(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】負極合剤、負極および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20230801BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230801BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230801BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230801BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230801BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230801BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230801BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20230801BHJP
H01G 11/36 20130101ALI20230801BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20230801BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01G11/30
H01G11/36
H01G11/38
(21)【出願番号】P 2023000937
(22)【出願日】2023-01-06
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2022005324
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519239702
【氏名又は名称】エムシーディ テクノロジーズ エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下岡 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】細田 千紘
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 佑磨
(72)【発明者】
【氏名】山崎 穣輝
(72)【発明者】
【氏名】寺田 純平
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 真歩
(72)【発明者】
【氏名】プレデチェンスキー ミハイル ルドルフォビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ボブレノック オレグ フィリポヴィッチ
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-010681(JP,A)
【文献】特表2018-534747(JP,A)
【文献】特開2017-084759(JP,A)
【文献】荒川 正文,粒度測定入門,粉体工学会誌,日本,1980年,Vol.17, No.6,pp. 299-307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブ、負極活物質および結着剤を含有する負極合剤であって、
前記負極活物質として、Liと合金化した場合またはLiと結合した場合に、Li基準で2.5V以下の電位を示す負極活物質を含有し、
前記結着剤が、ビニリデンフルオライド単位およびビニリデンフルオライド以外の他の単量体単位を含有する含フッ素共重合体を含有する
負極合剤。
【請求項2】
前記負極活物質が、Si、Sn、V、NbおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物である請求項1に記載の負極合剤。
【請求項3】
前記負極活物質が、SiおよびSiO
x(0<x<2)からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の負極合剤。
【請求項4】
前記負極活物質が、炭素質材料である請求項1に記載の負極合剤。
【請求項5】
前記負極活物質が、Si、Sn、V、NbおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物ならびに炭素質材料である請求項1に記載の負極合剤。
【請求項6】
前記単層カーボンナノチューブの平均G/D比が、2以上である請求項1~5のいずれかに記載の負極合剤。
【請求項7】
前記単層カーボンナノチューブの含有量が、前記負極合剤の固形分質量に対して、0.001~10質量%である請求項1~5のいずれかに記載の負極合剤。
【請求項8】
他の単量体が、フッ素化単量体(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)である請求項1~5のいずれかに記載の負極合剤。
【請求項9】
他の単量体が、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、(メタ)アクリル酸、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロピレン、および、フルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~5のいずれかに記載の負極合剤。
【請求項10】
前記結着剤が、ポリビニリデンフルオライドをさらに含有する請求項1~5のいずれかに記載の負極合剤。
【請求項11】
前記ポリビニリデンフルオライドと前記含フッ素共重合体との質量比(ポリビニリデンフルオライド/含フッ素共重合体)が、99/1~1/99である請求項
10に記載の負極合剤。
【請求項12】
さらに、溶媒を含有する請求項1~5のいずれかに記載の負極合剤。
【請求項13】
集電体と、前記集電体の片面または両面に設けられており、請求項1~5のいずれかに記載の負極合剤により形成された負極材料層と、を備える負極。
【請求項14】
請求項
13に記載の負極を備える二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極合剤、負極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、正極および負極と共に電解液を備え、前記負極は、第1負極活物質と、第2負極活物質と、負極結着剤とを含み、前記第1負極活物質は、ケイ素(Si)を構成元素として含む材料を含有する中心部と、その中心部の表面に設けられると共に塩化合物および導電性物質を含有する被覆部とを含み、前記塩化合物は、ポリアクリル酸塩およびカルボキシメチルセルロース塩のうちの少なくとも一方を含有し、前記導電性物質は、炭素材料および金属材料のうちの少なくとも一方を含有し、前記第2負極活物質は、炭素(C)を構成元素として含む材料を含有し、前記負極結着剤は、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミドおよびアラミドのうちの少なくとも1種を含有する、二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、柔軟性に優れており、金属箔と極めて強固に密着する負極材料層を形成することができ、サイクル特性に優れ、充放電を繰り返した後もガス増加率が低い電池を得ることができる負極合剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、単層カーボンナノチューブ、負極活物質および結着剤を含有する負極合剤であって、前記負極活物質として、Liと合金化した場合またはLiと結合した場合に、Li基準で2.5V以下の電位を示す負極活物質を含有し、前記結着剤が、ビニリデンフルオライド単位およびビニリデンフルオライド以外の他の単量体単位を含有する含フッ素共重合体を含有する負極合剤が提供される。
【0006】
前記負極活物質が、Si、Sn、V、NbおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物であることが好ましい。
前記負極活物質が、SiおよびSiOx(0<x<2)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
前記負極活物質が、炭素質材料であることが好ましい。
前記負極活物質が、Si、Sn、V、NbおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物ならびに炭素質材料であることが好ましい。
前記単層カーボンナノチューブの平均外径が、2.5nm以下であることが好ましい。
前記単層カーボンナノチューブの平均G/D比が、2以上であることが好ましい。
前記単層カーボンナノチューブの含有量が、前記負極合剤の固形分質量に対して、0.001~10質量%であることが好ましい。
他の単量体が、フッ素化単量体(ただし、ビニリデンフルオライド単位を除く)であることが好ましい。
他の単量体が、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、(メタ)アクリル酸、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロピレン、および、フルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
前記結着剤が、ポリビニリデンフルオライドをさらに含有することが好ましい。
前記ポリビニリデンフルオライドと前記含フッ素共重合体との質量比(ポリビニリデンフルオライド/含フッ素共重合体)が、99/1~1/99であることが好ましい。
本開示の負極合剤は、さらに、溶媒を含有することが好ましい。
【0007】
また、本開示によれば、集電体と、前記集電体の片面または両面に設けられており、上記の負極合剤により形成された負極材料層と、を備える負極が提供される。
【0008】
また、本開示によれば、上記の負極を備える二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、柔軟性に優れており、金属箔と極めて強固に密着する負極材料層を形成することができ、サイクル特性に優れ、充放電を繰り返した後もガス増加率が低い電池を得ることができる負極合剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本開示の負極合剤は、単層カーボンナノチューブ、負極活物質および結着剤を含有する。
【0012】
特許文献1では、ケイ素系材料を含む第1負極活物質と炭素系材料を含む第2負極活物質とを含む負極活物質層を形成することにより、充放電時における負極の膨張収縮を抑制することが提案されている。
【0013】
本発明者らは、負極の充放電時における負極の膨張収縮による電池性能の劣化を抑制する手段を、従来とは全く別の観点から検討した。そして、単層カーボンナノチューブ、および、結着剤としてビニリデンフルオライド単位およびビニリデンフルオライド以外の他の単量体単位を含有する含フッ素共重合体を用いることによって、金属箔と極めて強固に密着する負極材料層を形成することができるだけでなく、得られる負極材料層の柔軟性が向上し、充放電時に負極が膨張収縮する場合でも、サイクル特性に優れ、充放電を繰り返した後もガス増加率が低い電池が得られることを見出した。この理由は明確ではないが、単層カーボンナノチューブが、負極材料層中で、負極の体積変化によっても切断されにくい三次元ネットワーク構造を形成することに加えて、含フッ素共重合体を含有する結着剤によって、柔軟性に優れており、金属箔(集電体)に強固に密着した負極材料層中でこの三次元ネットワーク構造が長期間維持されるからであると推測される。
【0014】
(単層カーボンナノチューブ)
単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)は、一次元材料として知られる特別な種類の炭素材料である。単層カーボンナノチューブはグラフェンのシートからなり、1原子分の厚さの壁を有する中空の管を形成するように巻かれている。そのような化学構造および大きさを有することにより、単層カーボンナノチューブは優れた機械的、電気的、熱的、および光学的特性を示す。
【0015】
単層カーボンナノチューブの平均外径は、好ましくは2.5nm以下であり、より好ましくは2.0nm以下であり、さらに好ましくは1.8nm以下であり、好ましくは1.0nm以上であり、より好ましくは1.1nm以上であり、さらに好ましくは1.2nm以上である。単層カーボンナノチューブの平均外径は、紫外可視近赤外分光法(UV-Vis-NIR)により得られた単層カーボンナノチューブの光吸収スペクトル、ラマンスペクトル、または透過型電子顕微鏡(TEM)画像から求めることができる。
【0016】
単層カーボンナノチューブのラマン分光分析(波長532nm)によって測定される平均G/D比は、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、特に好ましくは30以上であり、最も好ましくは40以上であり、好ましくは250以下であり、より好ましくは220以下であり、さらに好ましくは180以下である。G/D比とは、単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルのGバンドとDバンドとの強度比(G/D)である。単層カーボンナノチューブの平均G/D比が高いほど、単層カーボンナノチューブの結晶性が高く、不純物カーボンや欠陥のあるカーボンナノチューブが少ないことを意味する。
【0017】
単層カーボンナノチューブの平均長さは、好ましくは0.1~50μmであり、より好ましくは0.5~20μmであり、さらに好ましくは1~10μmである。単層カーボンナノチューブの平均長さは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、単層カーボンナノチューブのAFM像を得て、又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、単層カーボンナノチューブのTEM画像を得て、各単層カーボンナノチューブの長さを測定し、長さの合計値を、測定した単層カーボンナノチューブの個数で除することにより、求めることができる。
【0018】
負極合剤における単層カーボンナノチューブの含有量は、負極合剤の固形分質量に対して、好ましくは0.001~10質量%であり、より好ましくは0.01~2質量%であり、さらに好ましくは0.01~1質量%である。単層カーボンナノチューブの含有量が上記範囲内にある場合、得られる負極材料層中で、単層カーボンナノチューブの三次元ネットワーク構造を十分に形成することができる。
【0019】
(負極活物質)
本開示の負極合剤は、負極活物質として、Liと合金化した場合またはLiと結合した場合に、Li基準で2.5V以下の電位を示す負極活物質(ただし、単層カーボンナノチューブを除く)を含有する。
【0020】
負極活物質として、金属を含有する負極活物質を用いることができる。負極活物質に含まれる金属は、通常、Li、Naなどのアルカリ金属と電気化学的に合金化可能な金属である。
【0021】
負極活物質としては、Si、Zn、Sn、W、Al、Sb、Ge、Bi、InなどのLiと電気化学的に合金化可能な金属単体;Si、Zn、Sn、W、Al、Sb、Ge、Bi、Inなどを含む合金;リチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金などのリチウム合金;酸化錫や酸化ケイ素などの金属酸化物;チタン酸リチウム;などが挙げられる。負極活物質として、これらのなかから、1種または2種以上を用いることができる。
【0022】
負極活物質としては、Si、Sn、V、NbおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する化合物が好ましく、Si(Si単体)、Siの酸化物、Siを含有する合金、Sn(Sn担体)、Snの酸化物およびSnを含有する合金がより好ましく、SiおよびSiOx(0<x<2)からなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましい。
【0023】
また、負極活物質として、黒鉛粉末などの炭素質材料を用いてもよい。炭素質材料は、金属を含有する負極活物質とともに用いることができる。炭素質材料としては、天然黒鉛、人造炭素質物質、人造黒鉛質物質、炭素質物質{たとえば天然黒鉛、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチ、石油系ピッチ、或いはこれらピッチを酸化処理したもの、ニードルコークス、ピッチコークスおよびこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ピッチ系炭素繊維等の有機物の熱分解物、炭化可能な有機物(たとえば、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ、或いは乾留液化油等の石炭系重質油、常圧残油、減圧残油の直留系重質油、原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等分解系石油重質油、さらにアセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素、フェナジンやアクリジン等のN環化合物、チオフェン、ビチオフェン等のS環化合物、ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、これらのものの不溶化処理品、含窒素性のポリアクリロニトリル、ポリピロール等の有機高分子、含硫黄性のポリチオフェン、ポリスチレン等の有機高分子、セルロース、リグニン、マンナン、ポリガラクトウロン酸、キトサン、サッカロースに代表される多糖類等の天然高分子、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フルフリルアルコール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂)およびこれらの炭化物、または炭化可能な有機物をベンゼン、トルエン、キシレン、キノリン、n-ヘキサン等の低分子有機溶媒に溶解させた溶液およびこれらの炭化物}を400から3200℃の範囲で一回以上熱処理された炭素質材料などが挙げられる。
【0024】
負極合剤が金属を含有する負極活物質および炭素質材料を含有する場合、金属を含有する負極活物質と炭素質材料との質量比は、好ましくは1/99~99/1であり、より好ましくは5/95~95/5であり、さらに好ましくは10/90~90/10である。
【0025】
負極合剤における負極活物質の含有量は、負極合剤の質量に対して、好ましくは80.0~99.9質量%であり、より好ましくは90.0~99.0質量%である。
【0026】
(結着剤)
本開示の負極合剤が含有する結着剤は、ビニリデンフルオライド(VdF)単位およびVdF以外の他の単量体単位を含有する含フッ素共重合体を含有する。他の単量体は、フッ素化単量体であってもよいし、非フッ素化単量体であってもよい。
【0027】
フッ素化単量体(ただし、VdFを除く)としては、たとえば、テトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよびトランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが挙げられる。
【0028】
フルオロアルキルビニルエーテルとしては、炭素数1~5のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキルビニルエーテルが好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0029】
フッ素化単量体としては、TFE、CTFE、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFPおよびフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFEおよびHFPからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、TFEが特に好ましい。
【0030】
フッ素化単量体(ただし、VdFを除く)は、極性基を有していても有していなくてもよい。
【0031】
非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレン等の極性基を有しない非フッ素化単量体、極性基を有する非フッ素化単量体(以下、極性基含有単量体ということがある)等が挙げられる。
【0032】
非フッ素化単量体として、極性基を有するものを用いると、含フッ素共重合体に極性基が導入され、これによって、塗布層と金属箔とのより一層優れた密着性が得られる。極性基としては、カルボニル基含有基、エポキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基およびアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、カルボニル基含有基、エポキシ基およびヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。上記ヒドロキシ基には、上記カルボニル基含有基の一部を構成するヒドロキシ基は含まれない。また、上記アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。
【0033】
上記カルボニル基含有基とは、カルボニル基(-C(=O)-)を有する官能基である。上記カルボニル基含有基としては、一般式:-COOR(Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す)で表される基またはカルボン酸無水物基が好ましく、一般式:-COORで表される基がより好ましい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。一般式:-COORで表される基として、具体的には、-COOCH2CH2OH、-COOCH2CH(CH3)OH、-COOCH(CH3)CH2OH、-COOH、-COOCH3、-COOC2H5等が挙げられる。一般式:-COORで表される基が、-COOHであるか、-COOHを含む場合、-COOHは、カルボン酸金属塩、カルボン酸アンモニウム塩等のカルボン酸塩であってもよい。
【0034】
また、上記カルボニル基含有基としては、一般式:-X-COOR(Xは主鎖が原子数1~20で構成される分子量500以下の原子団であり、Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す)で表される基であってもよい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。
【0035】
上記アミド基としては、一般式:-CO-NRR’(RおよびR’は、独立に、水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基を表す。)で表される基、または、一般式:-CO-NR”-(R”は、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基を表す。)で表される結合が好ましい。
【0036】
上記極性基含有単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;メチリデンマロン酸ジメチル等のアルキリデンマロン酸エステル;ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル等のビニルカルボキシアルキルエーテル;2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシプロピルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステル;一般式(4):
【化1】
(式中、R
11~R
13は、独立に、水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を表す。R
14は、単結合または炭素数1~8の炭化水素基を表す。Y
1は、無機カチオンおよび/または有機カチオンを表す。)で表される単量体(4);マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸;等が挙げられる。
【0037】
含フッ素共重合体が含有し得る上記極性基含有単量体単位としては、一般式(4)で表される単量体(4)に基づく単位が好ましい。
【0038】
一般式(4)において、Y1は、無機カチオンおよび/または有機カチオンを表す。無機カチオンとしては、H、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、Fe等のカチオンが挙げられる。有機カチオンとしては、NH4、NH3R15、NH2R15
2、NHR15
3、NR15
4(R15は、独立に、炭素数1~4のアルキル基を表す。)等のカチオンが挙げられる。Y1としては、H、Li、Na、K、Mg、Ca、Al、NH4が好ましく、H、Li、Na、K、Mg、Al、NH4がより好ましく、H、Li、Al、NH4がさらに好ましく、Hが特に好ましい。なお、無機カチオンおよび有機カチオンの具体例は、便宜上、符号および価数を省略して記載している。
【0039】
一般式(4)において、R11~R13は、独立に、水素原子または炭素数1~8の炭化水素基を表す。上記炭化水素基は、1価の炭化水素基である。上記炭化水素基の炭素数は4以下が好ましい。上記炭化水素基としては、上記炭素数のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、メチル基またはエチル基が好ましい。R11およびR12は、独立に、水素原子、メチル基またはエチル基であることが好ましく、R13は、水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0040】
一般式(4)において、R14は、単結合または炭素数1~8の炭化水素基を表す。上記炭化水素基は、2価の炭化水素基である。上記炭化水素基の炭素数は4以下が好ましい。上記炭化水素基としては、上記炭素数のアルキレン基、アルケニレン基等が挙げられ、なかでも、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、プロピリデン基およびイソプロピリデン基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0041】
単量体(4)としては、(メタ)アクリル酸およびその塩、ビニル酢酸(3-ブテン酸)およびその塩、3-ペンテン酸およびその塩、4-ペンテン酸およびその塩、3-ヘキセン酸およびその塩、4-ヘプテン酸およびその塩、ならびに、5-ヘキセン酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0042】
他の単量体としては、TFE、CTFE、(メタ)アクリル酸、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、HFP、および、フルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。(メタ)アクリル酸には、アクリル酸およびメタクリル酸が含まれる。
【0043】
含フッ素共重合体の他の単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.0001~50.0モル%であり、より好ましくは0.01モル%以上であり、さらに好ましくは0.10モル%以上であり、より好ましくは45.0モル%以下であり、さらに好ましくは40.0モル%以下であり、特に好ましくは35.0モル%以下である。
【0044】
含フッ素共重合体のVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、50.0~99.9999モル%であり、より好ましくは55.0モル%以上であり、さらに好ましくは60.0モル%以上であり、特に好ましくは65.0モル%以上であり、より好ましくは99.99モル%以下であり、さらに好ましくは99.90モル%以下である。
【0045】
含フッ素共重合体が他の単量体単位としてフッ素化単量体単位を含有する場合、フッ素化単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.0001~50.0モル%であり、より好ましくは2.0モル%以上であり、さらに好ましくは3.0モル%以上であり、特に好ましくは4.0モル%以上であり、より好ましくは45.0モル%以下であり、さらに好ましくは40.0モル%以下であり、特に好ましくは35.0モル%以下である。
【0046】
含フッ素共重合体が他の単量体単位としてフッ素化単量体単位を含有する場合、含フッ素共重合体のVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、50.0~99.999モル%であり、より好ましくは55.0モル%以上であり、さらに好ましくは60.0モル%以上であり、特に好ましくは65.0モル%以上であり、より好ましくは98.0モル%以下であり、さらに好ましくは97.0モル%以下であり、特に好ましくは96.0モル%以下である。
【0047】
含フッ素共重合体が他の単量体単位として、極性基含有単量体などの非フッ素化単量体単位を含有する場合、非フッ素化単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.0001~50.0モル%であり、より好ましくは0.01モル%以上であり、さらに好ましくは0.10モル%以上であり、より好ましくは5.0モル%以下であり、さらに好ましくは3.0モル%以下であり、特に好ましくは1.5モル%以下である。
【0048】
含フッ素共重合体が他の単量体単位として非フッ素化単量体単位を含有する場合、含フッ素共重合体のVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50.0~99.999モル%であり、より好ましくは95.0モル%以上であり、さらに好ましくは97.0モル%以上であり、特に好ましくは98.5モル%以上であり、より好ましくは99.99モル%以下であり、さらに好ましくは99.90モル%以下である。
【0049】
本開示において、含フッ素共重合体の組成は、たとえば、19F-NMR測定により測定できる。また、含フッ素共重合体が他の単量体単位として極性基含有単量体単位を含有する場合、極性基含有単量体単位の含有量は、たとえば、極性基がカルボン酸等の酸基である場合、酸基の酸-塩基滴定によって測定できる。
【0050】
含フッ素共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは10000~3000000であり、より好ましくは30000以上であり、さらに好ましくは50000以上であり、特に好ましくは200000以上であり、より好ましくは2400000以下であり、さらに好ましくは2200000以下であり、特に好ましくは2000000以下である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0051】
含フッ素共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは7000~1500000であり、より好ましくは21000以上であり、さらに好ましくは35000以上であり、より好ましくは1400000以下であり、さらに好ましくは1200000以下であり、特に好ましくは1100000以下である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0052】
含フッ素共重合体としては、たとえば、VdF/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体、VdF/TFE/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体、VdF/TFE/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/TFE/4-ペンテン酸共重合体、VdF/TFE/3-ブテン酸共重合体、VdF/TFE/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/TFE/HFP/4-ペンテン酸共重合体、VdF/TFE/HFP/3-ブテン酸共重合体、VdF/TFE/2-カルボキシエチルアクリレート共重合体、VdF/TFE/HFP/2-カルボキシエチルアクリレート共重合体、VdF/TFE/アクリロイルオキシエチルコハク酸共重合体、VdF/TFE/HFP/アクリロイルオキシエチルコハク酸共重合体等が挙げられる。
【0053】
含フッ素共重合体としては、なかでも、VdF/TFE共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体、VdF/HFP共重合体およびVdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0054】
VdF/TFE共重合体は、VdF単位およびTFE単位を含有する。共重合体としてVdF/TFE共重合体を用いることにより、負極合剤を非常に容易に形成できるとともに、スラリー安定性に非常に優れる負極合剤が得られ、柔軟性に非常に優れる塗布層を形成することができる。VdF単位の含有量としては、VdF/TFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは50.0~95.0モル%であり、より好ましくは55.0モル%以上であり、さらに好ましくは60.0モル%以上であり、より好ましくは92.0モル%以下であり、さらに好ましくは89.0モル%以下である。TFE単位の含有量としては、VdF/TFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは50.0~5.0モル%であり、より好ましくは45.0モル%以下であり、さらに好ましくは40.0モル%以下であり、より好ましくは8.0モル%以上であり、さらに好ましくは11.0モル%以上である。
【0055】
VdF/TFE共重合体は、VdF単位およびTFE単位の他に、VdFおよびTFEと共重合可能な単量体(ただし、VdFおよびTFEを除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびTFEと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/TFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0056】
VdFおよびTFEと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびTFEと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、HFP、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(4)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0057】
VdF/TFE共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0058】
VdF/TFE共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0059】
VdF/CTFE共重合体は、VdF単位およびCTFE単位を含有する。共重合体としてVdF/CTFE共重合体を用いることにより、負極合剤を非常に容易に形成できるとともに、金属箔と極めて強固に密着する塗布層を形成することができる。VdF単位の含有量としては、VdF/CTFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは80.0~98.0モル%であり、より好ましくは85.0モル%以上であり、さらに好ましくは90.0モル%以上であり、より好ましくは97.5モル%以下であり、さらに好ましくは97.0モル%以下である。CTFE単位の含有量としては、VdF/CTFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは20.0~2.0モル%であり、より好ましくは15.0モル%以下であり、さらに好ましくは10.0モル%以下であり、より好ましくは2.5モル%以上であり、さらに好ましくは3.0モル%以上である。
【0060】
VdF/CTFE共重合体は、VdF単位およびCTFE単位の他に、VdFおよびCTFEと共重合し得る単量体(ただし、VdFおよびCTFEを除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびCTFEと共重合し得る単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/CTFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0061】
VdFおよびCTFEと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびCTFEと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFP、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(4)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、TFEがさらに好ましい。
【0062】
VdF/CTFE共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0063】
VdF/CTFE共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0064】
VdF/(メタ)アクリル酸共重合体は、VdF単位および(メタ)アクリル酸単位を含有する。共重合体としてVdF/(メタ)アクリル酸共重合体を用いることにより、負極合剤を非常に容易に形成できるとともに、金属箔と極めて強固に密着する塗布層を形成することができる。(メタ)アクリル酸単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.0001~5.0モル%であり、より好ましくは0.01~3.0モル%であり、さらに好ましくは0.10~1.5モル%である。
【0065】
VdF/(メタ)アクリル酸共重合体のVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは95.0~99.9999モル%であり、より好ましくは97.0~99.99モル%であり、さらに好ましくは98.5~99.90モル%である。
【0066】
VdF/(メタ)アクリル酸共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは50000~3000000であり、より好ましくは80000以上であり、さらに好ましくは100000以上であり、特に好ましくは200000以上であり、より好ましくは2400000以下であり、さらに好ましくは2200000以下であり、特に好ましくは2000000以下である。
【0067】
VdF/(メタ)アクリル酸共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは20000~1500000であり、より好ましくは40000以上であり、さらに好ましくは70000以上であり、特に好ましくは140000以上であり、より好ましくは1400000以下であり、さらに好ましくは1200000以下であり、特に好ましくは1100000以下である。
【0068】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体は、VdF単位および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位を含有する。共重合体としてVdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体を用いることにより、負極合剤を非常に容易に形成できるとともに、柔軟性および導電性に非常に優れる塗布層を形成することができる。VdF単位の含有量としては、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは50.0~98.0モル%であり、より好ましくは55.0モル%以上であり、さらに好ましくは60.0モル%以上であり、特に好ましくは65.0モル%以上であり、より好ましくは97.0モル%以下であり、さらに好ましくは96.0モル%以下である。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の含有量としては、VdF/TFE共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは2.0~50.0モル%であり、より好ましくは3.0モル%以上であり、さらに好ましくは4.0モル%以上であり、より好ましくは45.0モル%以下であり、さらに好ましくは40.0モル%以下であり、特に好ましくは35.0モル%以下である。
【0069】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体は、VdF単位および2,3,3,3-テトラフルオロプロペン単位の他に、VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合し得る単量体(ただし、VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合し得る単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0070】
VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合し得る単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFPおよび単量体(4)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0071】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは10000~2000000であり、より好ましくは30000~1700000であり、さらに好ましくは5000~1500000である。
【0072】
VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは7000~1400000であり、より好ましくは21000~1300000であり、さらに好ましくは35000~1200000である。
【0073】
VdF/HFP共重合体は、VdF単位およびHFP単位を含有する。共重合体としてVdF/HFP共重合体を用いることにより、負極合剤を非常に容易に形成できるとともに、金属箔と極めて強固に密着する塗布層を形成することができる。VdF単位の含有量としては、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは80.0~98.0モル%であり、より好ましくは83.0モル%以上であり、さらに好ましくは85.0モル%以上であり、より好ましくは97.0モル%以下であり、さらに好ましくは96.0モル%以下である。HFP単位の含有量としては、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは20.0~2.0モル%であり、より好ましくは17.0モル%以下であり、さらに好ましくは15.0モル%以下であり、より好ましくは3.0モル%以上であり、さらに好ましくは4.0モル%以上である。
【0074】
VdF/HFP共重合体は、VdF単位およびHFP単位の他に、VdFおよびHFPと共重合可能な単量体(ただし、VdFおよびHFPを除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびHFPと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/HFP共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0075】
VdFおよびHFPと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびHFPと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(4)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、単量体(4)がさらに好ましい。
【0076】
VdF/HFP共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0077】
VdF/HFP共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0078】
VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体は、VdF単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位を含有する。VdF単位の含有量としては、VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは80.0~98.0モル%であり、より好ましくは83.0モル%以上であり、さらに好ましくは85.0モル%以上であり、より好ましくは97.0モル%以下であり、さらに好ましくは96.0モル%以下である。フルオロアルキルビニルエーテル単位の含有量としては、VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは20.0~2.0モル%であり、より好ましくは17.0モル%以下であり、さらに好ましくは15.0モル%以下であり、より好ましくは3.0モル%以上であり、さらに好ましくは4.0モル%以上である。
【0079】
VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体は、VdF単位およびフルオロアルキルビニルエーテル単位の他に、VdFおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体(ただし、VdFおよびフルオロアルキルビニルエーテルを除く)に基づく単位を含むものであってもよい。VdFおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体に基づく単位の含有量は、耐電解液膨潤性の観点から、VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは3.0モル%以下である。
【0080】
VdFおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体としては、上述したフッ素化単量体、上述した非フッ素化単量体などが挙げられる。VdFおよびフルオロアルキルビニルエーテルと共重合可能な単量体としては、なかでも、フッ素化単量体および極性基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび単量体(4)からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、単量体(4)がさらに好ましい。
【0081】
VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは50000~2000000であり、より好ましくは80000~1700000であり、さらに好ましくは100000~1500000である。
【0082】
VdF/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体の数平均分子量(ポリスチレン換算)としては、好ましくは35000~1400000であり、より好ましくは40000~1300000であり、さらに好ましくは50000~1200000である。
【0083】
結着剤は、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)をさらに含有することも好ましい。PVdFは、VdF単位を含有する重合体であって、上記の含フッ素共重合体とは異なる重合体である。PVdFは、VdF単位のみからなるVdFホモポリマーであってよいし、VdF単位およびVdFと共重合可能な単量体に基づく単位を含有する重合体であってもよい。
【0084】
上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能な単量体としては、テトラフルオロエチレン(TFE)とは異なる単量体であることが好ましい。すなわち、PVdFは、TFE単位を含有しないことが好ましい。
【0085】
上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能な単量体としては、フッ素化単量体、非フッ素化単量体等が挙げられ、フッ素化単量体が好ましい。上記フッ素化単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン等が挙げられる。上記非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0086】
上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能な単量体としては、CTFE、フルオロアルキルビニルエーテル、HFPおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化単量体が好ましく、CTFE、HFPおよびフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化単量体がより好ましい。
【0087】
上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能な単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0~5.0モル%であり、より好ましくは0~3.0モル%である。上記PVdFにおいて、VdFと共重合可能なフッ素化単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは5.0モル%未満であり、より好ましくは3.0モル%未満であり、さらに好ましくは1.0モル%未満である。
【0088】
本開示において、PVdFの組成は、たとえば、19F-NMR測定により測定できる。
【0089】
上記PVdFは、極性基を有していてもよい。上記極性基としては、極性を有する官能基であれば特に限定されないが、カルボニル基含有基、エポキシ基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、アミノ基、アミド基およびアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、カルボニル基含有基、エポキシ基およびヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。上記ヒドロキシ基には、上記カルボニル基含有基の一部を構成するヒドロキシ基は含まれない。また、上記アミノ基とは、アンモニア、第一級または第二級アミンから水素を除去した1価の官能基である。
【0090】
上記カルボニル基含有基とは、カルボニル基(-C(=O)-)を有する官能基である。上記カルボニル基含有基としては、一般式:-COOR(Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す)で表される基またはカルボン酸無水物基が好ましく、一般式:-COORで表される基がより好ましい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。一般式:-COORで表される基として、具体的には、-COOCH2CH2OH、-COOCH2CH(CH3)OH、-COOCH(CH3)CH2OH、-COOH、-COOCH3、-COOC2H5等が挙げられる。一般式:-COORで表される基が、-COOHであるか、-COOHを含む場合、-COOHは、カルボン酸金属塩、カルボン酸アンモニウム塩等のカルボン酸塩であってもよい。
【0091】
また、上記カルボニル基含有基としては、一般式:-X-COOR(Xは主鎖が原子数2~15で構成され、Xで示される原子団の分子量は350以下が好ましい。Rは、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す)で表される基であってもよい。アルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数としては、好ましくは1~16であり、より好ましくは1~6であり、さらに好ましくは1~3である。
【0092】
上記アミド基としては、一般式:-CO-NRR’(RおよびR’は、独立に、水素原子または置換もしくは非置換のアルキル基を表す。)で表される基、または、一般式:-CO-NR”-(R”は、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基または置換もしくは非置換のフェニル基を表す。)で表される結合が好ましい。
【0093】
上記極性基は、VdFと上記極性基を有する単量体(以下、極性基含有単量体という)とを重合させることにより、PVdFに導入することもできるし、PVdFと上記極性基を有する化合物とを反応させることにより、PVdFに導入することもできるが、生産性の観点からは、VdFと上記極性基含有単量体とを重合させることが好ましい。
【0094】
VdFと上記極性基含有単量体とを重合させると、VdF単位および極性基含有単量体単位を含有するPVdFが得られる。すなわち、PVdFは、上記極性基含有単量体単位を含有することが好ましい。上記極性基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.001~5.0モル%であり、より好ましくは0.01~3.0モル%であり、さらに好ましくは0.10~1.5モル%である。
【0095】
本開示において、PVdFにおける極性基含有単量体単位の含有量は、たとえば、極性基がカルボン酸等の酸基である場合、酸基の酸-塩基滴定によって測定できる。
【0096】
上記極性基含有単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸(3-ブテン酸)、3-ペンテン酸、4-ペンテン酸、3-ヘキセン酸、4-ヘプテン酸等の不飽和一塩基酸;マレイン酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の不飽和二塩基酸;メチリデンマロン酸ジメチル等のアルキリデンマロン酸エステル;ビニルカルボキシメチルエーテル、ビニルカルボキシエチルエーテル等のビニルカルボキシアルキルエーテル;2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート等のカルボキシアルキル(メタ)アクリレート;アクリロイルオキシエチルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルコハク酸、アクリロイルオキシエチルフタル酸、アクリロイルオキシプロピルコハク酸、メタクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジカルボン酸エステル;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステル;等が挙げられる。
【0097】
PVdFと上記極性基を有する化合物とを反応させて、上記極性基をPVdFに導入する場合には、上記極性基を有する化合物として、上記極性基含有単量体、または、PVdFと反応性の基と加水分解性基とを有するシラン系カップリング剤もしくはチタネート系カップリング剤を用いることができる。上記加水分解性基としては、好ましくはアルコキシ基である。カップリング剤を用いる場合には、溶媒に溶解または膨潤させたPVdFと反応させることによって、PVdFに極性基を付加させることができる。
【0098】
PVdFとしては、また、PVdFを塩基で部分的に脱フッ化水素処理した後、部分的に脱フッ化水素処理されたPVdFを酸化剤とさらに反応させて得られたものを用いることもできる。上記酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸塩、ハロゲン化パラジウム、ハロゲン化クロム、過マンガン酸アルカリ金属、過酸化合物、過酸化アルキル、過硫酸アルキル等が挙げられる。
【0099】
PVdFのVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは95.0モル%超であり、より好ましくは97.0モル%超であり、さらに好ましくは99.0モル%超である。
また、PVdFのVdF単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは95.0~99.999モル%であり、より好ましくは97.0モル%以上であり、さらに好ましくは98.5モル%以上であり、より好ましくは99.99モル%以下であり、さらに好ましくは99.90モル%以下である。
【0100】
PVdFの重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは50000~3000000であり、より好ましくは80000以上であり、さらに好ましくは100000以上であり、特に好ましくは200000以上であり、より好ましくは2400000以下であり、さらに好ましくは2200000以下であり、特に好ましくは2000000以下である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。また、PVdFの重量平均分子量は、1000000以上であってもよく、1500000以上であってもよい。
【0101】
PVdFの数平均分子量(ポリスチレン換算)は、好ましくは20000~1500000であり、より好ましくは40000以上であり、さらに好ましくは70000以上であり、特に好ましくは140000以上であり、より好ましくは1400000以下であり、さらに好ましくは1200000以下であり、特に好ましくは1100000以下である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により溶媒としてジメチルホルムアミドを用いて測定することができる。
【0102】
PVdFの融点は、好ましくは100~240℃である。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度として求めることができる。
【0103】
結着剤がPVdFおよび含フッ素共重合体を含有する場合、結着剤におけるPVdFと含フッ素共重合体との質量比(PVdF/含フッ素共重合体)は、好ましくは99/1~1/99であり、より好ましくは97/3~3/97であり、さらに好ましくは95/5~5/95であり、ことさらに好ましくは90/10~10/90であり、特に好ましくは85/15~15/85であり、最も好ましくは80/20~40/60である。
【0104】
結着剤は、PVdFおよび含フッ素共重合体の他に、その他の重合体を含んでいてもよい。その他の重合体としては、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、スチレンゴム、ブタジエンゴム等が挙げられる。
【0105】
結着剤における含フッ素共重合体の含有量としては、結着剤の質量に対し、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは5質量%以上であり、特に好ましくは10質量%以上であり、最も好ましくは15質量%以上であり、100質量%以下であってよい。
【0106】
負極合剤における結着剤の含有量としては、負極合剤の質量に対して、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.2~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。
【0107】
(溶媒)
本開示の負極合剤は、溶媒を含有することが好ましい。溶媒としては、水または有機溶剤が挙げられ、負極合剤を用いて負極材料層を形成した場合に、負極材料層に水分が残留する可能性を大きく低下させられることから、有機溶剤が好ましい。
【0108】
有機溶剤としては、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;β-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、β-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、β-n-ヘキシルオキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のβ-アルコキシプロピオンアミド類;さらに、それらの混合溶剤等の低沸点の汎用有機溶剤を挙げることができる。
【0109】
有機溶剤としては、また、一般式(1)で表される溶剤を用いることもできる。
【0110】
一般式(1):
【化2】
(式中、R
1、R
2およびR
3は、独立に、Hまたは1価の置換基であり、ただし、R
1、R
2およびR
3の合計炭素数は6以上であり、R
1、R
2およびR
3の少なくとも1つはカルボニル基を有する有機基である。R
1、R
2およびR
3は、いずれか2つが結合して環を形成してもよい。)
【0111】
一般式(1)で表される溶剤としては、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N-ブチル-2-ピロリドン(NBP)、アクリロイルモルフォリン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N,N’ ,N’-テトラエチルウレア、N,N-ジメチルアセトアセタミド、N-オクチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジエチルアセタミドからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0112】
溶媒としては、なかでも、塗布性に優れている点から、水、または、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、および、一般式(1)で表される溶媒からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、N-ブチル-2-ピロリドン(NBP)、アクリロイルモルフォリン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N,N’ ,N’-テトラエチルウレア、N,N-ジメチルアセトアセタミド、N-オクチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジエチルアセタミドからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、
N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-エチル-2-ピロリドンおよびN-ブチル-2-ピロリドンらなる群より選択される少なくとも1種がさらに好ましく、
N-メチル-2-ピロリドンおよびN,N-ジメチルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0113】
負極合剤中の溶媒の量は、集電体への塗布性、乾燥後の薄膜形成性等を考慮して決定される。通常、結着剤と溶媒との割合は、質量比で0.5:99.5~20:80である。
【0114】
(その他の成分)
本開示の負極合剤は、さらに、導電助剤(ただし、負極合剤として用いられる炭素質材料を除く)、レベリング剤、補強材などの他の成分を含有してもよい。
【0115】
負極合剤は、たとえば、単層カーボンナノチューブ、結着剤および溶媒を混合した後、得られた混合物に、負極活物質などを添加してさらに混合することにより調製することができる。そして、得られた負極合剤を、金属箔、金属網等の集電体に均一に塗布、乾燥、必要に応じてプレスして集電体上へ薄い負極材料層を形成し薄膜状電極とする。そのほか、単層カーボンナノチューブ、負極活物質および結着剤を先に混合した後、溶媒を添加し負極合剤を調製してもよい。
【0116】
(用途)
本開示の負極合剤は、二次電池を形成する材料として好適に用いることができる。充電時に体積が大きく膨張し、放電時には大きく収縮する負極活物質を使用する場合であっても、本開示の負極合剤を用いることにより、柔軟性に優れており、金属箔と極めて強固に密着する負極材料層を形成することができ、サイクル特性に優れ、充放電を繰り返した後もガス増加率が低い電池を得ることができる。したがって、本開示の負極合剤は、二次電池の負極に用いる負極合剤として好適である。本開示の負極合剤を適用する対象となる二次電池は、正極合剤が正極集電体に保持されてなる正極、負極合剤が負極集電体に保持されてなる負極および電解液を備えている。
【0117】
本開示の負極合剤は、二次電池用負極合剤であってよく、リチウムイオン二次電池用負極合剤であってよい。
【0118】
(負極)
本開示の負極は、集電体と負極材料層とを備えている。負極材料層は、本開示の負極合剤を用いて形成され、集電体の片面に設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。
【0119】
本開示の負極が備える集電体としては、たとえば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等が挙げられ、なかでも、銅箔が好ましい。
【0120】
本開示の負極は、本開示の負極合剤を集電体に塗布する製造方法により、好適に製造することができる。負極合剤を塗布した後、さらに、塗膜を乾燥させ、任意で熱処理をし、得られた乾燥塗膜をプレスしてもよい。
【0121】
(二次電池)
また、本開示によれば、上記の負極を備える二次電池が提供される。本開示の二次電池は、正極、負極、非水電解液を備え、負極が、上記の負極であるものが好ましい。
【0122】
本開示の二次電池は、本開示の負極合剤を用いて形成される負極を備えるため、サイクル維持保持率が高く、ガス増加率が低い。
【0123】
非水電解液は、特に限定されないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の公知の溶媒の1種もしくは2種以上が使用できる。電解質も従来公知のものがいずれも使用でき、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li、炭酸セシウム等を用いることができる。
【0124】
本開示の負極は、捲回型二次電池用負極として、好適に利用できる。また、本開示の二次電池は、捲回型二次電池であってよい。
【0125】
本開示の負極は、非水電解液二次電池用として、以上に説明した液状電解質を用いたリチウムイオン二次電池だけでなく、ポリマー電解質リチウム二次電池にも有用である。また、電気二重層キャパシタ用としても有用である。
【0126】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例】
【0127】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0128】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0129】
(含フッ素共重合体におけるVdF単位とTFE単位との比率)
含フッ素共重合体におけるVdF単位とTFE単位との比率は、NMR分析装置(アジレント・テクノロジー社製、VNS400MHz)を用いて、19F-NMR測定でポリマーのDMF-d7溶液状態にて測定した。
【0130】
19F-NMR測定にて、下記のピークの面積(A、B、C、D)を求め、VdF単位とTFE単位との比率を計算した。
A:-86ppm~-98ppmのピークの面積
B:-105ppm~-118ppmのピークの面積
C:-119ppm~-122ppmのピークの面積
D:-122ppm~-126ppmのピークの面積
VdF単位の割合:(4A+2B)/(4A+3B+2C+2D)×100[モル%]
TFE単位の割合:(B+2C+2D)/(4A+3B+2C+2D)×100[モル%]
【0131】
(重量平均分子量)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。東ソー社製のHLC-8320GPCおよびカラム(SuperAWM-Hを3本直列に接続)を用い、溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF)を流速0.3ml/分で流して測定したデータ(リファレンス:ポリスチレン)より、重量平均分子量を算出した。
【0132】
(融点)
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、30℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温し、その後10℃/分で30℃まで降下させ、再度10℃/分の速度で220℃まで昇温したときの融解熱曲線における極大値に対する温度を、融点として求めた。
【0133】
実施例および比較例では、結着剤として、次の物性を有する重合体を用いた。
結着剤(D):PVdF(VdFホモポリマー)
重量平均分子量 1800000
融点 171℃
結着剤(E):VdF単位およびTFE単位を含有する含フッ素共重合体
VdF/TFE=81/19(モル%)
重量平均分子量 1230000
融点 128℃
CMC:カルボキシメチルセルロース
SBR:スチレンブタジエンゴム
【0134】
また、実施例および比較例では、次の負極活物質を用いた。
SiO:黒鉛被覆膜酸化ケイ素の粉末(酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された粉末)
Si:ケイ素の粉末
Sn:スズの粉末
LTO:チタン酸リチウム
【0135】
また、実施例および比較例では、次の導電助剤を用いた。
AB:アセチレンブラック
Super P:ファーネスブラック(商品名:Super-P(イメリス社製))
KB:ケッチェンブラック
【0136】
また、実施例および比較例では、次の単層カーボンナノチューブを用いた。
単層カーボンナノチューブ(商品名「TUBALL BATT SWCNT」、OCSiAl社製)
平均外径:1.6±0.4nm
長さ:5μm以上
平均G/D比:86.5±7.1
【0137】
(負極合剤の調製)
実施例1
負極活物質93質量%、単層カーボンナノチューブ0.05質量%、導電助剤1.95質量%および結着剤5質量%を混合し、さらにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて、表1および表2に示す組成を有する負極合剤を調製した。負極合剤の調製には、単層カーボンナノチューブのNMP分散液、結着剤(D)の8質量%NMP溶液、結着剤(E)の5質量%NMP溶液を用いた。
【0138】
実施例2~20、比較例2~5
表1および表2に示す組成になるように材料およびその使用量を変更した以外は実施例1と同様にして、負極合剤を調製した。単層カーボンナノチューブと導電助剤との総含有量が2質量%となるように、それぞれの量を調整した。
【0139】
比較例1
負極活物質93質量%、単層カーボンナノチューブ0.5質量%、導電助剤1.55質量%および結着剤5質量%を混合し、さらに水を適量加えて、表2に示す組成を有する負極合剤を調製した。負極合剤の調製には、単層カーボンナノチューブの水性分散液、SBRの48質量%水溶液、CMCの1.5質量%水溶液を用いた。
【0140】
(負極材料層を備える負極の作製)
実施例および比較例で得られた負極合剤を、銅箔からなる負極集電体の片面または両面に塗布し、これを乾燥した。これを所定の電極サイズに切り取り、ロールプレスを用いて圧延することにより、負極集電体の片面または両面に負極材料層が形成された負極を作製し、以下の方法で評価した。
【0141】
(負極の負極材料層と負極集電体との剥離強度)
片面に負極材料層を備える負極を切り取ることにより、1.2cm×7.0cmの試験片を作製した。試験片の負極材料層側を両面テープで可動式治具に固定した後、負極集電体の表面にテープを貼り、100mm/分の速度でテープを90度に引っ張った時の応力(N/cm)をオートグラフにて測定した。オートグラフのロードセルには1Nを用いた。
【0142】
(最大試験力)
ASTM D790に準ずる方法で、曲げ強度(bending strength、3-point bending test)を測定した。両面に負極材料層を備える負極を、15mm×20mmサイズに切断して試片を準備した。3地点曲げ方式で、10mm間隔である、第1地点と第2地点との間に試片を配置し、試片の真ん中(第3地点)を、プローブ(probe)で、試片厚方向に一定速度で押し、曲げテスト(bending property test)を実施した。第3地点の厚み方向移動速度5mm/minで移動しながらかかる力を測定した。最大曲げ強度(maximum bending forceまたはmaximum bending strength)は、プローブの移動距離によって試片にかかる力の最大値である。
【0143】
(電解液の調製)
高誘電率溶媒であるエチレンカーボネートおよび低粘度溶媒であるエチルメチルカーボネートを、体積比30対70になるように混合し、これにLiPF6を1.0モル/リットルの濃度となるように添加し、これにビニレンカーボネートを2質量%添加することで非水電解液を得た。
【0144】
(正極の作製)
正極活物質としてLiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(NMC622)97質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)1.5質量部、結着剤としてポリビニリデンフルオライド(8質量%NMP溶液)1.5質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ20μmのアルミ箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、幅50mm、長さ30mmの塗工部(正極材料層)、および、幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して正極とした。
【0145】
(リチウムイオン二次電池の作製)
実施例および比較例で作製した片面に負極材料層を備える負極を、幅52mm、長さ32mmの塗工部(負極材料層)、および、幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出して負極とした。
【0146】
上記の正極と負極を厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルム(セパレータ)を介して正極と負極を対向させ、上記で得られた非水電解液を注入し、上記非水電解液がセパレータ等に充分に浸透した後、封止し予備充電、エージングを行い、アルミラミネートセル(リチウムイオン二次電池)を作製した。
【0147】
(電池特性の測定)
得られたアルミラミネートセルについて、下記のように45℃でのサイクル容量保持率およびガス増加率を調べた。
【0148】
(サイクル特性)
得られたアルミラミネートセルを、25℃において、0.2Cに相当する電流で4.2Vまで定電流-定電圧充電(以下、CC/CV充電と表記する。)(0.1Cカット)した後、0.2Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとして、3サイクル実施した。その後45℃において、1.0Cに相当する電流で4.2VまでCC/CV充電(0.1Cカット)した後、1.0Cの定電流で3Vまで放電し、これを1サイクルとし放電容量から初期放電容量を求めた。再度サイクルを行い、300サイクル後の放電容量を測定した。初期放電容量に対する300サイクル後の放電容量の割合を求め、これを容量維持率(%)とした。
容量維持率(%)=(300サイクル後の放電容量)÷(1.0Cの初期放電容量)×100
【0149】
(ガス増加率の測定)
アルキメデス法により、サイクル特性の評価が終了した電池の体積を測定し、充放電前後の体積変化から、ガス増加率を求めた。
ガス増加率(%)=(300サイクル後の体積(ml))/(初期体積(ml))×100
【0150】
以上の結果を表1および表2に示す。
【0151】
【0152】