(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】複合構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
B23K20/12 310
B23K20/12 344
B23K20/12 360
(21)【出願番号】P 2020030244
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 久司
(72)【発明者】
【氏名】河本 知広
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-137269(JP,A)
【文献】特開2009-297761(JP,A)
【文献】特開2005-66627(JP,A)
【文献】特開2005-288525(JP,A)
【文献】特開2008-188654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦攪拌を行って複合構造体を製造する複合構造体の製造方法であって、
底部と前記底部の周縁部から立ち上がる枠状の周壁部とで構成される凹部を有し、前記周壁部の端部から外側に張り出すフランジ部を備える第一金属部材と、前記第一金属部材の前記凹部に配置される第二金属部材と、を準備する準備工程と、
前記第一金属部材の凹部に前記第二金属部材を載置して前記第一金属部材の周壁部の内周面と、前記第二金属部材の外周面とを突き合わせて第一突合せ部を形成する載置工程と、
回転する回転ツールを用いて前記第一突合せ部を摩擦攪拌接合する第一突合せ部接合工程と、
前記第二金属部材の表面から回転する回転ツールを挿入しつつ前記第一突合せ部に沿って当該回転ツールを相対移動させ、前記第一金属部材の裏側に配置された成形型の成形面に前記第一金属部材の周壁部を押し付けて賦形する摩擦成形工程と、を含み、
前記摩擦成形工程では、前記成形型の成形面の底面と内周面とのなす角度を直角又は鋭角に形成することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項2】
前記摩擦成形工程では、回転ツールの攪拌ピンの外周面を前記成形面の前記内周面と平行にすることを特徴とする請求項1に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項3】
前記準備工程では、前記第一金属部材の硬度を、前記第二金属部材の硬度よりも高く設定し、
前記第一突合せ部接合工程では、前記第二金属部材の表面から回転する回転ツールを挿入し、当該回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材にわずかに接触させた状態で摩擦攪拌を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項4】
前記載置工程では、前記第一金属部材の底部の表面と、前記第二金属部材の裏面とを重ね合わせて重合部を形成し、
前記第一突合せ部接合工程を行う前に、前記第二金属部材の表面から回転する回転ツールを挿入し、当該回転ツールの攪拌ピンのみを前記第二金属部材のみ、又は前記第一金属部材及び前記第二金属部材に接触させた状態で摩擦攪拌によって前記重合部を接合する重合部接合工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項5】
前記重合部接合工程では、前記第二金属部材の表面の中央部に回転ツールを挿入し、前記中央部から外側に向けて平面視で螺旋状の連続的な軌跡を描くように相対移動させて前記重合部の全体を摩擦攪拌することを特徴とする請求項4に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項6】
前記重合部接合工程及び前記第一突合せ部接合工程は、一の回転ツールを用いて連続して行うことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記第一突合せ部接合工程では、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度を前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく設定するとともに、前記基端側ピンの外周面に階段状の段差部を形成した回転ツールを使用し、前記基端側ピンの外周面を前記第二金属部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項8】
前記第一突合せ部接合工程では、ショルダ部と前記ショルダ部の底面から垂下する攪拌ピンとを備えた回転ツールを使用し、前記ショルダ部の底面を前記第二金属部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項9】
前記載置工程では、前記第一金属部材に前記第二金属部材を載置した際に、前記第二金属部材の表面が、前記第一金属部材の前記フランジ部の表面と同一か、若しくは前記フランジ部の表面よりも高い位置となるように前記第二金属部材の厚みを設定することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項10】
前記第一突合せ部接合工程及び前記摩擦成形工程は、一の回転ツールで同時に行うことを特徴とする請求項1に記載の複合構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複合スラブ(複合構造体)の製造方法が開示されている。当該複合構造体の製造方法では、箱型の第一金属部材の凹部に第二金属部材を配置して、両者を摩擦攪拌接合することで複合構造体を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
板厚が数ミリ程度の第一金属部材を用いて比較的薄い複合構造体を形成する場合がある。このような場合には、成形性を考慮すると金属板をプレス成形して箱型の第一金属部材を成形することが好ましい。しかし、プレス成形であるとスプリングバックが発生するため、第一金属部材ひいては複合構造体を所望の形状に形成することが困難となっている。
【0005】
例えば、複合構造体を構成する第一金属部材の底部と周壁部とのなす角度を直角にしたい場合、プレス成形後にスプリングバックによって周壁部が外側に傾倒してしまう。また、摩擦攪拌接合中の摩擦熱による軟化や回転ツールの押圧力に起因して、周壁部が外側に傾倒することも起こり得る。特に、プレス成形であると、底部と周壁部との角部は厳密には丸く屈曲するため、第一金属部材の底部の裏面と周壁部の外周面との角部を面同士で直角にすることは極めて難しい。
【0006】
また、例えば、複合構造体を構成する第一金属部材の底部と周壁部とのなす角度を鋭角にしたい場合、型抜きの関係上プレス成形で第一金属部材を成形することができない。これにより、第一金属部材の底部と周壁部とのなす角度が鋭角(アンダーカット)となる複合構造体を形成することは困難となっている。
【0007】
このような観点から、本発明は複合構造体を構成する第一金属部材の底部と周壁部とのなす角度を容易に直角又は鋭角にすることができる複合構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために本発明は、摩擦攪拌を行って複合構造体を製造する複合構造体の製造方法であって、底部と前記底部の周縁部から立ち上がる枠状の周壁部とで構成される凹部を有し、前記周壁部の端部から外側に張り出すフランジ部を備える第一金属部材と、前記第一金属部材の前記凹部に配置される第二金属部材と、を準備する準備工程と、前記第一金属部材の凹部に前記第二金属部材を載置して前記第一金属部材の周壁部の内周面と、前記第二金属部材の外周面とを突き合わせて第一突合せ部を形成する載置工程と、回転する回転ツールを用いて前記第一突合せ部を摩擦攪拌接合する第一突合せ部接合工程と、前記第二金属部材の表面から回転する回転ツールを挿入しつつ前記第一突合せ部に沿って当該回転ツールを相対移動させ、前記第一金属部材の裏側に配置された成形型の成形面に前記第一金属部材の周壁部を押し付けて賦形する摩擦成形工程と、を含み、前記摩擦成形工程では、前記成形型の成形面の底面と内周面とのなす角度を直角又は鋭角に形成することを特徴とする。
【0009】
かかる製造方法によれば、直角又は鋭角となっている成形型の成形面に第一金属部材の周壁部を押し付けて賦形する摩擦成形工程を行うことで、複合構造体を構成する第一金属部材の底部と周壁部とのなす角度を容易に直角又は鋭角にすることができる。また、摩擦攪拌の摩擦熱によって第一金属部材及び第二金属部材が軟化するため、容易に賦形することができる。
【0010】
また、前記摩擦成形工程では、回転ツールの攪拌ピンの外周面を前記成形面の前記内周面と平行にすることが好ましい。
【0011】
かかる製造方法によれば、成形面の内周面に周壁部を高さ方向に均一に押圧することができるため、より的確に賦形することができる。
【0012】
また、前記準備工程では、前記第一金属部材の硬度を、前記第二金属部材の硬度よりも高く設定し、前記第一突合せ部接合工程では、第二金属部材の表面から回転する回転ツールを挿入し、当該回転ツールの攪拌ピンを前記第一金属部材にわずかに接触させた状態で摩擦攪拌を行うことが好ましい。
【0013】
かかる製造方法によれば、主として第二金属部材と回転ツールとの摩擦攪拌によって第一突合せ部を接合することができる。これにより、硬度の大きい第一金属部材の金属が、第二金属部材に混入し難くなるため、材種の異なる金属同士の摩擦攪拌に起因する接合不良を防ぐことができる。
【0014】
また、前記載置工程では、前記第一金属部材の底部の表面と、前記第二金属部材の裏面とを重ね合わせて重合部を形成し、前記第一突合せ部接合工程を行う前に、前記第二金属部材の表面から回転する回転ツールを挿入し、当該回転ツールの攪拌ピンのみを前記第二金属部材のみ、又は前記第一金属部材及び前記第二金属部材に接触させた状態で摩擦攪拌によって前記重合部を接合する重合部接合工程を含むことが好ましい。
【0015】
かかる製造方法によれば、重合部を接合することができるため複合構造体の強度を高めることができる。また、第一突合せ部接合工程において、第一金属部材と第二金属部材の位置ずれを防ぐことができる。
【0016】
また、前記重合部接合工程では、前記第二金属部材の表面の中央部に回転ツールを挿入し、前記中央部から外側に向けて平面視で螺旋状の連続的な軌跡を描くように相対移動させて前記重合部の全体を摩擦攪拌することが好ましい。
【0017】
かかる製造方法によれば、重合部の全体を容易に接合することができる。また、中央部から外側に回転ツールを螺旋状に移動させることで、第一金属部材及び第二金属部材にシワが発生するのを防ぐことができる。
【0018】
また、前記重合部接合工程及び前記第一突合せ部接合工程は、一の回転ツールを用いて連続して行うことが好ましい。
【0019】
かかる製造方法によれば、回転ツールを工程ごとに交換する必要がなくなるため、接合サイクルを早くすることができる。
【0020】
また、前記第一突合せ部接合工程では、基端側ピンと、先端側ピンとを備え、前記基端側ピンのテーパー角度を前記先端側ピンのテーパー角度よりも大きく設定するとともに、前記基端側ピンの外周面に階段状の段差部を形成した回転ツールを使用し、前記基端側ピンの外周面を前記第二金属部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌を行うことが好ましい。
【0021】
かかる製造方法によれば、第一突合せ部接合工程において基端側ピンの外周面で塑性流動材を押さえることができるため、バリの発生を抑制することができる。
【0022】
また、前記第一突合せ部接合工程では、ショルダ部と前記ショルダ部の底面から垂下する攪拌ピンとを備えた回転ツールを使用し、前記ショルダ部の底面を前記第二金属部材の表面に接触させた状態で摩擦攪拌を行うことが好ましい。
【0023】
かかる製造方法によれば、第一突合せ部接合工程においてショルダ部の底面で塑性流動材を押さえることができるため、バリの発生を抑制することができる。
【0024】
また、前記載置工程では、前記第一金属部材に前記第二金属部材を載置した際に、前記第二金属部材の表面が、前記第一金属部材の前記フランジ部の表面と同一か、若しくは前記フランジ部の表面よりも高い位置となるように前記第二金属部材の厚みを設定することが好ましい。
【0025】
かかる製造方法によれば、第一突合せ部の接合部が金属不足となるのを防ぐことができる。
【0026】
また、前記第一突合せ部接合工程及び前記摩擦成形工程は、一の回転ツールで同時に行うことが好ましい。
【0027】
かかる製造方法によれば、各工程を同時に行うことができるため、接合サイクルを早くすることができる。また、回転ツールを工程ごとに交換する必要がなくなるため、接合サイクルを早くすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る複合構造体の製造方法によれば、第一金属部材の底部と周壁部とのなす角度を容易に直角又は鋭角にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る第一回転ツールを示す側面図である。
【
図3】第一回転ツールの第一変形例を示す断面図である。
【
図4】第一回転ツールの第二変形例を示す断面図である。
【
図5】第一回転ツールの第三変形例を示す断面図である。
【
図6】本発明の第一実施形態に係る複合構造体を示す斜視図である。
【
図7】第一実施形態に係る複合構造体を示す断面図である。
【
図8】第一実施形態に係る複合構造体の製造方法の準備工程及び載置工程を示す断面図である。
【
図9】第一実施形態に係る複合構造体の製造方法の重合部接合工程を示す平面図である。
【
図10】第一実施形態に係る複合構造体の製造方法の重合部接合工程を示す断面図である。
【
図11】第一実施形態に係る複合構造体の製造方法の第一突合せ部接合工程を示す平面図である。
【
図12】第一実施形態に係る複合構造体の製造方法の第一突合せ部接合工程を示す断面図である。
【
図13】第一実施形態に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程を示す平面図である。
【
図14】第一実施形態に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程を示す断面図である。
【
図15】本発明の第二実施形態に係る複合構造体の製造方法の準備工程及び載置工程を示す断面図である。
【
図16】第二実施形態に係る複合構造体の製造方法の重合部接合工程を示す平面図である。
【
図17】第二実施形態に係る複合構造体の製造方法の重合部接合工程を示す断面図である。
【
図18】第二実施形態に係る複合構造体の製造方法の第一突合せ部接合工程を示す平面図である。
【
図19】第二実施形態に係る複合構造体の製造方法の第一突合せ部接合工程を示す断面図である。
【
図20】第二実施形態に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程を示す平面図である。
【
図21】第二実施形態に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程を示す断面図である。
【
図22】変形例1に係る複合構造体の製造方法の準備工程及び載置工程を示す断面図である。
【
図23】変形例1に係る複合構造体の製造方法の重合部接合工程を示す断面図である。
【
図24】変形例1に係る複合構造体の製造方法の第一突合せ部接合工程を示す断面図である。
【
図25】変形例2に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程を示す断面図である。
【
図26】変形例2に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程後を示す断面図である。
【
図27】本発明の第三実施形態に係る複合構造体を示す断面図である。
【
図28】第三実施形態に係る複合構造体の製造方法の準備工程及び載置工程を示す断面図である。
【
図29】第三実施形態に係る複合構造体の製造方法の重合部接合工程を示す断面図である。
【
図30】第三実施形態に係る複合構造体の製造方法の第一突合せ部接合工程を示す断面図である。
【
図31】第三実施形態に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程を示す断面図である。
【
図32】本発明の第四実施形態に係る複合構造体の製造方法の準備工程及び載置工程を示す断面図である。
【
図33】第四実施形態に係る複合構造体の製造方法の重合部接合工程を示す断面図である。
【
図34】第四実施形態に係る複合構造体の製造方法の第一突合せ部接合工程を示す断面図である。
【
図35】第四実施形態に係る複合構造体の製造方法の摩擦成形工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は以下の実施形態及び変形例のみに限定されるものではない。また、実施形態及び変形例における各構成要素は、一部又は全部を他の実施形態、変形例と適宜組み合わせることができる。
【0031】
まずは、本実施形態に係る複合構造体の製造方法で用いる第一回転ツールについて説明する。
図1に示すように、第一回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されており、基軸部F1と、基端側ピンF2と、先端側ピンF3とを備えている。基端側ピンF2及び先端側ピンF3で「攪拌ピン」を構成している。基軸部F1は、円柱状を呈し、摩擦攪拌装置の主軸に接続される部位である。
【0032】
基端側ピンF2は、基軸部F1に連続し、先端に向けて先細りになっている。基端側ピンF2は、円錐台形状を呈する。基端側ピンF2のテーパー角度Aは適宜設定すればよいが、例えば、135~160°になっている。テーパー角度Aが135°未満であるか、又は、160°を超えると摩擦攪拌後の接合表面粗さが大きくなる。テーパー角度Aは、後記する先端側ピンF3のテーパー角度Bよりも大きくなっている。
図2に示すように、基端側ピンF2の外周面F5には、階段状のピン段差部F21が高さ方向の全体に亘って形成されている。ピン段差部F21は、右回り又は左回りで螺旋状に形成されている。つまり、ピン段差部F21は、平面視して螺旋状であり、側面視すると階段状になっている。例えば、第一回転ツールFを右回転させる場合、ピン段差部F21は基端側から先端側に向けて左回りに設定する。
【0033】
なお、第一回転ツールFを左回転させる場合は、ピン段差部F21を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、ピン段差部F21によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材の外部に溢れ出る金属を低減することができる。ピン段差部F21は、段差底面F21aと、段差側面F21bとで構成されている。隣り合うピン段差部F21の各頂点F21c,F21cの距離X1(水平方向距離)は、後記する段差角度C及び段差側面F21bの高さY1に応じて適宜設定される。
【0034】
段差側面F21bの高さY1は適宜設定すればよいが、例えば、0.1~0.4mmで設定されている。高さY1が0.1mm未満であると接合表面粗さが大きくなる。一方、高さY1が0.4mmを超えると接合表面粗さが大きくなる傾向があるとともに、有効段差部数(被接合金属部材と接触しているピン段差部F21の数)も減少する。
【0035】
段差底面F21aと段差側面F21bとでなす段差角度Cは適宜設定すればよいが、例えば、85~120°で設定されている。段差底面F21aは、本実施形態では水平面と平行になっている。段差底面F21aは、ツールの回転軸から外周方向に向かって水平面に対して-5°~15°内の範囲で傾斜していてもよい(マイナスは水平面に対して下方、プラスは水平面に対して上方)。距離X1、段差側面F21bの高さY1、段差角度C及び水平面に対する段差底面F21aの角度は、摩擦攪拌を行う際に、塑性流動材がピン段差部F21の内部に滞留して付着することなく外部に抜けるとともに、段差底面F21aで塑性流動材を押えて接合表面粗さを小さくすることができるように適宜設定する。
【0036】
図1に示すように、先端側ピンF3は、基端側ピンF2に連続して形成されている。先端側ピンF3は円錐台形状を呈する。先端側ピンF3の先端は回転軸に対して垂直な先端面F4になっている。先端側ピンF3のテーパー角度Bは、基端側ピンF2のテーパー角度Aよりも小さくなっている。
図2に示すように、先端側ピンF3の外周面F6には、螺旋溝F31が刻設されている。螺旋溝F31は、右回り、左回りのどちらでもよいが、第一回転ツールFを右回転させる場合、基端側から先端側に向けて左回りに設定する。
【0037】
なお、第一回転ツールFを左回転させる場合は、螺旋溝F31を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、螺旋溝F31によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材の外部に溢れ出る金属を低減することができる。螺旋溝F31は、螺旋底面F31aと、螺旋側面F31bとで構成されている。隣り合う螺旋溝F31の頂点F31c,F31cの距離(水平方向距離)を長さX2とする。螺旋側面F31bの高さを高さY2とする。螺旋底面F31aと、螺旋側面F31bとで構成される螺旋角度Dは例えば、45~90°で形成されている。螺旋溝F31は、被接合金属部材と接触することにより摩擦熱を上昇させるとともに、塑性流動材を先端側に導く役割を備えている。また、第一回転ツールFは、先端にスピンドルユニット等の回転駆動手段を備えたロボットアームに取り付けてもよい。
【0038】
第一回転ツールFは、適宜設計変更が可能である。
図3は、本発明の第一回転ツールの第一変形例を示す側面図である。
図3に示すように、第一変形例に係る第一回転ツールFAでは、ピン段差部F21の段差底面F21aと段差側面F21bとのなす段差角度Cが85°になっている。段差底面F21aは、水平面と平行である。このように、段差底面F21aは水平面と平行であるとともに、段差角度Cは、摩擦攪拌中にピン段差部F21内に塑性流動材が滞留して付着することなく外部に抜ける範囲で鋭角としてもよい。
【0039】
図4は、本発明の第一回転ツールの第二変形例を示す側面図である。
図4に示すように、第二変形例に係る第一回転ツールFBでは、ピン段差部F21の段差角度Cが115°になっている。段差底面F21aは水平面と平行になっている。このように、段差底面F21aは水平面と平行であるとともに、ピン段差部F21として機能する範囲で段差角度Cが鈍角となってもよい。
【0040】
図5は、本発明の第一回転ツールの第三変形例を示す側面図である。
図5に示すように、第三変形例に係る第一回転ツールFCでは、段差底面F21aがツールの回転軸から外周方向に向かって水平面に対して10°上方に傾斜している。段差側面F21bは、鉛直面と平行になっている。このように、摩擦攪拌中に塑性流動材を押さえることができる範囲で、段差底面F21aがツールの回転軸から外周方向に向かって水平面よりも上方に傾斜するように形成されていてもよい。上記の第一回転ツールの第一~第三変形例によっても、下記の実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0041】
第一回転ツールFは、本実施形態では、水平方向及び上下方向に移動可能な摩擦攪拌装置に取り付けられている。なお、第一回転ツールFは、先端にスピンドルユニット等の回転駆動手段を備えたロボットアームに取り付けてもよい。
【0042】
[第一実施形態]
本発明の実施形態に係る複合構造体及び複合構造体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
図6に示すように、本発明の実施形態に係る複合構造体の製造方法は、第一金属部材2と第二金属部材3とを摩擦攪拌で接合して複合構造体1を製造するものである。なお、以下の説明における「表面」とは、「裏面」の反対側の面という意味である。
【0043】
第一金属部材2は、
図6及び
図7に示すように、底部10と、周壁部11と、フランジ部12とを備え箱状を呈する。第一金属部材2の板厚は概ね一定になっており、本実施形態では数ミリ程度である。底部10は平面視矩形の板状部である。周壁部11は、底部10の周縁部から立ち上がる矩形枠状の壁である。フランジ部12は、周壁部11の先端部から外側に向けて張り出している。底部10と周壁部11とで凹部13が形成されている。底部10と周壁部11とでなす角度は垂直になっている。より詳しくは、底部10の裏面10bと周壁部11の外周面11bとでなす角度も垂直になっている。
【0044】
第二金属部材3は、第一金属部材2の凹部13に配置される板状部材である。第二金属部材3は、凹部13と略同等の形状を呈する。第二金属部材3の表面3aとフランジ部12の表面12aとは面一になっている。周壁部11の内周面11aと第二金属部材3の外周面3cとが突き合わされた第一突合せ部J1は、摩擦攪拌で接合され塑性化領域W2が形成されている。塑性化領域W2は、第一突合せ部J1に沿って、周方向全体に亘って形成されている。
【0045】
底部10の表面10aと第二金属部材3の裏面3bとが重ね合わされた重合部J2は、摩擦攪拌で接合され塑性化領域W1が形成されている。塑性化領域W1は、重合部J2の全体に亘って形成されている。なお、塑性化領域W3は、後記する摩擦成形工程で形成された塑性化領域である。
【0046】
第一金属部材2と第二金属部材3とは同種の金属で形成されてもよいが、本実施形態では、異なる材種で形成されている。また、第一金属部材2と第二金属部材3とは同一の硬度となるようにしてもよいが、本実施形態では第一金属部材2の硬度を第二金属部材3の硬度よりも高くしている。例えば、本実施形態では第一金属部材2をAl-Mg合金(A5052等)で形成している。また、例えば、本実施形態では第二金属部材3をAl(A1050等)で形成している。なお、本明細書において硬度はブリネル硬さをいい、JIS Z 2243に準じた方法によって測定することができる。
【0047】
次に、本実施形態に係る複合構造体の製造方法について説明する。複合構造体の製造方法では、準備工程と、載置工程と、重合部接合工程と、第一突合せ部接合工程と、摩擦成形工程とを行う。
【0048】
準備工程は、第一金属部材2及び第二金属部材3を準備する工程である。第一金属部材2は、板状の素形材をプレス成形で形成する。第二金属部材3は、例えば、押出成形で形成する。第一金属部材2は、
図8に示すように、プレス成形によって底部10と周壁部11とは概ね垂直になっているが、角部は丸く屈曲して形成されている。
【0049】
載置工程は、
図8に示すように、第一金属部材2に第二金属部材3を載置する工程である。載置工程では、まず、成形型30に第二金属部材3を設置する。成形型30は、底面31aと内周面31bとで構成される凹状の成形面31を有している。内周面31bは、底面31aに対して垂直になっている。つまり、成形型30の成形面31は直方体の中空部となるように形成されている。成形型30の表面には、複数のクランプ40が設けられている。クランプ40はフランジ部12を押さえて第一金属部材2を成形型30に移動不能に拘束する部材である。
【0050】
載置工程において、第一金属部材2を成形型30に固定したら、第一金属部材2の凹部13に第二金属部材3を嵌め込んで載置する。載置工程によって、周壁部11の内周面11aと、第二金属部材3の外周面3cとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される。また、底部10の表面10aと第二金属部材3の裏面3bとが重ね合されて重合部J2が形成される。成形型30の角部と第二金属部材3の角部との間には空隙Pが形成されている。第二金属部材3の表面3aと、フランジ部12の表面12aとは面一になっている。なお、成形型30は、プレス成形工程及び載置工程で同じものを用いてもよい。これにより、作業手間を省くことができる。
【0051】
重合部接合工程は、
図9及び
図10に示すように、重合部J2を摩擦攪拌接合する工程である。重合部接合工程では、
図10に示すように、第二回転ツールGを使用する。第二回転ツールGは、工具鋼で形成されており、連結部G1と、攪拌ピンG2とを有する。連結部G1は、摩擦攪拌装置の回転軸に装着される部位である。攪拌ピンG2は、連結部G1から同軸で垂下しており先細りになっている。攪拌ピンG2の先端面G3は平坦であり、回転中心軸線Zに対して垂直になっている。攪拌ピンG2の外周面G4には螺旋溝が形成されている。例えば、第二回転ツールGを右回転させる場合、螺旋溝は基端側から先端側に向けて左回りに設定する。
【0052】
なお、第二回転ツールGを左回転させる場合は、螺旋溝を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、攪拌ピンG2によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材(第一金属部材2及び第二金属部材3)の外部に溢れ出る金属を低減することができる。
【0053】
重合部接合工程では、
図9に示すように、右回転する第二回転ツールGの攪拌ピンG2を表面3aに対して垂直にし、第二金属部材3の表面3aの中央部に設定した開始位置SP1に挿入する。そして、中央部から外側に向けて連続的に第二回転ツールGを相対移動させて重合部J2を摩擦攪拌接合する。第二回転ツールGの移動軌跡には塑性化領域W1が形成される。重合部接合工程では、塑性化領域W1の幅方向の端部を重複させつつ、中央部から外側に向けて螺旋状の移動軌跡となるように第二回転ツールGを相対移動させる。
【0054】
図10に示すように、重合部接合工程では、攪拌ピンG2の先端面G3が第一金属部材2の底部10にわずかに接触するように挿入深さを設定している。また、重合部接合工程では、攪拌ピンG2のみが第一金属部材2及び第二金属部材3に接触するようにしている。つまり、攪拌ピンG2の基端側は露出させた状態で摩擦攪拌を行っている。攪拌ピンG2を、第二金属部材3のみに接触させて重合部接合工程を行ってもよい。この場合は、攪拌ピンG2と第二金属部材3との摩擦熱によって塑性流動化され重合部J2が接合される。
【0055】
重合部接合工程では、
図10に示すように、第二金属部材3の外周縁においては周壁部11と第二回転ツールGとが接触しないようにすることが好ましい。これにより、重合部接合工程において、第一金属部材2の金属が第二金属部材3に混入するのを防ぐことができる。第二金属部材3の角部に設定した終了位置EP1に達したら、第二金属部材3から第二回転ツールGを離脱させる。
【0056】
なお、本実施形態では、重合部接合工程を第二回転ツールGで行ったが、第一回転ツールF、後記する第三回転ツールH又は第四回転ツールK、若しくは他の回転ツールを用いてもよい。また、重合部接合工程では、他の移動軌跡となるように回転ツールのルートを設定してもよい。
【0057】
第一突合せ部接合工程は、
図11及び
図12に示すように、第一突合せ部J1を摩擦攪拌接合する工程である。第一突合せ部接合工程では、第一回転ツールFを用いる。第一突合せ部接合工程では、第二金属部材3の表面3aにおいて第一突合せ部J1の近傍に設定された開始位置SP2に先端側ピンF3を表面3aに対して垂直に挿入する。そして、第一回転ツールFを第一突合せ部J1に沿って相対移動させ、第一突合せ部J1を摩擦攪拌接合する。
【0058】
図12に示すように、第一突合せ部接合工程では、基端側ピンF2を第一金属部材2にわずかに接触させて摩擦攪拌接合を行う。また、第一突合せ部接合工程では、第一回転ツールFの基端側ピンF2の外周面F5を第二金属部材3の表面3a及びフランジ部12の表面12aに接触させた状態で摩擦攪拌接合を行う。第一回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W2が形成される。第一回転ツールFを第一突合せ部J1に沿って一周させて、塑性化領域W2をオーバーラップさせたら、終了位置EP2で第二金属部材3の表面3aから第一回転ツールFを離脱させる。なお、本実施形態では第一突合せ部接合工程を第一回転ツールFで行ったが、第二回転ツールG、後記する第三回転ツールH又は第四回転ツールK、若しくは他の回転ツールを用いてもよい。
【0059】
摩擦成形工程は、
図13及び
図14に示すように、第三回転ツールHを用いて成形型30に第一金属部材2を押し付けて第一金属部材2を賦形する工程である。第三回転ツールHは、工具鋼で形成されており、連結部H1と攪拌ピンH2とを有する。
【0060】
連結部H1は、摩擦攪拌装置の回転軸に装着される部位である。攪拌ピンH2は、連結部H1から同軸で垂下しており円柱状を呈する。つまり、攪拌ピンH2の外径は一定になっている。攪拌ピンH2の先端面H3は平坦であり、回転中心軸線Zに対して垂直になっている。攪拌ピンH2の外周面H4には螺旋溝が形成されている。例えば、第三回転ツールHを右回転させる場合、螺旋溝は基端側から先端側に向けて左回りに設定する。
【0061】
なお、第三回転ツールHを左回転させる場合は、螺旋溝を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、攪拌ピンH2によって塑性流動材が先端側に導かれるため、第二金属部材3の外部に溢れ出る金属を低減することができる。
【0062】
摩擦成形工程では、第二金属部材3の表面3aにおいて第一突合せ部J1の近傍に設定された開始位置SP3に攪拌ピンH2を表面3aに対して垂直に挿入する。そして、第三回転ツールHを第一突合せ部J1に沿って相対移動させる。
【0063】
図14に示すように、摩擦成形工程では、第三回転ツールHの攪拌ピンH2を底部10及び周壁部11からわずかに離間させた状態で摩擦攪拌を行い、攪拌ピンH2及び摩擦攪拌された塑性流動材で底部10及び周壁部11を成形面31の底面31a及び内周面31bにそれぞれ押し付けて第一金属部材2を賦形する。攪拌ピンH2の外周面H4と成形面31の内周面31bとは平行又は概ね平行になっている。また、攪拌ピンH2の先端面H3と成形面31の底面31aとは平行又は概ね平行になっている。摩擦成形工程では、隙間P(
図12参照)が無くなるように、成形面31に第一金属部材2を押し付けることが好ましい。第三回転ツールHの移動軌跡には、塑性化領域W3が形成される。第三回転ツールHを第一突合せ部J1に沿って一周させて、塑性化領域W3をオーバーラップさせたら、終了位置EP3で第二金属部材3の表面3aから第三回転ツールHを離脱させる。以上の工程によって複合構造体1(
図6参照)が形成される。
【0064】
なお、本実施形態では摩擦成形工程を第三回転ツールHで行ったが、第一回転ツールF、第二回転ツールG、後記する第四回転ツールK、若しくは他の回転ツールを用いてもよい。
この際、各回転ツールの回転中心軸を適宜傾斜させて、各回転ツールの攪拌ピンと成形面の内周面とを平行にしてもよい。また、摩擦成形工程では、回転ツールの攪拌ピンと周壁部11とは離間していることが好ましいが、わずかであれば接触させてもよい。
【0065】
本実施形態に係る複合構造体の製造方法によれば、直角となっている成形型30の成形面31(底面31a及び内周面31b)に第一金属部材2の底部10及び周壁部11をそれぞれ押し付けて賦形する摩擦成形工程を行うことで、複合構造体1を構成する第一金属部材2の底部10と周壁部11とのなす角度を容易に直角にすることができる。また、摩擦成形工程では、摩擦攪拌の摩擦熱によって第一金属部材2及び第二金属部材3が軟化するため、容易に賦形することができる。
【0066】
特に、
図12に示すように、プレス成形では第一金属部材2の底部10と周壁部11とで構成される角部の外側は丸く屈曲してしまう。これにより、底部10の裏面10bと周壁部11の外周面11bとの角部を直角にする(平面同士で角部を形成する)ことは困難であった。しかし、本実施形態によれば、摩擦成形工程を行うことで第一金属部材2の角部の外側を直角にする(平面同士で角部を形成する)、若しくは限りなく直角に近づけることができる。
【0067】
また、本実施形態に係る摩擦成形工程では、第三回転ツールHの攪拌ピンH2の外周面H4を成形面31の内周面31bに沿う形状(平行)にすることで、攪拌ピンH2と周壁部11とを離間させた状態で、周壁部11に攪拌ピンH2を極力近接させることができる。これにより、成形型30の成形面31の内周面31bに周壁部11を高さ方向に均一に押圧することができるため、より的確に賦形することができる。
【0068】
特に、本実施形態では、攪拌ピンH2の外周面H4を成形面31の内周面31bに沿う形状にするとともに、先端面H3を成形面31の底面31aに沿う形状(平行)にしているため、攪拌ピンH2と底部10及び周壁部11とを離間させた状態で、底部10及び周壁部11に極力近接させることができる。これにより、さらにより的確に賦形することができる。
【0069】
また、本実施形態では、準備工程では、第一金属部材2の硬度を、第二金属部材3の硬度よりも高く設定し、第一突合せ部接合工程では、第二金属部材3の表面3aから回転する第一回転ツールFを挿入し、第一回転ツールFの攪拌ピン(基端側ピンF2)を第一金属部材2にわずかに接触させた状態で摩擦攪拌を行う。これにより、主として第二金属部材3と第一回転ツールFとの摩擦攪拌によって第一突合せ部J1を接合することができる。よって、硬度の大きい第一金属部材2の金属が、第二金属部材3に混入し難くなるため、材種の異なる金属同士の摩擦攪拌に起因する接合不良を防ぐことができる。また、第一回転ツールFの攪拌ピンと第一金属部材2とをわずかに接触させることで接合部の接合強度を高めることができる。また、第一金属部材2の硬度を高くすることで、複合構造体1の強度を高めることができる。
【0070】
また、本実施形態に係る第一突合せ部接合工程では、第一回転ツールFを用い、基端側ピンF2の外周面F5を第二金属部材3の表面3a及びフランジ部12の表面12aに接触させた状態で摩擦攪拌接合を行うため、バリの発生を抑制することができる。また、第一回転ツールFによれば、基端側ピンF2の階段状のピン段差部F21は浅く、かつ、出口が広いため、塑性流動材を段差底面F21aで押えつつ塑性流動材がピン段差部F21の外部に抜けやすくなっている。そのため、基端側ピンF2で塑性流動材を押えても基端側ピンF2の外周面F5に塑性流動材が付着し難い。よって、接合表面粗さを小さくすることができるとともに、接合品質を好適に安定させることができる。
【0071】
また、重合部接合工程を行うことにより、重合部J2を接合することができるため複合構造体1の強度を高めることができる。また、第一突合せ部接合工程の前に重合部接合工程を行うことにより、第一突合せ部接合工程において、第一金属部材2と第二金属部材3の位置ずれを防ぐことができる。
【0072】
また、本実施形態に係る重合部接合工程では、第二金属部材3の中央部から外側に向けて平面視で螺旋状の連続的な軌跡を描くように相対移動させて重合部J2の全体を摩擦攪拌するため、重合部J2の全体を容易に接合することができる。また、重合部接合工程では第二回転ツールGをどのように移動させてもよいが、中央部から外側に第二回転ツールGを螺旋状に移動させることで、第一金属部材2及び第二金属部材3にシワが発生するのを防ぐことができる。
【0073】
また、重合部接合工程では、攪拌ピンG2のみを第一金属部材2、又は、第一金属部材2及び第二金属部材3に接触させた状態で摩擦攪拌接合を行うため摩擦攪拌装置に作用する荷重を低減することができる。
【0074】
以上本発明の実施形態について説明したが、適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、第一突合せ部接合工程と摩擦成形工程とを別の回転ツールを用いて別々に行ったが、同一の回転ツールを用いて同時に行ってもよい。これにより、接合サイクルを早めることができる。また、回転ツールを交換する手間を省くことができる。また、重合部接合工程及び第一突合せ部接合工程は、一の回転ツールを用いて連続して行ってもよい。これにより、回転ツールを交換する手間が省けるため、接合サイクルを早めることができる。
【0075】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る複合構造体の製造方法について説明する。本実施形態に係る複合構造体の製造方法では、
図15に示すように、第一金属部材2Aの周壁部11が成形段階で外側に傾倒している点で第一実施形態と相違する。本実施形態では、相違する部分を重点的に説明する。
【0076】
本実施形態に係る複合構造体の製造方法では、準備工程と、載置工程と、重合部接合工程と、第一突合せ部接合工程と、摩擦成形工程とを行う。
【0077】
準備工程では、第一金属部材2A及び第二金属部材3Aを準備する工程である。第一金属部材2Aは、板状の素形材をプレス成形で形成する。第二金属部材3Aは、例えば、押出成形で形成する。
図15に示すように、第一金属部材2Aは、底部10に対して周壁部11がスプリングバック等によって外側に傾倒している。また、底部10の裏面10bと周壁部11の外周面11bとで構成される角部は丸く屈曲している。
【0078】
載置工程では、第一金属部材2Aを成形型30に固定しつつ、第一金属部材2Aの凹部13に第二金属部材3Aを載置する。第二金属部材3Aは、直方体を呈する。第二金属部材3Aの板厚寸法は、周壁部11の高さ寸法よりも大きくなっている。つまり、第一金属部材2Aの凹部13に第二金属部材3Aを載置すると、第二金属部材3Aの表面3aは、フランジ部12の表面12aよりも高い位置となる。
【0079】
図15に示すように、載置工程によって第一突合せ部J1及び重合部J2が形成される。第一突合せ部J1は、本実施形態のように第二金属部材3Aの外周面3cと周壁部11の内周面11aとの間に断面V字状の隙間がある場合も含み得る。また、成形面31の角部と第一金属部材2Aの角部との間には隙間Qが形成されている。
【0080】
重合部接合工程では、
図16及び
図17に示すように、第一実施形態と同じ要領で重合部J2を摩擦攪拌接合する。
図17に示すように、重合部接合工程では、第二金属部材3Aの外周縁においては塑性流動材が第二金属部材3Aの外側に流出しないように摩擦攪拌接合を行う。
【0081】
第一突合せ部接合工程では、
図18及び
図19に示すように、第一実施形態と同じ要領で第一突合せ部J1を摩擦攪拌接合する。
図19に示すように、第一突合せ部接合工程では、第一回転ツールFを用い、攪拌ピン(基端側ピンF2及び先端側ピンF3)を第一金属部材2にわずかに接触させつつ、基端側ピンF2の外周面F5を第二金属部材3Aの表面3a及びフランジ部12の表面12aに接触させた状態で第一突合せ部J1に沿って相対移動させる。第一突合せ部接合工程では、第一突合せ部J1に形成された隙間に塑性流動材を流入させながら摩擦攪拌接合を行う。
【0082】
摩擦成形工程では、
図20及び
図21に示すように、第一実施形態と同じ要領で第三回転ツールHを用いて成形型30に第一金属部材2Aを押し付けて第一金属部材2Aを賦形する。
図21に示すように、摩擦成形工程では、第三回転ツールHを底部10及び周壁部11からわずかに離間させた状態で摩擦攪拌を行い、攪拌ピンH2及び摩擦攪拌された塑性流動材で底部10及び周壁部11を成形面31の底面31a及び内周面31bにそれぞれ押し付けて第一金属部材2を賦形する。つまり、攪拌ピンH2の外周面H4と周壁部11の内周面11aとは平行又は概ね平行になっている。また、攪拌ピンH2の先端面H3と底部10の表面10aとは平行又は概ね平行になっている。摩擦成形工程では、隙間Q(
図19参照)が無くなるように、成形面31に第一金属部材2Aを押し付けることが好ましい。第三回転ツールHの移動軌跡には、塑性化領域W3が形成される。第三回転ツールHを第一突合せ部J1に沿って一周させて、塑性化領域W3をオーバーラップさせたら、終了位置EP3で第二金属部材3Aの表面3aから第三回転ツールHを離脱させる。以上の工程によって複合構造体が形成される。
【0083】
以上説明した本実施形態に係る複合構造体の製造方法によっても、第一実施形態と略同等の効果を得ることができる。
図19に示すように、第一金属部材2Aをプレス成形した後、第一金属部材2Aにスプリングバックが発生するため、載置工程を行うと成形型30と第一金属部材2Aとの間に隙間Qが形成されてしまう場合がある。このような場合であっても、摩擦成形工程を行うことで、第三回転ツールHで第一金属部材2Aを賦形することができるため、複合構造体を構成する第一金属部材2Aの底部10と周壁部11とのなす角度を容易に直角にすることができる。特に、本実施形態に係る摩擦成形工程を行うことで第一金属部材2Aの角部の外側を直角にする(平面同士で角部を形成する)、若しくは限りなく直角に近づけることができる。
【0084】
また、本実施形態のように、第二金属部材3Aの形状は第一金属部材2Aの凹部13と必ずしも同一である必要はない。つまり、第一突合せ部J1に隙間があってもよい。これにより、第二金属部材3Aを簡易に成形することができる。また、第二金属部材3Aの高さ寸法を、周壁部11の高さ寸法よりも大きくすることで接合部の金属不足を防ぐことができる。
【0085】
[変形例1]
次に、本発明の変形例1について説明する。変形例1では、成形型30及び成形型35を使い分ける点で前記した実施形態と相違する。
【0086】
成形型35は、
図22に示すように、逆推台形状の中空部を有する成形面36が形成されている。成形面36は、底面36aと、底面36aから外側に斜めに立ち上がる内周面36bとで構成されている。底面36aと内周面36bとでなす角度は鈍角になっている。
【0087】
第一金属部材2Aを成形型35に固定すると、底部10の裏面10bと、成形面36の底面36aとが面接触する。また、周壁部11の外周面11bと成形面36の内周面36bとが面接触する。また、成形面36の角部と第一金属部材2Aの角部との間には隙間Qが形成されている。
【0088】
重合部接合工程では、
図23に示すように、第二実施形態と同じ要領で重合部J2を摩擦攪拌接合する。
【0089】
第一突合せ部接合工程では、
図24に示すように、第四回転ツールKを用いて第一実施形態と概ね同じ要領で第一突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。第四回転ツールKは、工具鋼からなり、円柱状のショルダ部K1と、ショルダ部K1の底面から垂下する攪拌ピンK2とで構成されている。攪拌ピンK2の外周面K3には螺旋溝が形成されている。例えば、第四回転ツールKを右回転させる場合、螺旋溝は基端側から先端側に向けて左回りに設定する。
【0090】
なお、第四回転ツールKを左回転させる場合は、螺旋溝を基端側から先端側に向けて右回りに設定することが好ましい。これにより、攪拌ピンK2によって塑性流動材が先端側に導かれるため、被接合金属部材(第一金属部材2A及び第二金属部材3A)の外部に溢れ出る金属を低減することができる。
【0091】
第一突合せ部接合工程では、ショルダ部K1の底面を第二金属部材3Aの表面3aに接触させた状態で第一突合せ部J1に沿って第四回転ツールKを相対移動させる。また、第一突合せ部接合工程では、第一突合せ部J1の隙間に塑性流動材を流入させつつ摩擦攪拌接合を行う。第一突合せ部接合工程を終えたら、成形型35から第一金属部材2Aを取り外し、第一金属部材2Aを成形型30に固定する。
【0092】
摩擦成形工程では、具体的な図示は省略するが、
図21を参照するように、第二実施形態と同じ要領で摩擦成形を行う。つまり、当該摩擦成形工程では、外側に傾倒している第一金属部材2Aの周壁部11を成形面31に押し付けて第一金属部材2Aを賦形する。これにより、第一金属部材2Aの底部10と周壁部11とのなす角度を垂直にすることができる。
【0093】
以上説明した変形例1に係る複合構造体の製造方法によっても、第一実施形態と略同等の効果を得ることができる。また、成形型30,35を工程毎に使い分けて使用してもよい。また、変形例1では、
図22に示すように、成形型35の成形面36の内周面36bが傾斜しているため、周壁部11が外側に傾倒した第一金属部材2Aを安定して固定することができる。また、
図24に示すように、第一突合せ部接合工程において、周壁部11の外周面11bを成形面36の内周面36bに面接触させることができるため、安定して摩擦攪拌接合を行うことができる。
【0094】
[変形例2]
次に、本発明の変形例2について説明する。変形例2では、成形型37を用いて第一金属部材2の底部10と周壁部11とで構成される角部を鋭角(アンダーカット)にする点で他の実施形態及び変形例と相違する。変形例2では、他の実施形態及び変形例1と相違する部分を中心に説明する。
【0095】
変形例に係る複合構造体の製造方法では、第一実施形態と同じ要領で準備工程、載置工程、第一突合せ部接合工程を行う。
図25に示すように、変形例2の摩擦成形工程では、成形型37を用いる。成形型37は、推台形状の中空部を有する成形面38が形成されている。成形面38は、底面38aと、底面38aから内側に斜めに立ち上がる内周面38bとで構成されている。底面38aと内周面38bとでなす角度は鋭角になっている。
【0096】
摩擦成形工程では、第二金属部材3の表面3aにおいて第一突合せ部J1の近傍に回転する第三回転ツールHを挿入し、第一突合せ部J1に沿って相対移動させる。摩擦成形工程では、第三回転ツールHの攪拌ピンH2を底部10及び周壁部11からわずかに離間させた状態で摩擦攪拌を行い、攪拌ピンH2及び摩擦攪拌された塑性流動材で底部10及び周壁部11を成形面38の底面38a及び内周面38bにそれぞれ押し付けて第一金属部材2を賦形する。攪拌ピンH2の外周面H4と周壁部11の内周面11aとは平行又は概ね平行になっている。また、攪拌ピンH2の先端面H3と底部10の表面10aとは平行又は概ね平行になっている。
図25及び
図26に示すように、摩擦成形工程では、隙間Qが無くなるように、成形面38に第一金属部材2を押し付けて賦形することが好ましい。
【0097】
以上説明したように変形例2に係る複合構造体の製造方法によっても、第一実施形態と略同等の効果を得ることができる。ここで、第一金属部材2の底部10と周壁部11とでなす角度を鋭角にすることは困難である。第一金属部材2をプレス成形する場合、型抜きの関係上、第一金属部材2の底部10と周壁部11とを鋭角にすることができない。
【0098】
しかし、本実施形態によれば、鋭角となっている成形面38の内周面38bに第一金属部材2の周壁部11を押し付けて賦形する摩擦成形工程を行うことで、複合構造体を構成する第一金属部材2の底部10と周壁部11とのなす角度を容易に鋭角にすることができる。つまり、アンダーカットを備えた複合構造体を形成することができる。また、摩擦攪拌の摩擦熱によって第一金属部材2及び第二金属部材3が軟化するため、容易に賦形することができる。
【0099】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
図27に示すように、第三実施形態に係る複合構造体1Bは、底部10と周壁部11とのなす角度が鈍角になっている点で、第一実施形態と相違する。第三実施形態では、第一実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0100】
第三実施形態に係る複合構造体1Bは、第一金属部材2Bと第二金属部材3Bとで構成されている。第一金属部材2Bは、底部10と、底部10の周縁部から外側に斜めに立ち上がる周壁部11と、周壁部11の端部から外側に張り出すフランジ部12とを備えている。底部10と周壁部11とのなす角度は鈍角になっている。より詳しくは、底部10の裏面10bと周壁部11の外周面11bとのなす角度も鈍角になっている。
【0101】
第二金属部材3Bは、第一金属部材2Bの凹部13に配置される板状部材である。第二金属部材3Bは凹部13と略同等の形状を呈する。第二金属部材3Bの表面3aと、フランジ部12の表面12aとは面一になっている。
【0102】
周壁部11の内周面11aと第二金属部材3の外周面3cとが突き合わされた第一突合せ部J1は、摩擦攪拌で接合され塑性化領域W2が形成されている。塑性化領域W2は、第一突合せ部J1に沿って、周方向全体に亘って形成されている。
【0103】
底部10の表面10aと第二金属部材3の裏面3bとが突き合わされた重合部J2は、摩擦攪拌で接合され塑性化領域W1が形成されている。塑性化領域W1は、重合部J2の全体に亘って形成されている。なお、塑性化領域W3は、後記する摩擦成形工程で形成された塑性化領域である。
【0104】
第一金属部材2Bと第二金属部材3Bとは同種の金属で形成してもよいが、本実施形態では、異なる材種で形成されている。また、第一金属部材2Bと第二金属部材3Bとは同一の硬度となるようにしてもよいが、本実施形態では第一金属部材2Bの硬度を第二金属部材3Bの硬度よりも高くしている。例えば、本実施形態では第一金属部材2BをAl-Mg合金(A5052等)で形成している。また、例えば、本実施形態では第二金属部材3BをAl(A1050等)で形成している。
【0105】
次に、本実施形態に係る複合構造体の製造方法について説明する。複合構造体の製造方法では、準備工程と、載置工程と、重合部接合工程と、第一突合せ部接合工程と、摩擦成形工程とを行う。
【0106】
準備工程は、第一金属部材2B及び第二金属部材3Bを準備する工程である。第一金属部材2Bは、板状の素形材をプレス成形で形成する。第二金属部材3Bは、例えば、押出成形で形成する。
図28に示すように、第一金属部材2Bは、プレス成形によって底部10と周壁部11とのなす角度は鈍角になっているが、角部は丸く湾曲して形成されている。
【0107】
載置工程は、
図28に示すように、第一金属部材2Bに第二金属部材3Bを載置する工程である。載置工程では、まず、成形型35に第二金属部材3Bを設置する。成形型35は、変形例1で用いたものと同じである。
【0108】
載置工程では、第一金属部材2Bを成形型35に固定したら、第一金属部材2Bの凹部13に第二金属部材3Bを嵌め込んで載置する。載置工程によって、周壁部11の内周面11aと、第二金属部材3Bの外周面3cとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される。また、底部10の表面10aと第二金属部材3の裏面3bとが重ね合されて重合部J2が形成される。成形型35の角部と第二金属部材3Bの角部との間には隙間Pが形成されている。第二金属部材3Bの表面3aと、フランジ部12の表面12aとは面一になっている。なお、成形型35は、プレス成形工程及び載置工程で同じものを用いてもよい。これにより、作業手間を省くことができる。
【0109】
重合部接合工程では、
図29に示すように、第一実施形態と同じ要領で重合部J2を摩擦攪拌接合する。重合部接合工程では、第二金属部材3Bの外周縁においては第二回転ツールGと周壁部11とが接触しないように摩擦攪拌接合を行う。
【0110】
第一突合せ部接合工程では、
図30に示すように、第一実施形態と同じ要領で第一突合せ部J1を摩擦攪拌接合する。第一突合せ部接合工程では、第一回転ツールFを用い、攪拌ピン(基端側ピンF2及び先端側ピンF3)を第一金属部材2Bにわずかに接触させつつ、基端側ピンF2の外周面F5を第二金属部材3Bの表面3a及びフランジ部12の表面12aに接触させた状態で第一突合せ部J1に沿って相対移動させる。
【0111】
摩擦成形工程では、
図31に示すように、第一実施形態と同じ要領で第二回転ツールGを用いて成形型35に第一金属部材2Bを押し付けて第一金属部材2Bを賦形する。摩擦成形工程では、第二回転ツールGを用いる。第二回転ツールGの攪拌ピンG2の外周面G4の傾斜角度は、成形面36の内周面36bの傾斜角度と同じになっている。
【0112】
摩擦成形工程では、第二回転ツールGを底部10及び周壁部11からわずかに離間させた状態で摩擦攪拌を行い、攪拌ピンG2及び摩擦攪拌された塑性流動材で底部10及び周壁部11を成形面36の底面36a及び内周面36bにそれぞれ押し付けて第一金属部材2Bを賦形する。攪拌ピンG2の外周面G4と周壁部11の内周面11aとは平行又は概ね平行になっている。また、攪拌ピンG2の先端面G3と底部10の表面10aとは平行又は概ね平行になっている。摩擦成形工程では、隙間P(
図30参照)が無くなるように、成形面36に第一金属部材2Bを押し付けることが好ましい。第二回転ツールGの移動軌跡には、塑性化領域W3が形成される。第二回転ツールGを第一突合せ部J1に沿って一周させて、塑性化領域W3をオーバーラップさせたら、終了位置EP3で第二金属部材3Bの表面3aから第二回転ツールGを離脱させる。以上の工程によって複合構造体1B(
図27参照)が形成される。
【0113】
以上説明した本実施形態に係る複合構造体の製造方法によっても、第一実施形態と略同等の効果を得ることができる。ここで、第一金属部材2Bの底部10と周壁部11とのなす角度を鈍角にして複合構造体を形成したい場合がある。しかし、プレス成形によって第一金属部材2Bを形成してもスプリングバック等が発生するため、所望の角度よりも周壁部11が外側に倒れてしまうおそれがある。
【0114】
しかし、本実施形態によれば、摩擦成形工程を行うことで、第二回転ツールGで第一金属部材2Bを賦形することができるため、複合構造体1Bを構成する第一金属部材2Bの底部10と周壁部11とのなす角度を容易に鈍角(所望の角度)にすることができる。特に、本実施形態に係る摩擦成形工程を行うことで第一金属部材2Bの角部の外側を構成する裏面10bと外周面11bとを所望の鈍角にする(平面同士で鈍角の角部を形成する)ことができる。
【0115】
また、摩擦成形工程では、攪拌ピンG2の外周面G4と成形型35の内周面36bとを平行にすることで、より的確に賦形することができる。
【0116】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る複合構造体の製造方法について説明する。本実施形態に係る複合構造体は底部10と周壁部11とのなす角度が鈍角である点で第三実施形態と同一である。一方、載置工程を行った際に周壁部11と第二金属部材3Cとの間に隙間が形成される点で第三実施形態と相違する。本実施形態では、第三実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0117】
複合構造体の製造方法では、準備工程と、載置工程と、重合部接合工程と、第一突合せ部接合工程と、摩擦成形工程とを行う。準備工程では、第一金属部材2C及び第二金属部材3Cを準備する。第二金属部材3Cは、板状を呈する。第二金属部材3Cの板厚寸法は、周壁部11の高さ寸法よりも大きくなっている。
【0118】
載置工程では、
図32に示すように、第一金属部材2Cに第二金属部材3Cを載置する。第一金属部材2Cの周壁部11の内周面11aと第二金属部材3Cの外周面3cとが突き合わされて第一突合せ部J1が形成される。第一突合せ部J1には断面V字状の隙間が形成される。また、成形型35の角部と第一金属部材2Cの角部との間には隙間Pが形成される。
【0119】
重合部接合工程では、
図33に示すように、第一実施形態と同じ要領で重合部J2を摩擦攪拌接合する。重合部接合工程では、第二金属部材3Cの外周縁においては塑性流動材が第二金属部材3Cの外側に流出しないように摩擦攪拌接合を行う。
【0120】
第一突合せ部接合工程では、
図34に示すように、第一実施形態と同じ要領で第一突合せ部J1を摩擦攪拌接合する。第一突合せ部接合工程では、第一回転ツールFを用い、攪拌ピン(基端側ピンF2及び先端側ピンF3)を第一金属部材2Bにわずかに接触させつつ、基端側ピンF2の外周面F5を第二金属部材3Cの表面3a及びフランジ部12の表面12aに接触させた状態で第一突合せ部J1に沿って相対移動させる。
【0121】
摩擦成形工程では、
図35に示すように、第三実施形態と同じ要領で第二回転ツールGを用いて成形型35に第一金属部材2Cを押し付けて第一金属部材2Cを賦形する。摩擦成形工程では、第二回転ツールGを用いる。第二回転ツールGの攪拌ピンG2の外周面G4の傾斜角度は、成形面36の内周面36bの傾斜角度と同じになっている。
【0122】
以上説明した本実施形態に係る複合構造体の製造方法によっても、第三実施形態と略同等の効果を得ることができる。また、
図32に示すように、載置工程の段階で第一突合せ部J1に隙間があったとしても、第一突合せ部接合工程において、当該隙間に塑性流動材を流入させながら第一突合せ部J1を摩擦攪拌接合することができる。また、第二金属部材3Cの板厚寸法を周壁部11の高さ寸法よりも大きくしているため、接合部が金属不足になるのを防ぐことができる。
【0123】
以上本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、重合部接合工程は省略してもよい。また、摩擦成形工程では、回転ツールの攪拌ピンの外周面及び先端面が、成形型の底面及び内周面とそれぞれ平行又は概ね平行になるようにしたが、回転ツールの外周面と成形型の内周面とのみを平行又は概ね平行となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0124】
1 複合構造体
2 第一金属部材
3 第二金属部材
F 回転ツール(第一回転ツール)
F1 基軸部
F2 基端側ピン
F3 先端側ピン
F4 先端面
F5 外周面
G 回転ツール(第二回転ツール)
G2 攪拌ピン
G3 先端面
G4 外周面
H 回転ツール(第三回転ツール)
H2 攪拌ピン
H3 先端面
H4 外周面
K 回転ツール(第四回転ツール)
K1 ショルダ部
K2 攪拌ピン
K3 先端面
J1 第一突合せ部
J2 重合部