(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ケーシングビット及びケーシングパイプの先端構造
(51)【国際特許分類】
E21B 10/48 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
E21B10/48
(21)【出願番号】P 2019159353
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591046858
【氏名又は名称】アロイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】下井谷 太郎
(72)【発明者】
【氏名】下井谷 良信
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-290587(JP,A)
【文献】特開2008-025274(JP,A)
【文献】特開平05-033572(JP,A)
【文献】特開2002-061484(JP,A)
【文献】特開2007-069227(JP,A)
【文献】実開平06-008498(JP,U)
【文献】特開2012-241459(JP,A)
【文献】特表昭60-501263(JP,A)
【文献】実開平04-138488(JP,U)
【文献】実開平04-017485(JP,U)
【文献】特開平04-319195(JP,A)
【文献】特開2011-236644(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0199856(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00-19/24
E21B 44/00-44/10
E02D 7/00-13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングパイプの先端に固定されるビット本体と、前記ビット本体に保持されたチップを有
し、外刃または内刃として使用されるケーシングビットであって、
前記ビット本体の先端部の表面に、
前記チップが保持される平らな平面部が形成され、
前記平面部が、前記ビット本体の先端に形成された先端平面部と、前記先端平面部の片側に接し前記先端平面部に対して傾斜するとともに、前記ケーシングパイプに固定されたときに、前記先端部を支える土台部よりも前記ケーシングパイプの外周側または内周側にせり出す傾斜平面部であり、
前記先端平面部および前記傾斜平面部が前記ケーシングパイプの円周方向に対応する水平方向に長い形状に形成され、
前記
先端平面部および前記傾斜平面部の一部に
複数の前記チップの基部が
長手方向に沿って一列に埋設され、
前記チップ
における前記
先端平面部および前記傾斜平面部から
垂直に突出する突出部
の全体が、前記
先端平面部または前記傾斜平面部に垂直な方向から前記突出部の先端側が細くなる方向に傾く側面を有し
先鋭であるとともに、
前記突出部における平面部側の部分と先端側の部分で前記側面の傾斜が異なり、前記先端側の部分のほうが前記平面部側の部分よりも傾斜が緩く形成され、
前記先端平面部の前記突出部が、前記ビット本体の厚み方向の中間位置よりも前記傾斜平面部がわに寄った位置に形成された
ケーシングビット。
【請求項2】
前記チップの前記突出部が円錐形状である
請求項
1に記載のケーシングビット。
【請求項3】
前記平面部を取り囲む部位に、超硬粒子を有する肉盛部が形成された
請求項1
または請求項2に記載のケーシングビット。
【請求項4】
前記平面部における前記ビット本体の先端面の前記ケーシングパイプの円周方向に対応する方向の両側に、前記肉盛部と一体で、前記突出部の突出方向に隆起し、前記突出部よりも高さの低い隆起部が形成された
請求項
3に記載のケーシングビット。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のケーシングビットであって、前記傾斜平面部が前記ケーシングビットの外周側にせり出した外刃ケーシングビットと、
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のケーシングビットであって、前記傾斜平面部が前記ケーシングビットの内周側にせり出した内刃ケーシングビットを備え、
前記外刃ケーシングビットと前記内刃ケーシングビットが前記ケーシングパイプの先端の同一円周上に配設された
ケーシングパイプの先端構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基礎杭工事などの土木工事に用いられるケーシングビットに関し、より詳しくは、たとえば鉄筋コンクリート等の地中障害物を良好に破砕・切削できるようなケーシングビットに関する。
【背景技術】
【0002】
障害撤去に適したケーシングビットとして、下記特許文献1に開示されたものがある。このケーシングビットは、ビット本体に保持されたチップが、ケーシングパイプの回転方向で並ぶように配設されるとともに、チップを保持する凹部がビット本体の幅方向の一部に形成された構成である。
【0003】
このような構成のケーシングビットは、チップの脱落を抑制できる。また、回転方向前方のチップが欠損等しても、その後方のチップが掘削能力を発揮するので、鉄筋等の障害がある部分を掘削しても高い耐久性が得られる。
【0004】
しかし、特許文献1のケーシングビットを含めて、これまでのケーシングビットは、チップの先端がケーシングビットの表面から突出しているように見える態様であったが、チップの先端はあくまでケーシングビットの凹凸のある外形に沿っている。つまり、ケーシングビットのチップは、ケーシングビットの表面から例えば独立峰のように突出しているというよりは、凹凸のある外形に沿って表面に露出しているような態様であった。
【0005】
このため、障害に対して力強く作用して障害の破砕がなされてきたが、鋭く切り込んで効果的に切削するという作用の点では弱く、作業に時間がかかる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、障害を積極的によく切れるようにして作業性を向上することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、この発明は下記のケーシングビットを提供する。すなわち、そのケーシングビットは、ケーシングパイプの先端に固定されるビット本体と、ビット本体に保持されたチップを有し、外刃または内刃として使用されるものであって、ビット本体の先端部の表面に、チップが保持される平らな平面部が形成されている。
平面部は、ビット本体の先端に形成された先端平面部と、先端平面部の片側に接し先端平面部に対して傾斜するとともに、ケーシングパイプに固定されたときに、先端部を支える土台部よりもケーシングパイプの外周側または内周側にせり出す傾斜平面部である。
先端平面部および傾斜平面部は、ケーシングパイプの円周方向に対応する水平方向に長い形状に形成され、先端平面部および前記傾斜平面部の一部に複数のチップの基部が長手方向に沿って一列に埋設されている。
チップにおける先端平面部および傾斜平面部から垂直に突出する突出部の全体は、先端平面部または傾斜平面部に垂直な方向から突出部の先端側が細くなる方向に傾く側面を有し先鋭である。そのうえ、突出部における平面部側の部分と先端側の部分で側面の傾斜が異なり、先端側の部分のほうが平面部側の部分よりも傾斜が緩く形成されている。
そして、先端平面部の突出部が、ビット本体の厚み方向の中間位置よりも傾斜平面部がわに寄った位置に形成されている。
【0009】
この構成では、チップの突出部は、平らな平面部から突出するとともに、平面部に垂直な方向から傾いて突出部の先端側を細くする側面を有している。このため、突出部は平面部の表面に沿ってその形態に埋没した態様ではなく、平面部から切り立つような突出した態様である。このような突出部を有するチップの基部は、ビット本体に強力に保持される。
【0010】
前述のようなチップの突出部は、ケーシングパイプの先端において回転し、従来に比して小さな刃物角で障害に対して鋭く切り込む。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、チップが平面部から突出している突出部を有しているので、障害を積極的に良好に切ることができる。この結果、障害撤去の作業性を向上できる。しかも、よく切れるので作業時の騒音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図8】外刃ケーシングビットのビット本体とチップの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0014】
図1にケーシングビット11の斜視図を示す。ケーシングビット11は、
図2に示したようにケーシングパイプ12の先端に固定されるビット本体13と、ビット本体13に保持された超硬合金製のチップ15を有している。
【0015】
図2はケーシングパイプ12の先端部の一部を示す正面図であり、ケーシングパイプ12の外周面を表している。ケーシングビット11はケーシングパイプ12の先端部に固定されたホルダ16を介して着脱自在に固定される。
【0016】
このようなケーシングビット11には、ケーシングパイプ12の外周面側に指向する外刃ケーシングビット11a(以下、「外刃」という)と、ケーシングパイプ12の内周面に指向する内刃ケーシングビット11b(以下、「内刃」という)がある。
図2中、図面右側のケーシングビット11が外刃11aであり、図面左側のケーシングビット11が内刃11bである。外刃11aと内刃11bは、周方向に沿って間隔をあけて交互に固定される。
【0017】
ケーシングビット11のうち外刃11aの正面図を
図3に、背面図を
図4に、右側面図を
図5に、
図3のA-A断面図とB-B断面図を
図6の(a)と(b)にそれぞれ示している。なお、右側面は、右回転する際に回転方向の先方となる面である。
【0018】
これらの図に示すように、ビット本体13の先端部の表面に、平らな平面部13a,13bが形成され、平面部13a,13bの一部にチップ15の基部51が埋設されている。チップ15のうち平面部13a,13bから突出する突出部15aが、平面部13a,13bに垂直な方向から突出部15aの先端側が細くなる方向に傾く側面15b,15cを有している。
【0019】
ビット本体13は、
図8に示したように、前述したホルダ16(
図2参照)に保持されるため、所定の隙間を隔てて平行に並ぶ2枚の脚片31,32を有している。これら脚片31,32は、正面視で縦長の略長方形状である。脚片31,32の幅、つまりケーシングパイプ12の円周方向に対応する方向の長さは適宜設定される。一対の脚片31,32の中央の下部寄りの位置には、ホルダ16に対する固定用のボルト17を止めるボルト穴が貫通形成されている。ビット本体13の外周面側に位置する脚片31のボルト穴31aは、逆円錐状のボルト17の頭部を収容するボトル穴である。またビット本体13の内周面側に位置する脚片32のボルト穴32aは、ボルト17の雄ねじが螺合する雌ねじを有したボルト穴である(
図6の(a)参照)。
【0020】
2枚の脚片31,32の先、つまり上端には、脚片31,32を一体にする頭部33が形成されている。頭部33の下部に位置する土台部分34は板状であり、土台部分34の幅は脚片31,32の幅より幅広である。また土台部分34におけるケーシングパイプ12の厚みに対応する方向の厚さは、一対の脚片31,32の外側の面、つまり外周側に対応する面及び内周側に対応する面の間隔と同一であり、脚片31,32と土台部分34の外側の面は面一である。
【0021】
頭部33における土台部分34より先に連設された一体の先端部35は、幅方向において土台部分34よりも幅狭であり、幅方向の両側面に先端側ほど中間寄りに傾く傾斜側面35aを有している。また先端部35は、外刃11aにおいてはケーシングパイプ12の外周側に、内刃11bにおいてはケーシングパイプ12の内周側にせり出す形状である。外刃11aにあっては、外刃11aのビット本体13の先端部35における外周側の面に、先端側ほど外周側に傾く外周側傾斜面35bが形成されている。一方、外刃11aのビット本体13の先端部35における内周側の面に、先端側ほど外周側に傾く内周側傾斜面35cが形成されている。外周側傾斜面35bは正面図である
図3に示したように、正面視等脚台形である。内周側傾斜面35cも、背面図である
図4に示したように正面視等脚台形である。
【0022】
これら傾斜側面35aと外周側傾斜面35bと内周側傾斜面35cを有する頭部33の先端部35は、前述した平面部13a,13bとして先端平面部13aと傾斜平面部13bを有している。先端平面部13aは、ビット本体13の先端に形成されたもので、幅方向(左右方向)に傾きのない水平である。先端平面部13aのビット本体13の厚み方向における位置は、外刃11aの場合、厚み方向の中間位置よりも外周側に寄っている。逆に、内刃11bの場合は、先端平面部13aのビット本体13の厚み方向における位置は、厚み方向の中間位置よりも内周側に寄っている。
【0023】
傾斜平面部13bは、先端平面部13cに接し、先端平面部13aに対して傾斜しており、外刃11aの場合には、外周側傾斜面35bによってケーシングパイプ12の外周側に対応する方向にせり出している。内刃11bの場合には、傾斜平面部13bは内周側傾斜面35cによってケーシングパイプ12の内周側に対応する方向にせり出している。
【0024】
これら平面部13a,13b、つまり先端平面部13aと傾斜平面部13bは平面視長方形であり、ケーシングパイプ12の円周方向に対応する水平方向に長い。
【0025】
平面部13a,13bは前述したチップ15を保持するための凹部36を有している。凹部36は1個のチップ15を固定するためのものである。チップ15は先端平面部13aと傾斜平面部13bにそれぞれ複数個ずつ備えられるので、凹部36は先端平面部13aと傾斜平面部13bそれぞれ複数形成される。
【0026】
具体的には先端平面部13aと傾斜平面部13bの凹部36は、平面部13a,13bの長手方向沿って一列に並んでいる。凹部36は、平面部13a,13bに収まる大きさの平面視円形の穴である。先端平面部13aには2個の凹部36が、傾斜平面部13bには3個の凹部36が、互いに干渉しないように間隔をあけて形成されている。
【0027】
これらの凹部36にチップ15が固定されることにより、複数の突出部15aが先端平面部13aと傾斜平面部13bに、平面部13a,13bの長手方向に沿って一列に備えられることになる。
【0028】
凹部36に固定されるチップ15は、
図8に示したように、凹部36に差し込まれる大きさの円柱形状の基部51を有しており先鋭である。基部51の高さは凹部36の深さよりも短い。具体的には、チップ15の基部51より先の先端部52は円錐形状であり、先端部52は2段階に傾斜している。すなわち、先端部52のうち基部51側の部分52aと先端側の部分52bで傾斜が異なり、先端側の部分52bのほうが基部側の部分52aよりも傾斜が緩い。
【0029】
5個の凹部36に保持されるチップ15はすべて同一形状、同一硬度である。
【0030】
凹部36にチップ15が固定されることにより、次のような突出部15aが得られることになる。つまりその突出部15aは、先鋭であるとともに円錐形状である。また突出部15aは、平面部13a,13b側の部分(基部51側の部分52a)の側面15cと先端側の部分(先端側の部分52b)の側面15bで傾斜が異なり、先端側の側面15bのほうが平面部13a,13b側の側面15cよりも傾斜が緩い。
【0031】
チップ15は、基部51を凹部36に嵌めてロウ付けなどでビット本体13の凹部36に固定される。チップ15の基部51は凹部36の深さりも短いので、チップ15における平面部13a,13bから突出する部分、つまり前述した突出部15aとなる部分は、前述した先端部52のうちの一部である。
【0032】
また、ケーシングビット11は、平面部13a,13bを取り囲む部位に肉盛部18を有している。肉盛部18はビット本体13の表面を補強するものである。
【0033】
この肉盛部18は隆起部18aを一体に有している。隆起部18aは、平面部13a,13bにおけるビット本体13の先端面の幅方向の両側、つまりケーシングパイプ12の円周方向に対応する方向の両側において、突出部15aの突出方向に隆起し、突出部15aよりも高さが低い部分である。具体的には、平面部13a,13bのうちの先端平面部13aの長手方向の両側部に隆起部18aが形成されている。
【0034】
この隆起部18aを含む肉盛部18は、超硬粒子19を有する構成である。つまり、肉盛部18は、
図6の(a)に一部を拡大して示したように、超硬粒子19を溶接しながら付着させて形成される。肉盛部18の厚さは適宜設定されるが、掘削作用方向において突出部15aと並ぶ部分の高さは、突出部15aの高さよりも低くする。
【0035】
肉盛部18の形成に用いられる超硬粒子19は、
図6(a)に示したように球形状である。球形状とは、完全な球のみをいうのではなく、尖った角のない球のような形状をいい、見た目に球、又はそれに近い形状であれば足りる。この超硬粒子19は、廃品の超硬合金を粉砕して得るのではなく、粉末冶金によって球形状に成形したものを使用する。
【0036】
超硬粒子19の大きさは、肉盛部18の厚さにもよるが、小さい方が好ましい。数mmを超える大きさになると、肉盛部18の一体性が低くなるおそれが考えられる。しかし、小さすぎると肉盛部18を形成する際の作業性が悪くなるおそれがある。このため、超硬粒子19の粒径は、たとえばφ0.5mm~φ2mm程度あるとよく、より好ましくは、φ0.5mm~φ1.5mm程度であるとよい。使用する超硬粒子19の大きさは、統一されていても、バラツキがあってもよい。
【0037】
超硬粒子19の大きさが前述の範囲の大きさである場合、肉盛部18の厚さはたとえば3mm~5mm前後であるとよい。
【0038】
肉盛部18に見られる超硬粒子19は角がない球形状であって、肉盛部18は全体として緻密な外観を呈している。
【0039】
図9は内刃11bの右側面図である。この図に示すように、内刃11bは外刃11aの頭部33の向きを内外方向に反対向きにした構成である。この場合の右側面も、右回転する際に回転方向の先方となる面である。
【0040】
以上のような外刃11aと内刃11bを先端の円周上に配設したケーシングパイプ12の先端構造は、つぎのとおりである(
図2、
図10参照)。外刃11aと内刃11bのビット本体13は、先端位置に形成された先端平面部13aを有するとともに、外刃11aはケーシングパイプ12の外周側にせり出す傾斜平面部13bを有している。内刃はケーシングパイプ12の内周側にせり出す傾斜平面部13bを有している。
【0041】
先端平面部13aと傾斜平面部13bの一部には、チップ15の基部51が埋設される。チップ15のうち先端平面部13a又は傾斜平面部13bから突出する突出部15aは、先端平面部13a又は傾斜平面部13bに垂直な方向から突出部15aの先端側が細くなる方向に傾く側面15b,15cを有している。外刃11aの先端平面部13aの突出部15aは、ビット本体13の厚み方向の中間位置よりも外周側に寄っているとともに、内刃11bの先端平面部13aの突出部15aは、ビット本体13の厚み方向の中間位置よりも内側に寄っている。
【0042】
このため、
図2のC-C断面図である
図10に示したように、ケーシングパイプ12の先端には、外刃11aと内刃11bには互いに同一高さに位置するも、厚み方向で離反する方向にずれている先端平面部13aを有する。そのうえ外刃11aは外周側に向く傾斜平面部13bを、内刃11bは内周側に向く傾斜平面部13bを有し、それぞれにケーシングパイプ12の円周方向に一列に並ぶ複数の突出部15aを有する。このため、推進方向に2列、推進方向に対して斜めに2列、合計4列の先鋭の突出部15aが順次、掘削・切削を行うことになる。
【0043】
図10中、矢印Aは右回転の場合の回転方向を示している。
【0044】
以上のようにケーシングビット11におけるチップ15の突出部15aは、ビット本体13の平面部13a,13bから切り立つように突出しているうえに、平面部13a,13bに垂直な方向に対して傾斜する側面15b,15cを有している。このようなケーシングビット11を用いて掘削を行うと、チップ15の突出部15aは、ケーシングパイプ12の回転に伴い小さな刃物角で鋭く切り込む。このため、鉄筋等の障害であっても積極的に良好に切ることができる。この結果、障害撤去が効率的に行える。また障害をよく切れることから、掘削時の騒音を低減し、作業環境を少しでも良くすることができる。
【0045】
しかも、チップ15は基部51の全体が平面部13a,13bの一部に埋設されているので、ビット本体13に対しての保持は強力に行える。このため、障害に対する切削が確実に行える。
【0046】
このようなチップ15は、先端平面部13aに加えて、外周側と内周側にせり出す傾斜平面部13bにも形成されており、4列の先鋭の突出部15aが順次、掘削・切削を行うことになるので、特に障害に対する作業性が良好である。
【0047】
そのうえ、複数の突出部15aは平面部13a,13bの長手方向、つまりケーシングパイプ12の円周方向に対応する水平方向に沿って一列に配設されているうえに、それぞれの突出部15aが独立しているので、障害に対する切削はより強力に行える。
【0048】
特に、突出部15aは先鋭の円錐形状であるので、良好に切り進むことができる。
【0049】
また、突出部15aの側面15b,15cは二段階の傾斜を有しているので、突出部15a自体の強度や耐久性を高くできる。
【0050】
ケーシングビット11の耐久性は超硬粒子19を有する肉盛部18によって高められるとともに、推進方向に位置する先端平面部13aの突出部15aの回転方向の両側には隆起部18aが形成されているので、切削性を確保しながらも耐久性をえられる。
【0051】
以上の構成はこの発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されることなくその他の構成を採用することもできる。
【0052】
たとえば、チップ15の突出部15aの形状は、前述のような円錐形状のほかに、例えば先細りの板状などのその他の形状であってもよい。突出部15aが先細りの板状の場合には、突出部15aの先端の長手方向がケーシングパイプ12の円周方向に対応する水平方向に向けられる。
【0053】
また、複数のチップ15を固定する場合、チップ15の形状や硬度は固定部分に応じて変更してもよい。
【0054】
チップ15を固定する平面部の態様や、突出部15aの配置なども、適宜設計できる。
【符号の説明】
【0055】
11…ケーシングビット
12…ケーシングパイプ
13…ビット本体
13a…先端平面部
13b…傾斜平面部
15…チップ
15a…突出部
15b,15c…側面
18…肉盛部
18a…隆起部
19…超硬粒子
51…基部