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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20230801BHJP
   H03K 17/00 20060101ALI20230801BHJP
   H03K 17/687 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/00 B
H03K17/687 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020159889
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053199
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祐司
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-088968(JP,A)
【文献】特開2008-048569(JP,A)
【文献】特開2019-075891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H03K 17/00
H03K 17/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半導体素子を有し、前記複数の半導体素子のスイッチングによって電力の変換を行う変換部と、
前記複数の半導体素子のそれぞれに対応して設けられるとともに、駆動信号の入力を受け、入力された前記駆動信号に基づいて前記複数の半導体素子を駆動する複数の駆動部と、
を備え、
前記複数の半導体素子は、一対の主端子と、制御端子と、を有し、
前記複数の駆動部は、
前記複数の半導体素子のうちの対応する前記半導体素子の前記制御端子と接続され、前記駆動信号に基づいて対応する前記半導体素子の前記制御端子に印加する制御電圧の大きさを切り替えることにより、対応する前記半導体素子を駆動する駆動回路と、
対応する前記半導体素子の前記制御電圧の閾値の変化を検出する閾値変化検出回路と、
を有し、
前記駆動信号は、対応する前記半導体素子をオフ状態とするための第1状態と、対応する前記半導体素子をオン状態とするための第2状態と、を有し、
前記閾値変化検出回路は、
対応する前記半導体素子の前記一対の主端子と接続され、前記一対の主端子間に印加される素子電圧を検出する電圧検出回路と、
前記駆動信号と前記電圧検出回路の検出結果とを基に、前記駆動信号の切り替わりのタイミングから前記素子電圧の切り替わりのタイミングまでの遅れ時間を算出する遅れ時間算出回路と、
を有し、前記遅れ時間の変化を前記閾値の変化として検出する電力変換装置。
【請求項2】
前記遅れ時間算出回路は、前記駆動信号の前記第1状態から前記第2状態への切り替わりのタイミングから前記素子電圧の高い状態から低い状態への切り替わりのタイミングまでの時間を計時することにより、前記半導体素子のターンオン時の第1遅れ時間を算出し、前記駆動信号の前記第2状態から前記第1状態への切り替わりのタイミングから前記素子電圧の前記低い状態から前記高い状態への切り替わりのタイミングまでの時間を計時することにより、前記半導体素子のターンオフ時の第2遅れ時間を算出する請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記閾値変化検出回路は、前記遅れ時間の算出結果が判定値を超えたか否かを判定する判定回路をさらに有する請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記判定回路は、前記遅れ時間の算出結果が上限側の判定値以上か否かを判定するとともに、前記遅れ時間の算出結果が下限側の判定値未満か否かを判定する請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記判定値は、前記複数の半導体素子毎に調整される請求項3又は4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記複数の駆動部は、対応する前記半導体素子の温度を表す温度情報を取得し、
前記閾値変化検出回路は、対応する前記半導体素子の前記温度情報を基に、前記判定回路に設定される前記判定値を補正し、補正後の前記判定値を前記判定回路に設定する判定値演算部をさらに有する請求項3~5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記閾値変化検出回路は、前記遅れ時間を外部に出力し、前記遅れ時間の変化の傾向を外部で蓄積できるようにする請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記複数の半導体素子は、ブリッジ接続され、上アームの半導体素子と下アームの半導体素子とを有し、
前記変換部は、前記上アームの半導体素子と前記下アームの半導体素子との交流接続点を介して交流負荷と接続され、前記複数の半導体素子のスイッチングにより、直流電力から交流電力への変換及び交流電力から直流電力への変換の少なくとも一方の変換を行い、
前記遅れ時間算出回路は、前記交流接続点に流れる電流の極性の情報を取得し、
前記交流接続点に流れる電流の極性は、前記交流接続点から前記交流負荷に向かって流れる電流の向きを正とし、前記交流負荷から前記交流接続点に向かって流れる電流の向きを負とし、
前記上アームの前記半導体素子に対応する前記駆動部の前記遅れ時間算出回路は、前記交流接続点に流れる電流の極性が正の場合にのみ前記遅れ時間の算出を行い、前記交流接続点に流れる電流の極性が負の場合には、前記遅れ時間の算出を行わず、
前記下アームの前記半導体素子に対応する前記駆動部の前記遅れ時間算出回路は、前記交流接続点に流れる電流の極性が負の場合にのみ前記遅れ時間の算出を行い、前記交流接続点に流れる電流の極性が正の場合には、前記遅れ時間の算出を行わない請求項1~7のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記複数の半導体素子は、SiCを含む請求項1~8のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の半導体素子を有し、複数の半導体素子のスイッチングにより、電力の変換を行う電力変換装置がある。こうした電力変換装置において、複数の半導体素子のオフ状態からオン状態への変化の駆動電圧(例えばゲート電圧)の閾値、及びオン状態からオフ状態への変化の駆動電圧の閾値が変化すると、スイッチング損失の増大などを招いてしまう。また、例えば、複数の半導体素子を並列使用している場合には、並列間の電流バランスが悪化し、半導体素子の破損などに至ってしまう可能性がある。
【0003】
このように、複数の半導体素子の閾値の変化は、意図せぬタイミングで半導体素子の故障や装置の停止を発生させ、電力変換装置に重大な被害を与えてしまう可能性がある。特に、SiC(Silicon Carbide)などの比較的新しい半導体材料を用いた半導体素子では、実用化の歴史が浅く、フィールドでの長期運用の中で、想定外の電圧電流責務の印加や経年変化、あるいは未知の事象などにより、閾値の変化が生じる可能性がある。
【0004】
このため、電力変換装置では、複数の半導体素子の閾値の変化を検出できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-43687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、複数の半導体素子の閾値の変化を検出できる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によれば、複数の半導体素子を有し、前記複数の半導体素子のスイッチングによって電力の変換を行う変換部と、前記複数の半導体素子のそれぞれに対応して設けられるとともに、駆動信号の入力を受け、入力された前記駆動信号に基づいて前記複数の半導体素子を駆動する複数の駆動部と、を備え、前記複数の半導体素子は、一対の主端子と、制御端子と、を有し、前記複数の駆動部は、前記複数の半導体素子のうちの対応する前記半導体素子の前記制御端子と接続され、前記駆動信号に基づいて対応する前記半導体素子の前記制御端子に印加する制御電圧の大きさを切り替えることにより、対応する前記半導体素子を駆動する駆動回路と、対応する前記半導体素子の前記制御電圧の閾値の変化を検出する閾値変化検出回路と、を有し、前記駆動信号は、対応する前記半導体素子をオフ状態とするための第1状態と、対応する前記半導体素子をオン状態とするための第2状態と、を有し、前記閾値変化検出回路は、対応する前記半導体素子の前記一対の主端子と接続され、前記一対の主端子間に印加される素子電圧を検出する電圧検出回路と、前記駆動信号と前記電圧検出回路の検出結果とを基に、前記駆動信号の切り替わりのタイミングから前記素子電圧の切り替わりのタイミングまでの遅れ時間を算出する遅れ時間算出回路と、を有し、前記遅れ時間の変化を前記閾値の変化として検出する電力変換装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
複数の半導体素子の閾値の変化を検出できる電力変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電力変換装置を模式的に表すブロック図である。
図2】駆動部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図3】実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
図4】実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
【0010】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る電力変換装置を模式的に表すブロック図である。
図1に表したように、電力変換装置10は、変換部12と、複数の駆動部14と、を備える。
【0012】
変換部12は、複数の半導体素子20を有し、複数の半導体素子20のスイッチングによって電力の変換を行う。複数の半導体素子20は、例えば、ブリッジ接続されている。複数の半導体素子20は、上アームの半導体素子20と、下アームの半導体素子20と、を有する。複数の駆動部14は、複数の半導体素子20のそれぞれに対応して設けられる。複数の駆動部14は、図示を省略した制御装置から駆動信号の入力を受け、入力された駆動信号に基づいて複数の半導体素子20を駆動する。
【0013】
複数の駆動部14は、換言すれば、駆動信号に基づいて半導体素子20のオン状態とオフ状態とを切り替える。複数の駆動部14は、換言すれば、駆動信号に基づいて変換部12による電力の変換を駆動する。変換部12は、複数の駆動部14の駆動により、複数の半導体素子20のオン状態とオフ状態とを切り替え、電力の変換を行う。
【0014】
なお、図1では、変換部12の1つのレグの上アーム及び下アームを構成する2つの半導体素子20、及び2つの半導体素子20に対応する2つの駆動部14のみを便宜的に図示している。
【0015】
変換部12は、例えば、6つの半導体素子20を三相ブリッジ接続した2レベルの三相インバータである。変換部12では、上アームの半導体素子20と下アームの半導体素子20との接続点が、交流接続点21となる。変換部12は、交流接続点21を介して交流負荷(図示は省略)と接続され、複数の半導体素子20のスイッチングにより、例えば、直流電力から交流電力への変換及び交流電力から直流電力への変換の少なくとも一方の変換を行う。交流負荷とは、例えば、交流の電力系統や交流電力で動作するモータなどである。
【0016】
但し、変換部12の構成は、これに限定されるものではない。変換部12は、例えば、単相インバータなどでもよい。変換部12は、例えば、3レベルインバータなどのマルチレベルインバータなどでもよい。変換部12の構成は、複数の半導体素子20のスイッチングによって電力の変換を行う任意の構成でよい。変換部12による電力の変換は、例えば、交流電力から電圧や周波数の異なる別の交流電力への変換などでもよいし、直流電力から電圧の異なる別の直流電力への変換などでもよい。変換部12による電力の変換は、別の電力への任意の変換でよい。
【0017】
複数の半導体素子20は、一対の主端子20a、20bと、制御端子20cと、を有する。主端子20aは、例えば、ドレインである。主端子20bは、例えば、ソースである。制御端子20cは、例えば、ゲートである。
【0018】
複数の半導体素子20は、例えば、SiC(Silicon Carbide)を含む。複数の半導体素子20は、例えば、SiCからなるSiC素子である。複数の半導体素子20は、例えば、SiCからなるMOSFETやIGBTなどの自励式のスイッチング素子である。但し、複数の半導体素子20の半導体材料は、SiCに限ることなく、シリコンやGaN(Gallium Nitride)などでもよい。複数の半導体素子20は、任意の半導体材料からなる自励式のスイッチング素子でよい。
【0019】
複数の駆動部14のそれぞれは、駆動回路30と、閾値変化検出回路32と、を有する。駆動回路30は、複数の半導体素子20のうちの対応する半導体素子20の制御端子20cと接続される。駆動回路30は、図示を省略した制御装置から駆動信号の入力を受け、入力された駆動信号に基づいて対応する半導体素子20の制御端子20cに印加する電圧(以下、制御電圧と称す)の大きさを切り替えることにより、対応する半導体素子20を駆動する。なお、対応する半導体素子20は、1つでもよいし、並列構成などである場合には、複数でもよい。
【0020】
駆動回路30は、制御電圧の大きさを、半導体素子20をオフ状態とするための第1電圧と、半導体素子20をオン状態とするための第2電圧と、に切り替える。第1電圧は、例えば、Lowである。第2電圧は、例えば、Hiである。第2電圧の大きさは、第1電圧の大きさよりも大きい。但し、第1電圧及び第2電圧は、上記と反対でもよい。
【0021】
閾値変化検出回路32は、対応する半導体素子20がオフ状態からオン状態に変化するターンオン時の制御電圧の第1閾値の変化、及び対応する半導体素子20がオン状態からオフ状態に変化するターンオフ時の制御電圧の第2閾値の変化を検出する。但し、閾値変化検出回路32は、必ずしも第1閾値及び第2閾値の双方の変化を検出しなくてもよい。閾値変化検出回路32は、第1閾値及び第2閾値の少なくとも一方の変化を検出するものでよい。
【0022】
なお、駆動部14に対応する半導体素子20が複数存在する場合には、閾値変化検出回路32は、例えば、複数の半導体素子20のそれぞれに対応して複数設けられる。複数の半導体素子20は、例えば、対応する複数の半導体素子20のそれぞれの第1閾値及び第2閾値を検出する。
【0023】
閾値変化検出回路32は、電圧検出回路40と、遅れ時間算出回路42と、第1判定回路51と、第2判定回路52と、を有する。
【0024】
電圧検出回路40は、対応する半導体素子20の一対の主端子20a、20bと接続され、一対の主端子20a、20b間に印加される電圧(以下、素子電圧と称す)を検出する。電圧検出回路40は、遅れ時間算出回路42と接続されている。電圧検出回路40は、素子電圧の検出結果を遅れ時間算出回路42に入力する。
【0025】
遅れ時間算出回路42には、素子電圧の検出結果が入力されるとともに、制御装置から入力される制御信号が入力される。
【0026】
図2は、駆動部の動作の一例を模式的に表すグラフである。
図2に表したように、駆動信号は、対応する半導体素子20をオフ状態とするための第1状態S1と、対応する半導体素子20をオン状態とするための第2状態S2と、を有する。駆動回路30は、駆動信号が第1状態S1である時に、第1電圧V1を制御端子20cに印加し、駆動信号が第2状態S2である時に、第2電圧V2を制御端子20cに印加する。
【0027】
図2に表したように、半導体素子20の制御端子20cの制御電圧は、駆動信号が第1状態S1から第2状態S2に切り替わり、駆動回路30が第1電圧V1から第2電圧V2に切り替えることにより、回路の時定数などに応じて第1電圧V1から第2電圧V2に徐々に変化する。同様に、半導体素子20の制御端子20cの制御電圧は、駆動信号が第2状態S2から第1状態S1に切り替わり、駆動回路30が第2電圧V2から第1電圧V1に切り替えることにより、回路の時定数などに応じて第2電圧V2から第1電圧V1に徐々に変化する。
【0028】
半導体素子20は、駆動回路30が第2電圧V2を制御端子20cに印加した後、制御電圧が第1閾値Vth1を超えたことに応じて、オフ状態からオン状態に切り替わる。半導体素子20は、例えば、制御電圧が第1閾値Vth1未満の状態から第1閾値Vth1以上となったことに応じて、オフ状態からオン状態に切り替わる。このため、駆動信号の第1状態S1から第2状態S2への切り替わりのタイミングから、半導体素子20のオフ状態からオン状態への切り替わりのタイミングまでの間には、制御電圧の変化に応じた第1遅れ時間Td1が生じる。
【0029】
同様に、半導体素子20は、駆動回路30が第1電圧V1を制御端子20cに印加した後、制御電圧が第2閾値Vth2を超えたことに応じて、オン状態からオフ状態に切り替わる。半導体素子20は、例えば、制御電圧が第2閾値Vth2以上の状態から第2閾値Vth2未満となったことに応じて、オン状態からオフ状態に切り替わる。このため、駆動信号の第2状態S2から第1状態S1への切り替わりのタイミングから、半導体素子20のオン状態からオフ状態への切り替わりのタイミングまでの間には、制御電圧の変化に応じた第2遅れ時間Td2が生じる。
【0030】
第1遅れ時間Td1は、第1閾値Vth1の変化に応じて変化する。より具体的には、第1閾値Vth1が高い側に変化した場合に、第1遅れ時間Td1が長くなり、第1閾値Vth1が低い側に変化した場合に、第1遅れ時間Td1が短くなる。第2遅れ時間Td2は、第2閾値Vth2の変化に応じて変化する。より具体的には、第2閾値Vth2が高い側に変化した場合に、第2遅れ時間Td2が短くなり、第2閾値Vth2が低い側に変化した場合に、第2遅れ時間Td2が長くなる。従って、第1遅れ時間Td1の変化及び第2遅れ時間Td2の変化を検出することにより、第1閾値Vth1の変化及び第2閾値Vth2の変化を検出することができる。
【0031】
遅れ時間算出回路42は、素子電圧の検出結果、及び制御信号を基に、第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2を算出する。
【0032】
半導体素子20がオフ状態である場合には、一対の主端子20a、20b間に所定の電圧が表れる。一方、半導体素子20がオン状態である場合には、一対の主端子20a、20b間の電圧が実質的にゼロになる。従って、遅れ時間算出回路42は、素子電圧の検出結果を基に、半導体素子20のオフ状態及びオン状態を検出する。換言すれば、遅れ時間算出回路42は、素子電圧の検出結果を基に、制御電圧が第1閾値Vth1を超えたタイミング、及び制御電圧が第2閾値Vth2を超えたタイミングを検出する。
【0033】
遅れ時間算出回路42は、駆動信号の第1状態S1から第2状態S2への切り替わりのタイミングから素子電圧の高い状態から低い状態への切り替わりのタイミングまでの時間を計時することにより、第1遅れ時間Td1を算出する。そして、遅れ時間算出回路42は、駆動信号の第2状態S2から第1状態S1への切り替わりのタイミングから素子電圧の低い状態から高い状態への切り替わりのタイミングまでの時間を計時することにより、第2遅れ時間Td2を算出する。
【0034】
このように、閾値変化検出回路32は、例えば、第1遅れ時間Td1の変化を第1閾値Vth1の変化として検出し、第2遅れ時間Td2の変化を第2閾値Vth2の変化として検出する。但し、第1閾値Vth1の変化及び第2閾値Vth2の変化の検出方法は、これに限るものではない。例えば、制御端子20cの電圧を検出し、素子電圧が切り替わったタイミングにおける制御端子20cの電圧の変化を第1閾値Vth1の変化及び第2閾値Vth2の変化として検出してもよい。
【0035】
変換部12は、例えば、電流検出部22をさらに有する。電流検出部22は、例えば、変換部12のレグ毎に設けられる。例えば、変換部12が2レグの構成である場合には、2つの電流検出部22が変換部12に設けられ、変換部12が3レグの構成である場合には、3つの電流検出部22が変換部12に設けられる。
【0036】
電流検出部22は、上アームの半導体素子20と下アームの半導体素子20との交流接続点21と交流負荷との間に設けられる。電流検出部22は、交流接続点21から交流負荷に向かって流れる電流の向きを正とし、交流負荷から交流接続点21に向かって流れる電流の向きを負とする時に、交流接続点21に流れる電流の極性を検出する。また、電流検出部22は、遅れ時間算出回路42と接続され、交流接続点21に流れる電流の極性の検出結果を遅れ時間算出回路42に入力する。
【0037】
上アームの半導体素子20において、交流接続点21に流れる電流の極性が負の場合、素子電圧の変化のタイミングは、下アームの半導体素子20のスイッチングのタイミングによって決まる。このため、交流接続点21に流れる電流の極性が負の場合には、上アームの半導体素子20の第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2を正しく検出することができない。従って、上アームの半導体素子20に対応する駆動部14の遅れ時間算出回路42は、電流検出部22の検出結果を基に、交流接続点21に流れる電流の極性が正の場合にのみ第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2の算出を行い、交流接続点21に流れる電流の極性が負の場合には、第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2の算出を行わない。
【0038】
同様に、下アームの半導体素子20において、交流接続点21に流れる電流の極性が正の場合、素子電圧の変化のタイミングは、上アームの半導体素子20のスイッチングのタイミングによって決まる。このため、交流接続点21に流れる電流の極性が正の場合には、下アームの半導体素子20の第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2を正しく検出することができない。従って、下アームの半導体素子20に対応する駆動部14の遅れ時間算出回路42は、電流検出部22の検出結果を基に、交流接続点21に流れる電流の極性が負の場合にのみ第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2の算出を行い、交流接続点21に流れる電流の極性が正の場合には、第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2の算出を行わない。
【0039】
この例では、交流接続点21に流れる電流の極性の情報を電流検出部22から遅れ時間算出回路42に入力している。これに限ることなく、交流接続点21に流れる電流の極性の情報は、例えば、上位のコントローラなどから遅れ時間算出回路42に入力してもよい。
【0040】
なお、交流接続点21に流れる電流の極性は、素子電圧の極性と対応する。このため、交流接続点21に流れる電流の極性の代わりに、素子電圧の極性を用いて第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2を検出するか否かを判断してもよい。換言すれば、素子電圧の極性を基に、交流接続点21に流れる電流の極性の情報を取得してもよい。この場合、素子電圧の極性は、例えば、電圧検出回路40で検出すればよい。あるいは、素子電圧の極性を上位のコントローラなどから遅れ時間算出回路42に入力してもよい。
【0041】
遅れ時間算出回路42は、第1判定回路51及び第2判定回路52と接続されている。遅れ時間算出回路42は、半導体素子20のターンオン時の第1遅れ時間Td1の算出結果を第1判定回路51に入力する。そして、遅れ時間算出回路42は、半導体素子20のターンオフ時の第2遅れ時間Td2の算出結果を第2判定回路52に入力する。
【0042】
第1判定回路51は、比較器60、62と、OR回路64と、を有する。比較器60の非反転入力端子には、第1遅れ時間Td1の算出結果が入力される。比較器60の反転入力端子には、第1遅れ時間Td1の上限側の判定値が入力される。これにより、比較器60は、第1遅れ時間Td1の算出結果が上限側の判定値未満である場合に、LoをOR回路64に出力し、第1遅れ時間Td1の算出結果が上限側の判定値以上である場合に、HiをOR回路64に出力する。比較器60は、換言すれば、第1遅れ時間Td1の算出結果が上限側の判定値以上か否かを判定する。
【0043】
比較器62の非反転入力端子には、第1遅れ時間Td1の下限側の判定値が入力される。比較器62の反転入力端子には、第1遅れ時間Td1の算出結果が入力される。これにより、比較器62は、第1遅れ時間Td1の算出結果が下限側の判定値以上である場合に、LoをOR回路64に出力し、第1遅れ時間Td1の算出結果が下限側の判定値未満である場合に、HiをOR回路64に出力する。比較器62は、換言すれば、第1遅れ時間Td1の算出結果が下限側の判定値未満か否かを判定する。
【0044】
OR回路64は、比較器60、62の出力の双方がLoである場合に、Loを出力し、比較器60、62の出力の少なくとも一方がHiである場合に、Hiを出力する。すなわち、OR回路64は、第1遅れ時間Td1の算出結果が下限側の判定値以上かつ上限側の判定値未満である場合に、Loを出力し、第1遅れ時間Td1の算出結果が下限側の判定値未満又は上限側の判定値以上である場合に、Hiを出力する。
【0045】
このように、第1判定回路51は、第1遅れ時間Td1の算出結果が上限側の判定値以上か否かを判定するとともに、第1遅れ時間Td1の算出結果が下限側の判定値未満か否かを判定する。
【0046】
第1遅れ時間Td1の算出結果が、下限側の判定値以上かつ上限側の判定値未満である場合には、第1閾値Vth1が適切な範囲内にあると判断することができる。第1遅れ時間Td1の算出結果が、下限側の判定値未満又は上限側の判定値以上である場合には、第1閾値Vth1が適切な範囲よりも変化していると判断することができる。
【0047】
第1判定回路51は、OR回路64の出力を第1閾値Vth1の変化の検出結果として外部の制御装置などに出力する。これにより、半導体素子20のターンオン時の第1閾値Vth1が適切な範囲内にあるか否かを外部の制御装置などで把握することができる。
【0048】
第2判定回路52は、比較器70、72と、OR回路74と、を有する。第2判定回路52の構成は、第1判定回路51の構成と同様であるから、詳細な説明は省略する。第2判定回路52は、OR回路74の出力を第2閾値Vth2の変化の検出結果として外部の制御装置などに出力する。これにより、半導体素子20のターンオフ時の第2閾値Vth2が適切な範囲内にあるか否かを外部の制御装置などで把握することができる。
【0049】
図2に表したように、第2閾値Vth2は、第1閾値Vth1と異なる。このため、第2閾値Vth2に対して設定する判定値も、第1閾値Vth1に対して設定する判定値と異なる。このため、ターンオン時の第1閾値Vth1の変化、及びターンオフ時の制御電圧の第2閾値Vth2の変化を検出する場合には、上記のように、第1閾値Vth1の変化を検出する第1判定回路51と、第2閾値Vth2の変化を検出する第2判定回路52と、を設ける必要がある。但し、例えば、第1閾値Vth1と第2閾値Vth2とが同じである場合などには、1つの判定回路で第1閾値Vth1と第2閾値Vth2とを検出してもよい。
【0050】
また、第1判定回路51及び第2判定回路52に設定される各判定値は、複数の半導体素子20のそれぞれの第1閾値Vth1の初期値及び第2閾値Vth2の初期値に応じて、複数の半導体素子20毎に調整される。これにより、複数の半導体素子20毎の第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2のばらつきに対応することができる。
【0051】
外部の制御装置は、第1判定回路51の判定結果を基に、第1閾値Vth1が適切な範囲よりも変化していると判断した場合、又は、第2判定回路52の判定結果を基に、第2閾値Vth2が適切な範囲よりも変化していると判断した場合には、例えば、報知を行い、該当する半導体素子20の交換を電力変換装置10の管理者などに促す。これにより、意図せぬタイミングでの半導体素子20の故障や、それにともなう電力変換装置10の停止などを抑制し、電力変換装置10に重大な被害を与えてしまうことを抑制することができる。
【0052】
外部の制御装置は、第1判定回路51の判定結果を基に、第1閾値Vth1が適切な範囲よりも変化していると判断した場合、又は、第2判定回路52の判定結果を基に、第2閾値Vth2が適切な範囲よりも変化していると判断した場合に、例えば、電力変換装置10の動作を停止させてもよい。これにより、例えば、意図せぬタイミングで半導体素子20が故障し、これにともなって故障の範囲が広がってしまうことなどを抑制することができる。
【0053】
以上、説明したように、本実施形態に係る電力変換装置10では、閾値変化検出回路32が、対応する半導体素子20がオフ状態からオン状態に変化するターンオン時の制御電圧の第1閾値Vth1の変化、及び対応する半導体素子20がオン状態からオフ状態に変化するターンオフ時の制御電圧の第2閾値Vth2の変化を検出する。
【0054】
これにより、複数の半導体素子20の第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2の変化を検出することができる。例えば、SiCなどの比較的新しい半導体材料を複数の半導体素子20に用いた場合にも、未知の事象などによる第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2の変化を適切に検出することができる。SiCなどの比較的新しい半導体材料を複数の半導体素子20に用いた場合にも、意図せぬタイミングでの半導体素子20の故障を抑制することができる。
【0055】
また、上記のように、第1判定回路51及び第2判定回路52に設定される各判定値を、複数の半導体素子20のそれぞれの第1閾値Vth1の初期値及び第2閾値Vth2の初期値に応じて、複数の半導体素子20毎に調整する。これにより、意図せぬタイミングでの半導体素子20の故障をより確実に抑制することができる。
【0056】
なお、第1判定回路51及び第2判定回路52は、必ずしも上限側の判定値及び下限側の判定値を設定していなくてもよい。例えば、第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2が、高い側に変化するか、低い側に変化するかが予め分かっている場合には、上限側の判定値及び下限側の判定値のいずれか一方のみを設定すればよい。第1判定回路51は、第1遅れ時間Td1の算出結果が判定値を超えたか否かを判定するものでよい。第2判定回路52は、第2遅れ時間Td2の算出結果が判定値を超えたか否かを判定するものでよい。
【0057】
また、閾値変化検出回路32が、第1閾値Vth1の変化のみを検出する場合には、第2判定回路52を有することなく、第1判定回路51のみを有すればよい。閾値変化検出回路32が、第2閾値Vth2の変化のみを検出する場合には、第1判定回路51を有することなく、第2判定回路52のみを有すればよい。
【0058】
図3は、実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
図3に表したように、電力変換装置10aでは、変換部12が、複数の温度センサ24をさらに有する。なお、上記実施形態と機能・構成上実質的に同じものについては、同符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0059】
複数の温度センサ24は、複数の半導体素子20のそれぞれに対応して設けられ、複数の半導体素子20のそれぞれの温度を測定し、複数の半導体素子20のそれぞれの温度を表す温度情報を取得する。複数の温度センサ24は、取得した温度情報を複数の半導体素子20に対応する複数の駆動部14に入力する。
【0060】
電力変換装置10aの複数の駆動部14では、閾値変化検出回路32が判定値演算部44をさらに有する。駆動部14は、取得した対応する半導体素子20の温度情報を判定値演算部44に入力する。
【0061】
半導体素子20の第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2は、半導体素子20の温度に応じて変化する可能性がある。判定値演算部44は、入力された対応する半導体素子20の温度情報を基に、第1判定回路51及び第2判定回路52に設定される各判定値を補正し、補正後の各判定値を第1判定回路51及び第2判定回路52に設定する。
【0062】
これにより、半導体素子20の温度の変化にともなう第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2の変化に対応することができる。これにより、意図せぬタイミングでの半導体素子20の故障をより確実に抑制することができる。また、例えば、半導体素子20の温度の変化にともなう第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2の変化により、第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2が適切な範囲よりも変化していると不要に判断されてしまうことも抑制することができる。
【0063】
なお、半導体素子20の温度情報の取得方法は、必ずしも温度センサ24で測定する方法に限るものではない。半導体素子20の温度情報は、例えば、半導体素子20のオン時間や半導体素子20に印加される電圧の大きさなどを基に算出して取得してもよい。また、温度情報は、例えば、外部の制御装置などから判定値演算部44に入力してもよい。
【0064】
図4は、実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
図4に表したように、電力変換装置10bでは、駆動部14の閾値変化検出回路32において、第1判定回路51及び第2判定回路52が省略されている。
【0065】
電力変換装置10bでは、閾値変化検出回路32が、遅れ時間算出回路42で算出された第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2を第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2の変化の検出結果として外部の制御装置などに出力する。
【0066】
このように、第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2を外部の制御装置などに出力し、第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2の変化の傾向を外部の制御装置などで蓄積できるようにしてもよい。例えば、第1遅れ時間Td1及び第2遅れ時間Td2の変化の傾向から電力変換装置10bの管理者などに半導体素子20の交換時期などを判断させてもよい。
【0067】
また、この場合には、例えば、第1判定回路51及び第2判定回路52を外部の制御装置に設けることなどにより、第1閾値Vth1及び第2閾値Vth2が適切な範囲よりも変化しているか否かを外部の制御装置側で判断してもよい。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
10、10a、10b…電力変換装置、 12…変換部、 14…駆動部、 20…半導体素子、 20a、20b…主端子、 20c…制御端子、 21…交流接続点、 22…電流検出部、 24…温度センサ、 30…駆動回路、 32…閾値変化検出回路、 40…電圧検出回路、 42…遅れ時間算出回路、 44…判定値演算部、 51…第1判定回路、 52…第2判定回路、 60、62、70、72…比較器、 64、74…OR回路
図1
図2
図3
図4