(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】シール及び軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
F16C33/78 E
F16C33/78 D
(21)【出願番号】P 2019119412
(22)【出願日】2019-06-27
【審査請求日】2022-02-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森下 茂
(72)【発明者】
【氏名】宇野 浩太
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035880(JP,A)
【文献】特開2012-117628(JP,A)
【文献】特開2011-069458(JP,A)
【文献】実開平03-073763(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72-33/82
F16J 15/3204-15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪部材と、前記外輪部材に挿入されて前記外輪部材とともに軸受空間を形成する内輪部材と、を有し、前記外輪部材と前記内輪部材とが同軸に配置され、軸周りに相対回転するように構成される軸受装置に用いられる環状のシールであって、
当該シールは、
前記外輪部材と前記内輪部材との間に配置されて前記軸受空間を密封し、
前記外輪部材及び前記内輪部材のうち一方の部材に固定され、
前記外輪部材及び前記内輪部材のうち他方の部材に対し、周方向の全体にわたって押し付けられる環状の接触面と、前記接触面に形成され、前記接触面の両周縁のうち前記軸受空間から遠い方の周縁である外側周縁に開口し、且つ、前記両周縁のうち前記軸受空間に近い方の周縁である内側周縁には開口しない溝と、を含
み、
前記溝は、前記外側周縁に向かうにつれて、前記一方の部材に対する前記他方の部材の回転方向の後方に傾斜する、シール。
【請求項2】
外輪部材と、前記外輪部材に挿入されて前記外輪部材とともに軸受空間を形成する内輪部材と、を有し、前記外輪部材と前記内輪部材とが同軸に配置され、軸周りに相対回転するように構成される軸受装置に用いられる環状のシールであって、
当該シールは、
前記外輪部材と前記内輪部材との間に配置されて前記軸受空間を密封し、
前記外輪部材及び前記内輪部材のうち一方の部材に固定され、
前記外輪部材及び前記内輪部材のうち他方の部材に対し、周方向の全体にわたって押し付けられる環状の接触面と、前記接触面に形成され、前記接触面の両周縁のうち前記軸受空間から遠い方の周縁である外側周縁に開口し、且つ、前記両周縁のうち前記軸受空間に近い方の周縁である内側周縁には開口しない溝と、を含み、
前記接触面には、複数の前記溝が前記周方向に間隔を空けて形成される、シール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシールであって、
前記溝は、前記接触面において、前記外側周縁から前記接触面の幅の半分までの範囲に形成される、シール。
【請求項4】
外輪部材と、
前記外輪部材に挿入されて前記外輪部材とともに軸受空間を形成し、前記外輪部材と同軸に配置され、前記外輪部材と軸周りに相対回転する内輪部材と、
請求項1から
3のいずれか1項に記載のシールと、
を備える、軸受装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の軸受装置であって、
さらに、前記外輪部材の軸方向の一端面に固定されて前記外輪部材と前記内輪部材との隙間を覆う環状板を備え、
前記シールは、前記軸方向において前記環状板と前記軸受空間との間に配置される、軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シール、及びこれを用いた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製銑工程では、鉄鉱石類及びコークスが高炉に装入され、高温下で化学反応することにより、銑鉄が製造される。粉鉱石をそのまま高炉に装入すると高炉で目詰まりが生じるため、高炉に装入する鉄鉱石類として、従来、粉鉱石を塊成化した焼結鉱が用いられている。焼結鉱は、粉鉱石、石灰石、及び粉コークス等からなる配合材料に造粒処理を施して焼結原料を生成し、この焼結原料を焼き固めることで生産される。
【0003】
焼結鉱の生産には、ドワイトロイド(DL)式焼結機が広く使用されている。DL式焼結機は、複数のパレット台車と、点火炉と、風箱群と、を備える。パレット台車は、焼結原料が供給される給鉱部から、焼結鉱が排出される排鉱部に向かって軌道上を走行する。点火炉は、パレット台車に装入された焼結原料の表面に点火する。風箱群は、給鉱部から排鉱部へと走行するパレット台車の下方に配置される。風箱群は、パレット台車の上方の空気を吸引して焼結原料中のコークスの燃焼を促進させる。
【0004】
パレット台車の車輪は、車軸に回転自在に支持される。パレット台車の安定走行を確保するためには、車輪と車軸との間に介在する軸受の管理が重要である。軸受が故障して転動体の円滑な転がり運動が損なわれると、パレット台車は軌道上を安定して走行することができなくなる。
【0005】
軸受の故障の原因の1つとして、転動体が配置される軸受空間内へのダストの侵入が挙げられる。具体的には、軸受空間内にダストが侵入すると、軸受空間内に充填されている潤滑剤がダストによって汚染される。潤滑剤中に分散したダストの粒子は、軸受空間内の転動体や、外輪及び内輪の軌道面を傷つけて摩耗させる。
【0006】
軸受の故障を防止するため、軸受空間への潤滑剤の供給頻度を高めることが考えられる。軸受空間に潤滑剤を供給することにより、軸受空間内の汚れた潤滑剤が押し出されて新たな潤滑剤に入れ替わるため、転動体、外輪、及び内輪に触れる潤滑剤が清浄化される。潤滑剤の供給には、公知の自動給脂装置を使用することができる。だだし、例えば、パレット台車の蛇行や車輪の摩耗等により、パレット台車の給脂口と自動給脂装置のノズルとの接続が不安定になることがある。そのため、自動給脂装置を使用する場合であっても、給脂の確実性を担保するため、定期的に作業者が手動で給脂作業を行っている。手動での給脂作業は、焼結機の運転中、つまりパレット台車の走行中に行うことになるため、非常に困難である。
【0007】
軸受の故障を防止するため、軸受空間を密封するシールを工夫することも考えられる。
【0008】
例えば、特許文献1は、外輪側に配置された第1スリンガと、内輪側に配置された第2スリンガと、第1スリンガと第2スリンガとの間に配置された弾性体と、を備える円環状のシールを開示する。第1及び第2スリンガは、それぞれ断面L字状をなし、端部同士が互いに近接するように配置される。弾性体は、第1スリンガに固定され、複数のリップで第2スリンガに摺接する。弾性体は、第1スリンガの端部と第2スリンガの端部との間に形成された開口部の近傍において、円環状対向面を有する。円環状対向面は、第2スリンガに微小な隙間を空けて対向する。円環状対向面には、周方向に延びる円環状リブと、円環状リブから径方向外側に向かって延びる複数の放射状リブと、が形成されている。
【0009】
特許文献1によれば、開口部からシール内に侵入したダストは、第2スリンガと円環状対向面との間に侵入するが、円環状リブによってさらなる侵入が阻止される。そして、円環状リブでせき止められたダストは、放射状リブによって開口部側に押しやられ、開口部から外部に排出される。
【0010】
特許文献2は、自動車関連の機器等で用いられるオイルシールを開示する。このオイルシールは、機器の外部へのオイルの漏洩を防止するための主リップと、機器の内部へのダストの侵入を防止するためのダストリップと、を有する。主リップ及びダストリップは、それぞれ、機器の内部側に設けられた内部側斜面と、機器の外部側に設けられた外部側斜面とを含み、これら傾斜面の交線であるリップ端で機器の軸に密接する。主リップの外部側斜面には、螺旋状の突起又は凹みが設けられる。
【0011】
特許文献2によれば、機器の軸が回転すると、主リップの外部側斜面に設けられた突起又は凹みがポンピング作用を発揮し、空気流を発生させる。この空気流は、ダストリップの内部側斜面、主リップの外部側斜面、及び機器の軸で画定される空間のダストを機器の外側に押し戻す。そのため、ダストがダストリップのリップ端を通過して当該空間に侵入したとしても、このダストは主リップのリップ端から遠ざかる方向に移送される。よって、主リップのリップ端へのダストの到達及び噛み込みが抑制される。
【0012】
特許文献3も、自動車等に用いられるオイルシールを開示する。このオイルシールは、機器の軸に接触する主リップと、機器の軸に非接触のダストリップと、を有する。主リップは、特許文献2におけるオイルシールの主リップと同様、線状のリップ端で機器の軸に接触する。主リップの内周面には、リップ端からダストリップ側に向かって螺旋状の突起又は溝が設けられている。ダストリップの内周面には、主リップの突起又は溝と反対方向に傾斜する突起が設けられている。
【0013】
特許文献3によれば、機器の軸が回転するとダストリップの突起が空気流を発生させるため、主リップ及びダストリップと機器の軸との間の空間にダストが侵入したとしても、空気流によってダストを排出することができる。一方、主リップの突起又は溝は、機器の内部から流出しようとするオイルを押し戻す空気流を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2012-251568号公報
【文献】特開2014-9753号公報
【文献】実開平6-73545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
軸受空間を密封するシールは、外輪側及び内輪側の部材のうちシールに対して相対的に回転する部材(回転部材)に押し付けられている。よって、理論上は、軸受空間内にダストが侵入することはできないはずである。しかしながら、現実には、ダストがシールを通過して軸受空間内に侵入するという問題が生じている。
【0016】
例えば、シールと回転部材との間には潤滑剤の膜が形成されており、シールが回転部材に完全に密接しているわけではない。そのため、潤滑剤の膜厚よりも小さいダストは、シールと回転部材との隙間に容易に潜り込む。また、外輪側の部材と内輪側の部材とが相対的に回転することにより、シールが軸受空間の外側又は内側に振動したり、シールと回転部材との隙間が変化したりする。これにより、潤滑剤の膜厚よりもわずかに大きいダストであっても、シールと回転部材との隙間に潜り込むことがある。シールにおいて回転部材に対する接触面のエッジが摩耗し、丸みを帯びた形状になった場合は、シールと回転部材との隙間にダストがさらに潜り込みやすくなる。
【0017】
潤滑剤の膜厚よりもわずかに大きいダストは、シールと回転部材との隙間に一旦潜り込むと、回転部材に対するシールの押付力によってその場に留まる。この状態で再度シールが振動すると、シールと回転部材との間に噛み込まれたダストが軸受空間側に移動する。これを繰り返すことにより、ダストは、シールの接触面の端まで到達し、最終的には潤滑剤の流れにのって軸受空間内に侵入する。
【0018】
特許文献1のシールは、第2スリンガに摺接するリップにダストが到達する前に、円環状リブによってダストをせき止める。ただし、円環状リブは、第2スリンガに接触していないか、わずかに接触するのみであるため、ダストを容易に通過させる。円環状リブをすり抜けたダストは、すぐにリップに到達し、リップと第2スリンガとの間に潜り込む可能性がある。その場合、ダストは、第2スリンガに対するリップの押付力によってその場に留まり、リップと第2スリンガとの間から脱出することができなくなる。リップと第2スリンガとの間に噛み込まれたダストは、シールの振動等によって徐々に移動し、軸受空間内に侵入するおそれがある。
【0019】
特許文献2及び3のオイルシールは、螺旋状の突起等によって空気流を発生させ、主リップのリップ端の手前でダストを押し戻す。しかしながら、空気流で押し戻すことができなかった一部のダストが、主リップのリップ端まで到達することも考えられる。主リップのリップ端は、機器の軸に対して線状に接触するものであるため、ダストを比較的容易に通過させる。よって、ダストがシールの内側に侵入するおそれがある。
【0020】
本開示は、軸受空間内へのダストの侵入をより確実に防止することができるシール、及びこれを用いた軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本開示に係るシールは、軸受装置に用いられる環状のシールである。軸受装置は、外輪部材と、内輪部材と、を有する。内輪部材は、外輪部材に挿入されて外輪部材とともに軸受空間を形成する。外輪部材と内輪部材とは、同軸に配置され、軸周りに相対回転するように構成される。シールは、外輪部材と内輪部材との間に配置されて軸受空間を密封する。シールは、外輪部材及び内輪部材のうち一方の部材に固定される。シールは、環状の接触面と、溝と、を含む。接触面は、外輪部材及び内輪部材のうち他方の部材に対し、周方向の全体にわたって押し付けられる。溝は、接触面に形成される。溝は、接触面の両周縁のうち、軸受空間から遠い方の周縁である外側周縁に開口する。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、軸受空間内へのダストの侵入をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、各実施形態に係るシールが用いられる軸受装置の縦断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係るシールの縦断面図である。
【
図4】
図4は、一般的なシールにおいて、接触面と回転部材との間にダストが噛み込まれたときのダストの挙動を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、
図2に示すシールにおいて、接触面と回転部材との間にダストが噛み込まれたときのダストの挙動を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係るシールの縦断面図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係るシールの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施形態に係るシールは、軸受装置に用いられる環状のシールである。軸受装置は、外輪部材と、内輪部材と、を有する。内輪部材は、外輪部材に挿入されて外輪部材とともに軸受空間を形成する。外輪部材と内輪部材とは、同軸に配置され、軸周りに相対回転するように構成される。シールは、外輪部材と内輪部材との間に配置されて軸受空間を密封する。シールは、外輪部材及び内輪部材のうち一方の部材に固定される。シールは、環状の接触面と、溝と、を含む。接触面は、外輪部材及び内輪部材のうち他方の部材に対し、周方向の全体にわたって押し付けられる。溝は、接触面に形成される。溝は、接触面の両周縁のうち、軸受空間から遠い方の周縁である外側周縁に開口する(第1の構成)。
【0025】
第1の構成に係るシールは、軸受装置の外輪部材及び内輪部材のうち一方の部材に固定される。このシールは、外輪部材及び内輪部材のうち他方の部材、すなわちシールに対して相対的に回転する部材(回転部材)に環状の接触面で接触する。接触面は、回転部材に対し、周方向の全体にわたって押し付けられているため、軸受空間へのダストの侵入を阻止することができる。
【0026】
また、第1の構成によれば、接触面には溝が形成されている。溝は、環状の接触面の両周縁のうち、軸受空間から遠い方の外側周縁に開口する。そのため、仮に、振動等によってシールの接触面と回転部材との間にダストが噛み込んだとしても、シールと回転部材とが相対回転しているうちに、接触面の溝によってダストを捕捉し、軸受空間と逆側に排出することができる。よって、軸受空間内へのダストの侵入をより確実に防止することができる。
【0027】
溝は、外側周縁に向かうにつれて、一方の部材に対する他方の部材の回転方向の後方に傾斜することが好ましい(第2の構成)。
【0028】
シールに対して回転部材が相対的に回転する場合、接触面の溝に捕捉されたダストの排出に、回転により発生する気流や遠心力等が寄与し得るとも考えられる。ただし、シールと回転部材とが低速で相対回転する場合には、気流や遠心力等も小さくなる。そこで、第2の構成では、接触面の外側周縁に向かうにつれて回転部材の回転方向の後方に傾斜するように溝を形成する。これにより、溝に捕捉されたダストは、シールに対して回転部材が回転するに伴い、溝に沿って接触面の外側周縁側に自然と移動する。よって、シールと回転部材とが低速で相対回転する場合であっても、シールの接触面と回転部材との間に噛み込まれたダストの排出を促すことができる。
【0029】
溝は、接触面において、外側周縁から接触面の幅の半分までの範囲に形成されることが好ましい(第3の構成)。
【0030】
第3の構成によれば、シールの接触面において、軸受空間から遠い側の領域のみに溝が形成されることになる。そのため、接触面と回転部材との間にダストが噛み込まれたとき、このダストが溝を介して軸受空間に不必要に近づくことがなく、ダストを早期に排出することができる。
【0031】
接触面には、複数の溝が周方向に間隔を空けて形成されていてもよい(第4の構成)。
【0032】
第4の構成によれば、シールの接触面に複数の溝が形成されている。そのため、例えば、シールに対して回転部材が一回転する間にシールが複数回振動し、接触面と回転部材との間に噛み込まれたダストが軸受空間側に複数回移動し得る場合であっても、早い段階で複数の溝のいずれかにダストを捕捉して排出することが可能となる。よって、軸受空間内へのダストの侵入をさらに確実に防止することができる。
【0033】
実施形態に係る軸受装置は、外輪部材と、内輪部材と、上記シールと、を備える。内輪部材は、外輪部材に挿入されて外輪部材とともに軸受空間を形成する。内輪部材は、外輪部材と同軸に配置され、外輪部材と軸周りに相対回転する。
【0034】
軸受装置は、さらに、環状板を備えることが好ましい。環状板は、外輪部材の軸方向の一端面に固定されて外輪部材と内輪部材との隙間を覆う。シールは、軸方向において環状板と軸受空間との間に配置される。
【0035】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0036】
[第1実施形態]
(軸受装置)
図1は、軸受装置10の縦断面図である。縦断面とは、軸受装置10の中心軸Xを含む平面で切断した断面をいう。軸受装置10の縦断面は中心軸Xに対して対称であるので、
図1では中心軸Xの片側の断面のみを示す。以下、中心軸Xが延びる方向を軸方向といい、中心軸Xに垂直な各方向を径方向という。また、中心軸Xを中心とする円の周方向を単に周方向という。
【0037】
図1を参照して、軸受装置10は、例えば、DL式焼結機のパレット台車等の足回りに設けられる。軸受装置10には、本実施形態に係るシール20a,20b,20cが取り付けられる。軸受装置10は、外輪部材11と、内輪部材12と、複数の転動体13と、保持器14と、環状板15と、を備える。
【0038】
外輪部材11は、外輪111と、車輪112と、カバー113と、を含む。
【0039】
外輪111は、中心軸Xを軸心とする概略円筒状をなす。外輪111の内周面には、転動体13が転動する軌道面1111,1112が設けられる。
【0040】
車輪112は、中心軸Xを軸心とする概略円筒状をなす。車輪112は、外輪111の外周面に固定される。車輪112の軸方向の一端面には、シール20aを収容するため、環状の凹部1121が形成されている。車輪112の軸方向の他端面には、カバー113が取り付けられる。
【0041】
カバー113は、中心軸Xを軸心とする概略円筒状をなす。カバー113は、シール20bを収容するため、その内周面に環状の凹部1131を有する。
【0042】
内輪部材12は、外輪部材11に挿入されて外輪部材11とともに軸受空間Sを形成する。内輪部材12は、外輪部材11と同軸に配置されている。言い換えると、外輪部材11及び内輪部材12は、互いの軸心が実質的に一致するように配置されている。外輪部材11及び内輪部材12は、中心軸X周りに相対回転する。例えば、軸受装置10において内輪部材12を回転不能に固定し、外輪部材11を中心軸X周りに回転させることができる。あるいは、軸受装置10において外輪部材11を回転不能に固定し、内輪部材12を中心軸X周りに回転させてもよい。本実施形態では、外輪部材11が車輪112を含むため、内輪部材12を固定し、外輪部材11を中心軸X周りに回転させる。
【0043】
内輪部材12は、内輪121と、車軸122と、カバー123と、を含む。
【0044】
内輪121は、外輪111の内側に配置されている。内輪121は、中心軸Xを軸心とする概略円筒状をなす。内輪121の外周面には、外輪111の軌道面1111,1112に対応して、軌道面1211,1212が設けられる。
【0045】
車軸122は、軸方向に延びている。車軸122の軸方向の端部には、内輪121及びカバー123が取り付けられる。内輪121及びカバー123は、車軸122の外周面に固定される。
【0046】
カバー123は、車輪112を挟んでカバー113の反対側に配置されている。カバー123は、板部1231と、突出部1232と、を含む。板部1231は、中心軸Xを軸心とする概略円環状のプレートである。板部1231は、凹部1121が形成された車輪112の端面に対向する。突出部1232は、板部1231の内周部に設けられ、内輪121側に突出する。突出部1232には、シール20cが装着される。
【0047】
外輪部材11と内輪部材12との間には、環状の軸受空間Sが形成される。軸受空間S内には、転動体13及び保持器14が配置される。軸受空間S内には、グリス又は油等の潤滑剤が充填される。
【0048】
複数の転動体13は、軸受空間S内において周方向に配列されている。本実施形態では、軸受空間S内に転動体13の列が二列設けられている。一方の転動体13の列は、外輪111の軌道面1111及び内輪121の軌道面1211上で転動する。他方の転動体13の列は、外輪111の軌道面1112及び内輪121の軌道面1212上で転動する。各列の転動体13は、保持器14によって等間隔に保持されている。本実施形態の例では、転動体13は円すいころであるが、円筒ころや玉等であってもよい。
【0049】
環状板15は、中心軸Xを軸心とする円環板である。環状板15は、軸受装置10の軸方向の一端側で、外輪部材11と内輪部材12との隙間Gを覆う。すなわち、環状板15は、外輪部材11の軸方向の一端面と、内輪部材12の軸方向の一端面とに跨って配置されている。環状板15は、外輪部材11の軸方向の一端面に固定される。本実施形態において、環状板15は、ねじ等の締結部材16により、外輪部材11の車輪112に固定されている。環状板15は、内輪部材12の軸方向の一端面、すなわちカバー123には固定されていない。
【0050】
(シール)
軸受装置10には、環状のシール20a,20b,20cが取り付けられる。シール20a,20cは、軸方向において環状板15と軸受空間Sとの間に配置される。シール20bは、軸受空間Sを挟んでシール20a,20cの反対側に配置される。本実施形態の例では、シール20a,20b,20cは、全体が弾性体である。シール20a,20b,20cの材質としては、種々のものを採用することができる。シール20a,20b,20cの材質は、例えば、天然ゴムや、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、もしくはシリコンゴム等といった合成ゴム、又は耐熱性を有するテフロン(登録商標)等である。ただし、シール20a,20b,20cは、必ずしも全体が弾性体で構成されていなくてもよい。例えば、外輪部材11又は内輪部材12にシール20a,20b,20cを保持させるため、シール20a,20b,20cは、弾性体に環状の金属部材が埋め込まれたものであってもよい。
【0051】
シール20a,20b,20cの各々は、外輪部材11と内輪部材12との間に配置されて軸受空間Sを密封する。シール20,20b,20cは、それぞれ、外輪部材11及び内輪部材12のうち一方の部材に固定され、外輪部材11及び内輪部材12のうち他方の部材に押し付けられて接触する。
【0052】
シール20aは、外輪部材11に固定され、内輪部材12に押し付けられて接触する。より詳細には、シール20aは、外輪部材11の車輪112において、凹部1121内に収容され、凹部1121の径方向内側の環状壁面に嵌め合わされる。シール20aは、車輪112と、内輪部材12のカバー123との間で圧縮される。シール20aは、カバー123の板部1231に対して押し付けられる。
【0053】
シール20bも、外輪部材11に固定され、内輪部材12に押し付けられて接触する。より詳細には、シール20bは、外輪部材11のカバー113において、環状の凹部1131に収容されて固定される。シール20bは、カバー113と、内輪部材12の車軸122との間で圧縮される。シール20bは、車軸122の外周面に対して押し付けられる。
【0054】
シール20cは、径方向においてシール20aの内側に配置されている。シール20cは、シール20aとは逆に、内輪部材12に固定され、外輪部材11に押し付けられて接触する。より詳細には、シール20cは、内輪部材12において、カバー123の突出部1232と嵌まり合う。シール20cは、カバー123の板部1231と、外輪部材11の車輪112との間で圧縮される。シール20cは、車輪112に対して押し付けられる。
【0055】
次に、
図2を参照しつつ、シール20cの詳細な構造について説明する。
図2は、軸受装置10に取り付けられた状態のシール20cの縦断面図である。なお、シール20a(
図1)は、シール20cを
図2の紙面上で左右反転させた構成を有する。シール20b(
図1)の構成は、
図2の紙面上でシール20cを時計回りに90°回転させた構成と概ね等しい。このため、シール20a,20bについては詳細な構造の説明を省略する。
【0056】
図2に示すように、シール20cは、それぞれ環状のシール本体21及びリップ22を有する。シール20cは、いわゆるVリングである。シール20cは、シール本体21とリップ22との間に、断面が概略V字状のポケット23を有する。シール本体21は、内輪部材12のカバー123の突出部1232に嵌合する。リップ22は、シール本体21と一体的に形成される。リップ22は、シール本体21の内周部に接続されている。
【0057】
リップ22は、軸受空間Sへのダストの侵入を防止するとともに、軸受空間Sからの潤滑剤の排出を許容する。
図2において二点鎖線で示すように、シール20cが軸受装置10に取り付けられていない状態では、リップ22は、径方向の外側に向かうにつれてシール本体21から離れるように延びている。シール20cを軸受装置10に取り付けたとき、リップ22は外輪部材11の車輪112に押し付けられる。すなわち、リップ22は、外輪部材11に対し、接触面221で接触する。
【0058】
接触面221は、周方向の全体にわたって外輪部材11に押し付けられる環状の面である。接触面221は、径方向において所定の幅W1を有する。幅W1は、例えば3mm以上である。接触面221は、外側周縁2211及び内側周縁2212を有する。環状の接触面221の両周縁のうち、軸受空間Sから遠い方の周縁が外側周縁2211であり、軸受空間Sに近い方の周縁が内側周縁2212である。本実施形態の例では、接触面221が径方向に幅W1を有する環状面であるため、外側周縁2211は、径方向において内側周縁2212の外側に位置している。
【0059】
接触面221には、溝222が形成されている。溝222は、接触面221の外側周縁2211に開口する。溝222は、接触面221の内側周縁2212に向かって延びている。ただし、溝222は、内側周縁2212には到達しない。
【0060】
図3は、シール20cを接触面221側から見た図(正面図)である。
図3を参照して、本実施形態の例では、シール20cは、複数の溝222を有する。溝222は、シール20cの接触面221において、周方向に間隔を空けて形成されている。ただし、接触面221には、少なくとも1つの溝222が設けられていればよい。接触面221は、内輪部材12(
図2)に押圧接触して軸受空間Sへのダストの侵入を阻止するものであるため、溝222の数はできるだけ少ない方が好ましい。例えば、接触面221には、4本以下の溝222が設けられる。
【0061】
各溝222は、シール20cの径方向に対して傾斜する。各溝222は、接触面221の外側周縁2211に向かうにつれて回転方向Rの後方に傾斜する。つまり、各溝222において、接触面221の外側周縁2211に開口する開口端2221は、これと反対側の端2222よりも回転方向Rで後方に位置する。回転方向Rは、外輪部材11及び内輪部材12のうち(
図2)、シールが固定される一方の部材に対し、他方の部材が相対的に回転する方向である。シール20cに関していえば、回転方向Rは、シール20cが固定される内輪部材12に対し、外輪部材11が相対的に回転する方向である。
【0062】
溝222は、接触面221において、外側周縁2211から幅W1の半分までの範囲に形成されている。すなわち、溝222は、外側周縁2211と内側周縁2212との中間に位置する中間線L1で接触面221を二分したとき、外側周縁2211側の領域221aに収まるように配置される。接触面221の内側周縁2212側の領域221bには、溝222は形成されていない。接触面221において溝222が占める面積はわずかである。例えば、接触面221全体に対する溝222の割合は、面積率で2%以下であることが好ましい。
【0063】
[実施形態の効果]
本実施形態に係るシール20cは、環状の接触面221と、この接触面221に形成された溝222と、を含んでいる。接触面221は、周方向の全体にわたって外輪部材11に押し付けられるため、軸受空間Sへのダストの侵入を阻止することができる。一方、溝222は、接触面221の外側周縁2211に開口する。そのため、接触面221と外輪部材11との間にダストが噛み込んだとしても、外輪部材11がシール20cに対して回転しているうちに、溝222がダストを捕捉し、軸受空間Sの逆側に排出することができる。
【0064】
溝222によってダストが排出される仕組みについて、
図4及び
図5を参照しつつ、具体的に説明する。
図4は、一般的なシール90において、シール90に対して相対的に回転する部材(回転部材)と接触面921との間にダストが噛み込まれたときのダストの挙動を説明するための模式図である。
図5は、本実施形態に係るシール20cにおいて、シール20cに対して相対的に回転する部材(回転部材)と接触面221との間にダストが噛み込まれたときのダストの挙動を説明するための模式図である。
【0065】
まず、
図4を参照して、シール90に対して回転部材が回転方向Rに回転しているとき、シール90には、二点鎖線で示すように微小な振動幅の振動が発生する。シール90の接触面921が軸受空間Sの逆側(外側)に振動したり、振動によって接触面921が回転部材から離れたりした場合、接触面921の外側周縁9211の近傍にあったダストdは、接触面921と回転部材との間に噛み込まれる。このダストdは、接触面921が元の位置に戻っても、接触面921と回転部材との間に噛み込まれたままである。この状態で再び接触面921が外側に振動すると、ダストdは、接触面921と回転部材との間にさらに深く入り込む。これを繰り返すうちに、ダストdが接触面921の内側周縁9212に到達し、内側周縁9212を抜けて軸受空間Sに侵入する。軸受空間S側に侵入したダストdは、潤滑剤の流れにのり、軸受空間Sに充填された潤滑剤全体を汚染する。
【0066】
これに対し、
図5に示すように、本実施形態に係るシール20cでは、接触面221と回転部材との間に噛み込まれたダストdは、シール20cに対して回転部材が回転方向Rに回転しているうちに、溝222に捕捉される。ダストdは、回転方向Rの後方に延びる溝222に案内され、外側周縁2211側の開口端2221から排出される。よって、本実施形態に係るシール20cによれば、接触面221と回転部材との間にダストが噛み込まれたとしても、このダストの排出を促すことができ、軸受空間S内へのダストの侵入をより確実に防止することができる。
【0067】
本実施形態において、溝222は、接触面221の外側周縁2211に向かうにつれて、シール20c及び内輪部材12に対する外輪部材11の回転方向Rの後方に傾斜する。このようにすることで、内輪部材12に対する外輪部材11の相対回転速度が、例えば3~6rpm程度の低速であっても、溝222内のダストを外側周縁2211側に案内して排出することができる。ただし、内輪部材12に対する外輪部材11の相対回転速度が大きい場合には、溝222を傾斜させず、回転方向Rの法線に沿って延びるように設けてもよい。相対回転速度が大きい場合、溝222内のダストの排出に気流や遠心力の寄与を期待することができるためである。
【0068】
本実施形態では、溝222は、接触面221において、外側周縁2211から幅W1の半分までの範囲に形成されている。これにより、溝222に捕捉されたダストを、軸受空間Sに不必要に近づけることなく排出することができる。
【0069】
本実施形態において、接触面221には、複数の溝222が周方向に間隔を空けて形成されている。これにより、例えば、シール20cに対して外輪部材11が一回転する間にシール20cの振動が複数回発生し、接触面221と外輪部材11との間に噛み込まれたダストが複数回移動する場合であっても、このダストを早い段階で溝222のいずれかに捕捉し、排出することが可能となる。そのため、軸受空間S内へのダストの侵入をさらに確実に防止することができる。
【0070】
例えば、高温下で使用されていた軸受装置10が冷却されたとき、軸受空間S内の潤滑剤の体積収縮が生じ、接触面221と外輪部材11との間に存在するダストが潤滑剤とともに軸受空間Sに引き込まれる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、溝222により、接触面221と外輪部材11との間のダストを常時排出することができる。そのため、軸受装置10が冷却されて潤滑剤の体積収縮が生じたとしても、接触面221と外輪部材11との間から軸受空間Sに引き込まれるダストはほとんどないか、少量である。よって、ダストによる軸受空間S内の潤滑剤の汚染を防止することができる。
【0071】
軸受空間S内の潤滑剤がシール20a,20cを抜け、外輪部材11と内輪部材12との隙間Gから軸受装置10の外部に排出された際、この潤滑剤が塊を形成し、ダストを吸着することがある。ダストを吸着した潤滑剤が隙間G付近に存在する場合、この隙間Gから軸受装置10内にダストが侵入するおそれがある。これに対して、本実施形態では、外輪部材11の軸方向の一端面に環状板15が固定され、この環状板15によって隙間Gが覆われる。そのため、ダストを吸着した潤滑剤が隙間Gに接近することができなくなる。よって、隙間Gを介して軸受装置10内にダストが侵入するのを防止することができる。
【0072】
隙間Gを覆う環状板15の内周側は、内輪部材12に固定されていない。そのため、軸受空間Sに新たな潤滑剤が供給され、古い潤滑剤が軸受空間Sから押し出されたとき、古い潤滑剤を環状板15の内周側から軸受装置10の外部に排出することができる。
【0073】
[第2実施形態]
図6を参照しつつ、第2実施形態に係るシール30について説明する。
図6は、
図1に示す軸受装置10に取り付けられた状態のシール30の縦断面図である。
【0074】
図6に示すように、シール30は、第1実施形態に係るシール20c(
図2)を紙面上で反時計回りに90°回転させた構成を有する。ただし、シール30は、外輪部材11に対し、接触面221に加えて接触面321でも接触する点で、第1実施形態に係るシール20cと相違する。
【0075】
接触面221は、周方向の全体にわたって外輪部材11に押し付けられる環状の面である。本実施形態では、接触面221は、軸方向において所定の幅W1を有する。そのため、接触面221の外側周縁2211及び内側周縁2212は、軸方向に並んでいる。
【0076】
接触面321も、接触面221と同様、周方向の全体にわたって外輪部材11に押し付けられる環状の面である。ただし、接触面321は、径方向において所定の幅W2を有する。幅W2は、例えば3mm以上である。接触面321には、少なくとも1つの溝322が形成されている。溝322は、接触面321の両周縁3211,3212のうち、軸受空間Sから遠い方の外側周縁3211に開口する。溝322の構成は、接触面221の溝222と同様である。
【0077】
本実施形態に係るシール30では、第1実施形態に係るシール20cと比較して、軸受空間Sからより遠い位置に接触面221が配置されている。そのため、軸受空間Sからより遠い位置で溝222によるダストの排出を行うことができる。さらに、本実施形態に係るシール30は、接触面221よりも軸受空間S側に、2つめの接触面321を有する。よって、仮にダストが1つめの接触面221を通過したとしても、2つめの接触面321によって軸受空間Sへのダストの侵入を阻止することができる。また、接触面321にも、接触面221と同様に溝322が形成されているため、接触面321と外輪部材11との間にダストが噛み込んだとしても、この溝322によって軸受空間Sの逆側にダストを排出することができる。
【0078】
[第3実施形態]
図7を参照しつつ、第3実施形態に係るシール40について説明する。
図7は、
図1に示す軸受装置10に取り付けられた状態のシール40の縦断面図である。
【0079】
図7に示すように、シール40も、第1及び第2実施形態と同様に、接触面221及び溝222を有する。ただし、第1実施形態に係るシール20c(
図2)及び第2実施形態に係るシール30(
図6)が概略V字状の断面を有するVリングであるのに対し、シール40は概ね四角形状の断面を有する。
【0080】
Vリングであるシール20c(
図2)及びシール30(
図6)では、シール本体21とリップ22との間のポケット23が存在する。このポケット23には、溝222の機能によって接触面221と外輪部材11との間から排出されたダストや、軸受空間Sから押し出された古い潤滑剤が滞留しやすい。ポケット23内に滞留した潤滑剤の劣化が進行すると、リップ22の動作が悪化する。
【0081】
一方、
図7に示すように、本実施形態に係るシール40は、ポケットを有しないため、ダスト及び潤滑剤を滞留させることがない。また、シール40は、Vリングと比較して外輪部材11に対する押付力が強いため、接触面221と外輪部材11との間へのダストの噛み込みが少ない。ただし、Vリングの方が、外輪部材11に対する接触面221の接触圧を調整しやすく、軸受装置10への組み付け性の点で有利である。組み付け性を向上させるため、シール40において、接触面221よりも軸受空間S側の部分に肉抜き加工を施すことが好ましい。
【0082】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0083】
例えば、上記実施形態に係るシール20c,30,40は、内輪部材12に固定されているが、外輪部材11に固定されてもよい。シール20c,30,40が外輪部材11に固定される場合、接触面221,321は、内輪部材12に押し付けられて接触する。
【0084】
上記実施形態において、シール20c,30,40が用いられる軸受装置10は、転がり軸受装置である。ただし、シール20c,30,40は、すべり軸受装置に使用されてもよい。本開示に係るシールは、DL式焼結機のパレット台車の軸受装置だけでなく、様々な軸受装置に使用することができる。
【0085】
上記実施形態に係る軸受装置10において、環状板15は、中心軸X周りに回転する外輪部材11に固定されている。外輪部材11が固定され、内輪部材12が中心軸X周りに回転する場合であっても、遠心力は径方向の外側に向かって働くため、環状板15は外輪部材11に固定される。ただし、軸受装置10の内部の潤滑剤を積極的に排出させたい場合は、内輪部材12に環状板15を取り付けてもよい。なお、軸受装置10は、環状板15を備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10:軸受装置
11:外輪部材
12:内輪部材
15:環状板
S:軸受空間
20a,20b,20c,30,40:シール
221,321:接触面
2211,3211:外側周縁
2212,3212:内側周縁
222,322:溝