(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】吸着材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20230801BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230801BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
B01J20/20 A
B01J20/28 Z
B01J20/02 A
(21)【出願番号】P 2019113818
(22)【出願日】2019-06-19
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 響
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂輝
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0106337(US,A1)
【文献】特開2010-100516(JP,A)
【文献】特開平02-006308(JP,A)
【文献】特開2015-192977(JP,A)
【文献】特開2002-002823(JP,A)
【文献】特開平03-247714(JP,A)
【文献】特開2018-193611(JP,A)
【文献】特開2013-126661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0254491(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材と、
前記多孔質材の孔内部の金属鉄と、
前記多孔質材の表面の酸化鉄及び硫化鉄と、
を有する
リン及びヒ素を吸着する吸着材。
【請求項2】
前記金属鉄は繊維状である、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
繊維状の前記金属鉄は複数の線状体を含む、請求項2に記載の吸着材。
【請求項4】
前記金属鉄は結晶である、請求項1乃至3のいずれか一に記載の吸着材。
【請求項5】
前記酸化鉄又は前記硫化鉄は粒状である、請求項1又は2に記載の吸着材。
【請求項6】
多孔質材を硫酸鉄溶液に浸漬し、
前記浸漬の後、還元ガス雰囲気で前記多孔質材を熱処理することで、還元処理を行い、
前記還元処理の際に、前記還元ガスに加えて、二酸化炭素ガス、酸素ガス、及び水蒸気を加えて賦活し、
前記還元ガスは、一酸化炭素ガス、水素ガス、硫化水素ガス、二酸化硫黄ガス、又は炭化水素ガスである、
リン及びヒ素を吸着する吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着材に関する。特に、本発明はリン及びヒ素等の物質を吸着する吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の二酸化炭素の量を削減するために、二酸化炭素を人為的に回収し地中に貯留する技術が知られている。例えば、樹木や農作物等のバイオマスを利用して大気中の二酸化炭素を吸収させることで、当該二酸化炭素を有機炭素として固定することができる。しかし、これらのバイオマスは有機物であることから、そのままの状態で地中に貯留しても、腐敗や分解が起きてしまい、大気中に二酸化炭素を再放出してしまう。一方、バイオマスは、酸素を遮断した状態で加熱すると、酸素原子や水素原子が脱離し、炭素分及び灰分からなる炭化物を生成することができる。この炭化物は炭素の塊であることから、酸素の存在下において、高温で加熱しないかぎり燃焼されない。つまり、炭化物は環境中(地中)では非常に安定であり、ほとんど分解されることはない。
【0003】
これらの炭化物を、例えば建設材料などの産業分野の製品と置き換えることにより、二酸化炭素を社会生活環境下に固定することができる。さらに、これらの炭化物を地中に埋設することで、二酸化炭素を地中に隔離貯留することができる。つまり、炭化物の利用促進を図ることは、大気中の二酸化炭素の削減に繋がる。
【0004】
また、炭化物は土壌の土質を改善する効果を有する。しかしながら、炭化物の製造にかかるコストを考慮すると、単に炭化物を土壌の土質改善のためだけに利用することは、その製造コストに見合わない。
【0005】
他方、炭化物は多孔質であるため、表面積が非常に大きいことが知られている。この表面積の大きさを利用して、炭化物は多様な物質の吸着材として用いられている。例えば、特許文献1では、カルシウムを担持した炭化物を用いたリン吸着材が記載されている。また、特許文献2では、鉄を含有する炭化物をリン吸着材として用いることで、水中のリン(リン酸イオン)を吸着する技術が記載されている。また、非特許文献1では、バイオマスを炭化した炭化物を農地に還元する方法が記載されている。
【0006】
このように、単に土壌の土質改善のためだけではなく、例えば、特定の物質を吸着させることで、環境汚染を抑制することができる炭化物、又は、その特定の物質を他の用途に適用することができる炭化物の需要が増加してきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-75706号公報
【文献】特開2003-88878号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】地域振興のためのバイオマス簡易炭化と炭素貯留野菜COOL VEGE TM, 高温学会誌, 第37巻, 第2号 p37-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のリン吸着材では、籾殻又は珪藻土等のようにケイ素を多く含む材料を用いる必要がある。また、特許文献2のリン吸着材では、磁気カード炭、磁気テープ炭等の磁性材料を含む廃棄物の炭化物を用いる必要がある。ケイ素や磁性材料を多く含む材料を用いる場合、リン吸着材の製造量に限界があり、リンなどの物質を吸着することができる許容量に限界がある。また、非特許文献1に記載されたバイオマスの炭化物のみでは、リンの吸着性能が十分ではない。
【0010】
本発明の一実施形態は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、多様な材料を用いて製造可能な吸着材であって、対象物質の吸着許容量に優れた吸着材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、多孔質材と、前記多孔質材の孔内部の金属鉄と、前記多孔質材の表面の酸化鉄又は硫化鉄と、を有する。
【0012】
前記金属鉄は繊維状であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る吸着材は、多孔質材と、前記多孔質材の孔内部の繊維状の金属鉄と、を有する。
【0014】
前記多孔質材の表面に酸化鉄又は硫化鉄を有してもよい。
【0015】
繊維状の前記金属鉄は複数の線状体を含んでもよい。
【0016】
前記金属鉄は結晶であってもよい。
【0017】
前記金属鉄は、前記吸着材を粉砕してXRD分析した場合に鉄に起因する回折ピークを示す結晶性を備えてもよい。
【0018】
前記酸化鉄又は前記硫化鉄は粒状であってもよい。
【0019】
前記酸化鉄又は前記硫化鉄は、粒径が50μm以下の結晶であってもよい。
【0020】
前記多孔質材の孔が延びる方向に直交する断面における前記孔の孔径は100μm以下であってもよい。
【0021】
前記多孔質材の粒径は10mm以下であってもよい。
【0022】
前記酸化鉄は、少なくともウスタイト、ヘマタイト、マグヘマタイト、及びマグネタイトのいずれかを含んでもよい。
【0023】
前記硫化鉄は、少なくとも硫化第二鉄、硫化第一鉄、及び二硫化鉄のいずれかを含んでもよい。
【0024】
前記多孔質材は、バイオマスを炭化した炭化物であってもよい。
【0025】
前記多孔質材は、リグノセルロースを炭化した炭化物であってもよい。
【0026】
前記リグノセルロースは、木材、パーティクルボード、おがくず、農業廃棄物、汚水、サイレージ、草、もみ殻、バガス、綿、ジュート、麻、亜麻、竹、サイザル麻、アバカ、わら、麦わら、トウモロコシ軸、トウモロコシストーバ、スイッチグラス、アルファルファ、乾草、ヤシの毛、海藻、藻類、及びそれらの混合物からなる群より選択される一つ以上の材料であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一実施形態によれば、多様な材料を用いて製造可能な吸着材であって、対象物質の吸着許容量に優れた吸着材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る吸着材の断面構造を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る吸着材の断面SEM像である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の孔内部に存在する繊維状の金属鉄の組成分析結果である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面SEM像である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面に存在する繊維状の付着物の組成分析結果である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る吸着材において、
図4に示す多孔質材の表面を拡大したSEM像である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面に存在する粒状の物質の組成分析結果である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面に存在する繊維状の物質の組成分析結果である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る吸着材において、
図4に示す多孔質材の表面をさらに拡大したSEM像である。
【
図10】
図9のSEM像に示された物質の組成分析結果である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る吸着材のXRD分析結果を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図13】本発明の一実施形態に係る吸着材に用いられる多孔質材の孔形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態における吸着材及び吸着材の製造方法について説明する。但し、本発明の一実施形態における吸着材及び吸着材の製造方法は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す例の記載内容に限定して解釈されない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は同一の符号の後にアルファベットを付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0030】
以下の実施形態では、吸着材に用いられる多孔質材として、木材を炭化した炭化物について例示するが、この構成に限定されない。例えば、炭化物は木材以外の有機物を炭化したものであってもよい。また、多孔質材は、炭化物以外の多孔質な部材であってもよい。また、特に技術的な矛盾が生じない限り、異なる実施形態間の技術を組み合わせることができる。
【0031】
以下の実施形態において、多孔質材の孔の大きさを孔径といい、粒状物質の大きさを粒径という。孔径は、特段の記載が無い限り、孔が延長する方向に対して直交する断面における孔の大きさを指す。ただし、孔が長手を有するものではない場合、孔径は任意の断面における孔の大きさを指す。孔径は、任意の断面における孔の円相当径であってもよく、当該断面における最大径又は平均径であってもよい。同様に、粒径は、任意の断面図又は投影面における粒状物質の円相当径であってもよく、当該断面図又は投影面における最大径又は平均径であってもよい。
【0032】
[吸着材10の構造]
図1~
図11を用いて、本実施形態に係る吸着材10の構造について説明する。本実施形態において、吸着材10に用いられる多孔質材100として、木材が炭化された炭化物が用いられた構成について説明する。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態に係る吸着材の断面構造を示す図である。
図1に示す断面図は、多孔質材100の孔200が延びる方向に対して直交する断面図である。つまり、各孔200は図面の奥行き方向に延びている。
【0034】
図1に示すように、吸着材10は、多孔質材100、金属鉄600、酸化鉄800、及び硫化鉄900を有する。金属鉄600は、多孔質材100の孔200(後述するマクロ孔200)の内部に含まれる。各々の金属鉄600の形状は繊維状である。繊維状の金属鉄600は、複数の線状体610によって構成されている。線状体610の一端又は両端が内壁201に付着されている場合がある。又は、線状体610の一端又は両端が内壁201に固定されている場合がある。線状体610の一端又は両端が内壁201に固定されることで、金属鉄600が孔200の内部に保持されている。多数の線状体610が孔200の内部に存在することで、金属鉄600は繊維状の形状を構成している。つまり、以下の説明において、線状体610は繊維状の金属鉄600の一部を意味している。なお、説明の便宜上、
図1の下方に描かれた孔200の内部の金属鉄600は省略されている。
【0035】
孔200内部の金属鉄600が繊維状であることで、孔200の内部は金属鉄600によって完全に埋められることなく、金属鉄600が存在しない空間が孔200の延長方向に連続して延びている。また、金属鉄600が繊維状であるので、孔200の内壁だけでなく孔200の内部の空間にも金属鉄600が存在している。ここで、孔200及び金属鉄600は図の奥行き方向に延びているので、孔200を孔200の延長方向に見たときに、金属鉄600が孔200の内部空間を満たしているように見える。
【0036】
孔200の延長方向に直交する断面における孔200の孔径は100μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下である。線状体610の、孔200の内壁の一方の位置から他方の位置までの長さは、100μm以下、50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下である。線状体610の太さ(金属鉄600の延長方向(又は、長手方向)に直交する断面における線状体610の太さ)は、10μm以下、5μm以下、3μm以下、2μm以下、又は1μm以下である。なお、孔200の延長方向に直交する断面における多孔質材100の粒径は10mm以下、5mm以下、3mm以下、又は2mm以下である。詳細は後述するが、線状体610は結晶成長していると考えられる。つまり、例えば金属材料を加工することで形成した線状又は繊維状の金属とは異なり、上記のように長さ及び太さは非常に小さい。
【0037】
酸化鉄800及び/又は硫化鉄900は、少なくとも多孔質材100の表面に存在している。酸化鉄800は繊維状である。硫化鉄900は粒状である。酸化鉄800は硫化鉄900よりも広範囲に形成されている。硫化鉄900の円相当径は50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下である。
【0038】
本実施形態では酸化鉄800が繊維状であり、硫化鉄900が粒状である構成を例示したが、この構成に限定されない。例えば、酸化鉄800が粒状であり、硫化鉄900が繊維状であってもよく、酸化鉄800及び硫化鉄900の両方が繊維状又は粒状であってもよい。また、本実施形態では、金属鉄600は孔200の内部にのみ存在し、酸化鉄800及び硫化鉄900は多孔質材100の表面にのみ存在する構成を例示したが、この構成に限定されない。金属鉄600が多孔質材100の表面に存在してもよい。同様に、酸化鉄800及び硫化鉄900が孔200の内部に存在してもよい。
【0039】
[各部材の材料]
吸着材10に用いられる多孔質材100として、バイオマスを炭化した炭化物を用いることが可能であり、代表的にはリグノセルロースを炭化した炭化物を用いることができる。リグノセルロースとして、木材、パーティクルボード、おがくず、農業廃棄物、汚水、サイレージ、草、もみ殻、バガス、綿、ジュート、麻、亜麻、竹、サイザル麻、アバカ、わら、麦わら、トウモロコシ軸、トウモロコシストーバ、スイッチグラス、アルファルファ、乾草、ヤシの毛、海藻、藻類、及びそれらの混合物からなる群より選択される一つ以上の材料を用いることができる。
【0040】
多孔質材100の表面の酸化鉄800として、少なくともウスタイト、ヘマタイト、マグヘマタイト、及びマグネタイトのいずれかを用いることができる。多孔質材100の表面の硫化鉄900として、少なくとも硫化第二鉄、硫化第一鉄、及び二硫化鉄のいずれかを用いることができる。
【0041】
[吸着材10の分析結果]
図1に示す吸着材10について、実際に製造した吸着材10の走査電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)像を用いて詳細に説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る吸着材の断面SEM像である。
図2に示すように、中央に示された孔200の内部に繊維状の金属鉄600が存在している。繊維状の金属鉄600は、複数の線状体610によって構成されている。
図2において、孔200の内壁に相当する領域を点線3で示した。繊維状の金属鉄600のうち、各々の線状体610の長さは孔200の孔径よりも小さい。なお、
図2中の四角と十字が重なったマーク及びその近くの数字は測定画面に表示されたものに過ぎず、発明に係る構成を特定するものではない。
【0042】
本実施形態における多孔質材100の孔200の孔径は100μm以下であり、線状体610の長さも100μm以下である。
図2の例では、孔200の孔径は約20μmであり、線状体610の長さは10μm以上20μm以下である。ここで、繊維状の金属鉄600は孔200の延長方向にも延びているため、金属鉄600が連続する最長の長さは100μmを超える場合がある。
【0043】
図2の線状体610のうち、枠601の領域について組成分析をした結果を
図3に示す。
図3は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の孔内部に存在する繊維状の金属鉄の組成分析結果である。
図3の組成分析は、SEM装置に付属するエネルギー分散型X線分光法(EDS;Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)によって測定された分析結果である。
【0044】
図3に示すように、
図2の線状体610をEDS分析した結果、鉄(Fe)及び炭素(C)が検出された。ここで、炭素(C)は枠601の近傍に含まれる多孔質材に起因するものであり、線状体610に起因するものではない。つまり、線状体610は鉄(つまり、ゼロ価の鉄)であることが確認された。
【0045】
図4は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面SEM像である。
図4に示すように、多孔質材100の表面には、粒状の付着物と繊維状の付着物が存在していることが確認された。詳細は後述するが、粒状の付着物は硫化鉄900であり、繊維状の付着物は酸化鉄800であることが確認されている。
【0046】
図4の繊維状の付着物(酸化鉄800)のうち、枠801の領域について組成分析をした結果を
図5に示す。
図5は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面に存在する繊維状の付着物の組成分析結果である。
図5に示すように、
図4の繊維状の付着物(酸化鉄800)をEDS分析した結果、鉄(Fe)、酸素(O)、及び炭素(C)が検出された。つまり、当該繊維状の付着物は酸化鉄であることが確認された。
【0047】
図6は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材100の表面を拡大したSEM像である。
図6は、
図4の多孔質材100の表面の一部を拡大したSEM像である。
図6に示すように、多孔質材100の表面には、粒径が10μm以下の粒状の付着物が存在している。なお、
図6中の四角と十字が重なったマーク及びその近くの数字は測定画面に表示されたものに過ぎず、発明に係る構成を特定するものではない。
【0048】
図6の粒状の付着物(硫化鉄900)のうち、枠901の領域について組成分析をした結果を
図7に示す。
図7は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面に存在する物質の組成分析結果である。
図7に示すように、
図6の粒状の付着物(硫化鉄900)をEDS分析した結果、鉄(Fe)、硫黄(S)、及び炭素(C)が検出された。つまり、当該粒状の付着物は硫化鉄であることが確認された。
【0049】
図6の繊維状の付着物(酸化鉄800)のうち、枠803の領域について組成分析をした結果を
図8に示す。
図8は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面に存在する物質の組成分析結果である。
図8に示すように、
図6の繊維状の付着物(酸化鉄800)をEDS分析した結果、鉄(Fe)、酸素(O)、及び炭素(C)が検出された。つまり、当該繊維状の付着物は酸化鉄であることが確認された。
【0050】
図9は、本発明の一実施形態に係る吸着材において、多孔質材の表面をさらに拡大したSEM像である。
図9は、
図6の多孔質材100の表面において、硫化鉄900に隣接する位置に存在する繊維状の付着物(酸化鉄810)を拡大したSEM像である。
図9に示すように、低倍率(
図6に示す倍率)において繊維状に見える付着物(酸化鉄810)は、非常に小さな粒状の物質が連結されたものであることが確認された。なお、
図9中の四角と十字が重なったマーク及びその近くの数字は測定画面に表示されたものに過ぎず、発明に係る構成を特定するものではない。
【0051】
図9の粒状の酸化鉄810のうち、枠811の領域について組成分析をした結果を
図10に示す。
図10に示すように、
図9の粒状の酸化鉄810をEDS分析した結果、鉄(Fe)、酸素(O)、及び炭素(C)が検出された。
【0052】
図11は、本発明の一実施形態に係る吸着材のX線回折法(XRD;X-Ray Diffraction)分析結果を示す図である。多孔質材100の孔200の内部の金属鉄600、多孔質材100の表面の酸化鉄800及び硫化鉄900をまとめて評価するために、吸着材10を粒径が100μm以下になるまで粉砕してXRD分析を行った。
図11に示すように、XRD分析によって鉄(Fe)、酸化鉄(ウスタイト(FeO))、及び硫化鉄(FeS)に起因するピークが確認された。
【0053】
図2~
図10の結果及び
図11の結果から、多孔質材100の孔200の内部の金属鉄600は結晶性を有する鉄であり、多孔質材100の表面の酸化鉄800は結晶性を有する酸化鉄であり、多孔質材100の表面の硫化鉄900は結晶性を有する硫化鉄であることが確認された。
【0054】
上記のように、本実施形態に係る吸着材10は、多孔質材100の孔200の内部に結晶性を有する繊維状の金属鉄600が存在し、多孔質材100の表面に結晶性を有する酸化鉄800及び硫化鉄900が存在する構成を備えている。吸着材10の詳細な製造方法は後述するが、孔200の内部にゼロ価の鉄を存在させるために高温の熱処理(還元処理)を行う必要がある。この還元処理によって孔200の内部の金属鉄600が酸化又は硫化してしまうと、吸着材10の吸着性能が低くなってしまう。したがって、還元処理の際に孔200の内部の金属鉄600が酸化又は硫化することを抑制することが好ましい。本実施形態では、分析をした範囲では多孔質材100の孔200の内部に酸化鉄又は硫化鉄は確認されなかった。これは、多孔質材100の表面に粒状の硫化鉄900及び繊維状の(非常に小さな粒状の物質が数珠状に連なった)酸化鉄800が形成されることで、つまりこれらの物質が積極的に酸化又は硫化されることで、孔200の内部に設けられた金属鉄600の酸化又は硫化が抑制されたためと考えられる。また、前記硫化鉄、酸化鉄が形成されることによって、表面の炭化物と空気中の酸素との反応がある程度抑制され、製造直後に酸素との反応熱により、炭化物が燃焼してしまうことを防いでいると考えられる。
【0055】
また、多孔質材100の孔200の内部の金属鉄600が繊維状であることで、孔200の内部における金属鉄600の表面積を大きくすることができ、吸着材10の吸着性能を向上させることができる。また、金属鉄600が繊維状であることで、単に金属鉄600の表面積が大きくなり、金属鉄と被吸着物質の接触面積を増大させることができる。したがって、上記の構成によって、吸着材10の吸着性能を向上させることができる。
【0056】
[吸着材10の製造方法]
図12及び
図13を用いて、本実施形態に係る吸着材10の製造方法について説明する。本実施形態において、炭化物の孔の中に鉄化合物を導入する方法として、鉄を含む溶液に炭化物を浸漬する方法が用いられ、炭化物の孔の中に付着した鉄化合物が還元されることで、ゼロ価の鉄粒子が炭化物の孔の中に配置される方法について説明する。
【0057】
図12は、本発明の一実施形態に係る吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
図13は、本発明の一実施形態に係る吸着材に用いられる多孔質材の孔形状を示す断面図である。
【0058】
図12に示すように、ステップS101で有機物が炭化される。本実施形態では、有機物として木材が用いられる。有機物の炭化は、大気雰囲気に比べて酸素比が小さい雰囲気での熱処理によって行われる。
【0059】
炭化炉には主に二種類あり、炭化に必要な熱を外部から供給する炭化炉を外熱式と呼び、材料から熱を確保するものを内燃式と呼ぶ。外熱式は酸素を遮断して炭化し、内燃式は炭化に必要な最低限の熱量を確保するために必要な燃焼のための酸素を供給する。つまり、基本的には還元条件下、高温で加熱するプロセスを炭化と呼ぶ。有機物を還元条件下で加熱すると、昇温途中(例えば、約280℃)で有機物中の組成分解が始まり、有機物内の酸素、水素が、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、炭化水素などのガスとして揮発し、炭素分の多い無定形炭素に変化していく。さらに高温で加熱し続けることで、有機物内の酸素、水素がさらに減少し、純度の高い固定炭素及び灰分から構成される炭化物を形成する。このような変化により、有機物は炭化物に変わる。有機物内の水分や構成成分が揮発性ガス等として脱離し、一定量の炭素が残存するため、有機物の炭化によって形成される炭化物には多数かつ大小様々な連続多孔が形成されることになる。炭化温度の上昇に伴い炭素化が進行して形成される炭化物は、耐熱性(耐火性)、吸着性、導電性の性質を有するようになる。有機物の炭化によって形成された炭化物は、多孔質材100の一例である。この場合、多孔質材100は導電性を有している。
【0060】
ここで、
図13を用いて、多孔質材100として炭化物が用いられた場合における、多孔質材100の孔形状について説明する。
図13に示すように、多孔質材100は、マクロ孔200(
図1の孔200に相当する)、メソ孔210、及びミクロ孔220を有する。マクロ孔200は、多孔質材100の表面に繋がる孔である。多孔質材100の内部において、マクロ孔200が細分化されてメソ孔210が形成されており、メソ孔210が細分化されてミクロ孔220が形成されている。マクロ孔200のサイズは、100μm以下、50μm以下、30μm以下、又は20μm以下である。メソ孔210のサイズは、おおよそ2nm以上50nm以下である。ミクロ孔220のサイズは、おおよそ0.5nm以上2nm以下である。
【0061】
図12に示すように、ステップS101の有機物の炭化とは別に、ステップS103で鉄又は鉄化合物を含む溶液120の準備が行われる。本実施形態では、溶液120として、鉄を含む水溶液が用いられる。具体的には、溶液120として、無機鉄又は無機鉄化合物が溶解された塩化第1鉄水溶液(FeCl
2)、塩化第2鉄水溶液(FeCl
3)、硝酸第1鉄水溶液(Fe(NO
3)
2)、硝酸第2鉄水溶液(Fe(NO
3)
3)、硫酸第1鉄水溶液(FeSO
4)、又は硫酸第2鉄水溶液(Fe(SO
4)
3)が用いられる。又は、溶液120として、有機鉄化合物としてたんぱく質と結合したヘム鉄が溶解された溶液も使用できる。ヘム鉄が含まれる動物の血液などの廃棄物を利用してもよい。これらの溶液を特に区別しない場合、単に鉄溶液という場合がある。なお、溶液120は上記の鉄溶液に限定されず、上記以外の鉄を含む溶液であってもよい。また、溶液の溶媒は水だけでなく、メタノール、エタノール、フェノール、ベンゼン、ヘキサンなどの有機溶媒でも構わない。
【0062】
ステップS105で、ステップS101で形成された炭化物を、ステップS103で形成された溶液120に浸漬する。
【0063】
ステップS107で、多孔質材100が溶液120中に浸漬した状態で、これらが配置された雰囲気を減圧(脱気)する。あるいは、多孔質材100が配置された状態で雰囲気を減圧し、その後溶液120を注入して、多孔質材100を溶液120に浸漬させてもよい。または、多孔質材100を浸漬し減圧した後、加圧する方法を採用してもよい。この減圧処理によって、上記の孔の内部に気泡が残ってしまう現象を解消することができる。なお、このような現象が発生しない、又はこのような現象が吸着材10の特性に与える影響が大きくなければ、この減圧処理を省略することができる。
【0064】
ステップS109で、ステップS107で減圧された雰囲気を大気圧に戻し、多孔質材100を溶液120から取り出す。多孔質材100を溶液120から取り出す方法としては、遠心分離による脱液など公知の方法を用いることができる。ステップS111で溶液120を染みこませた多孔質材100の乾燥を行う。この乾燥によって溶液120に含まれる液体を除去する。また、この乾燥によって、鉄化合物111が多孔質材100の孔の中及びその表面に付着する。この乾燥は、多孔質材100を加熱しながら行われる。また、多孔質材100を乾燥する際に、多孔質材100が配置された環境の湿度を調整してもよい。この乾燥は次のステップの還元プロセスの熱処理時に同時に行ってもよい。
【0065】
図12のステップS113で、多孔質材100の孔の中及びその表面に付着した鉄化合物111の還元処理が行われる。言い換えると、鉄化合物111は、マクロ孔200、メソ孔210、及びミクロ孔220のうち少なくともいずれか一の孔の内壁に付着した状態で還元される。還元処理は、還元ガス雰囲気での熱処理によって行われる。この還元処理によって、二価もしくは三価の鉄化合物111が還元され、ゼロ価の鉄になる。このようにして、本実施形態に係る吸着材10が製造される。吸着材10に含まれるゼロ価の鉄が、リンやヒ素などを吸着する。詳細は後述するが、この還元処理として高温の熱処理が行われ、
図1に示すような繊維状の金属鉄600が形成されたと考えられる。なお、上記の熱処理によって、鉄化合物111の一部が熱分解し、酸化鉄及び/又は硫化鉄が形成される。この後、酸化鉄及び/又は硫化鉄の一部が還元され、金属鉄となる。
【0066】
なお、ステップS101において用いられる有機物として、生立木(広葉樹、針葉樹、竹などの間伐材、林地廃材を含む)、製材工場又は木材加工工場の廃材(鋸屑、樹皮屑、チップ屑、端切材を含む)、植物性の殻、建築解体材又は家具材の木質系廃材を用いることができる。ステップS101で生成される炭化物は、例えば木炭又は竹炭である。木炭は、竹炭の他に、白炭、黒炭、オガ炭、ヤシ殻炭、モミ殻炭、粉炭を含んでもよい。
【0067】
ステップS101における有機物の炭化温度は、400℃以上1200℃以下、500℃以上1100℃以下、600℃以上1000℃以下、又は700℃以上900℃以下である。有機物の炭化雰囲気は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気、無酸素雰囲気、還元雰囲気、又は減圧雰囲気である。有機物の炭化を減圧雰囲気で行う場合、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-101200Pa以上-1300Pa以下の低真空状態、-101299.9Pa以上-101200Pa以下の中真空状態、-101299.99999Pa以上-101299.9Pa以下の高真空状態、又は-101299.99999Pa以下の超高真空状態で行うことができる。また、減圧後に加圧する場合は、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-101.3MPa以上0.8987MPa以下、-101.3MPa以上0.3987MPa以下で上記処理を行うことができる。有機物の炭化時間は10分以上10日以下、10分以上5時間以下である。また、有機物の炭化を低酸素雰囲気で行う場合、酸素濃度は0.01%以上3%以下、又は0.1%以上1%以下で行うことができる。有機物の炭化は、内燃式もしくは外熱式で、バッチ式の開放型や密閉型の炭窯炉、連続式のロータリーキルンや揺動式炭化炉、スクリュー炉、加熱チャンバ、蓋がされた耐熱容器(坩堝)を用いて行うことができる。
【0068】
本実施形態では、ステップS101において有機物を炭化することで多孔質材100を得る方法を例示したが、多孔質材100として市販された炭化物を用いてもよい。
【0069】
ステップS103で用いられる溶液120に含まれる鉄の質量パーセント濃度は0.1wt%以上50wt%以下、1wt%以上40wt%以下、又は3wt%以上30wt%以下である。ステップS103で多孔質材100が溶液120に浸けられる時間は、10秒以上24時間以下、1分以上5時間以下、又は2分以上1時間以下である。圧力容器に入れて炭化物を浸漬後に減圧する場合あるいは、減圧後に浸漬する場合、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-0.101MPa以上-0.02MPa以下、-0.101MPa以上-0.04MPa以下、又は-0.101MPa以上-0.08MPa以下とすることができる。また、減圧後に加圧する場合は、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-101.3MPa以上0.8987MPa以下、-101.3MPa以上0.3987MPa以下で上記処理を行うことができる。この場合、減圧浸漬時間は、通常よりも短くて構わなく、所定のゲージ圧力に達してから任意の時間を採用できるが、好ましくは1秒以上1時間以下、10秒以上10分以下、又は30秒以上5分以下から適宜選択すればよい。
【0070】
ステップS103で用いられる溶液120の溶媒として、水、メタノール、エタノール、フェノール、ベンゼン、ヘキサンなどの有機溶媒が用いられる。なお、本実施形態では、ステップS103において溶液120を作製する方法を例示したが、溶液120は市販品のものを用いてもよい。
【0071】
また、溶液120に、鉄イオン110の分散を促進する分散剤を追加してもよい。当該分散剤として、例えば界面活性剤を用いることができる。界面活性剤として、陰イオン(アニオン)界面活性剤、陽イオン(カチオン)界面活性剤、両性(双性)界面活性剤、非イオン(ノニオン)界面活性剤、及び高分子界面活性剤を用いることができる。陰イオン界面活性剤として、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、及びアルキルベンゼンスルホン酸塩を用いることができる。陽イオン界面活性剤として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩クロリド、アルキルピリジウムクロリド、及びアルキルベンジルジメチルアンモニウム塩を用いることができる。両性界面活性剤として、アルキルジメチルアミンオキシド及びアルキルカルボキシベタインを用いることができる。非イオン界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、オクチルフェノールエトキシレート、及びアルキルモノグリセリルエーテルを用いることができる。高分子界面活性剤として、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、及びポリエチレンイミンを用いることができる。分散剤の濃度は0.01%以上20%以下、又は0.01%以上1%以下である。なお、炭化物は高温で炭化しないと疎水性(非親水性)を有するため、水が内部に入りにくい。このため、溶液120に界面活性剤を含ませることにより、溶液120を多孔質材100の内部に浸透しやすくさせることができる。
【0072】
ステップS105において、多孔質材100を溶液120に浸漬する前に、多孔質材100に上記の界面活性剤を供給してもいい。界面活性剤の供給は、多孔質材100の上面に塗布することで行われてもよく、界面活性剤を含む溶液に多孔質材100を浸漬することで行われてもよい。また、ステップS107と同様に、界面活性剤を多孔質材100に供給した状態で脱気を行ってもよい。
【0073】
また、多孔質材100は溶液120に浸漬しなくてもよい。例えば、多孔質材100の表面に溶液120を塗布することで、溶液120を多孔質材100の孔の中に染みこませてもよい。
【0074】
ステップS107において、より効率的に気泡130を孔の外に拡散させるために、脱気の際に振動を与えてもよい。この振動は超音波振動であってもよい。また、脱気の際に多孔質材100を加熱してもよい。また、脱気の際に、多孔質材100を溶液120中で傾ける又は回転させてもよい。脱気の際の圧力は、通常大気圧をゼロとしたゲージ圧で-0.101MPa以上-0.03Mpa以下で、脱気時間は10秒以上1時間以下、又は30秒以上10分以下である。
【0075】
多孔質材100として炭化物が用いられる場合、炭化物は疎水性であるため、多孔質材100の孔の中に鉄イオン110を含んだ溶液120が染みこみ難い場合がある。このような場合、多孔質材100の孔(マクロ孔200、メソ孔210、ミクロ孔220)に存在する空気によって、多孔質材100の多くは液面に浮いてしまう。このような状態であっても、減圧することで、上記の孔に存在する空気を多孔質材100の外に引き出し、溶液120の外に排出することができる。これにより、多孔質材100の孔において、気泡130が存在していた領域に、鉄イオン110を含む溶液120を充填させることができる。
【0076】
上記のステップS105~S111の工程は、複数回繰り返し行われてもよい。また、ステップS107及びS109の工程が、複数回繰り返し行われてもよい。また、ステップS109の大気圧に戻す工程を経ずに、減圧された状態のままステップS111の乾燥を行ってもよい。その場合、当該乾燥の後に大気圧に戻してもよく、減圧のままステップS113の還元を行ってもよい。また、上記の乾燥及び還元を同一工程で行ってもよい。上記の工程を複数回繰り返すことで、多孔質材100に付着する鉄化合物111の量を増やすことができる。
【0077】
ステップS113における鉄化合物111の還元温度は、少なくとも500℃以上であればよい。還元温度の範囲は、例えば500℃以上1200℃以下、500℃以上1000℃以下、500℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下である。鉄化合物111の還元処理に用いられる還元ガスは、一酸化炭素ガス、水素ガス、硫化水素ガス、二酸化硫黄ガス又は炭化水素ガスである。これらのガスを外部から導入する利点は、多孔質材100に付着する炭素、酸素、硫黄、水素等が加熱により反応し、還元ガスが発生する場合に比べて、還元後の吸着材の歩留まりが高まることも本発明の一つの効果である。また、一酸化炭素と水素を混ぜるなど、還元ガスを混合しても構わない。さらに還元ガスは爆発性や可燃性の観点から取り扱いが難しいガスも多いため、これらを不活性ガスで希釈しても構わない。例えば、一酸化炭素濃度を1%以上20%以下になるように、窒素ガスで希釈することができる(つまり、窒素の濃度が99%以下80%以上である)。還元時間は1分以上10時間以下、10分以上2時間以下である。当該還元は、バッチ式、連続式のどちらでも構わなく、加熱と還元ガス(不活性ガスとの混合でも構わない)の導入ができる構造であれば、管状炉、箱型炉を適宜用いることができる。還元性ガスとして一酸化炭素ガスを用いる場合、還元温度は、少なくとも500℃以上であればよい。この場合の還元温度の範囲は、例えば500℃以上1200℃以下、500℃以上1000℃以下、500℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下とすることができる。また、還元性ガスとして水素ガスが用いられる場合、還元温度は、少なくとも100℃以上であればよい。この場合の還元温度の範囲は、例えば100℃以上1200℃以下、100℃以上900℃以下、又は700℃以上900℃以下とすることができる。
【0078】
なお、鉄化合物111を還元する際に、還元ガスに加えて、二酸化炭素ガス、酸素ガス、水蒸気を加え、賦活することで、還元と同時に多孔質材100に微細な孔を増やす(活性炭化する)ことができる。多孔質材100を活性炭化することで、多孔質材100の表面積をより大きくすることができる。
【0079】
ステップS113において、多孔質材100に付着する炭素、酸素、硫黄、水素等が加熱により反応し、還元ガスが発生する場合、当該ガスを用いて、多孔質材100の孔の中及びその表面に付着した鉄化合物111の還元処理を行ってもよい。この場合、不活性ガス又は希ガス等を加熱装置に導入してもよい。
【0080】
本実施形態では、多孔質材100にメソ孔210及びミクロ孔220が形成された後に、鉄を含む溶液120を多孔質材100の孔の中に染みこませ、乾燥させて、その鉄化合物111を還元することで上記のような吸着材10を実現することができた。
【0081】
また、本実施形態では、還元を炭化とは別の熱処理で行うため、還元に適した条件を適宜選択することができる。例えば、炭化と還元処理とを異なる装置で行うことができる。又は、炭化温度と還元温度とを異なる温度や時間で処理することができる。又は、炭化と還元処理とを異なる雰囲気で行うことができる。
【0082】
多孔質材100が炭化物の場合、炭化物は導電性が高いため、炭化物とその孔の中に付着したゼロ価の鉄の結晶粒子との間で電子交換が速やかに行われる。したがって、ゼロ価の鉄の結晶粒子を含む炭化物を水中に入れると、多孔質体表面でゼロ価の金属鉄が速やかにイオン化し、オキシ水酸化鉄(FeOOH)などの水酸化物を生成し、水中に存在するリン酸イオンと反応し、リン酸鉄を形成して炭化物に吸着固定することができる。上記と同様に、多孔質材100として、導電性を有する材料を用いることで、効率よくリンを吸着することができる。
【0083】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、本実施形態の吸着材を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。さらに、上述した各実施形態は、相互に矛盾がない限り適宜組み合わせが可能であり、各実施形態に共通する技術事項については、明示の記載がなくても各実施形態に含まれる。
【0084】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0085】
10:吸着材、 100:多孔質材、 110:鉄イオン、 111:鉄化合物、 120:溶液、 130:気泡、 200:マクロ孔、 201:内壁、 210:メソ孔、 220:ミクロ孔、 600:金属鉄、 601:枠、 610:線状体、 800:酸化鉄、 801:枠、 810:酸化鉄、 811:枠、 900:硫化鉄、 901:枠