(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】インバータ制御装置及び車載用流体機械
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20230801BHJP
H02P 21/26 20160101ALI20230801BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/26
(21)【出願番号】P 2020088095
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大神 崇
(72)【発明者】
【氏名】川島 隆
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-064322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載用蓄電装置を用いて車載用電動モータを駆動させるインバータ回路の制御に用いられるインバータ制御装置であって、
前記車載用電動モータは、3相コイルを有し、
前記インバータ回路は、3相スイッチング素子を有し、
前記インバータ制御装置は、
前記車載用電動モータの回転速度を把握する速度把握部と、
前記車載用蓄電装置の電圧である電源電圧を把握する電圧把握部と、
外部から送信される外部指令値と前記速度把握部の把握結果とに基づいて、前記車載用電動モータのd軸及びq軸に印加する電圧の目標値である2相電圧指令値を導出する2相電圧指令値導出部と、
前記2相電圧指令値に基づいて、前記3相コイルに印加する3相電圧指令値を導出する3相電圧指令値導出部と、
前記3相電圧指令値とキャリア信号とに基づいてPWM信号を生成する生成部と、
を備え、前記PWM信号を用いて前記3相スイッチング素子をPWM制御するものであり、
前記3相電圧指令値導出部は、
前記2相電圧指令値が同一である状況において前記2相電圧指令値と前記電圧把握部の把握結果とに基づいて算出される電圧利用率が予め定められた閾値利用率以下である場合、前記3相コイルの線間電圧が同一であって変化範囲が互いに異なる3相電圧指令値を、切替周期で切り替えて導出することを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項2】
前記インバータ制御装置は、予め定められた出力周期で前記PWM信号を前記3相スイッチング素子に出力することにより、前記3相スイッチング素子をPWM制御するものであり、
前記切替周期は前記出力周期である請求項1に記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記切替周期は、前記キャリア信号の周期であるキャリア周期と同じである請求項1又は請求項2に記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記3相電圧指令値導出部は、前記車載用電動モータの線間電圧が同一であって変化範囲が互いに異なる3相電圧指令値として、
第1の3相電圧指令値と、
前記第1の3相電圧指令値よりも変化範囲が大きい第2の3相電圧指令値と、
を少なくとも導出する請求項1~3のうちいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記3相電圧指令値導出部は、前記切替周期ごとに、導出する前記3相電圧指令値を、前記第1の3相電圧指令値と前記第2の3相電圧指令値とに交互に切り替える請求項4に記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記第1の3相電圧指令値は、中性点電位が一定の3相基準指令値であり、
前記第2の3相電圧指令値は、前記3相基準指令値に対して中性点振幅を有する中性点電位が重畳された3相変化指令値である請求項4又は請求項5に記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
前記第1の3相電圧指令値は、中性点電位が第1中性点振幅で変化している第1の3相変化指令値であり、
前記第2の3相電圧指令値は、中性点電位が前記第1中性点振幅よりも大きい第2中性点振幅で変化している第2の3相変化指令値である請求項4又は請求項5に記載のインバータ制御装置。
【請求項8】
前記第1の3相電圧指令値は、3相変調方式の値であり、
前記第2の3相電圧指令値は、2相変調方式の値である請求項4又は請求項5に記載のインバータ制御装置。
【請求項9】
前記第1の3相電圧指令値を導出するのに用いられる第1マップデータと、前記第2の3相電圧指令値を導出するのに用いられる第2マップデータと、を備え、
前記3相電圧指令値導出部は、参照するマップデータを切り替えることにより、導出する前記3相電圧指令値を切り替える請求項4~8のうちいずれか一項に記載のインバータ制御装置。
【請求項10】
前記車載用電動モータと、
前記インバータ回路と、
請求項1~9のうちいずれか一項に記載のインバータ制御装置と、
を備えていることを特徴とする車載用流体機械。
【請求項11】
前記車載用流体機械は、前記車載用電動モータによって駆動する圧縮部を備えた車載用電動圧縮機である請求項10に記載の車載用流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御装置及び車載用流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、車載用蓄電装置を用いて車載用電動モータを駆動させるインバータ回路の制御に用いられるインバータ制御装置が知られている。特許文献1には、車載用電動モータは自動車のエアコン用モータとして使用されるものであって3相コイルを有している点、及び、インバータ回路が3相スイッチング素子を有する点が記載されている。また、特許文献1には、励磁成分電圧及びトルク成分電圧からなる2相電圧指令値に基づいて3相電圧指令値としての駆動電圧を算出する点について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、3相電圧指令値が周期的に同じ値となることによって特定周波数のノイズが発生するおそれがある。特に、2相電圧指令値と車載用蓄電装置の電圧とに基づいて算出される電圧利用率が低い状況下では、相対的に3相電圧指令値に対して特定周波数のノイズが大きくなり易いため、特定周波数のノイズに起因する影響が大きくなり易いことが懸念される。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的は電圧利用率が低い状況下において3相電圧指令値が周期的に同じ値となることによって生じる特定周波数のノイズを低減できるインバータ制御装置及びそのインバータ制御装置を備えた車載用流体機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するインバータ制御装置は、車載用蓄電装置を用いて車載用電動モータを駆動させるインバータ回路の制御に用いられるものであって、前記車載用電動モータは、3相コイルを有し、前記インバータ回路は、3相スイッチング素子を有し、前記インバータ制御装置は、前記車載用電動モータの回転速度を把握する速度把握部と、前記車載用蓄電装置の電圧である電源電圧を把握する電圧把握部と、外部から送信される外部指令値と前記速度把握部の把握結果とに基づいて、前記車載用電動モータのd軸及びq軸に印加する電圧の目標値である2相電圧指令値を導出する2相電圧指令値導出部と、前記2相電圧指令値に基づいて、前記3相コイルに印加する3相電圧指令値を導出する3相電圧指令値導出部と、前記3相電圧指令値とキャリア信号とに基づいてPWM信号を生成する生成部と、を備え、前記PWM信号を用いて前記3相スイッチング素子をPWM制御するものであり、前記3相電圧指令値導出部は、前記2相電圧指令値が同一である状況において前記2相電圧指令値と前記電圧把握部の把握結果とに基づいて算出される電圧利用率が予め定められた閾値利用率以下である場合、前記3相コイルの線間電圧が同一であって変化範囲が互いに異なる3相電圧指令値を、切替周期で切り替えて導出することを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、電圧利用率が閾値利用率以下である場合、3相電圧指令値は、3相コイルの線間電圧が同一のまま、変化範囲が異なる値に切替周期で切り替わる。これにより、仮に2相電圧指令値が同一であっても、3相電圧指令値は切替周期で変化する。したがって、電圧利用率が低い状況下において3相電圧指令値が周期的に同じ値となることに起因する特定周波数のノイズを低減できる。
【0008】
特に、本構成によれば、3相電圧指令値が切り替わった場合であっても3相コイルに印加される線間電圧は同一となっている。これにより、車載用電動モータには同一のトルクが付与される。したがって、3相電圧指令値を切り替えることに起因して異なるトルクが付与されるといった不都合を抑制できる。
【0009】
以上のことから、車載用電動モータに対して適切なトルクを付与した状態を維持しつつ、電圧利用率が低い状況下において3相電圧指令値が周期的に同じ値となることによって生じる特定周波数のノイズを低減できる。
【0010】
上記インバータ制御装置について、前記インバータ制御装置は、予め定められた出力周期で前記PWM信号を前記3相スイッチング素子に出力することにより、前記3相スイッチング素子をPWM制御するものであり、前記切替周期は前記出力周期であるとよい。
【0011】
かかる構成によれば、PWM信号が出力される度に3相電圧指令値が切り替わる。これにより、3相コイルに入力される3相電圧指令値が連続して同じ値となることを抑制できる。
【0012】
上記インバータ制御装置について、前記切替周期は、前記キャリア信号の周期であるキャリア周期と同じであるとよい。
かかる構成によれば、3相電圧指令値がキャリア周期で切り替わるため、キャリア周期に対応する周波数のノイズを低減できる。
【0013】
上記インバータ制御装置について、前記3相電圧指令値導出部は、前記車載用電動モータの線間電圧が同一であって変化範囲が互いに異なる3相電圧指令値として、第1の3相電圧指令値と、前記第1の3相電圧指令値よりも変化範囲が大きい第2の3相電圧指令値と、を少なくとも導出するとよい。
【0014】
かかる構成によれば、3相電圧指令値を、少なくとも第1の3相電圧指令値と第2の3相電圧指令値とに切り替えることができる。これにより、上述した効果を得ることができる。
【0015】
上記インバータ制御装置について、前記3相電圧指令値導出部は、前記切替周期ごとに、導出する前記3相電圧指令値を、前記第1の3相電圧指令値と前記第2の3相電圧指令値とに交互に切り替えるとよい。
【0016】
かかる構成によれば、第1の3相電圧指令値と第2の3相電圧指令値とに交互に切り替わることにより、特定の値に偏ることを抑制しつつ3相電圧指令値をバラつかせることができる。
【0017】
詳述すると、仮に第2の3相電圧指令値よりも第1の3相電圧指令値となる頻度が高い場合、第1の3相電圧指令値に対応するノイズが第2の3相電圧指令値に対応するノイズよりも大きくなり易く、第1の3相電圧指令値に対応するノイズが局所的に大きくなることが懸念される。
【0018】
この点、本構成によれば、3相電圧指令値が第1の3相電圧指令値と第2の3相電圧指令値とに交互に切り替わることにより、第1の3相電圧指令値に対応するノイズと、第2の3相電圧指令値に対応するノイズとが同程度となる。したがって、両ノイズのうち一方ノイズが他方ノイズよりも過度に高くなることを抑制できる。
【0019】
上記インバータ制御装置について、前記第1の3相電圧指令値は、中性点電位が一定の3相基準指令値であり、前記第2の3相電圧指令値は、前記3相基準指令値に対して中性点振幅を有する中性点電位が重畳された3相変化指令値であるとよい。
【0020】
かかる構成によれば、3相変化指令値の変化範囲は、中性点電位が中性点振幅で変化する分だけ、3相基準指令値の変化範囲よりも広くなっている。一方で、両者の線間電圧は変わらない。これにより、両者の線間電圧を同一にしたまま3相電圧指令値の変化範囲を異ならせることができる。
【0021】
上記インバータ制御装置について、前記第1の3相電圧指令値は、中性点電位が第1中性点振幅で変化している第1の3相変化指令値であり、前記第2の3相電圧指令値は、中性点電位が前記第1中性点振幅よりも大きい第2中性点振幅で変化している第2の3相変化指令値であるとよい。
【0022】
かかる構成によれば、第2中性点振幅が第1中性点振幅よりも大きいため、第2の3相変化指令値の変化範囲は、第1の3相変化指令値の変化範囲よりも広くなる。一方で、両者の線間電圧は変わらない。これにより、両者の線間電圧を同一にしたまま3相電圧指令値の変化範囲を異ならせることができる。
【0023】
上記インバータ制御装置について、前記第1の3相電圧指令値は、3相変調方式の値であり、前記第2の3相電圧指令値は、2相変調方式の値であるとよい。
かかる構成によれば、2相変調方式の第2の3相電圧指令値は、0Vから電源電圧までの範囲で変化する。これにより、第2の3相電圧指令値の変化範囲は、3相変調方式の第1の3相電圧指令値の変化範囲よりも広くなる。一方で両者の線間電圧は変わらない。したがって、両者の線間電圧を同一にしたまま3相電圧指令値の変化範囲を異ならせることができる。
【0024】
上記インバータ制御装置について、前記第1の3相電圧指令値を導出するのに用いられる第1マップデータと、前記第2の3相電圧指令値を導出するのに用いられる第2マップデータと、を備え、前記3相電圧指令値導出部は、参照するマップデータを切り替えることにより、導出する前記3相電圧指令値を切り替えるとよい。
【0025】
かかる構成によれば、3相電圧指令値を切り替える度に3相電圧指令値を計算する必要がない。これにより、インバータ制御装置において3相電圧指令値の計算に係る処理負荷を省略できる。したがって、3相電圧指令値を切り替えることに起因する処理負荷の増大化を抑制できる。
【0026】
上記目的を達成する車載用流体機械は、前記車載用電動モータと、前記インバータ回路と、上述したインバータ制御装置と、を備えていることを特徴とする。
前記車載用流体機械は、前記車載用電動モータによって駆動する圧縮部を備えた車載用電動圧縮機であるとよい。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、電圧利用率が低い状況下において3相電圧指令値が周期的に同じ値となることによって生じる特定周波数のノイズを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図2】インバータ回路及びインバータ制御装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図4】第1の3相電圧指令値の一例としての3相基準指令値を示すグラフ。
【
図5】第2の3相電圧指令値の一例としての3相変化指令値を示すグラフ。
【
図6】2相変調方式の3相電圧指令値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、インバータ制御装置、当該インバータ制御装置が搭載された車載用流体機械の一実施形態について説明する。本実施形態では、車載用流体機械は車載用電動圧縮機であり、当該車載用電動圧縮機は車載用空調装置に用いられる。
【0030】
車載用空調装置及び車載用電動圧縮機の概要について説明する。
図1に示すように、車両100に搭載されている車載用空調装置101は、車載用電動圧縮機10と、車載用電動圧縮機10に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路102とを備えている。
【0031】
外部冷媒回路102は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置101は、車載用電動圧縮機10によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路102によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0032】
車載用空調装置101は、当該車載用空調装置101の全体を制御する空調ECU103を備えている。空調ECU103は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機10に対して指令回転速度Ncなどの各種指令を送信する。
【0033】
車両100は、車載用蓄電装置104を備えている。車載用蓄電装置104は、直流電力の充放電が可能なものであれば任意であり、例えば二次電池や電気二重層キャパシタ等である。車載用蓄電装置104は、車載用電動圧縮機10の直流電源として用いられる。
【0034】
車載用電動圧縮機10は、車載用電動モータ11と、車載用電動モータ11によって駆動する圧縮部12と、車載用蓄電装置104を用いて車載用電動モータ11を駆動させるインバータ回路13と、インバータ回路13の制御に用いられるインバータ制御装置14とを備えている。
【0035】
車載用電動モータ11は、回転軸21と、回転軸21に固定されたロータ22と、ロータ22に対して対向配置されているステータ23と、ステータ23に捲回された3相コイル24u,24v,24wとを有している。ロータ22は永久磁石22aを含んでいる。詳細には、永久磁石22aはロータ22内に埋め込まれている。
図2に示すように、3相コイル24u,24v,24wは例えばY結線されている。ロータ22及び回転軸21は、3相コイル24u,24v,24wが所定のパターンで通電されることにより回転する。すなわち、本実施形態の車載用電動モータ11は、3相モータである。
【0036】
なお、3相コイル24u,24v,24wの結線態様は、Y結線に限られず任意であり、例えばデルタ結線でもよい。また、車載用電動モータ11の回転速度及び加速度とは、ロータ22の回転速度及び加速度を意味する。
【0037】
圧縮部12は、車載用電動モータ11が駆動することによって流体(本実施形態では冷媒)を圧縮するものである。詳細には、圧縮部12は、回転軸21が回転することによって、外部冷媒回路102から供給された吸入冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出する。圧縮部12の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0038】
インバータ回路13は、車載用蓄電装置104から入力される直流電力を交流電力に変換することにより、車載用蓄電装置104を用いて車載用電動モータ11を駆動させるものである。
【0039】
図2に示すように、インバータ回路13は、3相スイッチング素子Qu1~Qw2を有している。詳細には、インバータ回路13は、u相コイル24uに対応するu相スイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル24vに対応するv相スイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル24wに対応するw相スイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。
【0040】
3相スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2(以下、「3相スイッチング素子Qu1~Qw2」という。)は、例えばIGBT等のパワースイッチング素子である。但し、3相スイッチング素子Qu1~Qw2は、IGBTに限られず、任意であり、例えばMOSFETでもよい。なお、3相スイッチング素子Qu1~Qw2は、還流ダイオード(ボディダイオード)Du1~Dw2を有している。
【0041】
各u相スイッチング素子Qu1,Qu2は接続線を介して互いに直列に接続されており、その接続線はu相コイル24uに接続されている。u相スイッチング素子Qu1のコレクタは、車載用蓄電装置104の高圧側である正極端子(+端子)に接続されている。u相スイッチング素子Qu2のエミッタは、車載用蓄電装置104の低圧側である負極端子(-端子)に接続されている。
【0042】
なお、他のスイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2の接続態様は、対応するコイルが異なる点を除いて、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様である。
インバータ制御装置14は、CPU及びメモリ等といった電子部品を有するコントローラである。インバータ制御装置14は、インバータ回路13、詳細には3相スイッチング素子Qu1~Qw2を制御することにより、車載用電動モータ11を駆動させる。
【0043】
インバータ制御装置14は、車載用蓄電装置104の電圧である電源電圧Vinを把握する電圧把握部として電圧センサ31を備えている。電圧センサ31は、インバータ回路13の入力電圧を検出することにより、電源電圧Vinを把握する。
【0044】
インバータ制御装置14は、車載用電動モータ11に流れるモータ電流を検出する電流センサ32を備えている。本実施形態におけるモータ電流とは、例えば3相コイル24u,24v,24wに流れる3相電流Iu,Iv,Iwである。
【0045】
図2に示すように、インバータ制御装置14は、電流センサ32によって検出された3相電流Iu,Iv,Iwを互いに直交したd軸電流Id及びq軸電流Iq(以下、「2相電流Id,Iq」という。)に変換する3相/2相変換回路33を有している。
【0046】
ちなみに、d軸電流Idとは、ロータ22の磁束軸方向成分の電流、すなわち励磁成分電流ともいえ、q軸電流Iqとは、車載用電動モータ11のトルクに寄与するトルク成分電流ともいえる。
【0047】
インバータ制御装置14は、ロータ22の回転位置及び回転速度を推定する位置/速度推定部(位置推定部)34を備えている。位置/速度推定部34は、例えば2相電流Id,Iqと2相電圧指令値Vdr,Vqrの少なくとも一方とに基づいて、ロータ22の回転位置及び実際の回転速度である実回転速度Nrを推定する。指令回転速度Nc及び実回転速度Nrの単位は任意であるが、例えばrpmが考えられる。
【0048】
位置/速度推定部34の具体的な構成は任意である。例えば位置/速度推定部34は、2相電流Id,Iqと、d軸電圧指令値Vdrとモータ定数等とに基づいて3相コイル24u,24v,24wにて誘起される誘起電圧を算出する誘起電圧算出部を有してもよい。この場合、位置/速度推定部34は、誘起電圧と、2相電流Id,Iqのうちのd軸電流Id等とに基づいて、ロータ22の回転位置及び実回転速度Nrを推定してもよい。
【0049】
位置/速度推定部34は、電流センサ32の検出結果を定期的に把握しており、定期的にロータ22の回転位置及び実回転速度Nrを推定している。これにより、位置/速度推定部34は、ロータ22の回転位置及び実回転速度Nrの変化に追従している。本実施形態では、位置/速度推定部34が車載用電動モータ11の回転速度を把握する「速度把握部」に対応する。
【0050】
インバータ制御装置14は、外部としての空調ECU103から送信される外部指令値を取得する取得部35と、取得部35によって取得される外部指令値と実回転速度Nrとに基づいて車載用電動モータ11の回転制御を行う回転制御部(回転制御回路)36と、を備えている。
【0051】
取得部35は、例えば空調ECU103とインバータ制御装置14とを電気的に接続するためのコネクタなどである。取得部35によって空調ECU103とインバータ制御装置14とが電気的に接続され、情報のやり取りが可能となる。なお、取得部35は、指令回転速度Ncなどの各種指令が入力される入力部ともいえる。
【0052】
外部指令値とは、例えば指令回転速度Ncである。詳細には、空調ECU103は、車載用空調装置101の運転状況などから、必要な冷媒の流量を算出し、その流量を実現できる指令回転速度Ncを算出し、指令回転速度Ncをインバータ制御装置14に向けて送信する。
【0053】
なお、外部指令値は、指令回転速度Ncに限られず、車載用電動モータ11の駆動態様を規定することができれば、その具体的な指令内容は任意である。また、外部指令値の出力主体は、空調ECU103に限られず任意である。
【0054】
回転制御部36は、取得部35と電気的に接続されている。回転制御部36は、取得部35を介して空調ECU103と電気的に接続されており、取得部35によって取得された指令回転速度Ncは回転制御部36に入力される。つまり、回転制御部36は、取得部35を介して空調ECU103からの外部指令値を受信する。
【0055】
回転制御部36は、電圧センサ31と電気的に接続されており、電源電圧Vinを把握可能となっている。
回転制御部36は、位置/速度推定部34と電気的に接続されている。これにより、回転制御部36は、位置/速度推定部34によって推定されたロータ22の回転位置及び実回転速度Nrを把握可能となっているとともに、位置/速度推定部34に対して推定に必要なパラメータを送信可能となっている。
【0056】
また、3相/2相変換回路33は、2相電流Id,Iqを、位置/速度推定部34と回転制御部36との双方に出力する。このため、回転制御部36は、2相電流Id,Iqを把握することができる。
【0057】
回転制御部36は、インバータ回路13の3相スイッチング素子Qu1~Qw2をPWM制御することにより、車載用電動モータ11(詳細にはロータ22)の回転を制御する回転制御処理を行う。ここで、回転制御部36は、予め定められた出力周期で回転制御処理を繰り返し実行する。
【0058】
回転制御部36の具体的なハード構成は任意である。例えば、回転制御部36は、回転制御処理を行うプログラムや必要な情報が記憶されたメモリと、上記プログラムに基づいて回転制御処理を実行するCPUとを有する構成でもよい。
【0059】
また、回転制御部36は、回転制御処理の一部又は全部を実行する1又は複数の専用ハードウェア回路を有する構成でもよいし、1又は複数の専用ハードウェア回路とソフトウェア処理を実行するCPUとの組み合わせでもよい。換言すれば、回転制御部36は、例えば1つ以上の専用のハードウェア回路、及び、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)の少なくとも一方によって実現されていればよい。
【0060】
ここで、説明の便宜上、回転制御部36によって実現される回転制御処理を
図3に示すフローチャート形式で説明する。
図3に示すように、回転制御部36は、まずステップS101にて、取得部35によって取得される外部指令値(本実施形態では指令回転速度Nc)と、位置/速度推定部34によって把握(本実施形態では推定)された実回転速度Nrとに基づいて、2相電流指令値Idr,Iqrを導出する。2相電流指令値Idr,Iqrとは、d軸電流Idの目標値であるd軸電流指令値Idrと、q軸電流Iqの目標値であるq軸電流指令値Iqrとである。
【0061】
その後、回転制御部36は、ステップS102にて、2相電流指令値Idr,Iqrと3相/2相変換回路33によって得られた2相電流Id,Iqとに基づいて、2相電圧指令値Vdr,Vqrを導出する。2相電圧指令値Vdr,Vqrは、d軸電圧指令値Vdrとq軸電圧指令値Vqrとから構成されている。d軸電圧指令値Vdrは、車載用電動モータ11のd軸に印加する電圧の目標値であり、q軸電圧指令値Vqrは、車載用電動モータ11のq軸に印加する電圧の目標値である。
【0062】
ちなみに、回転制御部36は、2相電圧指令値Vdr,Vqrを位置/速度推定部34に出力する。位置/速度推定部34は、2相電圧指令値Vdr,Vqrの少なくとも一方をロータ22の位置及び実回転速度Nrの推定に用いる。
【0063】
回転制御部36は、ステップS103~S108にて、2相電圧指令値Vdr,Vqrに基づいて3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを導出する処理を実行する。
3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrは、u相電圧指令値Vur、v相電圧指令値Vvr及びw相電圧指令値Vwrで構成されている。u相電圧指令値Vurは、u相コイル24uの印加電圧の目標値であり、v相電圧指令値Vvrは、v相コイル24vの印加電圧の目標値であり、w相電圧指令値Vwrは、w相コイル24wの印加電圧の目標値である。
【0064】
詳細には、回転制御部36は、ステップS103にて、今回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrが前回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrから変更されたか否かを判定する。詳細には、回転制御部36は、前回導出した2相電圧指令値Vdr,Vqrが記憶された記憶領域を有しており、当該記憶領域から前回の2相電圧指令値Vdr,Vqrを導出し、今回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrと比較する。
【0065】
ちなみに、今回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrと前回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrとが異なる場合とは、例えば外部指令値が変更された場合や、実回転速度Nrや加速度が変更された場合などが考えられる。
【0066】
今回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrが前回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrと異なる場合、各相コイル24u,24v,24wに現在印加している線間電圧とは異なる線間電圧を印加する必要がある。この場合、回転制御部36は、ステップS104に進み、今回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrに対応した3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを導出する。
【0067】
本実施形態では、回転制御部36は、ステップS104では、新たに導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrに対応した3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0を導出する。
ここで、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0は、電気角に応じて変化するものであり、例えば電気角の0°~360°を1周期とした基準振幅f0を有する波形となっている。3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0の位相は互いに異なっており、例えば互いに120°ずれている。3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0の波形は、正弦波、三角波、矩形波、又は、それらの波形の変形したものなど、任意である。
【0068】
本実施形態において、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0は、中性点電位Enが一定の3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrである。中性点電位Enとは、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrの中性点の電位である。例えば、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0は、2相電圧指令値Vdr,Vqrを2相/3相変換することによって得られる値である。
【0069】
本実施形態の回転制御部36は、マップデータを用いて3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0を導出する。詳細には、
図2に示すように、本実施形態の回転制御部36は、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0を導出するのに用いられる第1マップデータ36aを有している。第1マップデータ36aは、2相電圧指令値Vdr,Vqrと3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0とが対応付けられて設定されたマップデータである。回転制御部36は、ステップS104では、第1マップデータ36aを参照することにより、今回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrに対応する3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0を導出する。
【0070】
一方、
図3に示すように、今回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrが前回導出された2相電圧指令値Vdr,Vqrと同一である場合には、回転制御部36はステップS105にて、2相電圧指令値Vdr,Vqrと電源電圧Vinとに基づいて、電圧利用率Rを算出する。
【0071】
電圧利用率Rは、2相電圧指令値Vdr,Vqrを車載用電動モータ11に印加するために必要な電源電圧Vinの利用率である。例えば、電圧利用率Rは、電源電圧Vinに対する2相電圧指令値Vdr,Vqrの実効値の比率、又は当該比率に所定の補正パラメータを加算又は乗算したパラメータである。
【0072】
なお、2相電圧指令値Vdr,Vqrに応じて3相コイル24u,24w,24wの線間電圧が変化することに着目すれば、電圧利用率Rは、電源電圧Vinに対する3相コイル24u,24w,24wの線間電圧の実効値の比率ともいえる。換言すれば、電圧利用率Rは、3相コイル24u,24w,24wの線間電圧が2相電圧指令値Vdr,Vqrに対応した値となるために電源電圧Vinの利用率を示すパラメータともいえる。
【0073】
ちなみに、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0の振幅である基準振幅f0は、電圧利用率Rが小さくなるに従って小さくなる。例えば、電圧利用率Rが第1電圧利用率R1である場合の基準振幅f0と、電圧利用率Rが第1電圧利用率R1よりも小さい第2電圧利用率R2である場合の基準振幅f0とを比較すると、第2電圧利用率R2である場合の基準振幅f0は、第1電圧利用率R1である場合の基準振幅f0よりも小さい。そして、基準振幅f0が小さくなると、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0の変化範囲(詳細には最小値から最大値までの範囲)が狭くなり易い。
【0074】
回転制御部36は、電圧利用率Rを算出した後は、ステップS106に進み、ステップS105にて算出された電圧利用率Rが予め定められた閾値利用率Rth以下であるか否かを判定する。閾値利用率Rthは任意であり、例えば50%よりも低くてもよいし、高くてもよい。また、値利用率Rthは、例えば40~70%の範囲内に設定されていてもよい。
【0075】
電圧利用率Rが閾値利用率Rth以下である場合、回転制御部36は、ステップS107にて、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替える3相電圧指令値切替処理を実行する。
【0076】
詳細には、本実施形態の回転制御部36は、変化範囲が互いに異なる第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とを少なくとも導出するものであり、これらを切替周期で切り替える。例えば、回転制御部36は、ステップS107の処理が実行される度に、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とを交互に導出する。
【0077】
例えば、回転制御部36は、前回のステップS107において導出した3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1である場合には今回のステップS107では第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2を導出する。
【0078】
一方、回転制御部36は、前回のステップS107において導出した3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2である場合には今回のステップS107では第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1を導出する。
【0079】
本実施形態では、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1及び第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2は、双方とも3相変調方式の値である。3相変調方式とは、全相のスイッチング素子Qu1~Qw2の周期的なON/OFFが常時行われている方式である。
【0080】
ここで、回転制御部36は、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1として中性点電位Enが一定の3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0を導出し、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2として中性点電位Enが所定の中性点振幅fnで変化している3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfを導出する。
【0081】
詳細には、
図2に示すように、回転制御部36は、第1マップデータ36aとは別に、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfを導出するのに用いられる第2マップデータ36bを有している。第2マップデータ36bは、2相電圧指令値Vdr,Vqrと3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfとが対応付けられて設定されているマップデータである。
【0082】
3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfは、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0に対して中性点振幅fnの中性点電位Enを重畳させた値である。すなわち、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfは、電気角に応じて変化する3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0に対して、電気角に応じて中性点振幅fnで中性点電位Enを変化させながら加算(又は減算)することによって得られる値である。換言すれば、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfは、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0の波形に対して中性点振幅fnの中性点電位Enの波形を重ね合わせた波形であるといえる。
【0083】
かかる構成によれば、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfの中性点電位Enは、中性点振幅fnで変化しているため、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfの変化範囲は、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0の変化範囲よりも大きくなっている。なお、重畳させる中性点電位Enの周期は、例えば120°である。なお、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfの変化範囲は、中性点振幅fnが大きくなるほど大きくなる。
【0084】
なお、既に説明したとおり、2相電圧指令値Vdr,Vqrが変更された場合には、ステップS104にて第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1としての3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0が導出される。このため、回転制御部36は、2相電圧指令値Vdr,Vqrの変更後の最初のステップS107では、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2としての3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfを導出する。
【0085】
図3に示すように、電圧利用率Rが閾値利用率Rthよりも高い場合には、回転制御部36はステップS108にて、前回導出した3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを維持する処理を実行する。詳細には、回転制御部36は、前回導出された3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrと同一の3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを導出する。
【0086】
回転制御部36は、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを導出した後は、ステップS109にて、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrとキャリア信号とに基づいて、3相スイッチング素子Qu1~Qw2のスイッチングパターン(詳細にはデューティ比)が設定されたPWM信号を生成する。
【0087】
そして、回転制御部36は、ステップS110にて、生成されたPWM信号を3相スイッチング素子Qu1~Qw2に向けて出力することにより、3相スイッチング素子Qu1~Qw2のスイッチング制御を行う。つまり、インバータ制御装置14は、PWM信号を用いて3相スイッチング素子Qu1~Qw2をPWM制御する。
【0088】
かかる構成によれば、2相電圧指令値Vdr,Vqrが変更されていない場合、切替周期(本実施形態では回転制御処理の実行周期)にて変化範囲が異なる3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが交互に導出され、当該3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrに対応するPWM信号が出力される。
【0089】
ここで、回転制御処理が実行される度に3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切り替わるとともにPWM信号が出力されることを鑑みれば、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが線間電圧を同一に維持しつつ変化範囲が異なる値に切り替わる切替周期は、PWM信号の出力周期ともいえる。
【0090】
また、本実施形態では、切替周期は、キャリア信号の周期であるキャリア周期と同一である。つまり、本実施形態のインバータ制御装置14は、キャリア周期毎に3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切り替わるように構成されている。
【0091】
本実施形態では、ステップS101,S102の処理を実行する回転制御部36が「2相電圧指令値導出部」に対応する。そして、ステップS103~S108の処理を実行する回転制御部36が「3相電圧指令値導出部」に対応し、ステップS109の処理を実行する回転制御部36が「生成部」に対応する。
【0092】
なお、説明の便宜上、フローチャート形式で説明したが、ステップS103~S108の各処理の順序は任意に変更可能である。また、上述したとおり、ステップS103~S108の処理のうち一部又は全部を専用のハードウェア回路が実行する構成でもよい。
【0093】
次に
図4~
図6を用いて本実施形態の作用について説明する。
図4は第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1としての3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0のグラフであり、
図5は第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2としての3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfのグラフである。
図4及び
図5は、同一の2相電圧指令値Vdr,Vqrであり、電圧利用率Rは閾値利用率Rth以下であるとする。
【0094】
図4に示すように、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1(本実施形態では3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0)は第1変化範囲Vy1内で変化する。ここで、電圧利用率Rが小さくなると、第1変化範囲Vy1も小さくなる。このため、電圧利用率Rが閾値利用率Rth以下である状況下では第1変化範囲Vy1は小さくなり易い。
【0095】
これに対して、
図5に示すように、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2としての3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfは、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0よりも大きく変化している。詳細には、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2(本実施形態では3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwf)の変化範囲を第2変化範囲Vy2とすると、第2変化範囲Vy2は第1変化範囲Vy1よりも広くなっている。このため、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0と3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfとを比較すると、中性点電位Enの節に対応した電気角以外の範囲にて値が異なっている。したがって、導出される3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0と3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfとに切替周期で切り替わることにより、ほぼすべての電気角において3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切替周期ごとに変更される。したがって、同一の2相電圧指令値Vdr,Vqrとなっている状況下において3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切替周期単位で同一の値となる事態が生じにくい。
【0096】
また、中性点電位Enが重畳された場合であっても、3相コイル24u,24w,24wに印加される線間電圧は変化しない。したがって、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfが導出されたとしても、車載用電動モータ11には、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0と同等のトルクが付与される。
【0097】
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1)インバータ制御装置14は、車載用蓄電装置104を用いて車載用電動モータ11を駆動させるインバータ回路13の制御に用いられるものである。車載用電動モータ11は3相コイル24u,24v,24wを有し、インバータ回路13は3相スイッチング素子Qu1~Qw2を有している。
【0098】
インバータ制御装置14は、車載用電動モータ11の回転速度である実回転速度Nrを把握する位置/速度推定部34と、車載用蓄電装置104の電圧である電源電圧Vinを把握する電圧センサ31と、回転制御部36と、を備えている。回転制御部36は、外部から送信される外部指令値と実回転速度Nrとに基づいて、車載用電動モータ11のd軸及びq軸に印加する電圧の目標値である2相電圧指令値Vdr,Vqrを導出する処理と、2相電圧指令値Vdr,Vqrに基づいて3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを導出する処理と、を行う。そして、回転制御部36は、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrとキャリア信号とに基づいてPWM信号を生成し、そのPWM信号を用いて3相スイッチング素子Qu1~Qw2をPWM制御する。
【0099】
回転制御部36は、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを導出する処理にて、2相電圧指令値Vdr,Vqrと電源電圧Vinとに基づいて算出される電圧利用率Rが閾値利用率Rth以下である場合、車載用電動モータ11の線間電圧が同一であって変化範囲が異なる3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切替周期で切り替えて導出する。
【0100】
かかる構成によれば、電圧利用率Rが閾値利用率Rth以下である場合、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrは、3相コイル24u,24v,24wの線間電圧が同一のまま、変化範囲が異なるものに切替周期で切り替わる。これにより、仮に2相電圧指令値Vdr,Vqrが同一であっても、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrは切替周期で変化する。したがって、電圧利用率Rが低い状況下において3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが周期的に同じ値となることに起因する特定周波数のノイズを低減できる。
【0101】
詳述すると、仮に同じ3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが周期的に導出される場合、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrは周期的に同一の値となる。この場合、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrの導出周期に対応した特定周波数のノイズが発生することになる。当該特定周波数のノイズの影響は、電圧利用率Rが低い場合に大きくなり易い。
【0102】
この点、本実施形態によれば、電圧利用率Rが閾値利用率Rth以下である場合には、変化範囲が異なる3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切替周期で導出される。これにより、切替周期ごとに3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrをバラつかせることができる。したがって、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが周期的に同一の値となる頻度を低減でき、それを通じて上記特定周波数のノイズを低減できる。
【0103】
特に、本構成によれば、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切り替わった場合であっても3相コイル24u,24v,24wに印加される線間電圧は同一となっている。これにより、車載用電動モータ11には同一のトルクが付与される。したがって、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替えることに起因して異なるトルクが付与されるといった不都合を抑制できる。
【0104】
以上のことから、車載用電動モータ11に対して適切なトルクを付与した状態を維持しつつ、電圧利用率Rが低い状況下において3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが周期的に同じ値となることによって生じる特定周波数のノイズを低減できる。
【0105】
(2)回転制御部36は、電圧利用率Rが閾値利用率Rthよりも高い場合には、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替えない。これにより、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替えることに起因する処理負荷の軽減を図ることができる。また、電圧利用率Rが閾値利用率Rthよりも高い場合には、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが大きくなりやすいため、相対的に3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrに対して特定周波数のノイズが小さくなり易い。このため、特定周波数のノイズの影響が小さくなり易い。したがって、電圧利用率Rが閾値利用率Rthよりも高い状況下において3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替えないことによる影響は小さい。
【0106】
(3)回転制御部36は、PWM信号を予め定められた出力周期で3相スイッチング素子Qu1~Qw2に出力することにより、3相スイッチング素子Qu1~Qw2を制御する。3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切り替わる上記切替周期はPWM信号の出力周期である。
【0107】
かかる構成によれば、PWM信号が出力される度に3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切り替わる。これにより、3相コイル24u,24v,24wに入力される3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが連続して同じ値となることを抑制できる。
【0108】
(4)3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切り替わる切替周期は、キャリア信号の周期であるキャリア周期と同じである。
かかる構成によれば、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrがキャリア周期で切り替わるため、キャリア周期に対応する周波数のノイズを低減できる。
【0109】
(5)回転制御部36は、切替周期ごとに、導出する3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1よりも変化範囲が大きい第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とに交互に切り替える。
【0110】
かかる構成によれば、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とに交互に切り替わることにより、特定の値に偏ることを抑制しつつ3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrをバラつかせることができる。
【0111】
詳述すると、仮に第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2よりも第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1となる頻度が高い場合、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1に対応するノイズが大きくなり易い。
【0112】
この点、本実施形態によれば、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とに交互に切り替わる。これにより、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1に対応するノイズと、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2に対応するノイズとが同程度となる。したがって、両ノイズのうち一方ノイズが他方ノイズよりも過度に高くなることを抑制できる。
【0113】
なお、念の為に説明すると、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とに交互に切り替わる場合、切替周期の2倍の周期で第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1又は第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2となる。このため、切替周期の2倍の周期で第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1となることに起因する第1ノイズと、切替周期の2倍の周期で第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2となることに起因する第2ノイズとが発生する。両ノイズは、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが切替周期で同一の値となる場合のノイズよりも小さい。したがって、この場合であっても特定周波数のノイズが低減されている。換言すれば、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが周期的に同じ値となることによって生じるノイズが、第1ノイズと第2ノイズとに分散化されていることにより、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrが周期的に同じ値となることによって生じる特定周波数のノイズを低減しているといえる。
【0114】
(6)第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1は、中性点電位Enが一定の3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0である。第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2は、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0に対して中性点振幅fnを有する中性点電位Enが重畳された3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfである。
【0115】
かかる構成によれば、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfの変化範囲である第2変化範囲Vy2は、中性点電位Enが中性点振幅fnで変化する分だけ、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0の変化範囲である第1変化範囲Vy1よりも広くなっている。一方で、両者の線間電圧は変わらない。これにより、両者の線間電圧を同一にしたまま3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrの変化範囲を異ならせることができる。
【0116】
(7)回転制御部36は、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1としての3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0を導出するのに用いられる第1マップデータ36aを有している。回転制御部36は、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2としての3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfを導出するのに用いられる第2マップデータ36bを有している。回転制御部36は、参照するマップデータを切り替えることにより、導出する3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替える。
【0117】
かかる構成によれば、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替える度に3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを計算する必要がない。これにより、回転制御部36(換言すればインバータ制御装置14)において3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrの計算に係る処理負荷を省略できる。したがって、3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替えることに起因する処理負荷の増大化を抑制できる。
【0118】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。また、技術的に矛盾が生じない範囲内で、上記実施形態と下記別例とを適宜組み合わせてもよい。
○ 第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1は3相変調方式の値であり、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2は2相変調方式の値であってもよい。つまり、回転制御部36は、線間電圧が同一となるように3相変調方式の3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrと2相変調方式の3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrとに切り替えてもよい。
【0119】
2相変調方式とは、全相のスイッチング素子Qu1~Qw2のうちいずれかの相のスイッチング素子の周期的なON/OFFが所定の期間(位相角)ごとに順次停止する方式である。すなわち、2相変調方式とは、三相のうちのいずれか一相のスイッチング素子の周期的なON/OFFが順番に停止する一方、他の二相のパワースイッチング素子の周期的なON/OFFが行われる方式である。なお、スイッチング素子の周期的なON/OFFが停止している状態とは、スイッチング素子がON状態又はOFF状態で固定されている状態である。
【0120】
図6に示すように、2相変調方式の3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrは、変化範囲が0Vから電源電圧Vinまでとなる。このため、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2の変化範囲である第2変化範囲Vy2は、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1の変化範囲である第1変化範囲Vy1よりも広い。一方で両者の線間電圧は変わらない。したがって、この場合であっても(1)の効果を奏する。
【0121】
なお、3相変調方式の3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrとしては、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0でもよいし、3相変化指令値Vuf,Vvf,Vwfでもよい。
【0122】
○ 第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1は、中性点電位Enが第1中性点振幅fn1で変化している第1の3相変化指令値Vuf1,Vvf1,Vwf1であり、第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2は、中性点電位Enが第2中性点振幅fn2で変化している第2の3相変化指令値Vuf2,Vvf2,Vwf2であってもよい。第1の3相変化指令値Vuf1,Vvf1,Vwf1は、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0に対して第1中性点振幅fn1の中性点電位Enを重畳された値である。第2の3相変化指令値Vuf2,Vvf2,Vwf2は、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0に対して第2中性点振幅fn2の中性点電位Enを重畳された値である。第2中性点振幅fn2は、第1中性点振幅fn1よりも大きいとよい。
【0123】
かかる構成によれば、第2中性点振幅fn2が第1中性点振幅fn1よりも大きいため、第2変化範囲Vy2(詳細には第2の3相変化指令値Vuf2,Vvf2,Vwf2の変化範囲)は、第1変化範囲Vy1(詳細には第1の3相変化指令値Vuf1,Vvf1,Vwf1の変化範囲)よりも広くなる。一方で、両者の線間電圧は変わらない。これにより、両者の線間電圧を同一にしたまま3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrの変化範囲を異ならせることができる。
【0124】
○ 回転制御部36は、変化範囲が異なる3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを3つ以上導出する構成でもよい。例えば、回転制御部36は、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0に対応する第1マップデータ36aと、第1の3相変化指令値Vuf1,Vvf1,Vwf1に対応する第2マップデータ36bと、第2の3相変化指令値Vuf2,Vvf2,Vwf2に対応する第3マップデータと、を備えてもよい。そして、回転制御部36は、参照するマップデータを切り替えることにより、3相基準指令値Vu0,Vv0,Vw0と、第1の3相変化指令値Vuf1,Vvf1,Vwf1と、第2の3相変化指令値Vuf2,Vvf2,Vwf2とを導出する構成でもよい。この場合、回転制御部36は、上記3つの3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを、予め定められた順序で切り替えてもよいし、ランダムに切り替えてもよい。要は、回転制御部36は、線間電圧が同一で変化範囲が異なる3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを少なくとも2つ導出できればよいし、第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とを交互に切り替えなくてもよい。
【0125】
○ 3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを切り替える切替周期は、任意であり、例えばキャリア周期よりも長くてもよい。また、切替周期は、PWM信号の出力周期よりも長くてもよい。例えば、切替周期は出力周期の2倍以上でもよい。詳細には、回転制御部36は、例えば第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1を複数回導出してから3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2に切り替えてもよい。
【0126】
○ 回転制御部36は、1回の回転制御処理において第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1と第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2とを導出し、2つのPWM信号をキャリア周期以上の間隔で順次出力する構成でもよい。つまり、回転制御処理の実行周期は、切替周期又は出力周期と一致していてもよいし、一致していなくてもよい。
【0127】
○ 3相電圧指令値Vur,Vvr,Vwrを導出する具体的な構成は任意である。例えば、回転制御部36は、マップデータ36a,36bを用いることなく、計算によって第1の3相電圧指令値Vur1,Vvr1,Vwr1及び第2の3相電圧指令値Vur2,Vvr2,Vwr2を導出してもよい。
【0128】
○ 実回転速度Nrを把握するための構成は、位置/速度推定部34に限られず任意であり、専用のセンサ(レゾルバ)を採用してもよい。すなわち、速度把握部は、実回転速度Nrを推定することによって把握する構成に限られず、レゾルバ等といった実際に検出する構成でもよい。
【0129】
○ 取得部35は、空調ECU103から送信される外部指令値を受け取ることができればその具体的な構成は任意である。例えば空調ECU103が無線信号にて指令を送信する構成においては、取得部35は、その無線信号を受信するモジュールでもよい。
【0130】
○ 車載用蓄電装置104の電圧である電源電圧Vinを把握するための構成は、電圧センサ31に限られず任意である。例えば、車載用蓄電装置104に電源電圧Vinを検出する電圧センサ31と電圧センサ31に電気的に接続された電池CPUとが設けられている場合には、回転制御部36は、電池CPUと通信を行うことにより電源電圧Vinを取得する構成でもよい。この場合、電池CPUと通信を行う回転制御部36が「電圧把握部」に対応する。
【0131】
○ 車載用電動圧縮機10は、車載用空調装置101に用いられる構成に限られず、他の装置に用いられるものであってもよい。例えば、車両100が燃料電池車両である場合には、車載用電動圧縮機10は燃料電池に空気を供給する空気供給装置に用いられてもよい。すなわち、圧縮対象の流体は、冷媒に限られず、空気など任意である。
【0132】
○ 車載用流体機械は、流体を圧縮する圧縮部12を備えた車載用電動圧縮機10に限られない。例えば、車両100が燃料電池車両である場合には、車載用流体機械は、燃料電池に水素を供給するポンプと当該ポンプを駆動する車載用電動モータとを有する電動ポンプ装置であってもよい。この場合、インバータ制御装置14は、ポンプを駆動する車載用電動モータを制御するのに用いられてもよい。
【0133】
○ 車載用電動モータ11は、車載用電動圧縮機10に用いられるものに限られず、車両に搭載されるものであれば任意である。例えば、車載用電動モータ11は、車両を走行させる走行用モータであってもよい。
【符号の説明】
【0134】
10…車載用電動圧縮機(車載用流体機械)、11…車載用電動モータ、12…圧縮部、13…インバータ回路、14…インバータ制御装置、22…ロータ、24u,24v,24w…3相コイル、31…電圧センサ(電圧把握部)、34…位置/速度推定部(速度把握部)、35…取得部、36…回転制御部、36a…第1マップデータ、36b…第2マップデータ、104…車載用蓄電装置、Qu1~Qw2…3相スイッチング素子、Vdr,Vqr…2相電圧指令値、Vur,Vvr,Vwr…3相電圧指令値、Vur1,Vvr1,Vwr1…第1の3相電圧指令値、Vur2,Vvr2,Vwr2…第2の3相電圧指令値、Vu0,Vv0,Vw0…3相基準指令値、Vuf,Vvf,Vwf…3相変化指令値、Vuf1,Vvf1,Vwf1…第1の3相変化指令値、Vuf2,Vvf2,Vwf2…第2の3相変化指令値、En…中性点電位、fn…中性点振幅、fn1…第1中性点振幅、fn2…第2中性点振幅、R…電圧利用率、Rth…閾値利用率。