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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/29 20060101AFI20230801BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20230801BHJP
   H01B 7/32 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01B7/29
H01B7/18 H
H01B7/32 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018064712
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019175772
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-09-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 基
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 仁
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】柴垣 俊男
【審判官】松永 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-311120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B7/00
H01B7/17-7/288
H01B7/29-7/36
H01B7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の絶縁電線と前記複数本の絶縁電線を覆う外被とを有するケーブルであって、
前記ケーブルは、前記複数本の絶縁電線が互いに撚り合わされて構成され、
前記絶縁電線の導体断面積が0.2mm 以上5mm以下であり、
前記外被は、内側から順に、内層、金属層及び外層の三層を有し、
前記外層がフッ素樹脂であり、
前記外層の厚さが0.3mm以上2.0mm以下であり、
前記内層は顔料を含み、前記外層と前記内層とで色が異なるように着色されており、
前記金属層は金属編組であり、厚さが0.1mm以上1mm以下であり、
前記金属編組の密度が91%以上97%以下である、
ケーブル。
【請求項2】
前記内層がフッ素樹脂である、請求項1記載のケーブル。
【請求項3】
前記外層及び前記内層の少なくともいずれかが架橋されている、請求項1または請求項2に記載のケーブル。
【請求項4】
前記外層及び前記内層の少なくともいずれかがフッ素ゴムである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項5】
前記内層が押出成形により形成されたものである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項6】
前記内層の平均厚さに対する前記外層の平均厚さの比が1.90以上3.54以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、以下の通りのロボット溶接機用給電ケーブルが記載されている。前記ケーブルは、複合撚線導体上に耐熱性ゴムを被覆した2本の絶縁芯線が撚り合わされ、前記撚り合わせ絶縁芯線の円周内に形成される窪み部に介在物が充実され円形とされ、その外周上をテープが巻回され、更にシールド編組が施されている。そして、前記該シールド編組周上に柔軟性を有する熱可塑性プラスチツク樹脂で内部シースが被覆され、更にその外周を熱可塑性ウレタンエラストマーで外部シースが被覆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭64-20981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボット溶接機等を用いたアーク溶接ラインでアーク溶接を行う場合、溶接ライン上で可動の被溶接物(ワーク)の位置がセンサ(位置検知センサ)で検知される。位置検知センサはケーブルを介して検知情報を溶接機の制御機に伝送している。前記位置検知センサからの検知情報に基づき、ロボット溶接機の溶接アームが被溶接物に対して、アーク溶接を行う。この際、アーク溶接時に飛散した粒子(スパッタ)がケーブルに当たり、その熱でケーブルの外被が損傷することがある。
このため、従来のロボット溶接機で用いられる位置検知センサに接続されるケーブルは、数か月以内の頻度で交換する必要があった。
【0005】
そこで、本発明は、ロボット溶接機等で用いられる位置検知センサなどに接続されるケーブルとして、従来のものよりも耐熱性に優れ、長期の使用が可能なケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかるケーブルは、
(1)複数本の絶縁電線と前記複数本の絶縁電線を覆う外被とを有するケーブルであって、
前記外被は、内側から順に、内層、金属層及び外層の三層を有し、
前記外層がフッ素樹脂である、ケーブルである。
【発明の効果】
【0007】
上記によれば、ロボット溶接機で用いられる位置検知センサなどに接続して用いた場合でも、アーク溶接時に飛散したスパッタの熱による損傷を少なくすることができ、耐熱性に優れ、長期の使用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一態様に係るケーブルの概略を示す断面図である。
図2】本発明の一態様に係るケーブルの使用形態の一例であるロボット溶接機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を説明する。
本発明の一態様に係るケーブルは、
(1)複数本の絶縁電線と前記複数本の絶縁電線を覆う外被とを有するケーブルであって、
前記外被は、内側から順に、内層、金属層及び外層の三層を有し、
前記外層がフッ素樹脂である、ケーブルである。
この構成によれば、ロボット溶接機で用いられる位置検知センサなどに接続して用いた場合でも、アーク溶接時に飛散したスパッタの熱による損傷を少なくすることができる
【0010】
(2)前記金属層は金属編組であることが好ましい。
(3)前記金属編組の密度は91%以上97%以下であることが好ましい。
(4)前記内層はフッ素樹脂であることが好ましい。
(5)前記外層及び前記内層の少なくともいずれかが架橋されていることが好ましい。
上記(2)~(5)の構成によれば、より耐熱性及び強度が高くなり、アーク溶接時に飛散したスパッタの熱による損傷をより少なくすることができる。
【0011】
(6)前記外層及び前記内層の少なくともいずれかがフッ素ゴムであることが好ましい。
この構成によれば、可撓性が向上し、配線作業を容易にすることができ、また可動部に接続する場合にも有利になる。
(7)前記外層と前記内層とで色が異なることが好ましい。
この構成によれば、損傷・劣化の度合いと、交換のタイミングを判断し易くなる。
(8)前記内層が押出成形により形成されたものであることが好ましい。
この構成によれば、内層の形成作業が容易になり、かつ、内層が、絶縁電線と金属層との間に隙間なく充填されていることにより、より耐熱性及び強度を高くすることができる。
(9)前記内層の平均厚さに対する前記外層の平均厚さの比が1.90以上3.54以下であることが好ましい。
この構成によれば、耐熱性と可撓性のバランスを最適化することができるものと推測される。
【0012】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態に係るケーブルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態のケーブルの概略を示す断面図である。ケーブル1は、2本の絶縁電線2と2本の絶縁電線2を覆う外被3とを有する。外被3は、内側から順に、内層31、金属層32及び外層33の三層を有する。
【0013】
(絶縁電線)
絶縁電線2は、導体21が絶縁樹脂層22で被覆されてなるものである。
導体21の素材としては、必要な導電性を有するものであれば特に限定されないが、銅線(メッキ無しもしくは有)、銅合金線及び銅メッキ鋼線等が挙げられる。その中でも、軟銅線や銅合金線が好ましい。また導体21は撚線であることが好ましい。
導体21の断面積としては、特に限定されないが、0.08mm以上5mm以下が好ましく、0.2mm以上2.5mm以下がより好ましい。また、導体21の外径としては、特に限定されないが、0.38mm以上3mm以下であることが好ましく、0.55mm以上1.9mm以下であることがより好ましい。
【0014】
絶縁電線2の絶縁樹脂層22を構成する樹脂としては、特に限定されないが、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられる。その中でも、耐熱性が高いという観点からフッ素樹脂が好ましい。
絶縁樹脂層22に使用するフッ素樹脂の詳細については、後述の通りである。
絶縁樹脂層22の厚さとしては、特に限定されないが、0.05mm以上1mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1.4mm以下であることがより好ましい。また、絶縁樹脂層22の外径としては、特に限定されないが、0.48mm以上5mm以下であることが好ましく、0.8mm以上3mm以下であることがより好ましい。
絶縁樹脂層22は押出成形により形成されることが好ましい。
【0015】
図1のケーブル1においては、絶縁電線2を2本用いているが、本発明の一態様にかかるケーブルにおいては、絶縁電線は2本に限定されず、3本以上有していても良い。しかし、好ましくは2本以上3本以下である。
また、ケーブル1において、2本の絶縁電線2は、互いに撚合わされたものであっても良く、平行線であっても良いが、撚合わされたものであることが好ましい。撚合わされたものである場合には、その撚りピッチは、特に限定されないが、10mm以上であることが好ましく、17mm以上が好ましい。
【0016】
(外被)
2本の絶縁電線2の外側には、外被3を構成する内層31が存在する。
内層31の厚さとしては、特に限定されないが、0.1mm以上1mm以下であることが好ましく、0.15mm以上0.6mm以下であることがより好ましい。また、内層31の外径としては、特に限定されないが、1.16mm以上12.0mm以下であることが好ましく、1.9mm以上7.2mm以下であることがより好ましい。
内層31は樹脂で構成される。内層31を構成する樹脂としては、特に限定されないが、フッ素樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられる。その中でも、耐熱性が高いという観点からフッ素樹脂が好ましい。
内層31に使用するフッ素樹脂の詳細については、後述の通りである。
内層31の形成形態としては、特に限定されないが、押出成形、チューブ状資材中への絶縁電線2の挿入、及び、テープ状資材の絶縁電線2への巻付け等が挙げられる。その中でも、内層31の形成作業が容易になり、かつ、内層31が、絶縁電線2と後述の金属層32との間に隙間なく充填されることによりケーブル1の耐熱性と強度がより向上するという観点から、押出成形が好ましい。
【0017】
内層31の外側には、外被3を構成する金属層32が存在する。
金属層32が存在することにより、ケーブル1の耐熱性を向上させることができる。
金属層32の厚さとしては、特に限定されないが、0.05mm以上1mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.4mm以下であることがより好ましい。また、金属層32の外径としては、特に限定されないが、1.26mm以上14.0mm以下であることが好ましく、1.36mm以上12.8 mm以下であることがより好ましい。
金属層32を構成する金属種としては、特に限定されないが、鉄、銅、アルミニウム及びステンレス等が挙げられる。その中でも、耐熱性が高い(融点が高い)という観点から、鉄または銅が好ましい。
金属層32の形態としては、特に限定されないが、金属編組、横巻き、板巻きつけ等が挙げられる。その中でも、金属編組が好ましい。
【0018】
金属層32として金属編組を用いる場合には、その編組密度としては、通常のケーブルよりも高いことが好ましく、具体的には、91%以上97%以下が好ましく、93%以上95%以下がより好ましい。
なお、金属編組の密度(γ)は、以下の式で定義される。
【0019】
【数1】
【0020】
なお、上記式中、打数Cは、編組における金属線のまとまりである群の数を意味し、1打の持数Nは、編組における金属線のひとつの群の中の本数を意味する。
【0021】
金属層32の外側には、外被3を構成する外層33が存在する。
外層33はフッ素樹脂で構成されることにより、ケーブル1に必要な耐熱性を持たせることができる。
【0022】
外層33の厚さとしては、特に限定されないが、0.3mm以上2mm以下であることが好ましく、0.5mm以下1.4mm以上であることがより好ましい。また、外層33の外径としては、特に限定されないが、1.01mm以上20mm以下であることが好ましく、3.0mm以上12mm以下であることがより好ましい。外層33は押出成形により形成されることが好ましい。
外層33を構成するフッ素樹脂の詳細については、後述の通りである。
【0023】
なお、図1に示すケーブル1は、外被3は、内層31、金属層32及び外層33の三層で構成されているものであるが、必要に応じて更なる層を有していても良い。
【0024】
絶縁樹脂層22、内層31及び外層33に使用されるフッ素樹脂としては、特に限定されないが、ケーブル1の耐熱性と強度がより向上するという観点から、架橋されていることが好ましい。架橋フッ素樹脂とする際は、押出成型で、樹脂層を設けた後に、架橋させる。架橋方法としては、熱架橋であってもよく、電子線架橋であってもよいが、電子線架橋が好ましい。
また、フッ素樹脂としては、可撓性に優れ配線作業が容易になるという観点と可動部への接続にも使用できるという観点から、フッ素ゴムであることが好ましい。
【0025】
本実施形態のケーブル1においては、耐熱性と可撓性のバランスを最適化できるという観点から、内層31の平均厚さに対する外層33の平均厚さの比が1.90以上3.54以下であることが好ましく、2.30以上3.10以下であることがより好ましい。なお、内層31の平均厚さは、内層31の外径と、2本の絶縁電線を撚ったものまたは束ねたものの断面の最大長との差の二分の一で定義される。
【0026】
本実施形態のケーブル1は、ロボット溶接機等の配線等に使用することが好ましい。
ケーブル1が使用されるロボット溶接機の概略を図2に示す。
(溶接機)
図2に示すロボット溶接機100は、溶接アーム110と制御機120と稼働式のワークライン130を有する。溶接アーム110と制御機120は、給電・制御ケーブル140により接続されている。ワークライン130上には多数の位置検知センサ150が配置される。位置検知センサ150はワークライン130上の被溶接物(ワーク)200の位置を検知する。位置検知センサ150にはセンサケーブル160が接続されている。位置検知センサ150で検知されたワーライン130上のワーク200の位置情報は、センサケーブル160を介して、制御機120に伝送される。
ケーブル1は、主に、ロボット溶接機100のセンサケーブル160として使用することが好ましいが、給電・制御ケーブル140として使用しても良い。
【0027】
本実施形態のケーブル1を、ロボット溶接機100のセンサケーブル160として使用する場合、外層33と内層31とで色が異なるものとすることが好ましい。この場合、ケーブル1が使用中に損傷を受けた場合の交換のタイミングの判断を容易にできる。
例えば、内層31を構成する樹脂にオレンジ色の顔料等を含有させることにより、内層31を着色することが好ましい。
ケーブル1を、ロボット溶接機100のセンサケーブル160として使用した場合、ケーブル1の外層33の表面は、溶接時に飛散したスパッタによって黒く汚れる。そしてさらに使用を続けると、外層33および金属層32に穴が開いてくる。外層33および金属層32に開いた穴が内層31に達すると、黒色に汚れた外層33表面とは対照的に、内層31の鮮やかなオレンジ色等が現れる。この内層31のオレンジ色等が現れた時点をケーブル1の交換のタイミングとして判断することができる。
【実施例
【0028】
以下、本発明に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
〔実施例用ケーブルの作製〕
図1に示す形態のケーブル1を作成した。具体的な仕様は以下の通りとした。
絶縁電線2は2本用いた。
各絶縁電線2の導体21としては、断面積が0.3mm、外径が0.72mmの軟銅撚線を用いた。
絶縁電線2の絶縁樹脂層22は、フッ素ゴムの押出成形により樹脂層を設けた後に、電子線照射により架橋させて形成した。絶縁樹脂層22は、厚さを0.2mm、外径を1.12mmとした。
2本の絶縁電線2は撚りピッチ25で撚合せた。
【0030】
2本の絶縁電線2の外側の内層31は、フッ素ゴムの押出成形により樹脂層を設けた後に、電子線照射により架橋させて形成した。内層31は、平均厚さを0.25mm、外径を3.44mmとした。なお内層31は、ピグメントオレンジ顔料を樹脂成分に対して5wt%になるように含有させ、オレンジ色に着色した。
内層31の外側の金属層32は、厚さが0.7mmの金属編組を用いた。金属編組の素線には素線径dが0.14mmの軟銅線を用いた。1打の持数Nを6本、打数Cを16、電線の縦軸に対する素線の角度αを71.6度、編組のピッチPを28.6mm、編組下の径Dを3.44mm、編組密度(γ)を93.6%とした。
金属層32の外側の外層33は、フッ素ゴムの押出成形により樹脂層を設けた後に、電子線照射により架橋させて形成した。外層33は、平均厚さを0.68mm、外径を4.8mmとした。
【0031】
〔比較例用ケーブルの作製〕
内層31に代えて、同じ厚さのポリ塩化ビニル(PVC)層を押出成形で形成し、金属層32及び外層33に代えて、厚さ1.38mmのシリコーンチューブを用いた以外は、実施例用ケーブルと同様にして、比較例用ケーブルを作製した。
【0032】
〔実機使用試験〕
作製した実施例用ケーブル及び比較例用ケーブルを、それぞれ、図2に示すロボット溶接機100のセンサケーブル160に使用し、溶接作業を行った。同じ作業条件で連続して溶接作業を行い、2か月後の各ケーブルの外観を観察した。その結果、実施例用ケーブルの外層には、損傷が観られなかった。一方、比較例用ケーブルのシリコーンチューブには、多数の損傷穴が観られた。
【符号の説明】
【0033】
1:ケーブル
2:絶縁電線
21:導体
22:絶縁樹脂層
3:外被
31:内層
32:金属層
33:外層
100:ロボット溶接機
110:溶接アーム
120:制御機
130:ワークライン
140:給電・制御ケーブル
150:位置検知センサ
160:センサケーブル
200:被溶接物(ワーク)
図1
図2