(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】多電極サブマージアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/18 20060101AFI20230802BHJP
【FI】
B23K9/18 A
B23K9/18 F
(21)【出願番号】P 2019124936
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】中村 修一
(72)【発明者】
【氏名】野元 将志
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-147770(JP,A)
【文献】実開平05-060666(JP,U)
【文献】特開2016-022504(JP,A)
【文献】特開2004-025200(JP,A)
【文献】特開平09-314375(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314756(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104014948(CN,A)
【文献】特開平09-099390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極を使用してサブマージアーク溶接を行う多電極サブマージアーク溶接方法であって、
隣り合って配置されたいずれか2本の電極の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極にワイヤ径が2.5~6.5mmで、かつ表面に黒色処理が施されたワイヤを消耗電極として使用
し、前記電極の極性をDCまたはAC、前記電極に供給する電流を400~1500A、電圧を32~46V、溶接速度を50~70cm/minとすることを特徴とする多電極サブマージアーク溶接方法。
【請求項2】
複数の電極を使用してサブマージアーク溶接を行う多電極サブマージアーク溶接により溶接継手を製造する溶接継手の製造方法であって、
隣り合って配置されたいずれか2本の電極の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極にワイヤ径が2.5~6.5mmで、かつ表面に黒色処理が施されたワイヤを消耗電極として使用し
、前記電極の極性をDCまたはAC、前記電極に供給する電流を400~1500A、電圧を32~46V、溶接速度を50~70cm/minして鋼板を溶接することを特徴とする溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電極を使用するサブマージアーク溶接方法および当該サブマージアーク溶接方法により製造する溶接継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、造船、海洋構造物、建築構造物、建設機械、ラインパイプの大型化に伴い、板厚が20~178mmの厚鋼板が使用されることが多くなっている。これら厚鋼板の溶接では、溶接施工能率の高いサブマージアーク溶接が頻繁に用いられ、両面または片面の1パス~多層パスにて溶接継手が作製される。サブマージアーク溶接用ワイヤには表層に銅めっきが施されたワイヤが用いられ、電気抵抗が少なく通電性がよいことから、高電流-高電圧の条件下で溶接を行ってもアークが安定し、溶接入熱を高くすることできるので、大きな溶着量を得ることができる。一方で溶接入熱を上げた場合には、母材の溶接熱影響部が過剰に加熱されることで靭性が劣化する。そのため、入熱量を変えずに溶着量を増やすことが可能な効率性の高い溶接方法が要求されている。
【0003】
サブマージアーク溶接は電極を複数同時に使用して溶接する多電極サブマージアーク溶接も行われており、電極数が増えることで入熱量は増加し、1回の溶接で大きな溶着量が得られるため、溶接施工効率も高い。そのため、建屋内での厚鋼板の溶接においては多電極サブマージアーク溶接が頻繁に使用されている。
【0004】
近年、溶接能率を低下させずに健全な溶接ビードが得られる多電極サブマージアーク溶接方法が検討されている。
特許文献1には、多電極サブマージアーク溶接による高速溶接において、最終電極と直前の電極の極間距離を近づけ、且つ、最終電極に矩形波交流の電流と電圧を供給することで最終電極のアーク切れを防止して溶接欠陥の無い溶接継手が得られる方法が開示されている。
特許文献2には、片面の多電極サブマージアーク溶接において第1電極と第2電極の電極間距離を規定範囲とし、第1電極を後退角に第2電極を前進角に傾斜させて溶接を行うことで、高速の片面溶接を可能にする安定した裏ビードが得られる溶接方法が提案されている。
特許文献3には、2電極のサブマージアーク溶接において、電極間距離を接近させ、各電極の電流と電圧を規定範囲とすることで、スラグ巻き込みを抑制した健全な溶接ビードが得られるとされている。
特許文献4には、3電極以上の多電極サブマージアーク溶接方法において第1電極と第2電極に細径の溶接ワイヤを使用して電流密度を高くすることで、従来と同等の溶け込みを確保しながら溶接入熱を低減し、且つ、電極間距離を規定範囲にすることで高電流密度化に伴うアーク圧力上昇によって生じる溶融池内の乱流を抑制することで溶接欠陥が発生しない溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-176475号公報
【文献】特開平8-99178号公報
【文献】特公昭58-011312号公報
【文献】国際公開第2009/104806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1では、高速溶接性を確保することが目的であり、溶着効率については何ら検討が為されていない。
また、上記特許文献2では、健全で且つ安定した裏ビードを確保するのが目的であり、溶着効率については何ら検討が為されていない。
また、上記特許文献3では、極厚鋼板を狭開先にて多層盛り溶接した際にスラグ巻き込みを発生しないことを目的としており、溶着効率については何ら検討されていない。
さらに、上記特許文献4では、主に第1電極と第2電極の電流密度を高めるために細径ワイヤを使用しているが、その結果、ワイヤの溶融量は減少するため、溶着効率は高くない。
【0007】
そこで、本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、入熱量を高めずに高い溶着効率を得る2電極以上の多電極サブマージアーク溶接方法を検討した。
一般的に溶着量はワイヤ溶融によって得られ、その溶融量は入熱量(電流×電圧/溶接速度)に比例する。一方で電流または電圧を上げれば溶融量も増加するが、母材に投入される熱量も同時に大きくなるため、溶接熱影響部の組織が粗大化して靱性は劣化する。従って、入熱量を上げる以外でワイヤの溶融を増加する手段が求められる。入熱量を上げずにワイヤの溶融を促進する方法の一つとして、溶接ワイヤを事前に通電にて加熱して供給することで溶融速度を上げる方法が知られている。
【0008】
しかし、サブマージアーク溶接に使用されるワイヤはガスシールドアーク溶接に使用される溶接ワイヤよりも太径のワイヤが使用され、それを数百℃に加熱するには溶接電源とは別に大きな電源が必要となるため、実用的とは言い難い。そのため、複数の電極を使用する多電極サブマージアーク溶接方法に着目し、電極間の距離、ワイヤ径及び表面状態を検討することで、入熱量を上げずにワイヤ溶融を促進できることを新たに知見した。
【0009】
まず、2電極サブマージアーク溶接において電極間距離とワイヤの溶融速度の関係について検討した結果、電極間距離がある位置より短くなるとワイヤの溶融量が増加することがわかり、2つの電極がお互いのワイヤ溶融に影響していることがわかった。
これは、ワイヤ溶融量が増加する電極間距離よりも短い範囲では、2つの電極から発生するアークが1つのアークドームを形成し、互いのアークから発生している輻射熱がワイヤを加熱することで溶融を促進していると考えられる。そこで、輻射熱を吸収しやすいワイヤの表面状態及び本発明に好適なワイヤ径を検討した。その結果、従来、サブマージアーク溶接で使用される銅めっきを施したワイヤではなく、銅めっきのないワイヤ、またはワイヤ表面を黒色処理したワイヤを用いれば、さらにワイヤ溶融量が増加するという知見が得られた。
【0010】
本発明は上述した知見に基づいてなされたものであり、造船、海洋構造物、建築構造物、ラインパイプなどに使用される厚鋼板の溶接において、入熱量を増加させずに大きな溶着量が得られる高能率な多電極サブマージアーク溶接方法およびその多電極サブマージアーク溶接により製造する溶接継手の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の多電極サブマージアーク溶接方法は、複数の電極を使用してサブマージアーク溶接を行う多電極サブマージアーク溶接方法であって、
隣り合って配置されたいずれか2本の電極の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極にワイヤ径が2.5~6.5mmの銅めっきを施していないワイヤを消耗電極として使用することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の他の多電極サブマージアーク溶接方法は、複数の電極を使用してサブマージアーク溶接を行う多電極サブマージアーク溶接方法であって、
隣り合って配置されたいずれか2本の電極の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極にワイヤ径が2.5~6.5mmで、かつ表面に黒色処理が施されたワイヤを消耗電極として使用することを特徴とする。
【0013】
さらに、上記目的を達成するために、本発明の溶接継手の製造方法は、複数の電極を使用してサブマージアーク溶接を行う多電極サブマージアーク溶接により溶接継手を製造する溶接継手の製造方法であって、
隣り合って配置されたいずれか2本の電極の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極にワイヤ径が2.5~6.5mmの銅めっきを施していないワイヤを消耗電極として使用して鋼板を溶接することを特徴とする。
また、本発明の溶接継手の製造方法は、複数の電極を使用してサブマージアーク溶接を行う多電極サブマージアーク溶接により溶接継手を製造する溶接継手の製造方法であって、
隣り合って配置されたいずれか2本の電極の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極にワイヤ径が2.5~6.5mmで、かつ表面に黒色処理が施されたワイヤを消耗電極として使用して鋼板を溶接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、めっき無し、または、黒色の表面処理加工を行ったワイヤを消耗電極として使用し、その電極間距離を近接させた配置にて溶接を行うことにより、電極から発生するアークによる輻射熱によってお互いのワイヤを加熱することでワイヤ溶融を促進させることができる。したがって、主に厚鋼板の多電極サブマージアーク溶接方法において溶接入熱(入熱量)を上げなくてもワイヤ溶融量を増加させることができるため、溶接施工効率を高くすることができる。さらに母材に投入される入熱量の増加がないため、溶接継手における溶接熱影響部の靱性の劣化も抑制することができる。このため、産業上の効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態を示すもので、(a)は2電極サブマージアーク溶接の溶接部を示す側断面図、(b)は同正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1を参照して本発明の多電極サブマージアーク溶接方法および溶接継手の製造方法の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態では、2本の電極4,6を使用してサブマージアーク溶接を行う。しかし、本発明では、電極は2本以上で複数あればよく、溶接部に沿って直線状に配置される。電極の数は多いほどワイヤの溶融量を多くすることができるが、多くても4本以下とすることが好ましい。
【0017】
電極が3本以上あるサブマージアーク溶接装置で溶接を行う場合、隣り合って配置された2本の電極(電極対)のうち、すべての電極対が上記の条件を満足する必要はなく、少なくとも1組の電極対が上記の条件を満足していれば、その電極対において本発明の効果を得ることができる。例えば、4電極サブマージアーク溶接装置を用いる場合、第1電極と第2電極からなる電極対のみが上記の条件を満足していれば、当該電極対で発明の効果を得ることができる。本発明の効果を最大限に得るには、すべての電極対が上記の条件を満足していることが好ましい。
電極間距離、ワイヤ径及びワイヤの種類(表面状態)については以下に示すとおりであるが、これら以外の事項について、従来から常用されているサブマージアーク溶接と同様の条件を適用すればよい。例えば、隣り合って配置された2本の電極のうち、一方の電極については、サブマージアーク溶接の消耗電極として常用されている銅めっきを施したワイヤを消耗電極として使用することができる。
【0018】
以下、本実施の形態について詳細に説明する。
図1において、符号1は溶接される鋼板、2は溶接フラックスを示す。
図1に示すように、隣り合って配置された2本の電極4,6の電極間距離Dを8~24mmとしている。電極4,6はそれぞれワイヤ4,6であり、当該ワイヤ4,6は溶接トーチ3,5に保持されている。なお、溶接トーチ3が先行極の溶接トーチ、ワイヤ4が先行極の溶接ワイヤであり、溶接トーチ5が後行極の溶接トーチ、ワイヤ6が後行極の溶接ワイヤである。なお、
図1(a)中、白抜矢印は溶接の方向を示している。
【0019】
上記2本のワイヤ4,6のうち、一方のワイヤ(消耗電極)4で発生するアークの輻射熱を他方のワイヤ(消耗電極)6の加熱に使用するためには、2つの電極間距離Dを調整する必要がある。電極間距離Dが24mm以下であると、2つの電極間で発生するアークが1つのアークドームを形成するようになるため、ワイヤ4,6がアーク輻射熱を直接受けることができるようになる。また、サブマージアーク溶接時のアークドームは溶融したスラグ(溶接フラックス)2で覆われることでアーク光の放散を抑制し、さらにアークドームの壁となっている溶融スラグ2はアーク光の一部を反射してワイヤ4,6に輻射熱を供給することができる。しかし、電極間距離Dが8mm未満になると、電極(ワイヤ4,6)の距離が近づき過ぎることで、お互いのアーク干渉が顕著となり、アークが不安定となって短絡が発生しやすくなる。このため、電極間距離Dは8~24mmとする。アーク輻射熱によるワイヤ加熱効果をより顕著に得るために、電極間距離Dの上限を21mmとすることが好ましく、19mmとすることがより好ましい。
【0020】
隣り合って配置された2本の電極(ワイヤ4,6)のうち、少なくとも一方の電極4(または6)は、ワイヤ径が2.5~6.5mmとなっている。
本実施の形態において、アーク輻射熱によるワイヤ加熱効果を得るには、隣り合って配置された2本の電極4,6の少なくとも一方の電極4(または6)にワイヤ径が2.5~6.5mmであるワイヤを使用することが必要である。
【0021】
サブマージアーク溶接時にワイヤ4,6が輻射熱を受ける範囲は溶接トーチ3,5のコンタクトチップ先端からワイヤ先端のアークが発生する範囲までであり、加熱時間はワイヤ送給速度に依存する。ワイヤ径が2.5mm未満となると、ワイヤ送給速度が速くなるため、輻射熱による加熱時間が十分では無く、ワイヤ溶融促進効果が減少する。一方、ワイヤ径が6.5mmを超えると、ワイヤ径が太くなることでワイヤ送給速度が減少して加熱時間は長くなるが、ワイヤ体積が増加することでワイヤ温度が十分に上がらず、ワイヤ溶融促進効果が顕著に減少する。このため、ワイヤ4,6のワイヤ径は2.5~6.5mmとする。アーク輻射熱によるワイヤ溶融促進効果を安定的に得るには、ワイヤ径の上限を6.1mmとするのが好ましく、5.5mmとするのがより好ましく、5.2mmとするのが最も好ましい。またワイヤ径の下限は3.1mmとするのが好ましく、3.4mmとするのがより好ましい。
このように、本実施の形態では、隣り合って配置された2本の電極(ワイヤ)4,6の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極4(または6)にワイヤ径が2.5~6.5mmの銅めっきを施していないワイヤを消耗電極として使用して鋼板1を溶接する。
【0022】
また、本実施の形態において、発明の効果を十分に得るには、下記ワイヤの表面状態を満足することを条件として、隣り合って配置された2本のワイヤ4,6のワイヤ径が2.5~6.5mmであることが好ましい。
しかしながら、どちらか1本のワイヤ径が2.5~6.5mmであっても効果は得られる。すなわち、2本ワイヤ4,6のうち、先行するワイヤ4にワイヤ径が2.5~6.5mmのものを使用し、後行するワイヤ6にワイヤ径が2.5~6.5mmから外れるものを使用した場合、先行ワイヤ4は後行ワイヤ6から発生するアークの輻射熱を受けて先行ワイヤの溶融促進効果が得られるが、後行ワイヤ6の溶融促進効果は不十分となる。よって、本発明の効果を十分に得るには隣り合って配置された2本のワイヤ4,6両方のワイヤ径を2.5~6.5mmとするのが好ましい。
【0023】
上記ワイヤ径を有するワイヤ4,6の表面には銅めっきが施されていない。
すなわち、サブマージアーク溶接に使用されるワイヤは、通常、通電性や耐錆性を確保するために銅めっきが施される。ワイヤ表面がアーク光を吸収し、それが輻射熱となってワイヤを加熱するには、ワイヤ表面のアーク光の吸収率が重要となる。銅めっきのアーク光の吸収率は大きくないため、効率的にアーク光を吸収するためには、溶接ワイヤ4,6に銅めっきを施していないワイヤを消耗電極として使用することが必要である。ワイヤ4,6をいわゆる裸ままとすることで銅めっきを施したワイヤに比べてアーク光の吸収率が約6倍大きくなるため、大きなワイヤ加熱を得ることができる。なお、ワイヤの送給性や耐錆性を確保するために、表面に潤滑油などの塗布を行ったとしても本発明の効果に何ら影響を及ぼさない。
【0024】
以上が本発明における多電極サブマージアーク溶接方法の実施形態であるが、さらに、本発明の効果を高めるために必要に応じてワイヤ4,6に表面処理を施してもよい。
【0025】
本発明における多電極サブマージアーク溶接方法の他の実施形態では、上記ワイヤ径を有するワイヤ4,6の表面に黒色処理が施されている。
すなわち、ワイヤ4,6の表面に銅めっきを施さない代わりに、ワイヤ4,6の表面を表面処理して黒色化(黒色処理)してもよい。黒色処理としては、黒色クロムめっき、黒色亜鉛めっき、黒色アルマイト処理、黒色酸化被膜処理、黒色塗装などが挙げられる。一般的に黒色の物質はアーク光の吸収率が0.50以上あり、銅めっきの吸収率の約10倍に相当する。そのため、黒色処理を行ったワイヤ4,6を使用することで、より大きなワイヤ溶融促進効果を得ることができる。ワイヤ表面が黒色化していればよいので、ワイヤ4,6は銅めっきが施されていないワイヤに黒色処理をしたものに限られず、銅めっきが施されたワイヤ4,6に黒色処理をしたものであってもよい。
そして、本実施の形態では、隣り合って配置された2本の電極(ワイヤ)4,6の電極間距離を8~24mmとし、少なくとも一方の電極4(または6)にワイヤ径が2.5~6.5mmで、かつ表面に黒色処理が施されたワイヤを消耗電極として使用して鋼板1を溶接する。
【0026】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
板厚36mmの溶接構造物用圧延鋼板(600mm×1500mm)を用意し、
図1に示すように、開先深さ20mm、ルート間隔10mm、開先角度60°のV型の溝開先加工を行ったものを使用してサブマージアーク溶接を行った。溶接材料には汎用鋼用サブマージアーク溶接用の溶接ワイヤ4,6として、Y-D(日鐵住金溶接工業(株)製)を用い、溶接フラックス2として、YF-15(日鐵住金溶接工業(株)製)を用いた。
ただし、同溶接ワイヤには銅めっきが施されているため、サンドペーパーでワイヤ表面を磨いて銅めっきを除去し、銅めっきの無い溶接ワイヤ(裸ままワイヤ)を別途作製して使用した。また、黒色処理が施された溶接ワイヤは、上記溶接ワイヤの銅めっき上に黒色クロム処理を行うことで作製した。
【0027】
図1に示す2電極サブマージアーク溶接の溶接部の断面形状にて表1に示す各電極の溶接ワイヤ径、表面状態、極性、電流、電圧、電極間距離D、電極角度の条件にて溶接を行った。ここで、溶接速度は50~70cm/minとし、ワイヤ突出し長さLは30~40mm、フラックス高さHは35~45cmとした。
【0028】
【0029】
溶着効率は、各電極(ワイヤ)4,6の溶接ワイヤ径、表面状態、極性、電流、電圧の溶接条件にて1電極サブマージアーク溶接した時に測定されるワイヤ送給速度の1分間の平均値とワイヤ径から算出されるワイヤ溶融量をM1、M2とし、各電極同じ溶接条件にて2電極サブマージアーク溶接をした時の各電極のワイヤ溶融量をT1、T2として、M1+M2とT1+T2の比を取ることで溶着量の増加率RIとして評価した。ワイヤ溶融量は下記(式1)から算出し、RIは下記(式2)として評価した。
【0030】
[ワイヤ溶融量(g/min)]=7.86(g/cm3)×3.14×[ワイヤ直径(cm)]2/4×[ワイヤ送給速度(cm/min)] ・・・(式1)
RI=(T1+T2)/(M1+M2) ・・・(式2)
【0031】
これらの結果を表2にまとめて示す。本発明においては、溶着量の増加率RIが1.30以上の場合に溶着効率に優れると評価して、合格とした。
【0032】
【0033】
表1及び表2を参照して、本発明で規定される2電極サブマージアーク溶接条件を全て満足する本発明例であるA1~A26は、溶着量の増加率RIが1.30以上となり、溶着効率が優れる結果となった。
【0034】
一方、本発明で規定される2電極サブマージアーク溶接条件を満足しない比較例である試験番号B1~B6は、ワイヤ径、電極間距離、ワイヤの表面状態の何れか1つ以上を満足できておらず、その結果所望のRIが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、造船、海洋構造物、建築構造物、ラインパイプ等の材料となる厚鋼板を溶接する際に、母材への入熱量を増加させずに、溶着量を大幅に増加させることができることから、母材の溶接熱影響部の靱性劣化を抑制しつつ、高い溶接施工効率が得られる溶接方法および溶接継手の製造方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0036】
1 鋼板
2 溶接フラックス
3 先行極の溶接トーチ
4 先行極の溶接ワイヤ
5 後行極の溶接トーチ
6 後行極の溶接ワイヤ
D 電極間距離:電極のワイヤ先端断面中心点から下した垂線と平面が交わる点の交点間距離
L ワイヤ突出し長さ
H 溶接フラックス高さ