(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2018185485
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山成 正宏
(72)【発明者】
【氏名】岡本 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】莊 心源
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0125951(US,A1)
【文献】特開2004-279137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0043661(US,A1)
【文献】特開2016-077774(JP,A)
【文献】特開2016-032609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/12
3/13-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼に照射される第1の光を出力する第1の光源と、
前記被検眼に照射される第2の光を出力する第2の光源と、
前記第1の光の反射光から得られる第1の干渉光に基づいて、前記被検眼の前眼部を含む第1の範囲の検査を行う第1の干渉計と、
前記第2の光の反射光から得られる第2の干渉光に基づいて、前記被検眼の眼底を含むとともに前記第1の範囲とは異なる第2の範囲の検査を行う第2の干渉計と、
を備え、
前記第1の光の中心波長と、前記第2の光の中心波長が異なっており、
前記第1の光の光路である第1光路と、前記第2の光の光路である第2光路の少なくとも一部が重複しており、
前記第1の範囲の検査と前記第2の範囲の検査とを同時に実行可能である、
前記第1光路と前記第2光路が重複する重複光路上に配置されており、前記第1の光源から出力される前記第1の光を走査するとともに、前記第2の光源から出力される前記第2の光を走査するスキャナをさらに備えており、
前記第2の光源は、
前記第2の範囲の検査におけるスキャン分解能が、前記第2の範囲の検査における光学分解能よりも大きい場合に、前記第2の光をパルス状に出力し、
前記第2の範囲の検査におけるスキャン分解能が、前記第2の範囲の検査における光学分解能よりも小さい場合に、前記第2の光を連続的に出力するように構成されている、
眼科装置。
【請求項2】
前記第1の光源から出力される前記第1の光の中心波長は、0.95μm以上1.80μm以下であり、
前記第2の光源から出力される前記第2の光の中心波長は、0.40μm以上1.15μm以下である、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記重複光路上に配置されており、前記スキャナと前記被検眼の間に配置される対物レンズをさらに備えており、
前記スキャナは、前記第1の光及び前記第2の光の進行方向を所定の方向へ変更するミラーを備えており、
前記第1の範囲の検査におけるAスキャン速度をFa、前記第1の範囲の検査における前記被検眼の深さ方向に直交する第1の方向へのスキャン範囲をWa、前記第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNa、前記第1の範囲の検査における前記ミラーの倍率をMa、前記第2の範囲の検査におけるAスキャン速度をFp、前記第2の範囲の検査における前記第1の方向へのスキャン範囲をWp、前記第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNp、前記第2の範囲の検査における前記ミラーの倍率をMp、前記第2の光の中心波長をλp、前記第2の光のビーム径をDp、前記対物レンズの焦点距離をf
obj、としたときに、前記第2の光源は、以下の式:
(Fp・λp・Mp)/Dp<(π/4)・(Ma/f
obj)・(Wa/Na)・Fa
を満足する場合に、前記第2の光をパルス状に出力するように構成されている、請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記重複光路上に配置されており、前記スキャナと前記被検眼の間に配置される対物レンズをさらに備えており、
前記スキャナは、前記第1の光及び前記第2の光の進行方向を所定の方向へ変更するミラーを備えており、
前記第1の範囲の検査におけるAスキャン速度をFa、前記第1の範囲の検査における前記被検眼の深さ方向に直交する第1の方向へのスキャン範囲をWa、前記第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNa、前記第1の範囲の検査における前記ミラーの倍率をMa、前記第2の範囲の検査におけるAスキャン速度をFp、前記第2の範囲の検査における前記第1の方向へのスキャン範囲をWp、前記第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNp、前記第2の範囲の検査における前記ミラーの倍率をMp、前記第2の光の中心波長をλp、前記第2の光のビーム径をDp、前記対物レンズの焦点距離をf
obj、としたときに、前記第2の光源は、以下の式:
(Fp・λp・Mp)/Dp>(π/4)・(Ma/f
obj)・(Wa/Na)・Fa
を満足する場合に、前記第2の光を連続的に出力するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記第2の光源は、デューティ比Dが、以下の式:
D<Fp/{π/(4λp)・(Dp/f
obj)・(Ma/Mp)・(Wa/Na)・Fa}
を満足するように、前記第2の光を周期1/Fpでパルス状に出力するように構成されている、請求項3に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記重複光路上に配置されており、前記スキャナと前記被検眼の間に配置される対物レンズをさらに備えており、
前記スキャナは、前記第1の光及び前記第2の光の進行方向を所定の方向へ変更するミラーを備えており、
前記第1の範囲の検査におけるAスキャン速度をFa、前記第1の範囲の検査における前記被検眼の深さ方向に直交する第1の方向へのスキャン範囲をWa、前記第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNa、前記第1の範囲の検査における前記ミラーの倍率をMa、前記第2の範囲の検査におけるAスキャン速度をFp、前記第2の範囲の検査における前記第1の方向へのスキャン範囲をWp、前記第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNp、前記第2の範囲の検査における前記ミラーの倍率をMp、前記第2の光の中心波長をλp、前記第2の光のビーム径をDp、前記対物レンズの焦点距離をf
obj、としたときに、前記第2の干渉計は、デューティ比が、以下の式:
D<Fp/{π/(4λp)・(Dp/f
obj)・(Ma/Mp)・(Wa/Na)・Fa}<1
を満足するように、前記第2の光を周期1/Fpでパルス状に検出するように構成されている、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記第2の光源から出力される前記第2の光を利用して、前記被検眼の屈折力を計測する屈折力測定光学系をさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記眼科装置は、
前記第1の干渉光に基づいて、前記被検眼の前記前眼部の形状を算出するとともに、前記第2の干渉光に基づいて、前記被検眼の前記眼底の形状を算出する、演算装置をさらに備えており、
前記演算装置は、
予め測定された前記第1の範囲から前記第2の範囲までの距離を記憶しており、
算出した前記前眼部の形状及び前記眼底の形状と、予め測定された前記第1の範囲から前記第2の範囲までの距離に基づいて、前記被検眼の眼軸長を算出する、請求項1~7のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記第1の干渉計は、第1較正用ミラーを備えており、
前記第2の干渉計は、第2較正用ミラーを備えており、
前記演算装置は、
前記第1較正用ミラーの予め定められた第1の参照位置と、前記第2較正用ミラーの予め定められた第2の参照位置と、前記第1の参照位置から前記第2の参照位置までの距離と、を記憶しており、
前記前眼部の形状を算出するときに、測定された前記第1較正用ミラーの位置と前記第1の参照位置との間の第1の変位量を算出し、
前記眼底の形状を算出するときに、測定された前記第2較正用ミラーの位置と前記第2の参照位置との間の第2の変位量を算出し、
前記眼軸長を算出するときに、前記第1の変位量及び前記第2の変位量に基づいて、前記第1の範囲から前記第2の範囲までの距離を補正する、
請求項8に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、眼科装置に関する。詳細には、被検眼に対する複数種類の計測を実施可能な眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の屈折力や各部位(例えば、前眼部、眼底等)の形態等を計測する眼科装置が開発されている。被検眼の屈折力や各部位の形態等を総合して判断することによって、被検眼の疾患の診断や視機能の検査を的確に行うことができる。このためには、被検眼の各部位や被検眼全体に対する複数種類の計測が必要であり、複数種類の計測を実施可能な眼科装置が開発されている。例えば、特許文献1には、被検眼の角膜形状、屈折力、眼軸長等を計測する眼科装置が開示されている。特許文献1の眼科装置は、ケラト測定用リングによって角膜前面形状を計測し、光干渉によって眼軸長を計測する。また、特許文献2には、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography:OCT)によって前眼部と眼底を計測する眼科装置が開示されている。特許文献2の眼科装置は、1つの光源から出力された光を、ビームスプリッタによって波長の異なる2つの光に分割する。分割された光のうち、一方の光は前眼部OCT測定に用いられ、他方の光は眼底OCT測定に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-77774号公報
【文献】特開2017-502817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の眼科装置は、複数種類の計測を可能とするものであったが、それぞれの計測を別々に行うため、計測時間が長くなり、被検眼の測定効率が十分ではない。このため、被検者の負担の増大や、計測中に被検眼の状態が変化することによる測定精度の低下等の問題が生じる。本明細書は、被検眼に対する複数種類の計測を効率良く行うことができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する眼科装置は、被検眼に照射される第1の光を出力する第1の光源と、被検眼に照射される第2の光を出力する第2の光源と、第1の光の反射光から得られる第1の干渉光に基づいて被検眼の第1の範囲の検査を行う第1の干渉計と、第2の光の反射光から得られる第2の干渉光に基づいて被検眼の第1の範囲とは異なる第2の範囲の検査を行う第2の干渉計と、を備える。第1の光の中心波長と、第2の光の中心波長が異なっており、第1の光の光路である第1光路と、第2の光の光路である第2光路の少なくとも一部が重複しており、第1の範囲の検査と第2の範囲の検査とを同時に実行可能である。
【0006】
上記の眼科装置では、第1の光の中心波長と第2の光の中心波長が異なっているため、第1の光と第2の光によって、被検眼の異なる部位に強い光を照射することができる。このため、第1の光と第2の光のそれぞれを、第1の範囲の検査と第2の範囲の検査に好適な中心波長の光とすることによって、第1の範囲の検査と第2の範囲の検査を精度良く行うことができる。また、第1の光の光路である第1光路と、第2の光の光路である第2光路の少なくとも一部が重複し、第1の光と第2の光を被検眼に対して同時に照射することができる。このように、上記の眼科装置によれば、被検眼の別々の範囲に対する検査を、第1の干渉計及び第2の干渉計を用いて、同時に実行することができる。すなわち、上記の眼科装置では、被検眼に対する複数種類の計測(すなわち、第1の範囲の検査と第2の範囲の検査)を効率良く行うことができる。このため、従来と比較して計測時間を短縮することができ、被検眼に対する検査を略同一な状態の被検眼に対して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1の眼科装置の前眼部OCT干渉計及び眼底OCT干渉計の概略構成図。
【
図2】実施例1の眼科装置のプローブ光学系の概略構成図。
【
図3】前眼部OCT光学系における光の光路を模式的に示す図。
【
図4】眼底OCT光学系における光の光路を模式的に示す図。
【
図6】実施例1の眼科装置を用いて被検眼の検査を実行する処理を示すフローチャート。
【
図8】前眼部OCT干渉計で得られる干渉信号波形を処理する手順を説明するための図。
【
図9】被検眼への光の入射位置を所定の範囲で走査し、各入射位置について得られる情報(
図8に示される手順で得られる情報)から被検眼の各部位の位置を特定する手順を説明するための図。
【
図10】前眼部OCT測定におけるラジアルスキャン方式を説明するための図。
【
図11】眼底OCT干渉計で得られる干渉信号波形を処理する手順を説明するための図。
【
図12】OCT測定におけるスキャン分解能の導出を説明するための図。
【
図13】OCT測定における光学分解能の導出を説明するための図。
【
図14】被検眼への光の入射位置及び入射角を所定の範囲で走査し、各入射位置及び入射角について得られる情報(
図12に示される手順で得られる情報)から被検眼の各部位の位置を特定する手順を説明するための図。
【
図15】前眼部と眼底の間の距離の補正を説明するための図。
【
図16】前眼部OCT測定における較正用ミラーの深さ位置を示すピークの取得を説明するための図。
【
図17】眼底OCT測定における較正用ミラーの深さ位置を示すピークの取得を説明するための図。
【
図18】実施例2の眼科装置の前眼部OCT干渉計及び眼底OCT干渉計の概略構成図。
【
図20】サンプリングトリガー/クロック発生器の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0009】
本技術の一実施形態では、第1の範囲は被検眼の前眼部を含み、第2の範囲は被検眼の眼底を含んでもよい。このような構成によると、眼科検査において重要な被検眼の部位を好適に検査することができる。
【0010】
本技術の一実施形態では、第1の光源から出力される第1の光の中心波長は0.95μm以上1.80μm以下であり、第2の光源から出力される第2の光の中心波長は0.40μm以上1.15μm以下であってもよい。このような構成によると、第1の範囲と第2の範囲のそれぞれにより適した波長の光を照射することができる。このため、第1の範囲の検査と第2の範囲の検査をそれぞれ精度良く行うことができる。
【0011】
本技術の一実施形態では、第1光路と第2光路が重複する重複光路上に配置されており、第1の光源から出力される第1の光を走査するとともに、第2の光源から出力される第2の光を走査するスキャナをさらに備えてもよい。このような構成によると、第1の範囲に照射される第1の光を走査するためのスキャナと第2の範囲に照射される第2の光を走査するためのスキャナを共用することができる。このため、眼科装置内の構成が複雑化することを回避できると共に、部品点数を減らすことができる。
【0012】
本技術の一実施形態では、第2の光源は、第2の範囲の検査におけるスキャン分解能が第2の範囲の検査における光学分解能よりも大きい場合に、第2の光をパルス状に出力するように構成されてもよい。第2の範囲の検査の速度は、第1の範囲の検査の速度よりも遅く設定される場合がある。すなわち、第2の範囲の検査に要する時間が、第1の範囲の検査に要する時間よりも長く設定される場合がある。このような場合には、第1の光と第2の光を共用のスキャナで同時に走査する構成において、スキャナを第1の範囲の検査の速度に合わせて走査すると、第2の範囲の検査の速度が比較的に遅いために第2の干渉光から得られる干渉信号が減衰して、第2の範囲の検査を精度良く行えない場合がある。このように、スキャン方向のスキャン分解能が横方向の光学分解能より大きい場合には、第2の光を第2の範囲の検査の速度に合わせてパルス状に出力することにより、第2の干渉光から得られる干渉信号の減衰を抑制することができる。
【0013】
本技術の一実施形態では、第2の光源は、第2の範囲の検査におけるスキャン分解能が第2の範囲の検査における光学分解能よりも小さい場合に、第2の光を連続的に出力するように構成されてもよい。第2の範囲の検査におけるスキャン分解能が第2の範囲の検査における光学分解能よりも小さい場合、第2の光を連続的に出力しても、干渉信号の減衰が生じ難い。このため、第2の範囲の検査において、スキャン方向のスキャン分解能が横方向の光学分解能より小さい場合は、第2の光を連続的に出力する態様を採用することにより、第2の光源の制御が容易となる。
【0014】
本技術の一実施形態では、重複光路上に配置されており、スキャナと被検眼の間に配置される対物レンズをさらに備えてもよい。スキャナは、第1の光及び第2の光の進行方向を所定の方向へ変更するミラーを備えてもよい。そして、第1の範囲の検査におけるAスキャン速度をFa、第1の範囲の検査における被検眼の深さ方向に直交する第1の方向へのスキャン範囲をWa、第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNa、第1の範囲の検査におけるミラーの倍率をMa、第2の範囲の検査におけるAスキャン速度をFp、第2の範囲の検査における第1の方向へのスキャン範囲をWp、第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNp、第2の範囲の検査におけるミラーの倍率をMp、第2の光の中心波長をλp、第2の光のビーム径をDp、対物レンズの焦点距離をfobj、としたときに、第2の光源は、以下の式:
(Fp・λp・Mp)/Dp<(π/4)・(Ma/fobj)・(Wa/Na)・Fa
を満足する場合に、第2の光をパルス状に出力するように構成されてもよい。
このような条件を満たす場合には、第2の干渉光から得られる干渉信号が減衰し易い。このため、第2の光をパルス状に出力することによって、当該干渉信号の減衰を抑制することができる。
【0015】
なお、本明細書では、深さ方向の位置情報を含む干渉信号を取得することを、「Aスキャン」という。本明細書における「Aスキャン」は、本明細書に開示の眼科装置において特定の構成を動的に変化させることを必ずしも要さない。具体的には、本明細書における「Aスキャン」は、以下の態様を含む。例えば、「Aスキャン」は、SS-OCT(swept-source OCT)において、光源から出力される光の波長又は波数を掃引することにより、深さ方向における各深さの位置情報を含む干渉信号を取得する態様や、SD-OCT(Spectral-domain OCT)において、スペクトルを分光して波長毎又は波数毎に分解することにより、深さ方向における各深さの位置情報を含む干渉信号を取得する態様、TD-OCT(time-domain OCT)において、参照光の光路長を変化させることにより、被検眼の深さ方向における各深さの位置情報を含む干渉信号を取得する態様を含む。また、本明細書では、単位時間あたりに行われるAスキャンの繰り返し回数を「Aスキャン速度」という。例えば、1秒あたり10万回のAスキャンが行われる場合、Aスキャン速度は100kHzとなる。
【0016】
本技術の一実施形態では、重複光路上に配置されており、スキャナと被検眼の間に配置される対物レンズをさらに備えてもよい。スキャナは、第1の光及び第2の光の進行方向を所定の方向へ変更するミラーを備えてもよい。そして、第1の範囲の検査におけるAスキャン速度をFa、第1の範囲の検査における被検眼の深さ方向に直交する第1の方向へのスキャン範囲をWa、第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNa、第1の範囲の検査におけるミラーの倍率をMa、第2の範囲の検査におけるAスキャン速度をFp、第2の範囲の検査における第1の方向へのスキャン範囲をWp、第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNp、第2の範囲の検査におけるミラーの倍率をMp、第2の光の中心波長をλp、第2の光のビーム径をDp、対物レンズの焦点距離をfobj、としたときに、第2の光源は、以下の式:
(Fp・λp・Mp)/Dp>(π/4)・(Ma/fobj)・(Wa/Na)・Fa
を満足する場合に、第2の光を連続的に出力するように構成されてもよい。
このような条件を満たす場合には、第2の干渉光から得られる干渉信号が減衰し難い。このため、第2の光を連続的に出力することによって、第2の光源の制御を容易にすることができる。
【0017】
本技術の一実施形態では、第2の光源は、デューティ比Dが、以下の式:
D<Fp/{π/(4λp)・(Dp/fobj)・(Ma/Mp)・(Wa/Na)・Fa}
を満足するように、第2の光を周期1/Fpでパルス状に出力するように構成されてもよい。このような構成では、第2の範囲の検査における被検眼のAスキャン速度Fpに合わせて光を出力することにより、第2の干渉光から得られる干渉信号の減衰を好適に抑制することができる。なお、デューティ比は、例えば、第2の光を出力している時間をto、第2の光を出力していない時間をtsとすると、to/(to+ts)と表すことができる。
【0018】
本技術の一実施形態では、重複光路上に配置されており、スキャナと被検眼の間に配置される対物レンズをさらに備えてもよい。スキャナは、第1の光及び第2の光の進行方向を所定の方向へ変更するミラーを備えてもよい。そして、第1の範囲の検査におけるAスキャン速度をFa、第1の範囲の検査における被検眼の深さ方向に直交する第1の方向へのスキャン範囲をWa、第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNa、第1の範囲の検査におけるミラーの倍率をMa、第2の範囲の検査におけるAスキャン速度をFp、第2の範囲の検査における第1の方向へのスキャン範囲をWp、第1の方向へのスキャン範囲内におけるAスキャン回数をNp、第2の範囲の検査におけるミラーの倍率をMp、第2の光の中心波長をλp、第2の光のビーム径をDp、対物レンズの焦点距離をfobj、としたときに、前記第2の干渉計は、デューティ比が、以下の式:
D<Fp/{π/(4λp)・(Dp/fobj)・(Ma/Mp)・(Wa/Na)・Fa}
を満足するように、第2の光を周期1/Fpでパルス状に検出するように構成されてもよい。
第2の範囲の検査の速度は、第1の範囲の検査の速度よりも遅く設定される場合がある。すなわち、第2の検査に要する時間が、第1の範囲の検査に要する時間よりも長く設定される場合がある。このような場合には、第1の光と第2の光を共用のスキャナで同時に走査する構成において、スキャナを第1の範囲の検査の速度に合わせて走査すると、第2の範囲の検査の速度が比較的に遅いために第2の干渉光から得られる干渉信号が減衰して、第2の範囲の検査を精度良く行えない場合がある。上記の構成では、第2の干渉光を第2の範囲の検査におけるAスキャン速度Fpに合わせて検出することにより、第2の干渉光から得られる干渉信号の減衰を抑制することができる。なお、デューティ比は、例えば、第2の光を検出している時間をtd、第2の光を検出していない時間をtuとすると、td/(td+tu)と表すことができる。
【0019】
本技術の一実施形態では、第2の光源から出力される第2の光を利用して、被検眼の屈折力を計測する屈折力測定光学系をさらに備えてもよい。このような構成によると、第2の範囲の検査に用いられる光源と、被検眼の屈折力を計測するための光源を共用することができる。このため、眼科装置内の構成が複雑化することを回避できると共に、部品点数を減らすことができる。
【0020】
本技術の一実施形態では、第1の範囲は被検眼の前眼部を含み、第2の範囲は被検眼の眼底を含んでもよい。第1の干渉光に基づいて被検眼の前眼部の形状を算出するとともに、第2の干渉光に基づいて被検眼の眼底の形状を算出する演算装置をさらに備えてもよい。演算装置は、予め測定された第1の範囲から第2の範囲までの距離を記憶してもよく、算出した前眼部の形状及び眼底の形状と、予め測定された第1の範囲から第2の範囲までの距離に基づいて、被検眼の眼軸長を算出してもよい。このような構成によると、眼軸長の計測を含む被検眼に対する複数種類の計測を単一の眼科装置で行うことができる。
【0021】
本技術の一実施形態では、第1の干渉計は第1較正用ミラーを備えており、第2の干渉計は第2較正用ミラーを備えてもよい。演算装置は、第1較正用ミラーの予め定められた第1の参照位置と、第2較正用ミラーの予め定められた第2の参照位置と、第1の参照位置から第2の参照位置までの距離と、を記憶してもよい。演算装置は、前眼部の形状を算出するときに、測定された第1較正用ミラーの位置と第1の参照位置との間の第1の変位量を算出してもよい。演算装置は、眼底の形状を算出するときに、測定された第2較正用ミラーの位置と第2の参照位置との間の第2の変位量を算出してもよい。演算装置は、眼軸長を算出するときに、第1の変位量及び第2の変位量に基づいて、第1の範囲から第2の範囲までの距離を補正してもよい。このような構成によると、第1の干渉計における第1の光の光路長と第2の干渉計における第2の光の光路長との差が変動した場合であっても、第1の範囲から第2の範囲までの距離を好適に補正することができる。したがって、正確な眼軸長を算出することができる。
【実施例1】
【0022】
以下、実施例1に係る眼科装置1について説明する。
図1に示すように、眼科装置1は、被検眼Eの前眼部を断層撮影する前眼部OCT干渉計10と、被検眼Eの眼底を断層撮影する眼底OCT干渉計11を備えている。
【0023】
前眼部OCT干渉計10は、光干渉断層法により被検眼Eの前眼部の断層画像を撮影するために用いられる。前眼部OCT干渉計10では、光波の干渉をフーリエ空間で行うフーリエドメイン方式を採用しており、特に、時間的に波長を変化させて走査する波長走査光源を用いてスペクトル干渉信号を検出し、被検眼Eの前眼部を断層撮影する光周波数掃引OCT(swept-source OCT:SS-OCT)が用いられる。波長走査光源としては、例えば、回折格子やプリズム等による波長可変フィルタを用いた外部共振器型の波長掃引光源、共振器長可変のファブリペローチューナブルフィルタを用いる各種外部共振器型光源を用いることができる。また例えば、波長可変のDBR(Distributed Bragg Reflector)レーザーや、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)機構を用いた波長可変の面発光レーザー(VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser))などを用いることもできる。前眼部OCT干渉計10により撮影される断層画像から、被検眼Eの前眼部の各部(例えば、角膜、前房、水晶体等)の形状を計測することができる。なお、前眼部OCT干渉計10は、SS-OCTに限られず、例えば、フーリエドメイン方式を利用した他のOCT(例えば、スペクトルドメインOCT)や、フーリエドメイン方式以外の方式(例えば、タイムドメイン方式)であってもよい。
【0024】
図1に示すように、前眼部OCT干渉計10は、前眼部用光源12と、測定光学系20と、較正光学系30と、参照光学系40と、干渉光学系50を備える。
【0025】
前眼部用光源12は、波長掃引型の光源であり、出力される光の波長(波数)が所定の周期で変化する。前眼部用光源12は、長波長の光を出力し、例えば、中心波長が0.95μm以上1.80μm以下の光を出力することができる。本実施例では、前眼部用光源12は、中心波長が1.31μmの光を出力する。長波長の光を用いると、例えば、水晶体の混濁、毛様体、結膜、強膜等の強散乱組織を透過し易くなり、さらに、水の吸収が大きく眼底まで光が到達し難いため、強い光を照射可能である。このため、中心波長が0.95μm以上の光を前眼部用光源12から出力することによって、散乱物質からなる組織への到達度を高くすることができる。また、中心波長が0.95μm以上1.80μm以下の光は、水による分散が少ないため、この範囲の光を被検眼Eに照射すると、画質の良い前眼部OCT画像を取得することができる。また、中心波長が1.80μm以下の光を前眼部用光源12から出力することによって、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)系の受光素子によって感度良く対象部位を計測することができる。したがって、0.95μm以上1.80μm以下の光を前眼部用光源12から出力することによって、被検眼Eの前眼部の断層画像を好適に撮影することができる。
【0026】
前眼部用光源12には、偏光制御装置14及び光カプラ16が接続されている。したがって、前眼部用光源12から出力される光は、偏光制御装置14を介して光カプラ16に入力され、光カプラ16において、例えば9:1の比率で測定光と参照光とに分波されて、測定光学系20及び参照光学系40のそれぞれに入力される。
【0027】
測定光学系20は、光サーキュレータ22と、光カプラ24と、プローブ光学系26を備える。前眼部用光源12から測定光学系20に入力された測定光は、光サーキュレータ22に入力される。光サーキュレータ22に入力された測定光は、光カプラ24に入力され、光カプラ24において、例えば99:1の比率で分波されて、プローブ光学系26及び較正光学系30のそれぞれに入力される。
【0028】
図2に示すように、プローブ光学系26は、被検眼Eの前眼部を断層撮影する前眼部OCT光学系90と、被検眼Eの眼底を断層撮影する眼底OCT光学系92と、被検眼Eの屈折力を測定するレフ測定光学系94と、被検眼Eに対して眼科装置1を所定の位置関係にアライメントするアライメント光学系(図示省略)と、被検眼Eを観察する観察光学系(図示省略)を備える。アライメント光学系及び観察光学系は、公知の眼科装置に用いられているものを利用できるため、その詳細な説明は省略する。眼底OCT光学系92及びレフ測定光学系94については後述する。
【0029】
前眼部OCT光学系90は、ファイバコリメータ102と、ダイクロイックミラー104、110と、中央部に孔が設けられているミラー105(以下、孔あきミラー105という。)と、スキャナ106と、対物レンズ112を備える。光カプラ24からプローブ光学系26(すなわち、前眼部OCT光学系90)に入力された光は、ファイバコリメータ102から出射され、ダイクロイックミラー104に照射される。ダイクロイックミラー104は、0.90μmよりも長波長の光を反射し、0.90μmよりも短波長の光を透過する。前眼部用光源12から出力された光は中心波長が1.31μmであるため、ダイクロイックミラー104で反射される。ダイクロイックミラー104で反射された光は、孔あきミラー105の中央部の円孔を通過し、スキャナ106に照射される。スキャナ106は、例えば、ガルバノメーターであり、ガルバノメーターに装着されたガルバノミラー108によって、光の照射方向が所定の方向に変更される。スキャナ106から出射された光は、ダイクロイックミラー110に照射される。ダイクロイックミラー110は、0.90μmよりも長波長の光を反射し、0.90μmよりも短波長の光を透過する。スキャナ106から出射された光は中心波長が1.31μmであるため、ダイクロイックミラー110で反射される。そして、ダイクロイックミラー110で反射された光は、対物レンズ112を介して被検眼Eの前眼部(例えば、角膜、前房、水晶体等)に照射される。被検眼Eの前眼部から反射された測定光は、対物レンズ112、ダイクロイックミラー110、スキャナ106、孔あきミラー105、ダイクロイックミラー104を介してファイバコリメータ102に入射される。そして、
図1に示すように、再び光カプラ24を介して光サーキュレータ22に入力される。光サーキュレータ22に入力された測定光は、干渉光学系50の光カプラ52に入力される。
【0030】
測定光学系20の光カプラ24において分波された光は、上述したように、較正光学系30に入力される。
図1に示すように、較正光学系30は、レンズ32、35、38と、ダイクロイックミラー34と、ミラー39と、較正用ミラー36を備える。光カプラ24から較正光学系30に入力された光は、不図示のファイバコリメータから出射され、レンズ32を介してダイクロイックミラー34に照射される。ダイクロイックミラー34は、0.90μmよりも長波長の光を透過し、0.90μmよりも短波長の光を反射する。不図示のファイバコリメータから出射された光は、中心波長が0.90μmよりも長い(すなわち、1.31μm)ため、ダイクロイックミラー34を透過する。ダイクロイックミラー34を透過した光は、レンズ35を介して較正用ミラー36に入射される。較正用ミラー36によって反射された較正光は、再び、レンズ35、ダイクロイックミラー34及びレンズ32を介してファイバコリメータに入射され、光カプラ24を介して光サーキュレータ22に入力される。光サーキュレータ22に入力された較正光は、干渉光学系50の光カプラ52に入力される。なお、較正光学系30のレンズ38及びミラー39は、後述する眼底OCT干渉計11で用いられる。
【0031】
一方、光カプラ16において分波された参照光は、上述したように、参照光学系40に入力される。参照光学系40は、光サーキュレータ42と、レンズ44、47と、減衰器46と、参照ミラー48を備える。前眼部用光源12から参照光学系40に入力された参照光は、光サーキュレータ42に入力される。光サーキュレータ42に入力された参照光は、不図示のファイバコリメータから出射され、レンズ44、47を介して参照ミラー48に入射される。前眼部用光源12から出力される参照光の光路長は、0点調整機構(図示省略)によって調整される。なお、0点調整機構は、公知の眼科装置に用いられているものを利用することができるため、その詳細な説明は省略する。参照ミラー48によって反射された参照光は、再び、ファイバコリメータに入射され、光サーキュレータ42に入力される。光サーキュレータ42に入力された参照光は、干渉光学系50の光カプラ52に入力される。
【0032】
干渉光学系50は、光カプラ52と、受光素子54と、信号処理器56を備える。光カプラ52において、被検眼Eから反射された測定光と、参照光学系40により生成された参照光とが合波され、合波された測定用干渉光が受光素子54に入力される。また、光カプラ52において、較正光学系30により生成された較正光と、参照光学系40により生成された参照光とが合波され、合波された較正用干渉光が受光素子54に入力される。受光素子54としては、例えば、InGaAs系の素子を用いることができ、受光素子54において、測定用干渉光及び較正用干渉光の波長毎の干渉が計測される。そして、計測された干渉光の強度に応じた干渉信号が信号処理器56に入力される。信号処理器56は、取得した干渉信号をサンプリングする。信号処理器56には、公知のデータ収集装置(いわゆるDAQ)を用いることができる。サンプリングされた干渉信号は、後述する演算装置200に入力される。演算装置200は、干渉信号に対するフーリエ変換等の処理を行い、走査線に沿う前眼部の断層画像が取得される。
【0033】
図3を参照して、前眼部OCT光学系90におけるスキャンについて説明する。
図3は、ファイバコリメータ102から出射される光が被検眼Eまで照射される光路を示しており、光路上に配置された一部の光学部材(すなわち、ダイクロイックミラー104、スキャナ106、対物レンズ112)のみを図示し、その他の光学部材は図示を省略している。
図3に示すように、前眼部OCT光学系90では、スキャナ106が対物レンズ112の後焦点に配置される。このため、スキャナ106によって走査された光は、被検眼Eに対して光軸と平行に照射される。すなわち、前眼部OCT光学系90では、テレセントリックスキャンとなり、被検眼Eを断層撮影した際に、歪みのない画像を取得できる。また、ファイバコリメータ102の端面が、被検眼Eの前眼部と共役な位置に配置される。これによって、ファイバコリメータ102から出射される光を被検眼Eの前眼部に集光させることができる。したがって、前眼部OCT光学系90によって、被検眼Eの前眼部を好適に断層撮影することができる。
【0034】
次に、眼底OCT干渉計11について説明する。眼底OCT干渉計11は、光干渉断層法により被検眼Eの眼底を撮影するために用いられる。眼底OCT干渉計11では、光波の干渉をフーリエ空間で行うフーリエドメイン方式を採用しており、特に、広帯域波長の光を出力する波長固定光源と分光器を用いてスペクトル情報を検出し、被検眼Eの眼底を断層撮影するスペクトルドメインOCT(SD-OCT)が用いられる。眼底OCT干渉計11により撮影される断層画像から、被検眼Eの眼底の各部(例えば、網膜、脈絡膜等)の形状を計測することができる。なお、眼底OCT干渉計11は、SD-OCTに限られず、例えば、フーリエドメイン方式を利用した他のOCT(例えば、SS-OCT)や、フーリエドメイン方式以外の方式(例えば、タイムドメイン方式)であってもよい。
【0035】
図1に示すように、眼底OCT干渉計11は、眼底用光源62と、測定光学系66と、較正光学系30と、参照光学系70と、干渉光学系80を備える。
【0036】
眼底用光源62は、波長固定型の光源である。眼底用光源62は、前眼部用光源12から出力される光とは異なる中心波長を有する光を出力し、例えば、中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光を出力することができる。また例えば、眼底用光源62は、前眼部用光源12が出力する光の半値幅の波長範囲とは異なる波長範囲に半値幅を有する光を出力してもよい。本実施例では、眼底用光源62は、中心波長が0.83μmの光を出力する。中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光は、眼球内での透過率が高い。このため、中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光を光源から出力することによって、当該光を被検眼Eの眼底まで十分に照射することができる。また、中心波長が0.40μm以上0.95μm以下の光は、シリコン系の受光素子の感度が高い。また、中心波長が0.95μm以上1.15μm以下の光は、水による分散が少ないため、この範囲の光を被検眼Eに照射すると、画質の良い眼底OCT画像を取得することができる。したがって、中心波長が0.40μm以上1.15μm以下の光を光源から出力することによって、被検眼Eの眼底の断層画像を好適に撮影することができる。
【0037】
眼底用光源62には、光カプラ64が接続されている。したがって、眼底用光源62から出力される光は、光カプラ64に入力され、光カプラ64において、例えば9:1の比率で測定光と参照光とに分波されて、測定光学系66及び参照光学系70のそれぞれに入力される。
【0038】
測定光学系66は、光カプラ68と、プローブ光学系26を備える。眼底用光源62から測定光学系66に入力された測定光は光カプラ68に入力され、光カプラ68において、例えば99:1の比率で分波されて、プローブ光学系26及び較正光学系30のそれぞれに入力される。
【0039】
図2に示すように、プローブ光学系26の眼底OCT光学系92は、ファイバコリメータ114と、レンズ116、118、120と、ダイクロイックミラー104、110と、孔あきミラー105と、スキャナ106と、ミラー122、124、126と、対物レンズ112を備える。光カプラ68からプローブ光学系26(すなわち、眼底OCT光学系92)に入力された光は、ファイバコリメータ114から出射され、レンズ116、118を介してダイクロイックミラー104に照射される。上述したように、ダイクロイックミラー104は、0.90μmよりも短波長の光を透過するため、眼底用光源62から出力された光(中心波長が0.83μm)は、ダイクロイックミラー104を透過する。ここで、眼底OCT光学系92の光路は、前眼部OCT光学系90の光路と重複する。
【0040】
ダイクロイックミラー104を透過した光は、孔あきミラー105の中央部の円孔を通過し、スキャナ106に照射される。スキャナ106に照射された光は、光の照射方向が所定の方向に変更され、ダイクロイックミラー110に照射される。上述したように、ダイクロイックミラー110は、0.90μmよりも短波長の光を透過するため、レンズ118を透過した光(中心波長が0.83μm)は、ダイクロイックミラー110を透過する。ここで、眼底OCT光学系92の光路は、前眼部OCT光学系90の光路と再び異なる光路となる。
【0041】
ダイクロイックミラー110を透過した光は、レンズ120を介してミラー122、124、126で反射される。ミラー126で反射された光は、再びダイクロイックミラー110に照射され、上述したように、ダイクロイックミラー110を透過する。ここで再び、眼底OCT光学系92の光路は、前眼部OCT光学系90と重複する。ダイクロイックミラー110を透過した光は、対物レンズ112を介して被検眼Eの眼底(例えば、網膜、脈絡膜等)に照射される。
【0042】
上述したように、眼底OCT光学系92の光路は、ダイクロイックミラー104からスキャナ106を介してダイクロイックミラー110まで前眼部OCT光学系90の光路と重複し、ダイクロイックミラー110からレンズ120を介して再びダイクロイックミラー110に照射されるまで前眼部OCT光学系90の光路とは異なり、ダイクロイックミラー110から対物レンズ112を介して被検眼Eまで前眼部OCT光学系90の光路と重複する。
【0043】
被検眼Eの眼底から反射された測定光は、対物レンズ112、ダイクロイックミラー110、ミラー126、124、122、レンズ120、ダイクロイックミラー110、スキャナ106、孔あきミラー105、ダイクロイックミラー104、レンズ118、116を介してファイバコリメータ114に入射される。そして、
図1に示すように、再び光カプラ68を介して光カプラ64に入力される。光カプラ64に入力された測定光は、干渉光学系80に入力される。
【0044】
測定光学系66の光カプラ68において分波された光は、上述したように、較正光学系30に入力される。
図1に示すように、較正光学系30に入力された光は、不図示のファイバコリメータから出射され、レンズ38、ミラー39を介してダイクロイックミラー34に照射される。上述したように、ダイクロイックミラー34は、0.90μmよりも短波長の光を反射するため、ミラー39を透過した光(中心波長が0.83μm)は、ダイクロイックミラー34に反射される。ダイクロイックミラー34で反射された光は、レンズ35を介して較正用ミラー36に入射される。較正用ミラー36によって反射された較正光は、再び、レンズ35、ダイクロイックミラー34、ミラー39及びレンズ38を介してファイバコリメータに入射され、光カプラ68、64を介して干渉光学系80に入力される。
【0045】
一方、光カプラ64において分波された参照光は、上述したように、参照光学系70に入力される。参照光学系70は、レンズ72、74と、参照ミラー76を備える。眼底用光源62から参照光学系70に入力された参照光は、不図示のファイバコリメータから出射され、レンズ72、74を介して参照ミラー76に入射される。眼底用光源62から出力される参照光の光路長は、0点調整機構(図示省略)によって調整される。参照ミラー76によって反射された参照光は、再び、ファイバコリメータに入射され、光カプラ64を介して干渉光学系80に入力される。
【0046】
干渉光学系80は、レンズ82、88と、回折格子84と、プリズム86と、受光素子89を備える。干渉光学系80において、被検眼Eから反射された測定光と、参照光学系70により生成された参照光とが合波され、合波された測定用干渉光が受光素子89に入力される。また、較正光学系30により生成された較正光と、参照光学系70により生成された参照光とが合波され、合波された較正用干渉光が受光素子89に入力される。具体的には、測定用干渉光と較正用干渉光が、不図示のファイバコリメータから出射され、レンズ82を介して回折格子84を通過する。これにより、各干渉光が波長スペクトルに分離される。そして、分離された各光は、プリズム86に入射することによって、波長に対してリニアなスペクトルデータから波数に対してリニアなスペクトルデータ(波数スペクトル)へ変換される。そして、プリズム86において波数スペクトルに変換された各光は、レンズ88を介して受光素子89に入力される。受光素子としては、例えば、ラインセンサ(CCDカメラ等)を用いることができる。受光素子89において、測定用干渉光及び較正用干渉光の波数毎の干渉が計測される。そして、計測された干渉光の強度に応じた干渉信号は、後述する演算装置200に入力される。演算装置200は、干渉信号に対するフーリエ変換等の処理を行い、走査線に沿う眼底の断層画像が取得される。
【0047】
図4を参照して、眼底OCT光学系92におけるスキャンについて説明する。
図4は、ファイバコリメータ114から出射される光が被検眼Eまで照射される光路を示しており、光路上に配置された一部の光学部材(すなわち、レンズ116、118、120、ダイクロイックミラー104、スキャナ106、対物レンズ112)のみを図示し、その他の光学部材は図示を省略している。
図4に示すように、眼底OCT光学系92では、スキャナ106と被検眼Eとの間に2つのレンズ112、120が配置される。また、スキャナ106は被検眼Eの眼球内部と共役な位置に配置される。これによって、眼底OCT光学系92では、被検眼Eの眼球内にピボットを結ぶピボットスキャンとなる。通常、ピボットスキャンの場合には、被検眼Eの瞳孔にピボットを結ばせるため、例えば、被検眼Eの水晶体に混濁部位があると、眼底まで十分に光を照射することが難しくなる。本実施例では、被検眼Eの眼底と水晶体との間でピボットを結ばせるため、被検眼Eの水晶体の状態に関わらず、眼底まで光を照射することが容易となる。
【0048】
また、ファイバコリメータ114の端面が、被検眼Eの眼底と共役な位置に配置される。これによって、ファイバコリメータ114から出射される光を被検眼Eの眼底に集光させることができる。なお、後述の焦点調整機構140を駆動することによって、レンズ116の位置を変更することができる。これによって、被検眼Eの屈折力に応じて、ファイバコリメータ114から出射される光を被検眼Eの眼底に集光させることができる。したがって、眼底OCT光学系92によって、被検眼Eの眼底を好適に断層撮影することができる。
【0049】
次に、レフ測定光学系94について説明する。レフ測定光学系94は、被検眼Eの屈折力を計測するために用いられる光学系である。本実施例では、被検眼Eの屈折力を計測するために、眼底OCT光学系92に用いられた眼底用光源62を利用する。レフ測定光学系94は、ファイバコリメータ114と、レンズ116、118、120、130、134と、ダイクロイックミラー104、110と、孔あきミラー105と、スキャナ106と、ミラー122、124、126、128と、対物レンズ112と、絞り132と、リングレンズ136と、センサ138と、焦点調整機構140と、雲霧機構(図示省略)を備える。
【0050】
レフ測定光学系94では、
図1に示す眼底用光源62から出力された光が、ファイバコリメータ114から出射され、被検眼Eに照射されるまで上述した眼底OCT光学系92と同じ光路を通過する。すなわち、レフ測定光学系94では、ファイバコリメータ114から出射された光は、レンズ116、118、ダイクロイックミラー104、孔あきミラー105、スキャナ106、ダイクロイックミラー110、レンズ120、ミラー122、124、126、ダイクロイックミラー110、対物レンズ112を介して、被検眼Eに照射される。
【0051】
被検眼Eからの反射光は、対物レンズ112、ダイクロイックミラー110、ミラー126、124、122、レンズ120、ダイクロイックミラー110、スキャナ106を介して、孔あきミラー105に照射される。孔あきミラー105に照射された光は、孔あきミラー105に設けられた円孔の周辺部に配置される反射面で反射され、ミラー128で反射される。ミラー128で反射された光は、レンズ130、絞り132、レンズ134、リングレンズ136を介して、センサ138で検出される。リングレンズ136は、レンズ134側に配置されるリング状のレンズ部と、センサ138側に配置される遮光部を備えている。遮光部は、レンズ部に接続する部分以外の部分が遮光されている。リングレンズ136に入射した光は、リングレンズ136からリング状の光となって出射される。センサ138は、リングレンズ136から出射されるリング状の光を検出する。センサ138は、例えば、CCDカメラであり、センサ138で検出(撮影)された画像は演算装置に入力される。
【0052】
レフ測定光学系94では、ファイバコリメータ114から被検眼Eまでの光路が、眼底OCT光学系92と重複している。このため、レフ測定光学系94におけるスキャンは、眼底OCT光学系92と同様にピボットスキャンとなる。このため、眼底OCT光学系92と同様に、被検眼Eの水晶体の状態に関わらず、眼底まで光を照射することができる。また、眼底上をスキャンすることで、眼底疾患や血管など眼底からの反射を減衰させる要素がある場合においても、良好な画像を得ることができる。
【0053】
また、レフ測定光学系94は、焦点調整機構140を備えている。焦点調整機構140は、ファイバコリメータ114と、レンズ116、134と、絞り132と、リングレンズ136と、センサ138を光軸方向(Z軸方向)に一体的に移動させる駆動装置(図示省略)を備えている。焦点調整機構140は、駆動装置を駆動することによって、ファイバコリメータ114の位置とセンサ138の位置を光軸方向に一体的に移動できる。これによって、被検眼Eの屈折力に応じて、ファイバコリメータ114の位置とセンサ138の位置を被検眼Eと共役な位置に移動することができ、精度よくレフ測定を行うことができる。
【0054】
また、本実施例の眼科装置1は、前眼部OCT光学系90の光路と、眼底OCT光学系92の光路が重複する重複光路上に、スキャナ106が配置されている。すなわち、スキャナ106によって、前眼部OCT光学系90におけるスキャンと、眼底OCT光学系92におけるスキャンの両方を行っている。このため、眼科装置1内の構成が複雑化することを回避できると共に、部品点数を減らすことができる。
【0055】
図5を参照して、本実施例の眼科装置1の制御系の構成について説明する。
図5に示すように、眼科装置1は演算装置200によって制御される。演算装置200は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。演算装置200には、前眼部OCT干渉計10内の前眼部用光源12、受光素子54及び信号処理器56と、眼底OCT干渉計11内の眼底用光源62及び受光素子89と、スキャナ106と、センサ138と、焦点調整機構140と、タッチパネル142が接続されている。
【0056】
演算装置200は、前眼部用光源12のオン/オフを制御するとともに、スキャナ106を駆動することで、被検眼Eの前眼部に照射される光を走査する。また、演算装置200には、信号処理器56でサンプリングされた干渉信号が入力される。演算装置200は、当該干渉信号をフーリエ変換することによって断層画像を生成し、被検眼Eの前眼部の各部位(例えば、角膜、前房、水晶体等)の位置を特定し、前眼部の各組織の形状を算出する。
【0057】
同様に、演算装置200は、眼底用光源62のオン/オフを制御するとともに、スキャナ106を駆動することで、被検眼Eの眼底に照射される光を走査する。また、演算装置200には、受光素子89で検出される干渉光の強度に応じた干渉信号が入力される。演算装置200は、受光素子89からの干渉信号をフーリエ変換することによって断層画像を生成し、被検眼Eの眼底の各部位(例えば、網膜、脈絡膜等)の位置を特定し、眼底の各組織の形状を算出する。
【0058】
また、演算装置200には、センサ138で検出された電気信号(撮影された画像)が入力され、演算装置200は、入力された画像に基づいて被検眼Eの屈折力を算出する。演算装置200に入力されたデータや算出結果は、メモリ(図示省略)に記憶される。また、演算装置200は、算出した前眼部の形状及び眼底の形状に基づいて、被検眼Eの眼軸長を算出する。眼軸長の算出については、後述する。
【0059】
さらに、演算装置200は、タッチパネル142を制御する。タッチパネル142は、被検眼Eの計測結果に関する各種の情報を検査者に提供する表示部として機能するとともに、検査者からの指示を受け付ける入力部としても機能する。例えば、タッチパネル142は、演算装置200によって生成された被検眼Eの前眼部の断層画像や眼底の断層画像、算出された屈折力、その他スキャンによって取得したデータ等を表示することができる。また、例えば、タッチパネル142は、眼科装置1の各種設定を入力することができる。なお、本実施例の眼科装置1は、タッチパネル142を備えるが、上記の情報の表示及び入力が可能な構成であればよく、モニタと入力装置(例えば、マウス、キーボード等)を備える構成であってもよい。
【0060】
なお、本実施例では、演算装置200は、上述した前眼部用光源12による被検眼Eの前眼部への光の照射と、眼底用光源62による被検眼Eの眼底への光の照射を同時に実行する。すなわち、演算装置200は、前眼部用光源12からの光と眼底用光源62からの光の双方がスキャナ106に入射している状態でスキャナ106を駆動することによって、前眼部から得られる干渉信号と眼底から得られる干渉信号を取得する。このため、本実施例では、略同じ状態の被検眼Eにおける被検眼Eの前眼部及び眼底を測定することができる。以下、
図6~15を参照して、被検眼Eの前眼部、眼底、屈折力及び眼軸長を測定する処理について説明する。
【0061】
図6は、眼科装置1を用いて、被検眼Eに対する各種測定を実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図6に示すように、まず、検査者がタッチパネル142に検査開始の指示を入力すると、演算装置200は、被検眼Eと眼科装置1のアライメントを実行する(S12)。アライメントは、眼科装置1が備えるアライメント光学系(図示省略)を用いて実行される。なお、アライメント光学系を用いたアライメントは、公知の眼科装置に用いられている方法を採用することができるため、その詳細な説明は省略する。
【0062】
被検眼Eと眼科装置1のアライメントが完了すると、演算装置200は、レフ測定を実行する(S14)。レフ測定は、以下の手順で実行される。まず、演算装置200は、スキャナ106を調整する。このとき、演算装置200は、予め設定された値(初期設定値)に基づいて、スキャンするサークル径と被検眼Eへの照射位置を調整する。初期設定値は、例えば、模擬眼の瞳孔径に基づいて、当該瞳孔径より小さい値に設定することができる。また、検査対象者が以前に検査を受けている場合には、当該検査時の測定結果に基づいて、スキャナ106を調整してもよい。
【0063】
スキャナ106の調整が終わると、演算装置200は、眼底用光源62をオンにして、センサ138で検出される画像を取り込み、当該画像を解析することによって屈折力を測定する。このとき、不図示の雲霧機構を用いて、被検眼Eの水晶体による屈折調節力を排除した状態で、屈折力を測定してもよい。なお、雲霧機構は、公知の眼科装置に用いられているものを採用することができるため、その詳細な説明は省略する。
【0064】
レフ測定が終了すると、演算装置200は、S14のレフ測定の結果に基づいて、焦点調整機構140を調整する(S16)。例えば、被検眼Eが遠視眼や近視眼である場合には、演算装置200は、焦点調整機構140を駆動して、眼底用光源62及びセンサ138の位置を被検眼Eに対して移動させ、センサ138を被検眼Eの眼底と共役な位置まで移動させる。
【0065】
次に、演算装置200は、前眼部OCT測定と眼底OCT測定を同時に実行する(S18)。まず、前眼部OCT測定について、
図7を参照して説明する。
図7に示すように、演算装置200は、ガルバノミラー108を走査角範囲内の1つの走査角に調整する(S32)。これにより、前眼部用光源12からの光は、調整された走査角に対応した入射位置及び入射角度で被検眼Eに入射することになる。
【0066】
ガルバノミラー108の調整が終わると、演算装置200は、前眼部用光源12をオンにして、前眼部用光源12から照射される光の周波数を変化させながら、信号処理器56でサンプリングされた干渉信号を取り込む(S34)。信号処理器56でサンプリングされた干渉信号は、
図8に示すように、信号強度が時間によって変化する信号となり、この信号は被検眼Eの各部(例えば、角膜の前面及び後面、水晶体の前面及び後面等)から反射された各反射光と参照光とを合成した干渉波による信号となる。そこで、演算装置200は、信号処理器56から入力される信号をフーリエ変換することで、その信号から被検眼Eの各部の深さ方向の位置を特定することができる。上記の前眼部OCT測定では、Aスキャン速度は、例えば、約100kHzに設定される。
【0067】
次に、演算装置200は、S34の測定を、測定前に予め設定された全ての走査角(すなわち、全ての入射位置及び入射角度)について実施したか否かを判断する(S36)。全ての走査角についてS34の測定を実施していない場合(S36でNO)、演算装置200は、S32に戻って、S32~S36の処理を繰り返す。これにより、ガルバノミラー108を走査する各走査角について、Aスキャンにより得られる干渉信号が取得される。本実施例では、前眼部OCT測定のAスキャン速度(約100kHz)に合わせてガルバノミラー108が走査される。なお、本明細書では、ガルバノミラー108の走査角を変化させることで、光源からの光の入射位置及び入射角度を変化させることを、「Bスキャン」という。前眼部OCT測定では、Bスキャン範囲(Bスキャンの幅)が、例えば、約16mmとなるようにガルバノミラー108が走査される。
【0068】
全ての走査角についてS34の測定を実施した場合(S36でYES)、演算装置200は、各走査角について得られた干渉信号から、被検眼Eの各部位(例えば、角膜の前面及び後面、水晶体の前面及び後面等)の位置を特定する(S38)。具体的には、各走査角についてS34の処理を実行すると、各走査角について干渉信号の情報(Aスキャン情報)が取得される。したがって、
図9に示すように、走査角の数(n個)だけ干渉信号情報(Aスキャン情報)が並んだ二次元情報が得られる。このため、演算装置200は、各干渉信号情報に含まれる被検眼Eの各部位(例えば、角膜、前房、虹彩、水晶体等)の境界線を算出することで、被検眼Eの各部位の位置を特定する。なお、前眼部OCT測定では、例えば、約800個の走査角についてのAスキャン情報を取得する。したがって、約800個の干渉信号情報(Aスキャン情報)が並んだ二次元情報が得られる。
【0069】
本実施例において、S14における前眼部OCT測定は、
図10に示すラジアルスキャンの方式により実行される。これにより、前眼部の断層画像が全領域に亘って取得される。つまり、Bスキャン方向を被検眼Eの角膜頂点から放射方向に設定し、Cスキャン方向を円周方向として断層画像の取り込みが行われる。演算装置200は、取得(撮影)された断層画像のデータを、メモリに取り込む。
【0070】
上述したように、前眼部OCT光学系90では、テレセントリックスキャンとなっている。このため、前眼部OCT測定において、歪みのない断層画像を取得することができる。また、前眼部OCT光学系90では、ファイバコリメータ102の端面が被検眼Eの前眼部と共役な位置に配置されると共に、前眼部用光源12は、被検眼Eの前眼部の断層画像を撮影するために好適な波長の光を出力する。このため、前眼部OCT測定において、被検眼Eの前眼部の形状を好適に算出することができる。
【0071】
次に、眼底OCT測定について説明する。上述したように、眼底OCT測定は、前眼部OCT測定と同時に実行される(S18)。したがって、眼底OCT測定も前眼部OCT測定と同様に、
図7に示すフローチャートに従って実行される。具体的には、演算装置200が眼底用光源62を前眼部用光源12とともにオンすることにより、眼底用光源62からの光を、上述したS32において調整された走査角に対応した入射位置及び入射角度で被検眼Eに入射させ、波数スペクトルに分離された光の干渉信号を取り込む(S34)。なお、演算装置200は、眼底用光源62から光をパルス状に出力し、さらにその光出力と同期して受光素子89からの信号を受信する。すなわち、演算装置200は、所定の周期で眼底用光源62のオン/オフを繰り返しながら干渉信号を取得する。眼底OCT測定における光のパルス照射については後述する。眼底OCT測定では、Aスキャン速度は、例えば、約10kHzに設定される。
【0072】
眼底OCT光学系92では、眼底用光源62が、被検眼Eの眼底まで照射される波長の光を照射し、眼底用光源62から照射される光が、被検眼Eの眼底に集光するように各光学部材が配置されている。このため、
図11に示すように、演算装置200は、例えば、網膜等の被検眼Eの眼底部の位置を特定することができる。この測定を、上述のS36と同様に、予め設定された全ての走査角で実施するまで繰り返す。眼底OCT測定では、Bスキャン範囲が、例えば、3.8mmとなるようにガルバノミラー108が走査される。また、眼底OCT測定では、例えば、約80個の走査角についてのAスキャン情報を取得する。なお、本実施例では、眼底用光源62から出力される光と、前眼部用光源12から出力される光は、スキャナ106により同時に走査される。このため、上述したS12のアライメントでは、前眼部OCT測定におけるBスキャン範囲と、眼底OCT測定におけるBスキャン範囲のそれぞれが、上述した範囲(すなわち、それぞれ約16mm、約3.8mm)となるように、対物レンズ112の焦点距離等に基づいて、スキャナ106、対物レンズ112、レンズ120等の位置が調整される。
【0073】
本実施例では、眼底OCT測定におけるAスキャン速度(約10kHz)は、前眼部OCT測定におけるAスキャン速度(約100kHz)よりも遅い。このため、各測定における各光をスキャナ106により同時に走査した場合、眼底OCT測定により得られるAスキャン情報の数(Aスキャン本数)は、前眼部OCT測定により得られるAスキャン情報の数よりも少なくなる。ここで、一般的に、フーリエドメイン方式を採用するOCT測定では、Aスキャンとともに行われるBスキャン(ミラーの走査角の変化による測定光の入射位置及び入射角度の変化(すなわち、被検眼の深さ方向に直交する方向における測定光のスキャン))が比較的に高速で行われる場合、ある走査角におけるAスキャンの測定中に当該走査角が変化することにより、本来の測定位置からずれることに起因して、干渉光から得られる干渉信号が減衰又は消失してしまうという現象が知られている。すなわち、本実施例においては、OCT測定におけるスキャン分解能(Aスキャン1本あたりのBスキャン範囲(すなわち、隣接するAスキャン同士の間隔))が、OCT測定における光学分解能よりも大きい場合、干渉光から得られる干渉信号が減衰する現象(いわゆる、フリンジウォッシュアウト(fringe washout))が生じる場合がある。したがって、スキャン分解能は、光学分解能よりも小さく設定されることが望ましい。以下、スキャン分解能及び光学分解能の導出について説明する。
【0074】
図12は、前眼部OCT測定及び眼底OCT測定におけるスキャン分解能の導出を説明するための図を示している。
図12に示すように、前眼部OCT測定のBスキャン範囲をWa、対物レンズの焦点距離をf
obj、ガルバノミラーの振り角をθとすると、ガルバノミラー面でのビームの全振り角が2θとなるため、Wa=f
obj・2tanθの関係が成立する。また、ガルバノミラーが実体でなく実像である場合には、ガルバノミラーの倍率をMaとすると、Wa=f
obj・2tanθ/Maの関係が成立する。一方、眼底OCT測定のBスキャン範囲をWp、対物レンズの焦点距離をf
obj、レンズの焦点距離をf
relay、被検眼の眼球焦点距離をf
eye、ガルバノミラーの振り角をθとすると、Wp=(f
eye・f
relay/f
obj)・2tanθの関係が成立する。また、ガルバノミラーに対する実像Rの倍率をMpとすると、Wp=f
eye・2tanθ/Mpの関係が成立する。したがって、眼底OCT測定のスキャン分解能δWpは、1つのBスキャン内のAスキャン本数をNpとすると、δWp=(f
eye・2tanθ/Mp)/Npと表すことができる。
【0075】
本実施例では、前眼部OCT測定と眼底OCT測定において、スキャナ106を共用している。このため、前眼部OCT測定と眼底OCT測定におけるガルバノミラー108の振り角θは共通となる。したがって、眼底OCT測定におけるスキャン分解能δWpは、δWp=(feye/fobj)・(Ma/Mp)・(Wa/Np)と表すことができる。さらに、1つのBスキャンに要する時間をT、前眼部OCT測定におけるAスキャン速度をFa及びAスキャン本数をNa、眼底OCT測定におけるAスキャン速度をFp及びAスキャン本数をNpとすると、T=Na/Fa=Np/Fpの関係が成立する。したがって、本実施例では、眼底OCT測定のスキャン分解能δWpは、δWp=(feye/fobj)・(Ma/Mp)・(Wa/Na)・(Fa/Fp)と導出される。
【0076】
図13は、眼底OCT測定における光学分解能の導出を説明するための図を示している。光源から出力される光がシングルモードである場合、
図13に示すように、光の中心波長をλ、レンズLeの焦点距離をF、レンズLeに入射する光のビーム径をDとすると、光学分解能2dは、2d=(4λ/π)・(F/D)と表される。したがって、本実施例では、眼底OCT測定の光学分解能2dpは、眼底用光源62から出力される光の中心波長をλp、被検眼Eの眼球焦点距離をf
eye、角膜に入射する光のビーム径をDpとすると、2dp=(4λp/π)・(f
eye/Dp)と導出される。
【0077】
上述したように、フリンジウォッシュアウトを生じさせないためには、スキャン分解能が光学分解能よりも小さいことを要する。すなわち、δWp<2dpの関係が成立することを要する。したがって、上記で導出した眼底OCT測定のスキャン分解能及び光学分解能より、(Fp・λp・Mp)/Dp>(π/4)・(Ma/fobj)・(Wa/Na)・Faの関係が成立する場合に、フリンジウォッシュアウトの発生を防止することができる。本実施例では、上述したように、前眼部OCT測定の各条件が、Fa=100kHz、Wa=16mm、Na=800本であるため、例えば、他の条件をMa=1、fobj=70mm、λp=0.83μm、Dp=1mm、Mp=1とすると、眼底OCT測定におけるAスキャン速度Fpを、Fp>27036Hzとすることによりフリンジウォッシュアウトの発生を防止することができる。
【0078】
本実施例では、眼底OCT測定のAスキャン速度が約10kHzに設定されている。このため、仮に眼底用光源62から光を連続的に出力した場合、眼底OCT測定で得られる干渉信号にフリンジウォッシュアウトが生じる。これに対して、本実施例では、上述したように、眼底OCT測定においてAスキャン速度を約10kHzに設定しつつ、眼底用光源62からの光を眼底OCT測定におけるAスキャン速度に合わせた周期でパルス状に出力する。本実施例の場合、Fp/{π/(4λp)・(Dp/fobj)・(Ma/Mp)・(Wa/Na)・Fa}未満のデューティ比で眼底用光源62から光を周期1/Fpでパルス状に出力することによってフリンジウォッシュアウトの発生を好適に防止することができる。すなわち、本実施例では、眼底用光源62が出力する光を、デューティ比が10000/27036未満で、周期が100μsとなるようにパルス照射することによって、フリンジウォッシュアウトの発生を防止することができる。
【0079】
全ての走査角について測定が終了すると、上述のS38と同様に、演算装置200は、各走査角について得られた干渉信号から、被検眼Eの各部位(例えば、網膜、脈絡膜等)の位置を特定する。眼底OCT光学系92では、前眼部OCT光学系90と異なり、ピボットスキャンとなっている。このため、
図14に示すように、各走査角において被検眼Eの眼球内でピボットを結んだ二次元情報が得られる。このため、演算装置200は、各干渉信号情報に含まれる被検眼Eの各部位の位置情報の平均値を算出することで、被検眼Eの各部位の位置を特定する。この測定結果から、被検眼Eの眼底の形状を算出することができる。
【0080】
前眼部の形状の算出及び眼底の形状の算出が終了すると、演算装置200は、較正用ミラー36から得られる干渉信号に基づいて、被検眼Eの前眼部と眼底の間の距離を補正する(S20)。
図15を用いて、前眼部と眼底の間の距離の補正について説明する。
図15の処理は、被検眼Eの検査を行う前に予め実行される。
図15に示すように、演算装置200は、まず、光路長が既知の対象物(例えば、模擬眼)に対して、前眼部OCT測定及び眼底OCT測定をそれぞれ実行する(S52)。模擬眼に対して前眼部OCT測定を行うと、
図16に示すように、測定用干渉光から得られる模擬眼の前眼部の各部位の深さ位置を示すピークと、較正用干渉光から得られる較正用ミラー36の深さ位置を示すピークを取得することができる。演算装置200は、各走査角についての較正用ミラー36の深さ位置を示すピークを取得することによって、前眼部の断層画像に較正用ミラー36の深さ位置を示す信号を重畳し、前眼部用光源12から前眼部の所定の部位(例えば、角膜の前面)までの光路長と、前眼部用光源12から較正用ミラー36までの光路長の差D1を算出する(S54)。また、演算装置200は、前眼部OCT測定における較正用ミラー36の干渉信号の深さ位置を参照位置Z
Aiとしてメモリに記憶する(S56)。
【0081】
同様に、演算装置200は、模擬眼に対して眼底OCT測定をし、
図17に示すように、測定用干渉光から得られる模擬眼の眼底の各部位の深さ位置を示すピークと、較正用干渉光から得られる較正用ミラー36の深さ位置を示すピークを取得する。演算装置200は、各走査角についての較正用ミラー36の深さ位置を示すピークを取得することによって、眼底の断層画像に較正用ミラー36の深さ位置を示す信号を重畳し、眼底用光源62から眼底の所定の部位(例えば、網膜)までの光路長と、眼底用光源62から較正用ミラー36までの光路長の差D2を算出する(S58)。また、演算装置200は、眼底OCT測定における較正用ミラー36の干渉信号の深さ位置を参照位置Z
Piとしてメモリに記憶する(S60)。
【0082】
そして、演算装置200は、参照位置ZAiと参照位置ZPiの間の距離(光路長差)Liを算出する(S62)。模擬眼の各部位の深さ位置は既知である。したがって、例えば、模擬眼の角膜の前面から網膜までの距離と、算出した光路長差D1、D2とに基づいて、参照位置ZAiと参照位置ZPiの光路長差Liを算出することができる。演算装置200は、算出した光路長差Liをメモリに記憶する(S64)。
【0083】
眼科装置1によるOCT測定においては、各干渉計10、11の光路長が変動する場合がある。例えば、被検眼Eに対する測定を行うときの前眼部OCT干渉計10の光路長が、模擬眼を測定した際の前眼部OCT干渉計10の光路長から変動すると、被検眼Eに対する測定を行うときの較正用ミラー36の干渉信号の深さ位置が、模擬眼を測定した際の較正用ミラー36の干渉信号の参照位置Z
Aiから変位する。本実施例では、このように干渉計の光路長が変動した場合であっても、較正用ミラー36の参照位置Z
Ai、Z
Piに基づいて、OCT測定時の各干渉計10、11の光路長差を算出することができる。具体的には、
図6のS18における被検眼Eに対する前眼部OCT測定及び眼底OCT測定を行ったときの較正用ミラー36の深さ位置をそれぞれZ
A、Z
Pとすると、深さ位置Z
Aから深さ位置Z
Pまでの距離(光路長差)Lは、L=L
i+(Z
A-Z
Ai)+(Z
P-Z
Pi)と算出することができる。このように、実際の測定時の光路長差Lを算出することによって、前眼部から眼底までの距離を補正する(S20)。
【0084】
前眼部と眼底の間の距離の補正が完了すると、演算装置200は、被検眼Eの眼軸長を算出する(S22)。すなわち、S20で算出した深さ位置ZA、ZP及び光路長差Lと、前眼部OCT測定において算出した前眼部の各部位の深さ位置と、眼底OCT測定において算出した眼底の各部位の深さ位置とに基づいて、被検眼Eの眼軸長を算出する。
【0085】
全ての測定(レフ測定、前眼部OCT測定、眼底OCT測定)が終了すると、演算装置200は、タッチパネル142に解析結果を出力する(S24)。本実施例の眼科装置1は、前眼部OCT測定、眼底OCT測定、レフ測定の各種測定を実施することができるため、被検眼Eの状態を総合的に解析することができる。解析結果としては、例えば、白内障手術の術前において被検眼の測定を実施することによって、眼内レンズ(Intraocular lens、IOL)度数計算、角膜収差、水晶体の混濁状態を算出することができる。また、白内障手術の術前において被検眼の測定を実施することによって、術前に予測した術後の被検眼Eの屈折力に対するエラーを評価することができ、IOL度数計算の精度向上に役立てることができる。また、緑内障である被検眼の測定を実施することによって、眼底の網膜厚分布から緑内障の進行を予測することができたり、閉塞隅角症をスクリーニングしたりできる。また、強度近視である被検眼の測定を実施することによって、被検眼の状態を詳細かつ総合的に検査することができる。
【0086】
上述したように、本実施例の眼科装置1は、前眼部に照射する光の中心波長と、眼底に照射する光の中心波長が異なっている。このため、前眼部及び眼底のそれぞれの検査に好適な波長の光を照射し、前眼部及び眼底のそれぞれの検査を行うことができる。したがって、本実施例の眼科装置1によれば、前眼部及び眼底の計測を精度良く行うことができる。さらに、本実施例の眼科装置1では、前眼部用光源12から出力される光の光路と、眼底用光源62から出力される光の光路の一部が重複している。このため、双方の光を被検眼Eに対して同時に照射することができる。したがって、本実施例の眼科装置1によれば、被検眼Eの別々の範囲(すなわち、前眼部及び眼底)に対する検査を、効率良く行うことができる。このため、被検眼Eに対する複数種類の計測を略同一な状態の被検眼Eに対して行うことができる。このように、眼科装置1では、被検者への負担を低減するとともに、被検眼Eに対する複数種類の計測を精度良く行うことができる。
【0087】
また、本実施例の眼科装置1は、スキャナ106を複数種類の全ての計測(前眼部OCT測定、眼底OCT測定及びレフ測定)において共用している。このため、眼科装置1内の光学系の構成が複雑化することを回避できると共に、部品点数を減らすことができる。
【0088】
また、本実施例の眼科装置1では、レフ測定に使用する光源を眼底OCT測定における光源(眼底用光源62)と共用している。このため、眼科装置1内の構成が複雑化することを回避できると共に、部品点数を減らすことができる。
【0089】
また、本実施例の眼科装置1では、前眼部OCT測定及び眼底OCT測定において、スキャナ106を共用するとともに、眼底OCT測定におけるAスキャン速度(約10kHz)が前眼部OCT測定におけるAスキャン速度(約100kHz)よりも遅く設定されている。このため、仮に眼底用光源62を連続的に照射した場合には、スキャナ106を前眼部OCT測定におけるAスキャン速度に合わせて走査すると、眼底OCT測定においてフリンジウォッシュアウトが生じ易い。しかしながら、本実施例では、眼底用光源62から所定の周期でパルス状に光を出力する。これにより、眼底OCT測定におけるスキャン分解能が光学分解能よりも小さくなるため、眼底OCT測定におけるフリンジウォッシュアウトを好適に防止することができる。
【0090】
また、本実施例の眼科装置1では、較正用ミラー36を用いて前眼部と眼底の間の距離を補正する。本実施例では、前眼部と眼底の検査をする際に、前眼部OCT干渉計10と眼底OCT干渉計11の2つの干渉計を用いる。このため、単一の干渉計のみを用いる場合と比較して、両干渉計10、11の光路長の差が比較的変動し易く、前眼部と眼底の間の距離の算出にずれが生じ易い。しかしながら、本実施例では、較正用ミラー36を利用して、予め定められた参照位置ZAi、ZPiに基づいて、被検眼Eの測定時における前眼部と眼底の間の距離を好適に補正することができる。したがって、本実施例では、正確な眼軸長を算出することができる。
【0091】
(対応関係)
前眼部用光源12、眼底用光源62が、それぞれ「第1の光源」、「第2の光源」の一例である。前眼部OCT干渉計10、眼底OCT干渉計11が、それぞれ「第1の干渉計」、「第2の干渉計」の一例である。前眼部OCT測定における測定用干渉光、眼底OCT測定における測定用干渉光が、それぞれ「第1の干渉光」、「第2の干渉光」の一例である。前眼部を含む範囲、眼底を含む範囲が、それぞれ「第1の範囲」、「第2の範囲」の一例である。レフ測定光学系94が、「屈折力測定光学系」の一例である。較正用ミラー36が、「第1較正用ミラー」、「第2較正用ミラー」の一例である。
【実施例2】
【0092】
次に、実施例2に係る眼科装置2について説明する。なお、実施例2の眼科装置2のうち、実施例1の眼科装置1と共通する構成については、共通の参照番号を付し、その動作や処理等の説明を省略する。
【0093】
図18に示すように、眼科装置2は、被検眼Eの前眼部を断層撮影する前眼部OCT干渉計210と、被検眼Eの眼底を断層撮影する眼底OCT干渉計211を備えている。前眼部OCT干渉計210では、波長掃引型の光源を用いた光周波数掃引OCTであって、被検眼Eの偏光特性を捉えることが可能な偏光感受型OCT(polarization-sensitive OCT:PS-OCT)が用いられる。なお、眼底OCT干渉計211の構成や制御等は、実施例1の眼底OCT干渉計11と同様である。
【0094】
図18に示すように、前眼部OCT干渉計210は、前眼部用光源12と、測定光学系220と、較正光学系230と、参照光学系240と、干渉光学系250を備える。
【0095】
前眼部用光源12には、偏光制御装置14及びファイバカプラ215が接続され、ファイバカプラ215にはPMFC(偏波保持ファイバカプラ)216及びサンプリングトリガー/クロック発生器300が接続されている。したがって、前眼部用光源12から出力される光は、偏光制御装置14及びファイバカプラ215を介して、PMFC216及びサンプリングトリガー/クロック発生器300のそれぞれに入力される。サンプリングトリガー/クロック発生器300は、前眼部用光源12の光を用いて、後述する信号処理器256、257それぞれのサンプリングトリガー及びサンプリングクロックを生成する。
【0096】
測定光学系220は、PMFC216に接続されたPMFC221と、PMFC221から分岐する2つの測定光路S1、S2と、2つの測定光路S1、S2を接続する偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225と、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に接続されるSMFC(シングルモードファイバカプラ)226と、SMFC226から分岐する2つの測定光路S3、S4と、測定光路S3に接続されるプローブ光学系26を備えている。測定光路S4には偏光制御装置15を介して較正光学系230が接続されている。測定光路S1には、光路長差生成部222とサーキュレータ223が配置されている。測定光路S2には、MEMSアッテネータ224と、サーキュレータ227が配置されている。したがって、測定光路S1と測定光路S2との光路長差Δlは、光路長差生成部222によって生成される。光路長差Δlは、被検眼Eの深さ方向の測定範囲よりも長く設定してもよい。これにより、光路長差の異なる干渉光が重なることを防止できる。光路長差生成部222には、例えば、光ファイバが用いられてもよいし、ミラーやプリズム等の光学系が用いられてもよい。本実施例では、光路長差生成部222に、1mのPMファイバを用いている。また、測定光学系220は、PMFC228、229をさらに備えている。PMFC228は、サーキュレータ223に接続されている。PMFC229は、サーキュレータ227に接続されている。
【0097】
上記の測定光学系220には、PMFC216で分岐された一方の光(すなわち、測定光)が入力される。PMFC221は、PMFC216から入力される測定光を、第1測定光と第2測定光に分割する。PMFC221で分割された第1測定光は測定光路S1に導かれ、第2測定光は測定光路S2に導かれる。測定光路S1に導かれた第1測定光は、光路長差生成部222及びサーキュレータ223を通って偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に入力される。測定光路S2に導かれた第2測定光は、MEMSアッテネータ224及びサーキュレータ227を通って偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に入力される。PMファイバ304は、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に、PMファイバ302に対して円周方向に90度回転した状態で接続される。これにより、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に入力される第2測定光は、第1測定光に対して直交する偏光成分を持った光となる。測定光路S1に光路長差生成部222が設けられているため、第1測定光は第2測定光に対して光路長差生成部222の距離だけ遅延している(すなわち、光路長差Δlが生じている)。偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225は、入力される第1測定光と第2測定光を重畳する。
【0098】
偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225から出力される光(第1測定光と第2測定光が重畳された光)はSMFC226に入力され、SMFC226は、入力された光を第3測定光と第4測定光に分割する。SMFC226で分割された第3測定光は測定光路S3に導かれ、第4測定光は測定光路S4に導かれる。測定光路S3に導かれた第3測定光は、上述した実施例1と同様に、プローブ光学系26の前眼部OCT光学系90に入力され、被検眼Eに照射される。ここで、測定光路S3に用いられるSM(シングルモード)ファイバは応力や曲げによって複屈折を生じるため、被検眼Eに照射される光の偏光状態はSMファイバの状態によって変化し得る。被検眼Eからの反射光は、入射経路とは逆に、前眼部OCT光学系90を逆に通ってSMFC226に入力され、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に入力される。
【0099】
一方、測定光路S4に導かれた第4測定光は、較正光学系230に入力され、レンズ32を介してガラスブロック33に照射される。ガラスブロック33は、レンズ32を介して照射される第4測定光の一部が通過するように配置されている。例えば、
図18に示すように、ガラスブロック33は、レンズ32を介して照射される第4測定光のうち、下方の略半分の光が通過すると共に上方の略半分の光が通過しないように配置される。これにより、レンズ32を介して照射される第4測定光の一部(
図18では下方を通る光)は、ガラスブロック33を通過し、1/4波長板37に照射される。一方、レンズ32を介して照射される第4測定光の他の部分(
図18では上方を通る光)は、ガラスブロック33を通過することなく、1/4波長板37に照射される。1/4波長板37に照射された光には、1/4波長板37を通過する際に90度の位相差が生じる。1/4波長板37を通過した光は、ダイクロイックミラー34及びレンズ35を介して較正用ミラー36に照射される。較正用ミラー36からの反射光は、レンズ35を通過し、1/4波長板37においてさらに90度の位相差が生じ、その一部がガラスブロック33を通過してレンズ32に照射され、他の部分がガラスブロック33を通過することなくレンズ32に照射される。そして、レンズ32を通過して、SMFC226に入力される。したがって、SMFC226には、ガラスブロック33を通過した光と、ガラスブロック33を通過しない光が入力される。なお、ガラスブロック33を通過した光は、ガラスブロック33を1回通過した光(すなわち、レンズ32、35の間を往復する際に往路と復路のどちらか一方のみがガラスブロック33を通過した光)であってもよいし、ガラスブロック33を2回通過した光(すなわち、レンズ32、35の間を往復する際に往路と復路の両方でガラスブロック33を通過した光)であってもよいし、それら両方であってもよい。較正用ミラー36及びガラスブロック33は、測定光路S4を通った測定光が、計測レンジのナイキスト周波数近傍に測定されるように配置される。SMFC226に入力された光は、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に入力される。測定光路S4に用いられるSMファイバは、湾曲したり温度が変化することによって、内部を通過する光の偏光状態が変化する場合がある。本実施例では、1/4波長板37を適宜回転させることにより、1/4波長板37を通過する光の偏光状態が制御される。これにより、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225において、均一な強度を有する偏光成分に分割することができる。すなわち、後述するバランス型光検出器286、287、296、297に入力される干渉信号の強度を均一化することができる。
【0100】
偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225に入力された被検眼Eからの反射光及び較正用ミラー36からの反射光は、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225で互いに直交する2つの偏光成分に分割される。ここでは便宜上それらを水平偏光反射光(水平偏光成分)と垂直偏光反射光(垂直偏光成分)と呼ぶ。そして、水平偏光反射光は測定光路S1に導かれ、垂直偏光反射光は測定光路S2に導かれる。水平偏光反射光は、サーキュレータ223により光路が変更され、PMFC228に入力される。PMFC228は、入力される水平偏光反射光を分岐して、後述する干渉光学系250のPMFC251、261のそれぞれに入力する。したがって、PMFC251、261に入力される水平偏光反射光には、第1測定光による反射光成分と、第2測定光による反射光成分が含まれている。垂直偏光反射光は、サーキュレータ227により光路が変更され、PMFC229に入力される。PMFC229は、入力される垂直偏光反射光を分岐して、PMFC252、262に入力する。したがって、PMFC252、262に入力される垂直偏光反射光には、第1測定光による反射光成分と、第2測定光による反射光成分が含まれている。
【0101】
参照光学系240は、PMFC216に接続された偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241と、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241に接続された参照遅延ライン(242、243、244、245、246)と、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241に接続されたPMFC247と、PMFC247から分岐する2つの参照光路R1、R2と、参照光路R1に接続されるPMFC248と、参照光路R2に接続されるPMFC249を備えている。PMファイバ310は、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241に、PMファイバ308に対して円周方向に90度回転した状態で接続されている。参照光路R1には、光路長差生成部232が配置されている。参照光路R2には、光路長差生成部は設けられていない。したがって、参照光路R1と参照光路R2との光路長差Δl’は、光路長差生成部232によって生成される。光路長差生成部232には、例えば、光ファイバが用いられる。光路長差生成部232の光路長Δl’は、光路長差生成部222の光路長Δlと同一としてもよい。光路長差ΔlとΔl’を同一にすることで、後述する複数の干渉光の、被検物に対する深さ位置が同一となる。すなわち、取得される複数の断層像の位置合わせが不要となる。
【0102】
上記の参照光学系240には、PMFC216で分岐された他方の光(すなわち、参照光)が入力される。PMFC216から入力される参照光は、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241を通って参照遅延ライン(242、243、244、245、246)に入力される。参照遅延ライン(242、243、244、245、246)は、レンズ242と、減衰器243と、ファラデーローテータ244と、レンズ245と、参照ミラー246によって構成されている。偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241を介した参照光は、例えば、SMファイバ306を通って不図示のファイバコリメータから出射され、レンズ242、減衰器243を介してファラデーローテータ244に入力される。参照光がファラデーローテータ244を介すると、その偏光方向が例えば45度回転され、レンズ245を介して参照ミラー246に入射される。参照ミラー246で反射された参照光は、再び偏光方向が45度回転され、ファイバコリメータに入射して、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241に入力される。すなわち、参照遅延ライン(242、243、244、245、246)を通過した光は、その偏光方向が90度回転された状態で偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241に入力される。ここで、参照ミラー246は、レンズ242に対して近接又は離間する方向に移動可能となっている。本実施例では、測定を開始する前に、被検眼Eからの信号がOCTの深さ方向の測定範囲内に収まるように、参照ミラー246の位置を調整している。
【0103】
参照ミラー246で反射されて偏光ビームコンバイナ/スプリッタ241に入力された参照光は、その偏光方向が90度回転されているため、PMファイバ310を介してPMFC247に入力される。PMFC247は、入力された参照光を、第1参照光と第2参照光に分岐する。第1参照光は参照光路R1に導かれ、第2参照光は参照光路R2に導かれる。第1参照光は、光路長差生成部232を通ってPMFC248に入力される。PMFC248に入力された参照光は、第1分岐参照光と第2分岐参照光に分岐される。第1分岐参照光は、遅延ライン264を通ってPMFC251に入力される。第2分岐参照光は、遅延ライン265を通って、PMFC252に入力される。第2参照光は、PMFC249に入力され、第3分岐参照光と第4分岐参照光に分割される。第3分岐参照光は、遅延ライン266を通って、PMFC261に入力される。第4分岐参照光は、遅延ライン267を通って、PMFC262に入力される。
【0104】
干渉光学系250は、第1干渉光生成部280と、第2干渉光生成部290と、第1干渉光検出部285と、第2干渉光検出部295を備えている。
【0105】
第1干渉光生成部280は、PMFC251、252を有している。上述したように、PMFC251には、測定光学系220より水平偏光反射光が入力され、参照光学系240より第1分岐参照光(光路長差Δlを有する光)が入力される。ここで、水平偏光反射光には、第1測定光による反射光成分(光路長差Δlを有する光)と、第2測定光による反射光成分(光路長差Δlを有しない光)が含まれている。したがって、PMFC251では、水平偏光反射光のうち第1測定光による反射光成分(光路長差Δlを有する光)と、第1分岐参照光とが合波されて第1干渉光(水平偏光成分)が生成される。
【0106】
また、PMFC252には、測定光学系220より垂直偏光反射光が入力され、参照光学系240より第2分岐参照光(光路長差Δlを有する光)が入力される。ここで、垂直偏光反射光には、第1測定光による反射光成分(光路長差Δlを有する光)と、第2測定光による反射光成分(光路長差Δlを有しない光)が含まれている。したがって、PMFC252では、垂直偏光反射光のうち第1測定光による反射光成分(光路長差Δlを有する光)と、第2分岐参照光とが合波されて第2干渉光(垂直偏光成分)が生成される。
【0107】
第2干渉光生成部290は、PMFC261、262を有している。上述したように、PMFC261には、測定光学系220より水平偏光反射光が入力され、参照光学系240より第3分岐参照光(光路長差Δlを有しない光)が入力される。したがって、PMFC261では、水平偏光反射光のうち第2測定光による反射光成分(光路長差Δlを有しない光)と、第3分岐参照光とが合波されて第3干渉光(水平偏光成分)が生成される。
【0108】
また、PMFC262には、測定光学系220より垂直偏光反射光が入力され、参照光学系240より第4分岐参照光(光路長差Δlを有しない光)が入力される。したがって、PMFC262では、垂直偏光反射光のうち第2測定光による反射光成分(光路長差Δlを有しない光)と、第4分岐参照光とが合波されて第4干渉光(垂直偏光成分)が生成される。第1干渉光と第2干渉光は測定光路S1を経由した測定光に対応しており、第3干渉光と第4干渉光は測定光路S2を経由した測定光に対応している。
【0109】
第1干渉光検出部285は、第1干渉光生成部280で生成された干渉光(第1干渉光及び第2干渉光)を検出する。第2干渉光検出部295は、第2干渉光生成部290で生成された干渉光(第3干渉光及び第4干渉光)を検出する。
【0110】
第1干渉光検出部285は、バランス型光検出器(以下、単に検出器ともいう。)286、287と、検出器286、287に接続された信号処理器288を備えている。検出器286の入力端子にはPMFC251が接続されており、検出器286の出力端子には信号処理器288が接続されている。PMFC251は、第1干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器286の入力端子にそれぞれ入力する。検出器286は、PMFC251から入力される位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(第1干渉信号)に変換し、第1干渉信号を信号処理器288に出力する。すなわち、第1干渉信号は、水平偏光測定光による被検眼E及び較正用ミラー36からの水平偏光反射光と参照光の干渉信号HHである。同様に、検出器287の入力端子にはPMFC252が接続されており、検出器287の出力端子には信号処理器288が接続されている。PMFC252は、第2干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器287の入力端子にそれぞれ入力する。検出器287は、位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅およびノイズ低減処理を実施し、電気信号(第2干渉信号)に変換し、第2干渉信号を信号処理器288に出力する。すなわち、第2干渉信号は、水平偏光測定光による被検眼E及び較正用ミラー36からの垂直偏光反射光と参照光の干渉信号HVである。
【0111】
信号処理器288は、サンプリングトリガー/クロック発生器300から入力されるサンプリングトリガーおよびサンプリングクロックに基づいて、第1干渉信号及び第2干渉信号をサンプリングする。信号処理器288でサンプリングされた第1干渉信号と第2干渉信号は、後述する演算装置400に入力される。信号処理器288には、公知のデータ収集装置(いわゆる、DAQ)を用いることができる。
【0112】
第2干渉光検出部295は、第1干渉光検出部285と同様に、バランス型光検出器(以下、単に検出器ともいう。)296、297と、検出器296、297に接続された信号処理器298を備えている。検出器296の入力端子にはPMFC261が接続されており、検出器296の出力端子には信号処理器298が接続されている。PMFC262は、第3干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器296の入力端子にそれぞれ入力する。検出器296は、位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(第3干渉信号)に変換し、第3干渉信号を信号処理器298に出力する。すなわち、第3干渉信号は、垂直偏光測定光による被検眼E及び較正用ミラー36からの水平偏光反射光と参照光の干渉信号VHである。同様に、検出器297の入力端子にはPMFC262が接続されており、検出器297の出力端子には信号処理器298が接続されている。PMFC262は、第4干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、検出器297の入力端子にそれぞれ入力する。検出器297は、位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(第4干渉信号)に変換し、第4干渉信号を信号処理器298に出力する。すなわち、第4干渉信号は、垂直偏光測定光よる被検眼E及び較正用ミラー36からの垂直偏光反射光と参照光の干渉信号VVである。
【0113】
信号処理器298は、サンプリングトリガー/クロック発生器300から入力されるサンプリングトリガーおよびサンプリングクロックに基づいて、第3干渉信号及び第4干渉信号をサンプリングする。信号処理器298でサンプリングされた第3干渉信号と第4干渉信号は、後述する演算装置400に入力される。信号処理器298にも、公知のデータ収集装置(いわゆる、DAQ)を用いることができる。このような構成によると、被検眼Eの4つの偏光特性を表す干渉信号を取得することができる。
【0114】
次に、
図19を参照して、本実施例の眼科装置2の制御系の構成について説明する。
図19に示すように、眼科装置2は演算装置400によって制御される。演算装置400は、演算部402と、第1干渉光検出部285と、第2干渉光検出部295によって構成されている。第1干渉光検出部285と、第2干渉光検出部295と、演算部402は、測定部5に接続されている。演算部402は、測定部5に制御信号を出力し、スキャナ106を駆動することで被検眼Eの前眼部に照射される光の入射位置を走査する。第1干渉光検出部285は、測定部5から入力される干渉信号(干渉信号HHと干渉信号HV)に対して、サンプリングトリガー1をトリガーにして、測定部5から入力されるサンプリングクロック1に基づいて、第1サンプリングデータを取得し、演算部402に第1サンプリングデータを出力する。演算部402は、第1サンプリングデータにフーリエ変換処理等の演算処理を行い、HH断層画像とHV断層画像を生成する。第2干渉光検出部295は、サンプリングトリガー2をトリガーにして、測定部5から入力される干渉信号(干渉信号VHと干渉信号VV)に対して、測定部5から入力されるサンプリングクロック2に基づいて、第2サンプリングデータを取得し、演算部402に第2サンプリングデータを出力する。演算部402は、第2サンプリングデータにフーリエ変換処理等の演算処理を行い、VH断層画像とVV断層画像を生成する。ここで、HH断層画像、VH断層画像、HV断層画像及びVV断層画像は、同一位置における断層画像である。このため、演算部402は、被検眼Eのジョーンズ行列を表す4つの偏光特性(HH、HV、VH、VV)の断層画像を生成することができる。
【0115】
図20に示すように、サンプリングトリガー/クロック発生器300は、ファイバカプラ502と、サンプリングトリガー発生器(540~552)と、サンプリングクロック発生器(560~572)を備えている。前眼部用光源12からの光は、ファイバカプラ215とファイバカプラ502を介して、サンプリングトリガー発生器540及びサンプリングクロック発生器560にそれぞれ入力される。
【0116】
サンプリングトリガー発生器540は、例えば、FBG(Fiber Bragg Grating)544を用いて、サンプリングトリガーを生成してもよい。
図3に示すように、FBG544は、前眼部用光源12から入射される光の特定の波長のみを反射して、サンプリングトリガーを生成する。生成されたサンプリングトリガーは、分配器550に入力される。分配器550は、サンプリングトリガーを、サンプリングトリガー1とサンプリングトリガー2に分配する。サンプリングトリガー1は、信号遅延回路552を介して、演算部402に入力される。サンプリングトリガー2は、そのまま演算部402に入力される。サンプリングトリガー1は、第1干渉光検出部285から演算部402に入力される干渉信号(第1干渉信号と第2干渉信号)のトリガー信号となる。サンプリングトリガー2は、第2干渉光検出部295から演算部402に入力される干渉信号(第3干渉信号と第4干渉信号)のトリガー信号となる。信号遅延回路552は、サンプリングトリガー1がサンプリングトリガー2に対して、光路長差生成部222の光路長差Δlの分だけ時間が遅延するように設計されている。これにより、第1干渉光検出部285から入力される干渉信号のサンプリングを開始する周波数と、第2干渉光検出部295から入力される干渉信号のサンプリングを開始する周波数を同じにすることができる。ここで、サンプリングトリガー1だけを生成してもよい。光路長差Δlが既知であるので、第2干渉光検出部295から入力される干渉をサンプリングする際、サンプリングトリガー1から光路長差Δlの分だけ時間を遅延するようにサンプリングを開始すればよい。
【0117】
サンプリングクロック発生器560は、例えば、マッハツェンダー干渉計で構成されていてもよい。
図20に示すように、サンプリングクロック発生器560は、マッハツェンダー干渉計を用いて、等周波数のサンプリングクロックを生成する。マッハツェンダー干渉計で生成されたサンプリングクロックは、分配器572に入力される。分配器572は、サンプリングクロックを、サンプリングクロック1とサンプリングクロック2に分配する。サンプリングクロック1は、信号遅延回路574を通って、第1干渉光検出部285に入力される。サンプリングクロック2は、そのまま第2干渉光検出部295に入力される。信号遅延回路574は、光路長差生成部222の光路長差Δlの分だけ時間が遅延するように設計されている。これにより、光路長差生成部222の分だけ遅延している干渉光に対しても、同じタイミングでサンプリングすることができる。これにより、取得する複数の断層画像の位置ずれが防止できる。本実施例では、サンプリングクロックを生成するのに、マッハツェンダー干渉計を用いている。しかしながら、サンプリングクロックを生成するのに、マイケルソン干渉計を用いてもよいし、電気回路を用いてもよい。また、前眼部用光源12に、サンプリングクロック発生器を備えた光源を用いて、サンプリングロックを生成してもよい。
【0118】
本実施例の眼科装置2では、被検眼Eに対する各種測定を実行する場合、実施例1と同様の処理(
図6等参照)を実行することによって、前眼部及び眼底の各部位の深さ位置や、眼軸長を測定することができる。このように、前眼部OCT干渉計210として、PS-OCTを用いた場合であっても、被検眼Eに対する複数種類の計測を高精度かつ効率良く行うことができる。なお、眼科装置2において前眼部と眼底を同時測定するとき、MEMSアッテネータ224を調整してMEMSアッテネータ224を通過する光量をゼロとすることで、偏光ビームコンバイナ/スプリッタ225から出力される光を第1測定光のみに設定してもよい。この場合、前眼部OCT干渉計210から被検眼Eに照射される光量が約半分となり、被検眼Eに安全基準上照射可能な光量の範囲内で眼底OCT干渉計211が被検眼Eへ照射できる光量を増加させることができる。また、この場合、前眼部OCT測定では検出器286、296でのみ光信号が検出され、それらから得られた断層画像の平均を取ることで、被検眼Eから後方散乱された光の偏光状態に依存せず、必ず干渉信号を得ることができる。
【0119】
(変形例)
上述した各実施例では、被検眼Eの前眼部及び眼底を含む範囲を検査する例を示したが、これに限られない。例えば、光源12、62から出力される光の中心波長を適宜調整したり、プローブ光学系26の構成を適宜変更して、被検眼Eの他の部位を含む範囲を検査してもよい。
【0120】
また、上述した各実施例では、眼底OCT干渉計11においてフリンジウォッシュアウトが生じる条件を満足する場合(すなわち、スキャン分解能>光学分解能となる場合)に、眼底用光源62からパルス状に光を出力した。しかしながら、フリンジウォッシュアウトが生じる条件を満足しない場合であっても、眼底用光源62からパルス状に光を出力してもよいし、フリンジウォッシュアウトが生じる条件を満足する場合であっても、取得される断層画像の精度に影響がない場合には、眼底用光源62から連続的に光を出力してもよい。なお、前眼部OCT測定において、前眼部用光源12の光をパルス状に出力してもよい。
【0121】
また、上述した各実施例では、フリンジウォッシュアウトを抑制するために、眼底用光源62から所定のデューティ比及び所定の周期でパルス状に光を出力した。しかしながら、上記の構成に代えて、眼底用光源62から連続的に光を出力しながら、被検眼Eの眼底から得られる干渉光を所定のデューティ比及び所定の周期で検出してもよい。すなわち、当該干渉光を検出する検出期間と、当該干渉光を検出しない不検出期間が設定されてもよく、眼底OCT測定のAスキャン速度に応じた周期で検出期間が設定されてもよい。具体的には、例えば、当該干渉光を、上述した実施例の値(すなわち、デューティ比10000/27036未満、周期100μs)となるようにパルス状に検出してもよい。眼底用光源62からパルス状に光を出力する場合、光の特性が不安定になる場合がある。しかしながら、このような構成によれば、眼底用光源62から出力される光の特性が安定するとともに、フリンジウォッシュアウトを好適に抑制することができる。
【0122】
また、検査される被検眼の眼軸長は、被検者によって異なることが一般的である。このため、眼底OCT測定において、光路長の初期設定によっては、網膜から反射された干渉信号が眼底OCTの撮影範囲から外れる場合がある。その結果、眼底の断層画像が撮影できず、前眼部から眼底までの距離を較正用ミラー36によって補正することが困難となる場合がある。このような場合には、まず、網膜から反射された干渉信号の信号が撮影範囲に収まるように、眼底用光源62から較正用ミラー36まで光路長を調整してもよい。例えば、撮影範囲の初期設定からの深さ方向のシフト量をZPREFとすると、深さ方向のシフトを考慮した参照位置ZAiと参照位置ZPiの光路長差L’は、L’=Li-ZPREFと算出することができる。このように、眼底OCT測定における撮影範囲を変更するとともに、当該変更に伴う較正用ミラー36の各参照位置の光路長差の変位を算出することによって、好適に被検眼Eの眼軸長を算出することができる。
【0123】
上述した各実施例では、レフ測定光学系94が、ダイクロイックミラー104とスキャナ106との間に配置された孔あきミラー105と、レンズ134とセンサ138との間に配置されたリングレンズ136を備えていた。しかしながら、例えば、レフ測定光学系94が、孔あきミラー105に代えてハーフミラーを備えてもよいし、リングレンズ136に代えてマトリクス状に配置された多数の微細なレンズを有するレンズアレイを備えてもよい。このような構成では、被検眼Eからの反射光がハーフミラーで分割され、反射光の略半分がハーフミラーで反射される。ハーフミラーで反射された光は、レンズアレイに照射される。レンズアレイに光が照射されると、多数の微細なレンズによって、これらのレンズと同数の光がレンズアレイからセンサ138に照射される。レンズアレイに歪んだ波面を有する光が照射されると、多数の微細なレンズのうち、歪んだ位置と対応する位置のレンズからは、光軸がずれた状態の光がセンサ138に照射される。すなわち、レンズ134とセンサ138との間にレンズアレイを配置することによって、レフ測定光学系94に波面センサの光学系と同一の機能を付与することができる。このため、レフ測定光学系94において、被検眼Eの全屈折力だけでなく、被検眼Eの全収差についても計測することができ、被検眼Eの屈折に関する情報をより詳細に計測することができる。
【0124】
また、上述した各実施例では、前眼部OCT測定及び眼底OCT測定(
図6のS18)を実行する前に、レフ測定(S14)を実行した。しかしながら、眼底用光源62から出力される光を利用して、レフ測定は眼底OCT測定と同時に行ってもよい。例えば、被検者が以前にレフ測定やOCT測定を受けている場合には、当該測定時の結果に基づいて、プローブ光学系26を調整することによって、被検眼Eに対する前眼部OCT測定、眼底OCT測定及びレフ測定を同時に実施することができる。このような構成では、被検眼Eに対する検査の効率がより向上する。また、レフ測定は行わなくてもよい。この場合、S14を省略可能である。
【0125】
また、上述した各実施例では、被検眼Eの屈折力の測定に、眼底用光源62から出力される光を用いた。しかしながら、被検眼Eの屈折力の測定に、眼底用光源62とは別の光源を用いてもよい。この場合、前眼部用光源12及び眼底用光源62から出力される光とは異なる波長の光を出力してもよく、例えば、中心波長が0.70μm以上0.95μm以下の波長の光を出力してもよい。0.70μm以上0.95μm以下の波長の光は、眼球内での透過率が高い。また、0.70μm以上0.95μm以下の波長の光は、被検眼Eの比視感度が低く、被検者が眩しさを感じ難い一方で、可視光に近いため視機能評価に適している。このため、屈折力の測定に、0.70μm以上0.95μm以下の波長の光を用いることによって、光源からの光を被検眼Eの眼底まで十分に照射することができると共に、被検眼Eの屈折力を計測するために好適な波長の光を出力することができる。
【0126】
また、上述した各実施例では、前眼部から眼底までの距離を補正するために、同一の較正用ミラー36を用いた。しかしながら、前眼部OCT干渉計10及び眼底OCT干渉計11のそれぞれに較正用ミラーを備える構成としてもよい。
【0127】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0128】
1:眼科装置
10:前眼部OCT干渉計
11:眼底OCT干渉計
12:前眼部用光源
20:測定光学系
26:プローブ光学系
30:較正光学系
40:参照光学系
50:干渉光学系
62:眼底用光源
66:測定光学系
70:参照光学系
80:干渉光学系
90:前眼部OCT光学系
92:眼底OCT光学系
94:レフ測定光学系
106:スキャナ
200:演算装置