(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】核酸試料の調製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20230801BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20230801BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12Q1/6806 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2022065024
(22)【出願日】2022-04-11
(62)【分割の表示】P 2017200863の分割
【原出願日】2017-06-07
【審査請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2016/070343
(32)【優先日】2016-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 高良
(72)【発明者】
【氏名】八谷 輝
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-103997(JP,A)
【文献】Detection of Propionibacterium acnes 16S rRNA and Lipase Genes from Sebum Samples Collected on Lipid,Pressure Biosciences Inc. Press Releases,2009年,[検索日2021年4月27日]インターネット,<URL:https://pressurebiosciences.com/news/publications-by-type/archi ved-publications-and-posters/an-1006-v1-detection-of-propionibacterium-a cnes-16s-rrna-and-lipase-genes-from-sebum-samples-collected-on-lipid-spe cific-adhesive-skin-strips-and-processed-by-pressure-cycling-technology- pct-10-04-09>
【文献】日本分子生物学会年会プログラム・要旨集,2014年,Vol.37,2P-0017
【文献】J. Invest. Dermatol.,2006年,Vol.126, No.10,pp.2234-2241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/10
C12Q 1/6806
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から皮膚表上脂質を採取すること、および該採取された皮膚表上脂質から核酸を分離することを含む、被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製方法であって
、
該被験体からの皮膚表上脂質の採取が、乾燥した状態の皮膚表上脂質吸収性素材を使用して行われ
、該皮膚表上脂質吸収性素材は、皮膚表上脂質接着性素材ではない、
方法。
【請求項2】
前記皮膚表上脂質が手のひら、背部、足の裏、又は指の皮膚の皮膚表上脂質を含まない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記核酸がRNAである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記RNAが200nt以上の長さである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記RNAがmRNAおよびlincRNAからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記核酸が表皮、皮脂腺、毛包および汗腺に由来する核酸を含む、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記被験体が、皮膚における遺伝子発現解析、または皮膚もしくは皮膚以外の部位の状態の解析を必要とするかまたは希望する、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の方法で調製した核酸を解析することを含む、核酸の解析方法。
【請求項9】
前記解析が、皮膚に関する遺伝子発現解析もしくはその他の遺伝子情報の解析、被験体の皮膚に関する機能解析、被験体の皮膚状態の解析、または被験体の皮膚以外の部位または全身の状態の解析である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記皮膚表上脂質吸収性素材があぶら取り紙またはあぶら取りフィルムである、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸試料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、解析技術の急速な発展に伴い、様々な生体試料中の分子(核酸、タンパク質、代謝物等)を詳細に解析することが可能となった。さらに、これらの分子解析によりヒトの生体内の現在、さらには将来の生理状態を調べる技術の開発も進んでいる。なかでも、核酸分子を用いた解析は、網羅的な解析方法が確立されていることから一度の解析で豊富な情報を得られること、および一塩基多形やRNA機能などに関する多くの研究報告に基づいて解析結果の機能的な紐付けが容易であることといった利点を有する。
【0003】
低侵襲もしくは非侵襲的に回収された生体試料中の核酸分子を用いた疾患等の診断および予測技術は、世界中の多くの研究機関が開発を進めており、飛躍的にその応用化が進展している。なかでも汎用されているのは、DNAもしくはRNAを用いた診断技術である。DNAを用いた診断技術は、一般に、唾液もしくは口腔内の細胞を採取し、そこに含まれるゲノムDNA中の一塩基多形を解析することで、将来の疾患リスクや自身の体質を診断する方法である。一方で、RNAを用いた診断技術は、血液、尿などの生体試料に含まれるRNAの発現情報を基に、現在の生体内における疾患の有無を診断する方法である(非特許文献1)。
【0004】
生体の様々な組織の中でも、皮膚は、外界と接していることから、侵襲性低く生体試料を採取できる組織として注目されている。従来、皮膚からの非侵襲的なもしくは低侵襲的な核酸の採取法としては、テープを用いた角層剥離や抜去毛の利用が報告されている(非特許文献2、特許文献1)。しかしながら、角層剥離による核酸採取には、専用のテープが必要なこと、採取量が微量であること、および採取した核酸から表皮由来の発現情報しか得られないこと、などの欠点がある。また抜去毛からの核酸採取には、毛抜去の際に痛みを伴うこと、および採取した核酸から毛包由来の発現情報しか得られないこと、などの欠点がある。また、皮膚からの非侵襲的な核酸の採取法として、湿らせたコットンスワブ(綿球)で皮膚表面を拭うことによりヒト皮膚サンプルを採取し、RNAプロファイリングを行なうことが報告されている(非特許文献3)。この報告において採取されるヒト皮膚サンプルは、その採取方法から皮膚表面上に存在する脂質ではないと判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Crit Rev Clin Lab Sci, 2014, 51, 200-231
【文献】J Invest Dermatol, 2006, 126, 2234-2241
【文献】Forensic Sci Int Genet,2012, 6(5):565-577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡便かつ非侵襲的に被験体の核酸を調製する方法およびそのための用具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、本発明は、被験体から採取された皮膚表上脂質から核酸を分離することを含む、被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製方法を提供する。
別の一態様において、本発明は、前記方法で調製した核酸を解析することを含む、核酸の解析方法を提供する。
さらなる態様において、本発明は、被験体の皮膚表上脂質の採取用具を含む、被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製用キットを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被験体から簡便かつ非侵襲的に核酸試料を採取することができる。本発明により調製された核酸は、被験体の皮膚に関する遺伝子発現解析およびその他の遺伝子情報の解析、被験体の皮膚に関する機能解析、被験体の皮膚状態の解析(例えば、皮膚ガンの診断)、さらには被験体の皮膚以外の部位または全身の状態の解析(例えば、各種疾患の診断)などのための試料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】各種生体試料由来RNAにおけるmRNA発現。
【
図3】SSLにおける表皮、汗腺、毛包、真皮および皮脂腺のマーカー遺伝子の発現量。
【
図4】次世代シーケンサーとリアルタイムPCRとの発現量解析結果の相関性。
【発明を実施するための形態】
【0011】
低侵襲的に、かつ採取者や場所を選ばずに、被験体から核酸試料を採取することができる方法の開発が望まれる。さらに、皮膚およびその他の様々な組織や器官に由来する情報を得ることができるような核酸試料を得ることができればなお望ましい。
【0012】
本発明者は、皮膚表上に存在する脂質のなかに被験体の皮膚細胞に由来する核酸が含まれていること、当該核酸が、表皮だけでなく、皮脂腺、毛包等の他の組織における遺伝子発現プロファイルをも反映していることを見出した。よって本発明者は、当該脂質中の核酸を解析することによって、簡便かつ非侵襲的に、かつより包括的に、被験体の遺伝子解析や状態診断などを行うことが可能になることを見出した。
【0013】
本発明は、簡便かつ非侵襲的に被験体の核酸を調製する方法およびそのための用具を提供する。本発明によれば、被験体から簡便かつ非侵襲的に核酸試料を採取することができる。本発明により調製された核酸は、被験体の皮膚に関する遺伝子発現解析およびその他の遺伝子情報の解析、被験体の皮膚に関する機能解析、被験体の皮膚状態の解析(例えば、皮膚ガンの診断)、さらには被験体の皮膚以外の部位または全身の状態の解析(例えば、各種疾患の診断)などのための試料として有用である。
【0014】
(核酸の調製方法)
一態様において、本発明は、被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製方法を提供する。一実施形態において、本発明による被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製方法は、被験体から採取された皮膚表上脂質から核酸を分離することを含む。
【0015】
本明細書において、「皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚表上にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。
【0016】
本明細書において、「皮膚」とは、特に限定しない限り、体表の表皮、真皮、毛包、ならびに汗腺、皮脂腺およびその他の腺などの組織を含む領域の総称である。
【0017】
本発明の方法における被験体は、皮膚上にSSLを有する生物であればよい。被験体の例としては、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。好ましくは、該被験体は、自身の核酸の解析を必要とするかまたは希望するヒトまたは非ヒト哺乳動物である。また好ましくは、該被験体は、皮膚における遺伝子発現解析、または核酸を用いた皮膚もしくは皮膚以外の部位の状態の解析を必要とするかまたは希望するヒトまたは非ヒト哺乳動物である。
【0018】
被験体から採取されたSSLは、該被験体の皮膚細胞で発現した核酸を含み、好ましくは該被験体の表皮、皮脂腺、毛包、汗腺、および真皮のいずれかで発現した核酸を含み、より好ましくは該被験体の表皮、皮脂腺、毛包、および汗腺のいずれかで発現した核酸を含む。したがって、本発明の方法により調製される被験体の皮膚細胞に由来する核酸は、好ましくは被験体の表皮、皮脂腺、毛包、汗腺および真皮から選択される少なくとも1部位由来の核酸であり、より好ましくは表皮、皮脂腺、毛包および汗腺から選択される少なくとも1部位由来の核酸である。
【0019】
本発明の方法により調製される被験体の皮膚細胞に由来する核酸は、DNA、RNAなど特に限定されないが、好ましくはRNAである。RNAとしては、mRNA、tRNA、rRNA、small RNA(例えば、microRNA(miRNA)、small interfering RNA(siRNA)、Piwi-interacting RNA(piRNA)など)、long intergenic non-coding(linc)RNA、などが挙げられる。mRNAは、タンパク質をコードするRNAであり、多くは1000nt以上の長さを有する。miRNA、siRNA、piRNAおよびlincRNAは、タンパク質をコードしないnon-coding(nc)RNAである。miRNAは、ncRNAのうち、長さ19-30nt程度の小さなRNAである。lincRNAは、mRNA同様にpoly-Aをもつ長いnon-coding RNAであり、200nt以上の長さを有する(非特許文献1)。より好ましくは、本発明の方法において調製される核酸は、200nt以上の長さを有するRNAである。さらに好ましくは、調製される核酸は、mRNAおよびlincRNAからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0020】
一実施形態において、本発明の方法は、被験体のSSLを採取することをさらに含んでいてもよい。SSLが採取される皮膚の部位としては、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚、アトピー、ニキビ、炎症、腫瘍等の疾患を有する皮膚、創傷を有する皮膚、などが挙げられるが、特に限定されない。また、SSLが採取される皮膚の部位は、好ましくは、手のひら、背部、足の裏、又は指の皮膚を含まない。
【0021】
被験体の皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収または除去に用いられているあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、SSL接着性素材、または皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。SSL吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に限定されず、例えばポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSSLを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スクレイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、などが挙げられる。SSLの吸着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよい。一方、SSL吸収性素材が水溶性の高い溶媒や水分を含んでいると、SSLの吸着が阻害されるため好ましくない。SSL吸収性素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。
【0022】
採取したSSLからの核酸の分離には、生体試料からの核酸の抽出または精製に通常使用される方法、例えば、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、またはTRIzol(登録商標)、RNeasy(登録商標)などのカラムを用いた方法、シリカをコーティングした特殊な磁性体粒子を用いる方法、Solid Phase Reversible Immobilization磁性体粒子を用いる方法、ISOGEN等の市販のDNAもしくはRNA抽出試薬による抽出などを用いることができる。
【0023】
(核酸の解析方法)
本発明の方法により調製された被験体の皮膚細胞に由来する核酸は、核酸を用いる各種の解析または診断に使用することができる。したがって、本発明はまた、上記本発明による核酸の調製方法により調製した核酸を解析することを含む、核酸の解析方法を提供する。本発明により調製されたSSL中の核酸を用いて行うことができる解析や診断の例としては、以下が挙げられる:
(i)被験体の皮膚に関する遺伝子発現解析およびその他の遺伝子情報の解析、ならびにそれらの解析に基づく被験体の皮膚に関する機能解析、など;
(ii)被験体の皮膚状態の解析、例えば、皮膚の健康状態の評価もしくは将来予測、皮膚疾患の診断もしくは予後診断、皮膚外用剤の効能評価、皮膚ガンの診断もしくは予後診断、皮膚の微細変化の評価、など;
(iii)被験体の皮膚以外の部位または全身の状態の解析、例えば、全身的な健康状態の評価もしくは将来予測、および神経疾患、心血管疾患、代謝性疾患、ガン等の各種疾患の診断もしくは予後診断、など。
【0024】
SSL中の核酸を用いた解析や診断のより詳細な例を以下に示す。
遺伝子発現解析
後述する実施例に示すとおり、SSLは、被験体由来のmRNA等の高分子量RNAを豊富に含んでいたが、一方、尿、血清、唾液、角層といった従来一般的に使用されている生体試料には、高分子量のRNAはほとんど存在していなかった(実施例1~3)。SSLは、被験体から非侵襲的に採取することができるmRNAの供給源であり、遺伝子発現解析用の生体試料として有用である。さらに、SSL中のmRNAは、皮脂腺、毛包および表皮の遺伝子発現プロファイルを反映していることから(実施例4)、SSLは、皮膚、特に皮脂腺、毛包および表皮の遺伝子発現解析用の生体試料として好適である。
【0025】
病理学的診断
最近の報告によれば、ガン細胞で発現が変化するRNA群の中の約63%がタンパク質をコードするmRNAである(Cancer Res. 2016, 76, 216-226)。したがって、mRNAの発現状態を測定することにより、ガン等の疾患による細胞の生理状態の変化をより忠実に捉えることができ、より正確な身体状態の診断が可能になると考えられる。SSLは、mRNAを豊富に含んでおり、さらにガンとの関連性が報告されているSOD2のmRNAを含む(Physiol Genomics, 2003, 16, 29-37;Cancer Res, 2001, 61, 6082-6088)。したがって、SSLは、皮膚ガン等のガンの診断もしくは予後診断用の生体試料として有用である。
【0026】
近年、肥満、アルツハイマー、乳がん、心疾患等の皮膚以外の組織での疾患を有する患者において皮膚中の分子の発現が変動すること、したがって“皮膚は体内の健康状態の窓(window to body's health)”ということができることが報告されている(Eur J Pharm Sci. 2013, 50, 546-556)。したがって、SSL中のmRNAの発現状態を測定することで、被験体の皮膚以外の部位における生理状態、または全身的な生理状態を解析できる可能性がある。
【0027】
non-coding RNA解析
近年、細胞の遺伝子発現におけるmiRNA、lincRNA等のnon-coding(nc)RNAの関与が着目され、盛んに研究が進められている。また従来、尿や血清中のmiRNAを用いた非侵襲もしくは低侵襲的なガン等の診断方法が開発されている(例えば、Proc Natl Acad Sci U S A, 2008, 105, 10513-10518;Urol Oncol, 2010, 28, 655-661)。SSLから調製されるmiRNA、lincRNA等のncRNAを、上記研究や診断のための試料に用いることができる。
【0028】
核酸マーカーのスクリーニングまたは検出
SSLから調製した核酸を試料として、疾患もしくは状態の核酸マーカーのスクリーニングや検出を行うことができる。本明細書において、疾患もしくは状態の核酸マーカーとは、その発現が、所与の疾患もしくは状態の判定またはそのリスク判定のための指標となる核酸をいう。好ましくは、核酸マーカーはRNAマーカーであり、該RNAは、好ましくはmRNA、miRNA、もしくはlincRNAである。該核酸マーカーがターゲットとする疾患もしくは状態としては、例えば、各種皮膚疾患、皮膚の健康状態(光老化、乾燥、水分もしくは油分量、肌のハリ、くすみなど);ならびに、上記「病理学的診断」の項で述べた、皮膚ガン等のガン、および肥満、アルツハイマー、乳がん、心疾患等の皮膚以外の組織での疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。核酸の発現の解析は、Real-time PCR、マイクロアレイ、次世代シーケンサーを用いたRNA発現解析等の公知の手段に従って行うことができる。
【0029】
一例は、疾患もしくは状態の核酸マーカーの選択方法である。該方法では、所定の疾患もしくは状態またはそのリスクを有する集団を被験体として、本発明の核酸の調製方法に従って、被験体の皮膚細胞に由来する核酸を調製する。該集団から調製された核酸について、その発現(発現レベル等)を、対照の発現と比較する。該対照としては、該所定の疾患もしくは状態またはそのリスクを有さない集団、およびそれに基づく統計学的データなどが挙げられる。対照と比べて異なる発現を示す核酸を、該所定の疾患もしくは状態のマーカーまたはその候補として選択することができる。
【0030】
別の一例は、疾患もしくは状態の核酸マーカーの検出方法、または該マーカー検出に基づく疾患もしくは状態、またはそのリスクの判定方法である。該方法では、所定の疾患もしくは状態、またはそのリスクの判定を所望または必要とする被験体から、本発明の核酸の調製方法に従って、被験体の皮膚細胞に由来する核酸を調製する。次いで、調製された核酸から所定の疾患もしくは状態の核酸マーカーを検出する。該核酸マーカーの有無や発現量に基づいて、被験体の該疾患もしくは状態、またはそのリスクを判定する。
【0031】
(核酸の調製用キット)
さらなる一態様において、本発明は、被験体のSSLの採取用具を含む、被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製用キットを提供する。SSLの採取用具としては、例えば、SSL吸収性もしくは接着性素材、皮膚からSSLをこすり落とす器具、などが挙げられる。該SSL吸収性素材は、好ましくはポリプロピレン等の材料から製造された、可撓性のシート状素材である。該SSL吸収性素材の好ましい例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等が挙げられる。該SSL吸収性素材は、水溶性溶媒や水分を含まない乾燥状態であることが好ましい。該SSL接着性素材は、好ましくはシート状もしくは板状であり、必要に応じて、その表面にSSLを接着させるためのpoly―L―lysine等の接着剤が塗布されていてもよい。該SSL接着性素材の好ましい例としては、ガラス板、テープ等が挙げられる。該SSLをこすり落とす器具の好ましい例としては、スパーテル、スクレイパー等が挙げられる。
【0032】
本発明による核酸の調製用キットは、上記採取用具で採取したSSLから核酸を分離するための試薬をさらに含んでいてもよい。当該試薬としては、生体試料からのDNAもしくはRNAの抽出または精製に通常使用される試薬を用いることができる。
【0033】
本発明の例示的実施形態として、以下の物質、製造方法、用途、方法等をさらに本明細書に開示する。但し、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0034】
〔1〕被験体から採取された皮膚表上脂質から核酸を分離することを含む、被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製方法。
〔2〕好ましくは、前記被験体の皮膚表上脂質を採取することをさらに含む、〔1〕記載の方法。
〔3〕好ましくは、前記核酸が表皮、皮脂腺、毛包、汗腺および真皮から選択される少なくとも1部位由来の核酸であり、より好ましくは、前記核酸が表皮、皮脂腺、毛包および汗腺から選択される少なくとも1部位由来の核酸である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕好ましくは、前記核酸がRNAである、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕好ましくは、前記RNAが200nt以上の長さである、〔4〕記載の方法。
〔6〕好ましくは、前記RNAがmRNAおよびlincRNAからなる群より選択される少なくとも1種である、〔4〕又は〔5〕記載の方法。
〔7〕好ましくは、前記皮膚表上脂質の採取が皮膚表上脂質吸収性素材、皮膚表上脂質接着性素材、または皮膚から皮膚表上脂質をこすり落とす器具を用いて行われる、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の方法。
〔8〕好ましくは、前記皮膚表上脂質が、頭、顔、首、体幹もしくは手足の皮膚、疾患を有する皮膚、または創傷を有する皮膚における皮膚表上脂質である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法。
〔9〕好ましくは、前記皮膚表上脂質が、手のひら、背部、足の裏、又は指の皮膚の皮膚表上脂質を含まない、〔1〕~〔8〕のいずれか1項記載の方法。
〔10〕〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法で調製した核酸を解析することを含む、核酸の解析方法。
〔11〕所定の疾患もしくは状態またはそのリスクを有する集団を被験体として、〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法により核酸を調製すること、
調製された核酸の発現を対照と比較すること、
を含む、該所定の疾患もしくは状態の核酸マーカーの選択方法。
〔12〕〔1〕~〔9〕のいずれか1項記載の方法により被験体の核酸を調製すること
調製された核酸から、所定の疾患もしくは状態の核酸マーカーを検出すること、
を含む、所定の疾患もしくは状態の核酸マーカーの検出方法。
〔13〕被験体の皮膚表上脂質の採取用具を含む、被験体の皮膚細胞に由来する核酸の調製用キット。
〔14〕好ましくは、前記採取用具が皮膚表上脂質吸収性素材、皮膚表上脂質接着性素材、または皮膚から皮膚表上脂質をこすり落とす器具である、〔13〕記載のキット。
〔15〕好ましくは、採取した皮膚表上脂質から核酸を分離するための試薬をさらに含む、〔13〕又は〔14〕記載のキット。
〔16〕前記核酸が、好ましくは表皮、皮脂腺、毛包、汗腺及び真皮から選択される少なくとも1部位由来の核酸であり、より好ましくは表皮、皮脂腺、毛包および汗腺から選択される少なくとも1部位由来の核酸である、〔13〕~〔15〕のいずれか1項記載のキット。
〔17〕好ましくは、前記核酸がRNAである、〔13〕~〔16〕のいずれか1項記載のキット。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
実施例1 各種生体試料中のRNAの解析
皮膚の角層、皮膚表上脂質(SSL)、血清、尿、および唾液中のRNAを解析した:
角層は、非特許文献2に記載された方法に従って、アクリルテープ(2.5cm×3.0cm)を用いて、被験者の額の角層を同一部位から深さ方向に連続で4枚採取した後、RNAを抽出した;
SSLは、あぶら取りフィルム(3Mジャパン)を用いて、被験者の顔全体から回収した。次いであぶら取りフィルムを適当な大きさに切断し、TRIzol(登録商標)試薬(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを抽出した;
ヒト血清、尿および唾液は、コスモバイオ社から購入した。唾液は、その中に混在するムチンと口腔内細胞を除去するために、15000rpmで5分間遠心した後、上清を新しいチューブに移して試料として用いた。これらの血清、尿、唾液試料から、Trizol(登録商標)LS試薬(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを抽出した;
次いで、抽出されたRNAを、Agilent RNA6000ピコキット(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて解析した。
【0037】
結果を
図1に示す。SSL中のRNAは、細菌に由来する23Sおよび16SのrRNAに加えて、ヒトに由来する28S rRNA、及び真菌とヒトに由来すると考えられる18S rRNAを含んでいた。角層は、ピークがまったく観察されなかったことから、RNAがほとんど存在していないと推定された。血清、尿、唾液から抽出したRNAからは、低分子量のRNA(Small RNA)のピークが確認されたが、これは血清、尿、唾液にmiRNA等の低分子量のRNAが存在しているという従来の報告(非特許文献1)と一致する。
【0038】
実施例2 SSL中に含まれる各生物種由来のRNAの割合
SSL中に含まれる各生物種由来のRNAの割合を算出するために、SSL中における細菌に共通して存在するrRNAの配列、真菌に共通して存在するrRNAの配列、およびヒトのrRNAの配列のそれぞれのコピー数を、Real-time PCRによる絶対定量法により求めた。
【0039】
細菌の16S rRNAは、Staphylococcus epidermidis JCM2414株の16S rRNA領域をpUC118にクローニングした。真菌の26S rRNAは、Malassezia globosa CBS7874株の26S rRNA領域をpUC118にクローニングした。ヒトの18S rRNAは、ヒト18S rRNA領域をpcDNA3.1にクローニングした。これらのプラスミドDNAをReal-time PCRの標準試料として使用した。PCRプライマーは、細菌については16S rRNAの共通配列(Appl Environ Microbiol, 2012, 78, 5938-5941)、真菌については26S rRNAの共通配列(PLoS One, 2012, e32847)、ヒトについては18S rRNAの配列の情報を基に設計した(表1)。
【0040】
【0041】
3名の被験者から採取したSSL中のRNAを、SuperScript III First―Strand Synthesis System for RT-PCR(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて逆転写し、得られたcDNAを鋳型としたReal-time PCRにより、SSL中の各生物種のrRNAのコピー数を算出した。その結果、実施例1の結果と同様に、SSLのRNAにはbacteria、fungiおよびhuman由来のrRNAが含まれており、その中でもhumanのrRNAが大きな割合を占めることが明らかとなった(表2)。
【0042】
【0043】
実施例3 各種生体試料におけるmRNAの検出
ユビキタスに発現しているGAPDHとSOD2のmRNAを指標に、実施例1で用いた各種生体試料におけるmRNAの有無を評価した。
実施例1で抽出した各種生体試料のRNAを、SuperScript III First-Strand Synthesis System for RT―PCR(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて逆転写し、得られたcDNAを鋳型としてRT-PCRを行った。陽性コントロールとして、ヒト表皮細胞から単離したRNAを用いた。RT-PCRでは、Advantage 2 PCR Kit(タカラバイオ)および表3に示すプライマーを用い、PCRプログラム(95℃、5分間→[95℃、15秒→60℃、30秒→72℃、30秒]×35サイクル→72℃、7分間)に従って、GAPDHおよびSOD2のcDNAを増幅した。PCR後、2%アガロースゲルとTrackIt 1Kb Plus DNA Ladder(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて電気泳動を行い、目的のバンドを検出した。
【0044】
【0045】
結果を
図2に示す。GAPDHとSOD2のいずれについても、SSLでは、陽性コントロールと同等の位置にバンドが検出され、mRNAの存在が確認された。したがって、SSLは、mRNAを含んでおり、皮膚の遺伝子発現解析用の生体試料として利用可能であることが示された。一方、角層、血清、尿および唾液では、GAPDHおよびSOD2のいずれのバンドも確認できなかった。
【0046】
さらに、SSL中にmRNAが検出されたSOD2は、細胞にとって有害なsuper oxide anionを過酸化水素へ変換する酵素であり、ガンとの関連性が報告されている。この遺伝子のヘテロ欠損型のマウスでは、全身組織のDNAダメージの蓄積が多いこと、酸化ストレスを誘導したときに野生型よりも死亡率が上昇すること、さらにガンの発生率が、野生型よりも上昇することが報告されている(Physiol Genomics, 2003, 16, 29-37)。一方、SOD2を皮膚で過剰発現させたマウスでは、皮膚に酸化ストレスを加え続けたときでも皮膚ガンの発生率が野生型よりも減少することが報告されている(Cancer Res, 2001, 61, 6082-6088)。したがって、SOD2 mRNAを含むSSLは、皮膚ガン等のガンの発症リスクまたは予後診断のための生体試料としても期待される。
【0047】
実施例4 次世代シーケンサーを用いたSSL中RNAの網羅的遺伝子発現解析
(1)SSLを試料とした網羅的遺伝子発現解析の実施可能性について検証した。3名の被験者の顔面からあぶら取りフィルムを用いてSSLを採取し、テクニカルエラーを検証するためにそれを2等分した後に、それぞれからRNAを抽出した。抽出したRNAを用いて、次世代シーケンサーIon Protonシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)による遺伝子発現の網羅的解析を実施した。すなわち、採取したRNAから、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)のプロトコルに従ってライブラリーを作製し、それを用いてIon chefシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)によるエマルジョンPCRを実施した。得られたPCR産物をIon PI Chipにローディングし、Ion Protonシステムを用いてシーケンスを行って、表皮、汗腺、真皮、毛包、皮脂腺のマーカー遺伝子にマッピングされたリード数を算出した。マーカー遺伝子は、文献情報に基づいて選抜した(Int J Mol Med, 2014, 34, 997-1003;J Invest Dermatol, 1997, 108, 324-329;J Invest Dermatol, 2002, 119, 1137-1149;Development;2013, 140, 4870-4880)。
【0048】
結果を
図3に示す。SSLからは、表皮、汗腺、毛包および皮脂腺のマーカー遺伝子が検出された。また真皮のマーカー遺伝子もわずかに検出された。このことから、SSLには、主に表皮、汗腺、毛包および皮脂腺に由来するRNA分子、さらにわずかであるが真皮に由来するRNA分子が含まれていることが明らかとなった。
【0049】
(2)上記(1)で得られた次世代シーケンサーによる解析結果の信頼性を、mRNAの定量方法として最も信頼性が高いリアルタイムPCRにより検証した。(1)で調製したRNA試料からSuperScript III First―Strand Synthesis System for RT-PCRを用いてcDNAを合成し、リアルタイムPCRにより次世代シーケンサーで検出された代表的な遺伝子としてIL-8、GAPDHおよびPLIN2の遺伝子発現を定量し、(1)でのシーケンサーによる解析結果と比較した。IL-8、GAPDHおよびPLIN2の遺伝子発現はいずれも、次世代シーケンサー解析とリアルタイムPCR解析との間で有意な正の相関を示し、次世代シーケンサーによる解析結果の信頼性を裏付けた(
図4)。
【0050】
実施例5 皮膚表上脂質中のRNA解析
前述した非特許文献3で報告されている湿らせたスワブで採取されたヒト皮膚サンプルと本願の皮膚表上脂質との比較を行った。
【0051】
(試料採取)
額の真ん中から左右それぞれ3cm×5cmの範囲を採取範囲とし、片側からあぶら取りフィルム(ポリプロピレン、3cm×5cm、3Mジャパン)を用いて、もう片側からPBSを染み込ませて湿らせたカルチャースワブ(カルチャースワブEZ、ポリウレタン、日本BD)を用いて、採取範囲内全面を一定の力を加えながら、こすり付ける作業を3回繰り返すことにより皮膚表上物質を採取した。
【0052】
(脂質量の評価)
採取した試料の脂質量は、皮膚表上脂質の主要な成分であるトリグリセリド量を指標として評価した。採取に用いたあぶら取りフィルムは適当な大きさに切断し、一方採取に用いたカルチャースワブは先端部分を回収して、それぞれBligh-Dyer法を用いて脂質を抽出した。具体的には、クロロホルム、メタノール、phosphate buffered saline(PBS)をサンプルに添加した後に、充分に振とうを行い脂質を抽出した。抽出物にさらにクロロホルムとPBSを添加し、充分に振とうを行った後に遠心分離機により有機相と水相に分離し、有機相を回収した。有機相を30℃の温度下で窒素ガスを吹付けて乾固させた後、1% Triton X-100(Sigma Aldrich)を含むPBS溶液1mLに溶解し、試料溶液を調製した。また、採取に用いていないあぶら取りフィルム及びカルチャースワブを同様に処理して、ブランクの試料溶液を調製した。Serum Triglyceride Quantification Kit(CELL BIOLABS,INC)を用いて、添付のプロトコルに従い、570nmの吸光度を測定し、それぞれの試料溶液のトリグリセリド量を定量した。
【0053】
トリグリセリド量の定量結果を表4に示す。あぶら取りフィルムで皮膚表上脂質を採取した場合、試料溶液中のトリグリセリド濃度は100μM以上であったのに対し、湿らせたコットンスワブで皮膚表上物質を採取した場合、試料溶液中の試料溶液中のトリグリセリド濃度は検出限界である10μM以下であり、ブランクとの差はなかった。従って、湿らせたコットンスワブで採取される皮膚表上物質には、実質的に皮膚表上脂質に由来する成分は含まれないことを示している。
【0054】
【0055】
(ヒトRNA分子の解析)
前記に従い額の左右からあぶら取りフィルム又はPBSで湿らせたカルチャースワブで皮膚表上物質を採取した。あぶら取りフィルムについては適当な大きさに切断し、カルチャースワブについては先端部分を回収して、それぞれRNeasy Lipid Tissue Mini Kit(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを抽出した。抽出されたRNAはエタノール沈殿し、10μLの水に溶解した。抽出したRNAを用いて、次世代シーケンサーIon S5/XLシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)による遺伝子発現の網羅的解析を実施した。すなわち、採取したRNAからIon AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)のプロトコルに従ってライブラリーを作製し、それを用いてIon chefシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)によるエマルジョンPCRを実施した。得られたPCR産物をIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステムを用いてシーケンシングを実施した。
【0056】
あぶら取りフィルム及びカルチャースワブで採取したそれぞれの皮膚表上物質中のRNAの網羅的な発現解析を実施した結果、一つの遺伝子に対して10リード以上の配列断片が検出できたヒト遺伝子の数は、あぶら取りフィルム採取物にだけ確認されたものとして5294遺伝子であったのに対し、カルチャースワブ採取物にだけ確認されたものとしてわずか132遺伝子であり、あぶら取りフィルム採取物及びカルチャースワブ採取物に共通して確認されたものとして625遺伝子であった。この結果より、皮膚表上脂質を実質的に含まない湿らせたカルチャースワブで採取された皮膚表上物質と比較して、あぶら取りフィルムで採取された皮膚表上脂質には、多種多様なRNA分子が含まれており、被験体の遺伝子解析や状態診断を行う上で皮膚表上脂質は非常に有用であることが示された。
【配列表】