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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0271 20160101AFI20230801BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20230801BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20230801BHJP
   H01M 8/0276 20160101ALI20230801BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20230801BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20230801BHJP
【FI】
H01M8/0271
F16J15/10 N
H01M8/0273
H01M8/0276
H01M8/10
H01M8/1004
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019145634
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021026952
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【弁理士】
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(74)【代理人】
【識別番号】100198856
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【弁理士】
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】白川 創平
(72)【発明者】
【氏名】大場 健一
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-096419(JP,A)
【文献】特開2019-140027(JP,A)
【文献】特開2009-076470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
F16J 15/10
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状に形成される枠部と、シールリップ部を有する本体部と、前記枠部の内周面と燃料電池セルにおける二つのセパレータの間に挟持される反応部の第1ガス拡散層の外周面との間の隙間を埋める隙間埋め部とを含み、前記隙間埋め部における前記反応部に相対する面の一部である拡散層相対面と前記反応部の前記第1ガス拡散層の前記外周面とが接し、前記隙間埋め部が前記反応部の外側を囲むように設けられるガスケットであって、
前記本体部は、前記枠部または前記隙間埋め部のいずれか一方、若しくは前記枠部及び前記隙間埋め部に支持され、
前記隙間埋め部は、射出成形品であり、金型のゲート跡を当該隙間埋め部における前記反応部に相対する面を避けた位置に有している、ガスケット。
【請求項2】
記枠部の内周面は、前記本体部の内周面に対して外方に位置しており、
前記ゲート跡は、前記隙間埋め部における前記本体部に相対する面に位置している、請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
記隙間埋め部は前記本体部と接合され、一体に成形されている、請求項1に記載のガスケット。
【請求項4】
前記枠部及び前記本体部の全体の高さは、前記反応部の全体の高さより高く、
前記枠部は、前記二つのセパレータの一方に当接し、
前記本体部の前記シールリップ部は、前記二つのセパレータの他方に当接する、請求項1~3のいずれか一つに記載のガスケット。
【請求項5】
前記反応部は、前記二つのセパレータの一方に当接する前記第1ガス拡散層を有する第1部材と、前記二つのセパレータの他方に当接する第2ガス拡散層を有する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に位置し少なくとも前記第1部材の外周面に対して外方に張り出した張出部を有する電解質膜と、を含み、
前記隙間埋め部は前記枠部と前記反応部の前記第1ガス拡散層との間に位置しており、
前記隙間埋め部における前記反応部に相対する前記面は、前記隙間埋め部における前記電解質膜の前記張出部に相対する面を含む、請求項1~4のいずれか一つに記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルの反応部を囲むように設けられるガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2は、燃料電池内に取り付けられるガスケットを開示している。このガスケットは、枠部(樹脂製フィルム)と、シールリップ部を有する本体部とを有し、燃料電池セルにおける二つのセパレータの間の反応部を囲むように設けられている。このガスケットでは、本体部と枠部が一体化されることにより、ガスケットの取扱い性が向上されている。特許文献1及び特許文献2は、ガスケットの枠部と燃料電池セルの反応部の部材(例えば、ガス拡散層や電解質膜)とを接合することにより、燃料電池セルの組み立ての際における反応部の部材の取り扱い性が向上することも開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-56704号公報
【文献】特開2009-99531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガスケットの枠部と燃料電池セルの反応部の部材との間の隙間を射出成形品で埋め、射出成形品を介してガスケットの枠部を反応部に接合する場合がある。この場合において、射出成形品の表面に残存し得る金型のゲートの跡であるゲート跡がガスケットと反応部との良好な接合性を阻害しないことが要求され得る。
【0005】
そこで、本発明は、枠部と燃料電池セルの反応部との間の隙間を射出成形品で埋めても反応部との良好な接合性を維持可能なガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、枠部と本体部と隙間埋め部とを含むと共に、燃料電池セルにおける二つのセパレータの間に挟持される反応部を囲むように設けられるガスケットが提供される。枠部は枠状に形成されている。本体部はシールリップ部を有している。隙間埋め部は枠部と反応部との間の隙間を埋めている。隙間埋め部は射出成形品である。この隙間埋め部は金型のゲート跡を隙間埋め部における反応部に相対する面を避けた位置に有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、燃料電池セルの反応部との良好な接合性を維持可能なガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態におけるガスケットの平面図である。
図2】上記ガスケットの要部の断面図である。
図3】上記ガスケットの製造工程の一例を説明するための概略の工程図である。
図4】上記ガスケットと燃料電池セルの反応部との接合方法の一例を説明するための概念図である。
図5】上記ガスケットと比較するための参考のガスケットの要部の断面図である。
図6】上記ガスケットの変形例を説明するための要部の断面図である。
図7】上記ガスケットの別の変形例を説明するための要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は本実施形態におけるガスケット1の平面図である。図2図1に示すA-A矢視におけるガスケット1の要部の断面である。なお、図2ではガスケット1が燃料電池セル10A内に装着された状態の一例が示されている。また、図1では、図の明瞭化のため燃料電池セル10Aは図示を省略されている。
【0011】
[ガスケットの装着対象]
図1に示すガスケット1は、図2に示すように燃料電池セル10Aに装着(接合)される。燃料電池セル10Aは、第1セパレータ20aと、第2セパレータ20bと、第1セパレータ20aと第2セパレータ20bとの間に挟持される発電本体である燃料電池反応部10とを有している。第1セパレータ20a及び第2セパレータ20bはそれぞれ板状に形成されている。図示を省略するが、第1セパレータ20a及び第2セパレータ20bは、平面視で燃料電池反応部10よりも一回り大きな外形を有した概ね長方形状(矩形状)に形成されている。なお、本実施形態では、燃料電池反応部10が本発明に係る「反応部」に相当する。以下では、燃料電池反応部10を単に反応部10と呼ぶ。
【0012】
燃料電池セル10Aを構成する反応部10は、第1部材11と第2部材12と電解質膜13とを含んで構成されている。図示を省略するが、反応部10は、例えば、平面視で全体として概ね長方形状に形成されている。図2は、反応部10の長辺に直交する断面視で示されており、図2の紙面上で左右方向が反応部10の短辺方向に相当し、上下方向が反応部10の積層方向(換言すると反応部10の全体の高さ方向又は厚み方向)に相当する。図2には、反応部10については、その互いに対向する二つの長辺のうちの一方の長辺を含む部位の断面が示されている。
【0013】
第1部材11は、第1セパレータ20aに当接する第1ガス拡散層11aを有する。第2部材12は、第2セパレータ20bに当接する第2ガス拡散層12aを有する。電解質膜13は、第1部材11と第2部材12との間に位置する部材である。
【0014】
第1部材11は更に一方の電極層11bを有し、第2部材12は更に他方の電極層12bを有する。一方の電極層11bは第1ガス拡散層11aと電解質膜13との間に位置し、他方の電極層12bは第2ガス拡散層12aと電解質膜13との間に位置している。換言すると、電解質膜13における厚み方向の一方の面に、一方の電極層11bが形成され、電解質膜13における厚み方向の他方の面に、他方の電極層12bが形成されている。電解質膜13と各電極層11b、12bとにより、いわゆる膜電極接合体MEAが構成されている。第1ガス拡散層11a及び第2ガス拡散層12aは、それぞれカーボンペーパーやカーボンクロスといったガス透過性を有する導電性部材からなる。図示を省略するが、第1部材11と第2部材12と電解質膜13は、例えば、平面視で概ね長方形状にそれぞれ形成されている。
【0015】
本実施形態では、電解質膜13は、第1部材11の外周面11cに対して外方(外側)に張り出した張出部13aを有している。本実施形態において、第1部材11の外周面11cとは、第1部材11の長辺の部位の端面であるものとして以下説明するが、これに限らず、第1部材11の短辺の部位の端面でもよい。また、「外方」とは、図2では紙面の左方向、換言すると、矩形状の反応部10の平面視における中心から反応部10の幅方向(図2では左右方向)に離れる方向を示している。
【0016】
本実施形態では、電解質膜13の張出部13aは、第2部材12の外周面12cに対しても外方に張り出している。換言すると、電解質膜13は、平面視で第1部材11及び第2部材12よりも一回り大きな外形を有しており、電解質膜13の所定幅を有した外縁部分(張出部13a)のみが第1部材11の外周面11c及び第2部材12の外周面12cよりも外方に張り出している。
【0017】
[ガスケット]
ガスケット1は、燃料電池セル10Aの反応部10に供給される燃料ガス、酸化剤ガス及び冷媒といった流体を密封対象としている。ガスケット1は全体として枠状に形成されている。第1セパレータ20aと第2セパレータ20bとの間において、ガスケット1の内方(内側)に、密封対象の密封領域が形成されている。ガスケット1は、密封対象の流体が密封領域から外部へ漏れ出ることを防止する。
【0018】
ガスケット1は、枠部2と本体部3と隙間埋め部4とを含んで構成されており、燃料電池セル10Aにおける第1セパレータ20aと第2セパレータ20bとの間に挟持される反応部10を囲むように設けられている。具体的には、ガスケット1は平面視で長辺と短辺とを有し全体として概ね長方形状の枠状に形成されている。
【0019】
枠部2は、枠状に形成されている。具体的には、枠部2は、例えば樹脂材からなり、薄いフィルム状(換言すると薄い平坦な平板形状)に形成されている。枠部2の内側には、長方形状の大きな穴が空いている。枠部2は平面視で長方形状の外形を有している。枠部2の樹脂材としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、発泡スチレンシート(PSP)、ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)といった材料群の中から選択した所定の材料が用いられる。そして、図1に示すように、枠部2の角部の近傍には、燃料ガスや酸化剤ガスや冷媒といった流体を供給・排出するためのマニホールド孔2Aがそれぞれ開口されている。
【0020】
本体部3は、枠部2に支持されると共にシールリップ部3aを有する。具体的には、本体部3は、枠部2と同様に全体として枠状に形成されている。本体部3は弾性材からなり、平面視で枠部2よりも一回り小さな長方形状の外形を有している。本体部3の弾性材としては、例えば、シリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素化ゴム(FKM)といったゴムの材料群の中から選択した所定の材料が用いられる。そして、図1に示すように、本体部3におけるマニホールド孔2Aに対応した部位には、マニホールド孔2Aを囲むように内側シール部3Aが本体部3と一体に形成されている。シールリップ部3aは三角形状の断面を有している。シールリップ部3aの断面形状としては、適宜の断面形状が採用され得る。
【0021】
本体部3は更に断面平板状の基部3bを有している。シールリップ部3aは基部3bにおける厚み方向の一方の面に一体に形成されている。そして、基部3bにおける厚み方向の他方の面が枠部2における厚み方向の一方の面に接着され、ゴム材からなる本体部3が樹脂材からなる比較的に剛性のある枠部2と一体化されている。これにより、本体部3(ガスケット1)の取扱い性(ハンドリング性)が向上されている。つまり、ガスケット1は樹脂フィルムを基材とした基材一体型のガスケットである。また、ガスケット1はガスケット付き樹脂フレームと呼ばれ得る。
【0022】
本実施形態では、本体部3の内周面3cは、枠部2の内周面2aに対して内方(内側)に位置している。換言すると、枠部2の内周面2aは、本体部3の内周面3cに対して外方(外側)に位置している。詳しくは、本体部3の内周面3cは基部3bの内周面であり、本体部3の基部3bの一部が枠部2の内周面2aよりも内方(つまり、図2において燃料電池セル10Aの中心側である右側)に張り出している。
【0023】
本体部3が枠部2に接着された状態で、本体部3の基部3bは、燃料電池セル10Aの反応部10の高さ方向(厚み方向)について、概ね反応部10の電解質膜13に対応する高さ位置に位置している。また、本体部3(基部3b)の内周面3cと電解質膜13の外周面13bとの間には、隙間が空いている。
【0024】
本実施形態では、枠部2及び本体部3の全体の高さH1は、燃料電池セル10Aの反応部10の全体の高さH2より高い。換言すると、枠部2及び本体部3の全体の高さH1は弾性変形前の本体部3の全体のビード高さに枠部2の厚みを加えて得られる高さであり、反応部10の全体の高さH2は図2では上下方向の厚みである。例えば、本体部3の全体のビード高さは1mm程度であり、枠部2の厚みは50μm~300μm程度である。本実施形態では、枠部2は第1ガス拡散層11aや第2ガス拡散層12aと同じ又は略同じ厚みを有している。
【0025】
本実施形態では、枠部2は第1セパレータ20aに当接し、本体部3のシールリップ部3aは第2セパレータ20bに当接している。具体的には、枠部2は第1セパレータ20aに接着剤により接着(固定)される。詳しくは、枠部2における厚み方向の他方の面(つまり、枠部2における基部3b側の面と反対の面)が第1セパレータ20aに接着されている。本体部3のシールリップ部3aは第2セパレータ20bによって押し潰されて弾性変形する。これにより、枠状のガスケット1の内方に前述した密封領域が形成される。なお、本実施形態では、第1セパレータ20aが本発明に係る「二つのセパレータの一方」に相当し、第2セパレータ20bが本発明に係る「二つのセパレータの他方」に相当する。
【0026】
隙間埋め部4は、枠部2と燃料電池セル10Aの反応部10との間の隙間を埋める部位(部材)である。本実施形態では、隙間埋め部4は、枠部2と反応部10の第1ガス拡散層11aとの間に位置している。
【0027】
隙間埋め部4は、射出成形品であり、射出成形用の材料からなる。隙間埋め部4の射出成形用の材料としては、例えば、硬化後において良好な弾性を有する熱可塑性エラストマー(TPE)といった弾性材料が採用される。隙間埋め部4は第1ガス拡散層11aと枠部2との間に位置するが、第1ガス拡散層11aの線膨張係数は枠部2の線膨張係数と異なる。その結果、第1ガス拡散層11aの熱膨張量と枠部2の熱膨張量との間に差が生じる。この点、隙間埋め部4は良好な弾性を有しているため熱膨張量の差に起因した影響を吸収する機能を有する。
【0028】
具体的には、隙間埋め部4は、枠部2の内周面2aと第1ガス拡散層11aの外周面(つまり、第1部材11の外周面11cの一部)との間の矩形環状の隙間を埋めている。換言すると、隙間埋め部4は、電解質膜13の張出部13aと第1セパレータ20aとの間の領域と、本体部3の基部3bにおける内方に張り出した部位と第1セパレータ20aとの間の領域とを経由するように、第1ガス拡散層11aの外周面から枠部2の内周面2aまで延在している。したがって、隙間埋め部4は、隙間埋め部4における反応部10に相対する面である第1相対面S1と、隙間埋め部4における本体部3に相対する面である第2相対面S2とを有する。
【0029】
本実施形態では、隙間埋め部4は、反応部10に対する第1相対面S1として、隙間埋め部4における電解質膜13の張出部13aに相対する面である電解質膜相対面S1aと、隙間埋め部4における第1ガス拡散層11aの外周面(外周面11cの一部)に相対する面である拡散層相対面S1bとを有する。このように、本実施形態では、隙間埋め部4における反応部10に相対する面である第1相対面S1は、隙間埋め部4における電解質膜13の張出部13aに相対する面である電解質膜相対面S1aを含む。
【0030】
隙間埋め部4は、本体部3と電解質膜13の張出部13aとの間を架け渡すように第1セパレータ20a上に配置されている。隙間埋め部4は、例えば、枠部2や第1ガス拡散層11aや第2ガス拡散層12aと同じ又は略同じ厚み(高さ)を有している。また、隙間埋め部4の第1相対面S1と電解質膜13の張出部13aにおける厚み方向の一方の面(第1セパレータ20側の面)との間には、一方の電極層11bの厚みに合わせた所定高さの隙間が空けられている。この隙間に埋められる接着剤Bを介して、隙間埋め部4が電解質膜13の張出部13aに接着(接合)されている。
【0031】
射出成形品である隙間埋め部4の表面には、隙間埋め部4の射出成形の際に用いられる金型MのゲートG(後述する図3参照)の跡であるゲート跡4aが残存し得る。ゲートGは樹脂材を金型内のキャビティに導く流路である。樹脂成形品を金型から離型した後に、樹脂成形品の表面における金型のゲートGに対応する位置にゲート跡4aが残存し得る。
【0032】
ゲート跡4aは、隙間埋め部4における反応部10に相対する面である第1相対面S1を避けた位置に設けられている。具体的には、ゲート跡4aは、隙間埋め部4における電解質膜相対面S1a及び拡散層相対面S1bを避けた位置に設けられている。このように、隙間埋め部4は、射出成形品であり、金型Mのゲート跡4aを隙間埋め部4における反応部10に相対する面である第1相対面S1を避けた位置に有している。本実施形態では、ゲート跡4aは、隙間埋め部4における本体部3に相対する面である第2相対面S2に位置している。
【0033】
[ガスケットの製造方法]
次に、本実施形態におけるガスケット1の製造工程の概略について説明する。図3は、ガスケット1の製造工程の一例を説明するための概略の工程図である。図3の(a)~(e)には、各工程における図2に対応する要部の状態がそれぞれ示されている。図4は、ガスケット1と燃料電池セル10Aの反応部10との接合方法の一例を説明するための概念図である。
【0034】
図3(a)に示すように、作業者は、下型M1と上型M2とを締結させて金型Mを組み立てる。この組み立ての際に、例えば、予め製作したガスケット1の枠部2と反応部10の第1部材11の第1ガス拡散層11aが下型M1に形成された凹部内に組み込まれる。その結果、枠部2の内周面2aと、下型M1の凹部の底面と、第1ガス拡散層11aの外周面(第1部材11の外周面11cの一部になり得る面)と、上型M2の端面とによって、隙間埋め部4を成形するためのキャビティである隙間埋め部用キャビティCa1が形成される。上型M2に形成されたゲートGにおける隙間埋め部用キャビティCa1への開口端は例えば隙間埋め部用キャビティCa1における枠部2の内周面2aに寄せた位置において、下型M1の凹部の底面に対向している。
【0035】
ゲートGから隙間埋め部用キャビティCa1内に、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE)が充填される。この充填された熱可塑性エラストマー(TPE)が硬化すると、図3(b)に示すように、枠部2と第1ガス拡散層11aとの間を埋める枠状の隙間埋め部4が成形される。この隙間埋め部4により、枠部2と第1ガス拡散層11aとの間が接合され、枠部2と隙間埋め部4と第1ガス拡散層11aとの一体成形品が製作される。
【0036】
ここで、隙間埋め部4の表面における本体部3(基部3b)に相対する(相対し得る)面である第2相対面S2には、図3(b)に示すように、ゲート跡4aが残存している。ゲート跡4aは隙間埋め部4の第2相対面S2から凸状に残存している。特に限定されるものではないが、ゲート跡4aは、例えば、ゲートGの断面形状に応じた平面視で円形の断面形状を有し、直径が1mm程度であり、突出高さが0.1mm程度である僅かな凸部として隙間埋め部4の表面に残存している。ゲート跡4aの高さは、例えば、樹脂の充填量や充填圧力といった射出成形装置におけるパラメータを精密に管理することによって、その管理精度に応じた範囲で低くなるように制御され得る。
【0037】
そして、図示を省略するが、上型M2が下型M1から分離され、上型M2が分離されると、枠部2と隙間埋め部4と第1ガス拡散層11aとの一体成形品における上型M2に面していた面が露出する。
【0038】
次に、図3(c)に示すように、上型M2に替って、別の上型M2’が下型M1に締結されて、下型M1と上型M2’とを含む別の金型M’が組み立てられる。この時、図3(b)に示す枠部2と隙間埋め部4と第1ガス拡散層11aとの一体成形品が下型M1の前述した凹部内に残置されている。この上型M2’における下型M1との締結面には、本体部3の形状に対応した形状を有する凹部M2a’が形成されている。詳しくは、上型M2’の凹部M2a’における本体部3の基部3bに対応する部分が、枠部2と隙間埋め部4におけるゲート跡4aを含む部分とを跨ぐように、下型M1に向かって開口している。そして、下型M1と上型M2’とが締結された状態で、隙間埋め部4のゲート跡4aが凹部M2a’内に位置している。その結果、枠部2と、隙間埋め部4におけるゲート跡4aを含む部位と、上型M2’の凹部M2a’の内壁面とによって、本体部3を成形するためのキャビティである本体部用キャビティCa2が形成される。上型M2’に形成されたゲートG’における本体部用キャビティCa2への開口端は例えば本体部用キャビティCa2における本体部3の基部3bに対応する部分に開口している。
【0039】
図3(d)に示すように、ゲートG’を介したゴム材の充填が完了すると、枠部2と隙間埋め部4におけるゲート跡4aを含む部位とを跨ぐように、本体部3が成形される。ゲート跡4aの表面は本体部用キャビティCa2を形成する形成壁の一部を構成しているため、充填されたゴム材はゲート跡4aの表面を覆うように流動する。そして、本体部3の基部3bにおけるゲート跡4aに対応する部位には、ゲート跡4aの形状に倣った(追従した)形状の凹部が形成される。ゴム材が硬化すると、本体部3は枠部2と隙間埋め部4に接合され、これにより、枠部2と本体部3と隙間埋め部4と第1ガス拡散層11aとの一体成形品が成形される。
【0040】
そして、図3(e)に示すように、枠部2と本体部3と隙間埋め部4と第1ガス拡散層11aとの一体成形品が金型M’から離型される。これにより、第1ガス拡散層11aと一体的に成形された基材(枠部2)一体型のガスケット1の製作が完了する。
【0041】
その後、図4に示すように、第1ガス拡散層11aと一体的に成形されたガスケット1が、第1セパレータ20a上に接着剤(図4では図示を省略されている)により接着される。そして、ガスケット1の隙間埋め部4における電解質膜相対面S1aに、接着剤Bが所定の厚みで塗布される。その後、膜電極接合体MEAと第2ガス拡散層12aとからなる部材は、張出部13aがガスケット1の隙間埋め部4に重なるように配置される。これにより、隙間埋め部4が接着剤Bを介して電解質膜13に接着される。その結果、ガスケット1が反応部10に接合される。そして、図2に示すように、第2セパレータ20bが第2ガス拡散層12a上に配置された状態で、第1セパレータ20aに締結される。これにより、燃料電池セル10Aのスタックが完了する。
【0042】
[比較例]
ここで、図5は、本実施形態のガスケット1と比較するための参考のガスケットXの要部の断面図である。ガスケット1と参考のガスケットXとの異なる点は、ゲート跡4aの位置だけである。参考のガスケットXでは、ゲート跡4aは、隙間埋め部4における反応部10に相対する第1相対面S1(詳しくは、電解質膜相対面S1a)に位置している。この参考のガスケットXの場合には、反応部10が第1セパレータ20aと第2セパレータ20bとの間に所定の締結力で挟み込まれると、ゲート跡4aの角部の近傍において、ゲート跡4aの先端面と電解質膜13との間や接着剤Bと電解質膜13との間に隙間gが生じ得る(図5の下図参照)。このような隙間gは、隙間埋め部4と電解質膜13との間の接合強度の低下や接着剥がれといった問題を引き起こす要因となり得る。
【0043】
本実施形態によるガスケット1によれば、隙間埋め部4はゲート跡4aを隙間埋め部4における反応部10に相対する面である第1相対面S1を避けた位置に有している。このため、隙間埋め部4の表面における反応部10との接合部位は、確実に平坦な面で成形することができる。その結果、隙間埋め部4と接着剤Bとの間に図5に示されるような隙間gが生じることを確実に防止することができる。これにより、枠部2と反応部10との間の隙間を射出成形品(隙間埋め部4)で埋めても燃料電池セル10Aの反応部10との良好な接合性を維持可能なガスケット1を提供することができる。
【0044】
本実施形態では、枠部2の内周面2aは本体部3の内周面3cに対して外方に位置しており、ゲート跡4aは隙間埋め部4における本体部3に相対する面である第2相対面S2に位置している。これにより、ゲート跡4aが隙間埋め部4における本体部3の内周面3cと電解質膜13の外周面13bとの間の領域に対応する位置に設けられた後述する変形例(図6参照)と比較すると、ガスケット1の外形寸法を小さくすることができ、ガスケット1の小型化が図られる。このように、第1セパレータ20aと第2セパレータ20bとの間における限られたスペースにおいて、容易に設置することが可能なガスケット1が提供される。
【0045】
本実施形態では、枠部2及び本体部3の全体の高さH1は燃料電池セル10Aの反応部10の全体の高さH2より高く、枠部2は第1セパレータ20aに当接し、本体部3のシールリップ部3aは第2セパレータ20bに当接している。つまり、枠部2の厚み方向の一方の面が二つのセパレータのうちの一方(第1セパレータ20a)に当接し、枠部2の厚み方向の他方の面に支持された本体部3のシールリップ部3aが二つのセパレータのうちの他方(第2セパレータ20b)に当接するという簡素な構造により、密封領域を形成可能なガスケット1を提供することができる。
【0046】
本実施形態では、隙間埋め部4は枠部2と反応部10の第1ガス拡散層11aとの間に位置している。これにより、樹脂成形品である隙間埋め部4を介して燃料電池セル10Aの反応部10を構成する第1ガス拡散層11aに容易に接合可能な、いわゆるGDL一体型のガスケット1を提供することができる。
【0047】
本実施形態では、隙間埋め部4における反応部10に相対する面である第1相対面S1は、隙間埋め部4における電解質膜13の張出部13aに相対する面である電解質膜相対面S1aを含む。つまり、GDL一体型のガスケット1において、隙間埋め部4は、反応部10に対する第1相対面S1として、拡散層相対面S1bの他に、電解質膜相対面S1aを有している。これにより、燃料電池セル10Aの反応部10との接合性をより高めることが可能なガスケット1を提供することができる。
【0048】
[変形例]
なお、本実施形態では、枠部2の内周面2aが本体部3(基部3b)の内周面3cに対して外方に位置しているものとしたが、これに限らない。図6に示すように、枠部2の内周面2aは本体部3の内周面3cに対して内方に位置していてもよい。この場合に、ゲート跡4aは、図6に示すように、隙間埋め部4における第1相対面S1(電解質膜相対面S1a)を避けた先端部側の部位S3に形成される。これにより、図2のガスケット1と同様に、燃料電池セル10Aの反応部10との良好な接合性を維持可能なガスケット1を提供することができる。なお、図6に示すように、ゲート跡4aは、隙間埋め部4における枠部2の内周面2aと電解質膜13の外周面13bとの間の領域に対応する位置に設けられる。この場合、枠部2及び本体部3は二点鎖線で示した位置(つまり、図2のガスケット1の位置)よりも外方にシフトしている。
【0049】
本実施形態では、電解質膜13の張出部13aのみが第1部材11の外周面11c及び第2部材12の外周面12cよりも外方に張り出し、且つ、枠部2の内周面2aと第1ガス拡散層11aの外周面との間に隙間が空いている。本実施形態では、このような反応部10の電解質膜13とガスケット1とを接合させる場合を想定している。ここで、図示を省略するが、図6と同様に枠部2の内周面2aが本体部3の内周面3cに対して内方に位置しているガスケット1において、例えば、隙間埋め部4が設けられておらず、電解質膜13の張出部13aが枠部2の位置まで延長されて、電解質膜13の延長された部位が接着剤を介して枠部2に接着されているものとする。この場合、電解質膜13の張出部13aと第1セパレータ20aとの間には、隙間が空いている。したがって、張出部13aと枠部2との間の接着剤の硬化時の熱に起因して、接着剤に線膨張が生じると、張出部13aがその隙間に入り込むように屈曲して変形するおそれがある。この点、図6に示すガスケット1では、接着剤Bに線膨張が生じたとしても、電解質膜13の変形は隙間埋め部4により抑制又は防止される。
【0050】
本実施形態では、本体部3は枠部2に支持されるものとしたが、これに限らず、図7に示すように、隙間埋め部4に支持されてもよい。この場合、枠部2の内周面2aは本体部3(基部3b)の外周面に対して外方に位置し、本体部3と第1セパレータ20aの間の全体に亘って隙間埋め部4が延在している。この場合においても、枠部2はガスケット1の外周部を構成することになるため、ガスケット1の取り扱い性の向上は図られている。
【0051】
本実施形態では、ガスケット1の装着対象である燃料電池セル10Aの反応部10において、電解質膜13の張出部13aのみが第1部材11の外周面11cに対して外方に張り出しているものとしたが、これに限らない。例えば、電解質膜13の張出部13a及び第2部材12が第1部材11の外周面11cに対して外方に張り出していてもよい。換言すると、電解質膜13の張出部13aは、第1部材11と第2部材12との間に位置し少なくとも第1部材11の外周面11cに対して外方に張り出していればよい。また、電解質膜13は張出部13aを有していなくてもよい。ガスケット1が枠部2と反応部10との間の隙間を埋める隙間埋め部4を有し、この隙間埋め部4における反応部10に相対する面である第1相対面S1を避けた位置にゲート跡4aが位置していればよい。また、図示を省略するが、隙間埋め部4は本体部3と一体に成形されてもよい。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態及びその変形例について幾つか説明したが、本発明は上記実施形態及び上記変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…ガスケット
2…枠部
2a…枠部の内周面
3…本体部
3a…シールリップ部
3b…基部
3c…本体部の内周面
4…隙間埋め部
4a…ゲート跡
10A…燃料電池セル
10…反応部
11…第1部材
11a…第1ガス拡散層
11b…第1電極層
12…第2部材
12a…第2ガス拡散層
12b…第2電極層
13…電解質膜
13a…張出部
20a…第1セパレータ(二つのセパレータの一方)
20b…第2セパレータ(二つのセパレータの他方)
B…接着剤
Ca1…隙間埋め部用キャビティ
Ca2…本体部用キャビティ
G…ゲート
H1…枠部及び本体部の全体の高さ
H2…反応部の全体の高さ
S1…第1相対面(隙間埋め部における反応部に相対する面)
S1a…電解質膜相対面(隙間埋め部における電解質膜の張出部に相対する面)
S1b…拡散層相対面
S2…第2相対面(隙間埋め部における本体部に相対する面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7