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特許7323353繊維集合体とその製造方法、および、前記繊維集合体を備えた複合体
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  • 特許-繊維集合体とその製造方法、および、前記繊維集合体を備えた複合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】繊維集合体とその製造方法、および、前記繊維集合体を備えた複合体
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/59 20060101AFI20230801BHJP
   D06M 101/20 20060101ALN20230801BHJP
   D06M 101/30 20060101ALN20230801BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
D06M15/59
D06M101:20
D06M101:30
D06M101:32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019120720
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021006668
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-037054(JP,A)
【文献】特開2004-324007(JP,A)
【文献】特公平01-038903(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
D06M 13/00 - 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂と、構成繊維としてポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうちいずれかの樹脂のみで構成された繊維のみを備える、繊維集合体であって、
前記ポリイミド系樹脂は、前記繊維の表面に被膜状に存在しており、
前記繊維集合体は、前記繊維間に前記ポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有している、
繊維集合体。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維集合体を備えた、複合体。
【請求項3】
繊維集合体の製造方法であって、
(1)構成繊維としてポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうちいずれかの樹脂のみで構成された繊維のみを備えていると共に、前記繊維同士が一体化している部分を有する、前駆繊維集合体を用意する工程、
(2)ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液を、前記前駆繊維集合体へ付与する工程、
(3)前記前駆繊維集合体へ付与されている前記ポリイミド系樹脂の前駆体をイミド化する工程、
を備える、繊維集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド系樹脂と前記ポリイミド系樹脂以外の有機樹脂を含有し構成された繊維とを備える繊維集合体、その製造方法、および、前記繊維集合体を備えた複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維集合体は様々な産業用途、例えば、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、水電解膜、燃料電池の高分子電解質膜などといった様々な産業用途に使用可能な複合膜の支持体として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータやセパレータの支持部材、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタ、貼付薬用基材やマスクなどの医療用途、緩衝材やシーリング材、吸液材、内装用表皮材、細胞培養基材や細胞分離部材、導電性部材や絶縁材、放熱部材や保温材、芯地や中綿などに使用されている。
そして、これらの産業用途に合わせ様々な種類の繊維が繊維集合体の構成繊維として採用されているが、例えばポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂といった熱可塑性樹脂などを含有する繊維を構成繊維に採用した場合、例えば強度や耐溶剤性に劣ることがあり、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供するのが困難なことがあった。
この問題を解決可能な技術として、特表平6-506389号公報(特許文献1)には、ポリマー溶液にポリオレフィンやポリエステルなどを含んだ繊維を通過させることで、全表面にわたって当該ポリマー層を備える繊維(以降、表面改質繊維と称することがある)を製造する方法が開示されている。そして、特許文献1には本製造方法によって、全表面にわたってポリイミド層を備えたポリプロピレン繊維を製造できること、そして、当該表面改質繊維を用いてガス分離用複合膜を作製できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平6-506389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人は、特許文献1に記載されている表面改質繊維の製造方法について検討した。検討の結果、当該製造方法により製造した表面改質繊維を用いても、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供するには限界があると考えられた。
【0005】
具体的には、接着繊維やバインダによる一体化をすることなく繊維同士を絡合させるなどして表面改質繊維のみを用いて繊維集合体を調製した場合、調製した繊維集合体では表面改質繊維同士が一体化していないため、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、表面改質繊維の脱落が発生する恐れや、繊維同士の絡合状態に変化が発生する恐れがあった。
また、表面改質繊維同士をバインダで一体化させて繊維集合体を調製した場合、調製した繊維集合体では図1に図示するように、間にポリイミド系樹脂(2)の層を介して繊維(1)同士が一体化しているため、繊維同士が一体化している部分に「繊維(1)-ポリイミド系樹脂(2)の層-バインダ(3)-ポリイミド系樹脂(2)の層-繊維(1)」と多数の界面が存在している。そして、当該界面の数が多いほど界面に剥離が発生する可能性は高まり、繊維同士の一体化している部分に破壊が発生し易い。その結果、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、繊維同士の一体化状態に変化が発生する恐れがあった。
このように従来技術を用いる限りでは、強度に優れた繊維集合体を提供するには限界があると考えられた。
【0006】
そのため、特許文献1など従来技術の限りでは、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供するには限界があるものであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の本発明は、
「ポリイミド系樹脂と、構成繊維としてポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうちいずれかの樹脂のみで構成された繊維のみを備える、繊維集合体であって、
前記ポリイミド系樹脂は、前記繊維の表面に被膜状に存在しており、
前記繊維集合体は、前記繊維間に前記ポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有している、
繊維集合体。」
である。
【0009】
の本発明は、
請求項1に記載の繊維集合体を備えた、複合体。」
である。
【0010】
第三の本発明は、
「繊維集合体の製造方法であって、
(1)構成繊維として、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうちいずれかの樹脂のみで構成された繊維のみを備えていると共に、前記繊維同士が一体化している部分を有する、前駆繊維集合体を用意する工程、
(2)ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液を、前記前駆繊維集合体へ付与する工程、
(3)前記前駆繊維集合体へ付与されている前記ポリイミド系樹脂の前駆体をイミド化する工程、
を備える、繊維集合体の製造方法。」
である。


【発明の効果】
【0011】
本願出願人は検討の結果、「ポリイミド系樹脂と、前記ポリイミド系樹脂以外の有機樹脂を含有する繊維とを備える、繊維集合体であって、前記ポリイミド系樹脂は、前記繊維の表面に被膜状に存在して」いるという構成を有しており、更に、繊維間にポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有している繊維集合体は、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体であることを見出した。
具体的には、繊維同士が一体化してなる部分を有しているため、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、繊維の脱落が発生し難く、繊維同士の絡合状態に変化が発生し難い繊維集合体である。
また、間にポリイミド系樹脂の層を介することなく繊維同士が一体化しており、繊維同士の一体化している部分に破壊が発生し難い。そのため、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、繊維同士の一体化状態に変化が発生し難い繊維集合体である。
つまり、より強度に優れた繊維集合体を提供することができる。
以上から、本発明により、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供できる。
【0012】
また、本発明により、繊維を構成する有機樹脂としてポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうち少なくとも一種類の有機樹脂を採用した場合であっても、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供できる。
【0013】
更に、本発明にかかる繊維集合体を用いることで、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、複合体を提供できる。
【0014】
そして、本発明にかかる繊維集合体の製造方法は、繊維同士が一体化している部分を有する前駆繊維集合体に、ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液を付与し、前記前駆体をイミド化する(ポリイミド系樹脂にする)ことを特徴としている。
そのため、繊維同士が一体化してなる部分を有しているため、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、表面改質繊維の脱落が発生し難く、繊維同士の絡合状態に変化が発生し難い繊維集合体を製造できる。
また、間にポリイミド系樹脂の層を介することなく繊維同士が一体化しており、繊維同士の一体化している部分に破壊が発生し難い。そのため、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、繊維同士の一体化状態に変化が発生し難い繊維集合体を製造できる。
つまり、より強度に優れた繊維集合体を提供することができる。
以上から、本発明により、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】特許文献1にかかる、表面改質繊維同士をバインダで一体化させて調製した繊維集合体における、繊維同士が一体化している部分の断面を示した、断面模式図である。
図2】本発明にかかる繊維集合体における、繊維同士が一体化している部分の断面を示した、断面模式図である。
図3】本発明にかかる別の繊維集合体における、繊維同士が一体化している部分の断面を示した、断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。
なお、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、室温雰囲気下(25℃、一気圧下)で測定を行った。また、各種測定結果あるいは算出結果は特に記載のない限り、測定あるいは算出によって求める値よりも一桁小さな値まで求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、少数第一位までが求める値である場合、測定あるいは算出によって少数第二位まで値を求め、得られた少数第二位の値を四捨五入することで少数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。
【0017】
本発明にかかる繊維集合体は、ポリイミド系樹脂と、ポリイミド系樹脂以外の有機樹脂を含有する繊維とを備えている。
【0018】
なお、本発明でいう繊維集合体(同様に前駆繊維集合体)とは、繊維を含んだ構造体を指し、例えば、繊維ウェブや不織布、ニットやメッシュなどの織物や編物などの布帛であることができる。特に、表面積や空隙率が大きく柔軟性に優れるなどの諸特性に優れること、そして、繊維がランダムに存在してなる構造であることによって、強度の向上や補強性などが効率良く発揮され、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得ることから、繊維集合体や前駆繊維集合体は繊維ウェブや不織布であるのが好ましい。
【0019】
本発明でいうポリイミド系樹脂とは、イミド結合を骨格内に有する有機樹脂の総称であり、例えば強度や耐溶剤性などの諸性能に優れる有機樹脂である。本発明にかかる繊維集合体を提供できるよう、その種類は適宜選択できるものであるが、例えば、芳香族ポリイミド系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂、透明ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂などを採用することができる。
特に、芳香族ポリイミド系樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂などは耐溶剤性に優れていることから、これらのポリイミド系樹脂を採用することで耐溶剤性に優れ、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供でき好ましい。
また、繊維集合体が備えるポリイミド系樹脂の種類は、一種類であっても複数種類であってもよく、複数種類のポリイミド系樹脂が混合してなる混合樹脂を備えていても良い。
【0020】
ポリイミド系樹脂以外の有機樹脂の種類は、本発明にかかる繊維集合体を提供できるよう適宜選択できるものであるが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)、ポリフェニレンサルファイド系樹脂など、公知の有機樹脂を選択できる。
【0021】
なお、これらの有機樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、複数種類の有機樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0022】
特にポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂は細い繊維を作製し易く、不織布の薄膜化が可能になることから、繊維集合体(同様に前駆繊維集合体)はポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうち少なくとも一種類の有機樹脂を含有する繊維を備えているのが好ましく、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうちいずれかの樹脂のみで構成された繊維を備えているのがより好ましい。そして、繊維集合体の構成繊維が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂のうちいずれかの樹脂のみで構成された繊維のみであるのが、最も好ましい。
【0023】
繊維集合体(同様に前駆繊維集合体)が熱融着性繊維(接着繊維)を含んでいる場合には、バインダを使用せずとも、繊維同士を熱融着することによって繊維同士が一体化している部分を有する繊維集合体を実現できる。その結果、強度に優れることで、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供でき好ましい。
接着繊維は全融着型の熱融着性繊維であっても良いし、複合繊維のような一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。接着繊維の熱融着性を発揮する成分の種類は適宜選択するが、例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂などを使用できる。
繊維集合体を構成する繊維の質量に占める接着繊維の質量は、様々な産業用途に使用可能な繊維集合体を提供できるよう適宜調整する。具体的には、強度に優れる繊維集合体を提供できるよう、当該百分率は5質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのが好ましく、20質量%であるのが最も好ましい。
【0024】
繊維集合体は、断面形状が円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0025】
繊維集合体が備える繊維の繊度や繊維長は適宜調整できる。具体的には、繊度は0.02dtex~5dtexであることができ、0.04dtex~3dtexであることができ、0.1dtex~1dtexであることができる。また、短繊維(特定長にカットされた繊維など)や長繊維(直接紡糸法を用いて調製された特定長にカットされていない繊維など)であることができる。十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供できるよう、繊維集合体は短繊維を備えているのが好ましく、繊維集合体(同様に前駆繊維集合体)の構成繊維が短繊維のみであるのがより好ましい。
ここでいう短繊維とは繊維長が100mm以下の繊維を指す。また、ここでいう長繊維とは繊維長が100mmよりも長い繊維を指し、繊維長が100mmよりも長く繊維長を特定するのが困難な繊維(連続繊維)も長繊維とみなす。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c 直接法(C法)に則って測定された繊維長をいう。
【0026】
繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0027】
繊維集合体が織物や編物を備えている場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、繊維集合体を構成する前駆繊維集合体を調製できる。
【0028】
前駆繊維集合体が不織布である場合、不織布を製造可能な繊維ウェブの調製方法として、例えば、乾式法、湿式法などを用いることができる。そして、繊維ウエブを構成する繊維同士を絡合および/または一体化して不織布にする方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維同士をバインダで一体化する方法、あるいは、繊維ウエブが熱可塑性樹脂を含んでいる場合には、繊維ウエブを加熱処理することで前記熱可塑性樹脂を溶融して、繊維同士を一体化する方法を挙げることができる。繊維同士を一体化するバインダとして、上述したポリマーなどから選択し採用できる。繊維ウエブを加熱処理する方法として、例えば、カレンダーロールにより加熱加圧する方法、熱風乾燥機により加熱する方法、無圧下で赤外線を照射する方法などを用いることができる。
また、直接紡糸法を用いて、紡糸溶液や溶融した樹脂を細径化して直接紡糸すると共に繊維を捕集して繊維ウェブまたは不織布を調製してもよい。
なお、繊維集合体が含有する繊維は一種類複であっても、複数種類であっても良い。
【0029】
繊維集合体の質量に占める繊維の質量は、様々な産業用途に使用可能な繊維集合体を提供できるよう適宜調整する。具体的には、強度に優れる繊維集合体を提供できるよう、繊維集合体の質量に対し0質量%より多く、80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのが好ましい。上限値は適宜調整できるが、100質量%未満であることができ、99質量%以下であることができ、98質量%以下であることができ、97質量%以下であることができる。
【0030】
本発明の繊維集合体において、ポリイミド系樹脂は繊維の表面に被膜状に存在している。ここでいう被膜状とは、ポリイミド系樹脂が不定形をなし(特定形状を有する粒子状や繊維状など、特定の形状をなすものではなく)、繊維および/または繊維同士が一体化している部分上に存在している態様を意味する。なお、繊維の表面とは、繊維の表面以外にも繊維同士が一体化している部分の表面を含み得る概念である。
ポリイミド系樹脂は繊維の表面における少なくとも一部に存在していればよく、繊維における一体化している部分以外の場所に被膜状に存在している態様、および/または、繊維における一体化している部分に被膜状に存在している態様であることができる。なお、ポリイミド系樹脂による繊維表面の改質が効率よくなされるよう、繊維集合体の表面全体(具体的には、繊維と一体化部分の表面全体)にポリイミド系樹脂が被膜状に存在しているのが好ましい。なお、このような繊維集合体は後述で例示する繊維集合体の製造方法によって実現可能である。
【0031】
なお、繊維集合体が備えるポリイミド系樹脂の態様は、例えば、以下の方法で判断できる。
(1)繊維集合体を厚さ方向に切断することで、繊維集合体の切断面に、繊維同士が一体化している部分の断面を複数形成した。なお、繊維集合体の切断面に、当該断面が露出している状態となった。
(2)当該断面に対し、電子顕微鏡を用いた分析に加え、XPS/ESCA (X線光電子分光分析)を用いた分析および/またはEDX(エネルギー分散型X線分析)を用いた分析を行った。
(3)分析を行った結果、いずれの当該断面においても繊維の表面の輪郭上にポリイミド系樹脂が検出されたと共に、繊維の表面の輪郭上にポリイミド系樹脂が不定形形状で存在しているのが確認された場合、繊維集合体を構成する繊維の表面にポリイミド系樹脂が被膜状に存在していると判断した。
(4)また、分析を行った結果、当該断面において一体化している部分を形成している、隣接して存在する両繊維の中心同士を最短距離で結ぶ直線上にポリイミドの存在が検出されなかった場合、測定した繊維集合体は繊維間にポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有していると判断した。
(5)上述の測定を行った結果、項目(3)および項目(4)を共に満足した場合、当該繊維集合体は、繊維の表面に被膜状に存在するポリイミド系樹脂を有すると共に、繊維間にポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有するものであると判断した。一方、項目(3)および項目(4)を共に満足しなかった場合、当該繊維集合体は上述の構成を満足する繊維集合体ではないと判断した。
【0032】
繊維集合体の質量に占めるポリイミド系樹脂の質量は、様々な産業用途に使用可能な繊維集合体を提供できるよう適宜調整する。具体的には、ポリイミド系樹脂による繊維表面の改質が効率よくなされるよう、繊維集合体を構成する繊維の質量に対し0質量%より多く、0.2質量%以上であるのが好ましく、0.3質量%以上であるのが好ましく、0.4質量%以上であるのが好ましい。一方、当該質量百分率が高過ぎると繊維集合体の空隙がポリイミド系樹脂により閉塞した状態となる恐れがあり、様々な産業用途に使用可能な繊維集合体を提供し難くなる恐れがあることから、300質量%以下であるのが好ましく、200質量%以下であるのが好ましく、100質量%以下であるのが好ましい。
【0033】
本発明の繊維集合体は、産業資材の用途や要求物性などにより、必要に応じて添加剤を含有していても良い。添加剤の種類として、例えば、難燃剤、香料、顔料(無機顔料および/または有機系顔料)、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、導電性粒子、乳化剤、分散剤、増粘剤、消泡剤、架橋剤、硬化促進剤などを挙げることができる。なお、これらの添加剤は、繊維表面や繊維間に存在していても、繊維中やポリイミド系樹脂中に配合されていてもよい。
【0034】
本発明の繊維集合体は、繊維間に前記ポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有している。本構成について、主として図2および図3を用いて説明する。
本発明でいう、繊維(1)間にポリイミド系樹脂(2)を介することなく繊維(1)同士が一体化している部分とは、隣接するポリイミド系樹脂以外の有機樹脂を含有する繊維(1)同士が、図2に図示するようにバインダ(3)により接着一体化している部分、または、図3に図示するように繊維(1)表面を構成する樹脂(例えば、繊維接着の役割を担う低融点樹脂)により接着一体化している部分であって、繊維(1)の表面に被膜上に存在しているポリイミド系樹脂(2)と交わることなく、当該隣接して存在する繊維(1)の中心同士を最短距離で結ぶ直線(A)を形成できる状態を指す。
【0035】
例えば、図1に図示したように、特許文献1など従来技術にかかる表面改質繊維(1および2)同士をバインダ(3)で一体化させて調製した繊維集合体における、繊維同士が一体化している部分では、繊維(1)の表面に被膜上に存在しているポリイミド系樹脂(2)と交わらなければ、当該隣接して存在する繊維(1)の中心同士を最短距離で結ぶ直線(A)を形成できない。
このように、特許文献1など従来技術にかかる表面改質繊維(1および2)同士をバインダ(3)で一体化させて繊維集合体を調製した場合、調製した繊維集合体では図1に図示するように、間にポリイミド系樹脂(2)の層を介して繊維(1)同士が一体化している。そのため、繊維(1)同士が一体化している部分に「繊維(1)-ポリイミド系樹脂(2)の層-バインダ(3)-ポリイミド系樹脂(3)の層-繊維(1)」と多数の界面が存在している。そして、当該界面の数が多いほど界面に剥離が発生する可能性は高まり、繊維(1)同士の一体化している部分に破壊が発生し易い。その結果、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、繊維同士の一体化状態に変化が発生する恐れがある。
【0036】
一方、図2および図3に図示したように、本願発明にかかる繊維集合体は、繊維(1)の表面に被膜上に存在しているポリイミド系樹脂(1)と交わることなく、当該隣接して存在する繊維(1)の中心同士を最短距離で結ぶ直線(A)を形成できる部分を有する。
このように、本発明にかかる繊維集合体では、間にポリイミド系樹脂(2)の層を介することなく繊維(1)同士が一体化しているため、繊維(1)同士が一体化している部分に「繊維(1)-バインダ(3)-繊維(1)」あるいは「繊維(1)-繊維(1)」と存在する界面の数が少ない。
そのため、繊維同士の一体化している部分に破壊が発生し難いため、取り扱い時や様々な産業用途に使用している時に、繊維同士の一体化状態に変化が発生し難い繊維集合体である。
つまり、より強度に優れる繊維集合体を提供することができる。
以上から、本発明により、十分な諸性能を有することで様々な産業用途へ好適に使用し得る、繊維集合体を提供できる。
【0037】
繊維集合体の目付、厚さ、空隙率、通気度、伸度、強度などの各種物性は、適宜選択できる。
【0038】
例えば、目付は0.1~200g/mであることができ、0.3~100g/mであることができ、0.5~20g/mであることができ、1~10g/mであることができる。なお、本発明の「目付」は、JIS L1085に準じて10cm×10cmとして測定した値を意味する。
【0039】
例えば、厚さは0.5μm~1.5mmであることができ、1μm~1mmであることができ、2μm~100μmであることができ、5μm~50μmであることができる。なお、本発明の「厚さ」はシックネスゲージ((株)ミツトヨ製、コードNo.547-401、測定力:3.5N以下)を用いて測定した値を意味する。
例えば、空隙率は50~99%であることができ、55~97%であることができ、60~95%であることができる。なお、本発明の「空隙率」は次の式から算出することができる。
P=[1-Mn/(t×SG)]×100
ここで、Pは空隙率(%)、Mnは目付(g/m)、tは厚さ(μm)、SGは構成繊維の比重(g/cm)をそれぞれ表す。
例えば、通気度は1Cm/cm/sec~100Cm/cm/secであることができ、5Cm/cm/sec~90Cm/cm/secであることができ、15Cm/cm/sec~80Cm/cm/secであることができる。なお、本発明の「通気度」は、JIS L 1096:1999(8.27.1 A法(フラジール法))に規定されている方法による測定値をいう。
【0040】
例えば、伸度は5~100%であることができ、10~90%であることができ、15~80%であることができる。なお、本発明の「伸度」は、以下に述べる方法へ測定対象を供することで測定できる。
(伸度の測定方法)
(1)測定対象から長方形の試料(短辺:50mm、長辺:200mm)を採取した。このとき、測定対象の生産方向が判明している場合には、当該生産方向と長辺方向が平行を成すようにして、試料を採取した。
(2)引張り試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン(登録商標)、TM-111-100)を使用し、つかみ間隔100mm、引張り速度50mm/min.の条件で、試料に破断が生じるまで長辺方向へ引張った。
(3)この時、次の式から得られる値を「伸度」とした。
L={(D-100)/100}×100
ここで、Lは伸度(単位:%)、Dは試料が破断した時のつかみ間隔の長さ(単位:mm)をそれぞれ意味する。このようにして、測定対象における試料の長辺方向と平行を成す方向(MD方向)の伸度(%)を測定した。
(4)前記試料の長辺方向と平行を成す方向に対し、短辺方向が平行を成すようにして測定対象から新たに長方形の試料(短辺:50mm、長辺:200mm)を採取した。
(5)上述した(4)の工程で採取した試料を(2)~(3)の工程へ供することで、測定対象における試料の長辺方向と平行を成す方向(CD方向)の伸度(%)を測定した。
【0041】
例えば、強度は0.01~10Nであることができ、0.05~5Nであることができ、0.1~3Nであることができる。なお、本発明の「強度」は、以下に述べる方法へ測定対象を供することで測定できる。
(強度の測定方法)
(1)測定対象から長方形の試料(短辺:50mm、長辺:200mm)を採取した。このとき、測定対象の生産方向が判明している場合には、当該生産方向と長辺方向が平行を成すようにして、試料を採取した。
(2)引張り試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン(登録商標)、TM-111-100)を使用し、つかみ間隔100mm、引張り速度50mm/min.の条件で、試料に破断が生じるまで長辺方向へ引張った。
(3)試料が破断するまでに測定される最大応力を「強度」とした。このようにして、測定対象における試料の長辺方向と平行を成す方向(MD方向)の強度(N/50mm)を測定した。
(4)前記試料の長辺方向と平行を成す方向に対し、短辺方向が平行を成すようにして測定対象から新たに長方形の試料(短辺:50mm、長辺:200mm)を採取した。
(5)上述した(4)の工程で採取した試料を(2)~(3)の工程へ供することで、測定対象における試料の長辺方向と平行を成す方向(CD方向)の強度(N/50mm)を測定した。
【0042】
また、繊維集合体は様々な産業用途へ好適に使用し得るよう、耐溶剤性に優れているのが好ましい。特に、電解質膜支持体など繊維集合体を支持体として樹脂中に備える複合体など、繊維集合体に樹脂溶液を付与してなる複合体を提供する際、繊維集合体が耐溶剤性に劣ると樹脂との複合化中に繊維集合体が溶解する、収縮など寸法変化や強度低下が発生することで、複合体の物性向上に寄与できない恐れがある。
【0043】
繊維集合体が耐溶剤性に優れているか否かは、繊維集合体を以下の測定方法へ供することで評価できる。
(耐溶剤性の評価方法)
(1)測定対象から、一辺の長さが200mmの正方形状の試料を採取した。そして、試料における一方向(MD方向、測定対象の生産方向が判明している場合には、その生産方向)および前記一方向と垂直をなす方向(CD方向、測定対象の生産方向が判明している場合には、その生産方向と垂直をなす方向)の長さ(単位:mm)、MD方向およびCD方向の強度(単位:N/50mm)の各値を測定した。
(2)温度80℃のトルエンを500ml用意した。
(3)500mlの温度80℃のトルエン中に、試料を30分間浸漬した。そして、トルエン中から試料を取り出し、取り出した試料からトルエンを除去した。
(4)トルエンを除去した後の試料におけるMD方向およびCD方向の長さ(単位:mm)、MD方向およびCD方向の強度(単位:N/50mm)の各値を測定した。
(5)測定により得られた、トルエンを除去した後の試料におけるMD方向およびCD方向の長さ(単位:mm)の値を以下式へ代入し算出された値を、「MD方向ならびにCD方向の長さの変化百分率(単位:%)」とした。
MD方向ならびにCD方向の長さの変化百分率={|1-(B1~2/A1~2)|}×100
:浸漬処理前の試料における、MD方向の長さ(単位:mm)。
:浸漬処理しトルエンを除去した後の試料における、MD方向の長さ(単位:mm)。
:浸漬処理前の試料における、CD方向の長さ(単位:mm)。
:浸漬処理しトルエンを除去した後の試料における、CD方向の長さ(単位:mm)。
【0044】
例えば、浸漬処理前の試料におけるMD方向の長さが200mmであり、浸漬処理しトルエンを除去した後の試料におけるMD方向の長さが180mmであった場合、MD方向の長さの変化百分率は10%である。算出された各長さの変化百分率が小さい繊維集合体であるほど、当該繊維集合体は耐溶剤性に優れるものであると評価した。
【0045】
(6)また、測定により得られた、トルエンを除去した後の試料におけるMD方向およびCD方向の強度(単位:N/50mm)の値を以下式へ代入し算出された値を、「MD方向ならびにCD方向の強度の変化百分率(単位:%)」とした。
MD方向ならびにCD方向の強度の変化百分率={(B3~4/A3~4)}×100
:浸漬処理前の試料における、MD方向の強度(単位:N/50mm)。
:浸漬処理しトルエンを除去した後の試料における、MD方向の強度(単位:N/50mm)。
:浸漬処理前の試料における、CD方向の強度(単位:N/50mm)。
:浸漬処理しトルエンを除去した後の試料における、CD方向の強度(単位:N/50mm)。
【0046】
例えば、浸漬処理前の試料におけるMD方向の強度が20N/50mmであり、浸漬処理しトルエンを除去した後の試料におけるMD方向の強度が15N/50mmであった場合、MD方向の強度の変化百分率は75%である。算出された各強度の変化百分率が大きい繊維集合体であるほど、当該繊維集合体は耐溶剤性に優れるものであると評価した。
【0047】
なお、(4)の工程において試料がトルエンに完全に溶解した、あるいは、大きく変形して測定を行うことができなかった場合には、当該測定対象は耐溶剤性に劣ると評価した。
【0048】
固体電解質の電解質粒子として一般的に使用される硫化物系固体電解質は、水分の影響を嫌うため、当該粒子を支持体へ付与する際に使用される分散溶媒としてトルエンやキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒が使用される。本発明にかかる繊維集合体は上述したように耐溶剤性が高い(トルエンなど芳香族炭化水素系溶媒を付与されても変形や物性の変化が発生し難い)ことから、本発明にかかる繊維集合体は固体電解質の電解質粒子を担持するための支持体として好適に使用できる。
【0049】
調製した繊維集合体はそのまま様々な産業用途に使用してもよいが、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなど加工して様々な産業用途に使用してもよい。
また、膜構成樹脂中に繊維集合体を含んでいる複合膜とする、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体とするなど、繊維集合体を備えた複合体として様々な産業用途に使用してもよい。
【0050】
次いで、本発明にかかる繊維集合体の製造方法について、例示し説明する。なお、すでに説明した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
本発明の繊維集合体の製造方法は、
(1)ポリイミド系樹脂以外の有機樹脂を含有し構成された繊維を備えていると共に、前記繊維同士が一体化している部分を有する、前駆繊維集合体を用意する工程、
(2)前記ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液を、前記前駆繊維集合体へ付与する工程、
(3)前記前駆繊維集合体へ付与されている前記ポリイミド系樹脂の前駆体をイミド化する工程、
を備えている。
【0051】
前駆繊維集合体の種類は適宜選択できるが、上述した繊維からなる繊維ウェブを用意し、バインダを付与することで繊維同士を接着一体化した不織布を採用できる。なお、繊維ウェブにバインダを付与する方法は適宜選択でき、バインダ溶液あるいはバインダ分散液を用意し、一例として、繊維ウェブへスプレー付与する、あるいは、繊維ウェブを含浸した後、加熱することで溶媒あるいは分散媒を除去すると共にバインダによる繊維同士の接着がなされるようにできる。
あるいは、繊維ウェブが接着繊維を含んでいる場合には、繊維ウェブを加熱することで接着繊維による繊維接着を行い、接着繊維表面を構成する接着成分により繊維同士を接着一体化した不織布を採用できる。
加熱方法は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いた方法を採用できる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、溶媒を揮発あるいは分解し揮発させ除去可能であると共に、前駆繊維集合体の構成繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。
なお、上述の加熱処理によって、あるいは、架橋剤などの添加剤と反応させることで、前駆繊維集合体の耐熱性を向上させたり不溶化させるなどして、前駆繊維集合体の物性を向上させてもよい。
【0052】
このようにして調製した前駆繊維集合体に、ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液を付与する。ポリイミド系樹脂の前駆体として、ポリアミック酸を採用できる。参考文献(西崎俊一郎、不可三晃、工業化学雑誌、67、No.3、474(1964))によれば、ポリアミック酸は加熱されることによって分子内縮合して耐溶剤性に優れるポリイミド系樹脂になることが知られている。そのため、本製造方法によって調製される繊維集合体は、耐溶剤性に優れるポリイミド系樹脂が被膜状に存在することで、耐溶剤性に優れるものとなる。その結果、様々な産業用途に使用可能な繊維集合体を提供できる。
ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液を構成する、溶媒や分散媒の種類は適宜選択でき、水、NMP、DMAc、DMFなどを採用できる。ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液の粘度や濃度などは、様々な産業用途に使用可能な繊維集合体を提供できるよう調整する。
ポリイミド系樹脂の前駆体溶液あるいは前駆体分散液を、前駆繊維集合体へ付与する方法は適宜選択できる。例えば、前駆繊維集合体の一方の主面あるいは両主面へ噴霧あるいは既知のコーティング方法(例えば、グラビアロールを用いたキスコーティング法、ダイコーティング法など)を用いて担持する方法や、前駆繊維集合体を浸漬する方法などを採用できる。なお、付与量ならびに付与する際の温度や湿度の条件などは、様々な産業用途に使用可能な繊維集合体を提供できるよう調整する。
【0053】
前駆繊維集合体に付与させたポリイミド系樹脂の前駆体をイミド化してポリイミド系樹脂にする方法は適宜選択できる。一例として、ポリイミド系樹脂の前駆体を含んだ前駆繊維集合体を加熱処理へ供することで、ポリイミド系樹脂の前駆体をイミド化する(ポリイミド系樹脂にする)方法や、架橋剤などの添加剤と反応させイミド化する(ポリイミド系樹脂にする)方法を採用できる。
【0054】
イミド化の際に使用する加熱処理の種類は適宜選択でき、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する装置、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機、赤外線を照射し加熱できる装置などを用いた処理を採用できる。加熱装置による加熱温度は適宜選択するが、溶媒を揮発あるいは分解し揮発させ除去可能であると共に、繊維などの構成成分が意図せず分解や変性しない温度であるように適宜調整する。加熱処理の温度は、繊維集合体の意図しない変性の発生が防止されていると共に、ポリイミド系樹脂の前駆体をイミド化してポリイミド系樹脂にできるよう適宜調整するが、100℃~500℃の範囲であることができ、120℃~450℃の範囲であることができ、140℃~430℃の範囲であることができる。
特に、ポリイミド系樹脂の前駆体がイミド化する温度以上であり、繊維集合体の構成繊維における骨格をなす樹脂の融点および/または軟化点よりも低い温度の範囲で、熱処理を施すのが好ましい。本温度範囲で熱処理を施すことによって、繊維集合体を構成する繊維同士の一体化状態に変化が発生するのを防止して、繊維の表面に被膜状に存在するポリイミド系樹脂を形成でき好ましい。
以上の製造方法によって、本発明にかかる構成を満足する繊維集合体を製造できる。
【0055】
調製した繊維集合体はそのまま様々な産業用途に使用してもよいが、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜くなど加工工程へ供してもよい。
また、膜構成樹脂中に繊維集合体を含んでいる複合膜とする、あるいは、別の多孔体、フィルム、発泡体などの構成部材を積層して積層体とするなど、繊維集合体を備えた複合体を調製する工程へ供し、複合体を調製してもよい。
【実施例
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0057】
(比較例1)
芯成分がポリプロピレン(融点:168℃)からなり、鞘成分がポリエチレン(融点:135℃)からなる芯鞘型複合繊維(繊維径:7.4μm、繊維長:5mm)のみを分散媒に分散させてスラリーを形成した後、湿式抄造することで繊維ウエブを形成した。
次いで、この繊維ウエブを無加圧下、温度140℃に設定した熱風循環式熱処理機へ供することで、乾燥させると同時に芯鞘型複合繊維の鞘成分を融解させ繊維接着させた。
このようにして、繊維同士が一体化している部分を有している前駆繊維集合体Aを製造した。
なお、比較例1ではこのようにして調製した前駆繊維集合体Aを、繊維集合体とみなした。
【0058】
(比較例2)
比較例1で調製した前駆繊維集合体Aを無加圧下、温度150℃に設定した熱風循環式熱処理機へ30分間供した。
このようにして、繊維同士が一体化している部分を有している前駆繊維集合体Bを製造した。
なお、比較例2ではこのようにして調製した前駆繊維集合体Bを、繊維集合体とみなした。
【0059】
(比較例3)
アクリル系樹脂のエマルジョンバインダ(固形分濃度:5質量%)中に、比較例1で調製した前駆繊維集合体Aを浸漬することで、前駆繊維集合体Aにアクリル系樹脂のエマルジョンバインダを含ませた。
その後、アクリル系樹脂のエマルジョンバインダを含ませた前駆繊維集合体Aを無加圧下、温度150℃に設定した熱風循環式熱処理機へ30分間供することで、乾燥させると同時に前駆繊維集合体中に存在するアクリル系樹脂を軟化させ構成繊維に付着させて、繊維集合体を製造した。
このようにして製造した繊維集合体は、繊維間に前記アクリル系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有していると共に、繊維表面にアクリル系樹脂が被膜状に存在してなるものであった。
【0060】
(実施例1)
ポリイミド系樹脂の前駆体であるポリアミック酸の水溶液(商品名:ユピア-LB[登録商標]、宇部興産株式会社製、固形分濃度:18.0±1.0質量%[測定条件:350℃、30分]、150℃以上の温度条件下に存在することによってポリイミド系樹脂となるポリアミック酸を含む)中に、比較例1で調製した前駆繊維集合体Aを浸漬することで、前駆繊維集合体Aにポリアミック酸の水溶液を含ませた。
その後、ポリアミック酸の水溶液を含ませた前駆繊維集合体Aを無加圧下、温度150℃(前駆繊維集合体Aの構成繊維における、骨格をなすポリプロピレンの融点および軟化点よりも低い温度)に設定した熱風循環式熱処理機へ30分間供することで、乾燥させると同時に前駆繊維集合体A中に存在するポリアミック酸をイミド化することでポリイミド系樹脂にして構成繊維に付着させて、繊維集合体を製造した。
このようにして製造した繊維集合体は、繊維間に前記ポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有していると共に、繊維表面にポリイミド系樹脂が被膜状 に存在してなるものであった。
【0061】
(実施例2)
浸漬により前駆繊維集合体Aに含ませるポリアミック酸の水溶液の量を増やしたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体を製造した。
このようにして製造した繊維集合体は、繊維間に前記ポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有していると共に、繊維表面にポリイミド系樹脂が被膜状に存在してなるものであった。
【0062】
(比較例4)
芯成分がポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)からなり、鞘成分が低融点ポリエチレンテレフタレート(融点:110℃)からなる芯鞘型複合繊維(繊維径:14μm、繊維長:5mm)のみを分散媒に分散させてスラリーを形成した後、湿式抄造することで繊維ウエブを形成した。
次いで、この繊維ウエブを無加圧下、温度150℃に設定した熱風循環式熱処理機へ供することで、乾燥させると同時に芯鞘型複合繊維の鞘成分を融解させ繊維接着させた。
このようにして、繊維同士が一体化している部分を有している前駆繊維集合体Cを製造した。
次いで、前駆繊維集合体Cを無加圧下、温度150℃に設定した熱風循環式熱処理機へ30分間供した。
なお、比較例4ではこのように熱処理した前駆繊維集合体Cを、繊維集合体とみなした。
【0063】
(実施例3)
比較例1で調製した前駆繊維集合体Aの代わりに比較例4で調製した前駆繊維集合体Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体を製造した。
このようにして製造した繊維集合体は、繊維間に前記ポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有していると共に、繊維表面にポリイミド系樹脂が被膜状に存在してなるものであった。
【0064】
(比較例5)
未延伸のポリオレフィンサルファイド繊維(融点:285℃、繊維径:17μm、繊維長:6mm)と延伸されたポリオレフィンサルファイド繊維(融点:285℃、繊維径:10μm、繊維長:6mm)を混合したスラリーを形成した後、湿式抄造することで繊維ウエブを形成した。
次いで、この繊維ウエブを無加圧下、温度150℃に設定した熱風循環式熱処理機へ供することで、乾燥させると同時に未延伸のポリオレフィンサルファイド繊維を軟化させ繊維接着させた。
このようにして、繊維同士が一体化している部分を有している前駆繊維集合体Dを製造した。
次いで、前駆繊維集合体Dを無加圧下、温度150℃に設定した熱風循環式熱処理機へ30分間供した。
なお、比較例5ではこのように熱処理した前駆繊維集合体Dを、繊維集合体とみなした。
【0065】
(実施例4)
比較例1で調製した前駆繊維集合体Aの代わりに比較例5で調製した前駆繊維集合体Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、繊維集合体を製造した。
このようにして製造した繊維集合体は、繊維間に前記ポリイミド系樹脂を介することなく繊維同士が一体化している部分を有していると共に、繊維表面にポリイミド系樹脂が被膜状に存在してなるものであった。
【0066】
(参考例1)
比較例1で調製した前駆繊維集合体Aを無加圧下、温度200℃に設定した熱風循環式熱処理機へ30分間供した。加熱した後の前駆繊維集合体Aは、構成繊維が溶融して繊維集合体の形状が大きく変形した。
この結果から、本発明にかかる繊維集合体を製造するためには、繊維集合体の構成繊維における骨格をなす樹脂の融点(ポリプロピレンの融点:168℃)よりも低い温度の範囲で、熱処理を施すのが好ましいことが判明した。
【0067】
以上のようにして比較例および実施例で製造した繊維集合体の諸物性を測定し、測定結果を表1にまとめた。なお、耐溶剤性の評価を行った後の繊維集合体に大きな変形が発生しており、測定を行うことができなかったものについては、表中に「×」を記載した。
そして、表1において構成を満たしていない項目については「-」印を記載した。また、表1において「PO」はポリオレフィン系樹脂。「PET」はポリエステル系樹脂、「PPS」はポリフェニレンサルファイド系樹脂、「Ac」はアクリル系樹脂、「PI」はポリイミド系樹脂を意味する。
【0068】
【表1】
【0069】
比較例1~2と実施例1、比較例4と実施例3、比較例5と実施例4を比べた結果から、本願発明の構成を満足する繊維集合体は、長さの変化百分率が低く、強度の変化百分率が高い、耐溶剤性に優れる繊維集合体であった。
なお、比較例3と実施例1を比較した結果から、繊維の表面にポリイミド系樹脂が被膜状に存在していることで、より長さの変化百分率が低く、より強度の変化百分率が高い、耐溶剤性に優れる繊維集合体を提供できたことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の繊維集合体および複合体は、様々な産業用途(例えば、水処理膜などの液体分離膜や気体分離膜、医療用材料、イオン交換膜や透析膜、燃料電池の高分子電解質膜などといった様々な産業用途に使用可能な複合膜の支持体として、あるいは、キャパシタや一次/二次電池などの電気化学素子用セパレータやセパレータの支持部材、固体電解質の支持体、水電解膜の支持部材、プリプレグ、気体フィルタや液体フィルタ、貼付薬用基材やマスクなどの医療用途、緩衝材やシーリング材、吸液材、内装用表皮材、細胞培養基材や細胞分離部材、導電性部材や絶縁材、放熱部材や保温材、芯地や中綿など)に使用できる。
【符号の説明】
【0071】
1:ポリイミド系樹脂以外の有機樹脂を含有する繊維
2:ポリイミド系樹脂
3:バインダ
A:繊維の中心同士を最短距離で結ぶ直線
図1
図2
図3