(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】細胞接着性の親水性改質細胞培養基材
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20230801BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230801BHJP
C08F 220/70 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
C08F220/70
(21)【出願番号】P 2020063388
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-08-19
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】行田 和起
(72)【発明者】
【氏名】高野 努
(72)【発明者】
【氏名】小川 昌克
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弓弦
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022815(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159153(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/029731(WO,A1)
【文献】特開2021-161208(JP,A)
【文献】Journal of Oleo Science,2017年,66(7),699-704
【文献】Arkivoc,2018年,part ii,330-343
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12N 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる何れかの材質製の成形基材が、ベタイン構造を有する繰返単位
と、アジド基である活性官能基を有する繰返単位
とを含む共重合体で被覆されており、前記共重合体中のベタイン構造
及び/又は前記活性官能基が、前記成形基材
のコロナ放電処理表面、プラズマ処理表面、紫外線処理表面、エキシマ処理表面、及びシランカップリング剤処理表面から選ばれる少なくとも何れかの表面上
の表面官能基と反応、結合、又は吸着していることを特徴とする細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項2】
タンパク質及び/又はポリペプチドで基材の表面をコーティングすることなく細胞培養が可能であることを特徴とする請求項1に記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項3】
前記共重合体中、前記繰返単位を繰り返している主鎖が、ポリ(メタ)アクリル骨格であることを特徴とする請求項1~2の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項4】
前記共重合体中、前記ポリ(メタ)アクリル骨格が、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合骨格、ポリ(メタ)アクリレート共重合骨格、又はポリ(メタ)アクリルアミド及びポリ(メタ)アクリレート共重合骨格であることを特徴とする請求項3に記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項5】
前記ベタイン構造が、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれるアニオン基と、アンモニウム基、スルホニウム基、及びホスホニウム基から選ばれるカチオン基とを有することを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項6】
前記ベタイン構造が、側鎖末端に前記アニオン基又は前記カチオン基を有することを特徴とする請求項5に記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項7】
前記ベタイン構造が、前記アニオン基と前記カチオン基との何れか一方を前記側鎖末端に有し、他方を当該側鎖中に有することを特徴とする請求項6に記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項8】
前記
共重合体が、
ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1~
7の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項9】
炭化水素芳香環基、非芳香族複素環基、芳香族複素環基、直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和又は不飽和の炭化水素基、アミド基、及びエステル基から選ばれる少なくとも何れかのスペーサ基が、前記活性官能基を有しつつ、前記繰返単位に、結合していることを特徴とする請求項1~
8の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項10】
前記共重合体が、下記化学式(1)又は(2)
【化1-1】
(式(1)及び(2)中、R
1及びR
2は水素原子又はメチル基であり、n1~n4は2~6の数である)で表されるもので前記ベタイン構造を有する繰返単位と、下記化学式(3)
【化1-2】
(式(3)中、R
3は水素原子又はメチル基であり、n5は2~6の数であり、n6は0~1の数であり、R
4は前記活性官能基である)で表されるもので活性官能基を有する繰返単位とのランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、又はグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1~
9の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項11】
前記成形基材が、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、及びウレタンゴムから選ばれる前記ゴム製であることを特徴とする請求項1~
10の何れかに記載の親水性改質細胞培養基材。
【請求項12】
前記成形基材が、シリコーン樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる前記樹脂製であることを特徴とする請求項1~
10の何れかに記載の親水性改質細胞培養基材。
【請求項13】
前記成形基材が、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、及びソーダ石灰ガラスから選ばれる前記ガラス製であることを特徴とする請求項1~
10の何れかに記載の親水性改質細胞培養基材。
【請求項14】
前記表面官能基が、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基、及びアルコキシシリル基から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1~13の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項15】
前記ベタイン構造が前記表面官能基にイオン結合で結合し又は吸着しており、前記活性官能基がイオン結合又は共有結合で結合していることを特徴とする請求項1~14の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項16】
前記成形基材が、ポリジメチルシロキサン骨格、ポリメチルフェニルシロキサン骨格、及びポリメチルハイドロジェンシロキサン骨格から選ばれる何れかを有するシリコーンゴム製又はシリコーン樹脂製であることを特徴とする請求項1~15の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【請求項17】
前記共重合体が、下記化学式(9)
【化2】
(式(9)中、分子量が最低でも30000であり、m3及びm4は、前記分子量と繰返単位の比を形成する任意の正数とし、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、又はグラフト共重合体にする数)で表されるものであることを特徴とする請求項1~16の何れかに記載の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形基材表面に施された親水化処理効果を長時間持続することによって、細胞培養可能で細胞接着性を発現した親水性改質細胞培養基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬品・農薬の研究開発や、飲食品の微生物検査、健康診断での菌・細胞の培養、生化学研究現場・医療現場での細胞培養、再生医療での組織培養などに、培地を有する培養基材が用いられる。
【0003】
これらの培養には、細胞培養プレート、細胞培養フラスコ、細胞培養ディッシュ、細胞培養チューブなど、様々な形状に成形された成形基材が用いられる。
【0004】
通常、成形基材の素材には、成形が容易で透明性が高いガラスの他、ポリスチレンやシリコーンなどの各種プラスチックが汎用されており、成形方法としては、圧縮成形や射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、カレンダー成形などにより様々な形状に成形されている。
【0005】
細胞培養の形態は増殖状態の細胞に応じて、単一細胞または小さな細胞塊が培地に浮いている状態の浮遊培養系、細胞が容器等に接着している接着培養系の2つに大別される。
【0006】
通常、ガラスやプラスチックで成形しただけの成形基材では、接着培養系の細胞培養が難しいため、細胞が播種される表面に、各素材に合った表面処理が必要になってくる。
【0007】
表面処理には、表面を親水化するための表面改質処理、または細胞外マトリックスタンパク質または細胞外マトリックスタンパク質を消化分解する等して生じる断片やポリリジンなどのポリペプチドでコーティングされる。ヒト子宮頸癌由来細胞であるHeLa細胞、チャイニーズハムスター肺由来線維芽細胞であるV79細胞のような株化細胞は、一般に表面を親水化された培養容器で細胞培養が可能となる。
【0008】
細胞外マトリックスは、動物の各組織において細胞間隙など細胞外に存在する不溶性物質であり、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等の様々なタンパク質により構成される。細胞外マトリックスは、細胞によって作り出され細胞の足場となり、細胞の接着、分化、増殖、移動、機能維持に重要な役割を果たす生体成分である。
【0009】
一般に細胞外マトリックスを構成するタンパク質のうちヒト由来のタンパク質は、培養容器をコーティングする目的のために十分な品質および十分な量を入手することが難しい。そのため通常、ヒト由来の細胞を培養するためであっても、培養容器をコーティングするための細胞外マトリックス由来のタンパク質としてウシやブタ等由来のタンパク質を用いる。しかし、再生医療における移植用の細胞培養や生体内における詳細な細胞機能研究のための細胞培養には、異種動物由来のタンパク質やポリペプチドを出来うる限り使用しないことが好ましい。
【0010】
再生医療における細胞移植、創薬産業における動物実験を代替するため臓器機能を再現するorgan-on-a-chip、生体内における環境における本来的な細胞の機能研究など、近年の細胞培養技術開発において、動物体内の臓器や組織により近い環境で培養をする技術が重要になっている。
【0011】
シリコーンゴムからは、動物の様々な組織の硬度に近い培養容器を作ること、通気性の高い培養容器を作ること、心筋や血管腸管に近い高い伸展性を持つ培養容器を作ることが可能である。また、シリコーンゴムは、高圧滅菌に耐えられる耐久性を有する。このような種々の硬度、通気性、伸展性、耐久性を持つ培養容器をガラス素材およびポリスチレン素材のみから作ることは難しい。
【0012】
シリコーンゴムは、前記の理由で再生医療、創薬産業、基礎研究などの分野から注目されるが、シリコーンゴムは、その撥水撥油性の所為で親水性に乏しいためシリコーンゴムを基材とする培養容器に細胞を接着させることは難しい。通常、シリコーンゴムで成形された培養容器は、接着培養系の細胞培養を行うために、表面をコラーゲン等の細胞外マトリックスを構成するタンパク質やポリペプチドでコーティングして利用される。
【0013】
再生医療における細胞移植のための細胞培養、創薬産業における動物実験を代替するため臓器機能を再現するorgan-on-a-chipのための細胞培養、生体内における詳細な細胞機能研究のための細胞培養等の研究開発において、動物体内の臓器や組織により近い環境で細胞培養を実現する技術が求められている。
【0014】
このようなシリコーン製の成形基材に、親水性を付与するために、シリコーン成形基材への乾式処理や湿式処理、又は親水性化合物含有シリコーン原料組成物の硬化によるシリコーン基材形成処理、表面蒸着処理のような表面改質処理によって、シリコーン表面に親水性基を付与していた。
【0015】
これら表面改質処理のうち、乾式処理は、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線処理、エキシマ処理などがあり、表面に水酸基などの親水性基を生成させて、親水性を付与するというものである。このような乾式処理は、比較的簡便である。しかし、乾式処理して得られた親水性化したシリコーン成形基材を大気中又は水中で保管・保存又は使用していると、シリコーン基材表面に折角生じさせた親水性基が経時的にシリコーンとりわけシリコーンゴムの内部に潜りこむようになり、親水性が3~6箇月程度の比較的短期間で失われてしまう。
【0016】
また、表面改質処理のうち、湿式処理は、親水性コーティング剤(例えば親水性シランカップリング剤)をシリコーン成形基材の表面官能基へ化学的に結合させて化学修飾して導入するというものである。このような湿式処理では、シリコーン成形基材表面の表面官能基が疎らにしか存在せず親水性コーティング剤の結合にムラができてしまったり、3~6箇月程度親水性を保持できるが親水程度が然程高くなく水との接触角を30°程度にまでしか低下できなかったり、表面で結合した親水性コーティング剤分子が次第にシリコーン成形基材の表面から内部へ潜り込みシリコーン分子が露出し易くなって親水性が低下したり、シリコーンゴムに適用可能な親水性コーティング剤の種類が極めて少なかったりして、十分な親水性を発現し難い。また、この表面処理した面に支持体等を接合する際には、別途、接合のための表面処理や化学修飾を施さなければならず、折角の親水性を阻害してしまう。
【0017】
別な湿式処理として、ベタイン構造を有するポリマー例えば側鎖にアミノ酸構造を有するポリ(メタ)アクリレート又は側鎖にスルホベタイン構造を有する(メタ)アクリルアミドをシリコーン成形基材表面へアニオン・カチオン同士乃至正負帯電基同士による化学吸着をさせて導入する表面改質処理もある。しかし、このような表面改質処理では、表面に物理吸着乃至化学吸着させただけであるので、折角均質に吸着されていても水、若しくは酸性試液又はアルカリ性試液との接触によって比較的速やかに流れ落ちてしまい、長期間の強い親水性発現ができない。
【0018】
また、表面改質処理のうち、親水性化合物含有シリコーン原料組成物の硬化によるシリコーン基材形成処理として、液状乃至ミラブル状のシリコーン原材料に親水性化合物例えば親水性オイルを配合して硬化させシリコーン成形体を形成することにより、その表面に親水性添加剤を露出させて親水性を付与する素材改質処理がある。このような素材改質処理の例として、特許文献1に、(a)上面に所定の微細構造を有するマスターを準備するステップと、(b)前記マスターの微細構造形成面側に、PDMSプレポリマーと硬化剤とポリエーテル変性界面活性剤とからなる混合物を注入するステップと、(c)成型されたPDMS製シートの微細構造形成面側を酸素プラズマ処理するステップと、(d)前記PDMS製シートの微細構造形成面側にオルガノシラン溶液を塗布するステップとからなることを特徴とする恒久的親水性を有するPDMS製シートの製造方法が、開示されている。一般的に、素材改質処理では、親水程度が然程高くなく水との接触角を30°程度にまで低下できなかったり、水と接触したときに親水性を発現するのに10分間以上要したりするなど、十分な親水性を発現し難い。
【0019】
また、表面改質処理のうち、表面蒸着処理は、シリカや酸化チタンを蒸着しシリコーン成形基材の表面のシリコーン分子を被覆して隠蔽するものであるが然程の親水性向上に寄与しない。
【0020】
従来のようなシリコーン成形基材を親水化する方法では、コラーゲン等をコーティングしてさえ、長期間安定で十分な親水性を付与できない所為で、十分に細胞培養や細胞接着を行うことができなかった。
【0021】
表面改質処理したシリコーン成形基材上での細胞培養事例として、特許文献2に、シリコーン成形基材に電子線照射して親水化し細胞培養している。本技術ではシリコーン成形基材表面が凹型に変形するため単一細胞の培養に特化したものであり、一般的な細胞培養や顕微鏡観察には不向きと思われる。
【0022】
動物細胞培養用の基材という観点から、シリコーンゴムは細胞培養および細胞観察に有効と言われている透明性や通気性を有し、Organ-on-a-chip等で細胞が由来する組織に近い硬度を再現できる利点、伸展性により心筋や血管腸管の伸縮を再現できる利点がある。しかし、ガラスおよびプラスチックに対する数多くの優位性があるにも関わらず、上記の理由で、ガラス製およびプラスチック製の培養基材のような表面改質ができず、現状では、細胞外マトリックスタンパク質やポリペプチドのコーティングを十分に行わないとシリコーンゴム上で細胞培養を行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】特開2006-181407号公報
【文献】特開2018-202352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、シリコーンを含む各種のゴム・樹脂、ガラスから選ばれる成形基材の表面に十分な親水性を簡便に付与でき、速やかに親水性が発現すると共に、水との接触角を十分に低く維持できるようにしつつ、細胞外マトリックスタンパク質やポリペプチドをコーティングしなくとも細胞培養でき、長期間、大気中又は水中で保管・保存又は使用しても培養性能を維持でき、半年~数年間もの長期にわたって親水性を担保できる細胞接着性の親水性改質細胞培養基材を提供することを目的とする。
【0025】
組織培養、細胞培養において、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどの細胞外マトリックス由来のタンパク質を培養容器の細胞接着面にあらかじめコートする方法は、細胞の容器への接着を向上させたり、体内の環境を再現するために一般に用いられる。細胞外マトリックス由来タンパク質をコートで細胞が接着しやすくなる利点がある一方で、これらタンパク質は細胞にとって異種動物からの外来物あるいは異物である場合が多い。そのため、再生医療で細胞移植のために培養される細胞に細胞外マトリックス由来タンパク質を使うことが好ましくないことがある。また、分泌タンパク質などの細胞機能の評価を培養細胞を使って行う際に細胞外マトリックス由来タンパク質コートやポリペプチドの使用が悪影響を及ぼす可能性が想定される。細胞外マトリックス由来タンパク質コートやポリペプチドをすることなく細胞培養を可能とする技術はこれらの問題を解決できる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記の目的を達成するためになされた細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる何れかの材質製の成形基材が、ベタイン構造を有する繰返単位と、アジド基、スルホ基、-Si(OR
e1
)
3
基(但し、OR
e1
は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)、水酸基、及び炭素数1~6のアルコキシ基である水酸基前駆基から選ばれる活性官能基を有する繰返単位とを含む共重合体で被覆されており、前記共重合体中のベタイン構造及び/又は前記活性官能基が、前記成形基材のコロナ放電処理表面、プラズマ処理表面、紫外線処理表面、エキシマ処理表面、及びシランカップリング剤処理表面から選ばれる少なくとも何れかの表面上の表面官能基と反応、結合、又は吸着していることを特徴とするというものであり、より具体的には、ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる何れかの材質製の成形基材が、ベタイン構造を有する繰返単位と、アジド基である活性官能基を有する繰返単位とを含む共重合体で被覆されており、前記共重合体中のベタイン構造及び/又は前記活性官能基が、前記成形基材のコロナ放電処理表面、プラズマ処理表面、紫外線処理表面、エキシマ処理表面、及びシランカップリング剤処理表面から選ばれる少なくとも何れかの表面上の表面官能基と反応、結合、又は吸着していることを特徴とするというものである。
【0027】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、細胞外マトリックスタンパク質及び/又はポリペプチドのコーティングを必要としないことを特徴とする。
【0028】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、例えば、前記共重合体中、前記繰返単位を繰り返している主鎖が、ポリ(メタ)アクリル骨格であるというものである。
【0029】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記共重合体中、前記ポリ(メタ)アクリル骨格が、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合骨格、ポリ(メタ)アクリレート共重合骨格、又はポリ(メタ)アクリルアミド及びポリ(メタ)アクリレート共重合骨格であると好ましい。
【0030】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記ベタイン構造が、カルボン酸基、スルホン酸基、及びリン酸基から選ばれるアニオン基と、アンモニウム基、スルホニウム基、及びホスホニウム基から選ばれるカチオン基とを有すると、一層好ましい。
【0031】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記ベタイン構造が、側鎖末端に前記アニオン基又は前記カチオン基を有すると、なお一層好ましい。
【0032】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記活性官能基が、アジド基、スルホ基、トリアルコキシシリル基、及び水酸基から選ばれる少なくとも何れかの官能基であるというものであってもよい。
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記ベタイン構造が、前記アニオン基と前記カチオン基との何れか一方を前記側鎖末端に有し、他方を当該側鎖中に有するというものであってもよい。
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記共重合体が、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合であるというものであってもよい。
【0033】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、炭化水素芳香環基、非芳香族複素環基、芳香族複素環基、直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和又は不飽和の炭化水素基、アミド基、及びエステル基から選ばれる少なくとも何れかのスペーサ基が、前記活性官能基を有しつつ、前記繰返単位に、結合しているというものであってもよい。
【0034】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記共重合体が、例えば下記化学式(1)又は(2)
【化1-1】
(式(1)及び(2)中、R
1及びR
2は水素原子又はメチル基であり、n1~n4は2~6の数である)で表されるもので前記ベタイン構造を有する繰返単位と、下記化学式(3)
【化1-2】
(式(3)中、R
3は水素原子又はメチル基であり、n5は2~6の数であり、n6は0~1の数であり、R
4は前記活性官能基である)で表されるもので活性官能基を有する繰返単位とのランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、又はグラフト共重合体であるというものである。
【0035】
前記成形基材が、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、及びウレタンゴムから選ばれる前記ゴム製であることが好ましい。
【0036】
前記成形基材が、シリコーン樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる前記樹脂製であることが好ましい。
【0037】
前記成形基材が、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、及びソーダ石灰ガラスから選ばれる前記ガラス製であることが好ましい。
【0038】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記成形基材の表面が、コロナ放電処理表面、プラズマ処理表面、紫外線処理表面、エキシマ処理表面、及び/又はシランカップリング剤処理表面であることが好ましい
【0039】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、例えば前記表面官能基が、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アルコキシ基及びアルコキシシリル基から選ばれる少なくとも何れかであるというものである。
【0040】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記ベタイン構造が前記表面官能基にイオン結合で結合し又は吸着しており、前記活性官能基がイオン結合又は共有結合で結合していることが好ましい。
【0041】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記成形基材が、ポリジメチルシロキサン骨格、ポリメチルフェニルシロキサン骨格、及びポリメチルハイドロジェンシロキサン骨格から選ばれる何れかを有するシリコーンゴム製又はシリコーン樹脂製であるというものである。
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、前記共重合体が、例えば下記化学式(9)
【化2】
(式(9)中、分子量が最低でも30000であり、m3及びm4は、前記分子量と繰返単位の比を形成する任意の正数とし、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、又はグラフト共重合体にする数)で表されるものであるというものである。
【発明の効果】
【0042】
本発明の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、側鎖にベタイン構造を有する繰返単位と側鎖に活性官能基を有する繰返単位とを有する共重合体で、ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる材質製の成形基材が被覆されていることにより、成形基材の表面に十分な親水性が付与されている。
【0043】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、親水性と共に、共重合体の繰返単位の主鎖に細胞が接着するので、細胞を増殖させ易い。しかも、細胞外マトリックスタンパク質やポリペプチドによるコーティングを必要とせず、細胞を増殖させることができる。
【0044】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ベタイン構造に由来する分子内のカチオン構造とアニオン構造により、成形基材上の表面官能基に反応、結合、又は吸着とりわけ吸着をして細胞接着性の親水性改質細胞培養基材に付されると共に、強い親水性を発現する。一方、この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、活性官能基が成形基材上で、反応、結合、又は吸着しているものと同種又は異種の別な表面官能基に反応、結合、又は吸着とりわけ反応又は結合していることにより、水、若しくは酸性試液又はアルカリ性試液との接触によっても流れ落ち難くなっていると共に、親水性を発現できる。
【0045】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、物理吸着乃至化学吸着好ましくは化学吸着のような所謂吸着型での結合性及び親水性付与と、反応又は結合好ましくは共有結合のような所謂結合型での結合性及び親水性付与とにより、従来技術のようなガラス製単独又はプラスチック製単独又はコラーゲン基質等コーティングによる問題点を解決して、十分な親水性発現と長期間安定な親水性維持とを発揮し、細胞外マトリックスタンパク質やポリペプチドによるコーティングを行うことなく細胞培養が可能であり、簡素で高品質であり、しかも簡便かつ安価に製造できる。
【0046】
また、この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる材質製の成形基材の表面に速やかに親水性を発現するので、水、又は緩衝液、若しくは弱酸性、中性、弱アルカリ性の培養液、培地との接触の際に、所望の親水性を発現でき、その細胞培養性能、細胞接着性能を阻害しない。その親水性は、水との接触角を20°程度以下と十分に低いまま、半年~数年維持し続けることができるものである。そのため、長期間、大気中又は水中で保管・保存又は使用しても親水性を損なわず、高い品質を維持して担保することができ、細胞培養に適している。
【0047】
さらに、この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、細胞毒性が低く、タンパク質吸着を抑制するため、肝細胞、幹細胞、内皮細胞、iPS細胞、腫瘍細胞など、培養すべき各種細胞の接着を促進し、増殖を阻害し難いことが期待される。
【0048】
しかも、この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる材質製の成形基材の表面に、均質で十分な親水性を簡便に付与でき、ロット間のばらつきが無く、再現性よく高い歩留まりで、大量処理、大量生産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】本発明を適用するシリコーン製親水性改質細胞培養基材でHeLa細胞を培養後の顕微鏡拡大写真(b)と、本発明を適用外のシリコーン製成形基材でHeLa細胞を培養後の顕微鏡拡大写真(a)である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0051】
本発明の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる材質製の成形基材を親水化した細胞接着性の親水性改質細胞培養基材である。この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、成形基材上の表面官能基に反応、結合、又は吸着するベタイン構造としてアニオン基とカチオン基との両性イオンを側鎖に有する繰返単位と、成形基材上の表面官能基に反応、結合、又は吸着する活性官能基を側鎖に有する繰返単位とを有する共重合体で、成形基材が被覆されている。
【0052】
この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ベタイン構造が、物理吸着乃至化学吸着好ましくは化学吸着のような所謂吸着型での結合性及び親水性を付与し、成形基材表面の表面官能基や共重合体が成形基材内部に潜り込むのを防いで結合性及び親水性を維持するというものである。また、この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、活性官能基を介した反応又は結合好ましくは共有結合のような所謂結合型での結合性及び親水性を付与し、共重合体が成形基材内部に潜り込むのを防いで結合性及び親水性を維持し、共重合体の繰返構造の共重合主鎖に細胞が接着しそこを起点に増殖し、細胞外マトリックスタンパク質やポリペプチドによるコーティングが無くとも細胞増殖を阻害せず、細胞培養に適しているというものである。
【0053】
従って、この細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ベタイン構造と活性官能基とが成形基材上の表面官能基に反応、結合、又は吸着していることにより、ベタイン構造又は活性官能基の何れかしか有しないものよりも、共重合体と成形基材とが、強く相互作用している。それによって、共重合体が、水、若しくは酸性試液又はアルカリ性試液との接触によっても成形基材上から流れ落ち難く、強い親水性を発現していると共に、強い親水性を長期間発現し続けることができ、長期間に渡って細胞培養できるので、継代培養、形態形成、細胞分化などを行うことが期待される。
【0054】
共重合体中、繰返単位を繰り返している繰返主鎖は、例えばポリ(メタ)アクリル骨格である。ポリ(メタ)アクリル骨格は、ポリアクリル骨格とポリメタクリル骨格とを包含する。より具体的には、ポリ(メタ)アクリル骨格が、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合骨格、ポリ(メタ)アクリレート共重合骨格、又はポリ(メタ)アクリルアミド及びポリ(メタ)アクリレート共重合骨格である。なかでも、共重合体は、ポリ(メタ)アクリルアミド共重合骨格を有するものであると、ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる材質製の成形基材との親和性に優れ、しかも細胞との親和性がよいので、特に好ましい。
【0055】
共重合体は、繰返単位の繰返形式に制限はなく、例えばこれら繰返単位のランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体の何れでもよい。またその両性イオンを側鎖に有する繰返単位と、活性官能基を側鎖に有する繰返単位とのモル比に制限はないが、モル比で1:1が好ましい。
【0056】
共重合体中、ベタイン構造を側鎖に有する繰返単位は、アニオン基とカチオン基とが成形基材上の表面官能基に、反応、結合、又は吸着、とりわけ成形基材上の水酸基のような極性基に互いの静電引力又はイオン引力によって物理吸着乃至化学吸着のような吸着をしている。
【0057】
ベタイン構造として、側鎖が、アニオン基とカチオン基との何れか一方を側鎖末端に有し、他方を側鎖中に有していてもよい。
【0058】
ベタイン構造中、アニオン基は、側鎖末端にある場合、カルボン酸基(-COO-基)、スルホン酸基(-SO3
-基)、リン酸基(-Ra1-PO-(ORa2)(ORa3);-Ra1-は側鎖の末端までの基、ORa2及びORa3は炭素数1~6のアルコキシ基又はフェノキシ基又はO-アニオンであって少なくとも何れかがO-アニオン)から選ばれるアニオン基が挙げられ、側鎖中程にある場合、側鎖から分岐した置換カルボン酸基(-COO-基)、側鎖から分岐した置換スルホン酸基(-SO3
-基)、リン酸基(-Rb1-PO-(ORb2)(ORa3); Rb1は側鎖の途中までの基、ORb2は側鎖の途中から末端までの基又はO-アニオン、ORb3はO-アニオン)から選ばれるアニオン基が挙げられる。
【0059】
ベタイン構造中、カチオン基は、側鎖末端にある場合、1級乃至4級アンモニウム基のような有機アンモニウム基((-NH3)+、(-N(Rc1)H2)+、(-N(Rc2)2H)+、(-N(Rc3)3)+;Rc2~Rc3は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)、スルホニウム基好ましくは有機スルホニウム基((-S(Rc4)2)+;Rc4は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)、ホスホニウム基好ましくは四級ホスホニウム基((-P(Rc5)3)+;Rc5は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)から選ばれるカチオン基が挙げられ、側鎖中程にある場合、4級アンモニウム基のような有機アンモニウム基((-Rd1-N(Rd2)2(Rd3))+;Rd2は側鎖の途中までの基、Rd2炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基、Rd3は側鎖の途中から末端までの基)、スルホニウム基(-Rd4-S+(Rd5)-Rd6);Rc4は側鎖の途中までの基、Rd5炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基、Rd6は側鎖の途中から末端までの基)、ホスホニウム基(-Rd7-P+(Rd8)2-Rd9);Rd7は側鎖の途中までの基、Rd8は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基、Rd9は側鎖の途中から末端までの基)から選ばれるカチオン基が挙げられる。
【0060】
ベタイン構造は、成形基材の表面に露出した極性基である表面官能基、成形基材の表面がコロナ放電処理表面、プラズマ処理表面、紫外線処理表面、エキシマ処理表面、及び/又はシランカップリング剤処理表面であることにより生じている水酸基、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基のような表面官能基、又は成形基材が有するアミノ基、アルコキシ基、アルコキシシリル基のような表面官能基と、反応、結合、又は吸着とりわけ表面官能基とベタイン構造との互いの静電引力又はイオン引力によって物理吸着乃至化学吸着のような吸着をして、成形基材の表面に強く相互作用している。
【0061】
共重合体中、ベタイン構造を有する繰返単位は、好ましい一例として、前記化学式(1)又は(2)で表されるものが挙げられるが、より具体的には、下記化学式(4)~(7)
【化3】
で表されるものが挙げられる。
【0062】
また、共重合体中、活性官能基を側鎖に有する繰返単位は、成形基材上の表面官能基に、反応、結合、又は吸着、とりわけ共有結合によって結合している。
【0063】
活性官能基は、アジド基(-N3)、スルホ基(-SO3)、トリアルコキシシリル基(-Si(ORe1)3;ORe1は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)、水酸基(-OH)又は水酸基を生成する水酸基ブロック基例えば炭素数1~6のアルコキシ基のような水酸基前駆基から選ばれる少なくとも何れかの官能基が挙げられる。
【0064】
活性官能基のうち、アジド基(-N3)は、例えば、紫外線又は光による分解によって又は熱分解によって窒素分子を放出してナイトレン基(-N:基)を生成し、成形基材上の表面官能基、若しくは成形基材の主成分やその他の硬化成分が有する不飽和基、アルキル基、フェニル基、又はアミノ基と反応して及び/又は環拡大して、反応又は結合することにより、共有結合を形成する。活性官能基のうち、トリアルコキシシリル基は、成形基材上の表面官能基例えば水酸基と縮合反応することにより、シリルエーテル結合である共有結合を形成する。活性官能基のうち、水酸基又は水酸基ブロック基は、成形基材上の表面官能基例えばシラノール基(-Si-OH)又はシロキシ基(-Si-ORf1基;Rf1は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)と縮合反応することにより、エーテル結合である共有結合を形成する。これらは、イオン結合を介して結合しているものであってもよい。
【0065】
また、共重合体中の活性官能基を側鎖に有する繰返単位中、側鎖は、フェニル、ナフチルのような炭化水素芳香環基、ピペラジニル、ピレリジニル、ピロゾキジニル、モルフォリニルのような非芳香族複素環基、ピリジル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、トリアゾニルのような芳香族複素環基、メチル、エチル、ビニル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、シクロペンチル、n-へキシル、シクロヘキシルのような、若しくはベンジル又はフェネチルのような直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状で飽和又は不飽和の炭化水素基、アミド基(-CO-N(Rg1)-;Rg1は炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基)、エステル基(-CO-O-)から選ばれる何れかの単一スペーサ基、またはそれらの少なくとも何れかを組み合わせた複合スペーサ基が、前記活性官能基を有しているものであってもよい。
【0066】
共重合体中の活性官能基は、成形基材の表面に露出した極性基である表面官能基、成形基材の表面がコロナ放電処理表面、プラズマ処理表面、紫外線処理表面、エキシマ処理表面、及び/又はシランカップリング剤処理表面であることにより生じている水酸基、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基のような表面官能基、又は成形基材が有するアミノ基、アルコキシ基、アルコキシシリル基のような表面官能基と反応、結合、又は吸着とりわけ表面官能基と化学反応して共有結合を形成して、成形基材の表面に共重合体の分子を付している。
【0067】
この共重合体の分子量及び分子量分布は特に限定されないが、下記化学式(9)の場合、分子量:30000以上、分子量分布は狭い高分子であることが好ましい。
【0068】
なかでも、共重合体は、下記化学式(8)又は化学式(9)
【化4】
(式(8)及び(9)中、R
5~R
8は水素原子又はメチル基、m1及びm2並びにm3及びm4は、前記分子量と繰返単位の比を形成する任意の正数)で表されるものであることが好ましい。
【0069】
成形基材が、ゴム、樹脂、ガラスであることが好ましい。さらに好ましくは弾性を有し又は軟質のシリコーンゴム製、又は硬質のシリコーン樹脂製であることが好ましい。ポリジメチルシロキサン骨格、ポリメチルフェニルシロキサン骨格、ポリメチルハイドロジェンシロキサン骨格から選ばれる何れかを有するものであると、入手が容易で製造し易いことから、好ましい。
【0070】
細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、このような構成を有することにより、水接触角20°以下という優れた親水性を発現している。未処理の成形基材は、水接触角が約40~108°であるが、細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、作製直後で水接触角が20°以下であり、室温やクリーンルームで、半年間~1年間以上保存しても水接触角が20°以下であり高い親水性を維持できている。
【0071】
細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、ヒト子宮頸癌由来細胞であるHeLa細胞やチャイニーズハムスター肺由来線維芽細胞であるV79細胞に対して、低細胞毒性を確認した。また、アルブミンなどのタンパク質の吸着が半分未満となっているので、細胞培養容器に適している。
【0072】
細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、親水性面にHeLa細胞が直接接着し増殖することが確認されており、細胞外マトリックスが不要な新規な細胞培養基材の開発、ひいては再生医療で有用なiPS細胞等への展開が期待される。
【0073】
細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、耐滅菌基材であるので、高圧水蒸気滅菌処理であるオートクレーブ滅菌、エチレンガスオキサイド滅菌、γ線滅菌、電子線滅菌などの各種滅菌条件に曝しても、高い親水性を維持できる。例えば121℃、2気圧で20分間のオートクレーブ滅菌では5箇月経過後でも水接触角が20°以下を維持でき、20~50kGyの電子線滅菌やγ線滅菌では、6箇月以上保存後、水接触角が20°以下であり高い親水性を維持できる。従って、医療器具に用いる際に、滅菌処理を施しても、親水性による効果を十分に長期間発現できる。
【0074】
このような細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、以下のようにして作製することができる。
【0075】
先ず、化学式(1)で表される側鎖にベタイン構造を有する繰返単位と、化学式(3)で表される側鎖に活性官能基を有する繰返単位とを有する共重合体は、以下のようにして合成される。
【0076】
より具体的には、前記化学式(8)又は(9)で表される共重合体を例に説明する。ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドにプロパンサルトンを反応させ、化学式(1)で表されるような繰返単位を形成するためのベタイン構造含有コモノマーを合成する。
【0077】
4-アミノ安息香酸のアミノ基をジアゾ化後にアジド化し酸クロライドにしてから、ピぺリジンのアミノ基の一方を保護基で保護したモノ保護ピぺリジンと反応させてアミド化し、その後、保護基を外し、モノ-p-アジ化安息香酸ピペラジンアミドを得る。メタクリル酸クロライドと6-アミノカプロン酸とをアミド化し、さらに前記モノ-p-アジ化安息香酸ピペラジンアミドの遊離アミノ基とアミド化して、化学式(2)で表されるような繰返単位を形成するための活性官能基含有コモノマーを合成する。
【0078】
又は、メタクリル酸クロライドと前記モノ-p-アジ化安息香酸ピペラジンアミドの遊離アミノ基とアミド化して、化学式(2)で表されるような繰返単位を形成するための別な活性官能基含有コモノマーを合成する。
【0079】
化学式(1)で表されるような繰返単位となるベタイン構造含有コモノマーと、化学式(3)で表されるような繰返単位となる活性官能基含有コモノマーとを、共重合させると、前記化学式(8)又は(9)で表される共重合体が得られる。
【0080】
なお、炭素数等が異なる別なコモノマー、例えば化学式(1)又は(2)で表される繰返単位を形成するためのベタイン構造含有コモノマー若しくは化学式(3)で表されるような繰返単位となる活性官能基含有コモノマーは、始発物質を調整すれば同様にして合成できる。
【0081】
共重合体は、水、アルコールやアセトンのような水溶性有機媒体、塩化メチレンやクロロホルムやエーテルのような水不溶性有機媒体などの各種媒体で希釈して使用してもよく、共重合体濃度が0.001~10wt%のときに高い親水性を発揮することができ、さらに好ましくは0.01~1.0wt%であると好ましい。
【0082】
ゴム、樹脂、ガラスから選ばれる材質製の成形基材を、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線処理、エキシマ処理、及び/又はシランカップリング剤処理し好ましくはエキシマ処理して、成形基材表面に元々存するものの他に新たに表面官能基を生成させる。また、マスキングなどを用いることで、前記成形基材表面の一部に表面官能基を生成させることも可能であり、選択的に親水化を発現させることができる。
【0083】
その後、共重合体液を、噴霧、塗布、浸漬などの方法で、付し、必要に応じて媒体を揮発などの方法で除去し、共重合体が付された成形基材とする。この段階では、成形基材表面の表面官能基に、共重合体のベタイン構造が静電的な相互作用をして、共重合体が、物理吸着乃至化学吸着のような吸着されていることによって、強固に付されつつ、親水性を発現している。
【0084】
次いで、共重合体が付された共重合体のベタイン構造を、紫外線又は光照射処理好ましくは波長220~410nm、積算光量は任意の紫外線を照射することにより、アジド基が分解してナイトレン基を生じ、不飽和基、アルキル基、フェニル基、アミノ基と反応して及び/又は環拡大して、成形基材上の表面官能基、若しくは成形基材の主成分やその他の硬化性分が有する不飽和基、アルキル基、フェニル基、又はアミノ基と反応して及び/又は環拡大して、反応又は結合することにより、共有結合を形成し、共重合体が、化学結合によって強固に付されつつ、親水性を発現している。
【0085】
このようにして、細胞接着性の親水性改質細胞培養基材が得られる。
【0086】
なお、活性官能基がアジド基である例を示したが、活性官能基が、スルホ基、トリアルコキシシリル基、若しくは水酸基又は水酸基ブロック基であって、成形基材上の表面官能基であるシラノール基やシロキシ基と縮合反応して、エーテル結合である共有結合を形成し、共重合体が、化学結合によって強固に付されつつ、親水性を発現していてもよい。
【0087】
細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、親水性を発現する用途に用いられる。例えば、生体の水分と馴染みやすいように血管カテーテルなどの医療器具や、細胞培養容器、マイクロ流路チップなどに用いられる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を適用する細胞接着性の親水性改質細胞培養基材の実施例、及び本発明を適用外の比較例を、対比しながら説明する。
【0089】
先ず、本発明を適用する細胞接着性の親水性改質細胞培養基材を作製するために用いられるベタイン構造含有繰返単位と活性官能基含有繰返単位とを有する共重合体を調製した。
【0090】
(合成例1:共重合体[化学式(9)]の合成)
(1-1) メタクリルアミドプロピルスルホベタインの合成
【化5】
三口フラスコ(300ml)にジメチルアミノプロピルメタクリルアミド1.70g(10mmol)と脱水アセトン120mlを入れ、室温で撹拌した。1,3-プロパンサルトン1.83g(15mmol)の脱水アセトン溶液20mlを滴下し、室温で48時間撹拌した。アセトンを留去し、得られた固体にアセトン20mlを加えて洗浄した。得られた固体をメタノールに溶かし、ヒドロキノンを加えて溶媒を留去し、固体を取り出して減圧乾燥したところ、収率98%で無色固体のメタクリルアミドプロピルスルホベタインが得られ、m/z:293(M+H
+)であり、その構造が支持された。
【0091】
(1-2) メタクリルアミドピペラジンフェニルアジドモノマーの合成
(1-2(i)) モノBocピペラジンの合成
【化6】
三口フラスコ(300ml)にピペラジン12.9g(150mmol)、水酸化ナトリウム1.20g(30mmol)、ジオキサン75ml、水75mlを入れ、0℃で撹拌した。ジ-t-ブチルジカーボネート6.54g(30mmol)のジオキサン溶液50mlを滴下し、さらに室温で12時間撹拌した。反応液を5wt%炭酸ナトリウム水溶液200mlに注ぎ、クロロホルム200mLで抽出した。クロロホルム、ジオキサン、及び未反応ピペラジンを留去し、減圧乾燥したところ、無色固体のモノBocピペラジンを粗収率80%で得ることができ、そのまま次の反応に用いた。
【0092】
(1-2(ii)) p-アジ化安息香酸の合成
【化7】
三口フラスコ(1L)に4-アミノ安息香酸6.86g(50mmol)、エタノール500ml、濃塩酸250mlを入れ、0℃で撹拌した。亜硝酸ナトリウム5.18g(75mmol)の水溶液100mlを滴下し、0℃で1時間撹拌してジアゾニウム塩溶液を調整した。三口フラスコ(2L)にアジ化ナトリウム32.5g(500mmol)、エタノール250ml、水250mlを入れ、0℃で撹拌した。この溶液に調整したジアゾニウム塩溶液を滴下し、室温で24時間撹拌した。エタノールを留去した反応液をクロロホルム500mlで二回抽出した。クロロホルム、エタノールを留去し、減圧乾燥したところ、淡黄色固体のp-アジ化安息香酸を粗収率100%で得ることができ、そのまま次の反応に用いた。
【0093】
(1-2(iii)) p-アジ化安息香酸クロライドの合成
【化8】
ナスフラスコ(500ml)に粗アジ化安息香酸3.26g(20mmol)、オキザリルクロライド5.08g(40mmol)、ベンゼン300mLを入れ、室温で撹拌した。DMF4滴を加え、室温で6時間撹拌した。ベンゼン、オキザリルクロライドを留去し、減圧乾燥したところ、褐色液体のp-アジ化安息香酸クロライドを粗収率100%で得ることができ、そのまま次の反応に用いた。
【0094】
(1-2(iv)) p-アジ化安息香酸Bocピペラジンアミドの合成
【化9】
三口フラスコ(500ml)に粗モノBocピペラジン4.95g(90%、24mmol)、トリエチルアミン6.06g(60mmol)、THF300mlを入れ、0℃で撹拌した。粗アジ化安息香酸クロライド3.63g(20mmol)のTHF溶液50mlを滴下し、さらに室温で12時間撹拌した。THFを留去し、得られた残渣を5wt%塩酸200mlに注ぎ、クロロホルム200mlで抽出した。クロロホルムを留去し、残渣をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて精製したところ、淡褐色固体のp-アジ化安息香酸Bocピペラジンアミドを収率97%で得た。
【0095】
(1-2(v)) モノ-p-アジ化安息香酸ピペラジンアミドの合成
【化10】
ナスフラスコ(200ml)にアジ化安息香酸Bocピペラジンアミド3.31g(10mmol)を入れ、0℃で撹拌した。トリフルオロ酢酸20mlを加え、室温で30分撹拌した。トリフルオロ酢酸を留去し、得られた残渣に5wt%炭酸ナトリウム水溶液100mlを注ぎ、クロロホルム100mlで二回抽出した。クロロホルムと副成したピペラジンとを留去し、減圧乾燥したところ、褐色固体のモノ-p-アジ化安息香酸ピペラジンアミドを粗収率90%で得ることができ、そのまま次の反応に用いた。
【0096】
(1-2(vi)) メタクリルアミドピペラジン-p-フェニルアジドアミドモノマーの合成
【化11】
三口フラスコ(100ml)にメタクリルアミドプロピルスルホベタイン1.46g(5mmol)、トリエチルアミン1.01g(10mmol)、THF60mlを入れ、0℃で撹拌した。メタクリル酸クロライド627mg(6mmol)のTHF溶液15mlを滴下し、さらに室温で12時間撹拌した。THFを留去し、得られた残渣を5wt%炭酸ナトリウム水溶液100mlに注ぎ、クロロホルム100mlで抽出した。クロロホルムを留去し、再結晶(ヘキサン:クロロホルム=25:5mL)すると、タール状不純物が除去でき、淡褐色固体のメタクリルアミドピペラジン-p-フェニルアジドアミドモノマーが、収率54%で得られた。
【0097】
(1-3) 共重合体[化学式(9)]への共重合
【化12】
ナスフラスコ(100ml)にメタクリルアミドプロピルスルホベタイン1.46g(5mmol)、メタクリルアミドピペラジン-p-フェニルアジドアミドモノマー15.0mg(0.05mmol)、過硫酸アンモニウム11.4mg、水5mlを入れ、アルミホイルで蓋をして均一溶液にした。70℃のウォーターバスにナスフラスコを1時間浸けて重合させた。反応液に水5mlを加えて撹拌し、溶液をメタノール50mlに注いだ。生成した沈殿物を集め、メタノールで洗浄し、減圧乾燥したところ、淡黄色固体のランダム共重合体[化学式(9)]が、収率92%で得られ、GPCで測定したところ数平均分子量92000であり、その構造が支持された。
【0098】
(実施例1)
合成例1で調製した共重合体[化学式(9)]を用いて、各種基材に親水性改質処理を行った。基材は架橋済みシリコーンゴムシートを用いた。共重合体[化学式(9)]を0.1wt%水溶液に調製して使用した。基材を所定条件でプラズマ処理又はエキシマ処理した後、0.1wt%共重合体水溶液に室温で10分間浸せきした。その後、基材を取り出した後に紫外線を照射して親水性改質細胞培養基材を得た。
【0099】
(実施例2)
基材にポリカーボネート(三菱ガス化学社製:ユーピロン・フィルムFE-2000)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親水性改質細胞培養基材を得た。
【0100】
(実施例3)
基材にソーダ石灰ガラス(松波硝子工業社製:S9213)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親水性改質細胞培養基材を得た。
【0101】
(比較例1)
数平均分子量(i)95000又は(ii)253000のホスホリルコリン高分子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親水性改質細胞培養基材を作製した。
【0102】
(接触角の測定)
得られた親水性改質細胞培養基材の水の接触角にて親水性の評価を行った。得られた親水性改質細胞培養基材に水1滴を滴下して10秒後に、接触角測定器自動接触角計(協和界面科学社製;DM-501)で水との接触角を、一試験片につき5~7点測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示した。
【0103】
【0104】
表1から明らかな通り、親水性改質処理を行うことで接触角の減少が見られ、親水性が改質されたことがわかった。また、実施例1、2、3から、基材の種類に関係なく親水性が改質されたことがわかった。
【0105】
次に、実施例1の親水性改質細胞培養基材にて細胞に関する試験を実施した。比較として比較例1も同様に試験した。得られた結果をまとめて表2に示した。
【0106】
(細胞毒性試験)
ISO 10993-5:2009, Biological evaluation of medical devices - Part 5: Tests for in vitro cytotoxicityに従い、親水性改質細胞培養基材の細胞毒性試験(抽出法によるコロニー形成法)を行った。細胞はV79細胞とHeLa細胞を用いた。
【0107】
(細胞培養試験)
親水性改質細胞培養基材の細胞培養試験を実施した。まず、ポリスチレン製ディッシュに親水性改質細胞培養基材を固定し、ディッシュ内に培養液を分注した。その後、親水性改質細胞培養基材表面にHeLa細胞を播種し、炭酸ガスインキュベータを用いて、温度:37℃、CO
2濃度5%環境にて3日間培養を行った。
図1に実施例1の親水性改質細胞培養基材でHeLa細胞を培養後の顕微鏡拡大写真(b)と、本発明を適用外のシリコーン製成形基材でHeLa細胞を培養後の顕微鏡拡大写真(a)により示した。
【0108】
【0109】
表2、
図1から明らかな通り、実施例1、比較例1ともに細胞毒性はないことが確認できた。細胞培養では、実施例1では細胞の増殖が確認できたのに対し、比較例では増殖は確認できなかった。この要因として、一般的には細胞培養時に、基板上に細胞接着に必須となる細胞外マトリックスを形成する必要がある。そのため、比較例1は細胞培養できなったことが考えられる。それに対し、実施例1では同様に細胞外マトリックスを形成していなかったものの細胞培養が可能だった。このことから本発明は細胞外マトリックスタンパク質やポリペプチドをコーティングすることなく細胞培養が可能であることが確認できた。
【0110】
次に得られた親水性改質細胞培養基材に対して以下の各種滅菌処理を行い、各種滅菌処理への耐性を確認した。試験は実施例1にて実施した。得られた結果をまとめて表3に示した。
【0111】
(オートクレーブ滅菌試験)
オートクレーブ滅菌処理は、高圧蒸気滅菌器(サクラ精機社製:ASV-2402)にて121℃、2気圧で20分間行い、その後、水の接触角を測定した。また、長期保管性の確認のため、滅菌処理した親水性改質細胞培養基材をシャーレに入れて、室温、湿度60%環境下にて6箇月保管し、その後、水の接触角を測定した。
【0112】
(γ線・電子線照射滅菌試験)
親水性改質細胞培養基材にγ線及び電子線照射を行い、放射線耐性を確認した。親水性改質細胞培養基材を放射線発生装置にて20~50kGyで放射線照射を行った。その後、水との接触角を測定した。また、長期保管性の確認のため、滅菌処理した親水性改質細胞培養基材をシャーレに入れて、室温、湿度60%環境下にて6箇月保管し、その後、水の接触角を測定した。
【0113】
【0114】
表3から明らかな通り、各試験の前後により若干の接触角の上昇が見られたが、親水性は維持できていた。また、6箇月間経過後でも同様に、若干の接触角の上昇が見られたが親水性が維持できていた。このことから本発明は各種滅菌処理に対して耐性があり、長期にわたって親水性が維持できることが確認できた。
【0115】
次に、実施例1の親水性改質細胞培養基材にてのタンパク質に関する試験を実施した。得られた結果を表4に示した。
【0116】
(タンパク質の吸着評価)
親水性改質細胞培養基材のタンパク質吸着試験を実施した。30×30cmの親水性改質細胞培養基材をアルブミン溶液に2時間浸漬した。浸漬後、親水性改質細胞培養基材を取り出し、Cy3色素標識カルボン酸にて蛍光標識を行い、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて低分子成分を洗浄して試験片を作製した。得られた試験片を分光光度計にて蛍光強度を測定し、積算した容積でアルブミン吸着度合いを算出した。比較のため未処理のシリコーンゴムシートでも同様の試験を行った。
【0117】
【0118】
表4から明らかな通り、タンパク質の吸着は、未処理のシリコーンゴムシートではアルブミン吸着容積が2.5×105であったのに対し、実施例1ではアルブミン吸着容積が1.2×105であり、比較例1の約半分の吸着容積であった。このことから本発明はタンパク質の吸着量を減少させることが可能であることが確認できた。
【0119】
以上の結果から、本発明は、成形基材の表面に十分な親水性を簡便に付与でき、速やかに親水性が発現すると共に、水との接触角を十分に低く維持できるようにしつつ、細胞外マトリックスやポリペプチドをコーティングしなくとも細胞培養でき、長期間、大気中又は水中で保管・保存又は使用しても培養性能を維持でき、長期にわたって親水性を担保できる細胞接着性の親水性改質細胞培養基材として活用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の細胞接着性の親水性改質細胞培養基材は、親水性を発現したまま長期間維持を必要とする血管カテーテルなどの医療器具や、細胞培養容器、マイクロ流路チップ、organ-on-a-chipなどに用いられる。