(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】研磨パッド及びその製造方法、並びに研磨加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20230801BHJP
B24B 37/22 20120101ALI20230801BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230801BHJP
C08J 5/14 20060101ALI20230801BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230801BHJP
C08J 9/26 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
B24B37/24 A
B24B37/24 B
B24B37/22
C08L101/00
C08J5/14 CFF
H01L21/304 622F
C08J9/26 102
(21)【出願番号】P 2019174470
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】喜樂 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】守 純哉
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-079877(JP,A)
【文献】特開2011-051075(JP,A)
【文献】特開2014-030868(JP,A)
【文献】特開2019-155572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
B24B 37/22
C08L 101/00
C08J 5/14
H01L 21/304
C08J 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気泡を有する研磨層を有し、
前記研磨層を構成する樹脂の23±2℃における100%モジュラスが5~20MPaであり、
前記研磨層の研磨面から深さ100μmにおける樹脂の壁比率W
100が、20~40%であ
り、
前記研磨層の前記研磨面と反対側に、クッション層をさらに有し、
前記クッション層の厚みが、0.1~10mmであり、
前記研磨面から深さ50μmにおける樹脂の壁比率W
50
に対する、前記研磨面から深さ100μmにおける樹脂の壁比率W
100
の減少率((W
50-
W
100
)/W
50
)が、30~60%であり、
前記研磨層と前記クッション層との積層体の圧縮変形量が、40~70μmであり、
前記研磨層及び前記クッション層は、ポリエステル系ポリウレタン樹脂からなる、
研磨パッド。
【請求項2】
請求項1に記載の研磨パッドの製造方法であって、
有機溶媒に溶解した樹脂を含む樹脂溶液を、成膜基材上に塗布し、水系凝固液中で樹脂溶液を凝固させて樹脂シートを得る工程と、
得られた前記樹脂シートを延伸する工程と、を有する、
研磨パッドの製造方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、
研磨加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド及びその製造方法、並びに研磨加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体ウェハ、ガラス、磁気ディスク等の被研磨物を平坦化するために研磨パッドを用いた研磨加工が行われている。研磨加工は、研磨レートが重視される傾向にある一次研磨加工(粗研磨加工)と、スクラッチの少なさ等の面品位が重視される傾向にある二次研磨加工(最終仕上げの研磨加工)に分類することができる。
【0003】
面品位の向上という観点からは、研磨加工時の局所的な応力を分散し、スクラッチを低減させるために、柔らかい研磨層を備える研磨パッドが用いられる。このような柔らかい研磨層としては、例えば、湿式成膜法で発泡が形成された軟質プラスチックシートが知られている。
【0004】
一般に、軟質プラスチックシートは、軟質プラスチックを水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の基材に塗布後、水系凝固液中で樹脂を凝固再生させることで製造(湿式成膜)される。このため、湿式成膜された軟質プラスチックシート(研磨層1)では、樹脂の凝固再生に伴う発泡構造2を有しており、研磨液を貯留させつつ研磨加工を行うことができる(
図1参照)。
【0005】
このような軟質プラスチックシートは通常は研磨面3と反対側にクッション層4を有するが、軟質プラスチックシート(研磨層1)それ自体が柔軟性を有し変形しやすく、被研磨物Wを圧接させたときに、研磨層1の表層のうち、被研磨物の周縁部と接する付近1’が特に伸張する。この伸張した部分から被研磨物が受ける応力は、伸張していない部分から被研磨物が受ける応力よりも高くなる。そのため、被研磨物Wの周縁部W1に過度な応力Fがかかり、ロールオフW2が発生しやすくなり、被研磨物Wの平坦性が低下する(
図1~2参照)。なお、ロールオフは、縁ダレ又は端部ダレということもある。
【0006】
特許文献1には、このような表面の低粗さと良質な端部形状を両立させることを課題として、パッドモジュラス値からパッドの圧縮変形量値を70~100に調整する技術が開示されており、基本的に高いパッドモジュラス値と、低い圧縮変形量値を有する研磨パッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このように硬質の研磨パッドを用いると、昨今求められるような微小なスクラッチの少ない高品質な面品質を達成することが困難である。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ロールオフとスクラッチの発生を抑制できる研磨パッド、及び当該研磨パッドの製造方法、並びに当該研磨パッドを用いた研磨加工品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、研磨層を軟質のままに維持しつつ、研磨層の表層付近の気泡間の壁厚を一定の範囲とすることで、被研磨物から受ける応力を抑制し、研磨時のロールオフの発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
内部に気泡を有する研磨層を有し、
前記研磨層を構成する樹脂の23±2℃における100%モジュラスが5~20MPaであり
前記研磨層の研磨面から深さ100μmにおける樹脂の壁比率W100が、20~40%である、
研磨パッド。
〔2〕
前記研磨面から深さ50μmにおける樹脂の壁比率W50に対する、前記研磨面から深さ100μmにおける樹脂の壁比率W100の減少率((W50-W100)/W50)が、30~60%である、
〔1〕に記載の研磨パッド。
〔3〕
前記研磨層の前記研磨面と反対側に、クッション層をさらに有する、
〔1〕又は〔2〕に記載の研磨パッド。
〔4〕
前記研磨層と前記クッション層との積層体の圧縮変形量が、40~70μmである、
〔3〕に記載の研磨パッド。
〔5〕
有機溶媒に溶解した樹脂を含む樹脂溶液を、成膜基材上に塗布し、水系凝固液中で樹脂溶液を凝固させて樹脂シートを得る工程と、
得られた前記樹脂シートを延伸する工程とを有する、
研磨パッドの製造方法。
〔6〕
〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する、
研磨加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロールオフとスクラッチの発生を抑制できる研磨パッド、及び当該研磨パッドの製造方法、並びに当該研磨パッドを用いた研磨加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来の軟質プラスチックシートを研磨層として用いた研磨工程を示す概略図である。
【
図2】被研磨物の周縁部に生じたロールオフを示す概略図である。
【
図3】本実施形態の研磨パッドを用いた研磨工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0015】
〔研磨パッド〕
本実施形態の研磨パッドは、内部に気泡を有する研磨層を有する。この研磨層を構成する樹脂の23±2℃における100%モジュラスが5~20MPaであり、研磨層の研磨面から深さ100μmにおける樹脂の壁比率W100が、20~40%であるものである。
【0016】
上記のように、軟質プラスチックを用いた従来の研磨パッドは、柔軟性を有し変形しやすく、仕上げ研磨等に適したものである。しかしながら、その柔軟性のために、被研磨物を圧接させたときに被研磨物の周縁部に過度な応力がかかり、ロールオフが発生しやすくなるという課題を有していた。
【0017】
伸張した部分から被研磨物が受ける応力が高くなる理由の一つとしては、伸長により発泡構造が押しつぶされることで伸長した部分の柔軟性が減少するためと考えられる。これに対して、本実施形態の研磨パッド30は、被研磨物Wを圧接させたときに、被研磨物Wの周縁部W1にかかる応力を緩和するような気泡構造32を有する。より具体的には、伸張した場合においても柔軟性を確保し、伸張した部分から被研磨物が受ける応力を低く抑えるために、研磨面から所定の深さにおける樹脂と気泡の関係を所定の範囲のものとする(
図3参照)。
【0018】
また、本実施形態の研磨パッド30は、上記に加えて、研磨層31の研磨面33と反対側に、両面テープなどの粘着層を介して、クッション層34を有してもよい。また、本実施形態の研磨パッド30は、クッション層34の研磨層側と反対側の面に、研磨パッドを研磨定盤に固定するための両面テープなどの粘着層を有してもよい。以下、各構成について詳説する。
【0019】
〔研磨層〕
研磨層は、研磨パッドにより被研磨物を研磨する際に、被研磨物と直接接触する研磨面を有する。
【0020】
研磨層を構成する樹脂の23±2℃における100%モジュラスは、5~20MPaであり、好ましくは5~10MPaであり、より好ましくは6~9MPaである。100%モジュラスが5MPa以上であることにより、被研磨物を押し当てた際の研磨層の変形が抑制され、ロールオフがより抑制される。また、100%モジュラスが20MPa以下であることにより、研磨層の柔軟性がより向上し、スクラッチの発生がより抑制される。なお、100%モジュラスは、室温23±2℃の環境下において、測定対象となる層と同じ材料を用いた無発泡のシート(試験片)を100%伸ばしたとき、すなわち元の長さの2倍に伸ばしたときの引張力を試験片の初期断面積で除した値である。
【0021】
また、上記のとおり、本実施形態の研磨層は被研磨物の周縁部にかかる応力を緩和するような気泡構造を有する。本実施形態においては、このような気泡構造の指標として、研磨層の研磨面から深さ100μmにおける樹脂と気泡の割合を示す壁比率W100を用いる。この壁比率W100は、20~40%であり、好ましくは22~37%であり、より好ましくは25~35%である。壁比率W100が20%以上であることにより、気泡の割合が小さくなるため、研磨層を繰り返し加圧したときに部分的に沈み込みが発生し元に戻りにくくなる「へたり」が生じにくくなる。へたりが生じると、繰り返し研磨パッドを用いた場合に、研磨レートのバラツキが生じるおそれがあるが、壁比率W100が20%以上であることにより、このようなバラツキも抑制することができる。一方、壁比率W100が40%以下であることにより、被研磨物の周縁部にかかる応力をより小さく抑えることが可能となり、ロールオフを抑制することができる。
【0022】
さらに、被研磨物の周縁部にかかる応力を緩和するような気泡構造として、研磨面から離れるほど壁比率Wが低くなる、すなわち、気泡の占める割合が多くなることが好ましい。このような観点から、気泡構造の指標として、研磨面から深さ50μmにおける樹脂の壁比率W50に対する、研磨面から深さ100μmにおける樹脂の壁比率W100の減少率((W50-W100)/W50)を用いることができる。
【0023】
本実施形態における減少率((W50-W100)/W50)は、好ましくは30~60%であり、より好ましくは33~57%であり、さらに好ましくは35~55%である。減少率((W50-W100)/W50)が大きいほど、研磨面から深さ100μmに向かって気泡の占める割合が急激に増え、減少率((W50-W100)/W50)が大きいほど、研磨面から深さ100μmに向かって気泡の占める割合が緩やかに増える。したがって、減少率((W50-W100)/W50)が30%以上であることにより、被研磨物の周縁部にかかる応力がより緩和される傾向にある。また、減少率((W50-W100)/W50)が60%以下であることにより、研磨層の柔軟性が増加しすぎることによる、研磨レートの低下が抑制される傾向にある。
【0024】
なお、壁比率W100、W50は、後述する製造方法において、樹脂溶液の有機溶剤の使用量を調整する方法、樹脂シートを延伸したりその延伸率を調整する方法などが挙げられる。樹脂溶液の有機溶剤の使用量が多いほど形成される気泡が大きくなり壁比率が小さくなる傾向にあり、有機溶剤の使用量が少ないほど壁比率が大きくなる傾向にある。また、樹脂シートを延伸することにより、延伸前の樹脂シートと比較して壁比率が小さくなり、延伸率により壁比率を調整することができる。また、壁比率W100、W50は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
研磨層が有する気泡の立体形状は、特に制限されないが、例えば、略球状、錐体状、及び紡錘形状が挙げられる。錐体状や紡錘形状の場合、研磨層の厚み方向に長い錐体状、及び紡錘形状が好ましい。研磨層がこのような形状を有する気泡を含むことにより、研磨パッドがスラリーを保持しやすく、また研磨屑を収容しやすい傾向にある。また、研磨層が研磨層の厚み方向に長い錐体状又は紡錘形状の気泡を有することで、上記壁比率Wを満たす研磨層を構成しやすくなる傾向にある。
【0026】
研磨層を構成する樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリサルホン樹脂、及びポリイミド樹脂、その他従来の研磨パッドの樹脂シート部分に用いられる樹脂が挙げられる。これらの中では、ポリウレタン樹脂が好ましい。このような樹脂を用いることにより、ロールオフとスクラッチの発生をより抑制できる傾向にある。また、上記100%モジュラスを上記範囲に設定したり、所望の気泡構造を形成しやすい傾向にある。研磨層を構成する樹脂は1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリウレタン樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル-エーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリウレタン樹脂は1種を単独で用いても又は2種以上を併用してもよい。
【0028】
研磨層は、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、研磨パッドにおける研磨層に用いられ得るものであれば特に制限されないが、例えば、カーボンブラックなどの顔料、ノニオン系界面活性剤などの成膜安定剤及びアニオン系界面活性剤などの発泡調整剤が挙げられる。
【0029】
〔クッション層〕
本実施形態の研磨パッドは、研磨層の被研磨物を研磨する面(研磨面)とは反対側の面にクッション層を有していてもよい。クッション層を設けることにより、定盤の硬さや平坦性の影響がより緩和され、ワークと研磨面の当たりムラがより防止される傾向にある。これにより、研磨パッドの耐用期間を延長することが可能となるほか、ワーク周辺部の欠け等のチッピングの発生がより効果的に防止される傾向にある。
【0030】
クッション層の材料としては、特に制限されないが、例えば、樹脂含浸不織布、合成ゴム、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム等が挙げられる。このなかでも、ポリウレタンフォームがより好ましい。
【0031】
クッション層の厚みは、好ましくは0.1~10mmであり、より好ましくは0.4~3mmである。クッション層の厚みが上記範囲内であることにより、研磨パッドを研磨機に設置する際などにおいて、機械的な制約をうけにくく、且つ、研磨定盤の影響を十分に小さくできる傾向にある。
【0032】
本実施形態の研磨パッドは研磨層とクッション層との積層体が所望の特性を有することが好ましい。このような観点から、研磨層とクッション層との積層体の圧縮変形量は、好ましくは40~70μmであり、より好ましくは45~68μmであり、さらに好ましくは50~65μmである。圧縮変形量が上記範囲内であることにより、ロールオフとスクラッチがより抑制される傾向にある。
【0033】
〔粘着層〕
本実施形態の研磨パッドは、研磨層とクッション層の間やクッション層の研磨層側と反対側の面に、粘着層を有してもよい。ここで、研磨層とクッション層の間に配される粘着層は、研磨層とクッション層を接着させるものであり、クッション層の研磨層側と反対側の面に配される粘着層は、研磨機の研磨定盤に研磨パッドを貼着するために用いるものである。
【0034】
粘着層としては、特に制限されないが、例えば、両面テープや、接着剤が挙げられる。なお、両面テープの場合には、粘着面に剥離紙が貼り付けられていてもよい。
【0035】
〔研磨パッドの製造方法〕
本実施形態の研磨パッドの製造方法は、有機溶媒に溶解した樹脂を含む樹脂溶液を、成膜基材上に塗布し、水系凝固液中で樹脂溶液を凝固させて樹脂シートを得る工程と、得られた樹脂シートを延伸する工程と、を有する。
【0036】
一般的に、樹脂シートを形成する方法としては、湿式成膜法や乾式成型法(モールド法ともいう)が知られているが、本実施形態においては湿式成膜法を採用する。湿式成膜法では、樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液を成膜用基材に連続的に塗布し、これを水系凝固液に浸漬することで樹脂をシート状に凝固再生させる。このようにして得られたシートの内部には、樹脂の凝固再生に伴い発生した多数の発泡が含まれている。そして、これを洗浄後乾燥させて長尺状の樹脂シートを得ることができる。以下、湿式成膜法の各工程について詳述する。
【0037】
一般に、湿式成膜法は、準備工程、塗布工程、凝固再生工程及び洗浄乾燥工程を含む。さらに、必要に応じて、シートの表面平坦化のための研削・除去工程を含んでもよい。
【0038】
準備工程では、樹脂を、その樹脂を溶解可能で水混和性の有機溶媒に溶解させ、さらに、所望により添加剤を添加し、均一になるよう混合して、樹脂溶液を調製する。樹脂溶液は、濾過により凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡しておくことが好ましい。
【0039】
例えば、ポリウレタンを溶解可能で水混和性の有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)等の極性溶媒が挙げられる。
【0040】
また、樹脂溶液中の樹脂濃度に限定はないが、例えば、10~50質量%とすることができる。
【0041】
さらに、樹脂溶液には、例えば、発泡を制御する発泡調整剤、ポリウレタンの凝固再生を安定化させる成膜安定剤、及び、発泡形成を安定化させるためのカーボンブラック等の添加剤を添加することができる。
【0042】
成膜安定剤としては、特に制限されないが、例えば、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。具体的には、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルのような炭素数3以上のアルキル鎖が付加した化合物等が挙げられる。
【0043】
また、発泡調整剤としては、特に制限されないが、例えば、アニオン系界面活性剤が挙げあられる。具体的には、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩等が挙げられる。
【0044】
塗布工程では、準備工程で調製された樹脂溶液を、常温下でナイフコータ等を用いて帯状の成膜基材に略均一に塗布するなどして塗膜を形成する。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、樹脂溶液の塗布厚さ(塗布量)を調整することができる。
【0045】
成膜基材としては、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。成膜基材として不織布や織布を用いる場合は、ポリウレタン溶液の塗布時にポリウレタン溶液が成膜基材内部へ浸透するのを抑制するため、基材を予め水又は有機溶媒水溶液(DMFと水との混合液等)に浸漬する前処理(目止め)を行うことが好ましい。
【0046】
凝固再生工程では、塗布工程で得られた塗膜(樹脂溶液が塗布された成膜基材)を、樹脂に対して貧溶媒である凝固液(例えば、水や水を主成分とする溶媒)に浸漬し、樹脂溶液の塗布膜を内部に多数の発泡を有するシート状に凝固再生させる。
【0047】
凝固液中では、一般に、まず、塗布された樹脂溶液の表面に微多孔の形成された厚さ数μm程度のスキン層が形成され、その後、ポリウレタン溶液中の有機溶媒と凝固液との置換の進行により樹脂が成膜用基材の片面にシート状に凝固再生する。このとき、典型的には、有機溶媒が樹脂溶液から脱溶媒し、有機溶媒と凝固液とが置換することにより、スキン層の下側(成膜基材側)にスキン層に形成された微多孔より孔径が大きく、シートの厚み方向に丸みを帯びた断面略三角状の発泡が略均等に分散した状態で形成された発泡層が形成されるが、気泡構造はこれに限らない。
【0048】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生した樹脂シートが成膜基材から剥離され、水等の洗浄液中で洗浄されて樹脂中に残留する有機溶媒が除去される。洗浄後、得られた樹脂シートを必要に応じてシリンダ乾燥機等で乾燥させる。
【0049】
シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備える乾燥機であり、樹脂シートがシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の樹脂シートは、ロール状に巻き取られる。
【0050】
表層付近が所定の壁比率を有する研磨層を得るためには、樹脂溶液の有機溶剤の使用量を調整する方法、樹脂シートを延伸する方法、樹脂シート表面のバフ処理量を調整する方法、樹脂溶液への発泡助剤の添加による方法などが挙げられる。
【0051】
上記のように巻き取られた樹脂シートは、延伸工程により所定の延伸率で延伸する。これにより、樹脂シートが延伸されて、壁比率が変化する。樹脂シートの延伸率は105~300%(元長に対して1.05倍~3倍の長さの意味)であり、より好ましくは110~250%である。樹脂シートを構成する樹脂の種類によって異なるが、延伸率が105%以上であることにより、所定の壁比率を有する研磨層を形成しやすくなり、また、延伸率が300%以下であることにより、樹脂シートの破断や過度の薄肉化を回避できる傾向にある。
【0052】
研削・除去工程では、シートの両面のうちの少なくとも一方を、バフ処理又はスライス処理で研削及び/又は一部除去する。バフ処理やスライス処理によりシートの厚みの均一化を図ることができ、シートの表面をより平坦にすることができるため、被研磨物に対する押圧力を一層均等化し、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0053】
本実施形態における研磨層は、上述の湿式成膜法だけではなく、他の方法、例えば、特許第4624781号公報に開示されているような超臨界ガス発泡法によって100%モジュラスの異なる2種の熱可塑性ポリウレタンから製造することもできる。
【0054】
〔研磨加工品の製造方法〕
本実施形態の研磨加工品の製造方法は、上記研磨パッドを用いて、被研磨物を研磨する研磨工程を有する。研磨工程は、一次研磨(粗研磨)であってもよく、仕上げ研磨であってもよく、それら両方の研磨を兼ねるものであってもよい。
【0055】
まず、研磨機の研磨定盤に研磨パッドを装着して固定する。そして、研磨定盤と対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨パッドの研磨面側へ押し付けると共に、ワークと研磨パッドとの間にスラリを供給しながら研磨定盤及び/又は保持定盤を相対的に回転させることで、被研磨物の加工面に研磨加工を施す。
【0056】
スラリは、化学機械研磨において用いられる強酸化剤、溶媒、研磨粒子が含まれていてもよい。強酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムなどが挙げられる。溶剤としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、炭化水素が好ましく、高沸点を有する炭化水素がより好ましい。炭化水素としては、特に限定されないが、例えば、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族系炭化水素及び脂環式炭化水素が挙げられる。高沸点を有する炭化水素としては、例えば、初留点220℃以上の石油系炭化水素が挙げられる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0057】
また、スラリには、必要に応じて、その他の添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、例えば非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド及びカルボン酸等が挙げられる。
【0058】
被研磨物としては、特に限定されないが、例えば、半導体デバイス、電子部品等の材料、特に、Si基板(シリコンウェハ)、SiC(炭化珪素)基板、GaAs(ガリウム砒素)基板、ガラス、ハードディスクやLCD(液晶ディスプレイ)用基板等の薄型基板(被研磨物)が挙げられる。このなかでも、本実施形態の研磨物の製造方法は、パワーデバイス、LEDなどに適用され得る材料、例えば、サファイア、SiC、GaN、及びダイヤモンドなど、研磨加工の困難な難加工材料の製造方法として好適に用いることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
〔研磨層作製工程〕
25℃における100%モジュラスが9MPaであるポリエステル系ポリウレタン樹脂30%をジメチルホルムアミド(DMF)へ溶解させた溶液100質量部、カーボンブラック7.9質量部、成膜安定剤(ノニオン系界面活性剤)2.7質量部、発泡調整剤(アニオン系界面活性剤)1.2質量部、水8質量部、DMF55質量部をそれぞれ添加して混合撹拌することにより、樹脂溶液を得た。
【0061】
次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに上記樹脂溶液をナイフコーターを用いて塗布し、塗膜を得た。
【0062】
次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水に浸漬し、樹脂を凝固再生して樹脂シートを得た。樹脂シートを凝固浴から取り出し、成膜用基材を樹脂シートから剥離した後、樹脂シートを水からなる洗浄液に浸漬し溶媒であるDMFを除去した。その後、樹脂シートを乾燥しつつ巻き取った。
【0063】
得られた樹脂シート0.6mmを幅方向に140%延伸し、樹脂シートの表面に対してバフ処理を施して、0.4mmの厚さの樹脂シートを得て、これを研磨層とした。
【0064】
〔クッション層作製工程〕
25℃における100%モジュラスが24MPaであるポリエステル系ポリウレタン樹脂30%をDMFで溶解させた溶液100質量部、カーボンブラック5.4質量部、成膜安定剤(ノニオン系界面活性剤)2.7質量部、発泡調整剤(アニオン系界面活性剤)1.2質量部、水8質量部、粘度調整用にDMF55質量部をそれぞれ添加して混合撹拌することにより、樹脂溶液を得た。
【0065】
次に、成膜用基材として、PETフィルムを用意し、そこに上記樹脂溶液をナイフコーターを用いて塗布し塗膜を得た。
【0066】
次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水に浸漬し、樹脂を凝固再生して樹脂シートを得た。樹脂シートを凝固浴から取り出し、成膜用基材を樹脂シートから剥離した後、樹脂シートを水からなる洗浄液に浸漬し溶媒であるDMFを除去した。その後、樹脂シートを乾燥させ0.4mmの厚さのクッション層とした。
【0067】
〔研磨パッド作製工程〕
上記で得られた研磨層のバフ処理が施されていない面側に、同じく上記で得られたクッション層をポリウレタン樹脂製の粘着剤を用いて貼り合わせた。そして、クッション層の研磨層と貼り合わせていない側の面に剥離紙を備えたPET基材からなる両面テープを貼り合わせ、研磨パッドとした。
【0068】
(実施例2)
研磨層作製工程において、25℃における100%モジュラスが6.3MPaであるポリエステル系ポリウレタン樹脂を用い、さらに得られた樹脂シートを幅方向に110%延伸したこと以外は、すべて実施例1と同様の処方で研磨パッドを作製した。
【0069】
(比較例1)
研磨層作製工程において、得られた樹脂シートを延伸しなかったこと以外は、すべて実施例1と同様の処方で研磨パッドを作製した。
【0070】
(比較例2)
研磨層作製工程において、DMFの添加量を55質量部から30質量部へ変更したこと以外は、すべて実施例1と同様の処方で研磨パッドを作製した。
【0071】
〔壁比率〕
研磨層の研磨面から100μmおよび50μmの深さ地点における断層画像を、3次元計測X線CT装置(ヤマト科学社製 TDM1000H-II(2K))を用いて得た。次いで、得られた断層画像に対して画像処理ソフト(Volume Graphics社製 VG Studio MAX 3.0)を用いて気泡部分と樹脂部分の面積を算出し、全体面積に対する樹脂部分面積の割合を壁比率とし算出した。
【0072】
〔圧縮変形量〕
ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を用いて、日本工業規格(JIS L 1021)に準拠して、研磨パッドの圧縮変形量を測定した。具体的には、初荷重で30秒間加圧した後の厚さt0を測定し、次に最終荷重のもとで5分間放置後の厚さt1を測定した。このとき、初荷重は100g/cm2、最終荷重は1120g/cm2であった。圧縮変形量は、下記数式(1)で算出した。
数式(1):圧縮変形量(mm)=t0-t1
【0073】
〔研磨試験〕
実施例及び比較例で得られた研磨パッドを研磨機の定盤に貼り付けた。そして、被研磨物であるシリコンウェハ(直径12インチ×厚さ780μm)に対して、下記に示す研磨条件にて研磨を行った。
(研磨条件)
回転数:(定盤)40rpm/(トップリング)41rpm
研磨圧:100g/cm2
揺動 :20mm
研磨剤:フジミインコーポレーテッド社製 GLANZOX 1306(原液:水=1:20)
【0074】
〔ロールオフの評価〕
上記研磨試験後のシリコンウェハの外周部分のSFQRmax(site front least squares range)を評価した。SFQRは、ウェハのロールオフの程度を示す数値である。
【0075】
実施例及び比較例の結果について、実施例1の結果を基準に実施例1より10%以上の改善が見られたものを◎、実施例1より10%未満の範囲で改善が見られたものを○、実施例1より10%未満の範囲で悪化したものを△、実施例1より10%以上悪化したものを×、とそれぞれ相対比較により評価した。
【0076】
〔スクラッチ発生の有無〕
研磨試験後の被研磨物6枚の表面を対象とし、ウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、商品名「Surfscan SP1DLS」)の高感度測定モードにて測定し、被研磨物表面におけるスクラッチの有無をカウントし、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
○:スクラッチが入った研磨物が無い場合
×:スクラッチが入った研磨物が1枚以上ある場合
【0077】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の研磨パッドは、シリコンウェハ等を研磨するための研磨パッドとして、産業上の利用可能性を有する。