(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】地盤改良材及びそれを用いた地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/44 20060101AFI20230801BHJP
C09K 17/48 20060101ALI20230801BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20230801BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20230801BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20230801BHJP
C09K 103/00 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
C09K17/44 P
C09K17/48 P
C09K17/10 P
C09K17/14 P
E02D3/12 102
C09K103:00
(21)【出願番号】P 2020003098
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】小須田 和貴
(72)【発明者】
【氏名】野崎 隆人
(72)【発明者】
【氏名】肥後 康秀
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-106657(JP,A)
【文献】特開2008-37891(JP,A)
【文献】国際公開第2007/091629(WO,A1)
【文献】特開2006-96627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K17/00-17/52
E02D3/12
C04B2/00-32/02
C04B40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント含有固化材粉末、ナフタレンスルホン酸系混和剤、凝結遅延剤、及び、水を含むスラリーである地盤改良材であって、上記凝結遅延剤が、酒石酸塩、ヘキサメタリン酸塩、及び、クエン酸塩からなる群より選ばれる一種以上からなることを特徴とする地盤改良材。
【請求項2】
上記水/上記セメント含有固化材粉末の質量比が0.32~0.47であり、かつ、上記セメント含有固化材粉末100質量部に対して、上記ナフタレンスルホン酸系混和剤の量が0.3~2.0質量部でかつ上記凝結遅延剤の量が0.01~1.0質量部である請求項1に記載の地盤改良材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地盤改良材を用いた地盤改良方法であって、
上記セメント含有固化材粉末、上記ナフタレンスルホン酸系混和剤、上記凝結遅延剤、及び、上記水を材料として用いて、スラリーである上記地盤改良材を調製するスラリー調製工程と、
上記地盤改良材を地盤中に注入して混合し、上記地盤が固化してなる改良地盤を形成させるスラリー注入工程、
を含むことを特徴とする地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良材及びそれを用いた地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤(土壌)の改良方法として、セメント等を含む水硬性材料と、水を混合して、スラリーである地盤改良材を得た後、該地盤改良材を地盤中に注入して混合し、強度が増大した地盤(地盤が固化してなる改良地盤)を形成させる方法が知られている。
水硬性材料を構成する、セメント以外の成分(添加剤)として、特許文献1に、成分(イ)~(ニ):(イ)ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、(ロ)オキシカルボン酸もしくはその塩、糖及び糖アルコールからなる群より選ばれた1種以上、(ハ)ポリエチレングリコール、並びに(ニ)(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルを、成分(イ)100重量部に対して、成分(ロ)を1~30重量部、成分(ハ)を1~20重量部、成分(ニ)を0.1~10重量部含有してなる地盤改良工法用添加剤が、記載されている。
また、特許文献1に、成分(ロ)の一例として、サッカロースが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、セメント含有固化材粉末及び水を含むスラリーである地盤改良材であって、スラリー中における材料の分離が生じず、かつ、優れた流動性を有する地盤改良材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント含有固化材粉末、ナフタレンスルホン酸系混和剤、凝結遅延剤、及び、水を含むスラリーである地盤改良材であって、上記凝結遅延剤が、酒石酸塩、ヘキサメタリン酸塩、及び、クエン酸塩からなる群より選ばれる一種以上からなる地盤改良材によれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]を提供するものである。
[1] セメント含有固化材粉末、ナフタレンスルホン酸系混和剤、凝結遅延剤、及び、水を含むスラリーである地盤改良材であって、上記凝結遅延剤が、酒石酸塩、ヘキサメタリン酸塩、及び、クエン酸塩からなる群より選ばれる一種以上からなることを特徴とする地盤改良材。
[2] 上記水/上記セメント含有固化材粉末の質量比が0.32~0.47であり、かつ、上記セメント100質量部に対して、上記ナフタレンスルホン酸系混和剤の量が0.3~2.0質量部でかつ上記凝結遅延剤の量が0.01~1.0質量部である、上記[1]に記載の地盤改良材。
[3] 上記[1]又は[2]に記載の地盤改良材を用いた地盤改良方法であって、上記セメント含有固化材粉末、上記ナフタレンスルホン酸系混和剤、上記凝結遅延剤、及び、上記水を材料として用いて、スラリーである上記地盤改良材を調製するスラリー調製工程と、上記地盤改良材を地盤中に注入して混合し、上記地盤が固化してなる改良地盤を形成させるスラリー注入工程、を含むことを特徴とする地盤改良方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の地盤改良材は、該地盤改良材の形態であるスラリー中における材料の分離が生じないので、均一な材料組成を有するスラリーとして、改良の対象である地盤に対して、好適に用いることができる。
また、本発明の地盤改良材は、小さな粘度を有することから、優れた流動性を有し、改良の対象である地盤中に注入して混合する際に、円滑な作業を行うことができ、また、均一な強度を有する改良地盤を形成することができる。
本発明の地盤改良材は、例えば、有機質土、火山灰質粘性土等の土壌に対して、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の地盤改良材は、セメント含有固化材粉末、ナフタレンスルホン酸系混和剤、凝結遅延剤、及び、水を含むスラリーである地盤改良材であって、上記凝結遅延剤が、酒石酸塩、ヘキサメタリン酸塩、及び、クエン酸塩からなる群より選ばれる一種以上からなる地盤改良材である。
セメント含有固化材粉末の例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメントや、アルミナセメントや、エコセメントや、セメント系固化材や、ポルトランドセメントを含有する地盤改良向けのセメント製品等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0009】
セメント含有固化材粉末を構成する材料として、セメントと共に、各種の有効成分を用いてもよい。有効成分の例としては、石膏、高炉スラグ微粉末、石炭灰(フライアッシュ)、石灰石微粉末、シリカフューム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、セメント及び有効成分を含むセメント含有固化材粉末の例として、セメントを20質量%以上の含有率で含む、市販のセメント系固化材が挙げられる。
【0010】
ナフタレンスルホン酸系混和剤は、減水の効果を与えるための混和剤である。
ナフタレンスルホン酸系混和剤に含まれている有効成分の例としては、ナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩等が挙げられる。
セメント含有固化材粉末100質量部に対するナフタレンスルホン酸系混和剤の量は、好ましくは0.3~2.0質量部、より好ましくは0.35~1.7質量部、さらに好ましくは0.4~1.5質量部、さらに好ましくは0.5~1.2質量部、特に好ましくは0.5~0.9質量部である。該量が0.3質量部以上であると、流動性をより向上させることができる。該量が2.0質量部以下であると、材料の分離をより効果的に抑制することができる。また、混和剤の量が大きいことによるコストの増大を避けることができる。
【0011】
凝結遅延剤は、セメントの凝結を遅延させるためのものである。
本発明において、凝結遅延剤としては、酒石酸塩、ヘキサメタリン酸塩、及び、クエン酸塩からなる群より選ばれる一種以上からなるものが、用いられる。
これらの塩の好ましい例としては、アルカリ金属塩等が挙げられる。
アルカリ金属塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
セメント100質量部に対する凝結遅延剤の量は、好ましくは0.01~1.0質量部、より好ましくは0.03~0.8質量部、さらに好ましくは0.05~0.6質量部、さらに好ましくは0.07~0.4質量部、さらに好ましくは0.08~0.3質量部、特に好ましくは0.08~0.15質量部である。該量が0.01質量部以上であると、流動性をより向上させることができる。該量が1.0質量部以下であると、セメントの凝結の遅延が著しいことによる改良地盤の形成の遅延を回避することができる。
【0012】
水としては、特に限定されず、水道水、スラッジ水等が挙げられる。
スラリーである地盤改良材の「水/セメント含有固化材粉末」の質量比は、0.32~0.47、好ましくは0.33~0.46、より好ましくは0.34~0.44、さらに好ましくは0.35~0.43、特に好ましくは0.36~0.42である。該質量比が0.32以上であると、地盤改良材の塑性粘度が、より小さくなり、圧送性(スラリーである地盤改良材をポンプで圧送するときの流通の円滑性)が、より向上する。該質量比が0.47以下であると、改良地盤の強度が、より大きくなる。
【0013】
本発明の地盤改良材は、スラリーの形態を有する。
該スラリーの調製直後(各材料の混練の直後)の塑性粘度は、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法) 11 振動粘度計による粘度測定方法」に準拠して、音叉型振動式粘度計を用いて測定した値として、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは19mPa・s以下、さらに好ましくは18mPa・s以下、特に好ましくは17mPa・s以下である。
【0014】
次に、本発明の地盤改良方法について説明する。
本発明の地盤改良方法は、セメント含有固化材粉末、ナフタレンスルホン酸系混和剤、凝結遅延剤、及び、水を材料として用いて、スラリーである地盤改良材を調製するスラリー調製工程と、得られた地盤改良材を地盤中に注入して混合し、地盤が固化してなる改良地盤を形成させるスラリー注入工程、を含む。
スラリー調製工程における地盤改良材の調製方法としては、特に限定されず、例えば、セメント含有固化材粉末、ナフタレンスルホン酸系混和剤、及び、凝結遅延剤を混合して、粉状混合物を得た後、該粉状混合物及び水を混練用容器内に投入し、撹拌して混合する方法や、セメント含有固化材粉末、ナフタレンスルホン酸系混和剤、凝結遅延剤、及び、水を一括して、混練用容器内に投入し、撹拌して混合する方法等が挙げられる。
【0015】
スラリー注入工程において、スラリー調製工程におけるスラリーの調製時から150分間以内(好ましくは2~120分間、より好ましくは4~100分間)に、スラリーである地盤改良材を地盤に注入して混合することが好ましい。150分間以内にスラリー(地盤改良材)を地盤に注入して混合することによって、より少ない圧力でスラリーを圧送することができ、また、輸送用ポンプ内等におけるスラリーの詰まりを生じ難くすることができる。
なお、地盤中におけるスラリー(地盤改良材)の混合は、例えば、地盤改良装置の撹拌翼等によって行うことができる。
【0016】
本発明の地盤改良材を適用する対象である地盤の種類の例として、有機質土や、火山灰質粘性土等が挙げられる。
有機質土とは、有機物(特に、腐植物質)を含む土をいう。有機質土の例としては、有機物の含有率が5質量%以上のものが挙げられる。
火山灰質粘性土の例としては、アロフェンの含有率が4質量%以上のものが挙げられる。
なお、火山灰質粘性土としては、有機物の含有率が5質量%以上のものもある。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント含有固化材粉末:高有機質土用セメント系固化材(市販品;セメントを20質量%以上の含有率で含み、かつ、セメント以外の有効成分を含むもの)
(2)ナフタレンスルホン酸系混和剤(NS):マイティ150(商品名;高性能減水剤;花王社製;ナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩)
(3)凝結遅延剤A:酒石酸ナトリウム
(4)凝結遅延剤B:酒石酸カリウム
(5)凝結遅延剤C:ヘキサメタリン酸ナトリウム
(6)凝結遅延剤D:クエン酸ナトリウム
(7)凝結遅延剤E:グルコン酸ナトリウム
(8)水:水道水
【0018】
[実施例1]
セメント含有固化材粉末100質量部、ナフタレンスルホン酸系混和剤(高性能減水剤)0.50質量部、及び、酒石酸ナトリウム(凝結遅延剤)0.10質量部を混合して、粉状混合物を得た。この粉状混合物、及び、水40質量部を混練用容器の中に収容して撹拌し、スラリーである地盤改良材を得た。
得られた地盤改良材を目視で評価し、材料の分離が生じていないことを確認した。
また、「JIS Z 8803:2011(液体の粘度測定方法) 11 振動粘度計による粘度測定方法」に準拠して、音叉型振動式粘度計を用いて、調製直後の地盤改良材の塑性粘度を測定した。塑性粘度は、16.0mPa・sであった。
【0019】
[実施例2~6、比較例1~6]
表1に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。
実施例2~6及び比較例1~6のいずれにおいても、材料の分離が生じていないことを確認した。
結果を表1に示す。
なお、表1中、「W/P」は、水/セメント含有固化材粉末の質量比を表す。「NS」は、ナフタレンスルホン酸系混和剤を表す。
【0020】
【0021】
表1から、実施例1~6では、優れた流動性(塑性粘度として18mPa・s未満の値)が得られているのに対し、比較例1~6では、流動性が、実施例1~6に比べて劣り、塑性粘度として22mPa・s以上の値であることがわかる。