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特許7323773予備用の混銑車の加熱方法および加熱装置
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  • 特許-予備用の混銑車の加熱方法および加熱装置 図1
  • 特許-予備用の混銑車の加熱方法および加熱装置 図2
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  • 特許-予備用の混銑車の加熱方法および加熱装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】予備用の混銑車の加熱方法および加熱装置
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/06 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
C21C1/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019103528
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020196926
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】月ヶ瀬 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】権田 義明
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-075742(JP,U)
【文献】特開2005-146352(JP,A)
【文献】特開2008-101261(JP,A)
【文献】特開昭55-097416(JP,A)
【文献】特開2007-254864(JP,A)
【文献】実開昭55-046681(JP,U)
【文献】実開昭59-054551(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00-3/00
C21C 5/02-5/06
C21C 5/52-5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常時に備えて待機場所に配備される予備用の混銑車の内部を加熱する方法であって、
高炉と製鋼工場との間を往復する稼働ラインから、前記予備用の混銑車を外し、
1基の予備用の混銑車に対して、バーナーによって、目標温度までの昇温および蓄熱のための所定の加熱時間加熱した後、前記バーナーを前記混銑車から取り外し、前記混銑車の内部の温度が、高炉から溶銑を受銑可能な下限温度に下がるまでの待機時間の間に、前記バーナーで、他の予備用の混銑車を加熱し、
前記待機時間には、加熱後の前記混銑車の受銑口に保熱蓋を配置し、
最初に加熱した前記混銑車の温度が前記下限温度まで下がると、再び前記バーナーで最初に加熱した前記混銑車を加熱するという工程を繰り返して、前記予備用の混銑車の内部の温度が、前記下限温度を下回らないように、1台のバーナーで複数基の予備用の混銑車を加熱することを特徴とする、予備用の混銑車の加熱方法。
【請求項2】
前記待機時間が、前記加熱時間に対して整数倍となるように、前記加熱時間を設定し、1台のバーナーで、複数基の予備用の混銑車を順次加熱することを特徴とする、請求項に記載の予備用の混銑車の加熱方法。
【請求項3】
非常時に備えて待機場所に配備される予備用の混銑車の内部を加熱する装置であって、
稼働ラインから外された複数基の予備用の混銑車内に順次出し入れ可能であり、前記混銑車の内部を加熱するバーナーと、
前記混銑車の受銑口に保熱蓋を着脱する着脱装置と、を備えていることを特徴とする、予備用の混銑車の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予備用の混銑車の内部の加熱を行う加熱方法および加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所において、高炉で製造された溶銑は、主に混銑車で製鋼工場まで搬送される。混銑車は、単に溶銑の搬送装置として、あるいは、搬送される間、脱リン、脱珪、脱硫処理等の溶銑の予備処理が行われる処理容器として用いられる。混銑車に高温の溶銑を収容するため、混銑車の内壁は耐火物で構成されている。
【0003】
通常、製鉄所内で稼働している混銑車は、溶銑を受け入れるために高炉の溶銑排出部付近で待機するもの、溶銑を収容して製鋼工場へ搬送途中のもの、溶銑を製鋼工場の転炉鍋等に排出した後再び高炉に戻るものがあり、このうち何台かは、非常時の予備用として、処理される溶銑量に対して多めに配置されたものである。このような予備用の混銑車は、例えば製鋼工場内にトラブルが発生し、製鋼工場で溶銑を受け入れられなくなったとき等の非常時に、高炉から出銑し続ける溶銑を受け入れるために必要とされている。
【0004】
従来、この予備用の混銑車は、高炉と製鋼工場との間を往復する稼働ラインに組み込まれている。しかしながら、予備用の混銑車を稼働ラインに組み込むことで、混銑車の回転率が低下し、それにより空の時間が長くなって混銑車内部の蓄熱量が低下するという問題がある。蓄熱量が低下すると、溶銑を受け入れて高炉から製鋼工場へ運搬する間に、溶銑の温度が大幅に下がったり、溶銑やスラグの一部が凝固して炉壁に付着し、炉容積を小さくしたりすることがある。さらに混銑車の内部の温度が低下すると、溶銑を受け入れたときに、混銑車内部の耐火物に急激な温度差が作用することにより、耐火物が破損する場合がある。
【0005】
このような空の混銑車を保熱するために、例えば特許文献1には、混銑車の内部に、都市ゴミを乾燥、加圧成形した固形燃料を投入して燃焼させる方法が、特許文献2には、炭素の含有率が大きなレンガを投入して燃焼させる方法が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-105310号公報
【文献】特開2008-101261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2の方法はいずれも、稼働ライン内の混銑車に炭素分を含む燃焼物を投入する方法であり、稼働ラインにそのための設備を設ける必要がある。他にも、これらの方法は、溶銑を受け入れる際に、水蒸気爆発を防止するために、投入物の水分管理が必要となる。また、これらの方法は、混銑車の回転率を向上させるものではない。
【0008】
稼働中の混銑車内部の温度低下を抑制するには、混銑車の回転率を向上させることが好ましく、そのためには、予備用の混銑車は、稼働ラインから外しておくことが好ましい。ところが、稼働している混銑車の場合は一定時間ごとに溶銑を受け入れることで内部の温度が一定以上に保たれるが、稼働ラインから完全に外してしまった場合、非常時に迅速に溶銑を受け入れ可能とするためには、常に一定の温度以上に保熱しておく必要がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、製鉄所内の混銑車の回転率を向上させて稼働中の混銑車の温度低下を抑制するとともに、予備用の混銑車を、非常時には迅速に溶銑を受け入れ可能となるような温度に保熱しておくための加熱方法および加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、非常時に備えて待機場所に配備される予備用の混銑車の内部を加熱する方法であって、高炉と製鋼工場との間を往復する稼働ラインから、前記予備用の混銑車を外し、1基の予備用の混銑車に対して、バーナーによって、目標温度までの昇温および蓄熱のための所定の加熱時間加熱した後、前記バーナーを前記混銑車から取り外し、前記混銑車の内部の温度が、高炉から溶銑を受銑可能な下限温度に下がるまでの待機時間の間に、前記バーナーで、他の予備用の混銑車を加熱し、前記待機時間には、加熱後の前記混銑車の受銑口に保熱蓋を配置し、最初に加熱した前記混銑車の温度が前記下限温度まで下がると、再び前記バーナーで最初に加熱した前記混銑車を加熱するという工程を繰り返して、前記予備用の混銑車の内部の温度が、前記下限温度を下回らないように、1台のバーナーで複数基の予備用の混銑車を加熱することを特徴とする。
【0011】
前記待機時間が、前記加熱時間に対して整数倍となるように、前記加熱時間を設定し、1台のバーナーで、複数基の予備用の混銑車を順次加熱してもよい。
【0013】
また、本発明は、非常時に備えて待機場所に配備される予備用の混銑車の内部を加熱する装置であって、稼働ラインから外された複数基の予備用の混銑車内に順次出し入れ可能であり、前記混銑車の内部を加熱するバーナーと、前記混銑車の受銑口に保熱蓋を着脱する着脱装置と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、予備用の混銑車を稼働ラインから外すことにより、稼働ライン内の混銑車の回転率を向上させることができ、予備用の混銑車をバーナーで所定温度に保熱しておくため、非常時には予備用の混銑車に迅速に溶銑の受け入れを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態にかかる加熱装置で混銑車を加熱する状態を示す図である。
図2】本発明が適用される混銑車の加熱時および非加熱時の温度経過の例を示すグラフである。
図3】本発明の実施の形態の一例として、2基の混銑車を1台のバーナーで加熱する場合の2基の混銑車の温度経過を示すグラフである。
図4】本発明が適用される混銑車の加熱時および非加熱時の異なる温度経過の例を示すグラフである。
図5】本発明の異なる実施の形態の例として、3基の混銑車を1台のバーナーで加熱する場合の3基の混銑車の温度経過を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。
【0017】
本実施の形態において、製鉄所内の混銑車の稼働ラインには、通常時に高炉から排出され製鋼工場で処理される溶銑を収容、運搬するために必要な台数の混銑車が配置され、非常時に備えて配備される予備用の混銑車は、稼働ラインから外れた待機場所に配置される。予備用の混銑車は、製鋼工場の不具合により製鋼工場に溶銑を受け入れられなくなったときや混銑車の耐火物トラブル等の非常時にはすぐに高炉から溶銑の受け入れを行えるように、待機場所において例えば500℃の下限温度を下回らないような温度になるまで保熱される。この下限温度は、予備用の混銑車が待機場所から高炉まで移動し、溶銑を受け入れるときに、混銑車内部の耐火物の損傷や溶銑の凝固等を防ぐために必要な最低温度、例えば300℃以上を維持できるような温度に、製鉄所の状況に応じて適宜設定される。なお、ここでいう温度とは、混銑車内部の雰囲気温度のことであり、受銑口近傍に設けられた熱電対にて測温された値である。
【0018】
図1は、予備用の混銑車の加熱装置の例を説明する図であり、混銑車10の断面から見た図である。混銑車10は、高炉で製造された溶銑を収容する略長筒状の本体11を有している。本体11は、長軸まわりに回転できる構造であり、長手方向両側に、先端に向けて径が小さくなる略円錐形のコニカル部を有している。また、長手方向中央部には、受銑口13が形成されている。受銑口13は、本体11から垂直外向きに延びる首部14を有し、本体11および首部14の内壁には、耐火物12が施工されている。図1は、混銑車10に溶銑を収容する場合の縦断面を示すが、加熱時には、受銑口13が真上よりも低い位置になるように混銑車10を傾けた方が内部の熱が逃げにくいため、混銑車10を長軸まわりに回転させて傾けることがある。
【0019】
本実施の形態において、加熱装置1は一対のバーナー2からなり、例えば図1に示すように、バーナー2は、受銑口13の略中央に配置される。バーナー2が受銑口13よりも本体11の内部に入り込むと、加熱時に、本体11の内壁に付着している付着物が剥がれ落ちてバーナー2を損傷させるというリスクがあるため、バーナー2は受銑口13内に配置することが好ましい。また、バーナーの火炎が、受銑口13の首部14と本体11との境界の角部15の不定形耐火物に直接当たると、角部15の耐火物が破損することがあるため、各バーナー2は、火炎が角部15に当たらないように、且つ、混銑車10の長手方向両端部まで十分に熱が届くような方向に向けることが好ましい。なお、本発明に用いられるバーナー2の形状や配置は、上記の形態に限らない。また、従来公知の各種バーナーを用いることができる。
【0020】
さらに、本実施の形態では、加熱後の混銑車10の受銑口13に耐火物からなる保熱蓋3を着脱するための着脱装置4が設置されている。着脱装置4は、例えば保熱蓋3を保持する機構と、保熱蓋3を保持した状態で複数基の混銑車10の受銑口13の位置まで運搬可能な機構とを備えている。
【0021】
予備用の混銑車10は、例えば1基の混銑車10に対して1台のバーナー2で、下限温度以上を維持するように加熱し続けてもよいし、1台のバーナー2で複数の混銑車10を加熱することもできる。以下、1台のバーナー2で複数の混銑車10を加熱する方法について説明する。
【0022】
図2は、混銑車10の内部をバーナー2で加熱し、その後バーナー2を取り除いた場合の、混銑車内部の温度と時間との関係を示したグラフであり、混銑車10内の耐火物12に熱電対を取り付けて実験により求めたデータである。加熱する際には、目標温度である例えば1000℃まで昇温させた後、混銑車10内の耐火物12の厚さ方向の温度分布が略均一になるまでさらに一定時間加熱を続ける。このように耐火物12に蓄熱させることにより、バーナー2を外した後の温度の低下速度を遅らせることができる。
【0023】
図2の場合には、昇温および蓄熱のための加熱時間t1が約12時間であり、加熱を停止してから、下限温度として設定した500℃に下がるまでの待機時間t2が約12時間となっている。
【0024】
図3は、図2に示す温度履歴を示す2基の混銑車(混銑車A、混銑車B)に対して1台のバーナーで加熱する場合の、2基の混銑車の温度履歴を示すものである。図2の場合、昇温および蓄熱のための加熱時間t1と、加熱を停止してから混銑車内部が下限温度(500℃)に下がるまでの待機時間t2との比が1:1である。この場合には、1基の混銑車(混銑車A)を加熱した後の待機時に、同じバーナーでもう1基の混銑車(混銑車B)を加熱することができる。そして、混銑車Bを加熱し終わるタイミングで、混銑車Aの温度が下限時間まで下がり、再び混銑車Aを加熱するという工程を繰り返す。
【0025】
また、図4は、混銑車10の内部をバーナー2で加熱し、バーナー2を取り除いた後、混銑車10の受銑口13に、耐火物からなる保熱蓋3を設けた場合の混銑車10内部の温度と時間との関係を示したグラフである。加熱後の混銑車10の受銑口13に保熱蓋3を設けることにより、さらに温度低下の速度を遅らせることができ、加熱を停止してから500℃の下限温度に下がるまでの待機時間t2が約24時間となっている。つまり、保熱蓋3を用いることにより、待機時間t2を約12時間長くすることができる。
【0026】
図5は、図4に示す温度履歴を示す3基の混銑車(混銑車A、混銑車B、混銑車C)に対して1台のバーナーで加熱する場合の、3基の混銑車の温度履歴を示すものである。図4の場合、昇温および蓄熱のための加熱時間t1と、加熱を停止してから混銑車内部が下限温度(500℃)に下がるまでの待機時間t2との比が1:2である。この場合には、1基の混銑車(混銑車A)を加熱した後の待機時に、同じバーナーで他の2基の混銑車(混銑車B、混銑車C)を順次加熱することができる。そして、混銑車Cを加熱し終わるタイミングで、最初に加熱した混銑車Aの温度が下限温度まで下がり、再び混銑車Aを加熱するという工程を繰り返す。
【0027】
稼働ラインから外れた予備用の混銑車10の加熱において、バーナー2を取り除いてから下限温度まで温度が下がる待機時間t2が、目標温度までの昇温および耐火物へ一定の蓄熱量を持たせるための蓄熱を合わせたバーナー2による加熱時間t1の整数倍となるように、加熱時間t1を調整することが好ましい。これにより、1台のバーナー2で複数の混銑車10を加熱するサイクルを無駄なく実現できる。加熱後の温度履歴は、混銑車10の形状やサイズ、耐火物12の種類等により異なるので、予め実験により温度履歴を測定し、加熱時間t1を設定すればよい。
【0028】
以上のように、本発明によれば、予備用の混銑車10を稼働ラインから外しておくことにより、稼働ライン内の混銑車の回転率を向上させ、空の時間を短くして温度低下を抑制することができる。そして、予備用の混銑車10をバーナー2で加熱して溶銑を受銑可能な下限温度以上に維持することにより、非常時には迅速に稼働ラインに組み入れることができる。また、1台のバーナー2で複数の混銑車10を加熱する場合には、効率的に加熱することができ、保熱蓋3を用いれば、加熱後の温度低下速度が遅くなり、待機時間t2を長くすることができるので、加熱によるコストの削減を図ることができる。
【0029】
なお、上記実施の形態では、予備用の混銑車を全て稼働ラインから外してバーナーで加熱するものとしたが、予備用の混銑車のうち一部を稼働ラインに組み込み、残りの混銑車をバーナーで加熱するようにしてもよい。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、非常時に備えて予備用の混銑車を配備する製鉄所内において、予備用の混銑車を加熱する際の加熱方法として有用である。
【符号の説明】
【0032】
1 加熱装置
2 バーナー
3 蓋
4 着脱装置
10 混銑車
11 本体
12 耐火物
13 受銑口
14 首部
15 角部
図1
図2
図3
図4
図5