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特許7323456抗BMP10抗体及び該抗体を有効成分とする、高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】抗BMP10抗体及び該抗体を有効成分とする、高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230801BHJP
   C07K 16/22 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230801BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230801BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230801BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230801BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/22
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P9/12
A61K39/395 N
A61K39/395 M
A61K39/395 D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019559178
(86)(22)【出願日】2018-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2018045739
(87)【国際公開番号】W WO2019117208
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2017238106
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】有山 博之
(72)【発明者】
【氏名】小川 進也
(72)【発明者】
【氏名】北山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山田 武直
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-526087(JP,A)
【文献】特表2010-529041(JP,A)
【文献】国際公開第2010/126169(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/007198(WO,A1)
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci.,2015年,Vol.112, No.25,E3207-3215
【文献】J. Biol. Chem.,2016年,Vol.291, No.6,pp.2954-2966
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(w)から選ばれる、モノクローナル抗体または該抗体断片であって、
前記モノクローナル抗体はヒトBMP10に結合するモノクローナル抗体であり、
前記抗体断片はヒトBMP10に結合する抗体断片である、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(a)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号73で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(b)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号73で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(c)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(d)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(e)配列番号89で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(f)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(g)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号78で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(h)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号78で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(i)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(j)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(k)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(l)配列番号89で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(m)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(n)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(o)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(p)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(q)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(r)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(s)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(t)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(u)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(v)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(w)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
【請求項2】
BMP10の中和活性を有する、請求項1に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片。
【請求項3】
BMP9/BMP10ヘテロ2量体の中和活性を有する、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片。
【請求項4】
遺伝子組換え抗体である、請求項1~のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片。
【請求項5】
Fab、Fab’、F(ab’)、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(diabody)及びジスルフィド安定化V領域(dsFv)から選ばれる抗体断片である請求項1~のいずれか1項に記載の抗体断片。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片をコードするDNA。
【請求項7】
請求項に記載のDNAを含有する組換えベクター。
【請求項8】
請求項に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
【請求項9】
請求項に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物から該抗体又は該抗体断片を採取することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片の製造方法。
【請求項10】
MP9/BMP10ヘテロ2量体に対するアンタゴニストを含む、高血圧及び/又は高血圧性疾患の治療剤であり、該BMP9/BMP10ヘテロ2量体に対するアンタゴニストがBMP9/BMP10ヘテロ2量体に対する中和活性を有する抗BMP10抗体である、治療剤
【請求項11】
BMP9アンタゴニストと同時または逐次に投与することを特徴とする、BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストを含む、高血圧及び/又は高血圧性疾患の治療剤であり、BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストが抗BMP10抗体であり、該BMP9アンタゴニストが抗BMP9抗体である、治療剤
【請求項12】
BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストと同時または逐次に投与することを特徴とする、BMP9アンタゴニストを含む、高血圧及び/又は高血圧性疾患の治療剤であり、BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストが抗BMP10抗体であり、該BMP9アンタゴニストが抗BMP9抗体である、治療剤
【請求項13】
請求項1~4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体または該抗体断片を含む、ヒトBMP10が関与する疾患の診断薬。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体または該抗体断片を用いる、ヒトBMP10の免疫学的検出方法又は測定方法。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体または該抗体断片と薬理学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項16】
高血圧および高血圧性疾患の治療用医薬組成物の製造のための、BMP9/BMP10ヘテロ2量体に対するアンタゴニストの使用であり、該BMP9/BMP10ヘテロ2量体に対するアンタゴニストがBMP9/BMP10ヘテロ2量体に対する中和活性を有する抗BMP10抗体である、使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトBMP10(Bone morphogenetic protein-10)に結合する、抗BMP10モノクローナル抗体又はその抗体断片、該抗体又は該抗体断片をコードするDNA、該DNAを含有する組換えベクター、該組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株、および該形質転換株を用いる抗体又は該抗体断片の製造方法に関する。
【0002】
また本発明は、BMP10およびBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストを含む、高血圧および高血圧性疾患の治療剤、ヒトBMP10が関与する疾患の診断薬又は医薬組成物、該アンタゴニストを用いるヒトBMP10の免疫学的検出方法又は測定方法、並びに高血圧および高血圧性疾患の治療用医薬組成物の製造のための該アンタゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
BMP10は、Bone morphogenetic protein 10の略である。BMP10は約20種類からなるBMP(骨形成タンパク質)ファミリー分子に属し、ヒトBMP10は424アミノ酸からなる分泌タンパク質である(非特許文献1、2)。BMP10はタイプI及びタイプIIの2つの受容体に結合することにより、受容体が活性化され、Smad1/5/8がリン酸化され、さらにリン酸化により活性化されたSmad1/5/8が、Smad4と複合体を形成後、核内に移行し、転写因子として機能する。
【0004】
BMP10は、心臓で主に発現し(非特許文献2、3、4)、ヒトBMP10は血液中に約10ng/mLの濃度で存在する血中循環因子であることが知られている(非特許文献5)。
【0005】
生体内におけるBMP10の役割について、これまでBMP10欠損マウスの解析から、胎児期における心臓の発生、血管新生に重要な因子であることが報告されている(非特許文献6、7)。しかしながら、BMP10欠損マウスが胎生致死であることから、成体期におけるBMP10の作用の報告はなく、また成体期において動物への抗BMP10抗体投与に基づく報告はない。
【0006】
また、高血圧を伴う拡張型心筋症であるHT-DCMの患者においてBMP10の遺伝子変異があり、該遺伝子変異によりBMP10が過剰分泌されることが報告されている(非特許文献12)。非特許文献12には、高血圧ラットに高食塩を与えて心肥大を起こすと、BMP10 mRNAの発現が上昇することが示されている。しかしながら、非特許文献12にはBMP10の中和および欠損についての記載はなく、BMP10の中和による降圧作用の予測は非常に困難である。
【0007】
従って、抗BMP10抗体が生体内において降圧作用、腎保護作用、心保護作用を有することを予想することは極めて困難であった。
【0008】
BMP10を特異的に中和する抗BMP10モノクローナル抗体として、R&Dシステムズ社市販されているMAB2926(クローンNo.462732)及び論文上で報告されている抗体1種(クローンNo.13C11)が知られている。またMAB2926の方が13C11より強力なBMP10中和活性を持つことが示されている(非特許文献8)。その他のBMP10に対する特異的な中和抗体は知られていなかった。
【0009】
高血圧は、最も患者数の多い生活習慣病である。Ca拮抗薬、利尿薬、ACE阻害剤、ARBなど数多くの薬剤が存在するが、米国ではわずか35%しか適切に血圧をコントロールできていないことが報告されている(非特許文献9)。高血圧をコントロールできない原因の一つとして、長期間の服用期間によるアドヒアランスの低下が挙げられる。従って、持続的かつ安定的に血圧をコントロールできる新規の降圧薬が望まれている。
【0010】
既存降圧薬によるコントロールの困難な高血圧の一つとして食塩感受性高血圧が挙げられる。健常人は食塩の摂取量に応じて腎臓からナトリウムが排泄されて恒常性が保たれているが、食塩感受性高血圧患者では腎臓におけるナトリウム排泄機構に異常が生じている。食塩感受性亢進が生じている病態では、健常人と同量のナトリウムを排泄するためにより高い血圧を必要とし、従って食塩摂取量に応じて高血圧を呈する。対症方法として減塩療法が行われているが、減塩食によるQOLの低下などから減塩療法によって降圧を達成できる患者は多くない(非特許文献10)。従って、食塩感受性高血圧を治療できる新規分子を標的とした新しい機序の降圧薬が求められている。
【0011】
コントロール不良な高血圧は、脳卒中、心臓発作、心不全、腎疾患などの循環器疾患の発症リスクと関連する。腎不全が進行することにより、血中ナトリウムの貯留、体液貯留、血圧調節因子の活性化、尿毒症物質の蓄積などを来し、さらに血圧を上昇させる。また体液貯留による心不全は心拍出量の低下の結果、交感神経や体液調節因子の異常を引き起こし、血圧制御を困難にさせる。このように腎不全、心不全は高血圧などの血行動態不全を増悪させ、血行動態不全が腎不全、心不全病態を悪化させる心腎症候群という悪循環が生じる(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第8287868号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0137503号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】FEBS Letters 586 1846-1859(2012)
【文献】J Biol Chem. 2011 Jul 1;286(26):22785-94
【文献】Mech Dev. 1999 Feb;80(2):181-4.
【文献】Dev Genes Evol. 2004 Feb;214(2):96-8.
【文献】Blood. 2012 Jun 21; 119(25): 6162-6171.
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Jul 16;110(29):11887-92
【文献】Development. 2004 May; 131(9): 2219-2231.
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jun 23; 112(25):E3207-15
【文献】Expert Opin Biol Ther. 2010 Jul;10(7):1077-87
【文献】実験医学 33(7): 1078-1084, 2015.
【文献】Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2014 Oct;18(19):2918-26.
【文献】Am J Physiol Heart Circ Physiol 2007 Dec;293(6):H3396-403.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、新しい高血圧治療薬として、腎臓保護作用、心臓保護作用の両方を達成できる治療剤が望まれている。また、上述のように、新しい高血圧治療薬では、持続的かつ安定的な血圧のコントロール、新規の標的を介した降圧作用、また腎臓及び心臓に対する保護作用という三つの特徴が求められている。
【0015】
本発明は、抗BMP10抗体及び該抗体を有効成分とする、高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、抗BMP10抗体の生体内における作用を明らかにする目的で、ラットを用いて抗BMP10抗体の取得を試みたところ、既存の抗体に比べて、BMP10に対する中和活性および結合活性が著しく向上した抗BMP10抗体の取得に成功した。加えて、ALK1高発現細胞に対して既存の抗体は中和活性を持たないのに対し、取得した抗BMP10抗体は強力な中和活性をもつことを明らかにした。
【0017】
さらに、既存の抗体はALK1と競合するのに対し、取得した抗BMP10抗体はBMPRII、Endoglinと拮抗する新規の阻害様式をもつことを見出した。加えて取得した抗BMP10抗体を用いることによって、血中にはBMP9とBMP10から構成されるヘテロ2量体が存在することを明らかにした。さらに取得した抗BMP10抗体は、ALK1高発現細胞においてBMP9とBMP10から構成されるヘテロ2量体に対して強力な中和活性を持つことを明らかにした。
【0018】
更に、取得した抗体を用いて、抗BMP10抗体の生体内における作用について検討した。その結果、本発明の抗BMP10抗体には、持続的な降圧作用があること、更に食塩感受性病態における高血圧およびナトリウム排泄障害を顕著に改善させること、高血圧に伴う糸球体障害、尿細管障害、心臓拡張機能障害に対する治療効果を持つことを見出した。
【0019】
本発明者らはこれらの知見に基づき、抗BMP10抗体を有効成分とする、高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤を提供できると考え、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明は以下の(1)~(18)に関する。
(1)それぞれ配列番号29および31で表されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域(complementarity determining region;以下CDRと略記する)1および3、ならびに配列番号30で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号30で表されるアミノ酸配列の16番目のセリンがアスパラギンに置換されたアミノ酸配列を含むCDR2を含む重鎖;ならびにそれぞれ配列番号32~34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含む軽鎖を含むモノクローナル抗体または該抗体断片。
(2)配列番号71~87から選ばれるいずれか1つのアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(以下VLと略記する)ならびに/または配列番号70および88~98から選ばれるいずれか1つのアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(以下VHと略記する)を含む、請求項1に記載のモノクローナル抗体または該抗体断片。
(3)以下の(a)~(w)から選ばれる、(1)または(2)に記載のモノクローナル抗体または該抗体断片。
(a)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号73で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(b)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号73で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(c)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(d)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(e)配列番号89で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(f)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(g)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号78で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(h)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号78で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(i)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(j)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(k)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(l)配列番号89で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(m)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(n)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(o)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(p)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(q)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(r)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(s)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(t)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(u)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(v)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(w)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、モノクローナル抗体または該抗体断片。
(4)BMP10の中和活性を有する、(1)~(3)のいずれか1に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片。
(5)BMP9/BMP10ヘテロ2量体の中和活性を有する、(1)~(4)のいずれか1に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片。
(6)遺伝子組換え抗体である、(1)~(5)のいずれか1に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片。
(7)Fab、Fab’、F(ab’)、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)及びCDRを含むペプチドか
ら選ばれる抗体断片である(1)~(6)のいずれか1に記載の抗体断片。
(8)(1)~(7)のいずれか1に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片をコードするDNA。
(9)(8)に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(10)(9)に記載の組換えベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換株。
(11)(10)に記載の形質転換株を培地に培養し、培養物から該抗体又は該抗体断片を採取することを特徴とする(1)~(7)のいずれか1に記載のモノクローナル抗体又は該抗体断片の製造方法。
(12)BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストを含む、高血圧及び/又は高血圧性疾患の治療剤。
(13)BMP9アンタゴニストと同時または逐次に投与することを特徴とする、(12)に記載の治療剤。
(14)BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストと同時または逐次に投与することを特徴とする、BMP9アンタゴニストを含む、高血圧及び/又は高血圧性疾患の治療剤。
(15)BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストを含む、ヒトBMP10が関与する疾患の診断薬。
(16)BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストを用いる、ヒトBMP10の免疫学的検出方法又は測定方法。
(17)BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストと薬理学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
(18)高血圧および高血圧性疾患の治療用医薬組成物の製造のための、BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方に対するアンタゴニストの使用。
【発明の効果】
【0021】
本発明の抗体は、既存抗体に比して、BMP10に対する中和活性および結合活性の少なくとも一方が著しく向上した抗BMP10抗体である。また、本発明の抗体は、ALK1高発現細胞でBMP10に対する中和活性を持つ。また、本発明の抗体は、ヒトBMP10とヒトBMPRIIおよびヒトEndoglinとの結合を阻害する。
【0022】
また、本発明の抗体により、ヒトBMP9とヒトBMP10とから構成されるヘテロ2量体がヒト血中に存在することが示された。さらに、本発明の抗体は、ALK1高発現細胞において、ヒトBMP9とヒトBMP10とから構成されるヘテロ2量体に対する中和活性を持つ。
【0023】
また、本発明の抗体は、高血圧病態において持続的に血圧を降下させる作用を持つ。更に、本発明の抗体は、食塩感受性高血圧における高血圧およびナトリウム排泄障害を顕著に改善させる。加えて、本発明の抗体は、高血圧を伴う腎臓尿細管間質障害、腎臓糸球体障害、心臓拡張機能障害に対する改善作用を有する。
【0024】
本発明の抗体は上述の一つ以上または全ての特徴を有する抗体である。このような特徴を有する該抗体をコードするDΝΑ、該DΝΑを含むベクター、該ベクターを導入して得られる形質転換株、該形質転換株を用いる該抗体又は該抗体断片の製造方法、該抗体又は該抗体断片を有効成分とすることにより、高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、Id1-Luc/CHO細胞を用いて、取得した抗BMP10モノクローナル抗体のBMP10中和活性を既知抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(μg/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。黒丸はコントロール抗体、黒四角はMAB2926、白丸は18C1抗体、白四角は12H3抗体、白三角は11H10抗体を示す。
図2図2は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、取得した抗BMP10モノクローナル抗体のBMP10中和活性を既知抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(μg/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。黒丸はコントロール抗体、黒四角はMAB2926、白丸は18C1抗体、白四角は12H3抗体、白三角は11H10抗体を示す。
図3図3は、取得した18C1抗体の各種BMP分子に対する中和活性を評価した図である。縦軸は中和活性(%)を示す。白棒グラフは18C1抗体、黒棒グラフはコントロール抗体を示す。
図4図4A図4Cは、取得した抗BMP10抗体の単回投与による、正常ラット全身血圧に対する作用を示す図である。図4Aのグラフは18C1抗体の単回投与による収縮期血圧の変化を示す。図4Bのグラフは12H3抗体の単回投与による収縮期血圧の変化を示す。図4Cのグラフは11H10抗体の単回投与による収縮期血圧の変化を示す。グラフの横軸は抗体を投与した時間を0時間とした時の経過時間を、縦軸は収縮期血圧(mmHg)を示す。
図5図5は、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の単回投与による、自然発症型高血圧ラットの血圧に対する作用を示す図である。図5のグラフは収縮期血圧の変化を示す。グラフの横軸は抗体を投与した時間を0時間とした時の経過時間を、縦軸は収縮期血圧(mmHg)を示す。
図6図6は、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットの収縮期血圧に対する作用を示す図である。図6のグラフは収縮期血圧の変化を示す。グラフの横軸はラットの週齢(w)を、縦軸は収縮期血圧(mmHg)を示す。黒丸は正常食群(n=6)、黒四角は高食塩群(n=12)、白丸は高食塩食+18C1抗体群(n=12)を示す。図中のエラーバーは標準誤差(SE)を示す。
図7図7Aおよび図7Bは、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットにおけるナトリウム排泄に対する作用を示す図である。図7Aは血中ナトリウム濃度の変化を示す。グラフの横軸はラットの週齢(w)を、縦軸は血清ナトリウム濃度(mEq)を示す。図7Bは1日当たりの尿中ナトリウム排泄量の変化を示す。グラフの横軸はラットの週齢(w)を、縦軸は1日当たりの尿中ナトリウム排泄量(mEq/day)を示す。黒丸は正常食群(n=6)、黒四角は高食塩群(n=12)、白丸は高食塩食+18C1抗体群(n=12)を示す。図中のエラーバーは標準誤差(SE)を示す。
図8図8は、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットにおける1日当たりの尿量の変化を示す。グラフの横軸はラットの週齢(w)を、縦軸は1日当たりの体重当たり尿量(mL/Kg/day)を示す。黒丸は正常食群(n=6)、黒四角は高食塩群(n=12)、白丸は高食塩食+18C1抗体群(n=12)を示す。図中のエラーバーは標準誤差(SE)を示す。
図9図9は、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットにおける腎機能に対する作用を示す図である。図9は1日当たりの尿中タンパク質排泄量の変化を示す。グラフの横軸はラットの週齢(w)を、縦軸は1日当たりの尿中タンパク質排泄量(mg/day)を示す。黒丸は正常食群(n=6)、黒四角は高食塩群(n=12)、白丸は高食塩食+18C1抗体群(n=12)を示す。図中のエラーバーは標準誤差(SE)を示す。
図10図10A図10Fは、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットにおける腎機能に対する作用を示す図である。図10AはDahl食塩感受性高血圧ラットにおける通常食群の腎臓糸球体病理を示す図である。図10BはDahl食塩感受性高血圧ラットに高食塩食群の腎臓糸球体病理を示す図である。図10CはDahl食塩感受性高血圧ラットに高食塩食を与えて18C1抗体を投与した群(高食塩食+18C1)の腎臓糸球体病理を示す図である。図10DはDahl食塩感受性高血圧ラットにおける通常食群の腎臓尿細管間質病理の写真である。図10EはDahl食塩感受性高血圧ラットに高食塩食群の腎臓尿細管間質病理の写真である。図10FはDahl食塩感受性高血圧ラットに高食塩食を与えて18C1抗体を投与した群(高食塩食+18C1)の腎臓尿細管間質病理の写真である。
図11図11Aおよび図11Bは、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットにおける腎機能に対する作用を示す図である。図11AはDahl食塩感受性高血圧ラットの糸球体病理スコアを示したグラフである。縦軸は病理スコアを示す。図11BはDahl食塩感受性高血圧ラットの尿細管間質病理スコアを示したグラフである。縦軸は病理スコアを示す。
図12図12Aおよび図12Bは、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットにおける心機能に対する作用を示す図である。図12Aは16週齢時点の心臓エコーで測定した左室後壁厚を示す。グラフの横軸は餌の種類と投与した薬剤を、縦軸は左室後壁厚を示す。図12Bは16週齢時点の心臓エコーで測定した僧帽弁輪速度e’を示す。グラフの横軸は餌の種類と投与した薬剤を、縦軸はe’を示す。正常食群(n=6)、高食塩群(n=12)、高食塩食+18C1抗体群(n=12)である。図中のエラーバーは標準誤差(SE)を示す。
図13図13は、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体の、Dahl食塩感受性高血圧ラットにおける心機能に対する作用を示す図である。図13は16週齢時点で解剖して採取した肺の重量を体重で補正した値を示す。グラフの縦軸は肺重量体重比率(mg.肺重量/g.体重)を示す。正常食群(n=6)、高食塩群(n=12)、高食塩食+18C1抗体群(n=12)である。図中のエラーバーは標準誤差(SE)を示す。
図14図14は、ヒト血中にBMP9/BMP10ヘテロ2量体が存在し、取得した抗BMP10抗体である18C1抗体がBMP9/BMP10ヘテロ2量体に対する中和活性を持つことを示した図である。図14はALK1/Id1-Luc/CHO細胞における、抗BMP9抗体と抗BMP10抗体の血中BMPに対する中和活性を示す。横軸は抗体の添加濃度(μg/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。白丸はコントロール抗体、黒丸は18C1抗体、黒四角は12H3抗体、黒三角は11H10抗体、黒ひし形は抗BMP9抗体である10D5抗体、白四角は12H3抗体と10D5抗体を混合したもの、白三角は11H10抗体と10D5抗体を混合したものを示す。白四角と白三角は破線で示す。
図15図15は、血中にBMP9/BMP10ヘテロ2量体が存在することを示す図である。図15は抗BMP10抗体または抗BMP9抗体を固相化し、ヒト血清を反応させ、抗BMP10抗体12H3抗体をビオチン化した抗体で検出したサンドイッチELISAの結果を示す。縦軸はELISAでの吸光度(OD450/570)、横軸はヒト血清の終濃度(%)を示す。黒丸は抗BMP9抗体である10D5抗体、白四角は11H10抗体、黒三角はコントロール抗体を固相化したものである。
図16図16は、18C1抗体を改変して設計されるヒト化抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列であり、配列番号70のアミノ酸配列からの改変により設計したアミノ酸配列を示す。配列中の枠で囲まれた領域は、CDRのアミノ酸配列を示す。
図17図17は、18C1抗体を改変して設計されるヒト化抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図であり、配列番号23のアミノ酸配列からの改変により設計したアミノ酸配列を示す。配列中の枠で囲まれた領域は、CDRのアミノ酸配列を示す。
図18図18Aおよび図18Bは、18C1抗体を改変して設計されるヒト化抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図である。各配列中の枠で囲まれた領域は、CDRのアミノ酸配列を示す。図18Aは、配列番号71のアミノ酸配列からの改変により設計したアミノ酸配列を示す。図18Bは、配列番号26のアミノ酸配列からの改変により設計したアミノ酸配列を示す。
図19図19は、18C1抗体を改変して設計されるヒト化抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列を示す図であり、配列番号70のアミノ酸配列からの改変により設計したアミノ酸配列を示す。配列中の枠で囲まれた領域は、CDRのアミノ酸配列を示す。
図20図20は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、抗BMP10ヒト化抗体のBMP10中和活性を18C1キメラ抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(ng/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。白四角はVLres02HVmut07、白三角はVLres02HVmut08、黒三角はVLres04HVmut04抗体、黒丸はVLres04VHres16抗体、白丸はch18C1抗体を示す。黒丸と黒三角は破線で示す。
図21図21は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、抗BMP10ヒト化抗体のBMP10中和活性を18C1キメラ抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(ng/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。白四角はVLres06HVmut02、白三角はVLres06HVmut10、黒三角はVLres07HVmut10抗体、黒丸はVLres07VHres16抗体、白丸はch18C1抗体を示す。黒丸と黒三角は破線で示す。
図22図22は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、抗BMP10ヒト化抗体のBMP10中和活性を18C1キメラ抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(ng/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。白四角はVLres08HVmut04、白三角はVLres08HVmut08、黒三角はVLres08VHres16抗体、黒丸はVLres10HVmut02抗体、白丸はch18C1抗体を示す。黒丸と黒三角は破線で示す。
図23図23は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、抗BMP10ヒト化抗体のBMP10中和活性を18C1キメラ抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(ng/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。白四角はVLres10HVmut04、白三角はVLres10HVmut08、黒三角はVLres10HVmut10抗体、黒丸はVLres10VHres16抗体、白丸はch18C1抗体を示す。黒丸と黒三角は破線で示す。
図24図24は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、抗BMP10ヒト化抗体のBMP10中和活性を18C1キメラ抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(ng/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。白四角はVLres14HVmut07、白三角はVLres14HVmut08、黒三角はVLres14HVmut10抗体、黒丸はVLres14VHres16抗体、白丸はch18C1抗体を示す。黒丸と黒三角は破線で示す。
図25図25は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、抗BMP10ヒト化抗体のBMP10中和活性を18C1キメラ抗体と比較したグラフである。横軸は抗体の添加濃度(ng/ml)を、縦軸は中和活性(%)を示す。白四角はVLres16HVmut07、白三角はVLres16HVmut10、黒三角はVLres16VHres16、黒丸はch18C1抗体を示す。黒丸と黒三角は破線で示す。
図26図26は、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いて、抗BMP10ヒト化抗体のヒト血中BMP9/BMP10ヘテロ2量体に対する中和活性を18C1キメラ抗体と比較したグラフである。縦軸はLuciferase活性を示す。
図27図27Aおよび図27Bは、抗BMP9抗体、あるいは抗BMP9抗体と抗BMP10抗体混合液の単回投与による、正常ラット全身血圧に対する作用を示す図である。図27Aは10D5抗体の単回投与による収縮期血圧の変化を示す。図27Bは、10D5抗体と11H10抗体の混合液の単回投与による収縮期血圧の変化を示す。白丸は媒体(PBS)投与した当日の変化、白三角は抗体を投与した当日の変化、黒四角は抗体を投与した1日後の変化、黒三角は抗体を投与した2日後の変化を示す。黒四角と黒三角は破線で示す。グラフの横軸は薬液を投与した時間を0時間とした時の経過時間を、縦軸は収縮期血圧(mmHg)を示す。
図28図28は、ヒトBMP10組換えタンパク質の単回投与による、正常ラット全身血圧に対する作用を示す図である。白丸は媒体(PBS)を投与した当日の変化、白三角はヒトBMP10組換えタンパク質を投与した当日の変化、グラフの横軸は薬液を投与した時間を0時間とした時の経過時間を、縦軸は収縮期血圧(mmHg)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、ヒトBMP10に結合するモノクローナル抗体に関する。また、本発明は、BMP9/BMP10ヘテロ2量体に結合するモノクローナル抗体に関する。
【0027】
本発明において、本発明のモノクローナル抗体と競合してヒトBMP10に結合する抗体とは、所望のバインィングアッセイ系において、本発明のモノクローナル抗体とヒトBMP10との結合を阻害する抗体をいう。
【0028】
本発明のモノクローナル抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体とは、本発明のモノクローナル抗体が認識するヒトBMP10のアミノ酸配列と同じ配列を認識し結合する抗体をいう。
【0029】
ヒトBMP10は、配列番号47で表されるアミノ酸配列を持つ、一本鎖の前駆体タンパク質(Pre-Pro体)として合成される。この一本鎖のPre-Pro体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列のうち、1から21番目までのシグナルペプチド領域が切断されて全長体となった後、388番目に存在するシステイン残基間によるジスルフィド結合を介し、2量体(Pro2量体、または全長体2量体)を形成する。
【0030】
その後、furin様プロテアーゼにより、配列番号47で表されるアミノ酸配列の316番目と317番目のアミノ酸残基間で切断がおこり、N末側断片のプロペプチド領域(配列番号47で表されるアミノ酸配列のうち、22番目のアミノ酸から316番目のアミノ酸までを含むペプチド。N末プロペプチド体ともいう)と配列番号48で表されるアミノ酸配列からなるC末側断片(mature領域またはmature体ともいう)に分割される。
【0031】
前記mature領域は、プロペプチド領域の切断後も、配列番号48で表されるアミノ酸配列の72番目に残るシステイン残基間によるジスルフィド結合を介し、2量体を形成する(以下、mature2量体と表記する)。切断されたN末側のプロペプチド領域の2分子は、このmature2量体1分子と非共有結合を介し複合体を形成し、その複合体の形で細胞から分泌される。mature2量体及びmature2量体にN末プロペプチド領域が結合した複合体のいずれも、BMP10の機能を有している。
【0032】
従って、本発明におけるヒトBMP10としては、配列番号47又はGenBankアクセッション番号NP_055297で示されるアミノ酸配列のうち、mature領域に相当する317番目から424番目までのアミノ酸配列(配列番号48)を含み、かつヒトBMP10の機能を有するポリペプチドをいう。
【0033】
また、本発明におけるヒトBMP10としては、配列番号48で示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつヒトBMP10の機能を有するポリペプチドをいう。さらに、本発明におけるヒトBMP10としては、配列番号48で示されるアミノ酸配列と60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒトBMP10の機能を有するポリペプチドをいう。さらに、本発明におけるヒトBMP10としては、上述のmature2量体、及びmature2量体にN末プロペプチド領域が結合した複合体も包含される。
【0034】
ヒトBMP9は、配列番号66で表されるアミノ酸配列を持つ、一本鎖の前駆体タンパク質(Pre-Pro体)として合成される。この一本鎖のPre-Pro体は、配列番号66で表されるアミノ酸配列のうち、1から22番目までのシグナルペプチド領域が切断された後、392番目に存在するシステイン残基間によるジスルフィド結合を介し、2量体(Pro2量体)を形成する。
【0035】
その後、furin様プロテアーゼにより、配列番号66で表されるアミノ酸配列の319番目と320番目のアミノ酸残基間で切断が起こり、N末側断片のプロペプチド領域(配列番号66で表されるアミノ酸配列のうち、23番目のアミノ酸から319番目のアミノ酸までを含むペプチド)と配列番号65で表されるアミノ酸配列からなるC末側断片(mature領域)に分割される。
【0036】
前記mature領域は、プロペプチド領域の切断後も、配列番号65で表されるアミノ酸配列の73番目に残るシステイン残基間によるジスルフィド結合を介し、2量体を形成する(以下、mature2量体と表記する)。切断されたN末側のプロペプチド領域の2分子は、このmature2量体1分子と非共有結合を介し複合体を形成し、その複合体の形で細胞から分泌される[J.Biol.Chem.,280,26,25111(2005)]。mature2量体及びmature2量体にN末プロペプチド領域が結合した複合体のいずれも、BMP9の機能を有している。
【0037】
従って、本発明におけるヒトBMP9としては、配列番号66又はGenBankアクセッション番号NP_057288で示されるアミノ酸配列のうち、mature領域に相当する320番目から429番目までのアミノ酸配列(配列番号65)を含み、かつヒトBMP9の機能を有するポリペプチドをいう。
【0038】
また、本発明におけるヒトBMP9としては、配列番号65で示されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつヒトBMP9の機能を有するポリペプチドをいう。
【0039】
更に、本発明におけるヒトBMP9としては、配列番号65で示されるアミノ酸配列と60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒトBMP9の機能を有するポリペプチドをいう。更に、本発明におけるヒトBMP9としては、上述のmature2量体、及びmature2量体にN末プロペプチド領域が結合した複合体も包含される。
【0040】
前述のBMPは同一のタンパク質の2量体(以下、ホモ2量体と表記する)だけでなく、BMPファミリーに属する別のタンパク質と2量体を形成する(以下、ヘテロ2量体と表記する)。本発明におけるBMP9とBMP10とから構成されるヘテロ2量体(BMP9/BMP10ヘテロ2量体とも表記する)とは、配列番号48で示されるBMP10 mature領域に相当するアミノ酸配列と、配列番号65で示されるBMP9 mature領域に相当するアミノ酸配列の両方を含む。
【0041】
また、本発明におけるBMP9/BMP10ヘテロ2量体には、配列番号48で示されるアミノ酸配列および配列番号65で示されるアミノ酸配列の少なくとも一方において、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の機能を有するポリペプチドも包含される。更に、本発明におけるBMP9/BMP10ヘテロ2量体には、配列番号48で示されるアミノ酸配列および配列番号65で示されるアミノ酸配列の少なくとも一方と60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の機能を有するポリペプチドも包含される。更に、本発明におけるBMP9/BMP10ヘテロ2量体には、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体にN末プロペプチド領域が結合した複合体も包含される。
【0042】
前述のBMP10の機能としては、BMP10の細胞内のシグナル伝達への関与をいう。細胞内のシグナル伝達では、BMP10がTGFβスーパーファミリーに属するタイプI及びタイプIIの2つの受容体に結合することにより、当該受容体が活性化され、Smad1/5/8がリン酸化され、さらにリン酸化により活性化されたSmad1/5/8が、Smad4と複合体を形成後、核内に移行し、転写因子として機能する。
【0043】
前述のBMP9の機能としては、BMP9の細胞内のシグナル伝達への関与をいう。細胞内のシグナル伝達では、BMP9がTGFβスーパーファミリーに属するタイプI及びタイプIIの2つの受容体に結合することにより、当該受容体が活性化され、Smad1/5/8がリン酸化され、さらにリン酸化により活性化されたSmad1/5/8が、Smad4と複合体を形成後、核内に移行し、転写因子として機能する。
【0044】
タイプI受容体としては、ALK1及びALK2、ALK3、ALK6が挙げられる。また、タイプII受容体としては、BMPタイプII受容体(BMPRII)、activinタイプIIa受容体(ActRIIa)、及びactivinタイプIIb受容体(ActRIIb)が挙げられる。またタイプI及びタイプII以外の受容体としては、Endoglinが挙げられる。
【0045】
配列番号48で示されるアミノ酸配列および配列番号65で示されるアミノ酸配列の少なくとも一方において1以上のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを得る方法としては、部位特異的変異導入法[Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols inmolecular Biology、John Wiley&Sons(1987-1997)、Nucleic Acids Research、10、6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、79、6409、(1982)、Gene、34、315(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82、488(1985)]などを用いて、例えば、配列番号48または配列番号65で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする遺伝子に部位特異的変異を導入する方法が挙げられる。
【0046】
欠失、置換又は付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、好ましくは1個~数十個、例えば、1~20個、より好ましくは1個~数個、例えば、1~5個のアミノ酸である。
【0047】
ヒトBMP10をコードする遺伝子としては、配列番号49又はGenBankアクセッション番号NM_014482で示される塩基配列が挙げられる。そのうち、mature領域に相当する配列番号50で示される塩基配列において、1以上の塩基が欠失、置換又は付加された塩基配列からなり、かつヒトBMP10の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子も、本発明のヒトBMP10をコードする遺伝子に含まれる。また、配列番号50で示される塩基配列と少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつヒトBMP10の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子も、本発明のヒトBMP10をコードする遺伝子に含まれる。さらに、配列番号50で示される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAからなり、かつヒトBMP10の機能を有するポリペプチドをコードするDNAを含む遺伝子なども、本発明のヒトBMP10をコードする遺伝子に包含される。
【0048】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、配列番号50で示される塩基配列を有するDNAをプローブに用いた、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロット・ハイブリダイゼーション法、又はDNAマイクロアレイ法などにより得られるハイブリダイズ可能なDNAを意味する。
【0049】
具体的には、ハイブリダイズしたコロニーもしくはプラーク由来のDNA、又は該配列を有するPCR産物又はオリゴDNAを固定化したフィルター又はスライドガラスを用いて、0.7~1.0mol/Lの塩化ナトリウム存在下、65℃にてハイブリダイゼーション[Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols inmolecular Biology、John Wiley&Sons(1987-1997)、DNA Cloning 1:Coretechniques、A Practical Approach、Second Edition、Oxford University、(1995)]を行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mmol/L塩化ナトリウム、15mmol/Lクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃条件下でフィルター又はスライドグラスを洗浄することにより同定できるDNAを挙げることができる。
【0050】
前記ハイブリダイズ可能なDNAとしては、配列番号50で示される塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するDNA、好ましくは80%以上の相同性を有するDNA、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。
【0051】
真核生物の蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列には、しばしば遺伝子の多型が認められる。本発明において用いられる遺伝子に、このような多型によって塩基配列に小規模な変異を生じた遺伝子も、本発明のBMP10をコードする遺伝子に包含される。
【0052】
本発明における相同性の数値は、特に明示した場合を除き、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であってよいが、塩基配列については、BLAST[J.Mol.Biol.、215、403(1990)]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値など、アミノ酸配列については、BLAST2[Nucleic Acids Res.、25、3389(1997)、Genome Res.、7、649(1997)、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Education/BLASTinfo/information3.html]においてデフォルトのパラメータを用いて算出される数値などが挙げられる。
【0053】
デフォルトのパラメータとしては、G(Cost to open gap)が塩基配列の場合は5、アミノ酸配列の場合は11、-E(Cost to extend gap)が塩基配列の場合は2、アミノ酸配列の場合は1、-q(Penalty for nucleotide mismatch)が-3、-r(reward for nucleotide match)が1、-e(expect value)が10、-W(wordsize)が塩基配列の場合は11残基、アミノ酸配列の場合は3残基、-y[Dropoff(X)forblast extensions inbits]がblastnの場合は20、blastn以外のプログラムでは7、-X(X dropoff value forgapped alignment in bits)が15及びZ(final X dropoff value forgapped alignment in bits)がblastnの場合は50、blastn以外のプログラムでは25である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/html/blastcgihelp.html)。
【0054】
配列番号47又はGenBankアクセッション番号NP_055297で示されるアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチドは、当業者に公知の方法によって作製することができ、例えば、配列番号47で示されるアミノ酸配列をコードするDNAの一部を欠失させ、これを含む発現ベクターを導入した形質転換株を培養することにより作製することができる。
【0055】
また、上記の方法で作製されるポリペプチド又はDNAに基づいて、上記と同様の方法により、配列番号47又はGenBankアクセッション番号NP_055297で示されるアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを得ることができる。
【0056】
さらに、配列番号47又はGenBankアクセッション番号NP_055297で示されるアミノ酸配列の部分配列からなるポリペプチド、又は配列番号47又はGenBankアクセッション番号NP_055297で示されるアミノ酸配列の部分配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドは、フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)法、t-ブチルオキシカルボニル(tBoc)法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0057】
BMP9についても、上述の方法、または特開2017-25011号公報に記載の方法など公知の方法により、1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを作製することができる。
【0058】
本発明のアンタゴニストとは、リガンドとその受容体タンパク質の結合を阻害することにより受容体の活性化を阻害するものをいう。
本発明のBMP10アンタゴニストとは、BMP10およびBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方とそれらの受容体タンパク質の結合を阻害することにより、受容体の活性化を阻害するものをいう。また本発明のBMP10アンタゴニストとは、BMP10およびBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方の中和活性を持つものをいう。本発明のBMP10アンタゴニストとは、本発明の抗BMP10モノクローナル抗体または該抗体断片を含む。
本発明のBMP9アンタゴニストとはBMP9とその受容体タンパク質の結合を阻害することにより、受容体の活性化を阻害するものをいう。また本発明のBMP9アンタゴニストとは、BMP9の中和活性を持つものをいう。本発明のBMP9アンタゴニストとして、例えば抗BMP9抗体が挙げられる。
【0059】
本発明の抗BMP10モノクローナル抗体(以下、本発明の抗体または本発明のモノクローナル抗体ともいう)またはその抗体断片の一態様は、ヒトBMP10のアミノ酸配列、又はその立体構造を認識し、かつ結合する抗体又はその抗体断片である。本発明の抗体またはその抗体断片の一態様は、ヒトBMP10のアミノ酸配列、又はその立体構造に結合し、BMP10とBMPRIIとの結合を阻害し、BMP10とEndoglinの結合を阻害し、BMP10とALK1との結合を阻害しない抗体又はその抗体断片である。また、本発明の抗体またはその抗体断片の一態様は、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体のアミノ酸配列、又はその立体構造を認識し、かつ結合する抗体又はその抗体断片である。本発明の抗体またはその抗体断片の一態様は、BMP10の中和活性を有する抗体又はその抗体断片である。本発明の抗体またはその抗体断片の一態様は、BMP9/BMP10ヘテロ2量体の中和活性を有する抗体又はその抗体断片である。
【0060】
本発明の抗体またはその抗体断片としては、上記いずれかの特徴を1つまたは複数持てばいかなるものでもよいが、BMP10に結合し、BMP10とBMPRIIとの結合およびBMP10とEndoglinとの結合を阻害し、BMP10とALK1の結合を阻害せず、BMP10の中和活性を有し、BMP9/BMP10ヘテロ2量体に結合し、BMP9/BMP10ヘテロ2量体の中和活性を有するという全ての特徴を有しているものが最も好ましい。
【0061】
また、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片の一態様としては、本発明のモノクローナル抗体と競合してヒトBMP10に結合する抗体またはその抗体断片も含まれる。好ましくは、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片と競合してヒトBMP10に結合する抗体またはその抗体断片であって、BMP10及びBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方の中和活性を有する抗体又はその抗体断片も含まれる。
【0062】
さらに、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片の一態様としては、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体またはその抗体断片も含まれる。好ましくは、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片が結合するエピトープと同じエピトープに結合する抗体またはその抗体断片であって、BMP10およびBMP9/BMP10ヘテロ2量体の少なくとも一方の中和活性を有する抗体又はその抗体断片も含まれる。
【0063】
本発明におけるヒトBMP10のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号48で表されるヒトBMP10 mature領域のアミノ酸配列を2つ含み、72番目のシステイン残基間がジスルフィド結合を形成しているものが挙げられる。
【0064】
本発明におけるヒトBMP10の立体構造としては、配列番号47、GenBankアクセッション番号NP_055297又は配列番号48で示されるアミノ酸配列を含むヒトBMP10が天然状態でとりうる構造と同等の構造を有していればいずれの構造でもよい。ヒトBMP10が天然状態でとりうる立体構造とは、ヒトBMP10の天然型の立体構造のことをいう。
【0065】
本発明におけるヒトBMP9のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号65で表されるヒトBMP9 mature領域のアミノ酸配列を2つ含み、73番目のシステイン残基間がジスルフィド結合を形成しているものが挙げられる。
【0066】
本発明におけるヒトBMP9の立体構造としては、配列番号66、GenBankアクセッション番号NP_057288又は配列番号65で示されるアミノ酸配列を含むヒトBMP9が天然状態でとりうる構造と同等の構造を有していればいずれの構造でもよい。ヒトBMP9が天然状態でとりうる立体構造とは、ヒトBMP9の天然型の立体構造のことをいう。
【0067】
本発明におけるヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号48で表されるヒトBMP10 mature領域のアミノ酸配列および配列番号65で表されるヒトBMP9 mature領域のアミノ酸配列を1つずつ含み、システイン残基間がジスルフィド結合を形成しているものが挙げられる。
【0068】
本発明におけるヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の立体構造としては、配列番号47、GenBankアクセッション番号NP_055297又は配列番号48で示されるアミノ酸配列及び配列番号66、GenBankアクセッション番号NP_057288又は配列番号65で示されるアミノ酸配列の2つを含むヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体が天然状態でとりうる構造と同等の構造を有していればいずれの構造でもよい。ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体が天然状態でとりうる立体構造とは、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の天然型の立体構造のことをいう。
【0069】
本発明におけるBMPRIIとしては、配列番号51又はGenBankアクセッション番号NP_001195で示されるアミノ酸配列のうち、細胞外領域に相当する27番目から150番目までのアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0070】
本発明におけるALK1としては、配列番号52又はGenBankアクセッション番号NP_000011で示されるアミノ酸配列のうち、細胞外領域に相当する22番目から118番目までのアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0071】
本発明におけるEndoglinとしては、配列番号69又はGenBankアクセッション番号NP_001108225で示されるアミノ酸配列のうち、細胞外領域に相当する27番目から586番目までのアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0072】
本発明におけるALK1高発現細胞とは、通常よりALK1を多く発現している細胞をいう。ALK1高発現細胞には、後述する実施例3の3-1)に記載のヒトALK1発現レポーター細胞およびALK1/Id1-Luc/CHO細胞も含む。
【0073】
本発明における抗体として、具体的には、以下の(A)または(B)で表されるモノクローナル抗体及びその抗体断片が挙げられる。
(A)それぞれ配列番号29~31で表されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域(complementarity determining region;以下CDRと略記する)1~3を含む重鎖;ならびにそれぞれ配列番号32~34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含む軽鎖を含むモノクローナル抗体及びその抗体断片。
(B)それぞれ配列番号29および31で表されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域(complementarity determining region;以下CDRと略記する)1および3、ならびに配列番号30で表されるアミノ酸配列の16番目のセリンがアスパラギンに置換されたアミノ酸配列(配列番号99)を含むCDR2を含む重鎖;ならびにそれぞれ配列番号32~34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含む軽鎖を含むモノクローナル抗体及びその抗体断片。
【0074】
また、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片としては、前記モノクローナル抗体またはその抗体断片と競合してヒトBMP10に結合する抗体及びその抗体断片を挙げることができる。
【0075】
さらに、本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片としては、前記モノクローナル抗体またはその抗体断片が結合するヒトBMP10に存在するエピトープと、同じエピトープに結合するモノクローナル抗体及びその抗体断片を挙げることができる。
【0076】
結合活性とは、例えば本発明の抗体又はその抗体断片が、ヒトBMP10のアミノ酸配列、又はその立体構造に対して結合する活性を有することをいう。
【0077】
本発明の抗体の結合活性は、例えば、固相抗原を用いた酵素結合免疫吸着法(ELISA)など、ヒトBMP10またはヒトBMP10を発現した組織に対する公知の免疫学的検出法、特定の抗原と特定抗原に対する抗体の結合性を調べることができる方法などにより確認することができる。他にも、Biacoreシステム(GE Healthcare社製)などを用いた表面プラズモン共鳴、ITC(DKSH社製)などを用いた等温滴定カロリメトリーなどの方法が挙げられる。
【0078】
抗原に対する抗体の結合解離定数(Kd値)は、ELISA、表面プラズモン共鳴、等温滴定カロリメトリー、いずれの方法からも、スキャッチャード・プロット、または各装置の添付文書に従った解析を行うことで、求めることができる。具体的には、Kd値はBiacoreシステム(GE Healthcare社製)を用いて測定したセンサーグラムから、シングルサイクルカイネティクス算出法(BIAevaluation Software ver.3、GE Healthcare社製)により解析することで、算出することができる。
【0079】
本発明のBMP10に対する中和活性とは、例えば、ヒトBMP10に結合した抗体又は該抗体断片が、ヒトBMP10の受容体への結合を阻害し、受容体が活性化をすることを阻害することである。中和活性は、例えば、ヒトBMP10受容体発現細胞を用いた方法、ヒトBMP10と受容体タンパク質の結合に対する抗体の阻害を調べることができる方法などにより測定することができる。
【0080】
本発明のヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体に対する中和活性とは、例えば、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体に結合した抗体又は該抗体断片が、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の受容体への結合を阻害し、受容体が活性化することを阻害することである。
【0081】
ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体を中和する方法として、例えば、ヒトBMP9に結合する抗体又は該抗体断片とヒトBMP10に結合する抗体又は該抗体断片を混合し、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の受容体への結合を阻害し、受容体が活性化することを阻害する方法が挙げられる。また、ヒトBMP10に結合する抗体であって、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の受容体への結合を阻害する抗体を用いて、受容体が活性化することを阻害する方法も挙げられる。
【0082】
中和活性の測定方法としては、例えば、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体の受容体発現細胞を用いた方法、ヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体と受容体タンパク質の結合に対する抗体の阻害を調べることができる方法などにより確認することができる。
【0083】
ヒトBMP10受容体発現細胞またはヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体受容体発現細胞を用いた中和活性の測定方法としては、例えば、転写因子の活性化をルシフェラーゼなどの酵素で検出するレポーターアッセイなどの方法が挙げられる。
【0084】
ヒトBMP10と受容体タンパク質、またはヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体と受容体タンパク質の結合に対する抗体の阻害を調べる方法としては、例えば、Biacoreシステム(GE Healthcare社製)などを用いた表面プラズモン共鳴、酵素結合免疫吸着法(ELISA)などの方法が挙げられる。
【0085】
本発明の抗体又はその抗体断片が、ヒトBMP10のアミノ酸配列、又はその立体構造に結合することは、固相抗原を用いた酵素結合免疫吸着法(ELISA)など、ヒトBMP10またはヒトBMP10を発現した組織に対する公知の免疫学的検出法、特定の抗原と特定抗原に対する抗体の結合性を調べることができる方法などにより確認することができる。
【0086】
また、公知の免疫学的検出法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice、Third edition、Academic Press(1996)、Antibodies-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを組み合わせて確認することもできる。
【0087】
ヒトBMP10を発現した組織としては、該BMP10を発現していればいずれの組織でもよく、例えば血液、心臓、肝臓などが挙げられる。
【0088】
本発明のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより生産される抗体、又は抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換株により生産される遺伝子組換え抗体を挙げることができる。
【0089】
モノクローナル抗体とは、単一クローンの抗体産生細胞が分泌する抗体であり、ただ一つのエピトープ(抗原決定基ともいう)を認識し、モノクローナル抗体を構成するアミノ酸配列(1次構造)が均一であることが特徴である。
【0090】
エピトープとしては、例えば、モノクローナル抗体が認識し、結合する単一のアミノ酸配列、アミノ酸配列からなる立体構造、糖鎖が結合したアミノ酸配列及び糖鎖が結合したアミノ酸配列からなる立体構造などが挙げられる。
【0091】
本発明のモノクローナル抗体は、ヒトBMP10のアミノ酸配列に結合する。
【0092】
本発明のモノクローナル抗体が結合するエピトープは、配列番号47で示されるヒトBMP10のアミノ酸配列に含まれ、より好ましくは配列番号48で示されるアミノ酸配列に含まれる。
【0093】
本発明において、バイスぺシフィック抗体とは、特異性が異なる2種類の抗原結合ドメインを有する抗体をいう。バイスぺシフィック抗体のそれぞれの抗原結合ドメインは、単一の抗原の異なるエピトープに結合してもよいし、異なる抗原に結合してもよい。
【0094】
一分子のバイスペシフィック抗体は、単一の抗原の異なるエピトープ、または異なる抗原それぞれに一つ以上の抗原結合ドメインが結合する、すなわちそれぞれ一価以上で結合する。例えば、本発明において、一分子のバイスペシフィック抗体が、BMP10に結合する抗原結合ドメインおよびBMP9に結合する抗原結合ドメインを一つずつ有する場合、かかるバイスペシフィック抗体は、BMP10およびBMP9に、それぞれ一価で結合する。
【0095】
本発明の抗体には、BMP9とBMP10に結合するバイスペシフィック抗体も含む。
【0096】
ハイブリドーマは、例えば、上記のヒトBMP10を抗原として調製し、該抗原を免疫した動物より抗原特異性を有する抗体生産細胞を誘導し、さらに、該抗体生産細胞と骨髄腫細胞とを融合させることにより、調製することができる。該ハイブリドーマを培養するか、又は該ハイブリドーマ細胞を動物に投与して該動物を腹水がん化させ、該培養液又は腹水を分離、精製することにより抗BMP10モノクローナル抗体を取得することができる。
【0097】
抗原を免疫する動物としては、ハイブリドーマを作製することが可能であれば、いかなるものも用いることができるが、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、ニワトリ又はラビットなどが用いられる。また、このような動物から抗体産生能を有する細胞を取得し、該細胞にin vitroで免疫を施した後に、骨髄腫細胞と融合して作製したハイブリドーマが生産する抗体なども本発明の抗体に包含される。
【0098】
本発明における遺伝子組換え抗体としては、ヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体又は抗体断片など、遺伝子組換えにより製造される抗体を包含する。遺伝子組換え抗体において、モノクローナル抗体の特徴を有し、抗原性が低く、血中半減期が延長されたものは、治療薬として好ましい。遺伝子組換え抗体は、例えば上記本発明のモノクローナル抗体を遺伝子組換え技術を用いて改変したものが挙げられる。
【0099】
ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体の重鎖可変領域(VHとも記す)及び軽鎖可変領域(VLとも記す)とヒト抗体の重鎖定常領域(CHとも記す)及び軽鎖定常領域(CLとも記す)からなる抗体をいう。本発明のヒト型キメラ抗体は、前記のハイブリドーマより、VH及びVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体のCH及びCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0100】
ヒト型キメラ抗体のCHとしては、ヒトイムノグロブリン(以下、hIgと表記する)に属すればいかなるものでもよいが、好ましくはhIgGクラスのものが用いられ、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3又はhIgG4又はこれらの改変体といったサブクラスのいずれも用いることができる。前記改変体としては、例えばhIgG4の重鎖定常領域の、EU-indexにおける228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をGluに、および409番目のArg残基をLysにそれぞれ置換したIgG4変異体(以下、IgG4PE R409Kと記載する)の重鎖定常領域を用いることができる。また、ヒト型キメラ抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラス又はλクラスのものを用いることができる。
【0101】
本発明のヒト型キメラ抗体として具体的には、配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVHを含み、配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVLを含むキメラ抗体が挙げられる。また、配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVHを含み、配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVLを含むキメラ抗体が挙げられる。また、配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVHを含み、配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVLを含むキメラ抗体が挙げられる。
【0102】
ヒト化抗体としては、ヒト型CDR移植抗体または表面再構成法によるヒト化抗体が挙げられる。また、これらのヒト化抗体を作製する方法を組み合わせた方法により作製された抗体も、本発明のヒト化抗体に含まれる。さらに、これらの方法で設計されるヒト化抗体のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつヒトBMP10および/またはBMP9/BMP10ヘテロダイマーを特異的に認識する抗体も、本発明のヒト化抗体に含まれる。
【0103】
ヒト型CDR移植抗体とは、ヒト以外の動物の抗体のVH及びVLのCDRのアミノ酸配列をヒト抗体のVH及びVLの適切な位置に移植した抗体をいう。本発明のヒト型CDR移植抗体は、以下のようにして製造することができる。すなわち、ヒトBMP10および/またはBMP9/BMP10ヘテロダイマーを特異的に認識し、かつヒトBMP10および/またはBMP9/BMP10ヘテロダイマーのアミノ酸配列、又はその立体構造に結合するヒト以外の動物のモノクローナル抗体のVH及びVLのCDRのアミノ酸配列を、任意のヒト抗体のVH及びVLのフレームワーク領域(以下、FRと表記する)に移植したV領域をコードするcDNAを構築する。次いで、ヒト抗体のCH及びCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させる。
【0104】
表面再構成法によるヒト化抗体とは、表面再構成方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1994,91(3):969-73およびProtein Enginering 1996, 10, 895-90)により、ヒト以外の動物の抗体の可変領域のアミノ酸のうち、抗体の結合活性に影響を与えないと考えられるFRのアミノ酸残基を、抗原性を低下させると考えられるアミノ酸残基へ置換した抗s体をいう。本発明の表面再構成法によるヒト化抗体は、以下のようにして製造することができる。すなわち、ヒトBMP10および/またはBMP9/BMP10ヘテロダイマーを特異的に認識し、
かつヒトBMP10および/またはBMP9/BMP10ヘテロダイマーのアミノ酸配列、又はその立体構造に結合する、ヒト以外の動物のモノクローナル抗体のVH及びVLのFRのうち、任意のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したV領域をコードするcDNAを構築する。次いで、ヒト抗体のCH及びCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入して表面再構成法によるヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させる。
【0105】
ヒト化抗体のCHとしては、hIgに属すればいかなるものでもよいが、好ましくはhIgGクラスのものが用いられ、さらにhIgGクラスに属するhIgG1、hIgG2、hIgG3又はhIgG4といったサブクラス又はこれらの改変体のいずれも用いることができる。前記改変体としては、例えばIgG4PE R409KのCHを用いることができる。また、ヒト化抗体のCLとしては、hIgに属すればいずれのものでもよく、κクラス又はλクラスのものを用いることができる。
【0106】
本発明のヒト化抗体として具体的には、それぞれ配列番号29および31で表されるアミノ酸配列を含む相補性決定領域(complementarity determining region;以下CDRと略記する)1および3、ならびに配列番号30で表されるアミノ酸配列もしくは配列番号30で表されるアミノ酸配列の16番目のセリンがアスパラギンに置換されたアミノ酸配列を含むCDR2を含む重鎖;ならびにそれぞれ配列番号32~34で表されるアミノ酸配列を含むCDR1~3を含む軽鎖を含むヒト化抗体が挙げられる。
【0107】
本発明のヒト化抗体として、具体的には、以下の(a)VH及び(b)VLの少なくとも一方を含むヒト化抗体が挙げられる。
(a)配列番号70で表されるアミノ酸配列、又は配列番号70で表されるアミノ酸配列の14番目のPro、20番目のLeu、27番目のGly、29番目のVal、30番目のSer、37番目のIle、48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、76番目のAsn、78番目のPhe、82番目のLeu、85番目のVal、92番目のVal、94番目のTyr、及び109番目のThrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVH
(b)配列番号71で表されるアミノ酸配列、又は配列番号71で表されるアミノ酸配列中の7番目のPro、10番目のVal、12番目のGlu、14番目のPro、16番目のLys、19番目のThr、20番目のIle、41番目のPro、48番目のVal、75番目のSer、81番目のLeu、82番目のLys、88番目のAsp、及び90番目のTyrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
【0108】
本発明のヒト化抗体としては、VHのCDRのアミノ酸配列を以下の(A)に示すように置換したものも含む。
(A)VHのCDR1が配列番号29で表されるアミノ酸配列または、配列番号29で表されるアミノ酸配列中の4番目のValをAlaに置換する改変が導入されたアミノ酸配列を含み、VHのCDR2が配列番号30で表されるアミノ酸配列または、配列番号30で表されるアミノ酸配列中の16番目のSerをAspに置換する改変が導入されたアミノ酸配列を含み、VHのCDR3が配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む、CDRのアミノ酸配列。
【0109】
更に、本発明のヒト化抗体に含まれるVHとしては、以下の(1)~(14)が好ましい。
(1)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の14番目のPro、20番目のLeu、27番目のGly、29番目のVal、30番目のSer、37番目のIle、48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、76番目のAsn、78番目のPhe、82番目のLeu、85番目のVal、92番目のVal、94番目のTyr、及び109番目のThrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(2)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の20番目のLeu、27番目のGly、29番目のVal、30番目のSer、37番目のIle、48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、78番目のPhe、82番目のLeu、85番目のVal、94番目のTyr、及び109番目のThrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(3)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の20番目のLeu、27番目のGly、30番目のSer、48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、78番目のPhe、82番目のLeu、92番目のVal、及び94番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(4)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の27番目のGly、29番目のVal、30番目のSer、48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、92番目のVal、及び94番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(5)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の20番目のLeu、27番目のGly、48番目のIle、71番目のVal、78番目のPhe、82番目のLeu、及び92番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(6)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の27番目のGly、30番目のSer、48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、及び92番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(7)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、78番目のPhe、及び92番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(8)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の27番目のGly、71番目のVal、78番目のPhe、及び92番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(9)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の27番目のGly、48番目のIle、67番目のVal、及び92番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(10)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の27番目のGly、71番目のVal、92番目のVal、及び94番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(11)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の27番目のGly、71番目のVal、及び92番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(12)配列番号70で表されるアミノ酸配列中の71番目のVal、及び92番目のValが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVH
(13)配列番号70で表されるアミノ酸配列を含むVH
(14)上記(1)~(13)で示されるVHに対し、そのCDRのアミノ酸配列を前記(A)に記載のCDRのアミノ酸配列に置き換えたアミノ酸配列を含むVH
【0110】
前記VHのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号70で表されるアミノ酸配列中の14番目のProをLeuに、20番目のLeuをIleに、27番目のGlyをPheに、29番目のValをLeuに、30番目のSerをThrに、34番目のValをAlaに、37番目のIleをValに、48番目のIleをMetに、65番目のSerをAspに、67番目のValをLeuに、71番目のValをArgに、76番目のAsnをSerに、78番目のPheをValに、82番目のLeuをMetに、85番目のValをLeuに、92番目のValをLysに、94番目のTyrをPheに、又は109番目のThrをIleに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0111】
また、本発明のヒト化抗体に含まれるVLとしては、以下の(1)~(15)が好ましい。
(1)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の7番目のPro、10番目のVal、12番目のGlu、14番目のPro、16番目のLys、19番目のThr、20番目のIle、41番目のPro、48番目のVal、75番目のSer、81番目のLeu、82番目のLys、88番目のAsp、及び90番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(2)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の7番目のPro、10番目のVal、12番目のGlu、14番目のPro、19番目のThr、20番目のIle、41番目のPro、48番目のVal、75番目のSer、及び88番目のAspが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(3)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の7番目のPro、12番目のGlu、19番目のThr、20番目のIle、48番目のVal、75番目のSer、81番目のLeu、88番目のAsp、及び90番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(4)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の7番目のPro、12番目のGlu、14番目のPro、16番目のLys、19番目のThr、41番目のPro、75番目のSer、及び88番目のAspが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(5)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の12番目のGlu、20番目のIle、41番目のPro、48番目のVal、75番目のSer、88番目のAsp、及び90番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(6)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、12番目のGlu、16番目のLys、19番目のThr、41番目のPro、82番目のLys、及び88番目のAspが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(7)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、16番目のLys、20番目のIle、41番目のPro、48番目のVal、88番目のAsp、及び90番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(8)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、14番目のPro、20番目のIle、48番目のVal、75番目のSer、81番目のLeu、及び88番目のAspが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(9)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、12番目のGlu、14番目のPro、20番目のIle、48番目のVal、82番目のLys、及び90番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(10)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、19番目のThr、41番目のPro、48番目のVal、88番目のAsp、及び90番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(11)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、12番目のGlu、14番目のPro、41番目のPro、75番目のSer、及び88番目のAspが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(12)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、41番目のPro、75番目のSer、88番目のAsp、及び90番目のTyrが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(13)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、19番目のThr、41番目のPro、48番目のVal、及び88番目のAspが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(14)配列番号71で表されるアミノ酸配列中の、20番目のIle、48番目のVal、及び88番目のAspが、他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むVL
(15)配列番号71のアミノ酸配列を含むVL
【0112】
前記VLのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号71で表されるアミノ酸配列中の7番目のProをSerに、10番目のValをMetに、12番目のGluをThrに、14番目のProをLeuに、16番目のLysをSerに、19番目のThrをLysに、20番目のIleをLeuに、41番目のProをGluまたはArgに、48番目のValをMetに、75番目のSerをPheに、81番目のLeuをValに、82番目のLysをGlnに、88番目のAspをIleに、又は90番目のTyrをPheに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0113】
また、本発明のヒト化抗体として、具体的には、以下の(a)もしくは(c)で示されるVH及び/または(b)で示されるVLを含むヒト化抗体が挙げられる。
(a)配列番号23で表されるアミノ酸配列の11番目のLeu、14番目のLeu、19番目のSer、27番目のPhe、68番目のSer、71番目のArg、77番目のGln、79番目のPhe、83番目のAsn、85番目のLeu、及び107番目のHisから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVH
(b)配列番号26で表されるアミノ酸配列中の3番目のVal、8番目のAsn、14番目のLeu、19番目のLys、75番目のPhe、80番目のAsn、83番目のIle、及び88番目のIleから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVL
(c)配列番号70で表わされるアミノ酸配列の10番目のGly、13番目のLys、19番目のSer、20番目のLeu、27番目のGly、29番目のVal、30番目のSer、37番目のIle、48番目のIle、67番目のVal、68番目のThr、71番目のVal、77番目のGln、78番目のPhe、79番目のSer、82番目のLeu、83番目のSer、85番目のVal、86番目のThr、87番目のAla、88番目のAla、92番目のVal、94番目のTyr、及び109番目のThrから選ばれる少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む抗体のVH
【0114】
前述のヒト化抗体としては、VHのCDRのアミノ酸を次のように置換したものも含む。
VHのCDR1が配列番号29で表されるアミノ酸配列または、配列番号29で表されるアミノ酸配列中の4番目のValをAlaに置換する改変が導入されたアミノ酸配列を含み、VHのCDR2が配列番号30で表されるアミノ酸配列または、配列番号30で表されるアミノ酸配列中の16番目のSerをAspに置換する改変が導入されたアミノ酸配列を含み、VHのCDR3が配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む抗体のVH。
【0115】
前記VHのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号23で表されるアミノ酸配列中の11番目のLeuをAlaに、14番目のLeuをProに、19番目のSerをAspに、27番目のPheをAlaに、34番目のValをAlaに、65番目のSerをAspに、68番目のSerをAlaに、71番目のArgをLysに、77番目のGlnをGluに、79番目のPheをAlaに、83番目のAsnをAspに、85番目のLeuをAspに、又は107番目のHisをGlnに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。更には、配列番号70で表わされるアミノ酸配列の10番目のGlyをAspに、13番目のLysをGlnに、19番目のSerをAspに、20番目のLeuをIleに、27番目のGlyをPheに、29番目のValをLeuに、30番目のSerをThrに、37番目のIleをValに、48番目のIleをMetに、65番目のSerをAspに、67番目のValをLeuに、68番目のThrをAlaに、71番目のValをArgに、76番目のAsnをSerに、77番目のGlnをGluに、78番目のPheをValに、79番目のSerをPheに、82番目のLeuをMetに、83番目のSerをAspに、85番目のValをLeuに、86番目のThrをGlnに、87番目のAlaをThrに、88番目のAlaをAspに、92番目のValをLysに、94番目のTyrをPheに、109番目のThrをIle、又は110番目のLeuをMetに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0116】
前記VLのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号26で表されるアミノ酸配列中の3番目のValをAlaに、8番目のAsnをAspに、14番目のLeuをAlaに、19番目のLysをThrに、75番目のPheをSerに、80番目のAsnをAspに、83番目のIleをValに、又は88番目のIleをValに置換する改変から選ばれる少なくとも1つの改変が導入されたアミノ酸配列が挙げられる。
【0117】
本発明のヒト化抗体の具体例としては、図16図17、または図19で示されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むVH、および図18Aまたは図18Bで示されるアミノ酸配列のいずれか1つを含むVLの、少なくとも一方を含むヒト化抗体が挙げられる。
また、本発明のヒト化抗体の具体例として、配列番号71~87から選ばれるいずれか1つのアミノ酸配列を含むVLならびに/または配列番号70および88~98から選ばれるいずれか1つのアミノ酸配列を含むVHを含むヒト化抗体が挙げられる。
さらに、本発明のヒト化抗体の具体例として、以下の(a)~(w)のヒト化抗体が挙げられる。
(a)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号73で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(b)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号73で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(c)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(d)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHをおよび配列番号75で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(e)配列番号89で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(f)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号77で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(g)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号78で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(h)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号78で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(i)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(j)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(k)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号79で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(l)配列番号89で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(m)配列番号91で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(n)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(o)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(p)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号81で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(q)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(r)配列番号95で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(s)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(t)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号85で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(u)配列番号94で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(v)配列番号97で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
(w)配列番号98で表されるアミノ酸配列を含むVHおよび配列番号87で表されるアミノ酸配列を含むVLを含む、ヒト化抗体。
【0118】
ヒト抗体は、元来、ヒト体内に天然に存在する抗体をいうが、最近の遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術の進歩により作製されたヒト抗体ファージライブラリー及びヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体なども含まれる。
【0119】
ヒト体内に天然に存在する抗体は、例えば、ヒト末梢血リンパ球を単離し、EBウイルスなどを感染させ不死化し、クローニングすることにより、該抗体を産生するリンパ球を培養でき、培養上清中より該抗体を精製することができる。
【0120】
ヒト抗体ファージライブラリーは、ヒトB細胞から調製した抗体遺伝子をファージ遺伝子に挿入することによりFab、scFvなどの抗体断片をファージ表面に発現させたライブラリーである。該ライブラリーより、抗原を固定化した基質に対する結合活性を指標として所望の抗原結合活性を有する抗体断片を表面に発現しているファージを回収することができる。該抗体断片は、さらに、遺伝子工学的手法により2本の完全なH鎖及び2本の完全なL鎖からなるヒト抗体分子へも変換することができる。
【0121】
ヒト抗体産生トランスジェニック動物は、ヒト抗体遺伝子が細胞内に組込まれた動物を意味する。具体的には、例えば、マウスES細胞へヒト抗体遺伝子を導入し、該ES細胞をマウスの初期胚へ移植後、発生させることによりヒト抗体産生トランスジェニックマウスを作製することができる。ヒト抗体産生トランスジェニック動物からのヒト抗体は、通常のヒト以外の動物で行われているハイブリドーマ作製方法を用い、ヒト抗体産生ハイブリドーマを取得し、培養することで培養上清中にヒト抗体を産生蓄積させることにより作製できる。
【0122】
上述の抗体又は抗体断片を構成するアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸が欠失、付加、置換又は挿入され、かつ上述の抗体又はその抗体断片と同様な活性を有するモノクローナル抗体又はその抗体断片も、本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片に包含される。
【0123】
欠失、置換、挿入及び/又は付加されるアミノ酸の数は1個以上でありその数は特に限定されないが、部位特異的変異導入法[Molecular Cloning 2nd Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols inmolecular Biology、John Wiley&Sons(1987-1997)、Nucleic Acids Research、10、6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、79、6409(1982)、Gene、34、315(1985)、Nucleic Acids Research、13、4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82、488(1985)]などの周知の技術により、欠失、置換、挿入もしくは付加できる程度の数である。例えば、好ましくは1~数十個、より好ましくは1~20個、さらに好ましくは1~10個、特に好ましくは1~5個である。
【0124】
上記の抗体のアミノ酸配列において1つ以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されたとは、次のことを示す。即ち、同一配列中の任意、かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中において、1又は複数のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入又は付加があることを意味する。また、欠失、置換、挿入又は付加が同時に生じる場合もあり、置換、挿入又は付加されるアミノ酸残基は天然型と非天然型いずれの場合もある。
【0125】
天然型アミノ酸残基としては、例えば、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、又はL-システインなどが挙げられる。
【0126】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の好ましい例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、O-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2、4-ジアミノブタン酸、2、3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
【0127】
本発明において、抗体断片としては、Fab、F(ab’)、Fab’、一本鎖抗体(scFv)、二量体化V領域(diabody)、ジスルフィド安定化V領域(dsFv)及びCDRを含むペプチドなどが挙げられる。
【0128】
Fabは、IgGを蛋白質分解酵素であるパパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0129】
本発明のFabは、本発明のモノクローナル抗体をパパインで処理して得ることができる。また、該抗体のFabをコードするDNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、Fabを製造することもできる。
【0130】
F(ab’)は、IgGのヒンジ領域のジスルフィド結合の下部を蛋白質分解酵素であるペプシンで分解して得られた、2つのFab領域がヒンジ部分で結合して構成された、分子量約10万の抗原結合活性を有する断片である。
【0131】
本発明のF(ab’)は、本発明のモノクローナル抗体をペプシンで処理して得ることができる。また、下記のFab’をチオエーテル結合又はジスルフィド結合させ、作製することもできる。
【0132】
Fab’は、前記F(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFab’は、本発明のF(ab’)をジチオスレイトールなどの還元剤で処理して得ることができる。また、該抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、Fab’を製造することもできる。
【0133】
scFvは、1本のVHと1本のVLとを適当なペプチドリンカー(以下、Pと表記する)を用いて連結した、VH-P-VLないしはVL-P-VHポリペプチドで、抗原結合活性を有する抗体断片である。
【0134】
本発明のscFvは、本発明のモノクローナル抗体のVH及びVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0135】
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、二価の抗原結合活性を有する抗体断片である。二価の抗原結合活性は、同一であることもできるし、一方を異なる抗原結合活性とすることもできる。
【0136】
本発明のdiabodyは、本発明のモノクローナル抗体のVH及びVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAをペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるように構築し、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0137】
dsFvは、VH及びVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを該システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基は既知の方法[Protein Engineering、7、697(1994)]に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。
【0138】
本発明のdsFvは、本発明のモノクローナル抗体のVH及びVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0139】
CDRを含むペプチドは、VH又はVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接又は適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0140】
本発明のCDRを含むペプチドは、本発明のモノクローナル抗体のVH及びVLのCDRをコードするDNAを構築し、該DNAを原核生物用発現ベクター又は真核生物用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを原核生物又は真核生物へ導入することにより発現させ、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法、又はtBoc法などの化学合成法によって製造することもできる。
【0141】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗体断片には、本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片に放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、蛋白質などを化学的又は遺伝子工学的に結合させた抗体またはその抗体断片の誘導体を包含する。抗体またはその抗体断片の誘導体を検出方法、定量方法、検出用試薬、又は定量用試薬として使用する場合には、本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片に結合する薬剤として、通常の免疫学的検出又は測定法で用いられる標識体が挙げられる。
【0142】
本発明における、抗体またはその抗体断片の誘導体は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片のH鎖又はL鎖のN末端側又はC末端側、抗体又はその抗体断片中の適当な置換基又は側鎖、さらにはモノクローナル抗体又はその抗体断片中の糖鎖などに、放射性同位元素、低分子の薬剤、高分子の薬剤、蛋白質などを化学的手法[抗体工学入門、地人書館(1994)]により結合させることにより製造することができる。
【0143】
また、本発明における、抗体またはその抗体断片の誘導体は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片をコードするDNAと、結合させたい蛋白質をコードするDNAを連結させて発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを適当な宿主細胞へ導入し、発現させる遺伝子工学的手法より製造することができる。
【0144】
放射性同位元素としては、例えば、131I、125I、90Y、64Cu、99Tc、77Lu、又は211Atなどが挙げられる。放射性同位元素は、クロラミンT法などによって抗体に直接結合させることができる。また、放射性同位元素をキレートする物質を抗体に結合させてもよい。キレート剤としては、1-イソチオシアネートベンジル-3-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX-DTPA)などが挙げられる。
【0145】
低分子の薬剤としては、例えば、アクリジニウムエステルもしくはロフィンなどの発光物質、又はフルオレセインイソチオシアネート(FITC)もしくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光物質などが挙げられる。
【0146】
低分子の薬剤と抗体とを結合させる方法としては、例えば、グルタールアルデヒドを介して薬剤と抗体のアミノ基間を結合させる方法、又は水溶性カルボジイミドを介して薬剤のアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法などが挙げられる。
【0147】
高分子の薬剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(以下、PEGと表記する)、アルブミン、デキストラン、ポリオキシエチレン、スチレンマレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、又はヒドロキシプロピルメタクリルアミドなどが挙げられる。これらの高分子化合物を抗体又は抗体断片に結合させることにより、(1)化学的、物理的又は生物的な種々の因子に対する安定性の向上、(2)血中半減期の顕著な延長、(3)免疫原性の消失又は抗体産生の抑制、などの効果が期待される[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。例えば、PEGと抗体を結合させる方法としては、PEG化修飾試薬と反応させる方法などが挙げられる[バイオコンジュゲート医薬品、廣川書店(1993)]。PEG化修飾試薬としては、リジンのe-アミノ基への修飾剤(日本国特開昭61-178926号公報)、アスパラギン酸及びグルタミン酸のカルボキシル基への修飾剤(日本国特開昭56-23587号公報)、又はアルギニンのグアニジノ基への修飾剤(日本国特開平2-117920号公報)などが挙げられる。
【0148】
蛋白質としては、例えば、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼまたはルシフェラーゼなどの酵素が挙げられる。
【0149】
本発明は、BMP10アンタゴニストを含む、高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤に関する。また、BMP9アンタゴニストを同時または逐次に投与することを特徴とする、BMP10アンタゴニストを含む高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤も本発明に含まれる。さらに、BMP10アンタゴニストを同時または逐次に投与することを特徴とする、BMP9アンタゴニストを含む高血圧および高血圧性疾患に対する治療剤も本発明に含まれる。
本発明のBMP10アンタゴニストには、前述のように、本発明の抗BMP10モノクローナル抗体およびその抗体断片を含む。
【0150】
高血圧としては、血圧が正常範囲を超過した場合であればすべて含まれるが、特に食塩感受性高血圧などがある。なお正常範囲とは収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満を指す。
【0151】
高血圧性疾患としては、高血圧そのものと高血圧が継続することによる合併症がある。高血圧としては、原因の特定できない本態性高血圧および特定の原因による二次性高血圧に分けられる。本態性高血圧の原因として考えられているものとして、特に食塩感受性高血圧がある。
【0152】
二次性高血圧としては、例えば、腎血管性高血圧、腎実質性高血圧、原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸性症候群、褐色細胞腫、クッシング症候群、薬物誘発性高血圧、妊娠高血圧、大動脈縮窄症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、副甲状腺機能亢進症、脳幹部血管圧迫などが挙げられる。また、高血圧性疾患としては、例えば、ナトリウム排泄障害、高血圧を伴う腎臓尿細管間質障害、腎臓糸球体障害、心臓拡張機能障害なども挙げられる。
【0153】
高血圧が継続することによる合併症としては、例えば、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、うっ血性心不全(例えば、収縮不全型心不全、拡張不全型心不全など)、心筋症(例えば、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症など)、右心不全、慢性腎臓病(例えば、糖尿病性腎症、腎硬化症、多発性嚢胞腎、慢性糸球体腎炎、尿細管間質性腎炎など)、急性腎障害(例えば、急速進行性糸球体腎炎、急性尿細管壊死など)、大動脈解離、大動脈瘤、網膜出血などがある。
【0154】
本発明の治療剤としては、上述した本発明のモノクローナル抗体又は該抗体断片を有効成分として含有する。
【0155】
本発明の医薬組成物としては、上述した本発明のモノクローナル抗体又は該抗体断片を有効成分として含有する。
【0156】
本発明の医薬組成物としては、生理学的に許容され得る希釈剤又はキャリアを含んでおり、他の抗体又は抗生物質のような他の薬剤との混合物であってもよい。適切なキャリアとしては、例えば、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液及び緩衝生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、抗体は凍結乾燥(フリーズドライ)し、必要とされるときに上記のような緩衝水溶液を添加することにより再構成して使用してもよい。
【0157】
投与経路としては、例えば、経口投与、又は口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内及び静脈内などの非経口投与が挙げられ、好ましくは静脈内投与である。投与形態としては、種々の形態で投与することができ、それらの形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏およびテープ剤などが挙げられる。
【0158】
乳剤及びシロップ剤のような液体調製物は、例えば、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤;ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造できる。
【0159】
カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などは、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤;デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造できる。 注射剤は、水、ショ糖、ソルビトール、キシロース、トレハロース、果糖などの糖類;マンニトール、キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グルタミン酸緩衝液などの緩衝液;脂肪酸エステルなどの界面活性剤などを添加剤として用いることができる。
【0160】
非経口投与に適当な製剤としては、例えば、注射剤、座剤および噴霧剤などが挙げられる。注射剤の場合は、通常単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。使用する際に適当な担体、例えば発熱物質不含の滅菌した水で再溶解させる粉体であってもよい。これらの剤形は、通常それらの組成物中に製剤上一般に使用される乳化剤、懸濁剤などの添加剤を含有する。
【0161】
注射手法としては、例えば、点滴静脈内注射、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射および皮内注射等が挙げられる。また、その投与量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。
【0162】
座剤はカカオ脂、水素化脂肪又はカルボン酸などの担体を用いて調製される。また、噴霧剤は本発明の抗体又は抗体の機能的断片そのものを用いて調製することもでき、あるいは受容者(患者)の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつ前記抗体又は抗体の機能的断片を微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせるための担体などを用いて調製される。
【0163】
担体として、具体的には例えば、乳糖およびグリセリンなどが挙げられる。前記抗体又は抗体の機能的断片の性質や用いる担体の性質に応じて、エアロゾルまたはドライパウダーなどの製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0164】
その投与量は、症状、年齢または体重などによって異なるが、通常、経口投与では、成人に対して、1日約0.01mg~1000mgであり、これらを1回、又は数回に分けて投与することができる。また、非経口投与では、1回約0.01mg~1000mgを皮下注射、筋肉注射又は静脈注射によって投与することができる。
【0165】
本発明の抗体又は該抗体断片、又はこれらの誘導体を含有する治療剤は、有効成分としての該抗体もしくは該抗体断片、又はこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが好ましい。
【0166】
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが好ましく、経口投与、又は口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内もしくは静脈内などの非経口投与が挙げられ、好ましくは静脈内投与もしくは皮下投与を挙げられる。
【0167】
投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、坐剤、注射剤、軟膏、又はテープ剤などが挙げられる。
【0168】
さらに、本発明は、BMP10のアミノ酸配列、又はその立体構造を特異的に認識し、かつ結合するモノクローナル抗体又はその抗体断片を有効成分として含有する、BMP10の免疫学的検出又は測定方法に関する。
【0169】
本発明においてBMP10の量を検出又は測定する方法としては、任意の公知の方法が挙げられる。例えば、免疫学的検出又は測定方法などが挙げられる。
【0170】
免疫学的検出又は測定方法とは、標識を施した抗原又は抗体を用いて、抗体量又は抗原量を検出又は測定する方法である。免疫学的検出又は測定方法としては、放射性物質標識免疫抗体法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA又はELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、発光免疫測定法(luminescent immunoassay)、ウェスタンブロット法又は物理化学的手法などが挙げられる。
【0171】
以下に、本発明の抗体の製造方法、疾患の治療方法、及び疾患の診断方法について、具体的に説明する。
【0172】
1.モノクローナル抗体の製造方法
(1)抗原の調製
抗原となるBMP10又はBMP10を発現した組織は、BMP10全長又はその部分長をコードするcDNAを含む発現ベクターを、大腸菌、酵母、昆虫細胞、又は動物細胞などに導入することにより、得ることができる。また、BMP10を多量に発現しているヒト組織からBMP10を精製し、得ることが出来る。また、該組織などをそのまま抗原として用いることもできる。さらに、Fmoc法、又はtBoc法などの化学合成法によりBMP10の部分配列を有する合成ペプチドを調製し、抗原に用いることもできる。
【0173】
本発明で用いられるBMP10は、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)又はCurrent Protocols inmolecular Biology、John Wiley&Sons(1987-1997)などに記載された方法などを用い、例えば、以下の方法により、該BMP10をコードするDNAを宿主細胞中で発現させて、製造することができる。
【0174】
まず、BMP10をコードする部分を含む完全長cDNAを適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより、組換えベクターを作製する。上記完全長cDNAの代わりに、完全長cDNAをもとにして調製された、ポリペプチドをコードする部分を含む適当な長さのDNA断片を用いてもよい。次に、得られた該組換えベクターを、該発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、ポリペプチドを生産する形質転換株を得ることができる。
【0175】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞における自律複製又は染色体中への組込みが可能で、ポリペプチドをコードするDNAを転写できる位置に、適当なプロモーターを含有しているものであればいずれも用いることができる。
【0176】
宿主細胞としては、大腸菌などのエシェリヒア属などに属する微生物、酵母、昆虫細胞、又は動物細胞など、目的とする遺伝子を発現できるものであればいずれも用いることができる。
【0177】
大腸菌などの原核生物を宿主細胞として用いる場合、組換えベクターは、原核生物中で自律複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、BMP10をコードする部分を含むDNA、及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。また、該組換えベクターには、転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。さらに、該組換えベクターには、プロモーターを制御する遺伝子を含んでいてもよい。
【0178】
該組換えベクターとしては、リボソーム結合配列であるシャイン・ダルガルノ配列(SD配列ともいう)と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
【0179】
また、該BMP10をコードするDNAの塩基配列としては、宿主内での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することができ、これにより目的とするBMP10の生産率を向上させることができる。
【0180】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(以上、ロシュ・ダイアグノスティックス社製)、pKK233-2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pKYP10(日本国特開昭58-110600号公報)、pKYP200[Agricultural Biological Chemistry、48、669(1984)]、pLSA1[Agricbiol.Chem.、53、277(1989)]、pGEL1[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82、4306(1985)]、pBluescript II SK(-)(ストラタジーン社製)、pTrs30[大腸菌JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrs32[大腸菌JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pGHA2[大腸菌IGHA2(FERM BP-400)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pGKA2[大腸菌IGKA2(FERM BP6798)より調製、日本国特開昭60-221091号公報]、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400[J.Bacteriol.、172、2392(1990)]、pGEX(ファルマシア社製)、pETシステム(ノバジェン社製)、又はpME18SFL3などが挙げられる。
【0181】
プロモーターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、又はT7プロモーターなどの、大腸菌又はファージなどに由来するプロモーターを挙げることができる。また、Ptrpを2つ直列させたタンデムプロモーター、tacプロモーター、lacT7プロモーター、又はlet Iプロモーターなどの人為的に設計改変されたプロモーターなども用いることができる。
【0182】
宿主細胞としては、例えば、大腸菌XL-1Blue、大腸菌XL2-Blue、大腸菌DH1、大腸菌MC1000、大腸菌KY3276、大腸菌W1485、大腸菌JM109、大腸菌HB101、大腸菌No.49、大腸菌W3110、大腸菌NY49、又は大腸菌DH5αなどが挙げられる。
【0183】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、使用する宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、69、2110(1972)、Gene、17、107(1982)、Molecular&General Genetics、168、111(1979)]が挙げられる。
【0184】
動物細胞を宿主として用いる場合、発現ベクターとしては、動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、pcDNA I、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107[日本国特開平3-22979号公報;Cytotechnology、3、133(1990)]、pAS3-3(日本国特開平2-227075号公報)、pcDM8[Nature、329、840(1987)]、pcDNA I/Amp(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103[J.Biochemistry、101、1307(1987)]、pAGE210、pME18SFL3、N5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号)、又はpKANTEX93(国際公開第97/10354号)などが挙げられる。
【0185】
プロモーターとしては、動物細胞中で機能を発揮できるものであればいずれも用いることができ、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のimmediate early(IE)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター、又はモロニーマウス白血病ウイルスのプロモーターもしくはエンハンサーが挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0186】
宿主細胞としては、例えば、ヒト白血病細胞Namalwa細胞、サル細胞COS細胞、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞CHO細胞(Journal of Experimental Medicine、108、945(1958);Proc.Natl.Acad.Sci.USA、60、1275(1968);Genetics、55、513(1968);Chromosoma、41、129(1973);Methods in Cell Science、18、115(1996);Radiation Research、148、260(1997);Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77、4216(1980);Proc.Natl.Acad.Sci.USA、60、1275(1968);Cell、6、121(1975);Molecular Cellgenetics、Appendix I、II(pp.883-900))、CHO/DG44、CHO-K1(ATCC番号:CCL-61)、DUkXB11(ATCC番号:CCL-9096)、Pro-5(ATCC番号:CCL-1781)、CHO-S(Life Technologies、Cat#11619)、Pro-3、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(又はYB2/0ともいう)、マウスミエローマ細胞NSO、マウスミエローマ細胞SP2/0-Ag14、シリアンハムスター細胞BHK又はHBT5637(日本国特開昭63-000299号公報)、などが挙げられる。
【0187】
宿主細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology、3、133(1990)]、リン酸カルシウム法(日本国特開平2-227075号公報)、又はリポフェクション法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84、7413(1987)]などが挙げられる。
【0188】
以上のようにして得られるBMP10をコードするDNAを組み込んだ組換えベクターを保有する微生物、又は動物細胞などの由来の形質転換株を培地に培養し、培養物中に該BMP10を生成蓄積させ、該培養物から採取することにより、BMP10を製造することができる。該形質転換株を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
【0189】
真核生物由来の細胞で発現させた場合には、糖又は糖鎖が付加されたBMP10を得ることができる。
【0190】
誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドなどを、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した微生物を培養する場合にはインドールアクリル酸などを培地に添加してもよい。
【0191】
動物細胞を宿主として得られた形質転換株を培養する培地としては、例えば、一般に使用されているRPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association、199、519(1967)]、EagleのMEM培地[Science、122、501(1952)]、ダルベッコ改変MEM培地[Virology、8、396(1959)]、199培地[Proc.Soc.Exp.Biol.Med.、73、1(1950)]、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)培地、又はこれら培地に牛胎児血清(FBS)などを添加した培地などが挙げられる。培養は、通常pH6~8、30~40℃、5%CO存在下などの条件下で1~7日間行う。また、培養中必要に応じて、カナマイシン又はペニシリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。
【0192】
BMP10をコードする遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、分泌生産又は融合蛋白質発現などの方法[Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]を用いることができる。
【0193】
BMP10の生産方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、又は宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、使用する宿主細胞、又は生産させるBMP10の構造を変えることにより、適切な方法を選択することができる。
【0194】
BMP10が宿主細胞内又は宿主細胞外膜上に生産される場合、ポールソンらの方法[J.Biol.Chem.、264、17619(1989)]、ロウらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86、8227(1989)、Genes Develop.、4、1288(1990)]、日本国特開平05-336963号公報、又は国際公開第94/23021号などに記載の方法を用いることにより、BMP10を宿主細胞外に積極的に分泌させることができる。
【0195】
また、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子などを用いた遺伝子増幅系(日本国特開平2-227075号公報)を利用してBMP10の生産量を上昇させることもできる。
【0196】
得られたBMP10は、例えば、以下のようにして単離、精製することができる。
BMP10が細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後に細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、又はダイノミルなどを用いて細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。
【0197】
前記無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の蛋白質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安などによる塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)などのレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)などのレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロースなどのレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、又は等電点電気泳動などの電気泳動法などの手法を単独又は組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0198】
BMP10が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、上記と同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として該BMP10の不溶体を回収する。回収した該BMP10の不溶体を蛋白質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈又は透析することにより、該BMP10を正常な立体構造に戻した後、上記と同様の単離精製法によりポリペプチドの精製標品を得ることができる。
【0199】
BMP10又はその糖修飾体などの誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清において該BMP10又はその糖修飾体などの誘導体を回収することができる。該培養物を上記と同様に遠心分離などの手法により処理することにより可溶性画分を取得し、該可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0200】
また、本発明において用いられるBMP10は、Fmoc法、又はtBoc法などの化学合成法によっても製造することができる。また、アドバンストケムテック社製、パーキン・エルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジインストルメント社製、シンセセル-ベガ社製、パーセプチブ社製、又は島津製作所社製などのペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0201】
(2)動物の免疫と融合用抗体産生細胞の調製
3~20週令のマウス、ラット又はハムスターなどの動物に、(1)で得られる抗原を免疫して、その動物の脾、リンパ節、末梢血中の抗体産生細胞を採取する。また、免疫原性が低く上記の動物で充分な抗体価の上昇が認められない場合には、BMP9ノックアウトマウスを被免疫動物として用いることもできる。
【0202】
免疫は、動物の皮下、皮内、静脈内又は腹腔内に、例えば、フロインドの完全アジュバント、又は水酸化アルミニウムゲルと百日咳菌ワクチンなどの適当なアジュバントとともに抗原を投与することにより行う。抗原が部分ペプチドである場合には、BSA(ウシ血清アルブミン)、又はKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)などのキャリア蛋白質とコンジュゲートを作製し、これを免疫原として用いる。
【0203】
抗原の投与は、1回目の投与の後、1~2週間おきに2~10回行う。各投与後3~7日目に眼底静脈叢より採血し、その血清の抗体価を酵素免疫測定法[Antibodies-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]などを用いて測定する。免疫に用いた抗原に対し、その血清が十分な抗体価を示した動物を融合用抗体産生細胞の供給源とする。
【0204】
抗原の最終投与後3~7日目に、免疫した動物より脾臓などの抗体産生細胞を含む組織を摘出し、抗体産生細胞を採取する。脾臓細胞を用いる場合には、脾臓を細断、ほぐした後、遠心分離し、さらに赤血球を除去して融合用抗体産生細胞を取得する。
【0205】
(3)骨髄腫細胞の調製
骨髄腫細胞としては、マウスから得られた株化細胞を用い、例えば、8-アザグアニン耐性マウス(Balb/C由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Current Topics in Microbiology and Immunology、18、1(1978)]、P3-NS1/1Ag41(NS-1)[European J.Immunology、6、511(1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)[Nature、276、269(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J.Immunology、123、1548(1979)]、又はP3-X63-Ag8(X63)[Nature、256、495(1975)]などが用いられる。
【0206】
該骨髄腫細胞は、正常培地[グルタミン、2-メルカプトエタノール、ジェンタマイシン、FBS、及び8-アザグアニンを加えたRPMI1640培地]で継代し、細胞融合の3~4日前に正常培地に継代し、融合当日2×10個以上の細胞数を確保する。
【0207】
(4)細胞融合とモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの調製
(2)で得られる融合用抗体産生細胞と(3)で得られる骨髄腫細胞をMinimum Essential Medium(MEM)培地又はPBS(リン酸二ナトリウム1.83g、リン酸一カリウム0.21g、食塩7.65g、蒸留水1リットル、pH7.2)でよく洗浄し、細胞数が、融合用抗体産生細胞:骨髄腫細胞=5~10:1になるよう混合し、遠心分離した後、上清を除く。
【0208】
沈澱した細胞群をよくほぐした後、ポリエチレングリコール-1000(PEG-1000)、MEM培地及びジメチルスルホキシドの混液を37℃にて、攪拌しながら加える。さらに1~2分間毎にMEM培地1~2mLを数回加えた後、MEM培地を加えて全量が50mLになるようにする。遠心分離後、上清を除く。沈澱した細胞群をゆるやかにほぐした後、融合用抗体産生細胞にHAT培地[ヒポキサンチン、チミジン、及びアミノプテリンを加えた正常培地]中にゆるやかに細胞を懸濁する。この懸濁液を5%COインキュベーター中、37℃にて7~14日間培養する。
【0209】
培養後、培養上清の一部を抜き取り、後述のバインディングアッセイなどのハイブリドーマの選択方法により、BMP10を含む抗原に反応し、BMP10を含まない抗原に反応しない細胞群を選択する。次に、限界希釈法によりクローニングを2回繰り返し[1回目はHT培地(HAT培地からアミノプテリンを除いた培地)、2回目は正常培地を使用する]、安定して強い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマとして選択する。
【0210】
(5)精製モノクローナル抗体の調製
プリスタン処理[2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(Pristane)0.5mLを腹腔内投与し、2週間飼育する]した8~10週令のマウス又はヌードマウスに、(4)で得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に注射する。10~21日でハイブリドーマは腹水がん化する。このマウスから腹水を採取し、遠心分離して固形分を除去後、40~50%硫酸アンモニウムで塩析し、カプリル酸沈殿法、DEAE-セファロースカラム、プロテインA-カラム又はゲル濾過カラムによる精製を行ない、IgG又はIgM画分を集め、精製モノクローナル抗体とする。
【0211】
また、(4)で得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、10%FBS添加を添加したRPMI1640培地などで培養した後、遠心分離により上清を除き、Hybridoma-SFM培地に懸濁し、3~7日間培養する。得られた細胞懸濁液を遠心分離し、得られた上清よりプロテインA-カラム又はプロテインG-カラムによる精製を行ない、IgG画分を集め、精製モノクローナル抗体を得ることもできる。なお、Hybridoma-SFM培地には5%ダイゴGF21を添加することもできる。
【0212】
抗体のサブクラスの決定は、サブクラスタイピングキットを用いて酵素免疫測定法により行う。蛋白量の定量は、ローリー法又は280nmでの吸光度より算出する。
【0213】
(6)モノクローナル抗体の選択
モノクローナル抗体の選択は以下に示す酵素免疫測定法によるバインディングアッセイ、及びBiacoreによるkinetics解析により行う。
【0214】
(6-a)バインディングアッセイ
抗原としては、(1)で得られるBMP10をコードするcDNAを含む発現ベクターを大腸菌、酵母、昆虫細胞、又は動物細胞などに導入して得られた遺伝子導入細胞、リコンビナント蛋白質、又はヒト組織から得た精製ポリペプチド又は部分ペプチドなどを用いる。抗原が部分ペプチドである場合には、BSA又はKLHなどのキャリア蛋白質とコンジュゲートを作製して、これを用いても良い。
【0215】
抗原を96ウェルプレートなどのプレートに分注し、固相化した後、第1抗体として血清、ハイブリドーマの培養上清又は精製モノクローナル抗体などの被験物質を分注し、反応させる。PBS又は0.05~0.1%のTween-20を含むPBS(以降、PBSTともいう)などで、よく洗浄した後、第2抗体としてビオチン、酵素、化学発光物質又は放射線化合物などで標識した抗イムノグロブリン抗体を分注して反応させる。PBSTでよく洗浄した後、第2抗体の標識物質に応じた反応を行ない、免疫原に対し特異的に反応するモノクローナル抗体を選択する。
【0216】
また、本発明のモノクローナル抗体は、上述のバインディングアッセイ系に、被検抗体を添加して反応させることで取得できる。すなわち、被検抗体を加えた時にモノクローナル抗体の結合が阻害される抗体をスクリーニングすることにより、BMP10のアミノ酸配列、又はその立体構造への結合について、取得したモノクローナル抗体と競合するモノクローナル抗体を取得することができる。
【0217】
さらに、本発明のモノクローナル抗体が認識するエピトープと、同じエピトープに結合する抗体は、上述のバインィングアッセイ系で取得された抗体のエピトープを同定し、同定したエピトープの、部分的な合成ペプチド、又はエピトープの立体構造に擬態させた合成ペプチド等を作製し、免疫することで、取得することができる。
【0218】
(6-b)Biacoreによるkinetics解析
Biacore T100を用い、抗原と被験物の間の結合におけるkineticsを測定し、その結果を機器付属の解析ソフトウエアで解析をする。抗マウスIgG抗体をセンサーチップCM5にアミンカップリング法により固定した後、ハイブリドーマ培養上清又は精製モノクローナル抗体などの被験物質を流し、適当量結合させ、さらに濃度既知の複数濃度の抗原を流し、結合、解離を測定する。
【0219】
得られたデータを機器付属のソフトウエアを用い、1:1バインディングモデルによりkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。又は、ヒトBMP10をセンサーチップ上に、例えばアミンカップリング法により固定した後、濃度既知の複数濃度の精製モノクローナル抗体を流し、結合、解離を測定する。得られたデータを機器付属のソフトウエアを用い、バイバレントバインディングモデルによりkinetics解析を行い、各種パラメータを取得する。
【0220】
2.遺伝子組換え抗体の作製
遺伝子組換え抗体の作製例として、以下にヒト型キメラ抗体及びヒト化抗体の作製方法を示す。
【0221】
(1)遺伝子組換え抗体発現用ベクターの構築
遺伝子組換え抗体発現用ベクターは、ヒト抗体のCH及びCLをコードするDNAが組み込まれた動物細胞用発現ベクターであり、動物細胞用発現ベクターにヒト抗体のCH及びCLをコードするDNAをそれぞれクローニングすることにより構築することができる。
【0222】
ヒト抗体のC領域は任意のヒト抗体のCH及びCLを用いることができる。例えば、ヒト抗体のγ1サブクラスのCH及びκクラスのCLなどを用いる。ヒト抗体のCH及びCLをコードするDNAには、cDNAを用いるが、エキソンとイントロンからなる染色体DNAを用いることもできる。
【0223】
動物細胞用発現ベクターには、ヒト抗体のC領域をコードする遺伝子を組込み発現できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、pAGE107[Cytotechnol.、3、133(1990)]、pAGE103[J.Biochem.、101、1307(1987)]、pHSG274[Gene、27、223(1984)]、pKCR[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78、1527(1981)]、pSG1bd2-4[Cytotechnol.、4、173(1990)]、又はpSE1UK1Sed1-3[Cytotechnol.、13、79(1993)]などを用いる。またIgG4PE R409K抗体を発現させる場合には、例えばN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号)などを用いることができる。
【0224】
動物細胞用発現ベクターのうちプロモーターとエンハンサーには、SV40の初期プロモーター[J.Biochem.、101、1307(1987)]、モロニーマウス白血病ウイルスLTR[Biochem.Biophys.Res.Commun.、149、960(1987)]、又は免疫グロブリンH鎖のプロモーター[Cell、41、479(1985)]とエンハンサー[Cell、33、717(1983)]などを用いる。
【0225】
遺伝子組換え抗体発現用ベクターには、遺伝子組換え抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、動物細胞内での抗体H鎖及びL鎖の発現量のバランスが均衡するなどの点から、抗体H鎖及びL鎖が同一のベクター上に存在するタイプ(タンデム型)の遺伝子組換え抗体発現用ベクター[J.Immunol.Methods、167、271(1994)]を用いることができる。また抗体H鎖及びL鎖が別々のベクター上に存在するタイプを用いることもできる。タンデム型の遺伝子組換え抗体発現用ベクターには、pKANTEX93(国際公開第97/10354号)、pEE18[Hybridoma、17、559(1998)]、またはN5KG4PE R409K(国際公開第2006/033386号)などを用いる。
【0226】
(2)ヒト以外の動物由来の抗体のV領域をコードするcDNAの取得及びアミノ酸配列の解析
非ヒト抗体のVH及びVLをコードするcDNAの取得及びアミノ酸配列の解析は以下のようにして行うことができる。
【0227】
非ヒト抗体を産生するハイブリドーマ細胞よりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAをファージ又はプラスミドなどのベクターにクローニングしてcDNAライブラリーを作製する。
【0228】
前記ライブラリーより、マウス抗体のC領域部分又はV領域部分をコードするDNAをプローブとして用い、VH又はVLをコードするcDNAを有する組換えファージ又は組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージ又は組換えプラスミド上の目的とするマウス抗体のVH又はVLの全塩基配列をそれぞれ決定し、塩基配列よりVH又はVLの全アミノ酸配列をそれぞれ推定する。
【0229】
非ヒト抗体を産生するハイブリドーマ細胞を作製するヒト以外の動物には、マウス、ラット、ハムスター、又はラビットなどを用いるが、ハイブリドーマ細胞を作製することが可能であれば、いかなる動物も用いることができる。
【0230】
ハイブリドーマ細胞からの全RNAの調製には、チオシアン酸グアニジン-トリフルオロ酢酸セシウム法[Methods in Enzymol.、154、3(1987)]、又はRNA easy kit(キアゲン社製)などのキットなどを用いる。
【0231】
全RNAからのmRNAの調製には、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]、又はOligo-dT30<Super>mRNA Purification Kit(タカラバイオ社製)などのキットなどを用いる。また、Fast Track mRNA Isolation Kit(インビトロジェン社製)、又はQuick Prep mRNA Purification Kit(ファルマシア社製)などのキットを用いてハイブリドーマ細胞からmRNAを調製することもできる。
【0232】
cDNAの合成及びcDNAライブラリーの作製には、公知の方法[Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols inmolecular Biology、Supplement 1、John Wiley&Sons(1987-1997)]、又はSperScript plasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(インビトロジェン社製)、又はZAP-cDNA Synthesis Kit(ストラタジーン社製)などのキットなどを用いる。
【0233】
cDNAライブラリーの作製の際、ハイブリドーマ細胞から抽出したmRNAを鋳型として合成したcDNAを組み込むベクターには、該cDNAを組み込めるベクターであればいかなるものでも用いることができる。例えば、ZAP ExPress[Strategies、5、58(1992)]、pBluescript II SK(+)[Nucleic Acids Research、17、9494(1989)]、λZAPII(ストラタジーン社製)、λgt10、λgt11[DNA Cloning:A Practical Approach、I、49(1985)]、Lambda BlueMid(クローンテック社製)、λEx Cell、pT7T3-18U(ファルマシア社製)、pcD2[Mol.Cell.Biol.、3、280(1983)]、又はpUC18[Gene、33、103(1985)]などを用いる。
【0234】
ファージ又はプラスミドベクターにより構築されるcDNAライブラリーを導入する大腸菌には、該cDNAライブラリーを導入、発現及び維持できるものであればいかなるものでも用いることができる。例えば、XL-1Blue MRF[Strategies、5、81(1992)]、C600[Genetics、39、440(1954)]、Y1088、Y1090[Science、222、778(1983)]、NM522[J.Mol.Biol.、166、1(1983)]、K802[J.Mol.Biol.、16、118(1966)]、又はJM105[Gene、38、275(1985)]などを用いる。
【0235】
cDNAライブラリーからの非ヒト抗体のVH又はVLをコードするcDNAクローンの選択には、アイソトープ又は蛍光標識したプローブを用いたコロニー・ハイブリダイゼーション法、又はプラーク・ハイブリダイゼーション法[Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)]などを用いる。
【0236】
また、プライマーを調製し、mRNAから合成したcDNA又はcDNAライブラリーを鋳型として、Polymerase Chain Reaction法[以下、PCR法と表記する、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols inmolecular Biology、Supplement 1、John Wiley&Sons(1987-1997)]を行うことよりVH又はVLをコードするcDNAを調製することもできる。
【0237】
選択されたcDNAを、適当な制限酵素などで切断後、pBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにクローニングし、通常用いられる塩基配列解析方法などにより該cDNAの塩基配列を決定する。塩基配列解析方法には、例えば、ジデオキシ法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、74、5463(1977)]などの反応を行った後、ABI PRISM3700(PEバイオシステムズ社製)又はA.L.F.DNAシークエンサー(ファルマシア社製)などの塩基配列自動分析装置などを用いる。
【0238】
決定した塩基配列からVH及びVLの全アミノ酸配列をそれぞれ推定し、既知の抗体のVH及びVLの全アミノ酸配列[A.L.F.DNA、US Dept.Health and Human Services(1991)]と比較することにより、取得したcDNAが分泌シグナル配列を含む抗体のVH及びVLの完全なアミノ酸配列をコードしているかをそれぞれ確認する。
【0239】
分泌シグナル配列を含む抗体のVH及びVLの完全なアミノ酸配列に関しては、既知の抗体のVH及びVLの全アミノ酸配列[A.L.F.DNA、US Dept.Health and Human Services(1991)]と比較することにより、分泌シグナル配列の長さ及びN末端アミノ酸配列を推定でき、さらにはそれらが属するサブグループを知ることができる。また、VH及びVLの各CDRのアミノ酸配列についても、既知の抗体のVH及びVLのアミノ酸配列[A.L.F.DNA、US Dept.Health and Human Services(1991)]と比較することによって見出すことができる。
【0240】
また、得られたVH及びVLの完全なアミノ酸配列を用いて、例えば、SWISS-PROT又はPIR-Proteinなどの任意のデータベースに対してBLAST法[J.Mol.Biol.、215、403(1990)]などの相同性検索を行い、VH及びVLの完全なアミノ酸配列が新規なものかを確認できる。
【0241】
(3)ヒト型キメラ抗体発現ベクターの構築
(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCH又はCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、それぞれ非ヒト抗体のVH又はVLをコードするcDNAをそれぞれクローニングすることで、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築することができる。
【0242】
非ヒト抗体のVH又はVLをコードするcDNAの3’末端側と、ヒト抗体のCH又はCLの5’末端側とを連結するために、連結部分の塩基配列が適切なアミノ酸をコードし、かつ適当な制限酵素認識配列になるように設計したVH及びVLのcDNAを作製する。
【0243】
作製されたVH及びVLのcDNAを、(1)で得られるヒト型CDR移植抗体発現用ベクターのヒト抗体のCH又はCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現する様にそれぞれクローニングし、ヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築する。
【0244】
また、非ヒト抗体VH又はVLをコードするcDNAを、適当な制限酵素の認識配列を両端に有する合成DNAを用いてPCR法によりそれぞれ増幅し、(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターにクローニングすることもできる。
【0245】
(4)ヒト型CDR移植抗体のV領域をコードするcDNAの構築
ヒト型CDR移植抗体のVH又はVLをコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。
【0246】
非ヒト抗体のVH又はVLのCDRのアミノ酸配列を移植するヒト抗体のVH又はVLのFRのアミノ酸配列をそれぞれ選択する。選択するFRのアミノ酸配列には、ヒト抗体由来のものであれば、いずれのものでも用いることができる。
【0247】
例えば、Protein Data Bankなどのデータベースに登録されているヒト抗体のFRのアミノ酸配列、又はヒト抗体のFRの各サブグループの共通アミノ酸配列[A.L.F.DNA、US Dept.Health and Human Services(1991)]などを用いる。抗体の結合活性の低下を抑えるため、元の抗体のVH又はVLのFRのアミノ酸配列とできるだけ高い相同性(少なくとも60%以上)のFRのアミノ酸配列を選択する。
【0248】
次に、選択したヒト抗体のVH又はVLのFRのアミノ酸配列に、もとの抗体のCDRのアミノ酸配列をそれぞれ移植し、ヒト型CDR移植抗体のVH又はVLのアミノ酸配列をそれぞれ設計する。設計したアミノ酸配列を抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[A.L.F.DNA、US Dept.Health and Human Services(1991)]を考慮してDNA配列に変換し、ヒト型CDR移植抗体のVH又はVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列をそれぞれ設計する。
【0249】
設計したDNA配列に基づき、100塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR反応を行う。この場合、PCR反応での反応効率及び合成可能なDNAの長さから、好ましくはH鎖、L鎖とも6本の合成DNAを設計する。
【0250】
また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(1)で得られるヒト型CDR移植抗体発現用ベクターに容易にヒト型CDR移植抗体のVH又はVLをコードするcDNAをクローニングすることができる。
【0251】
又は、設計したDNA配列に基づき、1本のDNAとして合成された各H鎖、L鎖全長合成DNAを用いることで実施できる。
【0252】
PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにそれぞれクローニングし、(2)に記載の方法と同様の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト型CDR移植抗体のVH又はVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
【0253】
(5)ヒト型CDR移植抗体のV領域のアミノ酸配列の改変
ヒト型CDR移植抗体は、非ヒト抗体のVH及びVLのCDRのみをヒト抗体のVH及びVLのFRに移植しただけでは、その抗原結合活性は元の非ヒト抗体に比べて低下する[BIO/TECHNOLOGY、9、266(1991)]。
【0254】
ヒト型CDR移植抗体では、ヒト抗体のVH及びVLのFRのアミノ酸配列の中で、直接抗原との結合に関与しているアミノ酸残基、CDRのアミノ酸残基と相互作用するアミノ酸残基、及び抗体の立体構造を維持し、間接的に抗原との結合に関与しているアミノ酸残基を同定し、それらのアミノ酸残基を元の非ヒト抗体のアミノ酸残基に置換することにより、低下した抗原結合活性を上昇させることができる。
【0255】
抗原結合活性に関わるFRのアミノ酸残基を同定するために、X線結晶解析[J.Mol.Biol.、112、535(1977)]又はコンピューターモデリング[Protein Engineering、7、1501(1994)]などを用いることにより、抗体の立体構造の構築及び解析を行うことができる。また、それぞれの抗体について数種の改変体を作製し、それぞれの抗原結合活性との相関を検討することを繰り返し、試行錯誤することで必要な抗原結合活性を有する改変ヒト型CDR移植抗体を取得できる。
【0256】
ヒト抗体のVH及びVLのFRのアミノ酸残基は、改変用合成DNAを用いて(4)に記載のPCR反応を行うことにより、改変させることができる。PCR反応後の増幅産物について(2)に記載の方法により、塩基配列を決定し、目的の改変が施されたことを確認する。
(6)表面再構成法によるヒト化抗体のV領域をコードするcDNAの構築
表面再構成法によるヒト化抗体のVH又はVLをコードするcDNAは、以下のようにして構築することができる。
非ヒト抗体のVH又はVLのFRのアミノ酸配列のうち、抗原結合活性に影響が低いと考えられるアミノ酸残基をそれぞれ選択し、該アミノ酸残基をより抗原性が低いと考えられるアミノ酸残基に置換する。
こうして設計したVHまたはVLのアミノ酸配列を、抗体の遺伝子の塩基配列に見られるコドンの使用頻度[A.L.F.DNA、US Dept.Health and Human Services(1991)]を考慮してDNA配列に変換し、表面再構成法によるヒト化抗体のVH又はVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列をそれぞれ設計する。
設計したDNA配列に基づき、100塩基前後の長さからなる数本の合成DNAを合成し、それらを用いてPCR反応を行う。この場合、PCR反応での反応効率及び合成可能なDNAの長さから、好ましくはH鎖、L鎖とも6本の合成DNAを設計する。
また、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(1)で得られるヒト化抗体発現用ベクターに容易に表面再構成法によるヒト化抗体のVH又はVLをコードするcDNAをクローニングすることができる。
又は、設計したDNA配列に基づき、1本のDNAとして合成された各H鎖、L鎖全長合成DNAを用いることで実施できる。
PCR反応後、増幅産物をpBluescript SK(-)(ストラタジーン社製)などのプラスミドにそれぞれクローニングし、(2)に記載の方法と同様の方法により、塩基配列を決定し、所望のヒト抗体のVH又はVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を有するプラスミドを取得する。
【0257】
(7)ヒト化抗体発現ベクターの構築
(1)で得られる遺伝子組換え抗体発現用ベクターのヒト抗体のCH又はCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流に、構築した遺伝子組換え抗体のVH又はVLをコードするcDNAをそれぞれクローニングし、ヒト化抗体発現ベクターを構築することができる。
【0258】
例えば、(4)、(5)または(6)で得られるヒト化抗体のVH又はVLを構築する際に用いる合成DNAのうち、両端に位置する合成DNAの5’末端に適当な制限酵素の認識配列を導入することで、(1)で得られるヒト化抗体発現用ベクターのヒト抗体のCH又はCLをコードするそれぞれの遺伝子の上流にそれらが適切な形で発現するようにそれぞれクローニングする。
【0259】
(8)遺伝子組換え抗体の一過性発現
(3)及び(7)で得られる遺伝子組換え抗体発現ベクター、又はそれらを改変した発現ベクターを用いて遺伝子組換え抗体の一過性発現を行い、作製した多種類のヒト化抗体の抗原結合活性を効率的に評価することができる。
【0260】
発現ベクターを導入する宿主細胞には、遺伝子組換え抗体を発現できる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができるが、例えばCOS-7細胞(ATCC番号:CRL1651)を用いる[Methods in Nucleic Acids Res.、CRC Press、283(1991)]。
【0261】
COS-7細胞への発現ベクターの導入には、DEAE-デキストラン法[Methods in Nucleic Acids Res.、CRC Press、(1991)]、又はリポフェクション法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84、7413(1987)]などを用いる。
【0262】
発現ベクターの導入後、培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量及び抗原結合活性は酵素免疫抗体法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice、Third edition、Academic Press(1996)、Antibodies-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)、単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987)]などを用いて測定する。
【0263】
(9)遺伝子組換え抗体を安定に発現する形質転換株の取得と遺伝子組換え抗体の調製
(3)及び(7)で得られた遺伝子組換え抗体発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより遺伝子組換え抗体を安定に発現する形質転換株を得ることができる。
【0264】
宿主細胞への発現ベクターの導入には、エレクトロポレーション法[日本国特開平2-257891号公報、Cytotechnology、3、133(1990)]などを用いる。
【0265】
遺伝子組換え抗体発現ベクターを導入する宿主細胞には、遺伝子組換え抗体を発現させることができる宿主細胞であれば、いかなる細胞でも用いることができる。
【0266】
例えば、CHO-K1(ATCC番号:CCL-61)、DUkXB11(ATCC番号:CCL-9096)、Pro-5(ATCC番号:CCL-1781)、CHO-S(Life Technologies、Cat#11619)、ラットミエローマ細胞YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20(又はYB2/0ともいう)、マウスミエローマ細胞NSO、マウスミエローマ細胞SP2/0-Ag14(ATCC番号:CRL1581)、マウスP3-X63-Ag8653細胞(ATCC番号:CRL1580)、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子が欠損したCHO細胞[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77、4216(1980)]、レクチン耐性を獲得したLec13[Somaticcell and Molecular Genetics、12、55(1986)]、α1,6-フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)、ラットYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞(ATCC番号:CRL1662)などを用いる。
【0267】
発現ベクターの導入後、遺伝子組換え抗体を安定に発現する形質転換株は、G418硫酸塩などの薬剤を含む動物細胞培養用培地で培養することにより選択する(日本国特開平2-257891号公報)。
【0268】
動物細胞培養用培地には、RPMI1640培地(インビトロジェン社製)、GIT培地(日本製薬社製)、EX-CELL301培地(ジェイアールエイチ社製)、IMDM培地(インビトロジェン社製)、Hybridoma-SFM培地(インビトロジェン社製)、又はこれら培地にFBSなどの各種添加物を添加した培地などを用いる。
【0269】
得られた形質転換株を培地中で培養することで培養上清中に遺伝子組換え抗体を発現蓄積させる。培養上清中の遺伝子組換え抗体の発現量及び抗原結合活性はELISA法などにより測定できる。また、形質転換株は、DHFR増幅系(日本国特開平2-257891号公報)などを利用して遺伝子組換え抗体の発現量を上昇させることができる。
【0270】
遺伝子組換え抗体は、形質転換株の培養上清よりプロテインA-カラムを用いて精製する[Monoclonal Antibodies-Principles and practice、Third edition、Academic Press(1996)、Antibodies-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]。また、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー及び限外濾過などの蛋白質の精製で用いられる方法を組み合わすこともできる。
【0271】
精製した遺伝子組換え抗体のH鎖、L鎖或いは抗体分子全体の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法[Nature、227、680(1970)]、又はウェスタンブロッティング法[Monoclonal Antibodies-Principles and practice、Third edition、Academic Press(1996)、Antibodies-A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)]など用いて測定することができる。
【0272】
3.精製モノクローナル抗体又はその抗体断片の活性評価
精製した本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片の活性評価は、以下のように行うことができる。
【0273】
BMP10及びBMP10発現組織に対する結合活性は、前述の1-(6-a)記載のバインディングアッセイ及び(6-b)記載のBiacoreシステムなどを用いた表面プラズモン共鳴法を用いて測定する。また、蛍光抗体法[Cancer Immunol.Immunother.、36、373(1993)]などを用いて測定できる。
【0274】
バイスペシフィック抗体の製造は、例えば国際公開第2009/131239号に記載の方法など、公知の方法で行うことができる。
【0275】
4.本発明の抗BMP10モノクローナル抗体又は該抗体断片を用いた疾患の治療方法
本発明のモノクローナル抗体又は該抗体断片は、高血圧および高血圧性疾患の治療に用いることができる。
【0276】
本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片、又はこれらの誘導体を含有する治療剤は、有効成分としての該抗体もしくは該抗体断片、又はこれらの誘導体のみを含むものであってもよいが、通常は薬理学的に許容される1以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野において公知の方法により製造した医薬製剤として提供される。
【0277】
投与経路としては、例えば、経口投与、又は口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内もしくは静脈内などの非経口投与が挙げられる。投与形態としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、坐剤、注射剤、軟膏、又はテープ剤などが挙げられる。
【0278】
経口投与に適当な製剤としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル剤、錠剤、散剤、又は顆粒剤などが挙げられる。
【0279】
乳剤又はシロップ剤のような液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトールもしくは果糖などの糖類、ポリエチレングリコールもしくはプロピレングリコールなどのグリコール類、ごま油、オリーブ油もしくは大豆油などの油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤、又はストロベリーフレーバーもしくはペパーミントなどのフレーバー類などを添加剤として用いて製造する。
【0280】
カプセル剤、錠剤、散剤又は顆粒剤などは、乳糖、ブドウ糖、ショ糖もしくはマンニトールなどの賦形剤、デンプンもしくはアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムもしくはタルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロースもしくはゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤又はグリセリンなどの可塑剤などを添加剤として用いて製造する。
【0281】
非経口投与に適当な製剤としては、例えば、注射剤、坐剤又は噴霧剤などが挙げられる。
【0282】
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液、又はその両者の混合物からなる担体などを用いて製造する。
【0283】
坐剤はカカオ脂、水素化脂肪又はカルボン酸などの担体を用いて製造する。
【0284】
噴霧剤は受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつ本発明のモノクローナル抗体又はその抗体断片を微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体などを用いて製造する。担体としては、例えば乳糖又はグリセリンなどを用いる。また、エアロゾル又はドライパウダーとして製造することもできる。
【0285】
さらに、上記非経口剤においても、経口投与に適当な製剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0286】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。使用する試薬類は、特に記載がない限り、添付文書に従い使用するものとする。
【実施例
【0287】
[実施例1]抗ヒトBMP10モノクローナル抗体の作製
1-1)免疫原の調製
免疫原としてヒトBMP10組換えタンパク質、またはヒトBMP10 mature2量体(R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)を用いた。ヒトBMP10組換えタンパク質は、国際公開第2014/007198号の実施例20に記載された方法に従い調製した。この方法により調製されたヒトBMP10組換えタンパク質はmature体、N末プロペプチド体および全長体を含む。
【0288】
1-2)動物への免疫と抗体産生細胞の調製
アジュバントに、Sigma Adjuvant System(登録商標)(シグマアルドリッチ社製)、又はAlum+百日咳ワクチンアジュバント(ナカライテスク社製)を用いて、実施例1の1-1)で調製したヒトBMP10を抗原とする抗原懸濁液を添付文書に従い調製した後、WKY/NcrlCrljラットまたはSDラットに腹腔及び皮下または筋肉内経路で免疫した。免疫した抗原量は、ヒトBMP10組換えタンパク質は20μg/head、ヒトBMP10 mature2量体は10μg/headで行った。免疫は、最終ブーストを含めて計2回又は4回行った。脾臓は、最終投与の3~4日後に摘出した。
【0289】
摘出した脾臓をMinimum Essential Media(ナカライテスク社製)(以下MEM培地という)中で細断した後、脾細胞を遠心分離(1200rpm、5分間)により回収した。得られた脾細胞画分は、赤血球を含むことから、RED Blood Cell Lysing Buffer(シグマアルドリッチ社製)を添加し、氷上で処理することにより、赤血球を除去した。または腸骨リンパ節を採取し、MEM培地中で細胞をほぐしてリンパ球を得た。得られた脾細胞またはリンパ球は、MEM培地で2回洗浄した後、細胞融合に供した。
【0290】
1-3)マウス骨髄腫細胞の調製
8-アザグアニン耐性マウス骨髄腫細胞株p3-U1[P3X63Ag8U.1、ATCC:CRL-1597、European Journal of Immunology、6、511(1976)]をエス・クロン(S-Clone) クローニングメデューム CM-B(三光純薬社製)にゲンタマイシン(10μg/mL)を添加した培地(以下、無血清培地と表記する)で馴化培養し、細胞融合時に必要な細胞数(4×10個以上)を確保し、細胞融合に供した。
【0291】
1-4)ハイブリドーマの作製
実施例1の1-2)で得られたマウス脾細胞またはリンパ球と実施例1の1-3)で得られた骨髄腫細胞を8:1になるよう混合し、遠心分離(1200rpm、5分間)した。得られた沈殿画分(細胞群)に対して、ポリエチレングリコール-1000(純正化学社製、Cat#69257-1210)、MEM培地、ジメチルスルホキシド(DMSO、Sigma Aldrich社製、Cat#D2650)の混液500μLを、穏やかに揺らしながら、徐々に加えた。次に、該細胞液にMEM培地5mLを穏やかに揺らしながら加え、更にMEM培地を45mL添加した。次に、上記の該細胞液を含むチューブを遠心分離(900rpm、5分間)した。
【0292】
得られた沈殿画分(細胞群)を、HATを含む無血清培地を用いて96ウェルプレートにA列を除いて200μLずつ播種した。このとき、脾細胞またはリンパ球数がプレート1枚当たり1.5×10個/18mLになるように調整し、37℃、5%COの条件下で培養した。培地交換は、ウェル内の細胞がスクリーニングに適した細胞数になるまで、HATを含む無血清培地を用いて適宜行った。
【0293】
1-5)固相抗原ELISAによる抗BMP10抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
抗BMP10抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには、ELISA用プレートに、ヒトBMP10を固相化させた固相抗原ELISA系を用いた。具体的には、実施例1の1-1)で調製したヒトBMP10組み換え体、又はヒトBMP10 mature2量体(R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)を、リン酸緩衝液(ナカライテスク社製)にて0.5μg/mLに調製したものを96ウェルのELISA用プレート(F96 MAXISORP NUNC-IMMNO PLATE、Thermo Fisher Scientific社製、Cat#442404)に50μL/ウェルで分注し、4℃にて一晩静置して吸着させた。
【0294】
固相化液を取り除いた後、PBSで3~5回洗浄し、1%BSA-PBS(ナカライテスク社製、Cat#099968-35)を200μL/ウェル加え、室温にて1時間静置してブロッキングした。
【0295】
次に、ハイブリドーマ上清を50μL/ウェルで分注し、室温にて1時間静置した。このプレートをPBSTで3~5回洗浄した後、1%BSA-PBSで1000倍希釈したGoat F(ab’) Anti-Rat IgG-Fc(HRP),pre-adsorbed(アブカム社製、Cat#ab6257)を50μL/ウェルで分注し、室温にて1時間静置した。
【0296】
このプレートをPBSTで3~5回洗浄し、ABTS(2,2’-Azino-bis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic Acid、Wako社製、Cat#016-08521)基質液またはTMB基質液を50μL/ウェルで添加して発色させ、適当な発色が得られたところで、5%SDS溶液または1mol/L塩酸を50μL/ウェルで添加し、サンプル波長415nm、リファレンス波長490nmにおける吸光度(415nm-490nm)またはサンプル波長450nm、リファレンス波長570nmにおける吸光度(450nm-570nm)をプレートリーダー(Spectra Max,Molecular Devices社製)を用いて測定した。
【0297】
1-6)BMPシグナルを検出可能にした細胞の作製
抗BMP10抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングとして、各種BMP蛋白質のシグナルを検出可能にした細胞(以下、BMPシグナル検出細胞)を用いた。BMPシグナル検出細胞は、特開2017-25011号公報の実施例5に記載されたId1-Luc/CHO細胞を用いた。
【0298】
1-7)Id1-Luc/CHOを用いた抗BMP10中和抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
96ウェル蛍光・発光用プレート(コーニング社製、Cat#3916)に、ヒトBMP10 mature2量体を終濃度で3ng/mLになるように添加した。次いで、ハイブリドーマ培養上清を終濃度で50%になるように添加した。その後、Excell 325培地[Excell 325 PF CHO(SAFC社製、Cat#14340C-1000mL)、4mM L-グルタミン、1×Penicillin、1×Streptomycin(ナカライ社製、Cat#09367-34)、0.5μg/mL hygromycin]にて懸濁したId1-Luc/CHO細胞液を5×10個/ウェルになるように添加した。
【0299】
なお、すべてのサンプルはExcell 325培地で希釈し、すべてのサンプルを添加すると100μL/ウェルとなるようにした。その後、ウェル内の液をプレートミキサーで均一にした後、37℃にて20時間培養した。20時間後、添付文書に従い調製したNano-Glo Luciferase Assay測定液(Promega社製、Cat#N1120)を40μL/ウェル加え撹拌した後、Glomax(Promega社製)にてLuciferase活性を測定した。
【0300】
ハイブリドーマ培養上清中の抗体の中和活性(%)は、ハイブリドーマ培養上清を添加せず、BMP10 mature2量体のみを添加したウェルの値を0%、抗体を添加せず、Excell 325培地のみを添加したウェルの値を100%として算出した。
【0301】
1-8)抗BMP10中和抗体産生ハイブリドーマの単離
上記のスクリーニングにて50%以上の中和活性を示したものを陽性と判断した。陽性と判断されたハイブリドーマは、無血清培地にて限界希釈し、96ウェルプレートに播種し単クローン化を行った。単クローン化は、1回目に陽性と判断したウェル由来のハイブリドーマに対して計1~2回行った。以上の操作により、18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体を産生するハイブリドーマを単離した。
【0302】
1-9)ハイブリドーマからの抗体の大量取得
実施例1の1-8)で単離したハイブリドーマを、大フラスコボトル2本に播種した。培地には無血清培地を用いた。37℃にて6-8日間培養した後、細胞を含む培地を回収した。回収した培地を遠心分離し、得られた培養上清を0.22μmフィルターによりろ過した。
【0303】
フィルターでろ過した培養上清から、Protein G Sepharose 4 Fast Flow(GE Healthcare社製)またはAb-Capchure Extra(プロテノバ社製)を充填したオープンカラムを用いて、抗ヒトBMP10抗体を精製した。
【0304】
[実施例2]Id1-Luc/CHO細胞を用いた取得した抗体と既知抗体のBMP10中和活性比較
取得した抗BMP10抗体と既知抗体に関して、BMP10の中和活性の比較を実施例1の1-6)で作製したId1-Luc/CHO細胞を用いて行った。96ウェル蛍光・発光用プレート(コーニング社製、Cat#3916)に、ヒトBMP10mature2量体(R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)を終濃度で3ng/mLになるように添加し、次いで既知抗体MAB2926(既知抗体とはMAB2926のことをいう)および実施例1の1-9)で精製した抗BMP10抗体18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体、またはコントロール抗体(Purified Rat IgG1 λ Isotype control、BD社製、Cat#553993)を終濃度で3000ng/mLより3倍希釈で段階的に6濃度に調製し、添加した。
【0305】
その後、Excell 325培地[Excell 325 PF CHO(SAFC社製、Cat#14340C-1000mL)、4mM L-グルタミン、1×Penicillin、1×Streptomycin(ナカライ社製、Cat#09367-34)、0.5mg/mL hygromycin]にて懸濁したId1-Luc/CHO細胞液を5×10個/ウェルになるように添加した。すべてのサンプル添加後、ウェル内の液をプレートミキサーで均一にした後、37℃にて20時間培養した。
【0306】
20時間後、添付文書に従い調製したNano-Glo Luciferase Assay測定液(Promega社製、Cat#N1120)を40μL/ウェル加え撹拌した後、Glomax(Promega社製)にてLuciferase活性を測定した。抗体の中和活性(%)は、抗体を添加せず、BMP10 mature2量体のみを添加したウェルの値を0%、抗体を添加せず、Excell 325培地のみを添加したウェルの値を100%として算出した。結果を図1に示す。
【0307】
図1に示すように、コントロール抗体以外、いずれの抗体もBMP10に対する中和活性を示した。既知抗体MAB2926は3μg/mlでmature BMP10 3ng/mlを完全には中和できないことが分かった。それに対して、取得抗体11H10抗体、12H3抗体、18C1抗体は、3μg/mlでmature BMP10 3ng/mlを完全に中和することができた。また18C1抗体、12H3抗体はMAB2926より低濃度でBMP10中和活性を示した。
【0308】
以上の結果より、3つの取得抗体は全て、既知抗体よりもBMP10中和活性が著しく向上した抗体であることが明らかになった。
【0309】
[実施例3]
ヒトALK1発現レポーター細胞を用いた取得抗体と既知抗体のBMP10の中和活性比較
取得した抗BMP10抗体と既知抗体のBMP10に対する中和活性について、ヒトALK1を高発現させたヒトALK1発現レポーター細胞を用いて比較した。既知抗体には、MAB2926(R&Dシステムズ社)を用いた。
【0310】
3-1)ヒトALK1発現レポーター細胞の作製
ヒトALK1発現レポーター細胞は、特開2017-25011号公報の実施例6に記載されたALK1/Id1-Luc/CHO細胞を用いた。
【0311】
3-2)新規取得抗体と既知抗体のBMP10中和活性比較
96ウェル蛍光・発光用プレート(コーニング社製、Cat#3916)に、ヒトBMP10 mature2量体(R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)を終濃度で0.3ng/mLになるように添加した。次いで、抗BMP10抗体である18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体、MAB2926、またはコントロール抗体(Purified Rat IgG1 λ Isotype control、BD社製、Cat#553993)を終濃度で3000ng/mLより3倍希釈で段階的に6濃度に調製し、添加した。
【0312】
その後、Excell 325培地にて調製したALK1/Id1-Luc/CHO細胞懸濁液を5×10個/ウェルになるように添加した。すべてのサンプルはExcell 325培地で希釈し、ヒトBMP10、抗体希釈液、細胞懸濁液を合わせて100μL/ウェルとなるようにした。その後、ウェル内の液をプレートミキサーで均一にした後、37℃にて20時間培養した。
【0313】
20時間後、添付文書に従い調製したNano-Glo Luciferase Assay測定液を40μL/ウェル加え、撹拌した後、Glomax(Promega社製)を用いてLuciferase活性を測定した。抗体の中和活性(%)は、抗体を添加せず、BMP10 mature2量体のみを添加したウェルの値を0%、抗体を添加せず、Excell 325培地のみを添加したウェルの値を100%として算出した。結果を図2に示す。
【0314】
図2に示すように、コントロール抗体及び既知抗体MAB2926はALK1/Id1-Luc/CHO細胞において、中和活性を示さなかった。一方、取得抗体18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体はALK1/Id1-Luc/CHO細胞においても明確なBMP10中和活性を示した。また、中和活性の強さは18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体の順であった。
【0315】
以上の結果より、取得抗体はALK1高発現細胞において中和活性を示す新規の抗体であることが明らかとなった。
【0316】
[実施例4]取得抗体の各種BMPファミリー分子に対する阻害作用
18C1抗体がBMP10を特異的に中和することを確認するため、実施例1の1-6)で作製したId1-Luc/CHO細胞を用いて、18C1抗体の各種BMPシグナルに対する阻害作用を検討した。
【0317】
96ウェル蛍光・発光用プレート(コーニング社製、Cat#3916)に、ヒト各種BMP mature2量体を終濃度で3ng/mLになるように添加し、次いで18C1抗体の希釈液を終濃度で1.0μg/mLになるように添加した。ヒト各種BMP mature2量体には、ヒトBMP2、ヒトBMP4、ヒトBMP6、ヒトBMP7、ヒトBMP9、ヒトBMP10、ヒトBMP15、ヒトGDF5、ヒトGDF7(いずれもR&Dシステムズ社製)を用いた。その後、Excell 325培地[Excell 325 PF CHO(SAFC社製、Cat#14340C-1000mL)、4mM L-グルタミン、1×Penicillin、1×Streptomycin(ナカライ社製、Cat#09367-34)、0.5μg/mL hygromycin]にて懸濁したId1-Luc/CHO細胞液を5×10個/ウェルになるように添加した。
【0318】
すべてのサンプルはExcell 325培地で希釈し、最終的に100μL/ウェルとなるようにした。その後、ウェル内の液をプレートミキサーで均一にした後、37℃にて20時間培養した。
【0319】
20時間後、添付文書に従い調製したNano-Glo Luciferase Assay測定液(Promega社製、Cat#N1120)を40μL/ウェル加え撹拌した後、Glomax(Promega社製)にてLuciferase活性を測定した。
【0320】
抗体の中和活性(%)は、抗体を添加せず、BMP mature2量体のみを添加したウェルの値を0%、抗体を添加せず、Excell 325培地のみを添加したウェルの値を100%として算出した。結果を図3に示す。
【0321】
図3に示すように、18C1抗体は、ヒトBMP2、ヒトBMP4、ヒトBMP6、ヒトBMP7、ヒトBMP9、ヒトBMP15、ヒトGDF5、ヒトGDF7によるシグナルはいずれも一切阻害せず、ヒトBMP10によるシグナルのみ特異的に阻害する抗体であることが明らかになった。
【0322】
[実施例5]抗BMP10モノクローナル抗体のVH及びVLをコードする遺伝子配列の単離
5-1)抗BMP10モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞からの総RNAの調製
実施例1に記載の18C1抗体、12H3抗体及び11H10抗体を産生するハイブリドーマ 1×10個より、Maxwell 16 LEV simplyRNA Tissue kit(プロメガ社製#AS1280)を用いて、それぞれのハイブリドーマの総RNAを調製した。
【0323】
5-2)抗BMP10モノクローナル抗体のVH及びVLの遺伝子クローニング
実施例5-1で取得した各ハイブリドーマの総RNA 1μgから、SMARTer RACE cDNA Amplification Kit(Clontech社製、Cat#634924)を用いて、cDNAを作製した。得られたcDNAを鋳型として、キット添付のユニバーサルプライマーA mix(フォワードプライマーを含有する)と、ラットのIgG1、IgG2a重鎖定常領域をコードするリバースプライマーを組み合わせることで、VHのcDNA配列決定を行った。
【0324】
具体的には、ラットIgG1に特異的なプライマー(配列番号1)、ラットIgG2aに特異的なプライマー(配列番号2)を用いて、それぞれユニバーサルプライマーAと組み合わせることでPCR反応を行い、各抗体のVHのcDNA断片を増幅した。
【0325】
また、ラットIg(κ)特異的なプライマー(配列番号3)又は、ラットIg(λ)特異的なプライマー(配列番号4)を同様に用いてそれぞれユニバーサルプライマーAと組み合わせることでPCRを行い、各抗体のVLのcDNA断片を増幅した。
【0326】
PCRは、94℃にて30秒間、72℃にて3分間からなる反応サイクルを5回、94℃にて30秒間、70℃にて30秒間、72℃にて3分間からなる反応サイクルを5回、94℃にて30秒間、68℃にて30秒間、72℃にて3分間からなる反応サイクルを25回行った。
【0327】
アガロースゲル電気泳動を行った結果、18C1抗体ハイブリドーマ由来のcDNAは、IgG1重鎖定常領域をコードする特異的プライマーを用いたときにPCR増幅産物が得られた。12H3抗体産生及び11H10抗体ハイブリドーマ由来のcDNAは、IgG2a重鎖定常領域をコードする特異的プライマーを用いたときにPCR増幅産物が得られた。
【0328】
また、12H3抗体、11H10抗体産生ハイブリドーマ由来のcDNAは、ラットIg(κ)特異的プライマーを用いたときにもPCR増幅産物が得られた。18C1抗体産生ハイブリドーマ由来のcDNAは、ラットIg(λ)特異的プライマーを用いたときにもPCR増幅産物が得られた。それぞれのPCR増幅産物をGel Extraction Kit(QIAEX II、QIAGEN社製、Cat#20021)を用いて精製した。
【0329】
得られた遺伝子断片を、Zero Blunt TOPO PCR CloningKit for Sequencing(インビトロジェン社製、Cat#K287540SP)を用い、pCR4ベクター(インビトロジェン社製)に挿入した。
【0330】
得られたプラスミドを、大腸菌DH5α株に導入した。得られた形質転換株より自動プラスミド抽出機(クラボウ社製)を用いてプラスミドを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、cDNAの5’末端に開始コドンと推定されるATG配列が存在する完全長のVH cDNA、及びVL cDNAが取得されたことを確認した。
【0331】
5-3)抗ヒトBMP10モノクローナル抗体V領域の遺伝子配列の解析
実施例5-2で得られた18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体のVHの全塩基配列を配列番号5、6、7に、該配列から推定された、シグナル配列を含んだVHの全アミノ酸配列を配列番号8、9、10に、VLの全塩基配列を配列番号11、12、13に、該配列から推定された、シグナル配列を含んだVLの全アミノ酸配列を配列番号14、15、16にそれぞれ示す。
【0332】
また、配列番号5、6、7からシグナル配列を除いた塩基配列を配列番号17、18、19に、配列番号11、12、13からシグナル配列を除いた塩基配列を配列番号20、21、22に、配列番号8、9、10からシグナル配列を除いたアミノ酸配列を配列番号23、24、25に、配列番号14、15、16からシグナル配列を除いたアミノ酸配列を配列番号26、27、28にそれぞれ示す。
【0333】
既知のラット抗体の配列データ[SEQUENCES of Proteins of Immunological Interest、US Dept.Health and Human Services(1991)]との比較から、単離した各々のcDNAは分泌シグナル配列を含む18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体をコードする完全長cDNAであることが確認できた。
【0334】
18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体のVH及びVLのCDRを、既知の抗体のアミノ酸配列と比較することにより同定した。18C1抗体のVHのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号29、30及び31に、VLのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号32、33及び34にそれぞれ示す。12H3抗体のVHのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号35、36及び37に、VLのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号38、39及び40にそれぞれ示す。11H10抗体のVHのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号41、42及び43に、VLのCDR1、CDR2及びCDR3のアミノ酸配列を配列番号44、45及び46にそれぞれ示す。
【0335】
5-)抗BMP10キメラ抗体の作製
18C1キメラ抗体の組換え発現には、ヒトλ型軽鎖定常領域およびヒトIgG4改変型重鎖定常領域を有するN5LG4PE(R409K)ベクターを、12H3および11H10キメラ抗体の組換え発現には、ヒトκ型軽鎖定常領域およびヒトIgG4改変型重鎖定常領域を有するN5KG4PE(R409K)ベクターを使用した。国際特許広報第WO2006033386で使用されているN5KG4PEベクター骨格において、ヒトIgG4重鎖定常領域の、EU-indexにおける409番目のArgをLysに置換する改変を導入したものを作製し、N5KG4PE(R409K)ベクターと命名した。またこのベクターにおいて、ヒトκ鎖定常領域部分をヒトλ定常領域に置換したものを、N5LG4PE(R409K)ベクターと命名した。VH、VLをコードするcDNAを、上記の抗体発現ベクターに挿入した。VHはSalI、NheIサイト間に、VLはBgIII、BlpI(λ型)またはBgIII、BsiWI(κ型)サイト間にそれぞれ挿入した。
【0336】
18C1抗体が挿入されたVHの塩基配列及びVLの塩基配列を配列番号5、11に、これによって発現するVHのアミノ酸配列及びVLのアミノ酸配列を配列番号8、14にそれぞれ示す。12H3抗体の挿入したVHの塩基配列及びVLの塩基配列を配列番号6、12に、これによって発現するVHのアミノ酸配列及びVLのアミノ酸配列を配列番号9、15にそれぞれ示す。11H10抗体の挿入したVHの塩基配列及びVLの塩基配列を配列番号7、13に、これによって発現するVHのアミノ酸配列及びVLのアミノ酸配列を配列番号10、16にそれぞれ示す。
【0337】
18C1抗体のVL、VHの塩基配列の増幅には、それぞれ配列番号53~56で示される塩基配列からなるプライマーを、12H3抗体のVL、VHの塩基配列の増幅には、それぞれ57~60で示される塩基配列からなるプライマーを、11H10抗体のVL、VHの塩基配列の増幅には、それぞれ61~64で示される塩基配列からなるプライマーを用いてPCRを行った。
【0338】
作製した発現ベクター及びExpi293F Expression System Kit(Life Technologies社製)を用いて組換キメラ抗体を発現させた。培養上清から、Mab Select SuRe(GEヘルスケア社製)を用いて抗体を精製した。NAP-25カラム(GEヘルスケア社製)を用いてバッファーをD-PBS(-)(ナカライテスク社製、Cat#14249-24)に置換した後、280nmの吸光度を測定して抗体の濃度を決定した。分子吸光係数として、1.50mL/(mg・cm)を使用した。
【0339】
5-)ビアコアによる抗BMP10キメラ抗体のヒトBMP10タンパク質への結合活性評価
実施例5-で得られた抗BMP10キメラ抗体と、既知抗体であるMAB2926(R&Dシステムズ社)のヒトBMP10に対する結合活性を比較することを目的とし、ヒトBMP10 mature2量体(R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)に対する結合活性を表面プラズモン共鳴法(SPR法)によるBiacoreT100(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて測定した。
【0340】
キメラ抗体の結合活性は以下のように測定した。Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、Cat#BR-1008-39)を用いて、添付のプロトコルに従い、CM5センサーチップ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、BR100530)に固定化した。Anti-human IgG antibodyを固定化したフローセルに、5μg/mLに調製した18C1キメラ抗体(以降、ch18C1抗体という)又は12H3キメラ抗体(以降、ch12H3抗体という)、11H10キメラ抗体(以降、ch11H10抗体という)を10μL/分の流速で10秒間添加した。
【0341】
また次いで、300ng/mLより3倍希釈で段階的に5濃度に調製したヒトmature BMP10を30μL/分の流速で、結合反応を1分間、解離反応を30分間モニターした。取得したセンサーグラムは、Bia Evaluation Software(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて解析し、各抗体の速度論定数を算出した。
【0342】
MAB2926の結合活性は以下のように測定した。Anti-mouse IgG antibodyを、Mouse Antibody Capture Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、Cat#BR-1008-38)を用いて、添付のプロトコルに従い、CM5センサーチップ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、BR100530)に固定化した。Anti-mouse IgG antibodyを固定化したフローセルに、5μg/mLに調製したMAB2926を10μL/分の流速で10秒間添加した。
【0343】
また次いで、300ng/mLより3倍希釈で段階的に5濃度に調製したヒトmature BMP10蛋白質を30μL/分の流速で、結合反応を1分間、解離反応を30分間モニターした。取得したセンサーグラムは、Bia Evaluation Software(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて解析し、MAB2926の速度論定数を算出した。算出された各抗体の結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)および解離定数[kd/ka=K]を表1に示す。
【0344】
【表1】
【0345】
表1に示すように、取得したch18C1抗体、ch12H3抗体、ch11H10抗体は既知抗体MAB2926より結合が強いことが明らかとなった。
【0346】
[実施例6]
取得した抗体が競合する受容体の解析
6-1)ALK1-Fcの調製
ALK1-Fcは、国際公開第2010/126169号の実施例1に記載された方法に従い調製した。
【0347】
6-2)ビアコアによる競合する受容体の解析
BMP10はタイプIとタイプIIの2つの受容体に結合することでシグナルを伝達する。取得した抗BMP10抗体がどの受容体に競合するか解析するために、表面プラズモン共鳴法(SPR法)によるBiacoreT100(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて測定した。
【0348】
Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、Cat#BR-1008-39)を用いて、添付のプロトコルに従い、CM5センサーチップ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、BR100530)に固定化した。
【0349】
Anti-human IgG antibodyを固定化したフローセルに、10μg/mLに調製したALK1-Fc、BMPR2-Fc(R&Dシステムズ社製、Cat#811-BR-100)、Endoglin-Fc(R&Dシステムズ社製、Cat#6578-EN-025)のいずれかを10μL/分の流速で10秒間添加した。
【0350】
また次いで、100 ng/mlに調製したヒトmature BMP10 (R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)と抗BMP10抗体 1μg/mlを混合したものを10μL/分の流速で30秒間添加した。
【0351】
結果を表2に示す。表2において、抗体とmature BMP10の混合物が、キャプチャーされているALK1-Fc、BMPR2-Fc、Endoglin-Fcに結合する場合を+、結合しない場合を-と記載する。
【0352】
【表2】
【0353】
表2に示すように、Mature BMP10と抗体の混合物が、キャプチャーされている受容体に結合しない場合は、抗体と受容体が競合するといえる。結果、MAB2926はBMP10とALK1-Fcの結合を阻害することが分かった。
【0354】
一方、MAB2926はBMP10とBMPR2-Fc及びEndoglin-Fcとの結合は阻害しなかった。18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体はいずれもBMP10とALK1-Fcの結合を阻害しなかった。一方、18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体はいずれもBMP10とBMPR2-Fc及びEndoglin-Fcとの結合を阻害した。
【0355】
以上の結果より、18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体は、既知抗体とは阻害する受容体が異なる新規の阻害様式の抗体であることが明らかとなった。
【0356】
[実施例7]
正常動物の血圧に対する取得抗体の作用の評価
SDラットを用いて18C1抗体の血圧に対する作用を評価した。6週齢の雄性SDラット(日本チャールズリバー社製)を購入し、実験に供した。飲水は滅菌水道水を、食餌は固形飼料FR-2(フナバシファーム社製)を自由摂取で与えた。馴化飼育の後、7週齢でテレメトリー送信機の埋め込み手術を施した。
【0357】
具体的には、ペントバルビタールナトリウム(東京化成工業株式会社製)50mg/kgをラットの腹腔内に投与し麻酔を施した。テレメトリー送信機(TA11PA-C40、Data Sciences International)の血圧センサーを腹部大動脈内に挿入し、本体を腹腔内に埋め込んだ。一般状態観察および血行動態モニターによって、手術の影響から順調に回復したことを確認した。テレメトリー送信を埋め込んだ動物を、収縮期血圧の平均値を指標に、群分けした。12週齢時に抗体の投与を行った。
【0358】
具体的には、18C1抗体をPBSにて1mg/mLになるように調製したものを、1mL/kgの用量にて投与した。また12H3抗体、または11H10抗体について、PBSにて5mg/mlになるように調製したものを、1mL/kgの用量にて投与した。投与は皮下経路で行った。送信機から発信される血圧波形の信号をケージ下に設置した受信ボード(RPC-1,Data Sciences International)で受信した。信号はData Exchange Matrix (Data Sciences International)を介して、データ取得/分析システム(DATAQUEST ART Gold ver2.30,Data Sciences International)に取り込み、5分毎に10秒間の収縮期血圧の測定データを取得した。結果を図4A図4Cに示す。
【0359】
図4Aおよび図4Bに示すように、18C1抗体、12H3抗体の投与によって、収縮期血圧の降下が認められた。また18C1抗体の方が、12H3抗体より降圧作用が強かった。一方で、図4Cに示すように11H10抗体の投与では、収縮期血圧への影響は認められなかった。以上から、抗BMP10抗体は降圧作用を持つことが新規に見出された。
【0360】
さらに、降圧作用は抗体のin vitroにおけるBMP10中和活性と相関し、相対的に弱い中和活性を有する11H10抗体では降圧作用は認められないことが分かった。このことより、強力なBMP10中和活性を持つ抗体のみ降圧作用を持つことが、新規に見出された。
【0361】
[実施例8]
自然発症高血圧ラットの血圧に対する18C1抗体の作用の評価
高血圧動物に対する取得抗体の降圧作用を調べるために、雄性自然発症高血圧ラット(SHR/Izm、日本エスエルシー社)を用いて18C1抗体の血圧に対する作用を評価した。
【0362】
14週齢の雄性SHR/Izmラット(日本エスエルシー)を購入し、実験に供した。飲水は滅菌水道水を、食餌は固形飼料FR-2(フナバシファーム社製)を自由摂取で与えた。馴化飼育の後、16週齢でテレメトリー送信機の埋め込み手術を施した。テレメトリー送信機の埋め込み手術方法および血圧波の取得は、実施例7に従って行った。21週齢で、18C1抗体をPBSにて5mg/mlになるように調製したものを、1mL/kgの用量にて投与した。投与は皮下経路で行った。結果を図5に示す。
【0363】
図5に示すように、18C1抗体5mg/kgの投与によって、約1ヶ月間、持続的に収縮期血圧が下がることが観察された。以上より、BMP10の中和は、高血圧病態において治療効果を持つことが示された。
【0364】
[実施例9]
Dahl食塩感受性ラットに対する18C1抗体の作用の評価
Dahl食塩感受性ラット(以下Dahl-Sラット)に高食塩を与えて誘発される高血圧および心臓や腎臓の障害に対するBMP10抗体の作用を評価した。5週齢の雄性Dahl食塩感受性ラット(DIS/Eis:Slc)(日本エスエルシー社製)を購入し、実験に供した。
【0365】
6週齢までFR-2飼料(フナバシファーム社製)を与え、以降は高食塩飼料(8%NaCl含有FR-2飼料、オリエンタル酵母社製)を与えた。正常対照群としては、6週齢以降も正常食(FR-2飼料)を与えたDahl―Sラットを用いた。飲水は、動物用飲水を自由に摂取させた。
【0366】
8週齢時点で血圧及び心拍数の測定を行った。血圧及び心拍数の測定は、マウス・ラット非観血式血圧計(BP-98E、ソフトロン社製)を用いて、2回の測定馴化後に実施した。8週齢時点で体重、血圧及び心拍数を指標に、高食塩飼料群を各群12匹で2群に分け、媒体(PBS 1mL/kg)または18C1抗体を5mg/kgの用量となるように週1回の頻度で皮下投与した。
【0367】
16週齢時点で血圧測定、心エコー検査、尿パラメータ測定を実施した。さらにイソフルラン吸入麻酔下で腹部大動脈から採血し、放血致死後に剖検した。心臓、肺及び両側腎臓を摘出し、組織重量を計測した。
【0368】
心エコー検査は、イソフルラン吸入麻酔下でラットの前胸部を剃毛し、小動物用超音波高解像度イメージングシステム(Vevo2100、Visualonic社製)及び高周波・高フレームレートプローブ(MS-200、VisualSonic社製)を使用し、中心周波数15.0 MHzの超音波で行った。Mモード法により乳頭筋レベルで左室後壁厚(LVPW;s、LVPW;d)を計測した。僧帽弁輪にサンプルボリュームを置いた組織ドップラ法により、僧帽弁輪速度(e’)を測定した。
【0369】
採尿は、自由摂餌及び自由飲水下で、代謝ケージ(T-480、トキワ科学器械社製)にて24時間行った。尿サンプルは、尿量測定後1870×g、4°C、15分間遠心分離し、その上清を測定に用いた。尿中パラメータは、自動分析装置日立7170S(日立製作所社製)または又は全自動電解質分析装置[PVA-EXII、エイアンドティー社製]を用いて測定した。
【0370】
採取した心臓、大動脈及び腎臓は、病理組織学的解析に供した。具体的には採取した心臓、大動脈及び腎臓を10vol%中性緩衝ホルマリン液で固定した。常法に従ってパラフィン包埋ブロックから切片を作製し、Masson trichrome(MT)染色またはHematoxylin-Eosin(HE)染色を施した。
【0371】
腎臓糸球体障害病理スコアは、HE染色標本を光学顕微鏡下で観察し、個体毎に糸球体100個以上を対象として、糸球体1個あたりにおける病変(mesangial expansion、glomerular sclerosis、and/or glomerular capillary collapse)領域割合を、下記の5段階(0:normal、1:1-25%、2:26-50%、3:51-75%、4:76-100%)にグレード化した。その後、個体毎の糸球体病変スコア(“各グレードの点数”דグレード毎の糸球体の割合”の総和)を算出した。統計解析は、スコア1以上の糸球体数で比較した。
【0372】
腎臓尿細管間質障害病理スコアは、HE染色標本を光学顕微鏡下で観察し、個体毎に、各切片の尿細管及び間質病変(basophilic tubule,hyaline cast,interstitial inflammation and/or tubular dilatation)が各切片面積に占める割合を5段階(0:normal、1:1-25%、2:26-50%、3:51-75%、4:76-100%)にグレード化した。
【0373】
結果を図6~13に示す。
【0374】
図6に示すように、高食塩食によってDahl-Sラットの血圧は著しく上昇した。18C1抗体の投与によって、高食塩食で誘発されたDahl-Sラットの高血圧は、正常食群と同程度にまで抑制された。
【0375】
また図7A図7Bに示すように、高食塩食によってDahl-Sラットの血中ナトリウム量、尿中ナトリウム排泄量はいずれも増加した。18C1抗体の投与によって、さらに尿中ナトリウム排泄量は増加した。さらに18C1抗体の投与により、血中ナトリウム量は正常食群と同程度まで正常化された。以上の結果から、抗BMP10抗体はDahl―Sラットにおける高食塩食によるナトリウム貯留及び高血圧に対して著効を示すことが明らかとなった。
【0376】
一方で、図8に示すように、高食塩食によってDahl-Sラットの尿量は増加し、抗BMP10抗体によって低下した。すなわち抗BMP10抗体は食塩感受性病態における腎臓ナトリウム排泄障害を正常化する作用を持つことが示され、尿量を増加させる利尿薬とは異なる作用機序を持つことが示唆された。
【0377】
図9に示すように、高食塩食群では正常食群に比べて尿中タンパク質排泄量の増加が認められた。また図10A図10Bおよび図11Bに示すように、高食塩食群では腎臓において硝子円柱、好塩基性尿細管、尿細管拡張が認められ、腎臓尿細管間質が著しく障害されていることが確認された。さらに図10D図10Eおよび図11Aに示すように、高食塩食群では糸球体硝子化が認められ、腎臓糸球体が著しく障害されていることが確認された。一方で、図9図10Cおよび図10Fに示すように、高食塩食+18C1抗体投与群では、尿タンパク質排泄量の増加、腎臓糸球体障害および腎臓尿細管間質障害が劇的に抑制されていた。
【0378】
以上の結果から、抗BMP10抗体は高血圧で惹起される糸球体障害、尿細管間質障害に対する治療効果を持つことが示唆された。
【0379】
図12Aに示すように、高食塩食群では正常食群に比べて、左室後壁厚の肥厚が認められた。さらに図12Bに示すように、高食塩食群では正常食群に比べて、左室拡張機能の指標e’の減少が認められ、心臓拡張機能障害が起こっていることが示された。
【0380】
図13に示すように、高食塩食群では肺重量の増加が認められ、左室拡張機能障害による肺うっ血が起こっていることが示唆された。一方で、図12A図12Bおよび図13に示すように、高食塩食+18C1抗体投与群では、左室後壁厚、e’および肺重量が正常食群と同程度に維持されていた。
【0381】
以上の結果から、抗BMP10抗体は高血圧で惹起される拡張不全型心不全に対して治療効果を持つことが示唆された。
【0382】
[実施例10]
ヒト血清に対する抗BMP10抗体の中和活性の評価
ALK1のリガンドとして、BMP10以外にもBMP9が知られている。血中のBMP9,BMP10に対する中和活性を評価する目的で、ヒトALK1発現レポーター細胞に対してヒト血清で刺激した際の中和活性を比較した。
【0383】
10-1)抗BMP9抗体である10D5抗体の取得
抗BMP9抗体10D5は、国際公開第2014/007198号の実施例7に記載された方法に従い調製した。
【0384】
10-2)取得抗体と既知抗体のBMP10中和活性比較
96ウェル蛍光・発光用プレート(コーニング社製、Cat#3916)に、ヒト血清(Human True A serum,pool of donrs、Biopredic international社製、Cat#SER019)を終濃度で5%になるように添加した。
【0385】
次いで、抗BMP10抗体である18C1抗体、12H3抗体、11H10抗体、抗BMP9抗体である10D5抗体、またはコントロール抗体(Purified Rat IgG1 λ Isotype control、BD社製、Cat#553993)、または抗BMP9抗体と抗BMP10抗体を混合したものを添加した。抗BMP9抗体と抗BMP10抗体を混合したものとしては、12H3抗体と10D5抗体、または11H10抗体と10D5抗体を混合したものを用いた。
【0386】
抗体は、混合するかどうかにかかわらず各抗体が終濃度で10000ng/mLから3倍希釈で5段階の濃度となるように調製し、添加した。その後、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞懸濁液を5×10個/ウェルとなるように添加した。すべてのサンプルはExcell 325培地で希釈し、ヒト血清、抗体希釈液、細胞懸濁液を合わせて最終的に100μL/ウェルとなるようにした。ウェル内の液をプレートミキサーで均一にした後、37℃にて20時間培養した。
【0387】
20時間後、添付文書に従い調製したNano-Glo Luciferase Assay測定液を40μL/ウェル加え、撹拌した後、Glomax(Promega社製)を用いてLuciferase活性を測定した。抗体の中和活性(%)は、抗体を添加せず、血清のみを添加したウェルの値を0%、抗体を添加せず、Excell 325培地のみを添加したウェルの値を100%として算出した。
【0388】
結果、図14に示すように、コントロール抗体、抗BMP10抗体である12H3抗体、11H10抗体、抗BMP9抗体である10D5抗体はいずれもヒト血清に対して中和活性を示さなかった。一方で、12H3抗体と10D5抗体を混合したもの、および11H10抗体と10D5抗体を混合したものは、ヒト血清に対して明らかな中和活性を示した。
【0389】
以上の結果から、ヒト血清中にヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体が存在することが示唆された。また、抗BMP10抗体である18C1抗体は、単独でヒト血清に対して中和活性を示した。このことから、18C1抗体はヒト血清中に存在するヒトBMP9/BMP10ヘテロ2量体に対して強力な中和活性を持つ新規の抗体であることが示唆された。
【0390】
[実施例11]
ヒト血中のBMP9/BMP10ヘテロ2量体の検出
実施例10で示唆されたBMP9/BMP10ヘテロ2量体を検出するため、抗BMP9抗体と抗BMP10抗体でサンドイッチELISAを行った。
【0391】
11-1)12H3抗体のビオチン化
サンドイッチELISAの検出抗体として用いるため、抗BMP10抗体である12H3抗体のビオチン化を行った。ビオチン化は同仁化学研究所社製のBiotin Labeling Kit-NH2キット(Cat#LK03)を用いて行った。方法は、製品記載の添付文書に則り行った。
【0392】
11-2)抗BMP9抗体、抗BMP10抗体を用いたサンドイッチELISA
抗BMP9抗体である10D5抗体、抗BMP10抗体である11H10抗体、またはコントロール抗体(Purified Mouse IgG1 κ Isotype control、BD社製、Cat#554121)を、炭酸―重炭酸バッファー(50mM NaHCO3 pH9.6、Sigma-Aldrich社 Cat#C3041)にて3μg/mlに希釈したものを固相化液として96ウェルのELISA用プレート(F96 MAXISORP NUNC-IMMUNO PLATE、Thermo Fisher Scientific社製、Cat#442404)に100μL/ウェル加え、4℃にて一晩静置して吸着させた。
【0393】
抗体液を取り除いた後、1%BSA-PBSを300μL/ウェル加え、室温にて1時間静置してブロッキングし、PBSTで5回洗浄した。次に、ヒト血清(Human True A serum,pool of donrs、Biopredic international社製、Cat#SER019)を終濃度で1%、2%、4%、8%、16%になるように0.1%BSA-PBSTで希釈した溶液を100μL/ウェル加え、室温にて1時間静置して反応させた後、PBSTで5回洗浄した。
【0394】
次に、実施例11の11-1)で作製したビオチン化12H3抗体を0.1%BSA-PBSTにて50ng/mLに調製した溶液を100μL/ウェルで分注し、室温にて1時間静置した。このプレートをPBSTで5回洗浄した後、0.1%BSA-PBSTで500倍希釈したStreptavidin-PolyHRP80,Pre-diluted in Stabilizer(1/20)(Stereospecific Detection Technologies社製、Cat#SP80D50)を100μL/ウェル加え、室温にて1時間静置した。
【0395】
プレートをPBSTで5回洗浄し、TMB基質液(TMB+ Substrate-Chromogen、Dako社製、Cat#S1599)を50μL/ウェル添加して発色させ、適当な発色が得られたところで、1N硫酸溶液(Wako社製、Cat#192-04755)を50μL/ウェル添加し、Multiskan Spectrum(Thermo Labsystems社製)を用いて450、570nmの吸光度を測定した。結果を図15に示す。
【0396】
図15に示すようにコントロール抗体および抗BMP10抗体である11H10抗体を固相化した際は、血清に対して反応は認められなかった。一方で抗BMP9抗体である10D5抗体を固相化した場合は、血清濃度依存的に明確な反応が認められた。以上の結果より、ヒト血清中には抗BMP9抗体、抗BMP10抗体により同時に認識されるBMP9/BMP10ヘテロ2量体が存在することが示唆された。
【0397】
[実施例12]
18C1抗体のヒト化抗体の作製
(1)18C1ヒト化抗体のVHおよびVLのアミノ酸配列の設計
以下に記載する方法で、18C1ヒト化抗体の各種VHおよびVLのアミノ酸配列を設計した。以降の記述では様々なVHおよびVLのアミノ酸配列を有する18C1ヒト化抗体の総称として、hz18C1抗体と記載する。18C1抗体のCDRのアミノ酸配列の移植に適した既知のヒト抗体のフレームワーク(以下、FRと記載する)のアミノ酸配列として、Kabatら[Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services(1991)]で報告されているヒトFRコンセンサス配列およびヒト抗体ジャームライン配列の中からhSGHIIおよびV1-22を選択し、これらのFRにCDRを移植することとした。
【0398】
hSGHIIのFRのアミノ酸配列の適切な位置に、それぞれ配列番号29、30、31で示される18C1 VHのCDR1~3のアミノ酸配列を移植し、hz18C1 HV0(配列番号70)を設計した。また、V1-22のFR(FR4としては18C1キメラ抗体のものをそのまま使用)のアミノ酸配列の適切な位置に、それぞれ配列番号32、33、34で示される18C1 VLのCDR1~3のアミノ酸配列を移植し、hz18C1 LV0(配列番号71)を設計した。
【0399】
上記のとおり設計したhz18C1 HV0およびhz18C1 LV0のコンピュータモデリングにより、抗体の結合活性に影響を与えると考えられるFRのアミノ酸残基を同定した。その結果、hz18C1 LV0HV0抗体の可変領域のFRのアミノ酸残基の中で、抗原結合部位の三次元構造を変化させ、抗体の結合活性に影響を与えると考えられるアミノ酸残基として、VHでは、配列番号70で表わされるアミノ酸配列の14番目のPro、20番目のLeu、27番目のGly、29番目のVal、30番目のSer、37番目のIle、48番目のIle、67番目のVal、71番目のVal、76番目のAsn、78番目のPhe、82番目のLeu、85番目のVal、92番目のVal、94番目のTyr、及び109番目のThrを、VLでは、配列番号71で表わされるアミノ酸配列の7番目のPro、10番目のVal、12番目のGlu、14番目のPro、16番目のLys、19番目のThr、20番目のIle、41番目のPro、48番目のVal、75番目のSer、81番目のLeu、82番目のLys、88番目のAsp、及び90番目のTyrを、それぞれ選択した。これらの選択したアミノ酸残基のうち、少なくとも1つ以上のアミノ酸残基を、18C1抗体の同じ部位に存在するアミノ酸残基へ置換し、様々な改変を有するヒト化抗体のVHおよびVLを設計した。
【0400】
上記のような標準的なCDR移植の設計に加えて、一部のVHまたはVLには、VH CDRの改変を併せて行った。該VH CDRの改変を行ったhz18C1抗体のVHでは、配列番号29で表されるVHのCDR1のアミノ酸配列中の4番目のValをAlaに置換する改変、配列番号30で表されるVHのCDR2中の16番目のSerをAspに置換する改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。
【0401】
以上の過程により設計したアミノ酸配列として具体的なものを、VHについては図16に、VLについては図18Aにそれぞれ示す。
【0402】
また、上記したCDR移植方法の他に、表面再構成方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1994,91(3):969-73およびProtein Enginering 1996, 10, 895-90)により、上記で構築した18C1抗体の可変領域のモデル構造から、抗体の結合活性に影響を与えないと考えられるFR内のアミノ酸残基を、抗原性を低下させると考えられるアミノ酸残基へ置換し、様々な改変を有するヒト化抗体のVLおよびVHを設計した。一部のVLまたはVHには、CDR移植法の場合において言及した、VH CDRの改変を併せて行った。
【0403】
具体的には、配列番号26で表されるアミノ酸配列中の3番目のValをAlaに、8番目のAsnをAspに、14番目のLeuをAlaに、19番目のLysをThrに、75番目のPheをSerに、80番目のAsnをAspに、83番目のIleをValに、又は88番目のIleをValに置換するアミノ酸改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。これにより、hz18C1抗体のVLとして、それぞれ配列番号72~87で示されるアミノ酸配列からなるhz18C1 VLres01~16を設計し、図18Bに示す。
【0404】
また、VHについては、配列番号23で表されるアミノ酸配列中の11番目のLeuをAlaに、14番目のLeuをProに、19番目のSerをAspに、27番目のPheをAlaに、34番目のValをAlaに、65番目のSerをAspに、68番目のSerをAlaに、71番目のArgをLysに、77番目のGlnをGluに、79番目のPheをAlaに、83番目のAsnをAspに、85番目のLeuをAspに、又は107番目のHisをGlnに置換するアミノ酸改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。このようにして設計されたhz18C1抗体のVHとして、hz18C1 VHres01~32を図17に示す。hz18C1 VHres16に関しては、そのアミノ酸配列を配列番号98に示す。
【0405】
更に、ヒト化抗体のVHアミノ酸配列として、CDR移植方法と表面再構成方法を組み合わせてVHアミノ酸配列を設計した。具体的には、配列番号70で表わされるアミノ酸配列の10番目のGlyをAspに、13番目のLysをGlnに、19番目のSerをAspに、20番目のLeuをIleに、27番目のGlyをPheに、29番目のValをLeuに、30番目のSerをThrに、37番目のIleをValに、48番目のIleをMetに、65番目のSerをAspに、67番目のValをLeuに、68番目のThrをAlaに、71番目のValをArgに、76番目のAsnをSerに、77番目のGlnをGluに、78番目のPheをValに、79番目のSerをPheに、82番目のLeuをMetに、83番目のSerをAspに、85番目のValをLeuに、86番目のThrをGlnに、87番目のAlaをThrに、88番目のAlaをAspに、92番目のValをLysに、94番目のTyrをPheに、109番目のThrをIle、および110番目のLeuをMetに置換するアミノ酸改変のうち、少なくとも1つの改変を導入した。これにより、hz18C1抗体のVHとして、hz18C1 HVmut01~10(配列番号88~97)を設計し、それぞれのアミノ酸配列を図19に示す。このうち、hz18C1 HVmut01~04のCDR1~3はいずれも、18C1抗体と同じアミノ酸配列(それぞれ配列番号29~31で表されるアミノ酸配列)を含む。一方、hz18C1 HVmut05~10はCDR2に変異を含んでいる。すなわち、hz18C1 HVmut05~10のCDR1および3は、それぞれ配列番号29および31で表されるアミノ酸配列を含み、CDR2は、配列番号30で表されるアミノ酸配列の16番目のSerがAspに置換されたアミノ酸配列(配列番号99)を含む。
【0406】
(2)ヒト化抗体の可変領域遺伝子の設計
表3に示すヒト化抗体の可変領域のアミノ酸配列をコードする塩基配列を、動物細胞で高頻度に使用されるコドンを用いて設計した。
【0407】
【表3】
【0408】
(3)ヒト化抗体の作製
(2)で設計した塩基配列に対応する遺伝子断片を、シームレスクローニング法を用いて発現ベクターに導入して必要なプラスミドを作製した。但し、VL発現ベクターとしてはシグナル配列およびヒトλ鎖定常領域配列を有したpCI-OtCMV_hLベクターを、VH発現ベクターとしてはシグナル配列およびヒトγ鎖定常領域配列を有したpCI-OtCAG_hG4PE(R409K)ベクターを用いた。pCI-OtCAG_hG4PE(R409K)ベクターが有する定常領域配列は、ヒトIgG4の重鎖定常領域のEU-indexにおける228番目のSer残基をProに、235番目のLeu残基をGluに、および409番目のArg残基をLysにそれぞれ置換したIgG4変異体(以下、IgG4PE R409K(WO2006/033386) と記載する)の重鎖定常領域である。なおこれらのベクターは、Promega社 pCI ベクターを共通主骨格としてヒト抗体遺伝子を発現させるために必要な制限酵素サイトを導入し、全合成によって作製されたベクターである。完成したプラスミドは、NucleoBond Xtra Midi EFキット(タカラバイオ社)を用いて大量調製した。次に、目的のヒト化抗体を、Expi293 Expression System Kit(Life Technologies社)を使用して一過性に発現させた。プラスミドの導入の方法は添付書類に従った。
【0409】
軽鎖の発現ベクターと重鎖の発現ベクターは、1:2の比率で混合して導入した。プラスミド導入後の細胞を、37℃、5% CO、125rpmの条件下で、3日間培養した。その後、細胞培養懸濁液の遠心分離を行い、0.2μmフィルター(Thermo Scientific社)を通して培養上清を回収した。培養上清からMabSelect SuRe(GE Healthcare社)を用いたアフィニティー精製により、精製抗体を取得した。
【0410】
具体的には、カラムに充填したレジンをPBSで平衡化した後、当該カラムに培養上清を添加し、PBSで2回洗浄し、Washバッファー1(PBS with 1M NaCl)、Washバッファー2(20mM クエン酸、50mM NaCl,pH 5.0)で各1回洗浄後、溶出バッファー(20mM クエン酸、50mM NaCl,pH 3.4)を用いて抗体を溶出した。得られた抗体溶液に中和バッファー(1M リン酸-NaOH,pH 7.0)を1/10量加えて中和し、NAP25(GE Healthcare社)を用いて抗体溶液の溶媒をPBSに置換した。バッファー置換後の抗体溶液について、Amicon Ultra-4 Centrifugal Filter Units(ミリポア社)を用いて限外濾過による濃縮を行い、Nanodrop(Thermo Scientific社)を使用して吸光度A280を測定し、抗体溶液の濃度の測定と調整を行った。吸光係数は、C.N.Paceらの方法に従って(1995,Prot. Sci.4:2411-2423)それぞれのヒト化抗体のアミノ酸配列から算出した。精製した抗体は、分析用ゲル濾過クロマトグラフィー(島津製作所社製の装置、東ソー社製カラムTSKgel SuperSW3000を使用)およびSDS-PAGEによる品質確認を行った。
【0411】
[実施例13]
抗BMP10ヒト化抗体の結合活性評価
実施例5-3で得られたch18C1抗体と、実施例12で得られた抗BMP10ヒト化抗体のヒトBMP10に対する結合活性を比較することを目的とし、ヒトBMP10 mature2量体(R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)に対する結合活性をBiacoreT100(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて表面プラズモン共鳴法(SPR法)により測定した。
【0412】
抗BMP10抗体の結合活性は以下のように測定した。Anti-human IgG antibodyを、Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、Cat#BR-1008-39)を用いて、添付のプロトコルに従い、CM5センサーチップ(GEヘルスケアバイオサイエンス社製、BR100530)に固定化した。Anti-human IgG antibodyを固定化したフローセルに、5μg/mLに調製した抗体を10μL/分の流速で10秒間添加した。
【0413】
次に、100ng/mLより3倍希釈で段階的に5濃度に調製したヒトmature BMP10を30μL/分の流速で、結合反応を1分間、解離反応を10分間モニターした。取得したセンサーグラムは、Bia Evaluation Software(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて解析し、各抗体の速度論定数を算出した。算出された各抗体の結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)および解離定数[kd/ka=K]を表4に示す。
【0414】
[表4]
【0415】
以上の結果より、作製した抗BMP10ヒト化抗体は、ch18C1抗体と同等の結合活性を持つことが明らかとなった。
【0416】
[実施例14]
抗BMP10ヒト化抗体とch18C1抗体の中和活性比較
14-1)抗BMP10ヒト化抗体のBMP10ホモ2量体に対する中和活性評価
取得した抗BMP10ヒト化抗体とch18C1抗体に関して、BMP10に対する中和活性を実施例3の3-1)で作製したヒトALK1発現レポーター細胞を用いて比較した。
【0417】
96ウェル蛍光・発光用プレート(コーニング社製、Cat#3916)に、ヒトBMP10mature2量体(R&Dシステムズ社製、Cat#2926-BP)を終濃度で0.3ng/mLになるように添加し、次いで実施例12で取得した抗BMP10ヒト化抗体、またはch18C1抗体を終濃度で3000ng/mLより3倍希釈で段階的に7濃度に調製し、添加した。
【0418】
その後、Excell 325培地[Excell 325 PF CHO(SAFC社製、Cat#14340C-1000mL)、4mM L-グルタミン、1×Penicillin、1×Streptomycin(ナカライ社製、Cat#09367-34)、0.5mg/mL hygromycin]にて懸濁したALK1/Id1-Luc/CHO細胞液を5×10個/ウェルになるように添加した。すべてのサンプル添加後、ウェル内の液をプレートミキサーで均一にし、37℃にて20時間培養した。
【0419】
20時間後、添付文書に従い調製したNano-Glo Luciferase Assay測定液(Promega社製、Cat#N1120)を40μL/ウェル加え撹拌した後、Glomax(Promega社製)にてLuciferase活性を測定した。抗体の中和活性(%)は、抗体を添加せず、BMP10 mature2量体のみを添加したウェルの値を0%、抗体を添加せず、Excell 325培地のみを添加したウェルの値を100%として算出した。結果を図20~25に示す。
【0420】
図20~25に示すように、作製した抗BMP10ヒト化抗体はいずれもch18C1抗体と同等の中和活性を示した。
【0421】
14-2)抗BMP10ヒト化抗体のヒト血中BMP9/BMP10ヘテロ2量体に対する中和活性評価
取得した抗BMP10ヒト化抗体とch18C1抗体に関して、ヒト血中BMP9/BMP10ヘテロ2量体に対する中和活性を、ヒトALK1発現レポーター細胞を用いて比較した。ヒトALK1発現レポーター細胞は実施例3の3-1)で作製した細胞を用いて行った。
【0422】
96ウェル蛍光・発光用プレート(コーニング社製、Cat#3916)に、ヒト血清(Human True A serum,pool of donrs、Biopredic international社製、Cat#SER019)を終濃度で10%になるように添加した。
【0423】
次に、抗BMP10ヒト化抗体、またはch18C1抗体を1000ng/mlの終濃度で添加した。その後、ALK1/Id1-Luc/CHO細胞懸濁液を5×10個/ウェルとなるように添加した。すべてのウェルについて、液量が100μL/ウェルとなるようにExcell 325培地を加えた。ウェル内の液をプレートミキサーで均一にした後、37℃にて20時間培養した。
【0424】
20時間後、添付文書に従い調製したNano-Glo Luciferase Assay測定液を40μL/ウェル加え、撹拌した後、Glomax(Promega社製)を用いてLuciferase活性を測定した。
【0425】
図26に示すように、抗BMP10ヒト化抗体はいずれも、ヒト血中BMP9/BMP10ヘテロ2量体に対し、ch18C1抗体と同等の中和活性を示した。
【0426】
[実施例15]
正常動物の血圧に対するBMP9/BMP10ヘテロ2量体中和作用の評価
SDラットを用いてBMP9/BMP10ヘテロ2量体を中和した際の血圧に対する作用を評価した。6週齢の雄性SDラット(日本チャールズリバー社製)を購入し、実験に供した。飲水は滅菌水道水を、食餌は固形飼料FR-2(フナバシファーム社製)を自由摂取で与えた。馴化飼育の後、7週齢でテレメトリー送信機の埋め込み手術を施した。テレメトリー送信機の埋め込み手術方法および血圧波の取得は、実施例7に従って行った。
【0427】
BMP9抗体投与群には、BMP9抗体10D5をPBSにて10mg/mlになるように調製したものを、1mL/kgの用量にて投与した。BMP9/BMP10ヘテロ2量体中和群には、BMP9抗体10D5およびBMP10抗体11H10をPBSにて、それぞれ最終濃度として10 mg/ml、5 mg/mlとなるように混合調製したものを、1mL/kgの用量にて投与した。投与は皮下経路で行った。
【0428】
図27Aに示すように、媒体投与時に比べて、10D5抗体の投与によって、収縮期血圧の変化は認められなかった。一方で図27Bに示すように、媒体投与時に比べて、10D5抗体と11H10抗体を混合投与したBMP9/BMP10ヘテロ2量体中和群においては、収縮期血圧の低下が認められた。
【0429】
10D5抗体および11H10抗体はいずれも単独では収縮期血圧の変化を惹起しない。しかし10D5抗体および11H10抗体を併用すれば、BMP9/BMP10ヘテロ2量体の中和により、降圧作用を示すことが新規に見出された。
【0430】
[実施例16]
正常動物の血圧に対するヒトBMP10ホモ2量体の作用の評価
16-1)ヒトBMP10組換えタンパク質の調製
ヒトBMP10ホモ2量体の血圧に対する作用を評価するために、ヒトBMP10組換えタンパク質を調製した。ヒトBMP10発現ベクターは国際公開第2014/007198号の実施例20に記載された方法に従い調製した。またヒトFurin発現プラスミドは、ヒトFurin全長cDNAを、pEAK8ベクター(Edge Biosystems社)にIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて組み込むことにより作製した。
【0431】
EXPI 293 Expression system(ThermoFisher Scientific社製)を用いて、ヒトBMP10とヒトFurinについて一過性発現を行い、ヒトBMP10組換えタンパク質を発現させた。培養上清を、遠心分離と0.22μmフィルターを用いた濾過により培養液から取得した。
【0432】
続いて、Ni-NTA Agarose(QIAGEN社製)を用いて各タンパク質を精製した。Binding bufferとして20mM HEPES-NaOH(pH 7.4)、500mM NaCl 40mM Imidazoleを用い、Elution bufferとして20mM HEPES-NaOH(pH 7.4)、500mM NaCl 200mM Imidazoleを用いた。
【0433】
NAP-25カラム(GEヘルスケア社製、17-0852-02)を用いて、バッファーをPBSに置換した。280nmの吸光度を測定して各タンパク質溶液の濃度を決定した。分子吸光係数として0.96mL/(mg・cm)を使用した。このようにして得られたBMP10組換えタンパク質は、全長体を含まず、mature体およびN末プロペプチド体のみを含むが、実施例1-1の方法で作製される全長体を含むBMP10組換えタンパク質と同様にホモ2量体を形成し、BMP10としての機能を有する。
【0434】
16-2)BMP10組換えタンパク質の血圧に対する作用の評価
SDラットを用いてヒトBMP10組換えタンパク質を投与した際の血圧に対する作用を評価した。6週齢の雄性SDラット(日本チャールズリバー社製)を購入し、実験に供した。飲水は滅菌水道水を、食餌は固形飼料FR-2(フナバシファーム社製)を自由摂取で与えた。馴化飼育の後、7週齢でテレメトリー送信機の埋め込み手術を施した。
【0435】
テレメトリー送信機の埋め込み手術方法および血圧波の取得は、実施例7に従って行った。実施例16-1で得られたヒトBMP10組換えタンパク質を、PBSにて0.5 mg/mlになるように調製したものを、1mL/kgの用量にて投与した。投与は静脈内経路で行った。
【0436】
図28に示すように、媒体投与時と比較して、ヒトBMP10組換えタンパク質を投与することにより、収縮期血圧の上昇が認められた。
【0437】
以上の結果より、ヒトBMP10ホモ2量体に昇圧作用があることが、新規に見出された。
【0438】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2017年12月12日付けで出願された日本特許出願(特願2017-238106号)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【配列表フリーテキスト】
【0439】
配列番号1:ラットIgG1に特異的なプライマーRV1の塩基配列
配列番号2:ラットIgG2aに特異的なプライマーRV1の塩基配列
配列番号3:ラットIg(κ)特異的なプライマーRV1の塩基配列
配列番号4:ラットIg(λ)特異的なプライマーRV1の塩基配列
配列番号5:18C1抗体のVH全塩基配列
配列番号6:12H3抗体のVH全塩基配列
配列番号7:11H10抗体のVH全塩基配列
配列番号8:18C1抗体のVH全アミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号9:12H3抗体のVH全アミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号10:11H10抗体のVH全アミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号11:18C1抗体のVL全塩基配列
配列番号12:12H3抗体のVL全塩基配列
配列番号13:11H10抗体のVL全塩基配列
配列番号14:18C1抗体のVL全アミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号15:12H3抗体のVL全アミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号16:11H10抗体のVL全アミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号17:18C1抗体のVH塩基配列(シグナル配列を除く)
配列番号18:12H3抗体のVH塩基配列(シグナル配列を除く)
配列番号19:11H10抗体のVH塩基配列(シグナル配列を除く)
配列番号20:18C1抗体のVL塩基配列(シグナル配列を除く)
配列番号21:12H3抗体のVL塩基配列(シグナル配列を除く)
配列番号22:11H10抗体のVL塩基配列(シグナル配列を除く)
配列番号23:18C1抗体のVHアミノ酸配列(シグナル配列を除く)
配列番号24:12H3抗体のVHアミノ酸配列(シグナル配列を除く)
配列番号25:11H10抗体のVHアミノ酸配列(シグナル配列を除く)
配列番号26:18C1抗体のVLアミノ酸配列(シグナル配列を除く)
配列番号27:12H3抗体のVLアミノ酸配列(シグナル配列を除く)
配列番号28:11H10抗体のVLアミノ酸配列(シグナル配列を除く)
配列番号29:18C1抗体VHのCDR1アミノ酸配列
配列番号30:18C1抗体VHのCDR2アミノ酸配列
配列番号31:18C1抗体VHのCDR3アミノ酸配列
配列番号32:18C1抗体VLのCDR1アミノ酸配列
配列番号33:18C1抗体VLのCDR2アミノ酸配列
配列番号34:18C1抗体VLのCDR3アミノ酸配列
配列番号35:12H3抗体VHのCDR1アミノ酸配列
配列番号36:12H3抗体VHのCDR2アミノ酸配列
配列番号37:12H3抗体VHのCDR3アミノ酸配列
配列番号38:12H3抗体VLのCDR1アミノ酸配列
配列番号39:12H3抗体VLのCDR2アミノ酸配列
配列番号40:12H3抗体VLのCDR3アミノ酸配列
配列番号41:11H10抗体VHのCDR1アミノ酸配列
配列番号42:11H10抗体VHのCDR2アミノ酸配列
配列番号43:11H10抗体VHのCDR3アミノ酸配列
配列番号44:11H10抗体VLのCDR1アミノ酸配列
配列番号45:11H10抗体VLのCDR2アミノ酸配列
配列番号46:11H10抗体VLのCDR3アミノ酸配列)
配列番号47:ヒトBMP10蛋白質のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号48:ヒトBMP10 mature領域のアミノ酸配列
配列番号49:ヒトBMP10蛋白質をコードする塩基配列(シグナル配列を含む)
配列番号50:ヒトBMP10 mature領域をコードする塩基配列
配列番号51:ヒトBMPRIIのアミノ酸配列
配列番号52:ヒトALK1のアミノ酸配列
配列番号53:18C1抗体の軽鎖の増幅に用いたプライマーFwdの塩基配列
配列番号54:18C1抗体の軽鎖の増幅に用いたプライマーRvの塩基配列
配列番号55:18C1抗体の重鎖の増幅に用いたプライマーFwdの塩基配列
配列番号56:18C1抗体の重鎖の増幅に用いたプライマーRvの塩基配列
配列番号57:12H3抗体の軽鎖の増幅に用いたプライマーFwdの塩基配列
配列番号58:12H3抗体の軽鎖の増幅に用いたプライマーRvの塩基配列
配列番号59:12H3抗体の重鎖の増幅に用いたプライマーFwdの塩基配列
配列番号60:12H3抗体の重鎖の増幅に用いたプライマーRvの塩基配列
配列番号61:11H10抗体の軽鎖の増幅に用いたプライマーFwdの塩基配列
配列番号62:11H10抗体の軽鎖の増幅に用いたプライマーRvの塩基配列
配列番号63:11H10抗体の重鎖の増幅に用いたプライマーFwdの塩基配列
配列番号64:11H10抗体の重鎖の増幅に用いたプライマーRvの塩基配列
配列番号65:ヒトBMP9 mature 領域のアミノ酸配列
配列番号66:ヒトBMP9蛋白質のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)
配列番号67:ヒトBMP9蛋白質をコードする塩基配列(シグナル配列含む)
配列番号68:ヒトBMP9 mature領域をコードする塩基配列
配列番号69:ヒトEndoglinのアミノ酸配列
配列番号70:ヒト化18C1抗体HV0のアミノ酸配列
配列番号71:ヒト化18C1抗体LV0のアミノ酸配列
配列番号72:ヒト化18C1抗体VLres01のアミノ酸配列
配列番号73:ヒト化18C1抗体VLres02のアミノ酸配列
配列番号74:ヒト化18C1抗体VLres03のアミノ酸配列
配列番号75:ヒト化18C1抗体VLres04のアミノ酸配列
配列番号76:ヒト化18C1抗体VLres05のアミノ酸配列
配列番号77:ヒト化18C1抗体VLres06のアミノ酸配列
配列番号78:ヒト化18C1抗体VLres07のアミノ酸配列
配列番号79:ヒト化18C1抗体VLres08のアミノ酸配列
配列番号80:ヒト化18C1抗体VLres09のアミノ酸配列
配列番号81:ヒト化18C1抗体VLres10のアミノ酸配列
配列番号82:ヒト化18C1抗体VLres11のアミノ酸配列
配列番号83:ヒト化18C1抗体VLres12のアミノ酸配列
配列番号84:ヒト化18C1抗体VLres13のアミノ酸配列
配列番号85:ヒト化18C1抗体VLres14のアミノ酸配列
配列番号86:ヒト化18C1抗体VLres15のアミノ酸配列
配列番号87:ヒト化18C1抗体VLres16のアミノ酸配列
配列番号88:ヒト化18C1抗体HVmut01のアミノ酸配列
配列番号89:ヒト化18C1抗体HVmut02のアミノ酸配列
配列番号90:ヒト化18C1抗体HVmut03のアミノ酸配列
配列番号91:ヒト化18C1抗体HVmut04のアミノ酸配列
配列番号92:ヒト化18C1抗体HVmut05のアミノ酸配列
配列番号93:ヒト化18C1抗体HVmut06のアミノ酸配列
配列番号94:ヒト化18C1抗体HVmut07のアミノ酸配列
配列番号95:ヒト化18C1抗体HVmut08のアミノ酸配列
配列番号96:ヒト化18C1抗体HVmut09のアミノ酸配列
配列番号97:ヒト化18C1抗体HVmut10のアミノ酸配列
配列番号98:ヒト化18C1抗体VHres16のアミノ酸配列
配列番号99:ヒト化18C1抗体HVmut05~10のCDR2のアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
【配列表】
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