(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】シリコン酸素複合負極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20230801BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230801BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230801BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20230801BHJP
C01B 33/113 20060101ALI20230801BHJP
C01B 33/32 20060101ALI20230801BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230801BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 C
C01B33/02 Z
C01B33/113 A
C01B33/32
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2021571413
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 CN2021095260
(87)【国際公開番号】W WO2021233439
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】202010442122.1
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520417045
【氏名又は名称】貝特瑞新材料集団股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BTR NEW MATERIAL GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7A, 7B, and 8, High-Tech Industrial Park, Xitian Community, Gongming Office, Guangming New District Shenzhen, Guangdong 518106 China
(73)【特許権者】
【識別番号】521520935
【氏名又は名称】惠州市鼎元新能源科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屈 麗娟
(72)【発明者】
【氏名】▲デン▼ 志強
(72)【発明者】
【氏名】▲パン▼ 春雷
(72)【発明者】
【氏名】任 建国
(72)【発明者】
【氏名】賀 雪琴
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111164803(CN,A)
【文献】特開2014-220216(JP,A)
【文献】国際公開第2020/077296(WO,A1)
【文献】特開2015-153520(JP,A)
【文献】T. MORITA et al.,Journal of The Electrochemical Society,2006年,vol. 153, no. 2,pp. A425-A430
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 33/02
C01B 33/113
C01B 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノシリコンとシリコン酸化物SiO
x(0<x<1.2)を含むコア部と、Li
2SiO
3を含むシェル部とを備えるコアシェル構造を有
し、前記ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態で前記シリコン酸化物SiO
x
中に分散することを特徴とするシリコン酸素複合負極材料。
【請求項2】
前記シェル部は、以下の条件a~fの少なくとも1つを満たす導電性物質をさらに含む、請求項1に記載の負極材料。
a.前記導電性物質は、シェル部の内部及び/又は表面に分散する;
b.前記導電性物質は、Li
2SiO
3中に分散する;
c.前記導電性物質は、無機炭素材料及び/又は導電性ポリマーを含む;
d.前記導電性物質は、無機炭素材料を含み、前記無機炭素材料は、熱分解炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ及び導電性カーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
e.前記導電性物質は、導電性ポリマーを含み、前記導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアセチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
f.前記Li
2SiO
3と前記導電性物質との質量比は、1:(0.01~0.6)である。
【請求項3】
以下の条件
b~gの少なくとも1つを満たす、請求項1又は2に記載の負極材料
。
b.前記ナノシリコン凝集体は、複数のナノシリコン結晶粒を含む;
c.前記ナノシリコン結晶粒の粒径は、0nm超、且つ15nm以下である;
d.前記ナノシリコンと前記シリコン酸化物SiO
xの質量比は、(0.05~0.7):1である;
e.前記シェル部の厚さは、50nm~2000nmである;
f.前記シリコン酸素複合負極材料に含まれるLi
2SiO
3の含有量は、20wt%~80wt%である;
g.前記シリコン酸素複合負極材料の平均粒径は、1μm~50μmである。
【請求項4】
シリコン源とリチウム源を混合し、非酸素雰囲気下で熱処理を行い、Li
2SiO
3含有複合材料を得る工程と、
前記Li
2SiO
3含有複合材料を酸溶液に投入して浸漬処理し、ナノシリコンとシリコン酸化物SiO
x(0<x<1.2)を含むコア部と、Li
2SiO
3を含むシェル部を備えるコアシェル構造を有す
るシリコン酸素複合負極材料を得る工程と、
を含むことを特徴とするシリコン酸素複合負極材料の製造方法。
【請求項5】
前記シリコン酸素複合負極材料は、以下の条件a~gの少なくとも1つを満たす、請求項4に記載の製造方法。
a.前記ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態で前記シリコン酸化物SiO
x中に分散する;
b.前記ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態で前記シリコン酸化物SiO
x中に分散し、前記ナノシリコン凝集体は、複数のナノシリコン結晶粒を含む;
c.前記ナノシリコン結晶粒の粒径は、0nm超、且つ15nm以下である;
d.前記ナノシリコンと前記シリコン酸化物の質量比は、(0.05~0.7):1である;
e.前記シェル部の厚さは、50nm~2000nmである;
f.前記シリコン酸素複合負極材料に含まれるLi
2SiO
3の含有量は、20wt%~80wt%である;
g.前記シリコン酸素複合負極材料の平均粒径は、1μm~50μmである。
【請求項6】
以下の条件a~gの少なくとも1つを満たす、請求項4又は5に記載の製造方法。
a.前記リチウム源は、酸素非含有リチウム化合物である;
b.前記リチウム源は、水素化リチウム、リチウムアミド、アルキルリチウム、リチウム単体及び水素化ホウ素リチウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
c.前記シリコン源は、SiO
y(0<y<2)である;
d.前記シリコン源と前記リチウム源のモル比は、(0.6~7.9):1である;
e.前記非酸素雰囲気の気体は、水素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
f.前記熱処理の温度は、300℃~1000℃である;
g.前記熱処理の時間は、2h~8hである。
【請求項7】
以下の条件a~cの少なくとも1つを満たす、請求項4~6のいずれか一項に記載の製造方法。
a.前記酸溶液は、硝酸とフッ化水素を混合した混酸である;
b.前記酸溶液は、硝酸とフッ化水素を質量比1:(0.5~3)で混合した混酸である;
c.前記浸漬の時間は、20min~90minである。
【請求項8】
前記熱処理の後、前記浸漬処理の前に、熱処理により得られた生成物を冷却し、篩分することをさらに含む請求項4~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記浸漬処理の後で、浸漬処理後の固体生成物を中性になるまで水で洗浄することをさらに含む請求項4~8のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
シリコン源とリチウム源を混合する前に、保護雰囲気下又は真空下でSiとSiO
2の混合物を加熱により気化させ、シリコン酸化物ガスを生成し、冷却後に得られた材料の粒子形態を整えて、一般式SiO
y(0<y<2)で表されるシリコン源を得ることをさらに含む請求項4に記載の製造方法。
【請求項11】
以下の条件a~dの少なくとも1つを満たす、請求項10に記載の製造方法。
a.前記加熱の温度は、900℃~1500℃である;
b.前記材料の粒子形態を整えることは、破砕、ボールミリング及び分級からなる群より選択される少なくとも1つを含む;
c.前記シリコン源の平均粒径は、0.2μm~50μmである;
d.前記保護雰囲気の気体は、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【請求項12】
前記浸漬処理により得られたものを導電性物質と混合し、導電性物質を含有するシリコン酸素複合負極材料を得ることをさらに含む請求項4~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記導電性物質は、以下の条件a~eの少なくとも1つを満たす、請求項12に記載の製造方法。
a.前記導電性物質は、Li
2SiO
3中に分散する;
b.前記導電性物質は、無機炭素材料及び/又は導電性ポリマーを含む;
c.前記導電性物質は、無機炭素材料を含み、前記無機炭素材料は、熱分解炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ及び導電性カーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
d.前記導電性物質は、導電性ポリマーを含み、前記導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアセチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
e.前記Li
2SiO
3と前記導電性物質との質量比は、1:(0.01~0.6)である。
【請求項14】
保護雰囲気下でSiとSiO
2の混合物を900℃~1500℃に加熱し、シリコン酸化物ガスを生成し、冷却後に得られた材料の粒子形態を整えて、一般式SiO
y(0<y<2)で表されるシリコン源を得る工程と、
前記シリコン源と酸素非含有リチウム化合物を質量比1:(0.02~0.20)で混合し、非酸化性雰囲気下で450℃~800℃で熱処理を2h~8h行った後、冷却、篩分し、Li
2SiO
3含有複合材料を得る工程と、
前記Li
2SiO
3含有複合材料を、硝酸とフッ化水素を質量比1:(0.5~3)で混合した酸溶液に投入して20min~90min浸漬処理し、浸漬処理後に水で中性になるまで洗浄し、浸漬生成物を得る工程と、
前記浸漬生成物を導電性物質と混合し、前記シリコン酸素複合負極材料を得る工程と、を含む請求項4~13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1~3のいずれか一項に記載のシリコン酸素複合負極材
料を含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年5月22日付で中国専利局に提出した、出願番号が2020104421221、発明の名称が「シリコン酸素複合負極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池」である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全ての内容を本明細書に援用する。
本発明は、エネルギー貯蔵材料の技術分野に属し、負極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池に関し、特にシリコン酸素複合負極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、動作電圧が高く、サイクル寿命が長く、メモリ効果がなく、自己放電が小さく、環境にやさしいなどの利点を有するため、携帯式電子機器及び電気自動車に広く応用されている。現在、市販のリチウムイオン電池には、主に黒鉛系負極材料を採用するが、その理論容量が372mAh/gに過ぎないため、将来のリチウムイオン電池の高エネルギー密度に対する要求を満たすことができない。従来のSi材料は、理論容量が4200mAh/gと高いが、膨張率が300%までに至ることが可能であり、サイクル特性に悪影響を与え、その市場拡大及び応用が制限されている。これに対応するシリコン酸化物材料は、サイクル特性がより高いが、初回効率が低い。初回充電時に、SEI膜形成のために20~50%のリチウムを消費する必要があるので、初回クーロン効率が大幅に低下する。正極材料の初回効率がますます高くなるにつれて、シリコン酸化物材料の初回効率の向上は特に重要となる。
【0003】
現在、シリコン酸素材料の初回効率を向上するための有効な方法としては、リチウムを予めドープすることにより、シリコン酸素材料中の、リチウムを不可逆に消費可能な物質を事前に反応させて除去することが挙げられる。従来の工業的方法においては、極片の表面にリチウム層を直接塗布することにより、正極でのリチウムの消費を減少する効果を達成できる。しかしながら、該方法は、操作環境に対する要求が高く、安全上の大きなリスクが存在するため、広く産業化されにくい。現在の技術では、材料へのプレリチウム処理による初回効率の向上方法には、通常、水系スラリーにおける深刻なガス発生、低粘度、塗布時の尾引き、極片乾燥後のピンホール、気孔の発生などの、加工性に劣った問題が存在する。したがって、加工性に劣った問題は、依然としてプレリチウム材料に通常存在しており、技術上、克服し難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術に存在する上記課題に対して、本発明は、シリコン酸素複合負極材料、その製造方法及びリチウムイオン電池を提供することを目的とする。本発明に係る負極材料によれば、負極材料の加工安定性を向上させつつ、リチウム電池のサイクル安定性及び電池容量を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の技術案を採用する。
【0006】
本発明の第1の態様により、ナノシリコンとシリコン酸化物SiOx(0<x<1.2)を含むコア部と、Li2SiO3を含むシェル部とを備えるコアシェル構造を有するシリコン酸素複合負極材料を提供する。
【0007】
本発明に係るシリコン酸素複合負極材料は、安定な構造を有するLi2SiO3でコア部の外面を被覆する。ナノシリコンは、水と直接接触しないため、ガス発生を効果的に抑制し、プレリチウム材料の加工安定性を改善することができ、これにより、シリコンがアルカリ性環境下で水と接触すると化学反応が発生して気体を放出するという従来技術中の課題を解決した。本発明に係るシリコン酸素複合負極材料によれば、スラリーは調製中にガスが発生せず、塗布状況が正常でピンホールを生成せず、これにより、負極材料がプレリチウム処理後に生成した強アルカリ性副生成物又は水に溶解しやすい副生成物が後続の加工に影響するという従来技術中の課題を解決し、材料の加工安定性を向上させつつ、リチウム電池のサイクル安定性及び電池容量を向上させることができる。
【0008】
第1の態様の一実施形態において、前記シェル部は、以下の条件a~fの少なくとも1つを満たす導電性物質をさらに含む。
a.前記導電性物質は、シェル部の内部及び/又は表面に分散する;
b.前記導電性物質は、Li2SiO3中に分散する;
c.前記導電性物質は、無機炭素材料及び/又は導電性ポリマーを含む;
d.前記導電性物質は、無機炭素材料を含み、前記無機炭素材料は、熱分解炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、及び導電性カーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
e.前記導電性物質は、導電性ポリマーを含み、前記導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、及びポリアセチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
f.前記Li2SiO3と前記導電性物質との質量比は、1:(0.01~0.6)である。
【0009】
第1の態様の一実施形態において、本発明に係るシリコン酸素複合負極材料は、以下の条件a~gの少なくとも1つを満たす。
a.前記ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態で前記シリコン酸化物SiOx中に分散する;
b.前記ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態で前記シリコン酸化物SiOx中に分散し、前記ナノシリコン凝集体は、複数のナノシリコン結晶粒を含む;
c.前記ナノシリコン結晶粒の粒径は、0nm超、且つ15nm以下である。
d.前記ナノシリコンと前記シリコン酸化物の質量比は、(0.05~0.7):1である;
e.前記シェル部の厚さは、50nm~2000nmである。
f.前記シリコン酸素複合負極材料中のLi2SiO3の質量分率は、20wt%~80wt%である。
g.前記シリコン酸素複合負極材料の平均粒径は、1μm~50μmである。
【0010】
本発明の第2の態様により、
シリコン源とリチウム源を混合し、非酸素雰囲気下で熱処理を行い、Li2SiO3含有複合材料を得る工程と、
前記Li2SiO3含有複合材料を酸溶液に投入して浸漬処理し、ナノシリコンとシリコン酸化物SiOx(0<x<1.2)を含むコア部と、Li2SiO3を含むシェル部とを備えるコアシェル構造を有する前記シリコン酸素複合負極材料を得る工程と、を含むシリコン酸素複合負極材料の製造方法を提供する。
【0011】
上記方案において、最初にはプレリチウム反応を行うことにより、シリコン源の表層部分におけるシリコン酸化物のみをLi2SiO3に転化させるとともに、内部のシリコン酸化物からなる構造を保留し、ナノシリコンをナノシリコン凝集体の形態でSiOx中に分散させることができ、これにより、本発明に係る特定な構造を有する製品が得られ、そして該製造方法は操作しやすく、フローが短く、製造コストが低い。
【0012】
第2の態様の一実施形態において、前記シリコン酸素複合負極材料は、以下の条件a~gの少なくとも1つを満たす。
a.前記ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態で前記シリコン酸化物SiOx中に分散する;
b.前記ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態で前記シリコン酸化物SiOx中に分散し、前記ナノシリコン凝集体は、複数のナノシリコン結晶粒を含む;
c.前記ナノシリコン結晶粒の粒径は、0nm超、且つ15nm以下である;
d.前記ナノシリコンと前記シリコン酸化物の質量比は、(0.05~0.7):1である;
e.前記シェル部の厚さは、50nm~2000nmである;
f.前記シリコン酸素複合負極材料中のLi2SiO3の質量分率は、20wt%~80wt%である;
g.前記シリコン酸素複合負極材料の平均粒径は、1μm~50μmである。
【0013】
第2の態様の一実施形態において、前記シリコン酸素複合負極材料の製造方法は、以下の条件a~gの少なくとも1つを満たす。
a.前記リチウム源は、酸素非含有リチウム化合物である;
b.前記リチウム源は、水素化リチウム、リチウムアミド、アルキルリチウム、リチウム単体及び水素化ホウ素リチウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
c.前記シリコン源は、SiOy(0<y<2)である;
d.前記シリコン源と前記リチウム源のモル比は、(0.6~7.9):1である;
e.前記非酸素雰囲気の気体は、水素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
f.前記熱処理の温度は、300℃~1000℃である;
g.前記熱処理の時間は、2h~8hである。
【0014】
第2の態様の一実施形態において、前記シリコン酸素複合負極材料の製造方法は、以下の条件a~cの少なくとも1つを満たす。
a.前記酸溶液は、硝酸とフッ化水素を混合した混酸である;
b.前記酸溶液は、硝酸とフッ化水素を質量比1:(0.5~3)で混合した混酸である;
c.前記浸漬処理の時間は、20min~90minである。
【0015】
第2の態様の一実施形態において、前記熱処理の後、前記浸漬処理の前に、前記方法は、
熱処理により得られた生成物を冷却、篩分することをさらに含む。
【0016】
第2の態様の一実施形態において、前記浸漬処理後で、前記方法は、
浸漬処理後の固体生成物を中性になるまで水で洗浄することをさらに含む。
【0017】
第2の態様の一実施形態において、シリコン源とリチウム源とを混合する前に、前記方法は、
保護雰囲気下又は真空下でSiとSiO2の混合物を加熱により気化させ、シリコン酸化物ガスを生成し、冷却後に得られた材料の粒子形態(例えば、粒子径、粒子形状など)を整えて、一般式SiOy(0<y<2)で表されるシリコン源を得ることをさらに含む。
【0018】
第2の態様の一実施形態において、前記製造方法は、以下の条件a~dの少なくとも1つを満たす。
a.前記加熱の温度は、900℃~1500℃である;
b.前記材料の粒子形態を整えることは、破砕、ボールミリング又は分級からなる群より選択される少なくとも1つを含む;
c.前記シリコン源の平均粒径は、0.2μm~50μmである;
d.前記保護雰囲気の気体は、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0019】
第2の態様の一実施形態において、前記製造方法は、
前記浸漬処理により得られた製品を導電性物質と混合し、導電性物質を含有するシリコン酸素複合負極材料を得ることをさらに含む。
【0020】
第2の態様の一実施形態において、前記導電性物質は、以下の条件a~eの少なくとも1つを満たす。
a.前記導電性物質は、Li2SiO3中に分散する;
b.前記導電性物質は、無機炭素材料及び/又は導電性ポリマーを含む;
c.前記導電性物質は、無機炭素材料を含み、前記無機炭素材料は、熱分解炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、及び導電性カーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1つを含む;
d.前記導電性物質は、導電性ポリマーを含み、前記導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアセチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
e.前記Li2SiO3と前記導電性物質との質量比は、1:(0.01~0.6)である。
【0021】
第2の態様の一実施形態において、前記方法は、
保護雰囲気下でSiとSiO2の混合物を900℃~1500℃に加熱し、シリコン酸化物ガスを生成し、冷却後に得られた材料の粒子形態を整えて、一般式SiOy(0<y<2)で表されるシリコン源を得る工程と、
前記シリコン源と酸素非含有リチウム化合物とを質量比1:(0.02~0.20)で混合し、非酸化性雰囲気下、450℃~800℃で熱処理を2h~8h行った後、冷却、篩分し、Li2SiO3含有複合材料を得る工程と、
前記Li2SiO3含有複合材料を、硝酸とフッ化水素を質量比1:(0.5~3)で混合した酸溶液に投入し、20min~90min浸漬処理した後に、水で中性になるまで洗浄し、浸漬生成物を得る工程と、
前記浸漬生成物を導電性物質と混合し、前記シリコン酸素複合負極材料を得る工程と、を含む。
【0022】
本発明の第3の態様により、上記第1の態様にかかるシリコン酸素複合負極材料、又は上記第2の態様にかかる製造方法で製造されたシリコン酸素複合負極材料を含むリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0023】
従来技術に比べて、本発明により、以下の有益な効果を実現できる。
(1)本発明に係るシリコン酸素複合負極材料は、安定な構造を有するLi2SiO3でコア部の外面を被覆することにより、ナノシリコンがSiOx以外の物質と物理的に接触しないことになる。また、Li2SiO3が一定のアルカリ性を有するが、ナノシリコンが凝集体の形態でシリコン酸化物SiOx中に分散し、水と直接接触することができないため、ガス発生を効果的に抑制し、プレリチウム材料の加工安定性を改善することができ、これにより、シリコンがアルカリ性環境下で水と接触すると化学反応が発生して気体を放出するという従来技術中の課題を解決した。本発明に係るシリコン酸素複合負極材料によれば、スラリーは調製中にガスが発生せず、塗布状況は正常でピンホールを生成せず、これにより、負極材料がプレリチウム処理後に生成した強アルカリ性副生成物又は水に溶解しやすい副生成物が後続の加工に影響するという従来技術中の課題を解決し、材料の加工安定性を向上させつつ、リチウム電池のサイクル安定性及び電池容量を向上させることができる。
(2)本発明に係る製造方法によれば、適切なプレリチウム度合を制御することにより、シリコン源の表層部分のシリコン酸化物のみをLi2SiO3に転化させるとともに、内部のシリコン酸化物からなる構造を保留し、ナノシリコンが凝集体の形態でシリコン酸化物SiOx中に分散する構造を形成し、本発明に係る特定な構造を有する製品が得られ、そして該製造方法は操作しやすく、フローが短く、製造コストが低い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施例で提供したシリコン酸素複合負極材料の製造方法のプロセスフロー図である。
【
図2】本発明の実施例1で製造した負極材料のガス発生試験の写真である。
【
図3】本発明の実施例1で製造した負極材料の塗布試験の写真である。
【
図4】比較例1で製造した負極材料のガス発生試験の写真である。
【
図5】比較例1で製造した負極材料の塗布試験の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明をよりよく説明して当業者に本発明の技術案をより容易に理解させるために、以下、本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、下記実施例は、本発明の簡単化された例に過ぎず、本発明の特許請求の範囲を代表するか又は限定するものではなく、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲に準じることが理解される。
【0026】
以下、本発明の典型的で非限定的な実施例を示す。
【0027】
本発明の第1の態様により、ナノシリコンとシリコン酸化物SiOx(0<x<1.2)を含むコア部と、Li2SiO3を含むシェル部とを備えるコアシェル構造を有するシリコン酸素複合負極材料を提供する。
【0028】
本発明に係るシリコン酸素複合負極材料は、安定な構造を有するLi2SiO3でコア部の外面を被覆する。そのため、ナノシリコンが水と直接接触しないことにより、ガス発生を効果的に抑制し、プレリチウム材料の加工安定性を改善し、シリコンがアルカリ性環境下で水と接触すると化学反応が発生して気体を放出するという従来技術中の問題を解決することができ、そして、ケイ酸リチウムにより初回効率を向上し、体積膨張を緩衝し、材料のリチウムイオン伝導能力を増加することができるため、該負極材料により、リチウム電池のサイクル安定性及び電池容量を向上することができる。
【0029】
以下、本発明の技術案の例であるが、本願に係る技術案を限定するものではない。以下の技術案の例により、本発明の目的及び効果をよりよく達成、実現することができる。
【0030】
本発明の技術案の一例として、前記シリコン酸化物の化学式はSiOx(0<x<1.2)であり、SiOxは、SiO0.1、SiO0.2、SiO0.3、SiO0.4、SiO0.5、SiO0.6、SiO0.7、SiO0.8、SiO0.9、SiO及びSiO1.1からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。SiOxについては、それを、アモルファスシリコン単体又は結晶Siのうちの少なくとも一種がSiO2中に均一に分散して形成されたものと理解してもよい。
【0031】
本発明に係る負極材料は、表面に安定な構造を有するLi2SiO3で包まれることにより、ナノシリコンがアモルファスシリコン酸化物以外の物質と物理的に接触しない。
【0032】
本発明の技術案の一例として、ナノシリコンは、ナノシリコン凝集体の形態でSiOx中に分散する。ナノシリコン凝集体は、複数のナノシリコン結晶粒を含む。ナノシリコンが凝集体の形態でSiOx中に分散し、SiOxの表面が構造の安定したLi2SiO3で包まれるため、ナノシリコンはSiOx以外の物質と物理的に接触しにくい。また、Li2SiO3が一定のアルカリ性を有するが、ナノシリコンはナノシリコン凝集体の形態でSiOx中に分布し、水と直接接触することができないため、ガス発生を効果的に抑制し、プレリチウム材料の加工安定性を改善することができる。
【0033】
本発明の技術案の一例として、ナノシリコン凝集体は、複数のナノシリコン結晶粒からなる。ナノシリコン凝集体とは、数個から数千個のナノシリコン結晶粒を物理的又は化学的結合力により結合してなるものである。
【0034】
本発明の技術案の一例として、前記ナノシリコン結晶粒の平均粒径は0超、且つ15nm以下であり、例えば、1nm、3nm、5nm、8nm、10nm、12nm又は15nm等であってもよい。理解されるように、シリコン含有量が同じである場合、シリコンの膨張が等方性であるため、大サイズの結晶シリコンの結晶粒と比べ、小サイズのシリコン結晶粒が凝集体を形成する際に、相互作用力により膨張を一部相殺することができるため、ナノシリコン凝集体の膨張がより小さく、サイクル寿命がより長く、これにより負極材料のサイクル特性、レート特性の向上に寄与しうる。
【0035】
本発明の技術案の一例として、前記ナノシリコンと前記シリコン酸化物の質量比は(0.05~0.7):1であり、具体的に、0.05:1、0.08:1、0.1:1、0.2:1、0.3:1、0.4:1、0.5:1或0.7:1等であってもよいが、列挙された数値に限定されず、該数値範囲内であれば列挙されていない数値も同様に適用される。前記ナノシリコンと前記シリコン酸化物の質量比を(0.05~0.7):1とすることにより、最終的な負極材料は、高い容量及びサイクル特性を得ることができる。ナノシリコンの割合が高すぎると、負極材料のサイクル特性、膨張特性が悪くなり、シリコン酸化物の割合が高すぎると、負極材料の容量が低くなる。
【0036】
本発明の技術案の一例として、前記シリコン酸素複合負極材料の平均粒径は1μm~50μmであり、より具体的に、1μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm或50μm等であってもよいが、列挙された数値に限定されず、該数値範囲内であれば列挙されていない数値も同様に適用される。シリコン複合体負極材料の平均粒径を上記範囲内に制御することにより、負極材料のサイクル特性の向上に寄与できる。
【0037】
本発明の技術案の一例として、シェル部の厚さは50nm~2000nmであり、具体的に、50nm、100nm、300nm、500nm、800nm、1000nm、1500nm、1800nm又は2000nmであってもよいが列挙された数値に限定されず、該数値範囲内であれば列挙されていない数値も同様に適用される。シェル部が厚すぎると、リチウムイオン伝導効率が低下し、材料の大レート充放電特性に不利であり、負極材料の総合性能が低下し、またシェル部が薄すぎると、負極材料の導電性の向上に不利であり、かつ材料の体積膨張に対する抑制性能が弱くなり、長サイクル特性が悪くなる。
【0038】
本発明の技術案の一例として、前記シェル部は、その内部及び/又は表面に分散する導電性物質をさらに含む。前記シェル部の内部とは、シェル部の内面と外面との間の部分、すなわち、シェルの表面に位置せずシェル部に深く入り込む部分を指す。
【0039】
理解されるように、導電性物質は、Li2SiO3中に分散する。
【0040】
好ましくは、前記導電性物質は、無機炭素材料及び/又は導電性ポリマーを含む。
【0041】
具体的に、前記無機炭素材料は、熱分解炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ及び導電性カーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1つを含む。前記導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアセチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0042】
本発明の技術案の一例として、Li2SiO3と導電性物質との質量比は1:(0.01~0.6)であり、具体的に、1:0.01、1:0.05、1:0.1、1:0.2、1:0.3、1:0.4、1:0.5或1:0.6等であってもよいが、列挙された数値に限定されず、該数値範囲内であれば列挙されていない数値も同様に適用される。Li2SiO3と導電性物質との質量比を1:(0.01~0.6)とすることにより、ケイ酸リチウムの導電性を向上させ、導電性物質がケイ酸リチウム中に均一に分散することができる。導電性物質が少なすぎると、導電性への改善が明らかではなく、導電性物質が多すぎると、ケイ酸リチウム中に均一に分散するのに不利である。
【0043】
本発明の第2の態様により、
図1に示されるように、以下の工程を含むシリコン酸素複合負極材料の製造方法を提供する。
S100: シリコン源とリチウム源を混合し、非酸素雰囲気下で熱処理を行い、Li
2SiO
3含有複合材料を得る。
S200: 前記Li
2SiO
3含有複合材料を酸溶液に投入して浸漬処理し、前記シリコン酸素複合負極材料を得る。
【0044】
本発明に係る製造方法は、Li2SiO3含有複合材料を浸漬することにより、前記シリコン酸素複合負極材料を得る。
【0045】
シリコン源とリチウム源の熱処理においてプレリチウム化反応が行われ、浸漬処理によって露出したシリコンが除去される。プレリチウム化を行う際に、シリコン酸化物が消費されてLi2SiO3が表面に集合し、またSiが凝集する傾向があり、シリコン源の内部に移動して他のSiと凝集する傾向がある。
【0046】
以下、本態様で提供される製造方法を詳しく説明する。
【0047】
<S100>
該工程において、シリコン源とリチウム源を混合し、非酸素雰囲気下で熱処理を行い、Li2SiO3含有複合材料を得る。
【0048】
ここで、Li2SiO3含有複合材料は、SiOx、Si、及びLi2SiO3を含む。
【0049】
本発明の技術案の一例として、前記シリコン源の化学式はSiOy(0<y<2)であり、SiOyとして、具体的に、SiO0.1、SiO0.2、SiO0.5、SiO0.7、SiO、SiO1.2、SiO1.4、SiO1.6、SiO1.8又はSiO1.9等が挙げられる。なお、SiOyの組成が複雑であり、アモルファスシリコン単体及び結晶シリコン単体のうちの少なくとも一つがSiO2中に均一に分散して形成されるものであると理解してもよい。高温下で、その熱力学的性質が非常に不安定であり、リチウム源との還元反応が発生しやすく、これによりLi2SiO3が生成する。
【0050】
本発明の技術案の一例として、前記シリコン源の平均粒径は0.2μm~50μmであり、より具体的に、0.2μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、35μm、40μm或50μm等であってもよい。シリコン酸素材料を上記範囲内とすることにより、負極材料のサイクル特性とレート特性を向上することができる。
【0051】
本発明の技術案の一例として、前記リチウム源は、水素化リチウム、リチウムアミド、アルキルリチウム、リチウム単体及び水素化ホウ素リチウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む。上記リチウム源は、いずれもシリコン源SiOyと反応でき、Li2SiO3含有複合材料を製造して得ることができ、該複合材料は、ナノシリコン及びシリコン酸化物SiOx(0<x<1.2)をさらに含む。
【0052】
本発明の技術案の一例として、シリコン源とリチウム源とのモル比は(0.6~7.9):1であり、具体的に0.6:1、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1或7.9:1等であってもよい。試験を重ねた結果、シリコン源とリチウム源とのモル比が高すぎる(すなわち、シリコン源が多すぎる)と、シリコン源がLi2SiO3に十分に転化できないため、負極材料の加工性能に影響を与え、負極材料の初回効率が低くなり、シリコン源とリチウム源とのモル比が低すぎる(すなわち、リチウム源が多すぎる)と、リチウムシリコン合金等の物質を形成し、Li2SiO3が得られないため、理想的な負極材料を取得しない。
【0053】
本発明の技術案の一例として、前記熱処理は、非酸素雰囲気下で行い、非酸素雰囲気を形成する気体は、水素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0054】
好ましくは、熱処理的温度は300℃~1000℃であり、具体的に300℃、400℃、450℃、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃或1000℃等であってもよいが、列挙された数値に限定されず、該数値範囲内であれば列挙されていない数値も同様に適用され、好ましくは、熱処理の温度は450℃~800℃である。試験を重ねた結果、熱処理の温度が高すぎると、単結晶シリコン結晶粒の成長速度が速くなり、粒子サイズも徐々に大きくなり、負極材料のサイクル特性を低下させる。熱処理の温度が低すぎると、プレリチウム化反応の速度が低下するか又は進行できず、その結果、電池の初回効率が低下するか、又は所望の初回効率を達成することができなくなる。
【0055】
好ましくは、前記熱処理の時間は2h~8hであり、具体的に2h、3h、4h、5h、6h、7h或8h等であってもよいが、列挙された数値に限定されず、該数値範囲内であれば列挙されていない数値も同様に適用される。試験を重ねた結果、熱処理の時間が短すぎると、プレリチウム反応の度合が低く、プレリチウム効果が悪く、熱処理の時間が長すぎると、シリコン結晶粒が増大し、サイクル特性が低下する。上記時間範囲内に、熱処理の時間の増加に伴い、Siが凝集する傾向があり、シリコン源の内部に移動して他のSiと凝集することにより、ナノシリコン凝集体が形成されてSiOx中に分散する傾向があり、シリコン酸化物SiOxの外に露出した部分のナノシリコンが、後続処理により除去され得る。
【0056】
本発明は、熱処理の温度、時間及びシリコン源の含有量を制御することにより、シリコン源の表層部分のみのシリコン酸化物をLi2SiO3に転化させるとともに、内部のケイ素酸化物構造を保留し、そしてSiが凝集する傾向があり、シリコン源の内部に移動して他のSiと凝集することにより、ナノシリコン凝集体が形成されてSiOx中に分散する傾向がある。
【0057】
さらに、S100の後、S200の前に、前記方法は、
熱処理により得られた生成物を冷却、篩分することをさらに含む。
【0058】
工程S100の前に、前記方法は、
保護雰囲気下又は真空下でSiとSiO2の混合物を加熱により気化させ、シリコン酸化物ガスを生成し、冷却後に得られた材料の粒子形態を整えてシリコン源としてのSiOy(0<y<2)粒子を得ることをさらに含む。
【0059】
好ましくは、前記材料の粒子形態を整えることは、破砕、ボールミリング又は分級からなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0060】
前記加熱の温度は900℃~1500℃であり、例えば、900℃、1000℃、1100℃、1200℃、1300℃、1400℃或1500℃等が挙げられるが、列挙された数値に限定されず、該数値範囲内であれば列挙されていない数値も同様に適用される。
【0061】
本発明の技術案の一例として、シリコン源としてのSiOy粒子は、D10が1.0μmより大きく、Dmaxが50μm未満であり、例えば、D10が1.1μm、1.5μm、2.0μm、2.5μm、3.0μm、4.0μm又は5.0μm等であってもよく、Dmaxが49μm、45μm、30μm、35μm又は20μm等であってもよい。なお、Dmaxとは、最大の粒子の粒径を指す。
【0062】
前記保護雰囲気の気体は、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス及びキセノンガスからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0063】
<S200>
該工程において、前記Li2SiO3含有複合材料を酸溶液に投入して浸漬処理し、前記シリコン酸素複合負極材料を得る。
【0064】
本発明の技術案の一例として、前記酸溶液は硝酸とフッ化水素を混合してなる混酸である。前記混酸を採用することにより、内部のシリコンを損ねることなく、粒子表面のシリコンとの反応を加速することができる。
【0065】
好ましくは、前記酸溶液中に、硝酸とフッ化水素との質量比は1:(0.5~3)であり、例えば1:0.5、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5又は1:3等である。
【0066】
好ましくは、前記浸漬処理の時間は20min~90minであり、例えば20min、30min、40min、50min、60min、70min、80min又は90min等である。理解されるように、十分な浸漬処理により、シリコン酸化物SiOxで包まれていない部分のナノシリコンを酸溶液と反応させることができ、シリコン酸化物SiOxによりナノシリコンを完全に包むことができる。
【0067】
さらに、前記製造方法は、
浸漬後の固体生成物を中性になるまで水で洗浄する工程をさらに含む。
【0068】
洗浄後の固体生成物は、シリコン酸素複合負極材料となる。
【0069】
またさらに、工程S200の後に、前記方法は、
前記浸漬により得られた製品を導電性物質と混合し、導電性物質を含有するシリコン酸素複合負極材料を得ることをさらに含む。
【0070】
本発明の技術案の一例として、混合機内で混合処理を行ってもよい。
【0071】
前記導電性物質は、無機炭素材料及び/又は導電性ポリマーを含む。具体的に、前記無機炭素材料は、熱分解炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ及び導電性カーボンブラックからなる群より選択される少なくとも1つを含む。前記導電性ポリマーは、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン及びポリアセチレンからなる群より選択される少なくとも1つを含む。
【0072】
本発明の第3の態様により、上記第1の態様にかかるシリコン酸素複合負極材料、又は上記第2の態様にかかる製造方法で製造されたシリコン酸素複合負極材料を含むリチウムイオン電池を提供する。
【0073】
以下、複数の実施例に分けて本発明の実施例をさらに説明する。ここで、本発明の実施例は以下の具体的な実施例に限定されるものではない。保護範囲内であれば適宜変更して実施することが可能である。
【実施例1】
【0074】
本実施例において、以下の方法でシリコン酸素複合負極材料を製造した。
(1)1kgのSi粉末、2kgのSiO2粉末をVC型混合機内に投入して30min混合した後に、SiO2とSiの混合物を得た。この混合物を真空炉内に投入し、真空度が5Paの負圧条件下で1300℃に加熱し、18h保温し、炉内でSiO蒸気が生成した。該SiO蒸気が速やかに凝結(凝結温度950℃)してSiOy塊が生成した後、メジアン径が6μm程度になるように該SiOy塊を破砕、ボールミリング、分級等のプロセスで処理し、SiOy(y=1.0)粉体材料を得た。
(2)1kgのSiOyをボールミルポットに装入し、150gの水素化リチウムを添加し、20minボールミリングを経て取り出し、保護雰囲気の炉に置いて熱処理を行い、熱処理温度を800℃とし、熱処理時間を2hとした。その後、室温まで自然冷却し、材料を取り出し、篩分け、磁気除去し、Li2SiO3含有複合材料を得た。
(3)Li2SiO3含有複合材料を、硝酸とフッ化水素を質量比1:0.8で含むpH値が6.8の混酸液に投入し、室温下で20min浸漬した後、取り出し、濾過、乾燥した。
(4)700gの工程(3)により得られたサンプル、14gの炭素繊維を混合機中に投入して1h混合し、取り出して前記シリコン酸素複合負極材料を得た。
【0075】
本実施例で製造されたシリコン酸素複合負極材料は、シェル部がコア部の表面を被覆するコアシェル構造を有した。ここで、コア部は、ナノシリコンと、SiOx(x=0.6)とを含み、前記ナノシリコンは、凝集体の形態で前記SiOx中に分散しており、前記ナノシリコンと前記SiOxの質量比が0.7:1であった。また、シェル部は、Li2SiO3と、シェル部の表面と内部に分布する導電性物質である炭素繊維とを含み、前記Li2SiO3と前記炭素繊維との質量比が1:0.58であり、シェル部の厚さが2000nmであった。
【実施例2】
【0076】
本実施例において、以下の方法でシリコン酸素複合負極材料を製造した。
(1)1kgのSi粉末、600gのSiO2粉末をVC型混合機内に投入して30min混合した後に、SiO2とSiの混合物を得た。この混合物を真空炉内に投入し、真空度が5Paの負圧条件下で900℃に加熱し、20h保温し、炉内でSiO蒸気が生成した。該SiO蒸気が速やかに凝結してSiOy塊が生成した後、メジアン径が6μm程度になるように該SiOy塊を破砕、ボールミリング、分級等のプロセスで処理し、SiOy(y=0.5)粉体材料を得た。
(2)1kgのSiOyをボールミルポットに装入し、80gの水素化リチウムを添加し、20minボールミリングを経て取り出し、保護雰囲気の炉に置いて熱処理を行い、熱処理温度を450℃とし、熱処理時間を8hとした。その後、室温まで自然冷却し、材料を取り出し、篩分け、磁気除去し、Li2SiO3含有複合材料を得た。
(3)Li2SiO3含有複合材料を、硝酸とフッ化水素を質量比が1:0.5で含むpH値が6.8の混酸液に投入し、室温下で50min浸漬した後、取り出し、濾過、乾燥した。
(4)700gの工程(3)により得られたサンプル、16gのカーボンナノチューブを混合機中に投入して1.5h混合し、取り出して前記シリコン酸素複合負極材料を得た。
【0077】
本実施例で製造されたシリコン酸素複合負極材料は、シェル部がコア部の表面を被覆するコアシェル構造を有した。ここで、コア部は、ナノシリコンと、SiOx(x=0.2)とを含み、前記ナノシリコンは、凝集体の形態でSiOx中に分布しており、前記ナノシリコンと前記SiOxの質量比が0.2:1であった。また、シェル部は、Li2SiO3と、シェル部の表面と内部に分布する導電性物質であるカーボンナノチューブとを含み、前記Li2SiO3と前記カーボンナノチューブの質量比が1:0.2であり、シェル部の厚さが800nmであった。
【実施例3】
【0078】
本実施例において、以下の方法でシリコン酸素複合負極材料を製造した。
(1)1kgのSi粉末、3.2kgのSiO2粉末をVC型混合機内に投入して30min混合した後に、SiO2とSiの混合物を得た。この混合物を真空炉内に投入し、真空度が5Paの負圧条件下で1500℃に加熱し、16h保温し、炉内でSiO蒸気が生成した。該SiO蒸気が速やかに凝結してSiOy塊が生成した後、メジアン径が6μm程度になるようにSiOy塊を破砕、ボールミリング、分級等のプロセスで処理し、SiOy(y=1.5)粉体材料を得た。
(2)1kgのSiOyをボールミルポットに装入し、120gの水素化ホウ素リチウムを添加し、20minボールミリングを経て、取り出し、保護雰囲気の炉に置いて熱処理を行い、熱処理温度を300℃とし、熱処理時間を6hとした。室温まで自然冷却し、材料を取り出し、篩分け、磁気除去し、Li2SiO3含有複合材料を得た。
(3)Li2SiO3含有複合材料を、硝酸とフッ化水素を質量比1:3で含む、pH値が6.8の混酸液に投入し、室温下で90min浸漬した後、取り出し、濾過、乾燥した。
(4)700gの工程(3)により得られたサンプル、12gの導電性カーボンブラックを混合機中に投入して1.5h混合し、取り出して前記シリコン酸素複合負極材料を得た。
【0079】
本実施例で製造されたシリコン酸素複合負極材料は、シェル部がコア部の表面を被覆するコアシェル構造を有した。ここで、コア部は、ナノシリコンと、SiOx(x=0.8)とを含み、前記ナノシリコンは、凝集体の形態でSiOx中に分散しており、前記ナノシリコンと前記SiOxの質量比が0.5:1であった。また、シェル部は、Li2SiO3と、シェル部の表面と内部に分布する導電性物質である導電性カーボンブラックとを含み、前記Li2SiO3と前記導電性カーボンブラックの質量比が1:0.4であり、シェル部の厚さが1200nmであった。
【実施例4】
【0080】
本実施例において、以下の方法でシリコン酸素複合負極材料を製造した。
(1)1kgのSi粉末、3.9kgのSiO2粉末をVC型混合機内に投入して30min混合した後に、SiO2とSiの混合物を得た。この混合物を真空炉内に投入し、真空度が5Paの負圧条件下で1200℃に加熱し、16h保温し、炉内でSiO蒸気が生成した。該SiO蒸気が速やかに凝結してSiOy塊が生成した後、メジアン径が6μm程度になるようにSiOy塊を破砕、ボールミリング、分級等のプロセスで処理し、SiOy(y=1.8)粉体材料を得た。
(2)1kgのSiOyをボールミルポットに装入し、20gの金属リチウムを添加し、20minボールミリングを経て取り出し、保護雰囲気の炉に置いて熱処理を行い、熱処理温度を1000℃とし、熱処理時間を2hとした。室温まで自然冷却し、材料を取り出し、篩分け、磁気除去し、Li2SiO3含有複合材料を得た。
(3)Li2SiO3含有複合材料を、硝酸とフッ化水素を質量比1:1で含む、pH値が6.8である混酸液に投入し、室温下で90min浸漬した後、取り出し、濾過、乾燥した。
(4)700gの工程(3)により得られたサンプル、14gのポリアニリンを混合機中に投入して1.5h混合し、取り出して前記シリコン酸素複合負極材料を得た。
【0081】
本実施例で製造されたシリコン酸素複合負極材料は、シェル部がコア部の表面を被覆するコアシェル構造を有した。ここで、コア部は、ナノシリコンと、SiOx(x=1.2)とを含み、前記ナノシリコンは、凝集体の形態で前記SiOx中に分散しており、前記ナノシリコンと前記SiOxの質量比が0.05:1であった。また、シェル部は、Li2SiO3と、シェル部の表面と内部に分布する導電性物質であるポリアニリンとを含み、前記Li2SiO3と前記導電性物質の質量比が1:0.018であり、シェル部の厚さが600nmであった。
【実施例5】
【0082】
本実施例は、工程(2)における熱処理温度が1100℃であったことを除き、操作条件や原料が実施例1と同じように実行した。
【0083】
本実施例で製造されたシリコン酸素複合負極材料は、シェル部がコア部の表面を被覆するコアシェル構造を有した。ここで、コア部は、ナノシリコンと、SiOx(x=0.6)とを含み、前記ナノシリコンは、凝集体の形態で前記SiOx中に分布しており、前記ナノシリコンと前記SiOxの質量比が0.72:1であった。また、シェル部は、Li2SiO3と、シェルの表面と内部に分布する導電性物質である炭素繊維とを含み、前記Li2SiO3と前記炭素繊維の質量比が1:0.58であり、シェル部の厚さが2000nmであった。
【実施例6】
【0084】
本実施例は、工程(2)における熱処理温度が200℃であったことを除き、操作条件や原料が実施例1と同じように実行した。
【0085】
本実施例で製造されたシリコン酸素複合負極材料は、シェル部がコア部の表面を被覆するコアシェル構造を有した。コア部は、ナノシリコンと、SiOx(x=0.92)とを含み、前記ナノシリコンは、凝集体の形態で前記SiOx中に分散しており、前記ナノシリコンと前記SiOxの質量比が0.9:1であった。また、シェル部は、Li2SiO3と、シェル部の表面と内部に分布する導電性物質である炭素繊維とを含み、前記Li2SiO3と前記炭素繊維の質量比が1:0.008であり、シェル部の厚さが20nmであった。
【比較例1】
【0086】
実施例1における工程(3)を行わなかったことを除き、実施例1と同様の方法でシリコン酸素複合負極材料を製造した。
【比較例2】
【0087】
(1)1kgのSi粉末、2kgのSiO2粉末をVC型混合機内に投入し、30min混合した後に、SiO2とSiの混合物を得た。この混合物を真空炉内に投入し、真空度が5Paの負圧条件下で1300℃に加熱し、18h保温し、炉内でSiO蒸気が生成した。該SiO蒸気が速やかに凝結(凝結温度950℃)し、SiOy塊が生成した。メジアン径が6μm程度になるように前記SiOy塊を破砕、ボールミリング、分級等のプロセスで処理し、SiOy(y=1.0)粉体材料を得た。
(2)1kgのSiOyをボールミルポットに装入し、350gの水素化リチウムを添加し、20minボールミリングを経て取り出し、保護雰囲気の炉に置いて熱処理を行い、熱処理温度を320℃とし、熱処理時間を5hとした。室温まで自然冷却し、材料を取り出し、篩分け、磁気除去し、Li4SiO4含有複合材料を得た。
(3)Li4SiO4含有複合材料を、硝酸とフッ化水素を質量比1:0.8で含む、pH値が6.8の混酸液に投入し、室温下で20min浸漬した後、取り出し、濾過、乾燥した。
(4)700gの工程(3)のサンプル、14gの炭素繊維を混合機中に投入して1h混合し、取り出して前記シリコン酸素複合負極材料を得た。
【0088】
本比較例で製造されたシリコン酸素複合負極材料は、シェル部がコア部の表面を被覆するコアシェル構造を有する。ここで、コア部は、ナノシリコンと、SiOx(x=0.6)とを含み、前記ナノシリコンは、凝集体の形態で前記SiOx中に分散しており、前記ナノシリコンと前記SiOxの質量比が0.72:1であった。また、シェル部は、Li4SiO4と、シェル部の表面と内部に分布する導電性物質である炭素繊維とを含み、前記Li4SiO4と前記炭素繊維の質量比が1:0.12であり、シェル部の厚さが800nmであった。
【0089】
<測定方法>
1.走査電子顕微鏡S4800(日立社製)を用いてサンプルの表面形態、粒子サイズ等を観察した。
【0090】
2.加工性能試験
(1)ガス発生試験
実施例又は比較例で提供したシリコン酸素複合負極材料を活物質とし、SBR+CMCをバインダーとして使用し、導電性カーボンブラックを添加し、活物質:導電剤:バインダー=95:2:3の配合比で高速撹拌して均一に混合し、スラリーを得た。該スラリーをアルミプラスチックラミネート袋に入れて封止、静置し、そしてアルミプラスチックラミネート袋の形状変化を監視し、監視周期を1ヶ月とした。
(2)塗布試験
上記(1)で調製されたスラリーを銅箔に均一に塗布し、乾燥した後に電極シートの表面にピンホール、気孔、凹みが存在するか否かを観察した。
【0091】
3.ボタン電池初回サイクル性能試験
各実施例又は各比較例で提供したシリコン酸素複合負極材料を活物質とし、スチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)をバインダーとして使用し、導電性カーボンブラックを添加して撹拌し、スラリーを調製した。該スラリーを銅箔に塗布し、最後に乾燥、圧延することにより、負極シートを製造した(ここで、活物質、導電剤、及びバインダーの質量比が85:15:10であった)。また、金属リチウムシートを対極とし、ポリプロピレン(PP)/ポリエチレン(PE)積層膜をセパレータとし、LiPF6/エチレンカーボネート(EC)+炭酸ジエチル(DEC)+炭酸ジメチル(DMC)(EC、DEC及びDMCの体積比が1:1:1)を電解液として使用し、アルゴンガスが充填したグローブボックス内に模擬電池(ケース型式が2016)を組み立てた。LAND 5V/10mA型電池測定機器を用いて前記ボタン電池の電気化学的性能を測定し、充電電圧を1.5Vとし、0.01Vまで放電し、充放電レートを0.1Cとした。
【0092】
4.サイクル試験
各実施例又は各比較例で提供したシリコン酸素複合負極材料と黒鉛とを質量比1:9で均一に混合して活物質とし、金属リチウムシートを対極とし、PP/PE積層膜をセパレータとし、LiPF6/EC+DEC+DMC(EC、DEC及びDMCの体積比が1:1:1)を電解液として使用し、アルゴンガスが充填したグローブボックス内にボタン電池(ケース型式が2016)を組み立た。LAND 5V/10mA型電池測定機器を用いて50サイクルの電池の電気化学的性能を測定し、充電電圧を1.5Vとし、0.01Vまで放電し、充放電レートを0.1Cとした。
【0093】
実施例1~6及び比較例1~2の測定結果は、下表に示される。
【表1】
【0094】
図2は本実施例で製造された負極材料のガス発生試験の写真であり、該図から明らかなように、アルミプラスチックラミネート袋は膨れや突起がなく、表面が平らであったから、材料からのガス発生の現象が発生しなかったことが分かる。
図3は、本実施例で製造された負極材料の塗布試験の写真であり、該図から明らかなように、電極シートが滑らかで、平らであった。
図4は、本比較例で製造された負極材料のガス発生試験の写真であり、該図から明らかなように、封止されたアルミプラスチックラミネート袋が膨らんだことから、内部にガス発生の現象が発生したことが分かる。
図5は、本比較例で製造された負極材料の塗布試験の写真であり、該図から明らかなように、電極シートに亘ってピンホールが分布していた。
【0095】
上記実施例及び比較例を併せて考慮すると、実施例1~4においては、適切なプレリチウム度合を制御したことにより、シリコン源の表層部分のみをLi2SiO3に転化させたとともに、内部のシリコン酸化物構造を保留しており、そしてナノシリコンが凝集体の形態でSiOx中に分散しており、これにより高い活性を有するナノシリコンがSiOxで完全に包まれ、そしてSiOxの表面が構造の安定したLi2SiO3で包まれたことが分かる。これにより、ナノシリコンがSiOx以外の物質と物理的に接触することがなく、またLi2SiO3が一定のアルカリ性を有するが、シリコンがSiOxで包まれ、水と直接接触することができないため、ガス発生を効果的に抑制し、プレリチウム材料の加工安定性を改善することができ、シリコンがアルカリ性環境下で水と接触すると化学反応が発生し、気体を放出するという従来技術中の問題を解決した。
【0096】
実施例5で製造された負極材料は、加工性能が安定し、ガスが発生しないが、製造中に、プレリチウム化の温度がより高く、プレリチウム化過程中にシリコン結晶粒が迅速に成長したため、材料のサイクル特性が低下した。
【0097】
実施例6で製造された負極材料は、加工性能が安定し、ガスが発生しないが、製造中に、プレリチウム化の温度がより低かったため、プレリチウム反応が進行できず、所望の初回効率が向上できなかった。
【0098】
実施例1に比べて、比較例1は、酸溶液による浸漬処理を行わず、シリコン酸化物SiOxの外に露出したナノシリコンを除去することができなかったため、材料加工過程中に、ナノシリコンが溶媒、電解液等と反応し、ガス発生が深刻となり、その結果、電池の初回クーロン効率及びサイクル容量維持率がいずれも大幅に低下した。
【0099】
比較例2においては、Li4SiO4が使用されており、このようなケイ酸リチウムはLi2SiO3より水溶性が高いため、水への溶解性がより高く、スラリーの安定性がより悪く、即ち、ガス発生などの、スラリーが不安定となる問題が発生しやすい。
【0100】
上記実施例により本発明の詳細なプロセス装置及びプロセスフローを説明したが、本発明は、上記詳細なプロセス装置及びプロセスフローに限定されるものではなく、すなわち、上記詳細なプロセス装置及びプロセスフローにしたがって行わなければ実施できないと意図するわけではない。当業者であれば明らかに分かるように、本発明の任意の改良、本発明の製品の各原料の等価置換及び補助成分の添加、具体的な方式の選択等は、いずれも本発明の保護範囲及び開示範囲に収まると認識するべきである。