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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20230801BHJP
   H01T 21/00 20060101ALI20230801BHJP
   H01T 13/32 20060101ALI20230801BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T21/00
H01T13/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022563111
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2022023077
(87)【国際公開番号】W WO2022264891
(87)【国際公開日】2022-12-22
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2021099370
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(72)【発明者】
【氏名】三島 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩塚 知宏
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-046660(JP,A)
【文献】特開2022-049385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 21/00
H01T 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びる筒状部を有する金具部材と、
前記筒状部内に配置され、前記軸線に沿って延びる中心電極と、
前記筒状部に設けられている開口部に挿入され、自身の延設方向における先端部と前記中心電極との間でギャップを形成する接地電極と
を備え、
前記筒状部の外周面には、ネジ山が設けられており、
前記筒状部の前記軸線と直交する方向の断面であって、前記ネジ山の頂点と前記開口部の縁とが交差する位置における断面において、前記開口部は、前記筒状部の前記外周面から内周面側に向かって先細となる傾斜部を有しており、
前記ネジ山の前記頂点と前記開口部との境界位置における前記外周面の接線と、前記開口部における前記傾斜部とのなす角度は、90度以上となっている、
スパークプラグ。
【請求項2】
前記傾斜部は、少なくとも前記ネジ山の前記頂点から前記ネジ山の溝にわたって設けられている、
請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記傾斜部は、前記ネジ山の頂点と前記開口部の縁とが交差する位置における前記開口部の断面において、前記開口部の両側に設けられている、
請求項1または2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記傾斜部は、前記ネジ山の2つ以上にわたる領域に設けられている、
請求項1または2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関に用いられるスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンなどの内燃機関の着火手段として、スパークプラグが用いられている。スパークプラグには、火花放電を発生させるための構成として、中心電極と接地電極とが設けられている。中心電極は、軸線に沿って延びる筒状の主体金具の内部の先端側に取り付けられ、軸線に沿って延びている。接地電極は、中心電極の先端部に近接するように配置されている。
【0003】
このようなスパークプラグには、筒状の主体金具に開口部を形成し、この開口部に対して棒状の接地電極を挿入することで、主体金具に取り付けられるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-46660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1の図5に示す点火プラグには、主体金具50cの取付ネジ部52cの先端部分に、点火プラグの軸線AXと垂直な方向に、取付ネジ部52cを貫通する孔部34cが形成されている。この孔部34cには、接地電極チップ39cが圧入される。
【0006】
このような主体金具の取付ネジ部に設けられている孔部(開口部)は、主体金具の外周面に対して切削加工を行うことによって形成される。通常、主体金具に設けられている開口部の切削面の形状は、例えば、特許文献1の点火プラグのように、主体金具の内径中心軸に対して垂直な形状となる。
【0007】
しかし、開口部の切削面が主体金具の内径中心軸に対して垂直な形状となっていると、スパークプラグを内燃機関のネジ穴に螺合するときに、開口部との境界に位置するネジ山が、ネジの回転方向に対して前傾した形状となる。そのため、内燃機関へのスパークプラグの締結時などに、スパークプラグのネジ山が内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性がある。
【0008】
そこで、本開示の一局面では、内燃機関への取り付け時などにネジ山の噛み込みを抑えることのできるスパークプラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一局面にかかるスパークプラグは、軸線に沿って延びる筒状部を有する金具部材と、前記筒状部内に配置され、前記軸線に沿って延びる中心電極と、前記筒状部に設けられている開口部に挿入され、自身の延設方向における先端部と前記中心電極との間でギャップを形成する接地電極とを備えている。このスパークプラグにおいて、前記筒状部の外周面には、ネジ山が設けられており、前記筒状部の前記軸線と直交する方向の断面であって、前記ネジ山の頂点と前記開口部の縁とが交差する位置における断面において、前記開口部は、前記筒状部の前記外周面から内周面側に向かって先細となる傾斜部を有しており、前記ネジ山の前記頂点と前記開口部との境界位置における前記外周面の接線と、前記開口部における前記傾斜部とのなす角度は、90度以上となっている。
【0010】
上記の構成によれば、スパークプラグを内燃機関のネジ穴に螺合する際などに、筒状部の外周面に設けられたネジ山がネジの進行方向に対して前傾しない形状となる。そのため、内燃機関へのスパークプラグの締結時あるいは取り外し時にネジ山が内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性を低減させることができる。
【0011】
上記の本開示の一局面にかかるスパークプラグにおいて、前記傾斜部は、少なくとも前記ネジ山の前記頂点から前記ネジ山の溝にわたって設けられていてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、ネジ山の全体にわたって(すなわち、ネジ山の頂点からネジ溝の底面まで)開口部の切削面が傾斜した形状となるため、スパークプラグを内燃機関に取り付ける際および取り外す際に、開口部の縁部分の噛み込みをより確実に抑制することができる。
【0013】
上記の本開示の一局面にかかるスパークプラグにおいて、前記傾斜部は、前記ネジ山の頂点と前記開口部の縁とが交差する位置における前記開口部の断面において、前記開口部の両側に設けられていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、スパークプラグが軸線を起点として時計回りおよび反時計回りの何れの方向に回転する場合においても、ネジの進行方向に開口部の傾斜部が存在する構成となる。したがって、内燃機関に対するスパークプラグの取り付け時および取り外し時の両方において、ネジ山の噛み込みを防ぐことができる。
【0015】
上記の本開示の一局面にかかるスパークプラグにおいて、前記傾斜部は、前記ネジ山の2つ以上にわたる領域に設けられていてもよい。
【0016】
開口部の直径は、接地電極の寸法に合わせて設定されており、通常、筒状部の外周面に設けられているネジ山のネジ幅(軸線方向に隣接する2つのネジ山間の大きさ)よりも大きくなっている。そのため、開口部は、軸線方向に隣接する2つ以上のネジ山の形成領域にわたって形成されている。そこで、開口部に設けられている傾斜部も、軸線方向に隣接する2つ以上のネジ山の形成領域にわたって形成されていることが好ましい。これにより、開口部の縁に存在する各ネジ山の噛み込みを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本開示の一局面にかかるスパークプラグによれば、内燃機関への取り付け時などに、金具部材の外周面に形成されているネジ山の噛み込みを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態にかかるスパークプラグの外観および内部構成を示す部分断面図である。
図2】第1の実施形態にかかるスパークプラグにおける中心電極および接地電極の取り付け部を拡大して示す側面模式図である。
図3】第1の実施形態にかかるスパークプラグの外観を示す側面図である。
図4】第1の実施形態にかかるスパークプラグの外観を示す斜視図である。
図5図3に示す主体金具のA-A線部分の構成を示す断面図である。
図6】第1の実施形態にかかるスパークプラグの主体金具に形成されている開口部の横断面の形状を示す模式図である。
図7】従来のスパークプラグの主体金具に形成されている開口部の横断面の形状を示す模式図である。
図8】比較対象のスパークプラグの主体金具に形成されている開口部の横断面の形状を示す模式図である。
図9】第2の実施形態にかかるスパークプラグにおける中心電極および接地電極の取り付け部を拡大して示す側面図である。
図10】従来のスパークプラグに備えられている主体金具の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。図1には、本発明の一実施形態にかかるスパークプラグ1の概略構成を示す。
【0020】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態では、横放電タイプのスパークプラグを例に挙げて説明する。
【0021】
(スパークプラグの全体構成)
先ず、スパークプラグ1の全体構成について、図1を参照しながら説明する。スパークプラグ1は、絶縁体50および主体金具(金具部材)30を備えている。
【0022】
絶縁体50は、スパークプラグ1の長手方向に延びる略円筒形状の部材である。絶縁体50内には、軸線Oに沿って延びる軸孔が形成されている。絶縁体50は、絶縁性、耐熱性、および熱伝導性に優れた材料で形成されている。例えば、絶縁体50は、アルミナ系セラミックなどで形成されている。絶縁体50の先端部51には、中心電極21が設けられている。スパークプラグ1において、中心電極21が設けられている側をスパークプラグ1の先端側とし、その他端側を後端側とする。絶縁体50の後端部には、端子金具52が取り付けられている。
【0023】
中心電極21は、その先端部分が絶縁体50の先端部51から突出した状態で、絶縁体50の軸孔に貫通保持されている。中心電極21は、略円筒形状の絶縁体50の軸線O上に位置するように、絶縁体50に対して取り付けられている。中心電極21は略円柱形状を有しており、その先端へ向かってわずかに縮径している。中心電極21の先端には、例えば、円柱状に成形された貴金属チップ(図示せず)が、溶接などによって接合される。
【0024】
中心電極21は、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料で形成される。Ni基合金に添加される合金元素としては、Al(アルミニウム)等が挙げられる。中心電極21の内部には、芯材(図示せず)が埋設されていてもよい。芯材は、中心電極21を形成している電極母材よりも熱伝導性に優れた金属材料(例えば、Cu(銅)又はCu合金など)で形成することができる。なお、別の実施態様では、中心電極21の内部に芯材が設けられていなくてもよい。すなわち、中心電極は電極母材のみで形成されていてもよい。
【0025】
主体金具30は、内燃機関のネジ穴に固定される略円筒形状の部材である。主体金具30は、絶縁体50の外周を部分的に覆うように設けられている。略円筒形状の主体金具30内に絶縁体50の一部が挿入された状態で、主体金具30の後端側に存在する絶縁体50との隙間は、タルク61によって充填されている。
【0026】
主体金具30は、導電性を有する金属材料で形成されている。このような金属材料としては、低炭素鋼、または鉄を主成分とする金属材料などが挙げられる。主体金具30は、主に、加締め部31、工具係合部32、湾曲部33、座部34、および胴部36などを有している。これらの各部分は、軸線Oに沿って配置され、全体として主体金具30の筒状部30aを形成している。
【0027】
加締め部31および湾曲部33は、絶縁体50に主体金具30を取り付けるための部位である。工具係合部32は、内燃機関のネジ穴に主体金具30を取り付けるときにレンチなどの工具を係合させる部位である。座部34は、工具係合部32と胴部36との間に位置している。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられた状態で、座部34には、環状のガスケットが配置される。胴部36は、絶縁体50の先端部51側に位置している。スパークプラグ1が内燃機関に取り付けられる際には、胴部36の外周に形成されたネジ形状37(すなわち、ネジ山37aおよびネジ溝37b)(図2など参照)が内燃機関のネジ穴に螺合される。
【0028】
また、主体金具30の先端部側(胴部36が位置する側)には、接地電極11が設けられている。接地電極11は、略円筒形状の胴部36を貫通し、中心電極21へ向かって軸線Oと略直交する方向に延びる棒状の部材である。接地電極11は、胴部36に設けられている開口部40から筒状部30a内に挿入されている。
【0029】
接地電極11は、例えば、Ni(ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料を電極母材として形成される。Ni基合金に添加される合金元素としては、Al(アルミニウム)等が挙げられる。接地電極11は、Ni以外の成分として、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Al(アルミニウム)、およびTi(チタン)より選択される少なくとも一つの元素を含んでいてもよい。また、Ni基合金以外にも、Pt(白金)、Ir(イリジウム)等の貴金属を主成分とする金属材料を用いてもよい。
【0030】
図2には、主体金具30の開口部40に対して接地電極11が取り付けられた状態を示す。図2に示すように、本実施形態にかかるスパークプラグ1は、接地電極11の先端面11aが中心電極21の側面に対向するように配置されている、いわゆる横放電タイプのスパークプラグである。
【0031】
本実施形態にかかるスパークプラグ1では、軸線Oに沿って延びる中心電極21の側面部と、中心電極21に向かって軸線Oと略直交する方向に延びる接地電極11の先端面11aとの間に、放電ギャップGが形成される(図2参照)。
【0032】
なお、本実施形態では、接地電極11の母材が中心電極21の側面と対向する先端面11aを有する構成となっているが、別の実施態様では、接地電極11の母材の先端面に貴金属チップを備える構成としてもよい。
【0033】
(主体金具の開口部の構成)
続いて、主体金具30の筒状部30a(具体的には、胴部36)に設けられている開口部40の詳細な構成について説明する。図3および図4には、第1の実施形態にかかるスパークプラグ1の外観を示す。図3および図4では、接地電極11が取り付けられる前の状態のスパークプラグ1を示す。図3は、開口部40が設けられている側のスパークプラグ1の側面図である。図4は、開口部40の形状を示すスパークプラグ1の斜視図である。
【0034】
図5には、主体金具30の横断面の構成を示す。図5は、図3に示すA-A線部分の断面図である。このA-A線は、軸線Oと直交する線であって、ネジ山37aの一つの頂点と開口部40の縁とが交差する位置を通る線である。
【0035】
図3に示すように、開口部40は、主体金具30の胴部36の先端側に設けられている。より具体的には、開口部40は、絶縁体50の先端部に設けられている中心電極21の先端部と、軸線O方向においてほぼ同じ位置に形成されている。これにより、開口部40に対して接地電極11が取り付けられると、接地電極11の先端面11aが中心電極21の先端部近傍の側面に対向するように配置される。
【0036】
開口部40は、接地電極11を形成する棒状の電極母材を差し込むことのできる程度の大きさを有している。通常、開口部40の直径は、胴部36の表面に設けられているネジ形状37のネジ幅(軸線方向に隣接する2つのネジ山37a・37a間の大きさ)よりも大きくなるように設定されている。したがって、開口部40は、軸線方向に隣接する2つ以上のネジ山37aの形成領域にわたって形成されている。
【0037】
開口部40の外周面側には、筒状部30aの外周面から内周面側に向かって先細となるように(すなわち、開口部40の開口径を狭めるように)傾斜したテーパ部41が設けられている。このようなテーパ部41は、接地電極11の電極母材が差し込まれる筒状部30aの外周面側に少なくとも形成されている。筒状部30aの外周面側の開口部40がこのような形状を有していることにより、スパークプラグ1を内燃機関のネジ穴に螺合する際などに、ネジ山37aが内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性を低減させることができる。
【0038】
図5は、主体金具30の胴部36を、軸線Oと直交し、かつ、ネジ山37aの一つの頂点と開口部40の縁とが交差する位置において切断した場合の断面図である。このような主体金具30の断面において、開口部40は、筒状部30aの外周面から内周面に向かって先細となるテーパ部41を有している。
【0039】
テーパ部41は、ネジ形状37の形成領域に少なくとも設けられている。本実施形態では、テーパ部41は、ネジ形状37の形成領域からやや内周面側にまで設けられている。すなわち、テーパ部41は、ネジ形状37の溝の深さよりもやや深い位置にまで設けられている。図5に示すように、ネジ形状37の形成領域よりも内周面側の開口部40の奥側切削面42については、テーパ形状にはなっておらず、開口部40の開口径は一定となっている。奥側切削面42が形成されている領域の開口部40の開口径は、挿入される接地電極11の電極母材の寸法に合わせて設定されている。
【0040】
ここで、比較のために、従来のスパークプラグに備えられている主体金具に設けられている開口部の構成について説明する。図10には、従来のスパークプラグの主体金具930の横断面の構成を示す。この図は、従来のスパークプラグの主体金具930を、図3に示すA-A線に相当する位置で切断した場合の断面図である。主体金具930の筒状部30a(具体的には、胴部36)には、接地電極11が挿入される開口部940が設けられている。なお、主体金具930において、開口部940以外の基本的な構成は主体金具30と同じである。
【0041】
図10に示すように、従来のスパークプラグにおいては、開口部940の開口径は、筒状部30aの外周面から内周面に至るまでほぼ一定となっている。すなわち、従来のスパークプラグの主体金具930に形成されている開口部940には、テーパ部41は設けられておらず、開口部940の切削面942が主体金具930の内径中心軸に対して垂直な形状となっている。開口部940がこのような形状を有していると、スパークプラグを内燃機関のネジ穴に螺合させるときに、開口部940との境界に位置するネジ山が、ネジの回転方向(すなわち、スパークプラグの進行方向)に対して前傾した形状となる(図7参照)。これにより、内燃機関へのスパークプラグの締結時あるいは取り外し時にネジ山が内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性がある。
【0042】
これに対して、本実施形態にかかるスパークプラグ1では、主体金具30に設けられている開口部40にテーパ部41が設けられている。これにより、スパークプラグ1を内燃機関のネジ穴に螺合する際などに、ネジ山37aが内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性を低減させることができる。
【0043】
このようなテーパ部41は、開口部40の深さ方向において、少なくともネジ形状37の形成領域(すなわち、ネジ山37aからネジ溝37bまで)に設けられていることが好ましい。これにより、胴部36の外周面側のネジ形状37の形成領域全体にわたってテーパ形状が形成されることになるため、スパークプラグ1を内燃機関に取り付ける際および取り外す際に、開口部の縁部分の噛み込みをより確実に抑制することができる。
【0044】
また、図5に示すように、テーパ部41は、ネジ山37aの頂点と開口部40の縁とが交差する位置における開口部40の断面において、開口部40の両側に設けられていることが好ましい。これにより、内燃機関に対するスパークプラグ1の脱着時の両方で(すなわち、図6に示すネジの進行方向R1およびR2の両方において)、ネジの噛み込みを防ぐことができる。
【0045】
なお、本実施形態では、開口部40の縁の略全領域にわたって上記のようなテーパ部41が設けられている。これにより、切削工具を用いたザグリ加工によって開口部40を形成する際に、テーパ部41を有する切削面の加工が容易となる。
【0046】
ここで、テーパ部41の傾斜角度について、図6から図8を参照しながら説明する。図6から図8には、開口部の断面形状を種々に異ならせた主体金具30の横断面を模式的に示す。図6から図8には、内燃機関へスパークプラグ1を締結させる際のネジの進行方向をR1で示し、内燃機関からスパークプラグ1を取り外す際のネジの進行方向をR2で示す。
【0047】
図6は、本実施形態にかかるスパークプラグ1の開口部40の横断面(例えば、図3のA-A線部分の断面)の形状を示す模式図である。図6では、開口部40の外周面側の形状のみを示している。すなわち、図6では、テーパ部41の内周面側に設けられている奥側切削面42の図示は省略している。
【0048】
図6に示すスパークプラグ1では、主体金具30の筒状部30aの外周面に設けられているネジ山37aの頂点と開口部40との境界位置における外周面の接線Tと、開口部40のテーパ部41とのなす角度θ1が、90度以上となっている。
【0049】
図7は、従来のスパークプラグの主体金具930の開口部940の横断面(例えば、図3のA-A線部分に相当する位置の断面)の形状を示す模式図である。図10を参照しながら上述したように、主体金具930の開口部940の切削面942は、主体金具930の内径中心軸に対して垂直な形状となっている。
【0050】
図7に示す従来のスパークプラグでは、主体金具930の筒状部30aの外周面に設けられているネジ山37aの頂点と開口部940との境界位置における外周面の接線Tと、開口部940の切削面942とのなす角度θ2が、鋭角(90度未満)となっている。
【0051】
このような構成では、開口部940との境界に位置するネジ山が、ネジの回転方向(すなわち、スパークプラグの進行方向R1またはR2)に対して前傾した形状となる。これにより、内燃機関へのスパークプラグの締結時あるいは取り外し時にネジ山が内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性がある。
【0052】
図8は、比較対象のスパークプラグの主体金具830の開口部840の横断面(例えば、図3のA-A線部分に相当する位置の断面)の形状を示す模式図である。図8に示す開口部840には、筒状部30aの外周面から内周面側に向かって先細となるテーパ部841が設けられている。このテーパ部841は、接線Tに対する傾斜角度がテーパ部41とは異なっている。図8に示すスパークプラグでは、主体金具830の筒状部30aの外周面に設けられているネジ山37aの頂点と開口部840との境界位置における外周面の接線Tと、開口部840のテーパ部841とのなす角度θ3は、鋭角(90度未満)となっている。すなわち、θ3<90度≦θ1となっている。
【0053】
このような構成では、開口部840との境界に位置するネジ山が、ネジの回転方向(すなわち、スパークプラグの進行方向R1またはR2)に対してやや前傾した形状となる。そのため、図7に示すような従来のスパークプラグと比較してネジ回転時のネジ山の噛み込みの可能性は低減されるものの、内燃機関へのスパークプラグの脱着時にネジ山が内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性がある。
【0054】
以上より、本実施形態にかかるスパークプラグ1では、主体金具30の外周面の接線Tと、開口部40のテーパ部41とのなす角度θ1が、90度以上となっている。これにより、スパークプラグ1を内燃機関のネジ穴に螺合する際などに、ネジ山37aがネジの進行方向に対して前傾しない形状となる。そのため、内燃機関へのスパークプラグ1の締結時あるいは取り外し時にネジ山37aが内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性を低減させることができる。
【0055】
また、開口部40に上記のようなテーパ部41が設けられていることで、主体金具30の開口部40に接地電極11を取り付ける際に、開口部40に挿入される電極母材とネジ山37aとの干渉を減らすことができる。そのため、スパークプラグ1の製造時における接地電極の挿入および固定の加工をより容易に行うことができる。
【0056】
なお、主体金具30に開口部40を形成する際には、従来公知の切削加工、ザグリ加工などを用いることができる。そして、形成された開口部40に、接地電極11となる棒状の電極母材を挿入し、固定する。主体金具30への接地電極11の固定は、例えば、圧入または溶接によって行われる。これにより、主体金具30の筒状部30aから軸線Oと交差する方向に延びる接地電極11が得られる。スパークプラグ1の製造方法において、開口部40の形成工程以外の製造工程については、従来のスパークプラグの製造方法と同様の製造方法が適用できる。
【0057】
本実施形態では、主体金具30の胴部36を、軸線Oと直交し、かつ、ネジ山37aの一つと交差するように切断した場合の開口部40の断面形状を例に挙げて説明している。なお、本実施形態にかかるスパークプラグ1においては、主体金具30の胴部36を、ネジ山37aに沿って軸線Oと交差するように切断した場合にも、開口部40の切断面には、同様のテーパ部41(傾斜部)が設けられていてもよい。
【0058】
(第1の実施形態のまとめ)
以上のように、スパークプラグ1は、筒状部30aを有する主体金具(金具部材)30と、筒状部30a内に配置されている中心電極21と、筒状部30aに設けられている開口部40に挿入され、自身の延設方向における先端部と中心電極21との間でギャップを形成する接地電極11とを備えている。筒状部30aの外周面は、ネジ形状37(ネジ山37aおよびネジ溝37b)を有している。この筒状部30aにおける軸線Oと直交する方向の断面であって、ネジ山37aの頂点と開口部40の縁とが交差する位置における断面において、開口部40は、筒状部30aの外周面から内周面側に向かって先細となるテーパ部(傾斜部)41を有している。
【0059】
そして、このテーパ部41の傾斜角度θ1は、ネジ山(すなわち、ネジ形状37)の頂点(すなわち、ネジ山37a)と開口部40との境界位置における筒状部30aの外周面の接線Tに対して90度以上となっている(図6参照)。これにより、スパークプラグ1を内燃機関のネジ穴に螺合する際などに、ネジ山37aがネジの進行方向に対して前傾しない形状となる。そのため、内燃機関へのスパークプラグ1の締結時あるいは取り外し時にネジ山37aが内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性を低減させることができる。
【0060】
なお、開口部40と傾斜部41とのなす角度(すなわち、テーパ部41の傾斜角度θ1)は、90度より大きい(すなわち、鈍角となっている)ことが好ましい。この構成によれば、開口部40との境界に位置するネジ山が、ネジの回転方向に対してより後傾した形状となるため、ネジ回転時の噛み込みをより一層低減することができる。また、開口部40と傾斜部41とのなす角度(すなわち、テーパ部41の傾斜角度θ1)は、より好ましくは110度以上とすることができ、さらに好ましくは120度以上とすることができる。
【0061】
〔第2の実施形態〕
続いて、第2の実施形態にかかるスパークプラグ1について説明する。上述した第1の実施形態では、横放電タイプのスパークプラグを例に挙げて説明した。本発明は、横放電タイプ以外のスパークプラグに適用することもできる。そこで、第2の実施形態では、縦放電タイプのスパークプラグを例に挙げて説明する。
【0062】
図9には、第2の実施形態にかかるスパークプラグ1の一部分の構成を示す。図2は、本実施形態にかかるスパークプラグ1における中心電極21および接地電極11の取り付け部を拡大して示す側面図である。スパークプラグ1の全体構成については、第1の実施形態と同様の構成が適用できる。
【0063】
図9に示すように、本実施形態にかかるスパークプラグ1では、軸線Oに沿って延びる中心電極21の先端面21aと、中心電極21に向かって軸線Oと略直交する方向に延びる接地電極11の先端部近傍の側面との間に、放電ギャップGが形成される。
【0064】
接地電極11は、略円筒形状の胴部36を貫通し、中心電極21へ向かって軸線Oと略直交する方向に延びる棒状の部材である。接地電極11は、胴部36に設けられている開口部40から筒状部30a内に挿入されている。
【0065】
第1の実施形態と同様に、開口部40の外周面側には、筒状部30aの外周面から内周面側に向かって先細となるように(すなわち、開口部40の開口径を狭めるように)傾斜したテーパ部41が設けられている。このようなテーパ部41は、接地電極11の電極母材が差し込まれる筒状部30aの外周面側に少なくとも形成されている(図5参照)。第1の実施形態と同様に、開口部40は、ネジ形状37の形成領域よりも内周面側に、切削方向にわたって一定の開口径を有する奥側切削面42を有していてもよい。
【0066】
筒状部30aの外周面側の開口部40がこのような形状を有していることにより、スパークプラグ1を内燃機関のネジ穴に螺合する際などに、ネジ山37aが内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性を低減させることができる。
【0067】
また、第1の実施形態と同様に、主体金具30の筒状部30aの外周面に設けられているネジ山37aの頂点と開口部40との境界位置における外周面の接線Tと、開口部40のテーパ部41とのなす角度θ1は、90度以上となっている。これにより、スパークプラグ1を内燃機関のネジ穴に螺合する際などに、ネジ山37aがネジの進行方向に対して前傾しない形状となる。そのため、内燃機関へのスパークプラグ1の締結時あるいは取り外し時にネジ山37aが内燃機関のネジ穴に噛み込む可能性を低減させることができる。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本明細書で説明した異なる実施形態の構成を互いに組み合わせて得られる構成についても、本発明の範疇に含まれる。
【0069】
例えば、今回開示された実施形態では、主体金具30の先端が開口している構成となっているが、別の実施態様では、主体金具30の先端側に中心電極21および接地電極11の先端側を覆うような副室を形成するキャップ部材を備える構成としてもよい。
【0070】
また、例えば、今回開示された実施形態では、テーパ部41は、横断面において直線状に傾斜が形成される構成となっているが、別の実施態様では、横断面において傾斜が曲線状に形成される構成(すなわち、傾斜部が湾曲している構成)となっていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 :スパークプラグ
11 :接地電極
21 :中心電極
30 :主体金具(金具部材)
30a :筒状部
37 :ネジ形状(ネジ山)
37a :ネジ山(ネジ山の頂点)
37b :ネジ溝
40 :開口部
41 :テーパ部(傾斜部)
50 :絶縁体
G :放電ギャップ(ギャップ)
O :軸線
T :(筒状部の外周面の)接線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10