(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】近傍界電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230801BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230801BHJP
B32B 3/14 20060101ALI20230801BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
B32B3/14
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2022168711
(22)【出願日】2022-10-20
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022131275
(32)【優先日】2022-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391009408
【氏名又は名称】加川 清二
(73)【特許権者】
【識別番号】000123631
【氏名又は名称】加川 敦子
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】加川 清二
(72)【発明者】
【氏名】加川 洋一郎
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特許第4685977(JP,B2)
【文献】特開2012-124291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
B32B 3/14
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のプラスチックフィルムと、2層の線状痕付き金属薄膜とを有し、前記線状痕付き金属薄膜の各々には金属薄膜に実質的に平行な多数の断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されており、一方の線状痕付き金属薄膜が150~
210Ω/□の表面抵抗率を有し、他方の線状痕付き金属薄膜が10~50Ω/□の表面抵抗率を有することを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載の近傍界電磁波吸収体において、片面に線状痕付き金属薄膜を有する一対のプラスチックフィルムが接着されていることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項3】
請求項2に記載の近傍界電磁波吸収体において、前記線状痕付き金属薄膜同士が接着されていることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項4】
請求項1に記載の近傍界電磁波吸収体において、1枚のプラスチックフィルムと、前記プラスチックフィルムの両面に設けられた2層の線状痕付き金属薄膜とからなることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項5】
請求項1に記載の近傍界電磁波吸収体において、両金属薄膜の厚さが20~100 nmであることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項6】
請求項1に記載の近傍界電磁波吸収体において、両金属薄膜に形成された線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30~90°であることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項7】
請求項1に記載の近傍界電磁波吸収体において、前記線状痕付き金属薄膜の一方の光透過率が2.5~4%であり、他方の光透過率が1~2.3%であることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項8】
請求項1に記載の近傍界電磁波吸収体において、両金属薄膜がアルミニウムからなることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の近傍界電磁波吸収体において、両金属薄膜に形成された線状痕の幅は0.1~100μmの範囲内にあって、平均2~50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1~500μmの範囲内にあって、平均10~100μmであることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲において高い伝導ノイズ吸収能及び放射ノイズ吸収能を有するだけでなく、放射ノイズが極大化する周波数が実質的にないためにグランドを接続することなく使用でき、かつ製品間にノイズ吸収能のバラツキが小さい近傍界電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の通信機器や電子機器において電子部品から放出された電磁波ノイズによる誤動作等を防止するために、種々の電磁波吸収体が実用化されている。このような状況下で、本発明者は、特許第4685977号(特許文献1)により、プラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収能の異方性が低減された線状痕付き金属薄膜-プラスチック複合フィルムを提案した。特許文献1は、複数枚の線状痕付き金属薄膜-プラスチック複合フィルムを直接又は誘電体層を介して積層すると、電磁波吸収能が向上すると記載している。しかし、特許文献1には線状痕の加工程度が異なる(従って、表面抵抗率が異なる)複数枚の線状痕付き金属薄膜-プラスチック複合フィルムを積層することについて、全く言及していない。
【0003】
同じ表面抵抗率をターゲットにして製造された異なるロットの金属薄膜-プラスチック複合フィルムを積層して近傍界電磁波吸収体を作製した場合、広範な周波数範囲にわたって良好な放射ノイズ吸収能を発揮できないものがあることが分った。これは、(a) 線状痕付き金属薄膜-プラスチック複合フィルムにおける金属薄膜が非常に薄いだけでなく、(b) 線状痕も非常に微細であるために、実際の製造条件に大きなバラツキが生じ、その結果ロット間で製品の性能のバラツキが大きくなるためであると推測される。
【0004】
特許第5203295号(特許文献2)は、プラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた磁性金属薄膜とを有する磁性複合フィルム、及びプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた非磁性金属薄膜とを有する非磁性複合フィルムを積層してなり、前記磁性金属薄膜及び前記非磁性金属薄膜の少なくとも一方に、多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な長さ、幅及び間隔で少なくとも一方向に形成されており、前記線状痕は1~100μmの平均幅及び1~100μmの平均間隔を有し、前記線状痕の90%以上が0.1~1,000μmの範囲内の幅を有することを特徴とする電磁波吸収フィルムを開示している。特許文献2は、磁性金属薄膜の表面抵抗を1~377Ω/□とし、非磁性金属薄膜の表面抵抗を377~10,000Ω/□とした電磁波吸収フィルムは、近傍界における電磁波ノイズの吸収性に優れていると記載している。
【0005】
しかし、特許文献2の電磁波ノイズの吸収はいわゆる伝導ノイズの吸収であり、放射ノイズに関しては1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲において極大化する周波数が存在することが分った。鋭意研究の結果、線状痕を形成した磁性複合フィルムの表面抵抗1~377Ω/□と線状痕を形成した非磁性複合フィルムの表面抵抗377~10,000Ω/□とのバランスが悪いために、広範な周波数範囲にわたって放射ノイズの極大化を防止することができないことが分った。具体的には、実施例1では線状痕を形成した磁性複合フィルムの表面抵抗は30Ω/□であるが、線状痕を形成した非磁性複合フィルムの表面抵抗は6,000Ω/□と大き過ぎた。そのため、この電磁波吸収フィルムを実用化する場合、極大化したノイズの放射を防止するために、グランド(GND)を接続する必要がある。
【0006】
WO 2012/090586号(特許文献3)は、プラスチックフィルムの一方の面に金属薄膜を形成してなる複数枚の電磁波吸収フィルムを接着してなる近傍界電磁波吸収体であって、少なくとも一枚の電磁波吸収フィルムの金属薄膜は磁性金属の薄膜層を有するだけでなく、少なくとも一枚の電磁波吸収フィルムの金属薄膜に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕が複数方向に形成されていることを特徴とする近傍界電磁波吸収体を開示している。特許文献3は、各電磁波吸収フィルムの金属薄膜が線状痕の形成後に50~1500Ω/□の範囲内の表面抵抗を有すると記載している。この近傍界電磁波吸収体も1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲の伝導ノイズ吸収能に優れている。しかし、放射ノイズに関しては、極大化する周波数が存在することが分った。従って、特許文献2と同様に、この近傍界電磁波吸収体を実用化する場合、極大化したノイズの放射を防止するために、グランド(GND)を接続する必要がある。
【0007】
特許第5559668号(特許文献4)は、電磁波反射体の前に複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して積層してなる電磁波吸収体であって、各電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に導電体層を形成してなり、各電磁波吸収フィルムの導電体層は100~1000Ω/□の範囲内の表面抵抗を有し、最前の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗はその次の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗より100Ω/□以上大きく、(a) 前記電磁波吸収フィルムが2枚の場合、第一の電磁波吸収フィルムと第二の電磁波吸収フィルムとの間隔と、前記第二の電磁波吸収フィルムと前記電磁波反射体との間隔との比が100:30~80:70であり、(b) 前記電磁波吸収フィルムが3枚以上の場合、第一の電磁波吸収フィルムと第二の電磁波吸収フィルムとの間隔と、前記第二の電磁波吸収フィルムと第三の電磁波吸収フィルムとの間隔との比が100:30~80:70であり、前記電磁波吸収フィルムのプラスチックフィルム側に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕が複数方向に形成されており、前記線状痕の幅は90%以上が0.1~100μmの範囲内にあって、平均1~50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1~200μmの範囲内にあって、平均1~100μmであることを特徴とする電磁波吸収体を開示している。特許文献4は、最前の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗がその次の電磁波吸収フィルムの導電体層の表面抵抗より100Ω/□以上大きいので、単に同じ表面抵抗の複数枚の電磁波吸収フィルムを積層した場合と比較して著しく高い電磁波吸収能を有するだけでなく、電磁波吸収能の異方性が低下すると記載している。しかし、この電磁波吸収体は電磁波反射体(アルミニウム板)の前に複数枚の電磁波吸収フィルムを誘電体を介して積層した構造を有するので、ETC,FRID等の用途に適するが、電子部品等に貼付する近傍界電磁波吸収体として利用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4685977号公報
【文献】特許第5203295号公報
【文献】WO 2012/090586号公報
【文献】特許第5559668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲において高い伝導ノイズ吸収能及び放射ノイズ吸収能も有し、かつ放射ノイズが極大化する周波数が実質的にないためにグランドを接続することなく使用でき、かつ製品間にノイズ吸収能のバラツキが小さい近傍界電磁波吸収体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、実質的に平行な多数の断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されている2層の金属薄膜を有する近傍界電磁波吸収体において、一方の線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率を150~500Ω/□と比較的大きくし、他方の線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率を10~100Ω/□と比較的小さくすると、1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲において高い伝導ノイズ吸収能及び放射ノイズ吸収能を有するだけでなく、放射ノイズが極大化する周波数が実質的にないためにグランドを接続することなく使用でき、かつ製品間にノイズ吸収能のバラツキが小さくなるために、優れたノイズ吸収能、特に優れた放射ノイズ吸収能を安定的に得ることができることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明の近傍界電磁波吸収体は、少なくとも1層のプラスチックフィルムと、2層の線状痕付き金属薄膜とを有し、前記線状痕付き金属薄膜の各々には金属薄膜に実質的に平行な多数の断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されており、一方の線状痕付き金属薄膜が150~210Ω/□の表面抵抗率を有し、他方の線状痕付き金属薄膜が10~50Ω/□の表面抵抗率を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の好ましい一実施形態では、片面に線状痕付き金属薄膜を有する一対のプラスチックフィルムが接着されている。この場合、線状痕付き金属薄膜同士を接着するのが好ましい。
【0013】
本発明の別の好ましい実施形態では、1枚のプラスチックフィルムの両面に線状痕付き金属薄膜が設けられている。
【0014】
線状痕を形成する前記金属薄膜の厚さは20~100 nmであるのが好ましい。
【0015】
前記金属薄膜はアルミニウムからなるのが好ましい。
【0016】
前記金属薄膜に形成された線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30~90°であるのが好ましい。
【0017】
150~500Ω/□の表面抵抗率を有する前記一方の線状痕付き金属薄膜は2.5~4%の光透過率を有し、10~100Ω/□の表面抵抗率を有する前記他方の線状痕付き金属薄膜は1~2.3%の光透過率を有するのが好ましい。
【0018】
前記金属薄膜に形成された線状痕の幅は0.1~100μmの範囲内にあって、平均2~50μmであり、前記線状痕の間隔は0.1~500μmの範囲内にあって、平均10~100μmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記構成を有する本発明の近傍界電磁波吸収体は、1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲において高い伝導ノイズ吸収能及び放射ノイズ吸収能を有するだけでなく、放射ノイズが極大化する周波数が実質的にないためにグランドを接続することなく使用できる。また、一方の線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率が150~500Ω/□と比較的大きく、他方の線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率が10~100Ω/□と比較的小さいので、製造された線状痕付き金属薄膜にバラツキがあってもノイズ吸収能(放射ノイズ吸収能)のバラツキが小さく、優れたノイズ吸収能(放射ノイズ吸収能)を有する近傍界電磁波吸収体を安定的に得ることができる。このような特徴有する本発明の近傍界電磁波吸収体は、パソコン、携帯電話、スマートフォン等の各種の電子機器及び通信機器における電子部品に貼付して電磁波ノイズを抑制するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】線状痕付き金属薄膜を有する電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【
図2】金属薄膜に形成された線状痕の一例を示す部分平面図である。
【
図3(a)】線状痕の他の例を示す部分平面図である。
【
図3(b)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【
図3(c)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【
図4(a)】電磁波吸収フィルムの製造装置の一例を示す斜視図である。
【
図4(b)】
図4(a) の装置を示す平面図である。
【
図4(d)】フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【
図4(e)】
図4(a) の装置において、フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【
図5】電磁波吸収フィルムの製造装置の他の例を示す部分断面図である。
【
図6】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図7】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図8】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図9(a)】本発明の近傍界電磁波吸収体の一例を示す断面図である。
【
図9(b)】
図9(a) に示す近傍界電磁波吸収体の分解断面図である。
【
図10】本発明の近傍界電磁波吸収体の他の例を示す断面図である。
【
図11(a)】近傍界電磁波吸収体の伝導ノイズ吸収能を評価するシステムを示す平面図である。
【
図11(b)】近傍界電磁波吸収体の伝導ノイズ吸収能を評価するシステムを示す断面図である。
【
図12】参考例1(比較例2)の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図13】参考例1の試験片の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図14】実施例1の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図15】実施例1の試験片の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図16】実施例2の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図17】実施例3の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図18】実施例4の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図19】比較例1の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図20】比較例3の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図21】比較例4の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図22】比較例5の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図23】比較例6の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図24】比較例7の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図25】比較例8の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図26】比較例9の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図27】比較例10の試験片のノイズ吸収率P
loss/P
inを示すグラフである。
【
図28】実施例5のサンプル1の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図29】実施例5のサンプル2の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図30】実施例5のサンプル3の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図31】実施例5のサンプル4の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図32】実施例5のサンプル5の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図33】実施例5のサンプル6の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図34】実施例5のサンプル7の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図35】実施例5のサンプル8の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図36】実施例5のサンプル9の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図37】実施例5のサンプル10の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図38】比較例11のサンプル1の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図39】比較例11のサンプル2の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図40】比較例11のサンプル3の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図41】比較例11のサンプル4の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図42】比較例11のサンプル5の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図43】比較例11のサンプル6の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図44】比較例11のサンプル7の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図45】比較例11のサンプル8の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図46】比較例11のサンプル9の累積放射ノイズを示す写真である。
【
図47】比較例11のサンプル10の累積放射ノイズを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0022】
[1] 電磁波吸収フィルム
図1は、本発明の一実施形態による近傍界電磁波吸収体を構成する電磁波吸収フィルムの一例を示す。この電磁波吸収フィルム100(100a,100b)はプラスチックフィルム10と、その一方の面に形成した金属薄膜11とからなり、金属薄膜11に不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕12が複数方向に形成されている。
【0023】
(1) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム10を形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。中でも、強度及びコストの観点からポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましい。プラスチックフィルム10の厚さは10~100μm程度で良いが、近傍界電磁波吸収体をできるだけ薄くするために10~30μm程度が好ましい。
【0024】
(2) 金属薄膜
金属薄膜11は非磁性金属又は磁性金属からなる。非磁性金属として、アルミニウム、銅、銀等が挙げられる。磁性金属として、ニッケル、クロム等が挙げられる。これらの金属は勿論単体に限らず、合金でも良い。コスト及び耐蝕性の観点から、アルミニウムが好ましい。金属薄膜11はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。膜厚及び線状痕の加工程度の制御の観点から、金属薄膜11の厚さは、20~100 nmが好ましく、30~90 nmがより好ましく、40~80 nmが最も好ましい。
【0025】
(3) 線状痕
電磁波吸収フィルム100(100a,100b)の金属薄膜11には、
図1及び
図2に示すように、実質的に平行で断続的な線状痕12(12a,12b)が複数方向に不規則な幅及び間隔で形成されている。
図2は複数の線状痕12の一例を示す。多数の実質的に平行で断続的な線状痕12a,12bは複数方向(図示の例では二方向)に不規則な幅及び間隔で配向している。なお、説明のために
図1では線状痕12の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕12は種々の幅W及び間隔Iを有する。なお間隔Iは、線状痕12の配向方向(長手方向)及びそれに直交する方向(横手方向)の両方における間隔を意味する。線状痕12の幅W及び間隔Iはいずれも線状痕形成前のプラスチックフィルム10の表面Sの高さ(元の高さ)を基準にして求める。線状痕12が種々の幅W及び間隔Iを有するので、電磁波吸収フィルム100は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0026】
線状痕12の幅Wは0.1~100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1~70μmの範囲内にあるのがより好ましい。また線状痕12の平均幅Wavは2~50μmであるのが好ましく、5~30μmがより好ましい。線状痕12の間隔Iは0.1~500μmの範囲内にあるのが好ましく、1~400μmの範囲内にあるのがより好ましい。また線状痕12の平均間隔Iavは10~100μmが好ましく、20~80μmがより好ましい。なお、線状痕12の幅W及び平均幅Wav、並びに間隔I及び平均間隔Iavを算出するに当たり、0.1μmの幅までの線状痕12をカウントした。以下特に断りがなければ、同様である。
【0027】
線状痕12の長さLは、摺接条件(主としてロールとプラスチックフィルムとの相対速度、及びプラスチックフィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕12の長さは特に限定的でなく、実用的には1~100 mm程度で良い。
【0028】
二方向の線状痕12a,12bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」と言う)θsは30~90°が好ましく、45~90°がより好ましく、60~90°が最も好ましい。プラスチックフィルム10とパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、
図3(a)~
図3(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕12が得られる。線状痕の配向は二方向に限定されず、三方向以上でも良いが、製造コスト及び性能を総合的に勘案すると線状痕を二方向に形成するのが好ましい。
図3(a) の線状痕12は直交する線状痕12a,12bからなり、
図3(b) の線状痕12は60°で交差する線状痕12a,12bからなり、
図3(c) の線状痕12は三方向の線状痕12a,12b,12cからなる。
【0029】
[2] 線状痕の形成装置
図4(a)~
図4(e) はプラスチックフィルム上の金属薄膜に線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。図示の装置は、(a) 金属薄膜を有するプラスチックフィルム10を巻き出すリール21と、(b) プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜して配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側でそれと反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) プラスチックフィルム10の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向に傾斜し、かつ第一のパターンロール2aと同じ側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側でそれと反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 線状痕付き金属薄膜を有するプラスチックフィルム10’を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0030】
図4(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bがプラスチックフィルム10の金属薄膜に接するので、プラスチックフィルム10は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの高さを調整することにより、各パターンロール2a,2bへの押圧力を調整できる。具体的には、各押えロール3a,3bの位置を低くすると、プラスチックフィルム10の金属薄膜に対する各パターンロール2a,2bの押圧力が増大するので、金属薄膜に形成される線状痕は深くなる(金属薄膜の加工度は上がる)。逆に各押えロール3a,3bの位置を高くすると、プラスチックフィルム10の金属薄膜に対する各パターンロール2a,2bの押圧力が低下するので、プラスチックフィルム10の金属薄膜に形成される線状痕は浅くなる(金属薄膜の加工度は低下する)。一般に、線状痕が深くなる程金属薄膜に残存する金属量は減少するので、線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率は増大する。従って、線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率は、プラスチックフィルム10の金属薄膜に対する各パターンロール2a,2bの押圧力を変更することにより調整することができる。なお、線状痕が深くなると、線状痕の幅は広くなり、従って線状痕同士の間隔は狭くなる傾向がある。プラスチックフィルム10の各パターンロール2a,2bに対する押圧力は、各パターンロール2a,2bをプラスチックフィルム10方向に位置移動させることにより調整することもできる。各パターンロール2a,2bの位置移動は、各パターンロール2a,2bに取り付けられた駆動装置(図示せず)により行うことができる。
【0031】
図4(d) は線状痕12aがプラスチックフィルム10の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。プラスチックフィルム10の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)とプラスチックフィルム10の進行方向とは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子がプラスチックフィルム10の金属薄膜と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点A’から点B’まで延在する線状痕12aが形成されたことになる。
【0032】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される線状痕12a,12bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bのプラスチックフィルム10に対する角度、及び/又はプラスチックフィルム10の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、プラスチックフィルム10の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、
図4(d) のYで示すように線状痕12aを線分C’D’のようにプラスチックフィルム10の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、プラスチックフィルム10の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ
2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕12a,12bの方向を変更することができる。
【0033】
各パターンロール2a,2bはプラスチックフィルム10に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接によりプラスチックフィルム10は幅方向の力を受ける。従って、プラスチックフィルム10の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの高さ及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。プラスチックフィルム10の蛇行及び破断を防止するために、プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0034】
プラスチックフィルム10の金属薄膜に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、
図5に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ
1に比例するプラスチックフィルム10の摺接距離も増大し、線状痕12a,12bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、プラスチックフィルム10の蛇行の防止にも寄与できる。
【0035】
図6は、
図3(c) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流にプラスチックフィルム10の幅方向と平行な第三のパターンロール2c及び第三の押えロール3dを配置した点で
図4(a)~
図4(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cはプラスチックフィルム10の進行方向に延在する線状痕12cを形成する。第三の押えロール3dは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0036】
図7は、四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3eを設けた点で
図6に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、
図4(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をプラスチックフィルム10の幅方向と平行にすることができる。
【0037】
図8は、
図3(a)に示すように直交する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bがプラスチックフィルム10の幅方向と平行に(進行方向に直角に)配置されている点で
図4(a)~
図4(e) に示す装置と異なる。従って、
図4(a)~
図4(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、
図4(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をプラスチックフィルム10の幅方向にし、直交する線状痕を形成するのに適している。
【0038】
プラスチックフィルム10の走行速度は5~200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10~2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ2は20°~60°が好ましく、特に約45°が好ましい。フィルム10の張力(押圧力に比例する)は0.05~5 kgf/cm幅が好ましい。
【0039】
パターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は0.1~100μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、0.1~70μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に30%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0040】
[3] 近傍界電磁波吸収体の構成
(1) 構成
本発明の一実施形態による近傍界電磁波吸収体は、
図9(a) 及び
図9(b) に示すように、一方の(第一の)線状痕12付き金属薄膜11aを有する第一の電磁波吸収フィルム100aと、他方の(第二の)線状痕12付き金属薄膜11bを有する第二の電磁波吸収フィルム100bとを接着してなる。接着は、線状痕付き金属薄膜11a,11b同士を内側にして行うのが好ましい。従って、本発明の一実施形態による近傍界電磁波吸収体は、第一の電磁波吸収フィルム100a(プラスチックフィルム10a/第一の線状痕12付き金属薄膜11a)/接着層20/第二の電磁波吸収フィルム100b(第二の線状痕12付き金属薄膜11b/プラスチックフィルム10b)の層構成を有する。金属薄膜11a,11b同士が対向するので、両者の導通を防止するために接着層20は非導電性であるのが好ましい。接着層20は接着剤により形成することができるが、ヒートシール又は両面接着テープにより形成しても良い。
【0041】
この近傍界電磁波吸収体は、
図9(b) に示すように、一方の線状痕付き金属薄膜11aに接着剤20を塗布した後で、両電磁波吸収フィルム100a,100bを接着剤を介して貼り合わせることにより製造することができる。
【0042】
接着層20は非常に薄くすると金属薄膜11a及び11bは電磁気的に結合する。その場合、金属薄膜11aに形成した線状痕12a,12bの交差角θsと、金属薄膜11bに形成した線状痕12a,12bの交差角θsとを異ならせると、電磁波吸収能の異方性が低減するので好ましい。接着層20の厚さは1~30μmが好ましく、1~20μmがより好ましい。
【0043】
図10は本発明の別の実施形態による近傍界電磁波吸収体を示す。この近傍界電磁波吸収体は一枚のプラスチックフィルム10と、その両面に形成した金属薄膜11a,11bとからなり、各金属薄膜11a,11bに不規則な幅及び間隔で実質的に平行な多数の断続的な線状痕12が複数方向に形成されている。
【0044】
(2) 線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率
線状痕付き金属薄膜を有する電磁波吸収フィルム、及びそのような2枚の電磁波吸収フィルムの積層体からなる近傍界電磁波吸収体は、全体的に良好な放射ノイズ吸収能を発揮しても、周波数によっては放射ノイズが大きくなることがあることが分った。周波数によって放射ノイズが大きくなることがあるか否か及びそのときの周波数については予測することができず、実験でしか確認できない。そこで、まず種々の加工程度の線状痕付き金属薄膜を有する同じ2枚の電磁波吸収フィルムを積層してなる近傍界電磁波吸収体について放射ノイズを測定したところ、放射ノイズは線状痕の加工程度に応じて著しく異なることが分った。また、金属薄膜が非常に薄いだけでなく線状痕も非常に微細であるために、近傍界電磁波吸収体の製品ロットに応じて表面抵抗率のバラツキがあり、同じ線状痕の加工程度の目標値が同じ製品でも放射ノイズの有無及び大きさにバラツキが生じることも分った。そのため鋭意研究の結果、(a) 一対の電磁波吸収フィルムの線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率を異ならせるとともに、(b) 両者の表面抵抗率を所定の範囲に限定すると、広範な周波数範囲にわたって放射ノイズを抑制することができるだけでなく、製品ロットによるバラツキも小さくなることが分った。本発明はかかる発見に基づき完成した。
【0045】
電子部品では一般に、0.03 GHz乃至7 GHzの範囲のノイズを除去する必要がある。そこで、この範囲の放射ノイズを抑制し得る線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率の組合せについて鋭意研究の結果、一方の線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率を150~500Ω/□とし、他方の線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率を10~100Ω/□とすると、0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲にわたって放射ノイズを抑制することができるだけでなく、製品ロットによるバラツキも低減できることが分った。
【0046】
上記の通り、線状痕付き金属薄膜を有する電磁波吸収フィルム、及びそのような2枚の電磁波吸収フィルムの積層体からなる近傍界電磁波吸収体では、1つ又は2つ以上の周波数で放射ノイズが極めて大きくなる(極大化する)ことがある。放射ノイズが極大化した場合、その周波数に係わらず極大化した放射ノイズを除去しなければならないので、放射ノイズの周波数依存性を観るよりも所定の周波数範囲において累積した放射ノイズを観る方が実用的である。所定の周波数範囲において累積した放射ノイズが所望のレベル未満であれば、放射ノイズは抑制されたとする。一方、累積放射ノイズが所望のレベルを超えた場合、放射ノイズはある周波数で極大化と言える。従って、ここでは近傍界電磁波吸収体の放射ノイズ吸収能を累積放射ノイズの大きさにより評価する。
【0047】
0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲のうち、低周波数側と高周波数側とで所望の累積放射ノイズレベルは異なる。ここでは、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲における所望の累積放射ノイズレベルを-20 dBmとし、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲における所望の累積放射ノイズレベルを-30 dBmとする。従って、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲における累積放射ノイズが-20 dBm以上か、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲における累積放射ノイズが-30 dBm以上である場合、ある1つ又は2つ以上の周波数で放射ノイズが極大化したと推測することができる。少なくとも1つの周波数で極大化した放射ノイズがある場合、その放射ノイズを除去するために近傍界電磁波吸収体にグランドを接続する必要が生じる。
【0048】
一方の(第一の)線状痕付き金属薄膜11aは150~500Ω/□の表面抵抗率を有し、他方の(第二の)線状痕付き金属薄膜11bは10~100Ω/□の表面抵抗率を有する。第一の線状痕付き金属薄膜11aは主に伝導ノイズの吸収に有効であり、第二の線状痕付き金属薄膜11bは主に放射ノイズの吸収に有効である。
【0049】
第一の線状痕付き金属薄膜11aの表面抵抗率が150Ω/□未満であると、近傍界電磁波吸収体は良好な伝導ノイズ吸収能を発揮できない。ここで、「良好な伝導ノイズ吸収能」とは、1 GHz未満乃至数GHz(具体的には、0.1~6 GHz)の周波数範囲において、150~500Ω/□の表面抵抗率を有する線状痕付き金属薄膜に近いノイズ吸収率Ploss/Pinを有することを意味する。一方、第一の線状痕付き金属薄膜11aの表面抵抗率が500Ω/□超であると、近傍界電磁波吸収体は十分な放射ノイズ吸収能を発揮できない。良好な伝導ノイズ吸収能及び放射ノイズ吸収能を発揮するために、第一の線状痕付き金属薄膜11aの表面抵抗率は150~400Ω/□であるのが好ましい。
【0050】
第二の線状痕付き金属薄膜11bの表面抵抗率が10Ω/□未満であると、金属薄膜自体の特性に近づき、放射ノイズ吸収能は高まるが伝導ノイズ吸収能は低下する。また、第二の線状痕付き金属薄膜11bの表面抵抗率が100Ω/□超であると、近傍界電磁波吸収体の放射ノイズ吸収能が低すぎる。第二の線状痕付き金属薄膜11bの表面抵抗率は10~50Ω/□であるのが好ましい。
【0051】
前述の通り、表面抵抗率は金属薄膜に形成した線状痕が深く幅広である(線状痕の加工の程度が大きい)ほど大きいので、第二の電磁波吸収フィルム100bの金属薄膜に形成した線状痕は第一の電磁波吸収フィルム100aの金属薄膜に形成した線状痕より浅い。従って、第二の線状痕付き金属薄膜11bの方が第一の線状痕付き金属薄膜11aより未加工の金属薄膜に近いノイズ吸収特性を有する。
【0052】
金属薄膜に対する線状痕の加工程度が大きくなるほど線状痕付き金属薄膜の表面抵抗率は大きくなるので、所望の表面抵抗率は線状痕の加工程度を調節することにより得ることができる。また、同じ線状痕の加工程度であっても、金属薄膜が厚くなると表面抵抗率は低下する傾向にあるので、所望の表面抵抗率を得るためには、厚い金属薄膜に対しては線状痕の加工程度を上げる必要がある。
【0053】
150~500Ω/□の表面抵抗率を有する線状痕付き金属薄膜と10~100Ω/□の表面抵抗率を有する線状痕付き金属薄膜とを組合せることにより、良好な伝導ノイズ吸収能を維持しつつ、1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲において放射ノイズの極大化を抑制することができる。
【0054】
(3) 線状痕付き金属薄膜の光透過率
第一の線状痕付き金属薄膜11aの光透過率は2.5~4%であり、第二の線状痕付き金属薄膜11bの光透過率は1~2.3%であるのが好ましい。線状痕付き金属薄膜の光透過率も表面抵抗率と同様に金属薄膜に対する線状痕の加工程度に応じて大きくなるので、第一の線状痕付き金属薄膜11aの2.5~4%の光透過率はほぼ150~500Ω/□の表面抵抗率に相当し、第二の線状痕付き金属薄膜11bの1~2.3%の光透過率はほぼ10~100Ω/□の表面抵抗率に相当する。第一の線状痕付き金属薄膜11aの光透過率は2.6~3.5%が好ましく、第二の線状痕付き金属薄膜11bの光透過率は1.5~2.2%が好ましい。
【0055】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0056】
参考例1
厚さ16μmのPETフィルムにアルミニウムを真空蒸着し、厚さ60 nmのアルミニウム薄膜を形成した。次いで、粒径分布が50~80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール32a,32bを有する
図8に示す構造の装置を用い、プラスチックフィルムのアルミニウム薄膜に下記特性の二方向の線状痕を形成し、参考例1の電磁波吸収フィルムを得た。なお、参考例1における線状痕の加工程度を「中
1」と呼ぶ。
幅Wの範囲:0.1~50μm
平均幅Wav:22μm
横手方向間隔Iの範囲:1~120μm
平均横手方向間隔Iav:42μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°
【0057】
ナプソン株式会社のシート抵抗/表面抵抗率測定器「EC-80P」を用いて、渦電流法(非破壊式)で線状痕付きアルミニウム薄膜の表面抵抗率を測定した。その結果、線状痕付きアルミニウム薄膜の表面抵抗率は172Ω/□であった。
【0058】
線状痕付きアルミニウム薄膜を有する参考例1の電磁波吸収フィルムを株式会社キーエンス製の透過型レーザ判別センサー(IB-30)にセットし、線状痕付きアルミニウム薄膜の光透過率を測定した結果、2.6%であった。
【0059】
参考例1の電磁波吸収フィルムから試験片TP1(50 mm×50 mm)を切り出した。50ΩのマイクロストリップラインMSL(64.4 mm×4.4 mm)と、マイクロストリップラインMSLを支持する絶縁基板200と、絶縁基板200の下面に接合された接地グランド電極201と、マイクロストリップラインMSLの両端に接続された導電性ピン202,202と、ネットワークアナライザNAと、ネットワークアナライザNAを導電性ピン202,202に接続する同軸ケーブル203,203とで構成された
図11(a) 及び
図11(b) に示す近傍界用電磁波評価システムにおいて、試験片TP1の中心がマイクロストリップラインMSLの中心と一致するように、絶縁基板200の上面に試験片TPを粘着剤により貼付した。マイクロストリップラインMSLに0.1~6 GHzの入射波を入力して反射波の電力S
11及び透過波の電力S
21を測定し、S
11及びS
21からノイズ吸収率P
loss/P
inを求めた。結果を
図12に示す。
図12から明らかなように、参考例1の電磁波吸収フィルムは良好なノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。
【0060】
参考例1の電磁波吸収フィルムから切り出した試験片TP2(40 mm×40 mm)に対して、森田テック株式会社製のEMCノイズスキャナー(WM7400)により、0.03 GHz乃至7 GHzの範囲において周波数をスキャンし、放射ノイズを測定した。
図13に参考例1の試験片TP2の累積放射ノイズを示す。
図13から明らかなように、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-15 dBm以上、特に-10 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察されただけでなく、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-25 dBm以上、特に-20 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察された。
【0061】
参考例2
図8に示す装置におけるパターンロール32a,32bのプラスチックフィルムに対する押圧力を参考例1の場合より大きくした以外同様の方法により、アルミニウム薄膜に下記特性の二方向の線状痕を形成し、参考例2の電磁波吸収フィルムを得た。なお、参考例2における線状痕の加工程度を「中
2」と呼ぶ。
幅Wの範囲:0.1~50μm
平均幅Wav:25μm
横手方向間隔Iの範囲:1~150μm
平均横手方向間隔Iav:45μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°
【0062】
参考例1と同じ方法により線状痕付きアルミニウム薄膜の表面抵抗率及び光透過率を測定した結果、それぞれ210Ω/□及び3.2%であった。
【0063】
参考例3
図8に示す装置におけるパターンロール32a,32bのプラスチックフィルムに対する押圧力を参考例1より小さくした以外参考例1と同様の方法により、アルミニウム薄膜に下記特性の二方向の線状痕を形成し、参考例3の電磁波吸収フィルムを得た。なお、参考例3における線状痕の加工程度を「弱
1」と呼ぶ。
幅Wの範囲:0.1~30μm
平均幅Wav:7μm
横手方向間隔Iの範囲:15~300μm
平均横手方向間隔Iav:71μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°
【0064】
参考例1と同じ方法により線状痕付きアルミニウム薄膜の表面抵抗率及び光透過率を測定した結果、それぞれ15Ω/□及び1.9%であった。
【0065】
参考例4
図8に示す装置におけるパターンロール32a,32bのプラスチックフィルムに対する押圧力を、参考例1より小さくかつ参考例3より大きくした以外参考例1と同様の方法により、アルミニウム薄膜に下記特性の二方向の線状痕を形成し、参考例4の電磁波吸収フィルムを得た。なお、参考例4における線状痕の加工程度を「弱
2」と呼ぶ。
幅Wの範囲:0.1~50μm
平均幅Wav:11μm
横手方向間隔Iの範囲:10~210μm
平均横手方向間隔Iav:56μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°
【0066】
参考例1と同じ方法により線状痕付きアルミニウム薄膜の表面抵抗率及び光透過率を測定した結果、それぞれ27Ω/□及び2.2%であった。
【0067】
参考例5
図8に示す装置におけるパターンロール32a,32bのプラスチックフィルムに対する押圧力を参考例1より大きくした以外参考例1と同様の方法により、アルミニウム薄膜に下記特性の二方向の線状痕を形成し、参考例5の電磁波吸収フィルムを得た。なお、参考例4における線状痕の加工程度を「強
1」と呼ぶ。
幅Wの範囲:0.2~70μm
平均幅Wav:31μm
横手方向間隔Iの範囲:0.5~100μm
平均横手方向間隔Iav:37μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°
【0068】
参考例1と同じ方法により線状痕付きアルミニウム薄膜の表面抵抗率及び光透過率を測定した結果、それぞれ624Ω/□及び3.7%であった。
【0069】
参考例6
図8に示す装置におけるパターンロール32a,32bのプラスチックフィルムに対する押圧力を参考例5より大きくした以外参考例5と同様の方法により、アルミニウム薄膜に下記特性の二方向の線状痕を形成し、参考例6の電磁波吸収フィルムを得た。なお、参考例6における線状痕の加工程度を「強
2」と呼ぶ。
幅Wの範囲:0.3~100μm
平均幅Wav:39μm
横手方向間隔Iの範囲:0.5~80μm
平均横手方向間隔Iav:30μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°
【0070】
参考例1と同じ方法により線状痕付きアルミニウム薄膜の表面抵抗率及び光透過率を測定した結果、それぞれ1290Ω/□及び4.1%であった。
【0071】
参考例1~6の電磁波吸収フィルムについて、線状痕のサイズ及び線状痕付きアルミニウム薄膜の特性を下記の表1にまとめて示す。
【表1】
注:(1) 線状痕の加工程度を示し、弱
1<弱
2<中
1<中
2<強
1<強
2である。
(2) 線状痕の幅の範囲及び平均、並びに間隔の範囲及び平均を算出するに当たり、0.1μmの幅までの線状痕をカウントした。
【0072】
実施例1
参考例1の電磁波吸収フィルムと参考例3の電磁波吸収フィルムとを、線状痕付きアルミニウム薄膜を内側にして、非導電性接着剤により接着し、
図9(a) に示す近傍界電磁波吸収体を作製した。接着層の厚さは5μmであった。
【0073】
(1) 伝導ノイズの測定
参考例1と同様に、この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1(50 mm×50 mm)を切り出し、
図11(a) 及び
図11(b) に示す近傍界用電磁波評価システムによりノイズ吸収率P
loss/P
inを求めた。結果を
図14に示す。
図14から明らかなように、実施例1の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムより僅かに劣るが、十分に良好なノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。
【0074】
(2) 放射ノイズの測定
実施例1の近傍界電磁波吸収体から切り出した試験片TP2(40 mm×40 mm)に対して、森田テック株式会社製のEMCノイズスキャナー(WM7400)により、0.03 GHz乃至7 GHzの範囲において周波数をスキャンし、放射ノイズを測定した。
図15に実施例1の試験片の累積放射ノイズを示す。
【0075】
図15から明らかなように、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-20 dBm以上の累積放射ノイズが実質的に観察されず、かつ3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-30 dBm以上の累積放射ノイズが実質的に観察されなかった。これから、実施例1の近傍界電磁波吸収体は、0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において優れた放射ノイズ吸収能を有することが確認された。
【0076】
実施例2
参考例1の電磁波吸収フィルムと参考例4の電磁波吸収フィルムとを、実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図16及び表2に表す。
図16から明らかなように、実施例2の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムより僅かに劣るが、十分に良好なノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-20 dBm以上の累積放射ノイズが観察されず、かつ3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-30 dBm以上の累積放射ノイズが観察されなかった。
【0077】
実施例3
参考例2の電磁波吸収フィルムと参考例3の電磁波吸収フィルムとを、実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図17及び表2に表す。
図17から明らかなように、実施例3の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムより僅かに劣るが、十分に良好なノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-20 dBm以上の累積放射ノイズが観察されず、かつ3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-30 dBm以上の累積放射ノイズが観察されなかった。
【0078】
実施例4
参考例2の電磁波吸収フィルムと参考例4の電磁波吸収フィルムとを、実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図18及び表2に表す。
図18から明らかなように、実施例4の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムより僅かに劣るが、十分に良好なノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-20 dBm以上の累積放射ノイズが観察されず、かつ3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-30 dBm以上の累積放射ノイズが観察されなかった。
【0079】
比較例1
参考例1で得た厚さ60 nmのアルミニウム薄膜を有するPETフィルムのみからなる試験片について、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図19及び表2に表す。
図19から明らかなように、比較例1の試験片は参考例1の電磁波吸収フィルムより著しく劣るノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-15 dBm以上、特に-10 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察されただけでなく、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-25 dBm以上、特に-20 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察された。これから、比較例1の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において著しく放射ノイズを放出することが分かる。
【0080】
比較例2
参考例1の電磁波吸収フィルムのみからなる試験片TP1及び試験片TP2について、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図12及び表2に表す。なお、比較例2のノイズ吸収率P
loss/P
inは参考例1のもの(
図12)と同じである。また、比較例1と同様に、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-15 dBm以上、特に-10 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察されただけでなく、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-25 dBm以上、特に-20 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察された。これから、比較例1の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において著しく放射ノイズを放出することが分かる。
【0081】
比較例3
参考例3の電磁波吸収フィルムのみからなる試験片TP1及び試験片TP2について、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図20及び表2に表す。
図20から明らかなように、比較例3の試験片は参考例1の電磁波吸収フィルムより僅かに劣るノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で、-15 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部の領域でしか観察されなかったが、-20 dBm~-15 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2のほぼ全体で観察された。また、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内で、25 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部でしか観察されなかったが、-30 dBm~-25 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2のほぼ全体で観察された。これから、比較例3の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において大きな放射ノイズを放出することが分かる。
【0082】
比較例4
参考例5の電磁波吸収フィルムのみからなる試験片TP1及び試験片TP2について、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図21及び表2に表す。
図21から明らかなように、比較例4の試験片は参考例1の電磁波吸収フィルムに匹敵するノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。しかし、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で-15 dBm以上、特に-10 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察されただけでなく、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内でも-25 dBm以上、特に-20 dBm以上と大きな累積放射ノイズが試験片TP2のほぼ全体で観察された。これから、比較例4の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において著しく大きい放射ノイズを放出することが分かる。
【0083】
比較例5
参考例1の2枚の電磁波吸収フィルムを、線状痕付きアルミニウム薄膜同士を内側にして実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図22及び表2に表す。
図22から明らかなように、比較例5の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムに匹敵するノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。しかし、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で、-15 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部の領域でしか観察されなかったが、-20 dBm~-15 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2のほぼ全体で観察された。また、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内で、25 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部でしか観察されなかったが、-30 dBm~-25 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2のほぼ全体で観察された。これから、比較例5の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において大きな放射ノイズを放出することが分かる。この理由は、比較例5の近傍界電磁波吸収体を構成する2枚の電磁波吸収フィルムのいずれも電磁波シールド性が不十分であるためであると考えられる。
【0084】
比較例6
参考例1の電磁波吸収フィルムと参考例5の電磁波吸収フィルムとを、線状痕付きアルミニウム薄膜同士を内側にして実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図23及び表2に表す。
図23から明らかなように、比較例6の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムに匹敵するノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。しかし、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で、-15 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部の領域でしか観察されなかったが、-20 dBm~-15 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2の約半分で観察された。また、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内で、25 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部でしか観察されなかったが、-30 dBm~-25 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2の約20%で観察された。これから、比較例6の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において大きな放射ノイズを放出することが分かる。この理由は、比較例6の近傍界電磁波吸収体を構成する参考例1及び5の電磁波吸収フィルムのいずれも放射ノイズ吸収能(電磁波シールド性)が不十分であるためであると考えられる。
【0085】
比較例7
参考例3の2枚の電磁波吸収フィルムを、線状痕付きアルミニウム薄膜同士を内側にして実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ24及び表2に表す。
図24から明らかなように、比較例7の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムより劣るノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内では-20 dBm以上の累積放射ノイズが観察されなかったが、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内で、試験片TP2の一部で25 dBm以上の累積放射ノイズが観察されただけでなく、-30 dBm~-25 dBmの累積放射ノイズも試験片TP2の約15%で観察された。これから、比較例7の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において大きな放射ノイズを放出することが分かる。この理由は、比較例7の近傍界電磁波吸収体を構成する参考例3の2枚の電磁波吸収フィルムの伝導ノイズ吸収能が不十分であるためであると考えられる。
【0086】
比較例8
参考例4の2枚の電磁波吸収フィルムを、線状痕付きアルミニウム薄膜同士を内側にして実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図25及び表2に表す。
図25から明らかなように、比較例8の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムより僅かに劣るノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で、-15 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部の領域でしか観察されなかったが、-20 dBm~-15 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2のほぼ全体で観察された。また、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内で、25 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部でしか観察されなかったが、-30 dBm~-25 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2の約半分で観察された。これから、比較例8の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において大きな放射ノイズを放出することが分かる。
【0087】
比較例9
参考例3の電磁波吸収フィルムと参考例5の電磁波吸収フィルムとを、線状痕付きアルミニウム薄膜同士を内側にして実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図26及び表2に表す。
図26から明らかなように、比較例9の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムより僅かに劣るノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。また、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で、-15 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部の領域でしか観察されなかったが、-20 dBm~-15 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2の約20%で観察された。また、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内で、25 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部でしか観察されなかったが、-30 dBm~-25 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2の約10%で観察された。これから、比較例9の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において大きな放射ノイズを放出することが分かる。
【0088】
比較例10
参考例5の2枚の電磁波吸収フィルムを、線状痕付きアルミニウム薄膜同士を内側にして実施例1と同様に接着し、近傍界電磁波吸収体を作製した。この近傍界電磁波吸収体から試験片TP1及び試験片TP2を切り出し、実施例1と同じ方法によりノイズ吸収率P
loss/P
in及び放射ノイズを測定した。結果をそれぞれ
図27及び表2に表す。
図27から明らかなように、比較例9の近傍界電磁波吸収体は参考例1の電磁波吸収フィルムに匹敵するノイズ吸収率P
loss/P
inを示した。しかし、0.03 GHz乃至3.5 GHz未満の周波数範囲内で、-15 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部の領域でしか観察されなかったが、-20 dBm~-15 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2の約30%で観察された。また、3.5 GHz乃至7 GHzの周波数範囲内で、25 dBm以上の累積放射ノイズは試験片TP2の一部でしか観察されなかったが、-30 dBm~-25 dBmの累積放射ノイズは試験片TP2の約20%で観察された。これから、比較例10の試験片は0.03 GHz乃至7 GHzの周波数範囲において大きな放射ノイズを放出することが分かる。
【0089】
比較例5、7、8及び10の結果から、二枚の電磁波吸収フィルムからなる近傍界電磁波吸収体であっても、両電磁波吸収フィルムが同じ表面抵抗率を有するものであると、良好な伝導ノイズ吸収能及び放射ノイズ吸収能のバランスを得るのが難しいことが分かる。
【0090】
実施例1~4及び比較例1~10の近傍界電磁波吸収体の構成、並びにノイズ吸収率Ploss/Pin及び放射ノイズを下記の表2にまとめてします。
【0091】
【0092】
実施例5
参考例1で製造した線状痕の加工程度が中
1の電磁波吸収フィルムのロットから任意に10枚の電磁波吸収フィルム片Aを切り出した。また、参考例3で製造した線状痕の加工程度が弱
1の電磁波吸収フィルムのロットからも任意に10枚の電磁波吸収フィルム片Bを切り出した。各電磁波吸収フィルム片Aと各電磁波吸収フィルム片Bを任意に組合せて、線状痕付きアルミニウム薄膜を内側にして非導電性接着剤により接着し、10枚の近傍界電磁波吸収体の試験片TP2を作製した。得られた各試験片TP2に対して、森田テック株式会社製のEMCノイズスキャナー(WM7400)により、0.03 GHz乃至7 GHzの範囲において周波数をスキャンし、参考例1と同様にして放射ノイズを測定した。
図38~
図47はそれぞれ0.03 GHz乃至3.5 GHzの範囲における累積放射ノイズ及び3.5 GHz乃至7 GHzの範囲における累積放射ノイズを示す。
図28~
図37から明らかなように、線状痕の加工程度が中
1のロットから任意に選んだ電磁波吸収フィルムと線状痕の加工程度が弱
1のロットから任意に選んだ電磁波吸収フィルムとを接着してなる本発明の近傍界電磁波吸収体は、いずれも累積放射ノイズが小さかった。これから、本発明の近傍界電磁波吸収体は、電磁波吸収フィルムのいずれの組合でも安定して放射ノイズを抑制できることが分かる。
【0093】
比較例11
参考例1で製造した線状痕の加工程度が中
1の電磁波吸収フィルムの第一のロットから任意に10枚の電磁波吸収フィルム片を切り出した。また、参考例1と同じ条件で製造した線状痕の加工程度が中
1の電磁波吸収フィルムの第二のロットからも任意に10枚の電磁波吸収フィルム片を切り出した。第一のロットの各電磁波吸収フィルム片と第二のロットの各電磁波吸収フィルム片とを任意に組合せて、線状痕付きアルミニウム薄膜を内側にして非導電性接着剤により接着し、10枚の近傍界電磁波吸収体の試験片TP2を作製した。得られた各試験片TP2に対して、実施例5と同様にして放射ノイズを測定した。
図38~
図47はそれぞれ0.03 GHz乃至3.5 GHzの範囲における累積放射ノイズ及び3.5 GHz乃至7 GHzの範囲における累積放射ノイズを示す。
【0094】
図38~
図47から明らかなように、線状痕の加工程度が中
1のロットから任意に選んだ電磁波吸収フィルムと、線状痕の加工程度が同様に中
1の別のロットから任意に選んだ電磁波吸収フィルムとを接着してなる近傍界電磁波吸収体については、累積放射ノイズが小さいもの(サンプル8)もあったが、残りのサンプルは全て大きな累積放射ノイズを示した。これから、線状痕の加工程度が最も好適な中
1の電磁波吸収フィルムであっても、異なるロットの2枚を任意に組合せると、放射ノイズを良好に抑制できる近傍界電磁波吸収体が得られる場合もあるが、ほとんどの近傍界電磁波吸収体では満足する放射ノイズ吸収能が得られないことが分かる。
【0095】
また、参考例3の電磁波吸収フィルム(線状痕の加工程度:弱1)2枚を組合せた比較例7の近傍界電磁波吸収体、参考例4の電磁波吸収フィルム(線状痕の加工程度:弱2)2枚を組合せた比較例8の近傍界電磁波吸収体、及び参考例5の電磁波吸収フィルム(線状痕の加工程度:強1)2枚を組合せた比較例10の近傍界電磁波吸収体については、表2から明らかなように、いずれも放射ノイズ吸収能が不十分であった。これから、同じ線状痕の加工程度の電磁波吸収フィルムを組合せた場合、線状痕の加工程度を比較的良好なレベル中1から異なるレベルに変えても、十分な放射ノイズ吸収能は得られない。その結果、線状痕の加工程度が同じ電磁波吸収フィルムを組合せた場合、線状痕の加工程度の大小に係わらず十分な放射ノイズ吸収能を安定的に得ることはできないことが分かる。
【符号の説明】
【0096】
1・・・近傍界電磁波吸収体
100,100a,100b・・・電磁波吸収フィルム
10,10a,10b・・・プラスチックフィルム
11,11a,11b・・・金属薄膜
12,12a,12b,12c,12d・・・線状痕
2a,2b,2c,2d・・・パターンロール
3a,3b,3c,3d,3e・・・押えロール
20・・・接着層
【要約】
【課題】 1 GHz未満乃至数GHzと広範な周波数範囲において高い伝導ノイズ吸収能及び放射ノイズ吸収能を有するだけでなく、放射ノイズが極大化する周波数が実質的にないためにグランドを接続することなく使用でき、かつ製品間にノイズ吸収能のバラツキが小さい近傍界電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】 少なくとも1層のプラスチックフィルムと、2層の線状痕付き金属薄膜とを有し、前記線状痕付き金属薄膜の各々には金属薄膜に実質的に平行な多数の断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されており、一方の線状痕付き金属薄膜が150~500Ω/□の表面抵抗率を有し、他方の線状痕付き金属薄膜が10~100Ω/□の表面抵抗率を有することを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【選択図】
図9(a)