(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】不審船監視システム
(51)【国際特許分類】
G08G 3/00 20060101AFI20230801BHJP
B63B 49/00 20060101ALI20230801BHJP
B63G 8/38 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
G08G3/00 A
B63B49/00 Z
B63G8/38
(21)【出願番号】P 2019177514
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】597001523
【氏名又は名称】株式会社IHIジェットサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛
(72)【発明者】
【氏名】堂之前 義文
(72)【発明者】
【氏名】水越 紀良
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-031188(JP,A)
【文献】特開2005-096674(JP,A)
【文献】特開2013-003930(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193591(WO,A1)
【文献】特開2008-009846(JP,A)
【文献】特開2011-208961(JP,A)
【文献】特開2017-191593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0163984(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B63B 49/00
B63G 8/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が発信するAIS情報を集約するデータセンタと、
前記AIS情報を用いて不審船を監視する監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記AIS情報を用いて前記船舶の行動パターンを解析し、行動パターンが所定のルールに該当する場合に不審船と推定するフラグを付与し、前記フラグの数を集計してスコアを算出し、前記スコアに基づいて前記不審船を特定するように構成されている、
ことを特徴とする不審船監視システム。
【請求項2】
前記監視装置は、前記ルール毎に前記フラグに重み付けした値を加算して前記スコアを算出する、請求項1に記載の不審船監視システム。
【請求項3】
前記ルールは、漁船以外の船舶が洋上で針路を180度反転する動き、船舶が停泊しない海域での長期停泊、長時間のAIS信号の停波、漁船以外の船舶が他港に寄港することなく元の港に帰還する動き、前記AIS情報に含まれる静的情報の度重なる変更、前記AIS情報に含まれる静的情報の不正なデータへの変更、漁船以外の船舶が同じ海域を何度も往復する動き、2隻の船舶の異常接近の何れか一つ又はこれらの二つ以上の組み合わせである、請求項1又は2に記載の不審船監視システム。
【請求項4】
船舶が発信するAIS情報を集約するデータセンタと、
前記AIS情報を用いて不審船を監視する監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記AIS情報を用いて前記船舶の行動パターンを解析し、前記行動パターンから海図上に予めヒートマップを作成しておき、所定の船舶の現在位置から前記ヒートマップを用いて前記所定の船舶の将来行動パターンを予測し、前記所定の船舶の実際の行動パターンと前記将来行動パターンとを比較して前記不審船を特定するように構成されている、
ことを特徴とする不審船監視システム。
【請求項5】
船舶が発信するAIS情報を集約するデータセンタと、
前記AIS情報を用いて不審船を監視する監視装置と、を備え、
前記監視装置は、前記AIS情報を用いて前記船舶の行動パターンを解析し、行動パターンが所定のルールに該当する場合に不審船と推定するフラグを付与し、前記フラグの数を集計してスコアを算出し、前記スコアに基づいて前記不審船を特定するように構成されており、
さらに、前記監視装置は、前記行動パターンから海図上に予めヒートマップを作成しておき、所定の船舶の現在位置から前記ヒートマップを用いて前記所定の船舶の将来行動パターンを予測し、前記所定の船舶の実際の行動パターンと前記将来行動パターンとを比較して前記不審船を特定するように構成されている、
ことを特徴とする不審船監視システム。
【請求項6】
前記監視装置は、前記行動パターンをリアルタイムにモニタリング可能に構成されている、請求項5に記載の不審船監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不審船監視システムに関し、特に、AIS情報を用いて船舶の行動パターンを解析することにより不審船を特定し監視する不審船監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界の海域には、多数の船舶が航行しており、船舶同士の異常接近による海難事故の発生する蓋然性が非常に高くなっている。また、タンカー・貨物船・軍関係の船舶等が航行する重要海域やEEZ(Exclusive Economic Zone:排他的経済水域)等においては、海賊行為や領海侵犯を行おうとする不審船が出没する事態も増加している。また、洋上において船から船へ船荷を積み替える瀬取りによる密輸行為も問題となっている。
【0003】
このような状況に対処するため、従来からレーダや目視による船舶の監視が行われている。しかしながら、従来の方法では、巡視船や航空機等を現場に向かわせる必要があり、燃料費や人件費が嵩むだけでなく、非常に多くの船舶の中から不審船である蓋然性が高い船舶を特定することが困難であった。
【0004】
また、船舶同士の衝突回避や人命の安全確保の観点から、SOLAS条約に従い、一定の基準を満たす船舶に対して、AIS(Automatic Identification System:船舶自動識別装置)の搭載が義務づけられている。AISを用いて交信されるAIS情報には、位置・針路・速度等の動的情報、船舶を特定するID番号であるMMSI番号(Maritime Mobile Service Identity:海上移動業務識別コード)・船名・船舶のサイズ・船舶の種類等の静的情報及び船舶の喫水・積載貨物の種類・目的・到着予定時刻等の航海関連情報が含まれている。
【0005】
かかるAISを用いた従来の船舶監視システムとして、例えば、特許文献1に開示されたシステムでは、予め登録されているAIS情報と受信したAIS情報とを照合することにより、監視要求のあった船舶の行動パターンを把握するようにしている。また、特許文献2に開示された不審船の判定方法では、レーダ・カメラ・AIS情報等に基づき、特定の海域を航行する船舶のテロ発生蓋然性及び想定事態の重大度を求め、これらの情報から当該船舶が不審船であるか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-009846号公報
【文献】特開2007-265067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に記載された発明は、特定の船舶を指定して、その船舶の挙動を監視したり、不審船であるか否かを判定したりするものであり、AIS情報を発信している不特定多数の船舶の行動を網羅的に監視して不審船を特定するものではない。
【0008】
したがって、AIS情報を発信している不特定多数の船舶の中から不審船であるか否か判断するためには、結局、従前のようにレーダや目視による監視に頼らざるを得ないという問題があった。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、AIS情報を発信している不特定多数の船舶の中から不審船を特定して監視することができる、不審船監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、船舶が発信するAIS情報を集約するデータセンタと、前記AIS情報を用いて不審船を監視する監視装置と、を備え、前記監視装置は、前記AIS情報を用いて前記船舶の行動パターンを解析し、行動パターンが所定のルールに該当する場合に不審船と推定するフラグを付与し、前記フラグの数を集計してスコアを算出し、前記スコアに基づいて前記不審船を特定するように構成されている、ことを特徴とする不審船監視システムが提供される。
【0011】
前記監視装置は、前記ルール毎に前記フラグに重み付けした値を加算して前記スコアを算出するようにしてもよい。
【0012】
前記ルールは、漁船以外の船舶が洋上で針路を180度反転する動き、船舶が停泊しない海域での長期停泊、長時間のAIS信号の停波、漁船以外の船舶が他港に寄港することなく元の港に帰還する動き、前記AIS情報に含まれる静的情報の度重なる変更、前記AIS情報に含まれる静的情報の不正なデータへの変更、漁船以外の船舶が同じ海域を何度も往復する動き、2隻の船舶の異常接近の何れか一つ又はこれらの二つ以上の組み合わせであってもよい。
【0013】
また、本発明によれば、船舶が発信するAIS情報を集約するデータセンタと、前記AIS情報を用いて不審船を監視する監視装置と、を備え、前記監視装置は、前記AIS情報を用いて前記船舶の行動パターンを解析し、前記行動パターンから海図上に予めヒートマップを作成しておき、所定の船舶の現在位置から前記ヒートマップを用いて前記所定の船舶の将来行動パターンを予測し、前記所定の船舶の実際の行動パターンと前記将来行動パターンとを比較して前記不審船を特定するように構成されている、ことを特徴とする不審船監視システムが提供される。
【0014】
また、本発明によれば、船舶が発信するAIS情報を集約するデータセンタと、前記AIS情報を用いて不審船を監視する監視装置と、を備え、前記監視装置は、前記AIS情報を用いて前記船舶の行動パターンを解析し、行動パターンが所定のルールに該当する場合に不審船と推定するフラグを付与し、前記フラグの数を集計してスコアを算出し、前記スコアに基づいて前記不審船を特定するように構成されており、さらに、前記監視装置は、前記行動パターンから海図上に予めヒートマップを作成しておき、所定の船舶の現在位置から前記ヒートマップを用いて前記所定の船舶の将来行動パターンを予測し、前記所定の船舶の実際の行動パターンと前記将来行動パターンとを比較して前記不審船を特定するように構成されている、ことを特徴とする不審船監視システムが提供される。
【0015】
前記監視装置は、前記行動パターンをリアルタイムにモニタリング可能に構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明に係る不審船監視システムによれば、AIS情報を用いて船舶の行動パターンを解析し、該行動パターンを所定のルールに従ってスコア化することにより、AIS情報を発信している不特定多数の船舶の中から不審船を特定して監視することができる。また、本発明によれば、ヒートマップを用いて船舶の将来行動パターンを予測することにより、AIS情報を発信している不特定多数の船舶の中から不審船を特定して監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る不審船監視システムを示すブロック図である。
【
図5】ヒートマップ監視の説明図であり、(a)はヒートマップの一例、(b)はヒートマップ上の領域αを緯度及び経度で分割した一例、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図5(b)を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係る不審船監視システムを示すブロック図である。
図2は、
図1に示した監視装置の処理フローである。
【0019】
本発明の一実施形態に係る不審船監視システムは、
図1に示したように、船舶自動識別装置(AIS)が搭載された船舶1と、船舶1から発信されたAIS情報を受信するAIS衛星2及びAIS地上受信局3と、AIS衛星2及びAIS地上受信局3を介して船舶1が発信するAIS情報を集約するデータセンタ4と、データセンタ4から取得したAIS情報を用いて不審船を監視する監視装置5と、を備えている。
【0020】
船舶1は、例えば、貨物船・客船・フェリー等の商船、漁船、海洋調査船等の特殊船等である。ただし、船舶1は、これらの船舶に限定されるものではなく、AISを搭載している船舶の全てを含む趣旨である。
【0021】
船舶自動識別装置(AIS)は、船舶同士の衝突回避や人命の安全確保の観点から所定の船舶に搭載が義務付けられている。AISにより交信されるAIS情報には、位置・針路・速度等の動的情報、船舶を特定するID番号であるMMSI番号(海上移動業務識別コード)・船名・船舶のサイズ・船舶の種類等の静的情報及び船舶の喫水・積載貨物の種類・目的・到着予定時刻等の航海関連情報が含まれている。
【0022】
AIS衛星2は、全世界の海域を航行する船舶1から発信されるAIS情報を受信する人工衛星である。AIS地上受信局3は、例えば、100km程度の範囲内を航行する船舶1から発信されるAIS情報を受信する設備である。AIS地上受信局3は、重要な港湾や海域に配置される。
【0023】
AIS情報のデータ量は膨大であるため、AIS衛星2では広範囲かつ低密度のAIS情報を受信し、AIS地上受信局3では局所的かつ高密度のAIS情報を受信するようにしている。したがって、データセンタ4は、AIS衛星2及びAIS地上受信局3の双方を用いることにより、全世界の海域を網羅したAIS情報を取得することができる。
【0024】
監視装置5は、例えば、データセンタ4にAIS情報を要求してAIS情報を取得する送受信部51と、取得したAIS情報から不審船を特定するための演算処理を行う演算部52と、不審船を特定するためのルールの設定・所定の船舶の現在位置情報・監視装置5への指示信号等を入力するための入力部53と、船舶1の行動パターン・監視装置5の処理結果・ヒートマップ等を出力する表示部54と、を備えている。
【0025】
AIS情報は、船舶1の位置確認用のデータとして用いられているのが現状である。それに対して、本実施形態は、AIS情報から船舶1の行動パターンを解析して不審船を自動的に特定することを特徴としている。ここで、「不審船」とは、通常の船舶の行動パターンから逸脱し、特定の警戒対象となる行動パターンをとる船舶である。
【0026】
例えば、漁船以外の船舶が洋上で針路を180度反転する動き、所定の海域(船舶が停泊しない海域等)での長期停泊、長時間のAIS信号の停波、漁船以外の船舶が他港に寄港することなく元の港に帰還する動き、AIS情報に含まれる静的情報の度重なる変更、AIS情報に含まれる静的情報の不正なデータへの変更、漁船以外の船舶が同じ海域を何度も往復する動き、2隻の船舶の異常接近の何れか一つ又はこれらの二つ以上の組み合わせに該当する船舶は「不審船」と推定することができる。また、船舶1が国際機関のブラックリストに登録されている場合や船舶1が特定の国の船籍である場合にも「不審船」と推定することができる。
【0027】
監視装置5は、例えば、
図2に示した処理フローによって不審船を監視する処理を行う。監視装置5は、データセンタ4からAIS情報を取得するデータ取得工程Step1と、取得したAIS情報から不適切な情報を削除するデータクレンジング工程Step2と、取得したAIS情報を船舶毎に動的情報・静的情報・航海関連情報を時系列的に整理するデータマージ工程Step3と、船舶1の行動パターンを解析するデータ解析工程Step4と、リアルタイム監視を行うリアルタイム監視工程Step5と、長期監視を行う長期監視工程Step6と、ヒートマップ監視を行うヒートマップ監視工程Step7と、を含む処理フローを実行可能に構成されている。
【0028】
データ取得工程Step1で取得したAIS情報には、データが不十分なノイズ情報や、定期航路船のように不審船であるか否かを判断する必要のない船舶の情報も含まれている。そこで、データクレンジング工程Step2では、これらの不要な情報を含むAIS情報を間引くことにより、監視装置5の処理負担を軽減している。
【0029】
データ解析工程Step4は、例えば、AIS情報の位置情報を時系列に海図上にプロットして船舶1の行動パターンを特定したり、その行動パターン上に動的情報・静的情報・航海関連情報を関連付けたりする処理を行う。
【0030】
リアルタイム監視工程Step5~ヒートマップ監視工程Step7は、任意に選択して処理を行うことができる。また、監視装置5は、必要に応じてリアルタイム監視工程Step5を省略した構成であってもよいし、監視装置5は、長期監視工程Step6又はヒートマップ監視工程Step7の何れか一方の処理のみを行う構成であってもよい。
【0031】
リアルタイム監視工程Step5は、データ解析工程Step4により算出された行動パターンをリアルタイムにモニタリング可能に表示する工程である。具体的には、監視装置5の表示部54に行動パターンがリアルタイムに表示される。監視者が表示された行動パターンをモニタリングすることにより、経験や過去の事例に基づいて、船舶同士の衝突を予測したり、不審船を特定したりすることができる。
【0032】
長期監視工程Step6は、例えば、数時間単位や数日単位の長期に渡って船舶1の行動パターンを解析し、不審船を自動的に特定する工程である。具体的には、監視装置5は、
図3に示した処理フローによって不審船を特定する。ここで、
図3は、長期監視の処理フローである。
図4は、長期監視の出力結果の一例を示す図である。
【0033】
図3に示したように、監視装置5は、データ解析工程Step4により算出された船舶1の行動パターンが所定のルールに該当するか否か判定する判定工程Step61と、ルールに該当する場合に不審船と推定するフラグを船舶1に付与するフラグ付与工程Step62と、フラグの数を集計してスコアを算出するスコア算出工程Step63と、スコアを所定の条件で並び替えるソート工程Step64と、算出されたスコアに基づいて不審船であるか否か特定する評価工程Step65と、を含む処理フローを実行可能に構成されている。
【0034】
すなわち、監視装置5は、行動パターンが所定のルールに該当する場合に不審船と推定するフラグを付与し、付与されたフラグの数を集計してスコアを算出し、算出されたスコアに基づいて不審船を特定するように構成されている。
【0035】
フラグを付与するルールは、例えば、漁船以外の船舶が洋上で針路を180度反転する動きをしているか、所定の海域(船舶が停泊しない海域等)で長期停泊しているか、AIS信号が長時間停波しているか、漁船以外の船舶が他港に寄港することなく元の港に帰還する動きをしているか、AIS情報に含まれる静的情報が度重なって変更されているか、AIS情報に含まれる静的情報が不正なデータに変更されているか、漁船以外の船舶が同じ海域を何度も往復する動きをしているか、2隻の船舶が異常接近しているか、特定の国の船籍であるか等である。このルールは、必要に応じて追加することもできるし、削除することもできる。
【0036】
図4に示した「異常接近フラグ」は、船舶1が他の船舶と異常接近している場合に「1」が付与される項目である。また、「長期停泊フラグ」は、船舶1が所定の海域に長期間停泊している場合に「1」が付与される項目である。また、「国別フラグ」は、船舶1の船籍が特定の国である場合に「1」が付与される項目である。また、「不正データフラグ」は、AIS情報に含まれる静的情報が不正なデータに変更された場合に「1」が付与される項目である。また、「AIS長期停波フラグ」は、船舶1が長期間AIS情報を発信していない場合(すなわち、AIS信号が長時間停波している場合)に「1」が付与される項目である。
【0037】
スコア算出工程Step63において、監視装置5は、ルール毎にフラグに重み付けした値を加算してスコアを算出するようにしてもよい。例えば、フラグFiに対する重み付けをWiとすると、スコアSは、S=ΣFi・Wi(i=1,2,…,n)の数式により、算出することができる。
【0038】
重み付けWiの値は、ルールの不審度の高さに応じて設定される。例えば、国際機関のブラックリストに登録されているかを判定するルールについては重み付けWiの値を大きく設定したり、所定の海域に長期間停泊しているかを判定するルールについては重み付けWiの値を小さく設定したりすることができる。
【0039】
ソート工程Step64では、例えば、スコアの大きい順に並び替えたり、フラグが付与されたルール毎にスコアを並び替えたりしてもよい。
図4では、スコアの大きい順に並び替えた状態を図示してある。
【0040】
評価工程Step65では、例えば、スコアに閾値を設定し、所定の閾値以上の場合に不審船として特定し、閾値未満の場合には不審船ではないと評価するようにしてもよい。例えば、
図4では、スコアの閾値として「10」を設定し、スコア合計が10以上の場合に不審フラグとして「1」を付与している。また、評価工程Step65では、特定のルールにフラグが付与されている場合には、常に不審フラグを付与するようにしてもよい。
【0041】
図4に示した長期監視の出力結果の一例では、最上位に表示されたMMSI番号xxxxx87の船舶1が不審船である蓋然性が最も高い船舶であると判断される。したがって、MMSI番号xxxxx87の船舶1の行動を重点的に監視することができるし、リアルタム監視に切り替えることもできる。
【0042】
ヒートマップ監視工程Step7は、船舶1の行動パターンに基づいて予め作成しておいたヒートマップ6を用いて不審船を特定する工程である。ここで、
図5は、ヒートマップ監視の説明図であり、(a)はヒートマップの一例、(b)はヒートマップ上の領域αを緯度及び経度で分割した一例、を示している。
【0043】
監視装置5は、AIS情報を用いて船舶1の行動パターンを解析し、その行動パターンから海図上に予めヒートマップ6を作成しておき、所定の船舶1の現在位置からヒートマップ6を用いて所定の船舶1の将来行動パターンを予測し、所定の船舶1の実際の行動パターンと将来行動パターンとを比較して不審船を特定するように構成されている。
【0044】
例えば、
図5(a)のヒートマップ6上に□で示した領域αを通過する船舶1について検討する。領域αは、
図5(b)に示したように、緯度及び経度を基準にして複数のセルに分割することができる。いま、領域αを9つのセルP1~P9に分割した場合を想定する。
【0045】
ヒートマップ6上の各セルP1~P9には、例えば、表1に示したように、緯度・経度・各セルP1~P9を通過した船舶1の平均速度・速度標準偏差・平均針路・針路標準偏差・最大目的地等の情報が割り当てられる。
【0046】
【0047】
したがって、例えば、所定の船舶1の現在位置(緯度及び経度)を監視装置5に入力すると、その現在位置を含むセルが特定され、そのセルを通過する船舶1の平均速度・速度標準偏差・平均針路・針路標準偏差・最大目的地の情報を取得することができる。
【0048】
このように、ヒートマップ6を予め用意しておき、複数のセルに分割して船舶1の行動パターンに基づく情報を割り当てておくことにより、このセルを通過する船舶1の速度や針路等の将来行動パターンを予測することができる。そして、その後の船舶1の実際の行動パターン(速度・針路・目的地等)が将来行動パターンと異なっている場合には、その船舶1を不審船と推定することができる。
【0049】
ヒートマップ監視工程Step7では、上述したように、特定の船舶1を選択して現在位置を監視装置5に入力することによって特定の船舶1が不審船であるか否か判定することができる。また、ヒートマップ監視工程Step7では、特定の領域αを選択して指定することにより、その領域αを通過する全ての船舶1の行動パターンを解析して不審船であるか否かを自動的に判定することもできる。
【0050】
長期監視工程Step6及びヒートマップ監視工程Step7により、不審船と特定された船舶1は、例えば、他の船舶1と異なる色や目印を付した状態で表示部54に表示される。また、過去に不審船であると特定された船舶1については、不審船と判断されていない場合であっても、行動パターンやヒートマップを表示部54に表示する際に、他の船舶1と異なる色や目印を付した状態で表示するようにしてもよい。
【0051】
上述した本実施形態に係る不審船監視システムによれば、AIS情報を用いて船舶1の行動パターンを解析し、該行動パターンを所定のルールに従ってスコア化することにより、AIS情報を発信している不特定多数の船舶1の中から不審船を特定して監視することができる。また、本実施形態によれば、ヒートマップ6を用いて船舶1の将来行動パターンを予測することにより、AIS情報を発信している不特定多数の船舶1の中から不審船を特定して監視することができる。
【0052】
本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
1 船舶
2 AIS衛星
3 AIS地上受信局
4 データセンタ
5 監視装置
6 ヒートマップ
51 送受信部
52 演算部
53 入力部
54 表示部
Step1 データ取得工程
Step2 データクレンジング工程
Step3 データマージ工程
Step4 データ解析工程
Step5 リアルタイム監視工程
Step6 長期監視工程
Step61 判定工程
Step62 フラグ付与工程
Step63 スコア算出工程
Step64 ソート工程
Step65 評価工程
Step7 ヒートマップ監視工程