(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
A61B3/10 100
(21)【出願番号】P 2019115427
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501299406
【氏名又は名称】株式会社トーメーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸頼
(72)【発明者】
【氏名】杉山 聡
(72)【発明者】
【氏名】堀越 健司
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-092291(JP,A)
【文献】特開2018-201749(JP,A)
【文献】国際公開第2019/045750(WO,A1)
【文献】特開2016-140406(JP,A)
【文献】特開2018-008082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前眼部の画像を撮影する前眼部画像撮影部と、
被検眼の眼底の断層画像を取得する眼底断層画像取得部と、
前記眼底断層画像取得部を制御する制御部と、を備えており、
前記制御部は、前記眼底断層画像取得部によって前記被検眼の眼底の断層画像を取得するときに、
前記前眼部画像撮影部で撮影された前記前眼部の画像から前記被検眼の瞬きを検出する瞬き検出処理と、
前記瞬き検出処理によって前記被検眼の瞬きが検出されなかったときに、前記眼底断層画像取得部による眼底の断層画像の取得を実行させる実行処理と、
前記瞬き検出処理によって前記被検眼の瞬きが検出されたときに、前記眼底断層画像取得部による眼底の断層画像の取得を停止させる停止処理と、を実行可能に構成されて
おり、
前記瞬き検出処理では、前記前眼部の画像の輝度に基づいて虹彩の画素数を特定し、特定した前記虹彩の画素数から瞬きを検出し、
前記瞬き検出処理では、前記前眼部の画像内の画素のうち設定された輝度範囲内となる輝度を有する画素の数をカウントすることで前記虹彩の画素数を特定し、その特定した前記虹彩の画素数が設定数以下となるときに前記被検眼に瞬きが生じたことを検出し、
前記輝度範囲は、前記前眼部の画像に対して輝度と画素数からなるヒストグラムを生成したときに検出される、前記ヒストグラムの複数のピークのうち、前記虹彩に対応するピークとなる輝度が含まれるように設定されている、眼科装置。
【請求項2】
前記被検眼の眼底のうち断層画像を取得する領域を入力する入力部をさらに備えており、
前記制御部は、前記眼底断層画像取得部によって前記入力部で入力された領域の断層画像が取得されるまで、前記瞬き検出処理を繰り返し実行すると共に、前記瞬き検出処理の結果に基づいて前記実行処理又は前記停止処理を実行するように構成されている、請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
被検眼の前眼部の画像を撮影する前眼部画像撮影部と、
被検眼の眼底の断層画像を取得する眼底断層画像取得部と、
前記前眼部画像撮影部で撮影された前記前眼部の画像の輝度に基づいて虹彩の画素数を特定し、特定した前記虹彩の画素数から瞬きを検出する瞬き検出部と、
前記瞬き検出部の検出結果に基づいて、前記眼底断層画像取得部を制御する制御部と、を備えて
おり、
前記瞬き検出部は、前記前眼部の画像内の画素のうち設定された輝度範囲内となる輝度を有する画素の数をカウントすることで前記虹彩の画素数を特定し、その特定した前記虹彩の画素数が設定数以下となるときに前記被検眼に瞬きが生じたことを検出し、
前記輝度範囲は、前記前眼部の画像に対して輝度と画素数からなるヒストグラムを生成したときに検出される、前記ヒストグラムの複数のピークのうち、前記虹彩に対応するピークとなる輝度が含まれるように設定されている、眼科装置。
【請求項4】
前記被検眼の眼底の正面画像を取得する眼底正面画像取得部をさらに備えており、
前記制御部は、前記眼底断層画像取得部によって前記被検眼の眼底の断層画像を取得するときに、予め算出された前記眼底の正面画像の移動量と前記前眼部
の画像の移動量との間の相関関係及び前記前眼部画像撮影部で撮影された前記前眼部
の画像の移動量に基づいて、前記眼底断層画像取得部による前記被検眼の眼底
の断層画像の取得位置を制御する、請求項1~
3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、眼科装置に関する。詳細には、被検眼の眼底の断層画像を取得する眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検眼の眼底の断層画像を取得する眼科装置が開発されている。例えば、特許文献1に記載の眼科装置は、光源からの光を被検眼の眼底に照射すると共にその反射光を導く測定光学系と、光源からの光を参照面に照射すると共にその反射光を導く参照光学系を備えている。測定の際には、測定光学系により導かれた反射光(測定光)と参照光学系により導かれた反射光(参照光)とを合波した干渉光から、被検眼の眼底の断層画像を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような眼科装置を用いて被検眼の眼底の断層画像を取得する際には、被検眼の眼底に測定光を到達させ、その反射光を眼科装置内に戻さなければならない。しかしながら、眼底の断層画像の取得中に被検眼が瞬きをすると、瞼に遮断されて、測定光が眼底まで到達しない、もしくは眼底からの反射光が眼科装置に戻らず、被検眼の眼底画像を意図した通りに取得できない。
【0005】
本明細書は、被検眼の眼底の断層画像を取得する際に、被検眼の眼底の断層画像を効率的に取得するための技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する第1の眼科装置は、被検眼の前眼部の画像を撮影する前眼部画像撮影部と、被検眼の眼底の断層画像を取得する眼底断層画像取得部と、眼底断層画像取得部を制御する制御部と、を備えている。制御部は、眼底断層画像取得部によって被検眼の眼底の断層画像を取得するときに、前眼部画像撮影部で撮影された前眼部の画像から被検眼の瞬きを検出する瞬き検出処理と、瞬き検出処理によって被検眼の瞬きが検出されなかったときに、眼底断層画像取得部による眼底の断層画像の取得を実行させる実行処理と、瞬き検出処理によって前記被検眼の瞬きが検出されたときに、眼底断層画像取得部による眼底の断層画像の取得を停止させる停止処理と、を実行可能に構成されている。
【0007】
上記の眼科装置では、前眼部画像に基づいて瞬きを検出し、瞬きが検出されたときに被検眼の眼底の断層画像の取得を停止させる。このため、被検眼が瞬きしていないときにのみ被検眼の眼底の断層画像を取得することができる。また、瞬きが検出されたときには眼底の断層画像が取得されないため、眼底の断層画像が撮影されていない不要なデータが取得されない。例えば、眼底の画像に基づいて瞬きを検出すると、眼底の画像が撮影されなかったことにより瞬きを検出することになり、瞬きをした後でないと瞬きを検出できない。一方、前眼部画像に基づいて瞬きを検出すると、瞬きし始めたタイミングで瞬きを検出できる。このため、瞬きを迅速に検出でき、瞬きしていないときの被検眼の眼底画像のみを取得することができる。このため、眼底の画像データのみを取得でき、不要なデータを選別して排除する等の処理をする必要がなく、取得した画像データを容易に処理することができる。
【0008】
また、本明細書に開示する第2の眼科装置は、被検眼の前眼部の画像を撮影する前眼部画像撮影部と、被検眼の眼底の断層画像を取得する眼底断層画像取得部と、前眼部画像撮影部で撮影された前眼部の画像の輝度に基づいて虹彩の画素数を特定し、特定した虹彩の画素数から瞬きを検出する瞬き検出部と、瞬き検出部の検出結果に基づいて、眼底断層画像取得部を制御する制御部と、を備えている。
【0009】
上記の眼科装置では、開瞼時にのみ検出される被検眼の部位である虹彩の輝度に着目することによって、被検眼の瞬きを検出する。また、例えば、前眼部の画像から虹彩の形状によって瞬きを検出することとすると、虹彩の形状を特定するための処理に時間を要する。前眼部の画像の輝度から虹彩を特定し、その画素数(虹彩の画素数(面積))に基づいて瞬きを検出することによって、処理速度を短縮することができる。このため、瞬き検出処理の計算負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1、2に係る眼科装置の光学系の概略構成を示す図。
【
図2】実施例1、2に係る眼科装置の制御系を示すブロック図。
【
図3】実施例1において、眼科装置を用いて被検眼の眼底の断層画像を取得する処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】
図3の閾値設定処理の一例を示すフローチャート。
【
図5】被検眼の前眼部画像を模式的に示す図であって、(a)は被検眼が開瞼しているときを示し、(b)は被検眼が瞬きし始めたときを示し、(c)は被検眼が瞬きしている(閉瞼している)ときを示す。
【
図6】前眼部画像の各画素の輝度に基づいて生成された輝度と画素数の関係を示すヒストグラムであり、(a)は被検眼が開瞼しているときの前眼部画像から生成されたヒストグラムであり、(b)は被検眼が瞬きし始めたときの前眼部画像から生成されたヒストグラムであり、(c)は被検眼が瞬きしている(閉瞼している)ときの前眼部画像から生成されたヒストグラムである。
【
図7】実施例2において、眼科装置を用いて被検眼の眼底の断層画像を取得する処理の一例を示すフローチャート。
【
図8】被検眼の瞼及び皮膚のy方向の長さについて説明するために、被検眼の前眼部画像を模式的に示す図であって、(a)は被検眼が開瞼しているときを示し、(b)は被検眼が瞬きし始めたときを示す。
【
図9】被検眼の上眼瞼の下端部と下眼瞼の上端部の間の長さについて説明するために、被検眼の前眼部画像を模式的に示す図であって、(a)は被検眼が開瞼しているときを示し、(b)は被検眼が瞬きし始めたときを示す。
【
図10】被検眼の白目部分の面積について説明するために、被検眼の前眼部画像を模式的に示す図であって、(a)は被検眼が開瞼しているときを示し、(b)は被検眼が瞬きし始めたときを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0012】
(特徴1)本明細書が開示する眼科装置は、被検眼の眼底のうち断層画像を取得する領域を入力する入力部をさらに備えていてもよい。制御部は、眼底断層画像取得部によって入力部で入力された領域の断層画像が取得されるまで、瞬き検出処理を繰り返し実行すると共に、瞬き検出処理の結果に基づいて実行処理又は停止処理を実行するように構成されていてもよい。このような構成によると、所望の領域の断層画像を取得するまでの間、被検眼が瞬きしていないときのみ被検眼の眼底の画像を取得することができる。このため、所望の領域の断層画像を効率良く取得することができる。
【0013】
(特徴2)本明細書が開示する眼科装置では、瞬き検出処理では、前眼部の画像の輝度に基づいて虹彩の画素数を特定し、特定した虹彩の画素数から瞬きを検出してもよい。このような構成によると、前眼部の画像の輝度から虹彩を表示している画素を特定し、その画素数に基づいて瞬きを検出することによって、処理速度を短縮することができる。このため、瞬きを迅速に検出でき、瞬きしてからそれを検出するまでのタイムラグがほとんど生じない。このため、上記の停止処理を好適に実行することが可能となる。
【0014】
(特徴3)本明細書が開示する眼科装置では、瞬き検出処理では、前眼部の画像内の画素のうち設定された輝度範囲内となる輝度を有する画素の数をカウントすることで虹彩の画素数を特定し、その特定した虹彩の画素数が設定数以下となるときに被検眼に瞬きが生じたことを検出してもよい。輝度範囲は、前眼部の画像に対して輝度と画素数からなるヒストグラムを生成したときに検出される、ヒストグラムの複数のピークのうち、虹彩に対応するピークとなる輝度が含まれるように設定されていてもよい。このような構成によると、ヒストグラムに基づいて虹彩を示す画素数を特定することができる。輝度と画素数からなるヒストグラムを生成すると、ヒストグラムには複数のピークが現れる。前眼部画像から生成したヒストグラムには、各組織に対応するピークが現れ、虹彩に対応するピークも現れる。したがって、虹彩に対応するピークのときの輝度が含まれるように輝度範囲を設定することで、虹彩を示している画素を特定することができる。このため、設定した輝度範囲内となる画素の数をカウントすることで、迅速に虹彩の画素数を特定することができる。
【0015】
(特徴4)本明細書が開示する眼科装置では、瞬き検出処理では、前眼部の画像から上眼瞼の位置と下眼瞼の位置を特定し、特定した上眼瞼の位置と下眼瞼の位置に基づいて瞬きを検出してもよい。このような構成によると、上眼瞼の位置と下眼瞼の位置を特定することによって、容易に瞬きを検出できる。
【0016】
(特徴5)本明細書が開示する眼科装置は、被検眼の眼底の正面画像を取得する眼底正面画像取得部をさらに備えていてもよい。制御部は、眼底断層画像取得部によって被検眼の眼底の断層画像を取得するときに、予め算出された眼底の正面画像の移動量と前眼部画像の移動量との間の相関関係及び前眼部画像撮影部で撮影された前眼部画像の移動量に基づいて、眼底断層画像取得部による前記被検眼の眼底画像の取得位置を制御してもよい。このような構成によると、制御部は、予め算出された上記の相関関係と撮影された前眼部画像の移動量に基づいて、眼底断層画像取得部による被検眼の眼底画像の取得位置を制御する。このように上記の相関関係と前眼部画像の移動量に基づいて眼底断層画像取得部による被検眼の眼底画像の取得位置を制御することによって、例えば、固視微動等によって被検眼が移動した場合であっても、移動に伴い正確かつ迅速にトラッキングすることができ、被検眼の眼底の断層画像を好適に取得することができる。このため、被検眼の眼底の断層画像を取得する際に被検眼の瞬きの影響と被検眼の移動の影響を低減することができ、欠損やずれのない断層画像を取得することができる。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
以下、実施例に係る眼科装置1について説明する。
図1に示すように、眼科装置1は、被検眼Eの眼底から反射される反射光と参照光とを干渉させる干渉光学系10と、被検眼Eの前眼部画像を取得する前眼部撮影光学系70と、被検眼Eの眼底の平面画像を取得するSLO(Scanning Laser Ophthalmoscope)光学系80と、被検眼Eに対して眼科装置1を所定の位置関係にアライメントするためのアライメント光学系(図示省略)を備えている。なお、アライメント光学系は、公知の眼科装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な説明は省略する。
【0018】
干渉光学系10は、光源12と、光源12の光を被検眼Eの眼底に照射すると共にその反射光を生成する測定光学系と、光源12の光から参照光を生成する参照光学系と、測定光学系により導かれた反射光と参照光学系により導かれた参照光とを合成した干渉光を検出するバランス検出器38によって構成されている。
【0019】
光源12は、波長掃引型の光源であり、出射される光の波長が所定の周期で変化するようになっている。光源12から出射される光の波長が変化すると、出射される光の波長に対応して、被検眼Eの深さ方向の各部位から反射される光のうち参照光と干渉を生じる反射光の反射位置が被検眼Eの深さ方向に変化する。このため、出射される光の波長を変化させながら干渉光を測定することで、被検眼Eの内部の各部位(例えば、網膜や脈絡膜等)の位置を特定することが可能となる。
【0020】
測定光学系は、ファイバカプラ16、36と、コリメータレンズ18と、フォーカスレンズ20と、ガルバノミラー22と、レンズ24と、ダイクロイックミラー25、26と、対物レンズ28によって構成されている。光源12から出力された光は、光ファイバを通ってファイバカプラ16に入力される。ファイバカプラ16に入力された光は、ファイバカプラ16において、測定光と参照光に分波されて出力される。ファイバカプラ16から出力された測定光は、光ファイバを通り、コリメータレンズ18に向かって出射される。コリメータレンズ18に出力された測定光は、フォーカスレンズ20、ガルバノミラー22、レンズ24、ダイクロイックミラー25、26及び対物レンズ28を介して、被検眼Eに照射される。被検眼Eからの反射光は、上記とは逆に、対物レンズ28、ダイクロイックミラー26、25、レンズ24、ガルバノミラー22及びフォーカスレンズ20を介して、コリメータレンズ18に入力される。コリメータレンズ18に入力された反射光は、光ファイバを通ってファイバカプラ16に入力される。ファイバカプラ16に入力された反射光は、光ファイバを通ってファイバカプラ36の一方の入力部に入力される。
【0021】
また、測定光学系は、フォーカスレンズ20を光軸方向に進退動させる第2駆動装置48(
図2に図示)と、ガルバノミラー22を光軸に対して傾動させる第3駆動装置50(
図2に図示)を備えている。第2駆動装置48がフォーカスレンズ20を
図1の矢印Aの方向に駆動することで、被検眼Eに照射される光の焦点の位置が被検眼Eの深さ方向に変化する。また、第3駆動装置50がガルバノミラー22を傾動することで、被検眼Eへの測定光の照射位置が走査される。
【0022】
参照光学系は、ファイバカプラ16と、コリメータレンズ30、34と、プリズム32と、ファイバカプラ36によって構成されている。ファイバカプラ16から出力された参照光は、光ファイバを通り、コリメータレンズ30に向かって出射される。コリメータレンズ30に出力された参照光は、プリズム32で反射され、コリメータレンズ34に出力される。コリメータレンズ34に入力された参照光は、光ファイバを通ってファイバカプラ36の他方の入力部に入力される。
【0023】
また、参照光学系は、プリズム32をコリメータレンズ30、34に対して進退動させる第4駆動装置52(
図2に図示)を備えている。第4駆動装置52がプリズム32を
図1の矢印Bの方向に駆動することによって、参照光学系の光路長が変化する。これによって、参照光学系の光路長を、測定光学系の光路長と略一致するように調整することができる。
【0024】
ファイバカプラ36は、入力された被検眼Eからの反射光と参照光を合波して干渉光を生成する。ファイバカプラ36は、生成した干渉光を、位相が180度異なる2つの干渉光に分岐して、バランス検出器38に入力する。バランス検出器38は、ファイバカプラ36から入力する位相が180度異なる2つの干渉光に対して、差動増幅及びノイズ低減処理を実施し、電気信号(干渉信号)に変換する。バランス検出器38は、干渉信号をADコンバータ40に出力する。ADコンバータ40は、入力した干渉信号をA/D変換し、デジタル信号としてサンプリングする。サンプリングされた干渉信号は、制御装置60に出力される。
【0025】
前眼部撮影光学系70は、光源72と、対物レンズ28と、ダイクロイックミラー26と、レンズ74と、CCDカメラ76によって構成されている。光源72は、被検眼Eの正面に可視光領域の照明光を照射する。被検眼Eからの反射光は、対物レンズ28を介して、ダイクロイックミラー26に照射される。ここで、ダイクロイックミラー26は、干渉光学系10の光源12からの光を透過する一方で、前眼部撮影光学系70の光源72からの光を反射する。このため、本実施例の眼科装置1では、干渉光学系10による測定と、前眼部撮影光学系70による前眼部画像の取得を同時に行うことができる。すなわち、ダイクロイックミラー26で反射された光源72による被検眼Eからの反射光は、レンズ74を介してCCDカメラ76に入力される。これにより、被検眼Eの前眼部画像(すなわち、前眼部の正面画像)が撮影される。撮影された画像データは、制御装置60に入力される。
【0026】
なお、本実施例では、光源72から可視光を照射しているが、このような構成に限定されない。被検眼Eの前眼部の画像を取得できる構成であればよく、前眼部撮影光学系の光源から赤外光が照射されてもよい。赤外光を用いることによって、被検者が眩しさを感じることを回避することでき、被検者の負担を軽減することができる。前眼部撮影光学系の光源から赤外光を照射する場合には、上記の干渉光学系10の光源12と異なる波長(例えば、光源12から照射される光の波長より短い波長)の光を用いることで、干渉光学系10の光源12からの光と前眼部撮影光学系の光源からの光をダイクロイックミラー26で好適に分離することができる。
【0027】
SLO光学系80は、赤外光を照射する光源(図示省略)を備えており、光源から照射される赤外光は、ダイクロイックミラー25、26及び対物レンズ28を介して被検眼Eに照射される。被検眼Eからの反射光は、対物レンズ28及びダイクロイックミラー26を介してダイクロイックミラー25で反射される。ここで、ダイクロイックミラー25は、SLO光学系80の光源から照射される光を反射し、ダイクロイックミラー26は、SLO光学系80の光源から照射される光を透過する。ダイクロイックミラー25で反射された被検眼Eからの反射光は、SLO光学系80で電気信号に変換され、変換された電気信号がADコンバータ82に入力される。なお、SLO光学系は、公知の眼科装置に用いられているものを用いることができるため、その詳細な説明は省略する。ADコンバータ82は、入力した電気信号をA/D変換し、デジタル信号としてサンプリングする。サンプリングされた電気信号は、制御装置60に出力される。
【0028】
また、本実施例の眼科装置1では、被検眼Eに対して眼科装置1の位置を調整するための位置調整機構44(
図2に図示)と、その位置調整機構44を駆動する第1駆動装置46(
図2に図示)を備えている。なお、位置調整機構44による位置を調整する処理については後述する。
【0029】
次に、本実施例の眼科装置1の制御系の構成を説明する。
図2に示すように、眼科装置1は制御装置60によって制御される。制御装置60は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータ(マイクロプロセッサ)によって構成されている。制御装置60には、光源12と、第1~第4駆動装置46~52と、光源72と、ADコンバータ40と、CCDカメラ76と、ADコンバータ82と、タッチパネル54が接続されている。
【0030】
制御装置60は、光源12のオン/オフを制御し、第1~第4駆動装置46~52を制御することで各部44、20、22、32を駆動する。また、制御装置60は、光源72のオン/オフを制御する。また、制御装置60には、ADコンバータ40でサンプリングされた干渉信号が入力される。制御装置60は、ADコンバータ40からの干渉信号にフーリエ変換処理等の演算処理を行い、断層画像を生成する。また、制御装置60には、CCDカメラ76から被検眼Eの前眼部の画像が入力される。また、制御装置60には、ADコンバータ82でサンプリングされた干渉信号が入力される。制御装置60は、ADコンバータ82からの信号を処理して眼底の正面画像を生成する。制御装置60に入力されたデータや演算結果は、メモリ(図示省略)に記憶される。
【0031】
さらに、制御装置60は、タッチパネル54を制御している。タッチパネル54は、被検眼Eの測定結果を出力する表示装置であると共に、検査者からの指示や情報を受け付ける入力装置である。例えば、タッチパネル54は、制御装置60で生成された被検眼Eの眼底の断層画像、眼底の正面画像及び前眼部画像等を表示することができる。また、タッチパネル54は、眼科装置1の各種設定を入力することができる。また、タッチパネル54は、表示された眼底の正面画像に基づいて、眼底の断像画像を取得する範囲を入力できる。なお、本実施例の眼科装置1はタッチパネル54を備えているが、このような構成に限定されない。上記の情報の表示及び入力が可能な構成であればよく、モニタと入力装置(例えば、マウスやキーボード等)を備えていてもよい。
【0032】
次に、実施例に係る眼科装置1を用いて、被検眼Eの眼底の断層画像を生成する処理について説明する。被検眼Eの眼底の断層画像を取得する際には、干渉光学系10の光源12からの光を被検眼Eの眼底まで到達させ、その反射光を眼科装置1内に戻さなければならない。しかしながら、被検眼Eの眼底の断層画像の取得中に被検眼Eが瞬きすると、瞼に遮断されて、光源12からの光が被検眼Eの眼底まで到達しない、もしくは眼底からの反射光が眼科装置1内に戻らず、意図した通りに眼底画像を取得できない。本実施例の眼科装置1では、前眼部画像を用いることよって被検眼Eの瞬きを事前に検出し、実際に瞬きによって光源からの光が瞼に遮断される前に検知できる。よって、被検眼Eが瞬きしていないときに取得された断層画像データのみを用いて眼底の断層画像を生成する事ができる。以下に、
図3~
図6を参照して、被検眼Eが瞬きしていないときに取得された断層画像データのみを用いて眼底の断層画像を生成する処理について説明する。
【0033】
図3に示すように、まず、制御装置60は、被検眼Eに対して眼科装置1の位置合わせを行う(S12)。具体的には、検査者が図示しないジョイスティック等の操作部材を操作する。すると、制御装置60は、検査者による操作部材の操作に応じて、第1駆動装置46により位置調整機構44を駆動する。これによって、被検眼Eに対する眼科装置1のxy方向(縦横方向)の位置とz方向(進退動する方向)の位置が調整される。また、制御装置60は、第2駆動装置48を駆動してフォーカスレンズ20の位置を調整すると共に、第4駆動装置52を駆動してプリズム32の位置を調整する。これによって、光源12から被検眼Eに照射される光の焦点の位置が被検眼Eの所定の位置(例えば、角膜の前面)となり、また、測定光学系の光路長と参照光学系の光路長が一致する0点の位置が被検眼Eの所定の位置(例えば、網膜)となる。
【0034】
次に、制御装置60は、被検眼Eの前眼部画像、眼底の正面画像及び眼底の断層画像を取得する(S14)。具体的には、制御装置60は、光源72をオンにして光源72からの光を被検眼Eに照射する。CCDカメラ76は、被検眼Eからの反射光を撮影し、制御装置60に出力する。これによって、制御装置60は、被検眼Eの前眼部画像を取得する。また、制御装置60は、SLO光学系80の光源からの光を被検眼Eに照射する。SLO光学系80は、被検眼Eからの反射光を電気信号に変換してADコンバータ82に出力し、ADコンバータ82は変換された電気信号をサンプリングして制御装置60に出力する。制御装置60は、サンプリングされた電気信号から被検眼Eの眼底の正面画像を生成する。これによって、制御装置60は、被検眼Eの眼底の正面画像を取得する。また、制御装置60は、光源12をオンにして、光源12から被検眼Eに照射される光の周波数を変化させながら、バランス検出器38で検出され、ADコンバータ40でサンプリングされる干渉信号を取り込む。ADコンバータ40から出力される干渉信号は、信号強度が時間によって変化する信号となり、この信号は被検眼Eの各部(例えば、網膜及び脈絡膜等)から反射された各反射光と参照光とを合成した干渉波による信号となる。そこで、制御装置60は、ADコンバータ40から入力する信号をフーリエ変換することで、その信号から被検眼Eの各部(例えば、網膜及び脈絡膜等)から反射された反射光による干渉信号成分を分離する。これによって、制御装置60は、被検眼Eの各部の深さ方向の位置を特定することができる。すなわち、制御装置60は、被検眼Eの眼底の断層画像を取得する。そして、制御装置60は、取得(生成)した被検眼Eの前眼部画像、眼底の正面画像及び眼底の断層画像をタッチパネル54に表示する(S16)。
【0035】
次に、制御装置60は、撮影範囲が入力されたか否かを判定する(S18)。撮影範囲は、検査者によってタッチパネル54に入力される。具体的には、検査者が、ステップS16でタッチパネル54に表示された眼底の正面画像に基づいて、断層画像を取得する領域(撮影範囲)をタッチパネル54に入力(指定)する。撮影範囲が入力されていない場合(ステップS18でNO)、ステップS14に戻って、ステップS14からの処理が繰り返される。
【0036】
撮影範囲が入力された場合(ステップS18でYES)、制御装置60は、被検眼Eの前眼部画像を取得する(S20)。詳細には、制御装置60は、開瞼している状態の被検眼Eの前眼部画像を取得する。なお、取得した前眼部画像において被検眼Eが開瞼していない(瞬きしている)場合、ステップS20の処理をやり直してもよい。具体的には、制御装置60は、取得した前眼部画像をタッチパネル54に表示する。検査者はタッチパネル54に表示された前眼部画像を確認し、被検眼Eが開瞼していないと判断される場合には、再び前眼部画像を取得するようにタッチパネル54に入力する。この入力に応じて、制御装置60は、ステップS20の処理をやり直す。
【0037】
次に、制御装置60は、ステップS20で取得した前眼部画像を用いて、虹彩108の画素数の閾値を設定する(S22)。虹彩108の画素数の閾値は、被検眼Eが瞬きしたか否かを判定するために用いられる。ここで、ステップS22の虹彩108の画素数の閾値を設定する処理について、
図4を参照して説明する。
【0038】
図4に示すように、制御装置60は、ステップS20で取得した被検眼Eの前眼部画像について、各画素の輝度に基づいて輝度と画素数の関係を示すヒストグラムを生成する(S42)。ここで、輝度と画素数の関係を示すヒストグラムについて説明する。
図5(a)に示すように、被検眼Eが開瞼しているとき、前眼部画像において比較的大きい面積を占めるのは、瞳孔106と、虹彩108と、上眼瞼の下端部102と下眼瞼の上端部104の間の白目部分(強結膜)と、瞼を含む被検眼Eの周囲の皮膚(
図5(a)では、上眼瞼の下端部102より上部と、下眼瞼の上端部104より下部)である。すなわち、前眼部画像には、4つの組織が写っており、組織毎に輝度(明るさ)が異なる。
図5(a)に示す例では、輝度が最も低いのは、瞳孔106であり、その次に輝度が低いのは、虹彩108であり、次に輝度が低いのは、瞼を含む皮膚であり、最も輝度が高いのは、白目部分である。なお、
図5(a)では、皮膚と白目部分は共に白色で示しているが、被検者の皮膚の色によっては、皮膚の色と白目部分の色が大きく異なることもあり、また、皮膚の色と白目部分の色の差が小さいこともある。各画素の輝度に基づいてヒストグラムを生成すると、
図6(a)に示すように、4つのピークが生じる。この4つのピークは、輝度が低い順に、瞳孔106、虹彩108、皮膚、白目部分に対応している。
【0039】
次に、制御装置60は、ステップS42で生成したヒストグラムに基づいて、虹彩108の輝度の範囲を特定する(S44)。上述したように、ステップS42で生成したヒストグラムでは、各組織に対応する複数のピークが生成され、そのうちの1つのピーク(
図5(a)に示す例では、2番目に輝度が低いピーク)は、虹彩108を示している。このため、虹彩108を示すピークが含まれるように、制御装置60は、虹彩108の輝度の範囲を特定する。例えば、
図6(a)に示すヒストグラムが得られた場合、2番目に輝度が低いピークを示す輝度の範囲のみ(すなわち、ヒストグラムの一単位)を虹彩108の輝度の範囲とすることができる。あるいは、2番目に輝度が低いピークとその前後の所定の範囲を含む輝度を虹彩108の輝度の範囲としてもよい。なお、虹彩108の輝度範囲を広く設定する場合には、隣接する瞳孔106を示す輝度を含まないように輝度の範囲を設定することが好ましい。なお、本実施例では、制御装置60によって虹彩108の輝度の範囲が特定されたが、このような例に限られない。例えば、ステップS42で生成したヒストグラムをタッチパネル54に表示し、検査者が表示されたヒストグラム上で輝度範囲を指定してもよい。
【0040】
次に、制御装置60は、ステップS42で生成したヒストグラムにおいて、ステップS44で特定した虹彩108の輝度の範囲内の画素数をカウントする(S46)。ステップS20では、開瞼時の被検眼Eの前眼部画像を取得している。このため、ここでカウントした画素数は、開瞼時の虹彩108の輝度の範囲内の画素数と言える。
【0041】
次に、制御装置60は、虹彩108の画素数の閾値を設定する(S48)。
図5(b)に示すように、被検眼Eが瞬きし始めると、上眼瞼によって虹彩108の上方の一部が覆われ、前眼部画像において虹彩108の画素数が少なくなる。すなわち、虹彩108の画素数が所定の値より小さいとき、被検眼Eは瞬きしているか、瞬きし始めていると判定することができる。したがって、制御装置60は、被検眼Eが瞬きし始めている状態の虹彩108の画素数を閾値として設定する。例えば、被検眼Eが瞬きし始めている状態とは、
図5(b)に示すように、被検眼Eの虹彩108の上部が部分的に上眼瞼に覆われている一方、被検眼Eの瞳孔106はほとんど上眼瞼に覆われていない状態である。
図5(a)及び
図5(b)を比較すると、
図5(a)の虹彩108の面積に対して、
図5(b)の虹彩108の面積は、約3/4となっている。このため、制御装置60は、例えば、ステップS46でカウントした開瞼時の虹彩108の輝度の範囲内の画素数の3/4を虹彩108の画素数の閾値と設定する。その後、ステップS24に進む。なお、上記の閾値の設定方法は一例であり、被検眼Eが瞬きし始めたことを検出可能な値を閾値として設定できればよく、上記の方法に限定されない。また、制御装置60は、ステップS20及びステップS22の処理を複数回行ってもよい。この場合、ステップS48において虹彩108の画素数の閾値を設定する際には、複数回カウントした虹彩108の画素数の平均値に基づいて閾値を設定してもよいし、複数回カウントした虹彩108の画素数の中央値に基づいて閾値を設定してもよい。
【0042】
ステップS22において虹彩108の画素数の閾値が設定されると、制御装置60は、再び被検眼Eの前眼部画像を取得する(S24)。次いで、制御装置60は、ステップS24で取得した前眼部画像の各画素のうち、ステップS44で設定された輝度範囲となる画素の数をカウントする(S26)。すなわち、ステップS44で設定された輝度範囲となる画素は、虹彩108を示している。したがって、ステップS26では、ステップS44で設定された輝度範囲となる画素の数をカウントすることで、虹彩108を示す画素数を特定することができる。
【0043】
次に、制御装置60は、ステップS26でカウントした虹彩108の画素数が閾値以上であるか否かを判定する(S28)。詳細には、制御装置60は、ステップS26でカウントした画素数が、ステップS48で設定した閾値以上であるか否かを判定する。上述したように、ステップS48で設定した閾値は、被検眼Eが瞬きし始めたときの前眼部画像の虹彩108の画素数に対応する。このため、ステップS26でカウントした画素数がステップS48で設定した閾値以上である場合には、被検眼Eが瞬きしていない、すなわち、開瞼していると判定することができる。一方、ステップS26でカウントした画素数が閾値未満である場合には、被検眼Eが瞬きし始めているか、瞬きしている(閉瞼している)と判定することができる。
【0044】
図5及び
図6を参照して、具体的に説明する。
図5(a)に示すように、被検眼Eが開瞼しているとき、虹彩108の上部は上眼瞼にほとんど覆われることなく、前眼部画像に現れる。このため、
図6(a)に示すように、生成されたヒストグラムにおいて、2番目に輝度が低い虹彩108を示すピークは、ステップS48で設定した閾値より大きい。一方、
図5(b)に示すように、被検眼Eが瞬きし始めると、虹彩108の上部は上眼瞼に覆われ、前眼部画像における虹彩108の面積(すなわち、画素数)は小さくなる。このため、
図6(b)に示すように、ヒストグラムにおいて、2番目に輝度が低い虹彩108を示すピークは、ステップS48で設定した閾値より小さくなる。また、
図5(c)に示すように、被検眼Eが完全に瞬きしている(閉瞼している)状態では、虹彩108は上眼瞼に完全に覆われ、前眼部画像に虹彩108は現れない。このため、ヒストグラムにおいて、虹彩108を示すピークは現れず、すなわち、ステップS44で設定した虹彩108の輝度の範囲内の画素数は、閾値より小さくなる。したがって、虹彩108の輝度の範囲内の画素数をカウントし、その画素数が閾値以上であるか否かを判定することによって、被検眼Eの瞬きを検出することができる。
【0045】
虹彩108の画素数が所定の閾値以上であるとき(ステップS28でYES)、制御装置60は、干渉信号の取得を実行する(S30)。虹彩108の画素数が所定の閾値以上である場合、被検眼Eは瞬きしておらず、開瞼していると判定できる。このため、制御装置60は、被検眼Eの眼底の断層画像を取得する。なお、被検眼Eの眼底の断層画像を取得する処理については、上述のステップS14における被検眼Eの眼底の断層画像の取得と同一の処理であるため、詳細な説明は省略する。制御装置60は、取得された被検眼Eの眼底の断層画像をメモリ(図示省略)に記憶させる。
【0046】
一方、虹彩108の画素数が所定の閾値未満であるとき(ステップS30でNO)、制御装置60は、ADコンバータ40から入力する干渉信号の取得を停止する(S32)。具体的には、直前の処理周期で干渉信号の取得を実行している場合には、実行している干渉信号の取得(保存)処理を停止し、直前の処理周期で干渉信号の取得を実行していない場合には、そのまま干渉信号の取得(保存)を行わない状態を維持する。上述したように、虹彩108の画素数が所定の閾値未満である場合、虹彩108の一部又は全部が上眼瞼によって覆われていると判定される。すなわち、被検眼Eが瞬きし始めているか、瞬きしている(閉瞼している)と判定できる。このような状態では、光源12からの光が被検眼Eの内部(眼底)まで到達できず、また、眼底からの反射光を眼科装置1内に戻すことができない。このため、制御装置60は、干渉信号の取得を停止する(すなわち、実行しない)。その後、ステップS24に戻って、ステップS24からの処理が繰り返される。本実施例では、被検眼Eの眼底の断層画像を取得できない瞬目中に断層画像の取得を停止するため、断層画像が撮影されていない不要なデータが取得されない。このため、不要なデータを選別して排除する等の処理をする必要がなく、取得した断層画像データを効率的に処理することができる。
【0047】
ステップS30において干渉信号の取得が実行されると、制御装置60は、ステップS18で入力された撮影範囲内の全ての領域において断層画像が取得(保存)されたか否かを判定する(S34)。入力された撮影範囲内の全ての領域について断層画像が取得されていない場合(ステップS34でNO)、ステップS24に戻って、ステップS24からの処理が繰り返される。これによって、検査者によって指定された全ての領域について断層画像が取得される。一方、入力された撮影範囲内の全ての領域について断層画像が取得(保存)された場合(ステップS34でYES)、制御装置60は、被検眼Eの眼底の断層画像を取得する処理を終了する。
【0048】
本実施例では、開瞼状態の前眼部画像の虹彩108の画素数に基づいて閾値を設定し、被検眼Eが瞬きしているか否かを検出している。換言すると、前眼部画像内のどの領域が虹彩108であるのかを特定したり、虹彩108の形状を特定したりすることなく、虹彩108の輝度を示す画素数に着目して被検眼Eの瞬きを判定している。このため、被検眼Eの瞬きを検出するための計算負荷を低減し、処理速度を高めることができる。また、本実施例では、被検眼Eの瞬きを検出する速度を速くできるため、瞬きを検出してから干渉信号の取得を停止する処理までにタイムラグが生じ難い。このため、ステップS32の処理(干渉信号の取得の停止)を、瞬きし始めたタイミングと略同時のタイミングで行うことができる。
【0049】
なお、本実施例では、上述のステップS22において虹彩108の画素数の閾値を設定しているが、このような構成に限定されない。例えば、虹彩108の画素数の閾値を予め設定し、メモリ(図示省略)に記憶させておいてもよい。この場合には、ステップS20及びステップS22を省略し、ステップS28では、メモリに記憶されている虹彩108の画素数の閾値を用いて、ステップS26でカウントした虹彩108の画素数が閾値以上であるか否かを判定してもよい。
【0050】
また、本実施例では、ステップS28において虹彩108の画素数が閾値未満である場合(ステップS28でNO)、干渉信号の取得を停止しているが、このような構成に限定されない。例えば、虹彩108の画素数が閾値未満であるときにも干渉信号の取得を実行し、虹彩108の画素数が閾値未満のときに取得した干渉信号を排除して、眼底の断層画像を生成してもよい。このような構成であっても、前眼部画像から虹彩108の画素数を特定して被検眼Eの瞬きを検出するため、被検眼Eの瞬きを検出するための計算負荷を低減することができる。
【0051】
(実施例2)
上記の実施例1では、被検眼Eの前眼部画像から輝度と画素数の関係を示すヒストグラムを生成し、生成したヒストグラムから虹彩108の輝度範囲を設定し、設定した輝度範囲となる画素をカウントすることで被検眼Eの瞬きを検出したが、このような構成に限定されない。例えば、前眼部画像内の上眼瞼の下端部102の位置と下眼瞼の上端部104の位置を特定し、特定した上眼瞼の下端部102の位置と下眼瞼の上端部104の位置から被検眼Eの瞬きを検出してもよい。
【0052】
図7は、本実施例において、眼科装置1を用いて被検眼Eの眼底の断層画像を生成する処理の一例を示すフローチャートである。
図7に示すように、まず、制御装置60は、被検眼Eに対して眼科装置1の位置合わせを行い(S52)、被検眼Eの前眼部画像、眼底の正面画像及び眼底の断層画像を取得する(S54)。そして、制御装置60は、取得した前眼部画像、眼底の正面画像及び眼底の断層画像を表示し(S56)、撮影範囲が入力されたか否かを判定する(58)。撮影範囲が入力されると(ステップS58でYES)、制御装置60は、開瞼時の被検眼Eの前眼部画像を取得する(S60)。なお、ステップS52~ステップS60の処理は、実施例1のステップS12~ステップS20の処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0053】
次に、制御装置60は、ステップS60で取得した前眼部画像を用いて、被検眼Eの瞼及び皮膚のy方向の長さの閾値を設定する(S62)。被検眼Eの瞼及び皮膚のy方向の長さの閾値は、被検眼Eが瞬きしたか否かを判定するために用いられる。以下に、被検眼Eの瞼及び皮膚のy方向の長さの閾値を設定する処理について説明する。
【0054】
まず、制御装置60は、ステップS60で取得した前眼部画像において、被検眼Eの上眼瞼の下端部102の位置と下眼瞼の上端部104の位置を特定する。被検眼Eの上眼瞼の下端部102の位置と下眼瞼の上端部104の位置は、前眼部画像の輝度に基づいて特定する。
図8(a)に示すように、前眼部画像では、白目部分は輝度が高く、また、瞼を含む被検眼Eの周囲の皮膚においても比較的輝度が高い。このため、白目部分と皮膚の境界である上眼瞼の下端部102及び下眼瞼の上端部104では、穏やかではあるが輝度の変化が生じる。
図8(b)に示すように、上眼瞼の下端部102と虹彩108の間に白目部分が存在しない場合には、上眼瞼(すなわち、皮膚)と虹彩108(又は瞳孔106)との間で輝度が急激に変化する。制御装置60は、各画素の輝度が変化する位置を検出することで、上眼瞼の下端部102の位置と下眼瞼の上端部104の位置を特定する。なお、前眼部画像には睫毛が写り込むが、睫毛による影響は、例えば、数本の平均を算出したり、ローパスフィルタを用いたりすることによって低減することができる。
【0055】
上眼瞼の下端部102の位置と下眼瞼の上端部104の位置が特定されると、制御装置60は、前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さを測定する。
図8(a)において矢印で示すように、前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さとは、前眼部画像内のy軸に平行な直線上における、前眼部画像の上端から上眼瞼の下端部102までのy方向の長さと、下眼瞼の上端部104から前眼部画像の下端までの長さの合計である。なお、瞼及び皮膚のy方向の長さを測定する際のy軸に平行な直線の位置は特に限定されず、例えば、前眼部画像の中央であってもよい。ステップS60では、開瞼時の被検眼Eの前眼部画像を取得している。このため、ここで測定した瞼及び皮膚のy方向の長さは、開瞼時の瞼及び皮膚のy方向の長さとなる。
【0056】
瞼及び皮膚のy方向の長さが測定されると、制御装置60は、測定した瞼及び皮膚のy方向の長さに基づいて、瞼及び皮膚のy方向の長さの閾値を設定する。前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さは、開瞼時に短くなり(
図8(a)参照)、瞬きすると長くなる(
図8(b)参照)。瞼及び皮膚のy方向の長さの閾値は、被検眼Eが瞬きし始めたときの瞼及び皮膚のy方向の長さとなるように設定し、例えば、測定した瞼及び皮膚のy方向の長さの2倍の長さと設定することができる。なお、被検眼Eの瞼及び皮膚のy方向の長さの閾値は、予め設定されメモリ(図示省略)に記憶されていてもよい。
【0057】
ステップS62において瞼及び皮膚のy方向の長さの閾値が設定されると、制御装置60は、再び前眼部画像を取得する(S64)。次に、制御装置60は、ステップS64で取得した前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さを測定する(S66)。なお、ステップS66の処理は、ステップS62において前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さを測定した処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0058】
次に、制御装置60は、ステップS66で測定した前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さが、ステップS62で設定した閾値以下であるか否かを判定する(S68)。上述したように、ステップS62で設定した閾値は、被検眼Eが瞬きし始めたときの瞼及び皮膚のy方向の長さである。このため、測定した前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さが閾値以下である場合には、被検眼Eが瞬きしていない、すなわち、開瞼していると判定することができる(
図8(a)参照)。一方、測定した前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さが閾値を超える場合には、被検眼Eが瞬きし始めているか、瞬きしている(閉瞼している)と判定することができる(
図8(b)参照)。
【0059】
前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さが閾値以下であるとき(ステップS68でYES)、制御装置60は、干渉信号の取得を実行し(S70)、ステップS58で入力された撮影範囲内の全ての領域において断層画像が取得されるまで、ステップS64からの処理が繰り返される。一方、前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さが閾値を超えるとき(ステップS68でNO)、制御装置60は、干渉信号の取得を停止し(S72)、ステップS64からの処理が繰り返される。なお、ステップS70~ステップS74の処理は、実施例1のステップS30~ステップS34の処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0060】
本実施例においても、制御装置60は、被検眼Eの瞬きが検出されたときに、干渉信号の取得を停止している。このため、断層画像が撮影されていない不要なデータが取得されず、断層画像データを容易に処理することができる。
【0061】
なお、本実施例では、前眼部画像内の瞼及び皮膚のy方向の長さに基づいて瞬きを検出していたが、このような構成に限定されない。例えば、上眼瞼の下端部102と下眼瞼の上端部104の間の長さに基づいて瞬きを検出してもよい。この場合には、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、制御装置60は、前眼部画像内のy軸に平行な直線上における、上眼瞼の下端部102と下眼瞼の上端部104の間の長さを測定する。上眼瞼の下端部102と下眼瞼の上端部104の間の長さは、開瞼時には長くなり(
図9(a)参照)、瞬きすると短くなる(
図9(b)参照)。このため、瞬きし始めたときの上眼瞼の下端部102と下眼瞼の上端部104の間の長さを閾値として設定することによって、上眼瞼の下端部102と下眼瞼の上端部104の間の長さから被検眼Eの瞬きを検出することができる。
【0062】
また、前眼部画像内のy方向の長さに基づいて瞬きを検出する代わりに、例えば、前眼部画像内の白目部分の面積(画素数)に基づいて瞬きを検出してもよい。この場合には、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、制御装置60は、前眼部画像内の上眼瞼の下端部102の位置と下眼瞼の上端部104の位置に加え、虹彩108と白目部分との境界(すなわち、角膜輪部)110の位置を特定する。虹彩108は輝度が低く、白目部分は輝度が高いため、角膜輪部110についても、各画素の輝度の差に基づいて位置を特定できる。そして、制御装置60は、上眼瞼の下端部102と、下眼瞼の上端部104と、角膜輪部110と、前眼部画像の外周によって囲まれた部分の面積(画素数)をカウントする。これによって、白目部分の面積がカウントされる。なお、上眼瞼の下端部102の位置と、下眼瞼の上端部104の位置と、角膜輪部110の位置を特定する際には、多項式フィッティング又はスプラインフィッティングを用いてもよい。白目部分の面積は、開瞼時には大きくなり(
図10(a)参照)、瞬きすると小さくなる(
図10(b)参照)。このため、瞬きし始めたときの白目部分の面積を閾値として設定することによって、白目部分の面積から被検眼Eの瞬きを検出することができる。
【0063】
実施例で説明した眼科装置1に関する留意点を述べる。実施例の前眼部撮影光学系70は、「前眼部画像撮影部」の一例であり、干渉光学系10は、「眼底断層画像取得部」の一例であり、SLO光学系80は、「眼底正面画像取得部」の一例であり、制御装置60は、「制御部」及び「瞬き検出部」の一例であり、タッチパネル54は、「入力部」の一例である。
【0064】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、眼底の断層画像の取込み中に、固視微動等によって被検眼Eが移動することがある。このような被検眼Eの移動の影響を低減するために、被検眼Eをトラッキングする処理を実行してもよい。例えば、制御装置は、被検眼Eの眼底の正面画像と前眼部画像から、眼底正面画像の移動量と前眼部画像の移動量の相関関係を算出しておく。そして、制御装置は、前眼部画像から得られる位置ずれ量と算出しておいた上記の相関関係を用いて、眼底の位置ずれ量を計算し、これに基づいてトラッキングする。このようなトラッキングについては、例えば、特開2016-140406号公報に開示される公知の技術を用いることができる。上述した瞬き検出処理に加え、上記のトラッキング処理を組み合わせることによって、被検眼Eの瞬きの影響だけでなく、被検眼Eの移動の影響も低減することができ、欠損やずれのない良好な眼底の断像画像を取得することができる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0065】
10:干渉光学系
12:干渉光学系の光源
16、36:ファイバカプラ
20:フォーカスレンズ
22:ガルバノミラー
32:プリズム
38:バランス検出器
40:ADコンバータ
54:タッチパネル
60:制御装置
70:前眼部撮影光学系
72:前眼部撮影光学系の光源
76:CCDカメラ
80:SLO光学系
102:上眼瞼の下端部
104:下眼瞼の上端部
106:瞳孔
108:虹彩
110:角膜輪部