(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】構造物の劣化状態診断方法
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20230801BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230801BHJP
G06T 7/11 20170101ALI20230801BHJP
G06V 10/82 20220101ALI20230801BHJP
G06V 20/17 20220101ALI20230801BHJP
G01N 21/84 20060101ALI20230801BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
E01D22/00 A
G06T7/00 350C
G06T7/00 610B
G06T7/11
G06V10/82
G06V20/17
G01N21/84 B
G01N21/88 J
(21)【出願番号】P 2022175546
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2019156782の分割
【原出願日】2019-08-29
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 将也
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056668(JP,A)
【文献】特開2019-126032(JP,A)
【文献】特開2017-124689(JP,A)
【文献】特開2019-027890(JP,A)
【文献】特開2014-006222(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159003(WO,A1)
【文献】特開2018-045350(JP,A)
【文献】特開2019-023787(JP,A)
【文献】特開2017-204085(JP,A)
【文献】特開2016-065809(JP,A)
【文献】特開平11-132961(JP,A)
【文献】特開2018-183583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
G06T 7/00
G06T 7/11
G06V 10/82
G06V 20/17
G01N 21/84
G01N 21/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を撮像して得られた1憶ピクセル以上の超高画素の画像及び低画素の画像を用いて、コンピュータに組み込まれた画像解析プログラム及び人工知能による検出結果から、構造物の劣化状態を診断する劣化状態診断方法であって、
コンピュータが、構造物の超高画素の画像を取得する画像取得ステップと、
コンピュータが、
構造物の前記超高画素の画像を画像解析プログラムにより低画素化することによって得られた当該構造物の低画素の画像における、所定の部位及び種別を人工知能により特定する部位特定ステップと、
コンピュータが、特定の部位及び種別の損傷状態に関する予め作成された学習済み劣化検出用画像認識モデルに、前記部位特定ステップで特定された部位及び種別の、前記画像取得ステップで取得された構造物の超高画素の画像を入力して、人工知能により構造物の所定の部位の損傷状態を出力させる部位別損傷検出ステップとを含んで構成されており、
該部位別損傷検出ステップに続けて、誤検出確認ステップをさらに含んでおり、該誤検出確認ステップでは、前記部位別損傷検出ステップで検出された構造物における所定の部位及び種別毎の損傷状態が、当該所定の部位及び種別には起こり得ない損傷であるか否かを判断し
、当該所定の部位及び種別には起こり得ない損傷が検出された場合に、検出された起こり得ない損傷を取り除いて、誤検出が生じないようにすることで、正しい損傷状態のみを検出させるようになっており、
表示された所定の部位の損傷状態から、診断員が構造物の劣化状態を診断する構造物の劣化状態診断方法。
【請求項2】
構造物の前記超高画素の画像は、ドローンにより構造物を撮像して得られた画像である
請求項1記載の構造物の劣化状態診断方法。
【請求項3】
前記部位特定ステップで特定された部位及び種別は、人工知能によるセマンティックセグメンテーションによって識別された部位及び種別である請求項1又は2記載の構造物の劣化状態診断方法。
【請求項4】
前記学習済み劣化特定用画像認識モデルの作成、及び人工知能による構造物の所定の部位の損傷状態の出力は、畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって行われる請求項1又は2記載の構造物の劣化状態診断方法。
【請求項5】
前記部位別損傷検出ステップで出力される構造物の所定の部位の損傷状態は、ひび割れ、腐食、防食機能の劣化、漏水・遊離石灰、又は剥離・鉄筋露出である請求項1又は2記載の構造物の劣化状態診断方法。
【請求項6】
前記部位特定ステップでは、構造物の特定の部位及び種別に関する予め作成された学習済み部位領域特定用画像認識モデルに、前記画像解析プログラムによって低画素化した構造物の画像を入力して、人工知能により構造物の所定の部位及び種別を特定する請求項1又は2記載の構造物の劣化状態診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の劣化状態診断方法に関し、特に、コンピュータに組み込まれた画像解析プログラム及び人工知能による検出結果から、構造物の劣化状態を診断する劣化状態診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば高度経済成長時代に構築された橋梁、ダム、高層建築物などの構造物においては、劣化が問題となっており、劣化した構造物の損傷個所を補修したり補強したりするにあたって、劣化箇所や劣化状態を前もって把握しておくことが重要である。このため、構造物のひび割れ等による損傷箇所を点検するための装置や方法が種々開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
一方、近年、国土交通省は、建設現場における生産性の向上を目指して、建設工事における測量、設計・施工計画、施工、及び検査の一連の工程において、3次元データなどを有効に活用する「i-Construction」の導入を表明すると共に、ドローンやCIM(Construction Information Modeling/Management)といったICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)の積極的な導入を図っている。
【0004】
好ましくは、ドローンを活用することによって、例えば従来の測量方法では数千地点を測量するのに1週間程度かかっていたものを、数百万地点の測量を15分程度で完了することが可能になり、また構造物の種々の方向からの全体画像を、例えば10000×10000=1憶ピクセル以上の高画素(超高画素)で撮像することが可能である。このため、好ましくはドローンを用いて構造物を撮像して得られた高画素(超高画素)の画像から、人工知能による公知の画像認識技術によって、構造物の劣化状態を診断する技術の開発が望まれている。高画素(超高画素)で撮像された構造物の画像は、例えば複数枚の画像を合成して一枚にまとめることができ、また高精細であるため、細かな劣化状態をも診断することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-231602号公報
【文献】特開2018-90981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、構造物を撮像した高画素の画像から、人工知能による公知の画像認識技術によって構造物の劣化状態を診断する場合、例えば人工知能によって予め作成した構造物の損傷状態に関する学習済み画像認識モデルに、撮影した画像を入力することで、細かな構造物の劣化状態を診断することが可能になると考えられるが、その一方で、高画素の画像は高精細であるため、構造物の高画素の画像は、画素数が過度に多くなっていることにより、損傷状態を分析する際に多くの時間を要することになると共に、構造物の部位によっては、その部位には起こり得ない変状を「劣化である」と診断するような、誤診断を生じる場合がある。
【0007】
本発明は、構造物の高画素の画像から、人工知能による画像認識技術によって構造物の劣化状態を診断する際に、損傷状態を分析する時間を低減して、効率良く劣化状態を診断することのできると共に、特定の部位には起こり得ない変状を「劣化である」と診断するような、誤診断が生じるのを効果的に回避することのできる構造物の劣化状態診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、構造物を撮像して得られた1憶ピクセル以上の超高画素の画像及び低画素の画像を用いて、コンピュータに組み込まれた画像解析プログラム及び人工知能による検出結果から、構造物の劣化状態を診断する劣化状態診断方法であって、コンピュータが、構造物の超高画素の画像を取得する画像取得ステップと、コンピュータが、構造物の前記超高画素の画像を画像解析プログラムにより低画素化することによって得られた当該構造物の低画素の画像における、所定の部位及び種別を人工知能により特定する部位特定ステップと、コンピュータが、特定の部位及び種別の損傷状態に関する予め作成された学習済み劣化検出用画像認識モデルに、前記部位特定ステップで特定された部位及び種別の、前記画像取得ステップで取得された構造物の超高画素の画像を入力して、人工知能により構造物の所定の部位の損傷状態を出力させる部位別損傷検出ステップとを含んで構成されており、該部位別損傷検出ステップに続けて、誤検出確認ステップをさらに含んでおり、該誤検出確認ステップでは、前記部位別損傷検出ステップで検出された構造物における所定の部位及び種別毎の損傷状態が、当該所定の部位及び種別には起こり得ない損傷であるか否かを判断し、当該所定の部位及び種別には起こり得ない損傷が検出された場合に、検出された起こり得ない損傷を取り除いて、誤検出が生じないようにすることで、正しい損傷状態のみを検出させるようになっており、表示された所定の部位の損傷状態から、診断員が構造物の劣化状態を診断する構造物の劣化状態診断方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
また、本発明の構造物の劣化状態診断方法は、構造物の前記超高画素の画像が、ドローンにより構造物を撮像して得られた画像であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の構造物の劣化状態診断方法は、前記部位特定ステップで特定された部位及び種別が、人工知能によるセマンティックセグメンテーションによって識別された部位及び種別であることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明の構造物の劣化状態診断方法は、前記学習済み劣化特定用画像認識モデルの作成、及び人工知能による構造物の所定の部位の損傷状態の出力は、畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって行われることが好ましい。
【0013】
また、本発明の構造物の劣化状態診断方法は、前記部位別損傷検出ステップで出力される構造物の所定の部位の損傷状態が、ひび割れ、腐食、防食機能の劣化、漏水・遊離石灰、又は剥離・鉄筋露出であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の構造物の劣化状態診断方法は、前記部位特定ステップでは、構造物の特定の部位及び種別に関する予め作成された学習済み部位領域特定用画像認識モデルに、前記画像低画素化ステップで低画素化した構造物の画像を入力して、人工知能により構造物の所定の部位及び種別を特定するようになっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構造物の劣化状態診断方法によれば、構造物の高画素の画像から、人工知能による画像認識技術によって構造物の劣化状態を診断する際に、損傷状態を分析する時間を低減して、効率良く劣化状態を診断することのできると共に、特定の部位には起こり得ない変状を「劣化である」と診断するような、誤診断が生じるのを効果的に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の好ましい一実施形態に係る構造物の劣化状態診断方法が実施される診断システムのシステム構成を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、診断システムのシステム構成を説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の好ましい一実施形態に係る構造物の劣化状態診断方法による処理工程を説明するフローチャートである。
【
図4】ドローンを使用して撮像された橋梁構造物の高画素の画像の説明図である。
【
図5】部位特定ステップにおいて特定される、低画素化した構造物の画像における所定の部位の説明図である。
【
図6】部位別損傷検出ステップにおいて学習済み劣化検出用画像認識モデルに入力される、部位特定ステップで特定された部位の高画素の画像の説明図である。
【
図7】部位別損傷検出ステップで検出された構造物の所定の部位の損傷状態を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい一実施形態に係る構造物の劣化状態診断方法は、構造物として例えば鉄筋コンクリート製の橋梁構造物20の劣化状態を、診断するための方法として採用されたものである。すなわち、
図1に示す橋梁構造物20は、高度経済成長時代に構築されたものであり、構築から例えば40年以上経過していることで、経年劣化によるひび割れ等の損傷が生じていることから、本実施形態の構造物の劣化状態診断方法を採用することにより、このようなひび割れ等の損傷による劣化状態を精度良く診断してその原因等を把握することによって、好ましくは適正な補修方法により損傷箇所を修復できるようにするものである。
【0018】
また、本実施形態の構造物の劣化状態診断方法は、例えば
図1に示すシステム構成を備える診断システム10を用いて実施されるようになっている。診断システム10は、例えば有線又は無線の通信網11を介して互いに接続されている、橋梁構造物20を高画素(超高画素)で撮像することが可能な機能を備えるドローン12と、例えば管理事務所に設置されたパーソナルコンピュータ13と、AI(人工知能:Artificial Intelligence)として、好ましくは畳み込みニュ-ラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)をアルゴリズムとするニューラルネットワークを実装可能な公知の機械学習ツール(ソフトウェア)が組み込まれたサーバ14とを含んで構成されている。
【0019】
本実施形態の構造物の劣化状態診断方法は、好ましくはドローン12によって撮影された橋梁構造物20の超高画素の画像を用いることで、橋梁構造物20の種々の部位に生じた細かな劣化状態を、人工知能による画像認識技術によって適正に診断することを可能にし、また損傷状態を分析する時間を低減して、効率良く劣化状態を診断できるようにすると共に、特定の部位には起こり得ない変状を「劣化である」と診断するような、誤診断が生じるのを回避できるようにする機能を備えている。
【0020】
そして、本実施形態の構造物の劣化状態診断方法は、
図1~
図3に示すように、構造物として例えば鉄筋コンクリート製の橋梁構造物20を撮像して得られた1憶ピクセル以上の高画素(超高画素)の画像を用いて、コンピュータ14に組み込まれた画像解析プログラム及び人工知能による検出結果から橋梁構造物20の劣化状態を診断する劣化状態診断方法であって、コンピュータ14が、橋梁構造物20の高画素の画像を取得する画像取得ステップS1と、コンピュータ14が、橋梁構造物20の高画素の画像を画像解析プログラムにより低画素化する画像低画素化ステップS2と、コンピュータ14が、構造物の低画素化した画像における所定の部位及び種別を人工知能により特定する部位特定ステップS3と、コンピュータ14が、特定の部位及び種別の損傷状態に関する予め作成された学習済み劣化検出用モデルに、部位特定ステップS3で特定された部位及び種別の高画素の画像を入力して、人工知能により構造物の所定の部位の損傷状態を出力させる部位別損傷検出ステップS4とを含んで構成され、表示された所定の部位の損傷状態から、診断員が、橋梁構造物20の劣化状態を診断するようになっている。
【0021】
本実施形態では、診断システム10を構成する高画素で撮像することが可能な機能を備えるドローン12によって、診断対象となる橋梁構造物20の構築現場において、好ましくは橋梁構造物20の全体の画像を撮影する。橋梁構造物20のドローン12による撮像は、一枚の画像で橋梁構造物20の全体を撮影することが困難な場合もあることから、橋梁構造物20における劣化状態を調査したい部位を設定し、調査したい部位を含む領域のみを撮影して、劣化状態を診断することもできる。高画素で撮影された構造物の画像は、例えばパーソナルコンピュータ13において、複数枚の画像を合成して一枚にまとめることもできる。
【0022】
ドローン12は、橋梁構造物20の種々の方向からの好ましくは全体画像を、例えば10000×10000=1憶ピクセル以上の高画素(超高画素)で撮像することが可能な機能を備えている。また高画素で撮像された橋梁構造物20の画像は、高精細であるため、細かな劣化状態をも診断することが可能である。ドローン12は、診断システム10を構成する例えば管理事務所に設置されたパーソナルコンピュータ13の撮影・送信・表示部13aからの制御によって、橋梁構造物20の周囲を飛行することができると共に、撮影部13bからの指令によって、橋梁構造物20の一部又は全体を含む領域を撮影できるようになっている。
【0023】
診断システム10を構成する例えば管理事務所に設置されたパーソナルコンピュータ13は、撮影・送信・表示部13aとして機能するようになっており、ドローン12の飛行を制御すると共に、撮影部13bからの指令によって、橋梁構造物20の一部又は全体を含む領域をドローン12によって撮影させ、撮影した画像を撮影・送信・表示部13aに取り込んで、例えば記憶部(図示せず)に記憶させることができるようになっている。また、撮影・送信・表示部13aは、取り込まれた橋梁構造物20の画像を、橋梁構造物20の所定の部位の損傷状態を検出するためのデータとして、送信部13cを介してコンピュータからなるサーバ14に送信すると共に、サーバ14から送信される橋梁構造物20の所定の部位の損傷状態の検出結果を、表示部13dを介して例えばディスプレイ13eに表示させることができるようになっている。
【0024】
ここで、パーソナルコンピュータ13は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)、HDD(Hard Disk Drive)等を備えている。CPUは、ROMに組み込まれた各種のプログラムに従って、RAMをワークエリアとして使用しながら、各種の処理を制御できるようになっている。また、CPUは、各種のコンピュータプログラムがROMに組み込まれていることにより、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を機能させると共に、各種の情報をディスプレイ13eに表示させたり、プリンタから出力させたりできるようになっている。
【0025】
また、本実施形態では、診断システム10を構成するサーバ14は、コンピュータからなり、公知の画像解析プログラムや公知の人工知能が組み込まれていることにより、損傷検出部14aを形成している。サーバ(コンピュータ)14の損傷検出部14aにおいて、本実施形態の構造物の劣化状態診断方法の画像取得ステップS1、画像低画素化ステップS2、部位特定ステップS3、及び部位別損傷検出ステップS4が実施されるようになっている。
【0026】
ここで、サーバ14であるコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/F(Interface)、HDD(Hard Disk Drive)、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を備えている。CPUは、ROMに組み込まれた各種のプログラムに従って、RAMをワークエリアとして使用しながら、画像解析プログラムによる画像処置やAIによる機械学習を制御する。また、CPUは、各種のコンピュータプログラムがROMに組み込まれていることにより、記憶手段、入力手段、表示手段、出力手段等を機能させると共に、パーソナルコンピュータ13から送られるデータやAIによる解析結果等を、例えばデータベース部に記憶させたり、所定の情報として、管理事務所に設置されたパーソナルコンピュータ13等を介して、例えばディスプレイ13eに表示させたり、プリンタから出力させたりできるようになっている。
【0027】
そして、本実施形態の構造物の劣化状態診断方法では、例えば上述の構成を備える診断システム10によって、
図3のフローチャートに示す処置工程にしたがって、人工知能により構造物の所定の部位の損傷状態を検出して、診断員による橋梁構造物20の劣化状態の診断に供するようにすることができる。
【0028】
すなわち、パーソナルコンピュータ13による撮影・送信・表示部13aの撮影部13bからの指令によってドローン12により撮影された、橋梁構造物20の好ましくは全体の画像は、撮影・送信・表示部13aの送信部13cを介して、サーバ(コンピュータ)14による損傷検出部14aの部位特定部14b(
図2参照)に送信されることによって、画像取得ステップS1において、
図4に示すような、例えば1憶ピクセル以上の高画素の橋梁構造物20の全体の画像として、コンピュータ14に取得される。
【0029】
次に、画像取得ステップS1で取得された高画素の橋梁構造物20の全体の画像は、サーバ(コンピュータ)14の損傷検出部14aにおいて、好ましくは記憶部(図示せず)に記憶されると共に、画像低画素化ステップS2として、画像解析プログラムによって、例えば例えば10万ピクセル以下程度の画素の画像として好ましくは200×200=4万ピクセルの画像となるように、底画素化される。画像低画素化ステップS2において底画素化された橋梁構造物20の全体の低画素画像は、好ましくは記憶部(図示せず)に記憶されると共に、部位特定ステップS3が行われることによって、底画素化された画像における、橋梁構造物20の所定の部位及び種別が人工知能により特定されることになる。
【0030】
本実施形態では、部位特定ステップS3は、好ましくは橋梁構造物20の特定の部位及び種別に関する予め作成された既存の学習済み部位領域特定用画像認識モデルに、画像低画素化ステップS2で低画素化した橋梁構造物20の画像を入力することによって、人工知能により橋梁構造物20の所定の部位及び種別を特定するようになっている。既存の学習済み部位領域特定用画像認識モデルは、既存の橋梁構造物を撮像した多数の画像による、例えば部位や種別をピクセル毎に色分けしたデータセットを教師データとして、畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって作成することができる。また、画像低画素化ステップS2で低画素化した橋梁構造物20の低画素画像を、学習済み部位領域特定用画像認識モデルに入力することによる橋梁構造物20の所定の部位及び種別の特定もまた、畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって容易に行うことができる。
【0031】
部位特定ステップS3において、畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって特定された橋梁構造物20の所定の部位及び種別は、
図5に示すように、好ましくは人工知能によるセマンティックセグメンテーション(Semantic Segmentation)と呼ばれる画像セグメンテーションによって識別された、位置座標を伴う部位及び種別となっているので、
図6に示すように、特定された各々部位の画像である部位別領域画像として、例えば主桁20a、及び複数の胸壁20b,20c,20dの画像を、部位番号を付した状態で抽出することができる。抽出された各々の特定された所定の部位の部位別領域画像は、高画素に戻すように変換されることで、部位別高画素領域画像として、サーバ(コンピュータ)14の部位別損傷検出部14c(
図2c参照)に送られて、部位別損傷検出ステップS4によって、特定された各々の部位における損傷状態が検出されることになる。
【0032】
部位別損傷検出ステップS4では、特定の部位及び種別の損傷状態に関する予め作成された既存の学習済み劣化検出用画像認識モデルに、部位特定ステップS3で特定された各々の部位及び種別の高画素の画像を入力することによって、人工知能により橋梁構造物20の所定の部位の損傷状態を出力させて検出するようになっている。既存の学習済み劣化検出用画像認識モデルは、既存の橋梁構造物を所定の部位及び種別毎に撮像した、損傷個所を含む多数の画像による、例えば損傷の種別をピクセル毎に色分けしたデータセットを教師データとして、畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって作成することができる。ピクセル毎に色分けされる橋梁構造物20の所定の部位の損傷状態は、好ましくは、ひび割れ、腐食、防食機能の劣化、漏水・遊離石灰、又は剥離・鉄筋露出等とすることができる。部位特定ステップS3で特定された各々の部位及び種別の高画素の画像を、学習済み劣化検出用画像認識モデルに入力することによる各々の部位における損傷状態の検出もまた、畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって容易に行うことができる。
【0033】
部位別損傷検出ステップS4では、部位特定ステップS3で高画素に変換された、特定された各々の部位の部位別高画素領域画像は、好ましくはこれらに付された部位番号の順番に従って、特定の部位及び種別の各々の損傷状態に関する、予め作成された各々の学習済み劣化検出用画像認識モデルに順次入力される。特定された部位及び種別の高画素の画像を順次入力することで、人工知能による畳み込みニューラルネットワークをアルゴリズムとするディープラーニングによって、橋梁構造物20の所定の部位の、好ましくはひび割れ、腐食、防食機能の劣化、漏水・遊離石灰、又は剥離・鉄筋露出等の損傷状態を順次出力させて、各々の部位における損傷状態を検出することが可能になる。
【0034】
また、本実施形態では、部位別損傷検出ステップS4に続けて、部位別損傷検出ステップS4で検出された橋梁構造物20における所定の部位及び種別毎の損傷状態が、当該所定の部位及び種別には起こり得ない損傷であるか否かを判断して、誤検出が生じないようにする、誤検出確認ステップS5を含んでいる。誤検出確認ステップS5では、部位別損傷検出ステップS4で検出された所定の部位の、ひび割れ、腐食、防食機能の劣化、漏水・遊離石灰、又は剥離・鉄筋露出等の損傷状態について、特定された当該所定の部位及び種別には起こり得ない損傷が検出された場合として、例えば橋梁構造物20の鋼製の部位に、コンクリートのひび割れや鉄筋の露出が検出された場合等に、このような誤検出を取り除いて、正しい損傷状態のみをさらに精度良く検出させるようになっている。
【0035】
損傷検出部14aにおいて検出された、特定された橋梁構造物20の所定の部位及び種別の損傷状態に関するデータは、パーソナルコンピュータ13による撮影・送信・表示部13aに送られて、表示部13dを介して例えばディスプレイ13eに表示できるようになっている。例えば
図7(a)、(b)に示すように、左側の写真に示すような橋梁構造物20の所定の部位及び種別の損傷状態を、右側の画像のように表示させることができるようになっている。これによって、診断員は、例えばディスプレイ13eに表示された、橋梁構造物20の特定された所定の部位及び種別の損傷状態を観察しながら、建築現場に行くことなく、橋梁構造物20の劣化状態を容易に診断することが可能になる。
【0036】
そして、上述の構成を備える本実施形態の劣化状態診断方法によれば、橋梁構造物20の高画素の画像から、人工知能による画像認識技術によって橋梁構造物20の劣化状態を診断する際に、損傷状態を分析する時間を低減して、効率良く劣化状態を診断することが可能になると共に、特定の部位には起こり得ない変状を「劣化である」と診断するような、誤診断が生じるのを効果的に回避することが可能になる。
【0037】
すなわち、本実施形態の構造物の劣化状態診断方法は、橋梁構造物20の高画素の画像を取得する画像取得ステップS1と、低画素の画像における所定の部位及び種別を人工知能により特定する部位特定ステップS3と、所定の部位及び種別の損傷状態に関する学習済み劣化検出用モデルに、特定された部位及び種別の超高画素の画像を入力して、人工知能により構造物の所定の部位の損傷状態を出力させる部位別損傷検出ステップS4とを含んで構成されており、部位別損傷検出ステップS4に続けて、誤検出確認ステップS5をさらに含んでいるので、高画素で撮像され橋梁構造物20の画像をそのまま学習済み劣化検出用画像認識モデルに入力させて、人工知能により橋梁構造物20の損傷状態を検出させる場合と比較して、処理するデータの量を少なくすることにより、人工知能による画像認識技術によって構造物の劣化状態を診断する際に損傷状態を分析する時間を低減して、効率良く劣化状態を診断することが可能になると共に、学習済み劣化検出用モデルに入力される画像を橋梁構造物20の特定された所定の部位及び種別毎の画像に限定することで、当該特定の部位には起こり得ない変状を「劣化である」と診断するような、誤診断が生じるのを効果的に回避することが可能になる。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、構造物の高画素の画像は、ドローンにより構造物を撮像して得られた画像である必要は必ずしも無く、また構造物の全体を含む画像でなくても良い。構造物の高画素の画像は、調査の対象となる構造物の所定の部位のみを含んだ画像であっても良い。部位特定ステップで特定された構造物の所定の部位及び種別は、セマンティックセグメンテーションによって識別された部位及び種別である必要は必ずしも無く、人工知能によるバウンディングボックスによって特定された部位及び種別等であっても良い。劣化状態が診断される構造物は、橋梁構造物の他、ダム、高層建築物などの、その他の種々の鉄筋コンクリート製や鋼製の構造物であっても良い。画像取得ステップや画像低画素化ステップや部位特定ステップや部位別損傷検出ステップは、コンピュータであるサーバにおいて実施される必要は必ずしも無く、画像解析プログラムやAIを例えば管理事務所に設置されたコンピュータ13に組み込んで、当該管理事務所のコンピュータにおいて実施することもできる。
【符号の説明】
【0039】
10 診断システム
11 通信網
12 ドローン
13 パーソナルコンピュータ
13a 撮影・送信・表示部
13b 撮影部
13c 送信部
13d 表示部
13e ディスプレイ
14 サーバ(コンピュータ)
14a 損傷検出部
14b 部位特定部
14c 部位別損傷検出部
20 橋梁構造物