転舵装置の要部正面図。
【
図5】第1の実施の形態の転舵軸の位置と傾角との関係を示すグラフ。
【
図6】第1の実施の形態の転舵軸とボールナットとの連結部分を示す断面図。
【
図8】第1の実施の形態の転舵軸の位置と配分比率との関係を示すグラフ。
【
図9】転舵装置の第2の実施の形態を車両進行方向に直交する方向からみた平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、車両の転舵装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、転舵装置10は、図示しない車体に固定されるハウジング11を有している。ハウジング11の内部には車体の左右方向(
図1中の左右方向)に沿って延びる転舵軸12が収容されている。転舵軸12の第1の端部(
図1中の左端部)には、第1のインナーボールジョイント13aを介して第1のタイロッド14aが連結されている。第1のタイロッド14aの第1のインナーボールジョイント13aと反対側の端部には、第1の転舵輪15aが連結される。転舵軸12の第2の端部(
図1中の右端部)には、第2のインナーボールジョイント13bを介して第2のタイロッド14bが連結されている。第2のタイロッド14bの第2のインナーボールジョイント13bと反対側の端部には、第2の転舵輪15bが連結される。転舵軸12がその軸方向に沿って移動することにより第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bの転舵角θwa,θwbが変更される。
【0022】
転舵軸12には、第1のボールねじ溝部12aおよび第2のボールねじ溝部12bが設けられている。第1のボールねじ溝部12aは、転舵軸12における第1の端部(
図1中の左端部)に寄った所定範囲にわたって右ねじが設けられた部分である。第2のボールねじ溝部12bは、転舵軸12における第2の端部(
図1中の右端部)に寄った所定範囲にわたって左ねじが設けられた部分である。
【0023】
転舵装置10は、第1のボールナット15および第2のボールナット16を有している。第1のボールナット15は、転舵軸12の第1のボールねじ溝部12aに対して図示しない複数のボールを介して螺合されている。第2のボールナット16は、転舵軸12の第2のボールねじ溝部12bに対して図示しない複数のボールを介して螺合されている。転舵軸12の第1のボールねじ溝部12a、図示しないボールおよび第1のボールナット15は、第1のボールねじBS1を構成する。転舵軸12の第2のボールねじ溝部12b、図示しないボールおよび第2のボールナット16は、第2のボールねじBS2を構成する。
【0024】
転舵装置10は、第1のモータ17および第2のモータ18を有している。これら第1のモータ17および第2のモータ18は、第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bを転舵させるための動力である転舵力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。第1のモータ17および第2のモータ18は、それぞれハウジング11の外側の部分に固定される。第1のモータ17の出力軸17aおよび第2のモータ18の出力軸18aは、それぞれ転舵軸12に対して平行に延びている。
【0025】
転舵装置10は、第1のベルト伝動機構21および第2のベルト伝動機構22を有している。
第1のベルト伝動機構21は、駆動プーリ23、従動プーリ24、および無端状のベルト25を有している。駆動プーリ23は、その外周面に歯23aが設けられた歯付きプーリであって、第1のモータ17の出力軸17aに固定されている。従動プーリ24は、その外周面に歯24aが設けられた歯付きプーリであって、第1のボールナット15の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト25は、その内周面に歯25aが設けられた歯付きのベルトであって、駆動プーリ23と従動プーリ24との間に掛け渡されている。したがって、第1のモータ17の回転は、駆動プーリ23、ベルト25および従動プーリ24を介して第1のボールナット15に伝達される。
【0026】
第2のベルト伝動機構22は、第1のベルト伝動機構21と同様に、駆動プーリ26、従動プーリ27、および無端状のベルト28を有している。駆動プーリ26は、その外周面に歯26aが設けられた歯付きプーリであって、第2のモータ18の出力軸18aに固定されている。従動プーリ27は、その外周面に歯27aが設けられた歯付きプーリであって、第2のボールナット16の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト28は、その内周面に歯28aが設けられた歯付きのベルトであって、駆動プーリ26と従動プーリ27との間に掛け渡されている。したがって、第2のモータ18の回転は、駆動プーリ26、ベルト28および従動プーリ27を介して第2のボールナット16に伝達される。
【0027】
第1のベルト伝動機構21および第1のボールねじBS1は、第1のモータ17の駆動力を転舵軸12に伝達する第1の伝動機構を構成する。第2のベルト伝動機構22および第2のボールねじBS2は、第2のモータ18の駆動力を転舵軸12に伝達する第2の伝動機構を構成する。ちなみに、第1のモータ17から転舵軸12までの間の減速比(第1の伝動機構の減速比)、および第2のモータ18から転舵軸12までの間の減速比(第2の伝動機構の減速比)は同じ値である。また、転舵軸12における第1のボールねじ溝部12aのリード、および第2のボールねじ溝部12bのリードは同じ値である。したがって、第1のモータ17が1回転したときの転舵軸12の移動量と、第2のモータ18が1回転したときの転舵軸12の移動量とは、同じ値になる。
【0028】
転舵装置10は、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32を有している。第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32としては、たとえばレゾルバが採用される。また、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32の検出範囲は、第1のモータ17および第2のモータ18の電気角の1周期に対応する360°である。
【0029】
第1の回転角センサ31は第1のモータ17に設けられている。第1の回転角センサ31は、第1のモータ17の回転角(電気角)αを検出する。第1の回転角センサ31は、第1のモータ17の回転に応じた電気信号として正弦波状に変化する第1の正弦信号(sin信号)、および第1のモータ17の回転に応じて余弦波状に変化する第1の余弦信号(cos信号)を生成する。第1の回転角センサ31は、第1の正弦信号および第1の余弦信号に基づく逆正接を第1のモータ17の回転角αとして演算する。この回転角αは、第1の回転角センサ31の軸倍角に応じた周期でのこぎり波状に変化する。すなわち、回転角αは、第1のモータ17の回転に応じて立ち上がりと急峻な立ち下がりとを繰り返すかたちで変化する。
【0030】
第2の回転角センサ32は、第2のモータ18に設けられている。第2の回転角センサ32は、第2のモータ18の回転角β(電気角)を検出する。第2の回転角センサ32は、第2のモータ18の回転に応じた電気信号として正弦波状に変化する第2の正弦信号、および第2のモータ18の回転に応じて余弦波状に変化する第2の余弦信号を生成する。第2の回転角センサ32は、第2の正弦信号および第2の余弦信号に基づく逆正接を第2のモータ18の回転角βとして演算する。この回転角βは、第2の回転角センサ32の軸倍角に応じた周期でのこぎり波状に変化する。
【0031】
第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32は、互いに異なる軸倍角を有している。軸倍角とは、第1のモータ17および第2のモータ18の回転角(機械角)に対する電気信号の電気角の比をいう。たとえば第1のモータ17が1回転する間に第1の回転角センサ31が1周期分の電気信号を生成する場合、第1の回転角センサ31の軸倍角は1倍角(1X)である。また、第1のモータ17が1回転する間に第1の回転角センサ31が4周期分の電気信号を生成する場合、第1の回転角センサ31の軸倍角は4倍角(4X)である。
【0032】
第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32は互いに異なる軸倍角を有しているため、第1のモータ17の1回転あたりの回転角αおよび第2のモータ18の1回転あたりの回転角βの周期数は互いに異なる。すなわち、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32により生成される電気信号の一周期あたりの第1のモータ17および第2のモータ18の回転角(機械角)の値は互いに異なる。
【0033】
第1のモータ17は第1のベルト伝動機構21および第1のボールねじBS1を介して転舵軸12、ひいては第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bに連結されている。また、第2のモータ18は第2のベルト伝動機構22および第2のボールねじBS2を介して転舵軸12、ひいては第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bに連結されている。このため、第1のモータ17の回転角αおよび第2のモータ18の回転角βは、それぞれ転舵軸12の軸方向における絶対位置、ひいては第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bの転舵角θwa,θwbを反映する値である。
【0034】
転舵装置10は、第1の制御装置41および第2の制御装置42を有している。
第1の制御装置41は、第1のモータ17を制御する。第1の制御装置41は、たとえば車載される上位の制御装置が車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に応じて演算する目標転舵角θ*を取り込む。また、第1の制御装置41は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを取り込む。
【0035】
第1の制御装置41は、第1のモータ17の駆動制御を通じて第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bを操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。第1の制御装置41は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを使用して転舵軸12の実際の絶対位置を演算する。また、第1の制御装置41は、目標転舵角θ*に基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する。第1の制御装置41は、転舵軸12の目標絶対位置と実際の絶対位置との差を求め、この差を無くすように第1のモータ17に対する給電を制御する位置フィードバック制御を実行する。第1の制御装置41は、転舵軸12の目標絶対位置と実際の絶対位置との差に応じて第1のモータ17および第2のモータ18に対する電流指令値を演算し、この演算される電流指令値に応じた電流を第1のモータ17へ供給する。
【0036】
第2の制御装置42は、第2のモータ18を制御する。第2の制御装置42は、第2のモータ18の駆動制御を通じて第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bを操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。第2の制御装置42は、第1の制御装置41により演算される電流指令値を取り込み、この取り込まれる電流指令値に基づき第2のモータ18に対する給電を制御する。
【0037】
また、第2の制御装置42は、前述した上位の制御装置が演算する目標転舵角θ*、ならびに第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを取り込む。第2の制御装置42は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを使用して転舵軸12の実際の絶対位置を演算する第1の機能を有している。また、第2の制御装置42は、目標転舵角θ*に基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する第2の機能を有している。また、第2の制御装置42は、転舵軸12の目標絶対位置と実際の絶対位置との差を求め、この差を無くすように第2のモータ18に対する給電を制御する位置フィードバック制御を実行する第3の機能を有している。ただし、第2の制御装置42は、第1の制御装置41が正常に動作している場合、これら第1~第3の機能を停止した状態に維持する。このとき、目標転舵角θ*、第1のモータ17の回転角αおよび第2のモータ18の回転角βは使用されない。
【0038】
ちなみに、転舵軸12に対する第1のボールナット15および第2のボールナット16の相対回転に伴い、転舵軸12には軸周りのトルクが作用する。転舵軸12を特定の方向へ向けて移動させようとする場合、第1のボールナット15および第2のボールナット16が互いに反対方向へ向けて回転するとともに、それらボールナットの回転に伴い転舵軸12に作用するトルクの大きさが基本的には同じ値になるように、第1のモータ17および第2のモータ18の動作が制御される。このため、互いに逆方向のトルクである、第1のボールナット15の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクと、第2のボールナット16の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクとが相殺される。したがって、転舵軸12に軸周りのトルクが作用することが抑制される。
【0039】
図2に示すように、転舵装置10を車両に搭載した場合に上となる方向からみて、第1のタイロッド14aの第1のインナーボールジョイント13aと反対側の端部は、車両が直進走行する際の第1の転舵輪15aの回転中心を基準として車両の後ろ側に寄った位置に連結されている。第2のタイロッド14bにおける第2のインナーボールジョイント13bと反対側の端部は、車両が直進走行する際の第2の転舵輪15bの回転中心を基準として車両の後ろ側に寄った位置に連結されている。このようなリンク構成を後ろリンクと通称する。
【0040】
図3に示すように、転舵軸12が車両の直進状態に対応する中立位置P
0に位置する状態において、第1のタイロッド14aは転舵軸12に対して第1の傾角θ
aをなしている。また、転舵軸12が中立位置P
0に位置する状態において、第2のタイロッド14bは転舵軸12に対して第2の傾角θ
bをなしている。このため、第1の転舵輪15aからの逆入力荷重F1は、転舵軸12の軸線方向に沿った方向に作用するアキシャル荷重F1
xと、転舵軸12の軸線方向に対して直交する方向に作用するラジアル荷重F1
zとに分解される。すなわち、転舵軸12の第1の端部に作用するラジアル荷重F1
zにより、第1のボールねじBS
1に対して曲げモーメントM1が作用する。また、第2の転舵輪15bからの逆入力荷重F2は、転舵軸12の軸線方向に沿った方向に作用するアキシャル荷重F2
xと、転舵軸12の軸線方向に対して直交する方向に作用するラジアル荷重F2
zとに分解される。すなわち、転舵軸12の第2の端部に作用するラジアル荷重F2
zにより、第2のボールねじBS
2に対して曲げモーメントM2が作用する。
【0041】
曲げモーメントM1の値は、第1のタイロッド14aと転舵軸12とがなす角度である第1の傾角θaと、第1のインナーボールジョイント13aから第1のボールねじBS1までの距離に応じて変化する。曲げモーメントM2の値は、第2のタイロッド14bと転舵軸12とがなす角度である第2の傾角θbと、第2のインナーボールジョイント13bから第2のボールねじBS2までの距離に応じて変化する。第1の傾角θaの値および第2の傾角θbの値は、第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bの転舵角θwa,θwb、すなわち転舵軸12の位置に応じて変化する。第1の傾角θaの値がより大きい値になるほど、ラジアル荷重F1zの値、ひいては曲げモーメントM1の値はより大きい値となる。また、第2の傾角θbの値がより大きい値になるほど、ラジアル荷重F2zの値、ひいては曲げモーメントM2の値はより大きい値となる。
【0042】
ちなみに、転舵軸12の絶対位置に対する第1の傾角θaと第2の傾角θbとは互いに異なる値となる。このため、第1の転舵輪15aからの逆入力荷重F1および第2の転舵輪15bからの逆入力荷重F2は互いに異なる値となる。また、第1の転舵輪15aからの逆入力荷重F1の方向および第2の転舵輪15bからの逆入力荷重F2の方向についても互いに異なる方向となる。
【0043】
つぎに、第1の傾角θ
aと転舵軸12の位置との関係、ならびに第2の傾角θ
bと転舵軸12の位置との関係について説明する。
図4に示すように、転舵軸12は、車両の直進方向に対応する中立位置P
0を基準として定められる最大移動範囲Ra内を軸方向に移動する。また、転舵軸12の中立位置P
0を基準とする第1の方向(
図4中の左方向)を正方向とする。転舵軸12の中立位置P
0を基準とする第2の方向(
図4中の右方向)を負方向とする。
【0044】
図5のグラフに示すように、転舵軸12の中立位置P
0を基準とする位置変化に対する第1の傾角θ
aの変化特性と、転舵軸12の中立位置P
0を基準とする位置変化に対する第2の傾角θ
bとの変化特性は互いに逆特性となる。
【0045】
図5に実線で示すように、転舵軸12が中立位置P
0に位置しているとき、すなわち転舵軸12の中立位置P
0を基準とする移動量が0(零)であるとき、第1の傾角θ
aは角度θ
0に維持される。転舵軸12が中立位置P
0を基準とする正方向へ移動するにつれて第1の傾角θ
aの値は徐々に減少した後、今度は増加に転じる。転舵軸12が正の最大位置+P
maxへ至るとき、第1の傾角θ
aの値は角度θ
1(θ
0<θ
1)に至る。これに対し、転舵軸12が中立位置P
0を基準とする負方向へ移動するにつれて第1の傾角θ
aの値は徐々に増加する。転舵軸12が負の最大位置-P
max至るとき、第1の傾角θ
aの値は角度θ
2(θ
0<θ
1<θ
2)に至る。
【0046】
図5に破線で示すように、転舵軸12が中立位置P
0に位置しているとき、第2の傾角θ
bは角度θ
0に維持される。転舵軸12が中立位置P
0を基準とする正方向へ移動するにつれて第2の傾角θ
bの値は徐々に増加する。転舵軸12が正の最大位置+P
maxへ至るとき、第2の傾角θ
bの値は角度θ
2(θ
0<θ
2)に至る。これに対し、転舵軸12が中立位置P
0を基準とする負方向へ移動するにつれて第2の傾角θ
bの値は徐々に減少した後、今度は増加に転じる。転舵軸12が負の最大位置-P
maxへ至るとき、第2の傾角θ
bの値は角度θ
1(θ
0<θ
1<θ
2)に至る。
【0047】
図5の転舵軸12の位置に対する第1の傾角θ
aおよび第2の傾角θ
bの変化を見ると、第1の傾角θ
aおよび第2の傾角θ
bは中立位置P
0を中心として左右対称である。これは、転舵軸12、第1のタイロッド14aおよび第2のタイロッド14b、ならびに第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bの幾何学的配置が左右対称なためである。
【0048】
曲げモーメントM1の値は、転舵軸12に作用するラジアル荷重F1zの値と、第1のインナーボールジョイント13aから第1のボールねじBS1までの距離とを乗算することにより得られる。このため、第1の傾角θaの値がより大きく、転舵軸12に作用するラジアル荷重F1zの値が大きくなるほど、あるいは第1のインナーボールジョイント13aから第1のボールねじBS1までの距離が長くなるほど、曲げモーメントM1の値がより大きな値となる。
【0049】
また、曲げモーメントM2の値は、転舵軸12に作用するラジアル荷重F2zの値と、第2のインナーボールジョイント13bから第2のボールねじBS2までの距離とを乗算することにより得られる。このため、第2の傾角θbの値がより大きく、転舵軸12に作用するラジアル荷重F2zの値が大きくなるほど、あるいは第2のインナーボールジョイント13bから第2のボールねじBS2までの距離が長くなるほど、曲げモーメントM2の値がより大きな値となる。このようなラジアル荷重F1z,F2z、ひいては曲げモーメントM1,M2が転舵軸12に作用することによって、つぎのようなことが懸念される。
【0050】
図6に示すように、たとえば第1のタイロッド14aを介して転舵軸12にラジアル荷重F1
zが付与されることによって曲げモーメントM1が作用するとき、この曲げモーメントM1の大きさによっては、転舵軸12が第1のボールねじBS
1が設けられた部分を支点として、わずかながらにも曲がったり傾いたりするおそれがある。このような事象が発生するとき、第1のボールねじBS
1における一部のボール15cあるいは第1のボールねじ溝部12aの一部分(前記一部のボール15cが接触するねじ溝部)に負荷が集中する。すなわち、転舵軸12の第1のボールねじ溝部12aと第1のボールナット15との間で転動するボール15cにかかる負荷分布が不均一になる。このため、第1のボールねじBS
1の製品寿命が低下するおそれがある。また、第1のボールねじBS
1の円滑な動作が阻害されるおそれもある。
【0051】
なお、第2のタイロッド14bを介して転舵軸12にラジアル荷重F2zあるいは曲げモーメントM2が作用するときについても、第1のタイロッド14aを介して転舵軸12にラジアル荷重F1zあるいは曲げモーメントM1が作用するときと同様に、第2のボールねじBS2の製品寿命が低下するおそれがある。また、第2のボールねじBS2の円滑な動作が阻害されるおそれもある。
【0052】
そこで、本実施の形態では、第1のボールねじBS1および第2のボールねじBS2の製品寿命の維持向上を目的として、第1の制御装置41および第2の制御装置42としてつぎの構成を採用している。
【0053】
図7に示すように、第1の制御装置41は、位置検出回路51、位置制御回路52、配分演算回路53、乗算器54および電流制御回路55、および減算器56を有している。
位置検出回路51は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを取り込み、これら取り込まれる回転角α,βに基づき転舵軸12の絶対位置P1を演算する。第1の回転角センサ31の軸倍角および第2の回転角センサ32の軸倍角は、第1の回転角センサ31により検出される回転角αと第2の回転角センサ32により検出される回転角βとが転舵軸12の最大移動範囲内において一致しないように設定される。このため、回転角αの値と回転角βの値との組み合わせと、転舵軸12の絶対位置P1とは1対1で対応する。したがって、2つの回転角α,βの組み合わせに基づき、転舵軸12の絶対位置P1を即時に検出することが可能である。位置検出回路51により演算される絶対位置P1の演算範囲の中点が原点、すなわち車両が直進走行しているときの転舵軸12の位置である転舵中立位置(転舵角θwa,θwb=0°)として設定される。
【0054】
位置制御回路52は、前述した上位の制御装置が演算する目標転舵角θ*に基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する。転舵軸12と転舵輪(15a,15b)とは互いに連動するため、転舵軸12の絶対位置と転舵輪(15a,15b)の転舵角θwa,θwbとの間には相間関係がある。この相間関係を利用して目標転舵角θ*から転舵軸12の目標絶対位置を求めることができる。位置制御回路52は、転舵軸12の目標絶対位置と位置検出回路51により演算される転舵軸12の実際の絶対位置P1との差を求め、この差を無くすように第1のモータ17および第2のモータ18に対する電流指令値I*を演算する。この電流指令値I*は、第1のモータ17および第2のモータ18に発生させるべきトータルとしてのトルクに対応する。
【0055】
配分演算回路53は、位置制御回路52お同様に、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを取り込み、これら取り込まれる回転角α,βに基づき転舵軸12の絶対位置Psを演算する。
【0056】
配分演算回路53は、演算される転舵軸12の絶対位置Psの現在値に基づき、位置制御回路52により演算される電流指令値I*の第1のモータ17に対する第1の配分比率DR1を演算する。第1の配分比率DR1は、「0」以上「1」以下の範囲内の値に設定される。配分演算回路53は、転舵軸12の絶対位置Psと第1の配分比率DR1との関係を規定するマップを使用して第1の配分比率DR1を演算する。マップは第1の制御装置41の記憶装置に格納される。
【0057】
図8に示すように、マップM
pは、横軸を転舵軸12の絶対位置Ps、縦軸を第1の配分比率DR1とする二次元マップであって、つぎの特性を有する。すなわち、
図8に実線で示すように、第1の配分比率DR
1は、転舵軸12の最大移動範囲Raにおいて、転舵軸12の絶対位置Psが負の最大位置-P
maxから中立位置P
0を経て正の最大位置+P
maxへ向かうにつれて徐々に増加する。ただし、転舵軸12の絶対位置Psが中立位置P
0であるとき、第1の配分比率DR1は「0.5」である。これは、位置制御回路52により演算される電流指令値I
*を100%としたときの50%に相当する値である。
【0058】
マップMpは、たとえばシミュレーションを通じて設定される。すなわち、まず転舵軸12の絶対位置Psを変化させていくとき、その転舵軸12の絶対位置Psごとの第1の転舵輪15aからの逆入力荷重F1および第2の転舵輪15bからの逆入力荷重F2を求める。また、転舵軸12の絶対位置Psを変化させていくとき、その転舵軸12の絶対位置Psごとの第1のタイロッド14aの第1の傾角θaおよび第2のタイロッド14bの第2の傾角θbを求める。つぎに、これら求められる転舵軸12の絶対位置Psごとの逆入力荷重F1,F2の値、ならびに第1の傾角θaおよび第2の傾角θbの値に基づき、第1のボールねじBS1および第2のボールねじBS2に作用する曲げモーメントM1,M2、ひいては第1のボールねじBS1および第2のボールねじBS2のボールに作用する面圧を求める。そして、これら求められる面圧のうちの最大値をより小さい値とする観点に基づき、転舵軸12の絶対位置Psに対する第1の配分比率DR1の値および第2の配分比率DR2の値の適合作業を通じてマップMpが設定される。
【0059】
図7に示すように、乗算器54は、配分演算回路53により演算される第1の配分比率DR
1を位置制御回路52により演算される電流指令値I
*に乗算することにより第1のモータ17に対する第1の電流指令値I
1
*を演算する。
【0060】
電流制御回路55は、乗算器54により演算される第1の電流指令値I1
*に応じた電力を第1のモータ17へ供給する。これにより、第1のモータ17は、第1の電流指令値I1
*に応じたトルクを発生する。
【0061】
減算器56は、第1の制御装置41の記憶装置に格納された固定値である「1」から、配分演算回路53により演算される第1の配分比率DR1を減算することにより、電流指令値I*の第2のモータ18に対する第2の配分比率DR2を演算する。たとえば、第1の配分比率DR1が「0.3」に設定されるとき、第2の配分比率DR2の値は「0.7」となる。第1の配分比率DR1が「0.5」に設定されるとき、第2の配分比率DR2の値は「0.5」となる。第1の配分比率DR1が「0.3」に設定されるとき、第2の配分比率DR2の値は「0.7」となる。すなわち、第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトルクの合計値は、位置制御回路52により演算される電流指令値I*に応じたトルクとなる。
【0062】
したがって、転舵軸12の絶対位置Psの変化に対する第2の配分比率DR
2の変化特性は、転舵軸12の絶対位置Psの変化に対する第1の配分比率DR
1の変化特性に対して逆特性となる。すなわち、先の
図8に破線で示すように、転舵軸12の最大移動範囲Raにおいて、転舵軸12の絶対位置Psが正の最大位置+P
maxから中立位置P
0を経て負の最大位置-P
maxへ向かうにつれて、第1の配分比率DR
1は徐々に減少し、第2の配分比率DR
2は徐々に増加する。転舵軸12の絶対位置Psが正の最大位置+P
maxであるときの第2の配分比率DR
2の値と、転舵軸12の絶対位置Psが負の最大位置-P
maxであるときの第1の配分比率DR
1の値とは互いに等しい。また、転舵軸12の絶対位置Psが負の最大位置-P
maxであるときの第2の配分比率DR
2の値と、転舵軸12の絶対位置Psが正の最大位置+P
maxであるときの第1の配分比率DR
1の値とは互いに等しい。つまり、
図8において、第1の配分比率DR
1と第2の配分比率DR
2とは、転舵軸12の中立位置P
0(縦軸)に関して線対称となるように設定され、互いに逆特性を有している。
【0063】
図7に示すように、第2の制御装置42は、位置検出回路61、位置制御回路62、乗算器63および電流制御回路64を有している。
位置検出回路61は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを取り込み、これら取り込まれる回転角α,βに基づき転舵軸12の絶対位置P2を演算する。ただし、位置検出回路61は、第1の制御装置41のバックアップ用であって、第1の制御装置41が正常に動作している通常の状態においては機能が停止した状態に維持される。
【0064】
位置制御回路62は、前述した上位の制御装置が演算する目標転舵角θ*に基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する。位置制御回路62は、転舵軸12の目標絶対位置と位置検出回路61により演算される転舵軸12の実際の絶対位置P2との差を求め、この差を無くすように第1のモータ17および第2のモータ18に発生させるべきトータルとしてのトルクに応じた電流指令値I*を演算する。ただし、位置制御回路62は、第1の制御装置41のバックアップ用であって、第1の制御装置41が正常に動作している通常の状態においては機能が停止した状態に維持される。
【0065】
乗算器63は、第1の制御装置41の減算器56により演算される第2の配分比率DR2を第1の制御装置41の位置制御回路52により演算される電流指令値I*に乗算することにより第2のモータ18に対する第2の電流指令値I2
*を演算する。
【0066】
電流制御回路64は、乗算器63により演算される第2の電流指令値I2
*に応じた電力を第2のモータ18へ供給する。これにより、第2のモータ18は、第2の電流指令値I2
*に応じたトルクを発生する。
【0067】
つぎに、本実施の形態の作用を説明する。
第1のタイロッド14aは転舵軸12に対して第1の傾角θaをなして設けられる。第2のタイロッド14bは転舵軸12に対して第2の傾角θbをなして設けられる。このため、転舵軸12がその中立位置P0を基準として負の最大位置-Pmaxあるいは正の最大位置+Pmaxに近づくほど、転舵軸12に対する第1のタイロッド14aの第1の傾角θa、および第2のタイロッド14bの第2の傾角θbは、より大きな値となる。そして、第1の傾角θaの値がより大きくなるほど、転舵軸12に対して作用するラジアル荷重F1zの値、ひいては曲げモーメントM1の値がより大きくなる。また、第2の傾角θbの値がより大きくなるほど、転舵軸12に対して作用するラジアル荷重F2zの値、ひいては曲げモーメントM2の値がより大きくなる。
【0068】
ただし、転舵軸12の絶対位置Psに対する第1の傾角θaと第2の傾角θbとは、互いに異なる値となる。このため、転舵軸12に対して作用するラジアル荷重F1z,F2zの値、ひいては曲げモーメントM1,M2の値についても、互いに異なる値となる。このことに着目し、本実施の形態では、左右のラジアル荷重F1z,F2zのうち、より大きい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじ(BS1,BS2)に対応するモータ(17,18)のトルクをより減少させる一方、より小さい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじに対応するモータのトルクをより増大させる。すなわち、左右の曲げモーメントM1,M2のうち、より大きい値の曲げモーメントが作用する側のボールねじに対応するモータのトルクを減少させる一方、より小さい値の曲げモーメントが作用する側のボールねじに対応するモータのトルクを増大させる。
【0069】
これにより、より大きい値のラジアル荷重、ひいては曲げモーメントが作用する側のボールねじに対応するモータのトルクが減少される分だけ、より大きい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじにおける一部のボールあるいはボールねじ溝の一部分に負荷が集中することが抑制される。すなわち、モータのトルクが減少される分だけ、負荷が集中していたボールとボールねじ溝との間の接触部分におけるボール面圧が低下する。このため、より大きい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじにおいて、転舵軸12のボールねじ溝部とボールナットとの間で転動するボールにかかる負荷分布がより均一な状態に近づく。したがって、より大きい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじの製品寿命の維持向上が図られる。また、より大きい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじの円滑な動作が維持される。
【0070】
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)転舵軸12の位置に応じて第1のタイロッド14aと転舵軸12とのなす角度である第1の傾角θaの値、および第2のタイロッド14bと転舵軸12とのなす角度である第2の傾角θbの値が変化する。また、転舵軸12の位置に対して第1の傾角θaと第2の傾角θbとは互いに異なる値になるところ、これら第1の傾角θaおよび第2の傾角θbに応じて転舵軸12に作用するラジアル荷重F1z,F2zの大きさが変化する。このため、転舵軸12の位置に応じて第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトルクを配分することにより、より大きい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじにおける負荷集中を抑制することが可能である。すなわち、第1のボールねじBS1および第2のボールねじBS2の運動負荷を均一な状態に近づけることが可能である。したがって、第1のボールねじBS1および第2のボールねじBS2の製品寿命、ひいては転舵装置10の製品寿命を維持向上させることが可能である。
【0071】
(2)また、より小さい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじに対応するモータのトルクは、より大きい値のラジアル荷重が作用するボールねじに対応するモータのトルクが減少される分だけ増大される。これにより、第1のモータ17および第2のモータ18はトータルとして電流指令値I*に応じたトルクを発生することができる。このため、第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトータルとしてのトルクを確保しつつ、第1のボールねじBS1および第2のボールねじBS2を保護することができる。
【0072】
(3)また、より大きい値のラジアル荷重が作用するボールねじに対応するモータのトルクを減少させる一方、より小さい値のラジアル荷重が作用する側のボールねじに対応するモータのトルクを増大させることにより、第1のボールねじBS1および第2のボールねじBS2の運動負荷を均一な状態に近づけることが可能である。
【0073】
(4)転舵軸12の中立位置P0を基準とする位置変化に対する第1の傾角θaの変化特性と、転舵軸12の中立位置P0を基準とする位置変化に対する第2の傾角θbとの変化特性とは、互いに逆特性となる。すなわち、転舵軸12の中立位置P0を基準とする位置変化に対する第1のボールねじBS1を支点とする曲げモーメントM1の変化特性と、転舵軸12の中立位置P0を基準とする位置変化に対する第2のボールねじBS2を支点とする曲げモーメントM1の変化特性とについても、互いに逆特性となる。このため、第1のボールねじBS1に対応する第1のモータ17に対する第1の配分比率DR1、および第2のボールねじBS2に対応する第2のモータ18に対する第2の配分比率DR2を調節しやすい。
【0074】
(5)先の
図5のグラフに示される転舵軸12の絶対位置と第1の傾角θ
aとの関係、および転舵軸12の絶対位置と第2の傾角θ
bとの関係から、転舵装置10は、転舵軸12が中立位置P
0を基準として移動するほどその移動する側と反対側に位置するボールねじを支点とするモーメントの値が大きくなる特性を有していることがわかる。たとえば、転舵軸12が中立位置P
0を基準として負方向(
図4中の右方向)へ移動するほどその移動する側と反対側(
図4中の左側)に位置する第1のボールねじBS
1を支点とする曲げモーメントM1の値が大きくなる。逆に、転舵軸12が中立位置P
0を基準として正方向(
図4中の左方向)へ移動するほどその移動する側と反対側(
図4中の右側)に位置する第2のボールねじBS
2を支点とする曲げモーメントM2の値が大きくなる。このことを前提として、第1の制御装置41は、転舵軸12が中立位置P
0を基準として移動するほどその移動する側と反対側のボールねじに対応するモータに対する電流指令値I
*の配分比率をより減少させる一方、移動する側のボールねじに対応するモータに対する電流指令値I
*の配分比率をより増加させる。このため、第1のモータ17に対する第1の配分比率DR
1および第2のモータ18に対する第2の配分比率DR
2が転舵軸12の位置に応じてより適切に設定される。したがって、第1のボールねじBS
1および第2のボールねじBS
2の運動負荷を転舵軸12の位置に応じてより細やかに調節することができる。
【0075】
(6)第1のモータ17および第2のモータ18が協調して動作する際、これら第1のモータ17および第2のモータ18へ供給される電流は第1の制御装置41により決定される。第2の制御装置42は、第1の制御装置41により一方的に決定される第2の配分比率DR2に基づく個別の電流指令値(I2
*)に応じた電流を自己の制御対象である第2のモータ18に供給するべく動作するだけである。すなわち、第1の制御装置41と第2の制御装置42とは、互いにマスター機とスレーブ機との関係にある。このため、たとえば第1の制御装置41および第2の制御装置42がそれぞれ位置制御を行うことによって自己の制御対象であるモータに対する電流指令値を個別に演算し、それら個別に演算される電流指令値に基づき自己の制御対象であるモータに対する給電を制御する場合と異なり、第1の制御装置41の制御と第2の制御装置42の制御とが互いに干渉することが抑制される。
【0076】
たとえば、転舵軸12の第1のボールねじ溝部12aおよび第2のボールねじ溝部12bのリード誤差などに起因して、第1の制御装置41による転舵軸12の位置フィードバック制御と第2の制御装置42による転舵軸12の位置フィードバック制御とが互いに干渉することが発生しない。したがって、第1のモータ17および第2のモータ18が互いに協調して適切に動作することにより、第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bをより適切に転舵させることができる。
【0077】
<第2の実施の形態>
つぎに、転舵装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には第1の実施の形態と同様の構成を有している。本実施の形態は、転舵輪に対するタイロッドの連結位置の点で第1の実施の形態と異なる。
【0078】
図9に示すように、転舵装置10を車両に搭載した場合に上となる方向からみて、第1のタイロッド14aにおける第1のインナーボールジョイント13aと反対側の端部は、車両が直進走行する際の第1の転舵輪15aの回転中心を基準として車両の前側に寄った位置に連結されている。また、転舵装置10を車両に搭載した場合に上となる方向からみて、第2のタイロッド14bにおける第2のインナーボールジョイント13bと反対側の端部は、車両が直進走行する際の第2の転舵輪15bの回転中心を基準として車両の前側に寄った位置に連結されている。この場合、転舵軸12の絶対位置Psの変化に対する第1の傾角θ
aおよび第2の傾角θ
bの変化特性は、先の
図5に示される変化特性に対して逆特性となる。このようなリンク構成を前リンクと通称する。
【0079】
前リンクにおいては、転舵軸12の絶対位置Psに対する第1の傾角θ
aおよび第2の傾角θ
bの変化特性は、先の後ろリンクと逆特性となる。つまり、
図5において破線で示すように、転舵軸12が中立位置P
0に位置しているとき、第1の傾角θ
aは角度θ
0に維持される。転舵軸12が中立位置P
0を基準とする正方向へ移動するにつれて第1の傾角θ
aの値は徐々に増加する。転舵軸12が正の最大位置+P
maxへ至るとき、第1の傾角θ
aの値は角度θ
2(θ
0<θ
2)に至る。これに対し、転舵軸12が中立位置P
0を基準とする負方向へ移動するにつれて第1の傾角θ
aの値は徐々に減少した後、今度は増加に転じる。転舵軸12が負の最大位置-P
maxへ至るとき、第1の傾角θ
aの値は角度θ
1(θ
0<θ
1<θ
2)に至る。
【0080】
図5において実線で示すように、転舵軸12が中立位置P
0に位置しているとき、第2の傾角θ
bは角度θ
0に維持される。転舵軸12が中立位置P
0を基準とする正方向へ移動するにつれて第2の傾角θ
bの値は徐々に減少した後、今度は増加に転じる。転舵軸12が正の最大位置+P
maxへ至るとき、第2の傾角θ
bの値は角度θ
1(θ
0<θ
1)に至る。これに対し、転舵軸12が中立位置P
0を基準とする負方向へ移動するにつれて第2の傾角θ
bの値は徐々に増加する。転舵軸12が負の最大位置-P
max至るとき、第2の傾角θ
bの値は角度θ
2(θ
0<θ
1<θ
2)に至る。
【0081】
したがって、転舵軸12の絶対位置Psの変化に対する第1の配分比率DR
1および第2の配分比率DR
2の変化特性についても、先の
図8に示されるマップM
pと逆特性となる。
【0082】
図8に破線で示すように、第1の配分比率DR
1は、転舵軸12の最大移動範囲Raにおいて、転舵軸12の絶対位置Psが正の最大位置+P
maxから中立位置P
0を経て負の最大位置-P
maxへ向かうにつれて徐々に増加する。このため、
図8に実線で示すように、第2の配分比率DR
2は、転舵軸12の最大移動範囲Raにおいて、転舵軸12の絶対位置Psが負の最大位置-P
maxから中立位置P
0を経て正の最大位置+P
maxへ向かうにつれて徐々に増加する。
【0083】
転舵軸12の絶対位置Psが正の最大位置+P
maxであるときの第1の配分比率DR
1の値と、転舵軸12の絶対位置Psが負の最大位置-P
maxであるときの第2の配分比率DR
2の値とは互いに等しい。また、転舵軸12の絶対位置Psが負の最大位置-P
maxであるときの第1の配分比率DR
1の値と、転舵軸12の絶対位置Psが正の最大位置+P
maxであるときの第2の配分比率DR
2の値とは互いに等しい。つまり、
図8において、第1の配分比率DR
1と第2の配分比率DR
2とは、転舵軸12の中立位置P
0(縦軸)に関して線対称となるように設定され、互いに逆特性を有している。
【0084】
前述したように、転舵軸12の絶対位置Psの変化に対する第1の傾角θ
aおよび第2の傾角θ
bの変化特性は、先の
図5に示される変化特性に対して逆特性となる。このため、転舵装置10は、転舵軸12が中立位置P
0を基準として移動するほどその移動する側に位置するボールねじを支点とするモーメントの値が大きくなる特性を有している。
【0085】
たとえば、転舵軸12が中立位置P
0を基準として負方向(
図4中の右方向)へ移動するほどその移動する側(
図4中の右側)に位置する第2のボールねじBS
2を支点とする曲げモーメントM2の値が大きくなる。逆に、転舵軸12が中立位置P
0を基準として正方向(
図4中の左方向)へ移動するほどその移動する側(
図4中の左側)に位置する第1のボールねじBS
1を支点とする曲げモーメントM1の値が大きくなる。
【0086】
このことを前提として、第1の制御装置41は、転舵軸12が中立位置P0を基準として移動するほどその移動する側と反対側のボールねじに対応するモータに対する電流指令値I*の配分比率をより減少させる一方、移動する側のボールねじに対応するモータに対する電流指令値I*の配分比率をより増加させる。
【0087】
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)~(6)と同様の効果を得ることができる。
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
【0088】
・第1および第2の実施の形態では、転舵軸12が中立位置P0に位置している場合、電流指令値I*の第1のモータ17に対する第1の配分比率DR1を「0.5」に設定したが、これに限らない。転舵軸12が中立位置P0に位置している場合の第1の配分比率DR1を製品仕様などに応じて「0.6」あるいは「0.4」などの適宜の値に設定してもよい。ちなみに、第1の配分比率DR1が「0.6」に設定され得る場合、第2の配分比率DR2は「0.4」となる。また、第1の配分比率DR1が「0.4」に設定され得る場合、第2の配分比率DR2は「0.6」となる。
【0089】
・第1および第2の実施の形態において、第1のボールねじ溝部12aを左ねじ、第2のボールねじ溝部12bを右ねじとしてもよい。すなわち、第1のボールねじ溝部12aと第2のボールねじ溝部12bとが互いに逆ねじの関係を有していればよい。また、第1のボールねじ溝部12aおよび第2のボールねじ溝部12bの双方を右ねじ、または左ねじとしてもよい。ただし、この構成を採用する場合、転舵軸12には、ハウジング11に対する転舵軸12の相対回転を抑制するための回転規制部を設ける。
【0090】
・第1および第2の実施の形態において、配分演算回路53は、第1の制御装置41により演算される転舵軸12の絶対位置P1または第2の制御装置42により演算される転舵軸12の絶対位置P2を使用して第1の配分比率DR1を演算するようにしてもよい。このようにすれば、配分演算回路53が転舵軸12の絶対位置Psを演算しなくてもよい分だけ配分演算回路53の演算負荷を軽減することができる。
【0091】
・第1および第2の実施の形態において、車載される上位の制御装置は目標転舵角θ*ではなく、車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に応じた転舵軸12の目標絶対位置を演算するものであってもよい。この場合、第1の制御装置41および第2の制御装置42は、上位の制御装置により演算される転舵軸12の目標絶対位置を取り込み、この取り込まれる目標絶対位置を使用して第1のモータ17および第2のモータ18に対する給電を制御する。
【0092】
・第1および第2の実施の形態において、第1の制御装置41は、目標転舵角θ*に基づき第1のモータ17の目標回転角を演算し、この演算される第1のモータ17の目標回転角と第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角αとの差を求め、この差を無くすように第1のモータ17に対する給電を制御するようにしてもよい。また、第2の制御装置42は、第1の制御装置41と同様に、目標転舵角θ*に基づき第2のモータ18の目標回転角を演算し、この演算される第2のモータ18の目標回転角と第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βとの差を求め、この差を無くすように第2のモータ18に対する給電を制御するようにしてもよい。
【0093】
・第1および第2の実施の形態において、第1のモータ17の駆動力を転舵軸12に伝達する第1の伝動機構として第1のベルト伝動機構21を割愛した構成を採用するとともに、第2のモータ18の駆動力を転舵軸12に伝達する第2の伝動機構として第2のベルト伝動機構22を割愛した構成を採用してもよい。この場合、たとえば第1のモータ17および第2のモータ18を転舵軸12と同軸に設ける。そして第1のモータ17の出力軸17aを第1のボールナット15に対して一体回転可能に連結するとともに、第2のモータ18の出力軸18aを第2のボールナット16に対して一体回転可能に連結する。この構成を採用した場合であれ、第1および第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0094】
・第1および第2の実施の形態において、第1の制御装置41だけにではなく第2の制御装置42にも配分演算回路53および減算器56に相当する構成を設けてもよい。このようにすれば、第2の制御装置42を第1の制御装置41と同一の構成とし、第1の制御装置41のバックアップ装置とすることができる。ちなみに、第2の制御装置42の配分演算回路は、位置制御回路62により演算される電流指令値I*の第2のモータ18に対する第2の配分比率DR2を演算する。第2の制御装置42の減算器は、第2の制御装置42の記憶装置に格納された固定値である「1」から、第2の制御装置42の配分演算回路により演算される第2の配分比率DR2を減算することにより、電流指令値I*の第1のモータ17に対する第1の配分比率DR1を演算する。ただし、第2の制御装置42の配分演算回路および減算器は、第1の制御装置41のバックアップ用であって、第1の制御装置41が正常に動作している場合には機能が停止した状態に維持される。
【0095】
・第1および第2の実施の形態において、第2の制御装置42として、位置検出回路61および位置制御回路62を割愛した構成を採用してもよい。このようにすれば、第2の制御装置42の構成を簡単にすることができる。
【0096】
・第1および第2の実施の形態において、第1の制御装置41と第1のモータ17と一体的に設けてもよい。また、第2の制御装置42と第2のモータ18とを一体的に設けてもよい。
【0097】
・第1および第2の実施の形態における転舵装置10は、ステアリングホイールと転舵軸との間の動力伝達を分離したステアバイワイヤ式の操舵装置に適用してもよい。ステアバイワイヤ式の操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および反力モータの駆動を制御する反力制御装置を有するところ、反力制御装置として車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に基づきステアリングホイールの目標操舵角を演算するものが存在する。この場合、第1の制御装置41および第2の制御装置42は、たとえば上位の制御装置としての反力制御装置により演算される目標操舵角を目標転舵角θ*として取り込むようにしてもよい。また、転舵装置10は、ステアリングホイールと転舵軸との間をステアリングシャフトとラックアンドピニオン機構とで接続した電動パワーステアリング装置に適用してもよい。
【0098】
・第1および第2の実施の形態において、転舵装置10を、第1の転舵輪15aおよび第2の転舵輪15bをそれぞれ独立して転舵させる、左右独立型の転舵装置として構成してもよい。この場合、転舵装置として、第1のボールねじBS1が設けられる第1の転舵軸、および第2のボールねじBS2が設けられる第2の転舵軸を有する構成を採用する。
【符号の説明】
【0099】
10…転舵装置
12…転舵軸
14a…第1のタイロッド
14b…第2のタイロッド
15a…第1の転舵輪
15b…第2の転舵軸
17…第1のモータ
18…第2のモータ
41…第1の制御装置
42…第2の制御装置
BS1…第1のボールねじ
BS2…第2のボールねじ
DR1…第1の配分比率
DR2…第2の配分比率
I*…電流指令値
M1,M2…モーメント
P0…中立位置