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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】電力変換器の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230801BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022524041
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042507
(87)【国際公開番号】W WO2022102099
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深澤 一誠
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-84388(JP,A)
【文献】特開2020-156157(JP,A)
【文献】国際公開第2019/016949(WO,A1)
【文献】特開2017-28827(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054407(WO,A1)
【文献】特開2016-7119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02J 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧指令値の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電圧指令値制限部、
を備え、
前記電圧指令値制限部は、制限前の電圧指令値から制限前の電圧指令値に対して制限した値を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、前記第1値から制限前の電圧指令値からを差し引いた値を制限後の電圧指令値とする第2算出を行う電力変換器の制御装置。
【請求項2】
電圧指令値の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電圧指令値制限部、
を備え、
前記電圧指令値制限部は、制限前の電圧指令値に対して制限した値から制限前の電圧指令値を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、前記第1値制限前の電圧指令値を足した値を制限後の電圧指令値とする第2算出を行う電力変換器の制御装置。
【請求項3】
前記電圧指令値制限部は、制限前の電圧指令値に対してローパスフィルタを施した値を制限する請求項1または請求項2に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項4】
前記電圧指令値制限部は、第1プロセッサにおいて前記第1算出を行い、第2プロセッサにおいて前記第2算出を行う請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項5】
前記電圧指令値制限部は、制限前の電圧指令値に対して制限した値として、制限前の電圧指令値と同等の電圧指令値または推定値に対して制限した値を算出する請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項6】
電流フィードバック制御出力の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電流フィードバック制御出力制限部、
を備え、
前記電流フィードバック制御出力制限部は、制限前の電流フィードバック制御出力から制限前の電流フィードバック制御出力に対して制限した値を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、制限前の電流フィードバック制御出力から前記第1値を差し引いた値を制限後の電流フィードバック制御出力とする第2算出を行う電力変換器の制御装置。
【請求項7】
電流フィードバック制御出力の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電流フィードバック制御出力制限部、
を備え、
前記電流フィードバック制御出力制限部は、制限前の電流フィードバック制御出力に対して制限した値から制限前の電流フィードバック制御出力を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、前記第1値制限前の電流フィードバック制御出力を足した値を制限後の電流フィードバック制御出力とする第2算出を行う電力変換器の制御装置。
【請求項8】
前記電流フィードバック制御出力制限部は、制限前の電流フィードバック制御出力に対してローパスフィルタを施した値を制限する請求項6または請求項7に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項9】
前記電流フィードバック制御出力制限部は、第1プロセッサにおいて前記第1算出を行い、第2プロセッサにおいて前記第2算出を行う請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の電力変換器の制御装置。
【請求項10】
前記電流フィードバック制御出力制限部は、制限前の電流フィードバック制御出力に対して制限した値として、制限前の電流フィードバック制御出力と同等の電流フィードバック制御出力または推定値に対して制限した値を算出する請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の電力変換器の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換器の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電力システムを開示する。当該電力システムによれば、複数の電力変換器を1台の制御装置で運転制御し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本特開平10-201105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電力システムにおいて、系統の不具合等の要因で電力変換器の出力側の遮断器が開放すると、電力変換器の出力の側においてインピーダンスが急増する。このため、電力変換器の出力において過電圧が発生し得る。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされた。本開示の目的は、電力変換器の出力の側においてインピーダンスが急増した際に電力変換器の出力の過電圧を抑制することができる電力変換器の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電力変換器の制御装置は、電圧指令値の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電圧指令値制限部、を備え、前記電圧指令値制限部は、制限前の電圧指令値から制限前の電圧指令値に対して制限した値を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、制限前の電圧指令値から前記第1値を差し引いた値を制限後の電圧指令値とする第2算出を行う
本開示に係る電力変換器の制御装置は、圧指令値の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電圧指令値制限部、を備え、前記電圧指令値制限部は、制限前の電圧指令値に対して制限した値から制限前の電圧指令値を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、前記第1値から制限前の電圧指令値を差し引いた値を制限後の電圧指令値とする第2算出を行う。
【0007】
本開示に係る電力変換器の制御装置は、電流フィードバック制御出力の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電流フィードバック制御出力制限部、を備え、前記電流フィードバック制御出力制限部は、制限前の電流フィードバック制御出力から制限前の電流フィードバック制御出力に対して制限した値を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、制限前の電流フィードバック制御出力から前記第1値を差し引いた値を制限後の電流フィードバック制御出力とする第2算出を行う
本開示に係る電力変換器の制御装置は、電流フィードバック制御出力の各相成分またはベクトルの絶対値を予め設定された値以下となるように制限する電流フィードバック制御出力制限部、を備え、前記電流フィードバック制御出力制限部は、制限前の電流フィードバック制御出力に対して制限した値から制限前の電流フィードバック制御出力を差し引いた値を第1値とする第1算出を行い、前記第1値から制限前の電流フィードバック制御出力を差し引いた値を制限後の電流フィードバック制御出力とする第2算出を行う。

【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電圧指令値または電流フィードバック制御出力の各相成分またはベクトルの絶対値が予め設定された値以下となるように制限される。このため、電力変換器の出力の側においてインピーダンスが急増した際に電力変換器の出力の過電圧を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における電力変換器の制御装置が適用される電力システムの構成図である。
図2】実施の形態1における電力変換器の制御装置の要部の構成図である。
図3】実施の形態1における電力変換器の制御装置の要部の構成図である。
図4】実施の形態1における電力変換器の制御装置により制御される電力変換器の出力電圧を示す図である。
図5】実施の形態1における電力変換器の制御装置のハードウェア構成図である。
図6】実施の形態2における電力変換器の制御装置の構成図である。
図7】実施の形態3における電力変換器の制御装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1は実施の形態1における電力変換器の制御装置が適用される電力システムの構成図である。
【0012】
図1の電力システムにおいて、直流電源1は、屋外に設けられる。例えば、直流電源1は、太陽電池である。交流電源2は、電力会社等により運用される。電力変換システム3は、直流電源1と交流電源2との間に接続される。複数の遮断器4は、交流電源2と電力変換システム3との間に接続される。別の装置5は、複数の遮断器4と電力変換システム3との間に接続される。
【0013】
電力変換システム3は、電力変換器6と直流コンデンサ7と複数の交流リアクトル8と複数の交流スイッチ9とトランス10と制御装置11とを備える。
【0014】
電力変換器6は、直流電源1からの直流電力を交流電力に変換し得るように設けられる。直流コンデンサ7は、直流電源1からの直流電圧を平滑化し得るように設けられる。複数の交流リアクトル8は、電力変換器6からの交流電圧の高調波を抑制し得るように設けられる。複数の交流スイッチ9は、電力変換器6の出力の側の配線を閉じたり開いたりし得るように設けられる。制御装置11は、電力変換器6の出力電流に基づいて電力変換器6を制御し得るように設けられる。
【0015】
次に、図2を用いて、制御装置11の要部を説明する。
図2は実施の形態1における電力変換器の制御装置の要部の構成図である。
【0016】
図2に示されるように、制御装置11は、第1逆dq変換部12と第1比例部13と第2比例部14と第3比例部15とを第1フィルタ部16と第2フィルタ部17と第2逆dq変換部18と電流フィードバック制御出力制限部19と電圧指令値制限部20とを備える。
【0017】
DSPの内部において、第1逆dq変換部12は、d軸電流指令値i とq軸電流指令値i との入力を受け付ける。第1逆dq変換部12は、d軸電流指令値i とq軸電流指令値i とを逆dq変換することでU相電流指令値i とV相電流指令値i とW相電流指令値i とを出力する。
【0018】
FPGAの内部において、第1比例部13は、U相電流指令値i とU相電流実測値iとの偏差の入力を受け付ける。第1比例部13は、U相電流指令値i とU相電流実測値iとの偏差を比例制御することでU相基準電圧指令値を出力する。
【0019】
FPGAの内部において、第2比例部14は、V相電流指令値i とV相電流実測値iとの偏差の入力を受け付ける。第2比例部14は、V相電流指令値i とV相電流実測値iとの偏差を比例制御することでV相基準電圧指令値を出力する。
【0020】
FPGAの内部において、第3比例部15は、W相電流指令値i とW相電流実測値iとの偏差の入力を受け付ける。第3比例部15は、W相電流指令値とW相電流実測値との偏差を比例制御することでW相基準電圧指令値を出力する。
【0021】
DSPの内部において、第1フィルタ部16は、交流電圧実測値のd軸成分vの入力を受け付ける。第1フィルタ部16は、交流電圧実測値のd軸成分vに対してローパスフィルタを施すことで交流電圧実測値のd軸の低周波成分vdfを出力する。
【0022】
DSPの内部において、第2フィルタ部17は、交流電圧実測値のq軸成分vの入力を受け付ける。第2フィルタ部17は、交流電圧実測値のq軸成分vに対してローパスフィルタを施すことで交流電圧実測値のq軸の低周波成分vqfを出力する。
【0023】
DSPの内部において、第2逆dq変換部18は、交流電圧実測値のd軸の低周波成分vdfとq軸の低周波成分vqfとの入力を受け付ける。第2逆dq変換部18は、交流電圧実測値のd軸の低周波成分vdfとq軸の低周波成分vqfとを逆dq変換することでU相の低周波成分とV相の低周波成分とW相の低周波成分とを出力する。
【0024】
U相電圧指令値v は、U相基準電圧指令値vmu とU相の低周波成分vuffとを加算することで得られる。V相電圧指令値v は、V相基準電圧指令値vmv とV相の低周波成分vvffとを加算することで得られる。W相電圧指令値v は、W相基準電圧指令値vmw とW相の低周波成分vwffとを加算することで得られる。
【0025】
FPGAの内部において、電流フィードバック制御出力制限部19は、各相の基準電圧指令と低周波成分との加算部よりも第1比例部13と第2比例部14と第3比例部15との側に設けられる。電流フィードバック制御出力制限部19は、電流フィードバック制御出力の各相成分またはベクトルの絶対値を直接的に制限する。
【0026】
FPGAの内部において、電圧指令値制限部20は、各相の基準電圧指令と低周波成分との加算部よりも第1比例部13と第2比例部14と第3比例部15との側ではない側に設けられる。電圧指令値制限部20は、電圧指令値の各相成分またはベクトルの絶対値を直接的に制限する。
【0027】
次に、図3を用いて、電流フィードバック制御出力制限部19および電圧指令値制限部20の例を説明する。
図3は実施の形態1における電力変換器の制御装置の要部の構成図である。
【0028】
電流フィードバック制御出力制限部19においては、図3に示されたv1u、v1v、v1wがそれぞれvmu **、vmv **、vmw **に対応し、v2u、v2v、v2wがそれぞれvmu *、vmv *、vmw *に対応する。電圧指令値制限部20においては、図3に示されたv1u、v1v、v1wがそれぞれvu **、vv **、vw **に対応し、v2u、v2v、v2wがそれぞれvu *、vv *、vw *に対応する。
【0029】
図3に示されるように、電流フィードバック制御出力制限部19および電圧指令値制限部20は、第1dq変換部21と第1制限設定部22とを備える。第1制限設定部22は、第1ベクトル絶対値算出部23と第1比較部24と第1絶対値制限部25とを備える。
【0030】
第1dq変換部21は、v1u、v1v、v1wの入力を受け付ける。第1dq変換部21は、v1u、v1v、v1wをdq変換することでd軸電圧v1dとq軸電圧v1qとを出力する。
【0031】
第1ベクトル絶対値算出部23は、d軸電圧v1dとq軸電圧v1qとの入力を受け付ける。第1ベクトル絶対値算出部23は、d軸電圧v1dの2乗とq軸電圧v1qの2乗との合計の平方根を算出することで電圧指令値のベクトルの絶対値yを出力する。
【0032】
第1比較部24は、電圧指令値のベクトルの絶対値yと基準絶対値xとの入力を受け付ける。第1比較部24は、電圧指令値のベクトルの絶対値yを基準絶対値xで除することで基準絶対値xに対する電圧指令値のベクトルの絶対値yの割合の値を出力する。
【0033】
第1絶対値制限部25は、基準絶対値xに対する電圧指令値のベクトルの絶対値yの割合の値の入力を受け付ける。基準絶対値xに対する電圧指令値のベクトルの絶対値yの割合の値が1未満である場合、第1絶対値制限部25は、基準絶対値xに対する電圧指令値のベクトルの絶対値yの割合の値を出力する。基準絶対値xに対する電圧指令値のベクトルの絶対値yの割合の値が1以上である場合、第1絶対値制限部25は、1を出力する。
【0034】
U相電圧V2uは、U相電圧V1uと第1絶対値制限部25の出力値とを乗算することで得られる。V相電圧V2vは、U相電圧V1vと第1絶対値制限部25の出力値とを乗算することで得られる。W相電圧V2wは、U相電圧V1wと第1絶対値制限部25の出力値とを乗算することで得られる。
【0035】
次に、図4を用いて、電力変換器6の出力の相電圧と線間電圧とを説明する。
図4は実施の形態1における電力変換器の制御装置により制御される電力変換器の出力電圧を示す図である。
【0036】
図4の(a)は、電圧指令値が定格の100%で出力電圧が制限されない場合の相電圧である。図4の(b)は、電圧指令値が定格の100%で出力電圧が制限されない場合の線間電圧である。
【0037】
図4の(a)と(b)とに示されるように、電圧指令値が定格の100%である場合、相電圧と線間電圧とのピーク値は、定格の100%となる。
【0038】
図4の(c)は、電圧指令値が定格の120%で相電圧が定格の100%に制限される場合の相電圧である。図4の(d)は、電圧指令値が定格の120%で相電圧が定格の100%に制限される場合の線間電圧である。
【0039】
図4の(c)に示されるように、電圧指令値が定格の120%である場合、相電圧のピーク値は、定格の100%となる。この場合、相電圧は、台形状となる。図4の(d)に示されるように、電圧指令値が定格の120%である場合、線間電圧のピーク値は、定格の115%となる。この場合、線間電圧は、三角波状になる。
【0040】
以上で説明した実施の形態1によれば、電流フィードバック制御出力制限部19は、電流フィードバック制御出力の各相成分またはベクトルの絶対値を直接的に制限する。このため、電力変換器6の出力の側においてインピーダンスが急増した際に電力変換器6の出力の過電圧を抑制することができる。
【0041】
また、電流フィードバック制御出力制限部19により、電力変換器6の出力電圧の時間変化利率が抑制される。このため、電力変換器6の出力において過電圧が検出される際の電圧のオーバーシュートを減らすことができる。
【0042】
または、電圧指令値制限部20は、電圧指令値の各相成分またはベクトルの絶対値を直接的に制限する。このため、電力変換器6の出力の側においてインピーダンスが急増した際に電力変換器6の出力の過電圧を抑制することができる。
【0043】
また、図4に示されるように、単に出力電圧の各相成分が制限される場合、出力電圧の各相成分は台形状となる。これに対し、線間電圧は三角波状となる。
【0044】
したがって、線間電圧のピーク値は、相電圧のピーク値に対して3の平方根を乗じた値よりも大きくなる。例えば、出力電圧の各相成分を定格の110%に制限した場合、相電圧のピーク値は、定格の110%に制限されるものの、線間電圧のピーク値は定格の110%よりも大きくなる。このため、電力変換器6の出力に接続された別の装置5に対する過電圧対策としては、不十分となり得る。
【0045】
これに対し、出力電圧のベクトルの絶対値が制限される場合、制限後の各相成分は正弦波となる。このため、線間電圧も正弦波となる。その結果、相電圧と線間電圧とにおいて、ピーク値を適切に制限することができる。
【0046】
次に、図5を用いて、制御装置11の例を説明する。
図5は実施の形態1における電力変換器の制御装置のハードウェア構成図である。
【0047】
制御装置11の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。例えば、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える。
【0048】
処理回路が少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える場合、制御装置11の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ100bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ100aは、少なくとも1つのメモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置11の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ100aは、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ100bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0049】
処理回路が少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。例えば、制御装置11の各機能は、それぞれ処理回路で実現される。例えば、制御装置11の各機能は、まとめて処理回路で実現される。
【0050】
制御装置11の各機能について、一部を専用のハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、電流フィードバック制御出力制限部19と電圧指令値制限部20との機能については専用のハードウェア200としての処理回路で実現し、電流フィードバック制御出力制限部19と電圧指令値制限部20との機能以外の機能については少なくとも1つのプロセッサ100aが少なくとも1つのメモリ100bに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。
【0051】
このように、処理回路は、ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで制御装置11の各機能を実現する。
【0052】
実施の形態2.
図6は実施の形態2における電力変換器の制御装置の構成図である。なお、実施の形態1の部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0053】
実施の形態2において、制御装置11は、DSPの内部において、第4比例部26と第5比例部27と第3フィルタ部28と第4フィルタ部29と第2制限設定部30とを備える。第2制限設定部30は、第1制限設定部22と同等の機能を備える。具体的には、第2制限設定部30は、第2ベクトル絶対値算出部31と第2比較部32と第2絶対値制限部33とを備える。
【0054】
第4比例部26は、d軸電流指令値i とd軸電流実測値iとの偏差の入力を受け付ける。第4比例部26は、d軸電流指令値i とd軸電流実測値iとの偏差を比例制御することで基準補正項のd軸成分v** d_compを出力する。
【0055】
第5比例部27は、q軸電流指令値i とq軸電流実測値iとの偏差の入力を受け付ける。第5比例部27は、q軸電流指令値i とq軸電流実測値iとの偏差を比例制御することで基準補正項のq軸成分v** q_compを出力する。
【0056】
第3フィルタ部28は、基準電圧指令値のd軸成分v** d_compの入力を受け付ける。第3フィルタ部28は、基準電圧指令値のd軸成分v** d_compに対して基準電圧指令値のd軸の低周波成分を出力する。
【0057】
第4フィルタ部29は、基準電圧指令値のq軸成分v** q_compの入力を受け付ける。第4フィルタ部29は、基準電圧指令値のq軸成分v** q_compに対して基準電圧指令値のq軸の低周波成分を出力する。
【0058】
第2ベクトル絶対値算出部31は、基準電圧指令値のd軸の低周波成分とq軸の低周波成分との入力を受け付ける。第2ベクトル絶対値算出部31は、基準電圧指令値のd軸の低周波成分の2乗と基準電圧指令値のq軸の低周波成分の2乗との合計の平方根を算出することで基準電圧指令値のベクトルの絶対値を出力する。
【0059】
第2比較部32は、基準電圧指令値のベクトルの絶対値と基準絶対値との入力を受け付ける。第2比較部32は、基準電圧指令値のベクトルの絶対値を基準絶対値で除することで基準絶対値に対する基準電圧指令値のベクトルの絶対値の割合の値を出力する。
【0060】
第2絶対値制限部33は、基準絶対値に対する基準電圧指令値のベクトルの絶対値の割合の値の入力を受け付ける。基準絶対値に対する基準電圧指令値のベクトルの絶対値の割合の値が1未満である場合、第2絶対値制限部33は、基準絶対値に対する基準電圧指令値のベクトルの絶対値の割合の値を出力する。基準絶対値に対する基準電圧指令値のベクトルの絶対値の割合の値が1以上である場合、第2絶対値制限部33は、1を出力する。
【0061】
電圧指令値のd軸成分v d_compは、基準電圧指令値のd軸成分v** d_compと第2絶対値制限部33の出力値とを乗算することで得られる。補正項のq軸成分v q_compは、基準電圧指令値のq軸成分v** q_compと第2絶対値制限部33の出力値とを乗算することで得られる。
【0062】
d軸成分の補正項Δv d_compは、基準電圧指令値のd軸成分v** d_compから電圧指令値のd軸成分v d_compを差し引くことで得られる。d軸成分の補正項は、交流電圧実測値のq軸の低周波成分vdfに加算される。
【0063】
q軸成分の補正項Δv q_compは、基準電圧指令値のq軸成分v** q_compから電圧指令値のq軸成分v q_compを差し引くことで得られる。q軸成分の補正項Δv q_compは、交流電圧実測値のq軸の低周波成分vqfに加算される。
【0064】
FPGAの内部の第1比例部13、第2比例部14、第3比例部15の比例ゲインと、DSPの内部の第4比例部26、第5比例部27の比例ゲインは、いずれもKで等しい。このため、DSPとFPGAの演算ステップの違いを無視すれば、vmu 、vmv 、vmw をdq変換したd軸成分、q軸成分と、d軸成分v** d_comp、q軸成分v** q_compとはそれぞれ一致する。
【0065】
d_compとv q_compとのそれぞれは、v** d_compとv** q_compとをそれぞれ第2制限設定部30で制限した値である。このため、Δv d_compとΔv q_compとに逆dq変換を施した結果をFPGAの内部のvmu 、vmv 、vmw から減じた結果をdq変換した値は、vmu とvmv とvmw とをdq変換して第2制限設定部30と同等の演算を用いてその絶対値を基準絶対値に制限した値に一致する。
【0066】
すなわち、DSPの内部の演算によって、FPGAの内部の値であるvmu とvmv とvmw とに対応する電圧ベクトルの絶対値は、間接的に第2制限設定部30の基準絶対値に制限される。
【0067】
さらに、v** d_compとv** q_compとに第2制限設定部30の演算を施す前に、第3フィルタ部28および第4フィルタ部29が施される。このため、間接的に制限される量は、FPGAの内部のvmu とvmv とvmw とをdq変換し、第3フィルタ部28および第4フィルタ部29に相当するフィルタを施した後の値である。
【0068】
したがって、第3フィルタ部28および第4フィルタ部29の特性によって、vmu とvmv とvmw とを制限する周波数帯域を調整することができる。
【0069】
なお、前述の説明における逆dq変換、減算の順序と、図6における逆dq変換、減算の順序は、一部異なるが、各演算の線形性を考慮すれば、互いに等価である。
【0070】
以上で説明した実施の形態2によれば、FPGAの内部において、電流制御出力の低周波領域のベクトルが予め設定された値以下となる。この際、FPGAの内部の電圧指令値のベクトルがDSPの内部の電圧指令値のベクトルと一致するように、補正項がフィードフォワード項に加算される。このため、DSPの内部の演算において、FPGAの内部の電圧指令値を間接的に制限することができる。その結果、制御装置の実装の自由度を高めることができる。
【0071】
なお、補正項の演算は、キャリア山谷周期で実行される。このため、補正項の周波数帯域は、FPGA自身の電流制御出力の周波数帯域よりも低い。したがって、FPGAの内部での制御演算結果である元の電圧指令値の高調波成分は取り除かれない。このため、補正項は、瞬時的に電流が変化した場合の電流制御性には影響を与えることはない。
【0072】
実施の形態3.
図7は実施の形態3における電力変換器の制御装置の構成図である。なお、実施の形態2の部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0073】
実施の形態3においては、制御装置11は、DSPの内部において、第3制限設定部34を備える。第3制限設定部34は、第2制限設定部30と同等の機能を備える。第3制限設定部34は、第3フィルタ部28から基準電圧推定値のd軸の低周波成分の入力を受け付ける。第3制限設定部34は、第4フィルタ部29から基準電圧推定値のq軸の低周波成分の入力を受け付ける。第3制限設定部34は、電流フィードバック制御出力の基準絶対値の入力を受け付ける。
【0074】
第3制限設定部34は、基準電圧推定値のd軸の低周波成分の2乗と基準電圧推定値のq軸の低周波成分の2乗との合計の平方根を算出することで基準電圧推定値のベクトルの絶対値を算出する。第3制限設定部34は、基準電圧推定値のベクトルの絶対値を電流フィードバック制御出力の基準絶対値で除することで電流フィードバック制御出力の基準絶対値に対する基準電圧推定値のベクトルの絶対値の割合の値を算出する。
【0075】
電流フィードバック制御出力の基準絶対値に対する基準電圧推定値のベクトルの絶対値の割合の値が1未満である場合、第3制限設定部34は、電流フィードバック制御出力の基準絶対値に対する基準電圧推定値のベクトルの絶対値の割合の値を出力する。電流フィードバック制御出力の基準絶対値に対する基準電圧推定値のベクトルの絶対値の割合の値が1以上である場合、第3制限設定部34は、1を出力する。
【0076】
指令値のd軸成分v** md_compは、推定値のd軸成分v md_estと第3制限設定部34の出力値とを乗算することで得られる。指令値のq軸成分v** mq_compは、推定値のq軸成分v mq_estと第3制限設定部34の出力値とを乗算することで得られる。
【0077】
基準電圧指令値のd軸成分v** d_compは、指令値のd軸成分v** md_compと交流電圧実測値のd軸の低周波成分vdfとを加算することで得られる。基準電圧指令値のq軸成分v** q_compは、指令値のq軸成分v** mq_compと交流電圧実測値のq軸の低周波成分vqfとを加算することで得られる。
【0078】
推定値のd軸成分v d_estは、推定値のd軸成分v md_estと交流電圧実測値のd軸の低周波成分vdfとを加算することで得られる。推定値のq軸成分v q_estは、推定値のq軸成分v mq_estと交流電圧実測値のq軸の低周波成分vqfとを加算することで得られる。
【0079】
d軸成分の補正項Δv d_compは、推定値のd軸成分v d_estから電圧指令値のd軸成分v d_compを差し引くことで得られる。q軸成分の補正項Δv q_compは、推定値のq軸成分v q_estから電圧指令値のq軸成分v q_compを差し引くことで得られる。
【0080】
以上で説明した実施の形態3によれば、FPGAの内部において、電圧指令値のベクトルの絶対値が予め設定された値以下となる。この際、FPGAの内部の電圧指令値のベクトルがDSPの内部の電圧指令値のベクトルと一致するように、補正項がフィードフォワード項に加算される。このため、DSPの内部の演算において、FPGAの内部の電圧指令値を間接的に制限することができる。その結果、制御装置の実装の自由度を高めることができる。
【0081】
なお、実施の形態1から実施の形態3において、交流側を付加としてもよい。
【0082】
また、実施の形態1から実施の形態3の制御装置11を交流から直流に変換する電力変換器6に適用してもよい。
【0083】
また、実施の形態1から実施の形態3の制御装置11を単相の電力システムに適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本開示の電力変換器の制御装置は、電力システムに利用できる。
【符号の説明】
【0085】
1 直流電源、 2 交流電源、 3 電力変換システム、 4 遮断器、 5 別の装置、 6 電力変換器、 7 直流コンデンサ、 8 交流リアクトル、 9 交流スイッチ、 10 トランス、 11 制御装置、 12 第1逆dq変換部、 13 第1比例部、 14 第2比例部、 15 第3比例部、 16 第1フィルタ部、 17 第2フィルタ部、 18 第2逆dq変換部、 19 電流フィードバック制御出力制限部、 20 電圧指令値制限部、 21 第1dq変換部、 22 第1制限設定部、 23 第1ベクトル絶対値算出部、 24 第1比較部、 25 第1絶対値制限部、 26 第4比例部、 27 第5比例部、 28 第3フィルタ部、 29 第4フィルタ部、 30 第2制限設定部、 31 第2ベクトル絶対値算出部、 32 第2比較部、 33 第2絶対値制限部、 34 第3制限設定部、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 ハードウェア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7