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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-01
(45)【発行日】2023-08-09
(54)【発明の名称】ステンレス鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/08 20060101AFI20230802BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230802BHJP
   C22C 38/52 20060101ALI20230802BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C21D9/08 E
C22C38/00 302Z
C22C38/52
C23G1/08
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019136191
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2021021085
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】難波 孝明
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴司
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065116(WO,A1)
【文献】特開昭55-044588(JP,A)
【文献】特開平10-060538(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178022(WO,A1)
【文献】特開2005-336601(JP,A)
【文献】実開昭60-052965(JP,U)
【文献】特開平11-269539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 9/50
C22C 38/00-38/60
C23G 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼管の製造方法であって、
質量%で、
C :0.001~0.050%、
Si:0.05~1.00%、
Mn:0.05~1.00%、
P :0.030%以下、
S :0.0020%以下、
Cu:0.50%未満、
Cr:11.50~14.00%未満、
Ni:5.00%超~7.00%、
Mo:1.00%超~3.00%、
Ti:0.02~0.50%、
V :0.005~0.500%、
Nb:0.005~0.500%、
Al:0.001~0.100%、
Ca:0.0001~0.0040%、
N :0.0001~0.0200%未満
o:0~0.500%、
残部:Fe及び不純物である化学組成を有する素管を準備する工程と、
前記準備された素管を焼入れする工程と、
式(1)で表される焼戻しパラメータTPの下で、前記焼入れされた素管を焼戻しする工程と、
50.0g/L以下のFeイオン濃度CFe(g/L)を有するフッ硝酸溶液に、前記焼戻しされた素管を浸漬する工程とを備え、
TP=(T+273)×(20+log(t/60)) …(1)
式(1)中、Tは焼戻し温度(℃)であり、tは焼戻し時間(分)であり、
550≦T≦700であり、
30≦t≦180であり、
CFe≦20.0の場合、16212≦TP≦19924であり、
20.0<CFe≦30.0の場合、16212≦TP≦19676であり、
30.0<CFeの場合、16212≦TP≦18665である、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
CFe≦20.0の場合、TP≦19676である、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
20.0<CFe≦30.0の場合、TP≦18665である、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
5.0≦CFeである、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
CFe≦30.0である、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
CFe≦20.0である、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、さらに、
前記素管を焼戻した後でかつ前記素管をフッ硝酸溶液に浸漬する前に前記素管を硫酸溶液に浸漬する工程を備える、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、さらに、
前記ステンレス鋼管は550~725MPaの降伏応力を有する、ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のステンレス鋼管の製造方法であって、
前記素管の化学組成が、質量%で、Co:0.001~0.500%を含有する、ステンレス鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油井やガス井から産出される石油や天然ガスは、随伴ガスとして炭酸ガスや硫化水素等の腐食性ガスを含んでいる。Crを13質量%程度含むマルテンサイト系ステンレス鋼管(以下「13%Cr鋼管」という。)は、耐食性と経済性とのバランスに優れており、油井用鋼管やラインパイプ用鋼管等として広く用いられている(例えば、特開2015-161010号公報、特開2006-144069号公報、特開2010-242162号公報等を参照。)。
【0003】
特許第3430661号公報、特許第3550996号公報、及び特許第3915235号公報には、ステンレス鋼の酸洗方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-161010号公報
【文献】特開2006-144069号公報
【文献】特開2010-242162号公報
【文献】特許第3430661号公報
【文献】特許第3550996号公報
【文献】特許第3915235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
13%Cr鋼管は通常、焼入れ焼戻し等の熱処理を経て製造される。熱処理で形成された酸化スケールを酸洗によって除去する場合、酸洗液の劣化や酸化スケールの形成状態によって表面清浄度がばらつくことがあった。良好な表面清浄度を安定的に得るためには、酸洗液を頻繁に交換したり、酸洗を長時間実施したりする必要がある。その結果、生産性が悪化する。
【0006】
本発明の目的は、酸化スケールを除去するために劣化したフッ硝酸溶液を用いても、良好な表面清浄度を安定的に得ることができるステンレス鋼管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によるステンレス鋼管の製造方法は、質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~1.00%、P:0.030%以下、S:0.0020%以下、Cu:0.50%未満、Cr:11.50~14.00%未満、Ni:5.00%超~7.00%、Mo:1.00%超~3.00%、Ti:0.02~0.50%、Al:0.001~0.100%、Ca:0.0001~0.0040%、N:0.0001~0.0200%未満、V:0~0.500%、Nb:0~0.500%、Co:0~0.500%、残部:Fe及び不純物である化学組成を有する素管を準備する工程と、準備された素管を焼入れする工程と、式(1)で表される焼戻しパラメータTPの下で、焼入れされた素管を焼戻しする工程と、50.0g/L以下のFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸溶液に、焼戻しされた素管を浸漬する工程とを備える。
【0008】
TP=(T+273)×(20+log(t/60)) …(1)
式(1)中、Tは焼戻し温度(℃)であり、tは焼戻し時間(分)であり、550≦T≦700であり、30≦t≦180であり、CFe≦20.0の場合、16212≦TP≦19924である。20.0<CFe≦30.0の場合、16212≦TP≦19676である。30.0<CFeの場合、16212≦TP≦18665である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化スケールを除去するために劣化したフッ硝酸溶液を用いても、良好な表面清浄度を有するステンレス鋼管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態によるステンレス鋼管の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、各種焼戻しパラメータ及びフッ硝酸溶液中の各種Feイオン濃度における実験結果をプロットしたグラフである。
図3図3は、各種焼戻しパラメータで素管を焼戻し、かつ、その素管を3.0g/LのFeイオン濃度を有するフッ硝酸溶液で酸洗した場合における実験結果をプロットしたグラフである。
図4図4は、各種焼戻しパラメータで素管を焼戻し、かつ、その素管を5.0g/LのFeイオン濃度を有するフッ硝酸溶液で酸洗した場合における実験結果をプロットしたグラフである。
図5図5は、各種焼戻しパラメータで素管を焼戻し、かつ、その素管を21.0g/LのFeイオン濃度を有するフッ硝酸溶液で酸洗した場合における実験結果をプロットしたグラフである。
図6図6は、各種焼戻しパラメータで素管を焼戻し、かつ、その素管を31.0g/LのFeイオン濃度を有するフッ硝酸溶液で酸洗した場合における実験結果をプロットしたグラフである。
図7図7は、各種焼戻しパラメータで素管を焼戻し、かつ、その素管を51.0g/LのFeイオン濃度を有するフッ硝酸溶液で酸洗した場合における実験結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、酸化スケールを除去するために劣化したフッ硝酸溶液を用いても良好な表面清浄度を安定的に得ることができる方法を検討したところ、以下の知見を得た。
【0012】
熱処理で形成される酸化スケールは、熱処理工程の中でも焼戻し条件によって変化する。焼戻し温度を高く、かつ、焼戻し時間を長くすると、酸化が促進され、酸化スケールが厚くかつ緻密になるため、酸洗による除去が困難になる。一方、焼戻し温度を低く、かつ、焼戻し時間を短くすると、所定の製品性能(機械的特性)を満足することが困難になる。
【0013】
本発明者らは、種々の焼戻し条件で焼戻した素管を種々のFeイオン濃度を有するフッ硝酸溶液に浸漬することにより、酸洗を実施した。そして、各焼戻し条件における表面清浄度を比較した。さらに、各焼戻し条件における製品性能(機械的特性)を評価した。これにより、酸洗に適した酸化スケールを形成し、かつ、製品性能(機械的特性)を満足する焼戻し条件を調査した。
【0014】
その結果、Feイオン濃度に応じて焼戻しパラメータを所定範囲に制限することで焼戻し時に形成される酸化スケールを制御し、劣化したフッ硝酸溶液を用いても良好な表面清浄度を安定的に得ることができ、かつ、所定の製品性能(機械的特性)を得ることができるステンレス鋼管の製造方法を見い出した。
【0015】
本発明の一実施形態によるステンレス鋼管の製造方法は、質量%で、C:0.001~0.050%、Si:0.05~1.00%、Mn:0.05~1.00%、P:0.030%以下、S:0.0020%以下、Cu:0.50%未満、Cr:11.50~14.00%未満、Ni:5.00%超~7.00%、Mo:1.00%超~3.00%、Ti:0.02~0.50%、Al:0.001~0.100%、Ca:0.0001~0.0040%、N:0.0001~0.0200%未満、V:0~0.500%、Nb:0~0.500%、Co:0~0.500%、残部:Fe及び不純物である化学組成を有する素管を準備する工程と、準備された素管を焼入れする工程と、式(1)で表される焼戻しパラメータTPの下で、焼入れされた素管を焼戻しする工程と、50.0g/L以下のFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸溶液に、焼戻しされた素管を浸漬する工程とを備える。
【0016】
TP=(T+273)×(20+log(t/60)) …(1)
【0017】
式(1)中、Tは焼戻し温度(℃)であり、tは焼戻し時間(分)であり、550≦T≦700であり、30≦t≦180であり、CFe≦20.0の場合、16212≦TP≦19924である。20.0<CFe≦30.0の場合、16212≦TP≦19676である。30.0<CFeの場合、16212≦TP≦18665である。
【0018】
好ましくは、CFe≦20.0の場合、TP≦19676である。
【0019】
さらに好ましくは、20.0<CFe≦30.0の場合、TP≦18665である。
【0020】
さらに好ましくは、5.0≦CFeである。
【0021】
さらに好ましくは、CFe≦30.0である。
【0022】
さらに好ましくは、CFe≦20.0である。
【0023】
上記製造方法は、さらに、素管を焼戻した後でかつ素管をフッ硝酸溶液に浸漬する前に素管を硫酸溶液に浸漬する工程を備えていてもよい。
【0024】
上記ステンレス鋼管は550~725MPaの降伏応力を有していてもよい。
【0025】
以上の知見に基づいて、本発明は完成された。以下、本発明の一実施形態によるステンレス鋼管の製造方法を詳述する。
【0026】
[ステンレス鋼管の製造方法]
図1は、本発明の一実施形態によるステンレス鋼管の製造方法のフロー図である。本実施形態によるステンレス鋼管の製造方法は、素管を準備する工程S1と、準備された素管を焼入れする工程S2と、焼入れされた素管を焼戻しする工程S3と、焼戻しされた素管をブラストする工程S4と、ブラストされた素管を硫酸溶液に浸漬することにより素管を硫酸で洗浄する工程S5と、硫酸溶液から取り出した素管を水で洗浄する工程S6と、水で洗浄された素管をフッ硝酸溶液に浸漬することにより素管をフッ硝酸で洗浄する工程S7と、フッ硝酸溶液から取り出した素管を水で洗浄する工程S8と、水で洗浄された素管を高圧水で洗浄する工程S9と、高圧水で洗浄された素管を湯に浸漬する工程S10と、湯に浸漬され、さらに湯から取り出された素管に気体を吹き付ける工程S11とを備える。以下、各工程を詳述する。
【0027】
[準備工程]
素管を準備する(ステップS1)。準備する素管は、以下に説明する化学組成を有する。以下の説明において、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
【0028】
C:0.001~0.050%
炭素(C)は、溶接時に溶接熱影響部(HAZ)においてCr炭化物として析出し、HAZの耐SCC性を低下させる。一方、C含有量を過剰に制限すると製造コストが増加する。そのため、C含有量は0.001~0.050%である。C含有量の下限は、好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.008%である。C含有量の上限は、好ましくは0.030%であり、より好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
【0029】
Si:0.05~1.00%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。一方、Si含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、Si含有量は0.05~1.00%である。Si含有量の下限は、好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Si含有量の上限は、好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.50%である。
【0030】
Mn:0.05~1.00%
マンガン(Mn)は、鋼の強度を向上させる。一方、Mn含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、Mn含有量は0.05~1.00%である。Mn含有量の下限は、好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.20%である。Mn含有量の上限は、好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0031】
P:0.030%以下
リン(P)は不純物である。Pは、鋼の耐SCC性を低下させる。そのため、P含有量は0.030%以下である。P含有量は、好ましくは0.025%以下である。
【0032】
S:0.002%以下
硫黄(S)は不純物である。Sは、鋼の熱間加工性を低下させる。そのため、S含有量は0.002%以下である。
【0033】
Cu: 0.50%未満
銅(Cu)は不純物である。そのため、Cu含有量は0.50%未満である。Cu含有量は、好ましくは0.08%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。
【0034】
Cr:11.50~14.00%未満
クロム(Cr)は、鋼の耐炭酸ガス腐食性を向上させる。一方、Cr含有量が高すぎると、鋼の靱性及び熱間加工性が低下する。そのため、Cr含有量は11.50~14.00%未満である。Cr含有量の下限は、好ましくは12.00%であり、さらに好ましくは12.50%である。Cr含有量の上限は、好ましくは13.50%であり、さらに好ましくは13.20%である。
【0035】
Ni:5.00%超~7.00%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト形成元素であり、鋼の組織をマルテンサイトにするために含有される。一方、Ni含有量が高すぎると、鋼の強度が低下する。そのため、Ni含有量は5.00%超~7.00%である。Ni含有量の下限は、好ましくは5.30%であり、より好ましくは5.50%であり、さらに好ましくは6.00%である。Ni含有量の上限は、好ましくは6.80%であり、さらに好ましくは6.60%である。
【0036】
Mo:1.00%超~3.00%
モリブデン(Mo)は、鋼の耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる。Moはさらに、溶接時に炭化物を形成してCr炭化物の析出を妨げ、HAZの耐SCC性の低下を抑制する。一方、Mo含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、Mo含有量は1.00%超~3.00%である。Mo含有量の下限は、好ましくは1.50%であり、さらに好ましくは1.80%である。Mo含有量の上限は、好ましくは2.80%であり、さらに好ましくは2.60%である。
【0037】
Ti:0.02~0.50%
チタン(Ti)は、溶接時に炭化物を形成してCr炭化物の析出を妨げ、HAZの耐SCC性の低下を抑制する。一方、Ti含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、Ti含有量は0.02~0.50%である。Ti含有量の下限は、好ましくは0.05%であり、より好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%である。Ti含有量の上限は、好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
【0038】
Al:0.001~0.100%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。一方、Al含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、Al含有量は0.001~0.100%である。Al含有量の下限は、好ましくは0.005%であり、より好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.020%である。Al含有量の上限は、好ましくは0.080%であり、より好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%である。本明細書におけるAl含有量は、酸可溶Al(いわゆるSol.Al)の含有量を意味する。
【0039】
Ca:0.0001~0.0040%
カルシウム(Ca)は、鋼の熱間加工性を向上させる。一方、Ca含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、Ca含有量は0.0001~0.0040%である。Ca含有量の下限は、好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0008%である。Ca含有量の上限は、好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
【0040】
N:0.0001~0.0200%未満
窒素(N)は、窒化物を形成して鋼の靱性を低下させる。一方、N含有量を過剰に制限すると製造コストが増加する。そのため、N含有量は0.0001~0.0100%未満である。N含有量の下限は、好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%である。N含有量の上限は、好ましくは0.0150%であり、さらに好ましくは0.0100%である。
【0041】
素管の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップから混入される元素、あるいは製造過程の環境等から混入される元素をいう。
【0042】
素管の化学組成は、Feの一部に代えて、V、Nb、及びCoからなる群から選択される1種又は2種以上の元素を含有してもよい。V、Nb、及びCoは、すべて選択元素である。すなわち、素管の化学組成は、V、Nb、及びCoの一部又は全部を含有していなくてもよい。
【0043】
V:0~0.500%
バナジウム(V)は、鋼の強度を向上させる。Vが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、V含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、V含有量は0~0.500%である。V含有量の下限は、好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。V含有量の上限は、好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
【0044】
Nb:0~0.500%
ニオブ(Nb)は、鋼の強度を向上させる。Nbが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Nb含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。そのため、Nb含有量は0~0.500%である。Nb含有量の下限は、好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。Nb含有量の上限は、好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.200%である。
【0045】
Co:0~0.500%
コバルト(Co)は、オーステナイト形成元素であり、鋼の組織をマルテンサイトにするために含有させてもよい。Coが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Co含有量が高すぎると、鋼の強度が低下する。そのため、Co含有量は、0~0.500%である。Co含有量の下限は、好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.005%である。Co含有量の上限は、好ましくは0.350%であり、より好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.280%である。
【0046】
素管は、これに限定されないが、例えば以下のように製造することができる。
【0047】
上述した素管と同じ化学組成を有する素材を準備する。例えば、上述した化学組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造又は分塊圧延を実施してビレットにする。連続鋳造又は分塊圧延に加えて、熱間加工や冷間加工、熱処理等を実施してもよい。
【0048】
素材を熱間加工して素管を製造する。熱間加工は例えば、マンネスマン法やユジーン・セジュルネ法である。
【0049】
[焼入れ]
準備された素管を焼入れする(ステップS2)。焼入れは、直接焼入れ、インライン焼入れ、及び再加熱焼入れのいずれでもよい。直接焼入れとは、熱間加工後の高温の素管をそのまま急冷する熱処理である。インライン焼入れとは、熱間加工後の素管を補熱炉で均熱した後、急冷する熱処理である。再加熱焼入れとは、熱間加工後の素管を一旦室温付近まで冷却した後、Ac点以上の温度に再加熱してから急冷する熱処理である。
【0050】
焼入れ温度(急冷直前の素管の温度)は、好ましくは850~1000℃である。急冷時の冷却速度は、好ましくは300℃/分以上である。
【0051】
[焼戻し]
焼入れされた素管を焼戻しする(ステップS3)。具体的には、素管をAc点以下の保持温度で所定の保持時間保持した後、冷却する。焼戻しは、焼入れ工程(ステップS2)で生じた歪みを除去するとともに、鋼管の機械的特性を調整するために実施される。一般的に、焼戻し温度Tを高くするほど、あるいは、焼戻し時間tを長くするほど、鋼管の強度は低下し、靱性は向上する。保持温度及び保持時間は、要求される機械的特性に応じて決定される。
【0052】
式(1)で表される焼戻しパラメータTPの下で、焼入れされた素管を焼戻しする。
TP=(T+273)×(20+log(t/60)) …(1)
式(1)中、Tは焼戻し温度(℃)であり、550≦T≦700である。tは焼戻し時間(分)であり、30≦t≦180である。
【0053】
後述するフッ硝酸溶液のFeイオン濃度CFeは50.0g/L以下である。
【0054】
Fe≦20.0の場合、16212≦TP≦19924である。
【0055】
20.0<CFe≦30.0の場合、16212≦TP≦19676である。
【0056】
30.0<CFeの場合、16212≦TP≦18665である。
【0057】
好ましくは、CFe≦20.0の場合、TP≦19676である。
【0058】
さらに好ましくは、20.0<CFe≦30.0の場合、TP≦18665である。
【0059】
焼戻し温度が550~700℃の範囲を外れると、13%Cr鋼管に要求される製品性能(機械的特性)を満たすのが困難になる。焼戻し時間tが30分未満の場合も、13%Cr鋼管に要求される製品性能(機械的特性)を満たすのが困難になる。焼戻し時間tが180分を超える場合も、13%Cr鋼管に要求される製品性能(機械的特性)を満たすのが困難になることに加え、製造効率が低下する。なお、本明細書における焼戻し温度Tは、焼戻し炉の設定温度である。また、焼戻し時間は、素管が温度Tに設定された焼戻し炉に装入されてから排出されるまでの時間、すなわち、素管が焼戻し炉中に滞在する在炉時間である。
【0060】
金属組織は、主として焼戻しマルテンサイトからなり、体積分率で30%以下の残留オーステナイト又は逆変態オーステナイトを含んでいてもよい。
【0061】
[ブラスト]
焼戻しされた素管をブラストする(ステップS4)。これにより、焼戻しで生成された酸化スケールを予備的に除去する。投射材(研削材)は特に限定されないが、材質はアルミナが好ましい。また、投射材の粒度番号は、#60以下が好ましく、#30以下がより好ましい。それ以外の処理条件は特に限定されず、当業者であれば、適宜調整して、素管表面の酸化スケールを適切に除去できる。ブラストは任意の工程であり、この工程は省略してもよい。ただし、この工程を実施すれば、次の酸洗工程で使用する酸溶液の劣化を抑制することができる。
【0062】
[酸洗(硫酸)]
硫酸溶液に、ブラストされた素管(ブラストされない場合は焼戻しされた素管)を浸漬する(ステップS5)。これにより、焼戻しで生成された酸化スケールを除去する。硫酸の濃度は、これに限定されないが、例えば15~22質量%である。
【0063】
硫酸溶液は、これに限定されないが、通常は水溶液が用いられる。
【0064】
硫酸溶液の温度は、これに限定されないが、例えば25~80℃である。温度の下限は、好ましくは30℃であり、さらに好ましくは40℃である。温度の上限は、好ましくは70℃であり、さらに好ましくは65℃である。
【0065】
硫酸溶液への浸漬時間は、これに限定されないが、例えば10~90分である。浸漬時間の下限は、好ましくは20分であり、さらに好ましくは30分である。浸漬時間の上限は、好ましくは60分であり、さらに好ましくは50分である。
【0066】
[水洗]
続いて、硫酸溶液から取り出した素管を水洗する(ステップS6)。具体的には、常温(15~25℃)の水で1~5分間洗浄することにより、表面に付着した硫酸溶液を洗い落とす。
【0067】
ステップS5の硫酸による酸洗とステップS6の水洗は、複数回繰り返してもよい。硫酸による酸洗を複数回繰り返す場合、1回当たりの硫酸溶液への浸漬時間は、例えば10~90分である。1回の硫酸溶液への浸漬時間の下限は、好ましくは15分であり、さらに好ましくは20分である。浸漬時間の上限は、好ましくは60分であり、さらに好ましくは50分であり、さらに好ましくは40分である。
【0068】
[酸洗(フッ硝酸)]
続いて、50.0g/L以下のFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸溶液に、水洗した素管を浸漬する(ステップS7)。これにより、残留している酸化スケールを除去する。フッ硝酸溶液は、フッ酸と硝酸を混合した溶液である。フッ酸の濃度は、これに限定されないが、例えば3~10質量%である。硝酸の濃度は、これに限定されないが、例えば5~20質量%である。フッ酸と硝酸の混合比は、これに限定されないが、例えば1:1~1:5である。結果として、フッ硝酸の総濃度は、これに限定されないが、例えば5~30質量%である。
【0069】
フッ硝酸溶液は、これに限定されないが、通常は水溶液が用いられる。
【0070】
フッ硝酸溶液の温度は、これに限定されないが、例えば50℃未満であり、好ましくは5~40℃である。温度の下限は、好ましくは10℃であり、さらに好ましくは15℃である。温度の上限は、好ましくは30℃であり、さらに好ましくは25℃である。
【0071】
フッ硝酸溶液への浸漬時間は、これに限定されないが、例えば1~10分である。浸漬時間の下限は、好ましくは2分である。浸漬時間の上限は、好ましくは5分であり、さらに好ましくは3分である。
【0072】
[水洗]
続いて、フッ硝酸溶液から取り出した素管を水洗する(ステップS8)。具体的には、常温(15~25℃)の水で1~5分洗浄する。これにより、素管の表面に付着したフッ硝酸溶液を洗い落とす。
【0073】
[高圧水洗浄]
続いて、水洗した素管に対し、高圧水洗浄を行う(ステップS9)。具体的には、常温(15~25℃)の水を0.98MPa以上の圧力で噴射する。これにより、素管の表面に残留しているスマットや酸溶液等の付着物を洗い落とす。
【0074】
[湯浸漬]
続いて、高圧水で洗浄した素管を湯に浸漬する(ステップS10)。具体的には、60~90℃の湯に1~15分間浸漬する。これにより、最終的に得られる鋼管の表面性状のムラを抑制することができる。
【0075】
[気体吹き付け]
最後に、湯に浸漬され、さらに湯から取り出された素管に対し、気体を吹き付ける(ステップS11)。具体的には、常温の空気を0.2~0.5MPaの圧力で噴射する。これにより、表面に残留している水分や付着物を吹き飛ばす。
【0076】
なお、上記の水洗工程(ステップS6及びステップS8)及び湯浸漬工程(ステップS10)は、水または湯を貯めた槽に素管を入れることで行われてもよいし、シャワー等により素管に水または湯を流し掛けることで行われてもよい。
【0077】
以上、本発明の一実施形態によるステンレス鋼管の製造方法を説明した。本実施形態によれば、酸化スケールを除去するために劣化したフッ硝酸溶液を用いても、良好な表面清浄度を有するステンレス鋼管を製造することができる。
【実施例
【0078】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0079】
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。
【0080】
【表1】
【0081】
上記溶鋼を用いて外径360mmのビレットを製造した。製造したビレットを1200℃に加熱した後、穿孔及び熱間圧延して、外径317.9mm、肉厚12.9mmの継目無鋼管を製造した。製造した継目無鋼管から、後述する試験に用いる試験片が採取できる大きさで、かつ、厚さ12.9mmの板状の試験材を採取した。
【0082】
採取した試験材を用い、後述の通り試験を行った。表2~6は、それぞれ試験材の鋼A~Eを用いた試験条件の一部及び試験結果を示す。すなわち、表2~6に記載した試験番号において、頭文字のアルファベットは試験材の各鋼を表す。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
製造した試験材に対して、焼入れ焼戻しの熱処理を実施した。具体的には、900℃から室温まで水冷する焼入れをした後、表2に示す焼戻し温度T(℃)において焼戻し時間t(分)の間保持した後冷却する焼戻しを実施した。焼戻しパラメータTPは、上記式(1)に焼戻し温度T(℃)及び焼戻し時間t(分)を代入して算出した。
【0089】
焼戻しした試験材を硫酸水溶液に浸漬して、酸洗した。硫酸濃度は16~18質量%とした。硫酸水溶液の温度は60℃とし、浸漬時間は40分とした。硫酸による酸洗後に、常温(25℃)の水を貯めた槽に、試験材を2分間浸漬して、水洗した。
【0090】
続いて、水洗した試験材を、表2に示す酸洗条件、すなわち、Feイオン濃度CFe(g/L)のフッ硝酸水溶液に浸漬して、酸洗した。フッ硝酸濃度は、15質量%(フッ酸5質量%+硝酸10質量%)とした。フッ硝酸水溶液の温度は23℃とし、浸漬時間は2分とした。
【0091】
フッ硝酸による酸洗後に、下記の条件で、試験材に対して水洗、高圧水洗浄、湯浸漬、気体吹き付けを順に行った。
[水洗] 常温(25℃)の水を貯めた槽に、試験材を2分間浸漬した。
[高圧水洗浄] 吐出圧力1.47MPa、常温(25℃)の高圧水で、試験材の表面に残留しているスマットや酸溶液等の付着物を洗い落した。
[湯浸漬] 80℃の湯を貯めた槽に、試験材を2分間浸漬した。
[気体吹き付け] 湯に浸漬され、さらに湯から取り出された試験材を、圧力0.3MPaの空気を吹き付けて、乾燥させた。
【0092】
試験材の表面清浄度については、試験材の表面をISO8501-1:1998に準拠して、規格写真と対比することにより目視で評価した。表面清浄度がSa2-1/2を満足した場合、評価結果を「EX」(excellent)とした。表面清浄度がSa2を満足したがSa2-1/2を満足しなかった場合、評価結果を「GOOD」とした。表面清浄度がSa2を満足しなかった場合、評価結果を「NG」とした。
【0093】
製品性能については、機械的特性として、降伏応力を評価した。降伏応力(YS)が550~725MPaの場合、評価結果を「EX」とし、それ以外の場合、評価結果を「NG」とした。なお、降伏応力はASTM E8/E8M-16aに準拠した引張試験により得られる。具体的には、試験材の厚さ中央位置から、丸棒試験片を採取する。丸棒試験片の直径は4mmとし、平行部の長さは35mmとする。丸棒試験片の軸方向は、試験材の圧延方向とする。丸棒試験片を用いて、常温(25℃)、大気中にて引張試験を実施して、降伏応力(MPa)を求める。本明細書では、上述の引張試験で得られた0.2%耐力を、降伏応力(MPa)とした。
【0094】
そして、表面清浄度及び製品性能の総合評価を行った。表面清浄度及び製品性能の両方が「EX」の場合、総合評価結果を「EX」とした。表面清浄度が「GOOD」で、かつ、製品性能が「EX」の場合、総合評価結果を「GOOD」とした。表面清浄度又は製品性能が「NG」の場合、総合評価結果を「NG」とした。
【0095】
総合評価結果が「EX」又は「GOOD」の場合、降伏応力は550~725MPaであった。
【0096】
表2~6に示した通り、試験番号A1~A16、B1~B16、C1~C16、D1~D16、及びE1~E16のFeイオン濃度CFeは全て3.0g/Lであり、試験番号A17~A32、B17~B32、C17~C32、D17~D32、及びE17~E32のFeイオン濃度CFeは全て5.0g/Lであり、試験番号A33~A48、B33~B48、C33~C48、D33~D48、及びE33~E48のFeイオン濃度CFeは全て21.0g/Lであり、試験番号A49~A64、B49~B64、C49~C64、D49~D64、及びE49~E64のFeイオン濃度CFeは全て31.0g/Lであり、試験番号A65~A80、B65~B80、C65~C80、D65~D80、及びE65~E80のFeイオン濃度CFeは全て51.0g/Lである。酸洗回数が多くなるほど、素管からフッ硝酸水溶液に溶け出したFeの総量が増加するため、Feイオン濃度CFeは高くなる。すなわち、Feイオン濃度CFeが高いほど、フッ硝酸水溶液がより劣化していることを意味する。
【0097】
表7~11は、表2~6に示した結果から、試験材の各鋼について、同一の焼戻し条件ごとに総合評価結果をまとめたものである。例えば、表7において、試験番号A1、A17、A33、A49、及びA65の焼戻し条件は全て同じであり、その結果、焼戻しパラメータTPも同じである。表8~11においても、同様である。
【0098】
【表7】
【0099】
【表8】
【0100】
【表9】
【0101】
【表10】
【0102】
【表11】
【0103】
表2~6あるいは表7~11を参照して、化学組成が本実施形態の範囲内にある試験材(鋼A~E)では、同じ条件で焼入れされた後、同じ条件で焼戻しされた場合、同じ降伏応力に調整することができた。すなわち、試験材の鋼A~Eにおける製品性能(機械的特性)の評価結果は同等であった。さらに、Feイオン濃度が異なるフッ硝酸水溶液による酸洗を実施した場合でも、化学組成が本実施形態の範囲内にある試験材の鋼A~Eでは、同じ条件で焼入れされた後、同じ条件で焼戻しされた場合、すなわち、焼戻しパラメータTPが同じ場合、表面清浄度の評価結果は同等であった。
【0104】
図2は、試験材の鋼Aにおいて、各種焼戻しパラメータTP及びフッ硝酸水溶液中の各種Feイオン濃度CFeに対して、総合評価結果をプロットしたグラフである。なお、表2~6あるいは表7~11を参照して、試験材の鋼B~Eにおいても、図2と同様のグラフが得られることは自明であるため、本明細書では図示しない。
【0105】
図3は、試験材の鋼Aにおいて、各種焼戻しパラメータTPで素管を焼戻し、かつ、その素管を3.0g/LのFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸水溶液で酸洗した場合の総合評価結果を、焼戻し温度及び焼戻し時間に対してプロットしたグラフである。図4は、試験材の鋼Aにおいて、各種焼戻しパラメータTPで素管を焼戻し、かつ、その素管を5.0g/LのFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸水溶液で酸洗した場合の総合評価結果を、焼戻し温度及び焼戻し時間に対してプロットしたグラフである。図5は、試験材の鋼Aにおいて、各種焼戻しパラメータTPで素管を焼戻し、かつ、その素管を21.0g/LのFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸水溶液で酸洗した場合の総合評価結果を、焼戻し温度及び焼戻し時間に対してプロットしたグラフである。図6は、試験材の鋼Aにおいて、各種焼戻しパラメータTPで素管を焼戻し、かつ、その素管を31.0g/LのFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸水溶液で酸洗した場合の総合評価結果を、焼戻し温度及び焼戻し時間に対してプロットしたグラフである。図7は、試験材の鋼Aにおいて、各種焼戻しパラメータTPで素管を焼戻し、かつ、その素管を51.0g/LのFeイオン濃度CFeを有するフッ硝酸水溶液で酸洗した場合の総合評価結果を、焼戻し温度及び焼戻し時間に対してプロットしたグラフである。なお、表2~6あるいは表7~11を参照して、試験材の鋼B~Eにおいても、図3~7と同様のグラフが得られることは自明であるため、本明細書では図示しない。
【0106】
図3~7に示したグラフ中で、実線(曲線)は上から順に、TP=19924、TP=19676、TP=18665、TP=17197、TP=16212を示す。
【0107】
これらのグラフから明らかなように、Feイオン濃度CFeが50.0g/Lを超えた場合(つまり、フッ硝酸水溶液が劣化し過ぎている場合)、総合評価結果は全て「NG」であった。CFe≦20.0の場合(つまり、フッ硝酸水溶液がほとんど劣化していない場合)、16212≦TP≦19924であれば、総合評価結果は「EX」又は「GOOD」であった。また、20.0<CFe≦30.0の場合(つまり、フッ硝酸水溶液が少し劣化している場合)、16212≦TP≦19676であれば、総合評価結果は「EX」又は「GOOD」であった。また、30.0<CFe≦50.0の場合(つまり、フッ硝酸水溶液が劣化している場合)、16212≦TP≦18665であれば、総合評価結果は「GOOD」であった。
【0108】
なお、総合評価結果は「EX」又は「GOOD」であった場合、焼戻し温度Tは550~700℃であり、焼戻し時間tは30~180分である。
【0109】
また、CFe≦20.0の場合、TP≦19676であれば、総合評価結果は全て「EX」であった。
【0110】
また、20.0<CFe≦30.0の場合、TP≦18665であれば、総合評価結果は全て「EX」であった。
【0111】
また、CFe≦30.0の場合、TP≦18665であれば、総合評価結果は全て「EX」であった。
【0112】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0113】
本発明は、ステンレス鋼管に適用されるが、好ましくはマルテンサイト系ステンレス鋼管に適用可能であり、さらに好ましくはマルテンサイト系ステンレス継目無鋼管に適用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7