(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】電解液およびハイブリッド電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/035 20060101AFI20230801BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20230801BHJP
H01G 9/145 20060101ALI20230801BHJP
H01G 9/048 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01G9/035
H01G9/15
H01G9/145
H01G9/048 B
(21)【出願番号】P 2019160400
(22)【出願日】2019-09-03
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】清澤 潤一
(72)【発明者】
【氏名】西澤 和人
(72)【発明者】
【氏名】勝又 悟
(72)【発明者】
【氏名】陳場 康弘
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-198248(JP,A)
【文献】特開2017-228738(JP,A)
【文献】特開2008-300684(JP,A)
【文献】特開平9-134853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/035
H01G 9/15
H01G 9/145
H01G 9/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極箔および陰極箔と、前記陽極箔および前記陰極箔の間に配置されたセパレータと、前記セパレータに保持された導電性高分子および電解液とを備えたハイブリッド電解コンデンサに用いられる電解液であり、
ラクトンを含有した第1溶媒と、下記化学式1で表される化合物を含有した第2溶媒と、芳香族ニトロ化合物と、を含
み、
30℃における比抵抗が、4k~16.5kΩ・cmであることを特徴とする電解液。
【化1】
ここで、R
1はC
XH
2Xで表され、Xは1以上の整数であり、R
2,R
3,R
4,R
5,R
6およびR
7はHまたはC
YH
2Y+1で表され、Yは1以上の整数である。
【請求項2】
前記芳香族ニトロ化合物の、前記電解液における混合割合が、0.2~5.0重量部である、
請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記芳香族ニトロ化合物が、p-ニトロベンジルアルコール、およびp-ニトロフェノールのいずれかである、
請求項1または2に記載の電解液。
【請求項4】
誘電体酸化皮膜を有する陽極箔および陰極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を備え、
前記セパレータは導電性高分子と
請求項1~3のいずれか一項に記載の電解液を保持するハイブリッド電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電解コンデンサに用いられる電解液およびこの電解液を用いたハイブリッド電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電解質に導電性高分子と電解液とを用いたハイブリッド型の電解コンデンサ(ハイブリッド電解コンデンサ)が知られている。そして、ハイブリット電解コンデンサとして、等価直列抵抗(ESR)の低下を目的として、種々のものが提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、電解液の溶媒として、γ―ブチロラクトン等の低粘性溶媒と、ポリアルキレングリコールやプロピレングリコールなどの難揮発性溶媒とを併用したハイブリッド電解コンデンサが開示されている。これらのハイブリット電解コンデンサでは、低温環境下から高温環境下までESRを低くすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-195116号公報
【文献】特開2017-228738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本願発明者らが、特許文献1や特許文献2に開示されたハイブリット電解コンデンサを音響用電解コンデンサとして使用、評価したところ、音質が優れていないことがわかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、音響用電解コンデンサとして使用した際に、音質を向上させることが可能な電解液およびこの電解液を用いたハイブリッド電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の電解液は、誘電体酸化皮膜を有する陽極箔および陰極箔と、前記陽極箔および前記陰極箔の間に配置されたセパレータと、前記セパレータに保持された導電性高分子および電解液とを備えたハイブリッド電解コンデンサに用いられる電解液であり、ラクトンを含有した第1溶媒と、下記化学式1で表される化合物を含有した第2溶媒と、芳香族ニトロ化合物と、を含むことを特徴としている。
【化1】
ここで、R
1はC
XH
2Xで表され、Xは1以上の整数であり、
R
2,R
3,R
4,R
5,R
6およびR
7はHまたはC
YH
2Y+1で表され、Yは1以上の整数である。
【0007】
本願発明者らが鋭意研究したところ、上記第1溶媒および上記第2溶媒を含む電解液に、芳香族ニトロ化合物を含ませると、音響用電解コンデンサとして使用した際に、音質が向上することを見出した。
【0008】
ここで、電解液の30℃における比抵抗が、4~35kΩ・cmであることが好ましい。この場合、音質をさらに向上させることができる。また、本発明において、前記芳香族ニトロ化合物の、前記電解液における混合割合は、0.2~5.0重量部が好ましい。芳香族ニトロ化合物の電解液における混合割合が、0.2重量部未満の場合には、リフロー時の製品膨張が大きくなる一方で、芳香族ニトロ化合物の電解液における混合割合が5.0重量部を超えると、エージング処理後の漏れ電流が大きくなる。従って、芳香族ニトロ化合物の電解液における混合割合を0.2~5.0重量部とすることで、リフロー時の製品膨張を抑制しつつ、エージング処理後の漏れ電流も抑制することができる。
【0009】
また、本発明において、前記芳香族ニトロ化合物が、p-ニトロベンジルアルコール、およびp-ニトロフェノールのいずれかであってもよい。
【0010】
本発明のハイブリッド電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する陽極箔および陰極箔がセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子を備え、前記セパレータは導電性高分子と上述した電解液とを保持している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、音響用電解コンデンサとして使用した際に、音質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド電解コンデンサの要部透視斜視図である。
【
図2】
図1に示すコンデンサ素子の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
ハイブリッド電解コンデンサ1は、
図1に示すように、外装ケース2と、外装ケース2に収容されたコンデンサ素子3と、外装ケース2の開口を封止した封口体4とを備えている。
【0015】
コンデンサ素子3は、
図2に示すように、陽極箔(陽極)11と陰極箔(陰極)12とをセパレータ13を介して円筒形に巻回して形成され、外周面に貼り付けられたテープ14により巻止めされている。
【0016】
陽極箔11は、表面に誘導体酸化皮膜が形成されたアルミニウム等の弁作用金属の箔である。誘導体酸化皮膜は、アルミニウム箔等をエッチング処理にて表面を粗面化した後、化成処理を施すことによって形成されている。
【0017】
陰極箔12もアルミニウム等の弁作用金属を用いて形成され、エッチング処理により表面が粗面化されたもの(粗面化箔)が使用される。この陰極箔12としては、他にエッチング処理を施さないプレーン箔も使用でき、また、前記粗面化箔もしくはプレーン箔の表面に、チタンやニッケルやその炭化物、窒化物、炭窒化物またはこれらの混合物からなる金属薄膜や、カーボン薄膜を形成したコーティング箔も使用することができる。
【0018】
陽極箔11および陰極箔12にはそれぞれ図示しないリードタブが接続されている。陽極箔11および陰極箔12は、リードタブを介して、リード端子21およびリード端子22と接続されている。リード端子21およびリード端子22は、
図1に示すように、封口体4に形成された孔31および孔32を通って外部に引き出されている。
【0019】
図2に示すセパレータ13は、導電性高分子および電解液を保持している。導電性高分子は、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはそれらの誘導体からなり、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)等をドーパントとするポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が一般的に用いられる。
【0020】
電解液は、ラクトンを含有した第1溶媒と、下記化学式1で表される化合物を含有した第2溶媒と、芳香族ニトロ化合物とを含んでいる。
【化1】
ここで、R
1はC
XH
2Xで表され、Xは1以上の整数であり、
R
2,R
3,R
4,R
5,R
6およびR
7はHまたはC
YH
2Y+1で表され、Yは1以上の整数である。
【0021】
第1溶媒には、例えばγ-ブチロラクトンおよびγ―バレロラクトンの少なくとも一つを含有した低粘性溶媒を用いることができる。第1溶媒はその他のラクトンを含有していてもよい。
【0022】
第2溶媒は、上記化学式1で表される化合物を含有した難揮発性溶媒である。
【0023】
化学式1で表される化合物として、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールおよびこれらの誘導体、ならびに、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールおよびこれらの誘導体が挙げられる。
【0024】
1,3-プロパンジオールの誘導体には、1,3-プロパンジオールの2つのOH基(化学式1中のOR4とOR7に相当)のうち一方のOH基のH(化学式1中のR4またはR7)がアルキル基に置換されたものと、両方のOH基のH(化学式1のR4およびR7)がアルキル基に置換されたものとがある。
【0025】
他の化合物の誘導体も同様であり、2つのOH基(化学式1中のOR4とOR7に相当)のうち一方のOH基のH(化学式1中のR4またはR7)がアルキル基に置換されたものと、両方のOH基のH(化学式1のR4およびR7)がアルキル基に置換されたものとが挙げられる。
【0026】
以上のように本実施形態の電解コンデンサ1の電解液は、ラクトンを含有した第1溶媒と、上記化学式1で表される化合物を含有した第2溶媒とを含んでいる。詳細は特開2017-228738号公報に記載されているが、電解液が上記第1溶媒および上記第2溶媒を含むことで、低温環境下から高温環境下までESRを低くすることができるとともに、高温高湿条件下においても電極等に用いられたアルミニウムが電解液へ溶出し難くすることができる。
【0027】
なお、化学式1の構造を備えていると、上述の効果が生じるため、化学式1で表される化合物は上述した例に限られず、様々な化合物が含まれる。
【0028】
電解コンデンサの電解液に芳香族ニトロ化合物を含ませると、電解コンデンサ1を音響用コンデンサとして使用した際に、音質を向上させることができる。詳細には、芳香族ニトロ化合物は、ニトロ基とベンゼン環とが共鳴構造を有しており、この構造がコンデンサ素子3の電気的微振動を吸収する。その結果、ノイズが減少して安定感が増すため、音質を向上させることができると考えられる。
【0029】
芳香族ニトロ化合物としては、例えば、p-ニトロベンジルアルコール、p-ニトロフェノール、p-ニトロ安息香酸、m-ニトロアセトフェノン、o-ニトロアニソールが挙げられる。
【0030】
また、本願発明者は、鋭意研究したところ、以下の知見を得た。即ち、30℃における比抵抗が4~35kΩ・cmの範囲内にある場合には、音質のさらなる向上が見込めることがわかった。これは、30℃における比抵抗が4kΩ・cm未満の場合には音質が不安定になる傾向にあり、35kΩ・cmを超えると、解像度が低下し、スピード感(特に音の分解能・情報量および透明感)が低下することに起因する。そこで、本実施形態の電解コンデンサ1の電解液は、30℃における比抵抗が4~35kΩ・cmとなるように組成を調整することが好ましい。これにより、解像度が高く、スピード感が高い音質を得ることができる。
【0031】
さらに、本願発明者は、電解液における芳香族ニトロ化合物の混合割合は、0.2~5.0重量部が好ましいことがわかった。詳細には、本願発明者は、電解液における芳香族ニトロ化合物の混合割合が0.2重量部未満の場合には、リフロー時の製品膨張が大きめになることがわかった。以下、その理由について説明する。
【0032】
電解液の30℃における比抵抗を4~35kΩ・cmとした場合には、上述したように音質を向上させることができる。その反面、電解液の30℃における比抵抗を上記した範囲で比較的高くすると、リフロー時の製品膨張が大きくなる傾向がみられる。これは、比抵抗が高いために化成性が弱く、エージング処理後の製品内圧が高い(エージング処理時のガス発生量が多い)等の理由が考えられる。
【0033】
芳香族ニトロ化合物は、ガス吸収効果を有している。このため、電解液に芳香族ニトロ化合物を含ませると、エージング処理時に発生したガスを吸収することができる。しかしながら、電解液における芳香族ニトロ化合物の混合割合が0.2重量部未満の場合には、芳香族ニトロ化合物によるガス吸収効果が低いため、リフロー時の製品膨張が大きめになることがわかった。
【0034】
一方で、電解液における芳香族ニトロ化合物の混合割合が5.0重量部を超えると、エージング処理後の漏れ電流が大きめになる。これは、芳香族ニトロ化合物の混合割合が5.0重量部を超えると、耐電圧の低下により電解液の化成性が低下するため、漏れ電流が上昇したと考えられる。
【0035】
以上により、リフロー時の製品膨張を抑制しつつ、エージング処理後の漏れ電流を抑制する観点で、電解液における芳香族ニトロ化合物の混合割合は、0.2~5.0重量部にすることが好ましい。
【0036】
(ハイブリット電解コンデンサの製造方法)
次に、本実施形態に係るハイブリッド電解コンデンサの製造方法について説明する。
【0037】
まず、所定の幅に切断された陽極箔および陰極箔に外部引き出し電極用のリードタブを接続した。リードタブはアルミニウムで形成されている。陽極箔は、弁作用金属であるアルミニウム箔をエッチング処理にて粗面化した後、化成処理を施すことにより、誘電体酸化皮膜が形成されたものを用いた。陰極箔は、弁作用金属であるアルミニウム箔をエッチング処理にて粗面化されているものを用いた。陽極箔および陰極箔を、エスパルトパルプなど天然繊維を主体としたセパレータを介して巻回することにより、巻回素子を作製した。
【0038】
続いて、陽極箔の切断された端面およびリードタブとの取り付け部は、誘電体酸化皮膜が欠損しているため、この部分を化成処理し、修復した。より詳細には、化成処理は、アジピン酸アンモニウムを水溶媒に溶解させた0.5~3wt%の化成液を用いて、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加して行った。
【0039】
次に、1~5wt%のPEDOT/PSSを含むポリマ分散体水溶液を、80~100kPaの減圧下で、巻回素子に30分間浸漬・含浸させた後、25℃で24時間静置することによって水分を除去した。これによりコンデンサの陰極層となる導電性高分子層を形成した。
【0040】
次に、上記第1溶媒と、上記第2溶媒と、上記芳香族ニトロ化合物とを含む電解液をアルミニウム製の有底筒状のケース内に注入した。なお、電解液は、溶質として、亜リン酸ジブチルアミン等をさらに含んでいる。
【0041】
その後、導電性高分子を形成したコンデンサ素子のリード端子を封口ゴム(封口体)の孔に挿通した後、ケースにコンデンサ素子を収容し、コンデンサ素子にケース内の電解液を含浸させると共に、ケースの周縁をカーリング加工した。そして、90℃程度の温度条件にて、コンデンサに定格電圧を印加し、エージング処理を施して、本実施形態に係るハイブリッド電解コンデンサを作製した。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
上述のハイブリッド電解コンデンサの製造方法により、実施例1~10に係るハイブリッド電解コンデンサを作製した。また、電解液の組成が異なる点を除いて、上述のハイブリッド電解コンデンサの製造方法と同様の製造方法により、比較例1~3に係るハイブリッド電解コンデンサを作製した。作製したハイブリッド電解コンデンサそれぞれは、直径6.3mm、高さ6.1mm、定格電圧35V、静電容量47μFのハイブリッド電解コンデンサである。
【0043】
実施例1~10、比較例1~3に係るハイブリッド電解コンデンサは、表1に示すように電解液の組成が互いに異なる。詳細には、実施例1~10、および比較例2~3に係る電解液では、難揮発性溶媒に1,5-ペンタンジオールを用い、低粘性溶媒にγ-バレロラクトン(GVL)を用いた。比較例1に係る電解液では、難揮発溶媒にポリエチレングリコール(平均分子量300)を用い、低粘性溶媒にγ-バレロラクトンを用いた。また、各ハイブリッド電解コンデンサの電解液は、溶質として、亜リン酸ジブチルアミンを含んでいる。また、実施例1~4、6~10に係る電解液は、芳香族ニトロ化合物として、p-ニトロベンジルアルコールを含み、実施例5に係る電解液では、芳香族ニトロ化合物として、p-ニトロフェノールを含んでいる一方で、比較例1~3に係る電解液は、芳香族ニトロ化合物を含んでいない。
【0044】
また、表1中に、各電解液の30℃における比抵抗を示す。
【0045】
【0046】
以上の作製したハイブリッド電解コンデンサに対して、音響評価実験、および製品特性実験を行った。
【0047】
(音響評価実験)
まず、音響評価実験について説明する。音響評価実験では、作製したハイブリット電解コンデンサをプリメインアンプの電源フィルター回路に実装した。そして電源フィルター回路にハイブリット電解コンデンサを実装したオーディオ機器で試聴を行い、その再生音質を評価した。試聴者は3名で、バランス、歪み感、明るさ、音の締まり、高音域の抜け、中低音域の伸び、音の広がり、透明感、音場感、および分解能・情報量の10項目について10点満点で評価して3名の評価点の平均値を算出した。また、総合評価点は10項目の評価点の合計値で示し、100点満点とした。下記表2は、音響評価実験の結果を示している。
【0048】
【0049】
表2から以下のことがわかる。即ち、電解液が、上記第1溶媒と、上記第2溶媒と、上記芳香族ニトロ化合物とを含む場合(実施例1~10)は、含まない場合(比較例1~3)に比較して総合評価点が高くなった。特に、電解液の30℃における比抵抗が4~35kΩ・cmの範囲内となっている実施例1~9に係るハイブリット電解コンデンサは、総合評価点が高く、優れた音質を得ることができていることがわかった。より詳細には、実施例1~9に係るハイブリット電解コンデンサでは、低音域から高音域にわたる全ての帯域においてバランスが良く、歪み感が無く、且つ、情報量および分解能が高く、音場感溢れる音質を得ることができている。また、実施例1~8に係るハイブリット電解コンデンサでは、総合評価点が80点以上となっており、優れた音質を得ることができている。
【0050】
一方で、比較例1~3に係るハイブリット電解コンデンサは、総合評価点が実施例1~10と比べて低くなっている。比較例1に係るハイブリット電解コンデンサでは、電解液の30℃における比抵抗が4~35kΩ・cmの範囲内となっているが、電解液の難揮発溶媒として、上記化学式1で表される化合物を使用しておらず、ポリエチレングリコールを使用しているため、実施例1~10と同等の音質を得ることができていない。なお、比較例1の電解液に芳香族ニトロ化合物を含ませたとしても、音質の向上はあまり見込まれない。これは、ポリエチレングリコールの酸素原子が電極箔表面のアルミに配位することで芳香族ニトロ化合物の上記音質を向上させる作用が阻害されるためと考えられる。
【0051】
(製品特性実験)
次に、製品特性実験について説明する。この製品特性実験では、実施例1、2、4、5、7、8を実験対象にした。また、製品特性実験では、漏れ電流特性実験、および製品膨張寸法実験の2種類を行った。
【0052】
漏れ電流特性実験では、初期のハイブリット電解コンデンサを、室温(25℃)において、定格電圧を印加し、その2分後に漏れ電流(エージング処理後の漏れ電流)を測定した。
【0053】
製品膨張寸法実験では、各ハイブリット電解コンデンサを模擬リフロー試験に供した。具体的には、リフロー後の状態にするため、245℃に3分間放置した後、室温(25℃)まで冷却し、再び245℃に3分間放置した後、室温まで冷却させた。そして、模擬リフロー試験前後でのハイブリット電解コンデンサの高さの寸法を比較して、ハイブリット電解コンデンサの高さの膨張寸法を測定した。なお、製品膨張寸法実験では、実施例1、2、4、5、7、8のそれぞれについて試験数10ずつ測定した。
【0054】
下記表3は、漏れ電流特性実験、および製品膨張寸法実験の測定結果を示す。なお、表3中の製品膨張寸法の各数値は、測定した10の試験数の平均値を示している。
【0055】
【0056】
表3から以下のことがわかる。即ち、実施例1、2、4、5、7、8の全てのハイブリット電解コンデンサにおいて、漏れ電流は規格値(16.45μA)以下であり不良とはなっていない。しかしながら、電解液における芳香族ニトロ化合物の混合量が5.0重量部以下の場合には、当該混合量に依らず漏れ電流の値は殆ど変らないが、実施例8に示すように混合量が5.0重量部を超えると、当該混合量に応じて漏れ電流の値が大きくなることがわかった。
【0057】
また、実施例1、2、4、5、7、8の全てのハイブリット電解コンデンサにおいて、模擬リフロー試験後に僅かに製品膨張がみられるが何れも問題ないレベルである。しかしながら、電解液における芳香族ニトロ化合物の混合量が2.0重量部以上の場合には、当該混合量に依らず製品膨張寸法は殆ど変らないが、実施例1に示すように芳香族ニトロ化合物が0.2重量部未満である場合、製品膨張寸法に増大傾向がみられた。
【0058】
以上の製品特性実験により、芳香族ニトロ化合物の電解液における混合割合を0.2~5.0重量部とすることで、リフロー時の製品膨張を抑制しつつ、エージング処理後の漏れ電流を抑制することができることがわかった。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1 ハイブリッド電解コンデンサ
2 外装ケース
3 コンデンサ素子
4 封口体
11 陽極箔(陽極)
12 陰極箔(陰極)
21,22 リード端子