(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】アミノキシ酸系抗がん幹細胞化合物およびその方法
(51)【国際特許分類】
C07C 239/20 20060101AFI20230801BHJP
C07D 209/18 20060101ALI20230801BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20230801BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20230801BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230801BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230801BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230801BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230801BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C07C239/20 CSP
C07D209/18
A61K31/167
A61K31/405
A61K45/00
A61P35/00
A61P15/00
A61P1/16
A61P43/00 105
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2022530744
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(86)【国際出願番号】 CN2020130792
(87)【国際公開番号】W WO2021104199
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-22
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521132417
【氏名又は名称】西湖大学
【氏名又は名称原語表記】WESTLAKE UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】楊 丹
(72)【発明者】
【氏名】沈 方方
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-521962(JP,A)
【文献】国際公開第2006/104751(WO,A2)
【文献】特表2010-513332(JP,A)
【文献】国際公開第2019/213570(WO,A1)
【文献】Shen, Fang-Fang et al.,Mediating K+/H+ Transport on Organelle Membranes to Selectively Eradicate Cancer Stem Cells with a Small Molecule,Journal of the American Chemical Society ,2020年,142(24),pp.10769-10779
【文献】Yang, Dan et al.,Novel Turns and Helices in Peptides of Chiral α-Aminoxy Acids,Journal of the American Chemical Society,1999年,121(3),pp.589-590
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
【化1】
からなる群より選択される細胞死誘導化合物。
【請求項2】
がん治療用薬物として使用される、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
上記がん
は、卵巣がんおよび肝臓がん
からなる群から選択される、
請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
がん幹細胞
阻害剤として使用される、
請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
上記がん幹細胞
は、卵巣がん幹細胞および肝臓がん幹細胞
からなる群から選択される、
請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
ミトコンドリア機能に影響を与えること
またはリソソームpHを乱すことにより誘導されるがんまたは他の疾患の治療
のための薬物として使用される、
請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
上記ミトコンドリア機能は、ミトコンドリア膜電位の脱分極、ミトコンドリアの形態変化、スーパーオキシド産生、および呼吸の減衰のうち少なくとも1つから選択される、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
少なくとも、
請求項1に記載
の化合物、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、または水和物、および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含
む医薬組成物。
【請求項9】
【化2】
から選択される化合物、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、または水和物、および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含
む医薬組成物。
【請求項10】
さらに、別の抗がん剤を含む、
請求項8または9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示された発明は、概して、合成小分子およびそのがん治療用薬物としての使用の分野にある。
【背景技術】
【0002】
腫瘍は不均一性である。バルク腫瘍は多様な細胞の集まりであり、代謝、抗原発現、および遺伝子発現等の特徴がそれぞれ異なるため、治療に対する感受性レベルに差がある(非特許文献1)。がん幹細胞(CSC)は、自己複製能および腫瘍始原能を示す、腫瘍内の少数の細胞ポピュレーションである(非特許文献2)。該細胞は、従来の化学療法や放射線療法に抵抗性を示すため、腫瘍転移や再発を引き起こす(非特許文献3)。CSCを選択的に排除することで、現在行われている抗がん治療の治療効果を大きく向上できると期待される(非特許文献4)。
【0003】
最初のCSC阻害剤であるサリノマイシンは、乳房CSCに対して16000種の化合物をハイスループットスクリーニングして同定された(非特許文献5)。追跡研究により、サリノマイシンが様々な種類のがん細胞に有効であることが報告された。サリノマイシンがマイトファジーを誘導する能力、細胞ATP濃度を激減させる能力、Wnt/β-カテニンシグナル経路を阻害する能力は、サリノマイシンのCSCに対する毒性と関連付けられている。しかしながら、近年、卵巣がん細胞のサイドポピュレーションは、ABC薬物トランスポーターシステムをより高度に発現することでサリノマイシンの毒性を回避し得ることが開示されたため、サリノマイシンの抗がん剤としての可能性が制限されるおそれがある(非特許文献6)。サリノマイシン以外にも、チゲサイクリン、ドキシサイクリン、ニクロサミド、アルテスネート等の分子も、他の独立したスクリーニングでCSC阻害剤として同定された(非特許文献7)。これらはいずれも、ミトコンドリア呼吸を阻害し得る。
【0004】
CSCの代謝は非CSCとは異なることが報告された。ワールブルク効果により、分化した腫瘍細胞は主に解糖に依存するが、CSCは、高度に解糖性であるか、またはOXPHOS依存性であり得る。いずれの場合も、ミトコンドリアはCSC機能において重要な役割を果たす(非特許文献8)。ミトコンドリア質量の増加、ミトコンドリア膜電位の過分極、および抗酸化剤濃度の上昇が、CSCの幹細胞性と関連することが報告されている(非特許文献9)。このような発見により、ミトコンドリア標的化合物がCSCに対して有効であり得る理由が示された。
【0005】
上述した化合物の中には、前臨床研究が行われているものや、臨床試験に入ったことが報告されているものもあるが、現在に至るまで、さらなる有望な結果は報告されていない。したがって、CSCを標的とする新たな分子の発見および開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Meacham et al.,Nature 501:328-337(2013)
【文献】Reya et al.,Nature 414:105-111(2001)
【文献】Baumann et al.,Nat.Rev.Cancer 8:545-554(2008)
【文献】Dingli et al.,Stem Cells 24:2603-2610(2006)
【文献】Gupta et al.,Cell 138:645-659(2009)
【文献】Boesch et al.Oncologist 21:1291-1293(2016)
【文献】Francesco et al.,Biochemical Journal 475:1611-1634(2018)
【文献】Sancho et al.,Cancer 114:1305-1312(2016)
【文献】Kim et al.,Semin.Cancer Biol.47:154-167(2017)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
がんを標的とするための化合物、組成物、および方法が開示される。また、がん幹細胞を排除することによりがんを標的とするための化合物、組成物、および方法が開示される。また、がん幹細胞を標的とするための化合物、組成物、および方法が開示される。また、ミトコンドリアを介してがん幹細胞および他の疾患を標的とするための化合物、組成物、および方法が開示される。また、ミトコンドリア膜電位、ミトコンドリア活性酸素種産生、細胞呼吸、アポトーシス、およびオートファジーの調節を介してがん幹細胞を標的とするための化合物、組成物、および方法が開示される。上記化合物は、がん幹細胞およびがん細胞の死を誘導できる合成小分子である。特定の実施形態において、上記化合物は、卵巣がん幹細胞等の1種以上のがん幹細胞に対して選択的である。
【0008】
式I:
【化1】
(式中、Aは、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のポリアリール、置換もしくは非置換のポリヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換のヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のポリアラルキル、置換もしくは非置換のポリヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキル、または置換もしくは非置換のC
3-C
20ヘテロシクリルであり;Bは、それぞれ独立して、下記構造:
【化2】
(式中、X、X’、およびX’’は、独立して、O、存在しない、S、NR
2、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルキレン、または置換もしくは非置換のC
3-C
20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール(alkaryl)、置換もしくは非置換のアラルキルであり;Y、Y’、およびY’’は、独立して、置換もしくは非置換のアルキル、存在しない、O、S、NR
3、置換もしくは非置換のアルキレン、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のポリアリール、置換もしくは非置換のポリヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換のヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のポリアラルキル、置換もしくは非置換のポリヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20ヘテロシクリル、または置換もしくは非置換のアミノアルキルであり;Zは、O、S、またはNR
4である)を有し;L
1およびL
2は、独立して、-OC(O)-、-C(O)-、-S(O)
2-、-O-、存在しない、-C(O)O-、-S(O)-、-C(O)NH-、-C(O)NR
iv-、-NR
ivC(O)-、-C(O)OCH
2-、-SO
2NR
iv-、-CH
2R
iv-、-NR
ivH-、-NR
iv-、-OCONH-、-NHCOO-、-OCONR
iv-、-NR
ivCOO-、-NHCONH-、-NR
ivCONH-、-NHCONR
iv-、-NR
ivCONR
iv-、-CHOH-、-CR
ivOH-、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルキレン、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキルアミノ、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のアリールアルキル、置換もしくは非置換のカルボキシアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のアシル、または置換もしくは非置換のアミノカルボニルであり;R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R、R’、R’’、R’’’、およびR
ivは、独立して、水素、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のアラルキル、または置換もしくは非置換のアシルであり;Cは、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のポリアリール、置換もしくは非置換のポリヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換のヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のポリアラルキル、置換もしくは非置換のポリヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキニル、非置換もしくは置換C
3-C
20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のカルボキシアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のアシル、または置換もしくは非置換のアミノカルボニル、またはHであり;nは、1~5の整数である)を有する、細胞死を誘導可能な化合物が本明細書で提供される。
【0009】
特定の実施形態において、Aは、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のポリアリール、置換もしくは非置換のポリヘテロアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、置換もしくは非置換のヘテロアラルキル、置換もしくは非置換のポリアラルキル、置換もしくは非置換のポリヘテロアラルキル、または置換もしくは非置換のアルキルであり;L1は、-OC(O)-、-C(O)-、または-S(O)2-である。
【0010】
特定の実施形態において、Aは、それぞれ式:(R7-)a(アリール)、(R7-)a(アラルキル)、または(R7-)a(アルキル)を有する置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアラルキル、または置換もしくは非置換のアルキルであり、R7は、それぞれ独立して、F3C-、F-、Cl-、O2N-、NC-、MeO-、HO-、HC(O)-、(R8)2N-であり、R8は、それぞれ独立して、H、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC3-C20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のアラルキル、または置換もしくは非置換のアシルであり、aは、0、1、2、または3である。
【0011】
特定の実施形態において、Aは電子吸引性基を含む。
【0012】
特定の実施形態において、上記電子吸引性基は、CF3、NO2、F、Cl、Br、I、CN、CHO、または置換もしくは非置換のカルボニル、スルホニル、トリフルオロアセチル、もしくはトリフルオロメチルスルホニルである。
【0013】
特定の実施形態において、Aは、非置換もしくは置換C1-18アルキル、置換もしくは非置換のアリール、または置換もしくは非置換のアラルキルであり、上記置換C1-18アルキル、置換アリール、または置換アラルキルは、酸素含有、窒素含有、または硫黄含有部位を含む。
【0014】
特定の実施形態において、L1およびL2は、Bに隣接する原子のうち少なくとも1つが酸素、窒素、または硫黄となるように選択される。
【0015】
特定の実施形態において、Xは、置換もしくは非置換のヘテロシクリルであり、上記ヘテロシクリルは、酸素含有、窒素含有、もしくは硫黄含有部位または電子吸引性基で置換されていてもよい。
【0016】
特定の実施形態において、上記電子吸引性基は、CF3、NO2、F、Cl、Br、I、CN、またはCHOである。
【0017】
特定の実施形態において、Y、Y’、またはY’’は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のC1-10アルキル、置換もしくは非置換のアラルキルであり、上記置換アルキルまたは置換アラルキルは、酸素含有、窒素含有、もしくは硫黄含有部位または電子吸引性基を含む。
【0018】
特定の実施形態において、上記電子吸引性基は、CF3、NO2、F、Cl、Br、I、CN、またはCHOである。
【0019】
特定の実施形態において、L2は、NR10、O、S、または存在せず、R10は、H、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC3-C20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のアリールアルキル、置換もしくは非置換のカルボキシアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のアシル、または置換もしくは非置換のアミノカルボニルであり、Cは、H、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC3-C20ヘテロシクリル、アミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のC3-C20アラルキル、置換もしくは非置換のカルボキシアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20アルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のC3-C20アシル、または置換もしくは非置換のC3-C20アミノカルボニルである。
【0020】
特定の実施形態において、Cは、式:-(アリール)(-R11)bを有する置換もしくは非置換のアリール、-R11、または-O-R11であり、R11は、それぞれ独立して、-CF3、-F、C-Cl、-NO2、-CN、-O-Me、-OH、-NR12であり、R12は、それぞれ独立して、H、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルケニル、置換もしくは非置換のC3-C20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC3-C20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のアリールアルキル、置換もしくは非置換のカルボキシアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のアシル、または置換もしくは非置換のアミノカルボニルであり、bは、0、1、2、または3である。
【0021】
特定の実施形態において、Bは、
【化3】
(式中、XはOまたは存在せず、Yは-CR
13R
14-であり、R
13は、-CH
2-C
6H
5、-CH
2-O-C
6H
5、-C
1-4アルキル、または-O-C
1-4アルキルであり、R
14はHであり、ZはOである)であり;nは1であり;Aは式:(R
7-)
a(フェニル)-を有し、L
1は-C(O)-であり、aは2であり、R
7はそれぞれF
3C-であり;Cは、-CH
2-C
6H
5、-CH
2-O-C
6H
5、-C
1-4アルキル、または-O-C
1-4アルキルであり;L
2は、NH、O、またはSである。
【0022】
特定の実施形態において、Bは、
【化4】
(式中、XはOまたは存在せず、Yは-CR
13R
14-であり、R
13は、-CH
2-C
6H
5、-CH
2-O-C
6H
5、-C
1-4アルキル、-O-C
1-4アルキル、-CH
2-(フェニル)(-R
15)
c、-CH
2-O-(フェニル)(-R
15)
c、-C
1-4アルキル-R
15、または-O-C
1-4アルキル-R
15であり、R
14はHであり、R
15は、それぞれ独立して、-CF
3、-F、C-Cl、-NO
2、-CN、-O-Me、-OH、-NHであり、cは1または2であり、ZはOである)であり;nは1であり;Aは、(R
7-)
a(フェニル)-CO-、C
6H
5-CH
2-、C
6H
5-O-CH
2-、C
1-4アルキル-、またはC
1-4アルキル-O-であり、aは2であり、R
7は、それぞれ独立して、F
3C-、F-、Cl-、O
2N-、NC-、MeO-、HO-、HN-であり;L
1は-C(O)-または存在せず;Cは、-CH
2-C
6H
5、-CH
2-O-C
6H
5、-C
1-4アルキル、-O-C
1-4アルキル、-CH
2-(フェニル)(-R
16)
d、-CH
2-O-(フェニル)(-R
16)
d、-C
1-4アルキル-R
16、または-O-C
1-4アルキル-R
16であり、R
16は、それぞれ独立して、-CF
3、-F、C-Cl、-NO
2、-CN、-O-Me、-OH、-NHであり、dは1または2であり;L
2は、NH、O、またはSである。
【0023】
下記構造:
【化5】
(式中、R
1’~R
5’は、それぞれ独立して、H、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のアルコキシアルキル、置換もしくは非置換のヘテロアルキル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキル、置換もしくは非置換のシクロアルケニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20シクロアルキニル、置換もしくは非置換のC
3-C
20ヘテロシクリル、置換もしくは非置換のアミノアルキル、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のアルカリール、置換もしくは非置換のアリールアルキル、置換もしくは非置換のカルボキシアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル、置換もしくは非置換のアシル、または置換もしくは非置換のアミノカルボニルである)を有する化合物が本明細書で提供される。
【0024】
【化6】
からなる群より選択される細胞死誘導化合物が本明細書で提供される。
【0025】
特定の実施形態において、上記化合物は薬物として使用される。
【0026】
特定の実施形態において、上記化合物は、卵巣、肺、皮膚、筋肉、脳、肝臓、心臓、血液、腎臓、または脾臓細胞を含むがこれらに限定されないがんの治療に使用される。
【0027】
特定の実施形態において、上記化合物は、がん幹細胞の阻害によるがんの治療に使用される。
【0028】
一実施形態において、上記がんは卵巣がんである。
【0029】
一実施形態において、上記がんは肝臓がんである。
【0030】
特定の実施形態において、上記化合物は、がん幹細胞を阻害するための方法として使用される。
【0031】
特定の実施形態において、上記化合物は、ミトコンドリア機能に影響を与えることにより誘導されるがんまたは他の疾患の治療に使用される。特定の実施形態において、上記影響を受けるミトコンドリア機能は、ミトコンドリア膜電位の脱分極、スーパーオキシド産生、および呼吸の減衰である。
【0032】
少なくとも、式(I、II、III、IV)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、または水和物、および少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物が本明細書で提供される。一実施形態において、上記医薬組成物はがんの治療に使用される。一実施形態に置いて、上記がんは卵巣がんである。別の実施形態において、上記がんは肝臓がんである。
【0033】
特定の実施形態において、上記医薬組成物は、別の抗がん剤と組み合わせて使用される。
【0034】
医薬として同時に、別々に、または時間差で使用される組み合わせ製品として、本明細書に記載の化合物および別の化学療法化合物を含む医薬製品が本明細書で提供される。一実施形態において、上記医薬製品は、がんの治療に使用される。一実施形態において、上記がんは卵巣がんである。別の実施形態において、上記がんは肝臓がんである。
【0035】
本明細書に開示された化合物を投与する工程を含むがんまたは増殖性疾患を治療する方法が本明細書で提供される。
【0036】
対象においてがん幹細胞を阻害する方法であって、それを必要とする上記対象に、本明細書に開示された化合物を治療有効量で投与する工程を含む方法が本明細書で提供される。上記がん幹細胞は、卵巣、肺、皮膚、筋肉、脳、肝臓、心臓、血液、腎臓、または脾臓がん幹細胞を含むがこれらに限定されない。
【0037】
対象においてがん幹細胞を阻害する方法であって、それを必要とする上記対象に、本明細書に開示された化合物を治療有効量で投与する工程を含む方法が本明細書で提供される。特定の実施形態において、上記がん幹細胞は卵巣細胞ではない。
【0038】
がん幹細胞を阻害することでがんを治療する方法であって、上記がん幹細胞は、(i)ミトコンドリア膜の脱分極の誘導、(ii)活性酸素種の産生、(iii)ミトコンドリア呼吸の減衰により阻害される、方法が本明細書で提供される。
【0039】
特定の実施形態において、上記化合物は、がん細胞および正常細胞よりもがん幹細胞の細胞死を最大60倍の選択性で誘導する。
【0040】
特定の実施形態において、上記がん幹細胞(CSC)はオートファジー抑制およびアポトーシスを受ける。特定の実施形態において、上記化合物は、(i)CSCのポピュレーションを減少させるか、(ii)CSCのスフェア形成能を低下させるか、または(iii)CSCの生体内腫瘍播種能を低下させる。
【0041】
本明細書に開示された医薬組成物を含むキットが本明細書で提供される。
【0042】
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された図面を少なくとも1枚含む。カラー図面が付いた本特許または特許出願の刊行物の写しは、請求および必要な手数料の支払い時に特許庁によって提供される。
【0043】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付図面は、開示された方法および組成物のいくつかの実施形態を例示し、明細書の記載とともに、開示された方法および組成物の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】実施例の項で説明する合成化合物の化学構造を示す図である。
【
図2】浮遊培養で卵巣がんHEY A8細胞が形成したスフェロイドでは、CD133抗原表現型を有する細胞のポピュレーションが多くなることを示す棒グラフである。
【
図3】濃度5μMの実施例1~14のHEY A8 CSCに対する細胞毒性を示す棒グラフである。
【
図4】各種濃度の化合物sff-2-112、sff-2-124、sff-2-132、およびsff-2-100(「実施例1、3、4、および14」)の卵巣がん細胞Hey A8、SKOV3、および対応するCSCに対する比較毒性を示す線グラフである。細胞生存率は、表示した濃度(μM)の分子と48時間インキュベートした後に測定した。
【
図5】化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)が接着細胞においてCD133抗原表現型を有する細胞のポピュレーションを減少させることができることを示す棒グラフである。
【
図6】化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)で処理した細胞のスフェア形成能が著しく低下したことを示す棒グラフである。
【
図7】細胞を化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)により生体外で処理した後、それらのマウスでの腫瘍形成能が著しく低下したことを示す線グラフである。
【
図8】化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)の添加後、直ちにミトコンドリア膜電位が脱分極したことを示す線グラフである。ミトコンドリア膜電位は、経時(秒)のJC-1赤/緑比率によりモニターした。
【
図9】化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)がHey A8細胞でスーパーオキシド産生を誘導したことを示す線グラフである。スーパーオキシドは、HKSOX-2の相体蛍光強度の経時(秒)変化をモニターすることで測定した。
【
図10】化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)が濃度依存的にがん細胞呼吸を減衰させたことを示す線グラフである。酸素消費率(OCR)は、seahorseXF24アナライザーで測定した。
【
図11】化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)ががん幹細胞のアポトーシス細胞死を選択的に誘導したことを示す画像である。a)細胞をアネキシンVおよびPIで染色した。b)アポトーシス関連タンパク質PARP、カスパーゼ3、カスパーゼ9、および内部マーカーとしてのチューブリンのイムノブロット。
【
図12】オートファジー関連タンパク質P62およびLC3のイムノブロットpageである。GAPDHを内部マーカーとして用いた。これらの結果から、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)が、がん幹細胞のオートファジーを選択的に抑制したことがわかる。
【
図13】各種濃度の化合物sff-2-112(「実施例1」)およびsff-2-124(「実施例3」)のCD133低発現および高発現の肝臓がん細胞Huh7に対する比較毒性を示す線グラフである。細胞生存率は、表示した濃度(μM)の分子と48時間インキュベートした後に測定した。
【発明を実施するための形態】
【0045】
がん幹細胞(CSC)は、腫瘍成長および腫瘍形成に関与する腫瘍内のサブポピュレーションである。該細胞は現在行われているがん治療の多くに抵抗性を示す。がんを治療するための方法が本明細書において提供される。CSCの阻害によりがんを治療するための方法が本明細書で提供される。薬剤耐性卵巣CSCを選択的に除去する方法が本明細書で提供される。がん細胞またはがん幹細胞の死を誘導することで肝臓がんを治療する方法が本明細書で提供される。卵巣がん細胞、卵巣CSC、肝臓がん細胞、および肝臓CSCの死を誘導するアミノキシ酸単位を有する化合物が本明細書で提供される。α-アミノキシ酸は、アミンおよびαカーボン単位に追加の酸素が挿入されたアミノ酸類似体である。該酸は生体安定性が極めて高い。入手が容易で構造的モジュール性が高いため、薬物スクリーニングおよび創薬のためのライブラリの構築に可能性をもたらす。
【0046】
がん細胞およびCSCの死を誘導できる化合物が本明細書で提供される。提供される化合物は、腫瘍形成を阻害できる。上記化合物は、1~10、10~20、20~30、30~40、40~50、50~60、60~70、70~80、80~90、90~100倍を超える選択性でがん細胞よりもCSCの死を選択的に誘導できる。特定の実施形態において、上記化合物は、がん細胞およびCSCのアポトーシス細胞死を誘導できる。特定の実施形態において、上記化合物は、がん細胞およびCSCのオートファジー抑制を誘導できる。特定の実施形態において、上記化合物は、ミトコンドリア膜電位の脱分極、活性酸素種の産生、ミトコンドリア呼吸の減衰を含むがこれらに限定されない細胞のミトコンドリア機能に影響を与えることで、細胞死を誘導する。特定の実施形態において、上記化合物は、リソソームpHを乱し得る。特定の実施形態において、上記化合物は、α-アミノキシ酸スキャフォールドを含む合成小分子である。
【0047】
本発明者らは、卵巣がん幹細胞に対してアミノキシ酸ライブラリをスクリーニングした。アミノキシ酸モノマーおよびジペプチドを含む14種の化合物が、卵巣HEY A8 CSCに対して毒性を示すものとして同定された。
【0048】
さらに、化合物sff-2-112、sff-2-124、sff-2-132、およびsff-2-100の卵巣がんHEY A8細胞、SKOV3細胞、およびこれらに対応するCSC、ならびに正常細胞に対するIC50値を評価した。これら4種の分子は、卵巣がん細胞および正常細胞よりも卵巣CSCの死を最大60倍の選択性で誘導できることがわかった。化合物sff-2-112およびsff-2-132を選択してさらなる研究を行った。これらの分子は、HEY A8細胞のCD133+細胞ポピュレーション、スフェア形成能および生体内腫瘍播種能を低減できることが明らかとなった。本発明はまた、化合物sff-2-112またはsff-2-132が、ミトコンドリア膜電位の脱分極、スーパーオキシドの産生、および呼吸の減衰を誘導することにより、細胞のミトコンドリア機能に影響を与え得ることも示した。処理後、がん細胞はオートファジー抑制およびアポトーシスを受けた。
【0049】
また、化合物sff-2-112およびsff-2-124の肝臓がんHuh7細胞に対するIC50値を評価した。肝臓CSC用マーカーとしてCD133を用いた。これら2種の化合物は、肝臓がん細胞(CD133-)およびCSC(CD133+)をいずれも殺滅できることがわかる。
【0050】
<1.アミノキシ酸ライブラリからの化合物は卵巣CSCの死を選択的に誘導できる>
アミノキシ酸は標準的なペプチドカップリングの手順で合成した。その構造を
図1に示す。CSCは、浮遊条件下でスフェロイド培養することで得る。これらのスフェアは実際に、卵巣CSCを表し得ると報告されているCD133抗原表現型を有する細胞のポピュレーショが著しく多いことが確認されている(
図2)。化合物で48時間処理した後、CELLTITER-GLO(登録商標)発光試薬でCSCの細胞生存率を測定した。化合物sff-3-85(「実施例2」)は用量10μMで用い、その他の化合物は全て濃度5μMで用いた。実験はいずれも3回実施され、データは平均値±SDで提示する。
【0051】
アミノキシ酸モノマーおよびジペプチドを含む14種の化合物が、HEY A8 CSCに対して毒性を示すものとして同定された。さらに、化合物sff-2-112、sff-2-124、sff-2-132、およびsff-2-100の接着がんHEY A8、SKOV3細胞、およびCSCに対する50%阻害濃度(IC
50)値を求めた。
図4に示す通り、これら3種の化合物はいずれも、接着がん細胞よりもCSCに対して優れた選択性を示すことが明らかとなった。とりわけ化合物sff-2-132は、CSCに対する選択性が、がん細胞に対する選択性に比べて最大60倍高い。また、他の正常細胞株NIH3T3、HEK293、およびMDCKに対するこれらの化合物の毒性を試験し、IC
50値を表1にまとめた。これらのデータから、化合物sff-2-112、sff-2-124、sff-2-132、およびsff-2-100は、卵巣がん細胞および正常細胞よりも卵巣CSCの死を選択的に誘導できることがはっきりと示唆された。
【0052】
【0053】
<2.化合物sff-2-112およびsff-2-132は、細胞のCD133
+ポピュレーションおよび腫瘍形成能を低減できる>
CD133は卵巣CSCマーカーであることが報告されている。細胞を合成分子で処理した後、CD133
+細胞のポピュレーションを測定した。HEY A8細胞をタキソール(100nM)、濃度15μMの化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)で処理した。0.1%DMSOを含有する培地をネガティブコントロールとして用いた。
図5の結果から、sff-2-112(「実施例1」)および化合物sff-2-132(「実施例4」)は、DMSO処理群と比較して、CD133
+細胞のポピュレーションを著しく減少させたことが明らかとなった。
【0054】
浮遊培養におけるスフェア形成能は、がん細胞株中のCSCの数と相関する。
図6の結果から、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)が、DMSO処理群と比較して、卵巣がん細胞のスフェア形成能を著しく低下させたことがわかる。さらに、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)で処理した後の細胞の生体内腫瘍播種能を評価した。タキソールをネガティブコントロールとして用いた。sff-2-112(「実施例1」)または化合物sff-2-132(「実施例4」)の前処理によって、タキソール前処理群および未処理群と比較して、腫瘍の大きさが著しく減少したことが確認できる(
図7)。これらの知見から、卵巣がんスフェア内のCSCは、タキソールに抵抗性があるが、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)の処理には感受性があることがわかる。
【0055】
<3.合成分子は、細胞のミトコンドリア機能に影響し、細胞アポトーシスを誘導し、かつ細胞オートファジーを阻害できる>
化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)のミトコンドリア膜電位に対する効果をHey A8細胞およびCSCにおいて検討した(
図8)。
図8aに示すデータから、sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は、ミトコンドリア膜電位を用量依存的に脱分極できることがわかった。動態研究により、これら2種の分子が添加時に30秒以内にミトコンドリア膜電位を脱分極したことがわかった(
図8b)。
【0056】
また、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)のROS産生誘導能をHEY A8細胞で評価した(
図9)。ROS産生はスーパーオキシド蛍光プローブHKSOX-2mでモニターした。蛍光強度が増大したことから、スーパーオキシドの産生が示された(n=50~100細胞)。
【0057】
その後、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は細胞呼吸に影響し得ることもわかった。XF24細胞外フラックスアナライザー(Seahorse、Bioscience)を用いて細胞の酸素消費率(OCR)を測定した。sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)を添加した後、OCRが直ちに上昇した。しかし、その後、続くFCCP、アンチマイシンA、およびロテノンの添加に対する細胞呼吸応答は著しく低下した(
図10)。これらの結果から、呼吸鎖が両化合物から影響を受けることがわかった。このような効果は、合成分子の添加量が多いほど顕著であった。
【0058】
加えて、本発明は、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132の上述した効果により、HEY A8がん細胞およびCSCがいずれもアポトーシスを起こしたことを明らかにした。
図11aに示す通り、CSCのDMSO処理単独では、4.92%のアネキシンV陽性細胞が産生された。化合物sff-2-112(「実施例1」)により5μMで処理すると、21.0%のアネキシンV陽性細胞が産生された。実施例5により5μMで処理すると、30.4%のアネキシンV陽性細胞が産生された。がん細胞の場合、DMSO処理単独では1.73%のアネキシンV陽性細胞が産生された。実施例1により30μMで処理すると、8.21%のアネキシンV陽性細胞が産生された。化合物sff-2-132(「実施例4」)により5μMで処理すると、30.4%のアネキシンV陽性細胞が産生された。がん細胞の場合、DMSO処理単独では1.73%のアネキシンV陽性細胞が産生された。実施例4により30μMで処理すると、1.30%のアネキシンV陽性細胞が産生された。CSCに対する化合物の濃度は、がん細胞に対する濃度の6分の1であったにもかかわらず、CSCのアポトーシス細胞ポピュレーションは、がん細胞の場合よりはるかに多かった。
【0059】
CSCにおいてはまた、化合物の濃度ががん細胞の場合の濃度の10分の1であっても、タンパク質PARP1、カスパーゼ3、およびカスパーゼ9の活性化が観察された(
図11b)。これらの結果から、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)が卵巣CSCに対して高い選択性を有することがさらに明らかとなった。
【0060】
最後に、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)で処理した細胞においてオートファジーが阻害されたことが明らかとなった。CSCにおいては、化合物の濃度ががん細胞の場合の濃度の10分の1であっても、このような効果はより顕著であった。
【実施例】
【0061】
実施例1.化合物の合成
下記の一般手順に従って、化合物sff-3-85、sff-3-100、sff-3-101(「実施例2、9、および10」)を合成した(スキームI)。
【化7】
スキーム1.化合物sff-3-85、sff-3-100、およびsff-3-101(「実施例2、9、および10」)の合成
【0062】
Yang et al.,J.Org.,Chem.,2001,66,7303-7312に記載された手順に従って出発材料S1を調製した。化合物S1(1mmol、1当量)のMeOH/CHCl3(1:1、10ml)溶液にNH2NH2・H2O(1.6mmol、1.6当量)を添加した。室温で2.5時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をCH2Cl2に溶解させ、5%NaHCO3および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して遊離アミンの粗生成物を得て、さらに精製することなくそのまま次工程で用いた。この遊離アミンをCH2Cl2(5ml)に溶解させた溶液に飽和NaHCO3溶液(5mL)を添加した。その後、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド(1.2mmol、1.2当量)を滴下した。1時間撹拌した後、反応混合物をCH2Cl2で希釈した。水層をCH2Cl2で3回抽出した。まとめた有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して化合物S2を得て、そのまま次工程で用いた。H2雰囲気で化合物S2のCH2Cl2(5mL)溶液に10%(w/w)Pb/Cを添加した。室温で2時間撹拌した後、反応混合物をセライト(登録商標)で濾過した。濾液を真空で濃縮して化合物S3を得て、そのままペプチドカップリングに用いた。遊離酸S3のCH2Cl2(5mL)溶液にEDCI(1.5mmol、1.5当量)、HOAt(1.3mmol、1.3当量)、およびアニリン(1.1mmol、1.1当量)を順に添加した。反応物を室温で一晩撹拌した後、CH2Cl2で希釈し、5%NaHCO3、0.5N HCl、および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、真空で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、化合物sff-3-85、sff-3-100、およびsff-3-101(「実施例2、9、および10」)を得た。
【0063】
【化8】
化合物sff-3-85:
1H NMR(400MHz,CDCl
3)δ10.73(s,1H),10.17(s,1H),8.26(s,2H),8.00(s,1H),7.61(s,1H),7.59(s,1H)7.29-7.25(m,2H),7.13(t,J=7.37Hz,1H),4.62-4.60(m,1H),1.60(d,J=6.99Hz,3H);
13C NMR(125MHz,CDCl
3)δ170.6,165.7,137.7,133.2,133.0(q,
2J
C,F=33.8Hz),129.6,128.2,126.5,125.5,123.2(q,
1J
C,F=272.3Hz),120.8,84.7,18.0;
19F(376MHz,CDCl
3)δ-63.0
【0064】
【化9】
化合物sff-3-100:
1H NMR(500MHz,CDCl
3)δ10.50(s,1H),10.11(s,1H),8.24(s,2H),8.05(s,1H),7.68-7.67(m,2H),7.35-7.32(t,J=7.9Hz,2H),7.14-7.11(m,1H),4.64-4.63(m,1H),4.08-4.07(m,1H),3.89-3.86(m,1H),1.27(s,9H);
13C NMR(126MHz,CDCl
3)δ167.38,165.37,138.75,134.33,133.79(q,
2J
C,F=34.7Hz),130.37,128.83,127.38,126.03,124.05(q,
2J
C,F=273.7Hz),121.27,88.31,76.32,63.81,28.80;
19F(470MHz,CDCl
3)δ-63.0;C
22H
23F
6N
2O
4(M+H
+)に対するHRMS(ESI):計算値493.1478,実測値493.0971
【0065】
【化10】
1H NMR(500MHz,CDCl
3+CD
3OD)δ8.33(s,2H),8.08(s,1H),7.57-7.56(m,2H),7.32-7.26(m,4H),7.11(t,J=7.3Hz,1H),6.94(s,1H),6.92(s,1H),4.72-4.80(m,1H),3.34-3.33(m,1H),3.23-3.18(m,1H),1.29(s,9H);
13C NMR(126MHz,CDCl
3+CD
3OD)δ168.35,163.74,153.06,136.36,132.52,131.21(q,
2J
C,F=37.4Hz),130.48,129.26,127.84,126.98,124.64,123.77,123.21,122.07(q,
2J
C,F=272.7Hz),119.30,86.58,77.80,36.42,27.35;
19F(470MHz,CDCl
3)δ-59.9;C
28H
27F
6N
2O
4(M+H
+)に対するHRMS(ESI):計算値569.1791,実測値569.1880
【0066】
スキーム2に記載した手順に従って化合物sff-2-124(「実施例3」)を合成した。
【化11】
スキーム2.化合物sff-2-124(「実施例3」)の合成
【0067】
Yang et al.,J.Org.,Chem.,2001,66,7303-7312に記載された手順に従って出発材料S4を調製した。化合物3-S8(153.3mg、0.46mmol)のCH2Cl2(2.5mL)溶液に同量のCF3COOH(2.5mL)を注射器を用いて室温で添加した。室温で3時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をトルエンで2回共沸させて遊離酸化合物S5を白色固体として得て、さらに精製することなくそのまま次工程で用いた。
【0068】
化合物S5のCH2Cl2(4mL)溶液にEDCI(132.3mg、0.69mmol)、HOAt(81.7mg、0.6mmol)、およびアニリン(46.6mg、0.5mmol)を順に添加した。反応物を室温で一晩撹拌した後、CH2Cl2で希釈し、5%NaHCO3、0.5N HCl、および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、真空で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、化合物S6(240.7mg、99%収率)を白色固体として得た。1H NMR(500MHz,CDCl3)δ9.47(s,1H),7.85-7.84(m,2H),7.78-7.75(m,4H),7.37-7.34(m,2H),7.13(t,J=7.4Hz,1H),4.91(dd,J=9.5Hz,3.6Hz,1H),2.23-2.16(m,1H),1.99-1.85(m,2H),1.16(d,J=6.6Hz,3H),1.05(d,J=6.6Hz,3H);13C NMR(125MHz,CDCl3)δ168.9,164.4,137.7,135.2,129.1,128.8,124.6,124.1,120.0,87.2,42.0,25.0,23.4,21.9;C20H21N2O4(M+H+)に対するHRMS(ESI):計算値353.1496,実測値353.1492
【0069】
化合物S6(140.9mg、0.40mmol)のMeOH/CHCl3(1:1、5mL)溶液にNH2NH2・H2O(40.1mg、0.80mmol)を添加した。室温で2.5時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をCH2Cl2に溶解させ、5%NaHCO3および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して化合物S7の粗生成物を得て、さらに精製することなくそのまま次工程で用いた。
【0070】
化合物S7をCH2Cl2(2.5mL)に溶解させた溶液に飽和NaHCO3溶液(2.5mL)を添加した。その後、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド(110.6mg、0.40mmol)を滴下した。一晩撹拌した後、反応混合物をCH2Cl2で希釈した。水層をCH2Cl2で3回抽出した。まとめた有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。粗油をフラッシュカラムクロマトグラフィで精製して、化合物sff-2-124(86.9mg、47%収率)を白色固体として得た。1H NMR(400MHz,CD3CN)δ10.51(s,1H),9.88(s,1H),8.31(s,2H),8.19(s,1H),7.68(d,J=8.0Hz,2H),7.36-7.32(m,2H),7.13-7.09(m,1H),4.51(dd,J=9.6,3.8Hz,1H),1.90-2.02(m,1H),1.83-1.70(m,2H),1.06(d,J=6.6Hz,3H),1.01(d,J=6.6Hz,3H);13C NMR(150MHz,CD3OD)δ172.2,164.8,139.1,135.2,133.1(q,2JC,F=22.5Hz),139.9,129.0,127.1,125.7,124.4(q,1JC,F=270.0Hz),121.3,86.6,42.0,25.9,23.6,22.3;19F(376MHz,CD3CN)δ-63.0;C21H20F6N2O3Na(M+Na+)に対するHRMS(ESI):計算値485.1276,実測値485.1283
【0071】
【化12】
スキーム3.化合物sff-2-132(「実施例4」)の合成
【0072】
化合物S8(794.8mg、2.0mmol)のMeOH(20mL)溶液にNH2NH2・H2O(400.5mg、8.0mmol)を添加した。室温で2.5時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をCH2Cl2に溶解させ、5%NaHCO3および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して化合物S9の粗生成物を得て、さらに精製することなくそのまま次工程で用いた。
【0073】
化合物S9をCH2Cl2(10mL)に溶解させた溶液に、飽和NaHCO3溶液(10mL)を添加した。その後、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド(553.1mg、2.0mmol)を滴下した。一晩撹拌した後、反応混合物をCH2Cl2で希釈した。水層をCH2Cl2で3回抽出した。まとめた有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。粗油をフラッシュカラムクロマトグラフィで精製して、化合物sff-2-132(862.6mg、85%収率)を無色油として得た。1H NMR(500MHz,CD3CN)δ10.17(s,1H),8.24(s,2H),8.16(s,1H),7.36-7.29(m,5H),4.63(t,J=3.3Hz,1H),4.57(q,J=11.8Hz,2H),3.93-3.87(m,2H),1.46(s,9H);13C NMR(125MHz,CDCl3)δ169.0,163.4,137.4,133.8,132.2(q,2JC,F=34.0Hz),128.5,128.0,127.9,127.6,125.3,123.0(q,1JC,F=271.3Hz),83.4,77.4,73.7,69.2,28.1;19F(376MHz,CDCl3)δ-63.0;C23H23F6NO5Na(M+Na+)に対するHRMS(ESI):計算値530.1378,実測値530.1395
【0074】
【化13】
スキーム4.化合物sff-3-86(「実施例5」)の合成
【0075】
化合物sff-2-132(152.2mg、0.30mmol)のCH2Cl2(1.5mL)溶液に同量のCF3COOH(1.5mL)を注射器を用いて室温で添加した。室温で3時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をトルエンで2回共沸させて遊離酸化合物S10を白色固体として得て、そのままアミドカップリングに用いた。
【0076】
化合物S10(71.9mg、0.16mmol)の乾燥THF(1.5mL)溶液にトリエチルアミン(19mg、0.19mmol)を添加し、次いでEtCOOCl(17.4mg、0.16mmol)を-20℃のアルゴン雰囲気下で添加した。20分間撹拌した後、乾燥THF(0.5ml)に溶解させた4-フルオロアニリン(20.0mg、0.18mmol)を添加した。反応物を室温で一晩撹拌した。その後、水10mlを添加し、混合物をCH2Cl2で3回抽出した。まとめた有機層を5%NaHCO3および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して粗油を得て、フラッシュカラムにより精製することで化合物sff-3-86(52.3mg、62%)を白色固体として得た。1H NMR(400MHz,CDCl3)δ10.42(br,1H),10.35(br,1H),8.15(s,2H),8.01(s,1H),7.60(s,2H),7.27-7.23(m,5H),6.99(t,J=8.6Hz,2H),4.68-4.66(m,1H),4.57(ABq,JAB=15.1Hz,2H),4.10(dd,J=11.1,2.4Hz,1H),3.93(dd,J=11.1,7.9Hz,1H);13C(125MHz,CDCl3)δ166.7,165.5,160.2(d,1JC,F=237.8Hz),137.6,133.9,133.1,133.0(q,2JC,F=34.15Hz),129.2,128.9,128.5,128.2,126.7,125.5(q,1JC,F=272.2Hz),122.3(d,3JC,F=7.2Hz),116.2(d,2JC,F=21.8Hz),87.8,74.6,70.5;19F(376MHz,CDCl3)δ-62.9;C25H20F7N2O4(M+H+)に対するHRMS(ESI):計算値544.1228,実測値545.1265
【0077】
【化14】
スキーム5.化合物sff-3-87(「実施例6」)の合成
【0078】
化合物S10(51.2mg、0.11mmol)のCH2Cl2(1.5mL)溶液にEDCI(28.9mg、0.15mmol)、DMAP(4.2mg、0.03mmol)、およびイソブチルアルコール(25.3mg、0.34mmol)を順に添加した。反応物を室温で一晩撹拌した後、CH2Cl2で希釈し、5%NaHCO3、0.5N HCl、および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、真空で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して化合物sff-3-87(47.4mg、82%収率)を白色固体として得た。1H NMR(400MHz,CDCl3)δ10.28(br,1H),8.21(s,2H),7.96(s,1H),7.29-7.25(m,5H),4.87(br,1H),4.59-4.49(m,2H),4.05-3.93(m,4H),1.97-1.89(m,1H),0.92(s,3H),0.90(s,3H);13C NMR(126MHz,CDCl3)δ169.92,137.16,132.04(q,2JC,F=33.8Hz),128.41,127.90,127.75,127.50,127.23,124.98,122.89(q,1JC,F=272.9Hz),82.66,73.64,71.80,68.86,27.65,18.89;19F(376MHz,CDCl3)δ-62.9;C23H24F6NO5(M+H+)に対するHRMS(ESI):計算値509.1553,実測値509.1587
【0079】
【化15】
スキーム6.化合物sff-3-91(「実施例7」)の合成
【0080】
化合物S8(300mg、0.76mmol)のMeOH(20mL)溶液にNH2NH2・H2O(150.2mg、3.0mmol)を添加した。室温で2.5時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をCH2Cl2に溶解させ、5%NaHCO3および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して化合物S9の粗生成物を得て、さらに精製することなくそのまま次工程で用いた。
【0081】
化合物S9(93.6mg、0.35mmol)をCH2Cl2(2.5mL)に溶解させた溶液に飽和NaHCO3溶液(2.5mL)を添加した。次いで、4-トリフルオロメチルベンゾイルクロリド(80.9mg、0.39mmol)を滴下した。1時間撹拌した後、反応混合物をCH2Cl2で希釈した。水層をCH2Cl2で3回抽出した。まとめた有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮した。粗油をフラッシュカラムクロマトグラフィで精製して化合物S11(95.0mg、61%収率)を白色固体として得た。
【0082】
化合物S11(70.0mg、0.16mmol)のCH2Cl2(2mL)溶液にEDCI(45.8mg、0.24mmol)、HOAt(28.3mg、0.21mmol)、およびアニリン(18.6mg、0.18mmol)を順に添加した。反応物を室温で一晩撹拌した後、CH2Cl2で希釈し、5%NaHCO3、0.5N HCl、および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、真空で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、化合物sff-3-91(63.8mg、87%収率)を白色固体として得た。1H NMR(300MHz,CDCl3)δ10.47(s,1H),9.96(s,1H),7.79-7.63(m,6H),7.35-7.26(d,J=7.6Hz,7H),7.12(t,J=7.4Hz,1H),4.70-4.57(m,3H),4.17(dd,J=11.1,2.4Hz,1H),3.97(dd,J=11.4,9.2Hz,1H);13C NMR(126MHz,CDCl3)δ166.47,165.92,137.58,137.24,134.35(q,2JC,F=32.8Hz),133.72,128.98,128.69,128.28,128.08,127.72,125.85,124.61,123.42(q,1JC,F=274.2Hz),119.92,86.95,73.94,70.14;19F(376MHz,CDCl3)δ-63.1;C24H22F3N2O4(M+H+)に対するHRMS(ESI):計算値459.1448,実測値459.1502
【0083】
【化16】
スキーム7.化合物sff-3-98-2およびAmy-1-4(「実施例8および11」)の合成
【0084】
Yang et al.,J.Org.,Chem.,2001,66,7303-7312に記載された手順に従って出発材料S13を調製した。化合物S13(1mmol、1当量)のMeOH/CHCl3(1:1、10ml)溶液にNH2NH2・H2O(1.6mmol、1.6当量)を添加した。室温で2.5時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をCH2Cl2に溶解させ、5%NaHCO3および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して遊離アミンS14の粗生成物を得て、さらに精製することなくそのまま次工程で用いた。遊離アミンS14をCH2Cl2(5ml)に溶解させた溶液に飽和NaHCO3溶液(5mL)を添加した。その後、3,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド(1.2mmol、1.2当量)を滴下した。1時間撹拌した後、反応混合物をCH2Cl2で希釈した。水層をCH2Cl2で3回抽出した。まとめた有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、濃縮して粗油を得て、シリカゲルカラムクロマトグラフィで精製することで化合物S15を得た。
【0085】
化合物S15のCH2Cl2溶液に同量のCF3COOHを注射器を用いて室温で添加した。室温で3時間撹拌した後、反応混合物を真空で濃縮した。残渣をトルエンで2回共沸して遊離酸化合物S16を得て、そのままアミドカップリングに用いた。遊離酸S16のCH2Cl2溶液にEDCI(1.5mmol、1.5当量)、HOAt(1.3mmol、1.3当量)、およびアニリン(1.1mmol、1.1当量)を順に添加した。反応物を室温で一晩撹拌した後、CH2Cl2で希釈し、5%NaHCO3、0.5N HCl、および食塩水で洗浄した。有機層を無水Na2SO4で乾燥させ、真空で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィで精製して、化合物sff-3-98-2およびAmy-1-4(「実施例8および11」)を得た。
【0086】
【化17】
化合物sff-3-98-2:
1H NMR(400MHz,CDCl
3)δ10.42(s,1H),10.29(s,1H),8.16(s,2H),8.03(s,1H),7.70-7.69(m,2H),7.36-7.26(m,7H),7.13(t,J=7.4Hz,1H),4.75-4.54(m,3H),4.38-4.37(m,1H),1.34(d,J=6.5Hz,3H);
13C NMR(126MHz,CDCl
3)δ166.64,165.27,138.54,138.03,133.49,133.08(q,
2J=34.8Hz),129.60,129.27,128.82,128.47,128.14,126.70,125.27,123.17(q,
1J=263.5Hz),120.44,89.59,76.55,72.17,14.49.
19F(376MHz,CDCl
3)δ-62.9;C
26H
23F
6N
2O
4(M+H
+)に対するHRMS(ESI):計算値541.1478,実測値541.1465
【0087】
【化18】
化合物Amy-1-4:
13C NMR(126MHz,CD
3OD)δ170.64,165.13,138.12,134.27,132.40(q,
2J=33.9Hz,1C),129.06,128.23,125.78,124.85,123.62(q,
1J=269.14Hz),120.51,90.17,38.31,26.30,13.47,11.35
【0088】
【0089】
H.-y.Zha,Design,synthesis and characterization of synthetic ion transporters(PhD、香港大学、香港、2012)に記載の手順に従って化合物Amy-1-8の出発材料を調製した。スキーム7に記載の手順と同様の手順で、化合物Amy-1-8を白色固体として得た。1H NMR(400MHz,DMSO)δ12.61(s,1H),10.89(s,1H),10.25(s,1H),8.39(s,2H),8.34(s,1H),7.63-7.58(m,3H),7.33-7.27(m,4H),7.08-6.97(m,3H),4.89-4.87(m,1H),3.31-3.28(m,2H);13C NMR(126MHz,DMSO)δ169.03,162.90,138.79,136.48,134.59,131.01(q,2JC,F=33.3Hz),129.16,128.64,127.87,125.86,124.38,124.20,123.44(q,1JC,F=273.1Hz),121.40,119.99,118.86,118.83,111.79,109.13,86.12,27.47;19F(376MHz,CDCl3)δ-61.4;C26H20F6N3O3(M+H+)に対するHRMS(ESI):計算値535.1325,実測値536.1357
【0090】
【0091】
F.-F.Shen,Design and synthesis of α-aminoxy acid-based cation transporters and their applications as anti-cancer and antibacterial agents(PhD、香港大学、香港、2018)に記載の手順で、化合物sff-2-100を白色固体として得た(73%)。1H NMR(400MHz,CDCl3)δ11.22(br,1H),10.00(s,1H),9.76(br,1H),8.08(s,2H),8.01(s,1H),7.64(s,1H),7.62(s,1H),7.30-7.26(m,12H),7.10-7.06(m,1H),4.62-4.52(m,4H),4.03(d,J=11.9Hz,1H),3.92-3.87(m,1H),3.42(d,J=13.62Hz,1H),3.11-3.05(m,1H);13C NMR(125MHz,CD3OD)δ172.0,170.4,169.0,138.9,138.8,137.5,134.8,133.0(q,2JC,F=33.2Hz),130.7,129.7,129.4,129.3,128.9,128.7,128.6,127.8,126.1,125.6,124.4(q,1JC,F=272.3Hz),121.4,88.3,84.8,74.5,69.6,38.8;19FNMR(376.5MHz,CDCl3)δ-62.9;C34H30F6N3O6(M+H+)に対するHRMS(ESI):計算値690.2033,実測値690.2003
【0092】
実施例2.sff-2-112、sff-3-85、sff-2-124、sff-2-132、sff-3-86、sff-3-87、sff-3-91、sff-3-98-2、sff-3-100、sff-3-101、Amy-1-4、Amy-1-8、sff-2-100、およびFPM-1-87(実施例1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、および14)を含む14種の化合物が卵巣HEY A8 CSCに対して毒性を示した。
【0093】
材料および方法
細胞培養
ヒト卵巣癌細胞株HEY A8およびSKOV3は、Alice Wong教授のグループ(香港大学)から寄贈された。10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地において、5%CO2を含む加湿雰囲気中、37℃で細胞を成長させた。スフェアの単離および培養は、無血清の幹細胞選択的条件で、Ip etl.Oncogene 2014,5,9133-9149に記載の通り行った。要約すると、プレーティングから1~2週間後、非接着性球状細胞クラスターが観察でき、これらを低速遠心分離により単一細胞から分離した。8~10回目の継代後、非接着性球状細胞クラスターが明瞭なスフェアとして出現した。この選択条件を用いて、HEY A8スフェア(HEY A8 SP)またはSKOV3スフェア(SKOV3 SP)を酵素的に解離し、幹細胞選択的条件下で3日以内にスフェアに再形成させることができた。分化させるために、解離したスフェア細胞を、10%FBSおよび1%PSを添加した培地(MCDB105:M199=1:1)で組織培養プレートにプレーティングした。
【0094】
毒性試験
100mmペトリ皿中の無血清MCDB105培地10mLに、HEY A8 SP細胞(5×104)をトリプリケートで7日間プレーティングしてスフェアを形成した。化合物を最終濃度5μMで添加した。さらに、細胞を37℃で48時間インキュベートした。その後、細胞を遠心分離で回収し、培地を除去した。次いで、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability試薬100μLを各管に添加して、振盪させながら10分間インキュベートした。その後、試薬を96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax 340PC 384、Molecular Devices)で細胞生存率を測定した。
【0095】
結果
アミノキシ酸系化合物の小規模ライブラリをスクリーニングした後、sff-2-112、sff-3-85、sff-2-124、sff-2-132、sff-3-86、sff-3-87、sff-3-91、sff-3-98-2、sff-3-100、sff-3-101、Amy-1-4、Amy-1-8、sff-2-100、およびFPM-1-187(実施例1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、および14)を含む14種の分子が、HEY A8 CSCの細胞生存率を著しく低下させた(
図1)。なかでも、化合物sff-2-112、sff-2-132、およびsff-2-100が最も高い毒性を示した。
【0096】
実施例3.化合物sff-2-112、sff-2-124、sff-2-132、およびsff-2-100は、がん細胞よりもHEY A8およびSKOV3 CSCの死を選択的に誘導できる。
【0097】
材料および方法
96ウェルプレート中の完全培地0.1mLに、HEY A8またはSKOV3がん細胞をトリプリケートで24時間プレーティングした。その後、培地を、様々な濃度の化合物を含む新たに調製した培地に交換した。細胞をさらに48時間インキュベートした。次いで、製造元の指示に従って、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability試薬で細胞生存率を測定した。マイクロプレートリーダー(SpectraMax 340PC 384、Molecular Devices)で550nmにおける発光を測定した。
【0098】
100mmペトリ皿中の無血清MCDB105培地10mLに、HEY A8 SP細胞またはSKOV3 SP細胞(5×104)をトリプリケートで7日間プレーティングしてスフェアを形成した。次いで、各種濃度の薬物を添加した。さらに、細胞を37℃で48時間インキュベートした。その後、細胞を遠心分離で回収し、培地を除去した。次いで、CellTiter-Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability試薬100μLを各管に添加し、振盪させながら10分間インキュベートした。その後、試薬を96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダー(SpectraMax 340PC 384、Molecular Devices)で細胞生存率を測定した。
【0099】
結果
図4に示すように、3種の化合物はいずれも、CSCよりも卵巣がん細胞に対して選択性を示した。とりわけ、化合物sff-2-132(「実施例4」)が最高の選択性を示した。化合物sff-2-132(「実施例4」)のHEY A8 CSCに対するIC
50値は1.0±0.9μMであり、Hey A8がん細胞に対しては52.9±1.9μM、SKOV3 CSCに対しては1.0±0.9μM、SKOV3がん細胞に対しては63.4±8.9μMであった。さらなる検討では、化合物sff-2-112(「実施例1」)およびsff-2-132(「実施例4」)に注目した。
【0100】
実施例4.化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)はCD133+細胞のポピュレーションを減少させることができる。
【0101】
材料および方法
HEY A8細胞を濃度2.5×104細胞/mLでDMEM培地に懸濁させた懸濁液を60mm細胞培養ディッシュに播種した。5%CO2を含む加湿雰囲気で細胞を24時間37℃でインキュベートした後、新鮮な培地、またはパクリタキセル(100nM)、sff-2-112(15μM)、もしくは化合物sff-2-132(15μM)を含む培地4mLを添加した。0.1%DMSOを含む培地をネガティブコントロールとして用いた。3日後、培地を除去し、細胞を冷PBSで2回洗浄した後、製造元の指示に従ってPE結合CD133抗体で染色した。フローサイトメトリーで蛍光を測定した。
【0102】
結果
CD133は卵巣がん細胞のがん幹細胞マーカーであることが報告されている。化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)がCSCポピュレーションに与える具体的な影響を評価するために、HEY A8細胞のCD133をPE結合CD133抗体で測定した(
図5)。最終濃度10nMのタキソールをネガティブコントロールとして用いた。化合物sff-2-112(「実施例1」)による処理後、CD133
+細胞ポピュレーションは21.8%から12.6%に減少した。化合物sff-2-132(「実施例4」)による処理後、卵巣がん細胞中のCD133
+細胞ポピュレーションは21.8%から1.9%と、約10分の1に減少した。対照的に、パクリタキセルによる処理では、CD133
+細胞ポピュレーションは21.8%から31.6%に増加した。これらの結果から、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)はHEY A8 CSCポピュレーションを選択的に減少させることができることが確認された。
【0103】
実施例5:化合物sff-2-132(「実施例4」)はスフェロイド形成を低減できる。
【0104】
材料および方法
濃度15μMもしくは30μMの化合物DMSO sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)でHey A8細胞を48時間処理した。次いで、細胞培養ディッシュ中の完全培地で細胞を3日間回復および成長させた。その後、細胞を5×104細胞/mLの密度で低接着ディッシュに5日間移して、スフェアを形成させた。各ディッシュ中のスフェア数を数えた。
【0105】
結果
浮遊培養条件でのスフェロイド形成がCSCポピュレーションと相関することは周知である。卵巣がんHEY A8細胞の浮遊培養時スフェロイド形成能に対するsff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)の効果についても評価した。化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)での処理の結果、コントロールと比較して、スフェア数が著しく減少した(
図6)。
【0106】
実施例6:sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は生体内腫瘍形成能を低減できた。
【0107】
材料および方法
化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)による処理後の細胞の生体内腫瘍播種能を評価した。タキソールをネガティブコントロールとして用いた。この実験のために、懸濁培地で2日間、HEY A8 CSCをsff-2-112(「実施例1」)、sff-2-132(「実施例4」)、またはタキソールによりそれぞれ前処理した。次いで、薬物を含まない完全培地で細胞を10日間増殖させた。その後、106個の細胞をマウスに皮下注射した。注射後25日間、腫瘍の大きさを測定した。
【0108】
結果
図7に示すように、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)による前処理の結果、タキソールまたはDMSO前処理と比較して、腫瘍播種能が著しく低下した。これらの知見から、卵巣ポピュレーション内のCSCは、パクリタキセルに対しては抵抗性があるが、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)による処理に対しては感受性があることがわかった。
【0109】
実施例7:化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)はミトコンドリア膜電位を脱分極できた。
【0110】
材料および方法
HEY A8細胞を5×104細胞/mLの濃度でDMEM培地に懸濁させた懸濁液を30mm細胞培養ガラスボトムディッシュ(MatTek)に播種した。5%CO2を含む加湿雰囲気で細胞を24時間37℃でインキュベートした。培地を吸引し、細胞をPBSバッファで2回洗浄した。次いで、2.5μM JC-1を含むHBSSバッファ1mLを添加した。細胞を37℃で20分間インキュベートしてから、バッファを吸引した。細胞をPBSバッファで2回洗浄し、カチオントランスポーターで10分間処理した。ZEISS LSM780(赤チャンネル:λex=543nm、緑チャンネル:λex=488nm)を用いた共焦点イメージングで蛍光をモニターした。ZENおよびGraph Pad Prismソフトウェアパッケージを用いて定量データを得た。
【0111】
結果
図8aに示すように、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は、用量依存的にHEY A8細胞のミトコンドリア膜電位(MMP)を効果的に脱分極できる。また、HEY A8細胞中のMMPに関してこの化合物の動態研究を行った。最終濃度10μMの化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)を180秒の時点で添加した。各画像の間隔は30秒であった。JC-1の赤/緑蛍光比率が低下していることから、MMPが脱分極したことがわかる。
図8bに示す結果から、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)を添加した際、直ちにMMPが脱分極した。
【0112】
実施例8.化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)はミトコンドリア中でスーパーオキシド産生を誘導できた。
【0113】
材料および方法
HEY A8細胞を5×104細胞/mLの濃度でDMEM培地に懸濁させた懸濁液を30mm細胞培養ガラスボトムディッシュ(MatTek)に播種した。5%CO2を含む加湿雰囲気で細胞を24時間37℃でインキュベートした。培地を吸引し、細胞をPBSバッファで2回洗浄した。次いで、4μM HKSOX-2mを含むHBSSバッファ1mLを添加した。細胞を37℃で30分間インキュベートしてから、バッファを吸引し、HBSSバッファで2回洗浄した。HBSSバッファ0.8mL中で細胞をイメージングした。共焦点顕微鏡(ZEISS LSM710、赤チャンネル:λex=543nm)で蛍光をモニターした。t=180秒において、HBSSバッファ0.2mL中の化合物を添加して、最終濃度を5μMとした。ZENおよびGraph Pad Prismソフトウェアを用いて定量データを得た。
【0114】
結果
化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)の場合、30分以内にスーパーオキシド産生が約2倍に増加したことが検出された。
【0115】
実施例9.化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は細胞呼吸に影響を与えることができた。
【0116】
材料および方法
酸素消費率(OCR)を測定するXF24細胞外フラックスアナライザー(Seahorse、Bioscience)を用いて、細胞呼吸を測定した。接着Hey A8細胞を50000細胞/ウェルでその培養培地200mLに播種し、5%CO2を含む加湿雰囲気で24時間37℃でインキュベートした。次いで、1mMピルビン酸ナトリウムおよび2mM L-グルタミンを添加した無血清の高グルコースDMEM670μL/ウェルで培地を交換した。予めプログラムされた通り、オリゴマイシン(最終濃度1μMまで)、FCCP(最終濃度500nMまで)、アンチマイシンAおよびロテノン(最終濃度0.5μMまで)を添加した際、既定の時間間隔で細胞外フラックスアナライザー(Seahorse)を用いて酸素消費率(OCR)を測定した。
【0117】
結果
化合物sff-2-112(「実施例1」)または化合物sff-2-132(「実施例4」)を添加した後、OCRは直ちに上昇した。しかし、その後、続くFCCP、アンチマイシンA、およびロテノンの添加に対する細胞呼吸応答は著しく低下した(
図10)。これらの結果から、呼吸鎖が両化合物から影響を受けることがわかった。このような効果は、合成分子の添加量が多いほど顕著であった。
【0118】
実施例10.化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は細胞アポトーシスを誘導できた。
【0119】
材料および方法
HEY A8細胞を5×104細胞/mLの濃度でDMEM培地に懸濁させた懸濁液を60mm細胞培養ディッシュに播種した。5%CO2を含む加湿雰囲気で細胞を24時間37℃でインキュベートした後、新鮮な培地、または化合物sff-2-112(「実施例1」)もしくはsff-2-132(「実施例4」)を各種濃度で含む培地4mLを添加した。0.1%DMSO含む培地をネガティブコントロールとして用いた。2日後、培地を吸引し、細胞を冷PBSで2回洗浄した後、製造元の指示に従ってPIおよびアネキシンVで染色した(Dead Cell Apoptosis Kit with Annexin V Alexa Fluor(商標)488&Propidium Iodide、Thermo Fisher)。細胞をフローサイトメトリー(BD FACS CantoIIアナライザー)で分析した。
【0120】
免疫染色実験のために、各種濃度の化合物sff-2-112(「実施例1」)または化合物sff-2-132(「実施例4」)で細胞を48時間処理し、その後、PBSバッファで2回洗浄し、0.1%ベンゾナーゼを含む2×SDSバッファで溶解させた。Nanodrop 2000を用いたPierce BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて、製造元の指示に従ってタンパク質抽出物を定量した。タンパク質ライセート(およそ50μg/レーン)をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写した。膜を膜ブロッキング液(Thermo Fisher Scientific)とともに1時間インキュベートした。次いで、穏やかに撹拌しながら、ブロッキング液中で関連一次抗体を用いてブロットを4℃で一晩プロービングした。膜を0.1%Tween20/TBSで5分間3回洗浄し、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。抗原をSuperSignal West Pico PLUS Chemiluminescent Substrate(Thermo Fisher Scientific)で検出した。ChemiDocTM XRS+システム(Bio-Rad)を使用してイメージングを行った。
【0121】
結果
図11aに示すように、CSCのDMSO処理単独では、4.92%のアネキシンV陽性細胞が産生された。化合物sff-2-112(「実施例1」)により5μMで処理すると、21.0%のアネキシンV陽性細胞が産生された。化合物sff-2-132(「実施例4」)により5μMで処理すると、30.4%のアネキシンV陽性細胞が産生された。がん細胞の場合、DMSO処理単独では、1.73%のアネキシンV陽性細胞が産生された。化合物sff-2-112(「実施例1」)により30μMで処理すると、8.21%のアネキシンV陽性細胞が産生された。
【0122】
化合物sff-2-132(「実施例4」)により30μMで処理すると、1.30%のアネキシンV陽性細胞が産生された。CSCに対する化合物の濃度は、がん細胞に対する濃度の6分の1であったにもかかわらず、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)で処理したCSCのアポトーシス細胞ポピュレーションは、がん細胞の場合よりもはるかに多かった。
【0123】
CSCにおいてはまた、化合物の濃度ががん細胞の場合の濃度の10分の1であっても、タンパク質PARP1、カスパーゼ3、およびカスパーゼ9の活性化が観察された(
図11b)。これらの結果から、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)が卵巣CSCに対して高い選択性を有することがさらに明らかとなった。
【0124】
実施例11.化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は細胞オートファジーを抑制できた。
【0125】
材料および方法
HEY A8がん細胞およびCSCを化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)で24時間処理した。その後、細胞をPBSバッファで2回洗浄し、溶解させて免疫染色を行った。免疫染色方法は実施例10に記載した方法と同じであった。
【0126】
結果
CSC中のLC3-IIおよびp62のレベルがいずれも上昇していることから、オートファジーが抑制されたことがわかった。CSCにおいては、化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)の濃度ががん細胞の場合の濃度の10分の1であっても、このような効果はより顕著であった。
【0127】
実施例12.化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-132(「実施例4」)は肝臓がんHuh7細胞およびCSCの死を誘導できた。
【0128】
材料および方法
Huh-7細胞を、製造元の指示に従ってPE結合CD133抗体(HCCがん幹細胞マーカー)で染色した。その後、フローサイトメトリーでCD133+細胞(Huh7がん幹細胞)およびCD133-細胞を分別し、新鮮なDMEM培地を含む96ウェルプレートに播種した。24時間後、培地を、各種用量の化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-124(「実施例3」)を含む新鮮な培地に変更した。48時間後、細胞生存率をCellTiter-Glo発光試薬で分析した。
【0129】
結果
化合物sff-2-112(「実施例1」)またはsff-2-124(「実施例3」)は、CD133-およびCD133+細胞の両方の死を誘導できる。化合物sff-2-124の場合、huh7がん幹細胞(CD133+ポピュレーション)に対する毒性がCD133-細胞に対する毒性よりも高かった。
【0130】
上述した特定の実施形態の説明は、本開示の一般的性質を十分に明らかにすることで、他者が、関連する技術分野の当業者が備える知識(本明細書に引用され、参照により組み込まれる文献の内容を含む)を適用して、過度の実験を行うことなく、本開示の一般概念から逸脱せずに、かかる特定の実施形態を種々の用途に容易に修正および/または適合させることができるようにするものである。したがって、このような適合および修正は、本明細書に示された教示および指導に基づいて、開示された実施形態の意味および均等物の範囲内にあると意図される。本明細書中の用語または語句は、説明を目的とするものあって限定を目的とするものではなく、本明細書の用語または語句は、本明細書に示された教示および指導に照らして、関連する技術分野の当業者の知識と組み合わせて、当業者によって解釈されるべきであることを理解すべきである。
【0131】
以上、本開示の様々な実施形態について説明したが、これらは例として示されたものであり、限定するものではないことを理解すべきである。本開示の思想および範囲から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更がなされ得ることは、関連する技術分野の当業者には明らかであろう。したがって、本開示は、上述した例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、下記特許請求の範囲およびその均等物に従ってのみ定義されるべきである。