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特許7322876光デバイスの製造方法、光デバイス、及び光デバイスの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】光デバイスの製造方法、光デバイス、及び光デバイスの製造装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/13 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
G02B6/13
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020522162
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020745
(87)【国際公開番号】W WO2019230609
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018105071
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】長能 重博
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-195472(JP,A)
【文献】特開2010-070399(JP,A)
【文献】特開2008-019123(JP,A)
【文献】特表2010-515940(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0216967(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0320529(US,A1)
【文献】特開2005-092177(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103399377(CN,A)
【文献】KURITA et al.,Shape Control of Element Distribution inside a Glass by Simultaneous Irradiation with Femtosecond Laser Pulses at Multiple Spots,2013 Conference on Lasers and Electro-Optics Pacific Rim (CLEOPR),日本,IEEE,2013年06月30日,WPE-8
【文献】WU et al.,Study of waveguide directly writing in LiNbO3 crystal by high repetition rate femtosecond laser,Proceedings of SPIE 10027, Nanophotonics and Micro/Nano Optics III,米国,SPIE,2016年11月04日,Vol. 10027,pp. 100271H-1~pp. 100271H-8
【文献】外池正清,NEDOプロジェクト「三次元光デバイス高効率製造技術」の終了報告,New Glass,日本,一般社団法人ニューガラスフォーラム,2011年,Vol.26, No.3,pp.33-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12-6/14
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム及びチタンを含むガラス部材の内部にパルス状の第1レーザ光及び第2レーザ光を集光して、前記ガラス部材に対して光誘起による屈折率変化を起こさせるレーザ照射工程と、
前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光の集光位置を前記ガラス部材に対して相対的に移動する集光位置移動工程と、を備え、
前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光のそれぞれは、10kHz以上の繰り返し周波数を有し、
前記レーザ照射工程では、前記第1レーザ光を点状の集光領域に集光し、前記第2レーザ光を前記第1レーザ光の前記集光領域を囲む環状の集光領域に集光し、
前記第1レーザ光の中心波長は400nmより大きく700nm以下であり、前記第2レーザ光の中心波長は800nm以上1100nm以下であり、
前記レーザ照射工程及び前記集光位置移動工程を交互に繰り返す若しくは並行して実施することにより、連続した屈折率変化領域を前記ガラス部材の内部に形成する、光デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス部材がホウ素を更に含み、且つ、前記レーザ照射工程で照射される前記第1レーザ光の中心波長が530nm以下である、
請求項1に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記レーザ照射工程の前に、前記ガラス部材に水素を注入する工程を更に備える、
請求項1又は請求項2に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記水素を注入する工程において、前記ガラス部材は10気圧以上の水素雰囲気中に導入される、
請求項3に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記水素を注入する工程の後且つ前記レーザ照射工程の前に、前記水素が注入された前記ガラス部材を-10℃以下で低温保管する工程を更に備える、
請求項3又は請求項4に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記ガラス部材はリン酸塩系ガラス又はケイ酸塩系ガラスである、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記第1レーザ光のパルス幅は前記第2レーザ光のパルス幅よりも長い、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記第1レーザ光のパルス幅は500フェムト秒より長く50ピコ秒以下であり、前記第2レーザ光のパルス幅は500フェムト秒以下である、
請求項7に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記集光位置移動工程において、前記第2レーザ光の集光環を含む平面と交差する方向に、前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光の集光位置を前記ガラス部材に対して相対的に移動する、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記ガラス部材の内部に前記連続した屈折率変化領域を形成した後、エージング処理及び残留水素の除去のための熱処理を前記ガラス部材に対して行う工程を更に備える、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の光デバイスの製造方法。
【請求項11】
ガラス部材の内部に連続した屈折率変化領域を形成するための光デバイスの製造装置であって、
中心波長が400nmより大きく700nm以下であり且つ10kHz以上の繰り返し周波数を有する第1レーザ光を出力するように構成された第1レーザ光源と、
中心波長が800nm以上1100nm以下であり且つ10kHz以上の繰り返し周波数を有する第2レーザ光を出力するように構成された第2レーザ光源と、
前記第2レーザ光源から出射される前記第2レーザ光の光路上に配置され、前記第2レーザ光のビームプロファイルを環状に変換するように構成された変換素子と、
前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光の光路上に配置され、前記第1レーザ光と、前記変換素子で前記ビームプロファイルが変換された前記第2レーザ光とを合成するように構成された波長合成器と、
前記波長合成器で合成されるレーザ光を前記ガラス部材の所定の加工位置に集光するように構成された集光光学系と、
を備える、光デバイスの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光デバイスの製造方法、光デバイス、及び光デバイスの製造装置に関する。
本出願は、2018年5月31日出願の日本出願第2018-105071号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
光ネットワーク通信などの技術分野では、クラウドサービスの拡大に伴って、データセンターの大規模化及び通信データの大容量化が急激な勢いで進められている。その一例として、例えば、シリコンフォトニクスを利用した光IC化、又は、高密度光配線としてのマルチコア光ファイバ(Multi-Core optical Fiber:以下、「MCF」と記す)の適用が検討されている。MCFは、高パワーの光が光ファイバに入射されることで生じるファイバ・フューズ(Fiber Fuse)現象による許容限界を空間分割多重方式により回避する手段となり得るため、次世代の大容量化光ファイバとして注目されている。しかしながら、MCF等の光部品の採用には、互いに隣接するMCF間を接続する技術、或いはMCFの複数のコアそれぞれから複数のシングルコアファイバへ分岐接続する技術が不可欠である。このような光学部品間の接続を可能にする部品として、例えば、低背カプラ、又はグレーティングカプラ等が利用可能である。レーザ描画によりガラス内部へ光導波路を形成する三次元光導波路デバイスの製造は、生産性や設計の自由度の観点から注目されている。
【0003】
これまでに報告されているレーザ描画による三次元光導波路デバイスについて、ガラス材質、添加材料、添加量、又はチタンサファイアレーザによるフェムト秒レーザ(例えば波長800nm以下)の照射条件が検討されている。例えば、非特許文献1によれば、TiOを含有するリン酸塩系ガラスにレーザ光を照射することで、ガラス内部における屈折率差(すなわち屈折率変化)Δnを0.015程度まで形成することに成功している。特許文献1によれば、GeO:5重量%の組成をもつ石英ガラスにレーザ光を照射することで、ガラス内部における屈折率を0.02上昇させることに成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-311237号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】外池正清“NEDOプロジェクト「三次元光デバイス高効率製造技術」の終了報告”, NEW GLASS Vol.26, No.3, 2011, pp.33-44.
【文献】D.L.Williams, et al., “ENHANCED UV PHOTOSENSITIVITY IN BORON CODOPED GERMANOSILICATE FIBERS”, ELECTRONICSLETTERS, 7th January, 1993, Vol. 29, No. 1, pp.45-47.
【文献】B.I.Greene, et al., “Photoselective Reaction of H2 with Germanosilicate Glass”, LEOS'94 (1994),Vol.2, PD-1.2, pp.125-126.
【文献】Junji Nishii, et al., “Ultraviolet-radiation-induced chemical reactions through one- andtwo-photon absorption process in GeO2-SiO2 glasses”, OPTICS LETTERS,Vol.20, No.10, May 15, 1995, pp.1184-1186.
【発明の概要】
【0006】
本開示は、光デバイスの製造方法を提供する。この光デバイスの製造方法は、ゲルマニウム及びチタンを含むガラス部材の内部にパルス状の第1レーザ光及び第2レーザ光を集光して、ガラス部材に対して光誘起による屈折率変化を起こさせるレーザ照射工程と、第1レーザ光及び第2レーザ光の集光位置をガラス部材に対して相対的に移動する集光位置移動工程と、を備える。第1レーザ光及び第2レーザ光のそれぞれは、10kHz以上の繰り返し周波数(すなわち一秒毎のパルス数)を有する。レーザ照射工程では、第1レーザ光を点状の集光領域に集光し、第2レーザ光を第1レーザ光の集光領域を囲む環状の集光領域に集光する。第1レーザ光の中心波長は400nm以上700nm以下であり、第2レーザ光の中心波長は800nm以上1100nm以下である。レーザ照射工程及び集光位置移動工程を交互に繰り返す若しくは並行して実施することにより、連続した屈折率変化領域をガラス部材の内部に形成する。
【0007】
本開示は、光デバイスを提供する。この光デバイスは、ゲルマニウム及びチタンを含むガラス部材を備える。ガラス部材は、光誘起による連続した屈折率変化領域を内部に有する。屈折率変化領域は、線状に延びる第1の領域と、第1の領域を内包する筒状の第2の領域とを含む。第1の領域の屈折率は、屈折率変化領域の周囲の領域の屈折率よりも大きい。第2の領域の屈折率は、屈折率変化領域の周囲の領域の屈折率よりも小さい。
【0008】
本開示は、光デバイスの製造装置を提供する。この光デバイスの製造装置は、連続した屈折率変化領域をガラス部材の内部に形成するための光デバイスの製造装置であって、第1レーザ光源と、第2レーザ光源と、変換素子と、波長合成器と、集光光学系とを備える。第1レーザ光源は、中心波長が400nmより大きく700nm以下であり且つ10kHz以上の繰り返し周波数を有する第1レーザ光を出射するように構成される。第2レーザ光源は、中心波長が800nm以上1100nm以下であり且つ10kHz以上の繰り返し周波数を有する第2レーザ光を出射するように構成される。変換素子は、第2レーザ光源から出射される第2レーザ光の光路上に配置され、第2レーザ光のビームプロファイルを環状に変換するように構成される。波長合成器は、第1レーザ光及び第2レーザ光の光路上に配置され、第1レーザ光と、変換素子でビームプロファイルが変換される第2レーザ光とを合成するように構成される。集光光学系は、波長合成器で合成されたレーザ光をガラス部材の所定の加工位置に集光するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、光デバイス1の構造を示す断面図であって、光デバイス1が有する光導波路2の延在方向に沿った断面を示す。
図2図2は、光デバイス1の構造を示す断面図であって、光導波路2の延在方向に垂直な断面(すなわち図1のII-II断面)を拡大して示す。
図3図3は、光導波路2の径方向における屈折率分布を示すグラフである。
図4図4は、光デバイス1を製造するための製造装置の構成を概略的に示す図である。
図5A図5Aは、レーザ形状変換素子14に入力される第2レーザ光P2の断面形状を示す図である。
図5B図5Bは、レーザ形状変換素子14から出力される第2レーザ光P2の断面形状を示す図である。
図6A図6Aは、レーザ形状変換素子14に入力される第2レーザ光P2のビームプロファイルの例を示すグラフである。
図6B図6Bは、レーザ形状変換素子14から出力される第2レーザ光P2のビームプロファイルの例を示すグラフである。
図7図7は、光デバイス1の製造方法を示すフローチャートである。
図8図8は、集光光学系16の光軸に垂直なガラス部材3の断面における、第1レーザ光P1の集光領域C1及び第2レーザ光P2の集光領域C2を示す図である。
図9図9は、ガラス部材を構成する材料(例えば、SiO、GeO、又はB)それぞれについて、入射光波長に対する透過率変化の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示が解決しようとする課題]
本発明者は、従来の光導波路デバイスの製造方法について検討した結果、以下のような課題を発見した。すなわち、上記特許文献1、或いは上記非特許文献1に開示された方法によっても、最大の屈折率変化は|Δn|=0.020程度であり、光閉じ込めは弱い。必然的に、ガラス内に形成される光導波路の曲率半径が大きくなるため、得られる三次元光導波路デバイスなどの光デバイスのサイズを大きくする、すなわち光デバイスを大型化する必要がある。
【0011】
[本開示の効果]
本開示によれば、ガラス内部への光導波路の形成を可能にするとともに、屈折率変化を大きくして三次元光導波路デバイスなどの光デバイスのサイズ縮小を可能にできる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。一実施形態に係る光デバイスの製造方法は、ゲルマニウム(Ge)及びチタン(Ti)を含むガラス部材の内部にパルス状の第1レーザ光及び第2レーザ光を集光して、ガラス部材に対して光誘起による屈折率変化を起こさせるレーザ照射工程と、第1レーザ光及び第2レーザ光の集光位置をガラス部材に対して相対的に移動する集光位置移動工程と、を備える。第1レーザ光及び第2レーザ光のそれぞれは、10kHz以上の繰り返し周波数を有する。レーザ照射工程では、第1レーザ光を点状の集光領域に集光し、第2レーザ光を第1レーザ光の集光領域を囲む環状の集光領域に集光する。第1レーザ光の中心波長は400nmより大きく700nm以下であり、第2レーザ光の中心波長は800nm以上1100nm以下である。レーザ照射工程及び集光位置移動工程を交互に繰り返す若しくは並行して実施することにより、連続した屈折率変化領域をガラス部材の内部に形成する。
【0013】
この製造方法のレーザ照射工程において、ガラス部材の内部にパルス状の第1レーザ光及び第2レーザ光をそれぞれ集光して、ガラス部材に対して光誘起による屈折率変化を起こさせる。第1レーザ光の中心波長は400nmより大きく700nm以下であり、第1レーザ光は10kHz以上の繰り返し周波数を有し、ガラス部材は、吸収端波長が400nm程度であるGeを含む。この場合、光強度が高くなるガラス部材内部の集光領域において第1レーザ光の多光子吸収(主に2光子吸収)が生じる。従って、集光領域における第1レーザ光のエネルギーが波長400nmの光子の持つエネルギー以上となり、Geの結合手を切断する。すなわち、添加材料の結合欠陥が生じる。その結果、組成変動によるガラスの高密度化が誘発され、集光領域の屈折率のみが周囲の領域よりも高められる(以下、構造由来の屈折率変化と称する)。一方、第2レーザ光の中心波長は800nm以上であり、第2レーザ光は10kHz以上の繰り返し周波数を有し、ガラス部材はTiを含む。この場合、光強度が高くなるガラス部材内部の集光領域において高圧プラズマが発生する。この高圧プラズマの衝撃による動的圧縮に起因して集光領域から外側に圧力波が発生及び伝搬し、弾性拘束により集光領域の中心部に向かって圧縮応力が発生する等によって、ガラスの粗密化が集光領域に生じる。このようなガラスの粗密化によってガラスの屈折率が変動する(以下、圧力由来の屈折率変化と称する)。本発明者の知見によれば、ガラス部材がTiを含む場合、圧力由来の屈折率変化はガラスの屈折率を低下させる。
【0014】
そして、この製造方法では、第1レーザ光を点状の集光領域に集光し、第2レーザ光を第1レーザ光の集光領域を囲む環状の集光領域に集光する。第1レーザ光が集光される領域では上記のように構造由来の屈折率変化によって屈折率が増大する。一方、第1レーザ光の集光領域を囲む第2レーザ光の集光領域では上記のように圧力由来の屈折率変化によって屈折率が低下する。従って、高屈折率領域(すなわちコア)と高屈折率領域を囲む低屈折率領域(すなわちクラッド)とからなる光導波路をガラス内部に形成することができるとともに、高屈折率領域と低屈折率領域との間の屈折率差を大きくして光閉じ込め効果を高めることができる。故に、三次元光導波路デバイスなどの光デバイスにおいてガラス内に形成される光導波路の曲率半径を小さくすることが可能となり、サイズ縮小を可能にできる。
【0015】
圧力由来の屈折率変化は第1レーザ光の集光領域にも生じるので、該屈折率変化は第1レーザ光の集光領域の屈折率を低下させる懸念がある。しかし、第1レーザ光の集光領域は第2レーザ光の環状の集光領域に囲まれており、第1レーザ光と第2レーザ光を同期照射することで、第1レーザ光の圧力波と第2レーザ光の圧力波とは相殺される。従って、第1レーザ光の集光領域の圧力由来による屈折率変化は抑制され、多光子吸収による構造由来の屈折率変化が支配的となる。
【0016】
上記の製造方法において、ガラス部材がホウ素(B)を更に含んでもよく、第1レーザ光の中心波長は530nm以下であってもよい。ホウ素の吸収は265nm付近から始まるので、第1レーザ光の中心波長が530nm以下であれば、多光子吸収(主に2光子吸収)によって第1レーザ光の集光領域におけるエネルギーが波長265nmの光子の持つエネルギー以上となり、ホウ素の結合手を切断することができる。すなわち、添加材料の結合欠陥が生じる。その結果、組成変動によるガラスの高密度化をより効果的に誘発し、構造由来の屈折率変化を更に増大することができる。故に、高屈折率領域と低屈折率領域との間の屈折率差を更に大きくすることができる。
【0017】
上記の製造方法は、レーザ照射工程の前に、ガラス部材に水素を注入する工程を更に備えてもよい。これにより、構造由来の屈折率変化によって切断された結合手に水素原子を結合させて、組成変動により高密度化したガラスを安定させることができる。この場合、水素注入工程において、ガラス部材は10気圧以上の水素雰囲気中に導入されてもよい。これにより、ガラス部材に水素を容易に注入することができる。上記の製造方法は、水素を注入する工程の後且つレーザ照射工程の前に、水素が注入されたガラス部材を-10℃以下で低温保管する工程を更に備えてもよい。
【0018】
上記の製造方法において、ガラス部材はリン酸塩系ガラス又はケイ酸塩系ガラスであってもよい。この場合、圧力由来の屈折率変化において屈折率をより効果的に低下させることができる。従って、高屈折率領域と低屈折率領域との間の屈折率差を更に大きくすることができる。
【0019】
上記の製造方法において、第1レーザ光のパルス幅は第2レーザ光のパルス幅よりも長くてもよい。これにより、第1レーザ光の集光領域(すなわち高屈折率領域)における圧力由来の屈折率変化を低減して、高屈折率領域の屈折率を更に増大させることができる。この場合、第1レーザ光のパルス幅は500フェムト秒より長く50ピコ秒以下であってもよく、第2レーザ光のパルス幅は500フェムト秒以下であってもよい。
【0020】
上記の製造方法の集光位置移動工程において、第2レーザ光の集光環を含む平面と交差する方向に、第1レーザ光及び第2レーザ光の集光位置をガラス部材に対して相対的に移動してもよい。この場合、既に形成された高屈折率領域に重ねて第2レーザ光を照射すること(或いは、既に形成された低屈折率領域に重ねて第1レーザ光を照射すること)を抑制できるので、既に形成された高屈折率領域及び低屈折率領域の屈折率差を維持することができる。
【0021】
上記の製造方法は、ガラス部材の内部に屈折率変化領域を形成した後、エージング処理及び残留水素の除去のための熱処理をガラス部材に対して行う工程を更に備えてもよい。
【0022】
一実施形態に係る光デバイスは、Ge及びTiを含むガラス部材を備える。ガラス部材は、光誘起による連続した屈折率変化領域を内部に有する。屈折率変化領域は、線状に延びる第1の領域と、第1の領域を内包する筒状の第2の領域とを含む。第1の領域の屈折率は、屈折率変化領域の周囲の領域の屈折率よりも大きい。第2の領域の屈折率は、屈折率変化領域の周囲の領域の屈折率よりも小さい。この光デバイスによれば、第1の領域(すなわち高屈折率領域)と該第1の領域を内包する第2の領域(すなわち低屈折率領域)とによってガラス部材の内部に光導波路を構成することができる。上述した製造方法によれば、ガラス内部に光導波路が形成された上記の光デバイスの作製が可能となる。そして、この光デバイスによれば、屈折率変化を大きくしてサイズ縮小を可能にできる。
【0023】
上記の光デバイスでは、屈折率変化領域の延在方向に垂直な断面における第1の領域の形状は円形状であってもよく、当該断面における第2の領域の形状は円環形状であってもよい。当該断面における第2の領域の中心は、当該断面における第1の領域の中心と一致していてもよい。当該断面における第2の領域の内縁は、当該断面における第1の領域の外縁と一致していてもよい。
【0024】
一実施形態に係る光デバイスの製造装置は、連続した屈折率変化領域をガラス部材の内部に形成するための光デバイスの製造装置であって、第1レーザ光源と、第2レーザ光源と、変換素子と、波長合成器と、集光光学系とを備える。第1レーザ光源は、中心波長が400nmより大きく700nm以下であり且つ10kHz以上の繰り返し周波数を有する第1レーザ光を出射するように構成される。第2レーザ光源は、中心波長が800nm以上1100nm以下であり且つ10kHz以上の繰り返し周波数を有する第2レーザ光を出射するように構成される。変換素子は、第2レーザ光源から出射される第2レーザ光の光路上に配置され、第2レーザ光のビームプロファイルを環状に変換するように構成される。波長合成器は、第1レーザ光及び第2レーザ光の光路上に配置され、第1レーザ光と、変換素子でビームプロファイルが変換される第2レーザ光とを合成するように構成される。集光光学系は、波長合成器で合成されたレーザ光をガラス部材の所定の加工位置に集光するように構成される。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る光デバイスの製造方法、光デバイス、及び光デバイスの製造装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
図1及び図2は、本実施形態に係る光デバイスの製造方法を用いて製造される光デバイス1の構造を示す断面図である。図1は光デバイス1が有する光導波路2の延在方向に沿った断面を示し、図2は光導波路2の延在方向に垂直な断面(すなわち図1のII-II断面)を拡大して示す。図1及び図2に示されるように、光デバイス1はガラス部材3を備える。ガラス部材3の外形は例えば直方体状である。ガラス部材3は、リン酸塩系ガラス又はケイ酸塩系ガラスを主に含み、一実施例では添加材料を含むリン酸塩系ガラス又はケイ酸塩系ガラスからなる。ガラス部材3は、ゲルマニウム(Ge)及びチタン(Ti)を添加材料として含む。具体的には、GeはGeOとしてガラス部材3の内部に存在し、TiはTiOとしてガラス部材3の内部に存在する。ガラス部材3は、更にホウ素(B)を添加材料として含んでもよい。具体的には、ホウ素はBとしてガラス部材3の内部に存在する。これらの添加材料は、ガラス部材3の全体にわたって均一に分布している。
【0027】
ガラス部材3の内部には、光導波路2が形成されている。光導波路2は、光誘起による連続した屈折率変化領域である。後述するように、光導波路2は、パルス状のレーザ光をガラス部材3の内部に集光させるとともにその集光位置を連続的に移動させることによって形成された領域である。光導波路2は、ガラス部材3の内部において任意の方向に延びており、三次元の立体構造を成している。光導波路2は、線状に延びる高屈折率領域2aと、高屈折率領域2aを内包する筒状の低屈折率領域2bとを含む。図2に示されるように、延在方向(すなわち光導波路2の光軸方向)に垂直な断面における高屈折率領域2aの形状は例えば円形であり、同断面における低屈折率領域2bの形状は例えば円環状である。円形状の高屈折率領域2aの中心は、円環状の低屈折率領域2bの中心と一致してもよい。高屈折率領域2aの直径L1は、例えば0.5μm以上15.0μm以下の範囲内であり、一例では3μmである。低屈折率領域2bの直径L2は、例えば10.0μm以上20.0μm以下の範囲内であり、一例では15.0μmである。高屈折率領域2aの外縁は、低屈折率領域2bの内縁と一致してもよく、該内縁から離れていてもよい。或いは、高屈折率領域2aの外縁部は、低屈折率領域2bの内縁部と僅かに重なってもよい。
【0028】
図3は、光導波路2の径方向における屈折率分布を示すグラフである。図3において、範囲A1は高屈折率領域2aに相当し、範囲A2は低屈折率領域2bに相当する。図3に示されるように、高屈折率領域2aにおいては、外縁での屈折率が光導波路2の周囲の領域の屈折率(すなわちガラス部材3の屈折率)と同等であり、中心に向けて次第に屈折率が大きくなり、中心において屈折率がピークとなる。例えば、高屈折率領域2aの径方向における屈折率の変化を示す形状は、ガウス分布形状、或いはステップ形状である。一方、低屈折率領域2bにおいては、内縁及び外縁での屈折率が光導波路2の周囲の領域の屈折率(すなわちガラス部材3の屈折率)と同等であり、内縁と外縁との中間線に向けて次第に屈折率が小さくなり、内縁と外縁との中間線において屈折率が極小となる。例えば、低屈折率領域2bの径方向における内縁と外縁との間の屈折率の変化を示す形状は、ガウス分布を反転した形状、或いはスッテプインデックス形状を反転した形状である。
【0029】
高屈折率領域2aにおける最大の屈折率と、光導波路2の周囲の領域の屈折率(すなわちガラス部材3の屈折率)との屈折率差Δn1は、例えば0.001以上0.040以下の範囲内である。一方、低屈折率領域2bにおける最小の屈折率と、光導波路2の周囲の領域の屈折率との屈折率差Δn2は、例えば0.001以上0.040以下の範囲内である。従って、高屈折率領域2aにおける最大の屈折率と、低屈折率領域2bにおける最小の屈折率との屈折率差Δn(=Δn1+Δn2)は、例えば0.002以上0.080以下の範囲内となる。
【0030】
図4は、光デバイス1を製造するための製造装置10の構成を概略的に示す図である。図4に示されるように、製造装置10は、第1のレーザ光源11と、第2のレーザ光源12と、レーザ光源11及び12を駆動させるためのレーザ駆動部13と、レーザ形状変換素子14と、波長合成器15と、集光光学系(例えば、集光レンズ)16と、XYZステージ17と、XYZステージ17を駆動させるためのステージ駆動部18と、レーザ駆動部13及びステージ駆動部18の動作を制御するための制御部19と、を備える。
【0031】
レーザ光源11は、高屈折率領域2aを形成する為のパルス状の第1レーザ光P1を出力する。第1レーザ光P1は、そのパワーの尖頭値(すなわち、ピークパワー)がガラス部材3に対して光誘起による屈折率変化を起こさせるエネルギー量を有すると共に、10kHz以上の繰り返し周波数を有する。ここで、光誘起による屈折率変化とは、レーザ光などの光照射によりガラス部材3の内部で誘起される屈折率変化を意味する。屈折率変化とは、光照射領域以外の屈折率を基準とした、屈折率変化が生じた光照射領域内における最大屈折率差で規定される。ガラス部材3に対して光誘起による屈折率変化を起こさせるエネルギー量とは、本実施形態の場合、例えば10W以上のピークパワーをいう。繰り返し周波数が10kHz以上であることにより、ガラス材料の内部に形成される高屈折率領域2aの屈折率及び構造を滑らかにすることができる。第1レーザ光P1のパルス幅は、例えば、500フェムト秒より長く、且つ50ピコ秒以下である。本実施形態において、パルス幅は、振幅が最大振幅の50%となる点での時間間隔として定義される。第1レーザ光P1の中心波長は、400nmより大きく、且つ700nm以下である。ガラス部材3がホウ素を含む場合、第1レーザ光P1の中心波長は530nm以下であってもよい。レーザ光源11から出力される第1レーザ光P1のビームプロファイルは、例えばガウス分布形状といった単峰形状である。このようなレーザ光源11は、例えばチタンサファイアレーザ又はYbドープファイバレーザ等のSHG(Second Harmonic Generation)レーザといった種類のレーザ装置によって実現可能である。
【0032】
レーザ光源12は、低屈折率領域2bを形成する為のパルス状の第2レーザ光P2を出力する。第2レーザ光P2は、第1レーザ光P1と同様に、第2レーザ光P2のピークパワーがガラス部材3に対して光誘起による屈折率変化を起こさせるエネルギー量を有すると共に、10kHz以上の繰り返し周波数を有する。第2レーザ光P2の場合も、ガラス部材3に対して光誘起による屈折率変化を起こさせるエネルギー量とは、例えば10W以上のピークパワーをいう。繰り返し周波数が10kHz以上であることにより、ガラス材料の内部に形成される低屈折率領域2bの屈折率及び構造を滑らかにすることができる。第2レーザ光P2のパルス幅は、第1レーザ光P1のパルス幅よりも短く、例えば500フェムト秒以下である。第2レーザ光P2の中心波長は800nm以上1100nm以下であり、一実施例では800nm若しくは1063nmである。レーザ光源12から出力される第2レーザ光P2のビームプロファイルは、例えばガウス分布形状といった単峰形状である。このようなレーザ光源12は、例えばチタンサファイアレーザといった種類のレーザ装置によって実現可能である。
【0033】
レーザ駆動部13は、制御部19、レーザ光源11、及びレーザ光源12と電気的に接続されている。レーザ駆動部13は、制御部19からの指示に従って、レーザ光源11から出力される第1レーザ光P1のパワー、パルス幅及び繰り返し周波数を制御し、レーザ光源12から出力される第2レーザ光P2のパワー、パルス幅及び繰り返し周波数を制御する。レーザ駆動部13は、例えば大規模集積回路を含む電子回路によって構成され得る。制御部19は、例えばCPU及びメモリを備えるコンピュータによって構成され得る。
【0034】
レーザ形状変換素子14は、レーザ光源12と光学的に結合されており、レーザ光源12から出力される第2レーザ光P2の光路上に配置される。レーザ形状変換素子14は、レーザ光源12から出力された第2レーザ光P2の光強度分布(すなわちビームプロファイル)を変更する。具体的には、第2レーザ光P2のビームプロファイルを、単峰形状から円環状に変換する。図5Aは、レーザ形状変換素子14に入力される第2レーザ光P2の断面形状を示す図である。図5Bは、レーザ形状変換素子14から出力される第2レーザ光P2の断面形状を示す図である。図6Aは、レーザ形状変換素子14に入力される第2レーザ光P2のビームプロファイルの例を示すグラフである。図6Bは、レーザ形状変換素子14から出力される第2レーザ光P2のビームプロファイルの例を示すグラフである。レーザ形状変換素子14としては、例えばボルテックス素子(すなわち渦巻き状ビーム成形素子)、M字型ビーム整形素子などが用いられる。アキシコンレンズでは、出力される光の集光領域が環状にならないので、アキシコンレンズは、レーザ形状変換素子14としては不適である。
【0035】
波長合成器15は、レーザ光源11及び12と光学的に結合されており、レーザ光源11から出力される第1レーザ光P1の光路と、レーザ光源12から出力される第2レーザ光P2の光路とが互いに交わる位置に設けられている。波長合成器15は、或る波長域の光を透過し、別の波長域の光を反射する。図4に示される例では、波長合成器15は、第1レーザ光P1の波長を含む帯域の光を透過し、第2レーザ光P2の波長を含む帯域の光を反射する。波長合成器15は、第1レーザ光P1の波長を含む帯域の光を反射し、第2レーザ光P2の波長を含む帯域の光を透過してもよい。波長合成器15は、透過若しくは反射した第1レーザ光P1の中心軸線と、反射若しくは透過した第2レーザ光P2の中心軸線とを相互に一致させる。
【0036】
集光光学系16は、波長合成器15と光学的に結合されており、波長合成器15から出力されるレーザ光P1及びP2の光路上に配置される。集光光学系16は、第1レーザ光P1をガラス部材3の内部の点状の集光領域C1に集光し、第2レーザ光P2をガラス部材3の内部の集光領域C1を囲む環状の集光領域C2に集光する。図4では、ガラス部材3と、ガラス部材3の内部に形成される光導波路2の一部とが、図1の断面に対応する断面として示されている。集光領域C1及びC2のそれぞれにおいて、光誘起による屈折率変化が生じる。その結果、集光領域C1に対応して光導波路2の高屈折率領域2aが形成され、集光領域C2に対応して光導波路2の低屈折率領域2bが形成される。集光光学系16としては、例えば、互いに波長の異なるレーザ光P1及びP2の色収差を抑制することができるアクロマティックレンズが用いられる。ガラス部材3内部の集光領域C1及びC2における光子密度を高めるために、集光光学系16の焦点距離は100mm以下であってもよい。
【0037】
XYZステージ17は、デバイス搭載面上にガラス部材3を搭載する。デバイス搭載面は、集光光学系16の光軸と交差(例えば直交)し且つ互いに交差(例えば直交)するX方向及びY方向、並びに集光光学系16の光軸に沿ったZ方向に移動可能に構成されている。デバイス搭載面は、集光光学系16に対して相対的にガラス部材3を移動させることができる。ガラス部材3の位置を固定して集光光学系16を移動可能としてもよく、或いはガラス部材3及び集光光学系16の双方を移動可能としてもよい。ステージ駆動部18は、制御部19及びXYZステージ17と電気的に接続されている。ステージ駆動部18は、制御部19からの指示に従って、XYZステージ17の位置を制御する。
【0038】
続いて、本実施形態の光デバイス1を製造する方法について説明する。図7は、本実施形態に係る光デバイス1の製造方法を示すフローチャートである。図7に示されるように、本実施形態に係る光デバイス1の製造方法は、準備工程及び光導波路形成工程を含む。まず、準備工程では、ガラス部材3がチャンバ内に配置される。ガラス部材3はリン酸塩系ガラス又はケイ酸塩系ガラスを主に含むとともに、Ge及びTiを添加材料として含む。ガラス部材3はホウ素を添加材料として更に含んでもよい。ガラス部材3が収容された状態で、チャンバ内には100%水素ガスが導入され、当該チャンバ内の気圧が10気圧以上に維持される。水素注入期間は、例えば1日以上12週間以内である。これにより、ガラス部材3に水素が注入される(ステップS11、水素注入工程)。ステップS11の水素注入工程直後に光導波路形成工程が行われない場合は、ガラス部材3から抜け出る水素量を抑制するため、該水素が注入されたガラス部材3が-10℃以下で低温保管される(ステップS12)。
【0039】
光導波路形成工程では、水素が注入されたガラス部材3の内部に任意パターンの光導波路2を形成する。具体的に、水素が注入されたガラス部材3を、ステップS11の完了後、直ちにXYZステージ17のデバイス搭載面上に設置し、パルス状のレーザ光P1及びP2を照射する(ステップS21、レーザ照射工程)。制御部19は、レーザ光源11及び12から、ガラス部材3の内部において光誘起による屈折率変化を起こさせるエネルギー量を有するとともに10kHz以上の繰り返し周波数を有するレーザ光P1及びP2がそれぞれ出力されるよう、レーザ駆動部13を制御する。レーザ光源12から出力された第2レーザ光P2は、そのビームプロファイルがレーザ形状変換素子14によって変換されたのち、波長合成器15において、レーザ光源11から出力された第1レーザ光P1と合成される。そして、合成されたレーザ光P1及びP2は、集光光学系16によってガラス部材3の内部に同時に集光される。
【0040】
図8は、集光光学系16の光軸に垂直なガラス部材3の断面における、第1レーザ光P1の集光領域C1及び第2レーザ光P2の集光領域C2を示す図である。図8には、該断面におけるレーザ光P1及びP2のビームプロファイルが併せて示されている。図8中のB1は第1レーザ光P1のビームプロファイルであり、図8中のB2は第2レーザ光P2のビームプロファイルである。図8に示されるように、ステップS21では、第1レーザ光P1を点状の集光領域に集光し、第2レーザ光P2を第1レーザ光P1の集光領域を囲む環状の集光領域に集光する。これにより、集光領域C1及びC2のそれぞれに光誘起による屈折率変化が生じ、図2及び図4に示された高屈折率領域2a及び低屈折率領域2bが形成される。ガラス部材3の光入射面からの集光領域C1及びC2のそれぞれの深さは互いに等しい。
【0041】
ガラス部材3における所定部位のレーザ照射が完了すると、制御部19は、ステージ駆動部18を制御し、XYZステージ17のデバイス搭載面上に設置されたガラス部材3の位置を移動させる(ステップS22、集光位置移動工程)。このとき、第2レーザ光P2の集光領域C2を含むXY平面(すなわち図8に示される断面)と交差する方向に、レーザ光P1及びP2の集光位置をガラス部材3に対して相対的に移動する。この移動は、集光領域C2を含む平面に垂直な方向(すなわち集光光学系16の光軸方向)への移動に限られず、集光領域C2を含む平面に対して傾斜した方向への移動を含んでもよい。光導波路2の延在方向を90°以上曲げる場合には、デバイス搭載面の角度が調整可能であるXYZステージ17を用い、ガラス部材3を所望の角度だけ傾けながらレーザ光P1及びP2を照射するとよい。このように、ステップS22では、ガラス部材3の位置、及び/又はレーザ光P1及びP2の集光位置を、連続的又は断続的に変更することにより、ガラス部材3の内部における第1レーザ光P1の集光領域C1及び第2レーザ光P2の集光領域C2が移動する。
【0042】
上記ステップS21のレーザ照射工程及びステップS22の集光位置移動工程、すなわち、制御部19によるレーザ駆動部13及びステージ駆動部18の動作制御は、ガラス部材3の内部に予め設計された光導波路パターンが形成されるまで、図7中の点Aで示された時点に戻って、照射条件を変更しながら又は同じ照射条件で繰り返し行われる(ステップS23:NO)。つまり、図1に示される光導波路2がガラス部材3の内部に形成されるまでステップS21とステップS22とが交互に繰り返される。若しくは、光導波路2がガラス部材3の内部に形成されるまでステップS21とステップS22とが並行して行われてもよい。ガラス部材3への光導波路2の形成が完了すると(ステップS23:YES)、屈折率差Δnの変化を長期間にわたって抑制するために、エージング処理及び残留水素の除去のための熱処理がガラス部材3に対して行われる(ステップS24)。以上の工程(すなわち、ステップS11、S21、S22、S23、及びS24、又は、ステップS11,S12,S21、S22、S23、及びS24)を経て、図1に示された光デバイス1が得られる。
【0043】
ここで、光誘起による屈折率変化によって光導波路2を形成するレーザ照射工程(ステップS21)について、詳細に説明する。ガラス部材にレーザ光を集光させることにより該ガラス部材の内部において屈折率を変化させるメカニズムは、以下の2つに分類される。
【0044】
第1のメカニズムは、ガラス部材に含まれるGeなどの添加材料の結合手をレーザ光によって切断することにより結合欠陥を生じさせ、この結合欠陥により屈折率を変化させるメカニズムである。結合欠陥が生じることにより、組成変動によるガラスの高密度化が誘発され、レーザ照射領域の屈折率のみが周囲の領域よりも高められる。すなわち、構造由来の屈折率変化である。上述した高屈折率領域2aは、この構造由来の屈折率変化によって形成される。
【0045】
この第1のメカニズムにおいては、添加材料の結合手を切断するために、添加材料の吸収端波長よりも短い波長のレーザ光を用いてもよい。しかしながらその場合、ガラス部材の光入射面と集光領域との間に存在するガラス材料の領域においても、集光領域に向かう(すなわち集光前の)レーザ光を添加材料が吸収し、添加材料の結合手が切断される。従って、集光領域のみに屈折率変化を生じさせることが難しい。そこで、本実施形態では、多光子吸収(主に2光子吸収)によって集光領域においてのみ添加材料の結合手を切断し、屈折率変化を生じさせる。例えば2光子吸収の場合、2光子吸収が生じた領域ではレーザ光の波長の1/2の波長に相当するエネルギーがガラス材料に与えられる。従って、レーザ光の波長の1/2が添加材料の吸収端波長よりも短く、レーザ光の波長が添加材料の吸収端波長よりも長くなるようにすれば、2光子吸収が生じる領域のみにおいて添加材料の結合手を切断することが可能となる。光強度が高くなる集光領域においてのみ2光子吸収を生じさせ、ガラス部材の光入射面と集光領域との間に存在するガラス材料の領域において2光子吸収を生じさせないためのレーザ光の照射条件の調整は、極めて容易である。
【0046】
図9は、ガラス部材を構成する材料(例えば、SiO、GeO、又はB)それぞれについて、入射光波長に対する透過率変化の測定結果を示すグラフである。図9に示されるように、SiOの透過率は150nmから220nmにかけて次第に上昇しており、Bの透過率は200nmから265nmにかけて次第に上昇しており、GeOの透過率は350nmから400nmにかけて次第に上昇している。本実施形態のガラス部材3は添加材料としてGeを含む。Geの結合手を十分に切断するためには、350nm以下の波長に相当するエネルギーを2光子吸収により発生させるとよい。従って、第1レーザ光P1の中心波長の上限は700nmとなる。更に、第1レーザ光P1の中心波長を400nmより大きくすれば、ガラス部材3の光入射面と集光領域C1との間に存在するガラス材料の領域における屈折率変化を抑止できる。従って、第1レーザ光P1の中心波長範囲は400nmより大きく700nm以下となる。ガラス部材3がホウ素を含む場合、ホウ素の結合手を切断するためには265nm以下の波長に相当するエネルギーを2光子吸収により発生させるとよい。従って、第1レーザ光P1の中心波長の上限を530nmとするとよい。すなわち、第1レーザ光P1の中心波長範囲は400nmより大きく530nm以下となる(図9中の波長範囲D1参照)。この場合、2光子吸収により発生するエネルギーの範囲は、200nmより大きく265nm以下の波長範囲D2に相当する。
【0047】
この第1のメカニズム(すなわち構造由来の屈折率変化)は、例えば光ファイバのコアにグレーティング構造を形成する際にも用いられる。
【0048】
第2のメカニズムは、光強度が高くなるガラス部材内部の集光領域において高圧プラズマを発生させ、この高圧プラズマの衝撃による動的圧縮に起因して集光領域から外側に圧力波が発生及び伝搬し、弾性拘束により集光領域の中心部に向かって圧縮応力が発生することによって、ガラスの粗密化を集光領域に生じさせるメカニズムである。このようなガラスの粗密化に起因するガラス内部の残留応力(例えば、圧縮応力及び/又は引張応力)によって、ガラスの屈折率が変動する。すなわち、圧力由来の屈折率変化である。上述した低屈折率領域2bは、この圧力由来の屈折率変化によって形成される。本実施形態において、ガラス部材3はTiを含む。本発明者の知見によれば、ガラス部材がTiを含む場合、圧力由来の屈折率変化はガラスの屈折率を低下させる。非特許文献1には、Ge、Ti及びBを含むリン酸塩系ガラスにレーザ光を照射することによって、屈折率変化Δn2が負となり、その絶対値が0.015を超えることが記載されている。低屈折率領域2bにおいて第2のメカニズムのみを生じさせ、第1のメカニズムを生じさせないために、即ち、第一のメカニズムである二光子吸収では、GeOの吸収端まで到達せず、二光子吸収に比べて発生確率が低い三光子吸収以上となるように、第2レーザ光P2の中心波長は800nm以上であることが好ましい。
【0049】
以上に説明した本実施形態の光デバイス1及びその製造方法によって得られる効果について説明する。本実施形態では、図8に示されたように、第1レーザ光P1を点状の集光領域C1に集光し、第2レーザ光P2を第1レーザ光P1の集光領域C1を囲む環状の集光領域C2に集光する。第1レーザ光P1が集光される集光領域C1では構造由来の屈折率変化によって屈折率が増大する。一方、第1レーザ光P1の集光領域C1を囲む第2レーザ光P2の集光領域C2では圧力由来の屈折率変化によって屈折率が低下する。従って、高屈折率領域2a(すなわちコア)と高屈折率領域2aを囲む低屈折率領域2b(すなわちクラッド)とからなる光導波路2をガラス部材3の内部に形成することができるとともに、高屈折率領域2aと低屈折率領域2bとの間の屈折率差Δnを大きくして光閉じ込め効果を高めることができる。故に、三次元光導波路デバイスなどの光デバイス1においてガラス部材3内に形成される光導波路2の曲率半径を小さくすることが可能となり、サイズ縮小を可能にできる。
【0050】
圧力由来の屈折率変化は第1レーザ光P1の集光領域C1にも生じるので、該屈折率変化は第1レーザ光P1の集光領域C1の屈折率を低下させる懸念がある。しかし、第1レーザ光P1と第2レーザ光P2を同期照射することで、第1レーザ光P1の圧力波と第2レーザ光P2の圧力波は相殺される。従って、第1レーザ光照射領域の圧力由来による屈折率変化は抑制され、多光子吸収による構造由来の屈折率変化が支配的となる。その結果、高屈折率領域2aと低屈折率領域2bとの間の屈折率差Δnを大きくすることができる。
【0051】
本実施形態のように、ガラス部材3がホウ素を更に含んでもよく、第1レーザ光P1の中心波長は530nm以下であってもよい。前述したように、ホウ素の吸収は265nm付近から始まるので、第1レーザ光P1の中心波長が530nm以下であれば、多光子吸収(主に2光子吸収)によって第1レーザ光P1の集光領域C1におけるエネルギーが265nm以下相当となり、ホウ素の結合手を切断することができる。その結果、組成変動によるガラスの高密度化をより効果的に誘発し、構造由来の屈折率変化を更に増大することができる。故に、高屈折率領域2aと低屈折率領域2bとの間の屈折率差Δnを更に大きくすることができる。
【0052】
本実施形態のように、レーザ照射工程の前に、ガラス部材3に水素を注入する水素注入工程を更に実施してもよい。これにより、構造由来の屈折率変化によって切断された結合手に水素原子を結合させて、切断された結合手の再結合を抑制し、組成変動によるガラスの高密度化を安定させることができる。この場合、水素注入工程において、ガラス部材3は10気圧以上の水素雰囲気中に導入されてもよい。これにより、ガラス部材3に水素を容易に注入することができる。
【0053】
本実施形態のように、ガラス部材3はリン酸塩系ガラス又はケイ酸塩系ガラスを主に含んでもよい。この場合、圧力由来の屈折率変化において屈折率をより効果的に低下させることができる。従って、高屈折率領域2aと低屈折率領域2bとの間の屈折率差Δnを更に大きくすることができる。
【0054】
本実施形態のように、第1レーザ光P1のパルス幅は第2レーザ光P2のパルス幅よりも長くてもよい。これにより、第1レーザ光P1のパワーのピーク値が抑制され、集光領域C1(すなわち高屈折率領域2a)における圧力由来の屈折率変化を低減して、多光子吸収を支配的にできる。その結果、高屈折率領域2aの屈折率を更に増大させることができる。集光領域C1における圧力由来の屈折率変化を低減するために、第1レーザ光P1のパルス幅は500フェムト秒より長くてもよい。一方、集光領域C2における圧力由来の屈折率変化を促進するために、第2レーザ光P2のパワーのピーク値を高くする必要があることから、パルス幅は500フェムト秒以下であってもよい。
【0055】
本実施形態のように、集光位置移動工程において、第2レーザ光P2の集光領域C2を含むXY平面と交差する方向に、レーザ光P1及びP2の集光位置をガラス部材3に対して相対的に移動してもよい。この場合、既に形成された高屈折率領域2aに重ねて第2レーザ光P2を照射すること(或いは、既に形成された低屈折率領域2bに重ねて第1レーザ光P1を照射すること)を抑制できるので、既に形成された高屈折率領域2a及び低屈折率領域2bの屈折率差Δnを維持することができる。
【0056】
本実施形態の光デバイス1によれば、高屈折率領域2aと高屈折率領域2aを内包する低屈折率領域2bとによってガラス部材3の内部に光導波路2を構成することができる。上述した製造方法によれば、ガラス部材3の内部に光導波路2が形成された光デバイス1の作製が可能となる。そして、光デバイス1によれば、高屈折率領域2aと低屈折率領域2bとの屈折率差Δnを大きくしてサイズ縮小を可能にできる。
【0057】
本発明による光デバイスの製造方法、光デバイス、及び光デバイスの製造装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態ではレーザ照射工程の前に水素注入工程を実施しているが、水素注入工程は省略されてもよい。上記実施形態ではリン酸塩系ガラス又はケイ酸塩系ガラスを主に含むガラス部材を用いているが、これらを含まないか、若しくは僅かに含むガラス部材(例えば、石英系ガラス、ハロゲン化物ガラス、硫化物ガラス等)に対しても本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0058】
1…光デバイス、2…光導波路、2a…高屈折率領域、2b…低屈折率領域、3…ガラス部材、10…製造装置、11…第1のレーザ光源、12…第2のレーザ光源、13…レーザ駆動部、14…レーザ形状変換素子、15…波長合成器、16…集光光学系、17…XYZステージ、18…ステージ駆動部、19…制御部、C1,C2…集光領域、P1…第1レーザ光、P2…第2レーザ光、Δn…屈折率差。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9