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特許7323747製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法及び蒸気エージング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法及び蒸気エージング装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/24 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
G01N33/24 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019125098
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021012053
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000253226
【氏名又は名称】濱田重工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】上川 義弘
(72)【発明者】
【氏名】下村 健介
(72)【発明者】
【氏名】山本 充
(72)【発明者】
【氏名】真沢 正人
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-232940(JP,A)
【文献】特開2017-007880(JP,A)
【文献】特開2004-301686(JP,A)
【文献】特開2008-122280(JP,A)
【文献】特開2004-144690(JP,A)
【文献】特開2014-157019(JP,A)
【文献】特開2015-105873(JP,A)
【文献】特開昭57-171612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離石灰及び/又は遊離マグネシアを含有し水和膨張性を有する製鋼スラグから作製した複数のスラグ塊の供試材を観察可能な容器内に設置し、大気圧下で蒸気エージング処理を行う際に、予め設定した時間間隔で、前記供試材の膨張、亀裂、剥離、脱落、割損、崩壊、粉化の外観変化を観察及び/又は質量変化を測定し、膨張、亀裂、剥離、脱落、割損、崩壊、粉化を前記供試材に認めた時点で各変化を1回としてカウントして累積した数値である累計変化回数及び/又は前記供試材の崩壊質量比を蒸気エージングの経過時間ごとに算出し、前記製鋼スラグの水和膨張挙動におけるエージング時間依存性を前記算出結果に基づいて評価することを特徴とする製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法において、前記蒸気エージング処理中の前記供試材から剥離した部分が含有する鉱物相の特定を、予め設定した時間間隔で行うことを特徴とする製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法において使用される蒸気エージング装置であって、
蒸気を生成する蒸気発生装置と、供試材が収納され、収納された供試材の蒸気エージングを行うエージング処理容器と、前記蒸気発生装置で生成した蒸気を前記エージング処理容器に供給する配管とを備えることを特徴とする蒸気エージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法及び蒸気エージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼生産の製鋼工程では、生石灰やドロマイト等、酸化カルシウムや酸化マグネシウムを含有する精錬剤が使用され、その精錬副生物(残滓)である製鋼スラグには遊離石灰や遊離マグネシアが残存していることが多い。
遊離石灰、遊離マグネシアは、それぞれ酸化カルシウム、酸化マグネシウム単体、ないし酸化カルシウム、酸化マグネシウムに酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化鉄などの酸化物が固溶した固溶体であり、多くの場合、水和膨張性を有している。
【0003】
製鋼スラグに含まれる遊離石灰には、その生成原因により幾つかの種類があり、その水和膨張挙動にも差がある。
【0004】
精錬剤として添加した生石灰の大半は、精錬の原料に含まれる珪素、燐、マンガンなどの酸化物や鉄自体の酸化物と融合(滓化)して溶融スラグになる。しかし、燐濃度の低い高級鋼種などでは精錬度を強化するため、生石灰を多く添加する場合がある。このような場合、添加した生石灰の全てが精錬中に滓化するわけではなく、一部が未溶解、未反応の石灰粒子としてスラグ中に残存することがある。これが遊離石灰の中で未滓化石灰と呼ばれる種類である。
この未滓化石灰は概して大きく、褐色を呈することが多く、スラグ塊の表面や膨張破壊の破面にしばしば認められる。生石灰の添加量や精錬条件などにより、未滓化石灰の多寡は変化する。
【0005】
添加した生石灰は、異常に多くない限り、上述したように、その殆どが精錬中に溶融スラグになる。製鋼スラグは、精錬炉内の1600℃程度の高温状態では均一に溶解しているが、スラグ組成によっては、冷却・凝固の途中で酸化カルシウム成分が熱力学的な溶解度限にかかり、晶出して遊離石灰相を生じる。これが遊離石灰の中で晶出石灰と呼ばれる種類である。
晶出石灰の発生は、酸化カルシウム比率の高い塩基性スラグを使用する限り避けられない。晶出石灰は概して微細な組織であり、晶出石灰に起因するスラグの水和膨張挙動は、未滓化石灰に起因するスラグの水和膨張挙動とは異なると考えられている。
【0006】
高塩基度の溶融スラグが冷却する過程において1700℃~1400℃域で生成した長柱形のトリカルシウムシリケイト(3CaO-SiO)が1300℃以下で分解したときに、ダイカルシウムシリケイト(2CaO-SiO)と共に生成する遊離石灰が析出石灰であり、長柱形のトリカルシウムシリケイト(3CaO-SiO)鉱物相内に縞状に生成する。析出石灰に起因するスラグの水和膨張挙動は、未滓化石灰や晶出石灰に起因するスラグの水和膨張挙動とは異なると考えられている。
【0007】
製鋼工程において石灰が使用されていることは周知であるが、ドロマイトも製鋼工程とのつながりが深く、転炉内に投入される副原料として一般的に使用されている。製鋼工程で使用されるドロマイトは、軽焼ドロマイト(CaO-MgO)と呼ばれるもので、含有CaO分により溶鋼中の不純物を除去すると共に、含有MgO分が転炉や取鍋の炉壁耐火物を保護して転炉や取鍋の寿命を延長する。このMgOはCaOと同様、精錬中に大部分は溶融スラグとなるが、その冷却過程において遊離マグネシアや未滓化ドロマイトが見られることがある。遊離マグネシアには2種類あり、一つは粒子外縁部がウスタイトに富んだMrim、もう一つはマグネシオウスタイト(MW)である。MWは、FeOとMgOの固溶体で、CaO、MnOが固溶している。Mrim、MWともにかなりの量のFeO、MnOが固溶しているので、水和反応は著しく抑えられるといわれている。
【0008】
製鋼スラグを路盤材等に使用すると、時間経過とともにスラグ中のこれら遊離石灰や遊離マグネシアの水和反応が起き、個々のスラグの亀裂、部分的剥離、粉化崩壊が発生する。その結果、スラグやスラグ使用製品の集合体(バルク)としてのマクロな体積膨張が起きる。
【0009】
そのため、スラグの膨張低減対策として、長期間の山積みによる自然エージング(大気エージング)、山積みスラグへの水蒸気通蒸による蒸気エージング、あるいは、加圧槽内での高圧・高温による蒸気エージング等、何らかの安定化処理を施すことが多い。安定化処理とは、遊離石灰や遊離マグネシアを水分や二酸化炭素と反応させて、それぞれ水酸化物や炭酸化物に変換させる処理である。
【0010】
生成したスラグあるいは安定化処理後のスラグは、使用時における品質を保証するため、膨張性評価がなされることが多い。
路盤材などに適用される製鋼スラグについては、JIS A5015(非特許文献1)において膨張率の上限値が定められ、附属書Bに、その試験法が具体的に定められている。
この試験法は、路盤材用途に限らず、他用途向けも含めた製鋼スラグのマクロな水和膨張性評価法として広く用いられている。
【0011】
上記JIS法に準拠する水浸膨張試験以外にも、定常的な品質管理業務の他、精錬やスラグ処理工程の操業管理・改善検討、スラグ製品の品質改善等、あるいはスラグ製品のトラブル発生時における原因調査等のため、種々の膨張性評価方法が用いられている。
【0012】
例えば、特許文献1には、カルシウム及び/又はマグネシウムを含有する製鋼スラグを粉砕・微粉化した試料の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルをそれぞれ測定して、試料中の水酸化カルシウム及び/又は水酸化マグネシウム量を推定し、水和処理前後の試料中の水酸化カルシウム及び/又は水酸化マグネシウム量のそれぞれの差を製鋼スラグの水和度として評価する方法が開示されている。
【0013】
また、特許文献2には、製鋼スラグを微粉砕して二つに分け、一方は水を添加して成形し、他方は水と接触させることなく成形し、両成形体をそれぞれ一軸膨張可能な状態にして、成形体の一部を水に接触させて吸水させながら養生を行った時の線膨張率の最大値を測定し、線膨張率と生石灰量の相関関係から推定される生石灰量の両成形体間の差から膨張に影響する生石灰量を求める方法が開示されている。
【0014】
さらにまた、特許文献3には、晶出石灰と析出石灰がそれぞれ観察視野に占める面積比率と、晶出石灰及び/又は析出石灰を含む相が転炉スラグ粒子に占める面積比率とを掛け合わせて、転炉スラグ粒子に対して晶出石灰と析出石灰がそれぞれ占める面積比率(含有率)を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2005-61863号公報
【文献】特開2014-157019号公報
【文献】特開2015-105873号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】JIS A5015:2013 道路用鉄鋼スラグ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前述したように、JIS法に準拠する水浸膨張試験は、路盤材用途に限らず他用途向けも含めた製鋼スラグのマクロな水和膨張性評価法として広く用いられているが、数キログラム単位の供試材を使って、10日後に3個の供試体の測定結果の平均値として1点のデータが得られる方法であるため、スラグの膨張低減対策に必要となる膨張原因の特定、即ち、遊離石灰と遊離マグネシアの判別や遊離石灰の種類・量などの情報は得られない。
【0018】
また、特許文献1記載の水和処理前後の赤外線吸収スペクトルを測定することによる水酸化カルシウム及び/又は水酸化マグネシウムの評価方法も、発生時点からの操業改善を図るために必要となる未滓化石灰や晶出石灰などの遊離石灰の種類はわからない。
特許文献2記載の一軸膨張での線膨張率と生石灰量の相関関係から真に膨張に寄与する生石灰量を推定する方法も、特許文献1記載の方法と同様、遊離石灰の情報は得られない。さらに、測定データからの直接的な評価でなく、予め求めた生石灰の量と線膨張率との相関関係の利用という誤差要因を含んでおり、何れの供試体についてもこの相関関係が変わらないという保証はない。
一方、特許文献3記載の方法によれば、未滓化石灰、晶出石灰、及び析出石灰の各含有率を把握できるが、スラグの水和膨張挙動そのものに関する情報は得られない。
【0019】
つまるところ、特許文献1~3記載の方法では、スラグ安定化処理後など特定時間における結果情報しか得られず、蒸気エージングの時間評価に必要となる、スラグの水和膨張挙動におけるエージング時間依存性の情報は得られない。
【0020】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、製鋼スラグの水和膨張挙動におけるエージング時間依存性を定量的に把握し、遊離石灰及び/又は遊離マグネシアが含まれている可能性のあるスラグの水和膨張性の評価及び改善に有効な情報を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法は、遊離石灰及び/又は遊離マグネシアを含有し水和膨張性を有する製鋼スラグから作製した複数のスラグ塊の供試材を観察可能な容器内に設置し、大気圧下で蒸気エージング処理を行う際に、予め設定した時間間隔で、前記供試材の膨張、亀裂、剥離、脱落、割損、崩壊、粉化の外観変化を観察及び/又は質量変化を測定し、膨張、亀裂、剥離、脱落、割損、崩壊、粉化を前記供試材に認めた時点で各変化を1回としてカウントして累積した数値である累計変化回数及び/又は前記供試材の崩壊質量比を蒸気エージングの経過時間ごとに算出し、前記製鋼スラグの水和膨張挙動におけるエージング時間依存性を前記算出結果に基づいて評価することを特徴としている。
【0022】
「製鋼スラグ」は、転炉スラグ、電気炉スラグ、溶銑精錬スラグ、二次精錬スラグの総称である。
「供試材の累計変化回数」は、膨張、亀裂、剥離、脱落、割損、崩壊、粉化を供試材に認めた時点で、それらを変化回数としてカウントして累積した数値である。膨張、亀裂、剥離、脱落、割損、崩壊、粉化は各変化を1回としてカウントする。
また、「供試材の崩壊質量比」は、蒸気エージングを実施する前の供試材の質量に対する、該供試材から剥離した部分の質量の比である。
【0023】
第1の発明では、供試材の累計変化回数や崩壊質量比が蒸気エージングの経過時間に応じて、どのように変化しているのか把握することにより、製鋼スラグの水和膨張が、蒸気エージング処理によって完了したのか、それとも未だ完了していないのか判断することができる。
【0024】
また、第1の発明に係る製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法では、前記蒸気エージング処理中の前記供試材から剥離した部分が含有する鉱物相の特定を、予め設定した時間間隔で行うようにしてもよい。
【0025】
ここで、「供試材から剥離した部分が含有する鉱物相の特定」とは、供試材から剥離した部分に、遊離石灰及び/又は遊離マグネシアが含まれているか、また剥離した部分に遊離石灰及び/又は遊離マグネシアが含まれている場合、それが未滓化石灰、晶出石灰、析出石灰、Mrim、MW、未滓化ドロマイトのいずれであるか特定することである。
【0026】
後述する実施例で示すように、未滓化石灰、晶出石灰、析出石灰、Mrim、MW、未滓化ドロマイト各々に起因するスラグの水和膨張挙動は異なるので、遊離石灰が未滓化石灰、晶出石灰、析出石灰のいずれであるか、遊離マグネシアがMrim、MW、未滓化ドロマイトのいずれであるか特定することが重要となる。
【0027】
また、第2の発明は、第1の発明に係る製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法に使用される蒸気エージング装置であって、
蒸気を生成する蒸気発生装置と、供試材が収納され、収納された供試材の蒸気エージングを行うエージング処理容器と、前記蒸気発生装置で生成した蒸気を前記エージング処理容器に供給する配管とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法によれば、製鋼スラグの水和膨張挙動におけるエージング時間依存性を定量的に把握することができるので、遊離石灰及び/又は遊離マグネシアが含まれている可能性のあるスラグの水和膨張性の評価及び改善に有効な情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施の形態に係る製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法の手順を示したフロー図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る蒸気エージング装置の構成を示した模式図である。
図3】供試材の累計変化回数を蒸気エージングの経過時間ごとに示したグラフである。
図4】供試材から剥離した部分に含まれる未滓化石灰及び晶出石灰それぞれの崩壊質量比を蒸気エージングの経過時間ごとに示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0031】
本発明は、遊離石灰及び/又は遊離マグネシアを含有し水和膨張性を有する製鋼スラグから作製した供試材を大気圧下で蒸気エージング処理した際に該供試材が示す水和膨張挙動を、蒸気エージングの経過時間と関連付けて評価する方法である。
【0032】
以下、本発明の一実施の形態に係る製鋼スラグの水和膨張挙動評価方法について、図1のフロー図を用いて説明する。
[STEP1]
遊離石灰及び/又は遊離マグネシアを含有し水和膨張性を有する製鋼スラグを破砕、磁選、篩分けして複数の供試材を作製する(ST1参照)。
1回の試験に供する供試材の量、即ち、塊・粒の個数は、試験の目的や制約条件等により適宜選べる。少なくとも塊・粒として10個以上ないと、供試材の集団としての挙動の統計的な評価が困難である。また、供試材の量が多ければ多いほど、統計的な評価精度は向上するが、試験の実施負荷が増加する。従って、試験の目的や供試材の種類、評価装置の能力等から総合的に判断されるべきである。個数や質量絶対値は一意的に規定しがたいが、試験目的を満たす限り少量での試験が望ましい。例えば、塊・粒で20個~100個程度が、発明者らの経験から、実質的に「試験効率と結果の精度のバランス」が良い規模として推奨される。
【0033】
供試材の試験前の粒度、寸法は、本測定を適用する材料や目的に応じて適宜選べる。例えば、JIS A 5015に規定される各種の路盤材の種類ごとの粒度規定を考慮して選ぶ方法もある。粒度があまり細かいと、亀裂、膨張や崩壊の観察・測定が困難となるため、観察が容易にできる大きさを選ぶべきである。本発明者らの知見によれば、例えば2mm程度が実質的な下限サイズと考えられる。
また、「数多くの塊・粒挙動からスラグ集団としての膨張挙動の評価」という本発明の主旨、並びに熱容量や熱伝達速度(温度変化への反応速度)の観点から、供試材の上限サイズもある程度限られる。具体的には30mm以下が好ましい。JIS A 5015の路盤材の粒度規定である「26.5mm 篩上の比率が0~5%」等から考えても、これを超える大きなサイズのスラグの挙動調査の需要は少ない。
【0034】
[STEP2]
所定のエージング時間に達するまで(ST2参照)、蒸気エージング装置を用いて、複数の供試材を大気圧下で蒸気エージング処理する(ST3参照)。
使用する蒸気エージング装置10を図2に示す。蒸気エージング装置10は、水蒸気を生成する蒸気発生装置11と、供試材Sが収納され、収納された供試材Sの蒸気エージングを行うエージング処理容器12と、蒸気発生装置11で生成した水蒸気をエージング処理容器12に供給する配管13とを主な構成要素とする。
【0035】
エージング処理容器12は、容器内の圧力が上昇しないように、容器内の水蒸気を逃がす排気口21と、容器内の水滴を排出する水滴排出弁22と、容器内の温度を監視するための温度計20とを備えている。供試材Sが載置されるサンプル棚19が容器内に複数段配置されると共に、外部から供試材Sを観察できる透明な窓が容器自体に設けられている。
【0036】
配管13の途中には、内部圧力が異常に上昇した際に自動的に水蒸気を放出させる安全弁14と、水蒸気から水滴を除去するミストセパレータ15と、水蒸気の圧力を監視するための圧力計16と、供試材の観察及び測定の際に、エージング処理容器12への水蒸気の供給を遮断する遮断弁17と、水蒸気の供給量を調節する流量調整弁18とが設置されている。
【0037】
本発明は、遊離石灰及び/又は遊離マグネシアを含有し水和膨張性を有する製鋼スラグから作製した複数の供試材を大気圧下で蒸気エージング処理した際に該供試材が示す水和膨張挙動を、蒸気エージングの経過時間と関連付けて評価する方法である。蒸気エージングは、スラグを蒸気配管上に載荷し、保温シートをかけ1週間から10日程度養生するものが一般的である。この方法では、シート内の温度は100℃にはならない。
本発明は、一般的な蒸気エージングでの時間経過ごとの膨張挙動を評価することが目的であり、実操業の条件とあまり乖離しないことが望ましい。
【0038】
大気圧の水蒸気をエージング処理容器12に吹き込み続けても、容器内の温度は厳密には100℃にはならず、気象学的な大気圧や入出熱バランス等の関係により多少異なる。概して95~100℃程度、多くの場合は97~99℃程度の温度になることが多い。この程度の温度でも評価目的からは十分である。
蒸気発生装置11による水蒸気発生量は、エージング処理容器12の大きさ、容器内への供試材の実装量、雰囲気温度等により異なるが、要は、排気口21から余剰水蒸気が定常的に排出され、容器内を95~100℃の温度に維持できればよい。
【0039】
[STEP3]
供試材に含まれる遊離石灰や遊離マグネシアが水和反応を起こすと、供試材に変化が生じる。水和反応は以下の反応式で示され、水和反応が起きると、それぞれ供試材の体積が増加する。1式では反応前の1.99倍、2式では2.23倍の体積になる。
CaO+HO→Ca(OH) ・・・ (1式)
MgO+HO→Mg(OH) ・・・ (2式)
供試材の中の一部組織に体積膨張が生じると、供試材自体やその一部の膨張、表面亀裂の発生、表層の一部剥離や脱落、供試材自体の割損、細片に分かれる崩壊、供試材全体が粉状になる粉化、等の変化が生じる。どのような形態の変化を呈するかは、供試材の形状・大きさや、供試材に含まれる遊離石灰や遊離マグネシアの量、供試材の鉱物組織、水和進捗度、等の冶金学的な要因に依存する。
【0040】
本実施の形態では、蒸気エージング処理中の供試材に対して、予め設定した時間間隔で外観変化の観察及び/又は質量変化の測定を行う(ST4参照)。
供試材の外観変化を観察する際は、目視で、各供試材の膨張、亀裂、剥離、崩壊等の変化を判断して、水和反応による供試材の変化の有無を把握する。
蒸気エージングを中断した直後の供試材は水滴で湿っていて、色彩や表面質感が把握しづらい場合も多い。そういう場合には、供試材をエージング処理容器12から取り出して乾燥させると、色彩や表面質感の変化をより明確に掌握できることがある。
なお、その場での目視観察のみならず、供試材の状況を写真撮影しておくことも好適な方法である。エージング処理前に撮影した写真と比較することにより、各供試材の外観変化を判断しやすくなる。
【0041】
供試材の質量変化を測定する場合は、エージング処理前に各供試材の質量を秤量しておき、エージング処理中における各供試材の質量を、予め設定した時間間隔で秤量し、質量変化を把握する。
【0042】
総エージング処理時間(延べ処理時間)や、供試材の変化状況の観察及び測定の時間間隔は、評価目的やスラグの種類などにより異なる。過去の知見を参考に事前に定めるか、あるいは評価試験の途中状況を判断して適宜選べばよい。
供試材の観察及び測定のために水蒸気の吹込みを一時中断している時間は、累計の処理時間から控除する。
水和膨張挙動は時間の対数に依存するような挙動が多いので、供試材の観察及び測定の時間間隔は、5分、10分、20分、50分、100分、200分など、時間間隔を対数表示で適宜分散するように選ぶのがよい。
【0043】
時間間隔ごとの供試材の観察及び測定が完了する都度、供試材をエージング処理容器12内へ戻すが、各供試材に対して均等な条件でエージング処理を行うため、供試材の観察及び測定の都度、供試材の配置位置を適宜ランダムに入れ替えることが望ましい。
【0044】
[STEP5]
時間間隔ごとの供試材の観察及び/又は測定では、上記外観変化の観察や質量変化の測定に加えて、供試材から剥離した部分の組織の特定を行ってもよい(ST5参照)。
鉱物学的な調査により、供試材から剥離した部分が含有する鉱物相を特定することができる。鉱物相とは、例えば、未滓化石灰相、晶出石灰相、カルシウムフェライト系安定相、急冷相、等である。また、相内の析出物の有無や亀裂の有無などの情報も得られる。
範囲を設定して鉱物相の構成を定量的に調査すれば、遊離石灰面積率等の定量データも得られる。その測定には特許文献3等に記載の方法が利用できる。
【0045】
EPMA(電子マイクロアナライザー)、SEM(走査型電子顕微鏡)によるミクロな鉱物組織についての測定を行うと、微細な立体構造、顕微鏡的な局部範囲の成分分析、組織・相内での成分分布等の情報が得られる。
これらの情報を用いて、未滓化石灰や晶出石灰の含有量と水和膨張挙動との関係、水和膨張・崩壊部と未反応部の成分的な比較、各組織の水和進捗度の差異、等や関与因子の議論が可能となる。さらにスラグ発生段階まで遡っての操業改善対策の検討を行うことができる。
【0046】
[STEP6]
所定のエージング時間に到達したら(ST2参照)、供試材の外観変化の観察結果及び/又は供試材の質量変化の測定結果から、供試材の累計変化回数及び/又は崩壊質量比を蒸気エージングの経過時間ごとに算出する。そして、それら算出結果に基づいて、製鋼スラグの水和膨張挙動におけるエージング時間依存性を評価する(ST6参照)。
【0047】
供試材の累計変化回数は、割れ、剥離、崩壊等を供試材に認めた時点で、それらを変化回数としてカウントして累積した数値である。割れ、剥離、崩壊等は各変化を1回としてカウントする。
供試材の崩壊質量比は、蒸気エージングを実施する前の供試材の質量に対する、該供試材から剥離した部分の質量の比である。
【0048】
供試材の累計変化回数や崩壊質量比が蒸気エージングの経過時間に応じて、どのように変化しているのか把握することにより、製鋼スラグの水和膨張が、蒸気エージング処理によって完了したのか、それとも未だ完了していないのか判断する。
【0049】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【実施例
【0050】
本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。
[実施例1]
転炉での精錬負荷が大きい鋼種で生石灰使用量も多く、結果として生成した転炉スラグの水和膨張及び崩壊が激しいと予想された鋼種Aと鋼種Bの二種類の転炉スラグの水和反応挙動について、上述した方法で評価した。
それぞれの原鉱を、試験室規模で破砕、磁選、篩分けし、31.5mmの網目の篩下、且つ4.75mmの網目の篩上のスラグ塊を供試材とした。試験に供した供試材の個数は、鋼種Aが31個、鋼種Bが27個である。個々の供試材の管理ができるように、各供試材に番号を付与し、それらをエージング処理容器内のサンプル棚に載置して蒸気エージング処理を行った。エージング処理容器内の温度差や水蒸気の変流の影響を平均化するため、観察ごとに供試材の場所を適宜入れ替えた。試験中の容器内温度は97~98℃であった。
【0051】
累計400時間まで、蒸気エージング処理を実施した。その間、予め設定した時間間隔で通蒸を中断し、各供試材の水和膨張状況を観察した。
各供試材の割れ、剥離、崩壊等の変化状況は、表面乾燥後に目視で観察し、その変化発生回数をカウントした。同じ供試材で部分的な割れ、剥離、崩壊等の変化を複数回繰り返した場合、それぞれ1回として累積的に数えた。
【0052】
検証試験の結果を図3に示す。同図は、供試材の累計変化回数を蒸気エージングの経過時間ごとに示したものである。
鋼種により崩壊・粉化挙動が異なることが同図よりわかる。鋼種Aは、初期の崩壊・粉化速度が速く、5時間目程度以降は崩壊・粉化速度がそれ以前に比して遅くなっている。しかしながら、5時間目以降も緩やかな崩壊・粉化が進行しているように見える。そこで、エージング時間ごとの崩壊・粉化速度を近似直線の傾きとし、この傾きが初期(5時間まで)を除いて、最大を示した10~15時間の値に対し、10分の1以下になった時点を崩壊・粉化の収束点とした。エージング時間が100時間を超えると、近似直線の傾きは10分の1以下になっており、崩壊・粉化すなわち水和反応は完了していると推察される。
一方、鋼種Bは、10時間前位から30時間ぐらいの間の崩壊・粉化速度がやや停滞しているが、400時間の末期に至るまで高い速度を維持し、結果的に鋼種Aを上回る割れ、剥離、崩壊等の発生回数となっている。
【0053】
以上より、鋼種Aは、上述したように100~150時間、即ち4~6日程度の蒸気エージング処理で、ほぼ水和反応が完了し、エージング負荷としても工業的に実用的な範囲であると判断した。一方、鋼種Bは数日程度の蒸気エージング処理では不十分で、なお膨張を続けている。従って、今回の測定完了時の400時間以降に膨張する懸念が残る。因って、蒸気エージング処理だけで膨張性を安定させるためには、十数日ないしそれ以上の期間が必要であると考えられた。生産性や処理コストを考慮すると、膨張抑制を水蒸気処理のみに頼ることは危険であり、他の対策(スラグ塩基度低下などの精錬面の取り組み)との併用が必要と判断し、鋼種Bについて精錬面からの改善を検討した。
【0054】
本実施方法について多少補足する。
本実施例のように、常に高い頻度で観察を行う必要はない。試験終了タイミング(総試験時間)も含め、試験目的や供試材の挙動に応じて適宜選べばよい。
また、本実施例は鋼種Aと鋼種Bの比較を目的としたが、同一鋼種での精錬バッチごとの水和反応挙動のバラツキ調査にも本法を使用することができる。その場合、同一鋼種(スラグ種)の複数回の精錬におけるスラグを比較すればよい。例えば、鋼種Aの精錬番号001回から010回までの10ヒート分のスラグの各30個、計300個を対象に本法にて評価を行えば、鋼種Aの10ヒート分の精錬のスラグ挙動のバラツキが評価できる。
【0055】
[実施例2]
鋼種Cの転炉スラグに対して、膨張原因である鉱物組織が水和膨張挙動へ及ぼす影響について調べた。スラグの鉱物組成として水和膨張性を有する遊離マグネシアが存在する場合があるが、鋼種Cのスラグでは実質的に遊離マグネシアが存在しないことを事前の検鏡調査により確認した。
スラグバラス製造プラントで破砕、磁選、篩分けを行った粗粒スラグ(30mm~5mmサイズバラス)からサンプリングした供試材50個について、実施例1と同様の方法で実験室的な蒸気エージング処理を行った。
本実施例では、試験開始前に全供試材の質量を個別に秤量した。延400時間の蒸気エージングを行ったが、途中の観察時に粉化・剥離が起きた場合は、その部分の質量も秤量した。これら崩壊部の質量により供試材の水和膨張挙動を整理した。
【0056】
粉化・剥離部分について、破面の目視観察や粉化・剥離部分の樹脂埋込み、研磨による光学顕微鏡観察によって、遊離石灰の種類の確認を行った。遊離石灰の種類の判定は、文献や発明者の経験からの冶金的な知見に基づいた以下の判断基準に従った。
欠損部、剥離部の破断面に目視で褐色粒子が観察される場合、光学顕微鏡での検鏡結果において、崩壊したスラグ片・粉に未滓化石灰が認められた場合、もしくは、崩壊したスラグ片・粉が急冷組織であった場合は、未滓化石灰による崩壊と判断した。
一方、崩壊したスラグ片・粉に晶出石灰が認められた場合、もしくは、スラグ塊が広範囲に粉化崩壊した場合は、晶出石灰による崩壊と判断した。
【0057】
検証試験の結果を図4に示す。同図は、供試材から剥離した部分に含まれる未滓化石灰及び晶出石灰それぞれの崩壊質量比を蒸気エージングの経過時間ごとに示したものである。
なお、測定都度ごとのデータを用いた作図では、測定ごとのハンチングが大きく、却ってマクロな傾向を判断しづらいため、測定3回ごとの測定データの移動平均で作図した。
【0058】
未滓化石灰による水和膨張挙動と、晶出石灰による水和膨張挙動とには差異があることが同図よりわかる。未滓化石灰による割れ・崩壊は、主に短時間側で起こり、一旦減少した後、再度活発になる。400時間の試験終了時点でもなお割れ・崩壊の発生が継続している。一方、晶出石灰による割れ・崩壊は、主に蒸気エージング開始から数十時間ぐらいの時期に激しく起きており、数日~10日の蒸気エージング処理を行うとほぼ落ち着くことが判明した。
【0059】
以上より、鋼種Cスラグについて十数日~二十日以上の蒸気エージング処理を回避するためには精錬面からの対策が必要なことが判明した。晶出石灰に比べて未滓化石灰低減のほうが、脱燐等の精練結果を維持しつつ、その発生低減を行いやすいため、転炉炉内での生石灰の溶解をより促進するように吹錬条件を変更する検討を行った。
【符号の説明】
【0060】
10:蒸気エージング装置、11:蒸気発生装置、12:エージング処理容器、13:配管、14:安全弁、15:ミストセパレータ、16:圧力計、17:遮断弁、18:流量調整弁、19:サンプル棚、20:温度計、21:排気口、22:水滴排出弁、S:供試材
図1
図2
図3
図4