(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20230801BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 621D
H01L21/304 622F
(21)【出願番号】P 2017070277
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2020-03-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 博仁
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】三國 匠
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/001755(WO,A1)
【文献】特開2016-196065(JP,A)
【文献】特開2003-171433(JP,A)
【文献】特開平9-278858(JP,A)
【文献】特開平8-34829(JP,A)
【文献】特開2007-17764(JP,A)
【文献】特表2003-522217(JP,A)
【文献】特開2012-223833(JP,A)
【文献】特開2010-82719(JP,A)
【文献】15308の化学商品,化学工業日報社,2008年1月22日発行,727~728ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂からなる研磨層を有する研磨パッドであって、
前記研磨層が、ポリイソシアネート化合物、硬化剤、及び微小中空球体を含むポリウレタン樹脂硬化性組成物
の硬化成形物であり、
前記ポリイソシアネート化合物が、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応
物であるプレポリマーであり、前記ポリイソシアネート成分がトリレンジイソシアネート
のみからなり、
前記トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比が、81:19~
90:
10であり、
前記硬化剤が3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン
のみからなる、
前記研磨パッド。
【請求項2】
ポリウレタン樹脂からなる研磨層を有する研磨パッドであって、
前記研磨層が、ポリイソシアネート化合物、硬化剤
、微小中空球体
、及び4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)を含むポリウレタン樹脂硬化性組成物
の硬化成形物であり、
前記ポリイソシアネート化合物が、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応
物であるプレポリマーであり、前記ポリイソシアネート成分がトリレンジイソシアネート
のみからなり、
前記トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比が、81:19~99:1であり、
前記硬化剤が3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン
のみからな
り、
前記プレポリマーと前記4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)との合計重量に対する前記4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)の重量割合が0.1~10重量%である、
前記研磨パッド。
【請求項3】
前記研磨層の連続1000回のテーバー摩耗試験による摩耗質量が99mg以上である、請求項1
又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比が、83:17~
90:
10である、請求項
1に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比が、85:15~
90:
10である、請求項1
又は4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂硬化性組成物が、前記プレポリマー、前記硬化剤、前記微小中空球体、及び
4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)を含み、
前記プレポリマーと前記
4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)との合計重量に対する前記
4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)の重量割合が0.1~10重量%である、請求項1
、4
、又は5に記載の研磨パッド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨パッドの製造方法であって、
ポリウレタン樹脂硬化性組成物を硬化させて前記研磨層を成形する工程を含む、研磨パッドの製造方法。
【請求項8】
光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨パッドを使用することを特徴とする、光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨パッドを使用して光学材料又は半導体材料の表面を研磨する際のスクラッチを低減する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料、半導体ウエハ、ハードディスク基板、液晶用ガラス基板、半導体デバイスなどの高度の表面平坦性を要求される材料の研磨を行うための研磨シート乃至研磨パッドに関する。本発明は、特に半導体ウエハの上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを研磨するのに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
光学材料、半導体ウエハ、ハードディスク基板、液晶用ガラス基板、半導体デバイスは非常に精密な平坦性が要求される。また半導体材料の表面は、金属、有機及び無機の絶縁材料など硬度の異なる様々な材料が露出している。このような材料の表面を平坦に研磨するためには、研磨パッドの表面も均一な剛性を維持していることが必要である。研磨パッドの表面の剛性が研磨作業の間に変化する場合には、所望の平坦性は達成できない。
【0003】
例えば、研磨開始から研磨パッド及び砥液を交換するまでの1回の研磨作業の終期には相当の研磨屑が発生している。研磨屑の蓄積が原因で開口部に目詰まりして、スラリーの保持が悪化し、摩擦熱が発生するので、1回の研磨作業の間に、研磨される材料の表面の温度は初期から終期にかけて上昇し、20℃~70℃を含む幅広い温度範囲で変化する。また、化学機械研磨に使用される研磨液は温度上昇とともに化学的作用(非研磨物の表面の腐食)が強くなる。したがって、被研磨物や研磨液の温度変化により、局部的に剛性が低下した研磨パッドの表面により、精密な平坦性は達成できず、また金属部分のみが優先的に研磨される現象(ディッシング)などが起こやすい傾向となる。
【0004】
また、研磨屑の蓄積は、通常、ドレッサーを用いて研磨パッドの表面を粗面化(ドレス)することにより解消する。このドレスに要する時間がかかり過ぎると、即ちドレス速度が低いと、研磨効率が悪くなる。
【0005】
多くの硬質研磨パッドは、ポリオール成分とイソシアネート成分との反応物であるウレタンプレポリマーを用い、ジアミン類又はジオール類等の硬化剤(鎖延長剤)、発泡剤、触媒等を添加混合して得られるポリウレタン組成物を硬化させるプレポリマー法により製造されている。プレポリマー法において、ウレタンプレポリマーを構成するイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネートが良く用いられ、その中でもトリレンジイソシアネートが最も良く用いられる。
【0006】
特許文献1には、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーに粒子の大きさの異なる2種類の微小中空球状体を含有させることで、研磨特性が向上し、研磨特性のバラツキが小さい研磨パッドが得られることが開示されており、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのイソシアネート成分として、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどが用いられることが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、ポリエステルポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体において、ポリイソシアネート類における2,4-トリレンジイソシアネートの含有量を65~75質量%とすることで、低密度で引張強さ、伸び等の機械的物性に優れたポリエステル系ポリウレタン発泡体が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-344902号公報
【文献】特開2008-156518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在市販されているトリレンジイソシアネートの製品としては、2,4-トリレンジイソシアネートが100%のもの、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの比率が80:20のもの、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの比率が65:35のものがあるが、これら市販のトリレンジイソシアネートを用いて製造した研磨パッドでは、ドレス性が十分でないため所定の研磨性能を示さないという問題点があった。
【0010】
本発明者らは、この課題を解決するために、研磨パッドのドレス性を向上させるべく、ウレタンプレポリマーを構成するイソシアネート成分について鋭意検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は以下のものを提供する。
[1]
ポリウレタン樹脂からなる研磨層を有する研磨パッドであって、
前記研磨層が、ポリイソシアネート化合物及び硬化剤を含むポリウレタン樹脂硬化性組成物を硬化させて形成され、
前記ポリイソシアネート化合物は、トリレンジイソシアネートを含み、
前記トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比が、81:19~99:1である、前記研磨パッド。
【0012】
[2]
前記ポリイソシアネート化合物が、ポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応によって得られるプレポリマーである、[1]に記載の研磨パッド。
【0013】
[3]
前記硬化剤が3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンを含む、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
【0014】
[4]
前記ポリウレタン樹脂硬化性組成物が微小中空球体をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の研磨パッド。
【0015】
[5]
前記研磨層の連続1000回のテーバー摩耗試験による摩耗質量が99mg以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の研磨パッド。
【0016】
[6]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の研磨パッドの製造方法であって、
前記研磨層を成形する工程を含む、前記方法。
【0017】
[7]
光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、[1]~[5]のいずれか1項に記載の研磨パッドを使用することを特徴とする、前記方法。
【0018】
[8]
[1]~[5]のいずれか1項に記載の研磨パッドを使用して光学材料又は半導体材料の表面を研磨する際のスクラッチを低減する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ドレス性に優れた研磨パッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1~8並びに比較例1及び2の引張強度(kg/mm
2)を示すグラフである。
【
図2】実施例1~8並びに比較例1及び2の引裂強度(kg/mm
2)を示すグラフである。
【
図3】実施例1~8並びに比較例1及び2のテーバー摩耗量(mg)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(作用)
本発明では、ポリウレタン樹脂硬化性組成物に含まれるポリイソシアネート化合物として、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比が、81:19~99:1であるトリレンジイソシアネートを使用する。
本発明者らは、予想外にも分子内の2つのイソシアネート基が異なる反応性を有する2,4-トリレンジイソシアネートと、分子の対称性が高い2,6-トリレンジイソシアネートとを特定の重量比とすることにより、引張強度などの力学的性質を許容できる範囲に維持しつつも、テーバー摩耗量が高くドレス性に優れる研磨パッドが得られることを見出した。
【0022】
(トリレンジイソシアネート)
本発明では、ポリウレタン樹脂硬化性組成物にトリレンジイソシアネートが含まれ、トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比としては、81:19~99:1が好ましく、83:17~97:3がより好ましく、85:15~95:5が特に好ましい。
(研磨パッド)
本発明の研磨パッドは、発泡ポリウレタン樹脂からなる研磨層を有する。研磨層は被研磨材料に直接接する位置に配置され、研磨パッドのその他の部分は、研磨パッドを支持するための材料、例えば、ゴムなどの弾性に富む材料で構成されてもよい。研磨パッドの剛性によっては、研磨パッド全体を1つの研磨層とすることができる。
本発明の研磨パッドは、研磨屑の蓄積時に被研磨材料にスクラッチ等のディフェクトが生じにくいことを除けば、一般的な研磨パッドと形状に大きな差異は無く、一般的な研磨パッドと同様に使用することができ、例えば、研磨パッドを回転させながら研磨層を被研磨材料に押し当てて研磨することもできるし、被研磨材料を回転させながら研磨層に押し当てて研磨することもできる。
【0023】
(研磨パッドの製造方法)
本発明の研磨パッドは、一般に知られたモールド成形、スラブ成形等の製造法より作成できる。まずは、それら製造法によりポリウレタンのブロックを形成し、ブロックをスライス等によりシート状とし、ポリウレタン樹脂から形成される研磨層を成形し、支持体などに貼り合わせることによって製造される。あるいは支持体上に直接研磨層を成形することもできる。
【0024】
より具体的には、研磨層は、研磨層の研磨面とは反対の面側に両面テープが貼り付けられ、所定形状にカットされて、本発明の研磨パッドとなる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。また、本発明の研磨パッドは、研磨層のみからなる単層構造であってもよく、研磨層の研磨面とは反対の面側に他の層(下層、支持層)を貼り合わせた複層からなっていてもよい。
【0025】
研磨層は、ポリイソシアネート化合物を含むポリウレタン樹脂硬化性組成物を調製し、前記ポリウレタン樹脂硬化性組成物を硬化させることによって成形される。
研磨層は発泡ポリウレタン樹脂から構成されるが、発泡は微小中空球体を含む発泡剤をポリウレタン樹脂中に分散させて行うことができ、この場合、ポリイソシアネート化合物、硬化剤、及び発泡剤を含むポリウレタン樹脂発泡硬化性組成物を調製し、ポリウレタン樹脂発泡硬化性組成物を発泡硬化させることによって成形される。
【0026】
ポリウレタン樹脂硬化性組成物は、例えば、ポリイソシアネート化合物を含むA液と、それ以外の成分を含むB液とを混合して調製する2液型の組成物とすることもできる。それ以外の成分を含むB液はさらに複数の液に分割して3液以上の液を混合して構成される組成物とすることができる。
【0027】
ここで、ポリイソシアネート化合物は、当業界でよく用いられるような、以下のポリイソシアネート成分とポリオール成分との反応により調製されるプレポリマーをいう。プレポリマーは未反応のイソシアネート基を含む当業界で一般に使用されているものが本発明においても使用できる。
(ポリイソシアネート成分)
上述のとおり、本発明では、ポリイソシアネート成分としてトリレンジイソシアネートを用いるが、それ以外のポリイソシアネート成分を併用して用いることができる。トリレンジイソシアネートと併用可能なポリイソシアネート成分としては、例えば、
m-フェニレンジイソシアネート、
p-フェニレンジイソシアネート、
ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、
ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、
4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、
3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、
3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソシアネート、
4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、
トリメチレンジイソシアネート、
ヘキサメチレンジイソシアネート、
プロピレン-1,2-ジイソシアネート、
ブチレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、
p-フェニレンジイソチオシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、
エチリジンジイソチオシアネート
等が挙げられる。
(ポリオール成分)
ポリオール成分としては、例えば、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;
ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;
エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール;
ポリカーボネートポリオール;
ポリカプロラクトンポリオール;
等が挙げられる。
【0028】
(硬化剤)
本発明では、硬化剤として、例えば、以下に説明するアミン系硬化剤を例示できる。
ポリアミンとしては、例えば、ジアミンが挙げられ、これには、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン;イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミンなどの脂肪族環を有するジアミン;3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)などの芳香族環を有するジアミン;2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン、特にヒドロキシアルキルアルキレンジアミン;等が挙げられる。また、3官能のトリアミン化合物、4官能以上のポリアミン化合物も使用可能である。
【0029】
特に好ましい硬化剤は、前述したMOCAであり、このMOCAの化学構造は、以下のとおりである。
【0030】
【0031】
(硬化剤の使用量)
硬化剤全体の量は、ポリイソシアネート化合物との当量比が0.6~1.2、好ましくは0.7~0.9となる量を用いる。
(微小中空球体)
微小中空球体をポリウレタン樹脂に混合することによって発泡体を形成することができる。微小中空球体とは、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素とからなる未発泡の加熱膨張性微小球状体を、加熱膨張させたものをいう。前記ポリマー殻としては、例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。同様に、ポリマー殻に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を用いることができる。
【0032】
(その他の成分)
その他に当業界で一般的に使用される触媒などをポリウレタン樹脂硬化性組成物に添加しても良い。
また、上述したポリイソシアネート成分をポリウレタン樹脂硬化性組成物にさらに添加することもでき、ウレタンプレポリマーとポリイソシアネート成分との合計重量に対するポリイソシアネート成分の重量割合は、0.1~10重量%が好ましく、0.5~8重量%がより好ましく、1~5重量%が特に好ましい。
ポリウレタン樹脂硬化性組成物にさらに添加するポリイソシアネート成分としては、上述のポリイソシアネート成分を特に限定なく使用することができるが、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)が好ましい。
【0033】
(ドレス性)
本発明の研磨パッドにおける研磨層は、連続1000回のテーバー摩耗試験による摩耗質量が99mg以上であることが好ましく、120mg以上であることがより好ましい。連続1000回のテーバー摩耗試験による摩耗質量の値が99mgより小さいと、研磨パッドのドレス性が不足し、ドレス時間が増大し研磨効率が低下する。
【0034】
(引張強度・引裂強度)
本発明のポリウレタン樹脂硬化性組成物を硬化させて形成された試験片の引張強度(kg/mm2)は、1.3~2.3(kg/mm2)が好ましく、1.4~2.2(kg/mm2)がより好ましく、1.5~2.1(kg/mm2)が特に好ましい。
また、上記試験片の引裂強度(kg/mm2)は、1.0~2.2(kg/mm2)が好ましく、1.1~2.1(kg/mm2)がより好ましく、1.2~2.0(kg/mm2)が特に好ましい。
【実施例】
【0035】
本発明を以下の例により実験的に説明するが、以下の説明は、本発明の範囲が以下の例に限定して解釈されることを意図するものではない。
(材料)
以下の例で使用した材料を列挙する。
・ウレタンプレポリマー:
第1のプレポリマー・・・2,4-トリレンジイソシアネート100重量%からなるトリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量460のウレタンプレポリマー
第2のプレポリマー・・・2,4-トリレンジイソシアネート80重量%、2,6-トリレンジイソシアネート20重量%からなるトリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量460のウレタンプレポリマー
・硬化剤:
MOCA・・・3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)
・微小中空球体の商品名:
日本フィライト社製 EXPANCEL 551DE40d42
(実施例1)
A成分に、2,4-トリレンジイソシアネート 100重量%からなるトリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量460のウレタンプレポリマー(第1のプレポリマー)と、2,4-トリレンジイソシアネート 80重量%、2,6-トリレンジイソシアネート 20重量%からなるトリレンジイソシアネートを主成分とするNCO当量460のウレタンプレポリマー(第2のプレポリマー)とを重量比5:95で混合したものを100g、B成分に硬化剤であるMOCA(NH当量=133.5)を30g、C成分に微小中空球体(EXPANCEL 551DE40d42)1g、D成分(追加の成分)に4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)2gをそれぞれ準備した。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は81:19である。また、A成分のウレタンプレポリマーとD成分の水添MDIとの合計重量に対するD成分の水添MDIの重量割合は約2重量%である。
【0036】
A成分とC成分とD成分を混合し、A成分とC成分とD成分の混合物及びB成分をそれぞれ減圧脱泡した後、A成分とC成分とD成分の混合物及びB成分を混合機に供給した。
得られた混合液を80℃に加熱した型枠(200mm×300mmの正方形)に注型し、1時間加熱し硬化させた後、形成された樹脂発泡体を型枠から抜き出し、その後120℃で5時間キュアリングした。この発泡体を1.3mm厚にスライスしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0037】
(実施例2)
実施例1のA成分のウレタンプレポリマーに代えて、第1のプレポリマーと第2のプレポリマーとを重量比20:80で混合したものを100g準備した。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は84:16である。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0038】
(実施例3)
実施例1のA成分のウレタンプレポリマーに代えて、第1のプレポリマーと第2のプレポリマーとを重量比50:50で混合したものを100g準備した。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は90:10である。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0039】
(実施例4)
実施例1のA成分のウレタンプレポリマーに代えて、第1のプレポリマーと第2のプレポリマーとを重量比80:20で混合したものを100g準備した。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は96:4である。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0040】
(比較例1)
実施例1のA成分のウレタンプレポリマーに代えて、第2のプレポリマーを100g準備した。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は80:20である。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0041】
(実施例5)
D成分を用いなかったこと以外は、実施例2と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は84:16である。
【0042】
(実施例6)
D成分を用いなかったこと以外は、実施例3と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は90:10である。
【0043】
(実施例7)
D成分を用いなかったこと以外は、実施例4と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は96:4である。
【0044】
(実施例8)
実施例1のA成分のウレタンプレポリマーに代えて、第1のプレポリマーと第2のプレポリマーとを重量比95:5で混合したものを100g準備した。また、実施例1と異なりD成分を用いなかった。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は99:1である。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0045】
(比較例2)
D成分を用いなかったこと以外は、比較例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。なお、A成分のウレタンプレポリマーにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比は80:20である。
【0046】
(試験方法)
(引張強度・引裂強度)
実施例1~8並びに比較例1及び2それぞれのウレタンシートを日本工業規格(JIS6550)の引張強さの測定で規定するダンベル状に切り出し、引張速度100mm/分、試験温度20℃で日本工業規格(JIS6550)に準じて引張強度(kg/mm2)を測定した。
【0047】
また、実施例1~8並びに比較例1及び2それぞれのウレタンシートを日本工業規格(JIS6550)の引裂強さの測定で規定する切り込みを有する長方形状に切り出し、引裂き速度100mm/分、試験温度20℃で日本工業規格(JIS6550)に準じて引裂強度(kg/mm2)を測定した。
【0048】
(テーバー摩耗)
実施例1~8並びに比較例1及び2それぞれの研磨パッドについて、日本工業規格(JIS K 6902)のテーバー摩耗試験に準じた方法に従い、320番手のサンドペーパーを用いて測定した。
【0049】
【0050】
【0051】
表1、
図1~3の実施例1~8並びに比較例1及び2に示すように、引張強度については、トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートの重量割合が上がるにつれて、小さくなる傾向にあり、一方、引裂強度については、トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートの重量割合が81:19~99:1である実施例1~8において、それ以外の重量割合の比較例1及び2に比べ概ね低い引裂強度を示すことがわかった。
【0052】
また、トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートとの重量比が、81:19~99:1である実施例1~8は、テーバー磨耗量が99mg以上と大きく、ドレス性に優れることがわかった。
【0053】
通常は、引張強度と引裂強度は相関がある物性と考えられているが、トリレンジイソシアネートにおける2,4-トリレンジイソシアネートの重量割合を変化させた場合に、引張強度と引裂強度が異なる挙動を示すことがわかった。理論に縛られるものではないが、このような特異的な引張強度及び引裂強度を示すことにより、結果として従来技術と比較して研磨パッドのドレス性の指標であるテーバー磨耗量が大きくなったものと推察される。