(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】無機繊維用バインダー及び無機繊維マット
(51)【国際特許分類】
D06M 15/09 20060101AFI20230801BHJP
D04H 1/4209 20120101ALI20230801BHJP
D04H 1/587 20120101ALI20230801BHJP
D04H 1/64 20120101ALI20230801BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20230801BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20230801BHJP
D06M 15/333 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
D06M15/09
D04H1/4209
D04H1/587
D04H1/64
D06M15/227
D06M15/263
D06M15/333
(21)【出願番号】P 2022501770
(86)(22)【出願日】2021-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2021003926
(87)【国際公開番号】W WO2021166647
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2020026385
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 昂輝
(72)【発明者】
【氏名】真木 良憲
(72)【発明者】
【氏名】三田 安啓
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-506731(JP,A)
【文献】欧州特許第00334091(EP,B1)
【文献】特開昭49-076971(JP,A)
【文献】特開昭61-296161(JP,A)
【文献】特開2018-199881(JP,A)
【文献】国際公開第2004/085729(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
D04H1/00-18/04
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2質量%水溶液の粘度(20℃)が500mPa・s以下のセルロースエーテル:100質量部に対して、
(B)
イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有することを特徴とする無機繊維用バインダー。
【請求項2】
上記(A)セルロースエーテルは、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースの群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1記載の無機繊維用バインダー。
【請求項3】
上記(B)
イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物は、重量平均分子量が50,000~300,000であり、且つ、下記構造式を有する請求項1又は2記載の無機繊維用バインダー。
【化1】
(上記式中、R
1及びR
2は
、プロピレン基またはイソプロピレン基であり、n、mは正数であり、nの含有量は、n+mの合計100質量%に対して50~90質量%である。)
【請求項4】
更に、(C)重合度が100~3,500であるポリビニルアルコール系樹脂を含有する請求項
1~3のいずれか1項記載の無機繊維用バインダー。
【請求項5】
上記(C)ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が70モル%以上である請求項
4記載の無機繊維用バインダー。
【請求項6】
無機繊維が、グラスウール又はロックウールである請求項1~
5のいずれか1項記載の無機繊維用バインダー。
【請求項7】
水に溶解して無機繊維用バインダー水溶液として用い、該無機繊維用バインダー水溶液の粘度が20℃において1~100mPa・sである請求項1~
6のいずれか1項記載の無機繊維用バインダー。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項記載の無機繊維用バインダーで処理した無機繊維からなる無機繊維マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維用バインダー、特に、建築用の断熱材や吸音材等として好適に用いられる無機繊維マットに対して、揮発性有機化合物の放出が極めて少なく、十分な厚みを持ち、かつ優れた復元性を与える無機繊維用バインダー、及び該バインダーで処理された無機繊維マットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウール、ロックウール等の無機繊維からなる無機繊維マットは、産業用や住宅用の断熱材や吸音材に広く用いられている。無機繊維マットは、一般に水溶性フェノール樹脂を主成分とするバインダーによって無機繊維同士が固定され、マット状に成形されて製造されている(例えば、特開昭58-070760号公報:特許文献1)。
【0003】
しかし、上記バインダーの主成分として用いられている水溶性フェノール樹脂は、架橋剤として一般的にホルムアルデヒドが使用されているため、バインダーを加熱硬化する際に、未反応のホルムアルデヒドが無機繊維マットに残留してしまうという問題がある。また、硬化後も、バインダーの加水分解や縮合反応の進行によってホルムアルデヒドが発生するという問題がある。この場合、上記ホルムアルデヒドが、製造後の無機繊維マットの表面や側面から放出されることになる。
【0004】
ホルムアルデヒドのように常温常圧で空気中に容易に揮発する揮発性有機化合物に関して、近年、揮発性有機化合物による室内空気の汚染が顕在化するとともに、揮発性有機化合物が原因のひとつとされるシックハウス症候群などの健康被害が問題となっている。そのため、建築材料からのホルムアルデヒドの放出量が法律で規制されている。よって、建築材料からのホルムアルデヒド及びその他の揮発性有機化合物の放出量を極めて少なくするために、これらの含有量を極めて少なくすることが有効であると考えられる。
【0005】
無機繊維マットから放出される揮発性有機化合物とは、主にバインダーに含まれるホルムアルデヒドであるため、上記問題点を解決するためには、バインダーに用いる組成物をホルムアルデヒド非含有組成物とする必要がある。しかし、従来のフェノール樹脂を主成分とするバインダーを用いた無機繊維マットは、原料コストが安く、更にマットの復元率が非常に優れたものであった。そのため、ホルムアルデヒド非含有組成物を主成分とするバインダーを用いてもこれらの性能を有する必要があるが、同等の性能を具備させることは困難であった。
【0006】
上記問題に対応するために、特開2005-299013号公報(特許文献2)では、アクリル樹脂系エマルジョンを主成分とするバインダー、また、特開2006-089906号公報(特許文献3)では、カルボキシル基等の官能基を持ったビニル共重合体からなるバインダーが提案されている。しかし、これらのバインダーを用いて得られる無機繊維マットの復元率は、水溶性フェノール樹脂を含むバインダーを用いて得られる無機繊維マットと比較して劣るものであった。さらに、本出願人も特開2011-153395号公報(特許文献4)で、ヒドロキシル基を持つ水溶性高分子化合物とホウ素化合物を含有するバインダーを開示している。しかし、当該バインダーを用いて得られる無機繊維マットは、揮発性有機化合物の問題はクリアできていたものの、水溶性フェノール樹脂に比べて復元率はやや劣っていた。
【0007】
国際公開第2005/092814号(特許文献5)では無水マレイン酸と不飽和単量体との不飽和共重合物(具体的には無水マレイン酸とブタジエンとの不飽和共重合物)が、特開2012-136385号公報(特許文献6)では無水マレイン酸とアクリル酸エステルの共重合化合物が、特開2016-108707号公報(特許文献7)及び特開2016-108708号公報(特許文献8)ではマレイン酸共重合物(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体モノアルキルエステルと思われる)が、特開昭60-046951号公報(特許文献9)ではイソブチレン・無水マレイン酸の共重合体が、それぞれ提案されている。無機繊維からなる無機繊維マットは、溶融ガラスに低濃度の水溶性バインダーを噴霧することで製造されるが、前述した化合物等は、いずれも水への溶解度が乏しく、必ずしも好適な水溶性バインダーが得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭58-070760号公報
【文献】特開2005-299013号公報
【文献】特開2006-089906号公報
【文献】特開2011-153395号公報
【文献】国際公開第2005/092814号
【文献】特開2012-136385号公報
【文献】特開2016-108707号公報
【文献】特開2016-108708号公報
【文献】特開昭60-046951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、復元性に優れた無機繊維マットを製造することが可能な無機繊維用バインダー、及び該バインダーで処理された無機繊維マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、セルロースエーテルと、無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物とを含有するバインダーが、フェノール樹脂並みの復元率を無機繊維マットに与え、かつ極めて少ない揮発性有機化合物放出量を実現することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記無機繊維用バインダー及び該バインダーで処理した無機繊維マットを提供する。
1.(A)2質量%水溶液の粘度(20℃)が500mPa・s以下のセルロースエーテル:100質量部に対して、
(B)イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有することを特徴とする無機繊維用バインダー。
2.上記(A)セルロースエーテルは、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースの群から選ばれる少なくとも1種を含有する上記1記載の無機繊維用バインダー。
3.上記(B)イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物は、重量平均分子量が50,000~300,000であり、且つ、後述する特定の構造式を有する上記1又は2記載の無機繊維用バインダー。
4.更に、(C)重合度が100~3,500であるポリビニルアルコール系樹脂を含有する上記1~3のいずれかに記載の無機繊維用バインダー。
5.上記(C)ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が70モル%以上である上記4記載の無機繊維用バインダー。
6.無機繊維が、グラスウール又はロックウールである上記1~5のいずれかに記載の無機繊維用バインダー。
7.水に溶解して無機繊維用バインダー水溶液として用い、該無機繊維用バインダー水溶液の粘度が20℃において1~100mPa・sである上記1~6のいずれかに記載の無機繊維用バインダー。
8.上記1~7のいずれかに記載の無機繊維用バインダーで処理した無機繊維からなる無機繊維マット。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無機繊維用バインダーを用いれば、高い復元率を持つ無機繊維マットを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の無機繊維用バインダーを使用して無機繊維マットを製造する工程の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】本発明の無機繊維用バインダーを無機繊維に付与する工程の一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の無機繊維用バインダーは、下記(A)及び(B)成分、
(A)2質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下のセルロースエーテル:100質量部に対して、
(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物:3質量部以上
を含有することを特徴とする無機繊維用バインダーである。
【0015】
(A)成分のセルロースエーテルは、所望の粘度のポリマーを使用すればよいが、2質量%水溶液の粘度が500mPa・s以下であり、好ましくは粘度100mPa・s以下である。更に好ましくは粘度20mPa・s以下がよい。なお、この粘度の下限値は、特に制限はないが、1mPa・s以上であることが好ましい。2質量%水溶液の粘度はいずれも20℃、B型粘度計にて測定した値である。2質量%水溶液の粘度が500mPa・sを超えるとスプレーによる塗布不良が生じ必要な付着量が得られず、無機繊維マットに十分な復元性が得られないなどの不具合が生じる場合がある。
【0016】
また、(A)成分のセルロースエーテルの重量平均分子量は、100,000以下であることが好ましく、30,000以下がさらに好ましい。この重量平均分子量が100,000を超えるとスプレーによる塗布不良が生じ必要な付着量が得られず、無機繊維マットに十分な復元性が得られないなどの不具合が生じる場合がある。この重量平均分子量は、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。
【0017】
(A)成分のセルロースエーテルは、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に水溶性セルロースエーテルを採用することが好ましい。また、メチル基,ヒドロキシプロピル基,ヒドロキシエチル基,カルボキシメチル基等により、セルロースの水酸基の水素原子の一部を置換させたものを用いることができる。
【0018】
(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物は、本発明において架橋剤として機能する。(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物としては、特に限定されないが、下記一般式の共重合体が挙げられる。
【化1】
【0019】
上記式中、R1及びR2は、それぞれ炭素数2~5の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、また、不飽和基を1~2個有していてもよく、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、エチレン・プロピレン基、ブタジエン基等が挙げられ、R1及びR2は互いに同一でも異なっていても良い。
【0020】
上記(B)成分としては、例えば、無水マレイン酸とイソブチレン、イソプロピレン、エチレン、エチレン・プロピレン、ブタジエン等との共重合物のアンモニア変性物が挙げられる。特に、下記構造式で表されるイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物が好ましい。
【化2】
【0021】
(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物の重量平均分子量は、50,000~300,000が好ましく、50,000~200,000が更に好ましく、50,000~100,000が最も好ましい。この重量平均分子量は、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。
【0022】
また、上記式中のnとmは質量割合を表し、nは、n+mの合計100質量%に対して、50~90質量%が好ましく、70~80質量%が更に好ましい。
【0023】
(B)成分の無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物の含有量は、(A)成分のセルロースエーテル100質量部に対し、3質量部以上であり、好ましくは4質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、上限値としては、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物の含有量が3質量部未満であると、架橋性不足などの不具合が生じる場合があり、20質量部を超えた場合は、(A)成分のセルロースエーテルとの混和性には問題はないが、処理水溶液が黄色に着色し、製品の品質が低下してしまい、更にコストアップにも繋がる場合がある。
【0024】
上記(B)成分の無水マレイン酸含有共重合物としては、市販品を使用することができ、例えば、クラレ社製の「イソバン(ISOBAM)」等が挙げられる。
【0025】
さらに本発明の無機繊維用バインダーには、スプレーによる塗布を良好なものとし、また、不溶解物によるフィルター通過性不良を改善する点から、(C)成分として、ポリビニルアルコール系樹脂を含有してもよい。(C)ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は100~3,500であることがよく、100~2,000のものが好ましく、200~1,800のものが更に好ましい。この重合度が3,500を超えると、スプレーによる塗布不良が生じ必要な付着量が得られず、無機繊維マットに十分な復元性が得られないなどの不具合が生じる場合がある。この重合度が100未満の場合、無機繊維マットに十分な復元性が得られないなどの不具合が生じる場合がある。上記重合度は、重量平均重合度として、水系ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の値である。また、ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、JIS K 6726の試験方法に基づいて、70mol%以上が好ましく、80mol%以上が更に好ましく、上限値は99.5mol%未満であることが好ましい。このケン化度が99.5mol%以上であると、低温で粘度上昇が大きくなり、ゲル化することがある。
【0026】
上記(C)成分のポリビニルアルコール系樹脂としては、市販品を使用することができ、例えば、日本・酢ビポバール社製の「ポバール(PVA)」等が挙げられる。
【0027】
(C)ポリビニルアルコール系樹脂を含有させる場合、(A)セルロースエーテル100質量部に対しては、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上であり、上限値としては、好ましくは900質量部以下、より好ましくは250質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下、最も好ましくは50質量部以下である。この配合量が900質量部を超えると、復元性が低下するという不具合が起きる場合がある。また、この配合量が10質量部未満であるとスプレーによる塗布不良や不溶解物によるフィルター通過性不良が生じ必要な付着量が得られず、無機繊維マットに十分な復元性が得られないなどの不具合が生じる場合がある。
【0028】
本発明の無機繊維用バインダーには、(A)セルロースエーテル、(B)無水マレイン酸を含有する共重合物のアンモニア変性物、必要により(C)ポリビニルアルコール系樹脂を構成成分とするものであるが、これらの構成成分の総量は無機繊維用バインダー(組成物)100質量%に対して、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。その他の成分として、尿素等の保水材、シランカップリング剤、撥水剤、pH調整剤、着色剤などの添加剤を必要により加えてもよい。これらの添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲で任意とすることができる。これらを混合させることで、バインダーが得られる。
【0029】
本発明の無機繊維用バインダーは、水に溶解して無機繊維用バインダー水溶液として使用することが好ましい。上記無機繊維用バインダー水溶液の粘度は、20℃において1~100mPa・sであることが好ましく、特に好ましいのは、1~50mPa・sである。なお、この粘度値は、回転粘度計による測定値である。粘度が100mPa・sを超えると、噴霧(吐出)不良となり加工後のバインダー付着量が減少するため、本発明の効果が発揮できない場合がある。また、その濃度は10質量%以下が好ましく、5質量%以下が更に好ましく、3質量%以下が最も好ましい。
【0030】
また、上記無機繊維用バインダー水溶液のpHは、4~10であることが好ましい。pHが上記範囲から外れると、架橋性が変化し、復元性に影響を及ぼす場合がある。
【0031】
なお、上記無機繊維用バインダー水溶液は、ホルムアルデヒドを発生しないことが好ましい。たとえばJIS-A9504ではF☆☆~F☆☆☆☆の3段階に区分されており、それぞれ、ホルムアルデヒド放散速度が5μg/m2・h以下の場合がF☆☆☆☆タイプ、5μg/m2・hを超えて20μg/m2・h以下の場合がF☆☆☆タイプ、20μg/m2・hを超えて120μg/m2・h以下の場合がF☆☆タイプである。F☆☆☆☆タイプが最も優れており、本発明の無機繊維用バインダーを用いた場合、F☆☆☆☆タイプの後述する無機繊維マットを製造することができる。
【0032】
本発明の無機繊維用バインダーは、様々な無機繊維に使用可能であり、特にグラスウール、ロックウールに対して優れた効果を発揮する。
【0033】
本発明の無機繊維マットは、無機繊維を上記無機繊維用バインダーで処理して形成されるものである。上記無機繊維マットに用いられる無機繊維としては、特に限定されないが、グラスウールやロックウールであることが好ましい。
【0034】
無機繊維の繊維化方法としては、遠心法、吹き飛ばし法など従来公知の方法を採用できる。更に、無機繊維マットの密度も通常の断熱材や吸音材に使用されている密度でよく、好ましくは40kg/m3以下、より好ましくは32kg/m3以下である。なお、使用される無機繊維の厚さは所望の厚さでよいが、好ましくは1~20μmの厚さから選択されるとよい。
【0035】
無機繊維用バインダーの使用量は、無機繊維に対して固形分比率で1~10質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい。1質量%未満であると、復元性の乏しい無機繊維マットが成形されるなどの不具合が生じる場合があり、10質量%を超えると、硬く潰れた無機繊維マットが成形されるなどの不具合が生じる場合がある。
【0036】
本発明の無機繊維用バインダーを使用して無機繊維マットを製造する方法の一例を、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の無機繊維用バインダーを使用して無機繊維マットを製造する工程の一実施形態を示す模式図であり、
図2は、本発明の無機繊維用バインダーを無機繊維に付与する工程の一実施形態を示す斜視図である。
【0037】
まず、繊維化装置1によりグラスウール等の無機繊維を紡出させる繊維化工程が行われる。ここで、繊維化装置1による繊維化の方法としては、特に限定されず、従来公知の遠心法、吹き飛ばし法などが挙げられる。また、繊維化装置1は、製造する無機繊維マット7の密度、厚さ、及び幅方向の長さに応じて複数設けることも可能である。
【0038】
次いで、
図2で示すように、バインダー付与装置2によって、繊維化装置1から紡出された無機繊維3に、本発明のバインダーを付与する。バインダーの付与方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば、上記バインダー水溶液を用いて、スプレー法や浸漬法などで付与することができる。繊維の上層部より直接又は斜め方向から繊維同士の交点部分をメインに交点以外の部分にもバインダーを付着させて処理する。
【0039】
コンベア41は、未硬化のバインダーが付着した無機繊維3を有孔のコンベア上に積層する装置であり、繊維を均一に積層させるために、コンベア41は吸引装置を有する有孔のコンベアであることが好ましい。
【0040】
ここで、本発明におけるバインダーの付着量とは、強熱減量法又はLOI(Loss of Ignition)と呼ばれる方法により測定される量であり、約550℃× 秒でバインダー付着後の無機繊維マットの乾燥試料を強熱し、減量することにより失われる物質の質量を意味する。
【0041】
上記工程によって、バインダーが付与された無機繊維3は、繊維化装置1の下方に配置されたコンベア41に堆積され、連続して、ライン方向に沿って設けられているコンベア42に移動する。そして、コンベア42及びコンベア42上に所定間隔で対向配置されたコンベア5によって、堆積した無機繊維3は所定の厚さに圧縮されつつ、コンベア42、及びコンベア5の位置に配設された成形炉6に入る。
【0042】
成形炉6において、無機繊維3に付与された本発明のバインダーが加熱硬化して、所定の厚さの無機繊維マット7が形成される。なお、加工条件は、ラインの長さ等で大きく変わるため、適宜設定すればよい。例えば、本実施例の場合は、加熱温度は、好ましくは150~300℃、より好ましくは180~250℃である。加熱温度が150℃よりも低いと、無機繊維マット7の水分が完全に蒸発しないことがあり、300℃よりも高いと無機繊維マット7に処理されたバインダーが炭化することがある。また、加熱時間は、好ましくは120~360秒、より好ましくは180~300秒である。加熱温度が120秒よりも短いと、無機繊維マット7の水分が完全に蒸発しないことがあり、360秒よりも長いと無機繊維マット7に処理されたバインダーが炭化することがある。そして、形成された無機繊維マット7は、コンベア43の部分に設置された切断機8によって所定の製品寸法に切断された後、コンベア44によって運ばれ、包装、梱包される。
【0043】
このようにして製造された本発明の無機繊維マットは、フェノール樹脂をはじめとしてこれまで提案されてきたバインダーで処理した無機繊維マットと比較して優れた復元率を持ちながらも、無機繊維マットからの揮発性有機化合物の放出量は極めて少ないものである。
【0044】
本発明の無機繊維用バインダーを用いた場合、F☆☆☆☆タイプの無機繊維マットを製造することができる。
【0045】
また、本発明における無機繊維マットの復元率とは、外力を加えて圧縮させた後、外力を除いて復元させた後の無機繊維マットの厚さと、圧縮前の無機繊維マットの厚さの比で表される。無機繊維マットは保管や輸送の効率を上げるために、一定数量以上の無機繊維マットをまとめて圧縮して梱包する場合がある。そのため、開梱して得られる無機繊維マットが圧縮前の厚さを確保できない場合、すなわち、無機繊維マットの復元率が悪い場合には、断熱性や吸音性などの性能が充分に得られない場合がある。
【実施例】
【0046】
以下、製造例と実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0047】
[実施例1~6]
表1に記載したセルロースエーテル100部とイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物5部とをイオン交換水に溶解し、2質量%の濃度である無機繊維用バインダー水溶液(「処理液」という場合がある。)を調製した。無機繊維としてタテ×ヨコ×厚みが10cm×10cm×0.5cm、密度が0.025g/cm3のグラスウールを用い、調製した無機繊維用バインダー水溶液を用いてスプレー塗布してグラスウールを処理し、実施例における処理条件、200℃、300秒で加熱乾燥して無機繊維マットを12個作製した。無機繊維マットの厚さが10cmとなるように積み重ね、密度が0.015g/cm3の無機繊維マットを得た。無機繊維マットへの無機繊維用バインダーの使用量(付着量)については、処理後の無機繊維マットを質量基準として、無機繊維に対して固形分比率で4質量%になるように調製した。
【0048】
[実施例7~9]
表1に記載したセルロースエーテル90部とポリビニルアルコール10部とイソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物5部とした以外は、実施例1と同様の製造方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0049】
[実施例10~13]
実施例7において、セルロースエーテルとポリビニルアルコールとの比率をそれぞれ70:30、50:50、30:70、10:90とした以外は、実施例1と同様の製造方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0050】
[実施例14,15]
実施例1において、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物の量をそれぞれ3部、10部とした以外は、実施例1と同様の製造方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0051】
[実施例16]
実施例1において、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物「ISOBAM-104」から「ISOBAM-110」に変更した以外は、実施例1と同様の製造方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0052】
[比較例1]
セルロースエーテルに代えて、フェノール樹脂「FG-1032」(水溶性フェノール:DIC(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0053】
[比較例2]
実施例1において、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物の量を1部とした以外は、実施例1と同様の製造方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0054】
[比較例3]
実施例1において、セルロースエーテルに代えて、ポリビニルアルコールを使用した以外は、実施例1と同様の製造方法により無機繊維用バインダー水溶液を調製し、無機繊維マットを作製した。
【0055】
[評価方法]
実施例1~16及び比較例1~3の無機繊維用バインダー水溶液(処理液)の粘度、PH、ホルムアルデヒド濃度、貯蔵安定性、スプレー適正、フィルター通過性を測定した。
また、実施例1~16及び比較例1~3の無機繊維マットの復元率速度を測定した。
【0056】
〈処理液の粘度〉
2質量%の濃度である無機繊維用バインダー水溶液の粘度を20℃、B型粘度計にて測定した。
【0057】
〈処理液のPH〉
2質量%の濃度である無機繊維用バインダー水溶液のPHを20℃、ガラス電極法にて測定した。
【0058】
〈処理液のホルムアルデヒド濃度〉
MBTH比色法に基づく方法で、処理液1.5mLに対して、(株)共立理化学研究所の製品名「パックテスト ホルムアルデヒド」(型式:WAK-FOR)のK-1試薬(小パック1包)を添加し、室温で5~6回振とうして反応させ、3分間静置する。これをポリチューブに全量を吸い込み5~6回振とうして発色させ、1分間静置する。静置後、標準色と比色し、その標準色に近い濃度(色)を測定する。その結果を表1に併記した。
【0059】
〈処理液の貯蔵安定性〉
常温で1ヶ月静置させた後の処理液の状態を目視により観察した。
〇:処理液に分離は見られなかった。
×:処理液が分離またはゲル化した。
処理液が分離やゲル化をすると、ノズル詰まりが発生してスプレー塗工できない場合がある。
【0060】
〈スプレー適正〉
処理液をスプレー(トリガータイプ)にて吐出した時の吐出量及び塗工ムラをみた。
〇:規定量を均一に吐出できる。
△:吐出量や塗工にムラがある。
×:吐出できない。
【0061】
〈フィルター通過性〉
処理液をフィルター(300メッシュ)に通した後のフィルター回収物を観察した。
〇:処理液全量に対して、フィルター回収物が0.1%未満である。
△:処理液全量に対して、フィルター回収物が0.1%以上、1.0%未満である。
×:処理液全量に対して、フィルター回収物が1.0%以上である。
【0062】
〈無機繊維マットの復元率〉
無機繊維マット製造時に、10cm×10cm×10cmのサンプルを取り出し、20kgの加重を1時間かけ、加重後の無機繊維マットの厚み(dx)を測定し、下記式(1)により復元率を求めた(n=5)。その結果を表1に併記した。
復元率は65%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
R=(dx/d)×100 (1)
R :復元率(%)
dx:復元後の無機繊維マットの厚み(mm)
d :試験前の無機繊維マットの呼び厚み(mm)
【0063】
【0064】
上記表中のセルロースエーテルの詳細は、下記のとおりである。
・「メトローズSM-4」(信越化学工業社製のメチルセルロース、2質量%水溶液の粘度5mPa・s以下、メトキシ基置換度1.8)
・「メトローズSM-100」(信越化学工業社製のメチルセルロース、2質量%水溶液の粘度100mPa・s、メトキシ基置換度1.8)
・「メトローズ60SH-03」(信越化学工業社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース、2%水溶液の粘度5mPa・s以下、メトキシ基置換度1.9、ヒドロキシプロポキシ基置換モル数0.25)
・「メトローズ60SH-50」(信越化学工業社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース、2質量%水溶液の粘度50mPa・s、メトキシ基置換度1.9、ヒドロキシプロポキシ基置換モル数0.25)
・「セロゲン5A」(第一工業製薬社製のカルボキシメチルセルロース、2質量%水溶液の粘度5以下mPa・s、カルボキシメチル基置換度0.75)
・「セロゲン7A」(第一工業製薬社製のカルボキシメチルセルロース、2質量%水溶液の粘度20mPa・s、カルボキシメチル基置換度0.75)
なお、2質量%水溶液の粘度はいずれも20℃、B型粘度計にて測定したものである。
メトキシ基置換度とは、セルロースのグルコース環単位当たり、メトキシ基で置換された水酸基の平均個数である。置換モル数とは、セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシプロポキシ基あるいはヒドロキシエトキシ基の平均モル数である。
【0065】
上記表中のポリビニルアルコールの詳細は、下記のとおりである。
・「JP-05」(部分鹸化ポバール:鹸化度87~89%、重合度500)
・「JM-17」(中間鹸化ポバール:鹸化度95~97%、重合度1,700)
・「JC-25」(完全鹸化ポバール:鹸化度99~99.4%、重合度2,500)
上記の製品は、いずれも日本・酢ビポバール社製である。
【0066】
上記表中の「ISOBAM-104」は、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物(株)クラレ製であり、化学構造式は下記のとおりであり、重量平均分子量55,000~65,000、n=70~80質量%、m=20~30質量%である。
【化3】
【0067】
上記表中の「ISOBAM-110」は、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のアンモニア変性物(株)クラレ製であり、化学構造式は下記のとおりであり、重量平均分子量160,000~170,000、n=70~80質量%、m=20~30質量%である。
【化4】
【符号の説明】
【0068】
1 繊維化装置
2 バインダー付与装置
3 無機繊維
41,42,43,44,5 コンベア
6 成形炉
7 無機繊維マット
8 切断機