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特許7323259高ヒペリシン含有ヒペリシン-PVP複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】高ヒペリシン含有ヒペリシン-PVP複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/122 20060101AFI20230801BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20230801BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
A61K31/122
A61K47/58
A61P35/00
A61P43/00 121
A61P31/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021502850
(86)(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2019068775
(87)【国際公開番号】W WO2020011960
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】18183435.9
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521019129
【氏名又は名称】ハイペリカム ライフサイエンス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】クビーン、アンドレアス
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0055935(US,A1)
【文献】特開2013-035819(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0127349(US,A1)
【文献】Pharmazie,2008年,Vol,63,pp.263-269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61P 35/00
A61P 43/00
A61P 31/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体全体に対するヒペリシン又はヒペリシン塩の平均重量割合が6重量%を超え40重量%以下であることを特徴とする、ヒペリシン又はヒペリシン塩と、ポリビニルピロリドン(PVP)とから形成された複合体。
【請求項2】
前記複合体中のPVPに対するヒペリシンの平均モル比が2.5を超えることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記PVPが10~40kDの平均モル質量を有することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
複合体全体に対するヒペリシン又はヒペリシン塩の平均重量割合が8重量%を超え40重量%以下であることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
複合体全体に対するヒペリシン又はヒペリシン塩の平均重量割合が10重量%を超え40重量%以下であることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の複合体を含有する医薬組成物。
【請求項7】
前記組成物が静脈内投与用に提供され、前記組成物が少なくとも25mg/Lの濃度でヒペリシンを含有することを特徴とする、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ヒペリシンとPVPとの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度に加熱されることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
【請求項9】
ヒペリシンとPVPとの前記混合物に、溶媒又は溶媒の混合物が加えられることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度に少なくとも5分間維持されることを特徴とする、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
治療方法に使用するための光線力学療法(PDT)に適用するための、請求項6又は請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒペリシン又はヒペリシン塩と、ポリビニルピロリドン(PVP)とから形成される複合体に関し、この複合体はヒペリシンの割合が特に高い。
【背景技術】
【0002】
ヒペリシンは、様々な植物、特にオトギリソウの成分として、原生動物、特定のオーストラリアの昆虫の色素として、そして側鎖と共に、ソバのファゴピリンとして見出すことができる。
【0003】
ヒペリシンは、その光線力学的及び光化学的特性のために、腫瘍診断及び腫瘍治療における光増感剤の用途を調査する様々な研究プロジェクトで何度も注目されてきた。
【0004】
過去50年間で、腫瘍の光線力学療法(PDT)が腫瘍学の周辺で開発されてきた。ただし、PDTのメカニズムは広範囲に解明されており、方法が定義されている。光増感剤は、全身又は局所に適用された後、悪性組織に蓄積するようになる。光増感剤は、適切な波長の光の助けを借りて励起されると、反応相手、例えば分子状酸素にエネルギーを伝達することができる。それによって生成される活性酸素分子は、次に腫瘍組織の細胞構造に損傷を与えることができる。
【0005】
しかし、これまで、腫瘍細胞に集中し、適合性が高く、PDTの物理的及び化学的要件を満たす真に適切な光増感剤は不足している。特に、中空器官(胃、腸、膀胱、肺など)におけるプロトポルフィリンIXの「プロドラッグ」としてデルタアミノレブリン酸(5-ALA)を使用する方法が最も開発されている。5-ALA又はプロトポルフィリンIXの欠点は、不安定性であり、ポルフィリンは光に敏感で、治療中に変色し、組織内の濃度が低下し、投与量を計算するのが困難である。
【0006】
光増感剤としてのヒペリシンの安定性、及びこの植物成分が腫瘍細胞に集中するという事実が知られている。化学的及び物理的特性に加えて、これらはPDTで増感剤を使用するための最適な要件である。インビトロ実験により、PDTにおけるヒペリシンの有効性が一連の細胞株で示され、さらに、インビボ動物研究により、PDTにおけるヒペリシンの可能性が確認された。
【0007】
ヒペリシンは疎水性物質であり、水に完全に不溶性であり、医療目的で使用できるようにするためには、最も広く異なる製剤が必要である。したがって、このタイプの製剤は、様々な溶媒を含むが、多くの場合あまり適合性がなく、副作用が生じるか(例えば、アルコール、DMSOなど)、又は可溶化剤、リポソーム、ミセル若しくはナノ粒子を含む。
【0008】
最初に、国際公開第01/89576(A2)号は、ヒペリシンを水に可溶にし、したがってポリビニルピロリドン(PVP)との複合体を形成することによって適用することができるようにするための実際的なアプローチを記載している。この中で、ヒペリシン対PVPのモル比が約1:1である複合体が開示されている。3ページには、ヒペリシンとPVPの両方が1μmol/Lの濃度で存在できることが開示されている。適用において好ましいと述べられているPVPのモル質量範囲(10000~90000g/mol)及びヒペリシンのモル質量(504.44g/mol)によると、これはヒペリシン-PVP複合体に対するヒペリシンの重量比0.6重量%~5重量%に対応する。
【0009】
Kubinら(Pharmazie 63(2008)263-269)は、国際公開第01/89576(A2)号に基づく製造方法を説明し、この方法では、エタノールにすでに溶解されたヒペリシンを、PVP及び水と共に70℃に加熱し、この方法で得られた溶液を次に蒸発させる。得られた残留物は、水溶性複合体ヒペリシン-PVPを含有する。図8には、ヒペリシン50μmol/L及びPVP(PVP10、PVP25又はPVP40)100μmol/Lの濃度の溶液が示されている。ヒペリシン(504.44g/mol)とPVP(PVP10の場合は10000g/mol、PVP25の場合は25000g/mol、PVP40の場合は40000g/mol)のモル質量から、モル比を重量割合に変換することができる。このようにして、PVP10との複合体については約2.5重量%の値が得られ、PVP25については約1重量%の値が得られ、PVP40については約0.6重量%の値が得られる。
【0010】
Kubinら(Photochemistry Photobiology 84(2008)1560-1563)は、ヒペリシン-PVPを使用した臨床試験について説明している。ここでも、ヒペリシンは、ヒペリシン-PVP複合体の1重量%の重量割合である。
【0011】
国際公開第2014/079972(A1)号は、膀胱などの中空器官におけるPDTの機器について説明し、とりわけ、ヒペリシン-PVPの使用について言及している。総量は、25mgのPVPに結合した0.25mgのヒペリシンとして示されている。したがって、ヒペリシン-PVP複合体に対するヒペリシンの重量割合は最大で1重量%である。
【0012】
国際公開第2017/054017(A1)号は、光線力学療法のための塩の形態のヒペリシン製剤を記載している。実施例1に記載されたヒペリシン-PVPの製造方法では、合計1875mgのPVP k25と、溶液1グラムあたり0.0225mgのヒペリシンと、を含有する250.0gのリン酸緩衝液が製造される。したがって、ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの重量割合は0.3重量%である。
【0013】
国際公開第2017/054018(A1)号は、光線力学的診断のための塩の形態のヒペリシン製剤を記載している。例1に記載のヒペリシン-PVPの製造方法では、溶液1グラムあたり合計562.5mgのPVP k25及び0.0225mgのヒペリシンを含む250.0gのリン酸緩衝液が製造される。したがって、ヒペリシン-PVP複合体に対するヒペリシンの重量割合は1重量%である。
【0014】
Feinweberら(Photochemical&Photobiological Sciences 13.11(2014):1607-1620)は、ヒペリシンと加水分解性ポリホスファゼンからなるコンジュゲートについて説明している。ヒペリシンとポリジ-[2-(2-オキソ-1-ピロリジニル)エトキシ]ホスファゼン(PYRP)の非共有結合コンジュゲートを生成するために、ヒペリシン(2.4mg)を2mLのエタノールに溶解し、PYRP(200mg)に加え、その後、溶媒を真空下で除去する。比較として、ヒペリシン-PVPが使用され、そのヒペリシン-PVP複合体は、「類似の方法で」PVP40を使用することによって製造される。その場合、ヒペリシン-PVP複合体に対するヒペリシンの重量割合は最大で1.2重量%である。
【0015】
従来技術で知られているように蛍光内視鏡検査と組み合わせたヒペリシン-PVPの助けを借りた光線力学的診断は、非常に感度の高い方法であり、非常に少量の材料で実施することができる。すでに何度も発表されているように、例えば膀胱では、0.25mgのヒペリシンのみ(1重量%のヒペリシンを含有する合計25mgのヒペリシン-PVP複合体)が溶解した形態で導入される。この量は、腫瘍や病変を泌尿器科医が特定し、取り除くことができるように十分に染色するのに十分である。したがって、ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの重量割合が小さいこと、及びこれに関連してPVPの割合が大きいことは、使用される材料が少ないために、光線力学的診断に問題を引き起こさない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ただし、これは、例えば光線力学療法など、大量のヒペリシンを必要とする用途には当てはまらない。例えば、この場合のヒペリシンの高用量は、大量のPVPに関連する。したがって、より高い割合のヒペリシンを含有するヒペリシン-PVP複合体が必要である。したがって、本発明の1つの目的は、そのような複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、ヒペリシン又はヒペリシン塩と、ポリビニルピロリドン(PVP)とから形成された複合体によって達成され、複合体全体に対するヒペリシン又はヒペリシン塩の平均重量割合は6重量%を超える。
【0018】
「ヒペリシン」が以下に言及される場合、この用語は、遊離酸及びヒペリシン塩、好ましくはアルカリ塩、特に好ましくはナトリウム又はカリウム塩の両方を含むと理解されるべきである。
【0019】
水溶性組成物は、不利に大量のPVPに関連することなく、大量のヒペリシンを含有する本発明によるヒペリシン-PVP複合体を用いて調製することができる。これにより、以前よりもさらに少ない材料を使用する製剤を提供することができる。大量のアジュバント(PVP)及び関連する副作用を回避することができるので、本発明は、より大量のヒペリシンを必要とする用途を容易にする。特に、これには、腫瘍疾患を治療するための光線力学療法(PDT)などの治療方法が含まれる。
【0020】
したがって、本発明はまた、本発明によるヒペリシン-PVP複合体を含む医薬組成物を提供する。
【0021】
本発明の明細書に実施された実験的研究の過程で、ヒペリシンとPVPとの混合物を、使用したPVPのガラス転移温度よりも高い温度に加熱すると、ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの特に高い重量割合が得られることが予想外に示された。
【0022】
したがって、本発明はまた、ヒペリシンとPVPとの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度に加熱されることを特徴とする、本発明による複合体の製造方法を提供する。
【0023】
この方法を適用することにより、本発明者らは、6重量%を超える、特に10重量%を超える、好ましくは15重量%を超える、特に好ましくは20重量%を超える、最も特に好ましくは35重量%を超えるヒペリシンを含有するヒペリシン-PVP複合体を製造することができた。したがって、本発明による複合体中のヒペリシンの割合は、先行技術のヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの割合を著しく超え、したがって、ヒペリシン-PVPの新規でより有利な用途を可能にする。
【0024】
腫瘍疾患を治療するための光線力学療法(PDT)へのヒペリシン-PVP複合体の適用は特に有利である。
【0025】
より大量のヒペリシンを必要とする他の用途もまた、本発明によってかなり容易になる。一例として、ヒペリシンは、光と組み合わせると抗ウイルス作用及び抗菌作用を有する。したがって、本発明によるヒペリシン-PVP複合体は、表面又は液体を滅菌及び/又は消毒するために使用することができる。本明細書での用途におけるPVPの割合は、管理可能なほど小さいままである。
【0026】
ヒペリシンは、1,3,4,6,8,13-ヘキサヒドロキシ-10,11-ジメチルフェナントロ[1,10,9,8-オプクラ]ペリレン-7,14-ジオンとしても説明できる。ヒペリシンは、次の構造式で(ここでは遊離酸の形態で)表すことができる。
【0027】
【化1】
【0028】
遊離酸に加えて、ヒペリシンはまた、塩形態などの他の形態、例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩などのアルカリ金属塩で存在することができる。本発明の本明細書における、「ヒペリシン」という用語は、このタイプのすべての可能な形態を意味する。
【0029】
ポリビドン又はポビドンとしても知られるポリビニルピロリドン(PVP)は、化合物ビニルピロリドンのポリマーである。PVPは、様々な重合度で市販されている。重合度は、ポリマーの平均モル質量を決定する。
【0030】
本発明は、ヒペリシン又はヒペリシン塩と、ポリビニルピロリドン(PVP)とから形成される複合体に関するものであり、複合体全体に対するヒペリシン又はヒペリシン塩の平均重量割合が6重量%を超える、好ましくは8重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、又は30重量%を超えることを特徴とする。
【0031】
特に明記しない限り、本発明におけるパーセンテージ(%)は、それぞれ、重量パーセント(重量%)を指す。ここでの重量割合は、複合体全体(ヒペリシン+PVP)の質量に対するヒペリシンの質量の相対的な割合になる。
【0032】
ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの割合は、モル比として表すこともできる。一例として、遊離酸の形態のヒペリシン(モル質量:504.44g/mol)及び平均モル質量25kDのPVPで構成され、複合体全体に対するヒペリシンの平均重量割合が10重量%であるヒペリシン-PVP複合体では、複合体中のPVPに対するヒペリシンの平均モル比は5.5である。ここでの平均モル比は、PVPの量に対するヒペリシンの量の比を示す。
【0033】
したがって、本発明はまた、複合体中のPVPに対するヒペリシンの平均モル比が2.5を超える、好ましくは3、4、5、7、10又は15を超えることを特徴とする、ヒペリシン及びPVPから形成された複合体に関する。
【0034】
ここでの複合体全体におけるヒペリシンの割合(重量割合及びモル比)は、常に平均割合であると理解されるべきである。複合体全体におけるヒペリシンの平均割合を決定するための適切な方法は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)である。当業者は、Freytag W.E.(Deutsche Apothekerzeitung 124 No.46(1984)2383-2386)に記載されているように、このタイプの決定を行うことに精通しているであろう。当業者は、正確な量のヒペリシン-PVP複合体を秤量する方法、検量線及びHPLC測定から濃度を決定できる方法、及びそれから複合体全体におけるヒペリシンの重量割合を計算する方法を知っているであろう。このタイプの決定を行う方法の例を実施例5に示す。
【0035】
市販のPVPは、様々な重合度、したがって平均モル質量で入手できる。好ましくは、本発明の本明細書では、10kD~40kDの範囲内のモル質量が好ましく、なぜなら、このサイズの分子は、代謝されることなく腎臓から容易に排泄され得るためである(クリアランス)。
【0036】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、ヒペリシン-PVP複合体は、PVPの平均モル質量が10~40kD、好ましくは12~25kDであることを特徴とする。
【0037】
先行技術に記載されているヒペリシン-PVP複合体は、ヒペリシンの割合が小さいため、医薬組成物の成分としての使用に適していない。製薬用途に十分な量のヒペリシンを得るためには、大量のヒペリシン-PVP複合体を使用する必要がある。これは、不都合に多い材料消費又は患者内のPVP蓄積につながるであろう。この問題は、本発明によって解決される。アジュバント(PVP)の割合が大幅に減少するため、水溶性ヒペリシンの投与量を増やすことが可能であり、これらは腫瘍治療に必要である。このように、PVPのより深刻な副作用を回避することができる。したがって、この新規発明は、とりわけ、ヒペリシンを光線力学的腫瘍治療に使用することを可能にする。
【0038】
したがって、本発明はまた、本発明によるヒペリシン-PVP複合体を含む医薬組成物に関する。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、医薬組成物は、組成物が、ヒペリシンを少なくとも25mg/L、好ましくは少なくとも50mg/L、75mg/L、100mg/L、150mg/L、又は少なくとも250mg/Lの濃度で含む本発明によるヒペリシン-PVP複合体を含有することを特徴とする。
【0040】
本発明の本明細書における「医薬組成物」は、例えば、腫瘍の治療のために局所的に投与され得る。このように、本発明は、初めて、大量のPVPを使用する必要がなく高濃度のヒペリシンを含有する医薬組成物を製造できることを意味するため、本発明は、静脈内投与できる医薬組成物にも使用できる。したがって、その後腫瘍細胞に集中するようになる大量のヒペリシンを、全身投与することもできる。
【0041】
したがって、さらに好ましい実施形態では、本発明は、組成物が静脈内投与用に提供されることを特徴とする、本発明によるヒペリシン-PVP複合体を含有する医薬組成物に関する。
【0042】
特に好ましい実施形態では、本発明は、組成物が静脈内投与用に提供され、組成物がヒペリシンを少なくとも25mg/L、好ましくは少なくとも50mg/L、60mg/L、80mg/L、100mg/L、150mg/L、又は少なくとも250mg/Lの濃度で含有することを特徴とする、本発明によるヒペリシン-PVP複合体を含有する医薬組成物に関する。
【0043】
アモルファス物質であるPVPには融点はないが、ガラス転移温度と呼ばれる温度がある。ガラス転移温度は、重合度、とりわけ、PVPの平均モル質量に依存する(表1を参照)。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明の開発中に実施された実験的研究において、ヒペリシンとポリビニルピロリドンとの混合物を、使用したPVPのガラス転移温度よりも高い温度に加熱すると、ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの特に高い重量割合が得られることが予想外に示された。ヒペリシンは300℃まで安定しているため、無傷の分子としてPVPとの複合体を形成することができる。したがって、この方法は、本発明によるヒペリシン-PVP複合体を製造することを可能にする。
【0046】
したがって、本発明はまた、ヒペリシンとPVPとの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度に加熱されることを特徴とする、本発明によるヒペリシンポリビニルピロリドン複合体の製造方法に関する。
【0047】
本明細書において、「使用されるPVPのガラス転移温度」という用語は、ヒペリシンとの適切な混合物中のPVPのガラス転移が起こる温度を意味すると理解されるべきである。使用されるPVPのガラス転移温度は、例えば混合物に溶媒又は水が加えられる場合、混合物の組成によって影響を受ける可能性がある。ガラス転移温度を決定するための方法は、当業者に知られている。好ましくは、ガラス転移温度は、適切なDIN規格の方法を使用して決定することができる。
【0048】
本発明によるヒペリシン-PVP複合体の製造方法の好ましい実施形態は、使用されるPVPのモル質量が少なくとも12kDであり、混合物が少なくとも93℃の温度に加熱されることを特徴とする。
【0049】
特に好ましい実施形態は、使用されるPVPのモル質量が少なくとも17kDであり、混合物が少なくとも130℃の温度に加熱されることを特徴とする。
【0050】
さらに特に好ましい実施形態は、使用されるPVPのモル質量が少なくとも25kDであり、混合物が少なくとも155℃の温度に加熱されることを特徴とする。
【0051】
さらに特に好ましい実施形態は、使用されるPVPのモル質量が少なくとも35kDであり、混合物が少なくとも175℃の温度に加熱されることを特徴とする。
【0052】
ヒペリシンとPVPとの混合物に溶媒又は溶媒の混合物を加えることが有利であることが示されている。好ましくは、ヒペリシンとPVPとの混合物を撹拌して、少量の溶媒中でペーストを形成する。追加の溶媒は、成分を均一に分散させるのに役立つことができ、より大量のヒペリシンをPVPに加えることができる。適切な溶媒の例は、水、エタノール、メタノール、ピリジン、アセトン、エチルメチルケトン及びピリジン、又はそれらの混合物である。水、エタノール、メタノール及びピリジンが特に好ましく、水、エタノールが更に特に好ましい。
【0053】
したがって、ヒペリシン-PVP複合体を製造するための本発明による方法の好ましい実施形態は、ヒペリシンとPVPとの混合物に、溶媒又は溶媒の混合物、好ましくは水、エタノール、メタノール、ピリジン、アセトン、エチルメチルケトン及び/又は酢酸エチル、より好ましくは水、エタノール、メタノール及び/又はピリジン、さらにより好ましくは水及び/又はエタノールが加えられることを特徴とする。
【0054】
製造方法において、ヒペリシンとPVPとの混合物を、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度で特定の期間維持することが有利であることが示されている。混合物をガラス転移温度よりも高い温度に少なくとも5分間保持すると、良好な結果が得られた。
【0055】
したがって、ヒペリシン-PVP複合体を製造するための本発明による方法の好ましい実施形態は、混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度に少なくとも5分間維持されることを特徴とする。
【0056】
過去50年間で、腫瘍疾患の光線力学療法(PDT)は腫瘍学の周辺で開発されてきた。ただし、PDTのメカニズムは広範囲に解明されており、方法は先行技術で知られている。しかし、これまで、腫瘍細胞に集中し、適合性が高く、PDTの物理的及び化学的要件を満たす真に適切な光増感剤は不足している。本発明は、これらの要件を満たし、ヒペリシンの割合が高いために治療用途に非常に適しているヒペリシン-PVP複合体を提供する。このため、本発明によるヒペリシン-PVP複合体は、局所的又は全身的に投与することができる。
【0057】
したがって、本発明はまた、治療方法に使用するための、好ましくは腫瘍疾患を治療するための光線力学療法(PDT)に適用するための、本発明によるヒペリシン-PVP複合体を含有する医薬組成物に関する。
【0058】
本発明はまた、好ましくは光線力学療法(PDT)の過程で、ヒペリシン-PVP複合体が投与されることを特徴とする、癌疾患の治療方法に関する。
【0059】
好ましい実施形態では、本発明は、癌疾患の治療方法を提供し、該方法は、
本発明によるヒペリシン-PVP複合体を含有する薬学的に許容される製剤を提供すること、及び
癌を患っている対象者にこの組成物の有効量を投与すること
を含む。
【0060】
好ましくは、癌疾患の治療方法は、追加の工程として対象者に光を照射することを含む。好ましくは、光の波長は、400nm~800nm、特に500nm~700nm、より好ましくは550nm~650nmである。好ましくは、光の強度は、1mW/cm~250mW/cm、特に好ましくは2mW/cm~100mW/cm、より好ましくは3mW/cm~50mW/cm、最も好ましくは5mW/cm~25mW/cmである。
【0061】
ヒペリシンは、光と組み合わせると抗ウイルス作用及び抗菌作用を有する。したがって、本発明による複合体は、表面又は液体を滅菌及び/又は消毒するために使用することもできる。ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの高い割合は、この点で重要な利点であり、その理由は、このようにしてPVPの消費が最小限に抑えられるためである。
【0062】
したがって、本発明はまた、表面又は液体を滅菌及び/又は消毒するための本発明によるヒペリシン-PVP複合体の使用に関する。
【0063】
本明細書で使用される「ヒペリシン-PVP」又は「ヒペリシン-PVP複合体」は、ヒペリシンとPVPとを含有し、ヒペリシン分子とPVP分子との化合物が形成される生成物を指す。「複合体」という言葉は、化合物の種類を決して制限するものではなく、単に、化合物が1つ又は複数のヒペリシン分子と1つ又は複数のPVP分子との間で形成されることを意味する。化合物は、例えば、PVPへのヒペリシンの非共有結合付加であり得る。分子レベルでの個々のヒペリシン-PVP複合体ではなく、全体としての製品は、「ヒペリシン-PVP」又は「ヒペリシン-PVP複合体」を意味すると理解されるべきである。
【0064】
本明細書で使用される「複合体の割合」、「重量割合」、「モル比」の記載は、常に平均値を指すと理解されるべきである。それらは、分子レベルで個々の複合体を指すのではなく、全体としての製品の平均値を指す。
【0065】
本発明は、明らかに本発明を限定しない以下の実施例及び図によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1図1は従来のヒペリシン-PVP複合体と比較した、本発明による2つのヒペリシン-PVP複合体における複合体全体中のヒペリシンの重量割合を示した図である。本発明に従って複合体に使用されたPVPは、12kD(「HypPVP12溶融物(melt)」)又は25kD(「HypPVP25溶融物」)のいずれかの平均モル質量を有するPVPであった。従来の複合体の製造に使用されたPVPは、25kDの平均モル質量を有するPVPであった(「HypPVP25溶解物(dissolved)」)。本発明による複合体は、実施例1に記載されるように製造された。従来の複合体は、実施例3に記載されるように製造された。
図2図2はヒペリシンナトリウム-PVP、ヒペリシン-PVP、及びヒペリシンの吸収スペクトルの比較を示した図である。ヒペリシンの光物理的特性は、遊離酸若しくはヒペリシンのナトリウム塩が使用されたかどうか、又はヒペリシンが複合体の形態で存在したかどうかに関係なく、PVP複合体に保持された。これは、ヒペリシンがPVPによって複合体を形成する形態でその光物理的特性を失わないことを意味する。
図3図3はHPLCによるヒペリシン-PVP複合体に対するヒペリシンの重量割合を決定するための検量線を示した図である。実施例5に記載のように、異なる量のヒペリシンを用いてHPLCを実行した。秤量したヒペリシンの濃度(x軸)を588nmの吸収ピークの面積に対してプロットし、線形回帰を生成した。
【発明を実施するための形態】
【0067】
実施例1-本発明によるヒペリシン-PVP複合体の製造
30mgのポリビニルピロリドン(PVP 25kD)を15mgのヒペリシン(99%、HPLC)と乾式混合した。200μL(200マイクロリットル=0.2mL)のエタノールと100μL(100マイクロリットル=0.1mL)の水を混合物に加えた。次に、混合物を撹拌し、20分間放置した。この後、混合物を乾燥キャビネット内でゆっくりと180℃に加熱した。温度は、室温から180℃まで約20分間かけて上昇するようにプログラムした。混合物を180℃の温度で約8分間維持した。この後、混合物を室温まで冷却した。次に、約3~6mLの水を加え、1時間撹拌した。これにより、可溶性成分であるヒペリシン-PVP複合体が溶液に取り込まれた。不溶性成分及び複合体を形成していないヒペリシンをろ過した(細孔径0.2~0.4μm)。濾液を乾燥させ、さらに使用するために乾燥状態で保存した。
【0068】
実施例2-ナトリウム塩の形態でヒペリシンを含有する本発明によるヒペリシン-PVP複合体の製造
ヒペリシンの代わりにナトリウム塩を使用したことを除いて(ヒペリシン酸ナトリウム)、実施例1と同様にした。ヒペリシン酸ナトリウムは、Kapinusら(Monatshefte fur Chemie130(1999)436-441)によって与えられた指示に従って生成した。
【0069】
実施例3-先行技術によるヒペリシン-PVP複合体の製造
従来のヒペリシン-PVP複合体を、Kubinらの「ヒペリシンを水溶性にする方法(How to make hypericin water-soluble)」、Die Pharmazie 63(2008)263-269に記載されているように製造した。これに関して、超音波を使用して10mgのヒペリシンを2.5mLのエタノールに溶解し、その後、1000mgのPVP 25kD及び8mLの蒸留水を加えた。混合物を約5分間70℃に加熱した。その後、5mLの水を加え、混合物をさらに10分間撹拌した。次に、溶液をロータリーエバポレーターで乾燥させ、得られたヒペリシン-PVP複合体をさらに使用するために乾燥状態で保存した。
【0070】
これらの条件下では、実質的により大量のヒペリシンからPVPとの複合体を形成することができないため、複合体にさらにヒペリシンを加えようとすると沈殿物が形成された。
【0071】
実施例4-ヒペリシン-PVP複合体の特性評価
ヒペリシン-PVP複合体を、実施例1から3に記載の方法に従って製造した。
【0072】
ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの重量割合は、HPLCを使用して、またヒペリシンの適切なキャリブレーションを使用して決定した。使用した参照物質は、標準化されたヒペリシン(>99%、Planta Naturstoffe Vertriebs GmbH)であった。複合体全体中のヒペリシンの重量割合の決定は、実施例5に記載されているように行った。
【0073】
本発明による複合体において最大40重量%(ヒペリシン遊離酸;実施例1による製造)又は41重量%(ヒペリシン酸ナトリウム;実施例2による製造)の重量割合が測定され、一方、従来の複合体の重量割合は1重量%であった(実施例3に記載のように、Kubinら、Die Pharmazie 63(2008)263~269に従った製造)。したがって、本発明による方法を使用することにより、ほぼ40倍の量のヒペリシンをPVPに入れることができた。
【0074】
実施例5-複合体全体中のヒペリシンの重量割合の決定
ヒペリシン-PVP複合体中のヒペリシンの重量割合は、HPLCを使用して、またヒペリシンによる適切なキャリブレーションを使用して決定した。HPLC法は、実質的に、Freytag W.E.(Deutsche Apothekerzeitung 124 No.46(1984)2383-2386)によって記載されているように行った。
【0075】
詳細には、HPLC法は以下を用いて行った。
溶離液:568.0gのメタノール、157.8gの酢酸エチル、185.5gのバッファー(1000mLの蒸留水中の13.8gのNaHPOO、85%オルトリン酸(pH2.1))
カラム:Nucleosil 120 3C18(長さ120mm、内径4mm)
流量:0.6mL/分
検出:588nmでのUV-vis
【0076】
キャリブレーションには、標準化されたヒペリシン(>99%、Planta Naturstoffe Vertriebs GmbH)を参照物質として使用した。異なる量の参照物質をHPLC溶離液に溶解してHPLC分析を実施し、ヒペリシン吸収ピークの面積を588nmで測定した。線形回帰により、測定値から検量線を作成した(図3参照)。
【0077】
実施例1に従って製造したヒペリシン-PVP複合体のヒペリシンの割合を決定するために、乾燥したヒペリシン-PVP複合体(粉末)から正確に5mgを秤量し、HPLC溶離液に溶解した。上記のようにHPLC分析を実施し、複合体全体中のヒペリシンの割合を、588nmで得られた吸収シグナルから以前に作成した検量線を使用して決定した。得られた結果は、40重量%であった(すなわち、100mgのヒペリシン-PVP複合体は、例えば、40mgのヒペリシン及び60mgのPVPを含有していた)。
<付記>
本開示の態様は以下を含む。
<項1>
複合体全体に対するヒペリシン又はヒペリシン塩の平均重量割合が6重量%を超えることを特徴とする、ヒペリシン又はヒペリシン塩と、ポリビニルピロリドン(PVP)とから形成された複合体。
<項2>
前記複合体中のPVPに対するヒペリシンの平均モル比が2.5を超えることを特徴とする、項1に記載の複合体。
<項3>
前記PVPが10~40kD、好ましくは12~25kDの平均モル質量を有することを特徴とする、項1又は項2に記載の複合体。
<項4>
項1~項3のいずれか一項に記載の複合体を含有する医薬組成物。
<項5>
前記組成物が静脈内投与用に提供され、前記組成物が少なくとも25mg/Lの濃度でヒペリシンを含有することを特徴とする、項4に記載の医薬組成物。
<項6>
ヒペリシンとPVPとの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度に加熱されることを特徴とする、項1~項3のいずれか一項に記載の複合体の製造方法。
<項7>
ヒペリシンとPVPとの前記混合物に、溶媒又は溶媒の混合物、好ましくは水、エタノール、メタノール、ピリジン、アセトン、エチルメチルケトン及び/又は酢酸エチル、より好ましくは水、エタノール、メタノール及び/又はピリジン、より好ましくは水及び/又はエタノールが加えられることを特徴とする、項6に記載の方法。
<項8>
前記混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度に少なくとも5分間維持されることを特徴とする、項6又は項7に記載の方法。
<項9>
治療方法に使用するための、好ましくは腫瘍疾患を治療するための光線力学療法(PDT)に適用するための、項4又は項5に記載の医薬組成物。
<項10>
表面又は液体を滅菌及び/又は消毒するための、項1~項3のいずれか一項に記載の複合体の使用。
図1
図2
図3