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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】相変化材料
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/76 20060101AFI20230801BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
E04B1/76 100Z
C09K5/06 J
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021052613
(22)【出願日】2021-03-26
(62)【分割の表示】P 2017561768の分割
【原出願日】2016-05-26
(65)【公開番号】P2021101025
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】1509179.6
(32)【優先日】2015-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397060588
【氏名又は名称】デュポン ニュートリション バイオサイエンシーズ エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ビャルネ・ニールセン
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・ピーター・ヘンツェ
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-504417(JP,A)
【文献】特開2015-081297(JP,A)
【文献】特表2009-527469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
E04B 1/62-1/99
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化材料を含む建築材料用の温度調節物品であって、
該相変化材料が、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルと、過冷却を減少させるための種添加剤とを含み、
前記1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルが、1,3-プロパンジオールジパルミテート、1,3-プロパンジオールジラウレート、1,3-プロパンジオールモノラウレート、1,3-プロパンジオールジカプレート、または1,3-プロパンジオールジカプリレートであり、
前記種添加剤が、1,3-プロパンジオールジベヘネートである、温度調節物品。
【請求項2】
前記相変化材料が、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、100~250J/gの融解熱を有することを特徴とする、請求項1に記載の温度調節物品
【請求項3】
前記相変化材料が、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、50J/g超の融解熱を有することを特徴とする、請求項1に記載の温度調節物品
【請求項4】
前記相変化材料が、1~20℃の相転移温度範囲を有することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の温度調節物品
【請求項5】
前記相変化材料が、熱安定剤をさらに含み、
該熱安定剤が、tert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリス(2,4-ジtert-ブチルフェニル)ホスファイト、またはプロピル-3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の温度調節物品
【請求項6】
結晶化または融解中に潜熱を放出または吸収するための請求項1~のいずれか一項に記載の相変化材料としての、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオベースおよび再生可能である相変化材料ならびに非食品および食品用途のための、相変化材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
相変化材料(PCM)は、融解および結晶化中に、それぞれ、大量の潜熱を吸収および放出することができる潜熱貯蔵材料である。熱エネルギー伝達は、材料が固相から液相、または液相から固相に変換されるときに起こる。このような相変化の間に、PCM材料の温度は、PCM材料の周囲の空間と同様にほとんど一定のままであり、PCMを通って流れる熱は、PCM材料内に「捕捉」される。
【0003】
相変化材料(PCM)は、融解および結晶化の間に相当量の熱エネルギーを貯蔵および放出する。それらは、建物のコンディショニング(例えば、DuPontTMによるEnergain(登録商標))、包装、食品の熱保護、エレクトロニクス、自動車用途、テキスタイルおよび衣類、保護装置、熱エネルギー貯蔵または医療用途のような様々な用途で温度を制御するために使用される。
【0004】
広範な無機および有機の相変化材料が今日適用されている。無機相変化材料には、塩(例えば、AlCl、LiNO、LiF)、塩水和物(例えば、KF・4HO、LiNO・3HO、MgCl・6HO)ならびに様々な共晶および非共晶混合物(例えば、66.6%尿素+33.4%NHBr)が含まれる。有機相変化材料の例は、パラフィン(例えば、n-ヘキサデカン、n-ヘキサコザン、n-トリアコンタン)、脂肪酸(例えば、カプリル酸、ラウリン酸、ウンデシレン酸)、脂肪酸の共晶混合物(例えば、69%ラウリン酸/31%パルミチン酸)、モノヒドロキシアルコール(例えば、1-テトラデカノール)、糖(例えば、マンニトール)、ケトン、エーテル、アミド、ポリマーおよび脂肪酸エステル(例えば、メチルパルミテート、ブチルステアレート、エチレングリコールジステアレート)である。
【0005】
典型的にはPCMの非常に特異的な特性が特定の用途を可能にするために必要とされるので、この多種多様な相変化材料が使用される。これらの特性には、高エネルギー貯蔵能力のための特異的な融解温度、狭い融解温度範囲および高い融解熱が含まれる。特定の用途に応じて、さらなる特性、例えば、親水性、疎水性、難燃性、生分解性または食品クレード品質も重要な役割を果たす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、バイオベースで、再利用可能であり、かつ食品グレード材料から作られている新規なクラスの相変化材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルを含む相変化材料によって解決される。この目的は、融解または結晶化中に潜熱を放出または吸収するための相変化材料として1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルを使用することによってさらに解決される。
【0008】
本発明はさらに、相変化材料を含む温度調節物品であって、前記相変化材料が少なくとも1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルである、温度調節物品について記載する。こ
れによって、その物品が、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステル以外の相変化材料を含んでもよいことが理解されるべきである。別の実施形態において、その物品は、任意選択により他の相変化材料と一緒に、種々の1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルを含むこともできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
さらなる実施形態において、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルは、1,3-プロパンジオール脂肪酸モノエステルである。さらなる使用において、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルは、1,3-プロパンジオール脂肪酸モノエステルである。
【0010】
なおさらなる実施形態において、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルは、1,3-プロパンジオール脂肪酸ジエステルである。なおさらなる使用において、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルは、1,3-プロパンジオール脂肪酸ジエステルである。
【0011】
用語「融解熱」および「潜熱」は、本明細書で交換可能に使用される。
【0012】
本発明は、脂肪酸の1,3-プロパンジオールエステルである、新規なクラスの相変化材料について初めて記載する。脂肪酸の1,3-プロパンジオールジエステルおよびモノエステルは、完全にバイオベースで、再生可能で、かつ生分解性である。それらは、食品グレード原料のみから作られており、したがって、食品成分の熱保護などの食品添加物として使用されてもよい。
【0013】
相変化材料は、融解または結晶化中に潜熱を放出および吸収することは公知である。1,3-プロパンジオールジエステルおよびモノエステルは、特徴的なPCM特性、例えば、1,2-プロパンジオールエステルとは対照的に高い潜熱および低い融解温度範囲を示す。これは、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)と1,3-プロパンジオールとの脂肪酸エステルの分子構造の相違のためである。1,3-プロパンジオールモノエステルのより直鎖的な構造(図1A、左)は、規則的な結晶充填を可能にし、これにより、対応する1,2-プロパンジオールモノエステル(図1A、右)と比較して、相変化材料に必要とされるより狭い融解範囲および高い融解熱が可能になる。同様に、1,3-プロパンジオールジエステルのより直鎖的な構造(図1B、左)は、対応する1,2-プロパンジオールジエステル(図1B、右)と比較して、より規則的な結晶充填を可能にする。
【0014】
温度調節物品によって、物品のすべての構成要素の一部または物品の1つ以上の構成要素の一部のいずれかとして相変化材料を含む任意の物品が理解されるべきである。
【0015】
物品の非限定的なリストは、自動車物品、例えば、エンジン冷却システム、建築材料、例えば、壁パネル、窓および床、テキステイル、例えば、ジャケット、靴、例えば、靴底、保護装備、例えば、消防士スーツ、低体温療法のための物品、電気装置、食品包装ならびに種々の食品の処方物である。
【0016】
一実施形態において、PCMは、1,3-プロパンジオールジエステルを含む。別の実施形態において、PCMは、1,3-プロパンジオールモノエステルを含む。さらなる実施形態において、PCMは、1,3-プロパンジオールモノエステルおよび1,3-プロパンジオールジエステルの両方を含む。
【0017】
1,3-プロパンジオールエステルは、過剰の脂肪酸および1,3-プロパンジオールを使用する直接エステル化によって製造される。エステル化後、残存する遊離脂肪酸およびアルコールは、蒸留によって除去される。残存するエステルは、直接適用され得るか、
または、例えば、生成物の追加の蒸留によって、さらに精製され得る。例として、これは、国際公開第08/123845号パンフレットに記載されたとおりに行なうことができる。
【0018】
さらなる実施形態において、相変化材料は、バイオベースである。さらなる使用において、相変化材料は、バイオベースである。これによって、相変化材料が、環境に優しい仕方で生物学的産物から製造されることが理解されるべきである。例えば、植物油は、脂肪酸の供給源として役立ち、1,3-プロパンジオールは、トウモロコシシロップの発酵(1,3-プロパンジオールのバイオ分離)によって製造される。このプロセスは、従来の1,3-プロパンジオール製造よりも40%少ないエネルギーを使用し、温室ガス排出を20%だけ減少させる(参考:http://brew.geo.uu.nl/BREWsymposiumWiesbaden11mei2005/WEBSITEBrewPresentations51105.PDF)。
【0019】
バイオベースで、再生可能な1,3-プロパンジオールは、例えば、国際公開第1996/035796号パンフレットに記載されたとおりに製造することができる。
【0020】
なおさらなる実施形態において、ジエステルは、対称ジエステルである。さらなる使用において、ジエステルは、対称ジエステルである。対称ジエステルによって、1,3-ジオールに結合した脂肪酸ジエステルが同一であることが理解されるべきである。これによって、その分子が対称になり、これにより典型的にはより規則的な結晶充填が形成することが得られる。
【0021】
なおさらなる実施形態において、ジエステルは、非対称ジエステルである。さらなる使用において、ジエステルは、非対称ジエステルである。非対称ジエステルによって、2つの異なる脂肪酸エステルが、1,3-ジオールの1つの分子に結合していることが理解されるべきである。このように、融解温度は、変えること、および細かく調整することができる。
【0022】
なおさらなる実施形態において、1,3-プロパンジオールエステルは、モノエステルである。このようにして、PCMの融解温度は、対応する1,3-プロパンジオールジエステルと比較して、低下させることができる。
【0023】
さらなる実施形態において、前記エステルは、2~24個の炭素原子の鎖長を有する脂肪酸を含む。さらなる使用において、前記エステルは、2~24個の炭素原子の鎖長を有する脂肪酸を含む。なおさらなる実施形態において、前記鎖長は、8~22個の炭素原子である。さらなる使用において、前記鎖長は、8~22個の炭素原子である。
【0024】
融解温度が高ければ高いほど、潜熱はより高い(表1参照)。したがって、1,3-プロパンジオールに結合した脂肪酸エステルの鎖長を変えることによって、相変化材料の特性を変えることが可能である。脂肪酸エステルの鎖長が長ければ長いほど、1,3-プロパンジオールエステルの融解温度は、より高く、より多くの熱をその組成物から吸収および放出することができる。
【0025】
脂肪酸は、飽和および不飽和の両方の脂肪酸、例えば、限定されないが、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナト酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ルリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、スタリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキ
ドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンドン酸(gondoic acid)、エルカ酸、ネルボン酸、ミード酸であり得る。
【0026】
一実施形態において、1,3-プロパンジオールに結合した脂肪酸エステルは、飽和または不飽和脂肪酸のいずれかである。
【0027】
さらなる実施形態において、1,3-プロパンジオールに結合した脂肪酸エステルは、飽和および不飽和脂肪酸である。
【0028】
さらなる実施形態において、相変化材料は、一部の1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルが飽和脂肪酸を含み、一部が不飽和脂肪酸を含む、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルを含む。
【0029】
さらなる実施形態において、相変化材料は、一部の1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルが飽和脂肪酸を含み、一部が飽和および不飽和脂肪酸の混合物を含む、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルを含む。
【0030】
さらなる実施形態において、相変化材料は、一部の1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルが不飽和および飽和脂肪酸の混合物を含み、一部が不飽和脂肪酸を含む、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルを含む。
【0031】
さらなる実施形態において、相変化材料は、一部の1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルが飽和脂肪酸を含み、一部が不飽和脂肪酸を含み、一部が飽和および不飽和脂肪酸の混合物を含む、1,3-プロパンジオール脂肪酸エステルを含む。
【0032】
さらなる実施形態において、前記脂肪酸の少なくとも1種は飽和である。さらなる使用において、前記脂肪酸の少なくとも1種は飽和である。
【0033】
一部の実施形態において、脂肪酸は、飽和脂肪酸、例えば、限定されないが、12-ヒドロキシステアリン酸のような官能化脂肪酸も含めて、酢酸、プロピオン酸、酪酸、バレリン酸、カプロン酸、エナト酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンエイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸である。
【0034】
飽和脂肪酸の使用は、典型的には、不飽和脂肪酸を含むエステルと比較して1,3-プロパンジオールエステルのより高い結晶化度をもたらす。
【0035】
さらなる実施形態において、前記脂肪酸の少なくとも1種は不飽和である。さらなる使用において、前記脂肪酸の少なくとも1種は不飽和である。
【0036】
一実施形態において、脂肪酸は、不飽和脂肪酸、例えば、限定されないが、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタン酸、ドコサヘキサン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、パルミトレイン酸、バクセン酸、パウリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ゴンドン酸(gondoic
acid)、エルカ酸、ネルボン酸、ミード酸である。
【0037】
なおさらなる実施形態において、前記エステルの脂肪酸は、直鎖である。なおさらなる使用において、前記エステルの脂肪酸は、直鎖である。直鎖脂肪酸は、規則的な結晶充填
により容易に充填される。これによって、結晶化度は増加しており、より効率的なPCM特性が得られる。
【0038】
なおさらなる実施形態において、前記エステルの脂肪酸鎖は、直鎖かつ飽和である。なおさらなる使用において、前記エステルの脂肪酸鎖は、直鎖かつ飽和である。
【0039】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、100~250J/gの高い融解熱を有する。さらなる使用において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、100~250J/gの高い融解熱を有する。
【0040】
なおさらなる実施形態において、前記融解熱は1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、150~200J/gである。さらなる使用において、前記融解熱は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、150~200J/gである。
【0041】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、50J/g超の高い融解熱を有する。さらなる使用において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、50J/g超の高い融解熱を有する。
【0042】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、100J/g超の高い融解熱を有する。さらなる使用において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、100J/g超の高い融解熱を有する。
【0043】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、150J/g超の高い融解熱を有する。さらなる使用において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、150J/g超の高い融解熱を有する。
【0044】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、200J/g超の高い融解熱を有する。
さらなる使用において、前記相変化材料は、1℃/分の加熱速度でDSCにより測定される場合、200J/g超の高い融解熱を有する。
【0045】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、1~20℃の相転移温度範囲を有する。さらなる使用において、前記相変化材料は、1~20℃の相転移温度範囲を有する。
【0046】
相転移温度範囲は、好ましくは1℃/分で測定される場合、DSC曲線の左限界と右限界の間の差と理解される。
【0047】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、1~15℃の相転移温度範囲を有する。さらなる使用において、前記相変化材料は、1~15℃の相転移温度範囲を有する。
【0048】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、1~10℃の相転移温度範囲を有する。さらなる使用において、前記相変化材料は、1~10℃の相転移温度範囲を有する。
【0049】
さらなる実施形態において、前記相転移温度は、3~7℃である。さらなる使用において、前記相転移温度は、3~7℃である。
【0050】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、追加的熱安定剤をさらに含む。さらなる使用において、前記相変化材料は、追加的熱安定剤をさらに含む。
【0051】
一実施形態において、熱安定剤は、酸化防止剤または種々の酸化防止剤のブレンドである。これによって、例えば、フリーラジカルまたは加水分解による熱分解は、防止または阻止される。
【0052】
1,3-プロパンジオールエステルの熱安定化のための酸化防止剤の例は、tert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリス(2,4-ジtert-ブチルフェニル)ホスファイトまたはプロピル-3,4,5-トリヒドロキシベンゾエートである。
【0053】
一実施形態において、熱安定剤は、0.1重量%~3重量%の濃度で添加される。さらなる実施形態において、熱安定剤は、0.2重量%~0.8重量%の濃度で添加される。なおさらなる実施形態において、熱安定剤は、0.4重量%~0.6重量%の濃度で添加される。
【0054】
さらなる実施形態において、前記相変化材料は、過冷却を低減するための種添加剤をさらに含む。さらなる使用において、前記相変化材料は、過冷却を低減するための種添加剤をさらに含む。
【0055】
相変化材料において、過冷却は、これが相変化材料の効果を減少させるので、好ましくは避けられるべきである。過冷却は、液体または気体の温度が、それが固体となることなくその凝固点未満に下がる過冷却としても知られる。
【0056】
過冷却は、相変化材料への種添加剤の添加によって抑制され得る。短鎖および中鎖長脂肪酸の1,3-プロパンジオールエステルは、長鎖脂肪酸エステルの1,3-プロパンジオールエステルよりも大きい過冷却を示す。短鎖および中鎖脂肪酸の1,3-プロパンジオールエステルへの種添加剤の添加は、これらの過冷却を有効に抑制する。
【0057】
種添加剤は、粒子または比較的高い融解性化合物であり得る。種粒子は、例えば、ポリマー粒子またはシリカ粒子である。比較的高い融解性化合物は、パラフィンワックスのような、比較的高い融解温度を有するワックス、ケトン、エーテルおよびエステルである。さらなる実施形態において、比較的高い融解性化合物は、例えば、18個以上の炭素原子の脂肪酸鎖長を有する長鎖脂肪酸との1,3-プロパンジオールエステルであり得る。
【0058】
本発明はさらに、非食品用途、例えば、自動車(例えば、エンジン冷却システム)、建築材料(例えば、壁パネル、窓、床)、テキスタイル(例えば、ジャケット)、靴(例えば、靴底)、保護装備(例えば、消防士スーツ)および/または医療用途(例えば、低体温療法)での上で記載されたとおりの相変化材料の使用について記載する。
【0059】
相変化材料はさらに、太陽エネルギーの熱貯蔵、バイオクライマティックビルディング/アーキテクチャにおける受動的貯蔵、エンジンの冷却、水の加熱、室温の維持、電子装置の熱保護などの用途に使用され得る。
【0060】
本発明はさらに、食品用途での上に記載されたとおりの相変化材料の使用について記載する。さらなる使用において、相変化材料は、食品包装に使用される。さらなる使用において、相変化材料は、食品処方物に使用される。
【0061】
食品添加剤としての本明細書で記載されるとおりの相変化材料の使用は、相変化材料が食品グレード材料から作られているので有利である。化合物がしばしば、包装それ自体から、包装される食品に移されることは一般に公知である。食品グレード材料である相変化材料の使用は、材料が安全に摂取され得るのでより安全である包装材料をもたらす。これによって、食品はまた、移送中に熱的に保護されてもよい。
【0062】
食品添加剤も、そのままの食品成分に添加することができる。本発明による相変化材料は食品グレード材料から作られているので、相変化材料は、なんらの健康リスクもなしに摂取することができる。これによって、食品グレードPCMは、食品処方で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1A】1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)および1,3-プロパンジオールの脂肪酸モノエステルの分子構造を例示する図である。
図1B】1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)および1,3-プロパンジオールの脂肪酸ジエステルの分子構造を例示する図である。
図2】1,3-プロパンジオール脂肪酸ジエステルの相転移温度および加熱温度および熱融解を例示する図である。
図3図3Aは、1,2-プロパンジオールモノラウレートの融解温度範囲および融解熱の第1の測定を例示する図である。図3Bは、1,22-プロパンジオールモノラウレートの融解温度範囲および融解熱の第2の測定を例示する図である。図3Cは、1,3-プロパンジオールモノラウレートの融解温度範囲および融解熱の第1の測定を例示する図である。図3Dは、1,3-プロパンジオールモノラウレートの融解温度範囲および融解熱の第2の測定を例示する図である。
図4図4Aは、1,3-プロパンジオールジベハネートの融解温度範囲および融解熱の第1の測定を例示する図である。図4Bは、1,3-プロパンジオールジベハネートの融解温度範囲および融解熱の第2の測定を例示する図である。図4Cは、1,2-プロパンジオールジベヘネートの融解温度範囲および融解熱の第1の測定を例示する図である。図4Dは、1,2-プロパンジオールジベヘネートの融解温度範囲および融解熱の第2の測定を例示する図である。
図5A】種添加なし(100重量% 1,3-プロパンジオールジカプリレート)のDSC測定(冷却曲線)を例示する図である。
図5B】種添加あり(97重量% 1,3-プロパンジオールジカプリレート+3重量% 1,3-プロパンジオールジベヘネート)のDSC測定(冷却曲線を例示する図である。
【実施例
【0064】
材料および方法
化合物
1,3-プロパンジオールエステルを、以下に記載されるとおりの1,3-プロパンジオールジベヘネートの合成と同様に1,3-プロパンジオールの脂肪酸によるエステル化によって生成させた。
【0065】
ビグリューカラム、コンデンサおよび真空ポンプへの接続部を備えた5Lの三口反応フラスコ中、2kgのベヘン酸、186gの1,3-プロパンジオールおよび2.81gのステアリン酸マグネシウムを180℃で機械的攪拌によって混合した。この温度で、水が形成し始め、コンデンサ中に凝縮した。この反応は窒素雰囲気で行なった。200~210℃の反応温度に達するまで、加熱を注意深く続けた。この反応を、AV=27の酸価に達するまで窒素下205℃で維持した。その後、反応混合物を175℃に冷却し、リン酸で中和した。この温度での攪拌を15分間続け、その後、反応混合物を100℃に冷却し
た。クラルセル(Clarcell)濾過助剤を添加し、この混合物を110℃で予熱ブフナー漏斗中に注いで、濾過ケーキを形成した。残存する生成物を500ミリバールの圧力で100℃にて濾過した。余剰の脂肪酸およびモノエステルは、1x10-3ミリバールの圧力で205℃にて蒸留除去した。得られた残留物は、1,3-プロパンジオールジベヘネート生成物を含有した。わずかに黄色がかった生成物を、278℃で真空下に短行程蒸留(短行程蒸留ユニットKD-L5)によりさらに精製した。最終生成物をバルク材料または噴霧冷却によって得られたマイクロビーズとして適用した。
【0066】
示差走査熱量測定(DSC)の測定
相変化材料の特徴付けは、動的走査熱量計(Metler Toledo DSC822)を使用して行なった。各測定について、1~3mgの試料を入れるために40マイクロリットルの容積のアルミニウム製標準パンを使用した。温度プロファイルは、典型的には、1℃/分で25℃から80℃に加熱し(加熱1)、C1:1℃/分で80℃から20℃に冷却し(冷却1)、続いてその後に1℃/分で20℃から80℃に加熱すること(加熱2)である。PCMのタイプおよび特定の融解温度に依存して、代わりにより高いもしくはより低い温度または加熱および冷却速度を適用した(例えば、10℃/分)。
【0067】
融解温度および潜熱は、第2の熱融解曲線から、熱平衡後に決定した。
【0068】
測定はすべて、二通りで行なった。
【0069】
II.結果
1,3プロパンジオールエステルの相変化材料特性
8、10、12、16、および22個の炭素原子の鎖長を有する飽和脂肪酸の種々の1,3-プロパンジオールエステル、すなわち、1,3-プロパンジオールジベヘネート、1,3-プロパンジオールジパルミテート、1,3-プロパンジオールジラウレート、1,3-プロパンジオールジカプレート、1,3-プロパンジオールジカプリレート、および1,3-プロパンジオールモノラウレートを得た。
【0070】
生成物は、DSCにより測定して、典型的なPCM特性、例えば、高い潜熱および狭い融解温度範囲を示す(図2および表1)。これは、それらのより直鎖の構造のために結晶化中のより規則的な充填によって生じると最も思われる。
【0071】
【表1】
【0072】
一例として、表2は、DSCによる1,3-プロパンジオールジパルミテートの別個の
2つの測定で得られた値を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
1,3-プロパンジオールモノラウレートと1,2-プロパンジオールモノラウレートの比較
1,3-プロパンジオールモノラウレートおよび1,2-プロパンジオールモノラウレートの比較試験により、1,2-プロパンジオールモノラウレート(図3A図3Bおよび表3)が、1,3-プロパンジオールモノラウレート(図3C図3Dおよび表3)より大きな融解温度範囲およびより低い潜熱を示すことが示される。したがって、1,2-プロパンジオールモノラウレートは、1,3-プロパンジオールモノラウレートのような相変化材料として使用することができない。
【0075】
【表3】
【0076】
1,3-プロパンジオールジベヘネートと1,2-プロパンジオールジベヘネートの比較
1,3-プロパンジオールジベヘネートおよび1,2-プロパンジオールジベヘネートの比較試験により、1,2-プロパンジオールジベヘネート(図4C図4Dおよび表4)が、1,3-プロパンジオールジベヘネート(図4A図4Bおよび表4)よりもはるかに大きな融解温度範囲およびより低い潜熱を示すことが示される。したがって、1,2-プロパンジオールジベヘネートは、1,3-プロパンジオールジベヘネートのような相変化材料として使用することができない。
【0077】
【表4】
【0078】
種添加剤の添加
融解温度が高ければ高いほど、融解熱はより高い。短鎖長および中鎖長脂肪酸の1,3-プロパンジオールジエステルは、長鎖脂肪酸エステルよりも大きな過冷却を示す(図4および図5に示されるとおり)。これは、例えば、1,3-プロパンジオールジカプリレートのはるかにより大きな過冷却(図5)を1,3-プロパンジオールジベヘネートの最低限の過冷却(図4)と比較する場合である。全体としては、試料は、狭い温度範囲にわたる固-液転移を示し、過冷却を少しだけしかまたはまったく示さず、これは他の脂肪酸エステルと一致している。(参考文献K.Pielichowska,Progress
in Materials Science 65(2014),page79参照)。
【0079】
1,3-プロパンジオールジカプリレートの過冷却は、純カプリレート(図5Aおよび表5)および3重量%の1,3-プロパンジオールジベヘネートを含む1,3-プロパンジオールジカプリレート(図5Bおよび表5)で測定した。1,3-プロパンジオールジベヘネートは、種添加剤として機能し、1,3-プロパンジオールの短鎖脂肪エスエルジエステルの過冷却を有効に抑制する。
【0080】
【表5】
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A
図5B