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特許7323380綱状構造体の維持管理方法及び綱状構造体の維持管理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】綱状構造体の維持管理方法及び綱状構造体の維持管理装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20230801BHJP
   E01D 19/16 20060101ALI20230801BHJP
   E01D 11/02 20060101ALI20230801BHJP
   E01D 11/04 20060101ALI20230801BHJP
   G01N 21/952 20060101ALI20230801BHJP
   G01N 27/90 20210101ALI20230801BHJP
   G06N 3/04 20230101ALI20230801BHJP
   G06N 3/08 20230101ALI20230801BHJP
【FI】
E01D22/00 A
E01D19/16
E01D11/02
E01D11/04
G01N21/952
G01N27/90
G06N3/04
G06N3/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019152359
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2021031933
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】592185585
【氏名又は名称】本四高速道路ブリッジエンジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220642
【氏名又は名称】東京電設サービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】明石 良男
(72)【発明者】
【氏名】西川 一基
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203977291(CN,U)
【文献】特開2019-056668(JP,A)
【文献】特開2018-119970(JP,A)
【文献】特開2013-245496(JP,A)
【文献】特開平10-118964(JP,A)
【文献】特開2017-071972(JP,A)
【文献】特開平11-061734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057021(US,A1)
【文献】米国特許第08590480(US,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0093373(KR,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0326719(KR,Y1)
【文献】中国実用新案第206784174(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
E01D 19/16
E01D 11/02
E01D 11/04
G01N 21/952
G01N 27/90
G06N 3/04
G06N 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びる綱状構造体の維持管理方法であって、
前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて前記綱状構造体の周方向の画像を撮像する工程と、
撮像された前記画像に基づいて前記綱状構造体の表面に生じた第1異常部分を検出する工程と、
非破壊検査に基づく前記綱状構造体の測定値を前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて取得する工程と、
前記非破壊検査の前記測定値に基づいて前記綱状構造体に生じた第2異常部分を検出する工程と、
前記第1異常部分が生じた第1位置と前記第2異常部分が生じた第2位置との位置関係に基づいて前記綱状構造体の劣化状態を推定する工程と、を備え
前記第1位置と前記第2位置が上下の位置関係であり、前記第1位置と前記第2位置との距離から前記第1位置と前記第2位置の上下の位置関係を検出し、前記第2位置の上に前記第1位置がある場合には前記第1位置から侵入した水を含む不純物により前記第2位置において前記綱状構造体の内部が腐食していると推定し、第1位置と第2位置の高さが一致する場合に前記綱状構造体の外部および内部が腐食していると推定する、綱状構造体の維持管理方法。
【請求項2】
前記第2位置の所定距離以内の上方に前記第1位置が存在する場合、前記第1位置において前記綱状構造体の表面の補修を行うと共に、止水対策の補修を行う工程を更に備える、
請求項に記載の綱状構造体の維持管理方法。
【請求項3】
前記第1位置と前記第2位置との位置関係に基づいて前記綱状構造体の劣化状態に応じた補修対策を行う工程を更に備える、
請求項1または2に記載の綱状構造体の維持管理方法。
【請求項4】
前記第1異常部分を検出する工程は、ディープラーニングによる機械学習により複数の前記画像の中から前記第1異常部分が含まれる画像を抽出する工程を更に備える、請求項1からのうちいずれか1項に記載の綱状構造体の維持管理方法。
【請求項5】
鉛直方向に延びる綱状構造体の維持管理装置であって、
前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて前記綱状構造体の周方向の画像を撮像する第1検出部と、
非破壊検査に基づく前記綱状構造体の測定値を前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて取得する第2検出部と、
撮像された前記画像に基づいて前記綱状構造体の表面に生じた第1異常部分を検出し、前記非破壊検査の前記測定値に基づいて前記綱状構造体に生じた第2異常部分を検出し、前記第1異常部分が生じた第1位置と前記第2異常部分が生じた第2位置との位置関係に基づいて前記綱状構造体の劣化状態を推定する演算部と、を備え
前記第1位置と前記第2位置が上下の位置関係であり、
前記第1検出部と前記第2検出部において、前記第1位置と前記第2位置との距離から前記第1位置と前記第2位置の上下の位置関係を検出し、
前記演算部において、前記第2位置の上に前記第1位置がある場合には前記第1位置から侵入した水を含む不純物により前記第2位置において前記綱状構造体の内部が腐食していると推定し、第1位置と第2位置の高さが一致する場合に前記綱状構造体の外部および内部が腐食していると推定する、綱状構造体の維持管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等に用いられるワイヤーロープを含む綱状構造体の劣化状態に応じた補修を行うための綱状構造体の維持管理方法及び綱状構造体の維持管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設の構造物が将来的に老朽化することが懸念されている。既設の構造物を長寿命化するためには、定期的な管理と適切なメンテナンスが必要となる。例えば、ワイヤーロープを用いて桁が支持された吊橋は、海上等の厳しい自然環境で風雨に曝されてワイヤーロープに腐食が生じる。吊橋は、特にワイヤーロープの定期的な点検を行い、腐食を早期に発見し、小さな損傷のうちに適切な補修を施すという予防的な維持管理を行うことが求められる。吊橋の点検対象となるワイヤーロープは、タワー間に懸架されたメインケーブル及びメインケーブルから鉛直方向に吊下げられた桁を支持するためのハンガーロープである。
【0003】
このうち、ハンガーロープは鋼製のワイヤーが複数本束ねられて形成されている。ハンガーロープの表面は、塗装やメッキ処理が施されており、塗膜面等が経年劣化により剥離し、剥離部分のワイヤーの金属表面が露出して腐食する。このためハンガーロープを定期的に点検して腐食部分を発見し、腐食度合に応じた対策を施す必要がある。従来、ハンガーロープの点検は、目視に頼っていたが、出願人は、ハンガーロープの点検を自動化する技術について既に提案している(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載された技術によれば、ハンガーロープに沿って走行体を走行させ、走行体に設けられたカメラを用いてハンガーロープの表面を撮像し、撮像により得られた画像に基づいてワイヤーロープの腐食部分を特定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-204326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハンガーロープは、上述のように鋼製のワイヤーが複数本束ねられて形成されているため、水を含む不純物が内部に侵入し、ハンガーロープの内部で腐食が生じる場合がある。しかしながら、特許文献1に記載された技術によれば、撮像して得られた画像によりハンガーロープの表面に生じた腐食部分を発見できるが、ハンガーロープの内部に生じた腐食を検出することが難しかった。発明者らは、ハンガーロープの点検について鋭意研究を重ね、改良を続けてきた。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、綱状構造体の劣化状態を推定すると共に、劣化状態に応じた補修対策を選択することができる綱状構造体の維持管理方法及び綱状構造体の維持管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、鉛直方向に延びる綱状構造体の維持管理方法であって、前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて前記綱状構造体の周方向の画像を撮像する工程と、撮像された前記画像に基づいて前記綱状構造体の表面に生じた第1異常部分を検出する工程と、非破壊検査に基づく前記綱状構造体の測定値を前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて取得する工程と、前記非破壊検査の前記測定値に基づいて前記綱状構造体に生じた第2異常部分を検出する工程と、前記第1異常部分が生じた第1位置と前記第2異常部分が生じた第2位置との位置関係に基づいて前記綱状構造体の劣化状態を推定する工程と、を備え、前記第1位置と前記第2位置が上下の位置関係であり、前記第1位置と前記第2位置との距離から前記第1位置と前記第2位置の上下の位置関係を検出し、前記第2位置の上に前記第1位置がある場合には前記第1位置から侵入した水を含む不純物により前記第2位置において前記綱状構造体の内部が腐食していると推定し、第1位置と第2位置の高さが一致する場合に前記綱状構造体の外部および内部が腐食していると推定する綱状構造体の維持管理方法である。
【0009】
本発明によれば、撮像データと非破壊検査の計測データとを組み合わせることによって、第1異常部分が生じた第1位置と第2異常部分が生じた第2位置との位置関係を参照することにより、第1検出部の検出結果のみ又は第2検出部の検出結果のみでは推定できなかった綱状構造体の劣化状態を推定することができる。
【0012】
本発明はまた、前記第2位置の所定距離以内の上方に前記第1位置が存在する場合、前記第1位置において前記綱状構造体の表面の補修を行うと共に、止水対策の補修を行う工程を更に備えるように構成されていてもよい。
【0013】
本発明によれば、推定された綱状構造体の異なる劣化状態に応じて適切な補修対策を選択することができ、無駄な補修を防止しコストを低減することができる。
【0014】
本発明はまた、前記第1位置と前記第2位置との位置関係に基づいて前記綱状構造体の劣化状態に応じた補修対策を行う工程を更に備えるように構成されていてもよい。
【0015】
本発明によれば、推定された綱状構造体の劣化状態の位置関係に応じて適切な補修対策を選択することができ、無駄な補修を防止しコストを低減することができる。
【0016】
本発明はまた、前記第1異常部分を検出する工程は、ディープラーニングによる機械学習により複数の前記画像の中から前記第1異常部分が含まれる画像を抽出する工程を更に備えるように構成されていてもよい。
【0017】
本発明によれば、ディープラーニングによる機械学習により、距離が長い綱状構造体の膨大な撮像データから第1異常部分が含まれる画像を的確に抽出することで作業負担を大幅に軽減し、維持管理に係るコストを大幅に低減することができる。
【0018】
本発明の一態様は、鉛直方向に延びる綱状構造体の維持管理装置であって、前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて前記綱状構造体の周方向の画像を撮像する第1検出部と、非破壊検査に基づく前記綱状構造体の測定値を前記綱状構造体の長さ方向の位置に対応付けて取得する第2検出部と、撮像された前記画像に基づいて前記綱状構造体の表面に生じた第1異常部分を検出し、前記非破壊検査の前記測定値に基づいて前記綱状構造体に生じた第2異常部分を検出し、前記第1異常部分が生じた第1位置と前記第2異常部分が生じた第2位置との位置関係に基づいて前記綱状構造体の劣化状態を推定する演算部と、を備え、前記第1位置と前記第2位置が上下の位置関係であり、前記第1検出部と前記第2検出部において、前記第1位置と前記第2位置との距離から前記第1位置と前記第2位置の上下の位置関係を検出し、前記演算部において、前記第2位置の上に前記第1位置がある場合には前記第1位置から侵入した水を含む不純物により前記第2位置において前記綱状構造体の内部が腐食していると推定し、第1位置と第2位置の高さが一致する場合に前記綱状構造体の外部および内部が腐食していると推定する、綱状構造体の維持管理装置である。
【0019】
本発明によれば、第1検出部の検出結果と第2検出部の検出結果とを組み合わせることによって、第1異常部分が生じた第1位置と第2異常部分が生じた第2位置との位置関係を参照することにより、第1検出部の検出結果のみ又は第2検出部の検出結果のみでは推定できなかった綱状構造体の劣化状態を推定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、綱状構造体の劣化状態を推定すると共に、劣化状態に応じた補修対策を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の維持管理対象となる吊橋の構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る維持管理装置の構成を示すブロック図である。
図3】第1検出部の構成を示す図である。
図4】第1検出部の撮像部の構成を示す斜視図である。
図5】第2検出部の構成を示す図である。
図6】第2検出部の磁化器の構成を示す図である。
図7】第2検出部のブリッジ回路の構成を示す図である。
図8】第2検出部の構成を示すブロック図である。
図9】第2検出部の検査原理を示す図である。
図10】第1検出部の撮像データを示す図である。
図11】第2検出部の計測データを示す図である。
図12】第1検出部の他の撮像データを示す図である。
図13】第2検出部の他の計測データを示す図である。
図14】演算部において実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。維持管理装置は、綱状構造体の劣化の度合いを診断し、劣化状態に応じた補修対策を選択するものである。以下、綱状構造体の一例として、吊橋のハンガーロープを維持管理装置により維持管理する方法を説明する。
【0023】
図1に示されるように、吊橋Bは、橋桁160がワイヤーロープで吊り下げられる構造を有する橋梁である。吊橋Bは、2本の主塔100(タワー)がスパン間に構築される。主塔100は、海中に設けられた基礎140の上に構築される。2本の主塔100間には、主塔100の上端に支持されたメインケーブル120が懸架される。メインケーブル120は、複数の鋼製のワイヤーが平行に束ねられて形成されている。
【0024】
メインケーブル120の両端は、地上に設置されたアンカレッジ130に接続される。アンカレッジ130は、コンクリート製の重量物であり、メインケーブル120を地表に連結させる。メインケーブル120からは、複数のハンガーロープ150が吊り降ろされている。複数のハンガーロープ150の張力により橋桁160が支持される。
【0025】
ハンガーロープ150は、複数のワイヤーロープが撚られて形成されている。ハンガーロープ150は、剥き出しの状態であり、防食対策として表面が塗装やメッキ処理されている。ハンガーロープ150は、海上の風雨に曝されつつ、日中の温度変化や橋桁160の荷重変化等の影響を受け、膨張、収縮、伸縮、振動等を繰り返すため、表面の塗膜等の一部が剥がれ落ちる。塗膜等が剥がれ落ちた部分は、ワイヤーロープの金属地の表面が風雨に直接曝されて錆が発生し、腐食が進行する。
【0026】
ハンガーロープ150は、複数のワイヤーロープが撚られているため、内部に腐食が生じる場合がある。従って、ハンガーロープ150の劣化度合を診断し、劣化度合に応じて塗装の塗り替え等のメンテナンスの時期を適切に見極めることが重要となる。維持管理装置は、ハンガーロープ150に生じる表面上の異常部分と内部の異常部分を抽出し、ハンガーロープ150の劣化状態を推定すると共に、劣化状態に応じた補修対策を選択するものである。
【0027】
図2に示されるように、維持管理装置1は、ハンガーロープ150の表面を撮像する第1検出部2と、ハンガーロープ150の非破壊検査を行う第2検出部10と、端末装置20とを備える。第1検出部2は、例えば、カメラを用いてハンガーロープ150の周方向の画像をハンガーロープ150の長さ方向の位置に対応付けて撮像する。第2検出部10は、例えば、ハンガーロープ150に電磁界の変化を与え、ハンガーロープ150内の磁束をハンガーロープ150の長さ方向の位置に対応付けて検出する。第1検出部2及び第2検出部10の詳細な説明については後述する。
【0028】
端末装置20は、第1検出部2及び第2検出部10の検出結果に基づいてハンガーロープ150の劣化度合を判定する。端末装置20は、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等の端末装置により実現される。端末装置20は、例えば、有線または無線で第1検出部2及び第2検出部10に接続される。
【0029】
端末装置20と第1検出部2及び第2検出部10とは、必ずしも接続される必要はなく、第1検出部2及び第2検出部10の測定時のデータが記憶されたメモリカード等の記憶媒体を介して端末装置20に読み込ませたり、第1検出部2及び第2検出部10からネットワークを介したデータ通信等により端末装置20に取得させたりするものであってもよい。
【0030】
端末装置20は、例えば、第1検出部2及び第2検出部10の検出結果の情報を取得する取得部30と、取得部30から取得された情報に基づいてハンガーロープ150の劣化度合を判定する演算部40と、演算部40の判定結果を表示する表示部50と、取得部30が取得した情報を記憶する記憶部60と、を備える。
【0031】
取得部30は、第1検出部2及び第2検出部10から測定データを取得するインタフェースである。演算部40は、第1検出部2及び第2検出部10から取得したデータに基づいてハンガーロープ150の劣化度合を判定する。
【0032】
演算部40は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。
【0033】
表示部50は、演算部40の演算結果を出力する。表示部50は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイ等の表示装置である。表示部50は、必ずしも端末装置20に設けられていなくてもよく、端末装置20と無線又は有線で接続されるパーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等の他の端末装置により実現されてもよい。
【0034】
記憶部60は、取得部30から取得された第1検出部2の撮像データ、第2検出部10の計測データを記憶する。記憶部60は、フラッシュメモリやHDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体により構成された記憶装置である。記憶部60は、端末装置20に内蔵されていてもよいし、外部装置やネットワークに接続されたサーバにより構成されていてもよい。
【0035】
次に第1検出部2について詳述する。第1検出部2は、ハンガーロープ150の表面を撮像することによりハンガーロープ150の損傷を検出する。
【0036】
図3に示されるように、第1検出部2は、ハンガーロープ150に沿って昇降する走行体3と、ハンガーロープ150の表面を撮像する一対の撮像部5とを備える。走行体3は、例えば、一対のハンガーロープ150の間に架設される。走行体3は、ウインチ(不図示)から繰り出されたウインチワイヤWに吊下げられている。走行体3は、ウインチによりハンガーロープ150に沿って昇降する。第1検出部2の詳細な構成については、例えば、特許文献1に記載された構成を適用することができる。
【0037】
図4には、ハンガーロープ150の長さ方向に直交する方向から見た撮像部5の半分の構成が示されている。撮像部5は、ハンガーロープ150を把持する把持部4を備える。把持部4は、ハンガーロープ150の周囲を把持するように配置された複数のローラ4Rを備える。ローラ4Rは、ハンガーロープ150の長さ方向に沿って走行するように把持部4に回転自在に軸支されている。撮像部5は、ハンガーロープ150の周囲を4等分して撮像する4個のカメラCを備える。従って、撮像部5には、計4個のカメラCが備えられている。
【0038】
カメラCは、ハンガーロープ150の長さ方向の所定範囲を撮像すると共に、ハンガーロープ150の周方向の少なくとも90度の範囲を撮像する。撮像部5に設けられた4個のカメラCは、ハンガーロープ150の周囲を4等分した異なる範囲をそれぞれ撮像する。4個のカメラCが撮像する範囲には、それぞれ重複する部分が生じてもよい。
【0039】
カメラCは、例えば、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサ等のカメラ素子から構成される撮像デバイスである。4個のカメラCにより撮像された画像データは、後述の端末装置20の演算部40の画像処理により繋ぎ合わされる。
【0040】
カメラCの近傍には、ハンガーロープ150を照射する複数の光源Lが設けられている。光源Lは、例えばLED(Light Emitting Diode)照明である。なお、光源Lは、白熱電球や蛍光灯等であってもよい。光源Lは、ハンガーロープ150の周方向の少なくとも90度の範囲を照射する。
【0041】
上記構成により第1検出部2は、ハンガーロープ150の長さ方向に沿って走行する。そして、第1検出部2は、撮像部5により2本のハンガーロープ150の長さ方向の位置に対応付けて2本のハンガーロープ150の周方向を撮像する。第1検出部2は、例えば、遠隔操作により制御される。第1検出部2は、操作に基づいて、上昇、下降、撮像を行う。第1検出部2は、端末装置20により遠隔操作されてもよい。
【0042】
次に、第1検出部2が取得した画像データの処理について説明する。第1検出部2が取得した画像データは、端末装置20に出力される。端末装置20は、取得部30を介して画像データを記憶部60に記憶する。記憶部60に記憶された画像データは、ハンガーロープ150の位置に対応付けられた情報を含む。画像データは、動画データであってもよい。遠隔操作により、撮像部5の録画が開始される。録画の状況は、例えば、無線通信を介して端末装置20の表示部50に表示されてもよい。
【0043】
撮像部5が撮像した画像データは、第1検出部2内に設けられた記憶部(不図示)に一時的に記憶される。一時的に記憶された画像データは、撮像後に無線通信により端末装置20に出力され、記憶部60に記憶される。
【0044】
演算部40は、記憶部60に記憶された画像データを読み出し、ハンガーロープ150の表面に生じている異常部分を抽出する。演算部40は、例えば、ディープラーニングを用いた学習によりハンガーロープ150の表面に生じている異常部分を抽出する。
【0045】
演算部40は、先ず、複数の正常な状態のハンガーロープ150の表面の画像を教師データに用いて、ニューラルネットワークに基づくディープラーニングで機械学習する。演算部40は、機械学習に基づいて正常な状態のハンガーロープ150の表面を認識する。演算部40は、画像データを読み出し、正常な状態のハンガーロープ150の表面と比較して、正常な状態のハンガーロープ150の表面と異なる腐食が生じた状態のハンガーロープ150の表面の画像をハンガーロープ150の長さ方向の位置に対応付けて抽出する。
【0046】
演算部40は、例えば、正常な状態のハンガーロープ150の表面の面積に比して異常が生じている領域の面積の比率(変状率)が予め設定された閾値以上である場合、ハンガーロープ150の表面に異常が生じていると判定する。このようにして演算部40は、撮像された画像に基づいて変状率を算出し、ハンガーロープ150の表面に生じた腐食部分(第1異常部分)をハンガーロープ150の長さ方向の位置(第1位置)に対応付けて抽出する。機械学習により大量の画像の中から腐食部分を抽出することにより、作業効率が向上しメンテナンスに関するコストを大幅に低減することができる。
【0047】
演算部40は、抽出した腐食部分の情報を記憶部60に記憶する。ここで、腐食部分とは、例えば、ハンガーロープ150の表面の塗膜やメッキが剥がれ落ちて腐食(錆)が発生している部分である。
【0048】
演算部40は、抽出した画像のうち腐食部分の変状率に応じて腐食部分に対する補修の対策を選定する。演算部40は、後述のように、第1検出部2の検出結果に加えて第2検出部10の検出結果に基づいて、第1検出部2により検出された第1異常部分が生じた第1位置と第2検出部10により検出された第2異常部分が生じた第2位置との位置関係に基づいてハンガーロープ150の状態を推定する。
【0049】
次に、第2検出部10について詳述する。第2検出部10は、第1検出部2と異なる非破壊検査による検出方法でハンガーロープ150の状態を検出するものである。第2検出部10は、例えば、ハンガーロープ150に磁界を与えると共に、ハンガーロープ150内を通る磁束を測定し、測定値に基づいてハンガーロープ150の欠損等を検出する内部腐食検出デバイスである。
【0050】
図5に示されるように、第2検出部10は、一対のハンガーロープ150に沿って昇降する一対の筐体11と、筐体11に設けられ、ハンガーロープ150に磁界を与える一対の磁化器12とを備える。筐体11は、ウインチ(不図示)から繰り出されたウインチワイヤWに吊下げられている。筐体11は、ウインチによりハンガーロープ150に沿って昇降する。筐体11は、例えば、ハンガーロープ150の長さ方向に沿って走行する。
【0051】
図6には、ハンガーロープ150の長さ方向に直交する方向から見た磁化器12の半分の構成が示されている。磁化器12は、ハンガーロープ150を磁化する永久磁石13S,13Nとハンガーロープ150の電磁的特性の変化を検出するセンサ14とを備える。磁化器12は、永久磁石13S,13Nから発生する磁界によりハンガーロープ150を磁化する。センサ14は、ハンガーロープ150の周囲に巻回されるコイル状に形成されている。センサ14は、永久磁石13S,13Nにより磁化されたハンガーロープ150内を通る磁束量を測定する。
【0052】
上記構成により第2検出部10は、ハンガーロープ150の長さ方向に沿って走行する。そして、第2検出部10は、ハンガーロープ150の長さ方向の位置に対応付けてハンガーロープ150を磁化すると共に、ハンガーロープ150内を通る磁束量を測定する。第2検出部10は、例えば、端末装置20からの遠隔操作により制御される。第2検出部10は、操作に基づいて、上昇、下降、測定を行う。第2検出部10は、第1検出部2と一体に設けられていてもよく、第1検出部2と連動して測定を行ってもよい。
【0053】
端末装置20は、取得部30を介して第2検出部10から取得した磁束に基づく信号データを記憶部60に記憶する。端末装置20の操作により、第2検出部10の測定が開始される。測定の状況は、無線通信を介して表示部50に表示されてもよい。
【0054】
測定された信号データは、端末装置20に出力される。信号データは、ハンガーロープ150の位置に対応付けられた情報を含み、取得部30を介して取得され、記憶部60に記憶される。第2検出部10は、測定データを第2検出部10内に設けられた記憶部(不図示)に一時的に記憶し、測定後に端末装置20に測定データを出力するようにしてもよいし、無線通信により測定後に端末装置20に測定データを出力するようにしてもよい。
【0055】
記憶部60に記憶された測定データは、演算部40により読み出だされる。演算部40は、測定データに基づいて、ハンガーロープ150に生じている異常部分(第2異常部分)を位置(第2位置)に対応付けて抽出する。
【0056】
ハンガーロープ150に切断部分、腐食部分、欠損部分等の異常が生じている場合、磁束量に基づく信号強度が変化する(図11及び図13参照)。演算部40は、例えば、磁束量の距離に対する信号強度の変化率を演算し、所定の閾値を超えた変化率が検出された場合、検出された位置においてハンガーロープ150に異常が生じていると判定する。
【0057】
第2検出部10は、ハンガーロープ150内を通る磁束量を測定するものの他、電磁誘導を利用した探傷検査を行ってハンガーロープ150の損傷を検知する他のセンサデバイスであってもよい。
【0058】
探傷検査のための第2検出部10は、例えば、ハンガーロープ150に電磁界の変化を与え、ハンガーロープ150に生じる渦電流から生じる磁界の変化に基づく探傷信号を測定することにより、ハンガーロープ150の塗膜やメッキの層の探傷を行う。
【0059】
図7に示されるように、2検出部10は、例えば、ハンガーロープ150に交流磁界を与える検出用のループコイル19と、ループコイル19の信号処理を行う検出回路18とを備える。ループコイル19は、ハンガーロープ150の周囲を巻回するように形成されている。検出回路18は、ループコイル19に交流電流を与える共に、ループコイル19の電流値の変化を検出する。
【0060】
図8に示されるように、検出回路18は、例えば、傷の検出性能とループコイル19に合せて発信周波数を変更する発信器18Aと、ループコイル19のインピーダンス変化を検出するブリッジ回路18Bと、信号を増幅する増幅回路18Cと、信号の位相を識別する同期検波回路18Dと、ノイズをカットするフィルタ回路18Eとを備える。以下、渦電流を用いた探傷検査の原理について説明する。
【0061】
図9に示されるように、渦電流を用いた探傷検査は、ループコイル19を用いてハンガーロープ150に渦電流を生じさせると共に、渦電流により生じた磁界の変化を検出する。ハンガーロープ150には、ループコイル19から生じる交流磁界による電磁誘導により、渦電流が生じる。このとき、コイルの電流はA1に変化する。ハンガーロープ150の表面に割れなどの傷が生じている場合、渦電流は亀裂を避けて迂回して流れる。このとき、コイルの電流はA1からA2に変化する。
【0062】
そして、ループコイル19に流れる電流は、渦電流により生じた磁界の変化に従ってわずかに変化が生じる。ループコイル19に流れる電流値の微細な変化は、ループコイル19にブリッジ回路18Bを形成することで検出することができる。ブリッジ回路18Bは、いわゆるホイートストンブリッジであり、各ブリッジにおける電流値を算出することができる。
【0063】
先ず、初期状態においてハンガーロープ150の周囲にループコイル19を巻回し、損傷が生じていないハンガーロープ150の表面に渦電流が発生する状態にし、Z3(インピーダンス)を変化させて、ブリッジ回路18Bの平衡バランスを取り、増幅回路18Cに流れる電流値がゼロになるように調整する(図7参照)。
【0064】
次にループコイル19をハンガーロープ150の長さ方向に沿って移動させる。ループコイル19がハンガーロープ150に傷が生じている位置に到達した場合、ブリッジ回路18Bのバランスが崩れて回路に電流が流れる。検出回路18は、ブリッジ回路から増幅回路に流れた電流を検出して信号処理し、端末装置20に出力する。
【0065】
上記構成により探傷検査のための第2検出部10は、ハンガーロープ150の長さ方向に沿って走行する。そして、第2検出部10は、ハンガーロープ150の長さ方向の位置に対応付けて探傷信号の変化を測定する。第2検出部10は、例えば、端末装置20からの遠隔操作により制御される。第2検出部10は、操作に基づいて、上昇、下降、測定を行う。第2検出部10は、第1検出部2と一体に設けられていてもよく、第1検出部2と連動して測定を行ってもよい。
【0066】
端末装置20は、取得部30を介して第2検出部10から取得した探傷信号のデータを記憶部60に記憶する。端末装置20の操作により、第2検出部10の測定が開始される。測定の状況は、無線通信を介して表示部50に表示される。
【0067】
測定された探傷信号のデータは、端末装置20に出力される。探傷信号のデータは、ハンガーロープ150の位置に対応付けられた情報を含み、取得部30を介して取得され、記憶部60に記憶される。第2検出部10は、探傷信号のデータを第2検出部10内に設けられた記憶部(不図示)に一時的に記憶し、測定後に端末装置20に測定データを出力するようにしてもよい。
【0068】
演算部40は、記憶部60に記憶された画像データを読み出し、ハンガーロープ150に生じている異常部分(第2異常部分)を位置(第2位置)に対応付けて抽出する。
【0069】
ハンガーロープ150に切断部分、メッキ消耗部分の異常が生じている場合、演算部40は、探傷信号の距離に対する変化率を演算し、所定の閾値を超えた変化率が検出された場合、検出された位置においてハンガーロープ150に異常が生じていると判定する。
【0070】
次に、第1検出部2及び第2検出部10の検出結果に基づく演算部40の判定処理について説明する。非破壊検査を行う第2検出部10の測定結果は、少なくとも1つを用いることができる。即ち、演算部40は、異なる非破壊検査を行う第2検出部10の測定結果のいずれかを用いてもよいし、推定の確度を高めるために磁束を用いた探傷検査及び渦電流を用いた探傷検査の測定結果の両方を用いてもよい。以下、比較のため、第2検出部10の測定結果は、磁束を用いた探傷検査と渦電流を用いた探傷検査と両方の測定結果を示す。
【0071】
第1検出部2による撮像データ、渦電流を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データ、及び磁束を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データをハンガーロープ150の位置に基づいて比較する。
【0072】
図10及び図11に示されるように、ハンガーロープ150の38[m]付近を比較すると、第1検出部2による撮像データには、ハンガーロープ150の表面の腐食部分が検出されていない。これに対して、渦電流を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データには、異常部分が検出されている(図11(A)参照)。更に、磁束を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データにも、異常部分が検出されている(図11(B)参照)。
【0073】
このように、ハンガーロープ150の同じ位置において第1検出部2の撮像データには異常部分が検出されず、第2検出部10の測定データにおいて異常部分が検出された場合、ハンガーロープ150の内部が腐食しつつも表面には腐食が出現していないものと推定される。
【0074】
ハンガーロープ150の38[m]付近の異常部分の検出部分から所定距離(例えば、10[m])以内の検出結果を参照すると、上方のハンガーロープ150の44[m]付近において、第1検出部2による撮像データには、ハンガーロープ150の表面の腐食部分(異常部分)が存在する(図10参照)。また、同じ位置において渦電流を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データには、異常部分が検出されている(図11(A)参照)。更に、同じ位置において磁束を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データにも、異常部分が検出されている(図11(B)参照)。
【0075】
このように、ハンガーロープ150の同じ位置において第1検出部2の撮像データと、第2検出部10の測定データとの全てのデータにおいて異常部分が検出された場合、ハンガーロープ150の内部が腐食し表面に腐食が出現しているものと推定される。
【0076】
即ち、第1検出部2で検出された第1異常部分が生じたハンガーロープ150の第1位置と、第2検出部10で検出された第2異常部分が生じたハンガーロープ150の第2位置との間の距離が一致した場合、ハンガーロープ150の外部及び内部が腐食している状態であると推定される。
【0077】
上述したように、ハンガーロープ150の異常部分の検出部分から所定距離(例えば、10[m])以内の検出結果を参照すると、検出部分の上方の44[m]付近において、第1検出部2による撮像データには、ハンガーロープ150の表面の腐食部分が検出されている。これに対して、渦電流を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データには、異常部分が検出されていない。更に、磁束を用いた探傷検査による第2検出部10の測定データにも、異常部分が検出されていない。
【0078】
これらの検出結果に基づいて、38[m]付近の第2位置においてハンガーロープ150の表面に腐食が生じていないが内部に腐食が生じているので、上方の44[m]付近の第1位置において外部の腐食部分から水を含む不純物が侵入し、下方の第2位置において内部に水を含む不純物が溜まってハンガーロープ150の内部の腐食が進行したものと推定される。
【0079】
推定結果からハンガーロープ150の劣化状態に応じた補修対策をする必要がある。そのため、44[m]付近のハンガーロープ150の表面の腐食に対しては、ハンガーロープ150の表面の研磨や再塗装等の外部の補修をすると共に、止水対策を行って水を含む不純物の侵入を防止する対策を行う。そして、38[m]付近においては内部の腐食の状態に応じた対策を行う。
【0080】
このようにして、維持管理方法によれば、第1検出部2により検出された第1異常部分が生じた第1位置と第2検出部10により検出された第2異常部分が生じた第2位置との位置関係に基づいて、ハンガーロープ150の内部の状態を推定することができる。
【0081】
次に、ハンガーロープ150の劣化状態の他の事例について説明する。
【0082】
図12及び図13に示されるように、他のハンガーロープ150の37[m]付近を比較すると、第1検出部2による撮像データには、ハンガーロープ150の表面の腐食部分が検出されている。そして、渦電流を用いた探傷検査を用いた第2検出部10の測定データにも異常部分が検出されている(図13(A)参照)。更に、磁束を用いた探傷検査を用いた第2検出部10の測定データにも、異常部分が検出されている(図13(B)参照)。
【0083】
このように、ハンガーロープ150の同じ位置において第1検出部2の撮像データに異常部分が検出され、第2検出部10の測定データにおいても異常部分が検出された場合、ハンガーロープ150の内部が腐食すると共に、表面が腐食していると推定される。
【0084】
37[m]付近の撮像データを検証すると、ハンガーロープ150の表面の腐食は僅かにもかかわらず第2検出部10により異常部分が検出されているので、内部の腐食が進行して表面に腐食が出現しているという劣化状態であると推定される。
【0085】
37[m]付近の異常部分の検出部分から所定距離以内の検出結果を参照すると、検出部分の上方の40[m]付近において、第1検出部2による撮像データに、ハンガーロープ150の表面の腐食部分が検出されている。これに対して、渦電流を用いた探傷検査を用いた第2検出部10の測定データには、異常部分が検出されていない。更に、磁束を用いた探傷検査を用いた第2検出部10の測定データにも、異常部分が検出されていない。
【0086】
そうすると、37[m]付近の異腐食部分の上方の40[m]付近の表面の腐食部分から水を含む不純物が侵入し、下方の37[m]付近の腐食部分の位置において水を含む不純物が溜まってハンガーロープ150の内部の腐食が進行したものと推定される。
【0087】
推定結果に基づいて、ハンガーロープ150の劣化状態に応じた補修対策をする必要がある。そのため、40[m]付近のハンガーロープ150の表面の腐食に対しては、ハンガーロープ150の表面の研磨や再塗装等の外部の補修をすると共に、止水対策を行って水を含む不純物の侵入を防止する対策を行う。そして、37[m]付近においては外部及び内部の腐食の状態に応じた対策を行う。
【0088】
上記対策は、必ずしも全ての部分で行われる必要はないが、異常部分の状態と所定距離の範囲内の異常部分の状態に基づいて対策が選定される。また、これらの補修対策は上述した例に限らず他の補修方法が適用されてもよい。例えば、上述した腐食パターンと異なる他の第1異常部分と第2異常部分との位置関係に基づく腐食パターンついては、適宜腐食状態とその原因を抽出し、外部及び内部の腐食の状態に応じた対策を行えばよい。
【0089】
上述したハンガーロープ150の劣化診断は、端末装置20の演算部40において自動的に処理が実行されてもよい。
【0090】
演算部40は、記憶部60に記憶された第1検出部2の撮像データを参照し、ハンガーロープ150の画像解析を行い、ハンガーロープ150の画像に基づいて、ハンガーロープ150の表面の第1異常部分を抽出する。また、演算部40は、記憶部60に記憶された非破壊検査の第2検出部10の計測データを解析し、第2検出部10の計測結果に基づいて、ハンガーロープ150の第2異常部分を抽出する。
【0091】
撮像データに基づいてハンガーロープ150の表面に画像で腐食が検出され、且つ、同じ位置において非破壊検査の検出結果に基づいて異常が検出された場合、ハンガーロープ150の内部の腐食が外部にも表れているものと推定される。そのため、演算部40は、第1異常部分と同じ位置において第2異常部分が生じている場合、ハンガーロープ150の外部及び内部に腐食が生じていると判定する。
【0092】
更に、演算部40は、検出された異常部分の位置から所定距離以内において第1異常部分又は第2異常部分のいずれか一方又は両方を抽出する。演算部40は、例えば、検出された異常部分の位置から所定距離以内の上方の位置において第1異常部分が抽出された場合、ハンガーロープ150の外部及び内部に生じた腐食は上方に生じたハンガーロープ150の外部の腐食部分が原因で生じていると判定する。
【0093】
この他の例として、ハンガーロープ150の表面に画像で腐食が検出され、且つ、同じ位置において非破壊検査で異常が検出されない場合、ハンガーロープ150の外部に腐食が生じているが内部は腐食していないと推定される。そのため、演算部40は、第1異常部分が生じた第1位置に第2異常部分が生じていない場合、ハンガーロープ150の外部に腐食が生じていると判定する。
【0094】
更に、演算部40は、検出された異常部分の位置から所定距離以内において第1異常部分又は第2異常部分のいずれか一方又は両方を抽出する。演算部40は、例えば、検出された異常部分の位置から所定距離以内の下方の位置において第2異常部分が抽出された場合、ハンガーロープ150の内部に生じた腐食は上方に生じたハンガーロープ150の外部の腐食部分が原因で生じていると判定する。
【0095】
この他の例として、ハンガーロープ150の表面に画像で腐食が検出されず、且つ、同じ位置において非破壊検査で異常が検出された場合、ハンガーロープ150の内部に腐食が生じているが外部は腐食していないと推定される。そのため、演算部40は、第2異常部分が生じた第2位置に第1異常部分が生じていない場合、ハンガーロープ150の内部に腐食が生じていると判定する。
【0096】
更に、演算部40は、検出された異常部分の位置から所定距離以内において第1異常部分又は第2異常部分のいずれか一方又は両方を抽出する。演算部40は、検出された異常部分の位置から所定距離以内の上方の位置において第1異常部分が抽出された場合、ハンガーロープ150の内部に生じた腐食は上方に生じたハンガーロープ150の外部の腐食部分が原因で生じていると判定する。
【0097】
演算部40は、ハンガーロープ150の表面、内部のうちいずれか一方又は両方に異常部分が検出された場合で且つ、所定距離以内でハンガーロープ150の表面、内部のうちいずれか一方又は両方に異常部分が検出された場合、ハンガーロープ150に生じている各異常部分の状態に応じた劣化状態を判定する。
【0098】
上述のように、演算部40は、第1異常部分が生じた第1位置と第2異常部分が生じた第2位置との位置関係に基づいてハンガーロープ150の劣化状態を推定する。演算部40は、ハンガーロープ150の所定距離以内で生じた異常部分の劣化状態に応じた補修対策を選択し、表示部50に表示させる。
【0099】
図14は、演算部40において実行される処理の流れを示すフローチャートである。演算部40は、第1検出部2及び第2検出部10の検出結果に基づいて、異常部分を抽出する(ステップS100)。演算部40は、ハンガーロープ150に異常部分が生じていない場合、(ステップS102:No)、処理をステップS100に戻す。演算部40は、ハンガーロープ150に異常部分が生じている場合、(ステップS102:Yes)、所定距離以内の異常部分を抽出する(ステップS104)。
【0100】
演算部40は、所定距離以内に異常部分がある場合(ステップS106:Yes)、上下の異常部分の位置関係に基づいて劣化状態を推定する(ステップS108)。演算部40は、劣化状態に応じた補修対策を選択する(ステップS110)。
【0101】
ステップS106で所定距離以内に異常部分が無い場合(ステップS106:No)、演算部40は、ハンガーロープ150に生じた異常部分の劣化状態を推定する(ステップS112)。演算部40は、劣化状態に応じた補修対策を選択する(ステップS114)。上述した各ステップ(工程)の順序はこの限りでなく、入れ替えられてもよい。
【0102】
上述したように、綱状構造体の維持管理方法によれば、ハンガーロープ150の補修をする際の基準を示すことができる。また、維持管理方法によれば、第1検出部2及び第2検出部10においてハンガーロープ150の異常部分が検出された位置だけでなく、異常部分が検出された位置の近傍の第1検出部2及び第2検出部10の検出結果を参照することにより、第1検出部2あるいは第2検出部10による検出結果のみでは推定できなかったハンガーロープ150の腐食状態と腐食原因を推定することができる。そして、維持管理方法によれば、推定した腐食状態に応じた補修対策をすることができる。
【0103】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では、第2検出部の非破壊検査に渦電流を用いた探傷検査と磁束を用いた探傷検査を例示したが、これに限らず振動、音響、超音波を用いた試験法、歪等を測定するAE(Acoustic Emission)法が用いられてもよい。また、維持管理方法は、吊橋Bのハンガーロープ150の診断を例示したが、斜張橋ケーブル、アーチ橋の吊材、ケーブルカー、クレーン、エレベーター等に用いられる他の綱状構造体の維持管理に適用してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1…維持管理装置、2…第1検出部、3…走行体、4…把持部、4R…ローラ、5…撮像部、10…第2検出部、11…筐体、12…磁化器、13N、13S…永久磁石、14…センサ、18…検出回路、18A…発信器、18B…ブリッジ回路、18C…増幅回路、18D…同期検波回路、18E…フィルタ回路、19…ループコイル、20…端末装置、30…取得部、40…演算部、50…表示部、60…記憶部、100…主塔、120…メインケーブル、130…アンカレッジ、140…基礎、150…ハンガーロープ、160…橋桁、B…吊橋、C…カメラ、L…光源、W…ウインチワイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14