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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】スライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/07 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
B60N2/07
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020074203
(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公開番号】P2021172093
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】久米 将
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-99127(JP,A)
【文献】特公昭47-12016(JP,B2)
【文献】米国特許第4272048(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-2/90
F16H 19/04
F16H 55/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物に設置されたシートに取り付けられるように構成された可動レールと、
前記可動レールをスライド可能に支持する固定レールと、
前記可動レールをスライドさせるように構成された駆動ユニットと、
を備え、
前記固定レールは、前記可動レールのスライド方向に等間隔で並んで配置されると共に、前記スライド方向の長さが互いに等しい複数の開口を有し、
前記駆動ユニットは、複数の歯を有すると共に、前記複数の歯が前記複数の開口への嵌まり込みと前記複数の開口からの離脱とを順に行うように回転するように構成されたピニオンを有し、
前記駆動ユニットは、前記複数の歯として少なくとも7つの歯を有し、
前記複数の開口との噛み合い位置における前記複数の歯のピッチは、前記複数の開口のピッチよりも大きい、スライド装置。
【請求項2】
請求項1に記載のスライド装置であって、
前記複数の開口のピッチに対する前記複数の歯のピッチの比は、1.04以上1.06以下である、スライド装置。
【請求項3】
請求項2に記載のスライド装置であって、
前記複数の開口のピッチに対する前記複数の歯のピッチの比は、1.05である、スライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に設置される乗物用シートをスライドさせるためのスライド装置において、固定レールに設けられた複数の開口に、ピニオンの歯を着脱自在に嵌まり込ませることで可動レールをスライドさせる送り機構が考案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-119386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のスライド装置では、一般的なラックアンドピニオン構造とは異なり、固定レールに設けられた開口の内面(つまり側面)は、平坦であり、ピニオンの歯の形状と対応する形状ではない。
【0005】
そのため、回転するピニオンの歯と開口の内面との接触領域が限定され、ピニオンの回転量に対し固定レールの送り量が小さくなることで両者の間にずれが生じる。その結果、乗物用シートのスライド速度が不安定となる。
【0006】
本開示の一局面は、スライド速度を安定させることができるスライド装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、乗物に設置されたシート(11)に取り付けられるように構成された可動レール(2)と、可動レール(2)をスライド可能に支持する固定レール(3)と、可動レール(2)をスライドさせるように構成された駆動ユニット(4)と、を備えるスライド装置(1)である。
【0008】
固定レール(3)は、可動レール(2)のスライド方向に等間隔で並んで配置されると共に、スライド方向の長さが互いに等しい複数の開口(36)を有する。駆動ユニット(4)は、複数の歯(411C)を有すると共に、複数の歯(411C)が複数の開口(36)への嵌まり込みと複数の開口(36)からの離脱とを順に行うように回転するように構成されたピニオン(411A)を有する。
【0009】
駆動ユニット(4)は、複数の歯(411C)として少なくとも7つの歯(411C)を有する。複数の開口(36)との噛み合い位置における複数の歯(411C)のピッチは、複数の開口(36)のピッチよりも大きい。
【0010】
このような構成によれば、複数の開口(36)のピッチが複数の歯(411C)のピッチよりも小さくされることで、ピニオン(411A)の歯(411C)と開口(36)の内面(36A)との接触領域が拡張される。そのため、ピニオン(411A)の回転量に対する固定レール(3)の送り量を大きくすることができる。結果として、ピニオン(411A)の回転によるスライド速度を安定させることができる。
【0011】
本開示の一態様では、複数の開口(36)のピッチに対する複数の歯(411C)のピッチの比は、1.04以上1.06以下であってもよい。このような構成によれば、スライド速度の安定化を促進することができる。
【0012】
本開示の一態様では、複数の開口(36)のピッチに対する複数の歯(411C)のピッチの比は、1.05であってもよい。このような構成によれば、スライド速度の安定性が向上する。
【0013】
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態における乗物用シートの模式的な側面図である。
図2図2は、図1のスライド装置の模式的な斜視図である。
図3図3は、図2のIII-III線での模式的な切断部端面図である。
図4図4Aは、図2のスライド装置における送り機構の模式的な分解斜視図であり、図4Bは、図4Aの送り機構におけるギアの位置関係を示す模式的な斜視図である。
図5図5Aは、図2のスライド装置における送り機構の動作を説明する模式図であり、図5Bは、図2の送り機構におけるピニオンの複数の歯のピッチと複数の開口のピッチとを説明する模式図である。
図6図6は、図2の送り機構におけるピニオンの歯と開口との位置関係の変化を説明する模式図である。
図7図7は、ピニオンの回転角度と開口の送り量との関係の一例を示すグラフである。
図8図8は、図7とは異なる実施形態におけるピニオンの回転角度と開口の送り量との関係の一例を示すグラフである。
図9図9は、図7及び図8とは異なる実施形態におけるピニオンの回転角度と開口の送り量との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す乗物用シート10は、シート11と、スライド装置1とを備える。
【0016】
本実施形態のシート11は、乗用車の座席シートとして使用される。なお、以下の説明及び各図面における方向は、シート11を乗物(つまり乗用車)に組み付けた状態における方向を意味する。また、本実施形態では、シート幅方向は、乗物の左右方向に一致し、シート前方は、乗物の前方に一致する。
【0017】
スライド装置1は、シート11をシート前後方向にスライド可能に支持している。スライド装置1は、図2に示すように、可動レール2と、固定レール3と、駆動ユニット4とを備える。
【0018】
<可動レール>
可動レール2は、いわゆるアッパレールであり、乗物に設置されたシート11に図示しないブラケット等によって取り付けられている。
【0019】
可動レール2は、シート前後方向に延伸し、固定レール3に対しシート前後方向にスライド可能に構成されている。図3に示すように、可動レール2は、中央部21と、第1内壁22Aと、第2内壁22Bとを有する。
【0020】
中央部21は、下部が固定レール3の内部に配置されると共に、上部が固定レール3よりも上方に突出している。中央部21には、後述する駆動ユニット4の送り機構41が取り付けられている。
【0021】
第1内壁22Aは、中央部21の下端部からレール幅方向外側(つまり右側)かつ上方に向かって折り返すように延伸している。第1内壁22Aは、固定レール3内に配置されている。
【0022】
ここで、「レール幅方向」とは、上下方向と可動レール2のスライド方向とに直交する方向を意味する。なお、本実施形態では、レール幅方向はシート幅方向に一致している。
【0023】
第2内壁22Bは、中央部21の下端部からレール幅方向外側(つまり左側)かつ上方に向かって折り返すように延伸している。第2内壁22Bは、固定レール3内に配置されている。
【0024】
<固定レール>
図1に示す固定レール3は、いわゆるロアレールであり、乗物用シート10が配置された乗物のフロアFに直接又は間接的に固定されている。
【0025】
固定レール3は、シート前後方向に延伸し、可動レール2を上下方向と直交する方向にスライド可能に支持している。固定レール3は、図3に示すように、底壁31と、第1外側壁32Aと、第2外側壁32Bと、第1天壁33Aと、第2天壁33Bと、第1内壁34Aと、第2内壁34Bと、複数の開口36とを有する。
【0026】
底壁31は、可動レール2のスライド方向に延伸している。第1外側壁32Aは、底壁31の右端部から上方に延伸している。第2外側壁32Bは、底壁31の左端部から上方に延伸している。
【0027】
第1天壁33Aは、第1外側壁32Aの上端部からレール幅方向内側(つまり、左側)に延伸している。第1天壁33Aは、可動レール2の第1内壁22Aを上方から覆っている。
【0028】
第2天壁33Bは、第2外側壁32Bの上端部からレール幅方向内側(つまり、右側)に延伸している。第2天壁33Bは、可動レール2の第2内壁22Bを上方から覆っている。
【0029】
第1内壁34Aは、第1天壁33Aの左端部から下方に延伸している。第1内壁34Aは、レール幅方向において可動レール2の中央部21の下部と第1内壁22Aとの間に配置されている。第1内壁34Aは、可動レール2の中央部21と対向している。
【0030】
第2内壁34Bは、第2天壁33Bの右端部から下方に延伸している。第2内壁34Bは、レール幅方向において可動レール2の中央部21の下部と第2内壁22Bとの間に配置されている。第2内壁34Bは、可動レール2の中央部21と対向している。
【0031】
外側壁32A,32Bと天壁33A,33Bと内壁34A,34Bとにより、下側が開放され、かつスライド方向に延伸する溝状の2つの空間が形成されている。可動レール2における内壁22A,22Bの上端部は、固定レール3に形成された上記溝状の空間に挿入されている。
【0032】
複数の開口36は、第1内壁34Aに、可動レール2のスライド方向に並んで配置されている。本実施形態では、複数の開口36のスライド方向の長さ、間隔、及び、上下方向の位置は全て等しい。
【0033】
<駆動ユニット>
図2に示す駆動ユニット4は、可動レール2をスライドさせるように構成されている。駆動ユニット4は、送り機構41と、アクチュエータ42とを有する。
【0034】
(送り機構)
送り機構41は、可動レール2を固定レール3に対して送るように構成されている。送り機構41は、可動レール2に取り付けられている。送り機構41は、図4A,4Bに示すように、回転体411と、第1連結ギア412と、第2連結ギア413と、を有する。
【0035】
回転体411は、上下方向と平行な軸を中心に回転する複合歯車である。回転体411は、第1ハウジング414Aと第2ハウジング414Bとで構成されるケーシング内に収納されている。
【0036】
回転体411は、ピニオン411Aと、第1ヘリカルギア411Bとを有する。ピニオン411Aと第1ヘリカルギア411Bとは軸方向に連結されている。ピニオン411Aの中心軸と第1ヘリカルギア411Bの中心軸とは一致する。
【0037】
ピニオン411Aは、複数の歯411Cを有する。複数の歯411Cは、ピニオン411Aの径方向に突出した突起部であり、ピニオン411Aの周方向に等間隔で配置されている。また、複数の歯411Cの形状は同一である。なお、本実施形態では、回転体411は7つの歯411Cを有しているが、歯411Cの数は8以上であってもよい。
【0038】
回転体411(つまりピニオン411A)は、複数の歯411Cが固定レール3の複数の開口36への嵌まり込みと複数の開口36からの離脱とを順に行うように回転する。図5Aに示すように、歯411Cは、ピニオン411Aの回転に伴って、レール幅方向内側(つまり左側)から開口36に着脱自在に嵌まり込んだ後、レール幅方向外側(つまり右側)に向かって開口36から離脱する。
【0039】
回転体411は、常に少なくとも1つの歯411Cが少なくとも1つの開口36の縁に当接するように回転する。これにより、送り機構41は、少なくとも1つの歯411Cを介して、固定レール3から反力を受ける。その結果、回転体411の回転によって、送り機構41が取り付けられた可動レール2が固定レール3に対して送られる。
【0040】
回転体411は、可動レール2をシート前方にスライドさせる際に上方から視て時計回りに回転し、可動レール2をシート後方にスライドさせる際に上方から視て反時計回りに回転する。
【0041】
図4Bに示すように、回転体411の第1ヘリカルギア411Bは、第1連結ギア412と噛み合っており、第1連結ギア412から伝達される回転をピニオン411Aに伝達する。
【0042】
第1連結ギア412は、スライド方向と平行な軸を中心に回転する複合歯車である。第1連結ギア412は、図4Aに示す第1ベアリング415A、第2ベアリング415B及びカバー416によって軸回転可能に支持されている。第1連結ギア412は、回転体411と共に、第1ハウジング414Aと第2ハウジング414Bとで構成されるケーシング内に収納されている。
【0043】
第1連結ギア412は、第2ヘリカルギア412Aと、ウォームギア412Bとを有する。第2ヘリカルギア412Aとウォームギア412Bとは、軸方向に連結されている。第2ヘリカルギア412Aの中心軸とウォームギア412Bの中心軸とは一致する。
【0044】
第2ヘリカルギア412Aは、第2連結ギア413と噛み合っている。ウォームギア412Bは、第1ヘリカルギア411Bと噛み合っている。第1連結ギア412は、第2連結ギア413から伝達される回転を回転体411に伝達する。
【0045】
第2連結ギア413は、レール幅方向と平行な軸を中心に回転するヘリカルギアである。第2連結ギア413は、ブッシュ417及びカバー418によって軸回転可能に支持されている。第2連結ギア413は、回転体411と共に、第1ハウジング414Aと第2ハウジング414Bとで構成されるケーシング内に収納されている。
【0046】
第2連結ギア413には、アクチュエータ42の回転を伝達する回転ロッド42A(図2参照)が軸方向に連結される。第2連結ギア413は、アクチュエータ42が発生させた回転を第1連結ギア412に伝達する。
【0047】
(アクチュエータ)
図2に示すアクチュエータ42は、送り機構41を駆動させる。アクチュエータ42は、可動レール2に取り付けられている。アクチュエータ42は、電動式、空気式及び油圧式のいずれであってもよい。
【0048】
<ピニオンのピッチと開口のピッチとの関係>
図5Bに示すように、ピニオン411Aは、インボリュート歯車である。つまり、ピニオン411Aの歯411Cの回転方向における端縁411D(つまり歯面)は、インボリュート曲線とされている。
【0049】
複数の開口36のピッチP1は、複数の開口36のスライド方向における中心点間の距離である。ピッチP1は、複数の開口36のスライド方向の長さL1と、隣接する2つの開口36のスライド方向の距離L2との和に等しい。複数の開口36の内面36Aは、スライド方向と垂直であり、かつ、レール幅方向と平行である。
【0050】
複数の開口36との噛み合い位置における複数の歯411CのピッチP2は、複数の開口36のピッチP1よりも大きい。複数の歯411CのピッチP2は、ピニオン411Aのモジュールにπを乗じて得られる。
【0051】
ピニオン411Aのモジュールとは、ピニオン411Aのピッチ円Cの直径Dを歯411Cの数(例えば図5Bでは7)で除した値である。ピッチ円Cの中心は、ピニオン411Aの軸Oと重なり、ピッチ円Cの半径は、レール幅方向におけるピニオン411Aの軸Oから開口36と歯411Cとの当接点までの距離である。つまり、ピッチ円Cの直径Dは、上記距離の2倍である。
【0052】
図6に示すように、歯411Cの回転方向における端縁411Dは、ピニオン411Aの回転に伴って、開口36の内面36Aのシート幅方向内側の端部と摺動する。そのため、内面36Aの端部と端縁411Dとの接点は、ピニオン411Aの回転に伴って端縁411Dの先端に向かって移動する。
【0053】
具体的には、1つの歯411Cが開口36への嵌まり込みを開始した時点では、この歯411Cの端縁411Dが図6の点S1で開口36の内面36Aの右端と当接する。また、この歯411Cが開口36からの離脱を開始する(つまり、後続の歯411Cが次の開口36への嵌まり込みを開始する)時点では、端縁411Dは、点S2で開口36の内面36Aの右端と当接する。このように、端縁411Dと内面36Aとの接点は、端縁411D上を点S1から点S2まで移動する。
【0054】
このピニオン411Aを、スライド方向と交差する歯面を有する複数の歯が設けられたラックと噛み合わせて回転させた場合、歯411Cの端縁411Dは、図6の点S3(つまり歯411Cの根元)でラックの歯に当接し始め、点S4(つまり歯411Cの先端)でラックの歯から離れる。
【0055】
つまり、ピニオン411Aをラックに噛み合わせた場合には、点S3と点S4とを結ぶ噛み合い線E1に沿ってピニオン411Aとラックとの接点が移動する。そのため、噛み合い線E1の長さが、1つの歯411Cが角度θ1回転したときのラックの進み量A1となる。
【0056】
角度θ1は、1つの歯411Cが開口36に嵌まり込んでから離脱するまでに回転する角度であり、2πを歯411Cの数で除した角度である。また、噛み合い線E1は、スライド方向と交差している。なお、噛み合い線E1とスライド方向とが成す鋭角θ2は、ピニオン411Aの圧力角であり、20°である。
【0057】
上述したラックではなく固定レール3の開口36にピニオン411Aを噛み合わせた場合は、ピニオン411Aと開口36との噛み合い線は、点S1と点S2とを結ぶ直線となり、スライド方向と平行となる。
【0058】
1つの歯411Cが角度θ1回転したときの開口36の進み量A2は、点S1と点S2との距離であり、ラックの進み量A1よりも大きい。このラックの進み量A1と開口36の進み量A2との差異(具体的には、スライド方向における点S2と点S4との距離L3)によって、ピニオン411Aの回転量と固定レール3の送り量との間にずれが生じる。その結果、ピニオン411Aが一定速度で回転しても、固定レール3のスライド速度が一定とならない。
【0059】
そこで、例えば、ピニオン411Aのモジュール(つまりピッチ円Cの直径D)を維持したまま、開口36のピッチP1を小さくすることで、歯411Cの端縁411Dの先端近くまで開口36を当接させることができる。その結果、開口36の進み量A2が大きくなり、ラックの進み量A1との差異が小さくなる。
【0060】
つまり、複数の歯411CのピッチP2を複数の開口36のピッチP1よりも大きくすることで、ピニオン411Aの回転量と固定レール3の送り量との間のずれを低減することができる。
【0061】
図7は、1つの歯411Cが開口36に噛み合ってから脱離するまでのピニオン411Aの回転角度を横軸、開口36の進み量を縦軸としたグラフである。図7では、歯数が7、圧力角が20°、モジュールが3.66、歯411CのピッチP2が11.5のピニオン411Aに対し、開口36のピッチP1を変化させた複数のパターンX1-X10における進み量の変化が示されている。
【0062】
パターンX1-X10における開口36のピッチP1の大きさは、図示の通りである。ピッチP1が11.5よりも小さくなると、回転角度が20°から30°の範囲における進み量の変化が小さくなる。
【0063】
図7では、ピッチP1が10.95であるパターンX8が最もスライド速度が安定している。パターンX8では、開口36のピッチP1に対する歯411CのピッチP2の比(以下、「ピッチ比」ともいう。)は、1.050である。また、ピッチ比が1.045であるパターンX7及びピッチ比が1.055であるパターンX9もスライド速度が安定している。
【0064】
つまり、ピッチ比を1.04以上1.06以下とすることで、スライド速度の安定化を促進することができる。さらに、ピッチ比を1.05とすることで、スライド速度の安定性が向上する。
【0065】
図8は、図7と同様の横軸と縦軸とを有するグラフである。図8では、歯数が8、圧力角が20°、モジュールが3.66、歯411CのピッチP2が11.5のピニオン411Aに対し、開口36のピッチP1を変化させた複数のパターンY1-Y7における進み量の変化が示されている。図8のピニオン411Aのピッチ円Cの直径Dは、図7よりも大きい。
【0066】
パターンY1-Y7における開口36のピッチP1の大きさは、図示の通りである。図8では、ピッチP1が11.5よりも小さくなると、回転角度が20°のときの進み量の変化が小さくなる。図8では、ピッチ比が1.045のパターンY6及びピッチ比が1.055であるパターンY7において、スライド速度が安定している。
【0067】
図9は、図7と同様の横軸と縦軸とを有するグラフである。図9では、歯数が7、圧力角が20°、モジュールが6.366、歯411CのピッチP2が20.0のピニオン411Aに対し、開口36のピッチP1を変化させた複数のパターンZ1-Z13における進み量の変化が示されている。図9のピニオン411Aのピッチ円Cの直径Dは、図7よりも大きい。
【0068】
パターンZ1-Z13における開口36のピッチP1の大きさは、図示の通りである。図9では、ピッチP1が20.0よりも小さくなると、回転角度が20°から30°の範囲における進み量の変化が小さくなる。図9では、ピッチ比が1.042であるパターンZ10、ピッチ比が1.047のパターンZ11、ピッチ比が1.053のパターンZ12及びピッチ比が1.058のパターンZ13において、スライド速度が安定している。
【0069】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)複数の開口36のピッチP1が複数の歯411CのピッチP2よりも小さくされることで、ピニオン411Aの歯411Cと開口36の内面36Aとの接触領域が拡張される。そのため、ピニオン411Aの回転量に対する固定レール3の送り量を大きくすることができる。結果として、ピニオン411Aの回転によるスライド速度を安定させることができる。また、スライド時の振動、及びピニオン411Aの打音を低減することができる。
【0070】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0071】
(2a)上記実施形態のスライド装置1において、ピニオン411Aの回転軸は、必ずしも上下方向と平行でなくてもよい。例えば、ピニオン411Aの回転軸は、レール幅方向と平行であってもよい。この場合、複数の開口36はピニオン411Aの歯411Cが上下方向において嵌まり込み及び離脱が可能となるように配置される。
【0072】
(2b)上記実施形態の乗物用シート10は、乗用車以外の自動車に用いられるシートや、自動車以外の例えば鉄道車両、船舶、航空機等の乗物に用いられるシートにも適用することができる。
【0073】
(2c)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0074】
1…スライド装置、2…可動レール、3…固定レール、4…駆動ユニット、
10…乗物用シート、11…シート、21…中央部、22A,22B…内壁、
31…底壁、32A,32B…外側壁、33A,33B…天壁、
34A,34B…内壁、36…開口、36A…内面、41…送り機構、
42…アクチュエータ、42A…回転ロッド、411…回転体、411A…ピニオン、
411B…第1ヘリカルギア、411C…歯、411D…端縁、
412…第1連結ギア、412A…第2ヘリカルギア、412B…ウォームギア、
413…第2連結ギア、414A…第1ハウジング、414B…第2ハウジング、
415A…第1ベアリング、415B…第2ベアリング、416…カバー、
417…ブッシュ、418…カバー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9