IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ▲姫▼ ▲暁▼▲行▼の特許一覧

<>
  • 特許-生薬残渣処理方法 図1
  • 特許-生薬残渣処理方法 図2
  • 特許-生薬残渣処理方法 図3
  • 特許-生薬残渣処理方法 図4
  • 特許-生薬残渣処理方法 図5
  • 特許-生薬残渣処理方法 図6
  • 特許-生薬残渣処理方法 図7
  • 特許-生薬残渣処理方法 図8
  • 特許-生薬残渣処理方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】生薬残渣処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/54 20060101AFI20230801BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230801BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230801BHJP
   D06P 1/34 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C09B67/54 Z
C09D7/61
C09D201/00
D06P1/34
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022073924
(22)【出願日】2022-04-28
【審査請求日】2022-04-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼展示会への出展日 令和4年3月1日~令和4年3月5日 ▲2▼展示会名 JOSHIBISION2021―アタシの明日- 〔刊行物等〕 ▲1▼展示会への出展日 令和4年3月9日~令和4年3月14日 ▲2▼展示会名 2021年度女子美術大学大学院 博士前期課程修了制作作品展
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522172128
【氏名又は名称】▲姫▼ ▲暁▼▲行▼
(74)【代理人】
【識別番号】100205626
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博
(72)【発明者】
【氏名】▲姫▼ ▲暁▼▲行▼
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】赤澤 高之
【審判官】阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109972427(CN,A)
【文献】特開平06-116879(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103130480(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103880369(CN,A)
【文献】特開2012-172289(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103669058(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102659283(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102093757(CN,A)
【文献】地域特性を生かした総合学習教材(染色)の検討,へき地教育研究,2004年,59巻,日本,第95-100頁
【文献】染料残液の再利用を目指して作成した色材の染色色材としての効果,一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集,2005,57巻,2005年12月08日,セッションID 1P-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B1/00-69/10
D06P1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来の生薬の抽出残渣である生薬残渣を水によって煮沸した後に煮沸液から固体成分を取り除いて染液を回収する染液回収工程と、
回収した前記染液、及び銅、鉄、チタンの中から1種類選ばれる金属を含む媒染剤を用いて繊維を染色し、前記繊維を取り出したのちの残液を色素液として回収する色素液回収工程と、
回収した前記色素液にミョウバン及び消石灰をさらに添加して顔料を分離し排水を得る顔料分離工程と、
を備える生薬残渣処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生薬残渣処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生薬とは、自然界に存在する植物の葉、茎、根等のうち薬効を有するものをいい、古くから漢方薬の原料として人々に用いられている。近年では産業の発展に伴い、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品など幅広い分野で、生薬の有効成分を配合した商品が開発され、製造販売されている。生薬は一般に、細かく刻んで温水処理を施すことにより有効成分を抽出する。しかし、有効成分を抽出した後の生薬残渣は有効に活用されず、ごみとして廃棄されていた。
【0003】
一方、環境意識や持続可能な社会への取り組みが進む中において、廃棄物を単に再利用するリサイクルをさらに一歩進め、より価値のある物に生まれ変わらせるというアップサイクルという概念が提唱されてきている。
【0004】
この点に関し、生薬残渣を紙の原料として活用する技術が提案されている(例えば、特許文献1。)。
【0005】
しかしながら、この技術によれば、活用される残渣以外の成分、特に液体成分等は、まだ有効活用されておらず、利用できる素材を生かし切れていないばかりか、廃棄されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中華人民共和国 特許申請公布第CN 106320058 A号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、生薬残渣を様々な用途にアップサイクルし、環境負荷を低減する処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、植物由来の生薬の抽出残渣である生薬残渣を水によって煮沸した後に煮沸液から固体成分を取り除いて染液を回収する染液回収工程と、回収した前記染液、及び銅、鉄、チタンの中から1種類選ばれる金属を含む媒染剤を用いて繊維を染色し、前記繊維を取り出したのちの残液を色素液として回収する色素液回収工程と、回収した前記色素液にミョウバン及び消石灰をさらに添加して顔料を分離し排水を得る顔料分離工程と、を備える生薬残渣処理方法を提供する。

【発明の効果】
【0009】
本発明は、生薬残渣を様々な用途にアップサイクルし、環境負荷を低減する処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る生薬残渣処理方法を示すフローチャートである。
図2】生薬と染液によって染色したときの繊維の色の関係を示す図である。
図3】色付き繊維の性状・特徴を示す図である。
図4】色付き繊維の性状・特徴を示す図の続きである。
図5】第2の実施形態の色付き繊維、及び顔料の例を示す図である。
図6】第2の実施形態の建材の例を示す図である。
図7】第2の実施形態の合板建材の例を示す図である。
図8】第2の実施形態の紙(和紙)の例を示す図である。
図9】第2の実施形態の顔料の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る生薬残渣処理方法を詳細に説明する。以下、温度は摂氏を表し、室温は18℃~25℃を表す。百分率は質量%を示し、体積%を示す場合にはその旨記載される。
【0012】
図1は、本実施形態に係る生薬残渣処理方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の生薬残渣処理方法は、生薬残渣を水によって煮沸した後に煮沸液から固体成分を取り除いて染液を回収する染液回収工程と、回収した染液を用いて繊維を染色して色素液を回収する色素液回収工程と、回収した色素液から顔料を分離して排水を得る顔料分離工程と、を備える。
【0013】
染液回収工程において、回収された染液は繊維の染色に用いられ、煮沸液から取り除かれた固体成分は、粒子径に応じて建材の原料又は紙の原料と混合され、それぞれ建材又は紙に再生される。以下、各工程を具体的に説明する。
【0014】
(染液回収工程)
染液回収工程(ステップ101)において、生薬残渣は水と混合されて100℃前後により沸騰煮沸され、水相に色素が回収される。水の種類は特に限定されないが、例えば、水道水、ミネラルウォーター、アルカリイオン水、RO水、精製水、海洋深層水等を用いることができる。
【0015】
水の量は生薬残渣を沸騰煮沸することができれば特に限定されない。水の量は、生薬残渣の質量の10倍~20倍程度であることが、染色をする際に扱いやすいという点において好ましい。煮沸時間は25分以上35分以下であることが鮮やかな色素を回収するという点において好ましい。
【0016】
沸騰煮沸後、煮沸した生薬残渣と水の混合物は固体成分と液体成分に固液分離され、液体成分は染液として回収される。固液分離の方法としては、固形物と染液とに分離できれば特に限定されないが、例えば、金属のメッシュ、布袋、紙フィルタなどを用いてろ過により分離することができる。
【0017】
(色素液回収工程)
色素液回収工程(ステップ102)において、染液回収工程(ステップ101)によって回収された染液は、繊維の染色に用いられることにより、色素成分の一部が色付き繊維にアップサイクルされる。
【0018】
繊維としては、特に天然繊維を用いることがアップサイクルの趣旨から望ましい。天然繊維としては、例えばウール、絹、木綿、その他の動物性繊維、植物性繊維が利用可能である。中でも、ウールと絹は色合いが美しく出るという点において好ましい。
【0019】
図2は、生薬と染液によって染色したときの繊維の色の関係を示す図である。図2に示すように、生薬の種類によって染色したときの繊維の色は決まる。従って、生薬残渣が生薬の種類ごとに生じている場合は、これらを混ぜ合わせることにより中間色を出すことも可能である。
【0020】
染色は染色液に繊維を浸漬し、繊維の種類ごとに定められる時間の間、加熱する。染色後に繊維が取り出された後に残る液体を色素液として回収する。
【0021】
(顔料回収工程)
図1に戻り、顔料回収工程(ステップ103)において、色素液から顔料が沈殿され、フィルタリングされて沈殿物が分離され、乾燥されることにより粉末の顔料が得られる。分離残液は通常無色透明となり、安全に廃棄されることができる。
【0022】
(固体成分のアップサイクル)
染液回収工程(ステップ101)において染液と分離された固体成分は、粒径によって再利用される(ステップ104)。生薬残渣の粒径が大きい場合には、ミル挽きして粒径を細かくし、整える。
【0023】
粗目紛は添加物を添加して塗料や建材にアップサイクルする(ステップ105)。細粉は紙の原料と混合して紙にアップサイクルする(ステップ106)。
【0024】
(色付き繊維へのアップサイクル)
色素液回収工程(ステップ102)において、染液に浸漬、加熱された繊維は、媒染剤によって色素が繊維に定着され、通常の織物等に使用できる色付き繊維が生成される(ステップ107)。
【0025】
(顔料へのアップサイクル)
顔料回収工程(ステップ103)において、色素液にミョウバン水溶液などの電解質が混合されることにより、色素を沈殿させ、フィルタリングして顔料として分離回収が可能である(ステップ108)。
【0026】
(生薬残渣処理方法の効果)
以上のように、本実施形態の生薬残渣処理方法は、生薬残渣を水によって煮沸した後に煮沸液から固体成分を取り除いて染液を回収する染液回収工程と、回収した前記染液を用いて繊維を染色し、前記繊維を取り出したのちの残液を色素液として回収する色素液回収工程と、回収した前記色素液から顔料を分離して排水を得る顔料分離工程と、を備える。本実施形態の生薬残渣処理方法によれば、生薬残渣は有効成分が略すべてアップサイクルされ、廃棄されるのは無色透明の廃液のみとなる。
【0027】
従って、生薬残渣処理方法は、環境にやさしいだけでなく、従来廃棄されていた生薬残渣から新たに価値の高いものを生み出すことが可能となるという効果がある。
【実施例
【0028】
<第1の実施例>
(生薬残渣)
生薬残渣として、以下の生薬の抽出後の残渣を用いた。第1残渣及び第3残渣は各生薬
の種類の残渣が同量ずつの配合となっていた。
1.第1残渣:オウレン、オウバク、サンシ、コウカ
2.第2残渣:ソボク
3.第3残渣:ゴバイシ、ケイヒ、ビンロウジ、センソウコン
4.第4残渣:タイセイヨウ
【0029】
(染液回収工程)
第1残渣~第4残渣を、水道水1000mlにそれぞれ50g~100gの割合により添加し、加熱した。
加熱時間は沸騰後20分であった。なお、沸騰時間は10分から30分の間にすれば、ほぼ同じ効果が得られる。
沸騰煮沸後、室温に静置して液が室温になるまで自然冷却した。
冷却後、それぞれ金属メッシュに通して液体成分と固体成分に分離し、液体成分を第1染色液~第4染色液とした。
【0030】
(色素液回収工程)
第1染色液~第4染色液をそれぞれ500mlずつに取り分け、各染色液につき8個のサンプルを、合計32個用意した。
そして、繊維として染色前のウールと絹をそれぞれ10gのサンプルを16個ずつ、合計32個用意した。
【0031】
(先媒染)
第1染色液のサンプルのうち、1つのサンプル(10g)に、予めウール用の洗濯洗剤によって洗濯したウールのサンプルを、ミョウバン(藤井薬品株式会社製、食品添加物グレード)1gをよく溶かした後に添加し、40℃~60℃に維持して20分間加熱した。
その後、ウールを取り出し、染色残液を回収して第1染色液W先媒染とした。
この操作を第2染色液~第4染色液にも適用して、第2染色液W先媒染~第4染色液W先媒染を得た。
また、第1染色液のサンプルのうち、1つのサンプル(10g)に、予め精錬した絹のサンプルを、ミョウバン(藤井薬品株式会社製、食品添加物グレード)1gをよく溶かした後に添加し、70℃~80℃に維持して20分間加熱した。
その後、絹を取り出し、染色残液を回収して第1染色液S先媒染とした。
なお、絹の精錬は以下のように行った。
絹の糸の重さに対して、炭酸ソーダ(NaCO)3重量%、マルセル石鹸7重量%、練りモノゲン(登録商標。第一工業製薬株式会社製。)3重量%を、絹の糸の重さの40倍の重量の90℃前後の水道水に溶解し、これに絹のサンプルを投入してよく練った。
その後、さらにトリポリリン酸ソーダを上記の溶液1000mlに対し1gの割合により溶解し、よく混ぜて約10分自然冷却しながら静置した。
その後、絹のサンプルを取り出して水道水によってよく洗い、精錬した絹のサンプルとした。
この操作を第2染色液~第4染色液にも適用して、第2染色液S先媒染~第4染色液S先媒染を得た。
【0032】
(後媒染)
第1染色液のサンプルのうち、3つのサンプルに、それぞれ媒染剤を添加して染着させた。添加した媒染剤は、以下である。
・銅:銅媒染液(硫酸銅水溶液。株式会社誠和社製、銅媒染液)0.5g
・鉄:鉄媒染液(硫酸第一鉄水溶液。株式会社誠和社製、鉄媒染液)0.2g
・チタン:チタン媒染液(株式会社田中直染料店社製、浸染用チタン液)4g
媒染剤を添加後よく溶かし、それぞれに予めウール用の洗濯洗剤によって洗濯、乾燥したウールのサンプルを添加し、40℃~60℃に維持して20分間加熱した。
その後、ウールを取り出し、染色残液を回収してそれぞれ第1染色液W後媒染銅、第1染色液W後媒染鉄、及び第1染色液W後媒染チタンとした。
また、媒染剤を添加後よく溶かし、それぞれに絹のサンプルを添加し、70℃~80℃に維持して20分間加熱した。
その後、絹を取り出し、染色残液を回収してそれぞれ第1染色液S後媒染銅、第1染色液S後媒染鉄、及び第1染色液S後媒染チタンとした。
この操作を第2染色液~第4染色液にも適用して、第2染色液S後媒染銅~第4染色液S後媒染チタンを得た。
【0033】
(色付き繊維)
回収したウール及び絹は、薬品類を洗い流して乾燥し、色付き繊維を得た。
【0034】
(顔料回収工程)
上述の各染色液(第1染色液W先媒染~第4染色液W先媒染、第1染色液S先媒染~第4染色液S先媒染、第1染色液W後媒染銅、第1染色液W後媒染鉄、第1染色液W後媒染チタン、及び第1染色液S後媒染銅~第4染色液S後媒染チタンの合計32種類。)について、それぞれ以下の工程を施した。
・染色液を沸騰させる。
・100gの熱水(80℃)に上記のミョウバンを10g溶かしたものを添加し、撹拌後加熱を止めて5分間自然冷却、静置する。
・1重量%の消石灰水溶液(株式会社田中直染料店社製、消石灰を水道水に溶かしたもの。)を100g加え、撹拌後静置し、沈殿させる。
・上記の液体を紙フィルタ(ろ紙)によってろ過し、沈殿物を回収し、乾燥させて合計32種類の色の顔料を得る。
・ろ液は透明となり、排水とする。
【0035】
(固体成分のアップサイクル)
染液回収工程によって得られる乾燥後の固体成分は、粒径が5mm~10mmであった。これをミル挽きして、粗目紛(粒径:0.5mm~2mm)と、細粉(粒径:0.01mm~0.5mm)を第1残渣~第4残渣について得た。
【0036】
(塗料・建材)
混合物全量に対して、粗目紛10質量%~25質量%、漆喰(畑中産業株式会社製、大和しっくい)90質量%~75質量%となるように混合し、さらに混合物の質量と同量の水を加えて攪拌し、塗料を得る。
塗料を厚さ5mmに伸ばし、1~2日間乾燥させて漆喰建材を得る。
また、下地としてニス(和信ペイント株式会社製、水性ニス)を0.5mm伸ばし、上記の塗料をその上に厚さ5mm伸ばすと、表面に光沢が出て見た目がさらに美しくなる。
【0037】
(合板建材)
粗目紛100gに対し、バインダ(ニカワ(ホルベイン画材株式会社製、グルー(にかわ))15gを水10gに添加し、60℃~80℃に加熱して溶かしたもの。)、及び市販の防カビ剤適量を混合して撹拌する。
この混合物を厚さ3mmの杉板の上に厚さ5mm~10mmに伸ばし、さらにその上に厚さ3mmの杉板を載せて1~2日間、室温においてプレスし、合板建材を得る。
【0038】
(紙)
(西洋紙)
紙用パルプ(日本製紙株式会社製、クラフトパルプ)100gに細粉10gの割合により混合し、水に溶かしたのちに漉いて乾燥させ、西洋紙を得る。
(和紙)
楮(株式会社アーテック社製、紙原料 こうぞ)、三椏(株式会社アーテック社製、紙原料 みつまた)の混合物100gに細粉10gの割合により混合し、水に溶かしたのちに漉いて乾燥させ、和紙を得る。
なお、色付き繊維を製造する工程において生じた色付き繊維の糸くずを上記の混合物に加えると、さらに美しい風合いの和紙を得ることができる。
(再生紙)
牛乳パック再生パルプ(牛乳パック再生パルプ (白色ドライタイプ)、販売元:アマゾンジャパン合同会社)を10質量%、紙用パルプ(日本製紙株式会社製、クラフトパルプ)を90質量%の混合物100gに細粉10gの割合により混合し、水に溶かしたのちに漉いて乾燥させ、再生紙を得る。
【0039】
(生成物の性状・特徴)
本実施形態の生薬残渣処理方法において生成される色付き繊維、塗料、建材、合板建材、紙、及び顔料は、いずれも落ち着いていて、温もりが伝わるような独特の風合いを呈する。この特徴は、素材である生薬残渣と上述の処理方法によって特徴的に生じるものであり、上記生成物の構造又は特性により直接特定することが不可能、かつ、およそ実際的でない。なぜなら、生薬残渣の風合いに影響する物質を特定することは極めて困難であり、さらに上記の処理方法による物質的な構造の変化が風合いにどのように影響を及ぼしているかを特定することはおよそ実際的ではないからである。
【0040】
比較例として、残渣ではなく、使用前の生薬を用いて、染液回収工程において煮沸せずに染液を生成し、後工程を上記の実施形態と同様にして繊維、塗料、建材、合板建材、紙、及び顔料の生成を試みたが、色が薄かったり、リラックスを妨げるような香りがしたりしたため、上述のような独特の風合いは出せなかった。
【0041】
(色付き繊維)
図3は、色付き繊維の性状・特徴を示す図である。図4は、色付き繊維の性状・特徴を示す図の続きである。
図3及び図4に示すように、色付き繊維は生薬、繊維、及び媒染剤により色合い乃至風合いが微妙に異なる。
繊維がウールの色付き繊維は、いずれも穏やかであり、柔らかな風合いを呈する。また、繊維が絹の色付き繊維は、いずれも穏やかであり、柔らかな風合い、かつ、光沢があり、高級感がある風合いを呈する。
【0042】
(塗料・建材)
本実施形態の生薬残渣処理方法において生成される塗料、建材は、シンクハウス症候群の原因となるホルムアルデヒド等の有機溶剤が揮発せず、環境にも健康にも優しいものである。
加えて、上記の塗料、建材は生薬の香りが微かに香り、ヒトに対してリラックス効果を与える。香りの種類も生薬によって異なり、好みに合わせて選択することもできる。
上記塗料の乾燥物や、上記建材は、いずれも落ち着いていて、温もりが伝わるような独特の風合いを呈する。
【0043】
(合板建材)
本実施形態の生薬残渣処理方法において生成される合板建材は、シンクハウス症候群の原因となるホルムアルデヒド等の有機溶剤が揮発せず、環境にも健康にも優しいものである。
また、同じ厚さの杉板に比べ、割れにくく、剛性において優れている。また、断面の見た目が美しく、美観の点において用途が広い。特に断面は、落ち着いていて、温もりが伝わるような独特の風合いを呈する。
加えて、上記の合板建材は生薬の香りが微かに香り、ヒトに対してリラックス効果を与える。香りの種類も生薬によって異なり、好みに合わせて選択することもできる。
【0044】
(紙)
本実施形態の生薬残渣処理方法において生成される紙は、色合いが柔らかく、模様も変化に富んでいて美しい。通常のコピー用紙と比べて破れにくく、強度において優れている。
【0045】
(顔料)
本実施形態の生薬残渣処理方法において生成される顔料は、紙に描いたときに出る色が、柔らかく、独特の風合いの中間色であり、この中間色を三原色からのみ再現することは困難である。
【0046】
<第2の実施例>
第1の実施例においては、第1残渣及び第3残渣は複数の生薬の残渣が混合されたものであった。これに対し本実施例においては、生薬の種類ごとに本実施形態の生薬残渣処理方法を施した。
【0047】
具体的には、10種類の生薬の残渣それぞれをとりわけ、第1残渣~第10残渣とした。その後、第1残渣~第10残渣のそれぞれについて、本実施形態の生薬残渣処理方法を実施した。この結果、生薬10種類×繊維2種類×媒染方法・媒染剤4種類=80種類の色付き繊維、80種類の顔料、80種類の塗料・建材、80種類の合板建材、240種類の紙を得た。
【0048】
図5は、上記のうち80種類の色付き繊維及び、代表的な色の8種類の顔料を示す図である。図5に示すように、各色付き繊維及び顔料は、生薬の残渣から得られたとは思えないほど、高級感があり、独特の風合いを呈する。
【0049】
図6は、本実施形態の建材の例を示す図である。図7は、本実施形態の合板建材の例を示す図である。図8は、本実施形態の紙(和紙)の例を示す図である。図9は、本実施形態の顔料の例を示す図である。
【0050】
図6から図9に示すように、本実施形態の建材、合板建材、紙、及び顔料は、いずれも生薬の残渣から得られたとは思えないほど、高級感があり、独特の風合いを呈する。
【0051】
なお、この写真のカラー版は出願人のホームページにて本願出願後に公開される。
【0052】
また、80種類の顔料のうち残りの顔料、80種類の塗料・建材、80種類の合板建材、240種類の紙も、高級感があり、独特の風合いを呈する。
【0053】
<第3の実施例>
上記の各実施例においては、銅媒染液に硫酸銅水溶液、鉄媒染液に硫酸第一鉄水溶液を用いた。しかし、これらの媒染液は環境に悪影響を及ぼす場合がある。
【0054】
そこで、出願人は以下の媒染液を開発した。
・第2の銅媒染液
米酢(米酢、株式会社 Mizkan Holdings社製)1000mlに、廃棄された電線から回収した銅線500gを1cm程度に細かく裁断し、よく洗浄した後に1週間室温にて浸漬し、酢酸銅を含有する第2の銅媒染液を得た。
・第2の鉄媒染液
米酢(米酢、株式会社 Mizkan Holdings社製)1000mlに、廃棄された鉄くぎから錆を取り、よく洗浄した後に1週間室温にて浸漬し、酢酸鉄を含有する第2の鉄媒染液を得た。
第2の銅媒染液及び第2の鉄媒染液は混合して用いることもできる。つまり、米酢と、酢酸銅及び酢酸鉄から1種類以上選ばれる酢酸化合物と、を含む媒染液を調製し、用いることもできる。
【0055】
上記の第2の銅媒染液及び第2の鉄媒染液を用いて、本実施形態の生薬残渣処理方法を実施し、生薬10種類×繊維2種類×媒染方法・媒染剤2種類=40種類の色付き繊維、40種類の顔料、40種類の塗料・建材、40種類の合板建材、120種類の紙を得た。
【0056】
得られた色付き繊維、顔料、塗料・建材、合板建材、及び紙はいずれも第1の実施例において使用した銅媒染液、鉄媒染液によるものと引けを取らないほどの美しく、独特の風合いを呈するものであった。
【0057】
なお、本実施例においては、米酢に変えて氷酢酸又は酢酸水溶液を用いることも可能である。
【要約】
【課題】生薬残渣を様々な用途にアップサイクルし、環境負荷を低減する処理方法を提供する。
【解決手段】
生薬残渣処理方法は、生薬残渣を水によって煮沸した後に煮沸液から固体成分を取り除いて染液を回収する染液回収工程と、回収した前記染液を用いて繊維を染色し、前記繊維を取り出したのちの残液を色素液として回収する色素液回収工程と、回収した前記色素液から顔料を分離して排水を得る顔料分離工程と、を備える。色付き繊維、塗料、建材、合板建材、紙、及び顔料などがアップサイクルされて生成される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9