(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】老化に関連した障害を処置するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20230801BHJP
A61M 1/38 20060101ALI20230801BHJP
A61K 35/14 20150101ALN20230801BHJP
A61P 25/28 20060101ALN20230801BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230801BHJP
【FI】
A61M1/16 109
A61M1/38 ZNA
A61K35/14
A61P25/28
C07K16/18
(21)【出願番号】P 2021013639
(22)【出願日】2021-01-29
(62)【分割の表示】P 2018512817の分割
【原出願日】2016-05-17
【審査請求日】2021-02-22
(32)【優先日】2015-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(73)【特許権者】
【識別番号】517404061
【氏名又は名称】アルカヘスト,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】513171172
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ ガバメント アズ レプリゼンテッド バイ ザ デパートメント オブ ベテランズ アフェアーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ウィス-コレイ,アントン
(72)【発明者】
【氏名】ビィエダ,ソール エー.
(72)【発明者】
【氏名】ニコリッチ,カーロイ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/094535(WO,A1)
【文献】国際公開第87/001597(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/147095(WO,A1)
【文献】J. Virol., (1990), 64, [4], p.1459-1464
【文献】J. Biol. Chem., (2011), 286, [3], p.2121-2131
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
A61K 41/00-51/12
A61M 1/00-1/38
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
老化に関連する神経変性障害に関する成体哺乳類の
処置のための血液製剤を調製する際に使用するためのβ2ミクログロブリン(B2M )
結合剤
であって、
老化に関連する神経変性障害に関する成体哺乳類の処置のために成体哺乳類の血液から全身のB2M を体外で取り除くべく使用される、B2M 結合剤。
【請求項2】
前記B2M
結合剤は抗体又は前記抗体の結合断片を有していることを特徴とする請求項1に記載のB2M
結合剤。
【請求項3】
前記B2M
結合剤は小分子を有していることを特徴とする請求項1に記載のB2M
結合剤。
【請求項4】
前記成体哺乳類は霊長類であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のB2M
結合剤。
【請求項5】
前記霊長類はヒトであることを特徴とする請求項4に記載のB2M
結合剤。
【請求項6】
前記成体哺乳類は高齢の哺乳類であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のB2M
結合剤。
【請求項7】
前記高齢の哺乳類は60歳以上のヒトであることを特徴とする請求項6に記載のB2M
結合剤。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
生物における老化には、経時的な変化の蓄積が付随する。神経系では、老化には、健康な個体の認知機能低下及び変性疾患に対する感受性を促進する構造的且つ神経生理学的な変化が付随する(Heeden及びGabrieli著,「Insights into the ageing mind: a view from cognitive neuroscience」,Nat. Rev. Neurosci. (2004) 5: 87-96;Raz 等著,「Neuroanatomical correlates of cognitive aging: evidence from structural magnetic resonance imaging」,Neuropsychology (1998) 12:95-114;Mattson 及びMagnus著,「Ageing and neuronal vulnerability」,Nat. Rev. Neurosci. (2006) 7: 278-294;及びRapp及びHeindel 著,「Memory systems in normal and pathological aging」,Curr. Opin. Neurol. (1994) 7:294-298)。これらの変化に、シナプス消失及びその結果生じるニューロン機能の消失が含まれる。従って、顕著なニューロン死が自然老化現象中には典型的に観察されないが、老化脳のニューロンは、亜致死の加齢性の構造変化、シナプスの完全性、及びシナプスでの分子処理を受けやすく、これらは全て認知機能を損なう。
【0002】
自然老化中の正常なシナプス消失に加えて、シナプス消失は、多くの神経変性状態に共通する早期の病理現象であり、これらの状態に関連したニューロン障害及び認知障害と最大の相関関係にある。確かに老化は、依然としてアルツハイマー病(AD)のような認知症に関連する神経変性疾患に関する単一の最も支配的な危険因子である(Bishop等著,「Neural mechanisms of ageing and cognitive decline」,Nature (2010) 464: 529-535 (2010);Heeden及びGabrieli著,「Insights into the ageing mind: a view from cognitive neuroscience」,Nat. Rev. Neurosci. (2004) 5:87-96;Mattson 及びMagnus著,「Ageing and neuronal vulnerability」,Nat. Rev. Neurosci. (2006) 7:278-294)。
【0003】
人間の寿命が長くなるにつれて、より多くの人が、老化に関連した認知障害を患うため、老化作用を防ぐか又は弱めることにより認知的完全性を維持する手段を解明することが極めて重要である(Hebert等著,「Alzheimer disease in the US population: prevalence estimates using the 2000 census」,Arch. Neurol. (2003) 60:1119-1122;Bishop等著,「Neural mechanisms of ageing and cognitive decline」,Nature (2010) 464:529-535)。
【0004】
β2ミクログロブリン(B2M )はクラスI主要組織適合性複合体(MHC )の成分であり、略全ての有核哺乳類細胞の表面にある多タンパク質複合体である。このような複合体は、免疫系が感染細胞を認識して破壊し得るように、細胞表面に外来抗原又はペプチド断片を示すことにより機能する。クラスI MHCのタンパク質成分は、多くの対立遺伝子を夫々有する複数の遺伝子によってコードされ、発現するクラスIMHCのタイプは個体間で異なる。MHC は多型であるので、宿主免疫系が外来MHC との臓器の拒絶反応を示す場合があるため、臓器移植中に考慮すべき重要な因子である。癌細胞では、MHC 発現が不完全な場合があり、癌細胞が免疫検出及び破壊を免れ得る。
【0005】
自由な細胞外B2M が更に、ヒトの生理液、例えば血清、尿及び脳脊髄液にある。タンパク質は小さいため、通常血液から濾過され、その後、腎臓によってある程度再吸収される。B2M の高い血清濃度は、非ホジキンリンパ腫及び髄膜炎のような複数の疾患を伴うことが多い(Hallgren等著,「Lactoferrin, lysozyme, and beta 2-microglobulin levels in cerebrospinal fluid: differential indices of CNS inflammation」,Inflammation (1982) 6:291-304;等著,「Prognostic significance of serum beta-2 microglobulin in patients with non-Hodgkin lymphoma」,Oncology (2014) 87:40-7)。タンパク質が高濃度で体内の血清に存在する場合、タンパク質はアミロイド線維を形成し得る(Corland 及びHeegaard著,「B (2)-microglobulin amyloidosis」,Sub-cellular Biochemistry (2012) 65:517-40)。透析を受けている個体の慢性腎疾患の合併症として体内組織及び体液でのB2M の蓄積が広範囲に亘って研究されている。腎臓機能が低下した患者では、B2M の蓄積は関節及び骨の衰弱及び痛みに関連付けられている。尿B2M レベルは腎障害及び濾過障害を示すために測定される(Acchiardo 等著,「Beta 2-microglobulin levels in patients with renal insufficiency」,American Journal of Kidney Diseases (1989) 13:70-4;Astor 等著,「Serum Beta-2-microglobulin at discharge predicts mortality and graft loss following kidney transplantation」,Kidney International (2013) 84:810-817)。
【0006】
B2M のタンパク質凝集体が変形性関節症を引き起こす一因となるので、タンパク質が異常なタンパク質の沈着に反応し易い神経細胞に有毒な場合があるという懸念がある(Giorgetti 等著,「beta2-Microglobulin is potentially neurotoxic, but the blood brain barrier is likely to protect the brain from its toxicity」,Nephrology Dialysis Transplantation (2009) 24:1176-81)。タンパク質は、神経発達、正常な海馬に依存する記憶、並びにシナプス形成及びシナプス可塑性に関与している(Bilousova 等著,「Major histocompatibility complex class I molecules modulate embryonic neuritogenesis and neuronal polarization」,Journal of Neuroimmunology (2012) 247:1-8;Harrison等著,「Human brain weight is correlated with expression of the ‘housekeeping genes’beta-2-microglobulin and TATA-binding protein」,Neuropathology and Applied Neurobiology (2010) 36:498-504)。ベータ2ミクログロブリンのようなクラスI MHC のタンパク質の変化はシナプス可塑性を破壊して、老化脳、損傷した脳又は罹患した脳の認知障害につながり得る(Nelson等著,「MHC class I immune proteins are critical for hippocampus-dependent memory and gate NMDAR-dependent hippocampal long-term depression」,Learning & Memory (2013) 20:505-17)。B2M の欠失は更に、脳の海馬の領域における左右非対称性を失わせる原因となる場合がある(Kawahara等著,「Neuronal major histocompatibility complex class I molecules are implicated in the generation of asymmetries in hippocampal circuitry」,The Journal of Physiology (2013) 591:4777-91)。
【0007】
加えて、B2M は、免疫低下又は中枢神経系の免疫活性化を判断するために使用され得る分子マーカとして機能する(Svatonova 等著,「Beta2-microglobulin as a diagnostic marker in cerebrospinal fluid: a follow-up study」,Disease Markers (2014) 2014)。タンパク質のレベルは、中枢神経系の炎症反応の程度を示す場合がある。B2M 及びB2M の疾患マーカとしての使用の考察には、脳脊髄液でのB2M の上昇レベルが、多発性硬化症、ニューロベーチェット病、サルコイドーシス、後天性免疫不全症候群による痴呆症候群及び悪性腫瘍の髄膜転移を反映すると記載されている(Adachi著,「Beta-2-microglobulin levels in the cerebrospinal fluid: their value as a disease marker. A review of the recent literature」,European Neurology (1991) 31:181-5)。他の研究では、B2M は、認知障害のリスクのための臨床マーカ、又は腎不全、HIV 感染及びアルツハイマー病を含む様々な疾患を示す個人の疾患予後のためのツールとして潜在的に機能し得ることが示唆されている(Almeida 著,「Cognitive impairment and major depressive disorder in HIV infection and cerebrospinal fluid biomarkers」,Arquivos de Neuro-Psiquiatria (2013) 71:689-92;Annunziata等著,「Serum beta-2-microglobulin levels and cognitive function in chronic dialysis patients」,Clinica Chimica Acta (1991) 201:139-41;Doecke等著,「Blood-based protein biomarkers for diagnosis of Alzheimer disease」,Archives of Neurology (2012) 69:1318-25;Isshiki 等著,「Cerebral blood flow in patients with peritoneal dialysis by an easy Z-score imaging system for brain perfusion single photon emission tomography」,Therapeutic Apheresis and Dialysis (2014) 18:291-6)。高い血清レベルは、成体の多発性骨髄腫、リンパ性白血病及びリンパ腫のための特定の予後的意義を有する(Kantarjian等著,「Prognostic significance of elevated serum beta 2-microglobulin levels in adult acute lymphocytic leukemia」,The American Journal of Medicine (1992) 93:599-604;Wu等著,「Prognostic significance of serum beta-2 microglobulin in patients with non-Hodgkin lymphoma」,Oncology (2014) 87:40-7)。より多くの研究が、癌、心血管疾患、統合失調症及び全身の疾患活動性に関する異常な血清及び組織のB2M レベルの影響を調査し続けている(Chittiprol等著,「Longitudinal study of beta2-microglobulin abnormalities in schizophrenia」,International Immunopharmacology (2009) 9:1215-7)。ある場合には、B2M が疾患の治療の対象であった(Morabito等著,「Analysis and clinical relevance of human leukocyte antigen class I, heavy chain, and beta2-microglobulin down regulation in breast cancer」,Human Immunology (2009) 70:492-5;Yang等著,「Identification of beta2-microglobulin as a potential target for ovarian cancer」,Cancer Biology & Therapy (2009) 8:232-8)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
老化に関連する障害のために成体哺乳類を処置する方法を提供する。本方法の態様では、老化に関連する障害のために成体哺乳類を処置するのに十分なように成体哺乳類のβ2ミクログロブリン(B2M )レベルを下げる。認知障害を含む様々な老化に関連する障害は、本方法を実施することによって処置され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1-1】B2M は、海馬に依存する認知機能及び成体神経発生を損なう老齢の全身環境の成分である。
図1a及び1c,不対の若齢マウス対老齢マウス(
図1a)、及び若齢の同年齢並体結合体対異年齢並体結合体(
図1c)を示す概略図である。
図1b及び1d,3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,18ヶ月及び24ヶ月の年齢でのB2M の血漿濃度の変化(
図1b)、並びに並体結合の5週間後の若齢の同年齢並体結合体及び若齢の異年齢並体結合体間のB2M の血漿濃度の変化(
図1d)を示す図である。1グループ当たり5匹のマウスからデータを得た。
図1e及び1f,健康なヒトの被験者の年齢に対する血漿(
図1e;r=0.51;p<0.0001;95% 信頼区間=0.19-0.028 )B2M 濃度及びCSF (
図1f)B2M 濃度の変化を示す図である。平均±SEM ;*P<0.05 ;**P<0.01;***P<0.001のt-検定(
図1d及び1f)、ANOVA ,Tukey の事後検定(
図1b)並びにマンホイットニーU検定(
図1e)により平均値のドットプロットとして全てのデータを表した。
【
図1-2】B2M は、海馬に依存する認知機能及び成体神経発生を損なう老齢の全身環境の成分である。
図1g及び
図1k,若齢の成体(3ヶ月)マウスにB2M 又はPBS (媒体)対照を12日間に亘って5回眼窩内に注射した。
図1g,B2M 処置及び認知機能試験に使用された時系列を示す概略図である。
図1h及び
図1i,海馬の学習及び記憶をRAWM(
図1h)及び文脈的恐怖条件付け(
図1i)によって評価した。
図1h,プラットフォームを見つける前のアームへのエントリのエラーの数を示す図である。
図1i,訓練から24時間後のフリージング時間率を示す図である。1グループ当たり9~10匹のマウスからデータを得た。
図1j,処置グループ毎のDcx-陽性細胞の代表的な領域を示す図である(スケールバー:100 μm)。
図1k,処置後の歯状回(DG)中の神経発生の定量化を示す図である。1グループ当たり7~8匹のマウスからデータを得た。平均±SEM ;*P<0.05 ;**P<0.01;***P<0.001のt-検定(
図1i 及び1k)並びに反復測定ANOVA ,ボンフェローニの事後検定(
図1k)により平均値のドットプロット又は棒グラフとして全てのデータを表した。
【
図2】海馬に依存する学習及び記憶を示す図である。RAWM(
図2a及び2b)パラダイム及び文脈的恐怖条件付け(
図2c及び2e)パラダイムを用いて若齢(3ヶ月)動物対老齢(18ヶ月)動物について正常老化中に学習及び記憶を検査した。1グループ当たりn=10である。
図2a,老齢マウスでは、RAWMタスクの試験段階中にプラットフォームの位置に関する学習及び記憶が損なわれたことが実証されている。目標のプラットフォームを見つける前のアームへのエントリのエラーの数として認知障害を定量化した。
図2b,若齢動物及び老齢動物間で泳ぐ速度の差は検出されなかった。
図2c,若齢動物及び老齢動物は、恐怖条件付けの訓練中、同様のベースラインのフリージング時間を示した。
図2d,文脈的恐怖条件付け中、老齢マウスでは、文脈的記憶試験中のフリージング時間が減少したことが実証されている。
図2e,訓練から24時間後、手がかりの記憶における差は検出されなかった。平均±SEM;*P<0.05 ;**P<0.01;n.s.非有意;t-検定(
図2a~2c及び2e)及び反復測定ANOVA ,ボンフェローニの事後検定(
図2d)としてデータを表した。
【
図3】重量、泳ぐ速度及び手がかりの記憶はB2M の全身性投与によって変わっていない。若齢の成体(3ヶ月)マウスに、行動試験前の10日間に亘って5回B2M 又はPBS (媒体)対照を眼窩内に注射した。
図3a,B2M 及び媒体で処置されたグループのマウスの平均重量を示す図である。
図3b,RAWMの試験段階中のB2M 又は媒体を注射したマウスの泳ぐ速度を示す図である。
図3c及び
図3d,条件付け恐怖をフリージング行動として表示した。
図3c,全ての処置グループの動物は訓練中に同様のベースラインのフリージング時間を示した。
図3d,訓練から24時間後に新しい文脈で条件刺激(音及び光)に再度曝されたとき、グループ間で手がかりの記憶における差は検出されなかった。1グループ当たり9匹のマウスからデータを得た。平均+SEM ;n.s.非有意;t-検定として全てのデータを表した。
【
図4】B2M の全身性投与によって、若齢動物のDGの神経発生が減少している。若齢の成体マウス(3~4ヶ月)に、B2M 又はPBS (媒体)対照を12日間に亘って5回眼窩内に注射した。安楽死の前に、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を3日間腹腔内注射によって投与した。処置後の歯状回(DG)中のMCM2陽性及びBrdU陽性の定量化を示す図である。1グループ当たり5匹のマウスからデータを得た。平均+SEM ;*P<0.05;**P<0.01;t検定として全てのデータを表した。
【
図5】局所的なB2M 発現が老化中に海馬で増加し、海馬に依存する認知機能及び成体神経発生を損なっている。
図5a及び5b,不対の若齢(3ヶ月)動物及び老齢(18ヶ月)動物(
図5a)、又は並体結合から5週間後の若齢の同年齢並体結合体及び若齢の異年齢並体結合体(
図5b)からの抗B2M 抗体及び抗アクチン抗体で調べられた海馬溶解物の代表的なウェスタンブロット及び定量化を示す図である。
図5c~5e,若齢の成体(3ヶ月)野生型(WT)マウス及び抗原ペプチド輸送体1ノックアウト(Tap1-/- )マウスにB2M 又は媒体対照の片側定位注射を行った。
図5c,同一の切片内のDGの隣り合う側のDcx 陽性細胞の代表的な領域が、WT処置グループ及びTap1-/- 処置グループに関して示されている。
図5d及び5e,B2M の定位投与後のWT(
図5d)マウス及びTap1-/- (
図5e)マウスのDGにおける神経発生の定量化を示す図である。1グループ当たり5匹のマウスからデータを得た。
図5f~5h,行動試験の6日前に若齢の成体マウスにB2M 又は媒体の両側定位注射を行った。
図5f,局所的なB2M 投与及び認知機能試験に使用された時系列を示す概略図である。
図5g及び
図5h,定位注射の後、学習及び記憶をRAWM(
図5h)及び文脈的恐怖条件付け(
図5g)によって評価した。1グループ当たり10匹の動物からデータを得た。平均±SEM;*P<0.05 ;**P<0.01;n.s.非有意;ANOVA ,t-検定(
図5a,
図5b,
図5d,
図5e及び
図5h);反復測定ANOVA ,ボンフェローニの事後検定(
図5g)として全てのデータを表した。
【
図6】泳ぐ速度及び手がかりの記憶は局所的なB2M の投与によって変わっていない。行動試験の6日前に、若齢の成体マウスにB2M 又はPBS (媒体)対照の両側定位注射を行った。
図6a,RAWMの試験段階中のB2M 又は媒体を注射したマウスの泳ぐ速度を示す図である。
図6b,全ての処置グループの動物は恐怖条件付け訓練中に同様のベースラインのフリージング時間を示した。
図6c,訓練から24時間後に新しい文脈で条件刺激(音及び光)に再度曝されたとき、グループ間で手がかりの記憶における差は検出されなかった。1グループ当たり10匹のマウスからデータを得た。平均+SEM ;n.s.非有意;t-検定として全てのデータを表した。
【
図7】若齢の不対のWT動物及びTap1-/- 動物又は若齢の同年齢のWT動物及びTap1-/- 動物のDGに神経発生の差が観察されていない。
図7a,若齢成体(3ヶ月)の不対の野生型(WT)マウス及びTap1-/- マウスのDGにおけるダブルコルチン(Dcx )陽性細胞の定量化を示す図である。1グループ当たり5匹のマウスからデータを得た。
図7b,若齢のWT及びTap1-/- の同年齢並体結合体を示す概略図である。
図7c~7e,並体結合から5週間後の若齢のWT及びTap1-/- の同年齢並体結合体のDcx 、T-box 転写因子Tbr2及びBrdUの免疫染色の定量化を示す図である。1グループ当たり6~8匹のマウスからデータを得た。平均+SEM ;n.s.非有意;t-検定(
図7a);ANOVA ,Tukey の事後検定(
図7c~7e)として全てのデータを表した。
【
図8】内因性MHC I 表面発現の減少により、若齢動物の成体神経発生に対する異年齢並体結合の悪影響がある程度緩和されている。
図8a,若齢の野生型(WT)及びTap1ノックアウト(Tap1-/- )の同年齢並体結合体並びに若齢のWT及びTap1-/- の異年齢並体結合体を示す概略図である。
図8b及び8c,並体結合から5週間後の若齢の同年齢並体結合体及び異年齢並体結合体のダブルコルチン免疫染色の代表的な領域(
図8b)及び定量化(
図8c)を示す図である(矢じりは個々の細胞を示す,スケールバー:100 μm)。
図8d,安楽死の前に、動物に3日間ブロモデオキシウリジン(BrdU)を注射し、並体結合後に、BrdUが取り込まれた増殖細胞を定量化した。8つの若齢のWT同年齢並体結合体、6つの若齢のTap1-/- 同年齢並体結合体、8つの若齢のWT異年齢並体結合体及び8つの若齢のTap1-/- 異年齢並体結合体からデータを得た。平均±SEM ;*P<0.05 ;ANOVA ,Tukey の事後検定として全てのデータを表した。
【
図9】内因性MHC I 表面発現の減少によって、異年齢並体結合後の若齢マウスの神経前駆細胞数の減少がある程度緩和されている。
図9a,若齢の野生型(WT)及びTap1ノックアウト(Tap1-/- )の同年齢並体結合体並びに若齢のWT及びTap1-/- の異年齢並体結合体を示す概略図である。
図9b,並体結合から5週間後の若齢の同年齢並体結合体及び異年齢並体結合体のT-box 転写因子Tbr2免疫染色の定量化を示す図である。8つの若齢のWT同年齢並体結合体、6つの若齢のTap1-/- 同年齢並体結合体、8つの若齢のWT異年齢並体結合体及び8つの若齢のTap1-/- 異年齢並体結合体からデータを得た。平均±SEM ;*P<0.05 ;ANOVA ,Tukey の事後検定として全てのデータを表した。
【
図10】内因性B2M の欠如により、老齢動物における海馬に依存する認知機能及び成体神経発生が高められている。
図10a ~10d ,RAWM(
図10a ,
図10c )及び文脈的恐怖条件付け(
図10b ,
図10d )によって若齢(3ヶ月)及び老齢(15~16ヶ月)の野生型(WT)マウス及びB2M ノックアウト(B2M-/-)マウスで学習及び記憶を評価した。1つの遺伝子型当たり10匹の若齢マウス及び8~12匹の老齢マウスからデータを得た。
図10e ~10j ,若齢及び老齢のWTマウス及びB2M-/-マウスのDGのDcx 陽性細胞に関して免疫染色によって神経発生を分析した。若齢(
図10e ,
図10f )及び老齢(
図10e ,
図10g )のWT動物及びB2M-/-動物に関してDcx-陽性細胞の代表的な領域及び定量化を示す図である(矢じりは個々の未熟ニューロンを示す,スケールバー:100 μm)。1つの遺伝子型当たり8匹の若齢マウス及び10匹の老齢マウスからデータを得た。
図10h 及び
図10j ,WTマウス及びB2M-/-マウスにBrdUを6日間腹腔内注射によって投与して28日後に安楽死させた。
図10h ,NeuN(緑)と組み合わせたBrdU(赤)に関して免疫染色された脳切片のDGからの代表的な共焦点顕微鏡検査結果を示す図である。
図10i 及び
図10j ,若齢(
図10i )及び老齢(
図10j )のWT動物及びB2M-/-動物のDGにおけるBrdU陽性細胞全体からのBrdU及びNeuNの二重陽性細胞の相対数の定量化を示す図である。1グループ当たり8匹のマウス(1匹のマウス当たり3切片)からデータを得た。平均±SEM;*P<0.05 ;**P<0.01;n.s.非有意;t-検定(
図10b, 10d, 10f, 10i, 10j )、反復測定ANOVA ,ボンフェローニの事後検定(
図10a ,
図10c )として全てのデータを表した。
【
図11】老齢のB2M-/-動物における泳ぐ速度及び手がかりの記憶は変わっていない。RAWMの試験段階中、老齢成体(17ヶ月)WTの海馬の学習及び記憶を評価した。動物は、遺伝子型に関わらず恐怖条件付け訓練中に同様のベースラインのフリージング時間を示した。マウスが訓練から24時間後に新しい文脈で条件刺激(音及び光)に再度曝されたとき、遺伝子型間で手がかりの記憶における差は検出されなかった。12匹のWTマウス及び8匹のB2M-/-マウスからデータを得た。平均+SEM ;n.s.非有意;t-検定として全てのデータを表した。
【
図12】内因性B2M の欠如によって、インビボで年齢に依存して増殖が増加するが、星状膠細胞の分化は増加していない。
図12a~12c,増殖を評価するために、安楽死の3日前、若齢(3ヶ月)及び老齢(15~16ヶ月)の野生型(WT)マウス及びB2M ノックアウト(B2M-/-)マウスにBrdUを腹腔内注射によって投与した。
図12a 及び
図12b ,BrdU陽性細胞の免疫染色を若齢(
図12a )動物及び老齢(
図12b )動物のDGで定量化した。1つの遺伝子型当たり8匹の若齢マウス及び10匹の老齢マウスからデータを得た。
図12c ~12e ,星状膠細胞の分化を検査するために、WTマウス及びB2M-/-マウスにBrdUを6日間腹腔内注射によって投与して28日後に安楽死させた。
図12c ,GFAP(青)と組み合わせたBrdU(赤)に関して免疫染色された脳切片のDGからの代表的な共焦点顕微鏡検査結果を示す図である。
図12d 及び
図12e ,若齢(
図12d )及び老齢(
図12e )のWT動物及びB2M-/-動物のDGにおけるBrdU陽性細胞全体からのBrdU及びGFAPの二重陽性細胞の相対数の定量化を示す図である。1グループ当たり8匹のマウス(1匹のマウス当たり3切片)からデータを得た。平均+SEM ;**P<0.01;n.s.非有意;t-検定として全てのデータを表した。
【
図13】β2ミクログロブリンの相対的レベルを、SomaScan Proteomic Assay (Somalogic, Inc, Boulder, CO)によって18歳,30歳,45歳,55歳及び66歳の健康な男性のヒトのドナーの血漿サンプルで決定した。年齢グループ毎に、40人の個人からの血漿を1つのプール当たり5人の個人で8つのプールとして分析した。対数変換値の両側Student のt検定、及びヨンクヒール・タプストラ検定を使用した未変換データの傾向分析によって統計解析を行った。観察された変化が、1.1 ×10
-4のt-検定のp-値(66歳対18歳)及び1.3 ×10
-7のJT検定のp-値(全ての年齢グループ)で非常に重要であると分かった。(RFU はSomaScan Proteomic Assayによって「相対蛍光単位」を指す)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
老化に関連する障害のために成体哺乳類を処置する方法を提供する。本方法の態様では、老化に関連する障害のために成体哺乳類を処置するのに十分なように成体哺乳類のβ2ミクログロブリン(B2M )レベルを下げる。認知障害を含む様々な老化に関連する障害は、本方法を実施することによって処置され得る。
【0011】
本方法及び本組成物を説明する前に、本発明は、言うまでも無くそれ自体が変わり得るように、説明された特定の方法又は組成物に限定されないことを理解すべきである。本明細書に使用されている専門用語は、具体的な実施形態について説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、限定的であることを意図するものではないことも理解されたい。
【0012】
ある範囲の値が与えられる場合、その範囲の上限及び下限の間の、文脈が別段に明示しない限りは下限の単位の10分の1までの各介在値が更に具体的に開示されていることを理解されたい。記載された範囲内の任意の記載された値又は介在する値とその記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在する値との間のより小さい範囲が夫々本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、より小さい範囲内に独立して含まれてもよく、又は除外されてよく、上限及び下限の一方又は両方がより小さい範囲内に含まれているか又はいずれも含まれていない各範囲は、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限度を条件として本発明に更に包含される。記載された範囲が限度のうちの一方又は両方を含む場合、これらの含まれた限度の一方又は両方を除外した範囲も本発明に包含される。
【0013】
特に定義されていない限り、本明細書で使用されている全ての技術的用語及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通して理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様又は同等である全ての方法及び材料を、本発明の実施又は試験に使用することができるが、ある可能性のある好ましい方法及び材料を本明細書に記載している。本明細書に述べられている全ての刊行物は、引用されている刊行物に関連して本方法及び/又は本材料を開示して記載すべく参照によって本明細書に組み込まれている。本開示が、矛盾が存在する程度まで組み込まれた刊行物のあらゆる開示に優先することを理解されたい。
【0014】
当業者が本開示を読むと明らかであるように、本明細書に説明され例示された個々の実施形態は夫々、別々の構成要素及び特徴を有しており、別々の構成要素及び特徴は、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他の複数の実施形態のいずれかの特徴から容易に分離されてもよく、又はいずれかの特徴と容易に組み合わされてもよい。全ての記載された方法は、記載された事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で実行され得る。
【0015】
単数形の「1つの(a )」、「1つの(an)」及び「その(the )」が、本明細書及び請求項で用いられている場合、文脈が別段に明示しない限り、複数の指示対象を含むことを留意しなければならない。従って、例えば、「細胞」への言及はこのような複数の細胞を含んでおり、「ペプチド」への言及は、一又は複数のペプチド及びこの均等物、例えば当業者に公知のポリペプチドなどへの言及を含んでいる。
【0016】
本明細書に記載されている刊行物は、本出願の出願日に先立ってその開示のためだけに提供されている。本明細書では、先行発明を理由として、本発明がそのような刊行物に先行する権限がないことを認めるものであると解釈されるべきではない。更に、提供される刊行物の日付は実際の公開日とは異なる場合があり、個別に確認する必要がある。
【0017】
方法
上述したように、本発明の態様は、成体哺乳類の老化に関連する障害を処置する方法を含んでいる。老化に関連する障害は、多くの異なる態様で、例えば老化に関連する認知障害及び/又は生理学的障害として、例えば細胞損傷、組織損傷、臓器機能不全、老化に関連する寿命の短縮及び発癌のような、しかしこれらに限定されない身体の中心の臓器又は末梢の臓器への損傷の形態(ここで、注目する特定の臓器及び組織は、皮膚、ニューロン、筋肉、膵臓、脳、腎臓、肺、胃、小腸、脾臓、心臓、脂肪組織、精巣、卵巣、子宮、肝臓及び骨が含まれるが、これらに限定されない)で、神経発生の減少の形態などで現れる場合がある。
【0018】
ある実施形態では、老化に関連する障害は、個人の認知能力の老化に関連する障害、つまり老化に関連する認知障害である。認知能力又は「認知」は、注意及び集中、複雑なタスク及び概念の学習、記憶(短期間及び/又は長期間での新たな情報の取得、保持及び検索)、情報処理(五感によって集められた情報の処理)、視空間機能(視覚認知、距離感覚、心的イメージの使用、図画の複写、物体又は形状の構築)、言語の生成及び理解、言語流暢性(言葉の見つけ出し)、問題の解決、決定及び実行機能(計画及び優先付け)を含む精神機能を意味する。「認知機能低下」は、これらの能力の内の一又は複数における進行性減少、例えば記憶、言語、思考、判断などの低下を意味する。「認知能力の障害」及び「認知障害」は、健康な個体、例えば同年齢の健康な個体、又は当該個体のより以前の時点、例えば2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年、5年又は10年、或いは更に前の時点での能力に対する認知能力の低下を意味する。老化に関連する認知障害は、老化に典型的に関連付けられる認知能力の障害を含んでおり、例えば、自然老化現象に関連する認知障害、例えば軽度認知障害(M.C.I.);及び老化に関連する障害に関連付けられる認知障害、つまり、老化が進むにつれて出現の頻度が増える障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィ、血管性認知症などの神経変性状態を含んでいる。
【0019】
「処置」とは、少なくとも成体哺乳類を苦しめる老化に関連する障害に関連付けられている1以上の症状の改善を達成することを意味し、改善は、少なくともパラメータの大きさ、例えば処置される障害に伴う症状の低下を指すために広い意味で使用されている。そのため、処置は、成体哺乳類が障害又は少なくとも障害を特徴付ける症状を患わないように、病的な状態又は少なくとも病的な状態に関連する症状を完全に抑制する、例えば発生を防止するか又は停止させる、例えば終了させる状況を更に含んでいる。場合によっては、「処置」、「処置する」などは、所望の薬理学的効果及び/又は生理学的効果を得ることを意味する。効果は、疾患又はその症状を完全に若しくは部分的に予防する点で予防的であってもよく、並びに/又は疾患及び/若しくは疾患に起因する副作用の部分的又は完全な治癒の点で治療的であってもよい。「処置」は哺乳類の疾患のあらゆる処置であってもよく、(a)疾患の素因があるかもしれないが、その疾患であるとまだ診断されていない対象がその疾患にかかることを予防すること、(b)疾患を抑制する、つまり、その発症を停止させること、又は(c)疾患を軽減する、つまり疾患の退縮を引き起こすことを含んでいる。処置の結果、様々な異なる身体的徴候、例えば遺伝子発現の変調、神経発生の増加、組織又は臓器の若返りなどがもたらされてもよい。患者の望ましくない臨床症状を安定させるか又は低減させる、進行中の疾患の処置が行われる実施形態もある。このような処置は、発症した組織の機能が完全に失われる前に行われてもよい。本治療は、疾患の症状段階中、場合によっては疾患の症状段階の後に行われてもよい。
【0020】
老化に関連する障害が老化に関連する認知機能低下である場合、本開示の方法による処置は、老化に関連する認知機能低下の進行を遅くするか又は低下させる。言い換えれば、個体の認知能力は、開示された方法による処置の前、又は処置していないときより、開示された方法による処置の後の方が、低下するにしてもより穏やかに低下する。場合によっては、本開示の方法による処置は、個体の認知能力を安定させる。例えば、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知機能低下の進行は、開示された方法による処置の後で停止する。別の例として、老化に関連する認知機能低下を患うと予測される個体、例えば、40歳以上の個体の認知機能低下は、開示された方法による処置の後で予防される。言い換えれば、(更なる)認知障害が観察されない。場合によっては、本開示の方法による処置は、例えば老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力を向上させることにより観察されるように、認知障害を低減させるか反転する。言い換えれば、開示された方法による処置後の、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力は、開示された方法による処置の前より良好であり、つまり、処置されると認知能力は向上する。場合によっては、本開示の方法による処置は認知障害を抑止する。言い換えれば、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力は、例えば老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力の向上により証明されるように、開示された方法による処置の後、例えば個体が約40歳以下であったときのレベルに回復する。
【0021】
場合によっては、本方法に従った成体哺乳類の処置により、中心の臓器、例えば脳、脊髄などの中枢神経系臓器に変化がもたらされ、このような変化は、例えば以下に更に詳細に記載されるように、分子的、構造的及び/又は機能的を含むがこれらに限定されない多くの異なる方法で、例えば神経発生の向上の形態で現れる場合がある。
【0022】
上述したように、本明細書に記載されている方法は、成体哺乳類の、例えば上記に記載されているような老化に関連する障害を処置する方法である。成体哺乳類とは、成熟に達した哺乳類、つまり完全に発達した哺乳類を意味する。そのため、成体哺乳類は若くはない。本方法で処置されてもよい哺乳類種は、イヌ及びネコ;ウマ;ウシ;ヒツジ;など、及びヒトを含む霊長類を含んでいる。本方法、本組成物及び本試薬が、例えば実験的研究で小型哺乳類、例えばネズミ科の動物、ウサギ目の動物などを含む動物モデルに更に適用されてもよい。以下の記載は、ヒトに対する本方法、本組成物、本試薬、本デバイス及び本キットの適用に重点を置いているが、このような記載が本技術分野における知識に基づき対象となる他の哺乳類に容易に変更され得ると当業者によって理解される。
【0023】
成体哺乳類の年齢は、処置される哺乳類のタイプによって異なってもよい。成体哺乳類がヒトである場合、ヒトの年齢は一般に18歳以上である。場合によっては、成体哺乳類は、老化に関連する認知障害のような老化に関連する障害を患う個体又は患う危険性がある個体であり、成体哺乳類は、老化に関連する認知障害のような老化に関連する障害を患っている又は患う危険性があると、例えば診断を受ける形態で判断された哺乳類であってもよい。「老化に関連する認知障害を患う個体又は患う危険性がある個体」という表現は、約50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上、時には90歳のような100 歳以下、つまり、約50歳と100 歳との間の年齢、例えば50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳又は約90歳の個体を指す。個体は、老化に関連する状態、例えば自然な老化現象に関連する認知障害、例えばM.C.I.を患っていてもよい。或いは、個体は、50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上、90歳以上、時には100 歳以下、つまり、約50歳と100 歳との間の年齢、例えば50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳又は約100 歳であってもよく、老化に関連する状態、例えば認知障害の症状をまだ示し始めていない。更に他の実施形態では、個体は、個体が老化に関連する疾患による認知障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィ、認知症などを患うあらゆる年齢であってもよい。場合によっては、個体は、典型的には認知障害を伴う老化に関連する疾患、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、多発性硬化症、複合神経系萎縮、緑内障、運動失調、筋強直性ジストロフィ、認知症などと診断されたあらゆる年齢の個体であり、個体は、認知障害の症状をまだ示し始めていない。
【0024】
上述したように、本方法の態様では、例えば上記に記載されているように哺乳類の老化による障害を処置するのに十分なように哺乳類のβ2ミクログロブリン(B2M )レベルを下げる。B2M レベルを下げるとは、哺乳類の細胞外B2M の量のような哺乳類のB2M の量を減らすことを意味する。減少の程度は異なってもよいが、場合によっては、程度は(適切な対照と比較して)2倍以上、例えば10倍以上を含む5倍以上、例えば15倍以上、20倍以上、25倍以上であり、場合によっては、程度は、個体の循環系の検出可能な自由なB2M の量が、本発明に従った介在前に検出可能な量に対して50%以下、例えば10%を含む25%以下、例えば1%以下であるような程度であり、場合によっては、量は介在後に検出不可能である。
【0025】
B2M レベルをあらゆる簡便なプロトコルを使用して下げてもよい。場合によっては、B2M レベルを、成体哺乳類から全身のB2M を取り除くことにより、例えば成体哺乳類の循環系からB2M を取り除くことにより下げる。このような場合、循環B2M を取り除くためのあらゆる簡便なプロトコルを用いてもよい。例えば、血液を成体哺乳類から得てもよく、体外で処理して血液からB2M を取り除いてB2M が消失した血液を製造してもよく、その後、B2M が消失した血液を成体哺乳類に戻してもよい。このようなプロトコルは、得られた血液からB2M を取り除くために様々な異なる技術を用いてもよい。例えば、得られた血液が濾過要素、例えば膜などと接してもよく、このため、B2M の通過を可能にするが、他の血液成分、例えば細胞などの通過を抑制する。場合によっては、得られた血液が、B2M を血液から吸収するB2M 吸収要素、例えば多孔質ビーズ又は微粒子組成物と接してもよい。他の場合には、B2M が結合メンバーに結合することにより固体支持体に固定され、そのためB2M を他の血液成分から分離するように、得られた血液は、固体支持体と安定して関連付けられているB2M 結合メンバーと接してもよい。用いられるプロトコルは、必要に応じてB2M を得られた血液から選択的に取り除くように構成されても構成されなくてもよい。多くの様々な技術が、B2M を血液から取り除くために知られており、本発明の実施形態に用いられてもよく、このような技術は、米国特許第4872983 号明細書、米国特許第5240614 号明細書、米国特許第6416487 号明細書、米国特許第6419830 号明細書、米国特許第6423024 号明細書、米国特許第6855121 号明細書、米国特許第7066900 号明細書、米国特許第8211310 号明細書、米国特許第8349550 号明細書、米国特許出願公開第2002/0143283 号明細書、国際公開第1999/006098号パンフレット及び国際公開第2003/020403号パンフレットに記載されている技術を含んでおり、これらの出願の開示内容は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0026】
ある実施形態では、有効量のB2M レベル低下剤を哺乳類に投与することにより、B2M レベルを下げる。そのため、本発明のこれらの実施形態に従って本方法を実施する際、有効量の活性剤、例えばB2M 調整剤を成体哺乳類に与える。
【0027】
実施される特定の実施形態に応じて、様々な異なるタイプの活性剤を用いてもよい。場合によっては、活性剤は、標的遺伝子からのRNA 又はタンパク質の発現を何らかの方法で変えるように、遺伝子からのRNA 及び/又はタンパク質の発現を変調する。これらの場合、活性剤は、RNA 又はタンパク質の発現を多くの異なる方法で変えてもよい。ある実施形態では、活性剤は、B2M タンパク質の発現を減少させる、例えば抑制する活性剤である。B2M タンパク質の発現の抑制をあらゆる簡便な手段を使用して達成してもよく、このような手段は、B2M タンパク質の発現を抑制する抑制剤の使用を含んでおり、例えば、RNAi剤、アンチセンス剤、例えば組換え技術などによってB2M 遺伝子のプロモータ配列に結合する転写因子、つまりB2M 遺伝子の不活性化を妨げる抑制剤を含むがこれらに限定されない。
【0028】
例えば、B2M タンパク質の転写レベルをRNAi剤、例えば二本鎖RNA を使用した遺伝子サイレンシングにより調節することができる(例えばSharp, Genes and Development (1999) 13: 139-141参照)。RNAi、例えば二本鎖RNA 干渉(dsRNAi)又は低分子干渉RNA (siRNA )は、nematode C. elegans (Fire等著,Nature (1998) 391:806-811)に広範囲に記載されており、様々な系の「ノックダウン」遺伝子に日常的に使用されている。RNAi剤は、dsRNA 又は細胞のdsRNA を生成するために使用され得る干渉リボ核酸の転写テンプレートであってもよい。これらの実施形態では、転写テンプレートは干渉リボ核酸をコードするDNA であってもよい。RNAiに関連した方法及び手順は国際公開第03/010180号パンフレット及び国際公開第01/68836 号パンフレットに更に記載されており、これらの出願の開示内容は参照によって本明細書に組み込まれている。dsRNA は、インビトロ法及びインビボ法並びに合成化学法を含む本技術分野で公知の多くの方法のいずれかに応じて調製され得る。このような方法の例として、Sadher等著,Biochem. Int. (1987) 14:1015、Bhattacharyya 著,Nature (1990) 343:484及び米国特許第5795715 号明細書に記載されている方法が含まれるが、これらに限定されず、これらの開示内容は参照によって本明細書に組み込まれている。一本鎖RNA も、酵素合成及び有機合成の組合せを用いて、又は完全な有機合成によって生成され得る。合成化学法を使用することにより、所望の修飾ヌクレオチド又はヌクレオチド類似体をdsRNA に導入することが可能になる。dsRNA は、多くの確立された方法によってインビボで更に調製され得る(例えば、Sambrook等著,(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed.、Transcription and Translation (B. D. Hames, and S. J. Higgins, Eds., 1984)、DNA Cloning, volumes I and II (D. N. Glover, Ed., 1985)及びOligonucleotide Synthesis(M. J. Gait, Ed., 1984参照、これらの開示内容の各々は参照によって本明細書に組み込まれている)。dsRNA を例えば細胞培養物、組織、臓器又は胚中の細胞又は細胞集合体に運ぶために多くの選択肢が利用され得る。例えば、RNA は細胞内に直接導入され得る。様々な物理的方法が、マイクロインジェクションによる投与のような場合に一般に利用される(例えば、Zernicka-Goetz等著,Development (1997)124:1133-1137、及びWianny等著,Chromosoma (1998) 107: 430-439参照)。細胞送達のための他の選択肢として、細胞膜を透過させること、dsRNA の存在下での電気穿孔法、リポソームを介したトランスフェクション、又はリン酸カルシウムのような化学物質を用いたトランスフェクションが含まれる。多くの確立された遺伝子治療技術が、dsRNA を細胞に導入するために更に利用され得る。例えばウイルス構築体をウイルス粒子内に導入することによって、細胞内への発現構築体の効率的な導入、及び発現構築体によってコードされるRNA の転写が達成され得る。B2M 発現を減少させるために用いられてもよいRNAi剤の特定の例として、(Matin 等著,「Specific knockdown of Oct4 and beta2-microglobulin expression by RNA interference in human embryonic stem cells and embryonic carcinoma cells」,Stem Cells (2004) 22: 659-68、及び国際公開第2004/085654号パンフレットに記載されているような)(センス)5'-GAUUCAGGUUUACUCACGUdTdT-3'(配列番号01)のセンス配列及び(アンチセンス)5'-ACGUGAGUAAACCUGAAUCdTdT-3'(配列番号02)のアンチセンス配列を有するB2M に対応するdsRNA 及び短干渉RNA(siRNA)、(Goyos 等著,「Involvement of nonclassical MHC class Ib molecules in heat shock protein-mediated anti-tumor responses」,(2007) 37: 1494-501に記載されているような)shRNA (GCCACTCCCACCCTTTCTCAT)(配列番号03)、並びにFigueiredo等著,「Generation of HLA-deficient platelets from hematopoietic progenitor cells」,Transfusion (2010) 50: 1690-701、Bhatt等著,「Knockdown of beta2-microglobulin perturbs the subcellular distribution of HFE and hepcidin」,Biochemical and Biophysical Research Communications (2009) 378: 727-31、Elders等著,「Targeted knockdown of canine KIT (stem cell factor receptor) using RNA interference」,Veterinary Immunology and Immunopathology (2011) 141:151-6、Heikkila等著,「Internalization of coxsackievirus A9 is mediated by beta 2-microglobulin, dynamin, and Arf6 but not by caveolin-1 or clathrin」,(2010) 84: 3666- 81、Figueiredo等著,「Class-, gene-, and group-specific HLA silencing by lentiviral shRNA delivery」,(2006) 84: 425-37、国際公開第2004/020586号パンフレット、米国特許出願公開第2004/0127445 号明細書及び米国特許出願公開第2013/0096370 号明細書に開示されているようなRNAi剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
場合によっては、細胞内でのB2M 遺伝子の発現を下方制御するためにアンチセンス分子が使用され得る。アンチセンス剤は、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN )、特に天然核酸から化学修飾された合成ODN 、又はRNA のようなアンチセンス分子を発現する核酸構築体であってもよい。アンチセンス配列は、標的タンパク質のmRNAに相補的であり、標的タンパク質の発現を阻害する。アンチセンス分子は、様々な機構、例えば翻訳に利用可能なmRNAの量の減少、RNAse H の活性化又は立体障害によって遺伝子発現を抑制する。アンチセンス分子の1つ又は組合せを投与してもよく、組合せは多くの異なる配列を含んでもよい。
【0030】
アンチセンス分子は、適切なベクターでの標的遺伝子配列の全て又は一部の発現によって生成されてもよく、アンチセンス鎖がRNA 分子として生成されるように、転写開始が方向付けられている。或いは、アンチセンス分子は合成オリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは一般に、少なくとも約7ヌクレオチド、通常少なくとも約12ヌクレオチド、更に通常少なくとも約20ヌクレオチドであり、約500 ヌクレオチド以下、通常約50ヌクレオチド以下、更に通常約35ヌクレオチド以下であり、長さは、交差反応の欠如などを含む抑制の効率性、特異性によって制御されている。長さが7~8塩基の短いオリゴヌクレオチドは、遺伝子発現の強力且つ選択的な抑制剤になり得る(Wagner等著,Nature Biotechnol. (1996)14:840-844参照)。
【0031】
内因性センス鎖mRNA配列の特定の一又は複数の領域を、アンチセンス配列によって相補的であるように選択する。オリゴヌクレオチドに特定の配列を選択する際に、インビトロ又は動物モデルでの標的遺伝子の発現を抑制すべく複数の候補配列を分析する経験的方法を使用してもよい。配列の組合せを更に使用してもよく、mRNA配列の複数の領域をアンチセンスの相補性のために選択する。
【0032】
アンチセンスオリゴヌクレオチドを、本技術分野で公知の方法によって化学的に合成してもよい(Wagner等著,(1993)、上記参照)。オリゴヌクレオチドの細胞内安定性及び結合親和性を増加させるためにオリゴヌクレオチドを天然のリン酸ジエステル構造から化学的に修飾してもよい。バックボーン、糖又は複素環塩基の化学的性質を変える多くのこのような修飾が文献に記載されている。バックボーンの化学的性質の有用な変化には、ホスホロチオエート及びホスホロジチオエートがあり、非架橋酸素の両方が硫黄、ホスホロアミダイト、アルキルホスホトリエステル及びボラノリン酸塩で置換される。アキラルリン酸塩誘導体は、3'-O-5'-S-ホスホロチオエート、3'-S-5'-O-ホスホロチオエート、3'-CH.sub.2-5'-O-ホスホネート及び3'-NH-5'-O-ホスホロアミダイトを含んでいる。ペプチド核酸はリボースリン酸ジエステルバックボーン全体をペプチド結合と置換する。糖修飾を安定性及び親和性を高めるために更に使用する。デオキシリボースのαアノマーを使用してもよく、塩基は天然のβアノマーに対して反転している。リボース糖の2'-OH を変えて2'-O-メチル糖又は2'-O-アリル糖を形成し、親和性を含まずに分解に対する耐性を与えてもよい。複素環塩基の修飾は適切な塩基対を維持しなければならない。幾つかの有用な置換として、デオキシチミジンのためのデオキシウリジン;デオキシシチジンのための5-メチル-2'-デオキシシチジン及び5-ブロモ-2'-デオキシシチジンが含まれている。デオキシチミジン及びデオキシシチジンを夫々置換するときに親和性及び生物活性を高めるために、5-プロピニル-2'-デオキシウリジン及び5-プロピニル-2'-デオキシシチジンが示されている。B2M 発現を減少させるために用いられてもよいアンチセンス剤の特定の例として、国際公開第2004/004575号パンフレットに記載されているような以下の表1に記載されているアンチセンス剤、並びにLichtenstein等著,「Effects of beta-2 microglobulin anti-sense oligonucleotides on sensitivity of HER2/neu oncogene-expressing and nonexpressing target cells to lymphocyte-mediated lysis」,Cell Immunology (1992) 141: 219-32、Ogretmen等著,「Molecular mechanisms of loss of beta 2-microglobulin expression in drug-resistant breast cancer sublines and its involvement in drug resistance」,Biochemistry (1998) 37: 11679-91、国際公開第2004/020586号パンフレット、国際公開第2006/130949号パンフレット、米国特許第7553484 号明細書及び米国特許第8715654 号明細書に記載されているアンチセンス剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
【0034】
アンチセンス阻害剤の代用として、触媒核酸化合物、例えばリボザイム、アンチセンス複合体などを遺伝子発現を抑制するために使用してもよい。リボザイムをインビトロで合成して患者に投与してもよく、又はリボザイムが標的細胞で合成される発現ベクターでリボザイムをコードしてもよい(例えば、国際公開第9523225 号パンフレット、及びBeigelman等著,Nucl. Acids Res. (1995) 23:4434-42参照)。触媒活性を有するオリゴヌクレオチドの例が国際公開第9506764 号パンフレットに記載されている。mRNA加水分解を調節することができる金属複合体、例えばテルピリジルCu(II)を有するアンチセンスODN の複合体がBashkin等著,Appl. Biochem. Biotechnol. (1995) 54:43-56に記載されている。
【0035】
別の実施形態では、B2M 遺伝子が機能タンパク質を発現しないようにB2M 遺伝子を不活性化する。不活性化するとは、遺伝子、例えば遺伝子のコード配列及び/又は調節要素が、例えば少なくともB2M 老化障害の活性に関して機能B2M タンパク質を発現しないように遺伝的に改変されることを意味する。変化又は変異は、例えば一又は複数のヌクレオチド残基の欠失、一又は複数のヌクレオチド残基の交換などによって多くの異なる形態を有してもよい。コード配列でこのような変化をもたらす一手段は相同組換えによるものである。相同組換えにより標的遺伝子の改変をもたらす方法は、米国特許第6074853 号明細書、米国特許第5998209 号明細書、米国特許第5998144 号明細書、米国特許第5948653 号明細書、米国特許第5925544 号明細書、米国特許第5830698 号明細書、米国特許第5780296 号明細書、米国特許第5776744 号明細書、米国特許第5721367 号明細書、米国特許第5614396 号明細書及び米国特許第5612205 号明細書に記載されている方法を含めて本技術分野で知られており、これらの出願の開示内容は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0036】
ある実施形態では、B2M タンパク質のドミナントネガティブ変異体が更に対象であり、細胞のこのような変異体の発現によって、B2M を介した老化による障害が調整される、例えば減少する。B2M のドミナントネガティブ変異体は、ドミナントネガティブB2M 活性を示す変異タンパク質である。本明細書に使用されているように、「ドミナントネガティブB2M 活性」又は「ドミナントネガティブ活性」という用語は、B2M のある特定の活性の抑制、否定又は減少を指し、特にB2M を介した老化による障害を指す。ドミナントネガティブ変異は、対応するタンパク質に対して容易に生じる。ドミナントネガティブ変異は、基質結合領域での変異;触媒領域での変異;タンパク質結合領域(例えば多量体の生成領域、エフェクタ領域又は活性化タンパク質結合領域)での変異;細胞局在化領域での変異などを含む複数の異なる機構によって作用する。変異ポリペプチドが、(他の対立遺伝子から生成された)野生型ポリペプチドと相互に作用して非機能性多量体を形成してもよい。ある実施形態では、変異ポリペプチドは過剰生成される。このような効果を有する点突発変異がもたらされる。加えて、タンパク質の末端への様々な長さの異なるポリペプチドの融合、又は特定の領域の欠失はドミナントネガティブ変異体を生成し得る。一般的な方法がドミナントネガティブ変異体を生成するために利用可能である(例えばHerskowitz著,Nature (1987) 329:219、及び上記の引用文献参照)。このような技術を使用して、タンパク質機能を決定するために有用な機能喪失変異をもたらす。当業者によく知られている方法は、細胞に導入された外来遺伝子の発現を向上させるためのコード配列及び適切な転写制御シグナル及び翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築すべく使用され得る。これらの方法として、例えばインビトロ組換えDNA 技術、合成技術及びインビボ遺伝子組換えが含まれる。或いは、遺伝子産物配列をコードすることができるRNA を、例えばシンセサイザを使用して化学的に合成してもよい。例えば、「Oligonucleotide Synthesis」,1984, Gait, M. J. ed., IRL Press, Oxfordに記載されている技術参照。
【0037】
更に他の実施形態では、作用剤は、B2M に結合することにより、及び/又は第2のタンパク質、例えばMHC1のタンパク質メンバーへのB2M の結合を抑制することによりB2M 活性を調整する、例えば抑制する作用剤である。例えば、B2M と結合してB2M の活性を抑制する小分子が対象である。注目する天然の小分子化合物又は合成した小分子化合物として、有機分子のような多くの化合分類が含まれ、例えば分子量が50ダルトンより多く約2,500 ダルトン未満の小有機化合物が含まれる。候補の作用剤は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合のための官能基を有しており、典型的には少なくともアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基又はカルボキシル基、好ましくは化学官能基の内の少なくとも2つを含んでいる。候補の作用剤は、上記の官能基の一又は複数で置換された環状炭素構造若しくは複素環状構造及び/又は芳香族構造若しくは多環芳香族構造を含んでもよい。候補の作用剤は、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体又はこれらの組合せを含む生体分子中に更に存在する。このような生体分子は、幾つかある方法の中で特に、以下に記載されているスクリーニングプロトコルを用いて識別されてもよい。B2M 発現を減少させるために用いてもよい小分子作用剤の特定の例として、(Woods等著,「Ligand binding to distinct states diverts aggregation of an amyloid-forming protein」,Nature Chemical Biology (2011) 7: 730-9に記載されているような)リファマイシンSV: (7S,9E,11S,12R,13S,14R,15R,16R,17S,18S,19E,21Z)-2,15,17,27,29-ペンタヒドロキシ-11-メトキシ-3,7,12,14,16,18,22-ヘプタメチル-26-{(E)-[(4-メチルピペラジン-1-yl)イミノ]メチル}-6,23-ジオキソ-8,30-ジオキサ-24-アザテトラシクロ[23.3.1.14,7.05,28]トリアコンタ-1(28),2,4,9,19,21,25(29),26-オクタン-13-yl アセテート;(Giorgetti等著,「Effect of tetracyclines on the dynamics of formation and destructuration of beta2-microglobulin amyloid fibrils」,The Journal of Biological Chemistry (2011) 286: 2121-31に記載されているような)メクロサイクリン、ドキシサイクリン、4-エピ-オキシテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、アンヒドロクロルテトラサイクリン、メタサイクリン及びオキシテトラサイクリン;(米国特許第8754034 号明細書に記載されているような)ペプチドD-TLKIVW(D-TWKLVL)、D-YVIIER及びD-DYYFEF;並びにMorozov 等著,「Survey of small molecule and ion binding to beta 2-microglobulin-possible relation to BEN」,(1991) 34: S85-8、Regazzoni等著,「Screening of fibrillogenesis inhibitors of B2-microglobulin: integrated strategies by mass spectrometry capillary electrophoresis and in silico simulations」,Analytica Chimica Acta (2011) 685: 153-61、Quaglia等著,「Search of ligands for the amyloidogenic protein beta2-microglobulin by capillary electrophoresis and other techniques」,Electrophoresis (2005) 26: 4055-63、Ozawa等著,「Inhibition of beta2-microglobulin amyloid fibril formation by alpha2-macroglobulin」,The Journal of Biological Chemistry (2011) 286: 9668-9676、Pullara 及びEmanuele著,「Early stages of beta2-microglobulin aggregation and the inhibiting action of alphaB-crystallin」,(2008) 73: 1037-46、Wanchu等著,「Suppression of beta 2 microglobulin by pentoxiphylline therapy in asymptomatic HIV infected individuals」,(2001) 113: 75-7、Brancolini等著,「Can small hydrophobic gold nanoparticles inhibit B2-microglobulin fibrillation?」,Nanoscale (2014) 6: 7903-11、米国特許出願公開第2004/0127445 号明細書及び米国特許出願公開第2013/0331327 号明細書に記載されている作用剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
ある実施形態では、投与される活性剤はB2M 特異的結合メンバーである。一般に、有用なB2M 特異的結合メンバーは、ヒトB2M のような標的とするB2M に対する親和性(Kd)を示し、老化に関連する障害B2M 活性の所望の減少をもたらすのに十分である。本明細書に使用されているように、「親和性」という用語は2つの活性剤の可逆的結合の平衡定数を指し、「親和性」は解離定数(Kd)として表現され得る。親和性は、無関係なアミノ酸配列の抗体の親和性より少なくとも1倍大きく、少なくとも2倍大きく、少なくとも3倍大きく、少なくとも4倍大きく、少なくとも5倍大きく、少なくとも6倍大きく、少なくとも7倍大きく、少なくとも8倍大きく、少なくとも9倍大きく、少なくとも10倍大きく、少なくとも20倍大きく、少なくとも30倍大きく、少なくとも40倍大きく、少なくとも50倍大きく、少なくとも60倍大きく、少なくとも70倍大きく、少なくとも80倍大きく、少なくとも90倍大きく、少なくとも100 倍大きく、又は少なくとも1000倍以上大きい。標的タンパク質に対する特異的結合メンバーの親和性は、例えば約100 ナノモル(nM)~約0.1 nM、約100 nM~約1ピコモル(pM)、又は約100 nM~約1フェムトモル(fM)以上であり得る。「結合」という用語は、例えば塩橋及び水架橋のような相互作用を含む、共有結合相互作用、静電気相互作用、疎水性相互作用及びイオン相互作用及び/又は水素結合相互作用による2つの分子間の直接会合を指す。ある実施形態では、抗体はナノモルの親和性又はピコモルの親和性でヒトB2M に結合する。ある実施形態では、抗体は、約100 nM未満、50nM未満、20nM未満、20nM未満又は1nM未満のKdでヒトB2M と結合する。
【0039】
B2M 特異的結合メンバーの例として、B2M 抗体及びその結合断片が含まれる。このような抗体の非制限例として、B2M のあらゆるエピトープに対する抗体が含まれる。更に、二重特異性抗体、つまり2つの結合領域の各々が異なる結合エピトープを認識する抗体が包含される。ヒトB2M のアミノ酸配列は、Cunningham等著,「The complete amino acid sequence of beta-2-microglobulin」,Biochemistry (1973) 12: 4811-4821に開示されている。
【0040】
用いられてもよい抗体特異的結合メンバーとして、完全抗体又はあらゆるアイソタイプの免疫グロブリン、Fab 断片、Fv断片、scFv断片及びFd破片を含むがこれらに限定されない抗原への特異的結合を保持する抗体の断片、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、並びに、抗体の抗原結合部分及び非抗体タンパク質を含む融合タンパク質が含まれる。抗体は、例えば放射性同位元素、検出可能な生成物を生成する酵素、蛍光性タンパク質などで検出可能に標識されてもよい。抗体は、特異的結合対のメンバー、例えばビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対のメンバー)などの他の部分に更に結合されてもよい。更にこの用語に、Fab'断片、Fv断片、F(ab')2 断片、及び/又は抗原への特異的結合を保持する他の抗体断片、並びにモノクローナル抗体が包含される。抗体は一価又は二価であってもよい。
【0041】
「抗体断片」は、無処置抗体の一部、例えば無処置抗体の抗原結合領域又は可変領域を含んでいる。抗体断片の例として、Fab 断片、Fab'断片、F(ab')2 断片及びFv断片;二重特異性抗体;線形抗体(Zapata等著,Protein Eng. 8(10): 1057-1062 (1995));単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多特異性抗体が含まれる。抗体のパパイン消化によって、2つの同一の抗原結合断片が生成され、単一の抗原結合部位を夫々有する「Fab 」断片、及び容易に結晶化する能力を示す残留「Fc」破片と称される。ペプシン処置によって、2つの抗原結合部位を有して抗原を依然として架橋結合できるF(ab')2 断片が生成される。
【0042】
「Fv」は、完全抗原認識結合部位を含む最小限の抗体断片である。この領域は、強力な非共有結合の1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変領域の二量体から構成されている。この構成では、各可変領域の3つのCDRSが、VH-VL 二量体の表面に抗原結合部位を定めるべく相互に作用する。合計で6つのCDR が抗体への抗原結合特異性を与える。しかしながら、1つの可変領域(又は抗原に特異的な3つのCDR のみを有するFvの半分)でも、結合部位全体より親和性が低いが、抗原を認識して結合する能力を有する。
【0043】
「Fab 」破片は、軽鎖の定常領域及び重鎖の第1の定常領域(CH1 )を更に含んでいる。Fab 断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1 領域のカルボキシル末端に複数の残基を追加しているため、Fab'破片とは異なる。Fab'-SH は、定常領域の一又は複数のシステイン残基が自由なチオール基を支持するFab'に関して本明細書に記載されているものである。F(ab')2 抗体断片は、ヒンジシステインを間に有するFab'断片の対として当初は生成されていた。抗体断片の他の化学結合が更に知られている。
【0044】
あらゆる脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、軽鎖の定常領域のアミノ酸配列に基づいてカッパ及びラムダと称される2つの明らかに異なるタイプの内の1つに割り当てられ得る。抗体の重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは異なる分類に割り当てられ得る。免疫グロブリンの5つの主な分類IgA 、IgD 、IgE 、IgG 及びIgM があり、これらの内の幾つかは、下位分類(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA 及びIgA2に更に分割されてもよい。
【0045】
「単鎖Fv」抗体断片又は「sFv 」抗体断片は抗体のVH領域及びVL領域を有しており、これらの領域は単一のポリペプチド鎖に存在する。ある実施形態では、Fvポリペプチドは、VH領域及びVL領域間にポリペプチドリンカを更に有しており、そのため、sFv は抗原結合のための所望の構造を形成することができる。sFv の考察のために、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)参照。
【0046】
従って、本開示に関連して使用されてもよい抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二重特異性抗体、Fab 抗体断片、F(ab)2抗体断片、Fv抗体断片(例えばVH又はVL)、単鎖Fv抗体断片及びdsFv抗体断片を包含し得る。更に、抗体分子は完全ヒト抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体であってもよい。ある実施形態では、抗体分子はモノクローナルの完全ヒト抗体である。
【0047】
本開示に関連して使用されてもよい抗体は、あらゆる免疫グロブリン定常領域にリンクされた成熟した又は未処理のあらゆる抗体可変領域を含み得る。軽鎖可変領域が定常領域にリンクされる場合、軽鎖可変領域はカッパ鎖定常領域になり得る。重鎖可変領域が定常領域にリンクされる場合、重鎖可変領域は、ヒトガンマ1、ガンマ2、ガンマ3又はガンマ4定常領域、より好ましくはガンマ1、ガンマ2又はガンマ4、更に好ましくはガンマ1又はガンマ4になり得る。
【0048】
ある実施形態では、B2M に対する完全ヒトモノクローナル抗体は、マウス系ではなくヒト免疫系のトランスジェニックマウス保有部分を使用して生成される。
【0049】
抗体又は免疫グロブリン分子のアミノ酸配列の軽微な変化が本発明に包含されており、アミノ酸配列における変化は配列の少なくとも75%、例えば少なくとも80%、90%、95%又は99%を維持する。特に、保存的なアミノ酸置換が検討されている。保存的置換は、アミノ酸の側鎖に関連しているアミノ酸のファミリー内で生じるものである。アミノ酸の変化が機能性ペプチドになるか否かは、ポリペプチド誘導体の比活性を分析することにより容易に決定され得る。抗体又は免疫グロブリン分子の断片(又は類似体)は、当業者によって容易に調製され得る。断片又は類似体の好ましいアミノ末端及びカルボキシ末端が機能領域の境界の近くで生じる。構造領域及び機能領域は、ヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列のデータを公開されている配列データベース又は公開されていない配列データベースと比較することにより識別され得る。好ましくは、コンピュータ化された比較法を使用して、既知の構造及び/又は機能の他のタンパク質で生じる配列モチーフ又は予測されるタンパク質立体配座領域を識別する。既知の三次元構造に折り畳まれるタンパク質配列を識別する方法が知られている。配列モチーフ及び構造的立体配座を使用して、本発明に従って構造領域及び機能領域を画定してもよい。
【0050】
B2M 発現を減少させるために用いられてもよい抗体剤の特定の例として、Immunotech S.A. (マルセイユ,フランス)からの抗B2m B1-1G6(免疫グロブリンG2a [IgG2])、B2-62-2 (IgG2a )及びC21-48A (IgG2b);(Corbeau 等著,「An early postinfection signal mediated by monoclonal anti-beta 2 microglobulin antibody is responsible for delayed production of human immunodeficiency virus type 1 in peripheral blood mononuclear cells」,Journal of Virology (1990) 64: 1459-64に開示されているような)抗B2m MAb HC11-151-1 (IgG1) ;クローンB2、マウスIgG1(Sero-tec Ltd. ,オックスフォード,UK);Yang等著,「Targeting beta(2)-microglobulin for induction of tumor apoptosis in human hematological malignancies」,(2006) 10: 295-307に開示されているようなヒトB2M に対するマウスmAbs;(Pokrass 等著,「Activation of complement by monoclonal antibodies that target cell-associated B2-microglobulin: implications for cancer immunotherapy」,(2013) 56: 549-60に開示されているような)1B749 (IgG2a) 及びHB28 (IgG2b);(Brodsky 等著,「Characterization of a monoclonal anti-beta 2-microglobulin antibody and its use in the genetic and biochemical analysis of major histocompatibility antigens」,European Journal of Immunology (1979) 9: 536-45に開示されているような)抗B2ミクログロブリン(BBM.1 抗体);(Korkolopoulou 著,「Loss of antigen-presenting molecules (MHC class I and TAP -1) in lung cancer」,British Journal of Cancer (1996) 73: 148-53に開示されているような)BBM-1 ;(Liabeuf 等著,「An antigenic determinant of human beta 2-microglobulin masked by the association with HLA heavy chains at the cell surface: analysis using monoclonal antibodies」,Journal of Immunology (1981) 127: 1542-8に開示されているような)B1.1G6、C23.24.2、B2.62.2 及びC21.48A1;並びにZhang 等著,「Anti-B2M monoclonal antibodies kill myeloma cells via cell- and complement-mediated cytotoxicity」,International Journal of Cancer (2014) 135: 1132-41、Yang等著,「Anti beta2-microglobulin monoclonal antibodies induce apoptosis in myeloma cells by recruiting MHC class I to and excluding growth and survival cytokine receptors from lipid rafts」,Blood (2007) 110: 3028-35、Josson等著,「Inhibition of B2-microglobulin/hemochromatosis enhances radiation sensitivity by induction of iron overload in prostate cancer cells」,(2013) 8: e68366、Par 及びFalus 著,「Serum beta 2-microglobulin (beta 2m) and anti-beta 2m antibody in chronic hepatitis」,Acta Medica Hungarica (1986) 43:343-9、Huang 等著,「Androgen receptor survival signaling is blocked by anti-beta2-microglobulin monoclonal antibody via a MAPK/lipogenic pathway in human prostate cancer cells」,The Journal of Biological Chemistry (2010) 285: 7947-56、Tam 及びMessner 著,「Differential inhibition of mitogenic responsiveness by monoclonal antibodies to beta 2-microglobulin」,(1991) 133: 219-33、Domanska等著,「Atomic structure of a nanobody-trapped domain-swapped dimer of an amyloidogenic beta2-microglobulin variant」,Proc Natl Acad Sci U S A. (2011) 108(4):1314-9、Falus 等著,「Prevalence of anti-beta-2 microglobulin autoantibodies in sera of rheumatoid arthritis patients with extra-articular manifestations」,Annals of the Rheumatic Diseases, (1981) 40: 409-413、Shabunina 等著,「Immunosorbent for Removal of B2-microglobulin from Human Blood Plasma」,Bulletin of Experimental Biology and Medicine (2001) 132: 984-986)、国際公開第2010/017443号パンフレット、米国特許第7341721 号明細書、国際公開第1996/002278号パンフレット、国際公開第2003/079023号パンフレット及び国際公開第1990/013657号パンフレットに記載されているような抗体剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
活性剤が成体哺乳類に投与される実施形態では、所望の活性をもたらし得るあらゆる簡便な投与プロトコルを使用して一又は複数の活性剤を成体哺乳類に投与してもよい。従って、活性剤は、様々な製剤、例えば治療投与のための薬学的に許容される媒体に組み入れられ得る。より具体的には、本発明の活性剤は、適切で薬学的に許容される担体又は希釈剤との組合せによって医薬組成物として処方されることができ、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏(例えばスキンクリーム)、溶液、座薬、注射、吸入剤及びエアロゾルのような固体、半固体、液体又はガスの形態の製剤として処方されてもよい。そのため、活性剤の投与は、経口投与、口腔内投与、直腸投与、非経口投与、腹腔内投与、皮内投与、経皮投与、気管内投与などを含む様々な方法で行われ得る。
【0052】
医薬品剤型では、活性剤を薬学的に許容される塩の形態で投与してもよく、或いは、活性剤を単独で又は適切な会合で、及び他の薬学的に活性な化合物との組合せで更に使用してもよい。以下の方法及び賦形剤は単に例示であり、全く限定するものではない。
【0053】
経口剤のために、活性剤を単独で、又は錠剤、粉末、顆粒若しくはカプセルを形成するための適切な添加物と組み合わせて、例えばラクトース、マンニトール、コーンスターチ若しくはジャガイモデンプンのような従来の添加物;結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ若しくはゼラチンのような結合剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン若しくはカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤;タルク若しくはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;及び必要に応じて希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤及び香料添加剤と組み合わせて使用し得る。
【0054】
活性剤は、植物油又は他の同様の油、合成脂肪酸グリセリン、合成脂肪族系酸グリセリド、高級脂肪酸又はプロピレングリコールのエステルのような水性溶媒又は非水溶媒に、必要に応じて溶解剤、等張剤、懸濁剤、乳化剤、安定剤及び防腐剤のような従来の添加物と共に溶解する、懸濁する又は乳化させることにより、注射剤として処方され得る。
【0055】
活性剤は、吸入によって投与すべくエアロゾル製剤で利用され得る。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの許容可能な高圧ガスとして処方され得る。
【0056】
更に活性剤は、乳化基剤又は水溶性基剤のような様々な基剤と混合することにより座薬に形成され得る。本発明の化合物は、坐薬によって直腸に投与され得る。坐薬は、体温では溶けるが室温では固まっているココアバター、カーボワックス及びポリエチレングリコールなどの媒体を含み得る。
【0057】
シロップ、エリキシル剤及び懸濁液のような経口投与又は直腸投与のための単位剤形が提供されてもよく、各投与単位、例えば小さじ1杯、大さじ1杯、錠剤又は座薬は、一又は複数の阻害剤を含む所定量の組成物を含有している。同様に、注射又は静脈内投与のための単位剤形は、滅菌水、生理食塩水又は別の薬学的に許容される担体中の溶液として組成物に一又は複数の阻害剤を含んでもよい。
【0058】
本明細書に使用されているような「単位剤形」という用語は、ヒト及び動物の被験体の単位用量として適切な物理的に別個の単位を指し、各単位は、薬学的に許容される希釈剤、担体又は媒体に関連して所望の効果をもたらすのに十分な量で計算された所定量の本発明の化合物を含んでいる。本発明の新しい単位剤形の仕様は、用いられる特定の化合物、達成される効果、及び宿主内での各化合物に関連した薬力学によって決まる。
【0059】
媒体、アジュバント、担体又は希釈剤のような薬学的に許容される賦形剤は容易に入手可能である。更に、pH調整緩衝剤、等張化剤、安定剤、湿潤剤などの薬学的に許容される補助物質が容易に入手可能である。
【0060】
活性剤がポリペプチド、ポリヌクレオチド、類似体又はこれらの模倣物である場合、活性剤は、ウイルス感染、マイクロインジェクション又はベシクルの融合を含む複数の経路によって組織又は宿主細胞に導入されてもよい。Furth 等著,Anal Biochem. (1992) 205:365-368に記載されているように、ジェット注射を筋肉内投与のために更に使用してもよい。金の微小射出体をDNA で覆って、次に皮膚細胞に射出する文献(例えばTang等著,Nature (1992) 356:152-154参照)に記載されているように、DNA を金の微粒子上に覆って、粒子射出デバイス又は「遺伝子銃」によって皮内に運んでもよい。核酸治療薬のために、本技術分野で知られているようなウイルスベクター系及び非ウイルスベクター系を含む多くの異なる送達媒体が使用される。
【0061】
用量レベルが特定の化合物、送達媒体の性質などの関数として変わり得ると当業者は容易に理解する。所与の化合物の好ましい用量は、様々な手段によって当業者により容易に決定可能である。
【0062】
有効量の活性剤を成体哺乳類に投与する実施形態では、障害の低下、例えば成体哺乳類の認知機能低下及び/又は認知機能改善を証明するように、適切な期間、例えば2週間以上を含む1週間以上、例えば3週間以上、4週間以上、8週間以上で投与されるとき、用量が有効である。例えば、有効用量は、適切な期間、例えば少なくとも約1週間、場合によっては約2週間以上、最大約3週間、4週間、8週間以上投与されるとき、自然老化又は老化に関連する障害を患う患者の認知機能低下を、例えば約20%以上、例えば30%以上、40%以上又は50%以上、場合によっては60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上遅らせる、例えば停止させる用量である。場合によっては、有効量又は用量の活性剤は、疾患の状態の進行を遅らせるか又は停止させるだけでなく、状態の反転を引き起こす、つまり認知能力の向上を引き起こす。例えば、場合によっては、有効量は、適切な期間、通常少なくとも約1週間、場合によっては約2週間以上、最大約3週間、4週間、8週間以上投与されるとき、老化に関連する認知障害を患う個体の認知能力を、血液製剤を投与する前の認知に対して、例えば1.5 倍、2倍、3倍、4倍、5倍、場合によっては6倍、7倍、8倍、9倍又は10倍以上向上させる量である。
【0063】
必要に応じて、処置の有効性をあらゆる簡便なプロトコルを使用して評価してもよい。認知能力、例えば注意力及び集中力、複雑なタスク及び概念を学習する能力、記憶力、情報処理能力、視空間機能、言語を生成して理解する能力、問題を解決して決定する能力、及び実行機能を行う能力を測定するための認識力テスト及びIQテストが本技術分野でよく知られており、これらのいずれかを使用して、例えば有効量が投与されたことを確認すべく、本血液製剤で処置する前及び/又は処置する間並びに処置した後の個体の認知能力を測定してもよい。このようなテストには、例えば、the General Practitioner Assessment of Cognition(GPCOG)テスト、記銘力障害スクリーニングテスト(the Memory Impairment Screen)、ミニメンタルステート検査(the Mini Mental State Examination(MMSE))、記憶に関するthe California Verbal Learning Test,Second Edition,Short Form、the Delis-Kaplan Executive Functioning Systemテスト、アルツハイマー病評価尺度(the Alzheimer's Disease Assessment Scale (ADAS-Cog))、the Psychogeriatric Assessment Scale(PAS)などが含まれる。脳機能の改善の進行を、磁気共鳴画像法(MRI )又は陽電子放射断層撮影(PET )などの脳撮像技術によって検出してもよい。広範囲の更なる機能的な評価を、日常生活、実行機能、移動性などを監視するために適用してもよい。ある実施形態では、本方法は、認知能力を測定し、血液製剤を投与する前の個体の認知能力と比較して血液製剤を投与した後の認知機能低下の減少率、認知能力の安定化及び/又は認知能力の増加を検出する工程を有する。血液製剤を投与してから1週間以上後、例えば1週間、2週間、3週間以上、例えば4週間、6週間又は8週間以上、例えば3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月又は6ヶ月以上後にこのような測定を行ってもよい。
【0064】
生化学的に言うと、活性剤の「有効量」又は「有効用量」は、自然老化現象中又は老化に関連する障害の進行中に生じるシナプス可塑性の低下及びシナプスの消失を約20%以上、例えば30%以上、40%以上又は50%以上、場合によっては60%以上、70%以上、80%以上又は90%以上、ある場合には約100 %、つまり無視できる程度まで抑制する、拮抗する、減少させる、低下させる又は抑止する、場合によっては反転する活性剤の量を意味する。言い換えれば、本発明の方法に従って処置される成体哺乳類の細胞は、手がかり、例えば活性の手がかりに更に応答するようになり、シナプスの生成及び維持を促進する。
【0065】
例えば上記に記載されているような本発明の方法の実施は、長期増強の導入としてインビトロ及びインビボの両方で、観察されるシナプス可塑性の向上として現れてもよい。例えば、目が覚めている個体に非侵襲的な刺激技法を行って局所的な神経活性のLTP のような長期継続的な変化を引き起こす(Cooke SF, Bliss TV (2006) Plasticity in the human central nervous system. Brain. 129(Pt 7):1659-73)ことにより;例えば陽電子放射断層撮影、機能的磁気共鳴画像法及び/又は経頭蓋磁気刺激を用いることによって個体の可塑性及び神経回路の活性の増加をマッピングする(Cramer and Bastings,「Mapping clinically relevant plasticity after stroke」,Neuropharmacology (2000)39:842-51)ことにより;及び、学習の後の神経可塑性、つまり記憶の向上を検出することにより、例えば検索に関する脳の活性をアッセイする(Buchmann等著,「Prion protein M129V polymorphism affects retrieval-related brain activity」,Neuropsychologia. (2008) 46:2389-402)か、又は例えば見慣れた物体及び見慣れない物体との反復プライミング後の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)によって脳組織を撮像する(Soldan等著,「Global familiarity of visual stimuli affects repetition-related neural plasticity but not repetition priming」,Neuroimage. (2008) 39:515-26;Soldan等著,「Aging does not affect brain patterns of repetition effects associated with perceptual priming of novel objects」,J. Cogn. Neurosci. (2008) 20:1762-76)ことによって、神経回路におけるLTP の導入を目が覚めている個体で観察してもよい。ある実施形態では、本方法は、シナプス可塑性を測定し、血液製剤を投与する前の個体のシナプス可塑性と比較して血液製剤を投与した後のシナプス可塑性の消失の減少率、シナプス可塑性の安定化及び/又はシナプス可塑性の増加を検出する工程を有する。血液製剤を投与してから1週間以上後、例えば1週間、2週間、3週間以上、例えば4週間、6週間又は8週間以上、例えば3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月又は6ヶ月以上後にこのような測定を行ってもよい。
【0066】
場合によっては、本方法によって、例えば(以下の実験のセクションで記載されているような)適切な対照と比較して宿主の一又は複数の組織内の一又は複数の遺伝子の発現レベルが変化する。所与の遺伝子の発現レベルの変化は、0.5 倍以上、例えば1.5 倍以上を含む1.0 倍以上であってもよい。組織は異なってもよく、場合によっては神経系組織であり、例えば脳組織を含む中枢神経系組織、例えば海馬組織である。場合によっては、海馬の遺伝子発現の変調が、例えば適切な対照と比較して海馬の可塑性の向上として現れる。
【0067】
場合によっては、処置によって、例えば(以下の実験のセクションで記載されているような)適切な対照と比較して宿主の一又は複数の組織内の一又は複数のタンパク質のレベルが高められる。所与のタンパク質のタンパク質レベルの変化は、0.5 倍以上、例えば1.5 倍以上を含む1.0 倍以上であってもよく、場合によっては、タンパク質レベルは、例えば健康な野生型レベルの50%以下、例えば10%以下を含む25%以下、例えば5%以下の範囲内で健康な野生型レベルのタンパク質レベルに近似してもよい。組織は異なってもよく、場合によっては神経系組織であり、例えば脳組織を含む中枢神経系組織、例えば海馬組織である。
【0068】
場合によっては、本方法によって、一又は複数の組織の一又は複数の構造的変化がもたらされる。組織は異なってもよく、場合によっては神経系組織であり、例えば脳組織を含む中枢神経系組織、例えば海馬組織である。注目する構造的変化は、例えば適切な対照と比較した、海馬の歯状回(DG)の成熟ニューロンの樹状突起スパインの密度の増加を含んでいる。場合によっては、海馬の構造の変調が、例えば適切な対照と比較してシナプス形成の向上として現れる。場合によっては、本方法によって、例えば適切な対照と比較して長期増強が高められてもよい。
【0069】
場合によっては、例えば上記に記載されているような本方法の実施によって、成体哺乳類の神経発生が増大する。このような増大は、例えば以下の実験のセクションで記載されているような多くの異なる方法で識別され得る。場合によっては、神経発生の増大は、例えばDcx-陽性未熟ニューロンの量として現れ、増大は2倍以上であってもよい。場合によっては、神経発生の増大は、BrdU/NeuN 陽性細胞の数の増加として現れ、増大は2倍以上であってもよい。
【0070】
場合によっては、本方法によって、例えば適切な対照と比較して学習及び記憶が高められる。学習及び記憶の向上を、多くの異なる方法、例えば以下の実験のセクションで述べられている文脈的恐怖条件付けパラダイム及び/又は放射状枝水迷路(RAWM)パラダイムで評価してもよい。文脈的恐怖条件付けによって測定されると、場合によっては処置によって、文脈的な記憶試験ではフリージングが増加するが、手がかりの記憶試験ではフリージングが増加しない。RAWMによって測定されると、場合によっては処置によって、タスクの試験段階中にプラットフォームの位置に関する学習及び記憶が高められる。場合によっては、処置が、例えば適切な対照と比較して海馬に依存する学習及び記憶の認知機能改善の向上として現れる。
【0071】
ある実施形態では、老化に関連する認知障害の処置に適した活性を有する活性剤と共に、例えば上記に記載されているようなB2M レベルの低下がなされてもよい。例えば、アルツハイマー病の認知症状(例えば記憶喪失、混乱並びに思考及び判断に関する問題)を処置する際にある有効性を示す多くの活性剤があり、例えばコリンエステラーゼ阻害剤(例えばドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、タクリン)、メマンチン及びビタミンEがある。別の例として、アルツハイマー病の行動的症状又は精神的症状を処置する際にある有効性を示す多くの作用剤があり、例えばシタロプラム(セレクサ)、フルオキセチン(プロザック)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ゾロフト)、トラゾドン(デジレル)、ロラゼパム(アチバン)、オキサゼパム(セラックス)、アリピラゾール(エビリファイ)、クロザピン(クロザリル)、ハロペリドール(ハルドール)、オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)、リスペリドン(リスパダール)及びジプラシドン(ゲオドン)がある。
【0072】
本方法のある態様では、本方法は、例えば本明細書に記載されているか本技術分野で公知の方法を用いて、処置後の認知及び/又はシナプス可塑性を測定して、認知機能低下若しくはシナプス可塑性の消失の割合が減少していること、及び/又は個体の認知能力若しくはシナプス可塑性が向上していることを決定する工程を更に有する。このような場合、認知又はシナプス可塑性の試験の結果を、この試験の前、例えば2週間前、1ヶ月前、2ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前、1年前、2年前、5年前、10年前、又は更にその前に同一の個体に行われた試験の結果と比較することにより決定する。
【0073】
ある実施形態では、本方法は、血漿を含有する本血液製剤を投与する前に、例えば認知及びシナプス可塑性を測定するための本明細書に記載されているか本技術分野で公知の方法を使用して個体が認知障害を有すると診断する工程を更に有する。場合によっては、診断する工程は、認知及び/又はシナプス可塑性を測定して、認知又はシナプス可塑性の試験の結果を一又は複数の基準、例えば陽性対照及び/又は陰性対照と比較する工程を有する。例えば、基準は、老化に関連する認知障害を示す(つまり陽性対照)か、老化に関連する認知障害を示さない(つまり陰性対照)一又は複数の同年齢の個体によって行われた試験の結果であってもよい。別の例として、基準は、試験の前、例えば2週間前、1ヶ月前、2ヶ月前、3ヶ月前、6ヶ月前、1年前、2年前、5年前、10年前又は更にその前に同一の個体に行われた試験の結果であってもよい。
【0074】
ある実施形態では、本方法は、老化に関連する障害、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、多発性硬化症、複合神経系萎縮、緑内障、運動失調、筋強直性ジストロフィ、認知症などであると個体を診断する工程を更に有する。このような老化に関連する障害を診断する方法は本技術分野でよく知られており、個体を診断する際に当業者によってこれらの方法の内のいずれかを使用してもよい。ある実施形態では、本方法は、個体を老化に関連する障害及び認知障害の両方であると診断する工程を更に有する。
【0075】
有用性
本方法は、個体の認知能力の障害のような老化に関連する障害及びこのような障害に関連する状態を処置する、例えば予防する際に使用される。老化に関連する認知障害を患うか又は発症する危険性がある個体は、約50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上、90歳以上であって、通常100 歳以下、つまり約50歳と100 歳との間の年齢、例えば50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳又は約100 歳であり、自然老化現象に関連した認知障害、例えば軽度認知障害(M.C.I.)を患う個体と、約50歳以上、例えば60歳以上、70歳以上、80歳以上、90歳以上であって、通常100 歳以下、つまり約50歳と90 歳との間の年齢、例えば50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳又は約100 歳であり、認知障害の症状をまだ示し始めていない個体とを含んでいる。自然老化による認知障害の例として、以下が含まれる。
【0076】
軽度認知障害(M.C.I.)は、記憶、又は計画する、指示に従う若しくは決定するような他の精神機能の問題として現れて経時的に悪化する一方、他の精神機能及び日常活動は損なわれない認知の中程度の混乱である。従って、著しいニューロン死が典型的に生じないが、老化脳のニューロンは、亜致死の加齢性の構造変化、シナプスの完全性、及びシナプスでの分子処理を受けやすく、これら全ては認知機能を損なう。
【0077】
例えば本明細書に開示されている方法によって、血漿を含有する本血液製剤での処置によって恩恵を受ける老化に関連する認知障害を患うか又は発症する危険性がある個体は、老化に関連する障害により認知障害を患うあらゆる年齢の個体と、認知障害に典型的に付随する老化に関連する障害と診断されているが、認知障害の症状をまだ示し始めていないあらゆる年齢の個体とを更に含んでいる。このような老化に関連する障害の例として、以下が含まれる。
【0078】
アルツハイマー病(AD)
アルツハイマー病は、b-アミロイドとタウタンパク質から成る神経原線維濃縮体とを更に含んでいる、大脳皮質及び皮質下灰白質内の過剰な数の老人斑に関連した認知機能の進行性の止められない消失である。一般的な形態は60歳を超える人に発症し、年齢が進むにつれてその発生率が上昇する。アルツハイマー病は、高齢者の認知症の65%を超える割合を占める。
【0079】
アルツハイマー病の原因は分かっていない。この疾患は、症例の約15~20%で家族に遺伝する。残りのいわゆる散発的症例はある遺伝的決定因子を有する。この疾患は、ほとんどの初期発症及び一部の晩期発症の症例で常染色体優性遺伝パターンを有するが、晩年における浸透度は様々である。環境因子は活発な研究の焦点である。
【0080】
疾患の過程で、シナプス及び最終的にニューロンが、大脳皮質、海馬、(マイネルト基底核中の選択的細胞喪失を含む)皮質下構造、青斑及び背側縫線核内で失われる。脳ブドウ糖の使用及び灌流は、脳のある領域(初期段階の疾患における頭頂葉及び側頭皮質、後期段階の疾患における前頭前皮質)で低減する。(アミロイドコアの周りの神経突起、星状膠細胞及びグリア細胞から構成されている)神経斑又は老人斑、及び(対のヘリックスフィラメントから構成されている)神経原線維濃縮体は、アルツハイマー病の発病の一因である。老人斑及び神経原線維濃縮体は正常老化で生じるが、アルツハイマー病の人にはるかに多くみられる。
【0081】
パーキンソン病
パーキンソン病(PD)は、緩慢な動作、筋固縮、静止振戦及び姿勢の不安定によって特徴付けられる特発性で、緩徐進行性の中枢神経系の変性疾患である。当初は主に運動障害とみなされていたが、PDは現在、認知、行動、睡眠、自律神経機能及び感覚機能に更に影響を及ぼすと認識されている。最も一般的な認知障害として、注意、集中、作業記憶、実行機能、言語の生成及び視空間機能の障害が含まれる。
【0082】
原発性パーキンソン病では、黒質、青斑及び他の脳幹ドーパミン作動性細胞集団の色素性ニューロンが失われる。原因は分かっていない。尾状核及び被殻に突出する黒質ニューロンが失われることにより、これらの領域における神経伝達物質ドーパミンが消失する。発症は、一般に40歳以降であり、より高齢の集団で発生率が上昇する。
【0083】
続発性パーキンソン症候群は、他の特発性の変性疾患、薬又は外因性毒素により基底核中のドーパミン作用の消失又は干渉に起因する。続発性パーキンソン症候群の最も一般的な原因は、ドーパミン受容体を遮断することによりパーキンソン症候群を引き起こす、抗精神病薬又はレセルピンの摂取である。あまり一般的ではない原因として、一酸化炭素中毒又はマンガン中毒、水頭症、構造的病変(腫瘍、中脳又は基底核に影響を及ぼす梗塞)、硬膜下血腫、及び、線条体黒質変性症を含む変性疾患が含まれる。
【0084】
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症(FTD )は、脳の前頭葉の進行性悪化に起因する疾患である。変性は、側頭葉に経時的に進む場合がある。FTD は、有病率でアルツハイマー病(AD)に次いで2番目であり、初老期の認知症の症例の20%を占める。症状は、発症した前頭葉及び側頭葉の機能に基づき3つのグループ:一方で嗜眠及び自発性喪失を含み、他方で脱抑制を含む症状を有する行動異常型FTD (bvFTD );明瞭な発音の困難、音韻体系の誤り及び/又は構文誤りによる発語の流暢性の崩壊が観察されるが、言葉の理解は保持されている進行性非流暢性失語(PNFA);及び、患者は正常な音韻論及び構文で流暢なままであるが、呼称及び言葉の理解で困難さが増す意味性認知症(SD)に分類される。全てのFTD 患者に共通する他の認知症状として、実行機能及び集中力の障害が含まれる。知覚、空間能力、記憶及び練習を含む他の認知能力が典型的には損なわれないままである。FTD は、構造的MRI スキャンにおいて明らかになる前頭葉及び/又は前側頭葉の萎縮を観察することにより診断され得る。
【0085】
多くの形態のFTD があり、これらのいずれかが、本方法及び本組成物を使用して処置され得るか又は予防され得る。例えば、前頭側頭型認知症の一形態が意味性認知症(SD)である。SDは、言語領域及び非言語領域の両方での意味記憶の消失によって特徴付けられる。SD患者は、言葉を見つける困難さを訴えることが多い。臨床徴候として、流暢性失語症、名称失語症、言葉の意味の理解障害、及び連想視覚失認(意味的に関連する絵又は物体を一致させる能力の欠如)が含まれる。遅い行動的症状がほとんどない「純粋な」意味性認知症の症例が述べられているが、この疾患が進行すると、前頭側頭型認知症に見られる変化と同様に、行動的変化及び人格変化が見られることが多い。構造的MRI 画像は、(主に左側の)側頭葉に萎縮の特徴的パターンを示し、下方の障害が上方の障害より大きく、前側頭葉の萎縮が後側頭葉の萎縮より大きい。
【0086】
別の例として、前頭側頭型認知症の別の形態はピック病(PiD 、又はPcD )である。この疾患の定められた特徴は、「ピック体」として知られている銀染色の球状の凝集体に蓄積するニューロンのタウタンパク質の蓄積体である。症状として、言語障害(失語症)及び認知症が含まれる。眼窩前頭の機能障害を有する患者は、攻撃的で社会的に不適切になり得る。患者は、窃盗を働いたり、強迫観念又は反復性の常同行動を示したりする場合がある。背内側又は背外側の前頭部の機能障害を有する患者は、関心の欠如、無感情、又は自発性の低下を示す場合がある。患者は、セルフモニタリングの欠如、異常な自己認識、及び意味を理解する能力の欠如を示す場合がある。両側の後外側の眼窩前頭皮質及び右側の前島における灰白質の欠損を有する患者は、病的な甘党のような摂食行動の変化を示す場合がある。前外側の眼窩前頭皮質の更に局限的な灰白質の欠損を有する患者は、過食症を発症する場合がある。症状の一部は初期に軽減され得る一方、その疾患が進行して、患者は2~10年以内に死亡することが多い。
【0087】
ハンチントン病
ハンチントン病(HD)は、情緒異常、行動異常及び精神異常の発症と、知的機能又は認知機能の消失と、動作異常(運動障害)とにより特徴付けられる遺伝性の進行性神経変性障害である。HDの古典的な徴候として、顔、腕、脚又は体幹に影響を及ぼす場合がある付随性で急速且つ不規則な痙攣様運動である舞踏病の発症と、思考過程能力及び後天性の知的能力を徐々に消失する認知機能低下とが含まれる。記憶、抽象的思考及び判断の障害;時間、場所又はアイデンティティの不適切な知覚(失見当識);激越の増加;及び人格変化(人格の崩壊)がある場合がある。症状は典型的には30歳代又は40歳代の間に明らかになるが、発病の年齢は不定的であり、幼児期から成人後期(例えば70歳代又は80歳代)の範囲内である。
【0088】
HDは、常染色体優性形質として家族内に伝わる。異常に長い配列、つまり染色体4(4p16.3)の遺伝子内のコードされた命令の「繰返し」の結果としてこの障害が生じる。HDに関連した神経系機能の進行性消失は、基底核及び大脳皮質を含む脳のある領域のニューロンの消失に起因する。
【0089】
筋萎縮性側索硬化症
筋萎縮性側索硬化症(ALS )は、運動ニューロンを攻撃する急速に進行して常に致死的な神経疾患である。筋力低下並びに前角細胞の萎縮及び機能障害の徴候は最初、ほとんどの場合手に認められ、足に認められることは少ない。発病の箇所はランダムであり、進行は非対称である。痙攣がよく見られ、衰弱より先に生じる場合がある。例外的に、患者は30年間生存し、50%が発病後3年以内に死亡し、20%が5年間生存し、10%が10年間生存する。診断上の特徴として、中年期又は成人後期中の発病、及び感覚異常のない進行性で全身性の運動障害が含まれる。この疾患の末期まで、神経伝達速度は正常である。最近の研究は、同様に認知障害の症状、特に即時性の言語記憶、視覚記憶、言語及び実行機能の低下を実証した。
【0090】
細胞体の領域、シナプスの数及びシナプスの全長の減少が、ALS 患者の正常と思われているニューロンにも報告された。活性領域の可塑性がその限界に達すると、シナプスの継続的な消失が機能障害の原因になり得ることが示唆された。新しいシナプスの形成の促進、又はシナプス消失の予防がこのような患者のニューロン機能を維持する場合がある。
【0091】
多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、寛解及び再発性の悪化と共に、中枢神経系の機能障害の様々な症状及び徴候によって特徴付けられる。最も一般的な主症状は、一又は複数の四肢、体幹又は顔の一側における感覚異常;脚若しくは手の衰弱若しくは失調;又は、視覚障害、例えば部分盲及び一方の目の痛み(球後視神経炎)、視覚の薄暗さ若しくは暗点である。一般的な認知障害として、記憶(新しい情報の取得、保持及び検索)、注意及び集中(特に分割的注意)、情報処理、実行機能、視空間機能及び言語流暢性の障害が含まれる。一般的な初期症状は、眼筋麻痺による複視(double vision )(複視(diplopia))、一又は複数の四肢の一時的な衰弱、肢の僅かな硬直又は異常な疲労感、軽微な歩行障害、膀胱制御困難、回転性めまい、及び軽微な情緒障害であり、全ての症状は、散在性の中枢神経系障害を示し、疾患が認識される前の何ヶ月又は何年も前に生じることが多い。過剰な熱が症状及び徴候を際立たせる場合がある。
【0092】
経過は非常に異なり、予測不能であり、ほとんどの患者で弛張性である。最初、特に疾患が球後視神経炎と共に生じた場合、何ヶ月又は何年もの寛解が発症を区切る場合がある。しかしながら、一部の患者は頻繁に発作を起こし、急速に無能力になり、少数の患者では経過が急速に進行し得る。
【0093】
緑内障
緑内障は、網膜神経節細胞(RGC )に影響を及ぼす一般的な神経変性疾患である。区画化された変性プログラムがRGC を含むシナプス及び樹状突起に存在することをサポートする証拠がある。最近の証拠は、高齢者の認知障害と緑内障との相関関係を更に示している(Yochim BP 等著,Prevalence of cognitive impairment, depression, and anxiety symptoms among older adults with glaucoma. J Glaucoma. 2012;21(4):250-254)。
【0094】
筋強直性ジストロフィ
筋強直性ジストロフィ(DM)は、ジストロフィ性筋力低下及び筋強直症によって特徴付けられる常染色体優性多系統障害である。分子欠損は、染色体19q の筋強直タンパク質キナーゼ遺伝子の3'非翻訳領域の伸長トリヌクレオチド(CTG )反復である。症状はあらゆる年齢で生じる場合があり、臨床重症度の範囲は広い。筋強直症は手の筋肉で顕著であり、軽度な症例でも眼瞼下垂が一般的である。重度な症例では、著しい末梢の筋低下が、多くの場合、白内障、早期の脱毛、斧状顔貌、不整脈、精巣萎縮及び内分泌異常(例えば糖尿病)と共に生じる。精神遅滞は重症先天性の形態で一般的である一方、前頭部及び側頭部の認知機能、特に言語機能及び実行機能の加齢性の低下は、障害のより軽症な成人の形態に観察される。重症の人は、50代前半までに死亡する。
【0095】
認知症
認知症は、日常機能を妨げるほど重症な、思考能力及び社会能力に影響を及ぼす症状を有する障害のクラスのことである。上記に記載された老化に関連する障害の後期段階で観察される認知症に加えて、認知症の他の症例として、以下に述べる血管性認知症とレヴィ小体型認知症とが含まれる。
【0096】
血管性認知症すなわち「多発脳梗塞性認知症」では、認知障害は、脳への血液の供給の問題によって、典型的には一連の軽度な脳卒中によって、又は時には他のより軽い脳卒中が先行する又はその後に続く1つの重度な脳卒中によって引き起こされる。血管病変は、小血管疾患、局限的病変又はこれら両方のような瀰漫性脳血管疾患の結果であり得る。血管性認知症を患う患者は、急性脳血管事象の後、認知障害を急性又は亜急性に示し、その後、進行性の認知機能低下が観察される。脳内の関連する変化は、ADの症状に起因するものではなく、最終的に認知症をもたらす脳の慢性的な血流の減少に起因するものであるが、認知障害は、言語、記憶、複雑な視覚処理又は実行機能の障害を含むアルツハイマー病で観察された認知障害と同様である。単光子放射コンピュータ断層撮影(SPECT )及び陽電子放射断層撮影(PET )の神経画像検査を使用して、精神状態に関する検査を含む評価と共に多発脳梗塞性認知症の診断を確認してもよい。
【0097】
レヴィ小体型認知症(DLB 、レヴィ小体型認知症、瀰漫性レヴィ小体病、皮質性レヴィ小体病及びレヴィ型老年性認知症を含む様々な他の名前でも知られている)は、剖検脳組織学的検査で検出可能なニューロンのレヴィ小体(アルファシヌクレイン及びユビキチンタンパク質の塊)の存在によって解剖学的に特徴付けられる認知症のタイプである。その主な特徴は、認知機能低下、特に実行機能の低下である。覚醒及び短期記憶に起伏がある。鮮明で詳細な画像を有する持続性又は再発性の幻視が、多くの場合早期の診断症状である。アルツハイマー病は通常かなり徐々に発症する一方、DLB は多くの場合急速又は急性に発症するが、DLB は、初期段階でアルツハイマー病及び/又は血管性認知症と混同されることが多い。DLB の症状は、パーキンソン病の症状と同様の運動症状を更に含んでいる。DLB は、パーキンソン病の症状に対して認知症の症状が現れる時間枠によってパーキンソン病で時に生じる認知症と区別される。認知症を伴うパーキンソン病(PDD )は、認知症の発症がパーキンソン病の発症から1年を超える場合に診断される。認知症状がパーキンソン病の症状と同時期又はパーキンソン病の症状の1年以内に発症した場合、DLB と診断される。
【0098】
進行性核上性麻痺
進行性核上性麻痺(PSP )は、複雑な目の動き及び思考の問題と共に、歩行及びバランスの制御に関する重大で進行性の問題を引き起こす脳障害である。この疾患の古典的な徴候の内の1つは、目を適切に向ける能力の欠如であり、目の動きを調整する脳の領域の病変のために生じる。一部の個体はこの影響をかすむと表現する。発症した個体は、抑うつ及び無感情並びに進行性の軽度認知症を含む、気分及び行動の変化を示すことが多い。この疾患の長い名前は、疾患がゆっくり始まり悪化し続け(進行性であり)、目の動きを制御する細胞核と称される豆粒大の構造の上方の脳のある部分(核上)を損傷することにより衰弱(麻痺)を引き起こすことを示している。3人の科学者がこの状態をパーキンソン病と区別する論文を発表した1964年に、PSP が別個の障害として最初に表現された。PSP は、この障害を定めた科学者の名前の組合せを反映して、スティール-リチャードソン-オルスゼフスキー症候群と称されることもある。PSP は次第に悪化するが、PSP 自体で死亡する人はいない。
【0099】
運動失調
運動失調を呈する人は、動き及びバランスを制御する神経系の部分に変調をきたすため、調整に関する問題を有する。運動失調は、指、手、腕、脚、身体、発語及び目の動きに影響を及ぼし得る。運動失調という言葉は、感染、損傷、他の疾患又は中枢神経系の変性変化と関連付けられ得る協調運動障害の症状を表現するために使用されることが多い。運動失調は更に、National Ataxia Foundationの主たる重点である遺伝性及び散発性の運動失調と称される神経系の特異的な変性疾患のグループを示すために用いられる。
【0100】
複合神経系萎縮
複合神経系萎縮(MSA )は変性神経疾患である。MSA は、脳の特定の領域の神経細胞の変性と関連付けられる。この細胞変性は、動き、バランス、及び膀胱の制御又は血圧の調節のような身体の他の自律神経機能に関する問題を引き起こす。MSA の原因は分かっておらず、特異的な危険因子が識別されていない。症例の約55%が男性で生じ、発症する典型的な年齢は50代後半から60代前半である。MSA は、パーキンソン病と同じ症状の一部を示すことが多い。しかしながら、MSA 患者は、パーキンソン病に使用されるドーパミン剤に反応するにしても、一般にごく僅かしか反応しない。
【0101】
ある実施形態では、本方法及び本組成物は、老化に関連する認知障害の進行を遅らせる際に使用される。言い換えれば、個体の認知能力は、開示された方法による処置の前、又は処置していないときより、開示された方法による処置の後でゆっくり低下する。このような場合、本処置方法は、処置の後に認知機能低下の進行を測定して、認知機能低下の進行が遅れていることを決定する工程を有する。このような場合、例えば、本血液製剤を投与する前の2以上の時点で認知を予め測定することにより決定するように、基準、例えば処置前の個体の認知機能低下の割合と比較することにより決定する。
【0102】
個体、例えば老化に関連する認知機能低下を患う個体又は老化に関連する認知機能低下を患う危険性がある個体の認知能力を安定化させる際に、本方法及び本組成物が更に使用される。例えば、個体はある老化に関連する認知障害を示す場合があり、開示された方法を用いて処置する前に観察される認知障害の進行が、開示された方法による処置の後に停止する。別の例として、個体が、老化に関連する認知機能低下を発症する危険性がある場合があり(例えば、個体は50歳以上であるか、老化に関連する障害であると診断されている場合があり)、個体の認知能力は実質的に変わらず、つまり、開示された方法を用いて処置する前と比較して、開示された方法による処置の後、認知機能低下が検出され得ない。
【0103】
本方法及び本組成物は、老化に関連する認知障害を患う個体の認知障害を低下させる際に更に使用される。言い換えれば、個体の認知能力が、本方法による処置の後に向上する。例えば、個体の認知能力は、本方法による処置の前に個体に観察される認知能力に対して、本方法による処置の後、例えば50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上又は100 倍以上を含めて、2倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、30倍以上又は40倍以上増加する。場合によっては、本方法及び本組成物による処置は、老化に関連する認知機能低下を患う個体の認知能力を、例えば個体が約40歳以下であったときのレベルに回復させる。言い換えれば、認知障害が抑止される。
【0104】
試薬、デバイス及びキット
更に、上記の方法の内の一又は複数を実施するための試薬、デバイス及びキットを提供する。本試薬、本デバイス及び本キットは大幅に異なってもよい。注目する試薬及びデバイスは、成体哺乳類のB2M レベルを下げる方法に関して上記に記載されているものを含んでいる。
【0105】
上記の要素に加えて、本キットは、本方法を実施するための使用説明書を更に備えてもよい。これらの使用説明書は、本キット内に様々な形態で備えられてもよく、使用説明書の内の一又は複数がキット内に備えられてもよい。これらの使用説明書が備えられてもよい一形態は、適した媒体又は基板上に印刷された情報であり、例えば、情報が印刷されている一又は複数の紙片、キットの包装体、又は添付文書等である。別の手段は、情報が記録されているコンピュータ可読媒体であり、例えば、ディスケット、CD、携帯型のフラッシュドライブ等である。存在し得る更なる別の手段は、離れた場所で情報にアクセスするためにインターネットを介して使用可能なウェブサイトアドレスである。あらゆる簡便な手段がキット内に設けられ得る。
【0106】
以下の実施例を制限のためではなく説明のために与える。
【0107】
実験
以下の実施例は、本発明をどのように作製して使用するかについての完全な開示及び説明を当業者に提供するために記載されるのであって、本発明者らが自身の発明であるとみなすものの範囲を限定することを意図するものではなく、以下の実験が、行われた全ての又は唯一の実験であると表すことを意図するものでもない。使用された数値(例えば、量、温度等)に関して正確性を確保するために努力がなされたが、ある程度の実験誤差及び偏差は考慮に入れられるべきである。別途記載のない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、圧力は大気圧であるか又は大気圧に近い圧力である。
【0108】
I.方法
A.動物モデル
C57BL/6 (The Jackson Laboratory)、C57BL/6 老齢マウス(National Institutes of Aging)、β2ミクログロブリン(B2M-/-)変異マウス及び抗原ペプチド輸送体1(Tap1 -/-)変異マウス(The Jackson Laboratory)のマウス系統を使用した。全ての研究はオスのマウスで行った。統計的な有意差をもたらすために使用されたマウスの数を、α=0.05及び0.8 の検出力での標準的な検出力計算を使用して計算した。本発明者らはオンラインツール(http://www.stat.uiowa.edu/~rlenth/Power/index.html)を使用して、夫々の試験での経験、分析の変動性及びグループ内の個体差に基づき検出力及びサンプルサイズを計算した。マウスを特定病原体未感染の状態で12時間の明暗サイクルで収容し、全ての動物の取り扱い及び使用については、the University of California San Francisco IACUC及びthe VA Palo Alto Committee on Animal Researchによって承認された組織的ガイドラインに従った。
【0109】
B.並体結合
並体結合の手術は既に述べた手順に従った(Villeda, S.A. 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477: 90-94)、(Villeda, S.A. 等著,「Young blood reverses age-related impairments in cognitive function and synaptic plasticity in mice」,Nature medicine (2014) 20:659-663)。左側腹部及び右側腹部の鏡像切開を皮膚を通して行い、より小さい切開を腹壁を通して行った。隣接した並体結合体の腹膜の開口部を共に縫合した。各並体結合体の肘及び膝関節を共に縫合し、各マウスの皮膚を、隣接した並体結合体の皮膚にステープルで留めた(9mm Autoclip ,Clay Adams)。痛みを管理するように各マウスにBaytril の抗生物質及びBuprenexを皮下注射して回復中に監視した。健康全般及び維持行動に関して、対の重量及び身繕い行動を含む複数の回復特性を手術後の様々な時点で分析した。
【0110】
C.定位注射
動物を定位フレームに置き、麻酔ノーズコーンを通して運ばれた2%のイソフルラン(2L/分の酸素流速)で麻酔した。手術中の乾燥を防ぐために眼軟膏(Puralube Vet Ointment, Dechra)を角膜に塗布した。切開の周りの領域を切り取った。背側海馬のDGの両側に(ブレグマから)前方=-2mm、側方=1.5 mm、(頭蓋表面から)高さ=-2.1 mmの座標を用いて溶液を注射した。2μlの溶液を5μl26s ゲージハミルトン注射器を使用して(注射速度:0.20μl/分で)10分間に亘って定位で注射した。注射の跡に沿った逆流を制限するために、針を原位置で8分間維持して途中まで徐々に引き抜き、更に2分間所定の位置で維持した。皮膚を絹縫合で閉じた。各マウスに鎮痛性のBuprenexを皮下注射した。マウスを単独で収容して回復中に監視した。
【0111】
D.B2M 投与
無担体の精製されたヒトβ2ミクログロブリン(Lee Biosolutions)をPBS に溶解して、若齢(3ヶ月)野生型動物に眼窩内を通って全身に(100 μg/kgで)投与するか、又は、若齢(3ヶ月)野生型且つTap1-/- 変異体の海馬のDGに(0.50μl;0.1 μg/μlで)定位に投与した。組織学的分析のために、B2M 及び媒体を同一の動物の対側性のDGに投与した。行動分析のために、B2M 又は媒体をDGの両側に投与し、認知機能試験前に6日間又は30日間マウスを回復させた。
【0112】
E.BrdUの投与及び定量化
短期間のBrduの標識のために、屠殺前に50 mg/kgのBrdUを毎日、3日間又は6日間マウスの腹腔内に注射した。長期間のBrduの標識のために、50 mg/kgのBrdUを6日間1日に1回マウスに注射し、第1回目の投与から28日後に動物を屠殺した。脳のBrdU陽性細胞の総数を推定するために、本発明者らは、合計6つの切片に関して6個の半脳切片毎にBrdUのDAB 染色を行った。DGの顆粒細胞及び顆粒下細胞層のBrdU陽性細胞の数を合計して12を掛けて、DG全体のBrdU陽性細胞の総数を推定した。分裂細胞の運命を決定するために、マウス当たり4~6個の切片で合計200 個のBrdU陽性細胞を、NeuN及びGFAPを用いた同時発現に関して共焦点顕微鏡検査によって分析した。二重陽性細胞の数をBrdU陽性細胞の百分率として表現した。
【0113】
F.免疫組織化学法
組織処理及び免疫組織化学法を、標準的な公開された技術の後に浮遊性切片に関して行った(Villeda, S.A. 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477: 90-94)。一時的に、マウスを400 mg/kg の抱水クロラール(Sigma-Aldrich)で麻酔して0.9 %の生理食塩水で経心的に潅流した。脳を取り除いて、4%のリン酸緩衝のパラホルムアルデヒド(pH 7.4)に4℃で48時間固定し、その後、凍結保護のために30%のスクロースに浸透させた。その後、脳をクライオミクロトーム(Leica Camera, Inc.)を用いて40μmで冠状に薄片に切り分けて凍結保護媒体に保管した。一次抗体は、ヤギ抗-Dcx(1:500; Santa Cruz Biotechnology; sc-8066, clone: C-18)、ラット抗-BrdU(1:5000, Accurate Chemical and Scientific Corp.; ab6326, clone: BU1/75)、マウス抗-Nestin(1:500; Millipore; MAB353; clone: rat-401)、MCM2(1:500, BD Biosciences; 610700; clone: 46/BM28)、ニワトリ抗-Tbr2(1:500; Millipore; AB15894)、マウス抗-NeuN(1:1000; Millipore; MAB377; clone: A60)、ウサギ抗-GFAP(1:500; DAKO; Z0334)である。一晩培養した後、一次抗体染色を、ジアミノベンジジン(DAB, Sigma-Aldrich)又は蛍光性結合二次抗体(Life Technologies)と共にビオチン化二次抗体(Vector)及びABC キット(Vector)を用いて示した。BrdUの標識のために、脳の切片を2N HClで30分間37℃で予め処置し、一次抗体と共に培養する前にTris-Buffered Saline with Tween (TBST)を用いて3回洗浄した。Nestin及びTbr2の標識のために、脳の切片を0.1 M クエン酸塩で5分間95℃で3回予め処置し、一次抗体と共に培養する前にTris-Buffered Saline with Tween(TBST)を用いて3回洗浄した。DG当たりのDcx 陽性細胞の総数を推定するために、DGの顆粒細胞及び顆粒下細胞層の免疫陽性細胞を、合計6個の切片に関して海馬の6個の冠状半脳切片毎に合計して12を掛けた。
【0114】
G.ウェスタンブロット分析
マウスの海馬を動物の潅流後に解剖して急速冷凍し、RIPA溶解緩衝液(500 mM Tris,pH 7.4,150 mM NaCl ,0.5 %デオキシコール酸ナトリウム,1%NP40,0.1 %SDS 及び完全プロテアーゼ阻害剤;Roche )で溶解した。組織溶解物を4×NuPage LDSローディング緩衝液(Invitrogen)と混合して4~12%のSDS ポリアクリルアミド勾配ゲル(Invitrogen)上にロードし、その後、ニトロセルロース膜に移した。ブロットをTris-Buffered Saline with Tween (TBST)中の5%の乳にブロックして、ウサギ抗アクチン(1:5000,Sigma ;A5060 )及びウサギ抗B2M(1:2500,Abcam ;ab75853 ;クローン:EP2978Y )で培養した。西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(1:5000, GE Healthcare; NA934)及びECL キット(GE Healthcare/Amersham Pharmacia Biotech)を用いてタンパク質信号を検出した。露出を多数回行い、ダイナミックレンジのフィルム(GE Healthcare Amersham HyperfilmTM ECL)内の画像を選択した。選択したフィルムを(300dpiで)スキャンしてImageJソフトウェア(バージョン 1.46k)を使用して定量化した。アクチンのバンドを正規化のために使用した。
【0115】
H.細胞培養物の分析
上述したように(Villeda, S.A. 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477: 90-94)、(Mosher KI 等著,「Neural progenitor cells regulate microglia functions and activity」,Nature neuroscience. 2012; 15:1485-1487)、C57BL/6 マウス又はDcx-レポータマウス(Couillard-Despres S 等著,「In vivo optical imaging of neurogenesis: watching new neurons in the intact brain」,Molecular imaging. 2008; 7:28-34.)からマウスの神経前駆細胞を分離した。出生後の動物(1日齢)からの脳を解剖して嗅球、皮質、小脳及び脳幹を取り除いた。表在血管を取り除いた後、海馬を最終的にメスで切り刻み、2.5 U/mlパパイン(Worthington Biochemicals)、1U/mlディスパーゼII(Boeringher Mannheim)及び250 U/ml DNase I(Worthington Biochemicals)を含むDMEMB 媒体で30分間37℃で消化して機械的に分離した。NSC /前駆体を65%のパーコール勾配を使用して精製して、覆われていない組織培養皿に105 細胞/cm2 の密度で播いた。NPC を、ペニシリン(100 U/ml)、ストレプトマイシン(100 mg/ml)、2mMのL-グルタミン、ビタミンA無しの無血清B27 補給剤(Sigma-Aldrich )、bFGF(20 ng/ml)及びEGF (20 ng/ml)が補われたNeuroBasal A媒体に48時間標準状態下で培養した。無担体形態のヒト組換えB2M (Vendor)をPBS で溶解して、細胞を播いた後、1日おきに自己再生条件下で細胞培養物に追加した。増殖のために、BrdUの取込みを、検出用色基質(Fisher)と共にペルオキシダーゼ結合抗BrdU抗体を使用する細胞増殖分析システムを用いて測定した。生物発光分析のためにDcx-ルシフェラーゼ活性をルシフェラーゼ分析システム(Promega )を使用して測定した。マウス抗MAP2(1:1000,Sigma ;M9942 ;クローン:HM-2)抗体及びウサギ抗GFAP(1:500 ,DAKO;Z0334 )抗体を使用して免疫組織化学法によって分化を評価した。Pierce LDH細胞毒性分析システム(Life Technologies )を使用して乳酸脱水素酵素(LDH )検出により細胞毒性を測定した。
【0116】
I.文脈的恐怖条件付け
このタスクでは、マウスは、海馬に依存する文脈的恐怖条件付けに関する試験を可能にする嫌悪刺激(軽度なフットショック;無条件刺激(US))と環境的文脈(恐怖条件付けチャンバ)とを関連付けることを学習した。文脈的恐怖条件付けは海馬及び扁桃体に依存しているため、扁桃体に依存する手がかりの恐怖条件付けを更に評価すべく、軽度なフットショックを光及び音の手がかり(条件刺激(CS))と対にした。条件付け恐怖をフリージング行動として表示した。具体的な訓練パラメータは、音の継続時間30秒;レベル70dB,2kHz ;ショックの継続時間2秒;強度0.6 mAである。この強度は痛みがなく、容易に耐えることができるが、不快感を生じさせる。より具体的には、1日目、各マウスを恐怖条件付けチャンバに置いて2分間散策させた後、2秒のフットショック(0.6 mA)で終わる30秒の音(70dB)を与えた。2分後、2回目のCS-US対を与えた。2日目、全く同一の文脈を含むが、CS又はフットショックを与えない恐怖条件付けチャンバに各マウスをまず置いた。フリージングを1~3分間分析した。1時間後、異なる臭気、洗浄液、床の質感、チャンバの壁及び形状を含む新たな文脈にマウスを置いた。動物を、CSに再度曝す前に2分間散策させた。フリージングを1~3分間分析した。FreezeScanビデオ追跡システム及びソフトウェア(Cleversys, Inc)を使用してフリージングを測定した。
【0117】
J.放射状枝水迷路
Alamed等著,Nat. Protocols (2006) 1: 1671-1679に記載されているプロトコルの後、放射状枝水迷路(RAWM)パラダイムを使用して空間的な学習及び記憶を評価した。このタスクでは、プラットフォームを含むゴールのアーム位置は訓練段階及び試験段階を通して一定のままであるが、スタートのアームは各試験中に変わっている。訓練段階の1日目、マウスを15の試験に関して訓練し、試験は目視可能なプラットフォーム及び隠したプラットフォームに関して交互に行う。試験段階の2日目、マウスを、隠したプラットフォームについて15の試験に関して試験する。正しくないアームへのエントリをエラーとして採点し、エラーを訓練ブロック(3回の連続した試験)について平均する。研究者らは、採点するときに遺伝子型及び処置を知らされていなかった。
【0118】
K.血漿収集及びプロテオミクス分析
マウスの血液を、屠殺の際に尾静脈の出血、下顎静脈の出血又は心臓内の出血によってEDTAで覆った管に収集した。1000 gの新たに収集された血液で遠心分離によってEDTA血漿を生成し、アリコートを使用まで-80℃で保管した。University of Washington School of Medicine、Veterans Affairs Northwest Network Mental Illness Research, Education, and Clinical Center、Oregon Health Science University及びUniversity of California San Diegoからヒト血漿及びCSF サンプルを得た。上述したように(Villeda, S.A. 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477: 90-94)、(Zhang, J. 等著,「CSF multianalyte profile distinguishes Alzheimer and Parkinson diseases」,American journal of clinical pathology (2008) 129: 526-529)、(Li, G.等著,「Cerebrospinal fluid concentration of brain-derived neurotrophic factor and cognitive function in non-demented subjects」,PloS one (2009) 4: e5424)、標準化された選択基準と除外基準に基づいて被験者を選択し、以下の補足表である表2にまとめた。夫々のセンターで施設内審査委員会ガイドラインに従ってヒトの被験者からインフォームドコンセントを得た。
【0119】
【0120】
サイトカイン及びシグナル分子の血漿濃度を、フィー・フォー・サービスプロバイダのRules Based Medicine Inc.の標準的な抗体ベースの多重免疫測定法(Luminex )を使用してヒト及びマウスの血漿サンプルで測定した。全てのLuminex 測定結果を盲検法で得た。全ての分析を構築して、製造業者によって説明されているように免疫測定法の原理に基づく臨床検査標準協議会(以前はNCCLS )ガイドラインに有効であった。
【0121】
L.データ及び統計解析
全ての実験を、遺伝子マウスモデルの薬理的処置又は評価の前に独立した研究者によって無作為化して盲検化した。研究者は、組織学的評価、生化学的評価及び行動的評価全体に亘って盲検化を維持した。グループを統計解析の際、各実験の終わりに非盲検とした。データを平均±SEM として表現する。実験の各組のデータの分布を、ダゴスティーノ・パーソンオムニバス検定又はシャピロ・ウイルク検定を使用して正規性に関して試験した。グループ間の分散の有意差がF検定を使用して検出されなかった。Prism 5.0 ソフトウェア(GraphPad Software)を用いて統計解析を行った。2つのグループの平均を、両側不対Student のt検定と比較した。複数のグループからの平均の相互比較、又は1つの対照グループとの比較を、(図の説明に示されている)1-way ANOVA 検定、その後の適切な事後検定を用いて解析した。
【0122】
II.結果及び議論
老化は、依然として、アルツハイマー病のような認知症に関連する神経変性疾患に関する単一の最も支配的な危険因子である(Hedden & Gabrieli 著,「Insights into the ageing mind: a view from cognitive neuroscience」,Nature reviews. Neuroscience (2004) 5:87-96;Mattson & Magnus著,「Ageing and neuronal vulnerability」,Nature reviews. Neuroscience (2006) 7:278-294;Small 等著,「A pathophysiological framework of hippocampal dysfunction in ageing and disease」,Nature reviews. Neuroscience (2011) 12:585-601)。そのため、高齢者の認知的完全性を維持し、従って神経変性疾患の脆弱性を打ち消すために、脳の老化表現型を促進するものに対する機械論的な洞察を得ることは必須である。本発明者らなどは、(若齢動物及び老齢動物の循環系が結合されている)異年齢並体結合のような全身性操作、又は若齢の血漿の投与が老化脳の認知能力及び再生能力の加齢性の消失を部分的に反転し得ることを最近示した(Katsimpardi 等著,「Vascular and neurogenic rejuvenation of the aging mouse brain by young systemic factors」,Science (2014) 344:630-634;Villeda 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477:90-94;Villeda 等著,「Young blood reverses age-related impairments in cognitive function and synaptic plasticity in mice」,Nature medicine (2014) 20:659-663)。興味深いことに、異年齢並体結合の研究は、若齢の血液の不老促進因子が若返りを引き出す一方、老齢の血液の老化促進因子が老化を促すことを示す全身環境の影響下で年齢依存の双方向性を明らかにした(Katsimpardi 等著,「Vascular and neurogenic rejuvenation of the aging mouse brain by young systemic factors」,Science (2014) 344:630-634;Villeda 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477: 90-94;Ruckh 等著,「Rejuvenation of regeneration in the aging central nervous system」,Cell stem cell (2012) 10:96-103;Conboy等著,「Rejuvenation of aged progenitor cells by exposure to a young systemic environment」,Nature (2005) 433:760-764;Brack 等著,「Increased Wnt signaling during aging alters muscle stem cell fate and increases fibrosis」,Science (2007) 317: 807-810)。老化促進因子の影響を緩和することにより、老化の表現型を若返らせるための効果的な手法が提案されている(Villeda 等著,「Young blood reverses age-related impairments in cognitive function and synaptic plasticity in mice」,Nature medicine (2014) 20:659-663;Laviano 著,「Young blood」,The New England journal of medicine (2014) 371:573-575;Bouchard及びVilleda 著,「Aging and brain rejuvenation as systemic events」,Journal of neurochemistry (2014))。
【0123】
その従来の役割では、B2M は、適応性の免疫系の活性部分を形成するMHC I 分子の軽鎖を表す(Zijlstra等著,「Beta 2-microglobulin deficient mice lack CD4-8+ cytolytic T cells」,Nature (1990) 344:742-746)。中枢神経系(CNS )では、B2M 及び MHC I は、正常な脳の発達、シナプス可塑性及び行動さえ調節するための自身の標準的な免疫機能とは無関係に機能し得る(Lee 等著,「Synapse elimination and learning rules co-regulated by MHC class I H2-Db」,Nature (2014) 509:195-200;Loconto 等著,「Functional expression of murine V2R pheromone receptors involves selective association with the M10 and M1 families of MHC class Ib molecules」,Cell (2003) 112:607-618;Boulanger 及びShatz 著,「Immune signalling in neural development, synaptic plasticity and disease」,Nature reviews. Neuroscience (2004) 5: 521-531;Shatz 著,「MHC class I: an unexpected role in neuronal plasticity」,Neuron (2009) 64:40-45;Huh 等著,「Functional requirement for class I MHC in CNS development and plasticity」,Science (2000) 290:2155-2159;Goddard 等著,「Regulation of CNS synapses by neuronal MHC class I」,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (2007) 104:6828-6833;Glynn 等著,「MHCI negatively regulates synapse density during the establishment of cortical connections」,Nature neuroscience (2011) 14:442-451)。更に、B2M は、可溶型では細胞表面の脱落の結果として全身の血液循環で蓄積する。興味深いことに、B2M の全身レベルの上昇は、慢性血液透析に関連した認知障害に関与している(Murray著,「Cognitive impairment in the aging dialysis and chronic kidney disease populations: an occult burden」,Advances in chronic kidney disease (2008) 15:123-132;Corlin等著,「Quantification of cleaved beta2-microglobulin in serum from patients undergoing chronic hemodialysis」,Clinical chemistry (2005) 51:1177-1184)。更に、可溶性のB2M の増加がHIV 認知症(McArthur等著,「The diagnostic utility of elevation in cerebrospinal fluid beta 2-microglobulin in HIV-1 dementia. Multicenter AIDS Cohort Study」,Neurology (1992) 42:1707-1712;Brew等著,「Predictive markers of AIDS dementia complex: CD4 cell count and cerebrospinal fluid concentrations of beta 2-microglobulin and neopterin」,The Journal of infectious diseases (1996) 174:294-298)及びアルツハイマー病(Carrette等著,「A panel of cerebrospinal fluid potential biomarkers for the diagnosis of Alzheimer's disease」,Proteomics (2003) 3:1486-1494))の患者の脳脊髄液(CSF )で観察され、更にB2M の認知機能障害への関与を示している。
【0124】
本発明者らはまず、正常老化中のマウスの血漿(
図1a及び1b)並びに異年齢並体結合の実験老化モデル(
図1c及び1d)のB2M の全身レベルの変化を特徴付けた。本発明者らは、若齢動物と比較して老齢動物から得られた血漿でB2M レベルの3倍の増加(
図1b)を観察して、若齢の同年齢並体結合体と比較して老齢血液に曝した後、若齢の異年齢並体結合体から得られた血漿でB2M レベルの対応する増加(
図1d)を検出した。ヒトに生じる全身の変化と共に老化マウスのB2M に観察される全身の変化を確証するために、本発明者らは、20~90歳の健康な個体からの保管された血漿サンプル及びCSF サンプルでB2M を測定した(上記の表2参照)。本発明者らは、老化マウスで観察された変化と一致する血漿及びCSF の両方で測定されたB2M の老化に関連した増加(
図1e及び1f)を検出した。
【0125】
本発明者らは、B2M を潜在的な全身性の老化促進因子と特定して、次に、B2M を全身で増加させることにより、老化に関連した機能障害を暗示する認知障害を生じさせ得るか否かを検討した。対照として、本発明者らは、まず、若齢及び老齢の処置されていない動物のコホートで放射状枝水迷路(RAWM)パラダイム及び文脈的恐怖条件付けパラダイムを使用して海馬に依存する学習及び記憶を試験して、両方の行動パラダイムで老化に関連した認知障害を観察した(
図2a~2e)。その後、本発明者らは、可溶性のB2M のタンパク質又は媒体が眼窩内注射によって全身に投与された若齢の成体マウスを認識に関して試験した(
図1g)。動物は、処置に関わらず病気又は体重の減少の徴候を示さなかった(
図3a)。RAWMタスクの訓練段階中、全てのマウスは同様の泳ぐ速度(
図3b)及びタスクに関する学習能力(
図1h)を示した。しかしながら、試験段階中、B2M が投与された動物は学習障害及び記憶障害を示して、媒体対照が投与された動物より、目標のプラットフォームを見つける際に著しく多いエラーを示した(
図1h)。恐怖条件付け訓練中、全てのマウスは、処置に関わらず、ベースラインのフリージング時間に差を示さなかった(
図3c)。しかしながら、B2M が投与されたマウスは、媒体で処置された対照動物と比較して、文脈的記憶試験中フリージング時間を減少させたが(
図1i)、手がかりの記憶試験中フリージング時間を減少させなかった(
図3d)ことが実証された。更に、これらの行動データは、外因性B2M の全身性投与が学習及び記憶を損い得ることを実証している。
【0126】
海馬に依存する学習及び記憶の障害は、成体神経発生の減少と既に関連付けられている(Clelland等著,「A functional role for adult hippocampal neurogenesis in spatial pattern separation」,Science (2009) 325:210-213;Kitamura等著,「Adult neurogenesis modulates the hippocampus-dependent period of associative fear memory」,Cell (2009) 139:814-827;Zhang 等著,「A role for adult TLX-positive neural stem cells in learning and behaviour」,Nature (2008) 451:1004-1007)。老化に関連した認知機能低下と成体神経発生の減少との因果関係が曖昧なままである(Drapeau 等著,「Spatial memory performances of aged rats in the water maze predict levels of hippocampal neurogenesis」,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (2003) 100:14385-14390;Merrill 等著,「Hippocampal cell genesis does not correlate with spatial learning ability in aged rats」,The Journal of comparative neurology (2003) 459:201-207;Bizon 及びGallagher 著,「Production of new cells in the rat dentate gyrus over the lifespan: relation to cognitive decline」,The European journal of neuroscience (2003) 18:215-219;Seib等著,「Loss of Dickkopf-1 restores neurogenesis in old age and counteracts cognitive decline」,Cell stem cell (2013) 12:204-214)一方、異年齢並体結合を使用した最近の研究は、血液によって生じる認知変化が成体神経発生の対応する変化と関連付けられていることを示している(Katsimpardi 等著,「Vascular and neurogenic rejuvenation of the aging mouse brain by young systemic factors」,Science (2014) 344:630-634;Villeda 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477: 90-94)。従って、本発明者らは、成体の海馬の神経発生のレベルの減少がB2M に全身を更に曝すことにより生じる認知障害を更に伴うか否かを研究した。免疫組織化学的分析を使用して、本発明者らは、媒体対照が注射されたマウスと比較して、外因性B2M が全身に投与されたマウスのDGのダブルコルチン(Dcx )陽性新生ニューロン(
図1j及び1k)並びにMcm2陽性の前駆体(
図4a)の数が著しく減少したことを検出した。本発明者らは、神経発生の変化と一致して、媒体と比較してB2M が注射された動物ではブロモデオキシウリジン(BrdU)が組み入れられた増殖細胞の数が減少することを検出した(
図4b)。これらのデータは、外因性B2M への全身性曝露が成体神経発生の減少に十分であることを示している。
【0127】
B2M レベルの老化に関連した全身の変化が脳内の局所的な変化を更に伴うか否かを判断するために、本発明者らは、ウェスタンブロット分析によって若齢動物及び老齢動物の海馬内のB2M レベルを測定して、B2M タンパク質の老化に関連した増加を検出した(
図5a)。その後、本発明者らは、異年齢並体結合により生じるB2M のレベルの全身の変化が、老齢の全身環境に曝した後、若齢の海馬内の対応する局所的な変化に更に関連付けられているか否かを検討した。本発明者らは、若齢の同年齢の対照と比較して、若齢の異年齢並体結合体の海馬の溶解物のB2M タンパク質発現の増加を検出した(
図5b)。更に、これらのデータは、全身環境で観察されたB2M の老化に関連した変化が脳内の対応する変化を伴うことを示している。
【0128】
学習及び記憶に関して外因性B2M に局所的に曝す影響を試験するために、本発明者らは、B2M 又は媒体対照を両側定位注射によって投与し、その後、RAWM及び文脈的恐怖条件付けを使用して認知機能試験を行った(
図5c)。全てのマウスは、RAWMの訓練段階中に同様の泳ぐ速度(
図6a)及び学習能力(
図5d)を示した。試験段階中、B2M が投与された動物は、媒体対照が投与された動物より、目標のプラットフォームを見つける際に著しく多いエラーを示した(
図5d)。恐怖条件付け訓練中、マウスは、ベースラインのフリージング時間の差を示さなかった(
図6b)。しかしながら、B2M が投与されたマウスは、文脈的記憶試験中フリージング時間を減少させたが(
図5e)、手がかりの記憶試験中フリージング時間を減少させなかった(
図6c)ことが実証された。これらの機能データは、B2M へのDGの局所的な曝露が学習及び記憶を損なうことを示している。
【0129】
脳の外因性B2M に局所的に曝す影響を検査するために、本発明者らは、若齢の成体マウスの右のDGにB2M を定位で注射して、左の対側性のDGに媒体対照を定位で注射した。B2M へのDGの局所的な曝露によって、媒体対照で処置された対側性のDGと比較してDcx 陽性細胞の数が減少した(
図5f及び5g)。B2M が細胞表面での非共有結合相互作用によってMHC I 複合体の活性成分であるとすると、本発明者らは次に、成体神経発生に対する外因性B2M の抑制作用がMHC I 細胞表面の発現によってもたらされるか否かを研究した。抗原ペプチド輸送体1(Tap1)タンパク質が細胞表面へのMHC I 分子の輸送に必要であり、Tap1が存在しないことにより、ごくわずかな古典的MHC I 分子しか細胞表面に達しない(Boulanger 及びShatz 著,「Immune signalling in neural development, synaptic plasticity and disease」,Nature reviews. Neuroscience (2004) 5:521-531;Shatz 著,「MHC class I: an unexpected role in neuronal plasticity」,Neuron (2009) 64:40-45;Van Kaer等著,「TAP1 mutant mice are deficient in antigen presentation, surface class I molecules, and CD4-8+ T cells」,Cell (1992) 71:1205-1214)。従って、表面MHC I 発現の減少が外因性B2M の抑制作用を緩和し得るか否かを試験するために、本発明者らは、若齢の成体Tap1ノックアウトマウス(Tap1-/- )の右のDGにB2M を定位で注射して、左の対側性のDGに媒体対照を定位で注射した。Dcx 陽性細胞の数の差が、TAP1-/- マウスの対照で処置されたDGとB2M で処置されたDGとの間で検出されなかった(
図5f及び5h)。以前の報告書(Laguna Goya 等著,「Adult neurogenesis is unaffected by a functional knock-out of MHC class I in mice」,Neuroreport (2010) 21:349-353)と一致して、本発明者らは、若齢の成体のTap1-/- 同腹子と野生型(WT)同腹子との間で神経発生のベースラインレベルの差を観察しなかった(
図7a)。更に、これらのデータは、外因性B2M の局所的なレベルの上昇が古典的MHC I に依存するように成体神経発生の減少に十分であることを示唆している。
【0130】
次に、本発明者らは、表面MHC I 発現の減少が異年齢並体結合によって生じる成体神経発生に関する老齢の血液の悪影響をある程度更に緩和し得るか否かを研究している(
図8a)。以前の報告書(Katsimpardi 等著,「Vascular and neurogenic rejuvenation of the aging mouse brain by young systemic factors」,Science (2014) 344:630-634;Villeda 等著,「The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function」,Nature (2011) 477: 90-94)と一致して、本発明者らは、若齢の野生型同年齢並体結合体と比較して、若齢の野生型異年齢並体結合体のDcx 陽性未熟ニューロン(
図8b,8c)、Tbr2陽性前駆体(
図9a,9b)及びBrdU陽性増殖細胞(
図8d)の数の減少を観察した。対照的に、本発明者らは、若齢のTap1-/- 異年齢並体結合体の神経発生のレベルのロバストな変化を検出しなかった(
図8b~8d)。対照として、若齢の野生型の同年齢並体結合体と若齢のTap1-/- 同年齢並体結合体との間で神経発生の変化が検出されなかった(
図7b~7d)。更に、本発明者らのデータは、成体の脳の再生障害の促進因子として老化促進因子の役割を更に実証し、この過程にMHC I 分子が関与していることを更に示している。
【0131】
最後に、本発明者らは、内因性B2M 発現を抑止することが老化中に観察される老化に関連した認知機能低下にもたらし得る利益について研究した。本発明者らは、全身環境及び脳内の局所の両方でタンパク質発現を欠くB2M ノックアウトマウス(B2M-/-)を利用した。本発明者らは、RAWM及び文脈的恐怖条件付けを用いて若齢及び老齢のB2M-/-及びWT対照で海馬に依存する学習及び記憶を評価した。若齢動物では、RAWM訓練中又は試験中、B2M-/-とWT対照との間で空間的な学習及び記憶の差が観察されなかった(
図10a )。興味深いことに、老齢のB2M-/-マウスは、WT対照と比較して、RAWMパラダイムの訓練段階中に空間学習能力の向上を示すと共に、タスクの試験段階中にプラットフォームの位置のための学習及び記憶の向上を示した(
図10c )。各年齢グループの動物は、遺伝子型に関わらず泳ぐ速度の差を示さなかった(
図11a ,11d )。恐怖条件付けの訓練中、全てのマウスは、遺伝子型に関わらず同様のベースラインのフリージングを示した(
図11b ,11e )。更に、文脈的恐怖条件付けパラダイム中(
図10b )又は手がかりの恐怖条件付けパラダイム中(
図11c )、若齢のB2M-/-マウス及びWTマウスにフリージングの差が観察されなかった。しかしながら、老齢のB2M-/-マウスは、WT対照と比較して文脈的記憶試験(
図10d )ではフリージングの著しい向上を実証したが、手がかりの記憶試験(
図11f )ではフリージングの著しい向上を実証しなかった。本発明者らのデータは、老齢動物の海馬に依存した学習及び記憶で、内因性B2M が存在しないことにより老化に関連した障害を改善したことを示し、老化中の認知機能低下を調節する老化促進因子としてB2M の関与を更に示している。
【0132】
その後、本発明者らは、内因性B2M が存在しないことにより成体神経発生の老化に関連した低下を更に弱め得るか否かを研究した。本発明者らは、免疫組織化学的分析によって若齢及び老齢の成体のB2M-/-同腹子及びWT同腹子の神経発生の変化を検査した。本発明者らは、若齢の成体動物では、内因性B2M 発現が生じないことによりDcx 陽性細胞の数に影響を及ぼさないことを観察した(
図10e ,10f )。重要なことに、老齢動物では、本発明者らは、野生型同腹子と比較してB2M-/-マウスのDcx 陽性新生ニューロンの数の略2倍の増加を観察した(
図10e ,10g )。本発明者らのDcx データと一致して、本発明者らは、B2M 発現に関わらず若齢動物のBrdUの標識により増殖の変化を検出しなかった(
図12a )。しかしながら、老齢のB2M-/-動物は、WT対照と比較してBrdU陽性細胞の数の著しい増加を示した(
図12b )。その後、本発明者らは、分化した成熟ニューロンがBrdU及び神経細胞マーカのNeuNの両方を発現する長期的なBrdU取込みパラダイムを使用してB2M-/-マウスのニューロンの分化及び生存を評価した(
図10h )。若齢の成体B2M-/-マウスは、WT対応物と比較してBrdU及びNeuNの両方を発現する細胞の割合の差を示さなかった(
図10i )一方、老齢の成体B2M-/-マウスは、同齢のWT同腹子と比較してBrdU及びNeuNの両方を発現する細胞の割合の著しい増加を示した(
図10j )。本発明者らは、BrdU及びGFAPのマーカを発現する細胞の割合として定量化されたあらゆる年齢での星状膠細胞の分化の差を検出した(
図12c ~12e )。更に、これらのデータは、内因性B2M の消失が老齢の脳では神経発生のレベルを高めるが若齢の脳では高めないことを示し、老化中の再生能力の低下にB2M が積極的な役割を果たすことを示している。
【0133】
MHC I 分子と協働するB2M は、CNS に特異的に関与することを実証され続けており(Lee 等著,「Synapse elimination and learning rules co-regulated by MHC class I H2-Db」,Nature (2014) 509:195-200;Boulanger 及びShatz 著,「Immune signalling in neural development, synaptic plasticity and disease」,Nature reviews. Neuroscience (2004) 5:521-531;Shatz 著,「MHC class I: an unexpected role in neuronal plasticity」,Neuron (2009) 64:40-45;Huh 等著,「Functional requirement for class I MHC in CNS development and plasticity」,Science (2000) 290:2155-2159;Goddard 等著,「Regulation of CNS synapses by neuronal MHC class I」,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (2007) 104:6828-6833;Glynn 等著,「MHCI negatively regulates synapse density during the establishment of cortical connections」,Nature neuroscience (2011) 14:442-451)、最近の研究では、脳卒中のような脳の損傷モデルのMHC I 発現を抑止する治療効果を調査し始めている(Adelson 等著,「Neuroprotection from stroke in the absence of MHCI or PirB」,Neuron (2012) 73:1100-1107)。しかしながら、CNS 又は末梢の組織のいずれかでの老化中のこれらの分子の機能的関与は未だに研究されていなかった。従って、本発明者らの研究は、認知過程及び再生過程の両方での加齢に関連した障害の進行にB2M が、未だ認識されていない役割を果たすことを解明している。更に、本発明者らの研究は、MHC I表面発現が再生機能へのB2M 及び異年齢並体結合の悪影響をある程度調節する際に関与していることを更に解明している。特に、ヒトゲノムワイド関連解析(GWAS)は、染色体6p21のMHC 遺伝子座を老化の変性疾患と関連付けて、これらの分子が年齢依存の障害に積極的な役割を果たしていることを示唆している(Jeck等著,「Review: a meta-analysis of GWAS and age-associated diseases」,Aging cell (2012) 11:727-731)。本発明者らのデータは、老化の表現型へのこのような関与の機能的証明を与えている。本発明者らのデータは、全身環境の老化に関連した変化がどのように老化脳に局所的に障害を促進するかへの機械論的な洞察を与えており、B2M 及びMHC I分子がこの過程に関与していることを強調している。翻訳に関する観点から、本発明者らのデータは、老化中に観察される加齢に関連した認知機能障害及び再生機能障害が老齢でB2M を標的にすることにより改善され得ることを示している。
【0134】
III.B2M の相対的レベルの決定
β2ミクログロブリンの相対的レベルを、SomaScan Proteomic Assay(Somalogic, Inc, Boulder, CO)によって18歳、30歳、45歳、55歳及び66歳の健康な男性のヒトのドナーの血漿サンプルで決定した。年齢グループ毎に、40人の個人からの血漿を1つのプール当たり5人の個人で8つのプールとして分析した。対数変換値の両側Student のt検定、及びヨンクヒール・タプストラ検定を使用した未変換データの傾向分析によって統計解析を行った。観察された変化が、1.1 ×10
-4のt-検定のp-値(66歳対18歳)及び1.3 ×10
-7のJT検定のp-値(全ての年齢グループ)で非常に重要であると分かった。(RFU はSomaScan Proteomic Assayによって「相対蛍光単位」を指す)。結果が
図13のグラフに示されている。
【0135】
添付の特許請求の範囲に関わらず、本開示は下記の付記により更に定義される。
【0136】
付記1 老化に関連する障害のために成体哺乳類を処置する方法であって、
老化に関連する障害のために成体哺乳類を処置するのに十分なように成体哺乳類のβ2ミクログロブリン(B2M )レベルを下げることを特徴とする方法。
【0137】
付記2 前記成体哺乳類の全身のB2M を減らすことを特徴とする付記1に記載の方法。
【0138】
付記3 前記成体哺乳類の血液からB2M を取り除くことにより、前記成体哺乳類の全身のB2M を減らすことを特徴とする付記2に記載の方法。
【0139】
付記4 前記成体哺乳類の血液からB2M を体外で取り除くことを特徴とする付記3に記載の方法。
【0140】
付記5 有効量のB2M レベル低下剤を前記成体哺乳類に投与することにより、B2M レベルを下げることを特徴とする付記1に記載の方法。
【0141】
付記6 前記B2M レベル低下剤はB2M 結合剤であることを特徴とする付記5に記載の方法。
【0142】
付記7 前記B2M 結合剤は抗体又は前記抗体の結合断片を有していることを特徴とする付記6に記載の方法。
【0143】
付記8 前記B2M 結合剤は小分子を有していることを特徴とする付記6に記載の方法。
【0144】
付記9 前記B2M レベル低下剤はB2M 発現抑制剤を有していることを特徴とする付記5に記載の方法。
【0145】
付記10 前記B2M 発現抑制剤は核酸を有していることを特徴とする付記9に記載の方法。
【0146】
付記11 前記成体哺乳類は霊長類であることを特徴とする付記1~10のいずれかに記載の方法。
【0147】
付記12 前記霊長類はヒトであることを特徴とする付記11に記載の方法。
【0148】
付記13 前記成体哺乳類は高齢の哺乳類であることを特徴とする付記1~12のいずれかに記載の方法。
【0149】
付記14 前記高齢の哺乳類は60歳以上のヒトであることを特徴とする付記13に記載の方法。
【0150】
付記15 前記老化に関連する障害は認知障害を含んでいることを特徴とする付記1~14のいずれかに記載の方法。
【0151】
付記16 前記成体哺乳類は、老化に関連する病状を患っていることを特徴とする付記1~15のいずれかに記載の方法。
【0152】
付記17 前記老化に関連する病状は、認知機能低下の病状であることを特徴とする付記1~16のいずれかに記載の方法。
【0153】
前述の内容は本発明の本質を単に示しているだけである。本明細書に明示的に説明されていないか又は示されていないが、本発明の本質を具体化して本発明の趣旨及び範囲に含まれる様々な構成を当業者が考案することが可能であることは明らかである。更に、本明細書に述べられている全ての例及び条件的な用語は、本発明の本質と本技術分野を進展させるために本発明者らにより与えられた概念とを理解する際に読者を支援することを本質的に意図するものであり、このように具体的に述べられた例及び条件に限定するものではないと解釈されるべきである。更に、本発明の本質、態様及び実施形態だけでなく、本発明の具体的な例を述べている本明細書における全ての記載は、本発明の構造的且つ機能的な等価物の両方を含むことを意図するものである。加えて、このような均等物は、現時点で既知の均等物及び今後開発される均等物の両方、すなわち構造に関わらず同一の機能を行う開発された全ての要素を含むことを意図するものである。従って、本発明の範囲は、本明細書に示され説明された例示的な実施形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明の範囲及び趣旨は、添付の特許請求の範囲により具体化される。
【0154】
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた契約AG027505、契約OD012178及び契約TR000004の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において決められた権利を有している。
【0155】
本出願は、米国特許法第119 条(e) に従って、2015年5月18日に出願された米国仮特許出願第62/163,222 号明細書の出願日の優先権を主張しており、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0156】
本出願は更に、2014年5月19日に出願された米国特許出願第14/280,939 号明細書の一部継続出願であり、この出願は、現在放棄されている2012年10月9日に出願された米国特許出願第13/575,437 号明細書の継続出願であり、この出願は、2011年1月28日に出願された国際出願第PCT/US2011/022916 号の米国国内移行段階の出願であり、この出願は、米国特許法第119 条(e) に従って、2010年1月28日に出願された米国仮特許出願第61/298,998 号明細書の出願日の優先権を主張しており、その開示内容が参照によって本明細書に組み込まれる。
【配列表】