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特許7322892非水電解質二次電池、非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池の使用方法
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  • 特許-非水電解質二次電池、非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池の使用方法 図1
  • 特許-非水電解質二次電池、非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池の使用方法 図2
  • 特許-非水電解質二次電池、非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池の使用方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池、非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池の使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230801BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230801BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230801BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230801BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230801BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/058
H01M4/505
H01M4/525
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020553856
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019042009
(87)【国際公開番号】W WO2020090678
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018205574
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】原田 諒
(72)【発明者】
【氏名】岸本 顕
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/212027(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/083937(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168285(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/080870(WO,A1)
【文献】特開2012-004110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-0587
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極活物質として、
α-NaFeO型結晶構造を有し、
Me(MeはNi及びMn、又はNi、Mn及びCoを含む遷移金属元素)に対するLiのモル比が、1.15≦Li/Me≦1.30であり、
Meに対するMnのモル比が、0.40≦Mn/Me≦0.65であるリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記非水電解質は、電解質塩として、
LiPF及びリチウムイミド塩を含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記非水電解質が電解質塩として含むリチウムイミド塩は、LiN(FSOである、請求項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記正極が含有する正極活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折図において、20から22°の範囲に回折ピークが観察される、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記正極が含有する正極活物質は、4.5V(vs.Li/Li)から5.0V(vs.Li/Li)の範囲における容量比の電圧微分であるdZ/dVの最大値が150以上を示す、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の非水電解質二次電池の使用方法であって、充電時における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、非水電解質二次電池の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池、非水電解質二次電池の製造方法及び非水電解質二次電池の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池は、ノートパソコンや携帯電話などのモバイル機器の電源として用いられてきたが、近年、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などの自動車用電源としても用いられている。
非水電解質二次電池は、一般に、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、セパレータと、非水溶媒及び電解質塩を含有する非水電解質とを備えている。
前記正極活物質としてはリチウム遷移金属複合酸化物が、前記負極活物質としては黒鉛に代表される炭素材料が、前記非水電解質としては、エチレンカーボネート等の環状カーボネートとジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを主構成成分とする非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質塩を溶解したものが広く知られている。
【0003】
正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有し、LiMeO(MeはNi、Co、Mn等の遷移金属)と表記されるリチウム遷移金属複合酸化物(以下、「LiMeO型活物質」ともいう。)が検討され、LiCoOを用いた非水電解質二次電池が広く実用化されてきた。しかし、LiCoOの放電容量は120から130mAh/g程度である。また、Coは希少資源であり、高コストである。
【0004】
そこで、Meとして、NiやMnをより多く含むLiMeO型活物質が種々提案され、一部実用化されている。例えば、LiNi1/2Mn1/2やLiNi1/3Co1/3Mn1/3は150から180mAh/gの放電容量を有する。
【0005】
上記のLiMeO型活物質に対し、α-NaFeO型結晶構造を有し、遷移金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比Li/Meが1より大きいリチウム遷移金属複合酸化物からなる活物質(以下、「リチウム過剰型活物質」ともいう。)が知られている。このような活物質は、Li1+αMe1-α(0<α)と表記することができる。ここで、遷移金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比であるLi/Meは、(1+α)/(1-α)であるから、例えば、Li/Meが1.5のとき、α=0.2である。
【0006】
また、種々の目的で、非水電解質の非水溶媒に溶解する電解質塩にリチウムイミド塩を用いた発明も知られている。
【0007】
特許文献1には、「正極と、非水電解液と、を備えるリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、リチウム金属に対して4.5V以上に動作電位を有する正極活物質を含み、前記非水電解液は、(a)N(SOF)アニオン(FSIアニオン)と、(b)環状カーボネートと、(c)下記式(1)で表されるフッ素化エーテル、下記式(2)で表されるフッ素化リン酸エステル、および、下記式(3)または下記式(4)で表されるスルホン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池;(化1)・・・。」が記載されている(請求項1)。
そして、段落[0149]、[0150]には、実施例15として、正極活物質に「Li(Li0.15Ni0.2Mn0.65)O」を用い、電解質として0.8mol/Lの濃度でLiPFを非水溶媒に溶解させ、添加剤としてLiFSIを、非水電解液の全質量に対し1質量%溶解させた非水電解液を調製し(段落[0110])、「上限電圧を4.7V、下限電圧を2.5Vとし、サイクル数を100サイクルとした以外は実施例1と同様の方法で二次電池を作製し、評価した。・・・LiFSIを添加した本実施形態はサイクル特性の改善に効果が認められた。」と記載されている。
【0008】
特許文献2には、「複数の活物質粒子であり前記複数の活物質粒子の各々が約1マイクロメートルと約50マイクロメートルとの間の粒径を有する複数の活物質粒子を含むアノードであって、前記複数の活物質粒子のうちの1つ以上は、リチウムイオンを透過する膜コーティングによって囲まれ、且つ接触しているアノードと、遷移金属酸化物材料を含むカソードと前記アノードを前記カソードに結合する室温イオン性液体を含む電解質と、を備えるエネルギー蓄積装置。」(請求項1)、「前記遷移金属酸化物材料は、化学式(x)LiMnO(1-x)LiRを有し、このうち、Mnは、Mn、Ni、Co、及びカチオン又はアニオンドーパントのうちの少なくとも1つであり、xは、ゼロより大きく1未満である、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。」(請求項6)、「前記電解質は、ビスフルオロスルホニルイミド溶媒アニオン及びリチウムビスフルオロスルホニルイミド塩の少なくとも1つを含む、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。」(請求項9)が記載されている。
そして、上記エネルギー蓄積装置について「図18は、SiNW-cPANアノードと対とされ、RTIL PYR13FSI(1.2M LiFSI)及びEC/DEC(1M LiPF)電解質でサイクルされた、Li1.35Ni0.32Mn0.68(85:7.5:7.5等。%、OLO:PVDF:AB)カソードフルセルデータ1800を示す。・・・SiNW/PYR13FSI/OLOフルセルの挙動は、高エネルギー密度のリチウムイオンバッテリの可能性を明示する。」と記載されている(段落[0056])。
なお、「SiNW-cPAN」は、環化ポリアクリロニトリルの薄層で被覆されたSiナノワイヤ(段落[0055])、「RTIL」は、室温イオン性液体(段落[0025])、「PYR13」は、「Nメチル-N-プロピルピロリジニウム」、「FSI」は「アニオンビス(フルオロスルホニル)イミド」(段落[0046])、「OLO」は「過剰リチウム化酸化物」(段落[0008])を示すとされている。
【0009】
特許文献3には、「正極活物質を含有する正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置される樹脂微多孔フィルムと、非水電解質とを用いた非水電解質二次電池であって、前記非水電解質は、電解質塩としてLiPFとリチウムイミド塩とを含有しており、前記正極と前記樹脂微多孔フィルムとの間に、耐熱性微粒子およびバインダ樹脂を含有する多孔質膜が配置されていることを特徴とする非水電解質二次電池。」(請求項1)が記載されている。
そして、表2には、実施例5から10として、正極活物質の組成が「Li1.15Ni0.5Co0.2Mn0.3Zr0.01」(段落[0131])又は「Li1.09Ni0.5Co0.2Mn0.3Zr0.005」(段落[0133])であり、非水電解液の電解質として、LiPFが0.9又は0.95mol/Lと、リチウムイミド塩(LiFSI又はLiTFSI)が0.1又は0.05mol/L含まれる非水電解質二次電池が記載され(段落[0155])、実施例の電池について、「高温連続充電試験時の放電容量維持率、高温貯蔵試験時の放電容量維持率、および高温充放電サイクル試験時の放電容量維持率のいずれもが高く、高温耐久性が優れていた。・・・過充電試験時において熱暴走が良好に抑制されており、安全性も優れていた。特に、リチウム含有複合酸化物粒子の表面や粒界にZr酸化物を存在させたものを正極活物質として使用した実施例5~10の電池では、正極活物質粒子の強度の増大が認められ、それに対応して、高温充放電サイクル特性がより向上した。」と記載されている(段落[0158])。
【0010】
特許文献4には、「リチウムビスフルオロスルホニルイミド(Lithium bis(fluorosulfonyl)imide;LiFSI)及びフルオロ化エーテル系化合物添加剤を含む非水性電解液;正極活物質としてリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト系酸化物を含む正極;負極;及び分離膜を含むものであるリチウム二次電池。」(請求項1)、「前記リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト系酸化物は、下記化学式(1)で表される酸化物を含む請求項1に記載のリチウム二次電池。
[化学式(1)]
Li1+x(NiCoMn)O
(前記化学式(1)で、0.55≦a≦0.65、0.18≦b≦0.22、0.18≦c≦0.22、-0.2≦x≦0.2及びx+a+b+c=1である。)」(請求項2)が記載されている。
そして、正極活物質として「Li(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O」を用いて、実施例1から6のリチウム二次電池を製造したことが記載され(段落[0038]から[0045])、「実施例1から5の二次電池は、・・・高温保存後の特性(容量、出力特性)においては、リチウム塩であるLiFSIと組み合わせられて比較例1から3の二次電池より優れた効果を奏することを確認することができた。」(段落[0053])と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開2014/080870号
【文献】特表2018-503962号公報
【文献】特開2015-195195号公報
【文献】特表2017-532740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
正極活物質として「リチウム過剰型活物質」を用い、電解質塩としてLiPFを用いた非水電解質二次電池においては、初期AC抵抗が高いという問題がある。
特許文献1から4には、非水電解質の電解質塩がリチウムイミド塩を含み、それぞれ、サイクル特性、エネルギー密度、高温充放電サイクル特性、及び高温保存後の特性(容量、出力特性)に優れる非水電解質二次電池が記載されている。そして、特許文献1から3には、「リチウム過剰型活物質」を正極に用いた電池についても記載されているが、「リチウム過剰型活物質」の初期AC抵抗に着目し、初期AC抵抗を低減することについては示されていない。
本発明は、初期AC抵抗を低減した非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池であって、前記正極は、正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有し、Me(MeはNi及びMn、又はNi、Mn及びCoを含む遷移金属元素)に対するLiのモル比が、1<Li/Meであり、Meに対するMnのモル比が、0.40≦Mn/Me≦0.65であるリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記非水電解質は、電解質塩として、LiPF及びリチウムイミド塩を含む、非水電解質二次電池である。
【0014】
本発明の他の側面は、上記非水電解質二次電池の製造方法であって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、非水電解質二次電池の製造方法である。
【0015】
本発明の他の側面は、上記非水電解質二次電池の使用方法であって、充電時における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、非水電解質二次電池の使用方法である。
【発明の効果】
【0016】
上記の手段により、正極活物質として「リチウム過剰型活物質」を用い、初期AC抵抗を低減した非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】非水電解質二次電池の一実施形態を示す外観斜視図
図2】非水電解質二次電池を複数個備えた蓄電装置を示す概略図
図3】非水電解質二次電池における「充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域」を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施形態又は実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0019】
本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池は、正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池であって、前記正極は、正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有し、Me(MeはNi及びMn、又はNi、Mn及びCoを含む遷移金属元素)に対するLiのモル比が、1<Li/Meであり、Meに対するMnのモル比が、0.40≦Mn/Me≦0.65であるリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記非水電解質は、電解質塩として、LiPF及びリチウムイミド塩を含む、非水電解質二次電池である。
【0020】
この一実施形態によれば、初期AC抵抗を低減した電池を提供することができる。
【0021】
ここで、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Meに対するLiのモル比が、1.15≦Li/Me≦1.30であってもよい。これにより、初期AC抵抗を低減するとともに、高容量の電池を提供することができる。
【0022】
また、前記非水電解質が電解質塩として含むリチウムイミド塩は、LiN(FSOであってもよい。
【0023】
本願発明の他の一実施形態に係る非水電解質二次電池の製造方法は、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする、上記の非水電解質二次電池の製造方法である。
この一実施形態によれば、初期AC抵抗を低減した電池を製造することができる。
以下、本発明の一実施形態及び他の一実施形態(以下、まとめて「本実施形態」という。)について、詳述する。
【0024】
<リチウム遷移金属複合酸化物>
本実施形態に係る非水電解質二次電池が備える正極の正極活物質に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Li1+αMe1-α(0<α、MeはNi及びMn、又はNi、Mn及びCoを含む遷移金属元素)で表される、すなわち、Meに対するLiのモル比Li/Meが1<Li/Meである「リチウム過剰型活物質」である。
Li/Meは、高容量、低抵抗とするために、1.15以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.2を超えることがさらに好ましい。また、初期AC抵抗の低減の観点から、1.45以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物のMeに対するMnのモル比Mn/Meは、層状構造の安定化の観点から、0.40以上であり、0.45以上であることがより好ましい。また、初期AC抵抗の低減の観点から、Mn/Meは0.65以下であり、0.60以下であることがより好ましい。
遷移金属元素Meに対するNiのモル比Ni/Meは、非水電解質二次電池の充放電サイクル性能を向上させるために、0.2以上とすることが好ましい。また、0.5以下とすることが好ましく、0.4以下とすることがより好ましい。
遷移金属元素Meに対するCoのモル比Co/Meは、活物質粒子の導電性を高めるために、0.0以上とすることが好ましく、0.15以上とすることがより好ましい。ただし、材料コストを削減するために、0.4以下とすることが好ましく、0.3以下とすることがより好ましく、0.0でもよい。
【0026】
なお、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、Na、K等のアルカリ金属、Mg、Ca等のアルカリ土類金属、Fe等の3d遷移金属に代表される遷移金属など、少量の他の金属を含有することを排除するものではない。
【0027】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO型結晶構造を有している。合成後(充放電前)の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、CuKα線を用いたエックス線回折図において、2θ=20から22°の範囲に超格子ピーク(Li[Li1/3Mn2/3]O型の単斜晶に見られるピーク)が確認され、空間群P312に帰属される。この超格子ピーク(以下、「20から22°の範囲の回折ピーク」という。)は、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)未満の電位領域で充放電を行っても、消失することがない。ところが、4.5V(vs.Li/Li)以上に至る電位まで充電を行い、結晶中のLiの脱離に伴って結晶の対称性が変化すると、20から22°の範囲の回折ピークが消失して、上記リチウム遷移金属複合酸化物は空間群R3-mに帰属されるようになる。この20から22°の範囲の回折ピークは、いったん消失すると、その後の充放電工程の如何にかかわらず、再び現れることはない。
ここで、P312は、R3-mにおける3a、3b、6cサイトの原子位置を細分化した結晶構造モデルであり、R3-mにおける原子配置に秩序性が認められるときに該P312モデルが採用される。なお、「R3-m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「-」を施して表記する。
【0028】
<エックス線回折測定>
本明細書において、エックス線回折測定は、次の条件にて行う。線源はCuKα、加速電圧は30kV、加速電流は15mAとする。サンプリング幅は0.01deg、スキャンスピードは1.0deg/min、発散スリット幅は0.625deg、受光スリットは開放、散乱スリット幅は8.0mmとする。
【0029】
<回折ピークの確認方法>
CuKα線を用いたエックス線回折図において、20から22°の範囲に回折ピークが観察されるとは、回折角17から19°の範囲内の強度の最大値と最小値との差分(I18)に対する回折角20から22°の範囲内の強度の最大値と最小値との差分(I21)の比、すなわち「I21/I18」の値が0.001から0.1の範囲であることをさす。
エックス線回折測定に供する試料は、電極作製前の正極活物質粉末(充放電前粉末)であれば、そのまま測定に供する。非水電解質二次電池(以下、「電池」ともいう。)を解体して取り出した正極から試料を採取する場合には、電池を解体する前に、当該電池に1時間の定電流通電を行ったときに電池の公称容量と同じ電気量となる電流値の10分の1となる電流値(0.1C)で、指定される電圧の下限となる電池電圧に至るまで定電流放電する。電池を解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした電池を組立て、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、正極の電位が2.0V(vs.Li/Li)となるまで定電流放電を行い、完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。取り出した正極は、ジメチルカーボネートを用いて付着した非水電解質を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、集電体上の正極合剤を採取する。採取した正極合剤を瑪瑙製乳鉢で軽く解砕し、エックス線回折測定用試料ホルダーに配置して測定に供する。
上記の電池の解体から再解体までの作業、及び正極の洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0030】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、初期充放電工程における正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)未満であることが好ましく、このような非水電解質二次電池の正極活物質は、CuKα線を用いてエックス線回折を行った場合、エックス線回折図において、20から22°の範囲に回折ピークが観察される。
上記の正極活物質を含有する非水電解質二次電池では、正極活物質のLi/Meが高い場合に初期AC抵抗の低減効果をより大きくすることができる。
【0031】
<リチウム遷移金属複合酸化物の前駆体の製造方法>
次に、本実施形態に係る非水電解質二次電池の正極活物質の製造に用いるリチウム遷移金属複合酸化物の前駆体の製造方法について説明する。
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、基本的に、正極活物質を構成する金属元素(Li、Ni、Co、Mn)を目的とする正極活物質(酸化物)の組成どおりに含有する原料を調製し、これを焼成することによって得ることができる。
目的とする組成のリチウム遷移金属複合酸化物を作製するにあたり、Li、Ni、Co、Mnのそれぞれの化合物を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめNi、Co、Mnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはNi、Coに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した試料を得ることは困難である。これまで文献などにおいては、「固相法」によってNiやCoの一部にMnを固溶(LiNi1-xMnなど)しようという試みが多数なされているが、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。そこで、後述する実施例においては、「共沈法」を採用した。
【0032】
本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物の前駆体の製造方法においては、Ni及びMn、又はNi、Mn及びCoを含有する原料水溶液を滴下し、溶液中でNi及びMn、又はNi、Mn及びCoを含有する化合物を共沈させて前駆体を作製することが好ましい。
共沈前駆体を作製するにあたって、Ni、Co、MnのうちMnは酸化されやすく、Ni及びMn、又はNi、Mn及びCoが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Ni、Co、Mnの原子レベルでの均一な混合は不十分なものとなりやすい。したがって、本発明においては、共沈前駆体に分布して存在するMnの酸化を抑制するために、溶存酸素を除去することが好ましい。溶存酸素を除去する方法としては、酸素を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素(O)を含まないガスとしては、限定されるものではないが、窒素ガス、アルゴンガス、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。
【0033】
溶液中でNi及びMn、又はNi、Mn及びCoを含有する化合物を共沈させて前駆体を製造する工程におけるpHは、限定されるものではないが、前記共沈前駆体を共沈水酸化物前駆体として作製しようとする場合には、10.5から14.0とすることができる。前駆体及び複合酸化物のタップ密度を大きくするためには、pHを制御することが好ましい。pHを11.5以下とすることにより、複合酸化物のタップ密度を1.00g/cm以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを11.0以下とすることにより、粒子成長を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
また、前記共沈前駆体を共沈炭酸塩前駆体として作製しようとする場合には、pHを7.5から11.0とすることができる。pHを9.4以下とすることにより、複合酸化物のタップ密度を1.25g/cm以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長を促進できるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮できる。
【0034】
前記共沈前駆体の原料は、Ni源としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等を、Co源としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等を、Mn源としては酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を一例として挙げることができる。
【0035】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30mL/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10mL/min以下がより好ましく、5mL/min以下が最も好ましい。
【0036】
また、反応槽内にNH等の錯化剤が存在し、かつ一定の対流条件を適用した場合、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続けることにより、粒子の自転及び攪拌槽内における公転が促進され、この過程で、粒子同士が衝突しつつ、粒子が段階的に同心円球状に成長する。即ち、共沈前駆体は、反応槽内に原料水溶液が滴下された際の金属錯体形成反応、及び、前記金属錯体が反応槽内の滞留中に生じる沈殿形成反応という2段階での反応を経て形成される。したがって、前記原料水溶液の滴下終了後、さらに攪拌を続ける時間を適切に選択することにより、目的とする粒子径を備えた共沈前駆体を得ることができる。
【0037】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで電池の低SOC領域における出力性能が充分でないものとなる虞を低減させるため、30時間以下が好ましく、25時間以下がより好ましく、20時間以下が最も好ましい。
【0038】
<リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法>
本実施形態に係る非水電解質二次電池の正極活物質が含有するリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法は、前記共沈前駆体とリチウム化合物とを混合し、焼成する方法が好ましい。
リチウム化合物としては、通常使用されている水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム等を用いることができる。これらのリチウム化合物と共に、焼結助剤としてフッ化リチウム、硫酸リチウム、又はリン酸リチウムを使用してもよい。これらの焼結助剤の添加比率は、リチウム化合物の総モル量に対して1から10mol%とすることが好ましい。なお、リチウム化合物の総量は、焼成中にリチウム化合物の一部が消失することを見込んで、1から5%程度過剰に仕込むことが好ましい。
【0039】
焼成温度は、正極活物質の可逆容量に影響を与える。
焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、電極特性が低下する傾向がある。本発明の一態様においては、焼成温度は800℃以上とすることが好ましい。800℃以上とすることにより、焼結度が高い正極活物質粒子を得ることができ、充放電サイクル性能を向上させることができる。
【0040】
一方、焼成温度が高すぎると層状α-NaFeO構造から岩塩型立方晶構造へと構造変化がおこり、充放電反応中における正極活物質中のリチウムイオン移動に不利な状態となり、放電性能が低下する。本発明において、焼成温度は1000℃以下とすることが好ましい。1000℃以下とすることにより、充放電サイクル性能を向上させることができる。
したがって、本発明の一態様に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を作製する場合、充放電サイクル性能を向上させるために、焼成温度は800から1000℃とすることが好ましい。
【0041】
<非水電解質>
本実施形態に係る非水電解質は、非水溶媒に溶解する電解質塩としてLiPFとリチウムイミド塩を含む。
リチウムイミド塩を電解質塩に含むことにより、正極活物質として「リチウム過剰型活物質」を用いた非水電解質二次電池の初期AC抵抗を低減することができる。
電解質塩に含まれるリチウムイミド塩の作用は明らかではないものの、リチウムイミド塩の存在によって、主として初期充放電工程で正極に被膜が形成されることで、正極活物質の電荷移動抵抗が低減し、また、その被膜が正極活物質から非水電解質中へのMnの溶出を抑制することにより、初期AC抵抗が低減されると推察される。ただし、正極活物質が、Mn/Meが0.65を超える範囲でMnを含む場合、正極に被膜が形成されても、正極活物質の拡散抵抗が支配的となり、また、Mnの溶出量が多いことから、正極活物質から非水電解質中へのMnの溶出を十分に抑制することができないと推察される。特に、正極活物質が、Mn/Meが0.65を超える範囲でMnを含む場合において、正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)以上となる条件で初期充放電工程に供された場合、リチウムイミド塩自体の分解生成物が、正極活物質から非水電解質中へのMnの溶出を促進する方向に作用するために、上記の効果が得られないと推察される。
【0042】
リチウムイミド塩としては、例えば、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO等が挙げられるが、イオン伝導性の観点からLiN(FSOが好ましい。
【0043】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質二次電池を得るために、0.1mol/Lから5mol/Lが好ましく、0.5mol/Lから2.5mol/Lであることがより好ましい。
【0044】
電解質塩中にリチウムイミド塩が占めるモル比率は、8%以上であることが好ましく、33%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。また、83%以下であることが好ましい。
【0045】
リチウムイミド塩とともに含まれる電解質塩は、安定性、コストの面からLiPFを含む。さらに、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6等の公知のリチウム塩を混合したものであっても構わない。
【0046】
非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート等の環状カーボネート類又はそれらのフッ化物;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン又はその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソラン又はその誘導体;エチレンスルフィド又はその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができる。
【0047】
これらの中では、特にフッ素化環状カーボネートを含むことが好ましい。フッ素化環状カーボネートとしては、4-フルオロエチレンカーボネート、4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5-トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5-テトラフルオロエチレンカーボネート等を挙げることができる。中でも、電池内でガスが発生することによる電池膨れが抑制できる点で、4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)を用いることが好ましい。
フッ素化環状カーボネートの含有量は、非水溶媒中の体積比で3から30%であることが好ましく、5から25%であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態に係る非水電解質は、本発明の効果を損なわない範囲で、一般に非水電解質に使用される添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等の過充電防止剤;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物等の負極被膜形成剤;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等を単独で又は二種以上混合して非水電解質に加えることができる。
非水電解質中のこれらの化合物の含有割合は特に限定はないが、非水電解質を構成する電解質塩以外の構成成分全体に対し、それぞれ、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、上限は、5質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。これらの化合物を添加する目的としては、充放電効率の向上、内部抵抗上昇の抑制、電池膨れの抑制、充放電サイクル性能の向上等が挙げられる。
【0049】
<負極材料>
本実施形態に係る電池の負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のリチウム複合酸化物、金属リチウム、リチウム合金(リチウム-シリコン、リチウム-アルミニウム、リチウム-鉛、リチウム-スズ、リチウム-アルミニウム-スズ、リチウム-ガリウム、及びウッド合金等の金属リチウム含有合金)、リチウムを吸蔵・放出可能なシリコン、アンチモン、スズ等の金属、これらの合金、酸化ケイ素、酸化スズ等の金属酸化物、炭素材料(例えば黒鉛、非黒鉛質炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0050】
<正極・負極>
正極活物質、及び負極材料は、平均粒子サイズが100μm以下の粉体であることが好ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質二次電池の高出力特性を向上させるために15μm以下であることが好ましく、充放電サイクル性能を維持するためには10μm以上であることが好ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。粉砕には、例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0051】
正極及び負極は、前記正極活物質及び負極材料を主要構成成分とするが、主要構成成分以外に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の他の構成成分を含有してよい。
【0052】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種又はそれらの混合物として含ませることができる。
【0053】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極又は負極の総質量に対して0.1質量%から50質量%が好ましく、特に0.5質量%から30質量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1から0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると、必要炭素量を削減できるため好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を用いて乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0054】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極又は負極の総質量に対して1から50質量%が好ましく、特に2から30質量%が好ましい。
【0055】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば限定されない。通常、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極又は負極の総質量に対して30質量%以下が好ましい。
【0056】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、及びその他の材料と、分散媒としてN-メチルピロリドン、トルエン等の有機溶媒又は水とを混合し、得られた塗布ペーストを下記に詳述する集電体の上に塗布し、又は圧着して50℃から250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理して分散媒を除去することにより合剤層を形成することで好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0057】
集電体としては、Al箔、Cu箔等の集電箔を用いることができる。正極の集電体としてはAl箔が好ましく、負極の集電体としてはCu箔が好ましい。集電体の厚さは10から30μmが好ましい。また、合剤層の厚さは、40から150μm(集電体厚さを除く)が好ましい。
【0058】
<セパレータ>
本実施形態に係る非水電解質二次電池に用いるセパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質二次電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0059】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0060】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0061】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、非水電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に非水電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0062】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0063】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池容器等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0064】
<非水電解質二次電池の組立>
本実施形態に係る非水電解質二次電池を図1に示す。図1は、矩形状の非水電解質二次電池の容器内部を透視した斜視図である。電極群2が収納された電池容器3内に非水電解質(電解液)を注入することにより非水電解質二次電池1が組み立てられる。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
本実施形態に係る非水電解質二次電池の形状については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0065】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一例を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0066】
「リチウム過剰型活物質」を正極に用いた電池において、初めて正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電を行うと、4.5V(vs.Li/Li)から5.0V(vs.Li/Li)の正極電位範囲内に、充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域(以下、「電位変化が平坦な領域」という。)が観察される。本実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記の電位変化が平坦な領域が観察される充電過程が終了するまでの充電が一度も行われることなく製造、及び使用されることが好ましい。
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とすることが好ましい。本明細書でいう「初期」充放電とは、非水電解質を注液後に行われる1回又は複数回の充電及び放電をさす。特に、非水電解質を注液後に行われる1回目の充電及び放電を「初回」充放電と呼ぶ。
また、当該非水電解質二次電池は、通常使用時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)未満であることが好ましい。なお、本明細書において、通常使用時とは、当該非水電解質二次電池について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該非水電解質二次電池を使用する場合であり、当該非水電解質二次電池のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質二次電池を使用する場合をいう。
【0067】
上記の電位変化が平坦な領域が観察される充電過程が終了するまでの充電を一度でも行った場合は、その後、正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電を行っても、上記の電位変化が平坦な領域が、再び観察されることはない。したがって、初期充放電工程における正極の最大到達電位を4.5V(vs.Li/Li)未満とする方法によって製造され、通常使用時の正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)未満である非水電解質二次電池は、正極電位が4.5V(vs.Li/Li)を超える充電を行うと、4.5V(vs.Li/Li)から5.0V(vs.Li/Li)の正極電位範囲内に、上記の電位変化が平坦な領域が観察される。
【0068】
<電位変化が平坦な領域の確認方法>
ここで、「電位変化が平坦な領域」が観察されることの確認は、以下の手順による。非水電解質二次電池を解体して取り出した正極を作用極、金属リチウムを対極とした試験電池を作製する。なお、前記試験電池の電池電圧と作用極電位(正極電位)は、ほぼ同じ値であるため、以下の手順における正極電位は、試験電池の電池電圧と読み替えることができる。前記試験電池を正極合剤1gあたり10mAの電流値で正極の終止電位2.0V(vs.Li/Li)まで放電したのち、30分の休止を行う。その後正極合剤1gあたり10mAの電流値で正極の電位が5.0V(vs.Li/Li)に到達するまで定電流充電を行う。ここで、正極電位が4.45V(vs.Li/Li)到達時の充電開始からの容量がX(mAh)、各正極電位に到達時の充電開始からの容量がY(mAh)であるときの、Y/X*100を容量比Z(%)とする。横軸を正極電位、縦軸を分母を正極電位変化の差分、分子を容量比変化の差分として求めた容量比の電圧微分dZ/dVとしてプロットすることによって、dZ/dVカーブを得られる。
図3の実線は、「リチウム過剰型活物質」を正極活物質として用いた正極と金属リチウムを用いた負極とを備えた非水電解質二次電池を組み立て、正極電位が4.6V(vs.Li/Li)に至る初回充電を行ったときのdZ/dVカーブの一例である。dZ/dVの計算式からも分かるように、容量比変化に対し、電位変化が小さいときはdZ/dVの値が大きくなり、容量比変化に対し、電位変化が大きいときはdZ/dVの値が小さくなる。「リチウム過剰型活物質」を含有する正極の電位が4.5V(vs.Li/Li)を超えた領域での充電過程では、電位変化が平坦な領域が始まったところで、dZ/dVの値は大きくなる。その後、電位変化が平坦な領域が終了し、電位が再び上昇した場合は、dZ/dVの値は小さくなる。すなわち、dZ/dVカーブにおいて、ピークが観察される。ここで、4.5V(vs.Li/Li)から5.0V(vs.Li/Li)の範囲におけるdZ/dVの最大値が150以上を示す場合、電位変化が平坦な領域が観察されると判断する。一方、破線は、上記した非水電解質二次電池と同様の構成の電池で、正極上限電位4.6V(vs.Li/Li)、正極下限電位2.0V(vs.Li/Li)とした初回充放電を行い、10分の休止を挟んだのち、正極電位が4.6V(vs.Li/Li)に至る2回目の充電を行ったときのdZ/dVカーブである。破線では、実線のようなピークは観察されない。すなわち、「リチウム過剰型活物質」を含有する正極を備えた非水電解質二次電池を一度でも正極電位が4.5V(vs.Li/Li)を超えて電位変化が平坦な領域が終了するまで充電を行うと、2回目以降における正極電位が4.5V(vs.Li/Li)を超える電位での充電では、dZ/dVカーブにおいてピークが観察されない。
なお、平坦な領域が観察される電位や、充放電時の容量は「リチウム過剰型活物質」でも、組成等の物性によって若干異なる。
【0069】
<初期AC抵抗の測定>
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、初期AC抵抗を低減することができるという効果を奏する。
本願明細書において、初期AC抵抗の測定は次の条件で行う。測定は、注液、及び初期充放電を経た、工場出荷状態の非水電解質二次電池を対象とする。測定に先立ち、0.1Cの電流で通常使用時の電圧範囲で充電及び放電した後、開回路とし、2時間以上放置する。以上の操作によって、非水電解質二次電池を放電末状態とする。1kHzの交流(AC)を印加する方式のインピーダンスメータを用いて正負極端子間の抵抗値を測定し、これを「初期AC抵抗(mΩ)」とする。過充電あるいは過放電された非水電解質二次電池を測定対象としてはならない。
【実施例
【0070】
(実施例1)
<リチウム遷移金属複合酸化物の作製>
硫酸ニッケル6水和物284g、硫酸コバルト7水和物303g、硫酸マンガン5水和物443gを秤量し、これらの全量をイオン交換水4Lに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が27:27:46となる1.0mol/Lの硫酸塩水溶液を作製した。
次に、5Lの反応槽にイオン交換水2Lを注ぎ、アルゴンガスを30分間バブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌しながら、反応槽内に対流が十分おこるように設定した。前記硫酸塩水溶液を3mL/minの速度で反応槽に滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム、0.5mol/Lのアンモニア、及び0.2mol/Lのヒドラジンからなる混合アルカリ水溶液を適宜滴下することにより、反応槽中のpHが常に9.8(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2Lを超えないように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに3時間継続した。攪拌の停止後、室温で12時間以上静置した。
次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した水酸化物前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20時間乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、水酸化物前駆体を作製した。
前記水酸化物前駆体1.852gに、水酸化リチウム1水和物0.971gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Ni、Co、Mn)のモル比が130:100となるように混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が2gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から900℃まで10時間かけて昇温し、900℃で5時間焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、電気炉のスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5時間後には約200℃程度にまで低下したが、その後の降温速度はやや緩やかであった。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製乳鉢で数分間粉砕した。
このようにして、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.131Ni0.235Co0.235Mn0.40(LR1)を作製した。
【0071】
<正極の作製>
N-メチルピロリドンを分散媒とし、上記のリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とし、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比90:5:5の割合で混練分散されている塗布ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片方の面に塗布乾燥した後プレスし、実施例1に係る正極を作製した。
【0072】
<負極の作製>
金属リチウム箔をニッケル集電体に配置して、負極を作製した。該金属リチウムの量は、上記正極と組み合わせたときに電池の容量が負極によって制限されないように調整した。
【0073】
<非水電解質の調製>
4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)/エチルメチルカーボネート(EMC)が体積比10:90である混合溶媒に、電解質塩として、LiPFとLiN(FSO(リチウムビススルホニルイミド:LiFSI)とを、モル比がLiPF:LiFSI=1.1:0.1、電解質塩の全濃度が1.2mol/Lとなるように溶解させた溶液を作製した。上記溶液100質量%に対し、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン2質量%を溶解させ、非水電解質を調製した。
【0074】
<非水電解質二次電池の組立>
上記の正極、負極及び非水電解質を用いて、以下の手順で非水電解質二次電池を組み立てた。
セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微孔膜を用いた。外装体には、金属樹脂複合フィルムを用いた。実施例1に係る正極、及び前記負極を、前記セパレータを介して、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように前記外装体に収納し、前記金属樹脂複合フィルムの金属接着性ポリプロピレン面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記非水電解質を注液後、注液孔を封止して、非水電解質二次電池を組み立てた。
【0075】
<初期充放電工程>
組み立てた非水電解質二次電池は、25℃の下、初期充放電工程に供した。充電は、電流0.1C、終止電圧4.25Vの定電流定電圧(CCCV)充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流0.1C、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。この充放電を2回行った。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ30分の休止工程を設けた。なお、負極材料が金属リチウムの場合、正極電位と電池電圧はほぼ同じ値である。
以上の製造工程を経て、実施例1に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0076】
(比較例1)
非水電解質の調製において、電解質塩として、LiPFのみに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0077】
(実施例2から6)
非水電解質の調製において、電解質塩として、LiPFとLiFSIとのモル比が、それぞれ、LiPF:LiFSI=1.0:0.2、0.8:0.4、0.6:0.6、0.4:0.8、0.2:1.0となるように溶解させた以外は、実施例1と同様にして、実施例2から6に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0078】
(実施例7、比較例2)
初期充放電工程において、充電終止電圧を4.25Vから4.5Vに変更した以外は、それぞれ実施例5及び比較例1と同様にして、実施例7及び比較例2に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0079】
(実施例8、比較例3)
非水電解質の調製において、FECとEMCの混合溶媒を、エチレンカーボネート(EC)とEMCが体積比10:90である混合溶媒に変更した以外は、それぞれ実施例5及び比較例1と同様にして、実施例8及び比較例3に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0080】
(実施例9、比較例4)
リチウム遷移金属複合酸化物の作製において、用いた硫酸ニッケル6水和物、硫酸コバルト7水和物、硫酸マンガン5水和物、及び水酸化リチウム1水和物の質量比を変更して、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.091Ni0.355Co0.136Mn0.418(LR2)を作製し、正極活物質に用いた以外は、それぞれ実施例5及び比較例1と同様にして、実施例9及び比較例4に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0081】
(実施例10、比較例5)
実施例9、比較例4で作製したリチウム遷移金属複合酸化物LR2を正極活物質に用いた以外は、それぞれ実施例7及び比較例2と同様にして、実施例10及び比較例5に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0082】
(比較例6、7)
リチウム遷移金属複合酸化物の作製において、用いた硫酸ニッケル6水和物、硫酸コバルト7水和物、硫酸マンガン5水和物、及び水酸化リチウム1水和物の質量比を変更して、リチウム遷移金属複合酸化物Li1.2Ni0.16Co0.10Mn0.55(LR3)を作製し、正極活物質に用いた以外は、それぞれ比較例2及び実施例7と同様にして、比較例6、7に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0083】
(比較例8、9)
正極活物質として、市販のLiNi0.5Co0.2Mn0.3(NCM)を用いた以外は、それぞれ比較例1及び実施例5と同様にして、比較例8、9に係る非水電解質二次電池を完成した。
【0084】
<結晶構造の確認>
上記の実施例及び比較例に係る合成後のリチウム遷移金属複合酸化物について、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlex II)を用いて上記の手順で粉末エックス線回折測定を行い、α-NaFeO型結晶構造を有することを確認した。
【0085】
<充電電気量に対して電位変化が比較的平坦な領域の確認>
上記の各実施例及び各比較例に係る非水電解質二次電池に対して、正極電位が5.0V(vs.Li/Li)に至る充電(3回目の充電に相当)を行い、上記の手順でdZ/dVカーブを取得し、電位変化が比較的平坦な領域の確認を行った。
上記非水電解質二次電池の製造工程において、初回及び2回目の充電終止電圧を4.25Vとした比較例1、実施例1から6、比較例3、実施例8、比較例4、実施例9の電池は、3回目の充電において、電位変化が比較的平坦な領域が観察された。一方で、初回及び2回目の充電終止電圧を4.5Vとした比較例2、実施例7、比較例5、実施例10、比較例6及び7の電池は、3回目の充電において、電位変化が比較的平坦な領域が観察されなかった。また、「リチウム過剰型活物質」ではないNCMを含む正極を用いた比較例8及び比較例9(Li/Me=1.0)の電池も、3回目の充電において、電位変化が比較的平坦な領域が観察されなかった。
【0086】
<初期AC抵抗の測定>
上記の各実施例及び各比較例に係る非水電解質二次電池に対して、上記の手順に従って、初期AC抵抗を測定した。
電解質塩としてLiFSIを含まない比較例1から6、及び比較例8の初期AC抵抗をそれぞれ100%としたときの、LiFSIを含む以外はそれぞれと同様とした実施例1から10、比較例7及び9の初期AC抵抗の比を「ACR比/%」として求めた。その結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
Meに対するLiのモル比Li/Meが1.3であり、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.46であるリチウム遷移金属複合酸化物(LR1)を正極活物質として用い、初期充放電工程において、充電終止電圧を4.25Vとした実施例1から8、比較例1から3に係る非水電解質二次電池において、電解質塩としてLiFSIを含む実施例1から6と、LiFSIを含まない比較例1とを対比すると、電解質塩としてLiFSIを含むことによって、初期AC抵抗が低減するという効果を奏することがわかる。また、当該効果は、電解質塩中にリチウムイミド塩であるLiFSIが占めるモル比率が8%以上83%以下のときに確認され、前記モル比率が67%で最も大きな効果を奏している。
【0089】
初期充放電工程において、充電終止電圧を4.5Vとした比較例2及び実施例7に係る非水電解質二次電池においても、電解質塩としてLiFSIを含むことによって、初期AC抵抗が低減するという効果を奏することがわかる。
【0090】
非水電解質の非水溶媒をECとEMCとの混合溶媒とした比較例3及び実施例8に係る非水電解質二次電池においても、同じく、電解質塩としてLiFSIを含むことによって、初期AC抵抗が低減するという効果を奏することがわかる。
【0091】
Meに対するLiのモル比Li/Meが1.2であり、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.46であるリチウム遷移金属複合酸化物(LR2)を正極活物質として用いた比較例4、実施例9、比較例5及び実施例10に係る非水電解質二次電池においても、電解質塩としてLiFSIを含むことによって、初期AC抵抗が低減するという効果を奏することがわかる。
【0092】
Meに対するLiのモル比Li/Meが1.48であり、Meに対するMnのモル比Mn/Meが0.68であるリチウム遷移金属複合酸化物(LR3)を正極活物質として用いた比較例6及び7に係る非水電解質二次電池において、電解質塩としてLiFSIを含まない比較例6と、LiFSIを含む比較例7とを対比すると、LiFSIを含むことによって、初期AC抵抗は逆に増大することがわかる。
したがって本発明の効果は、「リチウム過剰型活物質」の中でも、Meに対するMnのモル比Mn/Meが大きすぎない組成のリチウム遷移金属複合酸化物である場合に奏することがわかる。
【0093】
Meに対するLiのモル比Li/Meが1.0であるLiMeO型活物質(NCM)を正極活物質として用いた比較例8及び9に係る非水電解質二次電池においては、電解質塩としてLiFSIを含むことによって、初期AC抵抗が低減するという効果は、ほとんど見られない。
【0094】
上記初期充放電後の実施例5及び実施例7に係る非水電解質二次電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体し、上記の手順で正極のエックス線回折測定を行った。その結果、正極の最大到達電位が4.25V(vs.Li/Li)である実施例5に係る非水電解質二次電池の正極活物質では、20から22°の範囲に回折ピークが観察された。一方で、正極の最大到達電位が4.5V(vs.Li/Li)である実施例7に係る非水電解質二次電池の正極活物質では、20から22°の範囲に回折ピークが観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る非水電解質二次電池は、初期AC抵抗が低減されるので、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車などの自動車用電源として有用である。
【符号の説明】
【0096】
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置

図1
図2
図3