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特許7323178L型細菌における合成バクテリオファージゲノムの再起動
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】L型細菌における合成バクテリオファージゲノムの再起動
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/33 20060101AFI20230801BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C12N15/33
C12N1/20 A
C12N1/21
C12N7/01
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019542711
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 EP2018053202
(87)【国際公開番号】W WO2018146206
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-01
(31)【優先権主張番号】17155693.9
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506110634
【氏名又は名称】イーティーエイチ・チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100217157
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 梨沙
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】ロエスナー, マーティン ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】キルヒャー, サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】スチューダー, パトリック
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/205276(WO,A1)
【文献】Molecular Microbiology, 2009, Vol.73, No.2, p.306-322
【文献】JOURNAL OF BACTERIOLOGY, 1981, Vol.145, No.2, p.878-883
【文献】NATURE COMMUNICATIONS, 2016, 7:13631, p.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/33
C12N 1/20
C12N 1/21
C12N 7/01
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作されたバクテリオファージを産生する又は増殖させる方法であって、
標的細菌に感染することができる操作されたバクテリオファージの機能性合成ゲノムを用意するステップと、
レシピエント細菌を用意するステップと、
形質転換ステップで、前記レシピエント細菌を前記機能性合成ゲノムで形質転換し、形質転換されたレシピエント細菌を産するステップと、
第1のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌をインキュベートするステップであって、前記操作されたバクテリオファージが、前記形質転換されたレシピエント細菌内で増殖される、ステップと、
第2のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌、又は前記形質転換されたレシピエント細菌から放出された前記増殖させた操作されたバクテリオファージを、標的細菌と共にさらにインキュベートするステップであって、前記増殖させた操作されたバクテリオファージが、前記標的細菌に感染し、前記標的細菌内でさらに増殖される、ステップと
を含み、
前記レシピエント細菌が、リステリア属の細菌の又はリステリア属の細菌に由来した細胞壁欠損変種である、方法。
【請求項2】
前記リステリア属の細菌が、リステリア・モノサイトゲネスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的細菌が、グラム陽性菌である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的細菌が、リステリア、バチルス、エンテロコッカス、ストレプトコッカス、クロストリジウム、又はスタフィロコッカスの属から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記標的細菌が、リステリア・モノサイトゲネス、リステリア・イバノビイ、リステリア・イノキュア、バチルス・スブチリス、バチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシス、又はスタフィロコッカス・アウレウスである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記レシピエント細菌と前記標的細菌が、異なる属の異なる種又はメンバーに属する又は由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記機能性合成ゲノムが、それらの断片のインビトロ若しくはインビボ連結によって、又はデノボ合成によって用意される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記機能性合成ゲノムが、少なくとも10,000塩基対の長さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記形質転換ステップが、ポリエチレングリコールの存在下で実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のインキュベーションステップが、4時間~96時間の範囲の期間にわたって実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記レシピエント細菌が、細胞壁のある前駆細菌を、細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在下でインキュベートして、前記レシピエント細菌を産することによって用意される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記インキュベートが浸透圧保護培地の存在下で行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
バクテリオファージを産生する又は増殖させる方法であって、
標的細菌に感染することができるバクテリオファージの機能性ゲノムを用意するステップと、
レシピエント細菌を用意するステップと、
形質転換ステップで、前記レシピエント細菌を前記機能性ゲノムで形質転換し、形質転換されたレシピエント細菌を産するステップと、
第1のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌をインキュベートするステップであって、前記バクテリオファージが、前記形質転換されたレシピエント細菌内で増殖される、ステップと、
第2のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌を、前記標的細菌と共にさらにインキュベートするステップであって、前記増殖させたバクテリオファージが前記標的細菌に感染し、前記標的細菌内でさらに増殖される、ステップと
を含み、
前記レシピエント細菌が、リステリア属の細菌の又はリステリア属の細菌に由来した細胞壁欠損変種であり、前記レシピエント細菌が、前記標的細菌とは異なる属の種又はメンバーに属する又は由来する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージ、特に操作されたバクテリオファージを産生する又は増殖させる方法及び手段に関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージ(ファージ)は、細菌に排他的に感染し、細菌の天敵となるウイルスである。ほとんどのファージは、所与の細菌種の菌株の特定のサブセットに、その他の近縁の細菌を標的とすることなく感染する。ファージは、その並外れた特異性及び溶菌能力ゆえに、様々な生物医学的及び生物工学的適用に用いられている。一方では、ファージは、生きた細菌病原体を迅速に高感度で検出する診断ツールとして使用されている。また他方では、ビルレントファージは、特定の種の生物的防除に適用されており、工業生産過程及び食品から潜在する病原体を効果的に除去する。また、EU及びUSA(WHO及びCDC)では年間推定48,000名が死亡するほどに抗生物質耐性が増しているため、代替の抗菌剤としてのファージの適用は、再興してきた対象の分野であり、ファージ療法による取り組みは有望な結果を示している。公衆衛生の脅威である耐性菌の存在の増加と併せて、伝統的な抗生物質の発見率の低さを考慮すると、ファージ療法の復興が続くことを想定するのが妥当である。ファージの属及び種特異性の高さ、自己複製する性質、並びに生産コストの低さにもかかわらず、ファージは、生物医学的環境におけるファージの使用を依然として制限する数多くの課題に直面している。すなわち、個々のファージの宿主範囲は限定されているため、ファージ反応混液を、病原性種のすべての医学的関連菌株をカバーするように設計する必要がある。一般的にファージ製品、特にファージ反応混液について規制当局の承認を得ることは難しく、規制の枠組みははっきりしていない。加えて、溶原性(テンペレート)ファージは、細胞溶菌を誘導することなく宿主ゲノムへ組み込むことができ、形質導入による抗生物質耐性の拡散の一因にもなることがあり、又は溶原変換によって細菌毒性を増大させることもあり、これによって、生物的防除剤としての溶原性ファージの使用は、事実上、除外されている。また、標的細胞は、過剰のファージ耐性機序、いくつか例を挙げると、受容体の多様化、バイオフィルム形成、及びCRISPR干渉などをコードすることができる。ファージのゲノムを改変することによって、これらの制限の多くを克服することができ、追加の有益な特性をファージゲノムへ含むことができる。
【0003】
残念ながら、ビルレントファージのゲノム操作は、難しく、よくても作業集約的なプロセスである。ほとんどの場合、ファージゲノムは、感染中に、相同配列を保有するプラスミドとの相同組換え、及び所望の遺伝子変更によって改変される。ファージ複製は速く、組換え率は非常に低いことが多いため(10-4~10-10)、組換えファージのスクリーニングは、労働集約的であり、レポーター遺伝子の組込みを必要とする。最近、研究者らによって、ファージゲノムを改変する簡潔な合成手法が示された。酵母人工染色体(YAC)と、オーバーラップするファージゲノム断片とを酵母細胞でインビボで連結させて、YACに捕捉された完全な組換えゲノムを作製した。続いて、YACファージDNAを大腸菌(E.coli)へ形質転換して、これらのファージを再起動させた。今のところ、この手法は、グラム陰性細胞に感染し、宿主非依存性複製を特徴とするT7ファミリーのウイルスに限定されている。同様の手法が、様々なファージファミリー及び/又はグラム陽性細胞に感染するファージに適合可能であるかどうかは、現在は不明である。
【0004】
したがって、グラム陽性宿主に伴うファージにも適用可能な完全な組換えファージゲノムを作製するための簡単で効率的な方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の背景に基づくと、本発明の目的は、特にグラム陽性宿主細胞に感染するバクテリオファージを含むバクテリオファージを増殖させる、簡単で効率的な方法及び手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1又は請求項10に記載の方法、及び請求項12に記載の細胞壁欠損細菌によって達成される。
それらによれば、本発明の第1の態様は、バクテリオファージ、特に操作されたバクテリオファージを増殖させる方法に関する。この方法は、
標的細菌に感染することができるバクテリオファージの機能性ゲノムを用意するステップと、
レシピエント細菌を用意するステップと、
形質転換ステップで、レシピエント細菌を機能性ゲノムで形質転換し、形質転換されたレシピエント細菌を産するステップと、
第1のインキュベーションステップで、形質転換されたレシピエント細菌をインキュベートするステップであって、バクテリオファージが、形質転換されたレシピエント細菌内で増殖される、ステップと、
第2のインキュベーションステップで、形質転換されたレシピエント細菌を、標的細菌と共にさらにインキュベートするステップであって、増殖させたバクテリオファージが標的細菌に感染し、標的細菌内でさらに増殖される、ステップと
を含み、レシピエント細菌が細胞壁欠損細菌である、方法である。
【0007】
本明細書の関連において「細胞壁欠損」細菌という用語は、浸透圧的に安定化させた培地中で細胞壁を欠損した状態で活発に増殖する、細胞壁のある細菌の細胞壁欠損変種を指す。細胞壁欠損細菌は、例えば大きなDNA分子を有する、グラム陽性菌の形質転換を通常制限している多層のペプチドグリカンエンベロープを欠く。細胞壁欠損細菌はまた、L型(L-form)細菌、L型(L-phase)細菌又はL型変種(L-phase variant)としても公知である。
【0008】
したがって、このような細胞壁欠損細菌は、特に、代謝の活発な細胞壁欠損細菌、及び/又は活発に増殖することができる細胞壁欠損細菌である。特に、このような細胞壁欠損細菌は、一時的に細胞壁欠損であっても永久に細胞壁欠損であってもよい。
【0009】
本明細書の関連において「合成ゲノム」という用語は、人工ゲノム又は天然に存在しないゲノムを特に指す。同様に、本明細書の関連において「操作されたバクテリオファージ」という用語は、特に合成ゲノムを特徴とする、人工バクテリオファージ又は天然に存在しないバクテリオファージを特に指す。
【0010】
特に、機能性ゲノムは、1つ又は複数の「裸の」核酸の形態、例えばタンパク質のキャプシド又はエンベロープを伴わない形態で形質転換される。
【0011】
別法として、第2のインキュベーションステップで、増殖させたバクテリオファージが、標的細菌と共にインキュベートされ、増殖させたバクテリオファージが、形質転換されたレシピエント細菌から放出される、特に、例えば浸透圧ショックによって形質転換されたレシピエント細菌を溶解することによって放出される。
【0012】
本発明の方法は、現行の最新技術と比較するとはるかに速く信頼性の高い、組換えバクテリオファージ又は天然に存在するバクテリオファージの産生、増殖、再活性化、又は操作の新規の手法である。本手法は、検出可能なレポーター遺伝子の正確な組換え又は組込みのためのスクリーニングは必要ではない。さらに、本手法は、グラム陽性生物に感染する、非常に広範なファージに適用可能である。本方法は、所望の生物医学的及び生物工学的特性を有する、目的に合わせたバクテリオファージの生成へ踏み出された大きな一歩である。本発明の方法は、公知の方法の限定を回避する点で有利であり、したがって、グラム陽性生物に感染するファージに広範囲に適用可能である。
【0013】
特に、形質転換ステップ及び/又は第1のインキュベーションステップは、浸透圧保護培地中で実施される。
【0014】
本明細書の関連において「浸透圧保護培地」という用語は、細胞壁欠損細菌の生存及び/又は増殖を可能にし、非毒性の水溶性の浸透圧活性化合物を、特に、細胞壁欠損細菌と該培地との間の浸透圧が細胞壁欠損細菌の破裂を起こす閾値を下回る濃度でさらに含む培地を特に指す。このような化合物の非限定的な例としては、コハク塩酸などの非毒性の有機酸若しくはそれらの塩、炭水化物、又は硫酸アンモニウム若しくは塩化ナトリウムなどの非毒性の塩が挙げられる。
【0015】
特に、第2のインキュベーションステップは、浸透圧保護培地の非存在下で実施される。
【0016】
ある実施形態において、形質転換ステップは、液体培地中で実施される。ある実施形態において、第1のインキュベーションステップは、液体培地中で実施される。ある実施形態において、第2のインキュベーションステップは、液体培地中で実施される。
【0017】
ある実施形態において、浸透圧保護培地は、コハク塩酸を、特に、0.075mol・l-1~0.5mol・l-1範囲の濃度で含む。ある実施形態において、浸透圧保護培地は、単糖、二糖、又は三糖、特に、グルコース又はショ糖を含む。ある実施形態において、浸透圧保護培地はグリセリンを含む。ある実施形態において、浸透圧保護培地は、0.25mol・l-1~0.75mol・l-1の範囲の濃度の、特に0.5mol・l-1の濃度のショ糖を含む。
【0018】
ある実施形態において、レシピエント細菌は、グラム陽性菌の又はグラム陽性菌に由来した細胞壁欠損変種である。
【0019】
本明細書の関連において「に由来した」という用語は、個々の細菌、例えば親の細胞壁のあるグラム陽性菌が、例えば、細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在及び/又は浸透圧保護培地の存在下などの培養条件によって細胞壁欠損細菌へと形質転換されるプロセスを特に指す。
【0020】
ある実施形態において、レシピエント細菌は、リステリア属(Listeria)の細胞壁欠損細菌である。ある実施形態において、レシピエント細菌は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の又はリステリア・モノサイトゲネスに由来した細胞壁欠損変種である。ある実施形態において、レシピエント細菌は、リステリア・モノサイトゲネスEGD-eの又はリステリア・モノサイトゲネスEGD-eに由来した細胞壁欠損変種である。ある実施形態において、レシピエント細菌は、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)の又はリステリア・イノキュアに由来した細胞壁欠損変種である。ある実施形態において、レシピエント細菌は、リステリア・イノキュア2021の又はリステリア・イノキュア2021に由来した、特にリステリア・イノキュア菌株SLCC5639(Special Listeria Culture Collection、Univ.of Wurzburg、Germany)に由来した、細胞壁欠損変種である。
【0021】
ある実施形態において、標的細菌は、グラム陽性菌である。ある実施形態において、標的細菌は、リステリア属、バチルス属(Bacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、又はスタフィロコッカス属(Staphylococcus)から選択される。ある実施形態において、標的細菌は、リステリア・モノサイトゲネス、リステリア・イバノビイ(Listeria ivanovii)、リステリア・イノキュア、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、又はスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcos aureus)から選択される。
【0022】
ある実施形態において、レシピエント細菌と標的細菌とは、異なる種に属する又は由来する。ある実施形態において、レシピエント細菌と標的細菌とは、異なる属のメンバーに属する又は由来する。
【0023】
ある実施形態において、レシピエント細菌は、リステリア属のメンバーに由来しており、標的細菌は、バチルス属、エンテロコッカス属、ストレプトコッカス属、クロストリジウム属、又はスタフィロコッカス属から選択される属に属する。
【0024】
ある実施形態において、機能性ゲノムは、天然に存在するバクテリオファージゲノムである。ある実施形態において、機能性ゲノムは、合成又は人工バクテリオファージゲノムであり、特に、操作されたバクテリオファージの合成又は人工バクテリオファージゲノムである。
【0025】
本明細書の関連において「合成又は人工バクテリオファージゲノム」という用語は、人工の、天然に存在しない核酸構築物を特に指す。
【0026】
このような合成又は人工バクテリオファージゲノムは、例えば、遺伝子、調節エレメント(例えばプロモーター)、オペロン、又はオープンリーディングフレームなどの1つ又は複数の異質の遺伝学的エレメントが組み込まれているか、及び/又は天然に存在する遺伝学的エレメントが置換、改変、及び/又は欠失されている、天然に存在するバクテリオファージゲノムに由来していてもよい。このような合成バクテリオファージゲノムはまた、複数の異なる生物に由来する複数の遺伝学的エレメントの寄せ集めであってもよい。
【0027】
ある実施形態において、機能性ゲノム、特に、機能性合成又は人工ゲノムは、それらの断片のインビトロ又はインビボ連結によって用意される。特に、機能性ゲノムの断片は、デノボ合成、クローニング、又は増幅によって用意され得、次いで、用意された断片は、当技術分野で公知の方法によって機能性ゲノムへと連結され得る。インビトロ連結の非限定的な例としては、上述の断片が、断片を連結させるオーバーラッピング配列を共有している、ギブソンアセンブリー法がある。インビボ連結の非限定的な例としては、酵母細胞を、オーバーラッピング配列をやはり含む上述の断片で形質転換し、酵母細胞内でこれらの断片を連結させる、酵母連結法がある。
【0028】
ある実施形態において、機能性ゲノム、特に、機能性合成又は人工ゲノムは、デノボ合成によって用意される。
【0029】
ある実施形態において、合成又は人工バクテリオファージゲノムは、テンペレートバクテリオファージに由来しており、この合成又は人工バクテリオファージゲノムは、溶菌サイクル又は溶原性制御領域のリプレッサーの遺伝子を欠く。
【0030】
ある実施形態において、機能性ゲノムは、線状又は環状核酸分子である。ある実施形態において、機能性ゲノムは、1本鎖又は2本鎖のRNA又はDNA分子である。
【0031】
ある実施形態において、機能性ゲノムは、少なくとも10,000塩基対の長さを有する。ある実施形態において、機能性ゲノムは、少なくとも30,000塩基対の長さを有する。ある実施形態において、機能性ゲノムは、少なくとも40,000塩基対の長さを有する。ある実施形態において、機能性ゲノムは、少なくとも120,000塩基対の長さを有する。ある実施形態において、機能性ゲノムは、10,000塩基対~160,000塩基対の範囲の長さを有する。ある実施形態において、機能性ゲノムは、35,000塩基対~160,000塩基対の範囲の長さを有する。ある実施形態において、機能性ゲノムは、40,000塩基対~130,000塩基対の範囲の長さを有する。
【0032】
ある実施形態において、機能性ゲノムは、サイフォウイルス(Siphovirus)、特に、サイフォウイルスTP21-L、サイフォウイルス2638A、サイフォウイルスP35、サイフォウイルスB025、サイフォウイルスB035、サイフォウイルスB056、サイフォウイルスPSA、若しくはサイフォウイルスP70、又はマイオウイルス(Myovirus)、特に、マイオウイルスA511、マイオウイルスP100、マイオウイルス・バスティーユ(Myovirus Bastille)、若しくはファージK、又はポドウイルス(podovirus)に由来する。
【0033】
ある実施形態において、形質転換ステップは、ポリエチレングリコールの存在下で実施される。ある実施形態において、ポリエチレングリコールは、1,000g・mol-1~30,000g・mol-1の範囲の平均分子量を有する。ある実施形態において、ポリエチレングリコールは、7,000g・mol-1~20,000g・mol-1の範囲の平均分子量を有する。ある実施形態において、ポリエチレングリコールは、PEG-8000である。ある実施形態において、形質転換ステップは、約6%(w/v)~約36%(w/v)の範囲の濃度のポリエチレングリコールの存在下で実施される。ある実施形態において、形質転換ステップは、約24%(w/v)の濃度のポリエチレングリコールの存在下で実施される。
【0034】
ポリエチレングリコールに関して「平均分子量」という用語は、個々のポリエチレングリコールの算術平均又は分子量分布の中央値を特に指す。このような平均分子量は、当業者に公知の方法によって、例えば、静的又は動的光散乱(SLS、DLS)、サイズ排除クロマトグラフィー、又はゲル電気泳動などによって決定され得る。
【0035】
ある実施形態において、第1のインキュベーションステップは、4時間~96時間の範囲の期間にわたって実施される。ある実施形態において、第1のインキュベーションステップは、24時間~32時間の範囲の期間にわたって実施される。
【0036】
ある実施形態において、第1のインキュベーションステップは、15℃~37℃の範囲の温度で実施され、特に、20℃~32℃の範囲の温度で実施される。ある実施形態において、第2のインキュベーションステップは、15℃~37℃の範囲の温度で実施され、特に、20℃~32℃の範囲の温度で実施される。ある実施形態において、形質転換ステップは、15℃~37℃の範囲の温度で実施され、特に、20℃~37℃の範囲の温度で実施される。
【0037】
ある実施形態において、レシピエント細菌は、細胞壁のある前駆細菌を、細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在下でインキュベートし、レシピエント細菌を産することによって用意される。特に、前駆細菌は、細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在下で、本条件での前駆細菌の倍加時間より長い期間にわたってインキュベートされる。ある実施形態において、前駆細菌は、細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在下で、2日~5日の範囲の期間にわたって、特に、3日~4日の範囲の期間にわたってインキュベートされる。
【0038】
ある実施形態において、細胞壁合成を妨害する抗生物質は、ベータラクタム系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、ホスホマイシン、又はサイクロセリンから選択される。
【0039】
ある実施形態において、ベータラクタム系抗生物質は、セファロスポリン系、カルバセフェム系、モノバクタム系、又はペニシリン系から選択される。
【0040】
ある実施形態において、細胞壁合成を妨害する抗生物質は、ペニシリンGである。
【0041】
別法として、レシピエント細菌は、細胞壁のある前駆細菌内においてタンパク質レベル又はゲノムレベルで細胞壁合成に関連するタンパク質を阻害することによって、又は細胞壁のある前駆細菌を、リゾチームなどの細胞壁分解又は溶解酵素の存在下及び浸透圧保護培地の存在下でインキュベートすることによって用意され得る。
【0042】
本発明の別の態様によれば、リステリア属の細胞壁欠損細菌を作製する方法が提供される。この方法は、
遺伝子型[Δlmo0584 Δlmo1653-54 Δlm01861]を特徴とする、若しくはlmo0584、lmo1653-54、及びlmo01861の機能性相同体を含まないゲノムを特徴とする、リステリア属の細菌を用意するステップ、又は
リステリア・イノキュア種の細菌、特に、リステリア・イノキュアの菌株2021の細菌、さらにより具体的には、リステリア・イノキュア菌株SLCC5639(Special Listeria Culture Collection、Univ.of Wurzburg、Germany)を用意するステップと、
細菌を、細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在下で、任意選択で浸透圧保護培地の存在下で培養するステップと
を含む。
【0043】
「lmo0584」という用語は、リステリア・モノサイトゲネスEGD-eの遺伝子(遺伝子ID:984661、NCBI遺伝子データベース)を指す。
【0044】
「lmo1653-54」という用語は、リステリア・モノサイトゲネスEGD-eの2つの遺伝子(遺伝子ID:985674及び遺伝子ID:985673、NCBI遺伝子データベース)を指す。
【0045】
「lmo01861」という用語は、リステリア・モノサイトゲネスEGD-eの遺伝子(遺伝子ID:985831、NCBI遺伝子データベース)を指す。
【0046】
本明細書の関連において「機能性相同体」という用語は、同一の機能を有するが、核酸配列が異なる遺伝子を指す。
【0047】
ある実施形態において、リステリア属の細菌は、遺伝子lmo0584、lmo1653-54、及びlmo01861、又はそれらの相同体を不活性化することによって用意される。ある実施形態において、遺伝子lmo0584、lmo1653-54、及びlmo01861、又はそれらの相同体の不活性化は、遺伝子lmo0584、lmo1653-54、及びlmo01861、又はそれらの相同体の欠失、遺伝子lmo0584、lmo1653-54、及びlmo01861、又はそれらの相同体内での、塩基置換、欠失、挿入、又は配列逆位によって実施される。
【0048】
ある実施形態において、細胞壁合成を妨害する抗生物質は、ベータラクタム系抗生物質、特に、セファロスポリン系、カルバセフェム系、モノバクタム系、若しくはペニシリン系、グリコペプチド系抗生物質、ホスホマイシン、又はサイクロセリンから選択される。
【0049】
ある実施形態において、リステリア属の細菌は、リステリア・モノサイトゲネスである。ある実施形態において、リステリア属の細菌は、リステリア・モノサイトゲネス菌株EGD-eである。
【0050】
ある実施形態において、細菌は、20℃~32℃の範囲の温度で培養される。
【0051】
別法として、細胞壁欠損細菌は、タンパク質レベル又はゲノムレベルで細胞壁合成に関連するタンパク質を阻害することによって、又は細胞壁のある細菌をリゾチームなどの細胞壁分解又は溶解酵素の存在下及び浸透圧保護培地の存在下でインキュベートすることによって作製され得る。
【0052】
本発明のさらに別の態様によれば、遺伝子型[Δlmo0584 Δlmo1653-54 Δlm01861]を特徴とする、又はlmo0584、lmo1653-54、及びlmo01861の機能性相同体を含まないゲノムを特徴とする、リステリア属の細胞壁欠損細菌が用意される。
【0053】
ある実施形態において、細胞壁欠損細菌は、リステリア・モノサイトゲネスである。ある実施形態において、細胞壁欠損細菌は、リステリア・モノサイトゲネス菌株EGD-eである。
【0054】
ある実施形態において、細胞壁欠損細菌は、本発明の上記の態様による方法によって得られ得る又は得られる。
【0055】
個々の分離可能な特徴についての選択肢が「実施形態」として本明細書において説明されている場合はいつでも、このような選択肢を自由に組み合わせて、本明細書において開示された本発明の個別の実施形態を構成することができることを理解されたい。
【0056】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに例証され、これらからさらなる実施形態及び利点が引き出され得る。これらの実施例は、本発明を例証するが、その範囲を限定しないことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1-1】L型菌株Rev2Lにおけるリステリアバクテリオファージゲノムの再起動を示す図である。(A~B)L型菌株Rev2Lにおいてリステリアファージを再起動させる能力は、リステリアファージP35のゲノムDNAを使用して(A)に図示したように評価した。
図1-2】L型形質転換反応物は、(B)に示したように調製し、32℃でインキュベートし、形質転換の24時間後に、指示菌に対するプラーク形成を調べた。デオキシリボヌクレアーゼIは、デオキシリボヌクレアーゼIを使用したP35gDNAの30分間の前消化を示す。(C)形質転換及び再起動の効率は、P35gDNAの希釈系列を使用して決定した。
図1-3】(D)7個の追加のリステリアファージの1セットは500~1000ngのgDNAを使用してRev2Lにおいて再起動させ、指示菌としてリステリア・モノサイトゲネス又はリステリア・イバノビイを使用して検出した。ファージ特性を、表形式で記載する。
図1-4】(E)L型におけるバクテリオファージ産生速度論を、3つファージについて、96時間かけて評価した。データは、平均±SD(n=3)である。Φ=ファージ、PEG=ポリエチレングリコール、gDNA=ゲノムDNA、tr=末端重複、cp=循環置換、cos=付着末端部位、nd=未特定。
図2-1】リステリアL型における(A)バチルスの再起動を示す図である。Rev2L細胞を、1~5μgのファージgDNAで形質転換し、32℃で24時間インキュベートし、ファージのそれぞれの指示菌に対するファージ産生についてアッセイした。gDNA又はL型細胞のいずれかを欠く形質転換反応物を、対照として用いた。Φ=ファージ。
図2-2】リステリアL型における(B)スタフィロコッカスファージゲノムの再起動を示す図である。Rev2L細胞を、1~5μgのファージgDNAで形質転換し、32℃で24時間インキュベートし、ファージのそれぞれの指示菌に対するファージ産生についてアッセイした。gDNA又はL型細胞のいずれかを欠く形質転換反応物を、対照として用いた。Φ=ファージ。
図3-1】リステリアL型における、合成したインビトロ連結バクテリオファージゲノムの再起動を示す図である。Rev2Lにおける合成ゲノムの再起動についての一般的なワークフローを(A)に図示する。ファージのゲノムDNAは、リステリア・モノサイトゲネスファージP35、リステリア・イノキュアファージB025、及びバチルス・セレウスファージTP21-Lから抽出し、精製した。
図3-2】ハイファイポリメラーゼを使用して、全長ゲノムを包含する、オーバーラップするPCR断片を生成し(B)、インビトロで連結させ、特段の指示がない限り、環状分子を生成した。連結反応物を、Rev2L細胞で形質転換し、再起動させ、不完全な連結物を対照として使用して、それぞれの指示菌にプレーティングした(C)。
図3-3】ハイファイポリメラーゼを使用して、全長ゲノムを包含する、オーバーラップするPCR断片を生成し(D)、インビトロで連結させ、特段の指示がない限り、環状分子を生成した。連結反応物を、Rev2L細胞で形質転換し、再起動させ、不完全な連結物を対照として使用して、それぞれの指示菌にプレーティングした(E)。
図3-4】ハイファイポリメラーゼを使用して、全長ゲノムを包含する、オーバーラップするPCR断片を生成し(F)、インビトロで連結させ、特段の指示がない限り、環状分子を生成した。ファージTP21-Lについて、再起動反応物を、指示菌を使用して24時間後にファージ産生をアッセイし、又は(増幅)の記載があるものは、形質転換の6時間後に10μlのHER1399静置培養物を再起動反応物に追加し、24時間後にファージ産生をアッセイした(G)。
図4-1】テンペレートリステリアファージB025の、テンペレートからビルレントへの生活様式の変換を示す図である。インビトロゲノム連結戦略を使用して、組込みのリプレッサーを欠く(Δrep)又は溶原性制御領域全体を欠く(ΔLCR)テンペレートリステリアファージB025の変異体を作製した。ワークフローを(A)に示す。野生型連結物の断片3は溶原性制御遺伝子を含有し、断片3をリプレッサーのみ又はLCR全体のいずれかを省いて2つのオーバーラップする断片に分割して、ゲノム連結のための5つのPCR断片を産した(B)。
図4-2】組換えゲノムを再起動させ、得られたファージ変異体を精製し、PCR及び配列決定を使用して正確な遺伝子型をアッセイした(C)。
図4-3】軟寒天重層法を使用して、L.イバノビイWSLC3009に、数を増やした野生型、Δrep、及びΔLCRファージを感染させた。
図4-4】生き残った細菌叢(B025wt)又はシングルコロニー(B025Δrep及びB025ΔLCR)について、示したプライマー対を使用して、B025プロファージの存在又は非存在をアッセイした(E)。LCR=溶原性制御領域、PFU=プラーク形成単位、attB=プロファージ組込みのための細菌付着部位、attL=WSLC3009::B025における左側のプロファージフランキング領域。
図5-1】L型菌株Rev2Lにおけるリステリアバクテリオファージゲノム再起動をさらに示す図である。各パラメーターが別々に最適化された、ファージゲノムの再起動の詳細なワークフローを(A)に示す。
図5-2】最適化したパラメーターには、形質転換前のRev2L増殖時間(B)、形質転換時のL型培養物の吸光度(600nm)調整(C)、DM3培地の添加前の最終PEG濃度(D)が含まれる。
図5-3】最適化したパラメーターには、インキュベーション前にDNA/L型/PEG混合物に添加したDM3の量(E)、及び使用したPEG鎖の平均分子量(F)が含まれる。選択した至適条件を示す(アスタリスク)。再起動のために使用したバクテリオファージDNAの質は、パルスフィールドゲル電気泳動を使用して評価した(G)。
図5-4】ファージDNAの希釈系列を使用して、ファージP35及びA511の再起動効率を比較した(H)。様々なリステリアファージの細胞壁のあるRev2細胞に感染する能力は、Rev2又はファージ指示菌を含有する軟寒天重層上にファージ希釈液をスポットすることによって評価した。(I)PenG=ペニシリンG、OD=吸光度、PEG=ポリエチレングリコール。データは、平均±SD(n=3)である。
図6】リステリアL型における、合成したインビトロ連結バクテリオファージゲノムの再起動を示す図である。投入材料としてゲノムDNA及びインビトロ連結ゲノムを使用して、ゲノム再起動の効率を比較した。すなわち、Rev2Lにおける再起動のために、P35gDNAの4倍希釈系列又はギブソンアセンブリー反応物を使用し、それぞれ、gDNAには2μgの投入材料を、アセンブリー反応物には125ngの投入材料を用いて開始した。形質転換反応物当たりの総pfuを定量化し、比較した。データは、平均±SD(n=3)である。
図7-1】TP21-L溶原性制御遺伝子の欠失を示す図である。インビトロゲノム連結戦略を使用して、組込みのリプレッサーを欠く(Δrep)、又は溶原性制御領域全体を欠く(ΔLCR)テンペレートバチルスファージTP21-Lの変異体を作製した。ワークフローを(A)に示す。野生型連結物の断片3は溶原性制御遺伝子を含有し、断片3をリプレッサーのみ又はLCR全体のいずれかを省いて2つのオーバーラップする断片に分割して、ゲノム連結のための5つのPCR断片を産した。
図7-2】組換えゲノムを再起動させ、得られたファージ変異体を精製し、PCR及び配列決定を使用して正確な遺伝子型をアッセイした(B)。LCR=溶原性制御領域。
図8】L型菌株Rev2(L.モノサイトゲネス)におけるリステリアバクテリオファージゲノムの再起動、及び非病原性リステリア・イノキュア2021(SLCC5639)から得られた可逆性L型における、リステリアバクテリオファージゲノムの再起動を示す図である。2つのL型培養物のそれぞれは、L.モノサイトゲネスバクテリオファージP70のゲノムDNA(1μg)で形質転換し、32℃で24時間インキュベートし、指示菌としてL.モノサイトゲネスL99を使用して、プラーク形成を調べた。軟寒天重層のプラーク(感染の24時間後)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明は、新規のリステリア・モノサイトゲネスL型菌株Rev2Lが、ゲノム再起動をもたらす、すなわち、裸のDNAからの感染性ビリオンの産生をもたらす、無傷の精製されたバクテリオファージDNAで形質転換され得ることを示す。再起動は、ファージ指向性、形態、ゲノムサイズ、又はゲノム構造に依存しない、リステリア・モノサイトゲネス及びリステリア・イノキュアファージの不均質な群からなる一群に対して適用することができた。注目すべきことに、このゲノム再起動手法はまた、感染の属の壁を効果的に迂回して、バチルス及びスタフィロコッカスに感染する幾つかのファージに対しても成功した。合成生物学の手法において、野生型及び組換えウイルスの両方を生成するために、増幅させたオーバーラップする断片を使用して、バクテリオファージゲノムをインビトロで連結させ、続いて、Rev2L細胞において再起動させた。この戦略の概念実証として、発明者らは、テンペレートリステリアファージB025の溶原性制御遺伝子を削除し、組換えウイルスがビルレントの表現型を獲得したことを実証した。インビトロゲノム連結とL型形質転換とを組み合わせてバクテリオファージ操作することによって、グラム陽性病原体に感染するファージに関する基礎及び応用研究両方のための目的に合わせたファージの開発に拍車がかかることになるであろう。
【0059】
特に、下記の2段階のプロトコールが、遺伝子改変バクテリオファージの生成のために使用され得る。
【0060】
第1のステップにおいて、合成バクテリオファージゲノムを、市販のギブソンアセンブリーをベースにした方法を使用してインビトロで連結させる。バクテリオファージゲノムは、天然のファージ複製の間に生じるDNA中間体を模倣して環状の2本鎖分子として連結させる。原理的には、合成ゲノムの形成をもたらすあらゆる方法がこの第1のステップのために使用され得、したがって、合成ゲノムはギブソンアセンブリーで連結させたゲノムに限定されない。
【0061】
第2のステップにおいて、インビトロ連結ウイルスゲノム/合成ゲノムを、これらの合成ファージが再起動されて感染性粒子を産生するリステリア・モノサイトゲネス細胞へ形質転換する。この形質転換反応物のために、発明者らは、野生型リステリア細胞を使用せず、代わりに新規に同定したリステリア・モノサイトゲネスL型菌株Rev2Lに依った。この菌株は、浸透圧的に安定化させた培地が使用されて細菌の溶解を防止している限りは、無傷の細胞壁の非存在下で増殖し、分裂する能力を有する。Rev2Lは、無傷の細胞壁を欠いているため、無傷のバクテリオファージゲノムなどの大きなDNA分子で形質転換され得る。この形質転換反応物のために、発明者らは、プロトコールに基づいて、最適化されたポリエチレングリコール(PEG8000)を使用した。形質転換したL型細菌を、24時間インキュベートして、ファージ再起動を可能にした。これらの反応物から、合成ファージを単離し、増幅させるために、続いて、L型を、当該ファージの本来の増殖菌株と混合し、インキュベートした。L型細胞は、ファージにコードされた酵素の活性、又は単に膜の浸透圧の不安定化のいずれかによって溶解されるため、子孫ファージをL型細胞から積極的に放出させる必要はない。
【0062】
さらに重要なことには、この方法は、リステリアファージに限定されることなく、グラム陽性菌又はその他の細菌のその他のファージに適用され得る。
【実施例
【0063】
概念実証の詳細な説明
グラム陽性細胞におけるファージゲノム再起動に対処するために、発明者らは、食品媒介病原体リステリア・モノサイトゲネスに感染するビルレントサイフォウイルスP35を使用した。通常、かなり低い効率でスーパーコイルプラスミドを10kbまでしか取り込まない細胞壁のあるリステリア細胞へのエレクトロポレーションには、P35の35,822bpの線状ゲノムDNA(gDNA)は大きすぎる。したがって、発明者らは、細胞壁のある細胞と従来のエレクトロポレーションのプロトコールを使用して、ゲノム再起動に対処することができなかった。ペプチドグリカンエンベロープが、より大きなDNAの形質転換に対する主な障害であるという仮定に基づき、発明者らは、精製された線状P35gDNAのためのレシピエントとして、代謝的に活性であるが細胞壁を欠損しているリステリアL型を使用することの可能性を検討した。L型は、浸透圧保護培地中で、細胞壁合成を標的とする抗生物質の存在下で、増殖させ、継代培養を長期間繰り返すことによって誘導される。本発明の方法のために、発明者らは、L.モノサイトゲネスEGD-eをDM3培地中でペニシリンG(penG)に長期曝露することによって得られ、L型(Rev2Lと呼ぶ)としての増殖と細胞壁のある細菌(Rev2)としての増殖とを切り換える能力を有する、新規のリステリア菌株Rev2[Δlmo0584 Δlmo1653-54 Δlm01861]を使用した。
【0064】
発明者らは、ファージgDNAによるL型細菌のポリエチレングリコール(PEG)形質転換法のワークフローを考案し(図1A及び図5A)、P35が、gDNA、L型、及びPEG依存性プロセスにおいて再起動されることを明らかにした(図1B)。この目的のために、精製したP35gDNAを、ペニシリンG(penG)で誘導したRev2Lの増殖培養物及びPEG8000溶液と混合した。続いて、PEGを浸透圧的に安定化させたDM3培地で希釈し、この混合物を32℃で24時間インキュベートして、ファージ再起動を可能にした。このL型形質転換反応物を、指示菌としてファージP35の増殖菌株(L.モノサイトゲネスMack)を使用して、再起動させたファージの存在についてアッセイした。
【0065】
最も高いファージ収率を得るために、発明者らは、P35gDNAを使用する再起動プロトコールの各ステップを最適化した(詳細については、図5及び方法のセクションを参照されたい)。このような最適化した条件下で、発明者らは、(使用したDNAが無傷のgDNAのみからなったと仮定して)約66,000ゲノムに相当する2.6pgのP35gDNAの検出限界で、投入DNAとファージ産生との間の直線相関を見出した(図1C)。P35に加えて、このL型形質転換プロトコールは、7種の追加のリステリアファージの不均質な群からなる一群の再起動も可能にした(図1D)。7種の追加のリステリアファージには、ビルレント(P70、P100、及びA511)及びテンペレート(B025、B035、B056、PSA)の生活様式を有するファージが含まれ、130kbを超える大きなゲノムを有するファージ(P100、A511)もあれば、収縮性のある尾部(マイオウイルス;P100、A511)か収縮性のない尾部(サイフォウイルス;その他すべて)のどちらかを有する、形態的に多様なファージもある。ファージB025は、付着性の、オーバーラップするゲノム末端(cos)を有する一方、その他の再起動されたファージは、循環置換を伴う又は伴わない末端重複ゲノムを有する。
【0066】
これらの結果は、再起動がビリオンの形態、ファージゲノムサイズ、及びゲノム複製戦略には依存しないことを強く示唆している。さらに、発明者らは、Rev2細胞には通常は感染しないと思われるリステリアファージを産生させることができ(B025、B035、B056、及びPSA、図5)、このことは、受容体結合及び/又はゲノム転座が、細胞壁のある細胞の感染中にこれらのファージの産生を制限する唯一の障害であることを示唆している。再起動させたリステリアファージの多様な特徴を図1D(小さい表)にまとめたが、これらの特徴は、Rev2Lにおける再起動がリステリアファージに広範囲に適用可能であることを示している。
【0067】
発明者らは、ファージP35、P70、及びA511の再起動速度論を比較し(図1E)、3つすべてのファージの産生が、細胞壁のある細胞における感染速度論と比較して遅い、形質転換の24時間後に、最大に達することを明らかにした。比較のために記すと、A511は、細胞壁のある細胞に感染した場合、バースト時間は60分である。この大きな時間の差は、おそらく、L型の代謝が遅いことによって説明される。L型が無傷の細胞壁を欠いているために、子孫ビリオンは、ファージホリンタンパク質の作用によって、又はDM3培地が浸透圧的に安定化していない軟寒天に希釈されている場合は浸透圧の不安定化によって、Rev2L細胞が溶解することにより放出される。これによって、自身の細胞壁溶解酵素でリステリア血清型1細胞壁を通常は分解しないと思われるファージの放出もまた可能となる。放出されたファージは、隣接細胞に結合することができず、それらの生存時間は、DM3培地における安定性に依存する(図1E)。
【0068】
リステリアに感染するファージの再起動に加えて、発明者らは、Rev2L細胞を使用して、ファーミキューテス(Firmicutes)門の様々な属のグラム陽性生物に感染するファージを再起動させることができることを実証している。系統発生的に、バチルスはリステリアにきわめて近縁であり、発明者らは、バチルス・セレウスの小さな37.46kbのサイフォウイルスTP21-L、及びバチルス・チューリンゲンシスの大きな153.96kbのマイオウイルス・バスティーユを、基質としてゲノムDNAを使用して、Rev2Lで再起動させることができたことを明らかにした(図2A)。
【0069】
次に、発明者らは、リステリアL型が、ヒト病原体スタフィロコッカス・アウレウスに感染するファージに対する再起動プラットフォームとしても使用され得たことを明らかにした。発明者らは、41.32kbのサイフォウイルスである2638A、及び大きな127.40kbのマイオウイルスであるファージKを再起動させることに成功したのである(図2B)。これまでの結果は、Rev2Lが、大きなウイルスゲノムの取込み、及び裸の線状gDNAからのグラム陽性生物のファージの属交差再起動のための、汎用性の高い宿主であることを実証している。
【0070】
次に、発明者らは、本発明のL型プラットフォームを利用して、合成ゲノムが、再起動のための基質としても使用することができるかどうかに対処した(ワークフローを図3Aに示す)。まず、発明者らは、P35DNAのオーバーラップするセグメントを増幅させ、精製し、ギブソン法を用いて合成ゲノムを連結させた。ほとんどのファージは、環状の複製中間体を使用しているため、断片間のオーバーラップが末端で連結(閉環)できるように設計した。それでも、コンカテマー又は末端に重複をもつ線状DNAの形成は排除することができない。P35ゲノムを連結させるために、発明者らは約6kbの6つの断片又は約12kbの3つの断片を使用し(図3B)、P35が合成DNAから効率的に再起動されたことを明らかにした(図3C)。対照として、発明者らは、1つの断片を欠く不完全な連結物を使用した。P35については、閉環がもはや必要ではないため、又は環状DNAが線状分子より効率的に形質転換されるため、合成DNAを使用することが、精製したgDNAと比較してより一層効率的であった(検出限界=1.1pgDNA、図6)。
【0071】
P35に加えて、発明者らは、この合成手法もまた使用して、テンペレートL.イノキュアファージB025のゲノムを連結させ、再起動させた(図3D~E)。B.セレウスファージTP21-Lのインビトロ連結及び属交差再起動(図3F~G)はRev2Lにおいても成功し、宿主細胞を形質転換の6時間後に再起動反応物に追加すると、ファージの産生が増幅されたことがわかった(図3G)。リステリア又はスタフィロコッカスに感染するどのファージもDM3培地中では感染できないため、この増幅戦略は、リステリア又はスタフィロコッカスに感染するファージについては成功しなかった。また、TP21-Lを使用して、合成ファージが、設計した閉環の非存在下でも、産生されることも示した(図3G)。
【0072】
L型における合成ゲノム連結と再起動とのユニークな組合せは、ファージゲノム操作のためのプラットフォームを提供する。この手法を探究するために、発明者らは、合成した改変ゲノムを使用して、溶原性から溶解性へのテンペレートリステリアファージの生活様式の切り換えを試みた。このために、発明者らは、テンペレートリステリアファージB025のゲノムを連結させたが、プロファージの組込みを制御し、媒介する遺伝子を省いた。B025において、これらの遺伝子は、2.7kbの推定の溶原性制御領域(LCR)にコードされており、溶菌サイクルのリプレッサー(B025Δrep)か、ファージインテグラーゼを含むLCR全体(B025ΔLCR)のどちらかを削除した。ゲノム連結戦略を図4Aに図示し、ファージ変異体の連結のための断片を図4Bに示す。組換えファージゲノムを連結させ、うまく再起動させ、得られたファージを、LCR領域のPCR及び配列決定によって検証した(図4C)。プラーク形態における明らかな違いはないものの(図4C)、組換え体は、もはや遺伝子を組み込めず、合成「ビルレント」ファージとして複製することはできなかった(図4D)。すなわち、B025野生型連結物から再起動させたファージを使用した場合、プロファージの組込みによって、高い感染多重度での宿主の死滅が効果的に防止された(図4D;10pfu)。結果として、重複感染に対して耐性であったB025溶原菌(WSLC3009::B025)からなる、見たところでは非感染性である細菌叢が観察された。対照的に、同一の感染多重度での軟寒天重層アッセイにおいて、B025変異体は、増大した死滅を示し、ほぼすべての宿主細胞を溶解することができた。溶原性制御変異体での感染後、ごくわずかの生き残った菌だけが増殖した。再増殖した際、これらの生き残った菌は、B025に対して耐性ではなく、組込み部位が空のであり(図4E)、これは、LCR変異体は実際に溶解性であり、宿主ゲノムへ組み込めなかったことを証明している。同様の手法は、2kbのLCR全体又はリプレッサーのみを削除しているB.セレウスファージTP21-Lに対して、うまく適用した(図7)。ファージの生活様式をテンペレートからビルレントへ切り換えることは、生物医学的環境において又は病原体検出のために潜在的に使用され得る抗菌活性を増強させた溶菌ファージの在庫を増大するための、迅速で広範囲に適用可能な方法である。
【0073】
本発明のゲノム操作プラットフォームは、組換えバクテリオファージの合理的設計、及び迅速なレポーター無しでの産生を可能にする。組換えをベースとした技術とは対照的に、組換えファージのための厄介なスクリーニングはもはや必要ではない。将来的には、この技術によって、抗菌特性を増強させたファージを仕立て、病原体検出用に高感度のレポーター遺伝子をファージゲノムへ組み込み、おそらく受容体結合タンパク質を切り換えることによって宿主範囲を改変することが可能になるであろう。主に、ファージタンパク質の変異、欠失、及び分子タグ付けのための効率的な遺伝学的ツールが乏しいことから、基本的なファージ生物学の多くの側面はまだほとんど理解されてない。これは、特にグラム陽性菌のビルレントファージに当てはまる。したがって、ここで示した手法は、これらのナノマシーンの生物学の理解を深めることに実質的に寄与し、これらのナノマシーンの生物的防除及び検出剤としての使用を越えた、新規のファージベースの生物工学的適用のための道を開くであろう。
【0074】
材料及び方法
細菌株及び増殖条件
リステリア・モノサイトゲネスWSLC1042及びMack、リステリア・イバノビイWSLC3009、バチルス・チューリンゲンシスHER1211、並びにバチルス・セレウスHER1399は、0.5×BHI培地中で、30℃で増殖させた。スタフィロコッカス・アウレウスATCC19685及びスタフィロコッカス・アウレウス2638Aは、0.5×BHI培地中で、37℃で増殖させた。新規のリステリア・モノサイトゲネスL型菌株Rev2Lは、我々はカザミノ酸の代わりにトリプトンを使用した、軽微の改変型であるDM3培地(5gL-1トリプトン、5gL-1酵母エキス、0.01%のBSA、500mMコハク酸、5gL-1グルコース、20mMのKHPO、11mMのKHPO、20mMのMgCl2、pH7.3に調整)中で、32℃で増殖させた。
【0075】
バクテリオファージ増殖及びDNA抽出
ファージは、軟寒天重層法を使用して増殖させ、SMバッファー(100mMのNaCl、8mMのMgSO、及び50mMのTris pH7.4)を用いてプレートから抽出した。ファージP35は、下層及び上層寒天(LC/LC)としてLC(10mMのCaClを補充したLB寒天)を使用して、L.モノサイトゲネスMack中で、室温で増殖させた。その他のファージはすべて、下層寒天として0.5×BHIを、上層寒天としてLCを使用して増殖させた。ファージPSAは、L.モノサイトゲネスWSLC1042中で、30℃で増殖させ、その他のリステリアファージはすべて、L.イバノビイWSLC3009上で、30℃で増殖させた。バチルスファージバスティーユ及びTP21-Lは、それぞれHER1211及びHER1399上で、30℃で増殖させ、一方、スタフィロコッカス・アウレウスファージK及び2638Aは、それぞれATCC19685及びS2638A上で、37℃で増殖させた。DNA抽出のために、ろ過滅菌したライセートを、デオキシリボヌクレアーゼI(10μg ml-1)及びリボヌクレアーゼA(10ml中1U)で、37℃で30分間消化した。続いて、ファージをPEG沈殿(7%PEG8000及び1MのNaCl)によって濃縮し、プロテイナーゼKで消化し(pH8のSMバッファー+10mMのEDTA中、200ug/ml、50℃、30分)、High Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche Life Science)を使用して精製した。大きなバクテリオファージゲノム(ΦP100、ΦA511、Φバスティーユ、ΦK)からDNAを精製するために、PEG沈殿したファージを、段階的なCsCl勾配超遠心分離法を使用して精製し、1000倍過剰のSMバッファーに対して透析し、プロテイナーゼKで消化し、既述のように有機溶媒を使用してDNAを抽出した。
【0076】
Rev2菌株及び可逆性L.イノキュアL型菌株の生成
簡潔に述べると、一晩インキュベートしたリステリアEGD-e又はリステリア・イノキュア2021(SLCC5639)を、ペニシリン(200μg・ml-1)を補充したDM3寒天上にプレーティングした。約2週間の培養後、出現したシングルコロニーを、ペニシリンG(PenG)を含有するDM3液体培地に移し、振盪せずにさらにインキュベートした。初めて液体培地中で細菌が増殖するまでに、約1週間かかった。L型をDM3+PenG液体培地中で増殖させた後、L型を、ペニシリンGを含まないDM3液体培地中へ継代した。得られたL型は、DM3液体培地中では細胞壁のある形態に戻らなかったが、(ペニシリンGの非存在下の)DM3寒天プレート上でのみ細胞壁のある形態に戻った。DM3液体培地中で2日間増殖させた後、このL型を、ペニシリンを含まないDM3プレート上にプレーティングし、ここでは、復帰変異体コロニー(細胞壁のある細胞)が、通常、2~5日後に出現した。これらのコロニーを掻き取り、浸透圧保護剤が存在ないために、残存するL型細胞がすべて破裂すると思われるBHI液体培地中に接種した。この培養物から、凍結保存物を調製し、菌株がペニシリンGを補充したDM3培地中で増殖する能力について調べた。EGD-eを用いて生成させた可逆性L型を、Rev2(細胞壁のある)又はRev2L(L型)と呼ぶ。
【0077】
L型形質転換及びゲノム再起動
Rev2細胞のL型状態への誘導は、32℃で、DM3培地中で、200μg・ml-1のPenGの存在下で実施し、L型細胞は、新鮮なDM3培地中に、1:1000の希釈で3~4日ごとに継代した。様々なL型継代物を、形質転換でそれらの感染性ファージ粒子を産生する能力についてアッセイした。我々は、ファージ産生が第5継代物で最大であったことを観察し、したがって、この継代物から調製した凍結保存物(-80℃)を、すべての実験に使用した。少量(4~5ul)の凍結培養物を、1mlの予熱したDM3+PenGへ接種し、低速のボルテックススミキサーを使用して懸濁し、32℃で96時間、撹拌せずにインキュベートした。得られたL型培養物を、ピペッティングによって懸濁し、DM3培地を用いてOD600nmを0.15に調整した。100μlのOD調整済みRev2L培養物を、50mlファルコンチューブ中で、10~20μlのファージゲノムDNAと混合した。無菌の40%PEG8000溶液150ulを添加し、ピペッティングによって徹底的に混合した。5分間のインキュベーション後、10mlの予熱したDM3培地を添加し、血清ピペットを使用して懸濁し、特段の指示がない限り、形質転換反応物は、32℃で24時間、撹拌せずにインキュベートした。L型形質転換反応物を、ピペッティングによって再懸濁し、軟寒天重層法を使用して、成熟したファージ粒子をアッセイした。すなわち、5mlの溶かしたLC軟寒天を、50~500μlの形質転換反応物及び200μlの好適なファージ増殖菌株(指示菌)の新鮮な静止期培養物と混合した。この軟寒天混合物を、固形寒天プレート上に注ぎ、ファージ増殖及び目に見えるプラークの形成が可能になるように、指示菌の至適増殖温度でインキュベートした。
【0078】
合成ゲノムのインビトロ連結
バクテリオファージゲノムを、インシリコで、40bpのオーバーラップする末端を保有する、類似サイズの3~6つの断片へ分割した。循環置換を有するファージゲノムのために、断片を無作為に選択した。非置換のゲノムを有するファージ(TP21-L及びB025)のためには、オーバーラップする長いプライマーを使用して、ゲノム断片の物理的末端での人為的環状化が可能になるように、ゲノム断片を設計した。ゲノム断片を、Phusion DNAポリメラーゼ(Thermo Scientific)を使用するPCRによってファージgDNAから増幅させ、続いて、シリカカラムを用いて精製した。合成ゲノムは、NEBuilderハイファイDNAアセンブリークローニングキット(New England Biolabs)を使用して、50℃で1時間、連結させた。連結反応物ごとに、反応物20μl中、断片当たり150~250ngの精製DNAを使用し、再起動には15μlを使用した。
さらなる実施形態は以下のとおりである。
[実施形態1]
操作されたバクテリオファージを産生する又は増殖させる方法であって、
標的細菌に感染することができる操作されたバクテリオファージの機能性合成ゲノムを用意するステップと、
レシピエント細菌を用意するステップと、
形質転換ステップで、前記レシピエント細菌を前記機能性合成ゲノムで形質転換し、形質転換されたレシピエント細菌を産するステップと、
第1のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌をインキュベートするステップであって、前記操作されたバクテリオファージが、前記形質転換されたレシピエント細菌内で増殖される、ステップと、
第2のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌、又は前記形質転換されたレシピエント細菌から放出された前記増殖させた操作されたバクテリオファージを、標的細菌と共にさらにインキュベートするステップであって、前記増殖させた操作されたバクテリオファージが、前記標的細菌に感染し、前記標的細菌内でさらに増殖される、ステップと
を含み、
前記レシピエント細菌が細胞壁欠損細菌である、方法。
[実施形態2]
前記レシピエント細菌が、グラム陽性菌の又はグラム陽性菌に由来した細胞壁欠損変種であり、特に、リステリア属の細菌、特に、リステリア・モノサイトゲネスの又はリステリア・モノサイトゲネスに由来した細胞壁欠損変種である、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
前記標的細菌が、グラム陽性菌であり、特に、リステリア、バチルス、エンテロコッカス、ストレプトコッカス、クロストリジウム、又はスタフィロコッカスの属、より具体的には、リステリア・モノサイトゲネス、リステリア・イバノビイ、リステリア・イノキュア、バチルス・スブチリス、バチルス・セレウス、バチルス・チューリンゲンシス、又はスタフィロコッカス・アウレウスから選択されるグラム陽性菌である、実施形態1又は2に記載の方法。
[実施形態4]
前記レシピエント細菌と前記標的細菌が、異なる属の異なる種又はメンバーに属する又は由来する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態5]
前記機能性合成ゲノムが、それらの断片のインビトロ若しくはインビボ連結によって、又はデノボ合成によって用意される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態6]
前記機能性合成ゲノムが、少なくとも10,000塩基対、特に、少なくとも30,000塩基対、より具体的には、少なくとも40,000塩基対の長さを有する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態7]
前記形質転換ステップが、ポリエチレングリコール、特に、1,000g・mol -1 ~30,000g・mol -1 の範囲の平均分子量のポリエチレングリコール、より具体的には、7,000g・mol -1 ~20,000g・mol -1 の範囲の平均分子量のポリエチレングリコール、特に、PEG8000の存在下で実施される、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態8]
前記第1のインキュベーションステップが、4時間~9時間の範囲の期間にわたって実施され、特に、24時間~32時間の範囲の期間にわたって実施される、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態9]
前記レシピエント細菌が、細胞壁のある前駆細菌を、特にベータラクタム系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、サイクロセリン、又はホスホマイシンから選択される細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在下で、任意選択で浸透圧保護培地の存在下でインキュベートして、前記レシピエント細菌を産することによって用意される、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
[実施形態10]
リステリア属の細胞壁欠損細菌を作製する方法であって、
遺伝子型[Δlmo0584 Δlmo1653-54 Δlm01861]を特徴とする、若しくはlmo0584、lmo1653-54及びlmo01861の機能性相同体を含まないゲノムを特徴とするリステリア属の細菌、特に、リステリア・モノサイトゲネス、より具体的には、リステリア・モノサイトゲネス菌株EGD-eを用意するステップ、又は
リステリア・イノキュア種の細菌、特に、リステリア・イノキュアの菌株2021の細菌を用意するステップと、
前記細菌を、細胞壁合成を妨害する抗生物質の存在下で、任意選択で浸透圧保護培地の存在下で培養するステップと
を含む、方法。
[実施形態11]
前記細胞壁合成を妨害する抗生物質が、ベータラクタム系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、サイクロセリン、又はホスホマイシンを含む群から選択され、特に、ペニシリンGである、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12]
遺伝子型[Δlmo0584 Δlmo1653-54 Δlm01861]を特徴とする、又はlmo0584、lmo1653-54、及びlmo01861の機能性相同体を含まないゲノムを特徴とする、リステリア属の細胞壁欠損細菌。
[実施形態13]
前記細菌が、リステリア・モノサイトゲネス、特に、リステリア・モノサイトゲネス菌株EGD-eである、細胞壁欠損細菌。
[実施形態14]
実施形態10又は11に記載の方法によって得られうる、実施形態12又は13に記載の細胞壁欠損細菌。
[実施形態15]
バクテリオファージを産生する又は増殖させる方法であって、
標的細菌に感染することができるバクテリオファージの機能性ゲノムを用意するステップと、
レシピエント細菌を用意するステップと、
形質転換ステップで、前記レシピエント細菌を前記機能性ゲノムで形質転換し、形質転換されたレシピエント細菌を産するステップと、
第1のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌をインキュベートするステップであって、前記バクテリオファージが、前記形質転換されたレシピエント細菌内で増殖される、ステップと、
第2のインキュベーションステップで、前記形質転換されたレシピエント細菌を、前記標的細菌と共にさらにインキュベートするステップであって、前記増殖させたバクテリオファージが前記標的細菌に感染し、前記標的細菌内でさらに増殖される、ステップと
を含み、
前記レシピエント細菌が細胞壁欠損細菌であり、前記レシピエント細菌と前記標的細菌が異なる属の異なる種又はメンバーに属する又は由来する、方法。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図6
図7-1】
図7-2】
図8