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特許7323198無細胞系にグルコースメーターを用いて標的分析物を検出する合成生物学的回路
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】無細胞系にグルコースメーターを用いて標的分析物を検出する合成生物学的回路
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20230801BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20230801BHJP
   C12Q 1/40 20060101ALI20230801BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20230801BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230801BHJP
   G01N 33/66 20060101ALI20230801BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230801BHJP
   C12Q 1/54 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/32 ZNA
C12Q1/40
C12Q1/34
C12M1/34 B
G01N33/66 A
G01N33/50 Z
C12Q1/54
C12N15/56
C12N15/53
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020534431
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 CA2018051646
(87)【国際公開番号】W WO2019119148
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】62/609,525
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512080756
【氏名又は名称】ザ ガバニング カウンシル オブ ザ ユニバーシティ オブ トロント
【氏名又は名称原語表記】THE GOVERNING COUNCIL OF THE UNIVERSITY OF TORONTO
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】パーディー,ケイス
(72)【発明者】
【氏名】アマルフィタノ,エヴァン
(72)【発明者】
【氏名】カーリコウ,マーゴット
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-533297(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0076083(US,A1)
【文献】国際公開第2015/085209(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/150186(WO,A1)
【文献】Cell,2016年,vol.165, p.1255-1266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の標的核酸分子に応答してグルコースを修飾する方法であって、前記方法は、前記試料と無細胞系反応体積中遺伝子回路とを接触させることを含み、
前記遺伝子回路が、その発現が前記反応体積中のグルコースのレベルを修飾する酵素をコードするDNA分子に作動可能に連結されたプロモーターを含むDNA分子を含み、かつ
前記標的核酸分子が、前記反応体積中の遺伝子回路を活性化して、前記酵素をコードするmRNA分子の翻訳を調節し、前記反応体積中のグルコースのレベルを修飾かつ
前記遺伝子回路が、前記酵素をコードするmRNA分子の翻訳を制御するリボレギュレーターをさらに含み、前記リボレギュレーターが足がかり配列スイッチであり、前記標的核酸分子が前記足がかり配列スイッチのトリガーであるため、前記標的核酸分子と前記足がかり配列スイッチが結合すると、前記遺伝子回路内の前記酵素をコードする前記mRNAが翻訳される、方法。
【請求項2】
前記標的核酸分子が、前記遺伝子回路を活性化して、前記無細胞系反応体積中の前記グルコースのレベルを上昇させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的核酸分子が、前記遺伝子回路を活性化して、前記無細胞系反応体積中の前記グルコースのレベルを低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記無細胞系反応体積が、グルコース、または前記酵素が作用してグルコースを生成する基質を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記基質が、1つまたは複数のグルコースモノマーを含むオリゴ糖または多糖を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
i)前記基質がトレハロースであり、前記酵素がトレハラーゼである;
ii)前記基質がマルトースであり、前記酵素がマルターゼである;
iii)前記基質がセロビオースであり、前記酵素がセロビアーゼである;
iv)前記基質がデンプンであり、前記酵素がアミラーゼである;
v)前記基質がラクトースであり、前記酵素がラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)である;
vi)前記基質がスクロースであり、前記酵素がインベルターゼもしくはスクラーゼである;
vii)前記基質がグルコースであり、前記酵素がグルコースデヒドロゲナーゼである;または
viii)前記基質がグルコース-6-リン酸であり、前記酵素がグルコース6-ホスファターゼである、
請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記無細胞系反応体積が、前記遺伝子回路と、転写および翻訳のための酵素と、リボソームと、dNTPと、tRNAと、アミノ酸とを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記無細胞系反応体積を凍結乾燥させ、前記試料および/または反応緩衝液との接触によって再水和する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記無細胞系反応体積中のグルコースを検出し、それにより、前記試料中の前記標的核酸分子を検出することをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
グルコースを検出することは、グルコースメーターおよび/またはグルコース試験紙を用いることを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記無細胞系反応体積中のグルコースのレベルを検出し、それにより、前記試料中の前記標的核酸分子のレベルを定量化することを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
試料中の標的核酸分子に応答してグルコースを生成または消費する遺伝子回路を含む無細胞系反応体積を含む、キットであって、
前記遺伝子回路が、その発現が前記無細胞系反応体積中のグルコースのレベルを修飾する酵素をコードするDNA分子に作動可能に連結されたプロモーターを含むDNA分子を含み、かつ前記標的核酸分子が、前記無細胞系反応体積中の遺伝子回路を活性化して、前記酵素をコードするmRNA分子の翻訳を調節し、前記無細胞系反応体積中のグルコースのレベルを修飾し、かつ
前記遺伝子回路が、前記酵素をコードするmRNA分子の翻訳を制御するリボレギュレーターをさらに含み、前記リボレギュレーターが足がかり配列スイッチであり、前記標的核酸分子が前記足がかり配列スイッチのトリガーであるため、前記標的核酸分子と前記足がかり配列スイッチが結合すると、前記遺伝子回路内の前記酵素をコードする前記mRNAが翻訳される、キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2017年12月22日に出願された米国仮特許出願第62/609,525号の優先権の利益を主張するものであり、上記出願の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、標的分析物を検出する製品および方法、より具体的には、グルコースを産生または消費する合成生物学的回路を用いて標的分析物を検出する製品および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
血糖モニターは、議論の余地はあるものの、最も広く用いられている診断装置であり、血糖の携帯機器による定量化、したがって個人の管理を可能にすることによって、何百万人もの糖尿病患者の生活に「革命」をもたらしてきた。世界全体の販売額が年間110億ドル(USD)であるグルコースメーターは、分散型の診断法としては比類なき成功を収めたものである。このように広く採用されることによって、装置の製造、流通、および消耗品の世界規模のネットワークがもたらされただけでなく、患者および臨床医によって広く受け入れられるようにもなった。しかし、これほどの成功を収めたものの、それは携帯機器による他の疾患バイオマーカー(例えば、核酸、タンパク質、および他の小分子)の診断にマッチするものではなかった。その理由は複雑なものであるが、重要な要因の1つとして、他の種類の分析物に適した携帯型センサー技術が存在しないということがある。
【0004】
これまでに、個人用のグルコースメーターをグルコース以外の分析物の検出に転用する研究が記載されている(Xiang and Lu,2011;Xiang et al.,2014,Lan et al.,2016)。しかし、これらの報告に用いられた分子機序は、複数のエレメント間のアプタマーまたはDNAハイブリダイゼーションを用い、予め生成した酵素を使用するものであり、このことがその実用性を制限するものと思われる。
【0005】
標的分析物を検出し、携帯型センサー技術における使用への適合が容易な新規な製品および方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、無細胞系の合成生物学的回路を活性化することによって標的分析物を検出するのに有用な方法および製品に関する。一実施形態では、合成生物学的回路の活性化が、グルコースなどのレポーター分子のレベルを修飾する。次いで、グルコースメーターなどの使用によるレポーター分子の検出を用いて、試料中の標的分析物の存在を検出し得る。
【0007】
図1に示すように、遺伝子回路などの合成生物学的回路を用いて、標的分析物の存在に応答するレポーター酵素の活性または発現を活性化し得る。反応内のレポーター分子のレベルを上昇または低下させる基質と酵素の様々な組合せを選択し得る。好ましい実施形態では、レポーター分子はグルコースであり、合成生物学的回路は、反応体積中のグルコースのレベルを修飾するレポーター酵素を生成および/または活性化するものである。グルコースは、無細胞反応体積中で、グルコースメーターに対して不活性な基質、例えば多糖などから生成する。一実施形態では、グルコースは、グルコースメーターに対して不活性な産物(D-グルコノ-1,5-ラクトンなど)に変換される。反応体積中のグルコースのレベルの変化は、グルコースメーターおよび/またはグルコース試験紙を用いて容易に求めることができる。グルコースモニターを用いて患者由来血液試料中の標的分析物を検出する例示的アッセイを図2に示す。
【0008】
さらに、本明細書に記載される実施形態は、試料中の複数の標的分析物を単一の反応で検出することを可能にする。図4に示すように、無細胞系の複数の合成生物学的回路を用いて、異なる標的分析物に応答し、グルコースモニターを用いて容易に識別される異なるグルコースのレベルを生じさせ得る。
【0009】
本明細書に記載される実施形態には多数の利点があり、様々な目的で様々なタイプの試料中の標的分析物を検出するのに用いることができる。例えば、本明細書に記載される実施形態は、患者試料中の臨床的に重要な量の疾患関連DNA/RNAを検出するのに適した携帯機器を実現し得る。同様に、この技術を用いて、ポイントオブケアで個人の遺伝子型を同定して表現型に関する情報を推測する、食品中の遺伝子マーカーの存在を試験する(例えば、食品安全性)、または環境試料を分析する(例えば、環境モニタリング)ことができる。さらに、単に上流遺伝子に基づく回路を変化させることによって、目的とする試料中の汚染物質(例えば、重金属または殺虫剤)、爆発物(例えば、国家の保安)、または違法物質(例えば、法執行)などの小分子分析物を検出し得る。本明細書に記載される方法および製品を分子バーコード、例えばサプライチェーンの商品の追跡、情報の暗号化、および/または高価商品に透かしを入れることに使用する分子バーコードなどの検出に使用してもよい。本明細書に記載される実施形態は、多種多様な標的分析物の検出にグルコースモニターなどの安価で携帯可能なセンサーを用いることを可能にする。
【0010】
したがって、一態様では、試料中の標的分析物に応答してグルコースを生じさせる方法が提供される。一実施形態では、この方法は、試料と無細胞系の合成生物学的回路とを接触させることを含む。次いで、標的分析物が合成生物学的回路を活性化して、無細胞系反応体積中のグルコースのレベルを修飾する。
【0011】
標的分析物は任意選択で、合成生物学的回路を活性化して、無細胞系反応体積中のグルコースのレベルを上昇させるか、無細胞系反応体積中のグルコースのレベルを低下させる。
【0012】
一実施形態では、標的分析物は無機分子または有機分子である。一実施形態では、標的分析物は、核酸分子(DNAまたはRNA)またはタンパク質などの生体分子である。
【0013】
一実施形態では、この方法は、標的分析物(1つまたは複数)を精製し、かつ/または利用可能な状態にするため、試料と生物学的回路との接触前または接触時に試料を処理することを含む。例えば、一実施形態では、この方法は、試料から核酸分子を抽出することを含む。当該技術分野で公知の様々な核酸抽出方法を本明細書に記載される実施形態と組み合わせて用い得る。一実施形態では、この方法は、核酸分子などの標的分析物を捕捉する紙または膜などの基質を用いて標的分析物を抽出することを含む。別の実施形態では、この方法は、標的分析物の抽出に磁気ビーズを使用することを含む。一実施形態では、本明細書に記載される方法は、試料と合成生物学的回路とを接触させる前に、試料からの紙による核酸分子抽出、任意選択で、本明細書に記載されるReCap RNA抽出と、それに続く核酸配列ベースの等温増幅(例えば、NASBA、RPA、LAMPなど)を含む。
【0014】
一実施形態では、この方法は、試料と合成生物学的回路との接触前または接触時に、試料中の標的分析物の濃度を増大および/または増幅することを含む。例えば、一実施形態では、この方法は、任意選択で等温増幅技術などの当該技術分野で公知の核酸増幅技術を用いて標的DNA分子またはRNA分子を増幅することを含む。
【0015】
一実施形態では、合成生物学的回路は、任意選択で酵素の転写または翻訳を調節することによって、標的分析物に応答して無細胞反応体積中のグルコースのレベルを修飾する酵素の発現を調節する。一実施形態では、合成生物学的回路は遺伝子回路である。例えば、一実施形態では、遺伝子回路は、リボレギュレーター、例えば酵素をコードするmRNAの翻訳を標的分析物に応答して制御する足がかり配列スイッチなどを含む。あるいは、合成生物学的回路は、任意選択で酵素の翻訳後調節により、無細胞系のグルコースのレベルを修飾する酵素のレベルまたは活性を調節し得る。
【0016】
本明細書に記載される実施形態では、無細胞系反応体積中のレポーター分子のレベルを上昇または低下させる基質と酵素の様々な組合せを用い得る。一実施形態では、基質は、グルコース、または酵素が作用してグルコースを生成する基質である。例えば、一実施形態では、基質はトレハロースであり、酵素はトレハラーゼである。特に限定されないが図1Bに挙げるものを含めたこの記載の教示を考慮すれば、当業者には基質と酵素の他の組合せが明らかになるであろう。一実施形態では、酵素HMG-CoAリアーゼを用いてHMG-CoAからケトンのアセトアセタートを生じさせる。別の実施形態では、酵素3-ヒドロキシブチラートデヒドロゲナーゼを用いてD-3-ヒドロキシブチラートをアセトアセタートに酸化する。一実施形態では、β-ヒドロキシブチラートデヒドロゲナーゼを用いてβ-ヒドロキシ酪酸塩をアセトアセタートに変換する。
【0017】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、試料またはその一部と無細胞系の合成生物学的回路とを接触させる前に試料を処理することを含む。例えば、一実施形態では、試料を処理して、試料中のグルコース濃度を正常化もしくは低下させ、かつ/または試料中の標的分析物の相対濃度を増大させる。一実施形態では、試料を処理して、試料中の内因性グルコースおよび/または血糖を除去および/または隔離する。この方法は任意選択で、試料とグルコースデヒドロゲナーゼおよびNADとを接触させて、内因性グルコースをD-グルコノ-1,5-ラクトンに変換することを含む。
【0018】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、無細胞系反応体積中のレポーター分子を検出し、それにより試料中の標的分析物を検出することを含む。一実施形態では、レポーター分子はグルコースであり、グルコースメーターおよび/またはグルコース試験紙を用いて無細胞系反応体積中のグルコースを検出する。一実施形態では、レポーター分子はケトンであり、ケトンメーターおよび/またはケトン試験紙を用いて無細胞系反応体積中のケトンを検出する。
【0019】
本明細書に記載される実施形態を用いて、複数の検出反応で複数の異なる標的分析物を検出してもよい。例えば、一実施形態では、この方法は、試料と無細胞系の複数の合成生物学的回路とを接触させることを含み、異なる標的分析物が各合成生物学的回路を活性化して、無細胞系反応体積中のグルコースのレベルを修飾する。一実施形態では、無細胞系反応体積中のグルコースのレベルと1つまたは複数の対照レベルとの比較を用いて、試料中の複数の標的分析物の存在、不在、および/またはレベルを求め得る。
【0020】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、1つまたは複数の標的分析物の有無を示すデータを使用者に提示することを含む。任意選択で、データをスマートフォンなどの携帯用電子機器で使用者に提示する。
【0021】
別の態様では、試料中の標的分析物に応答してレポーター分子を生成または消費する合成生物学的回路を含む無細胞系を含む、キットが提供される。一実施形態では、レポーター分子はグルコースである。一実施形態では、キットは、容器、任意選択で、試料を入れ、かつ/または試料と無細胞系とを接触させる容器を含む。一実施形態では、キットは、本明細書に記載される方法を実施する試薬を含む。一実施形態では、キットは、合成生物学的回路を有する無細胞系を形成するよう働く試薬を含む。一実施形態では、無細胞系は凍結乾燥されている。一実施形態では、キットは、本明細書に記載される、レポーター分子を生じさせ、かつ/または標的分析物を検出する方法を実施するための指示書を含む。
【0022】
一実施形態では、キットは、試料を処理する、例えば試料から核酸分子を抽出する製品および/または試薬を含む。一実施形態では、キットは、標的分析物を捕捉する基質、例えば紙または膜基質など、任意選択でセルロースを含む。一実施形態では、基質は容器、任意選択で、試料を入れるのに適した容器の内側に固定されている。一実施形態では、容器の取外し可能なキャップまたは蓋の内側に付着性基質が固定されている。一実施形態では、キットは、核酸の抽出に適した磁気ビーズを含む。一実施形態では、キットは、試料中の標的分析物の濃度を増大させる試薬を含む。一実施形態では、キットは、標的核酸分子を増幅する、任意選択で、核酸分子を等温増幅する試薬を含む。一実施形態では、キットは、試料の熱処理を実施する、任意選択で、試料を蒸発させる、または試料中の細胞を溶解させる加熱器を含む。一実施形態では、試料と無細胞系とを接触させる前の熱処理によって、グルコース修飾酵素を含めた内因性タンパク質が変性する。
【0023】
一実施形態では、キットは、試料を入れる容器を含み、容器は取外し可能な蓋を含み、基質は取外し可能な蓋に接着している。一実施形態では、キットは複数の容器を含み、取外し可能な蓋は複数の容器に適合するよう構成されている。例えば、一実施形態では、キットは、試料と合成生物学的回路とを接触させる前に標的分析物を抽出し、洗浄し、かつ/または増幅するための別個の容器を含む。一実施形態では、キットは、標的分析物の抽出、洗浄、および/または増幅に適した緩衝液などの試薬を含む。
【0024】
一実施形態では、キットは、遺伝子回路を含む合成生物学的回路を含む。一実施形態では、遺伝子回路は、リボレギュレーター、例えば、発現が無細胞系のグルコースを生成または消費する酵素をコードする、mRNAの翻訳を制御する足がかり配列スイッチなどを含む。一実施形態では、キットは、試料中の複数の異なる標的分析物に応答してグルコースを生成または消費する複数の合成生物学的回路を含む。任意選択で、各合成生物学的回路は、異なる基質および酵素を用いてグルコースを生成する。
【0025】
一実施形態では、キットは、試料を処理および/または希釈する試薬をさらに含む。一実施形態では、キットは、試料中の内因性グルコースおよび/または血糖を除去および/または隔離する試薬を含む。例えば、一実施形態では、キットは、試料中のグルコースをD-グルコノ-1,5-ラクトンに変換する所定量のグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とNADとを含む。
【0026】
一実施形態では、キットは、グルコースメーターおよび/またはグルコース試験紙をさらに含む。別の実施形態では、キットは、ケトンメーターおよび/またはケトン試験紙をさらに含む。
【0027】
本発明の他の特徴と利点については、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。ただし、この詳細な説明より本発明の趣旨および範囲に含まれる様々な変更および修正が当業者に明らかになることから、詳細な説明および具体例は、本発明の好ましい実施形態を示すものであると同時に、単に説明を目的として記載されるものであることを理解するべきである。
【0028】
これより、本発明の実施形態を図面と関連させて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1Aは、蛍光タンパク質または比色タンパク質出力を生じ、解釈に特別な装置を必要とする、標的分析物を検出するための従来の遺伝子回路ベースのセンサーを示す。このような従来の検出方法は、グルコースメーターなどの広く利用可能な診断基盤には適合しない。図1B、1C、1D、および1Eは、標準的なグルコースメーターおよび試験紙を、グルコース生成酵素を用いて本明細書に記載されるように標的分析物を検出する一般的装置に変換する、様々な実施形態を示す。図1Bには、レポーター酵素、各酵素の基質、および1分子当たりのグルコース産生量のリストが記載されている。図1Cは、遺伝子回路ベースのセンサーの例示的実施形態が転写を調節することによって機能し得ることを示し、ここでは、TetOベースの遺伝子回路がTetRの存在によって抑制される。この抑制は、TetRがTetOプロモーターと結合するのを妨げる小分子aTcの添加によって解除され、グルコース生成酵素の転写および翻訳が可能になる。図1Dは、翻訳を調節する役割を果たす例示的な足がかり配列スイッチベースの遺伝子回路の模式図を示す。適切なトリガーRNAの存在下では、足がかり配列スイッチの5’RNAヘアピンが直線化し、それにより、リボソームがリボソーム結合部位(RBS)と結合し、グルコース生成レポーター酵素の翻訳を誘導することが可能になる。図1Eは、無細胞反応でのオリゴマーグルコース基質の変換を示す。これらの基質がオリゴマー状態であることは、それらが、活性化された遺伝子回路からのレポーター酵素出力によってモノマーグルコースに変換されるまでグルコース試験紙に対して無反応性であることを意味する。
図2】遺伝子回路ベースのRNAセンサーの出力をグルコースメーターで解釈する際の流れ図の一実施形態を示す図である。ランセットを用いて指を刺すことなどによって、対象から試料を採取し得る。次いで、試料を標的特異的プライマーと等温増幅反応混合物とを含む試料調製緩衝液のバイアルに入れて希釈し、バイアルを反転させてかき混ぜる。増幅後、シールを取り外し、密閉したバイアルを反転させることにより、増幅された標的配列を蓋中のマイクロチャンバに移す。RNAセンサーでの無細胞反応を(任意選択で20~40分間)進行させ、患者試料が標的分析物について陽性であればグルコースが産生されるのはこの時間の間である。次いで、グルコース試験紙をマイクロチャンバに挿入し、グルコースモニターで読み取る。
図3】グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)のNAD共基質を漸増させることによってグルコースの減少が制御されたことを示す図である。無細胞反応でGDHを発現させると、様々な量のNADを添加することによって、酵素により異化されるグルコースの量を高い精度で制御できる。NADは、GDHによってNADHに還元され、グルコースの異化作用には1:1の比で必要とされる。GDHは、診断レポーター酵素として、またはアッセイ実施前に試料中に存在する内因性グルコースを減少させるのに使用し得る。
図4】診断用無細胞反応からの多重出力へのシグナル強度の使用を示す図である。異なる酵素に対するDNA鋳型を共通の反応混合物に添加することによって、異なる標的分析物に応答して異なるレベルのグルコースを生成する反応が可能となる。このことを用いて、単一の反応で複数の診断センサーを作動させることができる。反応はいずれも、無細胞発現系を用いて実施したものであり、実施例1に記載する通りに添加したDNA以外は同一のものである。この系でプラスミドDNAから酵素を発現させた。ラクターゼ発現を足がかり配列スイッチの制御下に置き、トリガーを添加した。他の2つの酵素は標準的なT7プロモーターから発現させた。値はいずれも、DNAを添加していない対照反応を測定することによって求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。無細胞反応を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。
図5】酵素のDNA鋳型の量を漸増させることによって、反応により生成するグルコースの量を制御できることを示す図である。鋳型DNAの量を減少させることにより、グルコース産生速度が低下する。このことを診断システムに利用し、異なる酵素からの出力を調整してシグナル強度間に明確な差を生じさせ、多重化し得る。値は、DNAが存在しない陰性対照反応を用いて求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。試料を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。
図6】グルコース産生に対する基質濃度の影響を示す図である。トレハラーゼの存在下、トレハロース基質のレベルが異なると、異なる濃度のグルコースが生じる。値は、DNAが存在しない陰性対照反応を用いて求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。無細胞反応を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。
図7】足がかり配列スイッチベースのRNAセンサーの制御下でのトレハラーゼ発現を示す図である。これは、トリガーRNAの存在がトレハラーゼの翻訳およびこれと同時に起こるグルコース産生を誘導する、模擬診断反応を表している。トレハラーゼは各トレハロース分子を2つのグルコース分子に変換する。値は、DNAが存在しない陰性対照反応を用いて求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。無細胞反応を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。
図8】足がかり配列スイッチベースのRNAセンサーの制御下でのラクターゼ発現を示す図である。ここでは、適切なRNAトリガー配列の存在下ではレポーター酵素ラクターゼの翻訳が誘導され、グルコースの産生が生じる。ラクターゼは各糖ラクトース分子を1つのグルコース分子(および1つのガラクトース)に変換する。ここでは、可能性としてこの酵素の反応速度が低下することから、漏出は検出されない。値は、DNAが存在しない陰性対照反応を用いて求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。無細胞反応を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。
図9】患者試料中の標的分析物を検出する方法の一実施形態を示す図である。任意選択で、グルコースメーターを用いてグルコースを検出する前、反応体積にグルコースメーター緩衝液(5×0.1M NaCl、0.1Mリン酸ナトリウム、0.05%tween-20、pH7.3)を加える。
図10】単一反応体積中の異なる標的分析物に2つの異なる足がかり配列スイッチを用いた多重化を示す図である。図10Bは、2つの異なるグルコース生成酵素を用いて2つの異なる標的RNA配列を多重検出する同様の実験の結果を示す。図10Cは、同じ酵素を用い、異なる足がかり配列スイッチ(足がかり配列スイッチは様々な活性レベルを有し得る)およびそれぞれの足がかり配列スイッチをコードする異なる量(すなわち、存在するセンサーの量)のDNAを用いてレポーター活性を調整した多重検出を示す。
図11】グルコースを産生する合成生物学的回路のチフス標的およびパラチフス標的検出への使用を示す図である。
図12】診断応用のためのグルコースメーターが介在する例示的ワークフローを示す図である。
図13】ReCap紙抽出PCRおよび対照PCR反応の結果を示す図である。
図14】ReCap紙抽出PCRを用いたSYBR Green Iアッセイの結果を示す図である。
図15】磁気ビーズ抽出PCRの結果を示す図である。
図16】ReCap RNA抽出とそれに続くNASBA増幅の結果を示す図である。
図17】合成生物学的回路を用いた水銀検出のためのグルコースメーターが介在する例示的ワークフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(発明の詳細な説明)
この説明は、無細胞系の標的分析物を検出する合成生物学的回路を提供する。実施例で示すように、記載される合成生物学的回路の使用により、グルコースモニターおよび試験紙などの容易に入手可能なセンサーおよび試薬を用いて標的分析物を検出することが可能になる。本明細書に記載される実施形態を用いて、容易に様々な合成生物学的回路を生じさせ、様々な標的分析物の検出を可能にできる。例えば、リボレギュレーター、例えば標的核酸配列に応答してレポーター酵素の発現を制御する足がかり配列スイッチなどを用いて、標的RNAまたはDNA配列を検出できる。レポーター酵素の発現が基質のレベルを修飾し、次いで、これを無細胞反応体積中に検出する。好ましい実施形態では、レポーター酵素が無細胞反応体積中のグルコースのレベルを修飾し、グルコースモニターおよび/またはグルコース試験紙を用いて標的分析物を検出することが可能になる。
【0031】
同じ反応に異なるレポーター酵素を用いて、複数の標的分析物の同時検出を可能にし得る。レポーター分子(グルコースなど)のレベルを修飾する速度が異なるレポーター酵素を選択し、各酵素に対して異なる量の基質を予め加えることによって、複数の標的分析物の有無が、異なるレベルのレポーター分子を生じさせる。
【0032】
本明細書で使用される「無細胞系」は、細胞の不在下、in vitroで生合成反応(例えば、転写反応、翻訳反応、またはその両方)を生じさせる、または補助することが可能な一連の試薬を指す。例えば、転写反応を生じさせるには、無細胞系は、プロモーターを含むDNA、RNAポリメラーゼ、リボヌクレオチド、および緩衝液系を含む。組換え細胞を含めた真核細胞または原核細胞から単離もしくは精製した、またはそのような細胞の抽出物または一部として調製した酵素、補酵素、およびその他の細胞内成分を用いて、無細胞系を調製できる。様々な供給源、特に限定されないが、真核細胞および原核細胞、例えば、特に限定されないが、大腸菌(E.coli)、好熱細菌または好冷細菌などを含めた細菌、コムギ胚芽、ウサギ網状赤血球、マウスL細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞、および出芽酵母などを含めた供給源から無細胞系を得ることができる。一実施形態では、無細胞系を得るため、細胞抽出物を精製および/または処理して内因性グルコースおよび/またはグルコース変換酵素を除去する。無細胞系の例としてまた、New England Biolabs社から入手可能なPURExpress(登録商標)システムが挙げられる。
【0033】
本明細書で使用される「生合成反応」という用語は、1つまたは複数の生体化合物(例えば、DNA、RNA、タンパク質、単糖、多糖など)の合成をもたらす任意の反応を指す。例えば、転写反応は、RNAが産生されることから、生合成反応である。生合成反応のその他の例としては、特に限定されないが、翻訳反応、共役転写/翻訳反応、DNA合成、等温増幅反応、およびポリメラーゼ連鎖反応が挙げられる。
【0034】
本明細書で使用される「合成生物学的回路」という用語は、生体成分が論理機能を実行するよう設計されている、任意の操作された生物学的回路を指す。一般に、合成生物学的回路を活性化するには入力が必要であり、次いで、その入力に応じて出力が生じる。いくつかの実施形態では、合成生物学的回路は、少なくとも1つの核酸物質または構築物を含む。他の実施形態では、合成生物学的回路は、実質的に核酸を含まない。合成遺伝子ネットワークは合成生物学的回路の一種である。合成生物学的回路のその他の例としては、特に限定されないが、操作されたシグナル伝達経路、例えば、キナーゼ活性を介して入力を増幅する経路などが挙げられる。一実施形態では、合成生物学的回路は、標的分析物に応答して無細胞反応体積中のレポーター分子のレベルを修飾する。一実施形態では、合成生物学的回路は、無細胞反応体積中のレポーター分子を生成または消費する酵素の発現および/または活性を調節する。
【0035】
本明細書では、「合成遺伝子ネットワーク」または「合成遺伝子回路」または「遺伝子回路」は、少なくとも1つの核酸物質または構築物を含み、特に限定されないが、検知、論理機能、および/または調節機能を含めた機能を実行できる、操作された組成物を指すのに互換的に使用される。核酸物質または構築物は、天然のものまたは合成のものであり得る。核酸物質または構築物は、DNA、RNA、またはその人工核酸類似体を含み得る。少なくとも2つの核酸物質または構築物を含む合成遺伝子ネットワークのいくつかの実施形態では、核酸物質または構築物が互いに直接的または間接的に相互作用し得る。間接的な相互作用は、その相互作用に他の分子が必要とされるか、介在することを意味する。合成遺伝子ネットワークのいくつかの例は、プロモーターと作動可能に連結された核酸を含む。一実施形態では、遺伝子回路または遺伝子ネットワークは、足がかり配列スイッチなどのリボレギュレーターを含む。
【0036】
一態様では、試料中の標的分析物に応答してレポーター分子を生じさせる方法が提供される。好ましくは、レポーター分子は、グルコースモニターなどの容易に入手可能なセンサーを用いて検出できる、グルコースなどの分子である。一実施形態では、この方法は、試料と無細胞系の合成生物学的回路とを接触させることを含み、標的分析物が合成生物学的回路を活性化して、無細胞系反応体積中のレポーター分子のレベルを修飾する。
【0037】
一実施形態では、標的分析物が合成生物学的回路を活性化して、無細胞系反応体積中のレポーター分子のレベルを上昇させる。別の実施形態では、標的分析物が合成生物学的回路を活性化して、無細胞系反応体積中のレポーター分子のレベルを低下させる。例えば、標的分析物が合成生物学的回路を活性化して、ポリマー糖を分解することによってグルコースのレベルを上昇させる酵素を生じさせ得る。
【0038】
本明細書に記載される方法を用いて、様々な異なる標的分析物を検出できる。一実施形態では、標的分析物は金属などの無機分子である。別の実施形態では、標的分析物は有機分子、任意選択で生体分子である。様々な無機または有機標的によって活性化される合成生物学的回路は当該技術分野で公知であり、本明細書に記載される方法およびキットに使用するのに容易に適合させ得る。例えば、Roelof Van der MeerおよびBelkin(Nat Rev Microbiol.,2010,Jull 8(7)511-522)、Zhouら(Chem.Rev.,2017,117(12),pp 8272-8325)、ならびにWedekindら(The Journal of Biological Chemistry 292,9441-9450 June 9,2017)にこのような回路が記載されており、上記文献はいずれも参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
一実施形態では、標的分析物は生体分子、例えば核酸(DNAまたはRNA)、タンパク質、脂質、代謝産物、または糖分子である。核酸は、特定の生物体および/または表現型に関連する核酸またはバリアントであり得る。一実施形態では、標的分析物は、微生物病原体、任意選択でウイルスまたは細菌に関連する核酸分子である。したがって、本明細書に記載される方法およびキットを特定の微生物の検出に、任意選択で診断目的に使用し得る。例えば、一実施形態では、標的分析物は、微生物の薬物耐性に関連する核酸分子である。一実施形態では、本明細書に記載される方法およびキットをチフスまたはパラチフスなどの腸炎熱の検出に使用し得る。例えば、実施例4および図11に示すように、グルコース生成のためのトレハラーゼ酵素の産生を活性化するよう構成された足がかり配列スイッチにより、チフス、パラチフスA、またはパラチフスB由来のRNA標的を検出することができた。
【0040】
一実施形態では、試料は対象由来のものであり、標的分析物は既知の表現型に関連するバイオマーカーである。例えば、バイオマーカーは、疾患、または特定の治療法もしくは化学療法剤に対する応答性に関連するものであり得る。本明細書に記載される方法および製品を用い、任意選択でグルコースメーターなどの安価な携帯機器を用いて、ポイントオブケアで患者のバイオマーカーデータを作成し得る。
【0041】
上記のものに代えて、またはこれに加えて、本明細書に記載される合成生物学的回路を用い、金属(例えば、Ni、Co、Fe、Hg)、爆発物、除草剤(例えば、アトラジン)、汚染物質、および/または毒素に応答してレポーター分子を生じさせ得る。次いで、グルコースメーターなどの安価な携帯機器を用いて、レポーター分子を検出し得る。図17に、Tn21プロモーターを有し、水銀の不在下ではMerR抑制因子がTn21プロモーターと結合してこれを隔離する遺伝子回路を用いて水銀を検出するための例示的ワークフローを示す。Tn21-MerR遺伝子調節系がグルコース産生のためのトレハラーゼ酵素と作動可能に連結されており、次いで、グルコースメーターを用いてグルコースを検出できる。
【0042】
合成生物学的回路との接触前または接触時に試料に様々な処理を実施し得る。一実施形態では、処理により試料中の標的分析物の濃度が増大する。上記のものに代えて、またはこれに加えて、標的分析物の検出を容易にするため、試料を処理して1つまたは複数の汚染物質を除去する、または試料を希釈することができる。一実施形態では、標的分析物は核酸分子であり、この方法は試料中の核酸分子を増幅することを含む。例えば、一実施形態では、この方法は、合成生物学的回路との接触前または接触時に標的DNA分子または標的RNA分子の等温増幅を含む。
【0043】
一実施形態では、本明細書に記載される方法およびキットは、合成生物学的回路を用いて1つまたは複数の標的分析物を検出する前に、試料を処理する段階および/または試薬を含む。一実施形態では、試料から核酸分子を抽出する。様々な核酸抽出方法を本明細書に記載される実施形態と組み合わせて用い得る。実施例に示すように、セルロース系の紙などの付着性基質を用いて、溶解細胞の試料などの試料から核酸を捕捉できる。任意選択で、次いで、洗浄段階の間、核酸分子を基質上に保持すると同時に、試料中に存在する汚染物質を除去する。
【0044】
当該技術分野で公知の様々な技術を用いて、試料中の核酸分子を増幅し得る。このような技術としては、特に限定されないが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、鎖置換増幅(SDA)、ループ媒介増幅(LAMP)、インベーダーアッセイ、ローリングサークル増幅(RCA)、シグナル媒介RNA増幅技術(SMART)、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、ニッキング酵素増幅反応(NEAR)、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)、ニッキングエンドヌクレアーゼシグナル増幅(NESA)およびニッキングエンドヌクレアーゼ支援ナノ粒子活性化(NENNA)、エキソヌクレアーゼ支援標的リサイクリング、ジャンクションまたはY-プローブ、分割DNAザイムおよびデオキシリボザイム増幅戦略、増幅シグナルを生じさせる鋳型指向性化学反応、非共有結合DNA触媒反応、ハイブリダイゼーション連鎖反応(HCR)、ならびに超分子構造を生じるDNAプローブの自己集合を介する検出が挙げられる。
【0045】
本開示の一態様では、標的分析物の存在に応答してグルコースなどのレポーター分子のレベルを修飾するよう合成生物学的回路を構築する。一実施形態では、合成生物学的回路は、無細胞系のレポーター分子のレベルを修飾する酵素の発現、レベル、または活性を調節する。合成生物学的回路は任意選択で、酵素の転写もしくは翻訳を調節することによって、または酵素の翻訳後調節によって、例えば小分子制御インテインを用いることなどによって作動し得る。
【0046】
一実施形態では、合成生物学的回路は遺伝子回路である。一実施形態では、遺伝子回路は、発現が無細胞系のグルコースなどのレポーター分子のレベルを修飾する1つまたは複数の酵素をコードする核酸と作動可能に連結されたプロモーターを含む、DNA分子を含む。一実施形態では、遺伝子回路は、1つもしくは複数の酵素をコードするDNA分子の転写、または1つもしくは複数の酵素をコードする1つもしくは複数のmRNA分子の翻訳を調節する。任意選択で、2つ以上の合成生物学的回路が、グルコースのレベルを修飾する2つ以上の酵素の発現を調節する。一実施形態では、2つ以上の酵素は、例えば異なる基質に作用することによって、異なる速度でグルコースのレベルを修飾する。
【0047】
一実施形態では、遺伝子回路は、1つまたは複数の転写活性化因子または転写抑制因子を含む。一実施形態では、遺伝子回路は、酵素をコードするmRNA分子の翻訳を制御するリボレギュレーターを含む。一実施形態では、リボレギュレーターは足がかり配列スイッチである。例えば、一実施形態では、標的分析物は、足がかり配列スイッチのトリガーであるため、標的分析物と足がかり配列スイッチが結合すると、遺伝子回路内の酵素をコードするmRNAが翻訳される。当業者であれば、様々な標的DNAまたはRNA分子の足がかり配列スイッチを容易に設計できるであろう。
【0048】
一実施形態では、無細胞系は、生物学的回路の活性に応答してレポーター分子のレベルを修飾する、1つまたは複数の基質を含む。例えば、一実施形態では、無細胞系は、グルコース、または合成生物学的回路の制御下で酵素が作用してグルコースを生成する基質を含む。
【0049】
一実施形態では、基質は、1つまたは複数のグルコースモノマーを含む、オリゴ糖または多糖を含む。本明細書に記載される合成生物学的回路に使用するのに適した酵素と基質の例示的組合せを図1Bに示す。
【0050】
本明細書に記載される方法および製品を用いて、標的分析物の有無に関する情報が望まれる任意の試料を分析し得る。一実施形態では、試料は体液、任意選択で、血液、尿、脳脊髄液、または唾液である。一実施形態では、試料は、組織試料などの患者試料である。別の実施形態では、試料は環境試料、任意選択で水試料である。一実施形態では、試料は食品試料である。
【0051】
いくつかの実施形態では、試料と無細胞系の合成生物学的回路とを接触させる前に試料を処理する。一実施形態では、試料を処理することは、試料を緩衝液/希釈液、および/または無ヌクレアーゼ水で希釈することを含む。一実施形態では、試料を処理して、試料中のグルコースの濃度を正常化または低下させる。試料を処理して、無細胞系および/またはレポーター分子の検出に干渉する汚染物質を除去するか、そのレベルを低下させてもよい。一実施形態では、試料を処理して、標的分析物の相対濃度を増大させる。上記のものに代えて、またはこれに加えて、試料を加熱、冷却、および/または凍結することなどによって、試料に熱処理を実施してもよい。一実施形態では、試料を加熱して、試料中に含まれる細胞を溶解させ、かつ/あるいは無細胞系および/または合成生物学的回路の作動に干渉する可能性のある天然の酵素などの内因性タンパク質を変性させる。
【0052】
一実施形態では、試料と合成生物学的回路とを接触させる前に、試料を処理して、試料中のグルコースなどのレポーター分子のレベルを正常化および/または低下させ得る。一実施形態では、試料の処理が、標的分析物の検出に歪みを生じさせ得るレポーター分子(グルコースまたは天然の血糖など)または酵素を含んでいる可能性のある試料供給源の影響を制御するのに役立つ。
【0053】
一実施形態では、試料を希釈液または緩衝液で希釈して、試料中のレポーター分子のレベルを低下させる。一実施形態では、希釈液または緩衝液は界面活性剤を含む。一実施形態では、界面活性剤はTween-20である。一実施形態では、試料を希釈することにより、高い糖尿病レベルのグルコースでも本明細書に記載される方法の閾値未満になり得る。例えば、正常なグルコースレベルは7.8~16.7mMであるが、極度の高血糖で一時的に28mMを超えることがある。試料を例えば10倍希釈すれば、グルコースレベルが0.8mM~2.8mMになり、いくつかの実施形態では、このことが本明細書に記載される方法の使用に支障を来すことはないものと予想される。
【0054】
いくつかの実施形態では、試料に追加の処理段階を実施して、グルコースを減少させ、除去し、隔離し、かつ/またはそのレベルを正常化させ得る。例えば、グルコース結合レクチンを用いて、試料からグルコースおよび/または血糖を隔離し得る。一実施形態では、グルコースを不活性物質に変換し得る酵素(例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ)を添加することによって、試料からグルコースを除去し得る。この工程は、入ってくるグルコースを失活させるよう添加し調整する補因子(例えば、NAD)の量によって制限され得る。
【0055】
一実施形態では、この方法は、試料を所定量のGDHおよび/またはNADで処理して、試料から所定量のグルコース、例えば特定の試料のタイプにみられる平均量のグルコースを除去することを含む。
【0056】
一実施形態では、無細胞系は、本明細書に記載される合成生物学的回路と、転写および翻訳のための酵素と、リボソームと、dNTPと、tRNAと、アミノ酸とを含む。無細胞系は任意選択で、RNアーゼ阻害剤、緩衝剤、1つもしくは複数の補因子、凍結保護物質、および界面活性剤、任意選択でTween-20のうちの1つまたは複数のものをさらに含む。一実施形態では、無細胞系はまた、発現および/または活性が合成生物学的回路によって調節される酵素に対する基質を含む。例えば、一実施形態では、無細胞系は、所定量の図1Bに示すグルコースまたは基質を含む。一実施形態では、基質は、酵素が作用してグルコースを生成する基質、例えば、1つまたは複数のグルコースモノマーを含むオリゴ糖または多糖などである。
【0057】
本明細書に記載される方法の前に、またはその一環として、無細胞系の成分を凍結乾燥させ、再水和し得る。例えば、一実施形態では、無細胞系を凍結乾燥させ、試料、緩衝液、および/または希釈液との接触によって再水和する。
【0058】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、合成生物学的回路によってレベルが修飾されるグルコースなどのレポーター分子を検出することを含む。一実施形態では、レポーター分子の有無の検出が試料中の標的分析物の有無の指標となる。一実施形態では、この方法は、無細胞反応体積中のグルコースのレベルを検出することを含む。
【0059】
一実施形態では、無細胞反応体積中のグルコースのレベルが試料中の標的分析物のレベルの指標となる。一実施形態では、無細胞反応体積中のグルコースのレベルが、複数の反応で検出される複数の標的分子の有無の指標となる。一実施形態では、複数の時点で無細胞反応体積中のグルコースのレベルを求める。
【0060】
グルコースメーターは、広範囲にわたるグルコースレベルを測定できるものであるが、従来、単に単一の読取り値(mg/dLで表したグルコース)を得るのに用いられてきた。本明細書に記載される方法およびキットは、グルコースメーターのこの広いダイナミックレンジを利用して、多重出力に対する帯域を生じさせるものである。このことは、動力学の異なる酵素を選択し、基質濃度を制御することによって実施できる。各合成生物学的回路に対して重複しないグルコース産生量を設定することにより、単一の読取り数値で多重診断が可能となる。一実施形態では、多重システムの各センサーが、オリゴマーグルコース基質をグルコースメーターによって検出できるモノマーグルコースに変換する固有のレポーター酵素を産生する。動力学の異なる酵素を選択し、基質の濃度、鋳型DNA、およびその他の分子的/生化学的パラメータを調整することによって、得られるグルコース産生量を制御できる。一実施形態では、付加的なグルコース産生を用いてどのセンサーが活性化されたかを容易に判定できるように、センサー出力を重複しないよう設計する。
【0061】
一実施形態では、無細胞反応体積中のグルコースを検出する前に、試料を所定の長さの時間にわたって無細胞系の合成生物学的回路と接触させるか、インキュベートする。一実施形態では、試料を少なくとも5分間、10分間、15分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、または45分間にわたって、無細胞系の合成生物学的回路と接触させるか、インキュベートする。一実施形態では、試料を30~180分間、任意選択で30~90分間または60~90分間にわたって、無細胞系の合成生物学的回路と接触させるか、インキュベートする。
【0062】
一実施形態では、この方法は、グルコースを検出する前に無細胞系反応体積に緩衝液を添加することを含む。一実施形態では、緩衝液は、0.1M NaCl、0.1Mリン酸ナトリウム、0.05%Tween-20を含み、pHが約7.3である、組成物である。一実施形態では、緩衝液は、Tween-20、任意選択で約0.0125%のTween-20または0.01%~0.02%のTween-20を含むか、これよりなるものである。
【0063】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、グルコースメーターを用いて、任意選択でグルコース試験紙を用いて、グルコースのレベルを検出することを含む。一実施形態では、この方法は、無細胞反応体積またはその一部をグルコース試験紙と接触させることを含む。
【0064】
実施例3で示すように、本明細書に記載される合成生物学的回路を2つ以上用いて、単一反応体積中の複数の標的分析物を検出できる。一実施形態では、この方法は、試料と無細胞系の複数の合成生物学的回路とを接触させることを含み、異なる標的分析物が各合成生物学的回路を活性化して、無細胞反応体積中のレポーター分子のレベルを修飾する。一実施形態では、複数の合成生物学的回路のそれぞれが、異なる基質と酵素を用いてグルコースを生成する。一実施形態では、無細胞系の複数の合成生物学的回路によって生成されるレポーター分子の速度および/またはレベルの差によって、複数の異なる標的分析物を単一の反応で多重検出することが可能になる。
【0065】
図10Aおよび10Bに示すように、本明細書に記載される方法およびキットは、例えば異なる速度でグルコースを産生する2つの別個の酵素を用いて、または図10Cに示すように、各標的が異なる速度で産生を活性化する単一の酵素を用いて多重化するのに有用である。
【0066】
本明細書に記載される方法は任意選択で、無細胞系反応体積中に検出されたグルコースのレベルを1つまたは複数の対照レベルと比較することを含む。一実施形態では、対照レベルは、同様の条件下で試験した対照試料中の標的分析物の所定レベルを示すものである。一実施形態では、この方法は、無細胞系反応体積中に検出されたグルコースのレベルを1つまたは複数の対照レベルと比較することを含み、各対照レベルは、試料中の1つまたは複数の標的分析物の有無を示すものである。
【0067】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、試料中の1つまたは複数の標的分析物の有無を示すデータを使用者に提示することを含む。例えば、データは、試料中の1つまたは複数の標的分析物のレベルを示すものであり得る。一実施形態では、データは、試料中の標的分析物の存在に関連する表現型またはその他の状態を示すものであり得る。
【0068】
この説明の別の態様では、試料中の標的分析物に応答してレポーター分子を生成または消費する合成生物学的回路を含む無細胞系を含む、キットが提供される。一実施形態では、レポーター分子はグルコースである。別の実施形態では、レポーター分子はケトンである。一実施形態では、キットは、特に限定されないが、無細胞系の試薬または標的分析物の濃度を増大させる試薬などの試薬を含む。一実施形態では、キットは、本明細書に記載される方法を実施する試薬を含む。
【0069】
一実施形態では、キットは、試料を入れ、試料と無細胞系とを接触させる容器を含む。一実施形態では、容器は蓋と受口とを含む。容器は任意選択で、容器内の無細胞反応体積がグルコース試験紙と接触するようにグルコース試験紙を入れるのに適合している。一実施形態では、容器は、無細胞系の入ったチャンバを含む。例えば、一実施形態では、チャンバは蓋の中に位置している。無細胞系は任意選択で、凍結乾燥され、容器内に位置していてよい。一実施形態では、無細胞系に紙またはその他の不活性材料などの基質が付随する。
【0070】
一実施形態では、キットは、本明細書に記載されるワークフローに有用な複数の容器を含む。例えば、一実施形態では、キットは、試料を入れ、付着性基質上に核酸を抽出するのに適した第一の容器を含む。一実施形態では、キットは、付着性基質を洗浄して不純物を除去するのに適した第二の容器を含む。一実施形態では、キットは、試料と合成生物学的回路とを接触させる前に、基質上に捕捉された核酸分子を溶離させ、任意選択で試料中の核酸分子を増幅するのに適した第三の容器を含む。一実施形態では、付着性基質は、3つの容器のうちの1つまたは複数のものに適合するよう構成された蓋またはキャップに固定されている。これにより、試料を合成生物学的回路と接触させる前に処理および/または増幅するため、標的分析物を含有する試料を異なる容器間で移動させることが容易になる。
【0071】
一実施形態では、キットは、試料から標的分析物を抽出および/または洗浄する試薬を含む。一実施形態では、キットは、細胞を溶解させて核酸を抽出するのに適した抽出緩衝液を含む。一実施形態では、キットは、核酸分子の試料から不純物を除去するのに適した洗浄緩衝液を含む。
【0072】
一実施形態では、標的分析物は核酸分子であり、キットは、核酸分子の濃度を増大させる試薬を含む。一実施形態では、キットは、核酸分子を等温増幅する試薬を含む。任意選択で、標的分析物の濃度を増大させる試薬を容器内の無細胞系と組み合わせるか、または容器の内部もしくは外部に別個に提供する。
【0073】
一実施形態では、合成生物学的回路は遺伝子回路である。例えば、一実施形態では、遺伝子回路は、発現が無細胞系のレポーター分子を生成または消費する1つまたは複数の酵素をコードする核酸と作動可能に連結されたプロモーターを含む、DNA分子を含む。一実施形態では、遺伝子回路は、発現が無細胞系のレポーター分子を生成または消費する酵素をコードするmRNAの翻訳を制御する、リボレギュレーターを含む。一実施形態では、リボレギュレーターは足がかり配列スイッチである。一実施形態では、レポーター分子はグルコースである。
【0074】
一実施形態では、キットの無細胞系は、グルコース、または酵素が作用してグルコースを生成する基質を含む。例えば、一実施形態では、無細胞系は、所定量の図1Bに示すグルコースまたは基質を含む。一実施形態では、基質に酵素が作用してグルコースを生成するもの、例えば、1つまたは複数のグルコースモノマーを含むオリゴ糖または多糖などである。
【0075】
一実施形態では、キットは、試料と無細胞系とを接触させる前に試料を処理する試薬を含む。一実施形態では、キットは、試料を処理して試料から内因性グルコースおよび/または血糖を除去および/または隔離する試薬を含む。例えば、一実施形態では、キットは、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)およびNAD、任意選択で、所定量のGDHおよび/またはNADを含む。一実施形態では、キットは、試料中のグルコースおよび/または血糖を隔離するレクチンを含む。一実施形態では、試料を処理して試料から内因性グルコースおよび/または血糖を除去および/または隔離する試薬は、無細胞系から分離してキットに提供される。
【0076】
一実施形態では、キットは希釈液または緩衝液を含む。一実施形態では、希釈液または緩衝液を用いて、試料を希釈し、かつ/または無細胞系を再水和し得る。一実施形態では、希釈液または緩衝液は、無ヌクレアーゼ水および/または界面活性剤、任意選択でTween-20を含む。一実施形態では、希釈液または緩衝液は、無細胞系と分離した容器内に提供される。使用時、試料および希釈液または緩衝液を無細胞系と接触させて、標的分子に応答して合成生物学的回路を活性化し得る。
【0077】
一実施形態では、無細胞系は、本明細書に記載される合成生物学的回路、転写および翻訳のための酵素、リボソーム、dNTP、tRNA、およびアミノ酸を含む。無細胞系は任意選択で、RNアーゼ阻害剤、緩衝剤、1つもしくは複数の補因子、凍結保護物質、および/または界面活性剤、任意選択でTween-20をさらに含む。一実施形態では、無細胞系は、発現および/または活性が合成生物学的回路によって調節される酵素に対する基質、例えば図1Bに示す基質などを含む。
【0078】
一実施形態では、キットは、異なる標的分析物によって活性化される複数の異なる合成生物学的回路を含む。例えば、異なる標的分析物または標的分析物の組合せを検出するための異なるキットを単独で、または組み合わせて提供し得る。
【0079】
一実施形態では、キットは、無細胞反応体積中のレポーター分子を検出するのに適した装置および/または試薬を含む。例えば、一実施形態では、キットは、グルコースメーターと、任意選択で1つまたは複数のグルコース試験紙とを含む。
【0080】
実施例1:無細胞系での標的分析物に応答したグルコース産生への合成生物学的回路の使用。
合成生物学的回路を用いて、無細胞反応で標的分析物に応答してグルコースが生成することを示すため、一連の実験を実施した。いずれの実験でも、市販の血糖メーターおよび付属の試験紙(Bayer Contour Blood Glucose Monitoring System)を用いてグルコースを検出した。
【0081】
特に生体試料の分析では、試料中の内因性のグルコースのレベルがレポーター分子であるグルコースの使用に干渉する可能性があると思われた。図3に示すように、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)を用い、補因子NADを漸増させて、試料中のグルコースの減少を制御することが可能である。したがって、無細胞系を用いて分析する前に、GDHおよびNADを用いて試料を処理して、グルコースのレベルを低下または正常化させ得る。
【0082】
次に、New England Biolabs(NEB)社が販売し、大腸菌(E.coli)からの転写/翻訳に必要な成分が精製され再構築されて含まれているPURExpress(登録商標)無細胞系を用いて、実験を実施した。トレハラーゼ酵素をコードするDNAと作動可能に連結されたT7プロモーター(イタリック体)および足がかり配列スイッチG(下線部)を有する組換え構築物「足がかり配列スイッチG」を作製した(配列番号1):
TAATACGACTCACTATAGGGATCTATTACTACTTACCATTGTCTTGCTCTATACAGAAACAGAGGAGATATAGAATGAGACAATGGAACCTGGCGGCAGCGCAAAAGATGCGTAAAGATTATAAAGATGATGATGATAAAGGACATCATCATCATCATCACAGCAGCGGCGAGAACCTGTACTTCCAATCCTCTGGAGGTGGGGGTTCTGGAACAGCGGTACGGATAGATTATGCAAGCGGGTTAACTGATCGCGAAAACTCTATGTTCAAAGAAATCCAGTTGTCAGGCGTTTTTGCCGATTCAAAAACCTTTGTGGATAGCCATCCCAAATTGCCCCTGGCGGAAATCGCCGAGCTTTACCATGTCCGGCAACAGCAGGCGGGTTTTGACCTCGCCGCTTTTGTTCACCGGTATTTTGAGCTGCCGCCGAGCATTGCCTCCGGTTTTGTCAGCGATACCTCGCGCCCGGTGGAAAAGCATATCGACATTCTCTGGGATGTGCTCACCCGCCAACCGGACAGGCAGGAGGCGGGAACCCTGCTGCCCTTACCTTACCCCTATGTCGTTCCCGGCGGCCGCTTCCGCGAAATTTACTACTGGGACAGCTATTTCACCATGCTCGGTTTGCAGGCATCGAAGCGCTGGGATCTGATGGAGGGTATGGTGAATAATTTTTCACACCTGATCGACACCATCGGCTTTATTCCCAACGGCAATCGCACCTATTACGAGGGCCGCTCCCAGCCGCCTTTTTACGCCCTGATGGTGGAGTTGCTGGCCAATAAACAGGGTGAGTCGGTGCTGCTCGCGCATTTGCCGCATTTGCGCAGGGAATATGAATTCTGGATGGAGGGCGCCGCTAAACTTTCGCCCGCTGCACCCGCGCATCGCCGTGTGGTGCTGCTGCCGGATGGCAGCATACTCAATCGCTACTGGGATGATATAGCCGCGCCGCGCCCGGAATCCTTCCGCGAAGACTACGAACTGGCGGAAGCCATCGGCGGCAACAAGCGCGAGCTGTACCGCCATATTCGCGCGGCGGCAGAATCCGGCTGGGACTTCAGCAGCCGCTGGTTCAAAGATGGCAATGGCATGGCCAGCATCCACACCACCGATATTATCCCGGTGGATTTGAATGCGCTGGTCTTTAACCTGGAGCGGATGCTGGCCCATATTTATGGCTTGCAGGGCGACCAGGATCAGGCCACGCATTACTACCAATTGGCGGAGCAGCGCAAACAGGCGTTGCTGCGCTACTGTTGGAATGCGCAGCAGGGATTTTTCCACGATTACGATTATGTCGCCGCACAACAGACGCCGGTCATGTCGCTGGCGGCGGTTTACCCGCTTTATTTCAGTATGGTCGACCAGCGCACGGGCGACCGGGTCGCCGAACAGATAGAGGCGCATTTTATCCAGGCGGGCGGTGTGACCACGACCCTGGCGACCACAGGCCAGCAGTGGGACGCGCCCAATGGCTGGGCGCCGCTGCAATGGCTGACCATCCAGGGCCTGCGCAATTATCACCACAATTCAGCGGCGGAGCAGATCAAACAGCGCTGGATTGCACTCAACCAGCGCGTTTACCGCAACACCGGAAAGTTGGTGGAAAAATACAACGTCTATGACCTGGATGTGGCCGGCGGCGGTGGCGAATATGAATTACAGGATGGCTTCGGTTGGACCAACGGTGTCTTGTTGCACTTACTCAACGAAAGTACACCCTAA(配列番号1)。
【0083】
足がかり配列スイッチGは、下のRNAトリガー配列G(配列番号2):
GGGUGAUGGGACAUUCCGAUGUCCCAUCAAUAAGAGCAAGACAAUGGUAAGUAGUAAUAGAUAAG(配列番号2)
によって活性化される。
【0084】
図4~6に示すように、異なるレポーター酵素を合成生物学的回路からの出力として使用することによって、異なる濃度のグルコースを生じさせることができる。この特徴を用いて、単一の反応体積およびグルコース測定で異なる合成生物学的回路の活性を識別する(異なる分析物を検知する)ことができる(図4)。同様に、DNA鋳型および酵素基質の濃度を制御して、レポーター酵素からのグルコース産生量を調整できる(図5および6)。さらに、図7に示すように、無細胞系および足がかり配列スイッチGを用いた模擬診断では、標的分析物(RNAトリガー配列G)に応答してグルコースが産生され、携帯型血糖メーターを用いて容易に検出された。
【0085】
実施例2:足がかり配列スイッチを用いた無細胞系でのラクターゼ発現の調節
表1に示すように、ラクターゼ発現を制御する足がかり配列スイッチを用いた反応テンプレートに従い、一連の無細胞反応を組み立てた。
【0086】
【表1】
足がかり配列スイッチの制御下にあるラクターゼ(β-ガラクトシダーゼまたはLacZとしても知られる)を用いた無細胞系のmaster mixおよび個々の反応の組立て。体積はマイクロリットル。
【0087】
ラクターゼレポーター酵素をコードするDNAと作動可能に連結されたT7プロモーター(イタリック体)および足がかり配列スイッチE(下線部)を有する組換え構築物「足がかり配列スイッチE」を作製した(配列番号3):
TAATACGACTCACTATAGGGAGTTTGATTACATTGTCGTTTAGTTTAGTGATACATAAACAGAGGAGATATCACATGACTAAACGAAACCTGGCGGCAGCGCAAAAGATGCGTAAAATGACCATGATTACGGATTCACTGGCCGTCGTTTTACAACGTCGTGACTGGGAAAACCCTGGCGTTACCCAACTTAATCGCCTTGCAGCACATCCCCCTTTCGCCAGCTGGCGTAATAGCGAAGAGGCCCGCACCGATCGCCCTTCCCAACAGTTGCGCAGCCTGAATGGCGAATGGCGCTTTGCCTGGTTTCCGGCACCAGAAGCGGTGCCGGAAAGCTGGCTGGAGTGCGATCTTCCTGAGGCCGATACTGTCGTCGTCCCCTCAAACTGGCAGATGCACGGTTACGATGCGCCCATCTACACCAACGTGACCTATCCCATTACGGTCAATCCGCCGTTTGTTCCCACGGAGAATCCGACGGGTTGTTACTCGCTCACATTTAATGTTGATGAAAGCTGGCTACAGGAAGGCCAGACGCGAATTATTTTTGATGGCGTTAACTCGGCGTTTCATCTGTGGTGCAACGGGCGCTGGGTCGGTTACGGCCAGGACAGTCGTTTGCCGTCTGAATTTGACCTGAGCGCATTTTTACGCGCCGGAGAAAACCGCCTCGCGGTGATGGTGCTGCGCTGGAGTGACGGCAGTTATCTGGAAGATCAGGATATGTGGCGGATGAGCGGCATTTTCCGTGACGTCTCGTTGCTGCATAAACCGACTACACAAATCAGCGATTTCCATGTTGCCACTCGCTTTAATGATGATTTCAGCCGCGCTGTACTGGAGGCTGAAGTTCAGATGTGCGGCGAGTTGCGTGACTACCTACGGGTAACAGTTTCTTTATGGCAGGGTGAAACGCAGGTCGCCAGCGGCACCGCGCCTTTCGGCGGTGAAATTATCGATGAGCGTGGTGGTTATGCCGATCGCGTCACACTACGTCTGAACGTCGAAAACCCGAAACTGTGGAGCGCCGAAATCCCGAATCTCTATCGTGCGGTGGTTGAACTGCACACCGCCGACGGCACGCTGATTGAAGCAGAAGCCTGCGATGTCGGTTTCCGCGAGGTGCGGATTGAAAATGGTCTGCTGCTGCTGAACGGCAAGCCGTTGCTGATTCGAGGCGTTAACCGTCACGAGCATCATCCTCTGCATGGTCAGGTCATGGATGAGCAGACGATGGTGCAGGATATCCTGCTGATGAAGCAGAACAACTTTAACGCCGTGCGCTGTTCGCATTATCCGAACCATCCGCTGTGGTACACGCTGTGCGACCGCTACGGCCTGTATGTGGTGGATGAAGCCAATATTGAAACCCACGGCATGGTGCCAATGAATCGTCTGACCGATGATCCGCGCTGGCTACCGGCGATGAGCGAACGCGTAACGCGAATGGTGCAGCGCGATCGTAATCACCCGAGTGTGATCATCTGGTCGCTGGGGAATGAATCAGGCCACGGCGCTAATCACGACGCGCTGTATCGCTGGATCAAATCTGTCGATCCTTCCCGCCCGGTGCAGTATGAAGGCGGCGGAGCCGACACCACGGCCACCGATATTATTTGCCCGATGTACGCGCGCGTGGATGAAGACCAGCCCTTCCCGGCTGTGCCGAAATGGTCCATCAAAAAATGGCTTTCGCTACCTGGAGAGACGCGCCCGCTGATCCTTTGCGAATACGCCCACGCGATGGGTAACAGTCTTGGCGGTTTCGCTAAATACTGGCAGGCGTTTCGTCAGTATCCCCGTTTACAGGGCGGCTTCGTCTGGGACTGGGTGGATCAGTCGCTGATTAAATATGATGAAAACGGCAACCCGTGGTCGGCTTACGGCGGTGATTTTGGCGATACGCCGAACGATCGCCAGTTCTGTATGAACGGTCTGGTCTTTGCCGACCGCACGCCGCATCCAGCGCTGACGGAAGCAAAACACCAGCAGCAGTTTTTCCAGTTCCGTTTATCCGGGCAAACCATCGAAGTGACCAGCGAATACCTGTTCCGTCATAGCGATAACGAGCTCCTGCACTGGATGGTGGCGCTGGATGGTAAGCCGCTGGCAAGCGGTGAAGTGCCTCTGGATGTCGCTCCACAAGGTAAACAGTTGATTGAACTGCCTGAACTACCGCAGCCGGAGAGCGCCGGGCAACTCTGGCTCACAGTACGCGTAGTGCAACCGAACGCGACCGCATGGTCAGAAGCCGGGCACATCAGCGCCTGGCAGCAGTGGCGTCTGGCGGAAAACCTCAGTGTGACGCTCCCCGCCGCGTCCCACGCCATCCCGCATCTGACCACCAGCGAAATGGATTTTTGCATCGAGCTGGGTAATAAGCGTTGGCAATTTAACCGCCAGTCAGGCTTTCTTTCACAGATGTGGATTGGCGATAAAAAACAACTGCTGACGCCGCTGCGCGATCAGTTCACCCGTGCACCGCTGGATAACGACATTGGCGTAAGTGAAGCGACCCGCATTGACCCTAACGCCTGGGTCGAACGCTGGAAGGCGGCGGGCCATTACCAGGCCGAAGCAGCGTTGTTGCAGTGCACGGCAGATACACTTGCTGATGCGGTGCTGATTACGACCGCTCACGCGTGGCAGCATCAGGGGAAAACCTTATTTATCAGCCGGAAAACCTACCGGATTGATGGTAGTGGTCAAATGGCGATTACCGTTGATGTTGAAGTGGCGAGCGATACACCGCATCCGGCGCGGATTGGCCTGAACTGCCAGCTGGCGCAGGTAGCAGAGCGGGTAAACTGGCTCGGATTAGGGCCGCAAGAAAACTATCCCGACCGCCTTACTGCCGCCTGTTTTGACCGCTGGGATCTGCCATTGTCAGACATGTATACCCCGTACGTCTTCCCGAGCGAAAACGGTCTGCGCTGCGGGACGCGCGAATTGAATTATGGCCCACACCAGTGGCGCGGCGACTTCCAGTTCAACATCAGCCGCTACAGTCAACAGCAACTGATGGAAACCAGCCATCGCCATCTGCTGCACGCGGAAGAAGGCACATGGCTGAATATCGACGGTTTCCATATGGGGATTGGTGGCGACGACTCCTGGAGCCCGTCAGTATCGGCGGAATTCCAGCTGAGCGCCGGTCGCTACCATTACCAGTTGGTCTGGTGTCAAAAATAA(配列番号3)。
【0088】
足がかり配列スイッチEは、下のRNAトリガー配列E(配列番号4):
GGGACAGAUCCACUGAGGCGUGGAUCUGUGAACACUAAACUAAACGACAAUGUAAUCAAACUAAC(配列番号4)
によって活性化される。
【0089】
図8に示すように、無細胞系および足がかり配列スイッチEを用いた模擬診断反応では、標的分析物(RNAトリガー配列E)に応答してグルコースが産生され、携帯型血糖メーターを用いて容易に検出された。
【0090】
実施例3:単一反応体積中の標的分析物の多重検出
2つの異なる足がかり配列スイッチを含有する共通の反応混合物を組み立て、レプリケートに等分した。次いで、最初の組の三重反復反応をトリガーを加えずにインキュベートし、データをバックグラウンドシグナルに対して正規化するのに用いた。図10Aに示されるように、次の組の三重反復反応にトリガーE RNAを加えたところ、グルコースがわずかであるが、有意に増大した。三組目の三重反復反応にトリガーG RNAを加えたところ、さらに大きく明確な量のグルコースが産生された。
【0091】
したがって、2つの異なる遺伝子回路を有する単一の反応を用いて2つ以上の標的分析物を識別できる。これは、存在するRNA入力に応じたグルコース出力のある単一の反応を用いて2つ以上の病原体/分析物を識別する模擬診断応用を示している。
【0092】
図10Bに、2つの異なるグルコース生成酵素を用いた2つの異なる標的RNA配列の多重検出を特徴付けるために実施した同様の実験の結果を示す。各標的が異なる酵素の産生を活性化し、各酵素が異なる量のグルコースを生成する。標的Aはラクターゼの産生を誘発し、標的Bはトレハラーゼの産生を誘発する。いずれの反応にも全足がかり配列スイッチが存在し、唯一の差は添加する標的であった。図10Bの値は、標的が存在しない対照反応を測定することによって求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。試料を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。
【0093】
図10Cに、多重反応で2つの異なる標的の検出に各標的に対して異なる酵素ではなく単一の酵素(トレハラーゼ)を用いて得られた結果を示す。各標的は同じ酵素の産生を活性化するが、足がかり配列スイッチの動力学の差によりその速度が異なる。これにより、存在する標的(1つまたは複数)に応じてグルコースの産生速度が異なり、両方が存在する場合はシグナルがさらに強くなる。いずれの反応にも全足がかり配列スイッチが存在し、唯一の差は添加する標的(1つまたは複数)であった。値は、標的が存在しない対照反応を測定することによって求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。試料を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。図10Cに示されるように、標的A、標的B、または標的A+Bを含有する試料が容易に識別された。
【0094】
実施例4:チフスおよびパラチフス標的の検出への合成生物学的回路の使用
チフス、パラチフスA、およびパラチフスB由来のRNA配列を検出する足がかり配列スイッチをそれぞれ設計した。いずれの足がかり配列スイッチも、グルコースを生成するトレハラーゼ酵素の産生を活性化するよう構成した。図11に、スイッチDNA濃度および基質を最適化して、発生シグナルを増強し差を分かりやすくする前の予備データを示すが、3つのいずれの場合にも明白な増大がみられる。図11に示されるデータは、各反応に足がかり配列スイッチが1つだけ存在するものであったため、多重化実験ではない。値は、標的が存在しない対照反応を測定することによって求めたバックグラウンドシグナルを減算した後のものが示されている。試料を37℃で1時間インキュベートした。血糖メーターを用いてグルコース濃度を測定した。
【0095】
実施例5:グルコースメーターが介在する診断ワークフロー
図12に、グルコースメーターが介在する例示的診断ワークフロー(これに限定されない)を示す。提案するワークフローの全般的過程は、段階1-試料採取、段階2-RNA抽出、段階3-等温増幅、段階4-標的RNAの存在下でグルコースを産生する標的特異的センサーと組み合わせた無細胞反応、段階5-グルコースメーターでの試料分析、および段階6-特注ソフトウェアでの結果の解釈の6段階に従う。本明細書に記載される方法の好ましい実施形態は、図12に示す段階のうち1つまたは複数のものを含み得るものであり、諸段階の任意選択の詳細については以下に示す。
【0096】
段階1:試料採取
試料は患者血液試料またはその他の生体試料であり得る。
【0097】
段階2:RNA抽出
a)紙による抽出またはb)磁気ビーズ抽出などの様々なRNA抽出方法を用いることができる。
【0098】
紙による抽出では、紙または膜をチューブのキャップの内側に接着剤またはロウを用いて接着させる。試料に溶解緩衝液を加えて最終濃度を1×とする。チューブを反転させ、キャップを抽出物とともに1分間インキュベートした後、キャップを洗浄緩衝液の入った別のチューブに移し、1分間、連続的に反転させる。最後に、キャップを等温反応混合物の入った別のチューブに移す。チューブを反転させ、混合物とさらに1分間インキュベートして、RNAを溶出させる。
【0099】
磁気ビーズ抽出では、紙による抽出方法と同様に、試料に溶解緩衝液を加えて最終濃度を1×とする。次いで、磁気ビーズを含有する溶液を試料に加え、均一になるまでかき混ぜる。磁石を用いて磁気ビーズおよびそれに結合した核酸をチューブの側面に集め、溶解廃棄物を除去する。これに続く洗浄段階を同様にして進め、チューブに洗浄緩衝液を加え、チューブを振盪して混合物をホモジナイズし、磁石を用いて再び磁気ビーズをチューブの側面に集める。最後の段階として、RNAをビーズから水中に、または等温増幅反応混合物中に直接、溶出させる。
【0100】
段階3)等温増幅反応
検出しようとする標的が最初の試料中に低濃度で存在する場合、標的RNAをセンサーに適合するレベルまで増幅することが必要となり得る。これは、NASBAなどの等温増幅法またはほぼ等温の増幅方法を用いて実施する。スマートフォンで制御する恒温器内で反応インキュベーションを実施し得る。
【0101】
段階4)無細胞反応
次いで、増幅したRNAを直接、標的RNAが認識されたときだけ有意水準のトレハラーゼを発現するよう設計したセンサーを含有する無細胞反応に加え得る。次いで、トレハラーゼが(反応に添加した)トレハロースからグルコースモノマーへの分解を触媒する。スマートフォンで制御する恒温器内で反応インキュベーションを実施し得る。
【0102】
段階5)グルコースメーター
次いで、無細胞反応をグルコース試験紙で試験してよく、陽性試料であれば、グルコースメーターによる読取りが可能なグルコースレベルの有意な上昇がみられることが予想される。
【0103】
段階6)分析結果
スマートフォンアプリを用いてグルコースメーターのデータを解釈し(任意選択で、家庭医または公衆衛生監視プログラムに+/-匿名で転送し)得る。これは任意選択で、段階3)および4)で使用する恒温器を制御するものと同じアプリである。
【0104】
実施例7:Recycling Cap Paper Extraction(ReCap)または磁気ビーズを用いた核酸抽出。
紙または膜を用いて試料から核酸を捕捉することを検討する実験を実施した。Zouら(2017)(参照により本明細書に組み込まれる)は既に、核酸精製へのセルロース紙の使用について記載している。
【0105】
チューブのキャップに紙を接着し、最初の溶解段階で核酸を捕捉する。次いで、捕捉された核酸を有するキャップを、血液試料由来の残留グルコースを含めた下流の反応を阻害する可能性のある物質を除去する洗浄チューブに移す。最終段階では核酸を増幅反応物中に溶出させる。
【0106】
また、磁気抽出を用いて試料から核酸を捕捉することを検討する実験を実施した。
【0107】
材料および試薬
溶解段階では、緩衝液を最終濃度1×で使用した。4×緩衝液では、溶解段階でさらに多くの試料を加えることが可能になる。
【0108】
【表2】
ReCapおよび磁気ビーズ抽出用の緩衝液:A)およびB)に、溶解に使用する抽出緩衝液#3の異なる組成を挙げる。C)に洗浄緩衝液の組成を挙げる。これらの緩衝液はReCap抽出および磁気ビーズによる抽出の両方に使用されることに留意されたい。RNA抽出には、0.5%v/vのマウスRNアーゼ阻害剤(NEB)を含有するよう緩衝液を改変した。
【0109】
ReCapの製作
ばらけた紙ディスクまたは試験紙の形で紙を用いる代わりに、キャップの内側に紙を接着させたチューブを用いた。Whatmanフィルター紙およびポリエーテルスルホン(PES)膜の両方を用いてこの方法を試験し、紙/膜を接着させるのにともに熱接着剤およびパラフィンロウを用いた。この方法は理論的には、キャップを有する任意のタイプおよび容積のチューブ(50mL、15mL、2mL、1.5mL、ストリップPCRチューブなど)に取り入れることができる。
【0110】
以下のプロトコル段階を用いた:
1.溶解、洗浄、および溶出チューブを準備する。緩衝液がRNアーゼI阻害剤を含有する場合、チューブを氷上に保持する。
a.ReCapチューブ内に溶解チューブを設置し、試料添加後に抽出緩衝液の最終濃度が1×になるよう抽出緩衝液を適切な濃度で加える。
b.洗浄チューブに洗浄緩衝液200μLを加える
c.溶出チューブに増幅反応混合物(例えば、PCR反応またはNASBA増幅反応)を設置する。このチューブは氷上に保持するべきである。
2.溶解:
a.ReCapチューブ内で、抽出する試料と抽出緩衝液とを混合して最終濃度を1×にする。
b.1分間、チューブを反転させることによってかき混ぜる。
c.台の上でチューブを穏やかにタップすることにより、蓋に付着していると思われる液体を集める。
3.洗浄
a.ReCapの蓋を洗浄チューブに移す
b.1分間、チューブを反転させることによってかき混ぜる
c.台の上でチューブを穏やかにタップすることにより、蓋に付着していると思われる液体を集める。
4.溶出
a.ReCapの蓋を溶出チューブに移す
b.1分間、チューブを反転させることによってかき混ぜる。
c.台の上でチューブを穏やかにタップすることにより、蓋に付着していると思われる液体を集める。
d.ReCapの蓋を取り外して通常の蓋にする。相当量の熱を必要とする反応によりReCapで使用する接着剤が溶ける可能性があることから、このことは重要である。
5.増幅
a.PCR:標準的PCRプロトコルで反応を実施する。例えば、表3に挙げるNEB Q5ポリメラーゼプロトコルを用いてReCapをアッセイした。
b.等温反応:表4に挙げるNASBA反応を用いてReCapをアッセイした。
【0111】
【表3】
PCR増幅プロトコル。
【0112】
【表4】
等温NASBAプロトコル
【0113】
NASBA反応を62℃で2分間実施し、この時点で酵素混合物を加え、反応を41℃で1時間実施した。
【0114】
ReCap抽出および増幅
10~1010コピーのmRFP1プラスミドDNA鋳型を抽出緩衝液に添加し、紙に結合させ、洗浄し、50μLのPCR反応中に溶出させた。PCR+対照では、10~1010コピーのDNA鋳型をQ5ポリメラーゼPCR反応に直接加えた。PCR産物5μLを1%アガロースゲル上で泳動した。図13に示すように、ReCap法では、PCRの感度限界(DNA 10コピー)まで核酸を捕捉することができる。
【0115】
図13に示すものと同じ反応にSYBR Green I色素を加え、標準的なプレートリーダーを用い、0~1010コピーのmRFP1でエンドポイントの蛍光を測定した。結果を図14に示す。SYBR Green IはdsDNAに対する蛍光挿入色素であるため、相対蛍光単位(RFU)を用いて異なる増幅反応のdsDNA産生量を比較できる。
【0116】
磁気ビーズ抽出および増幅
ReCap抽出に代わる方法として、磁気ビーズによる抽出方法を用い、ReCap紙抽出法の緩衝液(表2に挙げたもの)とともにGenesig Easy DNA/RNA Extractionキットの磁気ビーズ(Tube 3)で実験を実施した。以下のプロトコル段階を用いた:
1.溶解
a.試料および抽出緩衝液を最終濃度1×まで加える。キットに提供されているTube 3(磁気ビーズを含む溶液)を等体積だけ加える。
b.チューブを振盪し、15分間待つ
c.磁化し、液体を全部除去する
2.洗浄
a.洗浄緩衝液200μLを加える。
b.チューブを振盪し、30秒間待つ
c.磁化し、液体を全部除去する。
3.溶出
a.適切な体積の水または増幅混合物中で溶出させる。
【0117】
ReCapで実施した実験と同様に、10~1010コピーのmRFP1プラスミドを抽出緩衝液50μLに加え、磁気ビーズに結合させ、洗浄し、Q5ポリメラーゼPCR緩衝液中に溶出させた。反応産物を1%アガロースゲル上で泳動した。図15に示すように、磁気ビーズを用いて良好な抽出がPCR検出範囲(10~1010)内でみられた。
【0118】
等温増幅および無細胞反応
合成回路を用いて検出する前に核酸を増幅するのに用いる増幅方法は、等温性またはほぼ等温性のもの(すなわち、NASBA)であるのが好ましい。ReCap紙抽出をNASBAとともに用いることを検討するため、Zikaセンサー(参照により本明細書に組み込まれるPardeeら、2016を参照されたい)を用いて実験を実施した。
【0119】
1010コピーのZikaウイルストリガー3RNAを抽出緩衝液50μL中に添加し、紙に結合させ、洗浄し、NASBA反応25μL中に溶出させた。次いで、Zika RNAトリガーが認識したときだけLacZ酵素を産生するZika足がかり配列センサーを含有する無細胞反応1.8μLにNASBA反応を1:7の比で加えた。次いで、産生されたLacZ酵素が基質(CPRG)を切断してクロロフェノール赤が生じ、これを570nMで検出できる。
【0120】
図16に示すように、ReCap抽出はNASBA増幅および無細胞足がかり配列検知と適合性がある。
【0121】
実施例8:合成生物学的回路を用いた水銀の環境検知
グルコースメーターが介在し、合成生物学的回路を用いる検知を金属などの環境分析物の検出に用いてもよい。具体的には、このセンサーおよび方法を環境の監視および改善のほかにも、貴元素または希土類元素などの有価金属の検出/探査に用い得る。
【0122】
環境中の水銀の検知に現在の用いられている方法は、水、組織、および土壌試料中に存在する水銀汚染物質のレベルを求めるために原子吸収(AA)分光測定法、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、および質量分光測定法MSなどの高価な設備に依存するものである。
【0123】
水銀を検出するという目的には、試料は、水、組織、および土壌試料を含み得る。抽出方法は試料のタイプによって決まる。例えば、土壌ベースの抽出には、遠心分離法とろ過法とを組み合わせるのが通常である(例えば、Reisら、2014を参照されたい)。組織試料から水銀を抽出するには、試料を凍結乾燥させ、マイクロ波処理を実施し得る(例えば、Hinojosa Reyesら、2009を参照されたい)。
【0124】
水から水銀を抽出するには、試料に凝集/ろ過法を実施するのが最も一般的である。
【0125】
図17に示すように、抽出した試料は、水銀の存在に応答して緑色蛍光またはトレハラーゼ酵素を生じる遺伝子回路ベースのセンサーで試験し得る。
【0126】
水銀の不在下でMerR抑制因子が結合して隔離するTn21プロモーターを用いて、水銀センサーを設計する。水銀が存在すると、抑制因子がTn21プロモーターを開放して露出させ、大腸菌(E.coli)RNAポリメラーゼ(RNAP)による下流遺伝子の転写を可能にする。Tn21-MerR遺伝子調節系とトレハラーゼ酵素を組み合わせてグルコースメーターとともに使用する前に、deGFP蛍光レポーターを用いてセンサーの設計を試験する。トレハラーゼ酵素は、水銀の存在下でトレハロースからグルコースモノマーへの分解を触媒する。産生されたグルコースのレベルは、グルコースメーターを用いグルコース試験紙で測定する。任意選択で、スマートフォンアプリによりグルコースメーターの結果の解釈およびデータの分析を支援する。
【0127】
刊行物、生物学的配列または配列識別番号、特許、および特許出願いずれも、個々の刊行物、生物学的配列、特許、または特許出願が具体的かつ個別に、その全体が参照により組み込まれると明記された場合と同様に、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0128】
(参考文献)
Hinojosa Reyes et al.Robust microwave-assisted extraction protocol for determination of total mercury and methylmercury in fish tissues.Analytica Chimica Acta Volume 631,Issue 2,12 January 2009,Pages 121-128.
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