(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用摩擦材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230801BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C09K3/14 520Z
C09K3/14 520G
F16D69/02 Z
(21)【出願番号】P 2019053712
(22)【出願日】2019-03-20
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】宮道 素行
(72)【発明者】
【氏名】大輪 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 健太
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-307528(JP,A)
【文献】特開平06-184524(JP,A)
【文献】特開昭52-086436(JP,A)
【文献】特開平10-220507(JP,A)
【文献】特開2006-125618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 49/00 - 71/04
CAplus/REGISTRY (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸塩、および、カルナバワックスまたはライスワックスを2.0~4.0質量%含有する、ディスクブレーキ用摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、鉄道車両及び産業機械等のディスクブレーキに用いられる摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を雨天及び早朝等の結露が発生する高湿度環境下で放置した後や、洗車後に放置した後では、水分が原因でブレーキにおける摩擦材及びロータが錆により固着する現象(以下、「錆固着現象」と称することがある。)が知られている。
【0003】
そこで、錆固着現象の原因となる発錆を抑制する摩擦材が種々提案されている。例えば、特許文献1では、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物を成型してなる摩擦材において、摩擦材組成物は、pH調整材としてアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を摩擦材組成物全量に対し2~6重量%と、繊維基材としてフィブリル化された有機繊維を摩擦材組成物全量に対し1~7重量%を含有し、且つ、撥水性成分の含有量が摩擦材組成物全量に対し0~0.5重量%であることを特徴とする摩擦材が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、繊維基材、摩擦調整材及び結合材を含む摩擦材であって、銅の含有量が銅元素換算で0.5質量%以下であり、前記結合材の含有量が10質量%以上であり、水酸化カルシウム及び亜鉛を含み、摩擦材のpHが11.7以上である、摩擦材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-25286号公報
【文献】特開2015-93933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、錆固着現象は、構造上水分が内部に保持されにくいディスクブレーキでは、ドラムブレーキに比べて発生しにくいとされる。
しかしながら、本発明者らの検討によると、近年ハイブリッド車や電気自動車に用いられている回生協調ブレーキでは、ディスクブレーキを使用した場合でも錆固着現象が発生しやすいという問題があった。
【0007】
回生協調ブレーキにおける摩擦材及びロータ間の摩擦負荷が従来のブレーキと比較して軽いので摩擦材及びロータ面の粗さが小さくなり、真実接触面積が大きくなる状態と、相手材である鋳鉄ロータ由来の鉄成分を含んだ摩耗粉が排出されにくい状態となる。これらの状態であって、かつ水分の影響を受けることによりロータと摩耗粉中の鉄成分が錆びて固着力を発生させることから上記問題が起こると考えられる。
【0008】
錆固着現象が原因で、自動車が発進した際に摩擦材とロータ摩擦面の錆固着が剥がれてインパクト加振が発生し、自動車足廻りや車体に振動が伝わり、異音が発生することがある。錆固着が酷い場合、自動車のクリープ力では発進できなくなる。
【0009】
また、摩擦材を比較的低温かつ高湿度環境下で放置すると、摩擦材の摩擦面と摩耗粉が吸湿し水分の影響を受けることにより、摩擦係数が一時的に増大する。摩擦係数が増大すると、ブレーキの制動力が高くなりすぎて異常効きが起きたり、鳴きが発生したりする。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、錆固着現象の発生を抑制することができ、低温高湿度環境下において放置後も安定した摩擦特性を有するディスクブレーキ用摩擦材を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、摩擦材に高級脂肪酸及び高級アルコールのエステルを主成分とするワックスを含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は下記<1>~<3>に関するものである。
<1>高級脂肪酸及び高級アルコールのエステルを主成分とするワックスを含有する、ディスクブレーキ用摩擦材。
<2>前記ワックスの融点が65~105℃である、<1>に記載のディスクブレーキ用摩擦材。
<3>チタン酸塩を含有する、<1>又は<2>に記載のディスクブレーキ用摩擦材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、錆固着現象の発生を抑制することができ、低温高湿度環境下において放置後も安定した摩擦特性を有するディスクブレーキ用摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0015】
摩擦材は一般的に、摩擦調整材、結合材、繊維基材を含有する。
本発明のディスクブレーキ用摩擦材(以下、「本発明の摩擦材」と称することがある。)は、高級脂肪酸及び高級アルコールのエステルを主成分とするワックスを摩擦調整材として含有する。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0016】
<摩擦調整材>
(高級脂肪酸及び高級アルコールのエステルを主成分とするワックス)
本発明の摩擦材は、高級脂肪酸及び高級アルコールのエステルを主成分とするワックス(以下、「ワックスA」と称することがある。)を含有することを特徴とする。
【0017】
摩擦材が相手材であるロータと摩擦することにより、摩耗粉が発生する。本発明の摩擦材がワックスAを含有すると、ワックスAは、ブレーキ制動時の摩擦によって発生する摩擦熱により軟化または溶融し、ロータ由来の鉄成分を含有する摩耗粉及びロータ表面を被覆する。その結果、摩耗粉粒子、摩擦材及びロータの摩擦面での水分の影響が抑制され、錆固着現象の発生が抑制されると考えられる。
【0018】
また、ワックスAには撥水性があるので、本発明の摩擦材がワックスAを含有すると、摩擦材の摩擦面の吸湿が抑制され、かつ摩耗粉がワックスAに被覆されるので、水分の影響による摩耗粉凝集体の凝着力が強固になるのが抑制され、低温高湿度環境下においても安定した摩擦特性を有する摩擦材となると考えられる。
【0019】
ワックスAは、高級脂肪酸及び高級アルコールのエステル(以下、「エステルB」と称することがある。)を主成分とする。本発明において、上記「主成分とする」とは、ワックスA中のエステルBの含有量が、50質量%以上であることを意味し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0020】
エステルBは、高級脂肪酸及び高級アルコールから公知の方法で得ることができる。例えば、脱水剤の存在下で高級脂肪酸及び高級アルコールを脱水縮合反応させればよい。
【0021】
本発明において、高級脂肪酸とは、炭素数が10以上の飽和又は不飽和脂肪酸を意味する。当該炭素数は、好適な融点のワックスAを得る観点から、好ましくは12以上、より好ましくは14以上であり、好ましくは45以下、より好ましくは40以下である。なお、高級脂肪酸は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。
【0022】
高級脂肪酸の具体例としては、例えば、セロチン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)等が挙げられる。これらの中でも、摩耗粉及びロータ表面の被覆性能の観点から、セロチン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸が好ましい。
【0023】
本発明において、高級アルコールとは、炭素数が6以上の飽和又は不飽和アルコールを意味する。当該炭素数は、好適な融点のワックスAを得る観点から、好ましくは10以上、より好ましくは20以上であり、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。なお、高級アルコールは、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。
【0024】
高級アルコールの具体例としては、例えば、ミリシルアルコール、1-ヘキサコサノール、トリアコンタノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、イコサノール、ドデセノール、フィセテリルアルコール、ゾーマリンアルコール、オレイルアルコール、ガドレイルアルコール、イコセノール、ドコセノール、ラノリンアルコール等が挙げられる。これらの中でも、摩耗粉及びロータ表面の被覆性能の観点から、ミリシルアルコール、1-ヘキサコサノール、トリアコンタノールが好ましい。
【0025】
エステルBとしては、例えば、ろうエステル等が挙げられる。
【0026】
ワックスAは、エステルB以外に、例えば、遊離脂肪酸(非エステル化脂肪酸)、遊離アルコール(非エステル化アルコール)、炭化水素、樹脂、ラクトン類等を含有してもよい。
遊離脂肪酸、遊離アルコールの炭素数は、例えば10~40、好ましくは15~35である。炭化水素の炭素数は、例えば10~40、好ましくは15~35である。
【0027】
ワックスAは、上記成分を、例えば100~250℃で混合及び撹拌することにより製造できる。また、ワックスAは、天然由来のものを用いることができる。中でも、環境負荷低減の観点から、天然由来のものを用いることが好ましい。
天然由来のワックスAとしては、例えば、カルナバワックス、ライスワックス等が挙げられ、粉末状が望ましい。
【0028】
カルナバワックスは、北ブラジルを産地とするヤシ科バーム樹から得られる。ライスワックスは、米ヌカから抽出された米油を精製する際に分離した蝋分を精製して得られる。
【0029】
ワックスAの融点は、好ましくは65~105℃、より好ましくは75~95℃、さらに好ましくは80~90℃である。ワックスAの融点が65℃以上であれば、摩擦材の製造工程において材料混合撹拌時に撹拌釜の壁等に付着するなどの悪影響を及ぼさない。また、回生協調ブレーキ等による制動負荷の軽い制動条件では、摩擦材とロータの摩擦面の温度が上昇しにくい。ワックスAの融点が105℃以下であれば、制動負荷の軽い制動条件でも軟化または溶融し、錆固着現象の発生が抑制されやすくなる。
【0030】
ワックスAの摩擦材全体中の含有量は、0.2~3.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5~2.5質量%、さらに好ましくは1.0~2.0質量%である。ワックスAの含有量が0.2質量%以上であれば、錆固着の発生が抑制でき、低温高湿度環境下に放置した後でも安定した摩擦特性を得やすい。ワックスAの含有量が3.0質量%以下であれば、摩擦材の熱膨張が大きくなりすぎない。
【0031】
(その他の摩擦調整材)
その他の摩擦調整材は、耐摩耗性、耐熱性、耐フェード性等の所望の摩擦特性を摩擦材に付与するために用いられる。
【0032】
その他の摩擦調整材としては、例えば、無機充填材、有機充填材、研削材、固体潤滑材等を挙げることができる。
【0033】
無機充填材としては、例えば、チタン酸塩、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ等の無機材料や、アルミニウム、スズ、亜鉛等の金属粉末が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0034】
なお、チタン酸塩は、摩擦材およびロータの摩擦面に摩擦皮膜を形成し比較的安定した摩擦特性を付与できるため、耐熱性、効き安定性、耐摩耗性の観点から摩擦材には比較的多く配合される。そのため、摩擦材とロータが摩擦した際に発生する摩耗粉中にもチタン酸塩成分が比較的多く存在する。チタン酸塩はその塩成分という化学構造により水に馴染みやすい。摩擦負荷の軽い回生協調ブレーキ時には、前述の通り、摩擦材とロータが摩擦した際に発生した摩耗粉の排出がされにくいため、摩擦材とロータ界面に摩耗粉が残りやすく軽負荷制動の繰り返しによって摩耗粉粒子がさらに細かくすりつぶされる。細かくすりつぶされたチタン酸塩を多く含む摩耗粉は吸湿性が高く水分の影響を受け摩耗粉凝集体を形成しやすくなる。そのような摩耗粉凝集体が摩擦材とロータの摩擦界面に存在している状態で制動することにより、強固に凝集した摩耗粉によりせん断力が強くなり、ブレーキ制動力が高くなりすぎて異常効きを起こすと考えられる。
【0035】
しかしながら、本発明では上述の通り、ワックスAによって当該摩耗粉を被覆できるので、チタン酸塩を用いた場合でも制動によって発生した摩耗粉の水分の影響を抑制し低温高湿度環境下で放置した後でも安定した摩擦特性が得られる。
【0036】
チタン酸塩を用いる場合、チタン酸塩の摩擦材全体中の含有量は、5~30質量%が好ましく、より好ましくは10~25質量%、さらに好ましくは15~20質量%である。
【0037】
チタン酸塩としては、例えば、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。これらの中でも、耐摩耗性が向上する点から、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムが好ましく、チタン酸カリウムがより好ましい。
【0038】
有機充填材としては、例えば、各種ゴム粉末(生ゴム粉末、タイヤ粉末等)、カシューダスト、タイヤトレッド、メラミンダスト等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0039】
研削材としては、例えば、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、酸化クロム、四三酸化鉄(Fe3O4)、クロマイト等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0040】
固体潤滑材としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、硫化錫、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0041】
摩擦調整材は、上記所望の摩擦特性を摩擦材に十分付与する観点から、摩擦材全体中、好ましくは60~85質量%、より好ましくは65~80質量%用いられる。
【0042】
<結合材>
結合材としては、通常用いられる種々の結合材を用いることができる。具体的には、フェノール樹脂、エラストマー等による各種変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0043】
エラストマー変性フェノール樹脂としては、例えば、アクリルゴム変性フェノール樹脂やシリコーンゴム変性フェノール樹脂、ニトリルゴム(NBR)変性フェノール樹脂等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0044】
結合材は、摩擦材の成形性の観点から、摩擦材全体中、好ましくは6~10質量%、より好ましくは7~9質量%用いられる。
【0045】
<繊維基材>
繊維基材としては、通常用いられる種々の繊維基材を用いることができる。具体的には、有機繊維、無機繊維、金属繊維が挙げられる。
【0046】
有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、耐炎性アクリル繊維等が挙げられる。
【0047】
無機繊維としては、例えば、生体溶解性無機繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられる。これらの中でも、人体への影響が少ない観点から、生体溶解性無機繊維が好ましい。生体溶解性無機繊維としては、例えば、SiO2-CaO-MgO系繊維、SiO2-CaO-MgO-Al2O3系繊維、SiO2-MgO-SrO系繊維等の生体溶解性セラミック繊維や生体溶解性ロックウール等が挙げられる。
金属繊維としては、例えば、スチール繊維等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0048】
繊維基材は、摩擦材の十分な強度を確保する観点から、摩擦材全体中、好ましくは6~12質量%、より好ましくは7~11質量%用いられる。
【0049】
なお、本発明の摩擦材全体中の銅成分の含有量は、環境負荷低減の観点から、0.5質量%以下が好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0050】
<摩擦材の製造方法>
本発明の摩擦材は、公知の製造工程により製造でき、例えば、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形、熱成形、加熱、研摩等の工程を経て摩擦材を製造することができる。
【0051】
摩擦材を備えたブレーキパッドの製造方法は、一般的に以下の工程を有する。
(a)板金プレスによりプレッシャプレートを所定の形状に成形する工程
(b)上記プレッシャプレートに脱脂処理、化成処理及びプライマー処理を施し、接着剤を塗布する工程
(c)摩擦調整材、結合材及び繊維基材等の原料を配合し、混合により十分に均質化して、常温にて所定の圧力で成形して予備成形体を作製する工程
(d)上記予備成形体と接着剤が塗布されたプレッシャプレートとを、所定の温度及び圧力を加えて両部材を一体に固着する熱成形工程(成形温度130~180℃、成形圧力30~80MPa、成形時間2~10分間)
(e)アフターキュア(150~300℃、1~5時間)を行って、最終的に研摩、表面焼き、及び塗装等の仕上げ処理を施す工程
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0053】
(参考例1~2、6~7、実施例3~5、8~9、比較例1)
表2に示す配合材料を、混合撹拌機に一括して投入し、常温で2~10分間混合し、摩擦材を得た。得られた摩擦材を以下の予備成形(i)、熱成形(ii)、加熱(iii)の工程を経て、摩擦材を備えたブレーキパッドを作製した。
【0054】
(i)予備成形
摩擦材を予備成形プレスの金型に投入し、常温にて20MPaで10秒間成形を行い、予備成形品を作製した。
(ii)熱成形
この予備成形品を熱成形型に投入し、予め接着剤を塗布した金属板(プレッシャプレート)を重ね、150℃、40MPaで5分間加熱圧縮成形を行った。
(iii)加熱
この加熱圧縮成形体に、200~250℃、3時間の熱処理を実施した後、研摩した。
次いで、この加熱圧縮成形体の表面に表面焼き処理を施し、仕上げに塗装を行い、摩擦材を備えたブレーキパッドを得た。
【0055】
参考例1~2、6~7、実施例3~5、8~9及び比較例1で得られた摩擦材を備えたブレーキパッドに対して以下の方法により、錆固着性及び摩擦係数安定性の評価を行った。
【0056】
<錆固着性>
後輪にビルトイン式ディスクブレーキを採用する自動車に、上記で得られたブレーキパッド及び鋳鉄ロータを設置した。
錆固着性の評価開始1日目に、下記の操作を行った。
【0057】
(1)摺り合せ:速度50km/h、減速度1.96m/s2、パッドIBT(Initial Brake Temperature)50℃以下にて100回制動
(2)水掛け:15L/min、3分間
(3)クリープにて3回制動
(4)パーキングブレーキをノッチ数7でかけて18時間屋外放置
(5)貼り付きを確認
(6)No.(1)~(5)の操作を1日とし、毎日繰り返した。
【0058】
試験4日目、11日目、14日目(11日目から14日目については3晩放置)のクリープ発進時の実車の音圧をについて助手席ヘッドレスト部分にマイクをセットし、音圧を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
試験4日目、11日目、14日目に測定した音圧を下記基準に基づき評価した。結果を表2に示す。
【0060】
◎:50dB未満または貼り付きなし
○:50dB以上60dB未満
△:60dB以上70dB未満
×:70dB以上またはクリープ発進不可
なお、上記「貼り付きなし」とは、摩擦材とロータ摩擦面が錆固着して剥がれる際の音がしなかったことを意味する。
【0061】
<低温高湿放置後、水濡れ時(結露状態の模擬)の平均摩擦係数変化>
得られたブレーキパッドを使用し、フルサイズのダイナモメーターを用いて下記表1に示す試験条件に基づき、評価を実施した。
制動条件1の平均摩擦係数、制動条件2の8時間放置後の平均摩擦係数、及び制動条件3の水スプレー噴霧後の平均摩擦係数をそれぞれ比較し、低温高湿放置後と水スプレー噴霧後の平均摩擦係数の変化率を下記式によって求め、下記基準に基づき評価した。結果を表2に示す。
【0062】
水スプレー噴霧は、結露状態の模擬を目的とし、インナー摩擦面及びアウター摩擦面それぞれに3mLずつ噴霧を実施した。
【0063】
【0064】
【0065】
◎:±5%未満
○:±5%以上±10%未満
△:±10%以上±15%未満
×:±15%以上
【0066】
【0067】
表2の結果から、実施例3~5、8~9に係る摩擦材は、比較例1に係る摩擦材と比べて、錆固着現象の発生を抑制することができ、低温高湿度環境下での放置後および結露状態において安定した摩擦特性を有することがわかった。