(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ヘッドホンカバー
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
H04R1/10 102
(21)【出願番号】P 2019116744
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】519229806
【氏名又は名称】横田 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100178179
【氏名又は名称】桐生 美津恵
(74)【代理人】
【識別番号】100154210
【氏名又は名称】金子 宏
(72)【発明者】
【氏名】横田 修司
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/202535(WO,A1)
【文献】実開平06-044290(JP,U)
【文献】特開2015-133609(JP,A)
【文献】実開平06-034391(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10- 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉型ヘッドホンのイヤーパッドと耳との間に用いられるヘッドホンカバーであって、
前記密閉型ヘッドホンに装着した際の前記イヤーパッドの一側の通音箇所に
四角形状を有する一方の開口部が配置され、前記一方の開口部から
楕円形状を有する他方の開口部に向けて径の拡大率が次第に増加する筒形状を有し、前記一側から他側に向けて折り返し可能な生地と、
前記一方の開口部の周縁を周回する芯部とを備え、
前記芯部は、延伸方向の圧縮降伏応力が、0.0587MPa以上であることを特徴とする、ヘッドホンカバー。
【請求項2】
前記芯部は、延伸方向に直交する方向の曲げ応力が、0.057Mpa以下で変形することを特徴とする、請求項1に記載のヘッドホンカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型ヘッドホンのイヤーパッドと耳との間に用いられるヘッドホンカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドホンのイヤーパッドを被覆するヘッドホンカバーが知られている。ヘッドホンカバーは、通常、音を通し易くするために薄い生地で形成されているため、日々の使用に伴う摩擦によって生地が劣化し、特に開口周縁部の生地が破れ易いという問題があった。このような問題を解決するために、特許文献1には、開口周縁部を摩擦に強い平ゴムで形成することで、開口周縁部が破れるのを防ぐヘッドホンカバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「指の握力に関する基礎研究」高橋雅子・堀口恵子・高村一知
【文献】「ストッキング繊維の編み方の違いによる伝線のしやすさおよび応力とひずみの関係」須田 麻友香
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のヘッドホンカバーを用いたとしても、ヘッドホンカバーの中央部は音を通し易くする必要があるため、ヘッドホンカバーを厚い生地で形成することができないという問題があった。ヘッドホンカバーの中央部に音を通すための開口を設ければ問題は解決するが、この場合にはヘッドホンカバーがヘッドホンからずれたり外れたりし易いという新たな問題が生じる。
【0006】
本発明は、ヘッドホンからの音を遮ることがなく、かつ、生地がヘッドホンを覆う状態を安定的に維持することができるヘッドホンカバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のヘッドホンカバーは、
密閉型ヘッドホンのイヤーパッドと耳との間に用いられるヘッドホンカバーであって、
前記イヤーパッドの一側の通音箇所に開口部を有し、前記一側から他側に向けて折り返し可能な生地と、
前記開口部の周縁を周回する芯部とを備え、
前記芯部は、延伸方向の圧縮降伏応力が、0.0587MPa以上であることを特徴とする。
【0008】
この特徴によれば、ヘッドホンカバーはイヤーパッドの一側の通音箇所に開口部を有しているため、ヘッドホンからの音を遮ることがなく、また、開口部の周縁を周回する芯部は延伸方向の圧縮降伏応力が0.0587MPa以上であるため、ヘッドホンカバーをヘッドホンに取り付けた後に芯部がずれたり外れたりすることがなく、生地がヘッドホンを覆う状態を安定的に維持することができる。
【0009】
本発明のヘッドホンカバーは、
前記芯部は、延伸方向に直交する方向の曲げ応力が、0.057Mpa以下で変形することを特徴とする。
【0010】
この特徴によれば、ヘッドホンカバーの芯部を指の力で容易に変形させてヘッドホンのイヤーパッド内側内部に容易に取り付けることができる。
【0011】
本発明のヘッドホンカバーは、
前記生地の前記他側に固定用平ゴムを備えることを特徴とする。
【0012】
この特徴によれば、平ゴムは摩擦に強いため、生地の他側が破れるのを防ぐことができ、ヘッドホンカバーをヘッドホンに安定的に取り付けておくことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヘッドホンカバーはイヤーパッドの一側の通音箇所に開口部を有しているため、ヘッドホンからの音を遮ることがなく、また、開口部の周縁を周回する芯部は延伸方向の圧縮降伏応力が0.0587MPa以上であるため、ヘッドホンカバーをヘッドホンに取り付けた後に芯部がずれたり外れたりすることがなく、生地がヘッドホンを覆う状態を安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るヘッドホンカバーの平面図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係るヘッドホンカバーの側面図である。
【
図3】
図3は、同実施形態に係るヘッドホンカバーをヘッドホンのイヤーパッドに取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、ヘッドホンカバーの取付時において、芯部に掛かる力の説明図である。
【
図5】
図5は、ヘッドホンカバーをヘッドホンに取り付けた後に、芯部に掛かる力の説明図である。
【
図6】
図6は、ヘッドホンカバーをヘッドホンに取り付けた後に、芯部に掛かる力の説明図である。
【
図7】
図7は、ヘッドホンカバーの芯部の形状の変形例を示す図である。
【
図8】
図8は、変形例に係るヘッドホンカバーの平面図である。
【
図9】
図9は、他の変形例に係るヘッドホンカバーの平面図である。
【
図10】
図10は、他の変形例に係るヘッドホンカバーの側面図である。
【
図11】
図11は、他の変形例に係るヘッドホンカバーをヘッドホンのイヤーパッドに取り付けた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1~
図3は、ヘッドホンカバー1の構成例を示す図であり、
図1は本実施形態に係るヘッドホンカバー1の平面図、
図2は側面図、
図3はヘッドホンのイヤーパッド22にヘッドホンカバー1を取り付けた状態を示す斜視図である。なお、本実施形態に係るヘッドホンカバー1は、布で形成されており形状は一定ではないが、
図1及び
図2にはヘッドホンカバー1の形状の一例を示している。
【0017】
本実施形態に係るヘッドホンカバー1は、密閉型ヘッドホン(「オーバーイヤー型ヘッドホン」ともいう。)のイヤーパッド22と耳との間に用いられるものである。
【0018】
当該ヘッドホンカバー1は、中央部、すなわち、当該ヘッドホンカバー1を密閉型ヘッドホン(以下、単に「ヘッドホン」ともいう。)に装着した際のイヤーパッド22の一側の通音箇所に、楕円形の開口部12を有し、かつ、他側に向けて少なくとも当該一側から90度折り返し可能な生地14で構成されている。生地14の他側には、当該他側をヘッドホンに固定するための平ゴム18が設けられている。本実施形態では、平ゴム18は当該他側の生地14の表側に糸によって縫い付けられている。平ゴム18は摩擦に強く強固であるため、平ゴム18によってヘッドホンカバー1をヘッドホンに安定的に取り付けておくことができる。
【0019】
生地14の開口部12の周縁には芯部16が周回している。平ゴム18が設けられた側からヘッドホンのイヤーパッド22を挿入し、イヤーパッド22の内側に芯部16を固定配置することにより、イヤーパッド22を生地14で覆うように取り付けることができる。本実施形態では、開口部12の周縁の生地14を折り返し、芯部16を生地14で覆う状態にして芯部16を生地14に取り付けている。なお、これに限定されることはなく、開口部12の周縁に外部から視認できる状態で芯部16を取り付けてもよい。
【0020】
生地14の開口部12の周縁に芯部16を設ける目的は、密閉型ヘッドホンのイヤーパッド22を生地14で覆う際に、イヤーパッド22の内側に骨となる芯部16を固定配置し支点とすることで、生地14がイヤーパッド22を覆う状態を安定的に維持するためである。
【0021】
芯部16は、ヘッドホンカバー1を取り付ける際に必要な変形を行える軟性と、ヘッドホンカバー1を取り付けた後に生地14がイヤーパッド22を覆いヘッドホンカバー1が安定して配置されるための剛性と、を合わせ持つものである。
【0022】
軟性について、延伸方向に直交する方向の曲げ応力が0.057Mpa以下で変形する。これにより、ヘッドホンカバー1の芯部16の外周を指で摘んで容易に変形させることができ、ヘッドホンのイヤーパッド22の内側内部に容易に取り付けることができる。
【0023】
芯部16の上記曲げ応力の数値の根拠について、
図4を参照して説明する。ヘッドホンカバー1の取付時において、ヘッドホンカバー1の中心部分の芯部16には、
図4に示すように、縦伸縮方向の力(曲げ応力)F1、及び、横伸縮方向の力(曲げ応力)F2を掛けることができる。
【0024】
芯部16を変形し、イヤーパッド22の周縁を迂回させて取り付ける。このため、芯部16は、性別、年齢等に関係なく軽い力で曲げられる変形特性を有することが好ましい。
【0025】
非特許文献1によれば、指の握力の測定最小値が5.7N=0.057MPaであるので、この力で曲げられるものとする。
【0026】
剛性について、芯部16の延伸方向の圧縮降伏応力は、0.0587MPa以上である。これにより、ヘッドホンカバー1をヘッドホンに取り付けた後に芯部16がずれたり外れたりするのを防ぐことができ、ヘッドホンカバー1がイヤーパッド22を覆う状態を安定的に維持することが可能となる。
【0027】
上記の圧縮降伏応力の数値の根拠について、
図5及び
図6を参照して説明する。まず、ヘッドホンカバー1をヘッドホンに取り付けた後に芯部16の縦方向(
図6において紙面に向かって上下方向)に掛かる力について説明する。
【0028】
ヘッドホンカバー1をヘッドホンに取り付けた後に、
図5に示すように、布生地引張張力F4の力が芯部16に掛かる。この力は垂直方向(
図5において紙面に向かって上下方向)の力F1と、水平方向(
図8において紙面に向かって左右方向)の力F2に分解される。
【0029】
イヤーパッド22とヘッドホン本体24との隙間に芯部16を設置することで、垂直方向の力F1は、イヤーパッド22からの反力Rにより相殺される。このために、ヘッドホンカバー1の芯部16は、イヤーパッド22とヘッドホン本体24の隙間に設置すればよい。具体的には、ヘッドホンカバー1の芯部16は、密閉型ヘッドホンのイヤーパッド22の形状(リング型、四角型、変形型など)によらず、イヤーパッド22の内側周囲長よりも大きく、外側周囲長よりも小さい範囲で、イヤーパッド22とヘッドホン本体24の隙間に設置することが好ましい。
【0030】
水平方向の力F2は、力点においては曲げ応力であるが、
図6に示すように、芯部16の他箇所(F2と同方向に延伸されている箇所)において、圧縮力F2’となる。芯部16がF2’によって圧縮されてしまうと、芯部16がイヤーパッド22から離脱してしまうおそれがある。
【0031】
後述するように、F2’=F2≒0.0587MPaであるので、芯部16の延伸方向の圧縮降伏応力を、0.0587MPa以上とする。
【0032】
芯部16は、その形状と材質によって、上記軟性と剛性とを合わせ持てばよく、 例えば、ゴム系、プラスチック系、木材系、金属系、鉱石系などの幅広い素材を用いることができる。
【0033】
布地14は、伸縮性を有しても有さなくてもよい。伸縮して外力を吸収することも、伸縮せずに固定位置に存することもできる。
【0034】
非特許文献2によれば、110デニールのひずみ1%のときの応力は約0.083MPaである。布生地引張力F4=0.083MPaとする。
図5に示すように、布生地引張力P4は芯部16に対して上方45°の角度で発生するとすると、水平方向に分解された力の大きさF2は、F2=0.083/√2=0.0587MPa≒0.06MPaとなる。布地14の縦弾性係数が、あらゆる方向について、0.06Mpa以上であるものは、伸縮せずに固定位置に存する。
【0035】
布地14の縦弾性係数が、0.06Mpa未満であるものは、伸縮して外力を吸収することができる。
【0036】
以上説明したように、ヘッドホンカバー1は、イヤーパッド22の一側の通音箇所に開口部12を有しているため、ヘッドホンからの音を遮ることがない。また、開口部12の周縁を周回する芯部16は、延伸方向の圧縮降伏応力が0.0587MPa以上であるため、ヘッドホンカバー1をヘッドホンに取り付けた後に芯部16がずれたり外れたりすることがない。したがって、ヘッドホンカバー1がイヤーパッド22を被覆した状態を安定的に維持することができる。また、芯部16は、延伸方向に直交する方向の曲げ応力が0.057Mpa以下で変形するため、ヘッドホンカバー1の芯部16を指で摘んで容易に変形させることができ、イヤーパッド22の内側内部に容易に取り付けることができる。
【0037】
なお、上述した実施形態では、開口部12及び芯部16の平面形状は楕円形であるとして説明したが、これに限定されることはなく、芯部16の形状はイヤーパッド22の形状に合わせて、
図7(a)に示す楕円形状の他に、
図7(b)に示す四角形状、
図7(c)に示す幅広の楕円形状等、任意の形状とすることができる。また、芯部16の断面形状についても、円、矩形等、任意の形状とすることができる。
図8には、芯部16の形状が四角形状の場合のヘッドホンカバー1Aの平面図の一例を示す。
【0038】
また、ヘッドホンカバー1の平ゴム18を通常のゴム18Aに置き換えてもよい。この場合には、生地14の他側の周縁部を折り返してゴム18Aを生地14で覆う状態にして、当該生地14の周縁部を筒状に縫い付ける。
図9~
図11には、ヘッドホンカバー1の平ゴム18をゴム18Aに置き換えた場合のヘッドホンカバー1Bの構成例を示す図であり、
図9はヘッドホンカバー1Bの平面図、
図10は側面図、
図11はヘッドホンのイヤーパッドにヘッドホンカバー1Bを取り付けた状態を示す斜視図である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のヘッドホンカバーは、あらゆる密閉型ヘッドホンに使用することができ、当該ヘッドホンからの音を遮ることがなく、かつ、生地がヘッドホンを覆う状態を安定的に維持することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ヘッドホンカバー
12 開口部
14 生地
16 芯部
18 平ゴム
18A ゴム
22 イヤーパッド
24 ヘッドホン本体